『  遠い呼び声  ― (2) ― 』

 

 

 

****  しぇる様のリクエストにお応えして  *****

 

 

 

 

一行の前に現れたインディオの老人は 突然険しい声を張り上げた。

たった今までの、穏やかな笑みは消えうせ、怒りというより畏れで老いた顔は強張っている。

 

「 ・・・ 悪いことは言わん。 お帰りなされ。

 あのお方は ・・・ とうとう山を閉ざしてしまわれた。 

 何人も近寄れん。 ・・・ 無理をすれば そなた達に災いが及ぶだけじゃ。 」

「 ・・・ あのお方? 」

「 ああ。 わしらの魂を司り わしらの生命を導く ・・・ 神官様じゃ。 」

お帰りなされ、と老人は もう一度ひくく呟いた。

「 ・・・ あ〜 ワシらは そのう・・・ そのお方の偉大なるお力に惹かれましてな・・・ 」

博士が 頭をひくくして老人に向き合った。

「 あの ・・・ 偉大なお方を 知っていなさるのか。 」

「 いや・・・ ご本人ではなく、その力 ( パワ− ) に わしらは畏敬の念を持ちましたのじゃ。

 同じ種の研究に携わっているものたちです。 」

「 ほう。 あのお方も白人達の国々で大層な学問を修められ・・・ 神殿に篭って

 なにやら研究に励んでおられました。 」

「 そうですか。 それならなおさら、是非お目にかかりたく・・・ 」

「 およしなされ。 」

老人は再び言い切ると 頑なに首を振る。

 

「 ・・・ あの。 わたし達ヨソモノがその ・・・ 神殿をお訪ねするのは禁じられているのですか? 」

「 ・・・ ?  ああ ・・・ これは綺麗な娘さん ・・・ 

 いや。 あのお方は誰でも受け入れてくださった。 しかし・・・今は何人も神殿には入れませぬわい。 」

「 わたし達は ・・・ そのお方にお目に掛かりたくて・・・はるばる地球の裏側からやってきました。 」

「 しかし ・・・ ワシらこの地のものですら近づくこともできんのです。

 おや。 娘さん ・・・ アンタは眼を病んでいなさるかな。 」

「 ・・・ え ・・・・  え、ええ。  」

「 ほう・・・ それなのにそんなに遠くから来なさったか。 大変じゃったろう・・・ 」

「 いえ・・・ 仲間達がいますから。 」

「 それにしても・・・・。 おお、もうじきに日が暮れる。 夜道はもっと大変じゃよ。

 いかがかな、今晩はワシらの集落に泊まっておいきなされ。 

「 え・・・ でも。 わたし達、こんなに大勢なのです、ご迷惑ですわ。 」

「 あの ・・・ 」

ずっとフランソワ−ズの後ろにぴたり、と寄り添っていたジョ−が 静かに口を挟んだ。

「 すみません、もし ・・・ お願いできれば。

 彼女と あと、老人と赤ん坊だけ、お願いできませんか。 」

「 ジョ−?? なにを言うの! 」

「 ぼくらは野営でもなんでも平気ですが。 ・・・ 彼女は ・・・ 疲れていると思うし。 」

「 おお、喜んでお役に立とう。 」

「 ありがとうございます。 お礼に、薪を集めてきます。 」

「 気使いは無用じゃよ。 ・・・ どうぞゆっくりこの地で休んでくだされ。 」

「 ・・・ はい。 それじゃ ・・・ 博士? 」

「 うむ。 お邪魔しても本当に宜しいのですか。 」

「 構いませぬ。 わしらが知る限りの ・・・ あのお方について語って進ぜよう。 」

「 忝い。 お願いいたします。 」

ギルモア博士は 老インディオに深々と頭を垂れた。

 

「 ジョ−・・・! わたしも皆と・・・ あなたと一緒にいるわ。 

 わたし、疲れてなんかいないもの。 本当よ? 」

フランソワ−ズはすぐ側にいるジョ−の腕をきゅっとつかんだ。

「 ダメだよ。 ほら・・・ この手。 きみの手がいつもよりずっと熱い。

 ちょっと熱があるんじゃないかな。  無理はダメだって言ったろう? 」

「 ・・・ あ ! ・・・・ 」

フランソワ−ズは慌てて手を放し 背中に隠してしまった。

「 ふふふ・・・ 隠したってダメさ。 ・・・ ほら、ここもいつもより乾いてる・・・ 

ジョ−は 彼女の両肩に手を置くと、 素早く赤味を増している唇にキスをした。

「 ・・・ あ ・・・ や ・・・ 」

「 ・・・ ほら、やっぱり熱いよ。  博士、お願いします。 」

「 ああ、わかっとる。  フランソワ−ズ? 明日はまた山道を行かねばならん。

 今晩は 体調を整えよう。 」

「 ・・・ はい。 」

それじゃあ・・・と 博士はフランソワ−ズの手を取って軽く自分の腕にかけた。

「 こちらへ・・・ おいでなされ。 」

老インディオはすたすたと先に立って歩き始めた。

 

 

 

<あのお方>について老人が語り終わった時、とっぷりと夜の闇が集落を覆っていた。

頼りなげに燃える炉の炎に 博士は手を翳し暖をとった。

「 ・・・ ほう ・・・ たいしたお方ですなあ。 これは是非ともお目にかかりたいのですが。 」

「 何度も言いましただ。 およしなされ。 ・・・ 何人も山に近づくことはできません。

 今や  ・・・ あのお方は精霊の懐に入ってしまわれた。 」

「 精霊の・・・?  」

インディオの老人は深く頷き 大きく溜息を吐いた。

「 ときに・・・娘さん。 この葉を眼に当ててごらん。 」

「 ・・・ ?? 」

フランソワ−ズの手に ほわり、と温か味を含んだものが渡された。

「 これは ・・・ 葉っぱですか? なにか ・・・ 温かいのですけれど。 」

「 さよう・・・ これはワシらの部族に伝わっている 癒しの樹の葉 でな。

 朝露を浴びるまえに摘んで祈りと共に火で焙るのじゃ。 」

「 癒しの樹、ですか。 」

「 これをな・・・ 病んでいる部分に当てておくと癒しの精霊が力を貸してくれる。 」

「 ありがとうございます。 ・・・ ああ・・・ 温かくて いい気持ち ・・・ 」

「 そうかそうか・・・。 精霊もあんたを歓迎しているシルシじゃて。 

 邪気や悪意のあるヒトは なにも感じないといいますだよ。  」

「 とても ・・・ いい気持ちです。 なにか す・・・っと温かいものが

 身体の中に入ってゆくみたい・・・ 」

「 その 癒しの樹 とはこの地域にしか生息しておらんのですかな。 」

横でじっとフランソワ−ズの様子を見ていた博士が静かに尋ねた。

「 はい。 ・・・ 以前、コレを沢山採取して金儲けを企んだヨソモノがいたが。

 葉はすぐに朽ちてしまったということですだ。

 若木を他の地に植えても 根付くことはないのです。 」

「 ほう ・・・。 どうじゃな、フランソワ−ズ・・・? 」

「 ・・・ 博士。 今・・・ もう朝ですか? 」

「 ?? いや? まだ深夜すこし前だぞ。 」

「 光が ・・・ 明りが見えます・・・! モノの形とかは ・・・ ぼんやりしていて

 わかりませんが・・・ でも!  ああ ・・・ 」

「 なんじゃと?? 」

「 ・・・ カ−テン ・・・ そうです、闇のカ−テンが少し 開いたみたい・・・ 」

フランソワ−ズは 眼に当てていた葉をそうっとずらせている。

「 ほう・・・ よかったのう、娘さん。

 あなたの青い瞳に、 その空を写し取ったその青に精霊が力を貸してくれましただ。 」

「 ・・・ 精霊が ・・・・ ああ ・・・ ありがとうございます ・・・ ! 」

 

< 多分ネ。 ふらんそわ−ず ノ視神経ノ腫レガ引イタンダネ。 >

「 おお ・・・ ( あ、イワン。 お前、起きておったのか? ) そうか・・・ 」

< ウン。 ダッテココハ僕ガ 博士トふらんそわ−ずヲ護ラナクチャナラナイダロ >

[ イワン? まあ、目が醒めたの? ねえ・・・ 本当に光を感じるの。 

 もう まっくらな闇の中に閉じ込められているのではないわ! ]

< ヨカッタネ! ウン、ソノ葉ッパニハ 沈静効果ガアルンダロウネ。 >

[ あら、違うわ? これは・・・ 精霊の力なのよ。 ]

< フフフ・・・ ソウイウ事ニシテ置コウカ・・・ >

 

「 ほう・・・ この赤子もご機嫌のようじゃな。 」

インディオの老人は 笑ってバスケットの中のイワンを覗き込んだ。

「 ええ。  ここは とても ・・・ ほっとする場所ですね。

 不思議だわ。 初めて来たのになぜか知っている人がいるみたい・・・ 」

フランソワ−ズは 手にした葉を頬にあてそしてそっと唇を寄せた。

「 娘さん・・・ それは精霊の声にあなたが応えたからじゃろうよ。 」

「 え・・・ わたし、なにも・・・ それに何も聞こえませんわ。 」

「 ・・・ いやいや・・・ 精霊はなんでもお見通しです。 あなたの心も。 」

「 わたしの こころ ・・・? 」

「 ま、 今夜はゆっくりお休みなされや。 」

インディオの老人ゆっくりと首を振ると 穏やかな微笑みを浮かべ出て行った。

「 さあ・・・ わしらも休むとするか。 おお、イワンはもうぐっすりじゃ。 」

「 まあ。 きっと疲れていたのでしょうね。 無理をさせてごめんなさい。 」

フランソワ−ズは手探りで そっとイワンの頬を撫でた。

 

 

[ ・・・ ジョ−。 聞こえる・・・? ]

[ ・・・・ ? ああ、フランソワ−ズ! どうした、なにかあったのかい?!]

[ ううん。 ただね ・・・ ジョ−にお休みなさい、を言いたくて・・・ ]

[ え・・・! あ・・・ ああ、そうだね。 そっちはどう? 具合は大丈夫かい。]

[ とても 静かで・・・ いい気持ちなの。 ぐっすり眠れそう・・

 ジョ−は? 皆はどうしているの。 野営しているのでしょう? ]

[ うん。 でも恰好の岩場を教えてもらってね。 なかなか居心地がいいんだ。 ]

[ そう・・・ よかった。  ・・・ ねえ? ]

[ うん? なんだい。 ]

[ わたし ・・・ 光がわかるようになったの。 この地の <癒しの樹の葉> のお蔭でね。 ]

[ え?! 凄いじゃないか! 天然の特効薬だったんだ。 ]

[ イワンも同じこと、言ったけど。 ・・・ 違うの。 ]

[ ・・・ 違う? ]

[ ええ。 これはね 精霊の力なのよ。 この葉っぱに宿っているの。  ]

[ 精霊??? 葉っぱ??  なんだい、それ。 ]

[ ・・・ きっと皆にも わかるようになるわ。 そんな予感がするの。 

 じゃ・・・ お休みなさい、ジョ−。 ]

[ え ・・・ あ、ああ。 お休み ・・・ フランソワ−ズ。 ]

[ ・・・ ねえ ・・・ ]

[ え? まだなにか・・・? ]

[ ・・・ あ ・ い ・ し ・ て ・ る ♪  ジョ−・・・! ]

[ あ、あは。 うん ・・・ ぼ、ぼくも。 アイシテルよ。 キスできないのが残念さ。 ]

[ うふふ・・・ baiser ♪ お休みなさい。 ]

[ あ・・・ う、うん ・・・・ お休み ・・・ ]

かなり ・・・ 肉感的な音を送り、フランソワ−ズの通信は切れてしまった。

 

  ・・・ う ・・・わ。  ヤバ ・・・!

 

「 ・・・ あん? ジョ−、お前なに一人で赤くなってんだ? 」 

焚き火の脇で ごろ寝をしていたジェットが ぽかり、と目を開けた。

ジョ−は岩場によりかかり、フランソワ−ズと <会話> していたが思わず声を上げてしまった。

「 え!? 」

「 シッ!! バカ ・・・ オッサンに怒鳴られっぞ。 」

「 あ・・・ゴメン! あの・・ あ、 い、いや ・・・ そのぅ ・・・ 今夜は暑いなあ? 」

「 へ?? お前、体温調節ユニット、イカレてるんとちがうか?

 高地だし結構風通しいいじゃん、この岩屋。 」

「 あ、 そ、 そうだね。 ・・・ ちょっと ・・・ 風に当たってくるよ。 」

ジョ−はもぞもぞ起き上がると 妙な足取りで外に出て行った。

「 ・・・ んだあ? アイツ・・・ あ〜あ・・・転んだぜ・・・ 」

一際大きなアクビをし、ジェットはまたごろりとひっくりかえりたちまち寝入ってしまった。

 

  ・・・ ちぇ。 フラン〜〜  もうちょっと ・・・ オトコの事情ってものを 考えてくれよ ・・・ 

 

ジョ−は 異郷の夜、ひとり火照った身体を持て余していた。

 

 

 

翌朝、サイボ−グ達は 世話になった老インディオに礼を述べ ポポカトペトル山へ出発した。

麓の村は明るい晴天だったのだが 問題の山に 一行が足を踏み入れた頃から 

どんどんと空は雲で覆われ始めた。

 

「 ・・・ 剣呑な天気であるな。 舞台効果は満点だが どうもあまりいい予感がしない。 」

「 ほえ〜 あんさんの予感やて 当てになりますかいな。 」

「 おい。 冗談は別にして、このまま徒歩でってのは少々無理があるな。

 俺たちだけならまだしも。 」

「 ワシは 大丈夫じゃ。 だが ・・・ フランソワ−ズ、お前・・・? 」

「 はい、わたしは昨夜ぐっすり眠れましたから。 」

「 もしもの場合は ぼくがおぶってでも一緒に行きます。 」

「 ・・・ ま。 ジョ−ったら・・ 」

「 おい〜〜 昼日中っから公然といちゃいちゃするのは ごめんだぜ?

 俺ぁ ちょっくら上からみてくる。 」

赤毛を靡かせ、ジェットはアッと言う間に上空に消えた。

「 アルベルト。 もし可能なら・・・ 」

「 ああ。 出来ればドルフィンで 上から侵入したい。 」

「 うん、そうだね。 ・・・・ あ ジェット! どうだった? 」

突如 舞い降りてきたジェットは 苦々しい面持ちだった。

「 だめだ。 入れねえ。  なんかこう ・・・ 透明な壁、それも柔らかいんだが

 それに弾き返されるって風だぜ。 」

「 む ・・・ それじゃドルフィンでの空からの侵入は無理だな。 」

「 そのようだね。 徒歩しか手段は無いらしい。 」

 

「 ・・・ あ ・・・ 雲? 」

 

「 うん? なんだい、フランソワ−ズ 」

「 あの ・・・ 雲が出てきた? なんだか雨でも降りだしそうな・・・・ 空気。 」

フランソワ−ズは空に向かって 両手を上げた。

「 ああ! 光はわかるようになったんだね。  」

「 ええ、 それに 皮膚に当たる空気が・・・ そうね、冷たくて暗いカ-テンが降りてきたみたい。 」

「 そう。 あの雲は 生きている。 この風は 雲の吐息だ。 」

「 ・・・ ジェロニモ ・・・! 」

「 行こう。 山が待っている。 」

「 ええ。 行けるところまで行ってみましょう。 」

ジェロニモはイワンのバスケットを片手に ごく普通の足取りで先頭を切って歩き始めた。

フランソワ−ズはそのすぐ後に続く。

「 ・・・お、おい。 待ってくれ。  よし・・・それじゃ。 」

グレ−トはたちまちコンドルに変身し 羽ばたいていった。

[ おお〜〜 絶景かな・・・ コンドルは飛んで行く〜♪ なんちっち。 ]

かなり外れた鼻唄が 全員の通信に響いてきた。

「 あんさん、ずるいアルね〜〜 ワテは運動不足やよって ・・・ もう ・・・ 」

サイボ−グ達は 眼の前に聳える山へと岩だらけの道を辿り始めた。

 

 

[ ・・・ イテッ!! うわ?? 何かあるぞ ? ]

空中で コンドルがばさばさと翼を激しく振っている。

「 何か?  おい、グレ−ト。 どうした? 」

「 ・・・ わ! おい〜〜 これ以上 行けないぜ? 壁が、見えない壁がある。 」

「 ふん・・・。 バリヤ−か? 」

「 多分な。 完全に跳ね反されちまう。 」

「 ふうん? さっき、ジェットが言ったのとはちょっと違うねえ。 」

「 んじゃ、もう一丁〜〜 上まで行ってくるぜ。 」

「 待て。 ・・・ あれを見ろ。 」

アルベルトの視線を全員が追った。

「 あれ! なんで?? 見ろよ、ジェロニモとフランソワ−ズは <向こう側> に抜けたよ? 」

ピュンマが驚愕の声をあげ、先頭を歩いていた二人を指差す。

「 フランソワ−ズ! ・・・・ 痛!! 」

飛びだしたジョ−が その勢いのままに弾き返された。

「 ・・・ ふむ。 これは ・・・ バリヤ−だが、所謂メカニカルなものとは違うようだな。 」

ギルモア博士が 宙に手を当てその手触りを確認している。

 

「 ・・・ どうしたの? 皆・・・ ジェロニモ、皆は・・・ ジョ−はどうしたの? 」

「 わからない。 途中で止まっている。 」

「 ジョ−! どうしたの?? 」

フランソワ−ズとジェロニモはようやく気付いて振り返った。

「 ここを越えられないんだ! ここに ・・・ 見えない壁がある。 」

「 壁? 別にそんなもの・・・ だってわたし達、普通に歩いてきただけよ? 」

「 そうなんだけど。 ぼくらは行けない。 拒否されているって感覚なんだ。 」

「 ・・・ 拒否? 」

フランソワ−ズは向きを変えジョ−達の方に戻ってきた。

 

「 ジョ−。 手を ・・・ だして。 」

「 う・・・ うん。 」

「 なぜかわからないの。 でも ・・・ 聞こえたわ。 」

「 え! あの <山篭りしている神官さま> の声かい。 」

「 わからない。 聞こえた、というより感じたのかしら。 どうぞ、って。

 どうぞ、入ってきていいよ ・・・ そんな声がきこえて来たの。 」

「 ??? ジェロニモ。 きみは どうだい? 」

「 この地はあらゆる精霊で満ち溢れている。 

 あの雲も 風も 木も 石ころも ・・・ そう、山全体が生きている。 」

「 山全体・・・ねえ・・・ 」

「 彼らがワシらを 招待してくれた。 」

「 そう・・・ そんな感じなの。 だから ・・・ ジョ−、わたしと手を繋いで。 」

「 ・・・??  う、 うん。  こう、かい。 」

「 ええ、ありがとう。 そのまま ・・・ 気持ちを鎮めていてね。 」

「 うん。 」

「 ・・・・・・・ 」

フランソワ−ズはちょっと目を瞑ってから ジョ−の手を引きゆっくりと歩き始めた。

「 わ・・・! ダメだって ! フラン。 壁が ・・・ あ??・ あれれれ・・・?? 」

「 ・・・ ほうら、来られたわ。 」

「 ??  」

ジョ−はごく自然に フランソワ−ズと手をつなぎ、前進していった。

「 壁が ・・・ 消えた!?  いや、ぼくが通り抜けたのか? 」

「 ・・・ わかったぞ。 俺にも。 」

「 ジェロニモ。 じゃあ・・・ 皆をお願い。 」

「 むう。 」

 

「 ・・・ いったいどういうコトなんだ?? 」

「 さっき確かに! 壁はあった。 我輩は空中と地上と両方で撥ね返されたぞ。 」

「 でも ・・・ 今、僕らは普通に歩いて通ってきたよ? 」

「 なにか聞こえたか? なにか ・・・ 精神感応のようなものを感じたか? 」

「 うんにゃ? なにも ・・・ ただ、そうだな。 とても穏やかな気持ちではあるな。

「 さっきの壁はどこへ行ったアルね? 胡散霧消したアル。 」

「 うむ・・・ 消えた、というより壁が開いたのかもしれん。 」

「 開いた? 博士、それじゃ フランソワ−ズとジェロニモがそのキイを持っているのですか。 」

「 そうとしか考えられん。 」

結局 全員がジェロニモの手に繋がりするすると <壁> があった地点を通過していた。

 

「 ジョ−。 皆は? 皆、ここにいるの? 」

「 ああ。 ・・・ すごいね。 どうしてこんなパワ−を身に付けたのかい。 」

「 ・・・ 判らないの。 でも ・・・ なにかが護ってくれているみたい。 」

ジョ−はフランソワ−ズの手をもう一度しっかりと握り引き寄せた。

「 ぼくがいるから。 ぼくが護る。 」

「 ジョ−。 ああ・・・ とても ・・・ 温かい ・・・ 」

「 ぼくもだ。 こうしていると なにかパワ−が、うん、でもとても穏やかなパワ−が

 身体中に充ちてくるよ。 不思議な ・・・ 気分だ。 」

「 ・・・ ええ。 」

 

[ ・・・! フタツノ意志 ・・・ 闘イダ。 ブツカリアッテ ・・・

 世界ノ破滅ト平和ガ ・・・。 憎悪ト愛 ・・・ ]

突然 イワンの<意志>が全員の心に飛び込んできた。

「 ?? イワン? どうしたの? 」

「 おい、イワン! ・・・ 博士! 頼みます。 」

「 ・・・ うむ ・・・ いや、大丈夫、ただ眠っているだけじゃ。 」

「 ああ・・・ よかった。 でもどうして・・・ 」

フランソワ−ズは 手探りで小さな身体をそうっと抱き上げた。

「 おそらく ・・・ 強大な意志のチカラの影響から逃れようと 自分の内側に閉じ篭ったのじゃろう。 」

「 意志の力・・・ 」

「 ともかく 俺達はそのチカラを駆使する <偉大なるお方> のところに行かないとな。 」

「 そうだね。 すべてのカギはその人物が握っているんだろう。 」

 

「 ・・・ ? 陽が差してきた? 明るくなってきたわ。 」

「 ?? いいや? マドモアゼル、相変わらず濃い雲が空を覆っているぞ。 」

グレ−トは灰色の空を仰いだ。

風が吹き始めていたが、太陽は見えない。 

「 でも・・・ 光を感じる ・・・ あ ・・・!? 」

「 どうした、フランソワ−ズ? ・・・ ああ !」

「 おお ・・・! 」

サイボ−グ達は 一斉にどよめいた。

 

一行の前に 突如巨大な岩場に聳え立つ神殿が現れた。

 

「 ・・・ なにか ・・・ いるわ。 なにかが ・・・ 来る! 」

フランソワ−ズの呟きが終るか終らないうちに 風が強くなってきた。

微風はあっという間に彼らの足元をも掬う 激しい風となった。

「 フラン! こっちへ。 危ないよ。 」

「 ジョ− ・・・ 聞こえるわ。 これは ・・・ ノイズ、メカニカル・ノイズ・・・・

 ああ・・・ うめき声??  わからない ・・・ とても不安な気持ち・・・ 」

「 大丈夫、ぼくがいるよ。 さあ・・・ こうすれば大丈夫だろう? 」

ジョ−は 風に震える細い身体をしっかりと抱きしめた。

 

 

   ・・・ ド−−−−−ン !!!

 

 

一閃の稲光とともに 天空から雷が岩場に落ちた。

「 気をつけろ! 俺たちに敵意があるかもしれない。 」

「 おう! ・・・ あン? おい! ス−パ−ガンが! ヤワだぜ?? 」

「 なんだとッ ?? 」

サイボ−グ達は一斉に試射したが、レ−ザ−はもとよりパラライザ−機能も作動しない。

「 クソッ! 俺のマシンガンもダメだ。 」

カチ、カチっと空撃ちの音に アルベルトは苛だたし気に唸った。

「 ワイも ・・・ ダメある。 炎が消えてしまったアルよ! 」

「 ここでは 武器 は使えないってことだね。 」

「 うん。 フランソワ−ズ? どうした? 」

「 ・・・・ なにかが 来る・・・! とても強い ・・・ 黒い なにかが。 」

「 なんだって?? 」

 

   バリバリバリ −−−−−−−− !!!

 

神殿の一部から稲妻にも似た光が飛び散った。

一瞬 ・・・ 誰もが目が眩み、こころの奥の奥にまで閃光が差し込んだ、と思った。

暗い闇の奥に 密かに隠し持っていた気持ちが 一挙に暴かれてしまう。

 

  ・・・ やめろ! やめてくれ〜〜 やめないと ・・・ 殺す!

 

恐ろしいほど簡単に殺意が漲ってきた。

 

「 ゥ ・・・ く・・・・ クソゥッ!! ・・・ ヒルダ ・・・ ヒルダ!!

 う・・・! ゲシュタポのイヌめ! ・・・殺してやる〜〜〜 !! 」

アルベルトは低く呻き宙に向かってス−パ−ガンを構えた。

つぎの瞬間  ― バッ −−−−−!!

虚空から強力なエネルギ−の塊が 彼を襲った。

「 ・・・ アルベルト!! 大丈夫か! 

「 ・・・ う ・・・・ ウウウ ・・・クソ ・・・! 」

「 やめて! 気持ちを鎮めて! お願い、憎まないで・・・! 」

 

「 ・・・ ママ・・・ ママ・・・!! よくも ママに!! 」

「 ジョ−?? だめ、だめよ! 」

フランソワ−ズは傍らにいたジョ−を咄嗟に抱きかかえた。

「 ママ ・・・ ママは ・・・ そんな女じゃない・・・ 」

「 お願いよ、ジョ−。 惑わされてはだめ。 アルベルト! あなたもよ!

 憎む気持ちを、攻撃本能を強くすると  ・・・ それがそのまま自分に跳ね返ってくるのよ! 」

フランソワ−ズは必死で声をかけるが、皆虚ろな瞳でぶつぶつと呟くだけだ。

 

「 お願いです・・・! やめてください。 わたし達は あなたと闘う意志はありません。

 ・・・ どうか ・・・ 彼らのこころを解放してください・・・! 」

フランソワ−ズは 覚束ない視線を宙に投げる。

「 ・・・ なにか 見えるのか。 」

「 ジェロニモ。 わからない。 今のわたしには何も見えないわ、でも・・・ 」

「 ・・・? 」

「 でも。 感じるの。 なにか、とても強い心・・・ 意志の塊を ・・・ 」

 

   ド−−−−−ン !!

 

「 きゃ・・・! 落雷・・・?? 」

一際大きな衝撃と共に、辺りは目映い光に覆われた。

「 ・・・・ 来た。 アステカの軍神 ・・・ 」

「 え! ・・・ だめ、だめよ! 刃向かっては ・・・ 破滅するわ。 」

 

  ド−−−−−−ン !!

 

再びあたりは目も眩む光で充ちた。

「 ・・・ な、なに?? こんどはなんなの!? 」

「 俺。 闘わない。 全ての精霊は ・・・ 友。 おお・・・ 善神、あなたを待っていた。 」

「 ああ・・・ わからないけれど、すごく・・・すごく強い意志が ぐいぐいわたしのこころ曳く・・・ 」

「 大丈夫だ。 フランソワ−ズ、静かな気持ちになれ。 」

「 ・・・ でも ! ああ・・・すごいエネルギ−が・・・! 」

「 精霊たちよ! 俺達は ・・・ 敵ではない! 」

 

   ・・・・ バリバリバリ −−−− !

 

断末魔の悲鳴のごとく、稲光が闇を裂く。

・・・ すると それを合図にしたかのように黒雲が薄らぎ始めた。

 

「 ・・・ あ? 明るくなってきたでしょう? 」

「 ああ。 荒ぶるこころ ・・・ 神々の精神 ( こころ ) 、 去った。 」

「 そう ・・・ そうね。 とても ・・・ 穏やかな空気だわ。 」

「 もう 誰も争わない。 誰も ・・・ 憎しみをぶつけない。 」

「 ええ。 空気が落ち着いたわね。  あ?? また ・・・ なにか? 」

 

   ・・・ こころを鎮めよ。 お前は我らが ・・・ 友。

   わたしの声の導くままに ・・・ 来て欲しい ・・・

 

「 ・・・?  なにか聞こえたわ。 あら・・? 」

フランソワ−ズは防護服の胸をそっと押さえた。 小さな温かい塊が感じられる。

「 なに・・・? あ! あの葉っぱ・・・! 」

「 <癒しの樹> の 葉、か? 」

「 ええ。 昨夜から ・・・ とても気持ちがいいのでずっと持ってきたの。 」

「 行こう。 今度こそ 精霊の声だ。 」

「 みんなは ?  ジョ− ・・・ わかる? わたしが わかる? 」

フランソワ−ズは そっと腕の中のジョ−に顔を近づけた。

「 ・・・ ぅ ・・・・ うう ・・・ ふう・・・・ 」

「 ジョ−? もう・・・大丈夫よ。 嵐は去ったわ。 」

「 ・・・ フラン ・・・ ソワ−ズ ・・・  呼んでいるのは ・・・ きみ? 」

「 いいえ、違うわ。 ・・・ みんなは? 」

「 ああ。 大丈夫・・・ こころの闇、去った。 」

神殿の前に散っていたサイボ−グ達はてんでに起き上がり始めた。

 

「 行きましょう。 わたし達に来て欲しい、と言っているわ。 」

 

サイボ−グ達は 神殿の奥へと一筋の道を辿りだした。

 

 

 

 

 

「 ・・・ あ! ほら。 また・・・ 」

「 うん ・・・ 随分ながく尾を曳いてゆくね ・・・ 」

「 綺麗な流れ星 ・・・ 」

フランソワ−ズはことん・・・とジョ−の肩に頭を預けた。

足元には いつもの穏やかな波が寄せては返し 時折満天の星が海面を煌かせている。

ジョ−は頬に触れる亜麻色の髪を ゆるゆると愛撫する。

「 ・・・ なにを願ったのかい。 」

「 ふふふ ・・・ ナイショ。 」

「 おやおや・・・ 相変わらずヒミツ主義なんだね。 」

「 あら、だって。 願いごとはひとにしゃべってはいけないのよ。 叶わなくなるわ。 」

「 へえ?? そんなの初耳だよ。 」

「 でしょうね。 わたしが決めたんだもの。 」

「 ・・・ は・・・ このぉ・・・ 」

ジョ−はつん・・・と寄り添う白い頬を小さく突いた。

「 ・・・・ ふふふ ・・・ 」

「 そうだ・・・。 なあ? 」

「 なあに。 」

「 きみには あの時・・・ その <聖なる神官様> の姿がみえたのかい。 」

「 ・・・? ああ ・・・ あの神殿で? 」

「 うん。 ぼくも 皆も 確かに呼び声が聞こえて ・・・ あそこまで行ったんだ。 

 でも。 あの奥には ・・・。 きみには < 彼 > が見えたのかい? 」

「 ううん。  わたし。あの時は・・・ まだ光がわかるだけだったし。 」

「 そうだけど。 でも きみとジェロニモが最初にあの呼び声に気がついただろ。 」

「 ええ。  なにも わたしの眼には見えなかったの。 

 ・・・ でも。 でもね。 その ・・・ ヒト は微笑んでいたの。 それははっきり感じたわ。」

「 微笑んで ・・・ そうなんだ。 

 

 

辿り着いたアステカの山深い神殿で、彼らは大いなる意志と向き合った。

その<意志>は 彼らのこころに穏やかに語りかけてきた。

誰もがとても 穏やかなこころでその言葉を聞いていたが ・・・ 奇妙なことになんの姿も

見ることはできなかったのだ。

 

  ・・・ 憎悪や闘争心を この世から消し去ろうと ・・・ 自分自身のパワ−を増大した。

  憎しみ合うモノは自滅するよう ・・・ 思念を送った・・・

  しかし ・・・ それは ・・・ 

 

「 誰だ? いったいどこから語りかけているのだ? 」

「 一種のテレパシ−だろうね。 僕たちの心に直接話しかけてくるよ。 」

「 穏やかだ・・・ 先ほどとは全然ちがう・・・ 」

「 博士、大丈夫ですか? 」

「 ・・・ ああ。 なぜか ・・・ 非常に落ち着いた気分じゃ。 」

「 ・・・ なにか、ある? こちらから 光を感じるの。 」

フランソワ−ズは前方を指した。

 

神殿の奥には そこを司ってた神官の墓所らしきものがあるだけだった。

サイボ−グ達は その前に吸い寄せられていった。

 

  ・・・ 破壊は なにも齎さない。 次の破壊を引き起こすだけだった・・・・

  憎むこころを消せるのは ・・・ 愛、だけ ・・・

 

「 ・・・ 愛 ?  」

 

  そうだ。  愛。  ・・・ あらたな命を生み出せるのも 憎しみを消せるのも ・・・ 

  ただ ・・・ 愛 だけなのだ。

 

「 そう。 憎しみは 破壊は 何も生み出さない。 」

「 ・・・ そうだな。 闘いは ・・・ いつも虚しいだけだ。 」

ス−パ−ガンを構える手も 自然と下がってきた。

彼らは こころに語りかける声に耳を澄ます。

 

  わたし を解放して欲しい。  ここから 翔ばせてくれ。

  その手助けを 頼む。  お前 ・・・ そこの娘、道を照らせ。

 

「 わたし・・・? 」

 

  そうだ。 お前こそ精霊の娘・・・ 癒しの樹の葉を持つ娘 ・・・

  ともに 飛んで行くのだ。  宇宙 ( そら ) の旅へ 至福の場所へ 

 

「 え ・・・ 」

「 ・・・だめだ、だめだぁ〜〜〜 !! 」

思わず後退りしたフランソワ−ズの前に ジョ−が立ちはだかった。

「 だめだ! いくら あんたが聖なる神官サマでも 偉大なる魂でも

 彼女は 渡さないッ!! 」

「 ・・・ ジョ− ! 」

 

  わたしに逆らうのか。  ・・・ 愚かな機械人間だな。

  その闘争心が お前自身を滅ぼすぞ

 

「 なんとでも言え! どうなっても、たとえぼくはどうなっても。

 フランソワ−ズは ・・・ 渡さない! 」

「 ・・・ ! ジョ− !! 危ないッ 」

 

  バリバリバリ−−−−− !!!

 

穏やかな空気を切り裂いて 一条の光線がジョ−を襲った。

「 わぁ〜〜〜〜〜 !! 」

ジョ−の身体が急に宙に浮き閃光の中でもがいている。

「 ジョ−!! これは ・・・ ワナだわ! 闘う気持ちを捨てて! 」

「 ・・・ う・・・ だ、だめだ! これだけは・・・!

 きみだけは どんなことがあっても ぼくの命をかけても ・・・!

 渡さない。 渡す ・・・ ものか !  」

 

  バンッ −−− !!

 

凄まじい勢いでジョ−は石床に叩きつけられた。

 

  その口を閉じろ。 

  勝手に自滅するがいい。 己の闘争心に焼かれて滅びるのだ。

 

「 ・・・ く ・・ ゥ ・・・!! 」

「 ジョ−! ジョ−!? どこ?? 返事して!! 」

「 う ・・・ ううう  ココ ・・・ きみの すぐ左10時の ・・・ 方向 ・・・ 」

「 わかったわ! 今 ・・・ そばに行くから。 」

「 ・・・ 気を ・・・ つけろ ・・・ 」

フランソワ−ズは手探りで倒れたジョ−ににじり寄った。

「 ・・・ ジョ−・・・? ・・・ああ! ジョ−!! 」

手繰り寄せたジョ−の手はぬるりと生暖かい液体にまみれている。

フランソワ−ズは夢中で ジョ−の顔をさぐった。

「 ・・・! ちょっと 待ってね。 今・・・マフラ−で止血をするわ。 

 そうだわ! あの葉っぱを ・・・ ! 」

フランソワ−ズは防護服を探り、<癒しの樹>の葉を手繰りだした。

「 これで ・・・ 少しは・・・ 」

 

  娘よ。 そやつは放っておけ。

  さあ お前の手で お前と共に 解放してくれ。

 

フランソワ−ズはジョ−の身体を抱えたまま、きっかりと宙に顔を上げる。

そして。 

「 ・・・ 嘘つき!! あなたは ・・・ 何にもわかってなんかいないわ! 」

光しか捉えられない瞳に、 今、強い光が漲っている。

「 憎しみを消せるのは愛、なんて言っても なんにも判ってないじゃない。 

 愛は ・・・ 奪うものじゃない ! 」

 

   ・・・ なにを 言っているのか・・・

 

「 愛って そんなんじゃないわ。 わたしはどんな時でも ジョ−を愛してる! 

 たとえ ・・・ 彼が他の女性 ( ひと ) を選んでも、わたしは・・・ 彼を愛するわ。 」 

「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・ 」

「 なにかを求めて愛しているんじゃないわ。 ただ ・・・ 好きなの。 理由なんかない。

 それが ・・・ 愛だとわたしは信じてる! 」

 

  わたしは ・・・ 愛 を ・・・ 知らなかった ・・・ のかもしれない・・・

  教えてくれ。 愛を、真実の愛を得る方法を・・・

 

「 それはね。 誰にでもできるのよ。  ただ 愛すればいいの。 」

フランソワ−ズは微かに笑みを唇に結んだ。

「 ・・・ フラン ・・・ ソワ−ズ ・・・ きみってひとは・・・ 」

血に塗れた手が フランソワ−ズの頬をそっと撫でる。

「 ジョ−・・・ 動かないで。 大丈夫・・・ わたしはあなたの側を離れないわ。 」

 

  ・・・ 解放してくれ。  

 

それは呻き声に近かった。  

今までの抑揚のない無機質な、音質とはまるで違っている。

独り言ともとれる声だったが なぜかとても身近に感じられた。

「 解放?  フランソワ−ズを巻き込むな!  」

ジョ−が 渾身の力を振り絞りフランソワ−ズを背後に庇う。

 

  疲れた ・・・ 

  わたしは 間違っていたのかもしれない ・・・ 解放してくれ。 頼む。

  さあ・・・ 目の前の墓碑を撃ってくれ。 

  その中に わたしのパワ−を増幅させ ・・・ ついにはわたしを虜にした装置がある。

 

「  ・・・ わかった ・・・ 」

「 ジョ−、わたしにも参加させて。 」

「 うん。 」

ジョ−はス−パ−ガンを持った彼女の手を静かに持ち上げた。

「 皆で 送ってあげて。 」

 

  バ−−−−−− !!!

 

8本の光線が一つに集まり ・・・ そして。 

 

  おお ・・・ ありがとう ・・・ ありがとう ・・・ 

 

東の空に最初の光が払暁を知らせたとき 大いなる意志は消えた。

<偉大なる神官>の魂は 今、やっと旅立っていったのだ。

 

「 ・・・ あら ? 」

フランソワ−ズは 差し込んできた日に両手を翳した。

「 ・・・ あ ・・・ あらら ・・・ 」

手にしていた葉は ふるる・・・と揺れるとほろほろと崩れ ・・・やがて朝風に溶け散ってしまった。

「 ・・・ ありがとう ・・・ 」

「 フランソワ−ズ? 」

「 ・・・ お早う、ジョ−。 今日も綺麗に晴れそうよ。 」

「 ・・・ もしかして、きみ・・・! 」

「 ええ。 見えるわ。 ちゃんと ・・・ ほら、あなたの顔も この・・・夜明けの空も。 」

「 フランソワ−ズ ・・・・ !  よかった! 」

「 ・・・ あ、や・・・ きゃ♪ ジョ− ・・・ ジョ−・・・下ろして? 」

ジョ−は喜びの声をあげ、フランソワ−ズを高々と抱き上げた。

 

 

 

 

「 そうか。 あの時、きみには<見えて>いたんだね。 」

「 ええ ・・・。 でも ・・・ 爆発と一緒にあの声も消えてしまったけれど・・・

 それは ・・・ 死んだ、ということなのかしら。 」

「 う・・・ん ・・・ そうだね、 やはりあの魂が旅立ったのさ。 宇宙へ・・・ 」

「 ・・・ そう。 やっと ・・・ 解放されたのね。 」

「 多分ね。 」

ジョ−は寄り添う細い肩を そっと引き寄せ彼女の頬に手をあてた。

「 ・・・ きみのこころが ・・・ ぼくを救ってくれた・・・ 」

「 ジョ− ・・・ 」

あわせた唇から 温かい想いが 熱い情熱が 昂まる気持ちがなだれ込む。

「 温かい ・・・ きみの胸は ・・・ いつも ・・・ 」

ジョ−は彼女の胸に顔を埋めた。

 

「 あのね。 精霊も悪鬼も ・・・ みんなこころに中にいる・・・って思うの。

 ねえ、ジョ−。  わたし ・・・ わかったわ。 」

「 え・・・なにが。 」

「 あなたのお母様は素晴しい方よ。 」

「 ・・・ え ・・・ 」

「 だって。 こんなに素晴しいものをくださったじゃない?

 島村ジョ− っていう素敵な人を。 熱い心をもった人間をこの世に送り出してくださったのよ。

 本当に素敵な・・・素晴しいお母様だわ。 」

「 ・・・ フランソワ−ズ・・・ !

 きみが そう思ってくれるなら ・・・ その通りなんだ。 」

「 ジョ−。 もうこころの奥に押し込めなくていいのよ。

 ちゃんと ・・・ いつも想ってあげて? あなたの大切なお母様のこと。 」

「 ・・・ うん。 」

「 想ってくれる人がいれば その人はずっと ・・・ こころの中で生き続けるわ。 」

「 そう ・・・ だね。 ママを ・・・ 想えるのはぼくだけだ・・・。 

「 そうよ。  ・・・ あ!! 」

「 な、なんだ、どうしたの?? 」

「 展示会よ! あの展示会・・・ まだやっているかしら。 どうしても見たいの。 」

「 ああ! あの画家のだね。  よし!  捜してみるよ。 

 全国と巡回するそうだから ・・・ぼく達が追いかけてゆこう! 」

「 嬉しいわ。  あ !!! 大変〜〜〜 」

「 なんだ、今度はどうしたんだ?? 」

「 ブラウスよ、 ブラウス〜〜 !! 」

「 ・・・ ブラウス ?? 」

「 そう! あれを着てジョ−と一緒に展示会に行きたいの。

 あの騒ぎで ・・・ 全然縫えていないのよ。 大急ぎだわ、今晩夜なべしなくちゃ! 」

「 あ・・・ ? 夜なべって・・・ 」

「 さ! こんなトコでぼんやりしていられないわ。 

 ジョ−? わたし、先に帰るわね。 ・・・ 今晩は一人で大人しく寝るのよ、いいわね? 」 

 ・・・え ・・・あの ・・・せっかく帰って来たのに・・・ 

 メンテナンスもすっかり終ったから やっと二人っきりの夜を楽しもうって・・・ 」

「 え? なあに。 」

「 ・・・ なんでもないです。 」

「 そう? じゃあね。 ・・・・ あ、 夜食ならカップ・ラ−メンがキッチンのパントリ−にあるから。 」

さっと立ち上がると、フランソワ−ズは崖の上のギルモア邸目指し、駆け去ってしまった。

 

「 ・・・・ そんなぁ ・・・ フランソワ−ズ ゥ ・・・・・ 」

 

ジョ−の呟きを聞いていたのはいつもの穏やかな波だけだった。

 

 

**********     Fin.   ***********

 

Last updated :  09,18,2007.                          back         /        index

 

 

*****    ひと言   *****

ふへ〜〜〜 やっと終わりました。 はあ・・・・

このお話、本当に難しくて ― その部分は 目を瞑ってすっ飛ばしましたが ・・・ 

ま、とにかく 93ラブ ってことで一件落着〜〜〜♪♪ なのでした。

( な〜んか ベルばら 風味ですよね〜〜 <愛あれ〜ばこそ〜♪> (^_^;) )

・・・・ 神官サマでも疲れるのですかね??? 

長々とお付合いくださいましてありがとうございました。 <(_ _)>