『 ああ 皐月 ( さつき ) ― (1) ― 』
ふわり ふわ ふわ ・・・・
少しだけ熱気をはらんだ風が 街中を漂っている。
流れてゆく彼らに ほんのちょっと注意を払えば
花 やら 勢いのよい緑の香を 感じことができる。
すでに闌けてきた芽吹きのにおいと 近づく雨の季節を この時期は
同時に味わえもするのだ。
五月は たくさんの顔を持っている。
ザワザワ カツカツ ワイワイ ・・・
港街には華やかな陽射しに誘われて 多くの人々が行き交っている。
土曜日 ということもあり皆の足取りまで弾んでゆく。
「 え・・・っと こっちがモトマチ。
ショッピング街だよ 」
「 へえ〜〜 ここ ずっと続くの? わあ ・・・ 」
「 そうだね〜 いろいろ・・・ ほら 女子好みのお店
いっぱいあるみたいだよ 」
「 あらあ〜 ジョー 詳しいのねぇ カノジョとデート したの? 」
「 え! そ そ そんなこと ないよ !
ぼ ぼくは この地域で育ったから〜〜 そのくらいの情報は
し 知ってるさ! 」
「 あ〜〜ら そうなのぉ〜〜 ふふふふ 真っ赤よお〜〜 」
「 ・・・ フラン〜〜〜 」
金髪の女性が くすくす笑い転げ歩いてゆく。
五月の陽に 碧い瞳がきらきら・・・輝く。
そんな彼女を 茶髪の青年はにこにこ 眩しそうに眺めている。
その日 ジョーは もう最大限の勇気を振り絞り
フランソワーズを港街散歩に誘ったのだ ・・・ !
ぱたぱた ぱた ・・・ ひらひら
朝の爽やかな風に 洗濯モノが盛大に翻っている。
ギルモア邸の裏庭には 広い洗濯モノ干し場が設えてあり
毎朝 この家に定住する二人が利用しているのだ。
「 あ〜〜〜 いい気持ち! このお天気ならぱりっと乾くわね 」
「 うん ホントいい風だねえ 」
ジョーは 乾し終え空になった洗濯カゴを取り上げた。
「 あ・・・のさ いい天気だね? 」
「 そうね。 今日は降水確率もほぼゼロだし ・・・
お掃除しようかしら 」
「 それ ぼくが後でするから さ 」
「 ?? 」
「 あのう〜〜〜 よかったら ・・・・
出掛けませんか? ヨコハマまで ・・・ そのう 一緒に ・・・ 」
「 え? 」
「 あ ・・・ あのう イヤなら別にいいんだけど・・・
好い天気だから ウチにいるの、もったいないな〜って・・・ 」
「 わあ〜〜〜 嬉しい! ヨコハマ いってみたかったの!
ねえ 港街なのでしょう? 」
「 え あ うん ・・・ おっきな船 いるかも ・・・ 」
「 船 ? 」
「 うん ほら あの〜 豪華客船っていうやつ 」
「 へえ〜〜〜 タイタニックみたいの? 」
「 すっげ でっかいのもいるみたいだよ〜〜
それにね あのう 有名なショッピング街 あるから 」
「 そうなの?? きゃ〜〜〜 嬉しい !
ジョー 誘ってくれてありがとう!!
ね 着替えてくるから ちょっと待っててくれる? 」
「 ウン ・・・ あ ゆっくり着替えてきて 」
「 メルシ〜〜〜 」
フランソワーズは 洗濯バサミのカンを抱きしめて
ちょんちょん・・・ 勝手口へ駆けていった。
わ は ・・・
あんなに喜んでくれるなんて ・・・ !
わっほ〜〜〜〜〜〜い ♪♪
ぽ〜〜〜ん ! 洗濯カゴが空で宙返り した。
「 ! そだ ぼくも! ちゃんとしたモノ、着替えなくちゃ・・・
スーツ かな〜 ・・・じゃ ないかあ〜〜
う〜んと ・・・ ともかくコレじゃマズいよな 」
彼は ヨレてきた普段着のTシャツを引っ張ってため息をついた。
― そして ・・・
彼と彼女は ヨコハマ・モトマチ にやってきたのだ。
平成っ子のジョーは もちろん! この日のために
ばっちりネット検索済み である。
ショッピング街の概要から 女子に人気の店 そして 所謂有名老舗・・・
あとは 女子好みな風景の見えるカフェ・・ などなど。
まあ そこはネット世代としては準備万端。
彼のスマホには情報ぎっしり? なのだ。
フランソワーズは 軽やかな足取り、あっち見たりこっち覗いたり
楽しそうだ。
「 ふふふ〜〜ん♪ あ 可愛いバッグ♪ 」
「 ・・・ なんかね めっちゃ流行ったバッグなんだって 」
「 ふう〜〜ん いいなあ あ こっちの靴もいいわあ
ぺたんこ靴だけど おしゃれ〜〜 」
「 女子 好きだったよ 今も人気あるって 」
「 へえ 履いてみたいなあ 」
「 あ はいる? ここ ・・・ 」
「 う〜ん ・・・ 今日はいいわ もっといろいろ見たいの 」
「 うん お店はたくさんあるからね 」
「 ええ あ 可愛い! え〜〜〜 ハワイのお店? 」
「 ・・・ みたい だね 」
「 おもしろい〜〜 あ ここは ○○レース店・・・
あ レースだけのお店! 素敵〜〜 」
ひらり ひらひら
水色のスカートを翻し彼女はすすむ。
すぐ後ろを 彼は にこにこ・・・ 付いて歩く。
「 ふ〜〜 なんかちょっと暑いくらいね 」
「 そう? ジャケット、脱げば? 」
「 う〜 ううん 〜〜 大丈夫〜 風 あるから 」
「 ふうん ・・・ 」
「 ねえ? なんか・・・五月って踊りたくなる季節よね 」
「 え?? そ そう? 」
「 そうよぉ わたし 五月って大好きなの♪
日本の五月も 明るくて空気も軽くてすてき〜〜
お花もキレイよねえ あ あれは つつじ? 」
「 え? ああ そうだね〜 ウチに庭にもあるよね 」
「 え ウチのは 濃いピンクでしょ? 」
「 躑躅ってね〜 いろんな色 あるみたいだよ 」
「 ふうん ・・・ お庭のも好きだけど
わたし あの濃いオレンジ色のつつじ、好きだわあ 」
「 えっと・・・たしかね〜 アレは さつき だね。
ちょっと待って・・ 」
「 ? 」
ジョーは スマホでちゃちゃっと調べてくれた。
「 やっぱりね これは さつき だって。
ウチの庭の濃いピンクのは つつじ だ。 」
「 ちがう植物なの? 」
「 う〜ん ・・ 仲間ってか親戚 くらいかな? 」
「 ふうん ・・・ なんだかね この色のお花が懐かしいわ
どこかで見たかもしれないわ 」
「 世界中に分布するって 書いてかるから
どこかで見たんだよ きっと。 えっと・・・
あ この花の色は 緋色 っていうのだそうで〜す☆ 」
ジョ― は スマホからの知識を披露した。
「 ひ い ろ ? そうなの ・・・・
わたし ・・・この色 とても好き
フランソワーズは 道端の花壇にずっと植えてある花をしげしげと
眺めている。
「 じゃあさ 帰りに花屋さんで買ってかえろうか? 」
「 これ 売っているの? えっと・・・ さつき
」
「 わかんないけど 苗があるかも だよ 」
「 そう ・・・ あるといいなあ 」
「 え〜〜と・・・ JRの駅の方に 花屋があるはずだから
帰りの寄ろうよ 」
「 ありがと、 ジョー 嬉しいわ 」
「 えへ・・・ あ どっかでお茶 する? 」
「 そう ねえ ・・・ あ ここは食器屋さん? 」
彼女は またまたショーウィンドウに張り付いた。
「 ・・・ あ ここは アンティーク・ショップ みたいだね
ほら 年代物の食器とか並んでる 」
「 そうなの ・・・ あ これ ・・・ 」
「 え? 」
フランソワーズの瞳は ショーウィンドウに飾られている赤い花模様の食器類に
吸い寄せられる。
「 ティー・セット みたいだね〜 」
「 そう ね ・・・ これ ・・・ この景色 ・・・ 」
「 え 景色?? 」
「 そうよ 景色。 この食器に描いてある絵 ・・・ 」
「 絵? えっと 赤い花? いっぱい咲いてる野原 かなあ
あ 人も描いてあるね 」
ジョーも隣に立って ウィンドウの中を覗きこむ。
― 片隅に飾ってある一組のティー・セットは・・・
陶器のポットに ソーサー付きのカップが三組。 飾り皿とおぼしき大皿が一枚。
基調となる模様は 葉が付いた赤い花なのだ。
大皿には 赤い花が乱れ咲く草原にいる家族が描かれている。
父 母 少年 と 少女。 これは兄妹と思われる。
紳士は山高帽に襟の高いスーツ、 貴婦人は長い裳裾にパラソル。
少年と少女も 父母に似た大時代風の衣装だ。
「 へ え ・・・ 」
「 わ たし ・・・ この野原 ・・・ 知ってる かも 」
「 え!? きみ もしかして・・・こ こんな服 着てたの?? 」
「 ジョー。 あのね いくらなんでもわたし、そんなにムカシのヒトじゃあ
ないわよ。 この絵は19世紀か20世紀初頭って雰囲気じゃない? 」
「 ・・・ ごめん ・・・ そういう知識 なくて 」
「 いいけど ・・・ ああ でもなんだか本当に ・・・
胸がきゅ・・んとなるの 」
「 これ ・・・ 買える かなぁ 」
「 え・・・ 」
フランソワーズは 尚更じ〜〜っと目を凝らす。
「 ・・・ 無理っぽい かも ・・・
これ ホンモノのアンティークなんだわね お値段も ・・・ 」
「 そっか ・・・ 」
「 いいわ この絵皿を見られただけでも ・・・
なんだか涙がこぼれそうなくらい 懐かしい気持ちなの 」
「 ・・・ きっと素敵な思い出だね フラン 」
「 う ん ・・・ 自分でもよくわかならいけど
・・・ ちっちゃい頃の思い出かもしれないわ 」
「 ふうん なにかもっと詳しく覚えていること、ある? 」
う〜〜ん ・・・ と彼女は考えこむ。
「 あ ちょっと待っててくれる? 」
「 え ええ・・・ 」
ジョーは 隣の店にさっと入り すぐに戻ってきた。
「 ごめん お待たせ・・・
ねえ お茶しようよ? そこでゆっくり思い出して
みるといいかも 」
「 そうかしら 」
「 ウン。 あのさ 和風っぽいカフェ あるんだって。
日本のスウィーツ、好きって言ってたでしょう? 」
「 え 嬉しい〜〜〜 わたし 大好きなの〜〜〜 」
「 えへ なんかね〜 密かに人気なんだって。 」
「 そうなの? わくわくするわあ〜〜 どっち? 」
「 あ えっと・・・ ああ こっちだね 」
「 ジョー ありがと♪ 」
「 え なにが。 」
「 いろいろ・・・ 調べてくれて 」
「 あ あは ・・・ あ どこか行きたいとこあったら
遠慮なくリクエスト ぷり〜ず〜 」
「 うふふ 今はねえ 」
「 うん? 」
「 和風っぽいカフェ に行きたい! 」
「 あは こっちで〜す ・・・ あ あれかな? 」
「 ○○庵・・・ そうみたい へえ一階はお店なのね 」
「 うん あ 並んでる〜 いい? 」
「 全然いい〜〜 楽しみ〜〜 」
二人は しばらく並んだ後、目的のお店に入った。
窓際の席に並んで座った。
大判のメニューに二人して顔を突っ込む。
「 え〜〜っと なににする〜〜 」
「 ・・・ すごいきれい! これスウィーツなの? 」
「 うん 和風のスウィーツってなんだか芸術的だよな 」
「 これは あ ん み つ。 え あんみつ・ぱふぇ?
わ〜〜 これはなあに? 器に山盛り ・・・ 」
フランソワーズは こんもり・・・白い綿みたいなものが盛り上がり
そこに 団子がのっているスウィーツに目を丸くしている。
「 ん? あ〜〜〜 もう フラッペ があるんだあ?
え これって和風フラッペ だね 」
「 え??? フラッペ?? 」
トンっ ! フランソワーズは足先で軽く床を蹴った。
「 あ?? なに どうした? 」
「 え・・・ あ フラッペっていうから・・・ 」
( いらぬ注 : フラッペ とは 足先で指を使って床を蹴るステップの
名前。 クラシック・バレエの基本ステップのひとつ )
「 あ フラッペって これのこと。 う〜んともっと日本風にいえば
かき氷 ってことさ。 」
「 かき氷? ・・・ あ ソルベ ( シャーベット ) みたいの? 」
「 う〜んと・・・ 氷 削ったのにいろいろシロップかけるのさ
これは 団子が乗っててみたらしのタレ だって 」
「 ??? よくわかんないけど〜 面白そうだから これにするわ
ふらっぺ ねえ ふうん ・・・ 」
「 ぼくは〜〜〜 いろいろ食べたいから・・・
あんみつ・セット にする! 」
「 きゃ〜〜〜 オモチャみたいね 美味しそう〜〜
あ それも食べたいなあ 」
「 ふふ いいよ シェアしようよ あ イヤ? 」
「 ううん ううん〜〜 いろんなの 食べたい〜〜〜 」
すぐに運ばれてきた熱い日本茶が 汗ばんだ身体にとても美味しかった。
「 ん〜〜〜〜 しみるぅ〜〜 」
「 ・・・ 苦いのかなあ って思ってたら違うのね。
あ ねえ ジョー。 あれはなあに あのヒトが飲んでるでしょ・・
ほら ボウルみたいのから・・・ 」
「 え? ・・・ ああ 抹茶だね おうす とか言うみたい 」
「 抹茶? あ それ知ってるわ! 抹茶アイス とか好きよ
へえ・・・ あれ 飲むの? 」
「 う〜〜ん もともとは飲むもの じゃないかなあ
茶道 っていってさ、いろいろ作法があるんだって 」
「 ふうん ・・・ 飲んでみたいなあ ・・・ 」
「 あ きたよ〜〜 みたらし・フラッペ 」
「 きゃ〜〜〜 すご〜〜〜 きゃあ〜〜〜
こんなにいっぱい 食べられないかも ・・・ ジョー 手伝って 」
「 え いいの? 」
「 お願い〜〜 だってこれ・・・ 氷 でしょう? 」
「 うん。 」
「 溶けちゃう〜〜 そっち側から食べて 」
「 はいはい あ こっちのさ、あんみつも食べていいよ 」
「 わあ〜〜 ・・・ では いただきます☆ 」
「 いただきます。 」
「 ・・・ きゃ つめたい〜〜 あら 甘い? え しょっぱい?
不思議な味〜〜 」
「 ふんふん ・・・ あ これ みたらし団子 の味だね。
ほら そこに餡子、はいってるよ 」
「 ん ・・・ あ あま〜〜い〜〜〜 これおまんじゅう の中身ね 」
「 んん んん このタレ 氷に結構合うねえ 」
「 面白い味〜〜〜〜 」
「 あんみつ も どうぞ? 」
「 え いいの〜〜 きゃ〜〜 皆宝石みたい〜〜 」
「 ・・・ えっと これは カンテン かなあ 」
「 ん〜〜〜 不思議・・・ つるり でも 少し歯ごたえ?
ふ〜〜ん ・・・ 」
「 このフラッペ いいねえ〜 オイシイや 」
「 ん んんん おだんご って面白い食感 〜〜 」
二人は わやわや騒ぎつつ 和風甘味 を 大いに楽しんだ。
「 素敵〜〜〜〜 」
「 美味しかったねえ 面白いし 」
「 ね? 案外お腹 いっぱい かも
」
「 少し散歩する? 海の方とか 」
「 あ いいわね そうよね ここは港の街よね 」
「 ちょっと上るとね 上から海 見えるよ
・・・ あ〜〜 でも工場地帯ッて感じで あんましろまんちっく
じゃないけど ・・・ 」
「 行きましょ♪ 」
「 おっけ〜〜 あ 薔薇園 があるんだって 」
「 素敵! 行きましょ 」
「 うん えっとこっちの道かな〜 」
「 あ 山道みたいねえ 」
「 丘の上から 港が見えるって設計なんだって。
でも今はね〜 」
「 平気 平気。 面白そうだわ 薔薇園 みたいの 」
「 えっと ・・・ あ ちょうど今が 綺麗な時期だって 」
「 5月ですものね〜 ジョーってばすごい素敵な季節に
生まれたのねえ 」
「 あ そ かな〜 ・・・ あんまし自覚ないけど 」
「 やだあ〜〜 」
ふふふふ ははは ・・・ 笑い声をあげ二人は石段を登っていった。
小高い丘の上まででれば ― 爽やかな風が吹いていた。
「 あ・・・ いい気持ち〜〜〜 」
「 ほんとだ〜〜〜 ふ〜〜〜 」
「 ねえ あそこ! 展望台になってるわよ?
海が見えるのかしら 」
「 あ〜〜 あのねえ 行かない方がいいかも だよ 」
思わず小走りになりそうな彼女に ジョーは声をかけた。
「 え どうして 」
「 あのさ 確かに向うは海 なんだけど。
工場地帯がば〜〜〜〜っと広がってるんだ。 今はね 」
「 え・・・ 」
「 多分さ この展望台を作った時代は ここから ぱあ〜〜っと
海が広がってた と思うんだよね 」
「 ・・・ そっか ・・・ 」
「 外国にゆく客船とか見えて・・・ この海は他所の国に
つながってる・・とか さ 」
「 へえ〜〜 ジョーもそういうロマンチックなこと、
言うのねえ? 」
「 え〜〜 っと・・・ ムカシのヒトの気持ちになっただけ デス。
ベンチに座る? いい風だよ 」
「 あ そうね ふう〜〜ん ・・・ 」
二人は 石のベンチに並んで腰かけた。
「 さっきのお皿の絵だけど 」
「 あ あの赤い花が咲いた景色の? 」
「 そう ・・・ どこかで見た気がするの 」
「 え・・・ だってすごく昔の絵だって言ってたじゃん 」
「 衣装は ね。 でも あの景色 なにかしら ・・・って思うのね
ずっと小さな頃だと思うんだけど ・・・見たかも・・・
ぱあ〜〜っと開けたところにね こう 赤い波が揺れているの
お日様がきらきらしてて ・・・ 」
「 赤い波? へ え・・・ パリで? 」
「 う〜〜ん ・・・ ちょっと違う気がするわ
たぶん 家族も一緒で わたし、まだ小さくて・・・
あれは なんだったのかしら・・・ 」
「 旅行の思い出とか? 」
「 ・・・ そうかなあ・・・?
でも旅行なんて 夏のバカンスくらいしか行ってないわ 」
「 ふうん ・・・ あ そうだ。
あのさ さっき これ・・・ 買ったんだけど。
ほら あの絵の花と同じ色の模様で 」
「 ?? 」
「 どうぞ! 」
ジョーは 薄い包を差し出した。
「 え わたしに? 」
「 ウン。 あの・・・気に入らなかったら 」
「 気に入るわ。 」
「 え だってまだ見てないじゃん 」
「 気に入るの。 ジョーが選んでくれたんだもの。 」
「 え ・・・ えへ・・・ 」
「 開けて いい? 」
「 どうぞ。 」
カサリ。 袋の中には 緋色を基調にした花模様のハンカチが一枚。
「 わあ〜〜〜 可愛い〜〜
ホント! さっきのお皿の絵の色だわ 」
「 あの店の隣に並んでて ・・・ 思わず買ったんだ 」
「 嬉しい〜〜 メルシ ジョー ♪ 」
ちゅ。 小さなキスがジョーの頬に落ちてきた。
「 ♪ わっはは〜〜〜〜ん♪ 」
「 すてき〜〜 ほら 風に揺らすと花も揺れるわ 」
彼女は 海からの風に ひらり、とハンカチを振ってみせた。
あ … ?
突然 違う景色が 違う空間が 見えた。
ぱあ〜〜〜 っと広がる野原
そして 一面に赤い花が揺れている
! ここ だわ!
パパ と ママン と お兄ちゃんと見たわ
あのお花は ・・・ 何だったのかしら
「 ここ ・・・ ここよ! 」
フランソワーズは独り言みたいに呟く。
「 ・・・ 」
隣でジョーがしきりに目をこすっている。
「 あ ・・・ ? どうしたの ジョー 目にゴミでも入った? 」
「 う ううん ・・・ なんかさ 今 ・・・
幻っていか ・・・ 幻影が見えた気がして 」
「 え 」
「 ぼく 視神経が不具合なのかな ・・・
ここ 海なのに ・・・ 野原が見えた ・・・ 」
「 ジョー ! 」
「 え わ!! な なに〜〜 」
彼は いきなりきゅう〜〜〜っと抱き付かれ びっくり仰天。
うわ〜〜〜〜 ♪
・・ けど なんで??
「 あのね あのね! わたしも見てたの!
ジョーがくれたハンカチ、 広げたらね
ぱあ〜〜〜っと 野原が 赤い花が咲いてるの 見えたの! 」
「 え ・・・き きみも フラン? 」
「 ・・・・ 」
彼女は こくこく頷き、もう一度 ハンカチを陽に翳し振ってみた。
「 ・・・ 見えない わ 」
「 うん ・・・ もう 見えないね 」
「 でも! 見たわよね 」
「 うん 確かに。 なんだったのかなあ 」
「 ・・・ さっきモトマチで見た お皿の絵 みたいだったわ 」
「 あ そうかも・・・ 」
二人は黙って顔を見合わせていた。
さわさわさわ〜〜〜 五月の風が甘い香りを運んできた
「 あ そうだ 薔薇園! ほら こっちだよ。
入ってみない? 」
「 ええ ・・・・ わあ〜〜〜 すごい〜〜 」
「 おわ・・・! ホントだあ 」
港街の散歩を楽しんだ後、二人は張大人の店にやってきた。
「 アイヤ〜〜〜 ようお越し。 奥の席 取ってありまっせ〜〜 」
「 わあ ありがとう 張大人〜〜 」
「 ほっほ〜〜 ジョーはん 頑張りぃや 」
「 えへ ・・・ フラン〜〜 どうぞ! 」
ジョーは 多少ぎくしゃくしつつも 彼女をエスコート、
テーブルに案内した。
「 うふ ありがと ジョー。 ふふふ 素敵よ 」
「 え うん まあ ね。 」
「 お二人さん、ヨコハマ、楽しみはったかいな 」
「 ええ! あのね 薔薇園に行ってきたのよ 」
「 ほっほ〜〜 山の上の、でっか 」
「 そ。 石段あがって えいほ えいほって
途中、墓地とかもあって 興味深かったな〜〜 」
「 海は ・・・ あんまり見えなかったけど・・・
でもね 薔薇園なのよ! 」
「 そう! 薔薇ばっかり。 」
「 それでね〜〜 もうね ほっんと・・・ 薔薇だらけ だったの 」
「 うん うん 薔薇の海 ってカンジ。 」
「 ね〜〜〜 すごいのよ〜〜 ここもそこもあそこも 薔薇! 」
「 薔薇の国 だよな〜〜 全部薔薇なんだ 」
「 中にいるだけで 薔薇の香いっぱい なの 」
「「 ね!!! 」」
「 ほっほ〜〜 さよか そらよかったなあ 」
ジョーとフランソワーズは まだ興奮の面持ちだ。
頬を染めて話す二人を 中華飯店・張々湖 のオーナーシェフは
腹を揺すってにこにこ・・・聞いている。
「 今なあ 美味しいモノ、た〜〜んと出すよって
ちょいと待ってぇな 」
「 うふふ 実はね お腹ぺこぺこ 」
「 ぼくもさ。 結構歩いたね 」
「 そうね。 あ そうだわ 素敵なアンティーク、見たの。
ティ−・セット よ。 陶器かなあ 」
「 フランが見つけたんだけど キレイな絵が描いてあったんだ 」
「 なんだか懐かしくて ・・・ でも 値段がね〜〜 」
「 ほう? どこの店や? え ・・・ あの通りの?
あっこはなあ 高いワ。 ホンモノばかりやさかい 」
「 そうみたい ・・・ 値札みてびっくりしちゃった 」
「 ぼくらの手のでるモノじゃないらしいね 」
「 そやなあ ほいでお嬢が欲しいのんは なんね? 」
「 え ・・・ あのう ティーセットの中のお皿なの。
多分 飾り皿 だと思うのね 」
「 こう〜〜ね 野原に花が沢山咲いてるんだ 」
「 遠目にね 家族っぽい姿があるの。 古い衣装だけど 」
「 ほう? それでどんな絵ぇね? 赤い花??? 」
「 真紅とは違う赤よ。
えっと・・・・そうそう サツキの花の色。 ね ジョー? 」
「 あ 緋色 っていうんだって。 スマホで調べマシタ。 」
「 はあん?? ほいで お嬢はそのお皿、欲しいのんか 」
「 ・・・高くて とてもとても・・・ 眺められただけでいいわ。
ジョーが ハンカチ、買ってくれたし 」
「 ?? まあ ここはワテに任せてといてぇな。
お ほれほれ 前菜、盛ってきてくれたで〜〜〜 」
「「 わっ ♪♪ 」」
運ばれてきた料理に 若者たちは歓声を上げた。
Last updated : 06,09,2020.
index / next
********** 途中ですが
え ・・・ 季節がズレてしまって 申し訳ないです〜〜
みたらし・フラッペ、 美味しいですよ〜〜 (*^^)v
お勧めで〜〜す (‘◇’)ゞ 続きますです・・・