『 早い春 ― (2) ― 』
〜〜〜 ♪♪ 低いアラームが鳴って目がさめた。
「 う〜〜ん ・・・・ 」
十分に眠った、という気分で フランソワーズはゆっくりと寝がえりを打ち、
ベッドサイドに置いた小さなアラーム付の時計を止めた。
「 ・・・ ふぁ〜〜 あら 温かいのね ・・・
え ??
のんびり開いた瞳には 新緑の森 が 映った。
ほんわりした空気 そして 彼女のいる空間は 稚い緑でいっぱいなのだ。
「 ・・・? わたし ・・・ 森の中で 寝た ・・・・?
ううん 昨夜は ちゃんと自分の部屋のベッドで眠った はず ・・・ 」
もしかして ― BGのトラップか?? 一瞬、イヤな記憶が蘇り、
彼女は 003モードにさっと切り替えた。
「 ・・・・ 」
そろそろと 慎重に身体を動かし 周囲を念入りに探る。
「 ・・・ なにも ない わ。 ここは普通の 部屋ね。
窓の外も ― テラスがあるけどなにも隠れてはいない ・・ 」
それでも 部屋の中は < 新緑の森 > なのだ。
よ〜し ・・・ ちゃんとパジャマ着てるし。
― 行くわっ
ガバッ !!! 003は 勢いよくベッドから起き上がった!
「 ! ・・・ あ ・・・れ ? 」
部屋には ― なにも なかった。
いや 昨夜 眠る前に確認したそのまま ・・・ の光景があるだけ。
「 でも ・・・ なんで ここはこんなに緑なの??
あ ・・・ ! カーテン ・・・!
そうなのだ。 昨夜、005からもらったカーテンを掛けた。
渋い緑の濃淡に染められた生成りの布で はんなりした感触がいいな、と思っていた。
それが ― 朝の陽射しを受けて ここを森に換えているのだった。
「 ・・・ すご ・・・ い ・・・
草木染め…ッて 言ってたっけ ・・・ この色は 自然の緑 なのね 」
両手を広げ 緑の陽射しをうける。
くるくると回ってみれば 金色の髪が森のひかりに煌めく。
「 すてき ・・・ ! 005ったら もう〜〜 最高のプレゼントね♪
わたしのお部屋が 森の奥になっちゃったわ ・・・ すご〜〜い 」
海の底みたいにしたいんだ ― 008の言葉を思い出した。
「 うわあ それじゃ まさに彼の部屋は ブルーの国 ね。
ああ きっと本当の海底よりも明るいわよねえ ・・・
毎朝 目が覚めるのが楽しみになっちゃう〜〜〜 」
ハナウタ混じりに着替えを済ませた。
「 ちょっと惜しいけど ― 」
さ −−−っと 新品のカーテンを引いた。
あ ・・ きれい ・・・ !
目の前には うすい水色の空がぽかり ぽかり と白い雲を浮かべ
広がっている。
ほんの少し視線を下げれば 濃紺の海が空に迫る勢いだ。
「 す・・・・っごい〜〜〜 ここ、 最高〜〜 」
カラリ、と軽くサッシを開けてベランダに出た。
ふぁさあ 〜〜〜〜〜 ・・・・・
朝の風が 海の向うから吹きこんできた。
「 きゃ ・・・ ああ でも いい気持ち〜〜〜〜
朝 ね! 朝がきたって気分。 早起きってこんなに気持ちよかったっけ 」
う〜〜〜ん ! パジャマ姿のまま大きく伸びをした。
「 ストレッチしよっと♪ ・・・ あ? 」
一瞬 周囲を見回したが ここはとても上手く設計されていて
各々の個室には 微妙な角度にベランダが開いている。
プライバシーが ごく自然に確保されていた。
「 うん ・・・ ま こっちの隣は007ですもんね〜
まだまだ起きてはこないわ。 それじゃ ・・・っと 」
彼女はベランダに座り込むと 入念なストレッチを始めた。
トン トン ・・・ 少し重いが歯切れのよい足音が階段を降りてきた。
「 おはよう。 ― お? グレート。 もう起きたのか、珍しいな 」
「 アルベルト。 たまには吾輩の珈琲でも 飲んでくれたまえ。 」
「 ほう? 紅茶以外も淹れられるのかい 」
「 お〜っと。 見縊るなよ? 吾輩、ドリンク類には少々煩いのだよ。
昨日 良さげな豆を買っておいた。 」
「 おう それじゃ ・・・ 頼む。 しかし 早起きだな 」
「 いやあ〜 朝陽に起こされて ちょいとテラスに出ようとしたら だな 」
「 ? 」
「 隣のお姫様が ベランダで脚を高々〜〜〜 ストレッチ中。 」
「 ・・・ あちゃ・・・ 」
「 英吉利紳士としては 見て見ぬフリ、早々に撤退して ―
ここに降りてきた、というわけさ。 」
「 ははは ・・・ では朝の一杯を頼む 」
「 アイアイ サ〜〜〜 」
まもなく キッチンには香ばしい匂いが漂い始めた。
「 ふ〜ん ・・・ いい匂いだな 」
「 で あろうが? 吾輩の目利きを信じてくれたまえ 」
「 どうだか ・・・ そういえば 中華街の方は どうした? 」
「 ほい ・・・ モーニング・こおひいだ。 」
かたん。 焼き物らしいコーヒーカップが置かれた。
「 ふん ・・・ 〜〜〜 いい味だな 」
「 ふふふ〜〜ん☆ この渋みがいい。 」
「 だ な。 大人の味だ 」
「 違いない。 お子ちゃまには無理だな 」
「 ああ ― それで 006は 」
「 もうとっくに出かけた。 土地やら店の下見さ 」
「 ほう? いい物件があったか 」
「 らしい。 えらく張り切っているよ、あの御仁は 」
「 いいことだ。 」
「 時に お前さんはどうする? 」
「 帰国する。 」
「 ― そうか。 やはり な 」
「 ああ。 ここは居心地いいが 一つになった祖国にもどる。 」
「 ・・・ そう言うと思っていたよ。 グッド・ラック。 」
「 ダンケ。 そっちは? 」
「 しばらくこの国にいることにした。
昔の脚本家仲間が なんとトウキョウにおってな。 こちらで
活動してみるのもいいかな と 」
「 ほう それはいい。 芸術に国境なし だな 」
「 左様 左様。 時に ウチのお嬢さんだが 」
「 はん? ― あ〜 ご本人だ 」
「 お? ― mademoiselle ご機嫌よろしゅう 」
トン トン カチャ ・・・
ほんのりピンクの頬をした金髪娘が 元気よく入ってきた。
「 あら。 みなさん、 お揃いなの?
わたし ・・・ 寝坊したかしら 」
「 いや。 新しいコーヒーを味わいたくてな 」
「 左様。 マドモアゼル、 新しい部屋の居心地はどうだったかな 」
「 ええ すごく気に入ったの!
― あ〜〜 ねえ 皆 カーテンはどうしているの 」
「 カーテン? いや 昨夜はまだナシで済ませたが 」
「 そうよね〜 ねえねえ わたしに選ばせてもらえない?
グレートも ! 」
「 ・・・ 別に構わないが 」
「 吾輩もだ。 お願いしようか。」
「 メルシ〜〜〜 うふふ ・・・ あとでホーム・センターって
大型のショッピング・モールで選んでくるわね 」
「 ああ ・・・ あ 荷物持ちするか? 」
「 う〜〜ん ・・・ あ 009 ・・ じゃなくてぇ
えっと ジョー に頼むわ。 ついでに彼の分も選ぶわ。
ねえねえ 大人にはどんな色がいいと思う? 」
「 色? ・・・ ああ カーテンか。 う〜〜ん・・・ 」
「 はてねえ。 あ! そうそう 奴さん、風水とかに凝っておるから
確か 黄色 が幸運らしいぞ 」
「 そうなの? それじゃ 大人は黄色。
あとは〜〜 002 じゃなくて ジェットね ― やっぱり
空の色かしら 」
「 だろう な 」
「 決まりね〜〜 あ ちょっと ジョーとジェットは
まだ起きて来ないわけ?? 」
「 アイツらは まだまだ夜中タイムだろうよ 」
「 もう〜〜〜 ちょっと起こしてくるわね〜〜〜
コーヒー 淹れておいてね。 あ わたし カフェ・オ・レ お願い。」
「 お おう 」
「 じゃあ 起こしてくる! お〜〜〜い 起きて〜〜〜 」
彼女は 声をはりあげつつ二階に向かった。
「 ジョー に ジェット か。 ナンバーは卒業 だな。 」
「 ・・・ ふふふ ・・・ お嬢さん、 昨日と顔色が全然ちがってたな。
朝のストレッチの効果かね 」
「 いいことだ。 」
「 うむ。 ここに上陸してからずっと浮かない顔をしておった。
なにか不満なのか ・・・と 気にしていたのだ。 」
「 ふん この家は気に入ったようだがな。
― まあ なにか吹っ切れたのだろうよ 」
「 そして 次の一歩へ だ。 ― 芸術に国境はないゆえ 」
「 ふふふ ・・・ 俺も だ。 」
004は ソファの肘掛で軽くピアノの運指をしている。
「 聞かせてもらえる日を 楽しみにしておるよ。 」
「 ふふん ― いい脚本 ( ほん ) を書け。 」
「 アイアイ サー 」
「 ほ〜ら はやく! 顔 洗ってらっしゃい! 朝ごはんよ 」
「 ・・・ うっせ〜〜な〜〜〜 」
「 なんですって?? ああ 朝ごはん いらないのね ジェット 」
「 わ〜〜ったわ〜〜った・・・ すぐに行くよ 」
「 は や く。 ジョー? ちょっと〜〜 廊下で寝ない!
もう〜〜 起きて! 昨夜 何時に寝たのよぉ〜 」
「 ・・・ ふぁ〜〜〜 ・・・ ネットの海で溺れてた・・・ 」
「 あ スマホ 持ってるの? 」
「 え?? 違うよぉ 博士がリビングに置いてくれた共有PCを
使ってたら ・・・ 空が明るくなってて 」
「 まああああ 早く顔、洗ってきて! 朝ご飯 ですっ 」
「 ふぇ〜〜い ・・・ おっかね〜〜 」
「 なんですって? ああ ジョーも朝ごはん いらないのね。 」
「 わ〜〜〜 ごめんなさい〜〜〜 朝ご飯 いります、たべます
食べたいです〜〜〜 」
「 それなら 早く顔 洗って。 お皿を並べたり手伝って 」
「 へいへい ・・・ 」
003は 張り切って厨房に入ると冷蔵庫を開けた。
「 え〜と ・・・ あ 卵とベーコンがあるわね〜〜 」
「 マドモアゼル、お願いできるかい 」
「 ええ 勿論。 あ グレート、サラダをお願いしていい?
レタスとトマト、 キュウリがあるわ。 」
「 ほ〜〜う?? 瑞々しいキュウリだなあ この国は
野菜が豊かでいい 」
「 えっと〜〜 皆〜〜 卵のリクエスト、お願い。 」
「 おう 吾輩は昔からの習慣、朝ご飯は固ゆで卵を所望だ。 」
「 俺は ― ベーコン・エッグだ。 」
「 はい 了解。 ああ ピュンマ、おはよう。 朝ご飯の卵は? 」
「 おはよう〜 え 僕? ・・・ う〜ん スクランブルエッグ。 いいかい? 」
「 了解〜〜 ジェロニモ Jr.リクエスト どうぞ。 」
寡黙な仲間は 大きな手に黄色の素朴な花を摘み取ってきていた。
「 おはよう。 海岸への窪地に咲いていた。 今年初のたんぽぽだ 」
「 まあ〜〜 かわいい〜〜〜 」
「 おう ダンディライオン か。 もうそんな季節かい 」
「 ね コップに差して・・・ 食卓に置きましょう? あ 卵は? 」
「 俺 ベーコン・エッグを頼む 」
「 了解〜〜 あ〜 ジェット〜〜 卵は? 」
「 はあん? 食うぜ 」
「 だから〜〜 メニュウのリクエストは? 」
「 サニーサイドアップ。 」
「 わかったわ。 ああ ジョー、 卵どうする?
」
「 え ぼく? 」
最後に入ってきた茶髪の少年は 目をぱちくり〜〜している。
「 そうよ。 ベーコン・エッグかしら? 」
「 ・・・ あ あのう・・・ たまごかけご飯 ・・・ 」
「 ??? たまごかけごはん? 」
「 ウン。 あ 朝って パンだっけ? 」
「 ええ 」
「 なら・・・ たまごやき。 」
「 たまご やき? 」
「 ウン。 ちょろっと醤油 いれてくれると嬉しいかも 」
「 ・・・ わかったわ。
たまご やき ・・・? う〜〜ん 多分 オムレツ のことよね〜
あ ジョー。 トースト、 作ってくれる? 」
「 うん いいよ〜〜 わ オーブン でっかいから
一度に皆のぶん 焼けるな〜〜 」
009は 嬉々としてパンを切りはじめた。
「 ねえ ジョー。 なに色がすき? 」
「 え〜と これでいっかな〜〜 え なに? 」
「 色よ カラー。 ジョーの好きな色はなに 」
「 え・・・ い 色ぉ? 」
「 そうよ。 ブルーとか グリーンとか 」
「 う う〜〜ん ・・・? 何色でもいいなあ 」
「 そんなこと言わないで。 お気に入りの色 あるでしょう?
ほらあ 今日着てるシャツはブルーのチェックじゃない? 青 好き? 」
「 え あ〜〜〜 別に嫌いじゃないけど ・・
お気に入りの色 ・・・ う〜ん 」
009はオーブンの前で真剣に考え込んでいる。
「 う〜〜ん あ ジェロニモ! ステキなカーテン ありがとう〜
もうめっちゃめちゃに素敵、気に入ったで〜す♪ 」
「 うむ その笑顔でわかった。 」
「 そう? なんかね〜〜 めちゃめちゃ元気になっちゃった。
お日様のパワー 倍増よ。 」
「 よかった。 顔色、悪くて心配していた。 」
「 え そう?? 別にどこも不具合はないわ。 」
「 身体だけではない。 エネルギーが枯渇していた。 」
「 そう ・・・ かもしれないわ。
ねえ ジェロニモはどんな色のカーテンにするの? 」
「 故郷 ( くに ) の布、染めてもってくる。 」
「 すご〜〜いわね〜〜〜
あ ねえ ねえ ジェット。 好きな色 なあに。 」
「 はあん? 色ぉ? ― 俺 赤! 」
「 え 赤?? 」
「 そ。 俺 Tシャツも バッシュ―も 赤だぜ ほら。」
002は ひょい、と脚を上げてみせた。
「 あら ほんとだ〜 ・・・ でも 赤いカーテンじゃねえ? 」
「 カーテン?? 」
「 そうよ。 お部屋のカーテン。 ないとやっぱり不便でしょ 」
「 別に 〜〜 」
「 だめ。 ねえ ホーム・センターに買いにゆくから ・・・
好きな色 注文して。 」
「 赤はダメかよ〜 」
「 だって真っ赤なカーテンって ・・・ 売ってないわよ 多分。 」
「 ちぇ〜〜 ならよ、ストライプ! 赤と白のがいい ! 」
「 いちお〜 探してみるわ。 」
「 003〜〜〜 そろそろパン 焼けるけど・・・ たまご・・ 」
009が遠慮がちに口を挟む。
「 あ! いっけな〜〜い は〜〜〜い すぐに作りまあす。
あ それから ね ジョー? 」
「 なに? 」
「 あのね。 わたし、 フランソワーズ。 そう呼んで? 」
「 ふ ふらんそわ〜〜ず? 」
「 そ。 お願いね〜〜 さあ 卵ね〜〜 えっと ボイルド・エッグでしょ
あとは ベーコン切って〜〜 」
金髪娘は 軽い足取りでキッチンを飛び歩く。
「 ふふん いい眺めじゃないか? 」
「 ああ やっと活きている顔色になった。 」
「 だ な。 では 食事用の飲み物をつくるか。
オーダーとるぞ〜 コーヒー or ティー or ミルク? 」
わいわい どたどた〜〜 キッチンは大賑わいになった。
― そして。
いっただっきまあ〜す 全員で声を合わせた。
「 〜〜〜〜 んま〜〜〜 このパン うま〜〜 」
ジェットはパンに目玉焼きを挟み、かぶりついている。
「 んん 〜〜 ほどよい焼き具合だな。 」
「 おう ボイルド・エッグも上々だぞ。 」
「 ん♪ スクランブル・エッグ 上手だね〜〜 」
003の料理は 絶賛・大好評で 彼女はおおいに気をよくしていた が。
「 あ ・・・ ジョー ・・・? あのう ・・・
味が ちがった? 」
すみっこの席で 茶髪の青年の皿には < たまごやき > が半分以上
残っていた。
「 ・・・ あ え? そ そんなこと、ないよ〜〜 美味しいよ 」
「 でも。 ジョーの食べたい < たまごやき > と ちがってた? 」
「 あ あの ・・ これ オムレツ だよね? 」
「 そう だけど ・・・ ソイ・ソース いれたわよ 」
「 ・・・ うん 」
「 ねえ 教えて。 たまごやき ってどういう料理? 」
「 あの。 あ〜〜 もっと固いんだ。 」
「 かたい??? 」
「 そ。 これはふわふわ〜〜 だけど 卵焼き はしっかり巻き込むんだ。」
「 まきこむ ・・・? 」
「 ウン。 ぼく、自分じゃ作れないけど ― 作るの、見てたことはあるよ。 」
「 まあ お母様のお得意料理だったのかしら 」
「 ・・・ あ それとは違うんだけど ・・・
そうだ 大人なら知ってると思うんだ。 」
「 そうね。 今度 習っておくわ。 ごめんなさい、今朝はこれ、食べてくれる 」
「 ふわふわ〜〜ですごくオイシイよぉ〜〜
えへへ まよね〜ず かけるとめっちゃ美味いよ〜 」
「 トースト、とても美味しいわ。 上手ね、ジョー。 」
「 えへへ〜〜 トーストはね〜〜 朝食当番でやってたから・・・
もっとボロいオーブンで、たくさん焼いてて・・・ 」
「 ふうん ・・・ 頼もしいわね 」
― 大家族だったのかな? 彼女はチラっとそんなことを思った。
「 あ。 いっけな〜〜〜い 博士にお持ちするの、忘れたわあ〜 」
「 大丈夫だ。 モーニング・コーヒーと オレンジは
俺が運んでいる。 博士は散歩に出ていったぞ。 」
「 あら そうなの? 」
「 ― 戻ってこられたようだ。 」
ぼそり、とジェロニモ Jr.口を開いた。
カチャリ。 リビングのドアが開いた。
「 ただいま。 おお 諸君 おはよう 」
ギルモア老が 艶々血色のよい顔で現れた。
「 おはようございます、博士。 お散歩は如何? 」
「 ふふ ・・・ 海岸を少し歩いてみたよ。 なかなか好い場所だ 」
「 博士 海の中もなかなかいいですよ 」
ピュンマが 得意気な顔をしている。
「 お。 さっそく潜ったのかい 」
「 ええ 朝一番でね。 魚の数も多いし 水質もいいです。 」
「 ほう〜〜 さすがだな 」
「 なんだ、一番の早起きは ピュンマか。 」
「 グレート。 実はさ 昨夜から朝イチで潜ろうと思っていたのさ。 」
「 なるほどな。 」
「 あ ねえ ピュンマ。 今日、 カーテンを買いにゆくのよ。
ブルーがいいのよね? 」
「 うん。 ミッドナイト・ブルー がいいかな 」
「 了解〜〜 」
「 あ 後片付け やるよ〜 」
「 ありがと ジョー。 さささ っとやってしまいましょ。 」
カチャ カチャ ・・・ 大人数の < 家庭 > は大変だ・・・
― 穏やかな時間が流れる。 お日様はのんびりと中天にあがった。
リビングでは 大人組 がのんびりと新聞やら雑誌を広げている。
若者組は 食後、駅の向うのホーム・センターへ繰り出していった。
カタ −−− ン
テラスへのサッシが開いて 庭から茶髪アタマが現れた。
「 003 ・・・ じゃなくて ふ ふらんそわ〜ず?? 」
「 あ? お前と一緒じゃなかったのか? ここにはいないぞ 」
「 え〜〜 いないんだあ あ ぼく ホーム・センター から
植木市に回ったんだけど ・・・ 」
「 マドモアゼルは まだ帰っていないはずだが 」
「 そっかあ ありがと、ちょっと探してみるね〜 」
日向の匂いを残して 茶髪君は庭に戻っていった。
「 ふふふ ・・・ なんだか仔犬のようなだな。 」
「 ふふん。 茶色毛の仔犬か 」
「 左様 左様 オトモダチを探しているらしい 」
「 茶色犬 ― がんばれ。 」
「 ああ。 魅惑のカノジョのハートをゲットせよ だな。 」
「 違いない。 」
ふぁ 〜〜〜 ・・・ ここは喫煙室 か・・・?
「 ゼロゼロすり〜 じゃなくて ふらんそわ〜ず〜〜 みつけた〜 」
「 あ あら ・・・ ジョー 」
門の脇、小さな日溜りに金髪娘は 座っていた。
「 あ ここ あったかいねえ〜〜 ひなたぼっこ? 」
「 ??? ひなた・・・? 」
「 あ〜 お日様と遊んでたのかな〜〜って 」
「 ・・・ ふふ そうかもしれない わ 」
「 いいとこだね あ 隣 すわってもいい 」
「 ― どうぞ 」
「 オジャマしまあす 」
ジョーは すこし離れ枯草の上に腰を下ろした。
「 う〜〜ん ・・・ あったかいねえ〜〜 」
「 ・・・ そう ね 」
「 ここ イイとこだと思わない? ぼく 気に入ったな〜 」
「 そう? 」
「 あ きみは きらい? 」
「 ・・・ 別に。 わたし もう帰るところがないもの。
ここにいるしか ないの。 」
「 あは ぼくだってさ。 ここしかいるとこ、ない。 」
「 ジョーも? ・・・ ここはあなたの国なのに 」
「 ぼくは ― どこにも居場所がなかったんだ。 ずっと。 」
「 そう ・・・
ねえ ここは穏やかで静かだけど ― わたし ここにいてもいいの? 」
「 いい。 ここにいていいよ。 ・・ってぼくが言ってもダメかあ
なんの保証もないけどぉ。
でもさ ここは皆の家だ、って。 博士が言ってたじゃん。 」
「 そうね ・・・ そんなこと、おっしゃってたっけ・・・
そうよね、確かにここは いい土地だけど ・・・
でも 淋しいわね ・・・ 海と空 そして 荒地しかない・・・ 」
彼女の視線は 遠い。 どこか ここではない場所を探しているのかもしれない。
「 あの さ。 」
「 ・・・ 」
視線は戻ってこない。
あ ・・・ ココロがここにない のかなあ ・・・
つんつん。 彼は彼女のジャケットの裾を引っ張った。
「 ― ね これ みて 」
「 ? ・・・・タンポポ? 今朝 ジェロニモ Jr.が摘んできたわね 」
「 うん。 ぼくも もらってきたんだ 」
彼は レジ袋に根付のタンポポを数株 掘り取ってきていた。
「 ウチの庭に 植えようと思ったんだ。
ねえ ず〜〜〜っと黄色の花が玄関まで咲いてたら いいな〜って。」
「 そうね 金貨を撒いたみたいね。 春 ・・・ 」
「 ね? 他にもさ 庭に花壇とか作りたいんだ。
ねえ この後、時間 ある? 」
「 ええ 別に何の予定もないわ。 」
「 それじゃさ ・・・ よかったら買い物、付き合ってくれないかな 」
「 買い物? あら まだ足りないものがある? 」
「 それは大人に任せた。 商店街に花屋さんがあって ・・・
花の苗とかも売ってたから 行ってみたいんだ 」
「 お花屋さん? いいわね〜 わたし、お庭のある家って初めてなの。
ジョーは ・・・ 園芸とか詳しいのね。
お家でやっていたの? 」
「 ううん ― あ 自転車、もってくる。 ちょっと待ってて〜 」
彼は タンポポの袋を持って家の中に駆けこんでいった。
「 ・・・ 遅いわねえ ・・・ 」
彼女は しばらくぼんやりと 空を眺めていた。
「 キレイな 空 ・・・ 空に とけてしまいたい ・・・ 」
キ −−−− ようやっと自転車の音が聞こえてきた。
「 おまたせ〜〜〜 さあ 行こうよ。 後ろ 乗って 」
「 え いいの。 」
「 ど〜ぞ。 ぼく チカラ持ちだからね〜〜 」
「 そうね〜 009さん。 お願いシマス 」
「 えへ それじゃ しゅっぱつ〜〜〜 」
キキ −−−
急坂を 彼は上手に降りてゆく。
「 ・・・ 上手ねえ 〜〜〜 ねえ タンポポは? 」
「 ジェロニモ Jr.に頼んできたよ。 植えといてくれるって 」
「 そう、よかった。 ねえ あなたのお家にお庭があったの? 」
「 え・・・ あ ぼく 教会で花壇 つくるの、手伝ってたから・・・
へへへ やっぱお金なくてさ 信者の方からすこしづつ譲ってもらったり
道端に生えてるの、引っこ抜いてきたりしてさ〜 」
「 え ・・・ 教会? 」
「 う〜ん ぼくね、施設で育ったんだ。 教会のね 」
「 ― ご ごめんなさい 無神経なこと、言ったわ わたし 」
「 なんで謝るの? ぼく 話してなかったんだもの、当然だろ?
あ 見て! 公園の花壇〜〜 」
「 ? わあ キレイねえ〜〜 」
商店街の側には 小さな公園、というか休憩所があった。
花壇とベンチしかない狭い土地だが 年配の男性が花壇の世話をしていた。
「 こんにちは〜〜 いろんな花 キレイですね〜〜 」
ジョーは明るく声をかけた。
確かに あまり広くも無い花壇には 様々な色 様々な種類 大きさの花たちが
ごたごた・・・咲いていた。
「 うん? あ〜〜 これね〜 市民からの寄付なんですよ〜
それぞれの庭やら植木鉢から 持ち寄ってくれました。
うん これからもっと賑やかになるよ〜〜 是非 見にきて!
」
「「 は〜〜い 」」
チリリ ン −−−− 二人乗り自転車は のんびり進む。
「 ね? ウチもさ〜〜 あの花壇みたくさ〜 」
「 ええ < ウチ > の花壇も。 いろいろなお花 植えましょうよ。
安売りの苗もあるんでしょ? 」
「 うん、店に隅っこでみつけたんだ。 」
「 すごい〜 ねえ 安売りって 魅惑的よ 」
「 だよね〜〜 あはは 」
「 うふふ ・・・ あ ジョーの好きな花はなあに。 」
「 ぼく? う〜〜ん ・・・ なんでも好きだけど・・・
やっぱ サクラ かなあ 」
「 ふうん ― 決めたわ。 」
「 ?? な なにを? 」
「 うふふ〜〜〜 ナイショよ。 」
ジョーのお部屋のカーテン、 ピンク にするわ!
「 ?? あ 花屋さん そこだよ 」
「 わあ〜〜 いろんな苗がある〜〜 こんにちは〜〜 」
パサリ。
彼女は自転車の後ろから身軽に飛び降りた。
「 ステキ! いいわねえ〜〜〜 」
「 ウン。 」
うわあ ・・・ かっわいい〜〜〜 笑顔ぉ〜〜
「 なあ。 なにもないけど ― これからいろいろ・・・
増やして行こうよ 」
「 そう ね。 カーテンやら花壇やら ・・・ 」
「 うん。 あの さ ・・・ 」
「 え? 」
「 ここはきみの故郷じゃないし なんにもないけど ―
一緒に暮らせて うれしいな〜〜って思ってる ぼく! 」
「 ・・・・ 」
彼女は こっくり、頷いた。
うん。 ・・・ いいヒト ね ジョー。
「 あ そうだ!
ウチの裏山に桜の木があるんだ。 もうすぐ花見、できるよ 」
「 はなみ? 」
「 そ。 一緒に桜、見ようよ。 ね! 」
「 ええ ウチ でね。 」
「 うん!! 」
はやい春 が やってきた。 春 だよ〜〜〜〜
**************************** Fin. ****************************
Last updated : 02,26,2019.
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*************** ひと言 **************
季節と同じ 、 まだまだ < 始め > な二人・・・
そんな淡い春が 好きかも (^.^)
は〜るよ来い〜〜 の気分ですにゃ☆