『 冬支度 ― (1) ― 』
ひゅるん〜〜〜 ・・・・ !
広い空を 冷たい風が駆け抜けてゆく。
空は つう〜〜んと澄んだ青で どこか透明にも見えるほどだ。
「 ふう ・・・ 寒 ・・・ 」
フランソワーズは 手袋をはめた手を頬に当てた。
門の前に立ち 頭上に広がる空をさっきからずっと眺めている。
「 なんてキレイな空なのかしら ・・・ 空気も澄んでて・・・
ああ わたし、ここの空 好きだわぁ 」
ひゅるるる〜〜〜 ・・・ 小さな旋風が彼女の顔を撫でてゆく。
金色の髪が ふわふわ揺れる。
「 きゃ・・・ パリに比べたらずっと温かいはずんなんだけど・・・
この風は冷たいわねえ ・・・ 」
手袋に護られたほっぺは すこしほんわかしてきた。
外気に晒されている目の周りは ぴ〜んと冷えている。
故郷のしんしんと滲み込む寒さとは違う < 冷え > だ。
でも。 ― ぽんぽん。 手袋でそっと頬を叩く。
「 ふふ・・・ あったかい ・・・ 手袋 いい感じ♪
今年は モヘアも編みこんでみたんだけど 大成功ね〜〜 」
きゅ・・・っと手袋をひっぱり お揃いのマフラーもしっかりと
巻きなおす。
これは今年の < 作品 > で 秋口からがんばって編み上げた。
本格的な寒さの訪れに いそいそと使い始めたのだ。
「 ふふふ〜ん ・・・ さあ がんばってお買い物よ
商店街の今日のお勧めは なにかしら ・・・ 」
トートバックを下げ フランソワーズは足取りも軽く坂を降りていった。
ギルモア邸の前の坂を降り、国道を眺めそのまま海岸に沿って歩いてゆくと
< 海岸通り商店街 > が見えてくる。
真ん中を通る道は おそらく古来からの街道なのだろう。
その両側に 大小の店舗がならんでいる。
御多分に漏れず この地域も少子高齢化の人口減少なのだが
この商店街は まだ活気がある。
特に 夕方からは買い物やら仕事帰りの人々が行き交い結構賑わうのだ。
「 え〜〜と。 玉ねぎ 人参 トマト。 あ セロリにニンニク!
お魚は ・・・ 魚辰さんのお勧めを買うわ。
チキンと卵。 あと サンドイッチ用のハムと〜〜 あら。 」
赤 黄 茶 ブルー 緑。 黒にピンク
ふ・・・っと 華やかな色に目がとまった。
小さな店だが ショーウィンドウの豊かな色彩がぱっと目を引く。
「 ― 毛糸 ! わあ〜〜 いろんな色〜〜〜 」
フランソワーズの足は 自然にその店の入口に進んでいった。
カラン 〜〜 ・・・
しばらくして。 彼女は茶色のかなり嵩張る包みを下げて
にこにこ・・・ 店から出てきた。
「 またどうぞ〜〜 お待ちしてますよ〜 」
「 はい〜〜 また来ますね! 」
がさり。 包を持ち直す。
「 うふふ〜〜 なんか素敵な色と手触りで いっぱい買っちゃた♪
帽子にセーター、 あと ショールも編むわ! 」
足取りも軽く 本当にスキップでもしたい気分でウキウキと歩く。
冷たい風も なんだか気持ちがいい。
ふんふんふ〜〜〜ん ・・・♪
あ そうね
昔 秋になると ママンもにこにこして
毛糸を買ってきてたっけ・・・
「 ? あら ・・・? 」
見覚えのある姿が かなり前方を横切った。
・・・ あれ ・・・ ジョー だわ!
へえ 今日は早くかえってきたのね
ふふふ〜〜 晩ご飯はジョーの好きな
肉ジャガよ〜〜ん
敢えて声は掛けなかったし、駆け寄ることもしない。
同じ家に戻るのだもの、< 家族 > なんだから。
フランソワーズは 家に向かってゆく彼の後ろ姿を眺め楽しんでいた。
ジョーは ひょこひょこ・・・少々妙な風に歩いている。
颯爽と とはとても言えないし そもそも背筋を伸ばしていないことに
彼女は ちょっとばかり嫌な気分がした。
背筋! ・・・ って。
あ ・・・ ジョーは 普通の人 なんだっけ
ダンサーとは違うのよね ・・・
ふうん ・・・
普段は あんな風に歩いているんだ?
・・・ なんかあんまりカッコよくない わねえ
一緒にいるときは 気付かなかったけど・・・
009としての後ろ姿には 見慣れているし、009の隙のない
身のこなしも よ〜〜く知っている。
だけど。 18歳の島村ジョー の姿は ― 特に
外を歩く恰好など しげしげと見たことはなかったのだ。
ん〜〜〜 ???
彼女は 普通に目を凝らした。
ジョーは ポケットに 手を突っ込み少し背中丸めて歩いていた。
「 やだ・・・ お年寄みたい ・・・ ううん 博士の方が
ずっと颯爽としていらっしゃるわ 」
ギルモア博士は ずっと早朝散歩を楽しんだり 夕方も軽くジョギングを
したり かなり活動的に日々を過ごしている。
ジョーって ・・・ ああいうヒトなのかしら
それとも この国のあの年頃のコ達は
皆 ああいう風な 恰好なの?
あ。 手袋 マフラー してない わ?
! 寒い んだ・・・
だから あんな恰好なのね !
「 よおし。 とびっきり暖かいの、編むわ! 」
彼女は買ったばかりの毛糸の包みを ぎゅう〜〜っと抱きしめた。
「 寒さなんか吹き飛ばせるの、編むから。
ジョー! 今年の冬は カッコよく歩いてね ! 」
なんだか 闘志? がむくむくと湧いてきた。
「 ふ ん! この003に任せなさいっ
ジョーが いつでもかっこよくいられるように 全力で応援よっ
ふふふ〜〜 毛糸、余分に買ってきて大正解〜〜 」
足取りも軽く 商店街を進んでゆく。
「 あ こんにちは〜〜 寒いですね〜
こんにちは〜 おばあちゃん。 あ こんにちは 」
顔見知りになった人々と 挨拶を交わす。
おじいさん おばあさん。 オッサン オバチャン。
子供の手を引いた人、 ベビーカーを押すひと・・・ いろいろだ。
「 この辺だって いろんな人が暮らしているわよね
そうそう 駅の向うのモールで ガイジンさん達とも会ったし 」
あ。
そういえば ― 皆 ちゃんと冬支度 してるかしら。
< 仲間 > の顔が 次々に浮かんできて ―
「 ! もっと仕入れなくちゃ! 」
フランソワーズは 回れ右!すると今きた道を駆け戻る。
「 あの! もっと必要になったんです〜〜〜 」
彼女は 先ほどの毛糸店に 飛び込んでいった。
「 ただいま〜〜〜〜 ふう ・・・ ちょっと買い過ぎたかな〜〜 」
どさ。 両腕に抱えてきた包を 玄関の上がり框に置いた。
軽いから平気〜〜 と思ったけど ― 確かに軽かったけど
毛糸の包は やたら嵩張るのだ。
晩御飯の食材に 毛糸山盛り ・・・ は さすがの003にも
ちょっとばかり荷が重かった ( 文字通り ) のかもしれない。
「 うふふ〜〜〜 でもいいわ。 お気に入りな色ばっかり
選べたんですもの。 うふふ〜〜 誰の分から
編もうかなあ〜〜 」
フランソワーズは もうめちゃくちゃに上機嫌にリビングに入った。
「 すぐに編みたいけど・・・ う〜〜ん 御飯の用意が先ね。
やるべきことを済ませてから 皆のデザインを考えるわ。 」
ガサゴソ。 茶色の包は とりあえずソファの上に置いた。
「 ちょっとここに置かせてもらおっと。
さあ 今晩はジョーの好きな肉ジャガよ〜〜ん 」
レジ袋を持って キッチンのドアを開けてら ―
「 あ おかえり〜〜〜 フラン〜〜 」
「 ジョー? あの・・・ あら それ? 」
ジョーは シンクでジャガイモ洗っていた。
テーブルの上には まな板と包丁、 そして 人参と玉ねぎが
転がっている。
「 あは 今晩 ぼくがつくるよ〜〜 いいかなあ
」
「 え いいの??? あのう〜〜〜 ジョー ・・・
そのう・・・ なにを作るの? 」
「 ありがと! えへへ〜〜 ぼくが出来る料理はさ
インスタント・ラーメンとカレー だけなんだ。
だから 今晩は ・・・ カレーで いい? 」
「 え ホントに作ってくれるの?? カレー ・・・ 」
「 ウン。 カレー ・・・ 食べれるよね フラン? 」
「 勿論よ〜〜 ありがとう! わたしね、お肉 買ってきたから。
それ 使って? 牛肉の切り落とし だけど
」
「 わお〜〜〜〜 びーふ・かれ〜 だあ〜〜〜
いいの?? 」
「 ええ 今晩使おうと思ってたから どうぞ ! 」
「 サンキュ〜〜 へへへ ちょっと期待しててね! 」
「 はい お願いしまあす。 あ サラダとか作りましょうか? 」
「 大丈夫。 煮込んでいる間に 作れるから。
ごはん〜〜〜 って呼ぶまで 好きなこと、やってて。
あの ・・・ いつも 御飯、作ってくれて ありがと 」
「 あら そう? それなら ・・・ わたし リビングにいるから
なにか ヘルプが必要なときに 呼んでね 」
「 りょ〜〜〜かい♪ どうぞ 待っててください 」
「 わたしも 了解♪ 」
ガサ ゴソ。 ぽわん。 ぽわん。 ころん。
色とりどりの毛糸玉 を ソファに並べた。
「 さ〜て と。 誰にどの色を使おうかしら 」
なんとなく白のモヘアを手にとった。
「 イワンにって思ったけど。 そうよね〜〜
イワンの分、ケープと帽子は もう編み始めてるじゃない?
そうじゃ これは靴下とおくるみにするわ。
ふふふ・・・ イワンの靴下なんてあっという間に
編み上がっちゃうけど ね 」
次に取り上げたのは スカイ・ブルー。
これはもういわずもがな、である。
「 う〜〜ん? マフラーとか手袋・・・なんて ジェットは
うぜ〜って言われそうだわねえ・・・ なにがいいかなあ 」
くるくる毛糸玉を回したり ぽ〜〜ん、と投げ上げたり。
「 ・・・ そうだわ。 は ら ま き!
それがいいわ。 どうせきっとスゴイ寝相なんでしょうし?
寝ている間も 空を飛ぶ夢でも見てるのかしらね〜〜
」
これで 決まり、とちょっと濃い青いのと一緒に取りのける。
「 さあ 次は難問だわ。 彼は・・・案外ウルサイのよね〜〜
う〜〜ん ・・・ ドイツは寒いし・・・ 」
どうしたってアルベルトには 黒 が一番似合ってしまう。
色はすぐに決まったけれど さて なにを編もう ・・・?
「 バリバリの正統派、だわね、きっと。
どっしりたっぷり、モヘアも混ぜて黒のマフラーと手袋。
それにしましょう。 きっちりしっかり編むわ。 」
黒を取りのけると 華やかな色たちが一層際立つ。
そんな派手な色は ― かの寡黙な巨躯の持ち主にぴったりかもしれない。
「 そうよね 彼の周りにはいつだって天然の色が集まってるわ。
ジェロニモ Jr.には 秋色がぴったりよ。 」
赤 やら オレンジ。 濃い黄色もなかなか捨てがたい。
「 セーター? ・・・ ううん そんなもの、着ないわよ きっと。
あ そうだわ! ベスト! アーガイル模様のベストがいいわ! 」
ふんふん♪ 仲間たちの顔をひとりひとり思い浮かべ
次々に毛糸玉を選んでゆく。
「 大人はね、これはもう この色!
えっと・・確か ジョーがね < ぼたん色 >って言ってたっけ 」
濃いピンク色が 料理人のために選ばれた。
「 色は決まったけど ・・・ なにがいいかしら。
・・・ あ。 帽子! 帽子と手袋 にしましょう。
チャイニーズ服にも似合う帽子。 それがいいわ! 」
さあ 次はオシャレな英国紳士だ。
「 グレートって すっご〜〜く拘るのよねえ ・・・
どんな色がお好みかしら ・・・ グレー? パープル?
どうもイメージが浮かばないわね ・・・ 」
一見、おどけたスキン・ヘッド氏は 素のままで様々なニンゲンを
実に巧みに演じるのだ。 そんな彼には 似合う色は ・・・
「 ! これだわ! 」
ぽん、と彼女が取り上げたのは ベビー・ピンク。
「 そうよ これ。 赤ちゃんみたいに無垢な色。 これがいい。
これで ・・・ うん、マフラーですね やっぱり。
いいわよね〜〜 英国紳士とピンクのマフラー。 ぴったり! 」
さて 南国で生きる彼は なにがいいだろう。
「 ニット製品、必要かしら ・・・ねえ ピュンマ?
あ でも冬はそれでも寒いんだって言ってたっけ・・・
標高が高いところに居るからって。
それなら 彼にはやっぱり 赤 よね。
ピュンマって。 冷静だけど情熱もスゴイのよ、知ってるわ。 」
常に冷静に客観的に状況を観察する ピュンマ。
仲間内で 一二を争う知識とそして常識の持ち主 ・・・
どんな苦境であっても 彼は平静を保てるのだ。
でも フランソワーズは 彼の内心の 溶鉱炉 をしっかり感じている。
しってるわ。
彼は 本当は熱い情熱のカタマリ なの。
だけど それを決して表には出さないのね
「 そうねえ ・・・うん。 ピュンマも ベスト にしましょう! 」
こっくり濃い赤の毛糸玉は 彼の隠された情熱の証、かもしれない。
「 そうよね〜〜 故郷の夜、冷える早朝とかに着てほしいわ
うふふふ〜〜 これでみんな決まったわね。
! そうだわ。 ちょっと早いけど これ ・・・
皆への クリスマス・プレゼント にしましょ♪ 」
難題かなあ〜 と思っていたが 仲間たちへの贈りモノは
ぽんぽんと決めることができた。
「 あとは 編むだけ! ね。
あ ジョーにはねえ ・・・ ふふふ もう決まってるの。
いつかね 好きな色はなあにって聞いたら 紺色 って言ったのよ。
冬の海みたいで 好きなんだって。
だから ジョーには これ。 この色で マフラー と 手袋。 」
カサリ。 脇に置いた袋から毛糸玉を取りだした。
しばらく彼女はそれを頬に当て そのふかふかを楽しんでいる。
「 イワン用の白いのが残るから・・・ 雪の結晶とか刺繍するの。
ふふふ・・・ 灰色の空にも かんかんの冬晴れにも 似合うでしょ。 」
それからね・・・と、フランソワーズは毛糸玉の山を眺める。
そして 一つを取りだした。
「 博士には ― なにがいいかしらねえ ・・・
ずっと考えているんだけど。 ええ 色はすぐに決まったの。
これ、 この緑。 全てを包みこむ 緑。 いいでしょう? 」
ふわりふわ ふわ。 緑の玉は周りを温かい雰囲気にする。
「 ふうん ・・・ 皆を包みこんでくださる博士 ・・・
そうだわ。 これで 肩掛け、たっぷりした肩掛けを編みましょう。
夜 遅くまで起きていらっしゃる時なんかあるから ぴったり。
それで 決まり ね。 」
冬支度の準備は すっかり整った。
「 あ。 皆の寸法が必要よね! 特に手袋組。
・・・ 博士に教えていただこうかしら。 」
ふわ〜〜ん ・・・ いい香が流れてきた。
「 わ ・・・ かれー のいい匂い〜〜〜
ジョー 〜〜〜 ごはん まだあ〜〜 ? 」
フランソワーズは キッチンに声をかけた。
「 あ〜〜 もう少し 煮込みたいで〜す
あ チョコレート あるかなあ 」
「 チョコ?? 食べたいの? ミルク・チョコがあるけど 」
「 あ〜 今は食べないよ。 カレーに入れるんだ 」
「 え カレーに?? 」
「 ウン。 」
「 今 行くわ〜〜〜 」
「 え まだ最後の仕上げができてないよ 」
「 チョコをどうするのか 見たいの! 」
「 いいけど ・・・ あ 来た ・・・ 」
ジョーは駆けこんできた彼女に 目をまん丸にしている。
「 ・・・ あの チョコ ・・・ 」
「 ん〜〜っと はいっ ! 」
買い置きのチョコレートが 一枚、ジョーの目の前に置かれた。
「 あ ありがと。 うん、ミルク・チョコでぴったし! 」
「 はい? ねえ これをどうするの?? 」
「 どうするって。 ただ カレーにいれるだけだよ 」
「 ?! チョコレートを?? 甘いショコラを辛いカレーに?? 」
「 うん。 」
「 ・・・ 味 ・・・ ヘンにならない・・・?
あのう・・・甘いカレー は ちょっと そのう苦手 かも 」
「 あは 大丈夫 甘くなんかならないから。
チョコを入れるとさ なんつ〜か ・・・ コクが出るっていうか 」
「 こく? 」
「 う〜んと ・・・ あ〜〜 いい味 になるんだ。
ほらね こうやって 」
「 ・・・ あ ・・・ 」
ジョーは もう手慣れた様子で板チョコを割るとぽとり、とカレーの鍋に入れた。
「 入れちゃった・・・ 」
「 これでさ もうちょっと煮込むといい味になるんだ。 」
「 へ え ・・・ チョコレートを カレーに ねえ・・・ 」
「 ウン。 甘いミルクチョコがいいみたいなんだ。 楽しみにしてて 」
「 はあい。 ・・・ あ〜〜〜 いい匂い♪
わたし リビングにいるから なにかお手伝いが必要になったら
いつだって呼んでね 」
「 おっけ〜〜 あとは・・・サラダつくって〜
御飯はもうすぐ炊けるし〜 あ きみはパンとかの方がいい? 」
「 ううん わたし 御飯、好きよ。 御飯にして下さい。 」
「 了解です。 」
フランソワーズは なんとなくウキウキした気分で
リビングに戻ってきた。
ソファの上は 色とりどりの毛糸玉でいっぱいだ。
「 ふふふ〜〜ん♪ さあ〜〜 誰の分から編みましょう? 」
端っこに座り 毛糸玉を見回す。
「 あ。 手袋とベストは サイズがわからないとダメだわねえ ・・・
それじゃ ・・・ ジェットの腹巻から編むわ。 」
スカイ・ブルーの毛糸を取り上げ しばらく考えていた。
「 一応、設計図、書こうっと。 」
あり合わせの紙に だいたいのデザイン画を描きサイズを決めた。
「 ジェットのウエストって ― どのくらい??
彼 結構細身なのよね〜〜 ぶかぶかじゃ腹巻の役目、しないし・・・
うん・・・ これでいっか。 」
さささ・・っと試し編みをして 目数を決めた。
「 よっし。 真ん中に模様編み、入れましょう。
そうだわ 飛行少年 って刺繍しちゃおっかな〜〜
― さあ スタートです♪ 」
ちゃ ちゃ ちゃ。 立ち目を編み基本ラインを作る。
「 では ― 」
白い指が編み棒を取り上げ 自在に操り始めた。
カチ カチカチ。 カチカチ カチ ・・・・
編み棒がリズミカルに動き スカイ・ブルーの < 毛糸地 > が
出現しはじめる。
「 フラン〜〜〜 そろそろご飯にするよ〜〜 」
パタパタパタ ジョーがキッチンから入ってきた。
「 あ ジョー ・・・ 」
「 ? う わあ〜〜〜 すご・・・ なに?? 」
ジョーは ソファの上を眺め目を丸くしている。
「 あ これ・・・ 」
「 いろんな色があるね〜〜 これ 毛糸? 」
「 うふふ・・・ 冬がもうそこまで来たでしょう?
あの ね。 これ・・・ 皆の冬支度なの。 」
「 冬支度? あ 手袋 とか? 」
「 そうで〜〜す☆ ちょっと先にバレちゃったけど
あの ・・・ 早めのクリスマス・プレゼントにしよっかな〜って 」
「 わあお〜〜〜 いいなあ〜〜〜 」
「 ふふふ いいなあ〜って。 ジョーの分もちゃんとあります♪ 」
「 え え?? ぼくのも??? うっわ〜〜〜〜 ホント?? 」
「 ホントです☆ サプライズにしたかったけど・・・
まあ いいわ。 色だけ教えたげる。 」
「 うん !! ぼ ぼくのは〜〜 ? 」
「 ふふふ〜〜 これ です。 この色で編むわ。 」
ぽん。 ぽん〜〜
こっくりした濃紺の毛糸玉が ジョーの前に飛んできた。
「 ? うわ・・・ わあ〜〜〜 この色 いいなあ〜〜 」
「 あの ・・・ 気に入ってくれた? 」
「 ウン! これ さ。 なんか冬の海みたいだ ・・・ 」
「 ふふふ そう言ってくれてウレシイわあ
」
「 そ そう? あ! カレー!! 」
ジョーは 一瞬、跳びあがるとキッチンに駆け戻っていった。
― その夜の食卓は
「 うむ ・・・ 今晩のカレー、いい味が出ているなあ〜〜
ジョー、 料理上手なんじゃな 」
「 ん〜〜 美味しい! 博士 ジョー すごいですよね 」
「 そ そう かなあ〜〜 ん・・・美味しいや 」
作り手が 一番夢中になって食べている。
ははは うふふふ へへへ ・・・
美味しいカレーを囲み 明るい声と笑顔で 食卓はほんわかだった。
サラダも美味しく、 デザートは博士のお土産 ― イチゴのプリン。
三人は 大満足だ。
「 あ〜〜 美味しかったあ〜〜 」
「 ええ ええ。 ウチの御飯は最高ね 」
「 うん! あ ぼく、片づけるから。 きみはさ〜〜
編み物 がんばって 」
「 あ ありがと、ジョー。 でも洗いモノは一緒にやりましょ。 」
「 え いいの 」
「 一緒にやればすぐに終わるわ 」
「 ありがと〜〜 」
「 二人ともありがとうよ。 ワシは戸締りを確認しておくからな 」
「 お願いしま〜す。」
カチャ カチャ ザ〜〜〜〜
「 ほい、洗いお終い〜〜 」
「 はい。 ねえ ジョー、教えてほしいの 」
「 ? なに 」
「 あのね 漢字でね ひこうしょうねん って
どういう風に書くの? 」
「 ひこうしょうねん?? あ〜〜 えっとね・・・ 」
ジョーは キッチンにあったチラシ広告の裏にささっと書いた。
「 こう だよ。 」
「 わあ ありがとう! 日本語って 書くの、難しいわ 」
「 それは〜 ぼくがフランス語を書けないのと 同じさ 」
「 ふふふ 皆 おんなじ、ね 」
「 そ。 でもぼく達 ちゃんとおしゃべりできるからいいさ。」
「 そうね ・・・ あ〜〜 お腹 いっぱいで幸せ♪ 」
「 うん! あのさ、 カレーって、翌日のが めっちゃ美味いんだぜ 」
「 え そうなの? 」
「 うん。 明日のカレー、乞う・ご期待 さ!」
「 わあお〜 素敵! 」
ギルモア邸の夜は あったか〜〜く更けていった。
― さて。 フランソワーズの作品は 順次 発送されていった。
第一便は 冬は厳しい寒さのニューヨークへ。
「 お。 フランからじゃん〜〜 」
赤毛ののっぽは ばりばり・・・届いたばかりの包を無造作に開けた。
中からは 薄紙に包まれた 水色の毛糸編み が 出てきた。
「 わお〜 ニットじゃんか。 すっげいい色じゃん〜〜
非行少年 の 漢字が赤い色で刺繍してある。
「 ? これ ど〜いう意味? 日本語は読めねえんだ ・・・
でもよ〜 カンジって 今 流行ってんだ クールでいいじゃん 」
取り上げてみれば ・・・ あれ?
「 これ、セーター じゃねえなあ。 ベスト でもねえ ・・・
輪っかになってっけど ・・・ あ〜〜 これ ネック・ウォ―マー かあ!
いいぜ いいぜ〜〜〜 」
彼は 水色の毛糸編みを首に巻いてみた。
「 ちょい デカイ・・・ あ 二重にすれば ・・・
へ♪ ちょ〜〜〜 あったけ〜〜〜〜
この・・・字を真正面に出して・・・ おし! 決まったああ〜 」
バス・ルームの鏡の前であれこれ試し、ポーズをしてみた。
「 お〜 いいぜえ! 明日からコレでバイトに行くぜ〜〜
ふっふっふ〜〜〜 皆が振り返る な〜〜
・・・ ホントは これ巻いて飛びて〜〜んだけどな〜〜 」
赤毛の < 飛行少年 > は 腹巻を首に巻き超ご機嫌ちゃんだった。
Last updated : 12,03,2019.
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********** 途中ですが
ぐっと寒くなってきたので ・・・
こんなハナシになりました。
編み物、上手な人、 尊敬します〜〜〜