『  冬支度 ― (1) ―  』

 

 

 

 

 

   ひゅるん〜〜〜 ・・・・ !

 

広い空を 冷たい風が駆け抜けてゆく。

空は つう〜〜んと澄んだ青で どこか透明にも見えるほどだ。

 

「 ふう ・・・ 寒 ・・・ 」

 

フランソワーズは 手袋をはめた手を頬に当てた。

門の前に立ち 頭上に広がる空をさっきからずっと眺めている。

 

「 なんてキレイな空なのかしら ・・・ 空気も澄んでて・・・

 ああ わたし、ここの空 好きだわぁ 」

 

ひゅるるる〜〜〜 ・・・ 小さな旋風が彼女の顔を撫でてゆく。

金色の髪が ふわふわ揺れる。 

 

「 きゃ・・・ パリに比べたらずっと温かいはずんなんだけど・・・

 この風は冷たいわねえ ・・・ 」

手袋に護られたほっぺは すこしほんわかしてきた。

外気に晒されている目の周りは ぴ〜んと冷えている。

故郷のしんしんと滲み込む寒さとは違う < 冷え > だ。

 

 でも。  ― ぽんぽん。  手袋でそっと頬を叩く。

 

「 ふふ・・・ あったかい ・・・ 手袋 いい感じ♪

 今年は モヘアも編みこんでみたんだけど 大成功ね〜〜 

 

きゅ・・・っと手袋をひっぱり お揃いのマフラーもしっかりと

巻きなおす。

これは今年の < 作品 > で 秋口からがんばって編み上げた。

本格的な寒さの訪れに いそいそと使い始めたのだ。

 

「 ふふふ〜ん ・・・ さあ がんばってお買い物よ  

 商店街の今日のお勧めは なにかしら ・・・ 」

 

トートバックを下げ フランソワーズは足取りも軽く坂を降りていった。

ギルモア邸の前の坂を降り、国道を眺めそのまま海岸に沿って歩いてゆくと

 < 海岸通り商店街 > が見えてくる。

真ん中を通る道は おそらく古来からの街道なのだろう。

その両側に 大小の店舗がならんでいる。

御多分に漏れず この地域も少子高齢化の人口減少なのだが

この商店街は まだ活気がある。 

特に 夕方からは買い物やら仕事帰りの人々が行き交い結構賑わうのだ。

 

「 え〜〜と。 玉ねぎ 人参 トマト。 あ セロリにニンニク! 

 お魚は ・・・ 魚辰さんのお勧めを買うわ。

 チキンと卵。 あと サンドイッチ用のハムと〜〜   あら。 」

 

  赤  黄  茶  ブルー 緑。 黒にピンク

 

ふ・・・っと 華やかな色に目がとまった。

小さな店だが ショーウィンドウの豊かな色彩がぱっと目を引く。

「 ― 毛糸 !  わあ〜〜 いろんな色〜〜〜 」

フランソワーズの足は 自然にその店の入口に進んでいった。

 

    カラン 〜〜 ・・・

 

しばらくして。  彼女は茶色のかなり嵩張る包みを下げて

にこにこ・・・ 店から出てきた。

「 またどうぞ〜〜 お待ちしてますよ〜 」

「 はい〜〜 また来ますね! 」

がさり。  包を持ち直す。

「 うふふ〜〜 なんか素敵な色と手触りで いっぱい買っちゃた♪

 帽子にセーター、 あと ショールも編むわ! 」

 

足取りも軽く 本当にスキップでもしたい気分でウキウキと歩く。

冷たい風も なんだか気持ちがいい。

 

    ふんふんふ〜〜〜ん ・・・♪

 

    あ そうね 

    昔 秋になると ママンもにこにこして

    毛糸を買ってきてたっけ・・・

 

「 ? あら  ・・・? 」

見覚えのある姿が かなり前方を横切った。

 

    ・・・ あれ ・・・ ジョー だわ!

    へえ  今日は早くかえってきたのね

 

    ふふふ〜〜 晩ご飯はジョーの好きな

    肉ジャガよ〜〜ん

 

敢えて声は掛けなかったし、駆け寄ることもしない。

同じ家に戻るのだもの、< 家族 > なんだから。

フランソワーズは 家に向かってゆく彼の後ろ姿を眺め楽しんでいた。

 

ジョーは ひょこひょこ・・・少々妙な風に歩いている。

颯爽と とはとても言えないし そもそも背筋を伸ばしていないことに

彼女は ちょっとばかり嫌な気分がした。

 

    背筋! ・・・ って。

    あ ・・・ ジョーは 普通の人 なんだっけ

    ダンサーとは違うのよね ・・・

 

    ふうん ・・・ 

    普段は あんな風に歩いているんだ?

 

    ・・・ なんかあんまりカッコよくない わねえ

    一緒にいるときは 気付かなかったけど・・・

 

009としての後ろ姿には 見慣れているし、009の隙のない

身のこなしも よ〜〜く知っている。

 だけど。  18歳の島村ジョー の姿は  ― 特に

外を歩く恰好など しげしげと見たことはなかったのだ。

 

    ん〜〜〜 ???

 

彼女は 普通に目を凝らした。

ジョーは ポケットに 手を突っ込み少し背中丸めて歩いていた。

 

「 やだ・・・ お年寄みたい ・・・ ううん 博士の方が

 ずっと颯爽としていらっしゃるわ 

ギルモア博士は ずっと早朝散歩を楽しんだり 夕方も軽くジョギングを

したり かなり活動的に日々を過ごしている。

 

    ジョーって ・・・ ああいうヒトなのかしら

    それとも この国のあの年頃のコ達は 

    皆 ああいう風な 恰好なの?

 

    あ。  手袋  マフラー  してない わ?

 

      !  寒い んだ・・・ 

 

    だから あんな恰好なのね !

 

「 よおし。 とびっきり暖かいの、編むわ! 

彼女は買ったばかりの毛糸の包みを ぎゅう〜〜っと抱きしめた。

「 寒さなんか吹き飛ばせるの、編むから。

 ジョー!  今年の冬は カッコよく歩いてね ! 」

なんだか 闘志? がむくむくと湧いてきた。

「 ふ ん!  この003に任せなさいっ 

 ジョーが いつでもかっこよくいられるように 全力で応援よっ 

 ふふふ〜〜  毛糸、余分に買ってきて大正解〜〜 」

 

足取りも軽く 商店街を進んでゆく。

 

「 あ こんにちは〜〜  寒いですね〜  

 こんにちは〜 おばあちゃん。  あ こんにちは 

顔見知りになった人々と 挨拶を交わす。

おじいさん おばあさん。 オッサン オバチャン。  

子供の手を引いた人、 ベビーカーを押すひと・・・ いろいろだ。

「 この辺だって いろんな人が暮らしているわよね 

 そうそう 駅の向うのモールで ガイジンさん達とも会ったし 」

 

    あ。

 

    そういえば  ―  皆 ちゃんと冬支度 してるかしら。

 

< 仲間 > の顔が 次々に浮かんできて ―

「 ! もっと仕入れなくちゃ! 」

フランソワーズは 回れ右!すると今きた道を駆け戻る。

 

「 あの! もっと必要になったんです〜〜〜 

 

彼女は 先ほどの毛糸店に 飛び込んでいった。

 

 

「 ただいま〜〜〜〜  ふう ・・・ ちょっと買い過ぎたかな〜〜 」

 

 どさ。  両腕に抱えてきた包を 玄関の上がり框に置いた。

 

軽いから平気〜〜 と思ったけど ― 確かに軽かったけど

毛糸の包は やたら嵩張るのだ。

晩御飯の食材に 毛糸山盛り ・・・ は さすがの003にも

ちょっとばかり荷が重かった ( 文字通り ) のかもしれない。

 

「 うふふ〜〜〜  でもいいわ。 お気に入りな色ばっかり

 選べたんですもの。  うふふ〜〜 誰の分から

 編もうかなあ〜〜 

 

フランソワーズは もうめちゃくちゃに上機嫌にリビングに入った。

 

「 すぐに編みたいけど・・・ う〜〜ん 御飯の用意が先ね。

 やるべきことを済ませてから 皆のデザインを考えるわ。 」

 ガサゴソ。 茶色の包は とりあえずソファの上に置いた。

「 ちょっとここに置かせてもらおっと。

 さあ 今晩はジョーの好きな肉ジャガよ〜〜ん 」

レジ袋を持って キッチンのドアを開けてら ―

 

「 あ おかえり〜〜〜 フラン〜〜  」

「 ジョー?  あの・・・ あら それ? 」

ジョーは シンクでジャガイモ洗っていた。

テーブルの上には まな板と包丁、 そして 人参と玉ねぎが

転がっている。

「 あは 今晩 ぼくがつくるよ〜〜 いいかなあ  

「 え いいの???  あのう〜〜〜  ジョー ・・・ 

 そのう・・・ なにを作るの? 」

「 ありがと!  えへへ〜〜 ぼくが出来る料理はさ

 インスタント・ラーメンとカレー だけなんだ。

 だから 今晩は ・・・ カレーで いい?  」

「 え ホントに作ってくれるの?? カレー ・・・ 」

「 ウン。 カレー ・・・ 食べれるよね フラン? 」

「 勿論よ〜〜  ありがとう!  わたしね、お肉 買ってきたから。

 それ 使って? 牛肉の切り落とし だけど   

「 わお〜〜〜〜  びーふ・かれ〜 だあ〜〜〜

 いいの?? 」

「 ええ 今晩使おうと思ってたから  どうぞ ! 

「 サンキュ〜〜 へへへ ちょっと期待しててね! 

「 はい お願いしまあす。 あ サラダとか作りましょうか? 」

「 大丈夫。 煮込んでいる間に 作れるから。

 ごはん〜〜〜 って呼ぶまで 好きなこと、やってて。

 あの ・・・ いつも 御飯、作ってくれて ありがと 」

「 あら そう? それなら ・・・ わたし リビングにいるから

 なにか ヘルプが必要なときに 呼んでね 」

「 りょ〜〜〜かい♪  どうぞ 待っててください 」

「 わたしも 了解♪ 」

 

 

  ガサ ゴソ。  ぽわん。 ぽわん。  ころん。

 

色とりどりの毛糸玉 を ソファに並べた。

「 さ〜て と。 誰にどの色を使おうかしら 」

なんとなく白のモヘアを手にとった。

「 イワンにって思ったけど。 そうよね〜〜

 イワンの分、ケープと帽子は もう編み始めてるじゃない?

 そうじゃ これは靴下とおくるみにするわ。 

 ふふふ・・・ イワンの靴下なんてあっという間に

 編み上がっちゃうけど ね 

次に取り上げたのは スカイ・ブルー。

これはもういわずもがな、である。

「 う〜〜ん?  マフラーとか手袋・・・なんて ジェットは 

 うぜ〜って言われそうだわねえ・・・  なにがいいかなあ 

くるくる毛糸玉を回したり ぽ〜〜ん、と投げ上げたり。

「 ・・・ そうだわ。  は ら ま き!

 それがいいわ。 どうせきっとスゴイ寝相なんでしょうし?

 寝ている間も 空を飛ぶ夢でも見てるのかしらね〜〜  

これで 決まり、とちょっと濃い青いのと一緒に取りのける。

「 さあ 次は難問だわ。  彼は・・・案外ウルサイのよね〜〜

 う〜〜ん ・・・ ドイツは寒いし・・・ 

どうしたってアルベルトには 黒 が一番似合ってしまう。

色はすぐに決まったけれど さて なにを編もう ・・・?

「 バリバリの正統派、だわね、きっと。

 どっしりたっぷり、モヘアも混ぜて黒のマフラーと手袋。

 それにしましょう。 きっちりしっかり編むわ。 」

黒を取りのけると 華やかな色たちが一層際立つ。

そんな派手な色は ― かの寡黙な巨躯の持ち主にぴったりかもしれない。

「 そうよね  彼の周りにはいつだって天然の色が集まってるわ。

 ジェロニモ Jr.には 秋色がぴったりよ。 」

赤 やら オレンジ。 濃い黄色もなかなか捨てがたい。

「 セーター? ・・・ ううん そんなもの、着ないわよ きっと。

 あ そうだわ! ベスト! アーガイル模様のベストがいいわ! 

ふんふん♪ 仲間たちの顔をひとりひとり思い浮かべ

次々に毛糸玉を選んでゆく。

「 大人はね、これはもう この色! 

 えっと・・確か ジョーがね < ぼたん色 >って言ってたっけ 

濃いピンク色が 料理人のために選ばれた。

「 色は決まったけど ・・・ なにがいいかしら。

 ・・・ あ。 帽子! 帽子と手袋 にしましょう。 

 チャイニーズ服にも似合う帽子。 それがいいわ! 

さあ 次はオシャレな英国紳士だ。

「 グレートって すっご〜〜く拘るのよねえ ・・・

 どんな色がお好みかしら ・・・ グレー? パープル?

 どうもイメージが浮かばないわね ・・・ 」

一見、おどけたスキン・ヘッド氏は 素のままで様々なニンゲンを

実に巧みに演じるのだ。 そんな彼には 似合う色は ・・・

「 ! これだわ! 」

ぽん、と彼女が取り上げたのは ベビー・ピンク。

「 そうよ これ。 赤ちゃんみたいに無垢な色。 これがいい。 

 これで  ・・・ うん、マフラーですね やっぱり。

 いいわよね〜〜 英国紳士とピンクのマフラー。 ぴったり! 」

さて 南国で生きる彼は なにがいいだろう。

「 ニット製品、必要かしら ・・・ねえ ピュンマ?

 あ でも冬はそれでも寒いんだって言ってたっけ・・・

 標高が高いところに居るからって。 

 それなら 彼にはやっぱり 赤 よね。 

 ピュンマって。 冷静だけど情熱もスゴイのよ、知ってるわ。 」

常に冷静に客観的に状況を観察する ピュンマ。

仲間内で 一二を争う知識とそして常識の持ち主 ・・・

どんな苦境であっても 彼は平静を保てるのだ。

 でも フランソワーズは 彼の内心の 溶鉱炉 をしっかり感じている。

 

     しってるわ。 

     彼は 本当は熱い情熱のカタマリ なの。

 

     だけど それを決して表には出さないのね

 

「 そうねえ ・・・うん。 ピュンマも ベスト にしましょう! 」

こっくり濃い赤の毛糸玉は 彼の隠された情熱の証、かもしれない。

「 そうよね〜〜  故郷の夜、冷える早朝とかに着てほしいわ  

 うふふふ〜〜  これでみんな決まったわね。

  !  そうだわ。  ちょっと早いけど これ ・・・

 皆への クリスマス・プレゼント にしましょ♪ 」

 

難題かなあ〜 と思っていたが 仲間たちへの贈りモノは

ぽんぽんと決めることができた。

 

「 あとは 編むだけ! ね。

 あ ジョーにはねえ ・・・ ふふふ  もう決まってるの。

 いつかね 好きな色はなあにって聞いたら 紺色 って言ったのよ。

 冬の海みたいで 好きなんだって。

 だから ジョーには これ。 この色で マフラー と 手袋。 」

 

 カサリ。 脇に置いた袋から毛糸玉を取りだした。 

しばらく彼女はそれを頬に当て そのふかふかを楽しんでいる。

 

「 イワン用の白いのが残るから・・・ 雪の結晶とか刺繍するの。

 ふふふ・・・ 灰色の空にも かんかんの冬晴れにも 似合うでしょ。 」

それからね・・・と、フランソワーズは毛糸玉の山を眺める。

そして 一つを取りだした。

「 博士には ―  なにがいいかしらねえ ・・・

 ずっと考えているんだけど。  ええ 色はすぐに決まったの。

 これ、 この緑。 全てを包みこむ 緑。 いいでしょう? 」

 

   ふわりふわ ふわ。  緑の玉は周りを温かい雰囲気にする。

 

「 ふうん ・・・ 皆を包みこんでくださる博士 ・・・

 そうだわ。 これで 肩掛け、たっぷりした肩掛けを編みましょう。

 夜 遅くまで起きていらっしゃる時なんかあるから ぴったり。

 それで 決まり ね。 

冬支度の準備は すっかり整った。

「 あ。 皆の寸法が必要よね! 特に手袋組。

 ・・・ 博士に教えていただこうかしら。 」

 

   ふわ〜〜ん ・・・ いい香が流れてきた。

 

「 わ ・・・ かれー のいい匂い〜〜〜  

 ジョー 〜〜〜 ごはん まだあ〜〜 ? 」

フランソワーズは キッチンに声をかけた。

「 あ〜〜 もう少し 煮込みたいで〜す

 あ チョコレート あるかなあ 

「 チョコ?? 食べたいの?  ミルク・チョコがあるけど 

「 あ〜 今は食べないよ。 カレーに入れるんだ 」

「 え カレーに?? 

「 ウン。 」

「 今 行くわ〜〜〜 」

「 え まだ最後の仕上げができてないよ 」

「 チョコをどうするのか 見たいの! 」

「 いいけど ・・・  あ 来た ・・・ 」

ジョーは駆けこんできた彼女に 目をまん丸にしている。

「 ・・・ あの チョコ ・・・ 」

「 ん〜〜っと  はいっ ! 」

買い置きのチョコレートが 一枚、ジョーの目の前に置かれた。

「 あ ありがと。 うん、ミルク・チョコでぴったし! 」

「 はい? ねえ これをどうするの?? 

「 どうするって。  ただ カレーにいれるだけだよ 」

「 ?! チョコレートを?? 甘いショコラを辛いカレーに?? 」

「 うん。 」

「 ・・・ 味 ・・・ ヘンにならない・・・? 

 あのう・・・甘いカレー は ちょっと そのう苦手 かも 」

「 あは 大丈夫 甘くなんかならないから。

 チョコを入れるとさ なんつ〜か ・・・ コクが出るっていうか 」

「 こく? 」

「 う〜んと ・・・ あ〜〜 いい味 になるんだ。

 ほらね こうやって 

「  ・・・ あ ・・・ 」

ジョーは もう手慣れた様子で板チョコを割るとぽとり、とカレーの鍋に入れた。

「 入れちゃった・・・ 

「 これでさ もうちょっと煮込むといい味になるんだ。 」

「 へ え ・・・ チョコレートを カレーに ねえ・・・ 」

「 ウン。 甘いミルクチョコがいいみたいなんだ。 楽しみにしてて 」

「 はあい。 ・・・ あ〜〜〜 いい匂い♪

 わたし リビングにいるから  なにかお手伝いが必要になったら

 いつだって呼んでね 」

「 おっけ〜〜  あとは・・・サラダつくって〜

 御飯はもうすぐ炊けるし〜  あ きみはパンとかの方がいい? 」

「 ううん わたし 御飯、好きよ。 御飯にして下さい。 

「 了解です。  」

 

フランソワーズは なんとなくウキウキした気分で

リビングに戻ってきた。

ソファの上は 色とりどりの毛糸玉でいっぱいだ。

 

「 ふふふ〜〜ん♪  さあ〜〜 誰の分から編みましょう? 」

端っこに座り 毛糸玉を見回す。

「 あ。  手袋とベストは サイズがわからないとダメだわねえ ・・・

 それじゃ ・・・ ジェットの腹巻から編むわ。 」

スカイ・ブルーの毛糸を取り上げ しばらく考えていた。

「 一応、設計図、書こうっと。 」

あり合わせの紙に だいたいのデザイン画を描きサイズを決めた。

「 ジェットのウエストって ― どのくらい??

 彼 結構細身なのよね〜〜 ぶかぶかじゃ腹巻の役目、しないし・・・

 うん・・・ これでいっか。 」

さささ・・っと試し編みをして 目数を決めた。

「 よっし。 真ん中に模様編み、入れましょう。 

そうだわ  飛行少年 って刺繍しちゃおっかな〜〜

 ― さあ スタートです♪  」

 

   ちゃ ちゃ ちゃ。 立ち目を編み基本ラインを作る。

 

「 では ― 

白い指が編み棒を取り上げ 自在に操り始めた。

 

   カチ カチカチ。 カチカチ  カチ ・・・・

 

編み棒がリズミカルに動き スカイ・ブルーの < 毛糸地 > が

出現しはじめる。

 

 「 フラン〜〜〜  そろそろご飯にするよ〜〜 」

パタパタパタ   ジョーがキッチンから入ってきた。

「 あ ジョー ・・・ 」

「 ? う わあ〜〜〜  すご・・・ なに?? 」

ジョーは ソファの上を眺め目を丸くしている。

「 あ これ・・・ 」

「 いろんな色があるね〜〜  これ 毛糸? 」

「 うふふ・・・ 冬がもうそこまで来たでしょう? 

 あの ね。 これ・・・ 皆の冬支度なの。 」

「 冬支度?  あ 手袋 とか? 」

「 そうで〜〜す☆ ちょっと先にバレちゃったけど 

 あの ・・・ 早めのクリスマス・プレゼントにしよっかな〜って 」

「 わあお〜〜〜 いいなあ〜〜〜 」

「 ふふふ いいなあ〜って。 ジョーの分もちゃんとあります♪ 」

「 え え?? ぼくのも??? うっわ〜〜〜〜 ホント?? 」

「 ホントです☆  サプライズにしたかったけど・・・

 まあ いいわ。 色だけ教えたげる。 」

「 うん !! ぼ ぼくのは〜〜 ? 」

「 ふふふ〜〜  これ です。 この色で編むわ。 」

 

  ぽん。 ぽん〜〜

 

こっくりした濃紺の毛糸玉が ジョーの前に飛んできた。

「 ? うわ・・・ わあ〜〜〜 この色 いいなあ〜〜 

「 あの ・・・ 気に入ってくれた? 」

「 ウン!  これ さ。 なんか冬の海みたいだ  ・・・ 」

「 ふふふ そう言ってくれてウレシイわあ  

「 そ そう?  あ!  カレー!!  」

ジョーは 一瞬、跳びあがるとキッチンに駆け戻っていった。

 

 

 ― その夜の食卓は 

 

「 うむ ・・・ 今晩のカレー、いい味が出ているなあ〜〜

 ジョー、 料理上手なんじゃな 

「 ん〜〜  美味しい!  博士 ジョー すごいですよね 

「 そ そう かなあ〜〜  ん・・・美味しいや 」

作り手が 一番夢中になって食べている。

 

  ははは  うふふふ  へへへ ・・・

 

美味しいカレーを囲み 明るい声と笑顔で 食卓はほんわかだった。 

サラダも美味しく、 デザートは博士のお土産 ― イチゴのプリン。

三人は 大満足だ。

 

「 あ〜〜 美味しかったあ〜〜 

「 ええ ええ。 ウチの御飯は最高ね 」

「 うん!  あ ぼく、片づけるから。  きみはさ〜〜

 編み物 がんばって 」

「 あ ありがと、ジョー。 でも洗いモノは一緒にやりましょ。 」

「 え いいの 」

「 一緒にやればすぐに終わるわ 」

「 ありがと〜〜 」

「 二人ともありがとうよ。 ワシは戸締りを確認しておくからな 」

「 お願いしま〜す。」

 

  カチャ カチャ  ザ〜〜〜〜

 

「 ほい、洗いお終い〜〜 」

「 はい。  ねえ ジョー、教えてほしいの 」

「 ? なに 

「 あのね  漢字でね  ひこうしょうねん って

 どういう風に書くの? 」

「 ひこうしょうねん??  あ〜〜 えっとね・・・ 」

ジョーは キッチンにあったチラシ広告の裏にささっと書いた。

「 こう だよ。 」

「 わあ ありがとう! 日本語って 書くの、難しいわ 

「 それは〜 ぼくがフランス語を書けないのと 同じさ 」

「 ふふふ 皆 おんなじ、ね 」

「 そ。 でもぼく達 ちゃんとおしゃべりできるからいいさ。」

「 そうね ・・・ あ〜〜 お腹 いっぱいで幸せ♪ 」

「 うん!  あのさ、 カレーって、翌日のが めっちゃ美味いんだぜ 」

「 え そうなの? 

「 うん。 明日のカレー、乞う・ご期待 さ!」

「 わあお〜 素敵! 」

 

ギルモア邸の夜は あったか〜〜く更けていった。

 

 

 

 ― さて。 フランソワーズの作品は 順次 発送されていった。

 

第一便は 冬は厳しい寒さのニューヨークへ。

 

「 お。 フランからじゃん〜〜 

赤毛ののっぽは ばりばり・・・届いたばかりの包を無造作に開けた。

中からは 薄紙に包まれた 水色の毛糸編み が 出てきた。

「 わお〜  ニットじゃんか。  すっげいい色じゃん〜〜

 

   非行少年  の 漢字が赤い色で刺繍してある。

 

「 ? これ ど〜いう意味? 日本語は読めねえんだ ・・・

 でもよ〜 カンジって 今 流行ってんだ クールでいいじゃん  」

取り上げてみれば ・・・ あれ?

「 これ、セーター じゃねえなあ。 ベスト でもねえ ・・・

 輪っかになってっけど ・・・ あ〜〜 これ ネック・ウォ―マー かあ!

 いいぜ いいぜ〜〜〜 」

彼は 水色の毛糸編みを首に巻いてみた。

「 ちょい デカイ・・・ あ 二重にすれば ・・・

 へ♪ ちょ〜〜〜 あったけ〜〜〜〜 

 この・・・字を真正面に出して・・・ おし! 決まったああ〜 」

バス・ルームの鏡の前であれこれ試し、ポーズをしてみた。

「 お〜 いいぜえ! 明日からコレでバイトに行くぜ〜〜

 ふっふっふ〜〜〜 皆が振り返る な〜〜

 ・・・ ホントは これ巻いて飛びて〜〜んだけどな〜〜 」

 

赤毛の < 飛行少年 > は 腹巻を首に巻き超ご機嫌ちゃんだった。

 

Last updated : 12,03,2019.             index      /     next

 

 

**********   途中ですが

ぐっと寒くなってきたので ・・・

こんなハナシになりました。 

編み物、上手な人、 尊敬します〜〜〜