『  オトモダチ  ― (1) ―   』

 

 

 

 

 

 

 

 

  カッチャ ガッチャ カッチャ ガッチャ   タタタタ −−−!

 

少々騒がしい音と そんなのには負けない元気な足音が響いてきた。

「 お〜〜っと ・・・ 我が家の台風娘さんがご帰還ね〜〜

 えっと ・・・ お煎餅はまだストックがあったはず ・・・ 」

フランソワーズは キッチンに行きパントリーの中を確かめた。

間もなく ―

「 たっだいまあ〜〜〜〜〜  夏休みぃ〜〜〜〜♪ 」

元気すぎる声が 玄関の外から聞こえてきた。

「 はいはい ・・・ そんなに大声じゃなくてもちゃんと聞こえますよ ・・・ 

エプロンで手を拭きつつ、フランソワーズは玄関に出ていった。

「 おか〜〜さ〜〜ん 夏休み〜〜〜 」

「 夏休み ってヒトはウチにいませんけど ・・・? 」

「 う〜〜〜〜 アタシ!  ね〜〜〜 早くあけて〜〜〜 

「 アタシさん もいませんが・・・・ 」

「 おか〜さん!  す  ぴ  か  !!! 」

  ― ガチャ。  母はようやくロックを外した。

「 はい お帰りなさい。 すぴかさん。 」

「 へ〜〜〜〜 ふ〜〜〜 ・・・ どん。 」

玄関に入るなり すぴかは両手いっぱいにもっていた荷物を下に置いた。

「 うっぴ〜〜〜 手 やぶれるかとおもったぁ〜〜〜 

「 手は破れないと思うわよ?  ・・・ まあ なあに、この荷物〜〜 」

「 え? お道具箱に〜 けんばんは〜もにかに〜 えっとぉ たいそうふくに〜

 えのぐせっとに〜 ぼうさいずきんに〜 ずこうでつくったかみねんどのけーきに〜

 えっと・・・ あ 上履き! 」

「 はあ ・・・ お疲れ様。  あ 一番大事なもの、忘れてない? 」

「 ?? ふでばこ はちゃんとはいってる〜〜 」

「 もっと大切なもの。  今日は終業式でしょう? 

「 ウン♪ 明日っから なつやすみぃ〜〜〜〜〜♪ 

「 だから その前に。 先生から頂いたでしょ。 

「 あ〜〜〜 ・・・ < あゆみ > かあ〜 」

「 そうよ、ちゃんと見せて頂戴。 」

「 ランドセルの中〜〜〜  ね〜〜 おか〜さん〜〜 にもつ もってぇ〜 」

「 ウチまで全部もって帰ってこれたのでしょう?  お部屋まであとちょっとよ。 」

「 う〜〜〜 だってぇ〜〜 かいだん、あるんだも〜〜ん 」

「 もう ・・・ 仕方ないわねえ〜 どうして一度にみ〜〜んな持って帰ってくるの?

 毎日少しづつ持って帰ってくればいいでしょう? 」

ぶつぶつ言いつつも 母は娘の大荷物をまとめてひょい、と持ち上げた。

「 わい♪ ありがと〜〜〜 おか〜〜さん〜〜 」

「 一体いくつあるの? 」

「 あ〜〜 わかんな〜い  だってさ〜 めんど〜くさいんだもん 」

「 今日だけよ?  それでちゃんと成績表を見せてちょうだい。 

「 せいせきひょう?? 

「 < あゆみ > のこと。 」

「 うん いいよ〜〜  あ! アレは ・・・っと〜〜 すばるにもたせたんだっけ 」

すぴかは 一人でうんうん・・・頷いている。

「 え。 < あゆみ > を すばるに押しつけたの? 」

「 あ〜〜 ちがうよぉ < あゆみ > は ちゃんとここに入ってるもん。 」

すぴかは ぽんぽん・・とランドセルを叩いた。

「 そう? それなら荷物おいて手を洗ってウガイして?  オヤツに 」

「 わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜い !!! 

 どどどどど ・・・・・!  

ランドセルだけを背負って すぴかは子供部屋に駆け上がっていった。

「 あ!  もう〜〜〜 ・・・ でもねえ よくここまで持って帰ってきたわねえ〜 」

よいしょ! と彼女は両手の荷物を持ち直す。

「 ふ〜ん ・・ そりゃ 全部名前を書いてやった記憶はあるけど ・・・

 この国の小学生はずいぶんと物持ちよねえ?

 わたしなんて教科書とノートとペン・ケースと・・・あとはハンカチくらいだったわ?

 皆、布製のバッグとかに入れて学校に行ったっけ。

 そうそう・・・ ママンが刺繍をしてくれたバッグがお気に入りだったのよねえ・・・ 」

半世紀も前の日々が はっきりと思い浮かんできた。

 

   ふふふ ・・・ 毎朝 ママンに髪を梳かしてもらって・・・・

   白いレースのリボンを結んでもらって得意だったの

 

   そうそうふんわりフレアー・スカートが大好きで ・・

     ママンのよそ行き用のハイヒールが羨ましくて

   はやくリセエンヌになりたかったっけ・・

 

   お行儀のいい素敵なマドモアゼルになるのって

   こころの決めていたの

   バレリーナになって オデットもオーロラもジゼルも

   み〜んな踊るのって 夢みていたの

   

   そうよ 毎日がとっても楽しかったわ

 

しかるに。  彼女の大事な一人娘は! 毎朝ぎちぎちに編んだお下げを振り振り

ショート・パンツにTシャツで 駆けまわっているのだ。

 

   元気で明るくて み〜んなに可愛がられてて

   町内でも学校でも 人気モノなんだけど ・・・

 

   けど〜〜〜〜   わたし、ふつ〜の女の子 が欲しかったのよ〜〜

 

「 ・・・ オンナノコが生まれたら 一緒にオシャレしたり

 カワイイ服とかバッグとかい〜〜〜っぱい作ってあげるんだ〜って思ってたのになあ・・」

ふう〜〜〜〜 ・・・ 特大のため息を吐きフランソワーズは階段を上っていった。

彼女の娘は とっても楽しいコなんだけど ・・・ ね。

「 あ おか〜さん!  はい! 」

子供部屋の前で すぴかと鉢合わせし < あゆみ > を押しつけられた。

「 え・・・ あ ちょっと待って・・・ 」

「 おか〜さんにあげたからね〜〜〜 おと〜さんにもみせといて〜〜 」

「 はいはい。 でもね お父さんがお帰りになったらちゃんとすぴかから

 < あゆみ > ですっていうのよ? 」

「 は〜い〜〜  ね! オヤツ どこ? キッチン? 」

「 ええ テーブルの上に出してあるわ。 あと 冷蔵庫に麦茶がきんきん〜に

 冷えてますよ。 」

「 わ〜〜〜〜〜い♪ 」

 どどどど ・・・・!  すぴかは駆けだした。

「 あ ちゃんと手を洗ってね!  ウガイも〜〜〜 」

「 は〜〜〜い〜〜〜〜 」

大変によいお返事を残し 本人はたちまち見えなくなった。

「 ・・・ もう〜〜〜  どうせ 食べ終われば外に飛び出して行くのでしょ・・・

 あ〜〜〜 また晩御飯まで 蝉取り に夢中なのかしら ね 」

よっいしょ ・・・ 母はもう一度両手の荷物を持ち直すと 子供部屋に配達した。

「 う〜〜〜 なんて重いの??  ああ ホント サイボーグでよかったわ!  ふん! 」

 

 トン トン ・・・ ゆっくりキッチンに戻った。

 

「 ・・・ 晩御飯は っと ・・・ あら? すぴか〜 いたの?? 」

「 いたの。 

もぬけの殻 と思っていたキッチンで すぴかがカリカリお煎餅を齧っていた。

「 とっくに遊びに行っちゃったと思ってたわ 

「 あそびにゆくよ〜〜〜  すばる まだかな〜〜〜 

「 え? ああ すばる、待ってるの 」

「 ウン。  すばる ってか〜〜〜 アレ。 すばるに渡したからあ〜〜 」

「 アレ?? 」

「 うん。   あ!  帰ってきた〜〜〜 すばる〜〜〜〜〜〜〜 

 アレ ちゃんともってきたあ〜〜〜?? 」

  どん。       イスから飛び降りると すぴかは玄関に駆けていった。

「 アレ?  ・・・ なにかまだ持って帰るものがあったかしら???

 う〜〜ん??? 一年生の時には アサガオ の鉢植えがあったわね〜

 去年は ミニトマト だったっけ・・・  あ すばる  お帰りなさい! 」

母も 娘を追って玄関に出た。

 

「 ― ただいま〜〜〜 

玄関のタタキには すばるがランドセルひとつでにこにこ・・・立っていた。

「 お帰りなさい、 すばる。  あら?? すばる 荷物は? 」

「 僕 これ。 ランドセル。 」

「 え ランドセルだけ??  だって鍵盤はーもにか とか 絵具セットは? 

「 えのぐせっとは 昨日もってかえってきたよ〜 けんばんは〜もにか はおととい。 」

「 あ  そうだったわねえ 」

「 僕 じゅんばんにもってかえってきたんだも〜ん 」

「 ああ ・・・ さようですか 」

「 ウン。  おか〜さん オヤツ〜〜 

「 あ〜〜 はいはい 」

「 すばる〜〜 アレは??? 」

すぴかが ぐい、と割り込んだ。

「 あ〜 あるよ ランドセルに入ってるよ ちょっとまって 」

「 はやく〜〜  おか〜さんにみせよっ 」

「 ウン まって ・・・・ そ〜〜っと ・・・ 」

「 そだね〜〜 そ〜〜っと そ〜〜っと 」

クスクスクス ・・・ 二人はとて〜も楽しそうだ。

「 まあ なあに? 

すばるは 玄関でゆっくりランドセルを下ろすと 中から半透明のケースをそ〜〜〜っと

引っぱりだした。

「 あ〜〜 げんき?? 

「 ウン。 僕 ゆらさないようにゆっくりかえってきたから〜〜  はい すぴかの。」

「 さんきゅ。  あ〜〜 げんきだあ〜 」

「 僕のも〜〜 

二人は手にしたケースを覗きこんでいる。

「 まあ なあに?? 」

「 おか〜〜さん  これ! 」

「 おかあさん 」

    ―  ズイ。  フランソワーズの目の前にケースが二つ差し出された。

「 ???  なに ・・・  !!!

 

 

        きゃあ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ・・・・・・・・ !!!!!

 

 

ギルモア邸の玄関に フランソワーズの悲鳴が響き渡った。

「 おか〜〜さん??? どうしたの??? 」

「 おか〜〜さん??? どっか いたいの?? 」

子供たちはびっくり仰天 ・・・ 玄関の隅に隠れた母に駆け寄った。

  ― 手に例の半透明のケースを持ったまま。

「 ねえ ねえ おかあさんってば? 」

「 おか〜さん ・・・ おじいちゃま よんでくる? 」

「 ・・・ さっきの は ・・・・ 」

「 あ これ? 」

「 はい これ。 」

 

   カサ。   二人はケースを母に押し付けた。

 

「 きゃあ〜〜〜 やめて〜〜〜〜 ・・・ あっちもってって〜〜 」

「 おかあさん?  かいこ ・・・ きらい? 

「 おか〜さん かいこ はかみつかないよ?  」

「 いやあ〜〜〜〜 お願い〜〜 すぴか すばる〜〜〜 

「 え  なんで?? 」

「 これ カワイイよ〜〜 あのね さわるとひんやりしてて 」

「 !!!!! お お願い ・・・ あっちやって 〜〜〜 」

「 ・・・・ 

初めて見る母の怯えた姿に 子供たちの方もびくっとしてようやっと手にしたケースに

を後ろに隠した。

「 ・・・ あっちにやった・・・ ?  」

「 ・・・ ウウン  ここにある 」

「 〜〜〜 お願い お母さんのまえからどけて 〜〜 

「 あの ね お母さん。  これ かいこ だよ? なんにも悪いコトしないよ? 」

「 うん。 これね〜 僕のかいこ。 かいちゃん っていうんだ〜 ともだちだよ。  」

「  か  い ・・・こ ? 」

「 ウン!! これね かうんだ〜〜 かんさつにっき つけるの。 」

「  かう??? ウチで???   だ だめです〜〜〜  」

「 おか〜さん なつやすみのしゅくだい なんだ〜〜 かんさつ日記 」

「 そ〜なの〜〜 そんでもってねえ まゆゆになってね いとになるんだって! 」

「 そ〜なんだって! いとになって〜 それからぬのになるんだよ ね〜〜 

「 ウン! アタシのはね〜〜  か〜こ にしよっかな〜〜〜 

 ね そ〜〜っとさわるとひんやりするの、しってた? 」

「 しってた。 でもね〜 あんましさわらないほうがいいって・・・みやべ先生がさ〜 」

「 ふうん ・・・ でもカワイイよねえ〜 

「 ウン♪  かいちゃ〜〜ん ここが僕たちのおうちで〜 これがおかあさんだよ〜 」

「 そ。 か〜こ? ウチのおか〜さんで〜〜す 

「 !!!!!  ・・・・・・ 」

子供たちは再び ケースに入った白い虫をフランソワーズの前に差し出した。

「 おねがい・・・ お母さんの側に持ってこないで〜〜〜〜 」

「 お母さん あの ね。 さっきも言ったけど〜夏休みのしゅくだいなの。 

か〜こ、飼ってもいいでしょう? 」

「 お母さん〜〜〜 かいこの観察日記  理科の宿題なんだ。 

「 ― 学校の宿題 なの ・・・? 」

「「 うん!!! 」」

「 ソレ ・・・ 虫 でしょう? 」

「「 うん!! かいこ だよ 」」

「 ソレ ・・・ 蝶々 とか 蛾 になるの?? 」

「 え〜〜〜 ちがうよぉ〜〜 か〜こ達はねえ まゆになっていとになって ね〜? 」

「 ウン。 」

「 ・・・ 宿題なら ・・・ 仕方ないわ。 あなた達のお部屋に置いて!

 お願いだからリビングとかにはもってこないで〜〜〜 」

「 え ・・・ か〜こ、皆と一緒にいたいかも〜 」

「 お母さんは一緒にいたくありません〜〜〜 お願いよ、すぴかさん〜〜 」

「 わかった〜 お母さん。 僕 かいちゃん をお部屋でお世話するね。

 き〜すけ みたいにいっしょうけんめいお世話する。  」

「 じゃ アタシもか〜こはお部屋に置く ・・・ 」

「 そうして!  お願いだから〜〜 」

「「 は〜〜い  」」

「 だから! 今 すぐに! ・・・ ソレを置いてきてちょうだい! 」

「 ウン わかった〜 」

「 かい〜〜 これからず〜〜っとウチのコだからね〜〜 」

子供達は大事そう〜〜にケースを抱いて二階に上がっていった。

 

「 !! ・・・・ もう〜〜〜〜 なんなの〜〜〜〜

 日本の小学校って なんなの〜〜〜  あんな気持ちワルイもの、おうちに

 連れて帰らせるなんて〜〜〜  ああ ああ もう子供部屋には入れないわ! 」

フランソワーズは なぜかバス・ルームに飛び込んでごしごし・・・手を洗うのだった。

 

「 ね〜 か〜こ達、どこにおく? 」

「 う〜〜んとねえ・・・ ベッドの横!  ねる時も見れるように〜 」

「 そだね〜〜  か〜こ? ここがお家だよ〜ん 」

「 あ。 かいちゃん達のごはん、どうする? 」

「 ご飯?  ああ エサはあ〜  くわの葉っぱ  ってならったじゃん。 」

「 しってるよ〜 けど ウチにはくわの葉っぱないから〜

 あ そうだ〜〜 えさの葉っぱは学校のうえんのくわの木 からとってくることって

 みやべ先生 言ってた! 」

「 あ〜〜 そうだっけ?? 」

「 そう!!  夏休み中も来ていいって。 だから毎日 ごはん、とってこなくちゃ。 」

「 う〜〜〜 まいにちぃ〜〜 ? めどくさ〜〜〜 ウチはさあ遠いしなあ・・・ 」

「 う〜〜ん ・・・ 

毎朝 双子たちは崖っぷちの家から小学校までかなりの距離を元気よく歩いて通っている。

それは別に苦にはならないけど ・・・ 夏休み中に・・・ってのは やっぱり

ちょっと イヤ かもしれない。

「 ほかの葉っぱじゃだめかなあ〜 ひまわり とか?? 」

「 ・・・ ひまわり はダメだとおもう。  

「 う〜〜〜ん ・・・ あ!  あの葉っぱの木 うら山にもあった ・・・かも? 」

「 え ほんと?? 」

「 ウン 多分。  アタシ、 ちょっとみてくる。 」

「 ひとつ とってきて すぴか。 

「 おっけ〜〜〜 」

 

   だだだだだだ 〜〜〜〜   ばたんッ !!

 

すぴかは階段を駆け下り 玄関から飛び出していった。

「 ?  だあれ?? お外に遊びにいったの? 」

母の声がキッチンから響いてきた。

「 あ ・・・ ちがう〜〜〜  すぴかが かいちゃんたちのごはん、

 とりにいったんだ ・・・ 」

「 !  ・・・ ああ  そう 」

< かいちゃん > の名前に 母はすぐに黙ってしまった。

すばるは とてとてキッチンにやってきた。

「 おか〜さ〜〜ん 僕 オヤツぅ〜〜〜 」

「 アレ ・・・ は? 

「 ベッドのそばにいるよ。 」

「 !!!  あのケースから ・・・ 出したの?? 」

「 え〜〜〜 そんなこと、しないよぉ〜  あのケースは かいちゃんのお家だもん。

「 あ そ・・・ あ〜〜 ほら オヤツよ〜〜 」

「 わい♪ 

すばるの前に オーツ・ビスケットとアイス・ミルクティが置かれた。

「 わ〜〜い  おさとう、はいってるう? 」

「 ちゃんと入っているわよ。 」

「 わい♪  〜〜〜〜 ん 〜〜〜 おいし〜〜〜 」

「 あ すぴかは? どこに行ったの?  その ・・・ アレのご飯 ?? 」

「 ウン、うら山にね〜 とりにいった。 毎日しんせんなご飯がいるんだ〜 」

「 あ そ ・・・ エサはあなた達でちゃんと やってね! 世話、してね!

 宿題なのでしょう? 

「 ま〜ね〜  すぴか ・・・ エサみつかったかなあ〜〜 」

すばるはの〜んびりビスケットを齧りつつ 伸びあがってキッチンの窓から裏山を眺めていた。

 

 

 ガサ  ガサ  ガサ ・・・

 

すぴかは裏山の薮の中を掻き分けてゆく。

< うら山には一人で行かない > が 島村家の約束なんだけど ・・・

 

「 ふたりならいいよね〜〜〜 一人じゃないもんね〜〜〜  ね すばる? 

「 う うん ・・・ 僕 ・・・ うらの垣根のとこで待ってていい? 」

「 だめ〜〜 だってうら山はひとりで行っちゃだめ なんだもん。 」

「 僕 ・・・ 行きたくない〜 」

「 う〜〜 なら 垣根の外 でまってて! いい? 

「 ・・・ わかった ・・・ 」

弟を待たせておいてさんざん < たんけん > し、裏山はもう彼女にとっては庭の延長なのだ。

 

「 えっと ・・・ 松の樹の向こう・・・に あったよ〜 ぜったい! 

手にした桑の葉を もう一度しっかり見る。

「 ちょっとしおれてるけど・・・ これと同じ葉っぱの木 あるんだもん〜〜

 え〜〜と ・・・ あ!  あれだ〜〜〜 」

裏山のすこし日蔭になっている場所に その木は生えていた。

あんまり大きな木じゃないけど ちゃんともしゃもしゃ葉っぱはいっぱい茂っている。

「 あ〜〜 これだよ〜〜  これなら か〜こ と かいちゃん のごはん、

 たりるよね〜〜  ・・・ えい えいっ 」

背伸びをして 彼女はぶちぶち葉っぱをちぎり始めた。

 

「 すばる〜〜〜〜 あったよ 〜〜〜 

  ドドド 〜〜〜   すぴかが階段を駆け上がってきた。

「 すぴか〜〜 ほんと?? 」

「 ウン!  ほら〜〜〜 」

すぴかはぎっちり握ってきた葉っぱを突き出した。

「 わあ〜〜ぉ  うん これ ・・・ くわの葉っぱ だね! 」

「 でしょ? アタシ、ちゃ〜〜んとうら山にあるって知ってたも〜ん♪ 

 アタシ、毎日取ってくるから〜〜 すばる、アンタ ご飯あげてよ。 」

「 え 僕が?  すぴかのか〜こにも? 」

「 そだよ〜 アタシがさ〜 かいちゃん の分もくわの葉っぱ、とってくるんだもん。

 すばるがご飯係やってよ。 」

「 わかったよ〜 すぴか、毎日ちゃんと取ってきてよ? 」

「 とってくるってば。  ね ご飯あげて〜 」

「 あ うん ・・・ かいちゃ〜〜ん  か〜こ〜〜 ご飯ですよ〜〜〜 」

「 ご飯ですよ〜〜〜 」

双子たちはアタマを突き合わせ ニコニコ・・・ ケースの中を覗きこんでいた。

 

 

 

その夜 ―  ジョーが帰宅したのはやはり深夜に近い時間だった。

「 お帰りなさい。 お疲れ様〜〜 」

「 た だ い ま♪ フラン 〜〜〜 」

「 毎日遅くまでご苦労様でした・・・ ん〜〜〜 」

「 〜〜〜〜〜 ・・・ ああ きみやチビたちと一緒にいられないのが一番辛いよ〜 」

白い腕がするりと首に絡まってくる。 

お帰りなさいのキス は この家ではもう習慣になっていて

子供たちも眼の前で両親があつ〜〜〜く唇を重ねていても 当たり前〜 と涼しい顔だ。

二人は互いに腰に手をまわしつつ リビングに入る。

「 うふふ ・・・ あ 子供たちね、今日が終業式だったのよ。 」

「 お そうか〜 それじゃ成績表 もって帰ってきたな? 」

「 ええ お父さんに見せるのよって言ってあるから・・・ 」

「 明日 じ〜〜っくり見るよ、アイツらと一緒にね。  あ ってことはいよいよ 

「 そ。 夏休み開始。 

「 あ〜〜〜 いいなあ〜〜〜 羨ましい〜〜〜 

ジョーはふか〜〜くため息をつく。

  チリリン ・・・ 涼し気な音がして露を結んだグラスがジョーの前に置かれた。

「 どうぞ? 冷たい麦茶よ。 」

「 わ〜〜〜 お〜〜〜〜〜  〜〜〜〜〜 ん 〜〜〜〜 んま〜〜〜 」

「 ふふふ ・・・ もう一杯どうぞ?

 ちゃんとヤカンで煮出してから冷やしているの。 」

「 あ〜〜〜 ウチの麦茶・・・最高さ。 めるし〜〜〜♪  

「 わたしもね、大好きよ。 美味しいわぁ〜〜 すぴかもね、大好きよ。

「 ふふ ・・・ すばるは? 」

「 お砂糖、入れれば好き なんですってさ。 」

「 相変わらず甘党だなあ〜 ああ でもいいなあ〜〜 アイツら〜〜 夏休みかあ〜 

 う〜〜〜 ・・・・ 一月半、とはいわないけど。 ぼくらも二週間くらい

 夏休み、欲しいなあ ・・・ 」

「 そうよねえ ・・・ この国のヴァカンスは短かすぎるわよ。 」

「 ふん … 一週間取れれば御の字だからなあ ・・・ 

「 今年は? 」

「 ウン  例によってお盆の前後 さ。 」

「 そう ・・・ あ! 」

「 ?? なんだ?? 」

「 あのね!  ジョー。  ねえ かいこ ってなに? 」

「 え??  かいこ ???  」

「 そう ・・・ なんか気持ち悪い虫なんだけど ・・・ 」

「 虫??  ・・・ あ〜〜〜 蚕 かあ〜〜 

「 知ってるの? 」

「 知ってるよぉ  日本人には大切な存在なんだ。 」 

「 え ・・・あ あの虫が??  」

「 虫って ・・・ ははは  まあ確かにそうだけど。

 でもな、 あの虫が作る糸が生糸、つまりシルクなんだよ?

 ほら きみがお気に入りの下着、あれのもともとの原料をつくるのさ。 

「 ・・・ う ・・・  」

フランソワーズは そう・・・っと下着に手を伸ばした。

  

     う ウソ???  こ  これの原料なの??

     あ  あの 虫 が ・・・???

 

「 昔 生糸はこの国の重要な輸出品でした。 生糸で日本は外貨を稼いでいたのです・・・

 って習ったよ。 」

「 あの虫 が ・・・ ねえ ・・・ 」

「 きみだってシルク、好きだろ? 」

「 そりゃあ ・・・ シルクのドレスって少女時代は憧れだったわ ・・・

 わたしの頃は今みたいに 化学繊維がこんなに発達してなかったもの。

 シルクのストッキングって 母はよそ行き用ってとても大切にしていたわ。 」

「 ストッキング? へえ〜〜〜〜  それはしらなかったよ〜〜 」

「 今はね、ストッキングなんて安くてたくさんあるけど・・・

 あ!  それでね それでね〜〜〜 その 虫 をね

 あの子達が 飼う って 学校の宿題だって・・・ もってかえってきたの!!! 」

「 あ〜〜 そうかあ・・・ うん、ぼくも記憶、あるよ。

 こんな位のケースにさ ちっこい蚕を何匹かもらってくるんだ。 」

「 そ〜〜なのよ!  わたし ・・・ 見たくもないの!  」

「 きみ 虫はダメ? 」

「 ダメっ!  特にね、毛虫とかイモムシ系は天敵よ 」

「 ふ〜〜ん ・・・・ まあ アイツら、自分たちでちゃんと世話するだろ?

 宿題なんだしさ。 すばるなんてほら・・・金魚には熱愛を注いでたじゃないか。 」

「 き〜すけ でしょ。 金魚ならいいけど・・・

 ともかくわたしは!  この件に関しましては一切辞退させていただきますから。 」

「 はいはい 了解ですよ、奥さん。 

「 お願いします。  あ ごめんなさい〜〜 晩御飯 どうぞ♪ 」

「 あ〜〜〜 ありがと〜〜〜 

ジョーは 遅い食事のテーブルに着いた。

 

 

 

  ふ ぅ ・・・        は  ぁ ・・・・

 

まだ熱さの残る吐息が ふんわりと寝室の天井に昇ってゆく。

「 ・・・ あ  は ・・・ 

パサリ ―   ジョーは腕を伸ばし、彼の恋人の髪を梳く。

「 ・・・・・ 

ほんのり桜色に染まった肢体で 彼女はなにも応えない。

ついさっきまでの熱く甘い時間 ( とき ) の余韻に二人は浸っていた。

「 ・・・ チビの頃 さ ・・・ 

「 ・・・ え?  

「 ぼく チビの頃 ・・・ 夏休みにやっぱり朝顔とかミニトマトの鉢植えとか・・・

 学校からもって帰ってきたんだ 蚕も さ。 」

「 そう ・・・ 」

「 ものすご〜く熱心に世話をしたよ。 自分だけのもの なんてほとんどなかったから

 嬉しくてさ ・・・ 」

施設での少年時代を ジョーはごくたまに話してくれる。

「 そう ・・・ 

「 朝顔はすご〜く沢山咲いて 神父さまがとても喜んでくれたなあ〜

 教会の入口に置いてくれてさ ・・・ ぼく ものすごく得意だった ・・・ 」

「 うふ・・カワイイ・・・  すぴか達のは枯れちゃったわねえ 」

「 アイツら ちゃんと世話しないんだの。

 それでさ、 蚕もさ もって帰ったんだけど・・・桑の葉っぱ なんて買えないし

 やっぱり死なせちゃったっけ ・・・ 」

「 くわのは?? 」

「 蚕のエサさ。 アイツら・・・どうするのかなあ ・・・ 」

「 ― わたくしは存じません。 」

「 はいはい 奥さん ・・・ 」

「 ・・・ きゃ ・・・ もう〜〜 ・・・ うふふふ 

「 〜〜〜 んん〜〜  ふふふ ・・・ 

ふたたび ベッド・ルームにはもわもわ〜〜ん と甘い空気が満ち始めた。

 

 

 

「 すばる〜〜〜  ねえ か〜こ ・・・ 食べてないよ? 」

「 ・・・ かいちゃん もだ。  これ ・・・ くわの葉っぱだよね? 」

「 くわの葉っぱだよ!  ほら !! 

すぴかは < しょくぶつずかん > をばん! と開いた。

「 ・・・ ウン。 くわの葉っぱだね。  けど ・・・ 

「 なんで食べないの〜〜 か〜〜こ〜〜〜 

「 かいちゃん?? ご飯 食べなくちゃだめだよぉ〜〜〜 」

二人は半ベソで 飼育ケースを覗きこむ。

双子の蚕たちは なぜかすぴかが裏山から取ってきた < くわの葉っぱ > を

食べてくれないのだった。

 

  「「  どうしよう 〜〜〜〜〜〜 」」

 

Last updated : 08,11,2015.                     index      /     next

 

 

***********  途中ですが

お馴染み 【 島村さんち 】 シリーズです〜〜♪

カイコネタは 企画相方の めぼうき様 から。

ワタクシは フランちゃんと一緒です、見るのもダメ〜〜(*_*)

で 続きますです〜〜