『 ああ 皐月 ( さつき ) ― (1) ―  』

 

 

 

 

 

    ふわり  ふわ ふわ ・・・・

 

少しだけ熱気をはらんだ風が 街中を漂っている。

流れてゆく彼らに ほんのちょっと注意を払えば

花 やら 勢いのよい緑の香を 感じことができる。

すでに闌けてきた芽吹きのにおいと 近づく雨の季節を この時期は

同時に味わえもするのだ。

 

  五月は たくさんの顔を持っている。

 

 

  ザワザワ  カツカツ  ワイワイ ・・・ 

 

港街には華やかな陽射しに誘われて 多くの人々が行き交っている。

土曜日 ということもあり皆の足取りまで弾んでゆく。

 

「 え・・・っと  こっちがモトマチ。

 ショッピング街だよ 」

「 へえ〜〜  ここ ずっと続くの?  わあ ・・・ 」

「 そうだね〜  いろいろ・・・ ほら 女子好みのお店

 いっぱいあるみたいだよ 」

「 あらあ〜 ジョー 詳しいのねぇ  カノジョとデート したの? 」

「 え! そ そ そんなこと ないよ !

 ぼ ぼくは この地域で育ったから〜〜 そのくらいの情報は

 し 知ってるさ! 」

「 あ〜〜ら そうなのぉ〜〜 ふふふふ 真っ赤よお〜〜 」

「 ・・・ フラン〜〜〜 」

金髪の女性が くすくす笑い転げ歩いてゆく。

五月の陽に 碧い瞳がきらきら・・・輝く。

そんな彼女を 茶髪の青年はにこにこ 眩しそうに眺めている。

 

その日 ジョーは もう最大限の勇気を振り絞り

フランソワーズを港街散歩に誘ったのだ ・・・ !

 

 

   ぱたぱた ぱた ・・・ ひらひら 

 

朝の爽やかな風に 洗濯モノが盛大に翻っている。

ギルモア邸の裏庭には 広い洗濯モノ干し場が設えてあり

毎朝 この家に定住する二人が利用しているのだ。

 

「 あ〜〜〜 いい気持ち!  このお天気ならぱりっと乾くわね 」

「 うん ホントいい風だねえ 

ジョーは 乾し終え空になった洗濯カゴを取り上げた。

「 あ・・・のさ  いい天気だね? 」 

「 そうね。 今日は降水確率もほぼゼロだし ・・・

 お掃除しようかしら 

「 それ ぼくが後でするから さ 」

「 ?? 」

「 あのう〜〜〜 よかったら ・・・・

 出掛けませんか? ヨコハマまで ・・・ そのう 一緒に ・・・ 」

「 え? 

「 あ ・・・ あのう イヤなら別にいいんだけど・・・

 好い天気だから ウチにいるの、もったいないな〜って・・・ 

「 わあ〜〜〜 嬉しい! ヨコハマ いってみたかったの!

 ねえ 港街なのでしょう? 」

「 え あ うん ・・・ おっきな船 いるかも ・・・ 」

「 船 ? 」

「 うん ほら あの〜 豪華客船っていうやつ 」

「 へえ〜〜〜  タイタニックみたいの? 

「 すっげ でっかいのもいるみたいだよ〜〜 

 それにね あのう 有名なショッピング街 あるから 

「 そうなの??  きゃ〜〜〜 嬉しい !

 ジョー 誘ってくれてありがとう!!  

 ね 着替えてくるから ちょっと待っててくれる? 」

「 ウン ・・・ あ ゆっくり着替えてきて 」

「 メルシ〜〜〜  」

フランソワーズは 洗濯バサミのカンを抱きしめて

ちょんちょん・・・ 勝手口へ駆けていった。

 

    わ は ・・・ 

    あんなに喜んでくれるなんて ・・・ !

 

  わっほ〜〜〜〜〜〜い ♪♪

 

ぽ〜〜〜ん !  洗濯カゴが空で宙返り した。

 

「 ! そだ ぼくも! ちゃんとしたモノ、着替えなくちゃ・・・

 スーツ かな〜 ・・・じゃ ないかあ〜〜

 う〜んと ・・・ ともかくコレじゃマズいよな 」

彼は ヨレてきた普段着のTシャツを引っ張ってため息をついた。

 

 

  ― そして ・・・

 

彼と彼女は ヨコハマ・モトマチ にやってきたのだ。

平成っ子のジョーは もちろん! この日のために

ばっちりネット検索済み である。

 

ショッピング街の概要から 女子に人気の店 そして 所謂有名老舗・・・

あとは 女子好みな風景の見えるカフェ・・ などなど。

まあ そこはネット世代としては準備万端。

彼のスマホには情報ぎっしり? なのだ。

 

フランソワーズは 軽やかな足取り、あっち見たりこっち覗いたり

楽しそうだ。

 

「 ふふふ〜〜ん♪  あ 可愛いバッグ♪ 」

「 ・・・ なんかね めっちゃ流行ったバッグなんだって 」

「 ふう〜〜ん  いいなあ   あ こっちの靴もいいわあ

 ぺたんこ靴だけど おしゃれ〜〜 

「 女子 好きだったよ 今も人気あるって 」

「 へえ 履いてみたいなあ 」

「 あ はいる? ここ ・・・ 」

「 う〜ん ・・・ 今日はいいわ  もっといろいろ見たいの 」

「 うん お店はたくさんあるからね 」

「 ええ あ 可愛い! え〜〜〜 ハワイのお店? 」

「 ・・・ みたい だね 」

「 おもしろい〜〜  あ ここは  ○○レース店・・・

 あ レースだけのお店! 素敵〜〜 」

 

  ひらり ひらひら  

 

水色のスカートを翻し彼女はすすむ。

すぐ後ろを 彼は にこにこ・・・ 付いて歩く。

 

「 ふ〜〜  なんかちょっと暑いくらいね 」

「 そう?  ジャケット、脱げば? 」

「 う〜 ううん 〜〜 大丈夫〜 風 あるから 

「 ふうん ・・・ 」

「 ねえ? なんか・・・五月って踊りたくなる季節よね 

「 え??  そ そう? 」

「 そうよぉ わたし 五月って大好きなの♪

 日本の五月も 明るくて空気も軽くてすてき〜〜

 お花もキレイよねえ  あ あれは つつじ? 

「 え?  ああ そうだね〜  ウチに庭にもあるよね 」

「 え ウチのは 濃いピンクでしょ? 」

「 躑躅ってね〜 いろんな色 あるみたいだよ 

「 ふうん ・・・ お庭のも好きだけど

 わたし あの濃いオレンジ色のつつじ、好きだわあ 

「 えっと・・・たしかね〜 アレは さつき だね。

 ちょっと待って・・ 」

「 ? 」

ジョーは スマホでちゃちゃっと調べてくれた。

「 やっぱりね これは さつき だって。

 ウチの庭の濃いピンクのは つつじ だ。 」

「 ちがう植物なの? 」

「 う〜ん ・・ 仲間ってか親戚 くらいかな? 」

「 ふうん ・・・ なんだかね この色のお花が懐かしいわ

 どこかで見たかもしれないわ 

「 世界中に分布するって 書いてかるから

 どこかで見たんだよ きっと。  えっと・・・ 

 あ この花の色は  緋色 っていうのだそうで〜す☆ 」

ジョ― は スマホからの知識を披露した。

「 ひ い ろ ?  そうなの ・・・・

 わたし ・・・この色 とても好き 

フランソワーズは 道端の花壇にずっと植えてある花をしげしげと

眺めている。

「 じゃあさ 帰りに花屋さんで買ってかえろうか? 」

「 これ 売っているの? えっと・・・ さつき  

「 わかんないけど 苗があるかも だよ 

「 そう ・・・ あるといいなあ 」

「 え〜〜と・・・ JRの駅の方に 花屋があるはずだから

 帰りの寄ろうよ 」

「 ありがと、 ジョー 嬉しいわ 」

「 えへ・・・ あ どっかでお茶 する? 」

「 そう ねえ ・・・ あ ここは食器屋さん? 」

彼女は またまたショーウィンドウに張り付いた。

「 ・・・ あ ここは アンティーク・ショップ みたいだね

 ほら 年代物の食器とか並んでる 」

「 そうなの ・・・ あ  これ ・・・ 」

「 え? 」

 

フランソワーズの瞳は ショーウィンドウに飾られている赤い花模様の食器類に

吸い寄せられる。

 

「 ティー・セット みたいだね〜 」

「 そう ね ・・・ これ ・・・ この景色 ・・・ 」

「 え 景色?? 」

「 そうよ 景色。 この食器に描いてある絵 ・・・ 」

「 絵?  えっと 赤い花? いっぱい咲いてる野原 かなあ 

 あ 人も描いてあるね 」

 

ジョーも隣に立って ウィンドウの中を覗きこむ。

 

 ― 片隅に飾ってある一組のティー・セットは・・・

陶器のポットに ソーサー付きのカップが三組。 飾り皿とおぼしき大皿が一枚。

基調となる模様は 葉が付いた赤い花なのだ。

大皿には 赤い花が乱れ咲く草原にいる家族が描かれている。

父 母 少年 と 少女。 これは兄妹と思われる。

紳士は山高帽に襟の高いスーツ、 貴婦人は長い裳裾にパラソル。

少年と少女も 父母に似た大時代風の衣装だ。

 

「  へ え ・・・ 」

「 わ たし ・・・ この野原 ・・・ 知ってる かも 」

「 え!?  きみ もしかして・・・こ こんな服 着てたの?? 」

「 ジョー。 あのね いくらなんでもわたし、そんなにムカシのヒトじゃあ

 ないわよ。 この絵は19世紀か20世紀初頭って雰囲気じゃない? 」

「 ・・・ ごめん ・・・ そういう知識 なくて 」

「 いいけど ・・・ ああ でもなんだか本当に ・・・

 胸がきゅ・・んとなるの  」

「 これ ・・・ 買える かなぁ 」

「 え・・・ 」

フランソワーズは 尚更じ〜〜っと目を凝らす。

「 ・・・ 無理っぽい かも ・・・

 これ ホンモノのアンティークなんだわね お値段も ・・・ 」

「 そっか ・・・ 」

「 いいわ この絵皿を見られただけでも ・・・

 なんだか涙がこぼれそうなくらい 懐かしい気持ちなの   」

「 ・・・ きっと素敵な思い出だね フラン 

「 う ん ・・・ 自分でもよくわかならいけど

 ・・・ ちっちゃい頃の思い出かもしれないわ 」

「 ふうん  なにかもっと詳しく覚えていること、ある? 」

 

  う〜〜ん ・・・ と彼女は考えこむ。

 

「 あ ちょっと待っててくれる? 」

「 え ええ・・・ 」

ジョーは 隣の店にさっと入り すぐに戻ってきた。

「 ごめん お待たせ・・・

 ねえ お茶しようよ?  そこでゆっくり思い出して

 みるといいかも 」

「 そうかしら 」

「 ウン。  あのさ 和風っぽいカフェ あるんだって。

 日本のスウィーツ、好きって言ってたでしょう? 」

「 え 嬉しい〜〜〜 わたし 大好きなの〜〜〜 」

「 えへ  なんかね〜 密かに人気なんだって。 」

「 そうなの? わくわくするわあ〜〜  どっち? 」

「 あ えっと・・・ ああ こっちだね 」

「 ジョー ありがと♪ 」

「 え なにが。 」

「 いろいろ・・・ 調べてくれて 」

「 あ あは ・・・ あ どこか行きたいとこあったら

 遠慮なくリクエスト ぷり〜ず〜 」

「 うふふ  今はねえ 」

「 うん? 」

「 和風っぽいカフェ に行きたい! 」

「 あは こっちで〜す  ・・・ あ あれかな? 」

「 ○○庵・・・ そうみたい へえ一階はお店なのね 」

「 うん あ 並んでる〜  いい? 」

「 全然いい〜〜 楽しみ〜〜 」

二人は しばらく並んだ後、目的のお店に入った。

窓際の席に並んで座った。

大判のメニューに二人して顔を突っ込む。

 

「 え〜〜っと  なににする〜〜 」

「 ・・・ すごいきれい! これスウィーツなの? 」

「 うん 和風のスウィーツってなんだか芸術的だよな 」

「 これは  あ ん み つ。  え あんみつ・ぱふぇ?

 わ〜〜  これはなあに? 器に山盛り ・・・ 」

フランソワーズは こんもり・・・白い綿みたいなものが盛り上がり

そこに 団子がのっているスウィーツに目を丸くしている。

「 ん? あ〜〜〜 もう フラッペ があるんだあ?

 え これって和風フラッペ だね 」

「 え??? フラッペ?? 」

 

  トンっ ! フランソワーズは足先で軽く床を蹴った。

 

「 あ?? なに どうした? 」

「 え・・・ あ フラッペっていうから・・・ 」

 

( いらぬ注 : フラッペ とは 足先で指を使って床を蹴るステップの

 名前。 クラシック・バレエの基本ステップのひとつ )

 

「 あ  フラッペって これのこと。 う〜んともっと日本風にいえば

 かき氷 ってことさ。 」

「 かき氷? ・・・ あ ソルベ ( シャーベット ) みたいの? 」

「 う〜んと・・・ 氷 削ったのにいろいろシロップかけるのさ

 これは 団子が乗っててみたらしのタレ だって 」

「 ??? よくわかんないけど〜  面白そうだから これにするわ

 ふらっぺ ねえ ふうん ・・・ 」

「 ぼくは〜〜〜 いろいろ食べたいから・・・

 あんみつ・セット にする! 

「 きゃ〜〜〜 オモチャみたいね 美味しそう〜〜

 あ それも食べたいなあ 」

「 ふふ いいよ シェアしようよ  あ イヤ? 」

「 ううん ううん〜〜 いろんなの 食べたい〜〜〜 」

 

すぐに運ばれてきた熱い日本茶が 汗ばんだ身体にとても美味しかった。

 

「 ん〜〜〜〜 しみるぅ〜〜 」

「 ・・・ 苦いのかなあ って思ってたら違うのね。

 あ ねえ ジョー。 あれはなあに あのヒトが飲んでるでしょ・・

 ほら ボウルみたいのから・・・ 」

「 え?  ・・・ ああ 抹茶だね  おうす とか言うみたい 」

「 抹茶? あ それ知ってるわ! 抹茶アイス とか好きよ

 へえ・・・ あれ 飲むの? 」

「 う〜〜ん もともとは飲むもの じゃないかなあ 

 茶道 っていってさ、いろいろ作法があるんだって 」

「 ふうん ・・・ 飲んでみたいなあ ・・・ 」

「 あ きたよ〜〜  みたらし・フラッペ 」

「 きゃ〜〜〜 すご〜〜〜 きゃあ〜〜〜 

 こんなにいっぱい 食べられないかも ・・・ ジョー 手伝って 」

「 え いいの? 」

「 お願い〜〜 だってこれ・・・ 氷 でしょう? 」

「 うん。 」

「 溶けちゃう〜〜  そっち側から食べて 」

「 はいはい  あ こっちのさ、あんみつも食べていいよ 」

「 わあ〜〜 ・・・ では いただきます☆ 」

「 いただきます。 」

「 ・・・ きゃ つめたい〜〜 あら 甘い? え しょっぱい?

 不思議な味〜〜 」

「 ふんふん ・・・ あ これ みたらし団子 の味だね。

 ほら そこに餡子、はいってるよ 」

「 ん ・・・ あ あま〜〜い〜〜〜 これおまんじゅう の中身ね 」

「 んん んん  このタレ 氷に結構合うねえ 」

「 面白い味〜〜〜〜 

「 あんみつ も どうぞ? 」

「 え いいの〜〜  きゃ〜〜 皆宝石みたい〜〜 」

「 ・・・ えっと これは カンテン かなあ 」

「 ん〜〜〜 不思議・・・ つるり でも 少し歯ごたえ? 

 ふ〜〜ん ・・・ 」

「 このフラッペ いいねえ〜 オイシイや 

「 ん んんん  おだんご って面白い食感 〜〜 」

 

二人は わやわや騒ぎつつ 和風甘味 を 大いに楽しんだ。

 

「 素敵〜〜〜〜 」

「 美味しかったねえ  面白いし 」

「 ね? 案外お腹 いっぱい かも  

「 少し散歩する?  海の方とか  」

「 あ いいわね  そうよね ここは港の街よね 」

「 ちょっと上るとね 上から海 見えるよ 

 ・・・ あ〜〜 でも工場地帯ッて感じで あんましろまんちっく 

 じゃないけど ・・・ 」

「 行きましょ♪ 」

「 おっけ〜〜  あ  薔薇園 があるんだって 」

「 素敵! 行きましょ 」

「 うん  えっとこっちの道かな〜 」

「 あ 山道みたいねえ 

「 丘の上から 港が見えるって設計なんだって。

 でも今はね〜 」

「 平気 平気。 面白そうだわ  薔薇園 みたいの 

「 えっと ・・・ あ ちょうど今が 綺麗な時期だって 」

「 5月ですものね〜  ジョーってばすごい素敵な季節に

 生まれたのねえ 」

「 あ  そ かな〜  ・・・ あんまし自覚ないけど 」

「 やだあ〜〜 」

 

  ふふふふ ははは ・・・ 笑い声をあげ二人は石段を登っていった。

 

 

小高い丘の上まででれば ―  爽やかな風が吹いていた。

 

「 あ・・・ いい気持ち〜〜〜 」

「 ほんとだ〜〜〜   ふ〜〜〜 」

「 ねえ あそこ! 展望台になってるわよ?

 海が見えるのかしら 」

「 あ〜〜 あのねえ 行かない方がいいかも だよ 」

思わず小走りになりそうな彼女に ジョーは声をかけた。

「 え どうして 」

「 あのさ 確かに向うは海 なんだけど。

 工場地帯がば〜〜〜〜っと広がってるんだ。 今はね 」 

「 え・・・ 」

「 多分さ この展望台を作った時代は ここから ぱあ〜〜っと

 海が広がってた と思うんだよね 

「 ・・・ そっか ・・・ 」

「 外国にゆく客船とか見えて・・・ この海は他所の国に

 つながってる・・とか さ 

「 へえ〜〜  ジョーもそういうロマンチックなこと、

 言うのねえ? 

「 え〜〜 っと・・・ ムカシのヒトの気持ちになっただけ デス。

 ベンチに座る? いい風だよ 」

「 あ そうね  ふう〜〜ん ・・・ 」

二人は 石のベンチに並んで腰かけた。

「 さっきのお皿の絵だけど 」

「 あ あの赤い花が咲いた景色の? 」

「 そう ・・・ どこかで見た気がするの 」

「 え・・・ だってすごく昔の絵だって言ってたじゃん 」

「 衣装は ね。 でも あの景色 なにかしら ・・・って思うのね

 ずっと小さな頃だと思うんだけど ・・・見たかも・・・

 ぱあ〜〜っと開けたところにね こう 赤い波が揺れているの

 お日様がきらきらしてて  ・・・ 

「 赤い波?  へ え・・・  パリで? 」

「 う〜〜ん ・・・ ちょっと違う気がするわ

 たぶん 家族も一緒で わたし、まだ小さくて・・・

 あれは なんだったのかしら・・・ 」

「 旅行の思い出とか? 」

「 ・・・ そうかなあ・・・?

 でも旅行なんて 夏のバカンスくらいしか行ってないわ 」

「 ふうん ・・・ あ そうだ。

 あのさ さっき これ・・・ 買ったんだけど。

 ほら あの絵の花と同じ色の模様で 」

「 ?? 」

「 どうぞ! 」

ジョーは 薄い包を差し出した。

「 え わたしに? 」

「 ウン。 あの・・・気に入らなかったら 

「 気に入るわ。 」

「 え だってまだ見てないじゃん 

「 気に入るの。 ジョーが選んでくれたんだもの。 」

「 え ・・・ えへ・・・ 」

「 開けて いい? 」

「 どうぞ。 」

 

  カサリ。  袋の中には 緋色を基調にした花模様のハンカチが一枚。

 

「 わあ〜〜〜 可愛い〜〜 

 ホント! さっきのお皿の絵の色だわ 」

「 あの店の隣に並んでて ・・・ 思わず買ったんだ 」

「 嬉しい〜〜 メルシ ジョー ♪ 」

 

    ちゅ。  小さなキスがジョーの頬に落ちてきた。

 

「 ♪ わっはは〜〜〜〜ん♪ 」

「 すてき〜〜 ほら 風に揺らすと花も揺れるわ 」

彼女は 海からの風に ひらり、とハンカチを振ってみせた。

 

        あ … ?

 

   突然 違う景色が 違う空間が 見えた。

 

    ぱあ〜〜〜 っと広がる野原 

    そして 一面に赤い花が揺れている 

 

    ! ここ だわ!  

    パパ と ママン と お兄ちゃんと見たわ

 

    あのお花は ・・・ 何だったのかしら

 

「 ここ ・・・ ここよ! 」

フランソワーズは独り言みたいに呟く。

「 ・・・ 」

隣でジョーがしきりに目をこすっている。

「 あ ・・・ ? どうしたの ジョー 目にゴミでも入った? 」

「 う ううん ・・・ なんかさ 今 ・・・

 幻っていか ・・・ 幻影が見えた気がして 」

「 え 」

「 ぼく 視神経が不具合なのかな ・・・

 ここ 海なのに ・・・ 野原が見えた ・・・ 」

「 ジョー ! 」

「 え わ!!  な なに〜〜 」

彼は いきなりきゅう〜〜〜っと抱き付かれ びっくり仰天。

 

     うわ〜〜〜〜 ♪

     ・・ けど なんで??

 

「 あのね あのね! わたしも見てたの!

 ジョーがくれたハンカチ、 広げたらね

 ぱあ〜〜〜っと 野原が 赤い花が咲いてるの 見えたの! 」

「 え ・・・き きみも フラン? 」

「 ・・・・ 」

彼女は こくこく頷き、もう一度 ハンカチを陽に翳し振ってみた。

「 ・・・ 見えない わ 」

「 うん ・・・ もう 見えないね 」

「 でも! 見たわよね 」

「 うん 確かに。 なんだったのかなあ 」

「 ・・・ さっきモトマチで見た お皿の絵 みたいだったわ 」

「 あ  そうかも・・・ 」

二人は黙って顔を見合わせていた。

 

   さわさわさわ〜〜〜  五月の風が甘い香りを運んできた

 

「 あ そうだ 薔薇園!  ほら こっちだよ。

 入ってみない? 」

「 ええ  ・・・・ わあ〜〜〜 すごい〜〜 」

「 おわ・・・! ホントだあ 」

 

 

 

港街の散歩を楽しんだ後、二人は張大人の店にやってきた。

「 アイヤ〜〜〜 ようお越し。 奥の席 取ってありまっせ〜〜 」

「 わあ ありがとう 張大人〜〜 」

「 ほっほ〜〜  ジョーはん 頑張りぃや 」

「 えへ ・・・ フラン〜〜 どうぞ! 」

ジョーは 多少ぎくしゃくしつつも 彼女をエスコート、

テーブルに案内した。

「 うふ ありがと ジョー。  ふふふ 素敵よ 」

「 え うん  まあ ね。 」

「 お二人さん、ヨコハマ、楽しみはったかいな 」

「 ええ!  あのね 薔薇園に行ってきたのよ 

「 ほっほ〜〜 山の上の、でっか 」

「 そ。 石段あがって えいほ えいほって 

 途中、墓地とかもあって 興味深かったな〜〜 

「 海は ・・・ あんまり見えなかったけど・・・

 でもね 薔薇園なのよ! 」

「 そう! 薔薇ばっかり。 」

「 それでね〜〜 もうね ほっんと・・・ 薔薇だらけ だったの 」

「 うん うん 薔薇の海 ってカンジ。 」

「 ね〜〜〜 すごいのよ〜〜 ここもそこもあそこも 薔薇! 」

「 薔薇の国 だよな〜〜 全部薔薇なんだ 」

「 中にいるだけで 薔薇の香いっぱい なの 」

「「 ね!!! 」」

 

「 ほっほ〜〜 さよか そらよかったなあ 」

ジョーとフランソワーズは まだ興奮の面持ちだ。

頬を染めて話す二人を 中華飯店・張々湖 のオーナーシェフは

腹を揺すってにこにこ・・・聞いている。

「 今なあ 美味しいモノ、た〜〜んと出すよって

 ちょいと待ってぇな 」

「 うふふ 実はね お腹ぺこぺこ 

「 ぼくもさ。 結構歩いたね 」

「 そうね。 あ そうだわ 素敵なアンティーク、見たの。

 ティ−・セット よ。 陶器かなあ 」

「 フランが見つけたんだけど キレイな絵が描いてあったんだ 」

「 なんだか懐かしくて ・・・ でも 値段がね〜〜 」

「 ほう? どこの店や?  え ・・・ あの通りの?

 あっこはなあ 高いワ。  ホンモノばかりやさかい  」

「 そうみたい ・・・ 値札みてびっくりしちゃった 」

「 ぼくらの手のでるモノじゃないらしいね 」

「 そやなあ   ほいでお嬢が欲しいのんは なんね? 」

「 え ・・・ あのう ティーセットの中のお皿なの。

 多分 飾り皿 だと思うのね 」

「 こう〜〜ね 野原に花が沢山咲いてるんだ 」

「 遠目にね 家族っぽい姿があるの。 古い衣装だけど 」

「 ほう? それでどんな絵ぇね? 赤い花???  」

「 真紅とは違う赤よ。 

 えっと・・・・そうそう サツキの花の色。  ね ジョー? 」

「 あ 緋色 っていうんだって。 スマホで調べマシタ。 」

「 はあん??  ほいで お嬢はそのお皿、欲しいのんか 」

「 ・・・高くて とてもとても・・・ 眺められただけでいいわ。

 ジョーが ハンカチ、買ってくれたし 」

「 ??  まあ ここはワテに任せてといてぇな。

 お ほれほれ 前菜、盛ってきてくれたで〜〜〜 」

「「 わっ ♪♪ 」」

 

運ばれてきた料理に 若者たちは歓声を上げた。

 

 

Last updated : 06,09,2020.            index     /    next

 

 

**********   途中ですが

え ・・・ 季節がズレてしまって 申し訳ないです〜〜

みたらし・フラッペ、 美味しいですよ〜〜 (*^^)v

お勧めで〜〜す (‘’)ゞ  続きますです・・・