『 わたしの手 あなたの手 ― (1) ― 』
カチカチ カチ ・・・ カ ・・・?
編み棒は止まっている時間の方が 長い。
ふわふわの水色の新品の毛糸は大層美しいのだけれど
編み棒にひっかかったまま < 毛糸 > のままだ。
「 う〜〜ん? この次 どこに突っ込むんだっけ・・・? 」
金髪の少女は まだ小ぶりな手で編み棒を持て余している。
― つまり さっきから編み物はちっとも進んでいないのだ。
新しいセーターが欲しい〜 とねだったら ・・・
「 セーター? なら自分で編んでごらんなさい 」
「 え〜〜〜〜?? そんなの むり〜〜〜〜 」
かなり大袈裟に訴えてみたが 母は歯牙にもかけない。
「 そんなこと、 ないわ。 誰だって最初は 初めて よ。
マフラ―は 編んだこと、あるでしょう? 」
「 ― 編もうと思っただけ ・・・ 」
「 とにかく 編み棒と毛糸、もってらっしゃい。
教えてあげるから 」
「 ・・・ はあ い ( ぶう〜〜〜 ) 」
マルシェの向かいにある、あのお店のあのセーターが欲しいんだけどなあ・・・
フランソワーズは ぶつくさ言いつつ、編み棒を探しにいった。
毎年 公園のマロニエの葉が色づき始める頃
フランソワーズの母は 籠に山ほどの毛糸を用意する。
新しく買ったものもあるが 古いセーターを解いて洗ったものもある。
兄妹の母は それを上手に組み合わせ 愛する夫の 子供達の そして
彼女自身の その年の冬支度を完成させるのだった。
・・・ また冬の暗い日々が続くのか と少し憂鬱にもなるが
セーター マフラー 帽子 手袋 ショール
この新しい冬支度のことを思うと家族は皆明るい表情になった。
「 ・・・ でもね〜〜 ママン。
アタシ マフラーも手袋も ― 完成させたこと ない・・・ 」
編み棒と毛糸玉を持ってきたブータレ顔の娘に 母はに〜っこり。
「 じゃあ 今度は完成できるように やってみましょ? 」
「 ・・・ う ・・・ ん ・・・ 」
「 この毛糸 買ってきたのね? あら キレイな色・・・
ファンションに似合いわよ センス いいわ。
で 形は普通の丸首ので いいのね ? 」
「 う ・・・ ん ・・・・ 」
あ〜〜 あのお店で売ってたのみたいに
襟に フリフリ〜〜 つけて欲しいんだけどなあ
袖もねえ 上の方がパフ・スリーブでふんわり・・・
あれ が欲しいんだけどぉ
フランソワーズは 溜息吐息・・・で 編み棒を手にとった。
「 はい まず 目をつくって 〜〜 」
「 ・・・ ん 」
かなりぎこちない手つきで 彼女は水色の毛糸と編み棒で
格闘を始めた。
ん ・・・? あ あれれれ・・・・
・・・ あ〜〜 外れちゃった・・・
あ〜〜 わかんなくなっちゃったぁ
カチ カチ ・・・ カ チ ・・・
まだ ヒーターを入れていない室内に ほんのしばらく聞こえていた
編み棒の音は さっきから止まったままだ。
頼みの綱の母は こちらには背を向けてアイロンをかけている。
「 ・・・ あ〜〜〜 わかんない〜〜 」
「 ? あら どうしたの 」
少し大きめに声をあげて やっと母が振り返ってくれた。
「 ・・・ やっぱりダメ〜〜 すぐに編み棒から外れちゃうし・・・
次の段がどこだかわからなくなっちゃうの 」
母は アイロンを置いて娘の側に座ってくれた。
「 あらあら ファン ・・・ ああ そこは ね
ほうら こうやって こうやって ― ね? 」
「 う〜〜ん ・・・ ママン 上手ね 」
母の白い手にかかると 編み棒はするすると素直に動き
毛糸は魔法にかかったみたいに どんどん編まれてゆくのだ。
「 すご〜〜い 」
「 このくらい普通ですよ?
そりゃ 初めは皆 上手くゆかないわ。 でもね いくつも
編んでゆくうちにコツがわかるの。 たくさん挑戦しないとね。 」
「 う〜〜ん ・・・ たくさん編まないとだめ なのぉ? 」
「 ねえ ファンション。 」
編む手を止めて 母は娘の顔を覗きこむ。
「 あなた、 もうちょっと縫い物や 縫い物、できないと
将来困るわよ 」
「 ・・・・ ぶ〜〜 」
「 アナタの夫に 破れたシャツを着せておくつもり?
子供たちのセーター どうするの 」
「 ・・・ 新しいシャツ 買うからいいもん 」
「 あらあら それでは賢いマダムとはいえないわねえ 」
「 こ 子供たちの服も 買うもん 」
「 ママン 失格。 ファンのコドモたちに怒られるわ 」
「 ぶ〜〜〜 」
「 手編みのセーターは この世に一枚しかないんですもの。
それを家族に贈れるっていうのは ママンの特権だわ
子供たちは ず〜〜〜っと大切に思ってくれるわ
夫もね それは大切に着てくれるの。 愛があるから 」
「 ・・・ う 〜〜〜 」
それはまさに。 父も兄もフランソワーズも
毎年 母の手作りの冬支度をとても楽しみにしている。
「 それに バレリーナにお裁縫は必要でしょう? 」
「 う ・・・ ん ・・・ 」
「 ファン。 言っておきますけど ポアントにリボンを縫い付けるのは
もう自分でやってちょうだいね。 ママンはやりません。 」
「 ・・・ え〜〜 」
「 え〜 じゃなでしょう?
どの位置が一番いいか、は 履く本人が一番よくわかるはずよ 」
「 ・・・ そうなんだけど ・・・ 」
「 ね だからお裁縫 がんばって。
これからは ブラウスのボタン付けなんかは自分でやる。 いい? 」
「 ・・・ はあい ・・・ 」
「 さあ ほら。 ファンが間違えたところはほどいたから・・・
ここからやり直してごらんなさい。 ゆっくりでいいのよ 」
「 うん ・・・ 」
渡された編み物 ― 最初の部分を フランソワーズはため息・吐息で
受け取った。
編み物〜〜〜 好きじゃないなあ・・・
お裁縫は ― しょうがないからやるけど。
「 ふう 〜〜〜 」
ゆっくり編み棒と 格闘 を始めた。
本当は さ・・・
お裁縫も あんまり好きじゃないのよね〜〜
誰か ポアントにリボン、
縫い付けてくれないかなあ〜
もっと小さい頃に習い始めた バレエ。
ファンはもうすっかり夢中になっていて熱心にレッスンに通っている。
夏頃からは 憧れのポアント ( トウ・シューズ ) を履けることになった。
「 きゃ・・・ うれし〜〜 」
「 でも カタいのね これ 」
「 足 はいるかなあ 」
同じクラスの同じ年頃の少女たちと きゃわきゃわ盛り上がり
― その不思議な靴を履くと ちっとも思い通りに動けないけど
でも でも 最高に楽しい!
ますます レッスンに夢中になっていった。
そして同時に < お裁縫 > が待っていた。
ポアントには靴を履くためのリボンを縫い付けなくてはならない。
靴自体は結構固い布地で そこにつるつるしたリボンを縫い付ける。
慣れない少女の指には かなり大変なのだ。
最初は 母親たちがやってくれるが、やがてどこの家庭でも
「 自分でやりなさい 」 になる。
フランソワーズの家でも同じこと。
「 ・・・っいたっ・・・ う〜〜 」
針で指先を突いて ちょこっと血をだしたり・・・
まあ 誰もが通る道をフランソワーズも辿っているのだ。
バタン !
「 ただいまあ〜 腹減った・・・ 」
兄のジャンが本と布バッグを抱え 帰宅した。
「 お兄ちゃん おかえり〜〜 」
「 おう ファン 」
妹はソファの上で 糸針で奮戦している最中だ。
「 ん〜? ああ また作業中か 」
「 うん ・・・ 」
「 ま がんばれ がんばれ。 あ〜〜 なんか喰うもん・・・ 」
「 う〜〜〜 」
兄はちらっと妹の作業を見ると すぐにキッチンに行ってしまった。
う〜〜〜 ・・・
手伝ってもらおうと思ったのにィ〜〜
少し歳の離れた兄だが 彼の方が妹よりよほど手先は器用だった。
学生の頃から 服の少しの破れやらボタン落ちなどは
難なく自分自身で直していた。
もちろん 最初は母に教わっていたが 兄はたいして苦労もなく
会得していった。
ごく当たり前の顔で 彼は気軽い糸針を操る。
妹はチラ見しつつも 羨ましくて仕方がない。
お兄ちゃん なんかすご〜い〜〜
すすす・・ってできるのよね
アタシは ・・・ あ また糸、抜けたちゃった
あ〜〜ん ・・・
なんで アタシの手は上手く動かないのぉ〜〜
少女の頃 フランソワーズは所謂 <ブキッチョさん> だったのだ。
「 困ったわねえ ・・・ 少しづつ練習してゆきましょうね 」
母は 溜息まじりに娘を眺める。
「 いいの、アタシ。 お裁縫や編み物が得意なムッシュウと
けっこんするから。 」
「 ― そんなヒト いませんよ 」
「 え〜 だってお兄ちゃん お裁縫、上手よ? 」
「 ジャンは必要なことができるの。 」
「 だから〜〜 」
本当は お兄ちゃんのお嫁さんに
なりたかったんだから アタシ。
― どうして お兄ちゃんは
アタシのお兄ちゃんなのかしら!
「 だから? ― 練習しましょ 」
「 ・・・・ ん 〜〜〜 」
「 あなたの手が ちゃんと思い通り動くようにね 」
「 あ〜〜 アタシの手って ・・・ わがまま! 」
ひら ひらひら〜〜
指はなかなか長いけど まだ小さな手を振り回す。
「 練習すれば 言うコトをきくようになりますよ
手のせいにしては 可哀想だわ 」
「 う〜〜ん ・・・ 」
膨れっ面をしつつも 一応 彼女は母の手元はよ〜〜く
観察をしていた。
お裁縫や編み物だけでなく キッチンで手伝う時も
母の手の動きを 目で追っていた。
「 ? ほらほら 見てるだけじゃなくて。
ファンもやって頂戴。 サラダ お願い。
タマネギを薄く切って 」
「 ・・・ え〜〜 涙 でるぅ〜〜 やだなあ 」
文句をいいつつも 食事やお菓子作りの手伝いを 楽しんでいた。
兄と二人暮らしになってからも そんな思い出は懐かしく
実際に役に立つことも多かった。
「 あれれ ?? 」
晩秋に慌てて毛糸と格闘していれば ―
「 ああ? ・・・ ちょっと貸してみろ 」
「 お兄ちゃん 編み物 できるの?? 」
「 ママンが編むの、見てたからな〜〜
たしか こうやって・・・ うん ほら ほら〜〜 」
「 すご〜〜〜 い〜〜 」
「 ファンだって見てただろ 」
「 ・・・ 見てただけ かも ・・・ 」
「 あ〜〜 頼りにならん妹だなあ 」
「 ふ〜ん だ。 頼りになる兄がいるから いいの。 」
「 こいつぅ〜〜 ああ パパだって少しは編み物 できたぞ 」
「 え ・・・ うそぉ〜 」
「 お前 知らないだろうど・・ お前の赤ん坊時代のニットな〜
ほとんど 親父が編んでたんだぞ〜 」
「 へ え・・・ パパってすご〜〜 」
「 親父の娘だろ〜〜 」
「 だから アタシは出来なくてもいいのぉ 」
「 なんだ それ 」
うふふふ ははは ・・・ 家族の記憶はいつも温かい。
アパルトマンでの二人暮らし ― ほんわりした心は昔と変わっていない。
兄も妹も そんな穏やかな日々が 年月が 一生続くと信じていた。
いや それが当たり前でわざわざ意識をすることも なかった・・・
全ては あの日 ― 覆されてしまった
暗黒の日々 ―
フランソワーズは アタマの中で覚えている限りの
ヴァリエーションの振りを繰り返していた。
記憶を辿れる限りの 編み物の編み方、刺繍の技術 を
復習していた。
― 心まで アタマの中身まで 改造はできなわ!
ヒトとしての精神を保つために 彼女は踊り 縫い物をし
料理をしていた ― 心の中で。
無表情 無関心 無感動 を装い その仮面で自分自身を護った。
過酷などと生やさしい言葉では言えない状況でも
彼女は 瑞々しい温かい心 をしっかり保っていた。
もちろん 誰にも話したりはしていない。
冷たい機械人形に 徹していた。
― ある時 ・・・
「 ・・・? 」
004が 彼のマシンガンの指が 机の端でこまかく動いていた。
そんなことに気付いたのは 彼女だけだったかもしれない。
「 な に ・・・ ? あ。
あれ は ・・・ 運指 ! 速い・・・細かいわ すご・・・
え ・・・ もしかして ピアニスト だったの?? 」
密かに驚愕し しばらくは視線が釘付けになった。
しかし 003 はさすがにその場では声をかけなかった。
「 しっかり確認したから。
ええ いつか必ず! 004のピアノで 踊るわ わたし! 」
彼女は 心の奥の奥で固く決意していた。
そのために。 なんとしても 生きてここから 出る!
それは 生き続ける希望 であった。
― そして またある時 ・・・
「 ・・・ 」
002が 飛行中になにかを空中に撒いていた。
あっという間の行動だったので気付いたのは 彼女だけだった。
「 え・・・ なに ・・・? あ。
鳥さんたちが 追い掛けてきて ― パン屑 撒いたんだわ !
え ・・・ なんて優しい表情 してるの?? 」
彼は日頃の言動はストレートで乱暴で 彼女は眉を顰めることが多々あった。
おまけに その言語は < 一種の英語 >。
自動翻訳機にも通らないスラングだらけで 意味不明 が多かった。
そのことを 本人は一向に気にしている様子も ない。
しかし ―
彼は おそらく本来は気のいいワカモノだったのだろう。
ぶっきらぼうなのは 彼があえてそう装っているのか
彼もまた ブキッチョさん なのか それはわからないが。
「 ふうん ・・・ でもね しっかり見たから。
本当は 優しいのね ・・・ ええ いつか 公園で小鳥さんに
ゴハンを撒きましょう 庭にエサ台を置きたいわね 」
この決心は ほんのりと心が温まる。
だって ― 先に夢みるのは ごく普通の日常 なのだから。
その時の彼らが 心底求めて止まないものだったのだから。
些細な出来事、 発見が ― 彼女の精神を護り解放への熱意となった。
そして ― あの怒涛の脱出劇の後 ・・・
やっと落ち着いた極東の島国で 少しは心の余裕も持つことができた。
仲間たちの間でも 打ち解けた会話を交わしたり 笑顔を見せあう時も
増えてきた。
あら。 笑うって いいわね
・・・ なんか 心が 温まって
ああ ・・・ こころが ほどけてゆくわ
冷たい仮面 はもう必要なかった。
無表情で固めた心は ゆっくりと解凍していった。
フランソワーズは やっと 瑞々しいマドモアゼルに戻り始めた。
・・・ 他の仲間たちも どうやら同様だった らしい。
ある静かな午後 リビングのソファで銀髪の彼はなにやら大判の書籍を
広げ眺めていた。
目は誌面を追っているが 指が。 彼の指は 動いて いる。
あ みつけた ・・・ !
・・・ 聞くわ!
彼女は さり気なく近づき ―
「 あの 聞いてもいい 」
「 ― なんだ。 」
「 貴方って ピアニスト ? 」
「 は? 」
「 ― 見てたの あの頃。 今も よ。 あなたの ・・・ 指 」
「 ・・・ ふふん 」
004 いや アルベルトは頷きもしなかったが に っと笑ってくれた。
「 お前さんは ダンサー か 」
彼は ちらり、と彼女の立姿を眺めた。
「 そうよ。 」
「 レッスン・ピアニスト やるぞ? 」
「 本当?? ― レッスン室 造る! 」
「 しっかり防音にしてくれ。 」
「 ― 了解 」
― 同じ世界の住人を 見つけた・・・!
これは滅茶苦茶に 嬉しい発見だった。
彼女にとって 004 は はっきりと アルベルト・ハインリヒ になった。
「 ・・・ これ。 鳥さん達に どうぞ? 」
「 へ・・・? 」
のっぽの赤毛・アメリカンは テラスの端に腰かけ スニーカーをつっかけ
ぼ〜〜〜っと空を眺めていた。
「 あのね 固くなったパンを細かく砕いたの。
・・・ 海に近いから カモメが多いわね ここ。 」
はい、と パン屑入りの袋を渡した。
「 サンキュ 」
それ以上は言わなかったが ― 彼の笑顔はひどく印象的だった。
ダダダ ダ −−−−−
002は いや ジェットは に〜〜っと笑いスニーカーを脱ぎ飛ばすと
そのまま三階まで駆け上がり 窓から屋根に出た。
「 ?? な なにをするつもり?? 」
フランソワーズは 思わず < 視て > しまう。
赤毛のアメリカンは 屋根に立ち思いっ切り口笛を鳴らしはじめた。
ぴゅ〜〜い ぴゅい ぴゅい ぴゅい〜〜〜
すると ―
チチチチ −−− ギャアギャア 〜〜 ピルルーー
四方八方から 鳥たちが飛んできた!
「 お〜〜〜〜っす!!! メシだぞ ぉ〜〜〜 」
彼は その鳥たちにパン屑を投げ始めた。
「 俺 お前たちと同類なのさ〜〜 空の味、知ってんだ
ほら 来い〜〜〜 こ〜〜〜い 」
節高な 案外細い指が 巧みにパンを細かくし撒いてゆく。
寄ってくる鳥たちを 見つめる瞳は ― 空の色。
やっぱり ね。
優しいのよね ・・・
空をず〜〜っと見つめていたから
空の色の瞳 なの?
空でず〜〜〜っと過ごしてたから
しなやかな指 なの?
ふふふ・・・ 仲良くしましょ?
ナイーヴなヤング・アメリカンさん♪
002 は はっきりと ジェット・リンク になり
彼の使うスラングも かなり理解できるようになった。
ふうん。 そうか そうなんだわねえ ・・・
皆だって < 本当の自分 > に戻るわよね
そうよ わたし達 ニンゲンなんだもの。
「 う〜ん ・・・ 皆はいったいどんなヒトなのかしら 」
当たり前の生活を送り始めると 仲間たちの素顔が気になってきた。
この国に来て以来、かなり広い屋敷に住み それぞれプライベート・ルームを持ち
自由に日々を送っていた。
最初は 自分自身のコトで精一杯 ― だけど だんだんと周囲が 見えて きた。
そう ― < 生き残る > ことだけを考えていた時には
まったく気づかなかったことが 見えて きたのだ。
「 ・・・ 名前はわかったわ。
自己紹介 って ― あれは本名と出身を言っただけでしょ?
ねえ < あなた > は どんなヒトなの 」
若い娘さんは 好奇心満々〜〜でもさり気なく 何気な〜〜く
オトコ達を観察し始めた。
「 はろ〜 005 じゃなくて〜〜 ジェロニモ Jr さん、
温室のトマト、 すぐに食べられるのありますか 」
ぼわん ぼわん。 入口のビニール・コーティングのドアを叩く。
005、彼は 時間があれば裏庭の温室にゆき あれこれ世話をしている。
園芸用の小さな温室は かなり本格的な農業用ハウスに変わってきていた。
「 むう ・・・ ある。 」
緑の間から 穏やかな顔が現れる。
「 晩ご飯用に お願いできる? 」
「 おう。 中、入ってくれ 」
「 メルシ・・・ わあ 温かいのね〜〜 」
「 太陽のチカラ ・・・ トマト こっちだ 」
温室の奥へと 一緒に進んでゆく。
「 うわあ ・・・ いろんなお野菜〜〜 」
左右の畝には違う野菜が並び 花を咲かせているもの、
稚い実をつけているものなど さまざまな顔を見せている。
「 すご・・・ ねえ このパープルの、なあに? なす?
・・・ どんな味なのかしら わあ〜〜 いちご〜〜 ♪ 」
きょろきょろしているので なかなか進まない。
「 トマト。 晩飯に使うのだろ? 」
「 あ ・・ そうでした〜 どこ? 」
「 こっちだ。 なかなかいい出来だ 」
大きな手が 一画を指している。
「 どれ・・・ わああ ・・ たくさんね〜〜〜
ねえ 食べごろのを選んで? 」
「 むう ・・・・ 待ってろ 」
寡黙な巨人は 絹綿を扱うよりも繊細に赤い実を枝から切り取ってくれた。
「 ・・・ ちょうどよいトマト達だ 」
「 きれい ・・・ ああ お日様の香ね 」
両手で受け取り 彼女はそっと顔を近づけた。
「 ふ ・・・ 詩人だな 」
彼の笑みは お日様みたいに温かいのだった。
このヒト ・・・ 一番繊細かも・・・
ああ だからここの野菜や果物は
めっちゃくちゃに美味しいのね
そうよ 優しい味 なの。
強烈に青くさく、ほんのり温かい実をザルに山盛りにしてもらった。
「 ありがと〜〜〜 晩御飯 楽しみにしててね〜〜 」
「 ・・・ おう。 」
「 一緒に戻る? 」
「 草取り もう少しすすめてゆく 」
彼は 再び緑の中に沈みこんだ。
彼の手は 大地と仲良しなのね
・・・ 温かい手 大きな手
うん・・・ 彼は心も身体も 手も
大きいんだわ
ころん ころん。 ザルの中でトマトが踊っている。
「 美味しそう〜〜 ああ ひとつ 摘まんじゃおうかな・・・
あ イチゴもあったわよね〜 明日のデザートにしたいなあ
彼が育てたから きっとお日様の味 だわね うふふ 楽しみ♪ 」
軽い足取りで キッチンまで戻ってきた。
カチャカチャ トントントン ・・・
キッチン、 いや 厨房はいい匂いの湯気でいっぱいだ。
「 温室便 到着で〜〜す 」
「 トマト あったかネ〜〜 フランソワーズはん 」
厨房の主 ― 006は ガス台に向いたまま聞いてきた。
「 ええ もぎたて♪ 」
「 アイヤ〜〜〜 ええなあ〜〜 あ そのままやで
たべる寸前に さささっと布巾で拭えばええ 」
「 え ・・・ 洗わないの? 」
「 うっとこのトマトやで? 無農薬だろが〜 」
「 あ そうね そうね
ねえ このトマト お日様の香がするの 」
「 ほうほう さすがジェロニモはんやな〜〜
そりゃ 最高の味でっせ〜〜 」
「 これ サラダ? 」
「 そや。 キュウリと一緒にな〜 ささっとレモンと胡椒で 頂きまほ。 」
「 あらあ〜〜 美味しそう〜〜
これ・・・ きゅうり っていうのね? ズッキーニのコドモ時代 みたい ・・・
ねえ そのいい香のお鍋の中身は なあに? 」
「 ほっほ〜〜 そりゃ 晩御飯のお楽しみ やで〜 」
「 う〜〜ん お腹がぐ〜ぐ〜 いってますぅ 」
「 そりゃ最高のソースやな。 アルベルトはんにテーブルの用意、
頼んださかい あんさんは食器の確認、 たのんまっせ
あ お箸も用意してな〜 」
「 はあい。 ・・・ あ〜〜〜 いい匂い〜〜 」
盛大に鼻をクンクンさせ 厨房を横切った。
ここは 帳さんのお城ね
失礼いたしまあす〜〜
006、この天才料理人の丸まっちい指は 魔法の指だ。
彼が触れ 大振りの包丁を揮うと なんでもとびきり美味しくなる。
この地に暮らし始め 彼はその本領を存分に発揮している。
「 そりゃそうよね ・・・
食べる自由 があるんだもの。 当たり前だけど 」
ふんふんふ〜〜ん ・・・ ハナウタまじりに 食器を確認。
「 ・・・ おっけ〜〜。 あとは ナイフとフォーク あ それから
おはし だったわね 」
フォーク類を持って 食卓の側に行く。
「 セッテイング お疲れ〜〜 」
「 ・・・? ああ。 フォーク類はこっちか 」
「 そ。 あ あのね おはしも、 ですって。
わたし 使わないけど・・・・ どこに置くの? 」
「 ああ ソレを使うのは 張大人と博士、 そして あの・・・
茶髪ボーイだ。 」
「 009でしょう? 彼ってジャポネなのね 」
「 そう言ってるぞ。 この地域出身なんだそうだ。 」
「 へえ ・・・わたしの知ってるジャポネは あ ジャポネーゼも
黒い髪がほとんどだったけど ・・・ 」
「 ま いろいろあるんだろ 」
「 ふうん ・・・ ねえ 今度 ピアノ弾いてくださる 」
「 ・・・ もう少し練習してから な 」
「 楽しみにしてるね 」
「 ・・・ 」
銀髪の独逸人は に・・・っと笑った。
この屋敷の落ちついてから 彼は博士と打合せを繰り返し
メンテナンス・ルームに籠ることが多かった。
「 ・・・ なに どうしたの? 」
「 うん? おう これは Mademoiselle〜〜 」
スキン・ヘッドの英吉利人が 大仰にお辞儀をした。
「 ハイ? えっと・・・ ミスタ・ブリテン ・・・
アルベルトは <改造> しているのであるよ 」
「 か 改造?? なぜ??? 」
「 いやいや 彼の指さ。 また活躍できるように 」
「 ! ああ ・・・ 」
「 わかったかね Mademoiselle ? 」
「 ええ ええ。 ミスタ・ブリテンも気づいていたのね 」
「 〜〜〜♪ 」
口笛を吹き 彼は洒脱に帽子を取ってお辞儀をする ― 仕草をみせた。
あ ら・・・?
今 タキシードでステップを踏んでた・・・?
このヒトは ― 魔法使い??
007、このヒトは身体全体が そしてその手は実に雄弁に物語るのだ。
魔法使いの魔法の杖かもしれない。
これは 出会った頃から気付いていたのだが ―
彼は 素顔で素手で― 百変化する。
「 ― あのう ミスタ・ブリテン ・・・? 」
「 なにかな Mademoiselle? 」
「 あのう 貴方は役者さん ・・・ ですか 」
「 御意。 あんな下卑た奴らのくだらん技術なんぞ使わずに
吾輩は 化ける ことができますぞ 」
「 うわあ ・・・ すご〜〜い〜〜〜 」
「 メルシ〜 Mademoiselleは バレリーナだろう? 」
「 ― 当たり 」
「 ふふん 同じ業界の匂いはすぐにわかるのさ 」
「 ああ ああ そうね そうね ― ステージ 観たいです! 」
「 少々お待ちください。 また 板に乗りますぞ 」
「 きゃ〜〜〜 すてき! 」
― 仲間たちは 実に多種多彩な才能の集合である。
ゼロゼロナンバー・サイボーグは それぞれ異なる能力をもった
最新兵器だ! なあんてアイツらはドヤ顔でホザいていたが。
冗談じゃあないわよ? 知らないの??
わたしの仲間たちはね〜〜
フランソワーズはにんまりしている。
そうなのだ ―
本来の彼ら自身の方が ず〜〜〜っと< 優れた能力をもった > 存在なのだ。
カンカン カン −−−
靴音を響かせ 彼は地下格納庫から上ってきた。
「 ― ドルフィンのデータ、全部録ってきたよ 」
「 ダンケ。 保存して分析かける 」
「 あ ざっとだけど分析してからデータに落としたから 」
「 ― お前さん ヤルな 」
「 ふふふ ドルフィンのOSは最新だからね〜〜
弄っていて楽しいよ 」
008、ピュンマは白い歯を見せ 笑う。
脱出作戦の途中から全員が気付いていた。
008は 超一流のメカニックだ!
彼が精密機器を扱うとき 彼の指は最高の音楽を奏でる。
< 兵器 > であった頃、 彼の射撃精度は抜群だった。
ほぼ百発百中だろう。
そうなのね〜〜
わたしは 目視とカンで撃つけど
彼は瞬時に分析するのよね
ニンゲン・コンピュータ だわね
その後 ドルフィン号が彼らの<愛機> となってからは
彼はメカニックとして存分に腕を揮った。
操縦や迎撃は 002 009 004が担当するが
機体整備と管理は 008の独壇場だった。
― そんな彼の 縄張り は 海 なのだ。
「 ピュンマ ・・・ 聞いてもいい 」
「 うん なに 」
フランソワーズは 彼とは年齢的にも近いので親しみを感じていた。
「 一番リラックスできるのは どこ? ドルフィン号の中? 」
「 え? いやあ〜〜
うん ・・・ やっぱりねえ 海の中が最高だよ 」
「 え ・・・ 海の中? ああ そりゃ水中仕様だから ね? 」
「 まあ それもあるけど。
海の中はさ 数式はないんだ。 予測なんて たたない 」
「 え ・・・ 」
「 一秒先も わからないんだぜ?
潮の流れは刻々と変わるし めちゃくちゃ生き物、いるしさ〜
もう わくわくする〜〜 」
「 ・・・ へえ ・・・ 」
「 うん ・・・ この感覚、002 なら共感してくれるよ きっと。 」
「 え?? 002?? 彼 ・・・ 泳げるの? 」
「 あはは そうじゃなくて。
う〜ん 海も空も 似てるってことかなあ 」
不思議なヒト ね ・・・
海みたいな底知れない魅力 があるわ
皆 すご〜〜いなあ
フランソワーズは なんだかとてもわくわくしてきた !
「 ― あ 009。 う〜〜ん ?? 」
最後に仲間となった茶髪の少年は ― よくわからない。
いつも穏やかに笑っているけれど 彼の本質は ― よくわからない。
・・・ 謎よ〜〜〜
Last updated : 04.12.2022.
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************* 途中ですが
こんな風に 仲間と知り合って行ったのだ ・・・ と思いたいです☆
原作と平ゼロ まぜこぜ設定〜〜 <m(__)m>
ポアントとリボン云々は 誰もが通る道 なのです (^.^)