『 彼女の微笑 ― (1) ― 』
その街は 落ち着いた雰囲気で満ちていた。
賑わいはあるが 喧騒 は ない。
大通りは四通八通し 石畳の舗道は広く、人々はゆったりと行き交う。
「 ふうん ・・・ 交通量もそんなに多くないんだな 」
ジョーはどうしても車道の方に そして走り去るクルマに目がいってしまう。
「 あら ここはクルマの数が比較的少ないだけだわ。
凱旋門の方なんか すごいわよ 」
「 そうなんだ? 舗道が広くていいね〜〜 」
「 そう? でも ほら ・・・結構でこぼこだから気をつけて?
よそ見していると 躓くわよ 」
「 え? ・・・わっ ! 」
言ってる側から ジョーは足を取られ吹っ飛びそうになった。
「 大丈夫〜〜〜? 」
「 あ は ・・・ うん なんとか ・・・ ひえ〜〜〜 」
「 ふふふ・・・ クルマばっかり見てるからよ 」
「 だってさ 外車が多くて楽しいだもん。 」
「 外車ねえ ・・・ ここではジョー アナタが < ガイジン > なのよ 」
「 あ そうだけど さ なんかいいね この街 ・・・
賑やかだけど うるさくないっていうか。 でも華やかだなあ 」
「 うふふ ・・・ そんな街です、わたしの生まれたパリは ね 」
「 そうか〜〜 ここはきみが生まれ育った街 だものね 」
「 ええ ・・・ 」
「 ああ 大きな建物だなあ 博物館? 」
「 え ・・・ いいえ ここがパリ・オペラ座よ 」
「 あ 劇場 ? 」
「 そうなのよ。 ・・・ 憧れの舞台 だったわ 」
フランソワーズは ふっと歩みを緩め目を閉じた。
「 ・・・ ああ 音が 聞こえる ・・・ 」
「 ・・・・ 」
ジョーは耳を澄ませてみたが ― クルマの音しか聞こえない。
音?? あ。 < 聞いて > いるのかなあ ・・・
「 ・・・ あの ? 」
「 うふ ・・・ < 耳 > なんか使ってないわ ・・・
こころの中で聞いているの。 」
「 あ そっか ・・・ なんの音楽が聞こえるのかい 」
「 ええ あの ・・・ 」
「 あ ごめん 立ち入ったこと、聞いちゃったね 」
「 ううん ・・・ あのね 」
「 うん 」
「 うふ ・・・ ここで 『 ジゼル 』 を踊るのが小さな時からの夢 だったの 」
彼女は 淋しい微笑みを浮かべていた。
「 『 ジゼル 』? ・・・ あ バレエ ? 」
「 そうなの ・・・ 『 ジゼル 』 のタイトル・ロール ( 主役 ) は
オペラ座のエトワールでなければ踊れないの。 」
「 憧れのマト ・・・ってヤツか 」
「 そうね バレリーナを目指す子は皆 とおいとおい目標にしていたわ ・・・ 」
「 そっか ・・・ 」
「 ホントに 夢 になってしまったけど ・・・ やっぱりここを通ると ね・・・ 」
フランソワ―ズは俯き そっと指先で目尻を払っている。
「 うふ・・・・ ごめんなさいね なんかちょっと感傷的になっちゃった 」
きゅっと首をあげ背筋を伸ばすと 彼女は す ・・・っと微笑んだ。
ああ ・・・ ! こんな彼女、 初めてみた ・・・
いやだ! こんな淋しい辛い笑顔は イヤだ!
きみには! 幸せに微笑んでいてほしいんだ !
ジョーは 身体中に訳の分からない憤りが吹き上げてくるのを感じた。
! ぼくが 護る。 きみの 幸せの笑顔を!
「 フランソワーズ。 」
「 ・・・ なあに? うふ ごめんなさいね 道の真ん中で ・・・
さ 行きましょう。 カフェでお茶でも 」
「 なあ フランソワーズ。 」
「 え? ああ ハンバーガーとかのほうがいいかしら 」
「 そうじゃなくて。 聞いてくれ フラン。 」
「 はい? 」
「 ― きみは 夢を追えよ。 追ったらいいんだ。 」
「 ・・・ え ・・? 」
「 ぼくらの境遇はもう変えられないけど。 でもこれから先の運命は
これからの人生や 夢まで あんな奴らに負けるのは イヤだ! 」
「 ・・・ そ それは ・・・ 」
「 ぼく 応援するよ! なんだってする。 だから また ・・・ きみの夢を追って。 」
「 ・・・ ジョー ・・・ 」
「 きみは きみの夢を追えよ。 」
「 ジョーは ? ジョーの夢はなんなの 」
「 ぼくは ・・・ 笑顔を護りたい、 ぼくの す 好きなヒトの ! 」
「 ・・・ ジョー ・・・ !!! 」
( いらぬ注 : え〜。 天下のパリ・オぺの外に音が漏れるわけありませぬ★
さらに あのシーンの音楽は 『 ジゼル 』 二幕 ドゥ・ウィリ の片方のソロ
の音であります〜 >> 新ゼロさ〜〜ん (+_+) )
そして あれやこれや いろいろ・あれこれ ・・・ありまして ―
数年後 彼らは極東の島国で崖の上の洋館で 共棲みを始めていた。
勿論 彼女は 夢を追い続けている。 彼も 夢を護っている。
さらに ― 彼と彼女は <同じ夢> を 追い、 < 同じシアワセ > を得て
・・・ つまり 夫婦となって さらに 新しい家族 も増えた というわけだ。
「 それじゃ 行ってきます 」
「 うん いってらっしゃい 気をつけて 」
「 はい ジョーもね あ・・・ オレンジは冷蔵庫ね 」
「 サンキュ ほら バスの時間だよ 」
「 ええ じゃ ね 」
「 ん ん〜〜
」
二人は ちゅっと軽くキスを交わすと フランソワーズは大きなバッグを抱えて
あたふたと玄関を出ていった。
「 気をつけてね〜〜〜 ・・・ っと 」
ジョーはそんな妻を見送ると バス・ルームから洗濯モノの籠をもって
ぱたぱた中庭にでた。
「 ふ〜〜〜 いい気持ちだな ぱりっと乾くぞ♪ 」
裏庭には 温室やら野菜畑 花壇に 物干しなんかがごたごた存在するけれど
かなりの広さなので 気分がいい。
「 さ〜〜〜 干すぞぉ〜〜〜 」
かなりの手際の良さで 彼はちゃっちゃと洗濯モノを乾しはじめた。
ちっこいぱんつ や ソックス多数 ちっこいTシャツたくさん。
ちっこいズボン や ロンパース タオル 大中小たくさん、
男性陣の下着あれこれ 博士の浴衣、 ジョーの Tシャツ、Gパン
そして。 レオタード数枚 ピンク・タイツに黒タイツにレッグ・ウォーマー
やはりタオル多数〜〜 ・・・ などなど。
つまり。 すぴか と すばる の二人のチビっこを授かって後も
フランソワーズは < 夢を追い > 続けているのだった。
そして ジョーも彼の < 夢 > をちゃ〜んと護っている。
― 彼女のシアワセの微笑を護る という最大にして最高の仕事を!
「 ふ〜〜〜〜 これで完了 あは いい気分だあ〜〜〜〜〜
おっと ・・・ そろそろ出勤の準備しなくちゃ 」
カタカタカタ・・・庭さんだるを鳴らし 彼は裏口に戻っていった。
***********
きゃ〜 やた! ひぇ〜〜〜 え〜〜〜 やっぱあ・・・
つぶやき にしてはかなり派手な声、いや 音、を発する集団の中で
彼女はただ ただ立ち尽くしていた。
「 ・・・ うそ ・・・! 」
ひゅ・・・っと息を吸いこんだまま ・・・ 目は最大限に見開いたまま・・
一点を見つめ その一点に引き寄せられ ― フランソワーズは 口をおさえて固まっている。
その集団の前の壁には < 注 ! 掲示物をよく読むこと! > の注意書きが貼ってあり
その下になにやらいろいろ・・・・ 紙片がはりだしてある。
その中の一枚の前に 彼ら彼女らは集中しているのだ。
「 うっぴゃあ〜〜 ・・・・ やられたあ〜〜〜 」
フランソワーズの隣で小柄なまん丸の目な女性が これまた素っ頓狂な呟きを発し
ふとこちらを見た。
「 ? どしたの フランソワーズ? ねえ アタシってば レ・シルだってぇ〜〜
うう〜〜〜〜 パキータとかで爆発したかったのにぃ〜〜 」
元気モノでテクニシャンな彼女は テンポの速い踊りが得意なのだ。
「 ・・・・・・ 」
隣は相変わらず無反応だ。
「 なに どしたの〜〜〜 フランソワーズは なに? なに踊るのぉ〜 」
ちょん ちょん・・・と肩を突かれ ・・・ 金髪の友人はやっとすこしばかり
動き 返事をした。
「 う ・・・ あ の これ みちよ みて 」
「 へ?? あ 読めない字とかあった? 」
みちよ、と呼ばれた小柄な彼女は急いで側に寄った。
え ・・・ なにかヘンな漢字でも使ってたのかなあ・・・
事務所さ〜〜ん 昭和な表現はナシだよ〜〜お
金髪さんはフランス人、でも この国に来て長いし 何より旦那サンは日本人、
そして 賑やかな双子のハハでもあるのだけれど・・・
「 え っと フランソワーズはぁ・・・・・? 」
「 う ううん ・・・ でも これ ・・・ 」
『 ジゼル 』二幕より パ・ド・ドゥ フランソワーズ・アルヌール
「 なに〜 ? お〜〜う いいなあ〜〜 ピッタシじゃん♪ 」
「 え ・・・ そ そ そう? 」
「 ウン うん だいたいね〜〜 < 勉強会 > ってさ。
苦手っぽい演目をわざわざ当てるんだよ〜〜 」
「 苦手? 」
「 そ。 で 必死で練習して克服しなさいね ってことなんだけどさ〜 」
「 まあ ・・・ あ みちよは ・・・? 」
「 アタシ? アタシは 優雅〜〜〜に うつくし〜〜〜く 踊りなさい〜〜 って
ほら。 」
「 ・・・ まあ 『 レ・シル 』 のワルツ? ステキ〜〜〜〜 」
フランソワーズは友人の指先を追った。
「 ステキじゃないよ〜〜う アタシ 一番苦手なのぉ〜〜 」
「 そ そう ?? 」
「 ウン。 あ〜〜 フランソワーズ いいなあ〜〜 得意そうじゃん? 」
「 え! まさか ・・・ それにわたし ・・・ 『 ジゼル 』
踊ったこと、ないもの 」
「 え〜〜〜〜 マジ??? ジュニアの頃とかも? 」
「 え ええ 『 ジゼル 』 は 特別な作品だから ・・・ 」
「 そうなんだ〜〜? じゃあ やっぱり 勉強しなさい ってことかあ
あ 男性は だれ? 」
「 えっと ・・・ < パートナーは 別紙参照 > だって。
別紙 ・・・・ どこ ? 」
「 あ〜〜〜〜 ・・・・ これみたい。 えっと ・・・ あ これよ! 」
みちよは 素早く友人の名を探し当てた。
「 え あ! えっと ・・・ やまうち たくや あ あのタクヤ君? 」
「 お〜〜〜〜 タクヤとかあ〜〜 やったね〜〜 」
「 うわあ ・・・ わたし、彼の足 ひっぱるかも 〜〜 」
「 なに言ってるの。 彼さ〜 多分 あんまし女子と組んだこと、ないかもね 」
「 え そうなの? 」
山内タクヤは 最近海外留学から無事に卒業して戻ってきた好青年だ。
さあ 次は…と < 離陸準備中 > というところ ・・・らしい。
もともとは このバレエ団のジュニア・クラスで勉強していたという。
「 ふうん ・・・ わたし あんまりクラスで一緒にならないから ・・・
でも上手だなあ って見てたけど 」
「 あ〜 そうだね〜 フランソワーズのとこのチビちゃん達がさ
まだもっとちっちゃい頃に 朝のクラスにいたよ。 」
「 そうなの ・・・ でも留学してちゃんと卒業したのでしょ、優秀なのね。 」
「 ウン。 イケメンのテクニシャンだけど ・・・ さ〜〜 王子サマ としては
どうかな〜〜〜 彼も 勉強 なんじゃないかなあ
」
「 そう ・・・ なの ・・・・ 」
「 ま ともかくさ〜〜 いろいろ ・・・ 大変だよぉ〜〜〜 < 勉強会 > はさ
普通の公演の方がず〜〜〜っと気楽〜〜 」
「 そうねえ ・・・ でも ものすごく勉強になるわね 」
「 ま ね。 あ〜あ ゆったり優雅に、 かあ〜〜 」
元気のカタマリみたいな彼女は 大きくため息をついた。
「 うふ ・・・ でも みちよのレ・シル キレイだと思うわぁ〜 」
「 ・・・ キレイになりたいデス〜〜〜 」
「 わたし ・・・ 出来るかしら 」
「 え〜〜 大丈夫だよぉ〜〜 フランソワーズぅ〜 」
「 ・・・ そう だといいけど 」
フランソワーズは かなり大きめなため息をついた。
ここで 『 ジゼル 』 を 踊るのが夢だったわ ・・・
不意に 何年も前の自分自身のコトバが耳の奥から聞こえてきた。
「 あ ・・・ ? 」
あの時の風景、 そして 懐かしい故郷の空気まで 感じられた。
そして 勿論、隣を歩いていた彼の顔も 彼の声も 彼の心も ・・・ 蘇る。
彼は あの時の言葉をちゃ〜〜んと実践してくれた。
ずっと ずっと 彼女の夢 を応援してくれている。
そうよ。 ジョーがいてくれたから
わたし ― いま ここでこうやって踊っていられるんだわ
― わたし 頑張るから ジョー!
きゅっと口元を引き締め彼女はもう一度 自分の名前の載るリストを見つめ直した。
朝のクラスの後、レヴェランスを終えると、フランソワーズはさささっと
タオルで汗を拭いつつクラス・ルームを見回した。
ダンサーたちはてんでに自習したりクールダウンしたりしている。
・・・ え〜と・・・ あ いた・・・!
奥の鏡の前で 長身の男子がトウール・ザンレールを繰り返している。
シュッ ・・・ トン。 長い脚がきちっと五番に着地した。
「 ナイスッ ! 」
ぱちぱち手を叩きつつ 彼女は駆け寄った。
「 ・・・ へ? あ〜 ど〜も〜 」
彼は振り向くを に・・・っと笑った。
「 うふ・・・ ばっちりね。 あ あの ・・・ 」
フランソワーズは肩からタオルを取ると さっと頭をさげた。
「 あの 山内さん? よろしくお願いします 今度の勉強会・・・ 」
「 はへ? ・・・ あ〜〜〜 わあ〜〜〜お〜〜〜 フランソワーズさん〜
俺 ・・・ あ いや 僕こそ〜〜 ヨロシクぅ〜〜 」
「 あ あの わたし ・・・ 『 ジゼル 』 は 初めてで・・・
いえ その パ・ド・ドゥ なんですけど ・・・ 迷惑かけると思います
どうぞよろしく ・・・ 」
「 え〜〜 あ 俺 いや 僕こそ あんまし パ・ド・ドゥ やったこと
ね〜んで ・・・ こっちこそ 〜〜 」
彼も ぺこん、とアタマをさげた。
「 うふ・・・ あ パリ・オペラ座版ですよね〜 」
「 あ ウン けどさ、 一応ここのスタジオ版だから ・・・
事務所で DVD 借りたらいいよ 今までにやったヤツとかあるから 」
「 はい ありがとう あの ホントによろしく 」
「 あ〜〜 もうそ〜いうのナシ〜 俺さ 君と組めるってもんのすご〜〜〜〜〜く
らっき〜〜 って思ってるんだから! 」
「 え ・・・ で でも 」
「 へへ ぎこぎこ パ・ド・ドゥ 〜〜〜 頑張ろうぜぇ〜〜〜
きっとさ〜〜 マダムに怒鳴られっぱなし だろうけど 」
「 うふふ・・・ そうね♪ じゃ 握手♪ 」
白い手が すっと差し出された。
「 うっひょ〜〜 」
タクヤは ゴシゴシ手を引っ掛けていたTシャツの裾で拭いて差し出した。
ぎゅ。 ― この握手から フランソワーズとタクヤの名コンビ が始まった。
その日の夜 遅く ・・・
「 ただいま ・・・ フラン・・・? 」
ジョーは そっとリビングのドアを開けた。
もう深夜 ― 家族は全員寝静まっていて当然な時間だ。
「 あれ? TV 点いてるけど ・・・ あ〜〜 」
TVの前 ソファの下で、金髪頭がく〜〜く〜〜〜・・・ 沈没していた。
「 あは ・・・ 疲れてるんだろうなあ このままじゃ風邪ひくよ
フラン・・・? ほら 起きて ? 」
「 ・・・ ん 〜〜〜 ・・・・ 」
そっと肩を揺すったけれど 微かに反応があっただけでまたすぐに気持ちよさそうな
寝息をたてはじめた。
「 あ〜 ・・・ しょうがないなあ・・・ 」
ジョーは彼女が握っているリモコンを取り上げTVを切った。
「 では 奥さま? ベッドまでご案内いたしましょうかね 」
す・・っと細君を抱き上げると こそっと唇にキスを落とす。
「 あ〜 ・・・ なんてきみは無防備なんだ〜〜 ふふふ 寝顔、こんなに
じ〜っと見るの、久々だな 今晩は久々カップ・ラーメンでも食べるかなあ〜 」
さらにもうひとつキスをすると 彼は彼女を抱いてゆっくりと寝室へ上がっていった。
「 ふふ ・・ ぼくのオクサンは夢の国〜〜 だなあ ・・・
あ チビたち、見て来なくちゃな〜 ふふふ すぴかはどうせまた布団を
蹴っ飛ばしてるだろうしさ 」
ちゅ。 こそ・・・とキスを落とすと ジョーは子供部屋に行った。
「 えっと ・・・ 入るよ〜〜 お父さんだよ〜〜〜 」
そうっとドアを開ければ 常夜灯の元、天使が二人・・・ぐっすり眠っている。
「 あは やっぱりな〜〜 すぴか〜 あんよは仕舞おうね〜 」
ジョーは彼の娘のちっちゃな足を布団の中に戻した。
「 お〜い すばる? 潜航すると苦しいぞ〜〜 」
アタマの上まで毛布を被っている息子を よいしょ・・・ひっぱりだす。
「 ふふ ・・・ かっわいいなあ〜〜 むふふふふ〜〜〜 」
彼は天使たちのぷくぷくの頬に こっそり頬擦りをする。
ふと見れば ベッドサイドにはメモが貼り付けてあった。
22:00 寝顔確認
「 うん? あ 博士・・・ 見回ってくださったのか
ありがとうございます 」
メモの隅のサインに ジョーはぺこり、とアタマを下げる。
「 よかったなあ〜 お前たち・・・ いっぱい寝ていっぱい遊んで・・・
丈夫に育てよ〜〜 」
もう一回娘と息子の寝顔を眺めると 彼はそう・・・っと足音を忍ばせ 子供部屋を
後にした。
キス キス ・・・ キス。
「 ・・・・ ? ・・・ 」
な なんだ ・・・? ああ なんか柔らかいモノが・・・
・・・ えへ・・ フランのキスと似てる なあ ・・・
えへへへ ・・・・
ジョーは夢うつつのうちにもに〜〜んまりしてしまった。
「 ・・・ むにゃ〜〜〜 うふふふ〜〜〜 」
「 ジョー ・・・ ごめんなさい〜〜 ! 」
「 ・・・ へ?? 」
今度は 甘い声が降ってきた。
ぼ〜〜っと目を開けてみれば ― 彼の愛するヒトの顔があった。
「 ・・・ あ ・・・ フラン・・・ おはよ〜 」
「 ジョー〜〜 わたし 昨夜居眠りしちゃって・・・ 夜食も作らなくて〜〜 」
「 あ〜 いいよ〜う なんか疲れてたんだろ?
毎晩 起きて待ってなくていいよ 帰り遅いんだし ・・・ 」
「 でも〜〜 ジョーはお仕事で頑張っているのに〜〜
」
「 きみだって仕事に家事に育児に ・・・大変じゃないか 気にするなよ 」
「 ・・・ ありがとう ジョー 〜〜〜 」
「 きみが笑顔なら ぼく、シアワセだから さ♪
・・・ま たまには ・・・ ゆっくり二人きりで さ〜〜? 」
「 うふふ ・・・ そうね 土曜の夜に ね♪ 」
「 りょうか〜〜い♪ 」
ちゅ。 二人は朝のキスを交わし ― 今日も一日が始まった。
そ そうよ ・・・!
こんなにジョーに応援してもらってるんだもの。
わたし ― が 頑張らなくちゃ・・・!
きゅ。 彼女は心の中で唇を噛み締めていた。
〜〜〜〜♪♪ ♪♪・・・
音楽がゆっくりと終わり、ダンサーたちもきっちりと五番ポジションで終わった。
「 そうね〜〜 あ はるか、アームス、もうちょっと低い方がいいわ
みちよ? 音取り ちょっと速い・・・ かな? 」
マダムの注意が飛んで ダンサーたちはうんうん・・・と頷いた。
朝のクラス、センターでのアダージオで自分の順番が終わったときのことだ。
「 あ〜 フランソワーズ?
そんな顔してると 旦那さんに愛想を尽かされるわよ? 」
「 ・・・・! 」
ぽろっとマダムに言われて フランソワーズは一人、真っ赤になった。
それは彼女の母国語で普通の声でごく早口の発言だったので 理解できたのは
言われた本人 ― フランソワーズ だけ だった。
「 ・・・ は はい ・・・ 」
「 ほら 笑顔。 皆も! 笑顔! いいわね! じゃ 次は〜〜 」
クラスはどんどん続いてゆく。
フランソワーズも慌てて クラスに集中した。
へへ ・・・ 彼女〜〜 か〜わいいなあ〜〜
タクヤは横目でちらっと見て に〜〜〜んまり・・・していた。
勿論 彼も先ほどのフランス語は理解できていない。
かっわいいよなあ〜〜 俺よか ちょっと年上 かなああ??
けど 全然カワイイじゃん〜〜
めっちゃタイプだぜ〜〜♪
「 ? タクヤ! どこ 見てるのっ 」
「 へ〜〜い〜〜 」
よそ見を見つかってしまった。
「 集中してないと怪我しますよ? 」
「 ・・・・ 」
彼はぺこり、とアタマをさげ きちんと前を向いた。
・・・ ああ イヤ・・・ ! なんて顔 してるの〜〜 わたし!
フランソワーズは 鏡の中の自分に呆れてしまった。
今朝のクラス ・・・ あまり調子がよくない。
バー・レッスンはまあまあだったけど センターに移ってからは
アダージオで 順番をずいぶん間違えてしまった。
バランスもぐらぐら・・・ 一人で空気を乱していた・・
思うように踊れない ― 彼女の表情はますます深刻になってゆく。
頑張らなくちゃいけないのに・・・!
そうね 暗い顔していちゃ ダメよね・・・・
ジョーに ウチの皆に心配かけちゃ ダメ。
こんなに応援してもらっているのに・・・ これ以上は・・・
そうよ! ちゃんとクラスしてリハーサルしなくちゃ。
タクヤ君にも迷惑がかかるわ。
彼 ・・・ きっと呆れてしまうわね・・・
わたし 上手に踊らなくちゃ! でも でも ・・・
昔のわたし こんなに身体 重くなかったわ!
もっと軽く 速く 回ってた もっと高く 跳べてた!
こんな踊り わたし じゃないわ!
こんな身体〜〜〜 もうイヤ〜〜
ああ どうしたら いいの・・・??
鏡の中で 金髪の女の子は半分泣き出しそうな顔をしていた。
Last updated : 07,19,2016.
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********* 途中ですが
あは 新ゼロ あのシーンが なぜか〜〜〜
平ゼロ 【 しまむらさんち 】 につながります☆
久々 カレシの登場です〜〜〜