『 彼女の微笑 ― (3) ― 』
ふん ふん ふ〜〜〜ん♪
山内タクヤ君 はご機嫌ちゃんである。
バンッ ! 更衣室のドアを勢いよく開ける。
「 おっは〜〜〜 っス! よい朝でありますな〜〜 」
「 ? ああ おはよう 」
「 へ? あ〜 お早うっす〜〜 」
一瞬 着替え中の仲間たちは怪訝な顔をしたが ああ またか ・・・ と
すぐに普段の表情に戻った。
「 ほっほっほ〜〜 今朝も楽しいれっすん〜〜〜 」
ご本人は 周りの様子などまったく頓着せず 超〜〜 ご機嫌のまま さささっと
着替えをし タオルを放り投げつつスタジオに出ていった。
「 なんだ アイツ? 」
「 は いつもの事さ ・・・ 」
「 な〜んかいっつも元気っすね〜 タクヤ先輩って 」
「 若いってことさ 」
「 ふ〜ん ・・・ 」
仲間たちのボヤキなどまるで気にせず、タクヤはますます軽い足取り ― 本当に
飛び跳ねつつスタジオに入る。
「 おっは〜〜〜 っと。 え〜と ・・・ 彼女はあ・・・・?
あ みちよちゃ〜ん おっは〜〜ス 」
彼は 隅のバーでテーピングをしている小柄な女子に声をかけた。
「 ん 〜〜 ? あ タクヤ君 おはよ〜〜 」
「 元気〜? え っと あ〜〜 彼女は? 」
「 カノジョ? ・・・ あ フランソワーズ? 今日もリハなんだっけ? 」
「 あ あ〜〜 まあ ね 」
「 ふうん あ フランソワーズはまだ来ないな〜 いつもギリな子だからさ 」
「 あ そうなんだ? 」
「 ウン。 彼女さ〜 家 遠いんだよ だから あんまし早くはこれないみたい 」
「 ふ〜〜ん ・・・ 家族と住んでんだ? 」
「 そ。 」
「 大変だな〜〜 近くに来ればいいのにな〜 」
「 あっは〜〜 家族と一緒だもん。 お父さんって優しそうだけどネ 」
「 ふ〜〜ん あ サンキュ〜 」
「 あ 彼女のこと、しっかりサポートしてやってね?
なんか今回 すご〜〜く緊張してるみたいだから・・・ 」
「 うっす! 任せろ〜〜 みちよちゃん、君もがんば〜〜 」
「 はいはい サンキュ。 タクヤクンもね〜〜 」
ひらひら手をふる彼女の隣、 まだ誰もいない空間をタクヤはちょっとばかり
愛しそ〜に眺めていた。
ふ〜〜ん ・・・ きっと親父さんが厳しくてよ〜
一人暮らしなんかとんでもない! とか 許してもらえないんだな
ま〜な〜 あんなカワイイ子が 都会で一人ってのは
絶対にアブナイ。
っとによ〜 とんでもないヤツがいっぱいだからな〜 うん!
毎朝の電車だってよ、大変だろうなあ
チカンとかいるだろ〜し。 許せね〜!
彼女に手出しするヤツは 許さん! ってな〜
俺のヒトにらみで撃退よ〜〜
俺が隣とかに住んでたらしっかりガードしてやるだけどなあ〜〜
へ へへへ・・・ 毎朝一緒にさ〜〜
おはよう〜 タクヤクン な〜んて挨拶してさ〜〜
おう お早う! 今日も頑張ろ〜な〜 な〜んてさ〜〜〜
へ へへへ ・・・ そんでもって あ 俺 自転車で一緒、
なんていいかも〜〜
後ろにぴと。 な〜んてあの子がくっついてくれてさ〜〜
むふふふ〜〜〜〜 もうニヤけっぱなしだ。
「 お早う タクヤさん 」
「 ・・・ タクヤさん な〜んて言ってくれちゃってさ〜〜〜 」
「 ? どうか した? 元気?」
「 元気・・ なんてさ〜〜〜 」
「 ちょっと ・・・大丈夫? 」
「 大丈夫、リハは任せろ なんて〜〜 へへへ・・ 」
「 タクヤさんってば ! 」
「 だから < さん > は ― はへ?? 」
ちょんちょん・・と肩を突かれ ・・・ はっと目の前をみれば。
― 件の金髪美人の真顔があった。
「 わ!!! あ あ あ〜〜〜 おはようゴザイマス〜〜 」
「 お早うございます。 ねえ ・・ 大丈夫? 」
「 え? あ ああ〜〜 ウン。 さ 〜〜 がんばろ〜〜〜 」
「 ええ。 そうね わたし いつも最後だから ・・・ 急いだ方がいいと
思いますけど・・・ 」
「 あ ああ〜〜 うん そだね うっす! 」
ぎくしゃく・・・ 遠ざかる彼を 彼女はちょいと首を傾げつつ見送った。
「 うふ? オトコノコってあんなカンジだったっけ?
そういえば なんとなくすばるに似てるわね〜〜 うふ・・・ カワイイ♪ 」
・・・ などと思われている、とはご本人は全く気づかず。
彼女がじっと視線を当ててくれただけで もう〜〜顔がニヤけ始めている。
ひえ〜〜〜 やっべ〜〜〜〜
本人がいたよ〜〜〜
へ へへへ〜〜 相変わらずかっわいい〜〜♪
今日こそ きっちりリフト、成功させるぜ!
タクヤは めっちゃくちゃにはっぴ〜〜で 張り切っていた・・・
「 じゃ 一応通す? 」
「 あの。 最初のリフト ― 先に復習してもいいですか 」
「 最初の? あ 勿論〜〜 音ナシでやる? 」
「 あ 音だします、わたし 」
「 え いいの? 」
「 はい。 」
朝のクラスは終わり リハーサルの時間となった。 本日もまだ二人の自習タイムなのだ。
「 お〜し。 そんじゃ ま〜 気楽にいこ〜ぜ〜〜 」
「 よろしくお願いします 」
「 あ へいへい ヨロシク〜〜〜 」
タクヤは ぴっ! と挙手をすると 稽古場の隅にスタンバイをした。
「 いいですか〜 ・・・ 音 だします 」
「 おっけ。 ・・・ 〜〜〜っと 〜〜〜 」
駆け寄ってきた彼は ふわり。 彼女を頭上にスムーズに持ち上げた。
「 お〜〜〜〜 ・・・ いいカンジじゃ〜ん
」
「 あ あの 重くない ですか 」
「 え〜〜〜 どっこがあ?? 君 羽根でもある〜〜? って感じじゃん 」
「 そ そうですか?? 」
「 いいじゃ〜〜ん ちょっちも一回 やってみよ? 」
「 はい。 」
彼は彼女を すとん、と下ろした。
「 今のタイミングじゃね? 俺的には ばっちし。 」
「 はい! 」
「 あ〜っと ・・・ さあ。 その〜 」
「 はい? 」
タクヤは 珍しくちょっと口ごもっている。
「 あ 全然気にしませんから なんでも言ってください!
そうですよね・・・ わたし やっぱ重いのかしら ・・・ 」
「 ち が〜〜〜う!!! ちゃう ちゃう!! 全然 ちゃうって! 」
「 え ・・・・ 」
「 あの。 < はい > とか ・・・ ナシ! 」
「 はい?? 」
「 だから〜〜 その さあ ・・・ タメでいいってこと! 」
「 ため??? あの どういう意味ですか? わたし、その単語知りませんので
説明してください。 」
「 あ あの! ふつ〜〜にしゃべってくれ ってこと。
君と俺 ・・・ パートナー同士だろ 今回。 」
「 は はい ・・・ 」
「 だ〜から〜〜 ふつ〜に! はい じゃなくて うん とか ええ でいいよ
な?? 」
「 ・・・ は? ・・・ 」
目の前で タクヤは大真面目な顔で頬を少し紅潮させたりしている。
あ ら ・・? うふ ・・・ なんか すばる みたい〜〜
「 ね〜 ね〜 おか〜さん〜〜〜 僕ぅ〜〜〜 」 って・・・
口が重いすばるが もごもごしてるのとそっくり♪
「 あの ― 」
「 その〜 さ。 つまり。 君と僕は対等だってこと。 だからさ〜〜
対等にしゃべってってこと! 」
「 あ ・・・ ため って対等っていう意味ですか? 」
「 そ! だから〜〜 ですか とか はい とか ― よそうよ? 」
「 あ〜〜 そういう意味ですか ・・・ 」
「 そ。 < そういう意味なんだ〜 > でいいの! 」
タクヤは真剣な顔で うんうん・・・ 頷いている。
ま〜〜〜 すばるそっくり〜〜〜〜
すぴかと口ケンカして 口がおいつかなくて
む〜〜〜・・・・ って唸ってるすばるみたい
うふ・・・カワイイわねえ
「 な なに? 俺 ・・・ オカシイ? 」
「 あら そんなことないです ・・・いえ そんなこと ないわ。
これで いい? 」
「 そ〜〜〜 そ〜〜〜 俺ら 平行にならんで行こうぜ 」
「 平行? ええ ええ そうで・・・いえ そうね! 」
「 そ! わ〜〜〜〜 いいなあ〜〜〜 」
でははは〜〜〜〜〜 この笑顔〜〜〜 さいこ〜〜〜
いいな〜〜〜 いいな〜〜〜
「 ? なにが いいの? 」
「 あ〜〜 いや〜 がんばろうなってこと! 」
「 は ・・・ いえ ええ! 」
「 うはは〜〜ん♪ ほんじゃ も一回、最初のとこ やってみよ? 」
「 ええ。 あ 音出しはわたしがやるわ。 」
「 頼む〜〜 ・・・ ほい おっけ〜 」
「 音 出します〜〜 」
〜〜〜〜♪♪ ♪♪ ・・・ ゆったりした音が流れはじめた。
二人はスタジオの対角から 駆け寄り ― ふわり。
タクヤ、いや アルブレヒトは 愛しいひとをたかだかとリフトした。
「 あ〜〜〜 いいね いいね この感じだよ〜〜 」
「 そう? 忘れないようにしなくちゃ 」
「 ふふ〜〜 俺ら いいカンジで踊れるぜ 」
すとん、と彼は彼女を床に下ろした。
「 ほんじゃ 続き、やってこ〜か 」
「 は いえ ええ。 お願いしま ・・・ お願いね。 」
「 お〜〜し。 音〜〜〜 は っと 」
「 あ こっちよ。 」
「 ん〜〜〜 っと? いちお〜流してみっか 」
「 ええ。 ダメって思ったら止めてね 」
「 こっちもな〜 サポート キツイとかいってくれ。 」
「 了解。 では ・・・音 出ます〜〜 」
「 ん ・・ 頼む 〜 」
スタジオでは 時間いっぱいもの悲しい音楽が流れていた。
まだかなり暑い陽射しが斜めに差し込んできている。
スタジオの玄関で タクヤはうろうろ・・・待っていた。
パタパタ ・・・ 軽い足音が聞こえてきた。
「 あら? お疲れ様でした〜〜 ありがとう! タクヤさ いえ タクヤ 」
「 お〜〜 お疲れ〜〜 あ なあ 時間ある? ちょっちお茶でも ・・・ 」
「 あ ごめんなさい〜〜 わたし 帰らないと・・・ホントにごめんなさい!
あの ・・・ また誘ってくださいね 」
「 あ ああ 勿論〜〜 ほんじゃまた明日な〜 」
「 ええ A demain ! ( また明日ね ) 」
「 お おう! 」
「 あ ・・・ そうだ これ。 はい! 」
ゴソゴソ〜 ポケットから何か取りだすと 彼女はぽん、とタクヤの手に押し付けた。
「 お なに? 」
「 うふふ・・・ オヤツにどうぞ? それじゃ ね 」
にこ・・・・っと微笑むと 金髪を乱したまま 彼女は小走りに稽古場を出ていった。
「 あ〜 かわい〜 え これ? あっは 〜〜〜 」
開いた彼の手の中には ちっこい・びっくりまんちょこ が入っていた。
「 わはは〜〜〜 なつかし〜〜〜 まだコレ あるんだ?
ガキのころ よく喰ったなあ〜〜〜 ・・・ お〜〜 懐かしい味だぜ! 」
ぽいっと口に放り込み タクヤはなんだかめちゃくちゃ嬉しくなってきた。
はあ 〜〜〜〜 ・・・・ いいカンジ!!
なんかさ〜 めっちゃ礼儀正しいし〜〜
集中力とか ハンパね〜し・・・
ずっとパリで踊ってたら もうしっかり団員だろ〜な〜
なんで こっちにいるんだ? 親父さんの仕事の都合とかかね
そんでもグチひとつ いわね〜もんなあ・・・
うっは〜〜〜〜 モロ たいぷじゃ〜〜〜ん♪
タクヤはため息をつきつつ ほっそりした後ろ姿を見送った。
「 明日も楽しいリハ〜〜 っとぉ♪ うっはは〜〜〜ん♪ 」
しゅぱっ! スタジオの玄関前で軽く トゥール・アン・レール を決めると
そのままでっかいバッグを担いで 彼はご機嫌ちゃんで帰っていった。
「 ?? な〜に 随分ご機嫌ねえ・・・若くていいわ ま 頑張ってもらいましょうか 」
控室の窓から ちらり、と眺めていた老先生はクスリ・・・と笑った。
「 ただいま帰りました・・・ 」
玄関のドアを開けると ―
「 おか〜〜さ〜〜〜〜ん ! 」
「 さ〜〜〜ん〜〜〜! 」
パタパタパタ ・・・ トタトタトタ〜〜〜 小さな足音が駆け寄ってきた。
「 あのね〜〜 おか〜さん〜〜 アタシね〜 ようちえんでね〜 おえかき〜 」
「 ぼ 僕〜〜〜 ようちえん 」
「 みてみて〜〜〜 おじいちゃまもね〜 」
色違いのアタマが 母の左右からとりついてきた。
「 はいはい ちょっと待ってね〜〜〜 お母さん、お荷物おいて手を洗って
ウガイしてくるから ね? 」
「 ウン ・・・ でもね〜 おか〜さん〜〜〜 」
「 うん おか〜さん おか〜さん あのね あの〜〜 」
こくん、と頷くけれど ちっちゃな手は母のスカートをぎっちり掴んだままだ。
う ・・・ これ〜〜 夏のお気に入りなんだけどぉ〜〜
シワになっちゃう〜〜 握りしめないで〜〜〜
「 ね ちょっとだけはなして? お母さん すぐ戻ってくるから 」
「 ・・・ ん ・・・ 」
姉は なんとか離してくれたが ―
「 やだ。 おか〜さん〜〜 びっくりまん ちょこ は?
おやくそく でしょ〜〜 ね〜〜 」
「 あ あ〜〜〜 あのねえ ・・・ ( しまった帰りに買うの 忘れたわ! )
あのね 今日 売り切れ だったの。 明日 買ってくるから ね? 」
「 ・・・・ やだ ・・・ 僕 びっくりまん ちょこ 〜〜 」
ちっちゃなセピアの瞳から ぽろぽろ ぽろぽろ・・・涙がこぼれ出した。
「 おるすばん〜〜〜 びっくりまん ちょこ って ・・・ おか〜さん 〜〜 」
「 アタシは おせんべ。 おか〜さん おせんべ〜〜〜 」
せっかく離れた手は またびったし接着してしまった。
あ〜〜〜 ・・・・
・・・ でも そうよねえ ・・・・
イイコでお留守番してたら って約束したんだもの
この家庭では のべつ幕無しにお菓子を与えたりはしない。
オヤツの時間と なにかのご褒美の時だけだ。
だから余計にチョコやおせんべいは 子供たちにとっては楽しみで美味しいのだ。
「 本当にごめんね〜〜 すばる ・・・ 」
「 ぼ 僕ぅ 〜〜〜〜 ちょこ ・・・ 」
「 すばる おか〜さん ごめんね してるよ? い〜よ しなよ 」
「 ・・・ ちょこ ・・・ 」
姉に言われて ますます意固地になってきている ・・・ らしい。
「 すぴかさん、ありがとう。 お母さんが悪いのよ、だから 」
「 でも! ごめんね したら い〜よ しなくちゃいけないんだよ〜〜 」
「 そうね ・・・ あのね すばるくん ごめんね? 」
「 ・・・ ちょ ・・・ 」
ドン。 隣のちっちゃな足が すばるの足を踏んずけた。
「 いった〜〜〜〜〜 !! すぴか がどん! したあ〜〜 」
「 すばるが い〜よ いわないんだもん! おか〜さん かわいそ〜じゃん! 」
「 いった〜〜〜〜〜 あ〜〜〜〜ん 」
「 おか〜さん かわいそ〜〜〜 」
玄関ホールは 大変な喧騒の坩堝と化してしまった。
「 ああ ああ わかったから・・・お願い、大きな声 出さないで 」
「 いった〜〜〜 」
「 すばる がわるいんだも〜〜ん 」
「 お願い 静かにしてちょうだい。 お母さん アタマ痛くなっちゃうわ 」
もうフランソワーズも半分 泣きッ面
「 あ〜〜〜 おか〜さん ないてるぅ〜〜〜 」
「 おか〜さ〜〜ん ないてる〜〜 」
「 な 泣いてなんかいません。 二人があんまりウルサイから お母さんもう〜〜〜
本当に泣いちゃうかも 〜〜 」
フランソワーズは 泣き真似 をしようとしたが ― その前に
わぁ〜〜〜〜〜 びぇ〜〜〜〜〜〜
チビ達が 本気で泣き出してしまった。
「 あ あらら・・・ ね お母さん 泣いてないの。 ほら 見て? 」
「 ・・・ おか〜さん ・・・ おかお こわい ・・・ 」
「 こわい 〜〜 僕ぅ〜〜 」
「 え・・・? 」
「 おか〜さん おこってばっか・・・ 」
「 おこってるぅ〜〜〜 」
「 ・・・ すぴか すばる ・・・ 」
カタン ― リビングからのドアが開いた。
「 お〜や 賑やかじゃのう どうしたね、二人とも 」
博士がのんびり顔をのぞかせた。
「 おじ〜〜ちゃまあ〜〜〜 あのね あのね すばるってばね〜〜 」
「 すぴか がね どん! したァ〜〜〜 」
「 それでね〜〜 おか〜さん こわい おかお〜〜 」
「 ・・・ おか〜さん おこってるぅ〜〜 」
子供たちはぱっと博士に飛び付いてゆき ぴ〜ちくぱ〜ちく始めた。
「 あ ・・・ ただ今戻りました。 煩くてすみません 」
「 お帰り。 疲れたじゃろう? ちょっと休んできなさい。 」
「 え・・・ 」
「 ここはワシに任せておくれ。
さあさあ 二人とも? ワシの手伝いをしてくれるかのう 」
「 なに〜〜 おじ〜ちゃまあ〜〜 アタシ できる! 」
「 ぼ 僕もぉ〜〜〜 」
「 おお それは嬉しいな。 それでは北のテラスにある盆栽に水をあげたいんじゃ。
二人は ほれ あの小さな如雨露に水を入れてきておくれ。 一緒にな。 」
「「 は〜〜〜〜い!!! 」」
今までの膨れっ面や半ベソはどこへやら・・・ チビ達はわらわら北のテラスへと
駆けていった。
「 ・・・ 博士 ・・・ 子供たち 大切な盆栽にイタズラしたりしません? 」
「 大丈夫じゃよ。 今 置いてあるのは頑丈なヤツばかりだから・・・
それに あの子達は < ぼんさいさん > には そ〜っと優しく を
ちゃ〜んとわかっておるよ。 」
「 それなら ・・・ いいんですけど ・・・ 本当にうるさくて 」
「 いやいや イイコで留守番しておったよ? 」
「 そうですか ・・・ わたし、 お菓子を買ってくるの、忘れてしまって 」
「 まあ そんなこともあるさ。 他のオヤツで気も紛れるじゃろ。 」
「 ええ ・・・ 」
フランソワーズは なんだかほっとして足がふらふらしてしまった。
「 ほれ 母さんや。 笑って 笑って。 眉間に縦じわ は魅力ないぞ 」
「 あ はい ・・・ 」
「 チビさん達しばらくは水やりに熱中しておるから・・ その間 少し休んでおいで 」
「 ― ありがとうございます ・・・ 」
「 うむ うむ ・・・ あまり無理はせんで ・・・ ワシにチビ達を任せなさい。 」
「 はい ・・・ 」
「 どれ ぼちぼち監督してくるかな 」
「 お願いします ・・・ 」
博士の後ろ姿をみつつ、彼女は荷物を下げてリビングに行った。
は あ ・・・
つっかれた 〜〜〜〜 ・・・ !
どたん、とソファに座り込んだ。
何回目かの ふか〜〜〜いため息がリビングに消えていった。
ふ・・・っと気になってバッグからコンパクトを取りだし覗きこんでみた。
― やだ ・・・! なんて顔??
それに ・・・ いや〜〜〜ん ホントにシワが〜〜
慌ててゴシゴシ・・・ 眉間をこする。
おか〜さん 怒ってばっかり、 か・・・
こんな顔してたら 確かに怖いわよねえ・・
― わたし。 笑うこと 忘れてる・・・
あ ああ ・・・ 子供たちを泣かせるなんて・・・
しっかりするのよ、 フランソワーズ!
大変なのは覚悟の上 でしょ!
え が お。 笑顔よ! とりあえず!
― あとは なんとかなる わ!
ぱん! 彼女は自分自身の頬を叩き立ち上がった。
「 さ。 晩御飯 作ります。 チビ達もジョーも大好きなスコッチ・エッグよ 」
疲れてなんかいない。 自分自身に言い聞かせ彼女はキッチンに入った。
はたして 晩ご飯は皆のにこにこ顔が集まり満腹の笑顔でいっぱいになった。
カタン ・・・ カチャ・・・ ティ〜ン。
深夜 遅い晩御飯を食べ終え、ご機嫌ちゃんなジョーは リビングに戻ってきた。
「 ・・・ 美味かったぁ〜〜 フラン〜 ブランディでもどう? 」
大事そう〜に抱えてきた瓶をテーブルに置いた。
「 これさ〜 編集部でもらっただけど・・・・ ちょっと飲んでみない? うん? 」
ブランディ・グラスを持ち出し ソファに座ろうとして ― ふと見れば
隅っこで彼の細君は く〜く〜〜・・・・ 眠っていた。
「 ありゃ〜〜 もう沈没かい。 ・・・疲れてるんだよなあ・・・・
レッスンして急いで帰って あのチビ達を相手にバリバリ戦闘・モードだもんなあ 」
すとん、 と彼女の隣に腰を下ろす。
グラスの底に ちょびっと飴色の液体を注ぎ立ち昇る香を楽しむ。
「 ふ〜〜 ・・・ ん ああ いい香だ ・・・
一緒じゃないのがちょっと残念だけど〜 いいさ きみの笑顔を肴に 〜〜 」
ジョーは こそ・・っと彼の恋人の寝顔を見つめた。
?? あ あれ ・・・?
く〜く〜 眠っているけれど ― 眉間に縦じわ、なんだか悲しそう ・・・
「 疲れすぎてるのかなあ ・・・ なあ 夢の中でも微笑んでほしいなあ〜 」
ちゅ。 こっそりキスを落とす。
「 ・・ ん ・・・? 」
濃い睫が ぴくぴく動き・・・ やがて碧い瞳が彼を見上げた。
「 ・・・? ジョー ・・・? 」
「 あは ・・・ 起こしちゃった? ごめん〜〜 」
「 ! やだ〜〜〜 わたし 転寝してた?? ご ごめんなさい! 」
「 いいよ いいよ〜〜 ぼくこそこんな遅くにごめんな 」
「 なに言ってるの、遅くまでお仕事大変なのはジョーの方でしょう? 」
「 あは ・・・ 実はさ、そんなに大変でもないんだ。 」
「 え?? どうして?? 」
「 う〜ん 好きな仕事だからってことかなあ〜 ずっと集中して仕事して
あ ! もうこんな時間〜〜って慌てて帰ってくるんだ。 」
「 でも ・・・ ジョーにばっかり負担がかかって・・ イヤでしょう? 」
「 え〜〜 ?? なんで?? 」
「 チビたちにだって・・・ 平日はほとんど会えないし 」
「 それはま〜〜 ちょっと辛いけど。 でも寝顔は見れるし 朝だって
行ってらっしゃい は言えるよ。 今の生活、なかなか気に入ってのさ。 」
「 でも ・・・ 」
「 だって ぼく ― シアワセだもの。 」
「 ・・・え ? 」
「 ぼく 欲しかったもの、ぜ〜〜〜んぶ手に入れたんだよ?
こ〜〜んなシアワセなヤツって 世界にぼくだけ かもなあ(^^♪
」
彼は ブランディ・グラスをちょい、と持ち上げ ぱちん、とヘタクソなウィンクを
してみせた。
「 ・・・ シアワセ ・・・? 」
「 そ。 きみと結婚できて チビ達が生まれてきてくれて ・・・
皆でわいわい暮らしている・・・ ぼくがず〜〜っと欲しかった生活なんだもの。 」
「 ・・・ ジョー ・・・ 」
「 きみは? ・・・ シアワセ ・・・ かい? 」
「 え わたし・・・ ? 」
「 そ。 今のきみは 」
「 わたし ― 」
一瞬口を閉じ 大きく息を吸いこんで ― 彼女は答えた。
「 ええ シアワセよ。 わたし、 愛する家族がいて踊ることができて。
わたしも シアワセよ ジョー。 」
「 そっか よかった! ああ その笑顔さ! 」
「 うふ・・・ ジョー あ い し て る わ ♪ 」
「 ぼ ぼく も ・・・ フラン〜〜 」
「 ね? ジョー ちょっとお願いがあるだけど 」
フランソワーズは夫の側にすり寄ってきた。
「 わ わわ?? なんだ?? 」
「 あのねえ わたしのこと・・・ 持ち上げてくれる? 」
「 もちあげる??? 」
「 そ。 わたしをこのまま 水平に ・・・ そう 両腕でね 」
「 ??? こ こう? 」
ジョーは いとも簡単にすい・・・っと彼女を持ち上げた。
「 あは 相変わらず軽いなあ〜♪ 」
「 うふふ ・・・・ ありがとう〜 」
彼女は彼の腕の上で にっこり 微笑んだ。
うふ。 大丈夫。
わたし シアワセな 『 ジゼル 』 を 踊る・・・踊れるわ!
ぱふん〜〜 彼女は彼の胸の中に飛び込み ― 二人はそのままあつ〜〜い夜を過ごした。
翌日 ― リハーサルの前に フランソワーズ・アルヌール嬢はパートナー氏に
にこやかに宣った。
「 ねえ ・・・ ジゼルもアルブレヒトも 楽しいと思うのね 」
「 楽しい??? 」
「 ええ ・・一晩限りだけど ・・ また会えてうれしいって。 」
「 そりゃ 〜 」
「 わたしがジゼルだったら ― アルブレヒトに会えるだけでもウレシイわ 」
「 オレも! オレも君に会えるだけでウレシイよ〜〜〜
ほんじゃ〜〜 ま 俺らは シアワセ 『 ジゼル 』 踊ろうぜ! 」
「 ええ。 お願いシマス 」
「 ほい お願いします〜〜 」
うっほ〜〜〜〜〜♪ この笑顔〜〜〜〜
おれ なんだってできちゃうぜえ〜〜〜
そう ― 彼女の微笑 は 皆のシアワセのモト なのだ・・・!
***************************** Fin.
***************************
Last updated : 08,02,2016.
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*************** ひと言 ****************
え〜 やっぱ フランちゃん最強〜〜 ってことです♪
『 ジゼル 』 二幕のパ・ド・ドゥ やはり幸せな二人かも。
それが束の間でも ね・・・