『 空へ ― (1) ― 』
トン ・・・ トントン カンッ シュ・・・ッ !
朝のレッスンが終わった後、 稽古場にはまだ数人のダンサーたちが残っている。
「 〜〜〜〜〜 ・・・! あ〜〜 ダメだあ 」
はじっこで グラン ・ フェッテ を繰り返していた女の子が がくん、と
脚を下ろした。 赤毛の前髪を ふぁ・・・っ とかきあげる。
「 やっぱ 無理だよぉ〜〜〜 」
「 え そう? 」
「 無理だって。 ダブルをいれるってさ〜〜〜 つまり軸、しっかり踏まないと
だめじゃん? でもそ〜すると失速しちゃう〜〜 」
「 う〜〜〜ん ・・・ もっと軽く踏んだら? 」
「 え〜〜 じゃあ ファンション やってみなよ〜〜 」
「 ・・・ できる かしら 」
「 やってみなよ 一回とかダブルを偶然入れるんじゃなくてさ
八回目 十六回目 とか ダブルいれる時を決めて ・・・ 」
「 そ〜〜れは 無理かも〜 ・・・・ よっ・・っと 」
今度は金髪の女子がセンターに出ると ダブル・ピルエットから勢いつけて
グラン フェッテ を始めた。
「 〜〜ん〜〜 6 7 8 で あ やた! 」
「 〜〜〜 あ あ〜〜〜ん うわぁ ・・・ ! 」
金髪の方は 16回目 で軸足をずらしふっとんでしまった。
「 あ 〜 やっぱ ・・・ 無理〜〜〜 軸足が持たないわあ 」
「 ね? やっぱ これは無理だよぉ〜 できっこない 」
「 今は 無理かもね ・・・ 」
「 今? 」
「 ええ ・・・ もっと未来になったら ポアントも強くなってるかも
そしたら できるかもね 」
「 う〜〜 ソール ( 底 ) とか もっとしなやかになるかなあ〜
なんか新しい素材 ・・・ ビニールとか 」
「 ビニールはむりじゃない? 柔らかすぎるわ。 」
「 う〜〜ん アタシたちの孫の世代とか は 全部ダブルとかで回るかもね 」
「 そうねえ ・・・ そんな日、くるかもねえ 」
「 あは その頃はもう踊ってないヨ 」
「 おば〜ちゃん先生 かも? 」
「 だよね〜〜 」
赤毛 と 金髪 は ちょっとフクザツな笑いを交わした。
― あれは ほんのつい昨日 ・・・ だった気がしないでもない。
その日 夕食のテーブルで兄はいつものごとく盛大に夕刊を広げていた。
「 それでね〜〜〜 カトリーヌと散々練習したんだけど ・・・
やっぱ ダブルをいれるとバランスがくずれるのよ 」
「 ふ〜〜ん ・・・ 」
「 で ね〜〜 全部ダブル なんてと〜〜っても無理よね〜〜って。
スーパー ポアント でも開発されなきゃ 無理よ〜〜 」
「 ふ〜〜ん ・・・ 」
「 でもね〜 ・・・ 聞いてる お兄ちゃん? 」
「 ふ〜〜ん ・・・ あ なんだ? 」
ガサ。 やっと新聞の壁 が すこし開かれた。
「 だから! わたしのハナシ、 きいてる???
」
「 あ ・・・ え〜〜〜 ダブル がどうのってとこか? 」
「 そ。 グラン ・ フェッテにね どうやってダブルを入れるかって 」
「 ぐらん ・・・ なんだって? 」
「 グラン ・ フェッテ。 ドンキ や 黒鳥 のコーダで踊るでしょ。
32回の 」
「 あ〜〜〜 あのぐるぐるぐる回り かあ 」
「 ぐるぐる回り じゃないわよ。 グラン ・ フェッテ!
それにね〜 フェッテは 回る、というより タイミングの勝負 なのね 」
「 へ〜〜〜 あれ、目 回らんのか 」
「 回らない。 ちゃんと首、つけてるから。
それにね〜〜 首 つけなかったら フェッテはむり
」
「 ふ〜〜〜ん ・・・ それがなんで ダブル で 無理 なんだ? 」
「 だから ― もういいわ。 やったことのないヒトに説明するのは 無駄。 」
「 なんだよ〜〜 せっかく妹のハナシに優しく耳を傾けてやってるんだぜ?
この優しい兄はよ〜〜 」
「 ・・・だから もういいの。 」
「 なんのハナシしてたんだ 」
「 グラン・フェッテの ・・・ う〜〜ん つまりね
将来はいろいろ ・・・ 変わって進化しているだろうな〜〜ってこと。 」
「 将来 かあ 」
「 そう。 そうよ 飛行機だって全部 自動操縦になるかもね〜〜 」
「 な なに? 」
「 だから〜〜 飛行機とかも全部機械で 」
「 ひ 飛行機は ニンゲンが操縦するから いいのだっ 」
「 でもね 科学の発展と技術の 」
「 い〜や! どんなに科学技術が発達しても、 だな。
飛行機は ニンゲンの手で操縦するものなのだ。 そうでなければ
飛行機ではない っ ! 」
どん。 テーブルに鉄拳が落ちた。
「 ・・・ やめてよ。 オ・レ が零れるわ。
このテーブルだって年季モノなのよ? 壊れたら困るの。 」
「 だから 飛行機はっ 」
「 はいはい わかりました。 それよか明日からまた泊まり勤務なんでしょ?
準備はいいの。 あ 新しいパンツ、買っておいたから 」
「 ― 準備なんぞもうとっくに完了だ。 あ〜〜 新しい下着 メルシ。」
「 あ〜〜〜 あ ・・・ しばらく独り暮らしだわぁ〜〜〜 」
「 ! おい? 一人だからってハメ外すなよ?
どっかのウマの骨を拾ってきたりしたら お前 〜〜〜 」
「 ま お下品。 わたくし、そんな品のないこと、いたしませんわ。
ちゃんと 彼が 」
「 な なんだと?? 」
「 いえ こっちのこと。 さあさあ 明日の準備 したら? 」
「 準備は完了だ、と言っただろうが。 それより お前 付き合ってるヤツが
いるのか?? ― ちゃんと紹介しろ 」
「 はいはい ともかく明日からの仕事、がんばって。 」
「 お前に言われなくても 」
「 はいはい 明日の朝、寝坊しないでよ? 」
「 するか! だれかさんじゃあるまいし。
おい? 俺のいない間 遅刻するんじゃないぞ? お前 いっつもぎりぎりに
飛び出してゆくじゃないか 」
「 ― ちゃんと間に合ってます。 」
「 間に合えばいいってもんじゃない。 五分前だ! 五分前にはすべてを
完了させて 悠然と目的地に居るものだ。 」
「 お兄さんはそうすれば? さあさあ もう片づけるから ・・・
あ ちゃんと煙草の始末はしてね。 」
「 わかってる。 お前な〜〜 」
「 はいはい わかりました。 では また明日。 」
「 ・・・・ 」
兄は新聞を畳むと 憮然として自室に引き上げた。
彼らにとって ごく当たり前の 普通な夜だった。
― そして。
時間 ( とき ) は ― 流れた。
考えてもみなかった方向に 残酷に
・・・ 時は過ぎ去った。
崖っぷちに建つギルモア邸、 辺鄙な場所にあるが屋敷も庭も広々としている。
「 へえ・・・ いいなあ〜〜 テラスも広いね〜 」
ジョーはう〜〜〜んと大きく伸びをしてあちこちを見回す。
「 あら ほんとう。 お庭も広いわね〜〜 花壇とか作りたいわ。」
「 あ いいねえ。 ぼく 庭いじりって憧れてたんだ〜 」
「 わたしも! ずっとアパルトマン暮らしだったから・・・
自分の家の庭があったらなあ〜〜〜って思ってたの。
花壇つくって 球根植えたり種まいたり・・・ あ そうだわ!
実の生る木とかも植えたいの 」
「 あ いいね〜〜 柿とかミカンとか植えようよ 」
「 そうね。 楽しそう〜〜〜
」
「 まずは土壌作りかな ・・・ その前にちょっと大工仕事しなくちゃ 」
「 ?? なにか作るの? 」
「 ウン。 このテラスにさ ベンチというか・・・夏 涼んだりする長椅子が
あったらいいなあ〜〜って ・・・ 木で作るんだ。 」
「 あ それいいわね〜〜 ジョー ・・・ 作れるの? 」
「 あ〜〜〜 なんかギワクの目つき〜〜 」
「 え そ そんなコトな ・・・ くもないけど ・・・ 」
「 ぼく 結構得意なんだぜ? 技術家庭の成績 よかったんだ〜 」
「 ぎじゅつ?? 」
「 ウン。 本箱つくったり イスつくったりしたなあ
地下のロフトに廃材とかあったろ? あれで作ってみる 」
「 ステキ! 楽しみにしているわね。 」
「 えへ ・・・ ま 乞・ご期待〜〜 」
「 ハイ、期待してます。 」
ふうん ・・・ 普通に笑うこともあるんだ?
うわ〜〜 すっごく可愛いなあ ・・・
ジョーは しばし彼女に見とれていた。
「 あ ・・・ あの〜〜 ね ・・・ ジョー? 」
「 ? なに? 」
「 ええ あの。えっと ・・・ あの ジョー? ちょっと聞いてもいいかしら。 」
急に彼女はかなり遠慮がちになった
「 ? なに どうしたの? あ 買い物? 」
「 ううん ・・・ あの ちょっと道順を教えてください。 」
「 道順? ― あ どこか旅行でもするの? 」
「 ちがうの。 あの ・・・ トウキョウに行きたいの。 」
「 東京? な〜んだあ〜 駅まで行ってさ、電車に乗るだけ だよ?
東京行き なら終点だし。 」
「 あ ・・・ あのぅ〜〜 トウキョウ駅 じゃなくて ね
そのう ・・・ ちがう駅なの 」
「 ??? 」
「 うん いいわ スマホで検索してみるから。 ごめんなさいね ジョー 」
「 ちょい待ち。 ちゃんと言って? ぼく じもと民なんだよ?
交通機関のことくらい ちゃんと説明できるよ 」
「 あ いい? そのう ・・・ この駅に行きたいの。 」
フランソワーズは 持っていた封筒からごそごそ・・・チラシを引っぱりだした。
「 ・・・ ここ? ・・・ ああ 東京メトロだね〜 地下鉄だよ。
JRで新橋とかまでゆけば乗り継げるよ 」
「 し しんばし? そこで メトロに乗るのね? 」
彼女は慌ててチラシに書き留めている。
「 うん え〜〜と? G線だな〜 オレンジ色のラインが入った地下鉄だよ。 」
「 オレンジ色、ね。 わかったわ ありがとう〜〜 ジョー! 」
「 どういたしまして。 ショッピングとか行くの? 」
「 え?? ううん ・・・ ここ ・・・ お店があるの? 」
「 ぼくは行ったことないけど 人気のオシャレストリートらしいよ 」
「 まあ そうなの ・・・ わたしは ショッピングはしないけど
」
「 あ ミュージアムでもあるの? 」
「 ・・・ ううん ・・・ あの ね ・・・ 実は 」
さんざんモジモジした後で 彼女は別のチラシを取りだした。
「 これに ・・・ 参加してみようと思って 」
「 ? なに? ― わぁ〜〜〜〜お ! オーディションがあるんだ?
ぼく、バレエとか詳しくないけど ・・・これに受かれば舞台で踊れるってこと
だよね? 」
「 え ええ パスすれば ね。 」
「 すげ〜〜〜 頑張ってきなよ〜〜〜 あの イヤじゃなかったら
当日 送ってゆくよ? 」
「 え ・・・ そんな ・・・ 迷惑でしょ? 」
「 なんで?? だって大事な日じゃないかぁ 道順とか迷ったら
焦っちゃうよ? きみはオーディションのことだけ 考えていればいいよ。 」
「 ・・・ あの ・・ お願いできる? 」
「 もっちろ〜〜〜ん☆ 何時までにゆけばいいのかな? 」
「 えっとね ・・ 」
「 ふうん あ ちょい待ち! 」
ワカモノたちはスマホ検索をしつつ 時間の打合せをした。
「 オーディションかあ〜 いいな いいな〜〜 すご〜〜いよ〜 」
「 受けるだけなら誰でもオッケー よ。 受かるどうか が問題。
わたしは その ・・・ ずっとレッスンしてなかったし 」
「 最近 地下のロフトで練習してたよね 」
「 知ってたの?? 」
「 ウン ・・・ ごめん、音楽が流れてきたので なにかな〜〜〜って思って
地下に降りてみたんだ ・・・ そしたら 」
「 うるさかったでしょう ごめんなさい 」
「 ぜ〜〜〜んぜん☆ 博士もね 好きなだけ踊らせてやりなさい って 」
「 まあ ・・・ 」
「 毎晩 レッスンしてただろ 頑張れよぉ 」
「 ・・・ ありがとう ジョー! ダメ元だけど勇気だして頑張るわ。 」
「 応援してマス ! 当日の送迎は任せてくれ。
ばっちり時間通りに 案内するよ。
」
もう一回みせて〜 と 彼はオーディションのお知らせチラシの地図の部分を
しげしげとみている。
「 〜〜〜 んっと ・・・ あ〜〜 あの通りか ・・・
二本 裏に入るんだな 〜 これなら ・・・ A駅から方が近いかな 」
彼は自分のスマホを ちゃ ちゃ ・・・っと操作する。
「 やっぱりね うん 判りにくいからかな〜〜
安心して! ぼくに任せてね 」
「 あ ありがとう ・・・ 」
「 きみは頑張って パス する! いい? 」
「 はい。 」
あ いいなあ・・・ この笑顔。
ジョーは彼女の笑顔をこれもまたにこにこ顔で眺めるのだった。
その夜のこと・・・
コトン。 汗の染みたポアントを ベッドの脇に置いた。
「 ふ う ・・・・・ ! 」
結いあげていた髪のゴムを 彼女は毟りとった。
「 ・・・ 上手くゆくかどうか なんてわからない けど。
これが今 わたしができる精一杯のことね ・・・ ふう ・・・ 」
夜 地下のロフトで練習をし ― 最後のお風呂でしっかり脚をマッサージした。
「 とにかく ― 挑戦 ね。 ね ・・・? 」
この国で買ったこの時代のポアントにも 少しは慣れたつもりだ。
お兄ちゃん ・・・ わたし、 また踊るわ !
< 将来 > で 踊るの !
そうよ 空へ むかって踊るわ ・・・
お兄ちゃん ・・・
ジョーって ちょっといいなって思わない ?
・・・ うふ? 怒らないでよ 〜〜
夜の空気の向こう、空の彼方へ 彼女は心を込めて話かけるのだった。
オーディションは 昼すぎに終わったようだった。
バレエ団の前の道で ジョーはちゃんと待っててくれた。
はらり はら はら ・・・ 街路樹からの落ち葉に彼は足を埋めて楽しんでいた。
「 都会の落ち葉もキレイだなあ〜 あ? 終わったのかな〜 」
かさかさ かさり。 落ち葉を踏み分け彼女が駆けてきた。
「 ・・・ ジョー ・・・ ありがとう 」
わあ ・・・ 彼女って こんなにキレイだっけ??
彼は頬を上気させ小走りにやってきた彼女を まじまじと見つめてしまった。
もともと美人なのは十分知っていたけれど ― こんなに生き生きとした顔は
初めて見た と思った。
「 あ おつかれさま〜〜〜 荷物 もつよ〜〜 」
「 うふ ありがと、でも大丈夫よ。 」
「 でも 疲れただろ? ・・・ いい顔 してる 」
「 まあ そう? あ あの ね 報告します 」
「 うん? 」
「 あのね。 本日のオーディション、 落ちました。 見事に ・・・ってか
もうね アンシェヌマン、ぜ〜んぜん付いてゆけませんでした。 」
「 あん・・・? なに? 」
「 あ あのね、短い振付けのこと。 順番を指定されて すぐ踊るの。
ピアノに合わせてね 」
「 ひぇ〜〜〜〜 すっげ〜〜〜 即興? 」
「 う〜〜ん? ちょっと違うかな〜 自分の好き勝手に踊っちゃだめなの。
言われた通りの順番で 音に乗って踊るのよ。 」
「 へ ・・・ え ・・・ ! バレエ ってすごいなあ〜〜 」
「 そう? 普段のレッスンでも似たようなことをしてるのよ
あ でもね ・・・ あ〜〜〜 やっぱわたしは < とんだおばあちゃん >。
今のバレエには全然ついてゆけなかったの。 」
「 フランソワーズ。 もういいよ、そんな風に言うな 」
ジョーは 自分自身のことよりずっと彼女の < 跳び越えてしまった時間 > に
ついて辛い気持ちを持っていた。
だって! 時間に置いてゆかれたってことだろ?
置き去り、 おいてきぼり だよ・・?
そ そんな残酷なことって あるかい !
彼自身も < おいてゆかれた子供 > だったから 余計にナーバスだったのかも
しれない。
「 あら 本当のコトだもの。 現実はしっかり認めないと ね 」
「 ― きみは ・・・ 強いなあ ・・・ 」
「 ふ ・・・ そう思わないと生きてこれなかったもの ・・・ 」
「 ・・・・ ! 」
ジョーのココロはますます痛む。
「 そんな顔、しないで。 」
「 ・・・ ごめん。 ねえ どこかでアイスでも食べてこうよ? 」
「 え?? アイス? ・・・ ちょっと寒くない? 」
「 あ そ そうだねえ・・・ じゃ お茶とか 」
「 ありがと、 でも もうちょっと聞いて? 」
「 え ・・・ うん ・・・ 」
「 あのね、今回のオーディションは落ちました。 でもね
バレエ団のレッスンにおいでって。 練習生になってみない? って
言ってもらえたの! 」
「 え〜〜〜と? 」
「 あは 判らないわよねえ 」
彼女は朗かに笑う。
「 ごめんなさい。 あのね、 バレエ団のレッスンに通って舞台を目指しなさいって こと。
ここでレッスンが受けられるの ! 」
「 へ え〜〜〜〜 すごいじゃないかあ〜〜〜 」
「 もうね 夢みたい! またレッスンができるのよ〜〜 」
「 踊れるんだね? よかったねえ〜〜 」
「 うん もう夢みたい〜〜 あ 博士に許可を頂かないと 」
「 だ〜いじょうぶ。 フランソワーズが存分に踊れるように・・・って
ロフトの改造するぞ〜って言ってるもの。 」
「 え 博士が?? 」
「 ウン。 毎日レッスン できるね〜〜 」
「 ええ ええ 夢みたい ・・・ 空 が飛べるかも ・・・ 」
「 え? 」
「 うふ なんでもな〜〜い〜〜〜 ああ 嬉しいわあ〜〜〜 」
「 ふふふ ・・・ 」
「 あら なあに。 」
「 え ・・・ きみがこんなに楽しそうなのって初めてみたもん。
いいよね〜〜〜 いいよな〜〜〜 ぼくも嬉しいんだ。 」
「 ジョー ― アナタって とってもイイヒトねえ 」
ちゅ。
ピンク色に染まった頬のまま 彼女は彼の頬にキスを落とした。
う わ〜〜〜〜〜〜 お 〜〜〜〜〜〜〜〜 !
< イイヒト > な ジョーは もう舞い上がってしまい ・・・
せっかくお茶に誘ったのもすっかり忘れ ― 彼女をがっちりガードし
帰宅の途についたのだった。
カツン。
汗ばんだ顔のまま フランソワーズは誰もいないスタジオに入った。
朝のレッスンの後、 彼女は事務所のヒトに尋ねた。
「 え? ああ 自習なら 空いてるスタジオを自由にどうぞ?
あ でも 音響機器は使えないけど ・・ 」
「 ハイ ありがとうございます。 」
新入りの金髪嬢は 丁寧にお辞儀をしていった。
「 まあ ニホンジンみたいな子ねえ 」
「 美人さんね〜 さすがに 」
事務所でさっそく話題になっていた。
ふう 〜〜〜〜 はあ ・・・
ぺたん。 大きなバッグを置くと彼女は床に座り込んでしまった。
「 ・・・ ・・・ 」
ため息しかでない。 全身 汗でぐしゃぐしゃだけど 拭う気にもならなかった。
「 ・・・ やっぱ ・・・ とんだおばあちゃん ・・・ かも ・・・ 」
そんな言葉が漏れ出てしまった。
期待と不安でレッスンに参加した。 壁側のバーに緊張してついた。
踊れるの! また レッスンができるのよ !
わくわくしてどきどきして ― もう最高! と思ったのは ・・・ 始めだけ。
バーレッスンは なんとか必死で付いていった。
だけど。
う ・・・そ? なんでそんなに高くキープできるの??
黒髪のダンサー達は 信じられないほど強い脚を持っていた。
そして ― センター・ワーク に移ってからは ・・・
「 音! フランソワーズ! 音 よく聞いて! 」
「 ちゃんと音 とるのよ ちゃんと数えて〜〜 」
「 踏んで! きちんと踏まないから 次がぐらぐらするのっ 」
このバレエ団の主宰者であり芸術監督の初老のマダムのお小言は 雨霰・・と
彼女に降り注いだ。
フランソワーズは 踊りのテンポについてゆけなかったのだ。
・・・ 身体 重い・・・? どうして??
回れない 跳べない 蹴れない ・・・ !
音 速いんだもの〜〜 今の音 なの??
ムカシのヒト だから 無理なの ・・・?
レッスンに通う、と決めたとき 絶対に泣かない、と自分自身に約束したつもりだった。
でも ― でも ・・・
クラス中には なんとか堪えていた涙が じわ〜〜〜っと盛り上がってきた。
ああ もう行けないわ 空へ ・・・
ぱた ぱたぱた ぱた・・・! 大粒の水玉模様が彼女の足元に増えていった。
Last updated : 10,31,2017.
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*********** 途中ですが
えっと コテコテなバレエもの です すいません★
なんのこっちゃ?? な 言葉とか多いかも ・・・
一応 解説してるつもり ・・・デス <m(__)m>
フランちゃんは どうしても どうしても!
ちゃんとプロフェッショナルなダンサーでいてほしいのです☆
あ 今は 32回 全部ダブルで回る人、結構いますです。