『 眠りの森の − (1) − 』
「 本当なの! 本当にみつけたの。 あの森の中で・・・ 」
「 ああ、誰もお前の言葉を疑ってなんかいないよ。 」
「 でも・・・ お兄様ったらちっとも熱心に聞いてくださってないわ。 」
「 聞いているとも。 お前が 禁止されている黒の森の奥にまで
入り込んだってことは ちゃ〜んとわかったさ、 フランソワ−ズ。 」
「 ・・・ あ ・・・・ 」
興奮して 桜色に染まった頬に手を当て、亜麻色の髪の少女は困った顔をした。
豊かな巻き毛がふさふさと肩にかかり、日の光に黄金よりも華麗に輝いている。
大きな瞳は空の色よりも宝玉よりも青く澄み切っている。
そして。
少女はすんなりとした肢体を白銀のタイツと瞳の色に似たチュニックに包み
腰に巻いた白革のベルトには細身の剣をさげていた。
「 ごめんなさい ・・・ でも! でもね、お兄様!
あの森には別に、人攫いの木霊もツノのある魔物もいなかったわ。
ただ、すごく深い森だったけど。 」
「 ああ、ああ。 よ〜くわかったよ。 このことは父上には内緒にしておいてやる。
だから、な。 フランソワ−ズ。 いや、 フランソワ−ズ姫。 よく聞きなさい。 」
「 ・・・ はい ・・・ 」
兄の改まった口調に 少女は思わずすとん・・・と毛皮を敷いた椅子に腰を下ろした。
そんな妹を、いや妹姫を 兄王子はやさしく見つめていたがやがて重々しく口を開いた。
「 もうその形 ( なり ) は止めなさい。 」
「 ・・・! ジャンお兄さま! だって ・・・ お兄様も賛成してくださったでしょう?
フランソワ−ズには重いドレスよりも 王子の服装の方がよく似合うなって。 」
「 ああ。 でも もうそなたももうすぐ16歳。 一人前の女性ではないか。
いつまでも遊び呆けていてはいけないよ。 」
「 そんな・・・ わたし、遊んでなんかいません。 剣の稽古だって 乗馬の練習だって
ちゃんとやってます。 もし 戦があったらきっとお兄様の下で手柄を上げてみせます。 」
またまた勇ましく頬を染める妹姫に、 ジャン王子はますます困った顔をした。
「 ありがとう。 そなたは兄が一番頼りにしている勇敢な騎士だな。 」
「 お兄様・・・ フランソワ−ズはまだまだ騎士としてこの王国のお役に立ちたいのです。 」
フランソワ−ズは立ち上がると、騎士としての作法どおり兄王太子に会釈をした。
「 これは・・・ 父上がお決めになったことなのだけれど。
兄の希望でもあるのだ。 よく聞きなさい、フランソワ−ズ姫。 」
「 ・・・ はい、お兄様。 」
「 来週のそなたの誕生日、16歳になる日。 花婿候補の騎士達が諸国から来られる。
その中から ・・・ 将来の夫となるひとを決めるのだ。 」
「 ・・・・ お兄さま ・・・ 」
「 いずれ、私が父上の後を継いでこの国を統べる時がきたら、そなたは夫と共に私を補佐して欲しい。
この広大な国土の ・・・ そうだな、黒の森のある豊穣な地方はそなた達に任せよう。 」
「 お兄様・・・! わたし ・・・ わたし まだ結婚なんか・・・ 」
「 決して早すぎることなどないはずだ。 母上はお前とあまり変わらないお年で
父上の許に輿入れなさったのだぞ。 」
「 ・・・ それは ・・・ そうですけれど・・・ 」
「 父上も もう御年だ。 はやくそなたが可愛い孫の顔をお見せしたらいい。 」
「 お兄さま・・・! 」
「 兄も 来年の成人の祝いの席で 将来のこの国の女王となるひとを選ばなければならぬ。 」
「 ・・・ 将来の女王 ・・・ お兄様のお妃さまね。 」
「 そうだ。 そなたの義姉上ともなる方だ。 」
フランソワ−ズは兄の横顔に走った影を 見落とさなかった。
「 ・・・ でも、お兄さま。 あの・・・ ロ−ザは・・・・ 」
「 彼女のことは 口にするな。 」
「 ・・・ はい。 」
ジャン王子はぷつり、と言葉を切り居室の窓から うす水色にひろがる空に視線を投げた。
・・・ お兄さま ・・・ 本当はロ−ザのことが ・・・
フランソワ−ズは兄の側にいたセピアの髪の乙女を思い浮かべた。
侍従長の娘である彼女は。 ある日、突然この城から姿を消してしまった。
いつも穏やかな表情を浮かべている兄の唇には 今、微笑はなかった。
「 さあ。 もう下がって・・・ そしてこの王国の姫に相応しい装いをしておいで。
そなたは勇猛果敢にして慈悲深いギルモア王のただ一人の姫君ではないか。 」
「 ジャンお兄さま・・・! お願いです。 今日一日、今日だけでいいの。
まだ ・・・ この恰好でいることをお許しください。 馬に乗りたいの。 」
兄とおなじサファイア色の瞳を煌かせ、フランソワ−ズは懇願した。
「 ・・・ わかったよ。 今日だけ、だぞ。
少女時代のいい思い出になるだろう。 あまりと遠くへは行くな。 」
「 はい。 ジャンお兄様。 」
「 父上だけでなく ・・・ 私もそなたの花嫁姿を早く見たいよ。 」
「 ・・・・・・・・ 」
フランソワ−ズはきゅっと口を噤むと 兄に一礼し豪華な居室を出ていった。
白いマントが翻り、 そのすらりとした後ろ姿は どうみても年若い王子そのものだ。
これで 妹も大人しくなってくれるといいが・・・
ああ、この姿も見納めだな。 ちょっと惜しい気もするが・・・
ジャン王子は 微笑んで妹を見送った。
「 姫さま。 兄君 ・・・ いえ、失礼しました、王太子様のご用事は何だったのでございます。 」
「 ・・・ ばあや・・・ 」
剣を鳴らして 自室に戻ってきたフランソワ−ズを 恰幅のよい中年の婦人がいそいそと迎えた。
「 ばあや。 遠乗りに行きたいの。 乗馬服を出して。
それで・・・ ジェロニモに アロ−を牽いてくるように言ってちょうだい。 」
「 遠乗り? この時刻からですか。 」
「 そうよ。 まだ日暮れまでには時間があるわ。 」
「 ですが・・・ 姫様。 秋の日はつるべ落とし・・・ あっという間に暗くなります。
また ・・・ あの森へおいでになるのでしょう? 」
「 そうよ。 あ・・・ でも、これはお兄さまには絶対にナイショよ! 」
「 お危のうございます。 勿論ジェロニモにはしっかりお護りするように言いますが。 」
「 大丈夫よ! わたし、剣だって弓だって強いのよ? 知っているでしょう。
遠目が利くのも わたしが一番よ。 」
「 はいはい。 姫様が諸侯達のこのご子息方にも負けない腕をお持ちなのは
このばあやが一番よく存じておりますですよ。 でも ・・・ 」
「 でも、なんなの。 ああ・・・早く出かけないと! 」
「 姫様。 いくら姫様がお強くても。 お嫁入り前の姫様にもしものことがあったら・・・
ばあやは もう ・・・ 死んでしまいますよ! 」
「 ばあや。 大丈夫。 今日で最後なの、 この ・・・ 恰好。 」
「 ・・・ はい? 」
「 お兄様がね。 来週の16歳のお誕生日に ・・・ 選びなさいって。 」
「 選ぶ・・・? なにを・・・ ああ! まああ〜〜〜 お婿様候補がいらっしゃるのですね! 」
「 ・・・ わたし ・・・ まだ結婚なんて。 でも お父さまとお兄さまがお決めになったことよ・・・
だから! 今日は 見逃して。 今日だけは わたしの好きにさせてちょうだい。 」
「 はいはい・・・ ばあやのフランソワ−ズ姫さま・・・ 」
「 さあ。 着替えるわ! 」
「 はい。 どうぞ。 いつでもご用意できております。 どうぞこちらへ。」
「 さすがに ばあやね。 」
「 姫様がお生まれになったときから お仕えしておりますです。
ばあやには 姫様のことなら なんでも ・・・ 自分のことと同じにわかります。 」
乳母どのは 太った身体を身軽に操り、帳の陰でフランソワ−ズの着替えを手伝った。
真っ白は肌が現れ 今度はベ−ジュとセピアの鞣革をあしらった乗馬服が
しなやかな肢体を覆った。
「 ・・・ ねえ、ばあや。 」
「 はい、姫様。 」
フランソワ−ズは ふと着替えの手をとめて背中の掛け金を止めているばあやに声をかけた。
「 ばあやも ・・・ そんな風だったの? 」
「 なにがでございますか。 ・・・ はい、こちらはようございますよ。
ああ・・・ 御髪を纏めておきましょう。 そうそう・・・ 先日、兄君からの御土産の
あの ・・・ 赤い革製のカチュ−シャ、あれで御髪を ・・・ 」
「 だから。 その ・・・ お嫁入りのこと。
ばあやも 顔もしらないで張大人のところへお嫁入りしたの? 」
「 まあ、姫様・・・ 」
ばあやはくすくす笑って フランソワ−ズの豊かな髪を梳き始めた。
「 わたくし共は高貴な方々とは違いますよ。 違いますが・・・・ やはり張との結婚は
わたくしの父が決めました。 」
「 ばあやは ・・・ お父様の言葉に従ったの? 」
「 はい。 若いけれど腕利きの料理人で誠実な若者だよ、と父は申しました。
ばあやはそれで充分、と思って張の許へ嫁ぎました。 はい・・・父の言葉通りのヒトでした。 」
「 ・・・ そう。 ばあやは 幸せね。 」
「 姫様。 お父上様も兄君も ・・・ 姫様を一番大切に思っていらっしゃいます。
その方達のお決めになったことに間違いはございませんよ。 」
「 ええ・・・ それは・・・ そうだと思うのだけれど・・・・ 」
「 さ。 これでようございます。 思いっきり馬と遊んでいらっしゃいまし。
そして 明日からは素敵な姫君様のお姿になってくださいまし。 」
「 ・・・ いってくるわ。 」
フランソワ−ズは乗馬用のブ−ツを鳴らし 豪華な居室を出ていった。
「 ・・・ 姫様。 」
「 ああ、ジェロニモ。 アロ−は? 」
「 はい、 御前で姫君をお待ちしております。 」
戸口の脇に巨躯を屈めていた若者に フランソワ−ズは満足の笑みを投げた。
「 ありがとう。 供を頼むわ。 」
「 かしこまりました。 」
「 黒のへ行くわ。 お兄様にはナイショにしてね。 」
「 ・・・ 姫様・・・ 」
「 大丈夫よ。 わたし、乗馬 ( うま ) はお兄様にも負けない腕前よ。
今日は奥まで行ってみるだけだから心配しないで。 」
「 はい。 」
お側去らずの忠実な若者はじっと畏まっている。
「 あの森・・・伝説の森なのよ。 昔、あの奥にお城があったのですって。 きっと本当だわ。
だってね、この前 ・・・・ ちらり、とだけど木深い森の間から尖塔がみえたもの。 」
「 姫様 ・・・ あの森には恐ろしい魔女が棲むといいます。 」
「 そう・・・ 皆そう言うけれど。 でも誰も見ていないわ。 」
フランソワ−ズはジェロニモを従え、 城の前庭に出た。
真っ白毛の駿馬が 主人の姿をみとめ、鐙を踏み鳴らし擦り寄ってきた。
「 アロー・・・ ご機嫌ね。 ねえ・・・ これからちょっと遠乗りに出てくれる? 」
アロ−は螺鈿を施した鞍を置いた引き締まった身を震わせ、女主人の提案を歓迎した。
「 まあ、ありがとう! ふふふ ・・・ オヤツに砂糖の塊を持ってきたわ。 向こうに着いてのお楽しみ♪ 」
「 ・・・ さあ。 行くわ!! 」
黒馬に跨ったジェロニモを従え、居館の入り口で腰を屈めて見送ってくれるばあやに大きく手を振ると
フランソワ−ズ姫は煌く髪を翻しアロ−と共に白い矢になって王城から飛び出していった。
石床を蹴る爽快な音が 城の窓からも響いてくる。
「 ・・・ 姫か? 」
老王は 物々しい羊皮紙からふと、顔を上げた。
向かい側で調ものをしている王太子は さっと立ち上がり頭を下げた。
「 はい。 申し訳ありません、父上。 今日だけまだあの形 ( なり ) で馬に乗りたい、と
申しましたので 許してしまいました。 」
「 ははは・・・ よいよい。 ワシも姫の勇ましい騎士姿が好きじゃ。 」
「 しかし ・・・ もう子供のではありません。 来週の園遊会でのことは申し渡しておきました。 」
「 そうか。 ・・・ まだ手元に居て欲しいが。 あれの母によく似てきた・・・ 」
「 母上にですか。 」
ちょっと驚いた風な息子に 父王は思わず破顔した。
「 そうだ。 そなた達の母はな、若い頃にはワシと共に平気で遠乗りにでかける、
お転婆 ・・・・ いや、活発な女性だったのだよ。 」
「 ・・・ はあ・・・ 初耳です。 」
「 そなたがまだ幼い頃に亡くなってしまったからな。
姫のお転婆は 母譲りのようだぞ。 」
父王は 懐かし気な視線を宙に飛ばし、皺深い頬に明るい笑みを浮かべた。
「 そなた達兄妹が この国を統べてくれれば母もあの世で喜んでくれるじゃろう。 」
「 父上・・・ 」
「 来週の誕生日に姫は婿を選び、来月そなたの成人の日には将来の女王を選ぶのだ。 」
「 ・・・ 父上 ・・・ ! 私は・・・ ! 」
「 侍従長からの願いじゃ。 娘のことは忘れて欲しい、とな。 」
「 ・・ ・・・・・・ !! 」
ジャンはきつく口を結び、じっと目の前の書物を見つめていた。
「 すごい ・・・ 藪ね。 こんなに密は林は珍しいわ。 」
フランソワ−ズは巧みにアロ−を操って 小暗い森の中を進んでゆく。
生い茂った下草も 大きく枝を拡げる木々も スリムな身体ですり抜ける。
かえって巨漢のジェロニモは行き滞み 次第にフランソワ−ズと距離が空いてしまった。
「 あ・・・! ねえ、今、尖塔が見えたでしょう? あの杉の大木の間から・・・? 」
歓声をあげ、フランソワ−ズが振り返ったときお側去らずなはずの巨漢の姿は
もう、藪を透かしても見つけることができなかった。
「 あら・・・・。 そうか ・・・ ジェロニモには無理だったかもしれない。
ごめんなさい・・・ 」
アロ−は 軽く嘶いて背中の女主人を急かせた。
目の前にびっしりと塞がっている藪を 突破しよう! と促しているのだ。
「 ちょっと待って、アロー。 ・・・ これは ・・・ 茨だわ。
ほら 鋭いトゲが沢山・・・ 」
手を伸ばして引き寄せたツルは 皮手袋ごしにもちくちくした。
「 だめだわ。 お前、傷だらけになってしまうわよ。 ちょっと待って・・・ 」
フランソワ−ズは ひらり、とアロ−から降りた。
足元は意外にもふんわりと柔らかく気持ちがよかった。
「 まあ ・・・ コケがびっしり生えているのね。 すこし休憩しましょう。 」
鞍に括りつけた小さな樽を外して フランソワ−ズは水を両手で掬いだした。
「 ほら・・・ お水よ、アロ−。 お飲み・・・ おいしい?
それじゃ ・・・ 約束のオヤツね。 」
腰の皮袋からは 砂糖の塊が出てきた。
「 ふふふ ・・・ ここまで来てくれたご褒美よ。 」
ぶるるる・・・ アロ−はハナを鳴らして女主人の掌を舐めた。
「 きゃ・・・ うふふふ。 お前はいつも暖かいわね。 」
フランソワ−ズは鞍の下に敷いた布を取り出し、アロ−の身体を拭いてやる。
「 ああ、こんなに汗ばんで・・・ ごめんね。 随分遠くまで来てしまったわ。 」
フランソワ−ズは自分は水も飲まずに、そのまま手近な樹の根方に腰を下ろした。
足元を吹き抜ける風に 冷たさが含まれてきた。
「 どうしようかな。 もう ・・・ これ以上は無理だわねえ。 う〜〜ん、残念! 」
兄から学んだ兵法には <退く> ことの重要さもちゃんと述べられていた。
「 いいわ。 また、来るわ。 今度は斧とか鉈とか 藪を切り開く道具が必要ね。 」
う・・・ん ・・・ ! と手足を伸ばし、フランソワ−ズは空を見上げた。
そろそろ 西の方向から茜色の光が差し始めてくる。
「 もうすぐ夕暮れね。 わたしの 騎士としての日も ・・・ 終わり、か・・・ 」
いつかは ・・・ と思ってはいたけれど、その日がこんなに早く来るとは。
愛用の剣を目の前に翳し、姫君は深く吐息をついた。
「 これとも お別れなの? 明日からはずっとお城の奥に引き篭もって重いドレスに身を包んで・・・ 」
そう、いつかはこの王国の姫として、伴侶と共に兄を援けるのだ、と思っていたが。
「 自由がないならせめて・・・ こころ惹かれる方に巡り会いたいわ。 そんなの、可笑しいかしら。
ばあやだって、お父様の言うなりに結婚したって言ってたけど・・・ 」
ふうう ・・・・・
深い溜息は ・・・・ 次第に欠伸にかわり、いつの間にかフランソワ−ズはコケの絨毯の上で
ぐっすりと寝入ってしまった。
「 ・・・ 姫 ・・・ フランソワ−ズ姫 ・・・ 」
「 ・・・ え ・・・ わたしを呼ぶのは だあれ? 」
「 ボクだよ。 ほら ・・・ 姫の目の前にいるヨ。 」
「 ・・・ ?? 」
不意に名をよばれ、起き上がると ・・・ 目前になにか白いものがふわふわと浮いていた。
「 な・・・! なにもの!? 」
咄嗟にフランソワ−ズは剣を引き寄せ 抜き放った。
「 やだな・・・ そんな物騒なモノはしまってよ。 ボクは天使さ。
眠りの天使。 イワンっていうんだ。 」
「 眠りの天使 ・・・? 」
「 そうだヨ。 眠りの中で、望みをかなえてあげる。 眠りの中で、未来を見せてあげるヨ。 」
「 望みですって?? あ・・・ 待って・・・! 」
白いものはたちまち羽のある赤ん坊となり、フランソワ−ズの前から飛んで行った。
「 どこへ行くの。 えっと ・・・ イワンちゃん? 」
「 あ。 <ちゃん>はよしてくれヨ。 あの ・・・ お城へ。
黒の森の奥に封印されたお城の近くまで 連れていってあげる。 さあ・・・捕まって? 」
「 え・・・ あの ・・・ キミの手に? 」
「 ウン。 ・・・ ほら。 」
「 ・・・ それじゃ ・・・ お願い! 」
差し出された小さな手を フランソワ−ズは指先だけで軽く握った。
「 ヨ〜シ。 ゆくヨ。 ・・・ そら・・・ ! 」
「 ・・・わ・・・!! す、すごいわ〜〜 わたし、空を飛んでいる??? 」
「 綺麗で勇敢な姫君。 キミはきっと ・・・ あのヒトなんだ。 」
「 あのヒト? もう ・・・ イワン君はわからないことばっかり言うのねえ。 」
「 エヘヘ・・・ 今はヒミツ。 でもじきにワカルヨ。 さあ・・・ ココだ。 」
二人はふわり、と草地に降り立った。
そこだけ茨も生い茂る木々も払われていて 隅には野薔薇が小さな花を見せていた。
「 ここ・・・? あ! ・・・ お城が・・・! あのお城ね? 黒の森の伝説のお城・・・・ 」
ふと顔を上げると まだかなり遠いが壮麗な城を望むことができた。
「 そうだヨ。 白鳥の城、とまで言われた城サ。 さあ・・・ キミに会わせたいヒトがいるんだ。 」
「 ・・・・??? 」
フランソワ−ズは さっと髪を払い、マントを引き寄せ簡単に身繕いをした。
「 ・・・ イワン? どこだい。 ぼくに会わせたいヒトって・・・・ 」
「 ・・・ あ ・・・ ! 」
野薔薇の生垣の影から ひとりの若者が現れた。
ベ−ジュのチュニックに濃い朽ち葉色のタイツ、そしてセピア色の髪が揺れている。
「 ・・・ 失礼。 騎士どの・・・??? 」
「 あ・・・ わたしこそ・・・ ご領地に勝手に入ったことをお許しください。 」
フランソワ−ズは腰を屈め 素直にアタマを下げた。
「 いや ・・・ そんなことは全然構いませんが。 ・・・あれ? もしや・・・ 姫君、ですか? 」
若者は フランソワ−ズを眺め、髪と同じ色の瞳をぱちぱちさせている。
「 はい。 ギルモア王国の王女、 フランソワ−ズ と申します。 」
「 フランソワ−ズ ・・・ 姫 ・・・ ああ・・・ これは夢なんだ・・・ 」
「 夢? あの、イワン君が見せてくれているのかしら。 」
「 そう ・・・ ぼくは ジョ−。 故あって ・・・ 白鳥の城の奥深くに眠っています。
イワンだけが ぼくを、ぼくのこころを時々連れ出してくれるのです・・・今みたいに。 」
「 あなたは あのお城の王子様なのですか。 」
「 そうです。 しかし ・・・ 悪しき呪いを受けてしまい、真実の乙女だけがぼくを、
この城全体を助けてくれるのです。 」
「 まあ ・・・ ジョ−様 ・・・ ジョ−王子さま・・・ 」
「 フランソワ−ズ姫 ・・・ 」
ジョ−の手が フランソワ−ズの白い手をしっかりと握った。
「 初めてお目にかかった気がしません。 ああ・・・ 暖かい手だ ・・・ 」
「 ジョ−さま。 わたしも・・・・。 ふふふ ・・・ こんな形 ( なり ) のお転婆でも
お気に召していただけまして? 」
「 そんな ・・・ 軽快な服装があなたにぴったりですよ。
勇敢は姫君。 ああ・・・ なんだか とても懐かしい想いがするのは なぜだろう・・・ 」
「 ねえ、ジョ−様。 」
「 なんですか。 」
「 わたしもこんな恰好ですから。 せっかくです、剣の試合を申し込みます ! 」
「 え ・・!? 」
ジョ−はセピア色の瞳をまん丸にして フランソワ−ズを見つめていたが やがて・・・
くすくすと笑いだしてしまった。
「 結構ですよ! お受けします。 ふふふ ・・・ 初対面の姫君に剣で挑まれるのは
初めてですよ。 どうぞお手柔らかに。 」
「 王子サマ? 申し上げておきますが。 本気で、どうぞ。 」
「 御意。 手加減はしませんから。 」
ジョ−は慇懃にお辞儀をすると さっと纏っていたマントを脱ぎ捨てた。
「 ありがとうございます。 ・・・・ では ・・・ ! 」
ぱあ・・・っと白いマントも草地に舞い落ち ・・・ フランソワ−ズはきらり、と剣を抜き身構えた。
「 姫君 ・・・ ではいざ、勝負・・・! 」
カン ・・・ カンカンカン ・・・ カン ・・・ !
暮れなずむ空に 剣と剣がはげしくぶつかりあう音だけがひびく。
ざ ・・・っと 二人の騎士が草地をふみわけ、退いては押し、また踏み込んでゆく。
内心、姫君か・・と油断していたジョ−は たちまちのうちに追い詰められてしまった。
フランソワ−ズの剣捌きは正確で無駄が無く、ジョ−は防御するので精一杯だ。
しかし なんとか体勢を立て直すと ジョ−はじりじりと攻めに転じた。
カン カン・・・ カンカン ・・・!
ついに今度はフランソワ−ズが追い詰められ、絶体絶命・・・と思えたとき・・・
・・・・ カンカン ・・ キーーーーン !!
瞬時のスキを突き、フランソワ−ズはジョ−の剣を弾き飛ばした。
「 は〜い、それまで! それまでだヨ 〜〜 」
「 ・・・ わ!? 」
「 ・・・ きゃ・・・ ! 」
突然 ちびっこ天使の姿が宙にあらわれると、二本の剣は騎士たちの手を離れびゅん・・・と飛んだ。
あまりに急だったので フランソワ−ズは思わず踏鞴をふみ、前にのめってしまった。
「 ・・・ 危ない・・・ ! 」
「 きゃ・・・!! ああ・・・ ありがとうございます・・・ ジョ−さま。 」
とっさにジョ−は手を差し伸べ ・・・ そのまましなやかな肢体を抱きとめた。
「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・・ きみは 素敵だ・・・! 」
「 ジョ− ・・・ あなたも ・・・ 」
セピアと青のひとみが しっかりと見つめ合い、二人はどちらからからともなく腕を絡ませ
唇を熱く重ねた。
「 さあ、 これでいいネ? キミ達はお互いに捜していた相手をみつけたんだヨ ・・・
あとは ・・・ 二人の勇気だけだヨ〜〜〜 」
「 フランソワ−ズ ・・・ これをきみに・・・! 野に咲く可憐な薔薇の姫君に ・・・ 」
ジョ−は野薔薇を一輪手折りキスをすると フランソワ−ズの髪に添えた。
「 え・・・ あ??? ジョ− ・・・??? イワン君?? 」
不意に 目の前から若者の姿も宙に浮く天使も消えてしまった。
「 ・・・ どこ ・・・? ・・・ ああ ・・・ 夢だったというの・・・? 」
「 姫・・・! しっかりするのだ! フランソワ−ズ・・・!! 」
「 ・・・え ・・・・ ジョ− ・・・? いえ ・・・ちがう?? 」
「 フランソワ−ズ ! おお ・・・ 目が開いたか! 」
「 ・・・ あら! お兄様・・・? 」
聞き慣れた声にふと気が付けば 目の前に兄の心配顔があった。
「 ・・・ わたし ・・・?? 」
どうやら、自分は巨木の根方で眠りこんでいたらしい。
フランソワ−ズはそっと身体を起こした。
「 大丈夫か? 起きられるか・・・ ああ、無理をするな。 」
ジャン王子は立ち上がろうとした妹姫の身体を 慌てて抱きとめた。
「 ばあやが暗くなるのに姫が帰ってこない・・・と真っ青になっていたぞ。
ジェロニモも戻らないし・・・ 父上には内密で捜しにきたのだ。 」
「 ごめんなさい、お兄様。 遠乗りに来て・・・ あ ・・・ 道を踏み間違えてしまいました。 」
なぜか、先ほどの出来事を語るのはたとえ兄にでも憚られる気がした。
「 月明かりを待とうと・・・ 休んでいたのですが・・・ 」
「 そうかそうか・・・ 心配したぞ! そなたにもしものことがあったら ・・・ この兄は・・・ 」
「 ご心配をおかけしました、お兄様。 大丈夫、騎乗で帰れますわ。 」
フランソワ−ズは 兄の腕から離れ、かるく会釈をした。
「 では 久し振りに鐙を並べて城に戻ろうか。 ああ、父上には兄が迎えにゆく
約束だった、と申し上げてあるから・・・ 」
「 はい。 お兄様、 ありがとう・・・! 」
「 もう、こんな心配はこれっきりだぞ? ・・・ うん? いい香りがするな・・・
この季節に野薔薇か・・・ よく似合っているよ。 」
「 ・・・ あ ・・・・ 」
フランソワ−ズは 髪にそっと手を当てた。 瑞々しい野薔薇が指に冷たい。
・・・ あの方の口付け ・・・
不意にあの王子の唇の暖かさが蘇り フランソワ−ズは首の付け根まで赤くなってしまった。
・・・ 眺めていたのは 雲間から現れた秋の月だけだったけれど。
黒の森は 中天に昇った月の光をうけ白銀色に輝いていた。
「 姫様、フランソワ−ズ様 ! ご準備はようございますか? 」
ばたばたと ばあやが先ほどから何回も出入りしている。
「 はい、わたしはいつでもよろしくてよ。 」
フランソワ−ズは大きな姿見の前から 静かに答えた。
「 まあ、お客様方が続々とご到着ですよ。 盛大な宴になります。
皆様が、姫様の16回目のお誕生日を祝ってくださるなんて・・・ ああ・・・もうばあやは・・・ 」
ばあやは派手な音をたて、ハナをかんだ。
「 ばあやったら・・・ そんな、泣かないでよ。 」
「 いま少し時間はございますが。 失礼しますよ ・・・ ああ ・・・ ! なんてお綺麗な・・・ 」
ばあやは帳を上げて顔を覗かせ、彼女の大切な姫君の姿をほれぼれと見つめた。
「 もう ・・・ 何回同じことを言うの? 」
「 何回でも言わせて頂きますよ。 ああ・・・ お綺麗 ・・・
姫様、なにかお飲み物でもお持ちしましょうか。 」
「 そうね ・・・ じゃあ、カモミ−ル・ティをちょうだい。 」
「 はい、かしこまりました。 すぐに ・・・ 」
・・・ ふうう ・・・・
フランソワ−ズは姿見に写った自分をしげしげと眺めそっと溜息をついた。
そこには いつものほっそりしなやかな身体の生気に満ちた少年 ・・・ の姿はなく、
高く結い上げた髪に宝玉を煌かせ、華やかなレ−スに縁取られた長いドレスの姫君がいた。
こんなの ・・・ わたしじゃないわ。 フランソワ−ズじゃない・・・
ちょっとばかりドレスは窮屈だったし、じっと座っているのにも飽きてきた。
今日はこんなにいいお天気なのに。 ああ・・・! アロ−と一緒に遠乗りに行きたいわ!
・・・・ そう、 あの森の・・・ お城 ・・・
なぜか自然に頬が紅潮し ・・・ フランソワ−ズは慌てて両手で顔を隠した。
「 姫様。 お待たせしました。 カモミ−ル・ティでございますよ。 」
優しい香りと一緒にばあやが帳の陰から入ってきた。
「 ・・・ あ ・・・ ありがとう・・・ 」
「 おや。 どうかなさいましたか。 お顔になにか? 」
「 え・・・ ううん。 なんでもないわ。 ・・・・ そうだわ、ねえ、ばあやなら知っているでしょう? 」
「 はい? なにをでございます。 」
「 あの ・・・ 森のこと。 黒の森の奥にお城があるでしょう。 あのお城で何があったの。 」
「 姫様・・・どうして そんなことをご存知なのですか。 」
「 あるヒトに聞いたの。 ・・・ 悪しき呪いってなあに。
どうして 白鳥の城 はあんな風に森の奥深くに隠されているの。 」
「 ・・・ 姫様 ・・・ 姫様がお知りになる必要はありませんよ。 ただの・・・伝説です。 」
「 お願い。 教えて。 この城の書庫を調べたけれどわからなかったわ。 」
姫君に熱心にみつめられ ばあやはしぶしぶ語りはじめた。
「 昔・・・ 今から100年近くも前に 黒の森の奥にそれはそれは壮麗なお城がありました。
こちらの王家のご領地になる前のことでございます。
その城は 白鳥の城 と呼ばれたいそう美しいお城だったそうです。
ご城主にしてあの地を治めていらした王は 早くに亡くなり年若い王子が残されていました。
お名前は ジョ−様。 大地の色の髪と瞳をした大層りりしい方でした。 」
「 ・・・ そう! そうよ・・・ ジョ− ・・・ 」
「 姫様?? なにか・・・ 」
「 え ・・・ あ、ううん。 ごめんなさい、ばあや。 それで? そのゥ・・ ジョ− ・・・ 様は
どうなさったの。 」
フランソワ−ズはティ−・カップを持ち上げ、頬の火照りを隠した。
「 はい。 ジョ−様がお年頃になられたある日、隣国の侯爵が令嬢との縁談を持ち込みました。
侯爵の名はスカ−ル。 紫の瞳も美しいタマラという令嬢をお連れになりました。 」
「 ・・・ まあ ・・・ ! 」
「 じつはスカ−ル侯爵は悪魔の偽りの姿、彼は豊かな王国と美しい白鳥の城を狙っていたのです。
ジョ−王子様は なにもご存知ありませんでしたが ・・・
『 どこかにぼくが本当に愛する女性 ( ひと ) がいるはず・・・ 』 と紫の令嬢とのご縁談を
お断りになりました。 」
「 そうなの・・・! やっぱり・・・ 」
「 ? 姫様、なにが やっぱり なのでございます? 」
「 ・・・え? ああ、なんでもないわ。 それで? 悪魔の侯爵はどうしたの? 」
「 はい。 彼は大層怒り、たちまち本性を現し・・・ジョ−王子様と白鳥の城全部に呪いをかけ
長い眠りに就かせてしまったのです。 そして黒の森で深くあの一帯を覆ってしまいました。 」
「 まあ・・・!! ねえ、それで?? その呪いを解く方法はないの? 」
「 それは・・・ ヒミツなのでございますが。 姫様にだけはお教えしましょう。 」
「 ええ、お願い! 」
フランソワ−ズは思わず身を乗り出して熱心にばあやの言葉に耳を傾けた。
「 姫君、フランソワ−ズ様のお出ましでございます。 」
従卒が一際高く、角笛を吹いた。
城の大広間で談笑していた貴族達は いっせいに玉座の方向に向き直った。
貴婦人達の華やかな髪飾りやら首飾りが シャンデリアの光に煌く。
諸侯達は剣を鳴らし頭をひくくして、この国の姫君を迎えた。
純白のドレス、でも広がるスカ−トが作り出す多くの襞の部分には淡いブル−が浮き上がる。
フランソワ−ズが歩むにつれ曳いてゆく裳裾は ブル−の影に揺らめいてゆく。
・・・ ほう ・・・・
居並ぶ諸侯や貴婦人達の間からおもわず感歎の吐息が立ち昇る。
声にならない人々のざわめきが 大広間いっぱいに広がった。
「 ・・・ うぉっほん・・・! 」
侍従長が挨拶と祝辞を述べ、本日の特別の招待客を紹介した。
再び勇壮なファンファ−レとともに 騎士達が玉座の前に進み出た。
いずれも屈強な若者らが それぞれに衣裳をこらし亜麻色の髪の姫君のこころを得ようと
我こそは・・・と、得意顔である。
「 姫、騎士殿方のダンスのお相手を務めるのじゃ。 」
「 はい、お父さま。 」
フランソワ−ズは腰を屈め父王に挨拶すると、騎士達に向き合った。
大広間に詰めている楽師たちが優雅な音楽を奏ではじめる。
姫君は淡雪の裳裾を翻し、先頭の若者に会釈をした。
「 フランソワ−ズと申します。 赤毛の騎士様。 」
「 高い空と広い地平線をもつ国から参りました。 」
赤毛の騎士は 姫君を中空に飛んでいるかのように軽々とリ−ドした。
二番手の若者は白銀の髪を震わせ、姫君の手をとった。
「 銀髪の騎士様。 フランソワ−ズと申します。 」
「 音曲名人が多く住まう国にご案内いたしますよ。 」
一見無骨な外見の騎士は じつに巧みに滑るように姫君と踊った。
次の騎士はぬばたまの闇色の皮膚と瞳を持っていた。
「 フランソワ−ズと申します。 夜と同じ瞳の騎士様。 」
「 大地も大海原も共に歩んでゆきましょう。 」
夜の色をした手は ゆったりと姫君を抱え波のように穏やかに舞った。
騎士たちはそれぞれ色の違う薔薇を一本づつ姫君に手渡した。
玉座の許に戻ってきたフランソワ−ズを父王と兄王太子はにこにこと迎えた。
「 どうじゃな、姫。 意中の騎士どのはどなたかの。
よく考えて 明日の朝、父に教えておくれ。 」
「 お父様 ・・・ あの ・・・ 。 あら? まだ・・・・ もう一人騎士様が! 」
「 姫・・・? フランソワ−ズ姫。 どこへ行く ? 」
「 フランソワ−ズ? 誰もお見えではないぞ。 」
訝し気に声をかける父と兄を振り向きもせず、 フランソワ−ズはまっすぐに
大広間のドアに小走りにむかった。
ドアが ・・・ しずかに ゆっくりと開き。 そこには一人の騎士が立っていた。
「 ・・・ ジョ− ・・・ ! 」
「 16回目のお誕生日、 おめでとう。 フランソワ−ズ。 」
「 ありがとうございます。 あの・・・ 踊っていただけますか。 」
「 喜んで。 ・・・ ふふふ ・・・ 剣の試合でもよろしいですよ。 」
「 ・・・ まあ。 ジョ−ったら・・・ 」
セピアと空の色の瞳を見合わせ、 二人は微笑みを交わす。
差し出されたジョ−の手に ふわり、と身をあずけフランソワ−ズは踊りだした。
楽師たちは 姫の動きにつられ夢見心地でそれぞれの楽器を奏で始めた。
・・・ あら? 姫君は・・・ どうなさったのかしら。
おお ・・・ なんと巧みな足捌き ・・・ まるで雲に乗っているような・・・
まあ、素晴しい笑顔でいらっしゃる。 お日様の暖かさとそよ風の爽やかさが入り混じって・・・
「「「 でも。 誰もいないのに・・・ 」」」
ひとり、優雅に舞い続ける姫君に人々は困惑の面持ちだった。
そんな中 フランソワ−ズはひとり、純白のドレスを翻し踊り続けている。
「 ジョ− ・・・ ばあやから聞いたわ。 ジョ−とお城に掛けられた悪魔の呪のこと・・・ 」
「 そうか。 ・・・ ぼくが意に沿わぬ縁談を断ったばかりに
皆に迷惑をかけてしまった・・・ 」
ジョ−はふ・・・っと表情を雲らせた。
「 そんなこと・・・! ねえ、どうやったらその呪は解けるのですか?
悪魔侯爵を剣でやっつければいいのかしら。 」
「 いや ・・・ あの侯爵は剣で殺めることはできない。 」
「 じゃあ、どうしたら・・・! 」
ジョ−は黙ったまま フランソワ−ズに微笑んだ。
そして。
「 綺麗で勇敢な姫君 ・・・ 。 ありがとう、踊ってくれて。 これを・・・ お礼に ・・・ 」
「 ・・・・? ジョ− ・・・ ? 」
ジョ−はマントの肩から 一輪の花を外した。
「 ・・・ もう会えない。 せめてもの思い出に・・・ 」
「 ジョ− ・・・? あら ・・・ これって・・・ 」
フランソワ−ズは手に残る花を そっと両手でかこった。
ジョ−の幻が手渡してくれたのは一輪の 野薔薇 ・・・・
「 ジョ−様 ・・・! あ・・・ 待って・・・・ 」
たった今、共に踊ってくれたセピアの瞳の若者の姿は 次第にその影が薄くなり消え失せてしまった。
広間に佇む姫君に 暖かい微笑を残したまま・・・
・・・ ジョ− ・・・ !!
「 その呪を解くにはですね。 」
白鳥の城の伝説を語ってくれたばあやの声が フランソワ−ズの脳裏に蘇る。
「 呪を解くには、王子様を心から愛する乙女が眠れる王子様に口付けをすればよいのです。
乙女の愛が 王子様を、白鳥のお城を悪しき呪から解き放つのですよ。 」
心から愛する乙女の ・・・
フランソワ−ズは唇に野薔薇を当て、みるみるうちに頬をその花と同じ色に染めた。
・・・ わたしが。 わたしが ジョ−様と白鳥の城の呪を解くわ!
大広間の真ん中に佇み、姫君は野薔薇を胸に当てすっと背筋を伸ばした。
わははははは −−−−− !!
突如、雷鳴が響き天空から不気味は笑い声が響いてきた。
「 ! な、なにもの?! 無礼者めが!! 」
ジャンは咄嗟に剣を抜き 父王の前に立ちはだかった。
「 姫君! 」
3人の騎士たちは ぱっと駆け寄りフランソワ−ズの周りを固めた。
黒い風が城の窓から吹き込み 怪しい影が浮かび上がる。
ははは・・・ お前が呪を解く、だと?
わはははは −−−− そんな女がこの世界にいるものか!
茨と恐ろしい森に囲まれた城まで辿り着ける姫君など、100年待っても現れはせんわ!
黒い影は 小気味よさげに嘲笑する。
あやつが タマラとの婚儀を了承しなければ あの地は永遠に封印されるのだ!
再び高笑いを響かせると、妖しい影はたちまちのうちに消え去った。
「 姫様 ・・・ ご気分はいかがですか。 あの恐ろしい輩はなんだったのでしょうね。 」
ばあやはフランソワ−ズ姫の部屋に入りそっと寝台に近づいた。
「 大丈夫、兵士たちもしっかりと城を護っておりますし。 篝火も一晩中焚いております。
怖いことはありませんよ。 それより 姫様はどちらの騎士様がお気に召しました?
ばあやは やはり・・・ 」
しゃべりまくり、ばあやは寝台の天蓋から垂れている紗幕をそっと掲げた。
「 ・・・ 失礼いたしますよ、姫様。 お寝間のお支度を・・・ 」
姫君の豪奢な寝台の中は ・・・
「 姫様 ・・・? 姫様?! フランソワ−ズ様??? 」
絹のシ−ツと羽枕、羽根布団で覆われた寝台の中はもぬけの殻だった。
宴での姫のドレスが そっと脱ぎ捨ててあった。
「 ・・・ 姫様 ・・・ どこへ ・・・? 」
白鳥の群れが茜色の空を 黒の森を越え白鳥の城目指して飛んでゆく・・・
カツカツカツ ・・・・
駿馬を駆った年若い騎士が一人、 その森めざしていた。
「 ・・・ ごめんなさい、お父様 お兄様 ばあや・・・
わたしは どうしても・・・ どうしても あの城へ行かなければならないの。 」
きゅっと口元を引き締め 白い頬をほんのすこし桜いろに染めて。
フランソワ−ズは 亜麻色の髪を靡かせ進んで行った。
Last
updated : 10,16,2007.
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****** 途中ですが
え〜〜〜 別名: フランソワ−ズ姫のぼうけん、デス♪
一度書いてみたかったコスプレ〜〜♪♪ もう、舞台設定は <古典> のパクりまくりです。
BGMは チャイコフスキ−。 あの場面、この場面をごったまぜにしてあります。
姫と騎士たちのダンス・シ−ンは < ロ−ズ・アダ−ジオ > ♪♪
すみません、書き手が一番楽しんでおります〜〜(^_^;)
よろしければ あと一回お付合いくださいませ。