『 そら へ ― (2) ― 』
「 ・・・ やっぱり ・・・ おばあちゃん には無理なの・・・? 」
フランソワーズは ぺたん、と座り込んでしまった。
誰もいないスタジオの隅っこで 彼女は膝を抱え呟いた。
レッスンで 驚かされたのは音のテンポの問題だけではなかった。
黒髪で暗い色の瞳をし、 お世辞にも腰の位置が高いとはいえない娘たちは
とんでもないテクニックを持っていた。
― いや 少なくともフランソワーズにはそう見えたのだ。
「 〜〜〜 で ラストは ( ピルエット ) アンディオールね〜 」
マダムの指定する順番を 一回マーキングをしただけで 彼女ら・彼らは
ファースト・グループから どんどん踊ってゆくのだ。
・・・ え? ええ?? ダブル ( ピルエット ) って
センセイは言った??
! あのヒト! トリプルをいれたわ ・・・!
特に指定されなくても 彼らはダブルやトリプルで まさにごうごうと回るのだ。
フランソワーズはラスト・グループで 他のダンサーたちの踊りを眺めつつ
息を呑んだ。
順番はすぐに理解できた。 しかし ― 同僚たちは 彼女が思い描いていた
踊りよりも 遥かに上級のテクニックで、ごく平然として踊るのだ。
・・・ シングル ( ピルエット ) なんて誰もいない ・・・
言われなくても バッチュ ( 打つこと ) を入れてるし・・・
「 はい ラスト・グループ 〜〜 ! 」
ぱん、と手を打ったマダムは さあ 貴女もよ、といった目顔でフランソワーズを
見つめた。
「 ・・・ ! 」
きゅ。 口をきつく結ぶと 彼女は覚悟を決めてセンターに出た。
できないモノは ― 仕方ない わ ・・・!
出来るコトを きっちりやる !
派手のぶんぶん回る女子達の中で 金髪の新人さんはとても地味に しかし
堅実に踊った。
「 ん〜〜 そうね、丁寧なのもいいわ。 でも チャレンジ精神も
忘れないでね。 」
に・・・ っとマダムは笑いかけてくれた。
「 ・・・・ 」
涙だけは 落とさない! フランソワーズは俯きつつ必死だった。
こんなにレッスンが長いなんて ― 初めての感覚だった。
時計の針は遅々として進まず、 こっそり眺めるたびに5分も経っていないのだ。
・・・ 泣かないの! レッスン できるのよ?
踊りたい って ず〜〜〜っと熱望してきたじゃない?
彼女の想いとは裏腹に ・・・ や〜〜っとクラスは終わりになってきた。
「 え〜っと グラン・フェッテ ね〜〜 6人づつ 」
〜〜〜〜♪♪ ♪♪♪ ピアニストさんがちょっと冒頭を弾いてくれて
ファースト・グループのダンサーたちはささ・・・っとセンターに出た。
このバレエ団のプリマやソリストたちだ。
「 8回目 ダブルね〜 もっと入れても結構よ お好きにどうぞ
はい お願い。 」
派手なイントロでピアノが鳴りだした。
シュッ ・・・・!
ダンサーたちは風を巻き起こしつつグラン・フェッテを始めた。
「 ・・・! 」
うっそ・・・! あのヒト、初めっからダブル・・・
え??? あっちのヒト トリプル???
「 こら〜〜〜 諦めない〜〜〜 」
たまにバランスを崩し、脚を下ろしたモノにマダムの声が飛ぶ。
「 32回 って思わないの! 16クリアしたら また 1〜って思えばいいの 」
「 ほらほら どこ見てるの?? 視点 決めて〜〜〜 」
皆が32回を回り切ったわけではないが 誰もが精一杯チャレンジしている。
・・・ 出来るコトをやるしかないわ ・・・
「 ほら 次 ラスト・グループよ やるの やらないの? 」
マダムの視線がまっすぐに飛んできた。
― やる わ!
フランソワーズはきゅっと唇を噛んでセンターに出た。
〜〜〜♪♪ ピアノの前奏はいつもあっと言う間で・・・
「 ! 」
ダブル・ピルエットで勢いをつけ 彼女はグラン・フェッテを始めた。
2 3 ・・・ えっと 8回目で ダブル ・・・ ね
一緒のグループの女性たちも ほぼ同じタイミングで回っている。
「 〜〜 つぎっ ! 」
えいっと強く床を踏んだ ・・・・ つもりだったが。
「 !? あ あああああ〜〜〜〜 」
ぐらり。 軸脚が大きくずれて失速してしまった。
「 ・・・ ・・・ 」
彼女は他のヒトの邪魔にならないよう すごすご・・・後ろに引き下がる。
「 あら? なんでやめるの? まだ 音は続いているのよ?
途中からでも やる! 」
「 ! は はい ・・・ 」
びくっと身体を震わせてしまったが また センターに進みでた。
「 ・・・ くっ ! 」
できるコトを できるだけやる ・・・ !
まだまだ音は続いていたので 後半16回を、フランソワーズは
地道に シングルだけでしっかりと踊った。
「 オッケ〜〜 」
マダムは 2〜3個人的に注意をした後で に・・・っと笑った。
「 あのね。 やめてしまうのは一瞬でできるわ。 でもその一瞬で
今まで積み上げてきたものを 失ってしまうの。 ね? 」
パチン☆ 魅惑的なウィンクが フランソワーズに飛んできた。
「 は はい ・・・ ! 」
顔をあげることができなかった。
そうよ ! フランソワーズ、あんたってほんとに・・・
俯いたまま 彼女はきつく唇を噛んだ。
「 それじゃ〜〜 今日はここまでね〜〜〜 はい お疲れ様〜〜〜 」
全員で優雅にレヴェランスをし 拍手をして朝のクラスは終わる。
「 ・・・ は ・・・ あ ・・・ 」
フランソワーズは タオルに顔を埋めたまま、 ダンサーたちが引き上げてゆくのを
ぼんやりと見送っていた。
ぽん。 そっと肩を叩かれた。
「 ・・・ はい? 」
驚いて振り返ると ― 隣のバーについていた丸顔の少女が笑っていた。
「 シャワーしよ? アタシ、 みちよ。 」
「 あ・・・ はい ・・・ あの 」
「 なあに 」
「 あのう・・・ 自習してゆけます? ここで ・・・ 」
「 あ〜 このスタジオはダメかも〜 昼からのクラスで使うから・・・
でもね 空いてるスタジオならOKのはずよ。 事務所で聞いてみれば 」
「 事務所で 」
「 そ。 あ アタシが聞こうか? 」
「 ・・・ あ 大丈夫です。 どうもありがとうございます 」
「 フランソワーズさん だっけ? 日本語上手だね〜〜 トモダチになろ? 」
「 はい よろしくお願いします ・・・ みちよさん 」
「 みちよ でいいよ。 」
「 はい ・・・わたしも フランソワーズ って呼んでください。 」
「 ふふふ ホント、キレイなヒトだね〜〜〜
あのね 初日って皆 マダムにいろいろ言われてるのさ。 気にしない気にしない 」
「 は はい ・・・ 」
「 ね〜〜 今度 お茶しよ? この近くで静かなカフェとかあるから さ 」
「 はい ・・・ 是非 ・・・ 」
「 じゃね〜〜〜 あ 事務所は入口の横だよ 」
「 はい ありがとうございます みちよさん いえ みちよ 」
「 うふ ばいば〜〜い フランソワーズ 〜 」
丸顔の少女は にこにこ・・・手を振ってスタジオを出ていった。
「 ・・・ ああ ・・・ 」
こんな風な軽いおしゃべりをしたのは ― 何年ぶりだろう・・・
いや この風景の中に居たのは ついこの間だったはず なのだ。
「 ・・・ クラスについてゆけるようにしなくちゃ ・・・ ! 」
フランソワーズは 大きなバッグを持ち上げると 重い足取りで
レッスンをしたスタジオを後にした。
自習するわ! ・・・ ぜんぜん練習が足りないもの。
「 練習 しなくちゃ ・・・ 」
知らないパも多かったし < とんでもない組み合わせ > も多かった。
「 ・・・ だって ・・・ どうしてランベルセの後に ・・・ 」
クラスでできなかった組み合わせを 今日中にちゃんとマスターしておきたい・・・
きゅ。 彼女はタオルで顔をごしごし拭うとスタジオの真ん中に出た。
「 え・・・っと ・・・ アダージオの ・・・ ううん アレグロも
ぜんぜんついて行けなかったし ・・・ あ でも やっぱりグラン・フェッテ・・ 」
カタン ・・・ ! ダブル・ピルエットから入って ・・・ 7回目までは
普通にフェッテを回り ― 次!
「 ・・・ 強く踏み込んで〜〜〜 あ ああ〜〜 」
カタ〜〜ン ・・・ やっぱりバランスを崩し軸は大きく外れてしまった。
「 ・・・ ダメだわ ・・・ なにかやり方が違うのかしら ・・・
それとも ・・・ 今の時代のヒトたちは筋肉とか骨格が違うの? 」
もう一回 もう一回 ・・・と グラン・フェッテを繰り返してみたが ―
ぐなん ・・・ とうとうポアントの先が柔くなってしまった。
「 あ・・・ ・・・ 機械の足だと強すぎるのかしら ・・・
帰りに新しいポアント 買ってかえらなきゃ ・・・ ふう ・・ 」
またまたため息が漏れてしまう。
ああ やっぱり もう踊るのは 無理なの ・・・?
「 ・・・ ・・・ 」 ぽたん。 大粒の水玉が足元に落ちた。
― そしてついに 誰もいないスタジオでぼんやり座り込んでいたのだ。
「 フランソワーズ。 泣いていたってどうしようもないでしょう?
やるって決めたのは あんた自身でしょう? 」
やめてしまうのは一瞬。 でもそれで全てを失うのよ
マダムの言葉が 耳の奥に響いている。
「 失いたくなくて ・・・ 生きてきたのに。 もう一度踊るのって
それだけの気持ちで 生きてきたのに。 意気地なし! 」
涙を零すのが嫌で 天井を見上げた。
< 将来 > は 全部ダブルで回ってるかもね〜〜
ふ・・っと遠い時代の友の声も思い出した。
「 ふ ふふ ・・・ あのね 本当に全部ダブルで回っている子がいるの。
それをね 皆は普通の目でみてるの。
わたしは 相変わらずダブルを入れられないわ ・・・ ふふふ
おばあちゃんですものねえ ・・ 」
ファンション。 がんばれぇ〜〜〜〜
「 え?? カトリーヌ? 」
一瞬 懐かしい友の声を聞いた気がして 思わず周りを見てしまった。
「 ・・・ そ んなわけ ないわよね ・・・
あれから ― どれだけ時間が いえ ・・・ 年月が経ったと思ってるの?
それに ここは東の果ての島国よ ・・・ カトリーヌがいるわけないでしょ
・・・ でも・・・ねぇ 見てて カトリーヌ! 」
顔 あげて ! 彼女はセンターに出ると もう一度グラン・フェッテを始めた。
カツン。 シュ シュ シュ ・・・
ア・ラ・セゴンドに出した脚が 小気味よく空気を切ってゆく。
シュ シュ ( つぎ! ダブル! ) ぐらり〜〜 びた〜〜んッ!
またまたバランスを崩し 勢い余って尻餅をついた。
「 ・・・ ! いった ・・・・ 」
転べば ― それも力いっぱい床に転がれば ― サイボーグだって痛いのだ。
「 いたた ・・・・ あ 床! くぼんだりしてない ・・・ わよね?? 」
オシリを擦りつつ 彼女はあわてて床を確認した。
「 ・・・ 床は 無事 ね。 よかった・・・ あ〜〜〜でも オシリ 痛い〜〜
あ〜〜〜 どうして ダブルを入れられないのかなあ ・・・
この靴 ・・・ もうダメね 」
ぐちゃぐちゃになってきたポアントを脱いで 今度はバレエ・シューズに履き替えた。
「 バレエ・シューズなら ・・・ できる かも ・・・ 」
クキ。 歩きだしたら脚が妙な音をたてた。
「 !? 痛 ・・・ ! だ 大丈夫 よ ・・・ 平気 へいき〜〜 」
脚を引きずって 鏡の前に立った。
「 バレエ・シューズなら ダブルが入るわ きっと。 勢いをつけて〜〜〜 」
ダンッ ! ダブル・ピルエットから勢いよくロン・デ・ジャンブ !
「 ・・・ 〜〜〜〜 次っ えいっ !! 」
ズル〜〜〜 ドン ・・・ ! またまた彼女はオシリから落ちた。
「 いった〜〜〜〜〜 ! 床は? ・・・ ああ 無事ね ・・・
ああ オシリ いたあ〜〜〜い ・・・ 」
これ以上やっても無駄かも、と 彼女はしおしおと引き上げた。
「 ・・・ 床さん ごめんなさい ・・・ 」
脚を引きずりつつ フランソワーズはそっと更衣室のドアをあけた。
もう 誰もいない。 次のクラスに出る人達はまだ来ていない。
引き剥がすみたいにレオタードとタイツを脱ぐと シャワーの下に飛び込んだ。
「 ・・・ 〜〜〜〜 いた ・・・ 皮膚の損傷は・・・ ないわ ・・・
ああ でも 打撲の跡が ・・・ ああ やだわ わたしったら 」
汗と涙を洗いながし大きなバッグをかかえ フランソワーズは静かにバレエ団の
玄関を出ていった。
「 ・・・ あら 今 お帰りなのね 」
事務所でコーヒーを飲んでいたマダムが 窓からちらり、と視線を送った。
「 はい? ああ 新人さん・・・えっと フランソワーズさん ですね?
ええ 自習していらしたみたいですけど 」
「 ふふふ ・・・ なかなか根性あるじゃない? 楽しみ〜〜〜 」
「 有望新人 ですか 」
「 そうね〜 ちょっと不思議な というか 古めかしい踊り方なんだけど
でも すぐに変わってゆける と思うわ。
」
「 あの容姿ですもの、 お姫サマにぴったり 」
「 さあ どうかな〜〜 ま 楽しみよ 」
マダムは 満足気にコーヒーを飲み乾した。
― カチャリ。
「 ただいま帰りました 」
フランソワーズは ギルモア邸の玄関を静かに開けた。
途中で 夕食用の買い物をしたのだが ― いつもよりず〜〜〜っと重くて・・・
ほとんど脚をひきずり 引きずり 家の前の急坂を登ったのだ。
パタパタパタ 〜〜〜
「 お帰り〜〜〜〜 連絡くれれば迎えに行ったのに〜 」
ジョーが笑顔で玄関に駆けだしてきて 荷物を持ってくれた。
「 ただいまかえりました ・・・ あ メルシ、ジョー。 でも一人で大丈夫。
このまえ ジョーがしっかり教えてくれたから・・・ 」
「 そう? でも荷物、重かっただろ? ねえ リストとか書いてくれたら
買い物はぼく、ゆくよ? 」
「 あ ありがとう ・・・ ごめんなさいね 迷惑かけて 」
「 また そんなコト言う〜〜〜 ね レッスン どうだった? 」
「 え ええ ・・ あは 難しかったわ 」
「 ふうん ・・・ あ れ? 」
「 なあに。 」
「 ? どうか した? 」
ジョーが妙な顔でこちらをみている。
「 え? な なぜ ? 」
「 なんか ・・・ 歩き方、ヘンだよ?
」
「 あ あら そう? う〜ん ちょっとね〜〜 レッスン 厳しくて・・・
脚が疲れたかも 」
「 疲れた? なあ どこか傷めたんじゃないかい 」
ジョーは 真顔である。
「 ・・・ 実は ちょっと ・・・ 脚 ・・・・ 」
「 博士に診てもらおう。 今 呼んでくる 」
「 あ ・・・あとでいいわ。 そんなに痛くないもの 」
「 そんなに痛くないヒトが どうして脚を引きずっているのかい?
・・・ 戦闘の時だってそんな風じゃないよ きみは 」
「 ・・・ ごめんなさい ・・・ 」
「 ほら そこに座ってて! 博士〜〜〜〜〜 」
ジョーは 彼女をソファに座らせると ギルモア博士を呼びに飛び出していった。
「 あ〜〜 打撲と 脚部の筋肉を通常とは違う方向に使ったんだな 」
博士は リビングでさ・・・っと診察してくれた。
「 打撲?? どうして?? 」
ジョーが 声を上げた。
「 殴られた?? まさか ・・・ ね 」
「 ええ 違うわ。 うふ ・・・ 失敗してね 何回も転んじゃったの・・
あ 床は大丈夫よ、ちゃんと確かめてきたから ・・・ 」
「 そんなこと! きみの身体の方が大切じゃないか〜〜〜
そんな ・・・ ひどく転んだのかい 」
「 うむ。 単純な転倒とは違うようじゃな 」
博士も眉を顰めている。
「 え ええ ・・・ 勢い余って吹っ飛んだ って感じで 」
「 吹っ飛ぶ??? ば 爆発でもないのに ?? 突き飛ばされたとか??」
ジョーの表情がますます険しくなる。
「 え 違うの 違うの〜〜 わたし自身の勢いで ・・・ 」
「 ??? わかんないよ?? そんなこと 有り得る?? 」
「 ふむ ・・・ 実際どうやって転んだのかね? 」
「 ― あの 軸脚が ロン・デ・ジャンブの勢いに ・・・ ああ わかりませんよね。
つまり こうやって ・・・ 」
彼女は リビングの真ん中に出ると 素足のままグラン・フェッテを4〜5回
回ってみせた。
「 ・・・ う わ・・・すげ〜〜〜 どうやって回ってるんだ?? 」
「 〜〜〜〜〜。 で この後 ダブル ・・・ つまり 一拍に二回、 回ろうと
して ・・・ 失敗して ・・・吹っ飛んじゃって ・・・ 」
「 ・・・ す っご ・・・ バレエってアクロバットみたい だね〜〜 」
「 アクロバットなんて ・・・ そんなんじゃ ・・・ 」
「 ふむ〜〜 力学的に考えて ― うむ、実に理に適った動きじゃな 」
博士はじっと眺めていたが うんうん ・・・と頷いた。
「 はい それで ・・・ 他のヒト達は ― 今のヒト達は ・・・
平気でダブルを入れて回るんですけど ・・・ わたしは できなくて 」
「 ・・・ フラン ・・・ 」
「 ダブル? ふむ ・・・ それは ・・・ 」
博士は 置いてあった雑誌の裏に さささ〜〜っと幾つかの数式を書いた。
「 うむ ・・・ うむ・・・ そうさな〜〜 垂直にかかる力と
回転する力 そして 」
理路整然とした解説だが 二人にはよくわからなかった。
「 ゆえに、垂直のベクトルを二倍にする必要はない。 」
「 ・・・ えっと・・・ ? 」
「 あは ぼく、 数式はよくわからないけど ― いっぺんに二回まわるために
チカラは二倍必要なのかなあ ・・・? 」
「 え・・・? 」
「 なんか ね こう〜 タイミングとか反動を使っているんじゃないかな
ぼく バレエのことは全然知らないけど 」
「 ・・・ ! そう かもしれない わ ・・・! 」
「 ちがってたらごめん! でも チカラ入れればそれだけ速くなる ってのは
違うんじゃないかなあ 」
「 ジョー ・・・! ありがとう! ちょっと練習してくるわ! 」
フランソワーズはソファから飛び降りた。
「 お〜〜っと 今晩はだめじゃ。 安静にしておいで。
すぐに特製の消炎湿布薬を貼って 休みなさい。 無理しないことじゃ 」
「 ・・・ ちょっとだけ・・・だめですか? 」
「 だ〜め。 晩ご飯、なにつくればいい? ぼく 作るから
」
「 え〜〜 ご飯くらい作れるわ 」
「 あ じゃあさ、 キッチンのスツールに座って ― 現場監督してくれよ 」
「 げんばかんとく? ・・・ うふふ ・・・ 面白いこというのね 」
「 え そう? 」
「 いいわ いいわ 現場監督 しましょ。 」
「 監督〜〜〜 ヨロシク! 」
「 がんばりたまえ。 」
「 はいっ 」
やれ 笑顔になったか ・・・ よかったのう ・・・
笑いつつキッチンいゆく二人を 博士は安堵の吐息で眺めていた。
カチャ カチャ ザ〜〜〜〜
賑やかな晩御飯の後、 一緒に洗いモノをした。
「 レッスン ・・・ 大変そうだね 」
「 ウン・・・ でも 楽しいわ 」
「 それならよかった。 バレエ団の近くにね、有名な銀杏並木があるんだ。
時間あるときにさ 見にゆこうよ 」
「 まあ ほんとう? 嬉しい〜〜〜 ありがとう ジョー !
」
「 えへ・・・ ぼくも見たことないんだけど 黄色の絨毯みたいだって 」
「 へえ ・・・すごいのねえ 」
「 一回、 行ってみたいなあ〜って思ってたんだ。 」
「 ジョーは 秋がすきなの? 」
「 う〜ん ・・・? っていうより ・・・
あの さ。 『 最後の一葉 』 っていう話、知ってる? 」
「 ええ ・・・アルベルトから借りたアメリカ短編集で読んだわ 」
「 あれってさ ・・・ なんかいいよなあ 」
「 え ・・・ ジョー 好き? 」
「 あ〜いう なんか 切ないハナシ、好きなんだ 」
「 ふうん ・・・ 」
「 フランは ? 」
「 わたし? う〜〜ん ・・・ そうねえ ・・・ 秋は綺麗で好きだけど 」
「 ふふ ・・・ きみは葉ッぱが飛んだら死んじゃう ・・・ なんて考えない か
」
「 そうかも ・・・ 好きなのは やっぱり春かな〜 」
「 きみらしいね 」
「 そう? 全てが萌出る春が 好きなの。 わたしは 春 ! 」
「 ふふふ ・・ 」
「 あのね わたし ね。 踊っていると空も飛べる気持ちになるの。
空へ ・・・ 兄や 皆のいる 空へ ・・・
そらへ ゆきたくて ― また踊りたいって 思ったの ・・・
そらへ行けば ・・・ 一人じゃないから ・・・ 」
碧い瞳が 遠くを見つめる。
「 ぼく達が あ あの ぼくが いるよ。 ・・・ 地上もいいもんだよ? 」
に ・・・。 茶色の瞳が 温かく笑いかける。
きゅ ・・・ ん ! 思いがけなく胸が鳴った。
「 うふふ ・・・ そうね。地上も いいわよね。
皆が − ジョーがいるもの。 」
「 えへ・・・ありがと♪ 」
「 ねえ 空はすてき。 空へ ゆきたいわ ― いつかは ね 」
「 ・・・ ウン 一緒に行きたいなぁ 」
ぽふ。 大きな手が そう〜〜っと肩に回ってきた。
あったかい な ・・・
いいヒトね ジョー
うふ 明日も 踊る 踊るの !
地上 ( ここ ) も いいわ
フランソワーズは はにかんだ茶髪の横顔を眺めこっそり呟いた。
********************************* Fin.
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Last updated : 11,07,2017. back / index
******************** ひと言 *****************
博士の数式云々〜 は 例によってウソ八百万〜〜〜 デス★
グラン・フェッテって ま〜〜 タイミングと気力と本能 かも???
失敗すると吹っ飛ぶこともあるのよ、 ホント!