『 恋人たちの肖像  ― (1) ― 』

 

 

 

 

 

 

  § みそっかす

 

 

「 まって〜〜  まって〜〜 あ〜〜ん ・・・ 」

その頃 ・・・ 私は四六時中その言葉を叫んでいた、と思う。

朝起きてから寝るまで ― 食事の時も、そう・・・トイレに行く時でさえ、そう喚き そして

半分ベソをかきつつ走っていたのだ。

そんな私をいつだって二つの声は置いてきぼりにし、どんどん先に行ってしまう。

 

「 あはははは ・・・ や〜だよ〜〜 」

「 ほっとけって。  オンナは入れてやんな〜い! 

 

「 ・・・ あ〜ん ・・・ 」

三人兄妹の末っ子 ― 上ふたりが兄貴、という宿命ゆえ私はいつも仲間ハズレのみそっかすだった。

小学生の兄貴たちは やっと三輪車を卒業した幼稚園児の妹など構ってはくれなかった。

「 ・・・ くしゅ くしゅ ・・・ ママァ〜〜  」

「 あら お帰り。  なあに? 」

「 お兄ちゃんたちが〜〜  さきにいっちゃったァ〜〜 」

ベソかきつつ母の元にもどり、言いつけるのも <いつものこと> だった。

母が涼しい顔をしているのも <いつものこと>。

「 ま〜 しょうがないわねえ   いいじゃないの、あなたはお家で遊びなさいな。

 ああ そうだわ、お台所を手伝ってちょうだい。 」

「 ・・・・・・・ 

三人の子育て真っ最中の母は多忙すぎみそっかすの末っ子のことなどいちいち構ってはくれなかった。

すり寄ってゆけば 必ず<お手伝い> がまっていた。

「 ・・・アタシ ひとりであそぶもん。 」

むくれて人形や縫い包みを持ち出してみるが ちっとも面白くなく・・・・

元来お転婆の跳ねっかえりな私はひたすら兄たちが帰ってくるのを待っていた。

 

 

「 だだだだ ・・・・!  かくごしろ、ぶらっく・ごーすと め! 」

「 ふっふっふ〜〜 そうはゆくか!  ろぼっと隊、うちおとせ! 」

「 まけるもんか! す〜ぱ〜がんだ! ばしーーーー! 」

「 あたしも〜〜〜 あたしも 入れて〜〜 」

「 どけよ〜〜 チビ!  オンナはダメだってば 」

「 やだ〜〜〜 入れて いれて〜〜 」

「 ダメだ、あっちいけ〜 」

「 わあ〜〜ん ちい兄ちゃんがぶったァ〜〜 」

「 おい、泣かすなってば。  ・・・ いいよ、そんなら お前は 003 だ。 」

「 ぜろぜろすり〜 ? 」

「 そうさ。  003は皆の後ろでれ〜だ〜を見てんだ。  いいな! 」

「 れ〜だ〜 ? 

「 てきがきたらすぐに のうはつうしん でしらせるんだ! 」

「 うん!! 」

「 お〜〜 かくごしろ! ぜろぜろないん! 」

「 こい! すか〜る! 」

 そう ・・・ < 009ごっこ > の時だけは仲間にいれてもらえた。

仲間、といってもいつでも後ろにくっ付いて走っているだけだったけれど。

時には < どるふぃん号でたいき! >  ・・・つまりは態のいい仲間ハズレ、

遊びざかり、暴れ盛りな兄たちは小さい妹など眼中になかった。

 ・・・ でも、ベソかきつつもくっついて走るだけでも私は嬉しかった ・・・

「 ほら〜〜 ぜろぜろないん だ! かっこいいだろ〜 あ さわるなよ〜  」

上の兄が秘蔵のマンガ本をちょっとだけ見せてくれた。

「 ウン ・・・ ぜろぜろすり〜  は? 」

「 003?  えっと〜〜 これ! 」

「 ・・・ うわあ〜〜  かわいい〜〜 」

「 これ してろ。  003。 」

兄はハチマキを結んでくれた ― 多分 カチューシャは小学生のオトコノコにはハチマキに

見えたのだろう・・・

 

   そう ・・・ あの時も。

009 と 002 は飛び出していったきり。 

003 は <隠れ家> でず〜〜っと待っていた。

町外れの空き地にあった古ぼけた空家は子供たちの絶好の遊び場だった。

まだまだのんびりした時代だったので、地域のオトナたちも黙認していた。

塀の破れ目から子供達は自由に出入りしていたから 慣れているはずだったのだけれど・・・

  ― その日は 他の遊び仲間はいなかった。

アタシは ホコリだらけの部屋の隅っこでちぢこまっていた。

「 ・・・ こちら ぜろぜろすり〜 ・・・ おうとうねがいます 」

さっきから何回も繰り返しているのだけれど、 誰も応えてくれない。

・・・ もうず〜〜っと ず〜〜っと待っているのに・・・

破れた窓から入るお日さまの光も だんだんオレンジ色になってきた。

 

   かえろっかな。   でも ・・・ ぜろぜろすり〜 はたいきしてろって・・・

 

<れんらくよう・つうしんき>だ、と渡されたジュースの空き缶を握り締めアタシはついに泣き出した。

 

   う っく ・・・・え〜〜ん・・・え〜ん  

   お兄ちゃ〜ん ・・・ ちい兄ちゃ〜ん ・・・

 

ザワザワザワ −−−−

風が急に強くなってきて すぐそばにある雑木林が大きく揺れている。

あれ ・・・ ここってあの空き地にある・・・ ボロ家 だよね?

アタシは急に不安になった。   だって ・・・ なんだか知らない場所みたいなんだもの。

 

    ・・・ え〜〜ん ・・・え〜〜ん ・・・・

 

ついにアタシは本格的に泣き出してしまった。

009ごっこ をする時にはいつも髪に巻いているハチマキを握り締めたまま・・・

アタシはただただ ・・・ 泣いていた。

 

    「 ・・・ どうしたの? 」

 

「 ・・・?!? 」

不意に 優しい声がアタマの上から降ってきた。

「 ・・・ あ ・・・? 」

「 そんなに泣いて・・・ どうしたの、怪我、しているの?  どこか痛いの? 」

いい香りがして す・・・っと。  綺麗なお姉さんがアタシの前に屈みこんだ。

ふわり・・・とクリーム色に輝く髪が肩口で揺れている。

「 う ・・・ ううん ・・・ どこも 痛くない・・・ 」

「 そう・・・  よかったわ。  ねえ それじゃ教えてくれるかしら。  

 どうしてあなたは泣いているの? 」

宝石みたいな青い瞳がじ〜っとアタシを見ている。

 

    ・・・ うわ ・・・ きれい ・・・

 

アタシはベソをかくのも忘れて まじまじとその女性 ( ひと ) を見つめてしまった。

「 ね?  ・・・あらあら ・・・ お顔が汚れちゃったわね。 」

「 ・・・ あ ・・・ 」

そのヒトはポケットからハンカチを出すと涙でべとべとなアタシの顔を拭いてくれた。

「 ・・・ あの ね。  ・・・ みんな かえってこないの。 」

「 みんな?   お友達? 」

「 ううん ・・・ お兄 ・・・じゃなくて なかま。  ていさつにいったの。 」

「 て  ・・・ ていさつ ですって?? 」

「 ウン。  ぜろぜろないん と ぜろぜろつ〜。  

 アタシ ・・・ ぜろぜろすり〜 だから まってるのに・・・ ずっとまってるの。 」

「 え  えええ??  」  

なぜか ― そのお姉さんは目をまん丸にしたままじっとアタシを見ている。

「 あのね ・・・ ふたりはていさつに行って。

 ぜろぜろすり〜 はたいきしてるのに。  ・・・・うっく ・・・ ず〜っと・・・ 」

「 ・・・ まあ  そうなの・・・  でも・・・もうすぐ夕方よ? 

 暗くなる前にお家に帰ったほうがいいのじゃない? 」

「 ・・ う うん ・・・・ 」

アタシはどうしていいのかわからなくて モジモジしていた。

「 ね? お姉さんも一緒に行くから < なかま > のところに帰りましょうよ。 」

「 ・・・ でも ・・・ おこられる・・・かも・・・ お兄ちゃん と ちい兄ちゃんに  」

「 あら・・・ < なかま > って お兄さん達なのね? 

「 う ううん!  ぜろぜろないん  と ぜろぜろつ〜 なの。 」

「 はい、そうね。  じゃ 一緒に行きましょうね、009 と 002 のところに。 」

  ―  クス・・・ッ

お姉さんは とっても楽しそうに笑って白くて細い指で きゅ・・・っとアタシの手を握ってくれた。

「 009 と 002 に 一緒に報告しましょ?  異常なし!って。 」

「 うん ! 」

アタシはじわ〜〜ってお腹も背中もあったかくなってすごく元気になった。 

ゴシゴシ・・・ってお袖でお顔を拭いちゃった。

「 そうだわ、003さん?  お姉さんに教えてくれるかしら。 」

「 うん なあに。 」

「 ― この ・・・お家ね、 ず〜っと空家なの? 」

お姉さんはじ〜〜っと周りを見ている。 とっても真剣な顔だ。

「 うん。 ず〜っとあきや だって。  お兄ちゃ・・・じゃなくて ぜろぜろないん がいってた。 」

「 そうなの・・・ やはり ね。 

 もうひとつ教えて?  あの・・・ 矢吹町13番地 って 知ってる? 」

「 ・・・・  やぶきちょう?  う〜ん ・・・と   ・・・ 

 あれ・・・ ここだよ、お姉さん。  このなんにもない空き地のトコよ、町のはじっこ。 」

「 なんにもない・・・空き地? 」

「 うん。 あきち、だよ。   このボロ家やあるけど それだけ。 」

「 そう ・・・・ ありがとう! 」

お姉さんは両手でアタシの手を掴んでお礼を言ってくれた。

「 ・・・ お姉さん ・・・ いいにおい・・・ 」

「 そう? 石鹸の匂いじゃない?  

 さあ お家にかえりましょう。  え〜と・・・ここから出られるかしら。 」

「 あ ・・・ そっちにね、板がとれているところがあるの。 」

「 ・・・ あ ここね  ありがとう。 」

お姉さんとアタシが空家から外にでると  ―

「 ・・・ あれ ・・・ もう夜?? 」

外はもうすっかり暗くなっていた。  だってついさっきまでお日さま、見えたよ??

「 一緒に帰りましょう、大丈夫よ。 」

お姉さんはにこ・・っと笑いかけてくれた。

「 ・・・ん。 ありがと、お姉さん 」

< お姉さん > って いいなあ〜〜・・・  アタシもお姉さんが欲しいなあ・・・

二人で塀の破れ目のところに歩いていったら。

 

「 − フランソワーズ。  そっちはどうだ? 」

 

いきなり後ろでオトコのヒトの声がした。

「 ・・・ ?! 」

「 ジョー。 ・・・ あの ・・・ 」

「 ? なんだい?   あ  れ ・・・・。  君は? 」

「 この空家の中でね < たいき > していたのですって。  003 さんよ。 」

「 ・・・え ?? 」

「 ふふふ・・・・ これから後はわたしとこの ぜろぜろすり〜 さんとのヒミツなの。 ね? 」

お姉さんはぽん、とアタシの背に手をあててにこ・・・っと笑った。

「 あ   う  うん ・・・! 」

「 それと・・・ぜろぜろすり〜 さんからの情報です。

 やはりこの矢吹町 13番地は ず〜〜っと空き地 ですって。 」

「 ふむ・・・ やはり な。 」

二人は真剣な顔で頷きあっていた。

「 やはり罠が待っているに違いないわ。  ― 一人で偵察に行かないでね 」

「 ・・・ し しかし ・・・ 」

「 あら、 さっきも言ったでしょう、これは この ぜろぜろすり〜 さんからの情報なのよ? 」

お姉さんはアタシの脇にしゃがみこんだ。

「 あ そうか・・・!  ありがとう、おチビちゃん。 助かったよ。 」

「 えへ・・・ 

「 だ か ら。  私を置いてきぼりになんか ・・ しないわよね? 」

「 お兄さん、  おてきぼり はだめだよォ〜〜 」

「 あは・・・ 参ったな。 わかったよ、ちゃんとフラ・・・じゃなくてこのお姉さんも一緒だ。 」

「 わあ〜〜い ありがと。、 お兄ちゃん♪ 」   

「 いや・・・参ったなあ・・・

 あ  ほら ・・・ ここから出られるよ。  おいで。 」

今度は彼が アタシの手を引いてくれて ・・・ アタシはじ〜〜っと見ちゃった。

長い前髪、その間からきれいな茶色の瞳がにこにこ笑っている。

・・・ この笑顔、 みたこと あるよ・・・   あ〜〜〜!!!

 

   うそ・・・!  こ このお兄さんってば ・・・ 009!? 

 

アタシの目の前にいるヒトは あのヒト! そう、あのヒトだった。

おっきいお兄ちゃんの持ってるマンガで見た、あのヒト、だったんだ。

アタシは 目がど〜してもそのヒトから離れない。

「 ・・・ あ  ・・・ あの。 お兄さんって ・・・ ぜろ・・・? 」

「 うん? どうかしたのかい、おチビちゃん。 」

お兄さん、 ううん、 009 は屈みこんでアタシの髪をなでてくれた。

 

   わあ ・・・ ホントに茶色の目なんだ〜〜 

 

アタシはじ〜〜〜っと 009 の瞳を見つめてしまった。

  ・・・ にこ。

茶色の瞳が と〜っても優しく微笑んでくれる。   

「 ― あ アタシ。  おチビちゃん  じゃないもん。 」

「 あは? ごめんごめん ・・・えっと? 

 あ、ぼくは 島村 ジョー。 このお姉さんはね ― 」

009 は にこにこ顔をも〜っと優しくしてお姉さんの方を振りむいた。

「 あら・・・まだ自己紹介 してなかったわね。 わたしは フランソワーズ・アルヌール。 」

 

    ・・・ やっぱり!  こ このお姉さんは  003 なんだ!

 

「 あ  あの  あのね!  あの アタシ ・・・ 」

アタシはあわてて自分の名前を言おうとした。

「 ふふふ ・・・ あなたのお名前は 003 でしょ? 」

「 う  うん ・・・! 」

アタシはきゅう〜っとお姉さん、 じゃなくて 003 に抱きついた。

お姉さんは にこ・・・っと笑い返してくれた。

「 あらら・・・ 甘えんぼうさんね。  さ 送ってゆくわ、お家はどっち? 」

「 ―  あの ね 」

お兄さんとお姉さん ・・・ じゃなくて! 009と003の間に挟まってアタシは家に帰った。

 

 

 

   ― ばいば〜〜〜い ・・・・ !!!

 

アタシはできるっだけ背伸びをして 両手をぶんぶん振った。 何回も何回も振った。

009と003は 何回も振り返ってくれて手も振ってくれた。

  ・・・ やがて二人は夜の中に見えなくなった。

 

二人と一緒にお家に戻ると お父さんも帰っていて ―  お母さんが真っ青になって飛び出してきた。

あ・・・ 叱られる! ってアタシは首を竦めたけれど。 

「 こちらのお嬢ちゃんのお母さんですか? 」

「 ・・・は  はあ・・・ 」

お兄さんとお姉さんがお母さんにちゃんとお話をしてくれた。  

すぐにお父さんも出てきて

「 ありがとうございます!  本当にありがとうございます! 」 って繰り返しアタマを下げてた。

 

009と003に バイバイをしてからお家に入ると お兄ちゃんとちい兄ちゃんが玄関にいた。

「 ・・・ お兄ちゃん ・・・ 」

兄ちゃん達は 赤い顔してほっぺには涙の跡もあった。

「 ・・・ ごめん。 」

「 ごめん!  おいてきぼりにして ごめん。 」

「 あ あのさ。 マンガ、始まるよ〜 テレビで! 」

「 マンガ? 」

「「 うん!  さいぼーぐ 009 さ! 」」

「 え 〜〜〜〜 ? ぜろぜろないん が てれびになるの?  」

「 いっしょに見ようぜ! 」

「 うん!! 

アタシは兄ちゃん達と一緒に居間に転がるみたいに駆けていった。

 ― そして。

 

      ゼロ  ゼロ  ナインッ !!!

 

 ・・・ 009 が白い防護服に赤いマフラーを靡かせて テレビに映ってた ・・・!

 

    わああ〜〜〜 あのお兄さんだあ〜〜〜!!

 

アタシはもう・・・夢中になってお兄ちゃん達とテレビに齧りついた。

 

そのあと、じきに。

ボロな空家があった原っぱ、矢吹町13番地 は地滑りがあって立ち入り禁止になった・・・って

空家も一緒に崩れてしまったらしいってお兄ちゃんが言ってたけど。

どうしてかなあ・・・ アタシはもう興味はなかった。

 

 

  ― あの時のことを 父母も兄たちもあまりはっきり覚えていない。

アタシも実はずっと忘れていた。   

白い防護服の009がTVで活躍を始めた頃から アタシはお兄ちゃん達の後ろを

追いかけることはしなくなっていった。

TVはしっかり見ていたけど、 アタシは学校のオンナノコの友達と遊ぶことが多くなった。 

 

 

 

 

 § かっぷる

 

 

「 だ〜から!  手作りなのよ、それが一番! 」

「 そうよね! こころをこめて 愛をこめて〜〜♪ 」

「 でも どうやって渡すの〜〜 」

「 部活の試合の時とか ・・・ 」

「 それは禁止なのよォ〜〜」

 

女子たちが教室の後ろで盛り上がっている。

クラブの先輩、 サッカー部のキャプテン  野球部のエース ・・・

その都度ちがう < 最高〜〜 > な男子がターゲットになっていた。

手作りのオカシやらタオルだのなんだのを <差し入れ> するんだってさ。

 

   ふうん ・・・ 皆 さあ ・・・

   あのトシの男子の実体を知らないだけ よね・・・

 

中学三年  ―  受験も気になるけれど  オトコノコ ももっと気になる年頃、

クラス・メイトたちはその度に変わる 憧れのマト に夢中だった。

 でも 私はどうしてもその集団に中に入る気にはなれなかった。

つまりアニキたちの実像をさんざん見ている私は 身近なオトコどもはイマイチ・・・

かといってTVのアイドル・スターなんかの芸能人も ちょっとなあ・・・って気がしていた。

 

    ・・・ あ〜あ ・・・ 私って レンアイ能力欠如、なのかなあ・・・

 

ひとり、醒めた気分で所謂思春期の真ん中を生きていた。

 

    いや。  私にはちゃ〜〜んと熱い想いを寄せる 彼 がいたのだ・・・!

 

だまって一人でいつだって大真面目な顔してたけど。 愛だの恋だの関心はありません、って

顔してたけど。   

ホントは ・・・、中学生の私は ―  彼  に夢中だったのだ。

  ― そう ・・・!    彼 ・・・!!

週に一度だけ、 会える 彼♪  愛しの ・・・  ジョー ・・・!

 

「 早くゴハン、食べなさい 」

「 ・・・ し〜〜〜!  静にしてよ! カセット、録ってるんだから! 」

「 ・・・・・ 」

晩御飯、 といっても母と二人だけの食卓で私はお茶碗とお箸を持ったまま 目はひた! と

TVに釘付け。

受験生に、大学生に なったアニキたちは当然まだ帰宅せず、父も相変わらず遅い。

で 私は毎週その曜日の夕食時  ―  そのアニメに夢中になっていた。

 

    シュ・・・・・ッ !  彼 は黄色いマフラーをながく引いて画面に現れ 

 

     ・・・  パァ ・・・・    彼  は大粒の涙を風に飛ばすのだ ・・・

 

「 ・・・ は あ  〜〜〜〜 ・・・♪ 」

「 ・・・まったく。 もうすぐ高校生になるのにまだマンガ?! 」

「 アニメ。 マンガとはちがうの。  あ! 黙ってってば!   ああ ・・・! 」

毎週毎週 TVの前にカセット・デッキを持ち出し、 <録音> した。

放映後何回も聞きなおし 頭の中で場面を再現し − 私は満足していた。

 

     ふん ・・・ !  汗臭くて 煩くて ガキんちょで 無神経なオトコどもに較べたら

     < 彼 > の方がず〜〜〜っと す て き ・・・♪

 

     あ〜ん ・・・ この時の瞳、 たまんな〜〜い・・・

 

私は食事もそっちのけで画面にかじりついていた。

「 ちょっと、マンガばっかりに熱中してないで ―  あんた、受験生でしょ。 」

「 ちゃんと勉強 してます。  この前の模試も F高合格率は 99%以上でした。 

「 ・・・ なら 油断しないでちょうだい。 」

「 わかってるってば。  あ〜〜〜 雑音が・・・ 」

   私は堂々と < 彼 > に夢中になるために 勉強を頑張った。

成績をタテにされ、マンガに夢中な娘を母は苦笑しつつ処置ナシと放置していた。

子離れ期、なにかと反抗するムスメに母はそろそろ関心が薄れていたようだ。

私は 画面の中の 彼 に想いを寄せることに満足していた。

 

 

  

  ― いっけない・・・!  遅くなっちゃった・・・

 

その日 私は大急ぎで駅まで歩いていた。

塾で授業が終ったあと、質問していて ・・・ いつもよりずっと遅くなってしまったのだ。

あの電車を逃すと地元駅からの最終バスに間に合わない。

 

     ここ ・・・ 突っ切ったら近道なんだけど。

     鉄条網があるけど ・・・ え〜い 横切っちゃえ・・・

 

私は 真っ暗な空き地の前でちょっと躊躇ったけど、ちろっと回りを見てから

えいや!と有刺鉄線を跨ぎ越した。

 

   ザワザワザワ −−−−−  ゴ −−−−

 

  ひゃ ・・・ !

急に風が出てきた ・・・ と思ったけど、私は見ないフリ、聞こえないつもり、で駆け出した!

空き地のすみっこには 壊れた家の廃材が積み上げてある。

その陰から なにかが出てきた ・・・ 気がした。  

 

   ガサ ガサ ガサ ・・・  

 

 ぎく ・・・?  足が止まった。

なにか  誰かが 生い茂る雑草を踏み分け近づいてくる。

や ・・・ やだ・・・  へ へんなヒトがいるってウワサもあったわ・・・!

私は真っ直ぐ前だけ見て、駆け出そうとして    ガツン ! なにかに足をひっかけた。

  

「 ・・・ きゃ・・・! 」

地面にぶつかる・・・!と思った瞬間 がし・・・っと強い腕が私を掴んだ。

「 ・・・ あ ・・? 」

「 危ない !  君、 大丈夫かい? 」

「 ・・・ あ  はい ・・・   ???? 」

誰かが ・・・ 爽やかな声とともに私の顔を覗き込んだ。  

  ― だ  だれ?!   ・・・ あ ・・・?

 

      え。  うそ ・・・?

 

      う うそ・・・!  じ ジョーだあ〜〜〜     

 

私は次の瞬間 完全に固まってしまった。

「 どうした? どこか怪我をしているのかい。 」

「 ・・・ え  あ   い  いえ・・・ 」

「 そうか よかった。  こんな時間に女の子がうろうろするのは感心しないな。 」

「 ・・・ あの ・・・ 塾の帰りで ・・・ 遅くなったから近道、したの・・・ 」

「 そうだったのか。  ごめん、理由も聞かずに・・・ 」

「 い いいんです。  あの ・・・ジョ・・・ いえ、あなたは? 」

「 うん?  ・・・ 任務・・・いや、 仕事が終ってね、すこし休憩していたんだ。

 どうしてこの世には諍いが絶えないのだろう・・・と思うと 落ち込んでしまってね・・・

 そろそろ車に戻らなくては、とここまで来たら ・・・ 

 女子中学生が空き地にもぐりこむのが 見えちゃったのさ。 」

「 あ ・・・ ヤダ・・・ 」

あちゃ〜・・・  鉄条網を大跨ぎするの、見られちゃったのか・・・

「 さ、僕の車で送ってゆくよ。  ああ 安心したまえ、下心はないからね。 」

彼は 爽やかに笑った。

 

    うわ〜〜ん ・・・  この笑顔〜〜〜  たまんな〜い・・・!

 

きゅわ〜〜ん・・・・と私の胸は熱くなって・・・苦しいくらい。

「 おっと、ごめん、自己紹介もしてなかったな。 僕は島村ジョー。 

 ・・・え〜と・・・ あ  雑誌の記者をしているんだ。 」

「 あ ・・・ 私は ・・・ 」

私は大いに焦りつつ名前を言ったけど、ちゃ〜〜んと彼を観察していた。

 

     え〜え よ〜〜く知ってます・・・!

 

     ・・・ ん?  待てよ?  このパターン・・・さっきのセリフ・・・

     たしか・・・    もしかして。  もしかして ― これって 〜〜

     ストレンジャーの後ろの座席には 王女サマが!? 

 

     ・・・ ヤだもんね! そんなの、私が許さない! 

     う〜ん ・・? どうすればいいのかな・・・・   よ よ〜し・・・!

 

私は勇気を振り絞って ― 言った!

「 あ あの!  できれば 駅まで送ってくれますか?? 」

「 え??? 」

「 あ あのあの! ご迷惑じゃなければ・・・駅前にファースト・フードとかあるから・・・ 

 コーヒーとか飲んで。 ジョー ・・・さん、疲れているみたいだから・・・ 」

「 ありがとう!  それじゃ行こうか。 」

「 はい! 」

 ― 私の頭の中からは バスの時間  とか 門限とか きれいさっぱり消えていた。

 

駅前のファースト・フード店は 空いていた。

私たちは奥の方の目立たない席をとり、私はオーダーの列に並んだ。

 

     ちょっと〜〜 私ってばすごい〜〜勇気じゃない?

     そ それに ジョーとデートよ、デート・・・!

     ・・・・ 信じられない 〜〜〜

 

私は自分自身に驚き呆れ、でも同時に物凄く満足していた。

 

     もしかして、夢 かなあ。  うん 夢でもいいや・・・

     夢でいいからさ、 とりあえずもうちょっと覚めないでねっ!

 

トレイを捧げ私はすり足で戻ってきた。  彼は ― ちゃんと 居た!

「 お待たせしました・・・ あの ・・・ コーヒー・・・ あんまり美味しくないと思うけど・・・ 」

「 ありがとう!  いや 美味しいよ。 

 誰かとゆっくりお茶をするって 本当に久し振りなんだ。 」

ジョーは ちょっと淋しそうに笑った。  やっぱり疲れているんだ・・・!

私の胸は きゅん・・・っと鳴った。

「 そ そうなんですか ・・・ 」

「 うん。  僕の仕事は ・・・ まあ キリがない、というか・・・そんなものなのでね。 」

「 そう ・・・ 人類はいつになったら争いをやめるのでしょうね・・・ 」

「 ?! な なんだって??? 」

「 ・・・ 人類の歴史は闘争の歴史、ですものね。 

「 君も そう思うのかい。 」

「 ・・・ え ええ  えへ・・・私のは受け売りだけど・・・ 」

「 いや、 そう思ってくれるヒトが一人でも居てくれると本当に嬉しいよ。 」

ジョーはコーヒーの紙コップ越しに じ・・・っと私をみている。

きゃあ〜〜ん ・・・ そんな瞳で見ないでくださ〜い・・・!

私は心の中で激しくツッコミ入れつつ ・・・ 彼の顔から眼がはがれない。

彼は ゆっくりとコーヒーを飲む。

「 ・・・ ほんと言うとね、 こんな風にのんびりお茶をするって憧れていたんだ。

 ありがとう、 付き合ってくれて。 」

「 え そんな ・・・ 私が無理に誘ったのに ・・・ 」

「 いや。 嬉しかったな。 」

にこ・・・ セピアの瞳が淡く ・・・ 微笑みを浮かべた。

   やだ〜〜〜〜 !  そんな風に淋し気に微笑まないで〜〜

大人しくお行儀よく座りつつ、私は内心 <転げまわって> 悶絶寸前だ。

 

    あ。  忘れちゃだめ・・!  

    ジョーってば そんな視線は <彼女> に あげてよ!

 

私は彼をこの店に誘った目的を忘れるところだった!  

「 ・・・ こほん。 」

私は咳払いするとスカートを捌いて座りなおした。

「 島村 ・・・ ジョーさん 」

「 ? なんですか。 」

彼はちょっとびっくりしたみたいな、でもなんだか面白がっているみたいな顔で私をみている。

「 ( うう〜〜〜 そんな眼、しないでよォ〜〜〜 )

 あの!  ・・・ 大事なヒト、大切にしてあげてください! 」

「 え ・・・ ? 」

「 ダンス・パーティにも 誘ってあげて・・・ 」

「 ダンス・パーティだって??  あ・・・ ああ。  そういえばそんな招待状が来てたっけ・・・  

 なんとかいう王女様の・・・ うん 僕は仕事で取材記者として行く予定なんだ。 」

どうして知っているのかな? と言いたそうな彼・・・・

「 取材でも ・・・ ぱ パートナー、必要なんでしょう? 」

「 ・・・ まあ ね。 誰か ・・・ 頼むさ。 」

「 ねえ だから! フランソワー・・ じゃなくて。 大事なヒトとご一緒に。 」

「 でも  彼女だって忙しいし。  僕なんかのパートナーはいやだろう? 」

「 ― そ そんなコト ないわッ!! 」

私ったら思いっきり声を上げちゃった。

 

     あ。  いっけない・・・!   あ  ・・・・ あれれ・・・・? 

 

首を竦めて一瞬目を瞑って  ―  次の瞬間 私の目の前では。

 

    「 こんばんは  お招き頂きまして光栄です。 」

   「 ようこそいらっしゃいました・・・ 」

   「 こんばんは。  素晴しいパーティー ですね 」

   「 ありがとうございます、ムッシュウ ・・・ 」

 

着飾った人々が優雅に御挨拶を交わしている。 

なに これ。  これって ― うわ〜〜〜〜 パーティ じゃな〜〜い・・・!

私は首を竦めて じわ〜〜っと周囲を見回した。

塾帰りの、ひどく場違いなカッコしているはずなんだけど。  ・・・ 誰もこっちを見ていない。

私の存在は どうやら誰にも見えないらしいのでしっかり見物することにした。

 

     ざわざわざわ ・・・・

 

んん? お客さんたちが入り口を見ている。 ― 誰か来た らしい。

え〜と・・・  背伸びしてもよく見えないからずずず・・・っと前の方に進出した。

「 ・・ わあ・・・・ きれい ・・・! 」

タキシードにぴし!っと身をつつんだジョーが、水色のドレスのお嬢さんをエスコートしてやってきた。

ぴん、と伸びた背筋で彼女は亜麻色の髪を揺らして多のお客さんたちに優雅に会釈をしている。

 

    きれい〜〜〜 もしかして王女さまより ・・・ステキ かも♪

 

ジョーは滑らかな身のこなしで お嬢さんの腕をとって歩いてきた。

 

   ほう ・・・   周りの人たちから ― もちろん私も!  感嘆の吐息が漏れている。

二人は会場中央に設えた席に前までやってきた。

そこには ピンク色のドレスの女性が座って 左右にはお付の人々が並んでいた。

ジョーはすこし身を屈め お嬢さんはドレスの裾を引いてお辞儀をした。

 

     うわ〜〜〜〜・・・  こんなの、映画でしか見たこと ないよ??

     これって ホント?  きゃい〜〜ん・・・!

 

私にはもう夢でもマボロシでもなんでもよかった!

目の前に正装したジョーが タキシード姿のジョーがいる! それだけですんごい幸せ・・・

「 王女殿下 ・・・ お招きありがとうございます。 」

「 ムッシュ・島村?  ようこそ ・・・ あら、お隣の綺麗な方はどなた? 」

「 は ・・・ はい、 ふぃ フィアンセです。 」

 

    やった〜〜〜♪  

 

パン!!! と手を叩いて ・・・ あ しまった! と思ったけど。 

  ― 勿論誰にも聞こえていない・・らしい。

王女様はにこやかになおもお言葉を賜る。

「 まあ ・・・ 羨ましいですこと。  あの・・・? 」

「 フランソワーズ と申します、殿下 」

「 そう・・・フランソワーズさん? ご婚約、おめでとう ・・・ ちょっと悔しいくらいよ? 」

「 ・・・ は? 

「 いえ なんでもないわ、 どうぞ楽しんでいらしてくださいね。 

 あ ・・・ 一つだけお願いをしてもよろしいかしら。 」

「 はい 殿下。 なんなりと ・・・ 」

「 それじゃ ・・・ あとで一曲だけ 貴女のフィアンセを拝借させてくださいな。 」

「 え ・・・ あの 僕は その・・・ 」

「 はい、どうぞ。 殿下。 」

お嬢さんはドレスと同じ色の瞳に優しい笑みを ― 幸せ一杯の笑みを浮かべている。

 

     ああ ・・・ よかった〜〜 !!  

     一人でパーティの花火の音、聞いてるのなんか ・・・

     私が 許さないもん。

 

私はもう大満足で ちょこ・・・っとカナッペをつまんだりしつつ、ジョー達を眺めていた。

ジョーとお嬢さん、 ううん、 フランソワーズのカップルは人気の的で沢山の人たちと談笑している。

・・・ 王女殿下とジョーのダンスは ・・・ ダンス と言えるかどうかわかんない な。

でも ジョーに手をとられて王女サマは嬉しそうだった。

ま ・・・ いっか。  あの王女サマにだって楽しい思い出、は必要だもんね。

私はひどく寛大な気分になっていた。  ― やがて

 

          パ −−−−−ン っ!!!

 

物騒な音が聞こえてきた。  

ざわざわざわ!  会場は次第に大騒ぎに鳴り始めた。 

   

     ははあ ・・・ 始まったな・・・ 

     003 が一緒にいるってことは♪ もしかして〜〜〜

 

私はちゃんとストーリーを脳内復習し わくわくしいていた。

次の展開がどうなるか ・・・ どう変わるか期待で心臓がばくばくしてきた〜〜!

   

  ―  で。 思ったとおり♪  003 は 水色のドレスの裾を翻し大活躍だった♪

 

やったァ〜〜〜 !! と大拍手していたら ・・・ 

「「  ありがとう 〜〜 !! 」」

ジョーとフランソワーズが ― 二人ともしっかり防護服になっていたけど ―

私に大きく手を振ってくれた。

 

      ・・・・ うわァ〜〜〜  ウソでしょう ???

 

目を瞑って きゅっと自分自身のほっぺたを抓ってみたんだけど。

 

 

 

「 ― おかえり、  早かったね。 」

 

いきなり母の声が聞こえた。

「  ・・・え。  ウソ・・・? 」

いつの間にか ・・・ 私はウチの玄関の前にいた。

え? ・・・ 母の声にチラ・・・っと時計をみれば。 いつもの帰宅時間よりも早いくらいだった。

「 ・・・ あ うん ・・・ 」

「 お風呂、沸いてるわよ。  暖まってきなさい。 」

「 う うん ・・・・ 」

私はぼそっと返事して のろのろと玄関のドアを閉めた。

 

     あれ ・・・ 帰りのバスで居眠りして、 夢でも見てたのかなあ・・・

 

夢でも いいや。 うん、いい夢だったもんな ・・・

私は一人でクス・・・っと笑って ふんふんふん〜〜と、あの主題歌をハナウタしつつ

お風呂に入りにいった。

 

 

やがてアニメの放映は終わり、すぐに受験に本腰を入れる季節となり。

金髪のひーろーとの束の間のデート は いつの間にか私の心の奥底に沈んでいった。

 

 

 

 

Last updated : 07,26,2011.                 index          /        next

 

 

 

**********   途中ですが。

< アタシ >   < 私 >  は  書き手本人 ・・・ じゃあ ありませんよ!!!

・・・ 続きます<(_ _)>