『  選んだのは ― (2) ―  』

 

 

 

 

   ほっほっほ ・・・!

 

山盛りの荷物に 脚が生えて ― 玄関に到着した。

 

   ガチャ。  ガタ。  その足がドアを蹴飛ばした。

 

「 ん〜〜〜〜  ただいま 〜〜〜 

 よっこらしょ〜〜〜  っとぉ 」

  

   ドサ ・・・ !  荷物の山が玄関の上がり框に積まれた。

 

「 ふはあ〜〜 ・・・ いやあ〜 ぼくでもちょいとヤバかったぁ

 クルマに乗せてきた分、イッキ運びは無謀だったかも〜 」

はあ〜〜〜 ・・・ ジョーは大きくため息をついた。

「 えっと 買い忘れ、なよな?

 う〜〜んとメインの紙オムツひと山とぉ トイレ紙〜〜

 ミルクの缶と。 こっちは食糧 ・・・

 お〜っとこれは卵。 こっちに避けとこ・・・ 」

ぶつぶつ言いつつ 彼は荷分けをしてゆく。

「 え〜と ・・・ じゃがいも にんじん きゃべつ ・・・

 これはチキンにミルクに りんご〜〜〜  」

玄関はたちまち日常品で埋め尽くされた。

 

「 ・・・ だっぴゃあ〜〜 これがウチの一週間分 かあ 」

 

ふう〜〜  さすがのジョーも上がり框に座り込んだ。

 

    ふわん  ・・・ 

 

やっと落ち着いた空気の中に嗅ぎ慣れた < におい > が

漂ってきているのに気づいた。

 

「 ん ? ・・・ あっは ウチの匂いだあなあ ・・・

 これは ・・・ チビ達のミルク だな〜  

 いや チビ達自身の匂いかもなあ 」

ジョーは 鼻をくんくんさせつつ に〜〜んまりしている。

 

先年 島村君は願いかなって 彼の想い人・金髪美人の彼女 と

結婚した。

それだけでも 彼はも〜 有頂天な日々なのだが 

( 実際 二人だけの甘ぁ〜〜〜い生活がしばらく続いた )

去年の12月に 天使が彼らの腕の中に舞い降りてきて ― それも 二人☆

もうもう・・・ 彼の 自制のタガは完全に外れてしまった。

 

「 あ あああ〜〜〜 し あわせ ・・・! 」

「 うふふふ  わたしも 」

 

ジョーとフランソワーズは幸せの海♪ だった ・・・・が。

それは同時に  とんでもない戦闘状態の開始 だった。

勿論 ジョーは最初から子育てに参加する決意だったけど

 

    ― それどころじゃなかった !

 

フランソワーズと がっちりスクラム組んで対峙しないと

・・・ < 敵 > は 最強にしてしたたか・・・

そして なにより 最高に 愛しい のだった。

これは本当に 凶悪な最終兵器的能力 で 

子育て真っ最中の現在から考えれば BGとの戦闘 なんて

あんなに甘っちょろくタルいものはなかった ・・・ と

ジョーもフランソワーズもしみじみと思うのである。

 

 だけど。  この闘いには ひとつだけ他とは全く違う要素があるのだ。

 

    それは  ―  笑顔。

 

< 戦闘中 > だけど ジョーはにまにましつつ

毎日ウチに帰ってくるのだ。

 

「 ふ〜〜ん ・・・ えへへ いいなあ この匂いも♪ 」

 

彼は相変らず < ウチの匂い > に拘っているが

それは 確実に変化してきている。

 

「 チビ達ってさあ ・・・ ほっんといい匂いなんだよなあ

 ミルクの匂い だけじゃないんだ。

 なんつ〜か ・・・ う〜〜ん?? 甘いっていうか・・・

 それになあ すぴかはすぴかの匂いだし

 すばるはすばる で また別の匂いなんだ 

 

ガサゴソ。  袋を開けて買ってきたものを整理する。

食料品とベビー用品を分け さらに冷蔵するモノを袋にいれる。

 

「 そうだなあ・・・ 二人ともねんねしてる時は

 全然区別できないけど  くんくん〜〜 すれば

 すぐに分かるさ〜〜 へへへ〜〜  かっわいい〜〜 」

新米パパは もうでっれでれである。

 

「 ジョー??  お帰りなさ〜〜い 」

 

奥から声が飛んできた。

「 あ ただいまあ〜 フラン〜〜  あのミルク、あったよ〜 」

「 ご苦労さま〜〜  あのね 今 すぴかがお昼寝から起きて・・

 ちょっとお願い 」

「 ああ 今ゆくよ 」

 

     びえ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 んっ!!!

 

ジョーの返事なんかなんのその。

家じゅうに響く甲高い声が  はっきりと主張し始めた。

 

   アタシ!   おなか すいた〜〜〜〜〜〜 !!

 

「 ありゃあ〜 これじゃ相棒が泣き出すのも時間の問題だね 

 フラン〜〜〜 すぐに ゆくから〜〜 」

彼は手早く 食品を冷蔵庫にいれるとバス・ルームに寄った。

 

     びぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ん ッ !!!

 

     うっく・・うっく・・・ えぇ〜〜〜〜

 

ヘタリそうな泣き声が加わった。

「 だぴゃ ・・・ すばるも起きたかぁ・・・

 こりゃ 戦闘開始 だよう 」

ジョーは腕まくりをしつつ ― 大にこにこで 子供部屋に飛んでいった。

 

 

「 よ〜しよしよし ・・・ おと〜さんとお散歩しようか 」

び〜び〜泣いている娘を 彼は上手に抱き上げた。

「 ああ それがいいわね すぴか・・・

 オムツはキレイだし 今はお腹も空いてないはずなの。

 それなのに ・・・ すぴかは寝起きが悪いのよ

 ああ よしよし すばる・・・ 泣かないのね〜〜 」

フランソワーズは ぐしゅぐしゅぐずっている息子をあやしている。

「 すばるはね すぴかの泣き声にびっくりして

 お付き合いでぐしゅぐしゅ言ってるだけよ 」

「 そうなんだ?  すぴか〜〜 それじゃお父さんと

 ちょっとお外に出てみようよ?  お花が咲いてるかな〜  」

「 お願いね・・・・ あ 寒いかしら ブランケット? 」

「 あ〜 ぼくのセーターの中に入れちゃうから・・・・ 

 これ 前開きだからさ〜 こうやってボタン 外して・・・

 ほうら すぴか? 温かいだろう? 」

ジョーは すぴかを上手に自分のセーターで包んだ ―

 というより 彼女を潜らせた。

「 あら ・・・ いいわね〜〜〜 すぴか?

 お父さんといっしょね〜〜 」

 

     びぇ・・・? え ・・・????

 

いきなりほっこり温かく少し狭い空間に入れられ すぴかは

びっくりしているらしい。

泣き声が 止まった。

「 あ〜〜  いい子だねえ すぴか?

 ほうら 温かいだろう? さ お父さんと散歩しよ〜ね 

 

     ふぇ・・え?  ・・・っくちゅう〜〜〜

 

「 やあ 泣き止んでくれたかな〜〜  

 うふふ・・・ あったかいねえ すぴか・・・ 

「 くちゅう〜〜〜 」

「 えへへ  すぴか すぴか  かわいいすぴかさん〜〜〜 

 いいこちゃんだねえ   ・・・ ん? 」

小さな小さな娘を 自分の胸にしっかりと抱いて ジョーは

中庭をぷらぷらと歩いていたが ふと ― 小さな碧い瞳が

じっとこちらを見あげているのに気付いた。

 

「 ん? やあ すぴか。  お散歩は気に入ったかな〜〜  」

「 くちゅう 〜〜 」

「 そっか そっか そりゃよかったなあ  

 ねえ そこならあったかいだろ? 」

「 むにゅう ・・・ ぷっち 」

「 ふんふん そ〜かい ・・・ お父さんもすぴかと一緒で

 あったかいよう〜 」

「 だあ〜〜〜 」

すぴかは ジョ―を見つめ続けている。 

「 なあにかな〜〜  ああ すぴかのお目目は本当に綺麗だねえ

 知ってるかい? きみの目は お母さんと同じ色でさあ

 と〜〜〜ってもキレイなんだ 」

「 む〜〜〜 ぶ 」

「 そうだよ それでねえ お父さんは 大好きなんだ・・

 だって すぴかのお母さんは めっちゃステキなんだよ ? 」

「 ぶ〜〜〜 」

「 それでね これはナイショなんだけど すぴかには教えたげる。

 お父さんはね〜〜 すぴかのお母さんがだあ〜〜い好きなんだ♪ 」

「 ぷっち! 」

「 お母さんと同じ瞳の すぴか〜〜 ぼくの可愛いすぴか〜〜

 ああ 幸せだなあ〜〜 」

「 むうにゅう〜〜〜〜ん 」

「 あれえ すぴかってば笑ってるのかい? 

 ふんふんふ〜〜ん♪ 可愛いすぴか 可愛い可愛いすぴか♪ 」

「 む〜む〜む〜〜〜 」

「 あは お父さんの言うコト、わかるんだ?

 可愛いうえに賢いんだなあ すぴか すぴか すぴかさん 」

ジョーは すぴかを抱っこしたままスキップしたり軽くジャンプしたり

・・・ まあとにかく父と娘はご機嫌ちゃんなのだ。

「 ねえ すぴか。 これからも二人で散歩しようよ?

 お父さんとすぴか〜〜〜  ふんふんふ〜〜ん♪ 」

 

 「 ―  ジョー 」

 

テラスの方から 明るい声が聞こえてきた。

「 あ フラン 」

「 すぴか  泣き止んだのね  ネンネしたの? 」

「 ウウン  にこにこ ご機嫌だよ 」

「 え。  珍しいわねえ 」

「 そうかなあ すぴかって敏感だから こっちが穏やかな気分だと

 すぴかも大人しくしてるみたいだよ 」

「 ああ そうねえ 親の機嫌を敏感に感じとるって ホントね 」

「 な? あ すばるは?  またネンネしちゃった? 」

「 う〜うん あのねえ

 うふふ・・・ すばるもねえ お散歩に来たの。 

 お父さんとすぴかと 一緒にいたいんですって   ね すばる? 」

フランソワーズは 腕の中にいる息子に話かけた。

「 わあ〜 〜〜 そっかあ  すばる〜〜  おと〜さんだよん 」

ジョーが覗きこむと 彼の小さな息子は 茶色の瞳をむけて

  に・・・っと笑う。

「 うふふ〜〜 笑ったあ 

「 ホント  すばるもお父さんが大好きなのよね 」

「 ふふふ お父さんも すばるとお母さんが大好きさ。

 そして 皆と一緒がいいなあ 

「 ね?  ・・・ なんか気持ちいいわねえ・・・

 チビたち 抱っこしてるととっても温かいし 」

「 うん  あ そこに座ろうか・・・ 」

「 そうね 」

二人は テラスの端に腰を下ろした。

お互いの腕の中には 小さな娘と息子が 目をぱっちり開いている。

 

   くちゅう〜〜   ぽわぽわ〜〜〜

 

「 あは?  なんかしゃべってるよ 二人して 

「 そうねえ  二人だけの言葉があるみたいね  」

「 二人だけのヒミツ なんだね〜

 今日のミルクはちょっと熱かった〜 とか  」

「 ふふふ そうねえ  あら アタシは熱い方がいいもん って。 」

「 そ〜そ〜 すぴかってばすぐに飲むもんなあ 

 僕はぁ もっとふ〜ふ〜してほしいも〜ん ってすばるが。 」

「 そうね そうね ・・・ あ〜〜〜 なんか・・・

 ほっとしてる わたし。 」

 

  ことん。  金色のアタマがジョーの肩に寄ってきた。

 

「 うん? そうだねえ ・・・  ああ 好い感じに夕焼けだあ 

「 あら 本当・・・ 綺麗ねえ 」

「 ・・・ うん ・・・ 今日もさ なんとか夕方まできたね 」

「 そう ねえ ・・・

 ふふふ 二人ともおっきしてるのに大人しいわねえ 」

「 あ? あれ すぴかってば寝てるのかと思ったら 

 

    ぷっち! くちゅう〜〜〜  すぴかが声を上げた。

 

「 まあ すぴかってばお父さんの抱っこだと大人しいのねえ 

 わたしだと も〜〜 もぞもぞごそごそ〜 大変なのよ 」

「 そうなんだ?  なあ すぴか。 お母さんの抱っこでも

 大人しくしてないとだめだぞ? 」

 

    くっちゅう?  ぶぶう〜〜〜

 

「 ・・・わかったのかなあ 

「 ふふふ いいわどっちでも。 こうやって一緒いるのって

 と〜〜っても いい気持ちなんだもの 」

「 そうだ ねえ 〜〜 」

ジョーの上半身には じ〜〜んわりと彼の愛妻の温かさが滲みてきている。

 

 ― そして ・・・

 

 彼自身の、そして彼女自身の胸元からは  ほわ〜〜〜〜ん  と

子供たちの 匂い が漂ってきている。

それは ミルクの匂いだったり 肌着の匂いだったり 

乳児特有の匂いだったり ・・・ ちょっとはオムツの匂いも混じる。

 

     あ  は ・・・

     これが  この匂いが 

 

     今のウチの匂い なんだなあ〜〜〜

 

ジョーは 愛娘を抱っこし愛妻の上半身を受け止めつつ

思いっ切り深呼吸をする。

遅い春の宵 庭の植物たちもぐん・・・と若芽を伸ばしている。

潮の香り 緑の香 そして  < ウチの匂い >

 

     ふふぁ〜〜〜〜〜〜 ・・・

     ・・・ ああ   いいなあ ・・・

 

     へ へへへ これがぼくのウチ なんだ。

     ぼくと ぼくの家族のウチ さ。

 

     ああ  ・・・ シアワセ ・・・!     

 

四人? で肩を寄せ合って の〜〜んびり夕暮れの空を見上げる。

白っぽい青空は だんだんと茜色に染まってきた。

 

「 あ〜 フラン  レッスン どう? 」

「 あ〜〜 もうね  最初から  よ。 」

「 最初から? 」

「 そ。 筋肉 落ちちゃってるから ・・・ もう最初から

 鍛えなおし。  初心者モードだわ 」

「 え そんなに休んでた?  ウチのロフトでも自習してたよね? 」

「 うん ・・・ わたしもやっていたつもり だけど 

 

 

ギルモア邸の地下には 数室のロフトがあり一部は緊急事態以外は

固く施錠してある。

入口に近い一室は フランソワーズ専用の稽古場に改築した。

結婚前から 彼女は夜になると自習していたものだ。

 

そう ちょっと前 のこと。

「 ・・・ ジョー? ちょっとストレッチしてくるわ 」

「 え??? す ストレッチ?? 」

「 ええ、 地下のレッスン室で・・・」

「 おいおい〜〜〜  大丈夫かよ? 」

ジョーは 驚愕して 彼の妻を見つめた。

 

 ― そう 彼の愛妻は大きなお腹を抱えているのだ。

 

「 へ〜きよ。 もうきっちり安定期だし。

 チビ達はもう元気いっぱいだし 」

「 だけど ・・・ 二人 入ってるんだろ?? 」

「 そうよ。 でもず〜〜っと二人詰まってるんだから

 入って居る方も慣れてると思うわ 」

「 けど 転んだりしたら 」

「 だ〜から ストレッチ。 ストレッチして転ぶ? 」

「 ・・・ それなら ・・・ 気を付けて 」

「 了解〜〜  じゃ ね 」

 

  ふんふんふ〜〜ん♪  ハナウタと共に彼女は地下に消えた。

 

「 ・・・大丈夫 かなあ ・・・ 」

ジョーは心配でならないけど 一緒についてゆくのは

なぜか気が引けた、というより 遠慮しなくちゃ、と感じた。

「 フラン ・・・ 踊りたいんだろうなあ ・・・

 チビ達が出てきたら すぐにでも復帰したいのだろうし・・・

 ストレッチ くらいなら ・・・ 」

彼は 心配しつつも彼の妻を信頼していた。

「 あ〜〜 それよか納戸、片しておかないと〜〜〜

 チビ達のオムツとか収納するからな〜〜 

 あと ままチャリの安全度アップもしておかないと 」

ジョーは 工具入れを持って勝手口から出ていった。

 

 

「 けっこうぎりぎりまでストレッチとかやってたよね? 」

なんとなく懐かしい思いで 彼はほっこりしていた。

「 うん 予定日の一週間前までね〜 ・・・ 

「 なんか心配してたんだぜ? 」

「 あ〜ら 大丈夫って何回も言ったでしょう?

 バレエ団でもねえ ママの先輩達はぎりぎりまでレッスンしてたわ 」

「 ふうん 」

「 わたしもね〜 レッスンしたかったのよ !

 でも さ。  ほら ウチは ・・・ 二人 でしょう? 」

「 ああ そうだよねえ ・・・ 二人一緒に詰まってたんだもんな 

「 そ。  さすがにね〜 皆がやめておいた方がいいわよって ・・・ 」

「 うん うん ・・・ ま こうして無事に元気に生まれたし? 」

「 それは感謝してるわ。  けど ね

 わたしの方は ・・・ もうすっかり <普通の人> よ。 」

「 あ〜 そうかあ ・・・ 」

「 そ。  だから 今 自習の鬼です。

 あのね、 チビ達ねえ レッスン室につれていって

 隅っこにクーファンに入れておくでしょ?

 泣いたりしないのよ〜  こう・・・じ〜〜っと見てるの 」

「 へえ〜〜  すぴかは 将来バレリーナさんかな 

「 う〜〜ん どうかなあ・・・

 でもね すぴかはお腹の中から 大暴れしてたから・・・

 何回 蹴っとばされたことか ・・・ 」

「 すばるは?  運動神経はいいと思うけど・・・

 ぼくときみに似たら さ  」

「 う〜〜ん ・・・ あの子は大人しいわね。

 泣くのもすぴかにつられて・・・って感じだし。

 目が覚めてもじ〜〜〜っといろいろ眺めていることが多いわ 

「 ふうん ・・・ ま それぞれってことか 」

「 そうね。 丈夫で元気に育ってくれれば 」

「 うん。 ぼくもそれが一番さ 」

「 ね? 」

「 うん 」

 

   ぴと。 フランソワーズの身体が寄りかかってきた。

 

   ぱふん。 ジョーは 娘と一緒に妻を息子に腕を回した。

 

「 ・・・ ああ  ・・・ 」

「 ?  なあに どうしたの 」

「 えへ ・・・  幸せだなあ 〜〜〜 って さ 」

「 ふふふ ・・・ そうね すぴかもすばるも

 大人しくネンネしてるし。 」

「 ん ・・・ 皆一緒にさ こうやって元気にいられるって

 ホント ・・・ 最高だよ 」

「 そうね ・・・ふふふ チビ達、ぐっすりよ?

 いつもはネンネする時も ぐずぐず言うのに・・・

 お外の空気、きっと美味しかったのね 」

「 うん ・・・ お母さんが温かいなあ〜〜 って 

「 お父さんおんセーターの中 すき〜〜〜って 」

「 ・・・ うん ・・・ 」

 

  ことん。  ― ふわり

 

ジョーはすぴかを抱っこしたまま フランソワーズに身を屈め

唇にキスを落とした。

「 ― ありがと  フラン。 」

「 ・・・・ 」

応えの代わりに 熱いキスが返ってきた。

 

   ほわん 〜〜〜   あ。 フランの匂いだあ・・・

 

      おかあさん って いいにおい ・・・・ 

 

ジョーは こそっとあの歌を呟いていた。

「 ねえ ・・・ ジョー。 」

「 うん? 」

「 この頃  コロン、やめたの?  ほら 博士と同じ 4711 」

「 あ あれ・・・ 仕事に行く時だけ使ってるんだ 」

「 え どうして。 わたし 好きよ あの香り 」

「 ぼくも さ  でも ほら ・・・ チビ達には 

 そのう〜〜 ミルクやお日様の匂いの方がいいかな〜〜って 」

「 ああ ・・・ そう そうね ・・・ 」

    きゅ。  彼女は彼の手を握った。

 

 

      そう ね。  この手があるから。

      わたし 生きているの。

 

      この手が わたしを支えてくれるわ。

      そうよ

 

      わたしが 選んだの ―  この手を。

 

 

 

 

 

 ― さて・・・ その時は 最大に大変! と思っていても 

後年 振り返れば なんてことなかったよね〜  ってのはよくあることだけど。

 

ジョーとフランソワーズは 現在 ― そんな感慨にふけるヒマも ない。

 

「 おか〜さ〜〜〜ん  あははは〜〜 

 

    たかたかたかたか〜〜〜〜

 

すぴかは あっという間に駆けていってしまった。

「 ! すぴか! 止まって〜〜〜〜 

「 な〜に〜〜〜 おか〜〜さ〜〜〜ん 」

「 すとっぷ! 」

「 はあい〜〜 」

 

     たかたかたかたか〜〜〜〜  

 

今度はあっと言う間に戻ってきた。

「 おか〜さん なあに? 」

「 すぴかさん ・・・  一人で走っていっちゃ だめ 

「 え〜〜 おか〜さんもはしろ〜よ〜 すぴかと〜 」

「 ・・・ お母さんは 走れ いえ 走りません。

 すぴかさんも 道路では走りません。  」

「 ど〜して〜〜  おと〜さん いっしょにはしったよぉ 」

「 え。 いつ 」

「 ん〜〜とねえ〜〜 おかいものにいったとき! 」

「 ・・・ この前の日曜ね。 

 ねえ すぴか。 お父さんはいつも走るの? すぴかと。 」

「 うん! あのね〜〜  さか びゅ〜〜〜〜んって!

 ふたりでね〜〜 はしるのぉ〜〜〜 」

「 そう。  でもね 道路を走ってはだめ。 」

「 ど〜して〜〜〜 アタシ おと〜さんとはしるもん〜 」

「 すぴかがお父さんと走ったのは ウチの前の坂でしょう?

 あそこはお庭と同じで クルマとか来ないから ・・・・

 でもね お外では走ってはだめです。 」

「 ど〜して〜〜〜〜〜 」

「 危ないから です。 クルマや自転車にぶつかったら

 どうするの 」

「 すぴか にげれるもん ! 」

「 逃げられなかったら? 大怪我しますよ 」

「 おと〜さ〜〜〜ん っていうもん。 すぴか ころばないもん 」

「 ・・・ とにかく 道路では走りません。 」

「 ぶう〜〜〜 」

「 はい 手を繋いで。 」

 きゅ。 フランソワ―ズは娘の小さな汗ばんだ手を握った。

「 おてて して はしる?? おか〜さん 」

「 走りません。 」

「 ぶう〜〜〜 おと〜さん はしるよう〜〜 いっしょに 」

「 お母さんは 走りません。 いいえ 道路では走りません。 」

「 ぶう〜〜〜 」

フランソワ―ズはむくれている娘を 引きずるみたいにして

夕食の買い物に出掛けた。

 

     ・・・ うううう ・・・・

     ちょっとこれは。

     夫婦で意見の擦り合わせ が必要ね!

 

     道路で親子でかけっこなんかやられちゃ

     大変だもの!

 

 

 ― その頃 リビングでは・・・

 

「 おか〜さ〜〜ん  おか〜〜〜さ〜〜〜ん 」

珍しくすばるが 大きな声で呼んでいる。

彼は あまり怒鳴ったりわめいたりしない子なのだ。

「 ? すばる? どうした 」

ジョーは キッチンを掃除していたが 顔を覗かせた。

「 おか〜〜さ〜〜ん   おと〜さん おか〜さん は  」

「 お母さんなら すぴかと買い物に行ったよ 」

「 え ・・・・  おか〜さ〜〜〜ん ・・・・ 」

茶色の瞳に みるみる涙が盛り上がり ― すばるはべそべそ泣き出した。

「 ・・・ うっく ・・・ おか〜さん ・・・・ うっく 」

「 泣くことないだろ? すぐに帰ってくるよ 商店街だもの。 」

「 うっく ! おか〜さ〜〜ん ・・・ おか〜さんが いない〜〜 」

「 いない じゃないよ、お使いに行ってるだけ 」

「 ・・・・ おか〜さ〜〜〜〜ん ・・・・ 」

「 すぐに帰ってくるってば。 」

「 うっく うっく ・・・ べそべそべそ〜〜 」

「 すばる〜〜  お父さんがいるだろ? 泣くなよ 」

「 おか〜さん  おか〜〜さ〜〜〜ん 」

「 あ ほら・・ 一緒に卵焼き つくろう ね? 」

「 ・・・ たまご やき? 

「 うん。 ほら すばるが好きな あまあ〜〜い卵焼き!

 お父さんと一緒に作ろうよ 」

「 たまご やき ・・・ 」

「 ほらほら おいで〜〜  まずはお手手あらって 」

「 うん   じゃ〜〜〜 」

すばるは やっと < おか〜さん > 連呼をやめた。

 

      ・・・ ちょっとなあ。

      もうマザコンか???

      すぴかは こんなに お母さんコールしないぞ?

 

      これはちょっと。

      夫婦で意見交換が必要だな。

 

 

「 ただいまあ〜〜〜〜  おと〜さん〜〜 」

「 ただいま ・・・ 

玄関で 母と娘の声が聞こえてきた。

「 あ !  おか〜さ〜〜〜ん !! 」

すばるは 作りかけの卵焼きを放り投げ玄関に飛んで行ってしまった。

「 ・・・・ あ〜あ ・・・ やれやれ ・・・」

ジョーは 卵の殻やらボウルなんかを片寄せると

息子を追って玄関に出た。

「 お帰り フラン ・・・  あ。 」

 

玄関では ―

 

「 おか〜さ〜〜〜〜〜ん 」

すばるは まだ靴も脱いでいないお母さんに抱き付いている。

「 はいはい ・・・ 」

「 おか〜さ〜〜〜ん  僕ぅ ひとりでおるすばん してた 」

「 あら 偉いわねえ〜 」

 

    あ  コイツぅ〜〜〜

    ・・・ タラシ要素 たっぷりじゃん

 

ジョーが口を挟もうとした時 ・・・・

 

     どん!    ― おわ???

 

運動靴を脱ぎ飛ばし すぴかが抱き付いてきた。

「 おと〜さ〜〜ん!  はしろ〜〜〜〜 」

「 あ?  ああ そうだねえ 」

「 ね! はしろ〜〜 おと〜さん〜〜 」

「 うんうん ・・・・ あ フラン、荷物、もってゆくから 」

「 あ お願いね〜〜 すばる〜〜 降りて 」

「 ほら すぴか 手伝ってくれよ 」

「 うん  おか〜さん 」

「 うん おと〜さん 」

 

    わいわい きゃらきゃら あははは  うふふふ  

 

たちまち笑顔と日向の匂いでいっぱいになった。

ジョーはその匂いにどっぷりと浸かリ 満喫する。

 

 

    あは  ・・・ これが ウチの匂い かも。

    そうだよね これが ぼくのウチ なんだ。

 

    そうさ。  

    あの時 ―  初めて皆と出会ったとき。

    ぼくは自分の意志で 仲間達を選んだんだ。

   

    だって ・・・ きみが いたから。

 

      うん。  選んだのは ぼく。

 

         ぼく  が 選んだ。

 

 

************************       Fin.      **********************

Last updated : 06,01,2021.                back      /     index

 

*************    ひと言  ************

ジョー君って  たぶん 彼の人生の究極の目標は

穏やかで幸せな家庭生活  じゃないのかなあ・・・

せめて このサイトでは幸せに生きて欲しいのです (>_<)