『 この空の下 』

 

 

act.1

 

「 こっちの方が暖かいわ。 ほら・・・ 」

最後に仲間に加わった少年に フランソワ−ズは笑って声をかけた。

その少年はぼんやりと輸送機のタラップの側に佇んでいた。

同じ赤い服を纏う仲間たちは とっくに思い思いにその野原に散らばり、手足を伸ばし

しばしの休息を 満喫している。

「 ・・・え ・・・あの ? 」

彼は声の主をさがして きょろきょろとあたりをみまわした。

ちょっとクセのある髪が 午後の陽を受けて艶やかに揺れる。

すぐに彼はフランソワ−ズをみつけライト・ブラウンの眼がなんの屈託もなく 微笑かけてきた。

「 あ・・・ うん、 ありがとう。 」

黒いブ−ツが 音もなく草地を踏み分けこちらにやってくる。

「 ね? ちょうどあの岩の陰になるのかしら、風が吹き付けないでしょう? 」

「 ・・・ うん。 」

フランソワ−ズのすぐ脇に すとん・・・と腰を落とすと彼はぎこちなくマフラ−をひっぱった。

「 ふふふ・・・ じゃまっけよねぇ。 なんでこんなに長いのかしら。 」

「 ・・・ うん。 」

「 そのうち慣れるわよ。 ・・・ああ。 いい気持ち・・・ ! 」

フランソワ−ズは 大きく伸びをすると手脚を思い切り伸ばした。

「 ・・・ふう・・・。 空気まで美味しいわ・・・ 自由の空気 ・・・ 」

「 自由? きみ達は その・・・アソコで自由はなかったの? 」

「 ・・・ え ・・・? 」

フランソワ−ズは驚いて少年を見つめたが 彼はまったく悪びれない表情でこちらを見ている。

「 ああ、あなたは何も知らないのよね。 奴等に捕まったのはいつ? 」

「 昨日・・・みたいに感じるだけど。 さっきあのなんとか博士がぼくの改造には1週間かかったって・・・」

「 ギルモア博士、よ。 そう・・・。 あなたにはまだヒトであった時の温もりが残っているのね。 」

「 ・・・え・・・。 ヒトであったって・・・? きみ達、みんなはいつからアソコに居たの? 」

「 ・・・・ さあね。 ああ、もう全部忘れたいわ! イヤな記憶はここに捨ててゆくの。 」

「 ・・・・・・・ 」

「 ・・・草の匂いがするわね。 柔らかくて温かくて・・・ホンモノの生命はやっぱり素晴らしいわ。 

 花が見たいな。 もうずっと見てないもの。 雑草の花でもいいから・・・ 」

「 ・・・そうなんだ・・・ 」

「 ま、こうやって息をして草地に座っていられるんですものね、ツクリモノの命でも感謝すべきかしら・・・ 」

「 ツクリモノの命・・・? 」

「 あは、もう〜。 なんて顔してるのよ。 ・・・そのうち、判るわ。 イヤでもね。

「 ・・・うん 」

「 ああ・・・ほんとうに いい気持ち・・・ 」

「 空がきれいだね。 真っ青だ・・・ 」

ともに見上げる空は 遮るものもなく青天井さながらぐるりと彼らを取り巻いている。

 

並んで腰を下ろす二人の間に すこし冷たい風が海から吹きこんできた。

「 風向きが変わったわ。 そろそろ出発の時間ね。 」

「 ・・・ どこ へ? 」

「 え? 」

 

フランソワ−ズが少年を振り仰いだとき、耳朶の奥で004の声が響いた。

《 時間だ。 》

さあ、と声をかけ立ち上がろうとしたとき、少年が彼女の髪につ・・・っと手を伸ばした。

「 ・・なに?!」

「 あ・・・ごめん・・・。 あの・・・ほら、これ。葉っぱがくっついていたから。 きみの髪に・・・ 」

びくり、と振り向いたフランソワ−ズに少年のほうが驚いたようで 

おずおずと手にした葉を差し出した。

「 あ、ああ。 ありがとう。 ・・・ええと、なんて名前? 」

「 え・・・。 あの、えっと ・・・ゼ、ゼロゼロナイン・・・・ 」

「 ぷ・・・ やだわ、違うの。 あなたの本当の名前よ。 」

「 ・・・ ジョ−。 しまむら じょー 」

「 え?え? ・・・難しいのね。 あなた、日本人って聞いたけど? 」

「 ・・・うん。 」

「 へえ? わたしは フランソワ−ズ・アルヌ−ル。 さ、行くわよ。 」

「 フラン・・・? 」

口の中でなにかもごもごと繰り返している少年を置いて フランソワ−ズはぱっと

輸送機の着陸地点へと駆け出した。

 

 ー ふふふ・・・ ヘンなコ。 

 

海風が髪をくるくると弄ってゆく。

跳ね上がる髪を押さえつつ、フランソワ−ズはくすくすと笑っている自分に気がついた。

・・・まだ こんなふうに 笑えるのね ・・・わたし。

 

コクピットに入ると 他のメンバ−は皆持ち場についていた。

あの少年をのぞいて。

「 メイン・ハッチをロックするぞ。 」

「 ・・・あ、待って。 009がまだよ。 」

「 ちっ! ちょっくらオレが連れてくらァ 」

せっかちなアメリカンがコクピットのドアに手をかけた時、息せききって茶髪の少年が飛びこんできた。

「 ! おわっ! よう、やっとご帰還か。 」

「 ・・・すみ・・・ません ・・・ 」

「 なにぐずぐずしてる。 置いていっちまうぞ? 」

004の声がびん・・・と響き、それを合図に機体はゆっくりと上昇し始めた。

 

 

「 どこへ行ってたの? 時間厳守でしょう・・・ 009、どうして加速装置を使わないの。 」

隣のサブ・パイロット席にすわった少年に003は そっと話しかけた。

「 ・・・ごめん・・・ あの・・・あれ・・? 」

009と呼ばれた少年はもぞもぞと防護服の上着の合わせ目を さぐっている。

「 ・・・ああ、大丈夫だ。 はい、これ。 」

「 ・・・え ? わたしに ・・・? 」

他のメンバ−には見えないように こっそりと差し出されたのは。

不ぞろいな丈の 地味な野の花々。 

花も葉も くしゃくしゃである。

 

「 花が欲しいって言ってたから。 」

「 ・・・・ まあ。 」

手にした数本の緑に 003はそっと頬を寄せた。

「 ・・・ありがとう・・・! 嬉しいわ・・・009。 あ、ううん、ジョ−。 」

「 あのさ、髪、綺麗だね。 さっき、きらきら光の糸みたいだった・・・ 」

「 ー だから。 コレもツクリモノ、紛い物なのよ? 」

「 ・・・でも、綺麗なものは 綺麗さ。 」

「 ・・・ ジョ− 」

それきりぷつり、と彼は言葉をとぎらせてしまった。

長い前髪の影でこの少年がどんな表情をしているのか、誰にもわからなかった。

 

輸送機はぐんと高度をあげると 一気に速度を増した。

緑の小島は あっという間に背後の海と見分けがつかなくなった。

 

 

  ー ・・・・ ふう。

キャビンのドアをロックすると、フランソワ−ズはばさり、とマフラ−をかなぐり捨てた。

ベッドと簡易洗面台だけのほんのわずかなこの空間が いま唯一ほっとできる場所だった。

うん・・・とひとつ、大きな伸びをするとキッチンから持ち出してきた予備のコップに水を汲み

テイッシュの包みをそっと開いた。

・・・まだ、萎れていないかな・・・大丈夫かしら・・・

寝起きするための最低限のスペ−スしかないここには 余分なモノかもしれない。

半分アタマを垂れかけた不ぞろいの 小さな花たち。

花びらは風を受けてひしゃげ 茎も捩れていたりする。

でも、そこには生命の輝きがあった。

新しい季節を迎え 育ち繁茂し 命をふやしてゆくものの歓びに満ちていた。

 

フランソワ−ズはベッドに横になり コップの中の貧弱な花たちにじっと視線を当てていた。

 

 ー わたし。 ・・・生きてる。 もうこの手足を縛るモノは ・・・ ないんだわ・・・!

 

ひとりになって やっとあの悪夢の島を抜け出せた喜びが実感となってきた。

ふいに あの少年、しまむら・じょ- のセピアの瞳が脳裏によみがえった。

まっすぐに、なんの衒いもなく自分に向けられたあの、ひとみ・・・・。

 

・・・ ジョ−。 あなたのこころはまだちゃんと ホンモノのヒト なのね。

 

自分達を解放へと導く切欠ともなった、最後のメンバ−、009。

それまでの全員のデ−タからよりすぐりの機能を備えたといわれる、最強の戦士。

どうも、あの瞳はそんな釣り書きには そぐわないような気がした。

かれの大地色の瞳の向こうには なにが映っていたのだろう。

 

 ー でも 綺麗なものは綺麗さ

 

少年のぶっきらぼうな口調が思い出され、フランソワ−ズは肩先に揺れる巻き毛を

弄びつつ なにか温かな思いがふつふつと沸いてくるのを感じていた。

 

 

安定走行に入ったのだろう、エンジンの音がほとんど気にならなくなってきている。

それでもコップの水面は 小刻みに揺れ続けていた。

 

 

Last updated:  05,08,2005.                  index    /     next

 

 

*****   ひと言   *****

オフ本ボツ作品です。 声も絵柄もなにもかも・・・平ゼロ・バ−ジョンに

脳内変換してお読み下さいませ。

ジョ−君お誕生日週間に寄せて♪  続きます〜〜