『 あなたの事情 ・ きみの事情 』
***** 392993 キリリク作品 b・・・n・・・様へ♪ *****
§ ジョー の事情
― ガサガサガサ ・・・・ ザッ ザッ ザッ ・・・・
「 ・・・おっと あぶないぞ、 そこは湿地帯だ 」
「 え? きゃ・・・! 」
ばちゃ。
紅一点がしりもちをついた。 ぬかるみに足をとられたのだ。
「 ほら いわんこっちゃない〜 ほら 掴まれ と ・・・。
いや ジョー、これはお前の仕事だろ〜 」
「 そうそう〜〜 おぬし、きちんとマドモアゼルをエスコートせにゃ〜〜 」
「 ・・・え アルベルト、隣にいるのなら引っ張ってやれよ。 」
「 ひえ〜〜〜 つ〜〜めて〜〜ヤロウだなァ ジョー?
なあ フラン? こんなヤツ、やめてオレに乗換えねェか? 」
「 あんさん、そりゃあかんわ。 たった今、御神託、聞かはったやろ。 」
「 御神託ねえ・・・ あははは 大人もいい事言うなあ〜
そうだよね、ありゃ 確かに御神託だよ。
ジェット、そんな訳だから余計なちょっかいは無用だよ。 」
「 へん ジョークさ ジョーク! ちょっちからかってみただけじゃん。
け。 ほんじゃま、外野はさっさと消えるぜ〜〜 」
シュ・・・・! 独特の音を残し赤毛ののっぽの姿は空中に消えた。
「 ・・・あ〜〜 」
「 ったく。 ま、ヤツの気持ちもわからんじゃないが。
ジョー。 そういうことだ、後はお前に任せる。 」
「 え。 アルベルトまで・・・ジョークって言うのかい〜〜 」
「 いや? 俺と赤毛野郎を一緒にするな。 俺はしごく真面目だぞ。 じゃあな。 」
「 あ! アルベルト〜〜〜 」
銀髪のドイツ人も 大股で先に行ってしまった。
「 ほな、ジョーはん? 安生、たのんまっせェ〜
ワテらは一足お先〜や。 グレートはん、ほなぼちぼちやってんか。 」
「 あいよ・・・ 」
バサ ・・・! 突如大きな羽音がきこえたかと思うと。
「 ・・・大人・・・ 重いなア・・・ くそ! 」
次の瞬間には大鷲が背に まるっこい中国人を乗せ飛び去った。
「 ・・・ ウソ だろ・・・? 」
「 あ〜・・・え〜と? それじゃ さ。 ジェロニモと僕も先にゆくよ。
お邪魔ムシにはなりたくないからね〜 」
ピュンマはひらひら・・・・手をふるとすたすた行ってしまった。
「 ・・・むう。 ジョー、 彼女、大切にしろ。 」
ジェロニモは 湿地の中でシリモチをつき泥を派手に跳ね飛ばした 彼女を ― 003を
ひょい、と持ち上げるとジョーのすぐそばに降ろした。
「 はやく 着替えろ。 」
ぽつり、と付け足すと、彼もまたずんずん・・・行ってしまった。
「 あ・・・ も〜〜〜 皆ァ〜〜〜 」
「 ― ジョー!! 」
「 へ? あ ・・・ は はい〜? 」
「 はい、じゃないでしょ! 」
「 あ〜あ・・・皆ってば酷いよなあ。 」
「 ! それは! わたしのセリフよっ! すっかり泥が滲み付いちゃったじゃないのぉ〜 」
「 ・・・ あ 泥はねえ、乾いてから払うと案外簡単に落ちるよ。
うん、 濡れているときに擦ったりしちゃ、ダメなんだ。 」
「 ― ジョー。 」
フランソワーズはほっぺたと髪にも撥ね返った泥の飛沫をくっつけたまま 真正面からジョーをみつめた。
「 ・・・ ぅ うん・・・ な なにかなあ? 」
まっすぐに見つめてくる瞳は明るいブルー、ジョーは思わず見とれてしまう。
・・・ あは・・・ 相変わらずキレイだなア・・・
やがて その<キレイ> がめらめらと燃え上がる。
「 ・・・ う うん ? な なに かな? 」
ぴし ! 見えない礫がジョーのハートを直撃した。
一瞬 ― 息が止まった、と思った。 いや 周囲は真空になった・・・のかもしれない。
ジョーは咽喉がからからになり 頭の中身が真っ白になった。
ウッ! うわぁ〜〜 ・・・ い・・・いてててて・・・・
なにもないはずなのに ジョーは全身で痛みを感じ息が詰まる。
やがて 青く冷ややかに燃えていた視線は す・・・っと足下におちた。
「 ― 帰るわ。 」
たったひと言つぶやくと彼女はさっと踵を返した。
コッ コッ コッ ・・・・・・
湿地帯の中をすこしばかり鈍い靴音をたてつつ 003は去っていった。
ジョーは しばし呆然とその後姿を見送っていた。
「 ・・・・!? お おお〜〜い 待ってくれよ〜〜〜 !! 」
こんなところで置いてきぼりを食っては いくら009だとてたまったものではない。
ジョーは慌てて駆け出した。
しばらくすると 海岸から大きなエンジン音が聞こえ、派手な水音が響いてきた。
熱帯の植物の生い茂った葉を撒き散らしつつ 大きな物体が地を蹴って飛び上がった。
辺りの暑い空気を震わせ ソレは紺碧の空めざし上昇する。
それもほんの少しの間のこと ―
大きな銀色はやがて点となり天空の彼方に溶け込んでしまった。
・・・ やがて波音と共にカモメたちの声がもどってきた。
ザザザザ −−−−− ・・・・・・ !!!
北硫黄島は 再びもとの人気( ひとけ )の全くない孤島になった。
このとんでもない事件は 都会の片隅からはじまった。
ある週末、それもかなり遅い時間に、ジョーの車がギルモア研究所を訪れた。
「 ― こんばんは。 こんな時間にすみません 」
インタービジフォンにはちょっと困った顔のジョーが映っていた。
「 まあ ジョー? どうしたの?? 」
フランソワーズはリビングから玄関に駆け出していった。
「 ・・・ジョー? ほう・・・ 珍しいのう ・・・ 」
リビングでは博士が 分厚い書物を傍らに置いた。
「 どれ ・・・ ちょいと辺りを片しておくか。 ・・・ 波風が立つ、ということらしいしな ・・・ 」
博士はそれとなくリビングを整頓した。
「 こんばんは。 遅くに申し訳ありません。 」
「 博士。 恐縮です。 」
「 アイヤ〜〜〜 博士〜〜 ええお茶、お持ちしましたよって・・・ どうぞ? 」
どやどやと夜の訪問者たちが入ってきた。
「 ・・・おお 諸君 ・・・ 元気そうじゃな。 」
「 いやいや・・・博士もご健勝でなにより。 本日はちと・・・ご助言賜りたく。 」
「 そやそや。 安生調べてくれはりますか。 」
リビングに入るなり グレートと大人が口々に言い立てる。
「 なんじゃ? なにがどうしたというのかね。 まあ お座り。 」
「 すみません 博士。 ― これなんですけど。 」
ジョーがごそごそとなにかを上着の内ポケットから取り出した。
「 ・・・ これは ・・・? 」
「 ほいでもって ・・・ コレやねん、博士。 」
ごろり、 となにかが大人の広げた風呂敷から転げ落ちた。
「 ? ・・・腕 ・・・義手、か ・・・ ふむ・・・? 」
博士はメガネをかけると 慎重に観察をし始めた。
三人は それらのブツを得た状況をぽつぽつと語るのだった。
カタン カタン カチャ カチャ ・・・
「 ・・・ どうぞ? コーヒーの方がよかったかしら。 」
よい香りとともにフランソワーズがお茶の仕度をしたワゴンを押してきた。
秋口の夜、 空気は深々と冷えはじめており、温かい湯気に誰もがほっとした。
「 お〜〜 マドモアゼル〜 忝い〜 」
「 大人から頂いたお茶もいれましょう・・・・ まあ ・・・ 」
テーブルの上に カップを置こうとして彼女はすこし眉を顰めた。
目の前には ごろり、とヒトの片腕が転がっていたからだ。
「 ああ これ。 義手なんだ。 ・・って君にはお見透しだよね? 」
ジョーがテーブルの上を片しつつ さり気無く義手に白布をかけた。
「 ・・・ 見てないわ。 でも、普通に見てもよくできた<腕>ね。 」
ちょっと気味が悪いわ、と彼女は小声で呟いた。
「 それなんじゃが ・・・ これは精巧すぎる。 」
「 ? どういうことです、博士。 」
「 これは な。 見た目もおそらく使い勝手も生身とほとんど変わりないじゃろうな。 」
「 ・・・ まあ ・・・ そんなに精巧な義手が出来るようになったのですか。 」
「 うむ ・・・・ BGの生体科学技術グループなら あるいは な。 」
「 ・・・・ BG ・・・・・ 」
全員が一瞬 口を閉ざした。 またぞろアイツらが復活したというのか ・・・?
「 しかし 博士。 コレを落としていったのは普通の − 青年とその彼女だったそうですが。 」
「 左様。 まだ歳若いカップルだったぞ。 なかなかの美少女・・・
あ いやいやマドモアゼル? そなたと較べれば月とすっぽん、いや比べるほうが失礼かな。 」
「 もう・・・ グレートったら 〜 さあさ 皆さん、 どうぞ?
ほら すこし休憩しませんか。 」
フランソワーズは <遺留品 > を避けつつ、カップを並べていった。
ぽとぽとぽと ・・・ 陶器のポットから琥珀色の熱いお茶が注がれる。
「 う〜〜〜ん・・・この香りこそが紅茶の命〜〜 いやァ 忝い・・・ 」
「 ありがとう フラン。 」
「 ほう、 いい香りじゃな。 ありがとうよ、フランソワーズ。 」
皆 しばし暖かいお茶にほっと和むのだった。
「 ― しかし な。 」
「 博士? 」
博士は味わっていたお茶を じっと見つめつつ続ける。
「 どうも ・・・ 腑に落ちん 」
「 なんやね、博士 〜〜 」
「 いや ・・・ コレは精巧な上に真面目すぎるのじゃ。 」
「 ― 真面目?? 」
「 ああ。 これがもしBGの手によるものじゃったら・・・ ヤツラはこれに必ず武器を仕込む。
そして 皮膚や筋肉の強度を本来あるモノより数倍、アップさせるだろう。 」
「 ・・・・・・ 」
「 ところが コレは ― ただの腕、武器のひとつも仕込んでおらん。
皮膚も筋力もあくまでも <生身レベル> そのものだ。 」
「 え?? ・・・・ それじゃいったい・・・? 」
「 うむ。 これはあくまでワシの想像にすぎんが 」
「 ― 博士 ? 」
グレートと大人の持ち込んできたブツを前に ギルモア博士とジョー達は憶測をめぐらすのだった。
議論は白熱し お茶類はすっかり冷え切っている。
「 ・・・ いやしかし、これは全て推測に過ぎん。
なにせ こうもデータが少ないと確定的なことはなにもいえんよ。 」
ぽん・・・・! 博士はパイプの灰をアシュ・トレイに空けた。
「 そうですね。 しかしともかくコレが唯一の物的証拠ですから。 」
「 確かに な。 」
「 そや。 ソイツが無うなったら、ただのワテらのヨタ話や、いわれるかもしれへん。 」
「 与太話とはあんまりだな、大人。 あの交通事故が俺たちの店の前で起きたのも
すべては運命の糸に繋がれているのかもしれん。
もつれる糸を引くのは ― そなたか、運命の女神・アリアドネ ・・・ 」
グレートは立ち上がると フランソワーズへ大仰な身振りでお辞儀をした。
「 まあ ふふふ・・・・ これじゃなにかスウィーツでもださないといけないみたいね。 」
「 お? それは嬉しいですなあ。
いやあ〜 マドモアゼル? 最近 ますます美人度アップだぞ♪ なあ 大人? 」
「 はいナ。 ぐぐ〜〜っと別嬪はんにならはりましたなあ・・・ 」
「 もう〜〜〜 グレートったら〜 大人ったらあ〜〜! 」
「 あははは・・・ しかしちょいと小腹が減ったのは事実でありまして。 」
「 はいはい・・・ シフォン・ケーキに林檎のコンポートを添えて・・・
紅玉がいい具合にできましたの、 いかが? 」
「 ブラボ〜〜 」
「 ほっほ ・・・ 仕上げにシナモン、仰山使うてや〜 」
「 了解です。 それじゃちょっと待っていてね。 今 持ってきます。
え〜と・・・? あ ジョー? ・・・ よかったら手伝ってくださらない? 」
フランソワーズはチラリ、と上目使いにジョーをみやった。
「 腕はともかく ・・・ このメタルは注目に値しますよ。 」
「 ふむ ・・・ これはX線でも透視できんかったからな。
おそらく連絡用の機器じゃろうが ・・・ 」
「 ますます怪しいですね。 いや・・・もっと巧妙なヤツラならスキャンをした際に
わざわざニセの映像を見せる、 という手をとるかもしれませんよ、博士。 」
「 うむ そうじゃなあ・・・ 」
「 ・・・ ねえ ジョー? 」
フランソワーズはこそ・・・っと彼の側によりつんつん、とジャケットを引いた。
「 ですから、 ですね・・・ ? うん? ああ なんだい、フランソワーズ 」
ジョーはやっと気づいた、という面持ちで 振り向いた。
「 え・・・ あの・・・ てつだって ・・・ 」
「 なにか情報を得たのかい。 きみの <眼> が一番精密なはずだからな。 」
「 眼って ・・・ あの ・・・いえ。 」
「 そうか、はやり な。 敵は一種の遮断装置・・・いや遮断フォルムを
内蔵しているのかもしれませんよ 博士。 」
「 まあな その可能性も考えられるな。 」
・・・ も〜〜〜 ジョーってば!
ジョーと博士は相変わらず熱心に協議してる ― 風にみえる。
すぐ側に佇み じっと見つめている美女など 視界にも入らない ・・・らしい。
「 ともかく現在コレは重要な証拠物件ですからぼくが保管しておきます。 」
「 うむ ・・・ しかし、気をつけろ。 落とし主がコンタクトしてくる可能性が大じゃからな。 」
「 望むところですよ。 こうして・・・ぼくが身につけています。 」
ジョーはつまみ上げていた金属製のメタルを 首から掛けた。
フランソワーズは後ろにまわり、そのチェーンを留めた。
ふうん ・・・ なんだか妙な手触りねえ ・・・
金属、ともちがうわ。
柔らかいけれど 頑丈? 不思議なチェーン・・・
こんな感触、 初めて。 これは ・・・何?
「 ・・・ ジョー ・・・・ 」
「 よし、これでいつ連絡が入ってもオッケーだな。 ヤツラの尻尾を捕まえてやるよ。 」
ジョーは不敵、とも思える笑みを浮かべている。
彼はこの状況を楽しんでいる。 新たなミッションにわくわくしているのだろう・・・
「 ・・・ ジョー。 わたし ・・・ 」
「 うん? なんだい、フランソワーズ。 ああ さっきも何か用事があったみたいだよね? 」
「 え ええ ・・・ あの ― 大丈夫? 」
「 ははは・・・大丈夫さ。 一人で深追いなんぞしやしないから。 」
「 そう? でも ・・・ 」
「 心配無用だよ、フランソワーズ。 なんだい、さっきからそれが気になっていたのかい。 」
「 え ・・・ そ そういうわけじゃ ・・・ 」
一緒にお茶の仕度を手伝って欲しい、 なんて言い出せる雰囲気じゃない。
フランソワーズはモジモジしていたがやっと言葉の継ぎ穂をみつけた。
「 あ あの・・・ もしかして また ・・・ ほら、あの。 BGが仕掛けてきたのだったら 」
「 さっき博士が仰っただろ? コレもあの<手>もさ、BGのモノとは少しちがう。
たとえ最終的にはヤツラが後ろに絡んでいるとしても だ。
最初に接触してくるのは多分別の組織だろう。 」
「 そ そうなの? でも それならそれで余計に心配よ。
ねえ ・・・ あの、帰国しているアルベルトはジェットに連絡しておいたほうがよいのじゃない? 」
「 きみってヒトは 本当に ・・・ 」
はあ・・・・っと大きく吐息をつくとジョーは大袈裟に肩を竦めてみせた。
「 だって。 今までだって些細なコトからとんでもない事件に発展したこと、あってよ。
ほら ・・・ この前の地下帝国の時も ・・・ 」
「 まったく なあ〜 本当に心配性なんだね、きみは。
さ そんなコトをくよくよ気にしてるよりも ほら・・・お茶、入れ替えようよ。 」
ジョーは かちん、と冷えてしまったティー・カップをテーブルに置いた。
「 アイヤ〜〜 そやった そやった! フランソワーズはん、さっきのデザート、たのんまっせェ〜 」
「 我輩の腹の虫も、先ほどから煩くてなあ。 マドモアゼル? 」
「 はいはい。 ついでにお茶も換えますね。 あ ・・・ あの じょ ・・・ 」
「 ほな ワテがお手伝いしまっさ。 」
「 あ あら・・・ありがとう、大人。 助かるわあ〜〜 いっつも知らん振りするんですもの、誰かさんは。」
「 まあ まあ・・・ ほい、カップを集めるぞ。 これでよいかね、マドモアゼル 」
「 ええ ありがとう、グレート。 じゃ ・・・ ちょっとお待ちくださいね〜 」
フランソワーズは大人と お茶のワゴンを押してリビングから出ていった。
・・・ しゅん リビングの空気が、急に萎んだ ・・・ 気がした。
残っていた3人は 申し合わせてように口を閉ざし、沈黙が部屋にみちる。
・・・ おっほん。 グレートが芝居がかった咳払いをした。
「 ・・・おい ボーイ? オヌシ、ニブすぎるぞ。 」
「 ニブい? 」
グレートが ぱん! っとジョーの背中を叩いた。
「 はっはっは ・・・ そうじゃなあ。 お前、彼女の顔を見ておらんかったのか。 」
博士までもが呆れ顔で言う。
「 へ?? なんです? ・・・ ああ フランの心配性ですか。 」
「 ったく〜〜〜 なんでマドモアゼルが心配性なのかわかっているのかな?
我らとてサイボーグ、未知の敵と合見えるのは宿命のはず ・・・ 」
「 だから彼女は心配性なんですよ、いつでもね。
なに、あれは彼女の性格みたいなものだから ・・・ 」
「 おい ジョー。 お前 本気でそうおもっておるのかね。 」
「 はい? ・・・あ いい匂いだなあ〜 これは・・・林檎か? 」
ジョーは くんくん・・・と空気の香りを楽しんでいる。
「 ボーイ? お前さん、なにを聞いていたのかね?
先ほど マドモアゼルがシフォン・ケーキと林檎のコンポート、と言っただろうが。 」
「 そ そうだったかな? あ、運んできたな。 おっと〜 あのワゴンはキャリーの具合がどうもな〜 」
ジョーはぱたぱたリビングを横切ってゆく。
「 ・・・ 博士。 どこか配線を間違えられましたかな? 」
「 あん? ・・・ アレかの。 」
仔犬みたいな後姿に 博士もパイプを咥えつつ苦笑している。
「 そうですよ。 あれじゃ・・・ マドモアゼルが可哀想です。 」
「 ふふん ・・・ いかにワシの腕をもってしても。
アイツの、 ジョーの朴念仁ぶりを <改造> することはできなかった、ということじゃ。 」
「 あは・・・ そりゃ、随分ですなあ、博士。 」
「 おや 粋人の英国紳士が何を言うかね?
他人の恋路を邪魔するものは ― いやいや、なるようにしかならん、ということさ。 」
「 は ・・・ 恐れ入りやした。 」
グレートは照り具合のよい禿アタマをぴしゃり、と叩いた。
「 ははは ・・・ まあ 見て見ぬフリ、で眺めていてみろ、英国紳士。 」
「 ほう・・・? 」
「 アイヤ〜〜 博士、 グレートはん! はよ、おいでェな。 ほかほかでっせェ〜 」
「 博士 グレート 熱いうちにどうぞ? ジョー、ほら運んでちょうだい。 」
「 了解〜〜 うわ・・・・アチ ・・・! いやあ〜〜 いい香りだなあ〜 」
ジョーも今度は夜のお茶タイムを単純に楽しんでいる。
「 おお ・・・ これは美味しそうじゃな。 そうじゃ・・・とっておき、をだすか。 」
博士は隅のキャビネットを開け 中のウィスキーを選んでいる。
「 うほほ! こりゃ〜大歓迎ですなあ〜〜 」
喜色満面、 グレートも首をつっこむ。
やがて 博士秘蔵のウィスキーをグレートと大人がホット・ウィスキーやら水割り、
ウーロン茶割などをカクテルしてティータイムに花を添えた。
皆で他愛もない話題で盛り上がりのんびりと過す。 誰もがリラックスしていた。
「 ・・・ ほう? 」
博士にちょちょ・・・っと背中をつつかれ、グレートはテラスへサッシに眼を転じた。
皆で楽しんだ夜のお茶会もそろそろお開き、邸を辞去しようかという時分・・・
グレートがそうっと伺った先には
― 海を望むテラスで 朴念仁 と 恋する乙女 が熱く唇を重ねていた。
「 ・・・ な〜んや ・・・ なんも心配せえへんかてよかったやん。 」
大人も覗き見に便乗してきた。
「 そういうこと、だな。 なにごともなるようになる、ということさ。
さ〜〜大人、そろそろ引き上げようぜ。 張々湖飯店はあすも営業だろ〜 」
「 はいナ! 明日の仕込み、最後の一味〜でっせ。 」
「 それじゃ・・・ 博士、そろそろお暇いたしますぞ。 」
グレートはもう一度だけ ちら・・・っとテラスの様子に眼を走らせた。
二人はよりそって星を見上げていたりしている。
ふん ・・・ っとに まあ ・・・ どっちもどっち、というか。
ま 博士の仰る通り、 なるようにしかならん、だな。
そやそや。
グレートはん、ワテらにできるコトは 黙って見守ったる、いうことだけや。
だ な。
「 さ〜〜て と。 お休みなさい、博士〜〜 」
グレートの一際大きな声に テラスの人影はやっと離れたようだった。
― その後。 すったもんだがありまして。
小笠原列島の果ても果て、あの小島に集結するハメになり ―
とんでもない < ご神託 > まで聞かされた!
ミッションは無事に終結し、海外組は直接に祖国へ帰還した。
「 ほんじゃナ〜〜 ま、せいぜい仲良くするこった 」
「 ムウ。 いい知らせ、待っている。 」
「 そういうことだ。 ふん! 」
「 まあ よかったじゃないか。 僕達の妹を泣かせるなよ? 」
仲間たちの冷やかしに ジョーはいちいち赤くなってもぞもぞ反論していた。
「 ぼ ぼくたちな別にそんな ― そんなんじゃなくて ・・・ 」
そして ―
「「 ああ ああ よ〜くわかったヨ、 このォォ♪ 」」
― と軽く往なされていた。
「 なんだよォ 皆して・・・ ! 」
ジョーは 嬉しいのか照れ臭いのか はたまた単に迷惑なのか、少々機嫌がわるい。
一番側にいて共に 渦中のヒト のフランソワーズもむっつりと押し黙っていた。
空飛ぶイルカのコクピットは 不機嫌な沈黙でいっぱいだった。
ドルフィン号がやっとその翼をホームに休めた後、 ジョーはざっと点検をすませ
一番最後に上陸した。
「 ふう ・・・ ヤレヤレ・・・ 」
「 ジョー。 お疲れ様 ・・・ はい、 コーヒーをどうぞ? 」
フランソワーズはすでに防護服を着替え、いそいで淹れたコーヒーを差し出したのだが・・・
「 いや・・・いいよ、ありがとう。 嬉しいけれど ・・ 」
「 ― え? 」
「 うん ・・・ ぼくもこの足で帰るよ。 じゃあ な。 」
「 え・・・? 帰るって どういうこと? 」
「 どういうって・・・僕も帰るのさ。 家、ずっと放りっ放しだから・・・掃除くらいしないとな〜 」
「 ああ そういうこと・・・ 行ってらっしゃい。 7時にお夕食ですから。 」
「 ・・・ ? 」
「 あらだってお掃除にゆくだけ なのでしょ。 お掃除をすませてお夕食までにウチに帰ってきてね。 」
「 ぼくの家は一応 ・・・ あのマンションなんでね。 」
「 ― え ・・・? 」
「 ・・・・・・・ 」
今度は無言で に・・・・ッと笑い ジョーはキイを取ると防護服のままスタスタと出ていった。
「 じゃあ な。 お疲れさん・・・ 戸締り、気を抜くなよ。 」
ちょい、と手をあげると <直系の祖先>さんは さっさと姿をけしてしまった。
「 ― なによ なによ〜〜 どういうことなの !? 」
フランソワーズは からっぽのリビングで怒ってみたけれど ・・・
「 ・・・ 誰もいないんですものね ・・・ バカみたい、わたしったら。 」
スン ・・・ 涙が一粒、転げ落ちた。
素敵なお土産をもらった と思ったミッション ― でもそれは思い違いだった のかもしれない。
「 ・・・・・・・ 」
フランソワーズは重い足取りで 自室へ戻っていった ・・・
― カチャ ・・・!
オート・ロックが閉じた音を確認し ジョーはほっとした面持ちになった。
ドルフィン号の帰還後、研究所から直接帰ってきてしまった。
防護服のまま 自宅・マンションのロビーを通りぬけるのはかなりのリスクがある。
ジョーは車を降りると、加速以前ぎりぎりの速さで自室まで駆け上がったのだ。
「 ・・・ ふう ・・・・ 」
がらん、とした部屋を見回す。
最低限度の生活必需品だけが雑然と置いてある部屋・・・ ほとんど寝に帰るだけの部屋だ。
いや ・・・ それは以前こと。
「 ・・・ ずっと準備してきたのに。 こっそり準備してさ、驚かせるつもりだったんだ・・・ 」
彼は防護服のまま 隣の部屋のドアを開ける。 かなり広い。
「 ここ さ。 ベッド・ルームがいいかな、と思って ・・・
カーテンや壁紙はきみに選んでもらって ・・・ そうさ、リネン類とかも全部任せるよ。
だからシンプルだけど自然に近いベッドやチェストをそろえたんだ。 」
「 ドレッサーとかは ・・・ もちろんきみの専門さ。
壁側は全部作りつけのクローゼットになってるから いいかな、と思って。
となりの部屋は作り替えてリビングにできるな ・・・って思ってた・・・! 」
― バン ・・・!
ジョーは広いベッドへ乱暴に寝転がった。
「 ふん ・・・ さすがにいい寝心地だよ・・・ 一生懸命捜したんだもの ・・・ ふん! 」
防護服の襟ゆるめ 乱暴にマフラーを脱ぎ捨てた。
ベッドに大の字になったまま ぼ・・・・っと天井をみつめる。
「 ・・・ ずっと ずっと 好きだったんだ。
ああ そうさ、ぼくはフランが好きで愛してるんだ!
ヨミでの闘いの後、 ぼくははっきり自覚して決心したんだ ・・・
か 彼女に プロポーズするんだ って! ぼくの花嫁はきみしかいないよ!
そのためにこっそり準備していたのに ・・・! 」
彼は手を伸ばし、ベッドサイドのチェストの奥をさぐった。
取り出したのは黒ビロードの小箱 ・・・ かちり、と開ければ。
「 サプライズで・・・ 指輪だってさ。 苦労して彼女のサイズ、調べてさ。
最高級の、買ったんだ! ぼくには精一杯のもの、買ったんだ〜〜
これで プロポーズ・・・サプライズでポロポーズ するつもりだったんだ〜〜 」
「 なのに ・・・ なのに なのに、 なのにィ〜〜〜 」
あ あのお節介ヤロウ〜〜〜!!!!
子孫だかなんだか知らないけど ・・・ 余計なコト、言うなよっ !!
バサ ・・・! ジョーはそのまま後ろに引っ繰り返るとフテ寝してしまった。
ころん ・・・・ 幸せを約束するはずの指輪は彼の手からベッドの上に 落ちた。
全員を召集し、はるばる南の島まででかけた。
正体不明の敵の攻撃にも耐えた。 信じがたい光景まで見せ付けられた。
それでもなんとか善戦した。 まあ・・・ 相手が勝手に去ってくれたのだが結果的には生き残った。
それなのに それなのに。
折角にミッション成功もあの一言で滅茶苦茶になってしまった。
「 ― なんだよ〜〜 なにか恨みでもあるのかよっ !? 」
ジョーは まったく泣きたい思いだった。
彼女へのサプライズを楽しみに ずっと朴念仁を装っていた。 本当は彼女が愛しくて仕方なかった。
あの時だって この時だって抱きしめてめちゃくちゃに口付けして。
そうだ、いつだって彼女のことばかり気になって 気になって仕方なかった。
けど。 ずっと我慢してたんだ〜〜!
ちゃんと準備して正式にきみに申し込みをして ― 堂々と皆の前で宣言するつもりだった。
ふん ・・・・!!!
≪ あの ・・・ ジョー ・・・・? いるのでしょう? ≫
「 ・・・・ !?? わ!? 」
突然 アタマの中に響いてきた・彼女の声 ― ジョーは飛び起きた。
「 こ ここは ?? ・・・・あ そ そうか。
ぼく・・・この部屋に帰ってきてそのまま寝ちまったんだ・・・ 」
≪ ジョー? ねえ 返事して? ≫
「 ふ フランソワーズ!? ど どこにいるのかい?? 」
≪ ジョー・・・ ああ いるのね? 声が・・・聞こえたわ。 ≫
「 フラン〜〜 あ ・・・ そ そうか 脳波通信だよね ・・・ いっけね〜 」
ジョーは慌てて音声会話から切り替えた。
≪ ごめん ・・・ うん、ウチにいるよ。 きみは? ≫
≪ あの ・・・ね。 ジョーのお部屋の前にいるの。
あの ・・・ お夕食、一緒に食べようとおもって・・・差し入れにきたの。 ≫
≪ フラン〜〜〜・・・・! ≫
≪ あの・・・邪魔だった? それならお食事だけでも・・・ ≫
≪ 邪魔だなんて! 今! 今 あけるよ〜〜 ≫
ジョーはベッドを蹴って飛び起き、部屋を飛び出した。
うわ〜〜〜〜〜い♪♪
「 ジョー ・・・ さっきは その・・ ごめんなさい・・・ 」
「 フランソワーズ・・・ そんな 謝るなんて・・・ 」
ドアを開けて ― 二人はまたもやモジモジしていた。
「 あ あの・・・ 入っても・・・いい? 」
「 勿論! あ ・・・ こっちの部屋はさ、散らかっているから ここで待ってて・・・ 」
「 ええ ・・・ ありがとう。 」
ジョーは ベッドを置いた部屋に彼女を案内した。
「 ごめん! ぼく、すぐに着替えてくるから ・・・へへ まだこんな恰好でさ・・ 」
ジョーは防護服をひっぱり照れ笑いをした。
「 うふふふ・・・ 待ってるわ。 お夕食はポトフよ? 」
「 うわお〜〜 」
フランソワーズは微笑んで ドアを閉めた。
あら。 ここは客用寝室なのかしら・・・
素敵なベッドねえ・・・ ダブル・ベッド・・・ ジョーの?
彼女はそっと ベッドに腰をかけた。
「 シンプルだけどきれい ・・・ 綺麗なリネンとか置いてみたいわ・・・
― あら ・・・? 」
フランソワーズの白い指が ソレを摘まみあげた。
?! これ ・・・・ ゆ 指輪 ・・・
ベッドに ・・・ 指輪!?
― バン ・・・!
かなり大きな音がして 寝室のドアが閉じた。
「 あ? あれ・・・ フラン〜〜 今 行くよ? 」
「 ― ジョー。 お邪魔しました。 邪魔モノは帰ります。 」
「 ・・・え ・・・? 」
「 どうぞ、この持ち主さんにお返しください。 では さようなら!! 」
「 ・・・・ へ? 」
フランソワーズは ば・・・っとジョーの掌に指輪を押し付けると 振り返りもせずに出ていった。
え・・ え〜〜〜〜 そ そんな ・・・・
これは これは きみに ・・・・
フランソワーズぅ〜〜〜〜〜
「 ・・・ なんだよ、なんだってこんなことなっちゃうんだよ〜〜〜
そうだ、皆アイツが ・・・あの未来のお節介ヤロウのせいなんだァ〜〜 」
ジョーにとって今回のミッションは踏んだり蹴ったりの <オマケ> を押し付けていったのだ。
ミッション自体は成功したが ジョーには最低の結果となった ・・・
§ フランソワーズ の事情
トン トン トン トン ・・・・
階段を上ってくる足音が聞こえてきた。
懐かしい音、ちょっとクセにある歩き方 ・・・ もうずっと昔から知っている音。
この音を聞くといつも嬉しくて嬉しくてわくわくした。
フランソワーズはドアにそばに佇んで にこにこしている。 そう あの頃にみたいに。
うふふふ・・・ びっくりするでしょうね〜〜
トン トン ・・・。 足音が止まった。 ドアノブに手を掛けて・・・
「 ― お帰りなさい〜〜 ジャンお兄さん !! 」
「 ?! ファンション ・・・?! 」
開け放ったドアの向こうには 兄のびっくり顔があった。
「 うふふふ・・・ お疲れ様。 キルシュの美味しいの、買ってきたわ。 」
あの頃と少しも変わらない妹の笑顔が 兄を迎えた。
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updated : 11,22,2011.
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********** 途中ですが
え〜〜・・・・例のあのオハナシですが・・・ちょっち違う味かも??
キリリク作品です、お題は 『 原作・移民編子孫発言 その後 』
さあ〜て・・・・ どうする、ジョー君??? 続きます!