『 冬支度 ― (3) ― 』
ほわり。 マフラーを広げてみた。
色彩を押さえたシックな部屋に ぱあ〜 っと花が咲いた。
「 ほう ・・・ 一足先に春 か ・・・ 」
グレートは 少し目を細め、住み慣れた部屋を見回した。
そこは 洗練された趣味により凝った作りなのだが
普通の人間には ただの地味な部屋にしかみえないかもしれない。
しかし。
「 ・・・ ダマスク織のタピストリ― も ペルシア絨毯も
わかるヤツにしかわからんさ。 それが 狙いだからな。
地味だの オジサン臭いだの わからんヤツらの戯言 さ。 」
どすん。
ベビー・ピンクのマフラーを巻きつつ ソファに腰を下ろす。
この猫足のソファも アンティーク・ショップで手にいれた逸品なのだ。
カチャ。
ウィスキーのボトルとソーダ水は サイド・ボードに常備してある。
彼は 手慣れた様子で ソーダ割り をつくった。
「 ふ ん ・・・? こりゃ 温かい。
ヒーターの熱も顔負けだな ・・・ ほう こりゃ
手編みかい ・・・ マドモアゼル、 やるな! 」
グラスに盛ったチョコを摘み ぽい、と口に放り込んだ。
冷え切った部屋でも ぽう ・・・と 身体の芯に暖気が起きた。
ころん。
身体を動かすと、マフラーが揺れ ピンクのまん丸玉が
ちょうど胸の真ん前に 落ちてきた。
「 うほ? ああ こりゃいい。 ピンクのボンボンか〜
ふ ・・・ こんな他愛もないイタズラして 笑い合った日も
あったなあ ・・・ ああ 彼女にヤドリギの下でキスしたり ・・・ 」
いつもクリスマスは 一人、と決めているが
― そうさなあ ・・・
たまには 花でも買ってくる か・・・
一口含んだだけの ウィスキー・ソーダが ハートに回ったのかもしれない。
グレートは 身体の底の底からじんわ〜〜り 温かくなってきたのを
感じた。 いや 酒のせいではない。
名優氏は首の周りのベビー・ピンクを そっと抑えていた。
「 うん ・・・ この年末には < 帰って > みるか・・
ギルモア老の顔も たまには見ておかんと なあ ・・・・
お前さんの作り主嬢に 御礼を言いたい ・・・ 」
ぽんぽん。 ピンクのぼんぼんが笑っていた。
― クリスマスの前日、 日本で。
「 あらあ〜〜〜 グレートから クリスマス・カード! 」
フランソワーズは ポストの前で歓声をあげた。
「 ばっちりなタイミングね。 嬉しいわ 〜〜〜
ふふふ〜〜〜 皆の名前、書いてあるから 開けちゃう〜〜 」
ぺりり・・・ 白い封筒を開ける。
最近では ほとんど見かけなくなった by air のスタンプが
懐かしい。
「 それにしても今時 郵送って メールでもいいのに ・・・
ふふふ グレートオジサンは やっぱりその世代なのかしらん
あらあ〜〜 綺麗なカードねえ 」
取りだしたカードは オーソドックスなツリーの絵柄。
キラキラしたオーナメントを楽しんでから 中を開ければ ―
「 めり くりすます。 なんで ひらがな??
まあ いいけど ・・・ え・・・?
・・・ わあ〜〜 年末 一緒ね!
ジョー〜〜〜 ねえ ジョー 〜〜〜〜 グレートがね〜〜
博士 〜〜〜 グレートが帰ってきます〜〜 」
フランソワーズは 封筒を翳し、玄関に駆けていった。
嬉しい知らせ がギルモア邸を笑顔で包んだ。
張々湖飯店の厨房は 今日も熱気で満ちている。
具材を炒める火力の強さ だけではない。
鍋を振るう者も 皿を洗う者 そして 給仕をするバイトさん達も
皆が活き活き動きまわっているからだ。
そんな人々の中で ― オーナー・シェフの張大人はしっかりと
店全体を見守っている。
「 あ〜〜 それやない、 こっちや! そや そや。 」
「 ええんや。 宴会の御客はんらと いつものラーメンの御客はんらは
一緒やで。 どちらもウチとこのだいぢな御方らや 」
「 アイヤ〜〜〜 あんたら 上がってヨロシ。 はよ お帰り。
あとはワテがやるよってなあ さ はよ はよ 」
ラスト・オーダーが終わると この店の主は従業員たちを
どんどん帰らせ始めた。
「 ええんや。 洗いモノやら 明日の仕込み、ワテがやるよって
アンタらは はよ お帰り。 ほいで 明日また元気で来てやあ 」
ふう ・・・ 今日も無事閉店時間 やなあ
張大人は 誰もいなくなった店で床掃除を終え ほ・・・・っと
息を吐いた。
「 ふんふん ほんならワテも帰りまひょか〜〜
明日の仕込みもええ按配やさかい ・・・
お客はんら ウチの従業員さんら 今日もありがとさん 」
大人は 調理場用の服から着替え 従業員用の裏口を開けた。
「 ふ・・・ ん? アイヤ〜〜〜 荷物 来ててんか
ちょっとも気付かへんかったで ・・・ 」
カサリ。 届いていたのは軽いけれど大きな袋だった。
「 はあん? なんやろ。 アイヤ〜〜 フランソワーズはんからや!
しばらく あのお家にも行ってへんなあ ・・・ 」
ガサガサ。
紙袋の中からは ― 濃いピンク色の毛糸作品が出てきた。
「 お ・・・ ほっほ〜 こりゃ ええわな。 」
大人は 取りだした手編み作品を ぽわっと広げた。
「 ええ色やなあ 牡丹色やで こりゃ ええ。
福々帽子や〜〜 ・・・ ん〜〜〜 温い( ぬくい )なあ
こりゃ ええなあ ・・・
お? お揃いの首巻きやんか! ええな ええな
ワテの冬は もう寒いことないで〜〜 」
もふもふもふ。
丸まっちい身体を もこもこの毛糸の帽子、同じ色のマフラーで包み
張々湖飯店の大将は ほこほこ家路についた。
ほわ〜〜〜 こりゃ 温いワ ・・・
・・・ しばらくあっこのおウチにもいてまへんな
年末やし ・・・ ギルモア先生のご機嫌伺い せな
ジョーはん や フランソワーズはんの お顔も 見たいさかい・・・
― 少し先のハナシになるが。
大晦日間近のある日 張々湖飯店のオーナー・シェフは
とんでもない騒乱?の中に 飛び込むことになってしまった ・・・・
どこの戦場か ・・・って?
そ れ は。
「 はい コンニチワ ・・・・? お留守かいな 」
大人は 玄関で首をひねっていた。
ギルモア邸は 鉄壁のセキュリテイ・システムを完備しているが
メンバーズは全員登録済み の フリー・パス なのだ。
「 お留守でっか〜〜 失礼さしてもらいます〜 」
よっこら ・・・ 彼は靴を脱いで玄関に上がった。
くん ・・・? ふんふん ・・・
「 皆はん いてはりますな〜〜 お台所から ええ匂いや〜
! これ なんか焦げてますで〜〜〜 」
彼は 荷物もなにもかも放りだしキッチンに飛び込んだ。
バン ッ !
キッチンのドアが開いて まるまっちい身体が飛び込んできた。
「 焦げてまっせ! 」
「 え!? あ〜〜〜 いっけね〜〜〜 」
まな板に向かっていた茶髪少年が 本当に少し跳びあがり ―
ガス台のところに飛んで行った。
「 わっ ヤバっ 〜〜 あっちっち〜〜〜 」
「 こりゃ 鍋、触ったらあかん、て。 火ぃ 消せばヨロシ。 」
カチ。 大人は慣れた手つきで コンロのスイッチをひねった。
「 あ ・・・ あ〜〜 そっか・・・
あ! でも 焦げちゃったかあ ・・・ 」
少年は がっかりした顔で鍋を覗きこむ。
「 ふん・・・? これ なにね 」
「 え? あ ・・・ あのう〜〜 栗きんとんの餡のつもり 」
「 ・・・ ほう ? 」
料理人は 匙でほんの少し、鍋の中身を掬いあげ 口元に運ぶ。
「 ・・・ 大丈夫やで。 あ〜〜 味醂 ありまっか?
ほんのちょい ん ん ・・・ ふん も一回 練りまっせ〜〜〜 」
「 は はい 」
くい くい くい 太い手首が縦横無尽に動き
やがて 鍋の中身は黄金色のきんとんの餡が出来上がった。
「 わあ 〜〜〜 すっげ〜〜〜〜〜
あ 大人〜〜〜 いらっしゃい! 」
「 まあ すごい! ねえ ねえ 大人 〜〜〜
かつらむき ってどうやるの?? 教えてください〜〜 」
はあ ん ??
どうやら 張々湖氏は 戦場のど真ん中に乱入してしまったらしい・・・
そこは ― お節料理作りにてんてこ舞いなギルモア邸のキッチン!
「 あんさんら なにしてはりますねん 」
「 え ・・・ なに、って。 お節、作ってるんだよ 」
ね、 と ジョーはフランソワーズの顔をのぞきこむ。
「 ええ そうなの。 せっかく日本で ニューイヤー を
迎えるのですもの、 う〜〜んと日本らしくしたいな〜〜って
・・・ そしたら ジョーがね、 おせちりょうり 作ろうよって 」
「 はあん? ジョーはん、 あんた 作ったこと、ありまっか 」
「 ぼく? ううん 全然。 子供の頃の施設では ・・・
あ〜〜 お雑煮 は出たな〜〜 正月に ・・・
でも お節料理って 食べたこと、なかったなあ 」
「 ほう ・・・ フランソワーズはん、 あんさんは 」
「 わたしは 生まれて初めて。 見たこと、ないもの。
あ でもね〜〜 今年は いろんな広告で 見たわ。
ね オモチャみたいな芸術品かと思ってたわ 」
「 アレは食べ物やで。 」
「 そうなんですってね ! だから 手作りおせち に
ちゃれんじ〜〜って ね ジョー? 」
「 そ! 」
ね〜〜〜 と 二人は顔を見合わせ にこにこ うふふ・・・
傍観者は もうやっちゃらんないのである。
「 ふん・・・ ほいで あんさんら なに 作りますねん 」
「 だから〜 おせちりょうり 〜 」
「 そやから お節料理の なに作ろ、おもてるのんか? 」
「 あ〜〜〜 え〜とぉ 栗きんとん に 伊達巻。
紅白なます に くろまめ たづくり。 それから・・・
牛肉の松かさゴボウ とぉ〜〜 慈姑やニンジン、シイタケなんかの
煮物 ・・・ かな。 紅白蒲鉾 と 昆布巻き は買ったよ 」
ジョーは もうずっとにこにこ〜〜 しっぱなし、だ。
はぁ 〜〜〜〜 大人は 大きくため息を吐いた。
「 あの ・・・ どうか した、大人? 」
フランソワーズが おそるおそる尋ねた。
「 来てよかった、おもてますねん。
さ! ワテが手ぇ 貸しますよって 二人ともきりきり働いてや 」
「「 ・・・ は はい ・・・ 」」
「 ヨロシ。 ほんなら〜〜〜 」
以後 ワカモノ二人は 息つく間もなくキッチンでの作業に追われた。
「 ・・・ ふん ・・・ 後は じ〜〜っと炊くだけやな 」
ようやっと厨房の大将? の動きが止まった。
はあああ〜〜〜〜〜 ふう ・・・・
配下となり 文字通りコマネズミのように働いていた若者達は
へなへな・・・ 床に座り込んでしまった。
「 ? なにね、あんさんら。 ええ若いもんが・・・ 」
「 ・・・ だってぇ〜〜 わたし へとへと・・・ 」
「 あ は。 ぼく ・・・ もう足が 」
「 はあん? なに言うとりますねん〜
」
「 でもぉ・・・ お料理がこんなに大変だなんて 」
「 ウン ・・・ 大人ってすごいねぇ〜 」
「 ふふん 料理いうもんはなあ そんなモンや。
ま よう手伝うてくれはったな。 おおきに 」
「 うふ ・・・ ね、オヤツにしましょ(^^♪ プリン、作ってあるの 」
「 わはは〜〜〜ん♪ 珈琲 淹れるよう〜〜 」
ヘタっていた二人は たちまち元気になった。
「 ふん。 ほんなら頂きまひょか 」
「 ええ すぐに♪ 」
「 うん まってて 」
カタカタ カチャ ・・・ たちまちティー・テーブルの準備ができた。
「 ん〜〜〜 おいし♪ 」
「 ん! あ〜〜〜 甘味が身体中に沁み渡るよう〜 」
「 ・・・ ふん ふん 優しいお味でんな
時に ギルモア先生は 」
「 博士はね コズミ博士とご一緒に学会なの。 」
「 あ 学会、というか 忘年会らしいよ 」
「 ご安全は 大丈夫やろか 」
「 あ ごく内輪のお集まりみたい。 銀座の老舗ですって。 」
「 ガードマンします、って言ったら 大丈夫だよって
駅まではお迎えにゆくけど 」
「 さよか ほな 安心やね 」
「 ええ ・・・ すごく楽しみにしていらしたわ 」
「 忘年会ってさ、 ああ 年末だな〜って感じだね 」
「 そうねえ あ そうだわ。 あのねえ グレートも来るのよ 」
「 そうなんだって。 多分 大晦日までには来るって 」
「 ! なんやて〜〜 ほんなら 膾 ふやさな あかん。 」
「 なます?? 」
「 そや! 紅白膾たら グレートはんの好物なんや〜〜
ジョーはん! お大根さん もう一本 こうてきてや 」
「 は はい! 」
「 フランソワーズはん その残りの人参さん 全部、かつら剥きしてや 」
「 は はい 〜〜 」
「 ふんふん ほんなら あと〜〜 数の子と コハダの酢〆、
準備せなあかん。 ・・・ご酒はなにがええやろか 」
大人は ますます張り切り始めた。
― そして。
お重にぎっしり。 ギルモア邸の正月準備は完了した。
「 わあ すっご〜〜い・・・! 」
「 も〜〜 い〜〜くるね〜る〜と〜〜
わはは〜〜ん ぼく お正月がこんなに楽しみって 初めて! 」
「 ね! 大人も勿論 大晦日から泊まってね? 」
「 あは ワテは店がありますさかい・・・ 大晦日、終えてから来まっせ。
元旦になるやろか ・・・ 」
「 そうなの? あ でも 一緒に初詣しましょうよ 」
「 そうだよねえ それで お屠蘇でおめでと〜〜 しようよ 」
「 ええな。 あ ! そやそや 忘れるとこやった。 」
大人は リビングに駆けてゆきすぐに戻ってきた。
「 フランソワーズはん。 あったか〜い首巻と帽子、おおきに。
ずっと使わせてもろてます、ええお色やし・・
これはワテからや。 皆はんで召しあがってや 」
ガサリ。 飯店の袋から茶色の焼き菓子が顔をみせている。
「 まあ ・・・ 」
「 わお〜〜 月餅だあ〜〜 張々湖飯店の月餅って最高なんだよぉ 」
「 あのね、 コズミ先生もお好きなの。 お裾分けしていい? 」
「 勿論でっせ。 嬉しなあ〜〜 」
も〜〜 い〜くつね〜る〜と〜〜 お正月ぅ 〜〜〜 ♪
ジョーの歌声が 一段と大きくなった。
12月とはいえ ここ ― アフリカ大陸のとある国には
寒風が吹き荒ぶことは ― まず、ない。
それでも 灼熱の太陽 からは一応解放されるし、熱風に晒されることも ない。
高地では朝晩と昼間の気温差が激しくなるのも 冬の特徴だ。
しかし クリスマスに雪が降ることはないし、寒い 寒い・・・と
ひーとてっく を着こむ必要も ないのだ。
― そんな12月のある日。 そのオフィスでは女子達のひそひそ話が
めっちゃ盛り上がっていた !
「 ・・・ あれ なに 」
「 さあ ・・・ でも お気に入り みたいよ 」
「 ・・・手作り? 」
「 みたい。 」
「 ! カノジョ ?? 」
「 さあ ・・・ 」
「 え〜〜〜 カノジョ、いるのぉ〜〜 」
「 う〜〜ん ? 外国とかに いる かも ・・・ 」
「 ええ〜〜〜〜 」
「 でも さ。 暑くないのかなあ ・・・ 」
「 ね? ・・・ なにか特別なのかしら アレ。 。
「 さあ ・・・ あ 新開発の防弾ベスト とか? 」
「 ・・・ う〜ん ? 今 必要 ? 」
「 いらない わね 」
「 じゃあ なんで??? 」
「 さあ ・・・ 」
カノジョらの話題は 堂々巡りのぐるぐる話 に陥っていた。
カノジョらの視線の先には ―
真っ赤な毛糸のベスト を着こなすピュンマ氏の姿があった。
「 ん ん〜〜 了解。 じゃあ その線で頼みます。 」
彼は通話を切り そのままモニターに向かった。
「 あ モニカさん。 報告書、締め切り時間厳守してください。
セリアさん エア・チケットの予約 頼みますよ。
ん〜〜 ・・・ ジーモアさん 15時に車、出します。
あ 僕 自分で運転して行くから 」
オフィスの中は ぱたぱた・・・ 皆の動く気配でいっぱいとなり
雰囲気も さっと引き締まった。
・・・ 無駄なウワサ話をしているヒマはなくなったのだ。
ふ ん。 これで静かになったなあ〜〜
ってか。 これがウチのオフィスの通常光景だよなあ
「 ・・・ そんなに目立つ かなあ 」
ピュンマは 毛糸編みにベストをちょい、と引っ張った。
「 ふ ふ ・・・ でも気に入ってるから。 脱がないよ〜 」
数日前の朝 オフィスに来たら 届いていたのだ。
「 ニット製品 なんて久しぶりだよ〜〜 ああ いい手触り ・・・
こういうもふもふ・・・ を触っているとなんか
安心した気分になるよな ・・・ 不思議な感覚さ ・・・ 」
メリー・クリスマス ♪
ちょっと早いけど プレゼントです。
忙しいのかしら、 でも
たまには 一緒に聖夜かお正月すごしたいな
フランソワーズ
ツリーの絵柄のカードに ちまちま丸文字の日本が並ぶ。
「 フランソワーズ 〜〜 日本ではこんな字体、流行ってるのかなあ
そっか ・・・ もうクリスマスかあ 新年も近いか・・・ 」
ピュンマは顔を上げ オフィスの中を見回す。
簡素な部屋だが ご〜ご〜 空調機が周り 送風装置は健在だ。
人々は 明るい表情で活き活きと仕事に取り組んでいる。
「 あ は ・・・。 季節感のカケラもないよね ・・・
う〜〜ん 今年も帰れないなあ ・・・ 」
向かいの机の上に ドライ・フルーツがいくつか、皿に乗っている。
誰かの オヤツ かもしれない。
「 あ。 うん ・・・ アレを贈ろうよ。
僕の代わりに ― 僕らの国を思い出してもらえれば いいなあ 」
ね? ・・・ と 彼は真っ赤なベストをちょいとひっぱり 語りかけていた。
― 数日後
「 は〜〜い 今 でま〜す〜〜〜 」
玄関のチャイムに フランソワーズは声を張り上げつつ玄関のドアを開けた。
ドアの前には 顔なじみの配達さんが立っていた。
「 郵便小包です〜〜 エア・メイルですね〜〜
えっと・・・? ふ らん そわず さん?? 」
「 あ はい わたしです。 ハンコ・・・? 」
「 あ〜 サインでもいいですよ〜 」
「 うふふ わたし ちゃんとハンコ、もってます〜〜
・・・ はい。 ご苦労様〜〜 あ これチョコレート。 どうぞ〜 」
「 あ〜 すいません〜〜 」
チョコより金髪美人の微笑が嬉しくて 配達さんはにこにこ顔で
帰っていった。
「 エア・メイルで? 誰からかしら・・・
あ ! ピュンマから ! なにかしら
う〜ん これは皆で開けてみた方がいいわね
ねえ 皆〜〜〜 ピュンマからよ〜 」
彼女は包みを抱いて リビングに駆けこんだ。
そして 数分後 ・・・ リビングは歓声でいっぱいになった。
「 すっご〜〜い ・・・ これ 全部フルーツなの? 」
「 そうだね〜 ドライ・フルーツだあ 〜〜〜
あ 見て。 手紙が入ってるよ ・・・ きみ宛だ 」
「 え なあに? え〜と ・・・ 読むわね。
フランソワーズ
素敵なベストをありがとう! 手編み、最高だよ。
毎日 着ているよ すごく気に入ってる。
僕からのクリスマス・プレゼント というか
僕らの村では 冬支度にするのだけど
フルーツを送ります。 美味しいよ!
博士と皆に よろしく。 僕は元気だよ☆
メリー・クリスマス そして
あけまして おめでとう
ピュンマ
・・・ ですって !! 」
「 あは ドライ・フルーツが冬支度なんだね
ねえ ・・・ どんな味かなあ 食べてみようよ 」
「 ええ でも一つだけよ? これ 使ってケーキ 焼くわ!
ほら クリスマス・プディング !
グレートが来るから ちょうどいいわ。 」
「 ふうん? ね これ 食べていい? 」
「 じゃ わたしは こっちね 」
ん〜〜〜〜 オイシイ 〜〜〜〜〜 !!!
さて。 クリスマス前後 ギルモア邸は思いもかけず賑やかになった。
帰れないなあ〜〜 の知らせばかりを貰っていたのだが。
ジェロニモ Jr. からは 木の実のアクセサリーと リースが。
アメリカからは ピンクとブルーの 激甘い砂糖菓子が。
ドイツからは 独逸ワインの逸品が そして
ピュンマからは ドライ・フルーツが山ほど 届いた。
そして お重には ぎっちり詰まった手作り・お節。
明日にもグレートがやってきて、大晦日の夜には張大人が
駆け付けてくれる。
「 ほう〜〜 これはすごい。 賑やかで嬉しいなあ 」
博士も楽しそうだ。
「 ね? 日本のお正月ってなんだかステキですわね 」
「 ふふふ お前たち皆が素敵にしてくれたのさ。
日本では正月は家族で過ごすのが習慣らしい。 」
「 わたし達のクリスマスと同じですね 」
「 らしい な。 ・・・ほら 」
「 え・・・ あら。 うふふ・・・ 」
二人の視線の先には ―
いいな〜〜〜 お正月って こんなに楽しかったんだ♪
ウチの正月 だよ〜〜 お正月! わあい♪
ジョーは ものすごく ものすごくシアワセそうだ。
そんな彼の笑顔を フランソワーズは にこにこ・・・見つめていた。
・・・ ふうん?
ジョーのこんな笑顔 ・・・
初めて見た かもしれないわ。
わたしのお正月 かも・・・
ここには集っていない仲間たちも ほっこり気分で
新しい年を 迎えることだろう。
「 あ フラン・・・ マフラーと手袋 ありがと♪
も〜〜〜 めっちゃ嬉しい〜〜 最高だよ 」
「 わあ 気に入ってくれた? よかった〜〜〜
ねえ ちゃんと毎日使ってね。 」
「 うん 勿論! 最高〜〜にあったかいし〜〜
えへへ ・・・ バイト先のヒトにもさ〜 手編み? 素敵ね とか
褒めてもらっちゃったあ〜 」
「 うふふ ・・・ そう?
あ。 ジョー ? もう寒くないでしょ? 」
「 え ・・・ あの 別にぼく・・・寒くない けど ・・・・ 」
ジョーは きょとん、としている。
「 え ・・・ それじゃ どうしてそんな恰好で歩くの? 」
「 はい?? 恰好・・・って ダウン・ジャケット・・・ ヘン? 」
「 いえ そうじゃなくて ジョーの歩く姿のことよ。
・・・ あのマフラーとかしてないから 寒かったのでしょ?
だから あんな風に歩いてたのでしょ・・・? 」
「 へ??? べつに・・・ いっつもぼく、こんな風に歩くよ? 」
ジョーは 背を丸めスニーカーのカカトを潰しポケットに
手を突っ込み目を伏せ ぶらぶら歩いた。
「 こんなカンジ ・・・ 」
キリリ −−−− ! フランソワーズの眉がつり上がった。
「 まあ みっともない! ちゃんと背筋伸ばしてっ ! 」
「 ・・・ へ? 」
「 上から す・・っと糸で引っ張られるみたいに!
顔 上げて! まっすぐ前を見て! 下、向かない!
そして さっさと歩きましょう 」
「 ・・・・・ 」
「 そんな風に歩く人にね 似合うように・・・って。
わたし、 そのマフラー 編んだのに。 手袋も ・・・ 」
じわ〜〜ん ・・・ 碧い瞳に涙が滲んできて ・・・
「 わ! ご ごめん! ごめんなさい !!!
きみのマフラーが似合うように 歩くよぉ 〜〜
だから 泣かないでくれよぉ〜〜 」
「 ・・・ ホント? 」
「 うん! 」
「 嬉し〜〜 メルシ ジョー ♪ 」
ちゅ。 小さなキスが ジョーのほっぺに降ってきた。
わっは〜〜〜〜〜 やた〜〜〜
はい、 ここはもう一足飛びに 春 で〜す♪
*************************** Fin. *************************
Last updated : 12,17,2019.
back / index
********** ひと言 ********
編み物話 から 年越し話 に シフトしちゃった・・・
多民族家族? ですから
ギルモア邸のお正月は いろいろ賑やかでしょうね。
ええ ケンカなんかしなくても ね (^_-)-☆