『 わたしの手 あなたの手 ― (3) ― 』
ガサ ゴソ ・・・ ガサリ。
紙袋の中から そう〜っと毛糸玉を取りだす。
顔の上に翳してみれば 藍色が 灯の下でもとても深い色を映し出す。
「 うん ・・・ いい色! 最高だわ〜〜
ふふふ〜〜〜 真冬の早朝の空の色 が欲しかったのよね
モトマチ中ず〜〜っと歩き回ったけど よかったわ 」
フランソワーズは 新しい毛糸玉にそうっと頬を寄せた。
ほわほわな感覚が 身体の芯まで温めてくれそうだ。
「 うふふ ・・・ ふかふか〜〜〜〜♪
・・・ これってお日様の香よね〜〜〜 ああ ステキ 」
ぽん ぽん ぽん。 毛糸玉を籠に移しまして。
しゃきん。 編み棒を取りだす。
「 さあ。 編みます! え〜と ・・・ 」
ごそ ごそ・・・ 紙袋の底から一冊の薄い本を取り出す。
「 これこれ。 これがないとね〜〜
・・・ 絵も多いし説明もやさしいし 頑張るわ!
では・・・っと。 最初は覚えてるのよね〜〜 」
『 はじめての編み物 』 を目の前のテーブルに広げた。
さあて と フランソワーズは編み棒に 藍色の毛糸をかけた。
「 これでいいのよね? ・・・ え〜と? ふんふん・・・ 」
覗きこむ本は写真やイラストが多く見やすい。
説明文もシンプルで 読み書き 初心者にはとても楽なのだ。
この地で暮らす、と決心したときから この国にコトバの読み書きを
学習し始めた。
彼らに搭載されている自動翻訳機は 聞こえる言葉 に対して
反応するだけだ。
街中に溢れる看板 道路脇の通知 そして お店の案内には
まるっきり無能! なのだ。
当然 新聞も本も スマホの記事すら ― 見知らぬ文字の羅列。
! そっか〜〜〜 そうなんだ??
BGって かなりヌケサク!!
う〜〜〜 まいったわあ ・・・
最初は完全にお手上げで いちいちジョーに読み上げてもらっていた。
しかし 滞在者ではなく生活するとなれば 読み書き は必須だ。
「 ・・・ 勉強するわ! 」
生来の負けん気がアタマを擡げてきた。
子供向けの入門書を買ってきてもらい 熱心に学び始めた。
え〜〜〜 ウソ ・・・
二ホン語の字って なんで三種類もあるの??
それでもって なんでまぜこぜで使うのぉ??
これ・・・ 全部 覚えるの ・・・?
かなり絶望的にも思えたのだが 耳からの言葉が理解できることが
とても手助けとなった。
キッチン用洗剤 ・・・
あ! そういうことね〜〜〜
き っ ち ん は kitchen のことで
洗剤 は せ ん ざ い。
用 って なに??
う〜〜ん ・・・・
いっか 意味はわかったから
だんだんと文字の顔? が見えるようになってきた。
簡単な本が読めるようになると ― 彼女の行動範囲はぐ〜〜〜んと
広がった。
そんなこともあるので 小中学生向けの 編み物入門書 は
本当にありがたかった。
「 つぎは ・・・ あ こっちか ・・・ 」
フランソワーズは ずっぽり編み物に没頭し始めた。
固いかた〜〜い決意を胸に ・・・
― マフラー 編むの。
ええ 今年の冬用よ
この藍色はきっと髪の色に合うわ
ジョー のマフラー 編む!
そもそものキッカケは モトマチをぶらぶらしている時だった。
秋も深まり ぴんぴんの青空のある日 ―
ヨコハマで ショッピングするの♪ という彼女に
ジョーが ガード役を申し出てくれた。
「 え ・・・ 一緒にって? いいの?? 」
「 いいの じゃなくて 必須さ。 ガードマン。」
「 わたし ちっちゃな子供じゃないわよ 」
「 だから 余計、さ。 Mademoiselle 〜〜 」
「 ・・・ そう? それなら お願いします 」
「 おけ♪ じゃあ15分後に 」
「 い 一時間後! 」
「 え〜〜 日がくれちゃうよ? 」
「 あのね〜〜 レディのお出かけなのよ? 」
「 ・・・別にシャワー浴びる必要、とかないと思うけど 」
「 そうじゃなくて〜〜〜 う〜〜〜〜
いいわ じゃあ 45分! 45分 待って! 」
「 いいけど ・・・ じゃあ ぼく ちょっとその辺り
ジョギングしてくるね〜〜 」
「 ん。 じゃね〜〜 」
「 ちゃんとシャワーするから 安心して・・・
あれ もういないや 」
フランソワーズは 後も見ずに! 自室にだーーーーーっしゅ!
着てゆく服も 靴も!
あ コートいるわね〜〜〜
バッグ!!! 帽子も・・・
あ この前買ったピアス しよっと・・・
髪!!! なんでこっち側にハネルのよう〜〜
― 約一時間後 二人は地元駅行きのバスに並んで座っていた。
うふふ ・・・ なんか楽しい♪
ねえ これってデートだわよね
うふふ うふふ
き 緊張するな!
お。 そこのへなちょこ野郎〜〜
フランをじろじろ見るな!
・・ 相手になってやるぜ!
にこにこ上機嫌の彼女の隣で ジョーは油断なく周囲にガンを
飛ばしていた。
「 ね〜 いいお天気ねえ〜 」
「 ・・・ え? 」
「 晴れだわねって言ったの 」
「 あ? ああ そうだね カサはいらないな 」
「 ・・・ ふふふ 可笑しなジョー 」
「 え ど どうして?? 」
「 だって なんで周りのヒトを睨んでるの?
皆 びっくりしてるわよ 」
「 そ それは ・・・ 」
「 やだ〜〜 ジョーがそんな怖い顔、してるの初めてみたわあ
ねえ ねえ それって < 外向き > の ジョーのクセ? 」
「 ・・・ え〜と ・・・ 」
「 ね? 睨むかわりに にこって。 笑ってよ いつもみたく。
ウチにいる時みたく 」
「 え ・・・ 」
「 ジョーの笑顔、ステキよ? 見たヒト、シアワセ気分よ〜 」
「 そ ・・・ そう・・・? 」
「 うん♪ だから 笑ってね 」
「 ・・・ うん 」
ジョーは なんだか泣きそうな < 笑顔 > で彼女の隣を護っていた。
多くの人々と行き交いモトマチを歩いて行けば 足元を落ち葉が
散らばってゆく・・・
そろそろ木枯らしが吹く季節だ。
「 ・・・ 手編みって いいな〜〜 」
若い集団とすれ違った後で ジョーがぽつり、と言った。
「 てあみ ってなあに? 」
「 あ ・・・ ほら あの。 さっきすれ違ったヒトがさ
毛糸のマフラー してただろ 」
「 ・・・ あ〜 ふわふわしてキレイよね 」
「 ん あれ 手編みだよ〜〜 毛糸をさ こう〜〜 編み棒で
マフラーにするんだ。 誰に編んでもらったのかなあ
いいよね〜〜 あったかいよぉ いいなあ 」
「 あ〜ら ジョーなら オンナノコから貰ったんじゃないのお?
学生時代に。 二ホンのオンナノコはそういうの、好きなんでしょ? 」
「 そうかなあ ・・・? 」
「 あら わたし <しょうじょまんが> でいっぱい読んだわよ
ほら バレンタインの日とかに好きな男の子に贈るって
皆 一生懸命編んでね どうやって渡そうか・・・・って悩んで・・・
これが 二ホンの青春 なのでしょ? 」
「 え〜〜 そりゃ マンガだってば ・・・
ぼくはとにかくそういう世界とは無縁だったからさ 」
「 ・・・ ふうん 」
「 うん ・・・ まあ そんな風に騒いでるコ達もいたけど 」
「 ・・・ ふうん 」
なぜか それ以上は訊いてはいけない気がして
彼女は口を閉じてしまった。
カノジョ、 いなかったのかしら・・・
ジョーの容貌ならモテたと思うんだけど
あ ・・・。
施設で育った って言ってたから?
関係 あるかしら ・・・
あ。 マフラー、 編んでくれるヒト
いなかったんだ・・・
そうよね お家の人 いないのよね
ねえ なんて瞳 してるの ・・・
そんなに明るくて 淋しい瞳、しないでよ
何気ない風に肩を並べて歩きつつ 彼女は胸がいっぱいになってしまった。
油断していたら 目尻から雫が落ちてしまうかもしれない。
ジョー ・・・
あなたって 優しすぎる 淋しすぎる
決めたわ わたし。
ジョーのために マフラー 編む!
「 ? なに どうかした? 」
一人 力んでうんうん・・・と頷いてのだが・・・
ちょっと雰囲気がヘンだったのかもしれない。
「 え!? あ なんでもないの
え〜〜と ・・・
ああ ・・・そう! 日本の冬はそんなに寒くないかな って
」
「 冬? あ〜 うん そうだね この辺は比較的温暖かなあ
でも真冬はやっぱり冷えて ダウン着たりマフラーや手袋も
必須だよ 」
「 マフラー や 手袋 ? 」
「 ウン。 朝晩は冷え込み 厳しいよ 」
「 そうなの・・・ マフラー や 手袋 ねえ 」
「 ほら さっき毛糸のもこもこ 巻いてたコ、いただろ?
ああいうの、 いいよね〜 」
「 そうね。 どこかの黄色いのよか ず〜〜〜っと好いわよね 」
「 あは そうそう どんなにでこぼこでもね〜〜 」
「 あ ねえ ジョー。 あれはなあに?
・・・とってもいい匂いがするの ・・・ 焼き栗 ・・・? 」
「 ? ― ああ 石焼きいも さ。
ホント いい匂いだね〜〜 うん ちょっと買ってくるから
この店で待ってて・・・ 」
ジョーは 衣料チェーン店に彼女を入らせると
たたた・・・・っと駆けて行ってしまった。
あ〜らら・・・・
ま いっか
ふふふ マフラー よね。
手編みのマフラー 〜〜♪
何色にしよっかな〜〜
ジョーって何色が好きなの?
いつも モノトーンな服、多いよね
セピアの髪は 大地の色ね
それなら 似合う色って・・・
あ 空の色にするわ!
うん、 決めた〜〜
そんな訳で フランソワーズは編み物に挑戦する、と決めたのだ。
翌日 こっそり一人で 再びモトマチまで出かけ ―
や〜〜っと気に入った色合いの毛糸と編み物入門書? らしき
薄い本をみつけたのだ。
( 昨日 とて〜〜も気に入った <いしやきいも>屋さん は
みつからなかった・・・ )
そして 今。 リビングのソファで 編み棒と格闘を始めたのだ。
もふ もふ もふ。 きゅ きゅ きゅ
「 え・・・っと 次は・・・ ふんふん そ〜か 」
編み棒は 次第にリズミカルに動き始め 新しい毛糸は波を打って
もふもふの生地 に生まれ変わりだした。
「 ・・・うわ? きゃ〜〜〜 もうこんなに出来ちゃった
うわ うわ〜〜 わたしったらすごい〜〜 」
きゅ きゅ きゅ しゅ しゅ しゅ
木製の鈎針は すこしづつ指先と同化し始めた。
やわらかく動かせば ふんわりした生地が生まれ
きゅっと引きつければ 目の詰んだ生地になる。
自分自身の指の動かし方で それこそ自由自在に 毛糸地が生まれるのだ。
編みたい と思って これをつける人を想って
一目 一目 編むって
・・・ なんかとてもたのしいわよね
― うふふ なんかウレシイわ
あ。 ママンが言ってたのって この気持ち?
愛する夫と子供達に手製のニットを贈れるってね
ママンの特権なの
母は少し誇らし気に言っていた。
母の言葉が はっきりと蘇る。
母の声のトーンまで くっきりと思い出すことができた。
・・・ ママン ・・・
ごめんなさい
この気持ち なのね
うん ・・・ 理屈じゃないわ
ああ このふわふわな気持ち は
一目 一目 編んでゆくうちに生まれるのね
あの時は 別になんとも思わなかったけれど・・・
― 今 わかった。 身に沁みて 理解できた。
きゅ きゅ きゅ もく もく もく
自分なりのリズムが生まれてくると ― 俄然楽しくなった。
身体が自然に揺れてきて 足先が軽くステップを踏む。
「 ふんふんふん〜〜ん♪ あ ワルツになるかな〜〜
ほら アン ドゥ トロワ 〜〜〜 いい感じ♪ 」
― 少しばかり調子に乗りすぎた のかもしれない。
ふと 編み進み出来上がりつつある毛糸地を 眺めてみれば ・・・
「 ! やだあ〜〜 編み目 全然揃ってない〜〜〜
だめだわ これじゃ。 ここ ほどく! 」
ぴ −−−− 惜し気もなく 解いてゆく。
「 だあって。 わたしのマフラー、じゃないのよ
心を込めて ・・・ なの。 一目 一目 にね
ジョーが あったかい気持ちですごせますようにって 」
ふん・・・! 鼻息も荒く? 今度はきっちり集中して。
もふもふもふ しゅ しゅ しゅ
新品の木製かぎ針が 手指に馴染みだんだんと飴色になってゆくにつれて
藍色の毛糸玉は 波打つマフラーに変身して行った。
「 −−− っと。 仕上げに軽くアイロン ね・・・
う〜〜ん こんなモンかなあ 〜〜 」
包装紙を当てて さらっとアイロンを掛ければ ―
「 うわあ〜〜♪ いい感じ〜〜
きゃあ ・・・ 買ったみたい♪ ♪ 」
そうっと触れて見れば ほわっほわ。
「 ・・・ ん〜〜〜〜 いい感じ!
これはね〜〜 温かいわよぉ〜〜〜 うふふふ♪ 」
なんの編みこみ模様もない、ただの藍色の毛糸地、
ちょっと注意してみれば 編み目は揃ってないし幅もでこぼこしていて
<初めての編み物> が見え見えだ。
でも 作り手は大いに気に入っていた。
「 うふふ うふふ わたしにも編めたわあ〜〜〜
ねえ ねえ ママン 見て 見て?
ぶきっちょ・ファンでも 大事なヒトのマフラーが編めました♪
らららら〜〜〜〜ん♪ 」
黒に金字が入った洒落たラッピングをしてみた。
「 えへへ ・・・ なんか外側の方が立派だけど・・・ 」
あ。 これ 気に入ってくれるかしら
― つきん。 胸の奥が痛む。
「 な なんか勝手に盛り上がっちゃったけど ・・・
ホントはこんなの ・・・ キライ かも
ブランド物の流行りが好き かもしれないわ
だってコレ ・・・ なんか全然地味だし・・・
趣味じゃないんだよな〜 って。
でも ジョーってば優しいから 無理に笑って受け取ってくれて
・・・ 引き出しに ぽい、 かも。
どうしよう どうしよう どうしよう 」
急に不安になってきてしまった。
不安になると 悪い方へ悪い方へと思いは落ち込んでゆく。
「 ・・・ こんなブキッチョな女の子もいるんだ?
信じられない〜〜 って。 笑うかも ・・・
003ってヒドイね〜〜 って。 呆れるかも ・・・
どうしよう どうしよう どうしよう〜〜〜〜 」
フランソワーズ曰く < しょうじょまんが > の展開そのままな自分自身に
彼女は全然気づいていなかった。
― さんざん迷ってうろうろした挙句 翌朝のこと。
「 あ あのね これ。 寒くなったら使って! 」
「 ・・・ へ? 」
「 あの! 気に入らなかったら捨てちゃってね! 」
「 え?? な なにが・・・? 」
ぼむ。 ・・・ うわ?
「 じゃ ね いってきまあす〜〜〜 」
件の包をジョーに押し付けると フランソワーズはそのまま玄関から
走り出た。
「 ! バス〜〜 間に会うかな〜〜〜 」
充分余裕はあったけど そのまま門を飛び出し坂道を走って降りた。
ん〜〜〜〜〜
後は ・・・ しらない〜〜〜
えへ なんか達成感 ばりばりだわ〜〜
もりもりエネルギーが沸いてきて 彼女は勇気満タン?
朝のレッスンに出かけていった。
( というか もう後のことは考えてみたくなかったし )
「 ん〜〜〜。 いいの。 わたし、クラス、頑張ります。」
さて。 その日夕方、 彼女の帰宅を待っていたのは。
フランソワーズさま
ありがとう! めちゃくちゃにうれしい〜〜〜〜
この花 きみみたいだよね
ぼくが いちばん好きな花です 受け取ってください
ジョー
丸文字が並んだカードを付けた桜草の鉢植えが 彼女の部屋の前に
置いてあった。
「 ・・・ うそ ・・・♪ きゃ〜 あ。 」
あわてて口を押さえると 鉢植えと一緒に自分の部屋に転がりこんだ。
うわ〜〜〜〜 うわ〜〜〜 やったあ〜〜〜〜〜
彼女は枕元に置いた花を眺めつつ ベッドで転げまわり歓声を上げていた。
冬の早朝の空の色を 写し取ったみたいなマフラーは
ジョーのタカラモノとなった。
どこへ行く時でも ― 下の商店街とか駅向こうのスーパーへの買い出し
博士のお使いで都心の大学の研究室へ コズミ博士の荷物持ちで
県下の大病院へ フランソワーズの護衛でヨコハマへ ― ジョーは
トレーナーにダウン・コートでも スーツ姿でも ワークマン風の
防寒ツナギでも 首にはしっかり藍色のマフラーを巻く。
「 ・・・ あの それ ・・・ 」
「 え? ふふふ〜〜〜〜 あったかいよう〜〜〜〜〜
へへへ 研究室でも病院でもね〜
あ カノジョの手編み? 若いっていいね〜〜
なあ〜〜んて からかわれちゃってさあ〜〜 」
照れつつも 彼はなぜか嬉しそうだ ・・・ とても とても。
「 え あ あの ・・・・
ヘタクソでごめんなさい ・・・ 」
「 え〜〜〜 どこがあ? いい色だし たっぷりあって温かいし。
ホント ありがと〜〜 フラン 」
「 ・・・え ぁ いえ ・・・ 」
「 こんどさ きみのも編めば? 空色のとかでさ〜〜
きっと似合うよぉ 」
「 ・・・ え あ ・・ うん 」
「 あ〜〜 あったか〜〜〜〜い♪ 」
だってさ。 好きなコの手作り って。
ぼくのために編んでくれた って。
世界にこれ一枚っきゃないんだよ?
あ〜〜〜〜 最高〜〜〜〜♪
転げて遊ぶ仔犬みたいな彼に フランソワーズは目を見張っていた。
「 なんか ・・・ ジョーってこんなにストレートに
喜んじゃうヒトだったのかしら ・・・びっくり 」
「 え なに〜 」
「 あ ・・・ ううん なでもなあ〜い♪
気に入ってくれてウレシイで〜す 」
「 えへへ ・・・ ほら これ。 みて〜〜 」
「 え? あ〜〜 」
「 ぼくのデスってシルシだもんね〜〜 チクチクしたわけ 」
「 うふふ ありがと♪ 」
藍色の毛糸のマフラー その隅っこには 茶色のクマちゃん が
笑っていた。
そっか ・・・
このヒト 心の奥の奥は
ほっんとに素直なのね
素直っていうか 無垢っていうの?
触れたらこぼれそうに脆いのかも・・・
あの曖昧な微笑でガードしてるの?
「 このクマちゃんが いつも護ってくれますように 」
「 え クマちゃんが どうかした? 」
「 ・・・ ううん。 可愛いわあ〜 って言ったの 」
「 えへへ サンキュ。 あは 今年の冬はさいこ〜だあ〜 」
「 ・・・・ 」
ご機嫌ちゃんなジョーの隣で フランソワーズは少々複雑な思いを
噛み締めていた。
・・・ 受け止めるわ。
ジョーの とても繊細な心を。
― アイシテル ジョー。
さて。 どうも ジョーは このタカラモノを仲間達に見せびらかしたらしい。
ピュンマが 手編みの編み物にやたら関心を示してきた。
来日した時に 真っ先に質問したのだ。
「 ねえ フランソワーズ。 < 手編み > って
どうやって作るの? 」
「 どうやって・・・って。 毛糸を編み棒でね〜〜
あ この本、参考にどうぞ? 」
「 お。 参考文献 あるんだ? サンキュ〜〜〜
ふむふむ ・・・・? 」
< 初めての編み物 > を ピュンマは熟読した。
その後 彼は熱心にPCに向かっていたが・・・
「 ん〜〜〜 ほら こんな編み込みのマフラー どう? 」
「 え なあに? 」
「 これ! 」
彼は プリント・アウトした紙を見せた。
「 え ・・・ 」
柄編みにとても興味を持ったらしく コンピュータ・グラフィックス
みたいな図案を考えデザインしたのだ。
「 ・・ キレイだけど。 どうやって編むの 」
「 え。 あ ・・・ 考えてなかったよ 」
「 うそぉ〜〜〜 」
「 でもさ シャレてるだろ 」
「 ・・・ わたしには 編めません〜〜 初心者ですから 」
「 そっか〜〜 うん 今度は編み方を開発するね 」
「 ついでにピュンマが編んだら? 」
「 あ いいかも〜〜 この鈎針だけで編むんだろ 」
「 そうよ 二本の編み棒で編むやり方もあるわね。
セーターとか大きなものは そうやって編むみたい 」
「 へえ なんか興味あるなあ 」
「 ピュンマなら楽々クリアよ 器用だもの 」
「 そっかな〜〜 ・・・ ふうん この棒でねえ 」
ピュンマは かぎ針の編み棒をつくづく眺めていた。
ねえ フランソワーズ。
・・・ 気づいてないよね〜〜
君の背中にね 茶色のクマちゃん・マーク が
しっかりくっついてるよ
君以外の み〜〜んなに見えてるから。
ふふふ ジョーが宣言してるんだ
ボクの大事デス ってね♪
ま お幸せに〜〜〜♪♪
― さて。 その後、なにがどうしてどうなったのか。
まあ とにかく 紆余曲折 波乱万丈 ありまして。
ぬああ〜んと この彼女と この彼は 結婚することとなり。
「 ジョーぉ〜〜 もう出ないとバス、来るわよぉ 」
「 ・・・ ん〜と あ ここで一目〜 」
ジョーは 最近編み物に凝っている いや 没頭している。
寸暇を惜しんで、 というか 空き時間は必死で編み棒を動かす。
常に編み物袋を携帯し 日々編み物に熱中 ― 編み物男子 である。
もともと手先は利くほうだったので 手ほどきしてもらえば
編み物はすぐに 得意分野 となった。
最初は かなり楽しんで凝った編み方を楽しんだりしていた が。
しかし。
今は 必須分野。 とにかく早く数を多く仕上げねばならない。
< 〆切り > は たぶんもう目前。
なにせ ―
冬の最中に 新しい家族がやってくる ― ! そう 二人も。
妻のお腹はもうぱんぱん で 縫い物や編み物をするにも大変で・・・
・・・ なにせ 二人 詰まっているのだ。
「 ふう ・・・ ちょっともう無理かなあ ・・・
仕方ないわ ベビー用の衣類、買ってこないと
肌着類はなんとか準備できたけど ニット類が ・・・ 」
「 なら ぼくがつくる! 」
こうしてジョーは 小さなニット類に加えて 産着やら肌着も、
猛然と縫い始めた。
「 うん ミシンはさ〜 家庭科の時間にならったから。
あは これ 学校のミシンと同じだあ 」
コズミ博士から譲っていただいた旧い足踏みミシンを
ジョーは 嬉々として使っている。
これはナイショなのだけれど・・・
ちっちゃな産着やら山ほどのタオル類 ― そのすみっこに・・・
「 〜〜っと よし。 次〜〜 」
チクチクチク。 きゅ。
ジョーは 小さな笑顔クマちゃん の刺繍をしまくっている。
「 しゅ しゅ しゅ〜〜っと ・・・
ふふふ これはどっちのチビのになるのかなあ〜〜
ねえ 君達? はやく出ておいで〜〜 ふふふ ふふふ 」
そんな彼の様子を フランソワーズはにこにこ・・・眺めている。
ぱんぱんのお腹では チビ達もごにょごにょ動いて
おと〜さん の活躍を応援している らしい。
ねえ チビちゃん達?
あなた達の おと〜さん はねえ
とても大きくて ステキな手を持っているの
そして あったかい心 も ね。
ねえ チビちゃん達 ・・・
あなた達も きっとステキな手と
あったかい心 をもって生まれてくるわね
****** ちょいとオマケ
さらに数年後 ―
すばるが ぷっくりした指できっちり きっちり折り紙を折る。
「 へ ええ〜〜 上手いなあ すばる〜 」
「 え へへへ・・・ 」
すぴかが すんなりした指で自分の髪をぎちぎちの三つ編みにする。
「 あらあ すぴか 上手ねえ〜 」
「 うふふふ ・・・ 」
ステキな手と温かい心は ちゃんと受け継がれたみたい ・・・
**********************
Fin.
*********************
Last updated : 04.26.2022.
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*************** ひと言 ************
どうってことないハナシでした ★☆
ジョー君は あの指ですけど きっと器用だよね♪