『 サンタがウチにやってきた ― (2) ―
』
パサ ・・・ カレンダーの最後のページが現れた。
雪を被った森に 明るく灯のともった窓辺。 ツリーの下にラッピングしたボックスがならぶ。
定番、といえる写真だけど、一年の最後はやっぱりコレじゃなくちゃ・・・と 思う。
「 ふふふ〜〜〜 やっと来たわ〜〜〜 12月♪ ず〜〜っと待ってたのよ〜 」
つん、と素足でルルベをして。 24 と 25 の数字を確かめる。
「 ようこそ〜いらっしゃいました♪ 」
少女は気取った様子で 優雅にレヴェランスをした。
毎年 毎年、 とてもとても楽しみにしていた。
一年間かけて ず〜〜っと悩んで選んで考えていた、と言っても大袈裟じゃない。
Pere Noel ( サンタクロース ) になにをお願いしようかしら。
ちっちゃなファンションの心の片隅には いつだってそのコトが鎮座ましましていたのだ。
「 う〜〜ん ・・・ レッスン ・ バッグ かしら。 あ M・・先生のブロマイドも欲しいなあ。
でも やっぱり レオタード。 そうよね〜 今もってるのってみ〜んな穴があいたり
破けちゃったりして繕っているもの。 それにきゅう きゅうになったのもあるし。
そうよ〜 レオタード、 お願いするわ。 」
ベッドの中やら 道を歩いているとき、 彼女はいつでもあれこれ迷っていた。
とりたてて貧しい家庭ではなかったが < 欲しいものを買ってもらえる > のは
クリスマスと誕生日だけだった。
周囲の友達も 皆似たり寄ったりなので当然、と思っていた。
「 う〜〜ん だから迷うのよねえ〜〜 色は 水色 か ピンク。
ァ でも ピンクのコは多いから 白にしようかなあ ・・・ ねえ お兄ちゃん? 」
「 あ〜〜? 」
「 あ〜 じゃなくて! ねえねえ聞いて! 水色と白、どっちがいいと思う? 」
「 はあ?? ・・・ お前のパンツの色か? 」
「 ! ちがうわよっ!!! あのね〜 サンタさんにお願いするの、
そのレオタードの色 よ。 水色と白、 どっちが似会うかしら。 」
「 ・・・ れおたーど って ・・・ ああ あの水着みたいなヤツか。 」
「 水着じゃないわ! バレエのお稽古着よ! 」
「 ふ〜〜ん ・・・ どっちでも いいんじゃね? 」
「 もう〜〜 ちゃんと聞いて。 アタシにはどっちの色が似会う? 」
「 ・・・ ファンが好きな色は? 」
「 アタシ? ・・・ う〜〜ん ・・・ 黒! 」
「 黒ォ? んじゃ 、黒の、買ってもらえばいいだろ。 」
「 ・・・ だからあ〜〜 そうじゃなくてェ〜〜〜 アタシにはどっちが似会うかって! 」
「 あ〜 ・・・・ 」
リセに通う兄は 面倒くさそう〜〜にちっちゃな妹をながめた。
「 ・・・ ふ〜〜ん ・・・ お前ってば 背、伸びたね〜 」
「 だ か ら ! 」
「 ごめ ・・・ う〜ん ・・・ 水色だな。 」
「 え ほんとう?? 」
「 あ〜。 お前の瞳のいろが一番映えるぜ。 うん、水色にしろよ。 」
「 は〜〜い♪ じゃあ 水色のれおたーど、お願いするわ〜〜 」
「 ・・・ お願い・・・って ・・・ あ! もしかして ・・・ あ〜〜〜 なあ ファン? 」
「 なあに。 」
「 お前 ・・・さ。 まさか〜とは思うけど。 Pere Noel ( サンタクロースのこと ) ・・・
信じてる か? 」
「 え〜〜〜 ・・・・・ 」
「 あ そうか そうか〜〜 そうだよなあ 今時の子供達ってドライだし。
おとぎ話はとっくに卒業〜〜 ってワケだよな〜 うん。 」
兄は ほっとした表情をみせたが、でもほんのちょっとがっかり・・・のスパイスも感じられた。
「 俺なんかさあ〜 結構でかくなるまで本気にしたんだぜ〜〜 おお 純真な少年の日々よ〜 」
「 アタシ、信じてるわ。 当たり前のことだと思うけど?? 」
「 ・・・へ??? 」
「 だ〜から Pere Noel のことよ。 だって彼はいるわ。 ええ 絶対にね。
じゃなかったら 枕元にプレゼントは届くわけないと思うわ。 」
歳の離れたちっちゃな妹は にこやかに言い切ったのだった。
「 ・・・ まあ お前がそう信じているのなら ― あ〜〜 俺はべつに ノーコメント さ。 」
「 だからちゃんといます! だからアタシ。 今度のクリスマスには新しいレオタードが
そうね ・・・ 水色のが枕元に置いてあります。 」
「 ふうん ・・・ そりゃいいねえ。 」
「 でしょ? お兄ちゃんはなにをお願いするの? 」
「 お願い? 」
「 そうよ。 Pere Noel に。 」
「 ・・・ あは。 まあこれから考えておくさ。 」
「 え〜〜〜 はやくしないと間に合わないわよ? Pere Noel は世界中を巡るんですもの。 」
「 まあなあ〜〜 ま ファンは 水色のれおたーど をお願いしとけ。 」
「 ウン♪ あ パパ〜〜〜 お帰りなさい〜〜〜 」
亜麻色の髪をゆらして ファンはぱっと玄関へ駆けて行った。
「 おやじ。 ファンは水色の稽古着だってよ。 サイズはお袋に聞とけよ〜 」
兄は肩を竦めてから 父親を迎えに玄関に出た。
両親と兄と一緒に迎えるクリスマス。 来年も また その次の年も同じ幸せが巡ってくると
信じていた。 いや 疑うことなど考えてもみなかった。
父や母が他界してからも同じだった。
兄と二人だけになっても ささやかだけどクリスマスを祝った。
テーブルいっぱいの手料理やらツリーの下のプレゼント・ボックスは見えなくなったが、
二人で小さなものを贈りあった。 それはそれでとても楽しかった・・・
「 ・・・ うわあ〜〜 どうしてわかったのぉ〜〜 ありがとう、お兄ちゃん! 」
「 ・・・ お? あ〜〜 これ、欲しいな〜って思ってたんだ〜 ファン、ありがとう! 」
そんな声で二人は毎年笑顔で < サンタのおじさん > を迎えていた。
そう ・・・ あの日 まで。
「 ・・・・ アーメン。 ゴチソウサマでした。 」
食後のお祈りが終わり、 全員でゴチソウサマをして。 いつもならそれでわいわいと
子供達は席を立つのだが。 今日だけは違うのだ。
皆 神妙〜〜な顔で しっかり口を閉じてじっと座ったままだ。
誰か一人でもしゃべったりふざけていたら それからのことは中止になってしまう。
そのことを皆 よ〜〜〜く知っていたから。 学校に上がる前の小さな子達も
お兄さん・お姉さんにキビシク言われて、 あんまりよくわからないけど大人しくしていた。
こほん ・・・ 神父様は咳払いをひとつ、そしてお話を続けた。
「 今日はクリスマス・イヴです。 朝から何回もごミサがありましたから皆 よくわかっていますね。
皆も昼のごミサに参加しましたね。 」
「「 はい 」」
「 そうですね。 で いろいろな人たちから教会の子供たちへ、とプレゼントが届いています。
まず、これからクリスマス・ケーキ を食べましょう。 これもお菓子の会社の人が
贈ってくださいました。 そして その後、皆さんに一人づつプレゼントを配ります。
静かにして 受け取ってください。 感謝のこころを忘れずに。 わかりましたか。 」
「 「 はい! 」」
ケーキ! と子供達の瞳はきらきら輝いている。
わ〜〜〜〜い クリスマスだあ〜〜〜い♪♪
ジョーも小さい頃はわくわく ・ どきどき して。 皆とケーキの欠片を食べて満足した。
できればもっと沢山食べたいな〜〜 と思ったけど、 なんでも皆で分け合うのはいつものこと
なので しょうがないや・・・ と諦めもついた。
・・・ だってさ〜 しせつにはいっぱい子供がいるのにさ〜
丸いケーキ いっこ じゃ足りないよなあ〜
高校生になるころには ケーキは年下の子供たちに譲ることにしていた。
< プレゼント > も。 かなり大きな包みが配られる。 もちろん一人一人に、だ。
教会信者のボランティアのオバサマたちが分けて包んでくれたので ちょいとでこぼこしていて
やたらとテープで留めてあったりする。
ガサガサガサ ゴソゴソゴソ ・・・・
皆 部屋に戻ってから開けるのだけど。
「 ・・・ な〜にかなあ〜〜 ・・・ あ 」
「 え〜〜 ケンタの、なに〜〜 あ 」
「 オレのはァ〜 ・・・ おい ジョー、お前のは? 」
同じ部屋の子供たちは ちろり、とお互いの包みの中身を見て― 目を逸らす。
様々な模様の包み紙でラッピングされた中には。
お菓子とか学用品とか。 シャツとかマフラーとかスニーカーとか。 手袋とか帽子とか。
どれもこれも新品でキレイだったけど。 お菓子も新製品なんかが入っていたけど。
けど。 み〜〜んな 同じ だった。
色やらサイズが違うだけだ。 学用品は必要なモノだけど、カッコイイものはなかった。
( オンナノコに聞いたら < カワイイ > ものはない、と言っていた。 )
そう、 どれもこれも < 皆 一緒 > 誰がどれをもらっても大差はない。
善意の寄付とか企業からの寄贈品を 全員に平等に分けただけ だ。
つまり ― < 自分だけが欲しいもの > を貰う なんて夢のまた夢 だった。
「 サンタさんへの手紙? なに それ?? 」
まだ小学生低学年のころ、学校の休み時間にちょっと話題になったが
ジョー達の仲間には理解できなかった。
「 え? 書かないと欲しいモノ、サンタさん、わからないでしょう? 」
「 そうだよ〜〜 ちゃんとおてがみ しないと、サンタさんが困っちゃうよ 」
「「 ね〜〜〜♪ 」」
クラスメイトたちはにこにこ・・・でもとっても真剣に言っていた。
「 へ・・・ マジかよ〜 」
「 だいたいさ。 サンタクロースなんているわけね〜よ な〜〜〜 」
「 そうさ! プレゼントは ボランティアのオバサンたちが集めたのさ。 」
「 そうだよな〜〜 アイツら〜〜コドモ〜〜 」
ジョーと仲間達は教会の <お家> に帰ると、コソコソと言い合っていた。
クリスマス・プレゼント はジョーが高校生になっても配られたが 彼はお菓子は年下の子達に
分けてやり、学用品やら生活必需品を何の感慨もなく使っていた。
サンタクロースなんて いない ― 初めから知っていた ・・・ 気がする。
運命の嵐に滅茶苦茶に翻弄された後 仲間たちとやっと < ごく普通の日々 > をもぎ取った。
辺鄙な崖の上の屋敷に やっとこさ、安住の地を見つけた。
仲間は世界中へ散っていったが なにかとコトあるごとに ( 良くも悪しくも )
彼らは その崖っぷちの家に集まってくるのだった。
「 え? クリスマス ・ パーティ ?? 」
両手に満杯のスーパーの袋をぶら下げたまま ジョーは固まっていた。
「 パーティー ってほどでもないけれど・・・折角皆が帰ってくるのですもの・・・
クリスマスらしくお祝いしたいなあ〜〜って思って ・・・ 」
「 あ ああ そうか ・・・クリスマスだよねえ ・・・ 」
「 そうよ〜 あ 日本ではクリスマスって関係ないのかしら。 知ってる、ジョー? 」
「 知ってる・・・って クリスマス を? 」
「 ええ。 あのね、 12月の25日がね 」
「 知ってるよ〜〜 いくらなんでも 」
「 あら そう? たしか ・・・ この国の宗教は・・・ 仏教 ・・・ だったわね。
ジョーも仏教徒なの? 」
「 え!?? ぶっきょう ?? 」
「 そうよ ジョーはブッダを信仰しているの? 」
「 ちがうよ。 う〜〜ん ・・・ この国はねえ〜 なんていうか・・・無宗教? 」
「 え?? なにも信仰していないの?? そんなことってあるの? 」
「 いや ・・・ そういうワケでもないんだ。 お正月には神社に御参りにゆくし、
葬式はお寺だったり 結婚式は教会だったりするよ。 」
「 ??? 多神教なの?? 」
「 いや〜〜 そうでもないんだけど。 まあ ・・・なんでもアリ、ってとこかなあ。 」
「 なんでもあり? 」
「 うん。 だからね〜 クリスマスは皆 結構騒いで賑やかに過すみたい。 」
「 あら そうなの? ジョーも? 」
「 あ ・・・ ぼくは ほら・・・教会の施設で育ったから一応 ・・・ クリスチャンさ。 」
「 まあ よかったわ。 それじゃ皆で ささやかだけどクリスマスを祝いましょうよ。 」
「 ウン そうだねえ ・・・ 皆で一緒にご飯と食べるのもいいよね。 」
「 ね♪ 」
そんな会話の後、 どういうわけか < ささやか > なはずのクリスマスは ―
本場の樅の木に 華やかな最新式LED電飾、料理は和洋中入り乱れた大宴会となってしまった。
「 では諸君! サンタクロースはご多忙ゆえ我々は自助努力〜 ということで。
プレゼント交換〜〜 といたそうではないか。 」
英国紳士の気取った音頭で 仲間たちはそれぞれ < ささやかな > プレゼントを
贈り合った。
カサコソ ・・・ ジョーはそうっと包みを開いた。
わいわい騒いでいるのっぽの赤毛やら泥酔陽気の褐色の青年のバカ笑いから逃れ
ソファの陰に避難している。
「 ・・・ あ! これ ! ・・・ わあ〜〜 フランからかあ♪ 」
現れた革製のキーホルダーに 彼は思わず涙が滲んできてしまった。
ずっと欲しいなあ〜って思ってたんだ・・・!
え〜〜 どうしてわかったのかなあ
コレ・・・ ぼくのタカラモノだ ・・・!
ジョーは掌に乗せ 何回も何回もその感触を楽しんだ。
こちらも酔っぱらいの喧騒を敬遠し、 フランソワーズはカーテンの陰でプレゼントの包みを開けていた。
キレイな箱やらリボン付きの袋やら賑やかだ。
「 あら ・・・ まあぴったりよ、このスウェードの手袋♪ さすがね、アルベルト。
やだあ〜 このすごい原色のチョコの詰め合わせはジェットね〜〜 あら これは 」
ひとつひとつを手にとり その存在をしっかりと味わう。 最後の一つは小さい箱だった ・・・
彼女が一番 < 待って > いたプレゼント。
「 え ・・・ これ・・・ ガーネット? ジョーったら ジョーったら ・・・ ・・・ 」
ほんの小さな赤い輝石を飾ったペンダントを握り締め 彼女もまた涙を零している。
皆からもらったもの、全部嬉しい。 自分のために選んでくれたことがとてもとても嬉しい。
「 ・・・ ステキよ 全部・・・全部 好き ・・・ ! 」
でも これがわたしのタカラモノなの、 と握った掌の感触を楽しみ そっと指を広げてみれば ―
赤い石は汗の湿気が加わってきらきらと輝いている。
「 ・・・ 嬉しいわ ・・・ ジョー・・・ 嬉しい ・・・ 」
「 お〜〜〜 こんなトコでな〜にやってんだ? ほら 飲めって〜〜 」
バサ。 カーテンが乱暴に引かれ、のっぽの赤毛が缶ビールを突き出した。
「 え ・・・ いいわ、もう。 酔っぱらいさん。 」
「 え〜〜〜 これっぽっちで酔ってなんざ い〜ね〜〜〜〜 って〜〜〜
あ! オレのピレゼント、 どう どう?? 気に入ってくれた〜〜〜 」
「 あのすごい色のチョコ ね。 」
「 すげ〜〜〜 ばっちりだろ? あの派手さがたまんね〜〜〜 って なに? おまえ〜〜 」
「 え? 」
突然 彼はしげしげとフランソワーズを見詰めた。
「 ・・・ やあねえ そんなじろじろ見て失礼でしょ! 」
「 へ。 フラン お前〜〜 な〜んだよ〜〜 なんで泣いてんだ? 」
「 な 泣いてなんか いないわ! 」
「 ウソこけ〜〜 ほい ・・・ 目 うるうる ほっぺまっかだぜ〜〜 」
「 きゃ ・・・! 」
いきなり冷たいビール缶が 頬にぴたっとくっついてきた。
「 や! なに〜〜〜 !? 」
「 ちょい 冷せよ〜〜〜 あ〜〜〜〜 やっぱ オレ 飲みすぎかも〜〜 」
「 ・・・ ジェット ・・・ 」
「 な〜んでだよ〜〜 今日〜〜はたのしいくりすます〜 だぜ。 」
「 だって ・・・ また クリスマスが迎えられるなんて ・・・ 夢みたい ・・・
こんな日が ・・・ こんな日を皆で笑って過せる なんて ・・・ 夢みたい! 」
「 うん ・・・ だよね。 」
すとん、と隣に誰かが腰を降ろした。 そろり、と顔をむけるとセピアの瞳が笑っていた。
「 ? ・・・ あ ・・・ ジョー ・・・・ 」
「 えへ ・・・ ぼくもそんな風に思ってた ・・・ 」
「 まあ ・・・ ! 」
「 ぼくは皆みたいにいろいろ ・・・ そのう、酷い日々を過していないけど ・・・
でも ― 今が 好きだよ。 」
「 ・・・ジョー! わたしも。 わたしも ・・・ 今が ここで皆と ・・・ あの ジョーと・・・
暮す日々が好きなの! 」
「 えへ ・・・ ぼく も さ。 」
「 だから ね。 今年のクリスマスは特別だわって思うの。 」
「 だよね ・・・ あ これ・・・ありがとう! すごく欲しいなって思ってたんだ。 」
ジョーはずっと握っていた キーホルダーをそっと見せた。
「 わあ 気に入ってくれたの。 嬉しいわあ〜 あ わたしも。 コレ ・・・
うふふふ もうとっくにお気にり よ♪ 」
フランソワーズは 首にかけている金色のチェーンをひっぱり、赤い輝石を揺らした。
「 ・・・ あ〜〜 よかったア〜〜〜 」
クス ・・・ ふふ ・・・ 二人は顔を見合わせ吹き出した。
「「 やっぱりね。 サンタクロースはいるんだよ ( のよ ) 」」
それが ― ジョーとフランソワーズの現在の見解なのだ。
さて その二人の愛の結晶 というか 愛の印 というか ― 双子の片割れちゃんだが。
島村すぴか嬢の悩みは まだ続いていた。
クリスマスが終ると同時に冬休みになった。
「 おか〜さん 僕 〜〜 図書館 いってくるね〜〜 」
キッチンの入り口に すばるがにこにこ・・・立っている。
「 はい、わかったわ。 4時半までには帰るのよ。 わたなべ君と、でしょ? 」
「 ウン! JRの写真集、見るんだ〜〜 イッテキマス〜〜 」
「 いってらっしゃい。 手袋とマフラー、忘れずに! 」
「 は〜〜い♪ 」
すばるは かる〜〜い足取りでリビングを横切ってゆく。
「 ふんふんふ〜〜ん♪ わたなべ君とォ 写真集みて〜〜 あれ。 すぴか。 」
「 ・・・ ん ・・・? 」
普段なら暗くなるまで外で跳ね回っている < 姉 > が ソファの上で本を抱えていた。
「 へ〜〜〜 ・・・・ いたんだ〜 」
「 ・・・ 居ちゃ わるい? 」
「 べつに〜〜 ただ めずらしいな〜〜って思ったんだ〜 」
「 本 読んでるの! じゃましないで。 」
「 じゃま してない。 聞いただけだよ。 」
「 それがじゃまだっての! はやくでかければ? 」
「 へ〜〜んなすぴか〜〜 し〜らないっと。 おか〜〜さんっ いってくるね〜〜 」
「 はあい ・・・ いってらっしゃい。 」
キッチンからよく通る声が飛んできた。
「 じゃ な〜〜 」
ふんふんふ〜〜ん♪ ハナウタと一緒にセピアの頭は冬のお日様の中に出ていった。
「 ・・・ ふん ・・・だ ・・・・ 」
すぴかは ソファの上に本を抱えたまま、丸まった。
さっきから全然ページは進んでいない。
「 ・・・ ふ〜ん ・・・だ ・・・! 」
ず〜っと同じページのまんま、本はすぴかの膝でだら〜っとしている。
パタパタパタ ・・・ スリッパの軽い音がいったり来たり ― そして。
「 えっと ・・・ 洗濯物、もう取り込もうかな・・・ あら!? 」
フランソワーズの足がとまった。
「 ・・・ すぴかさん!? 具合が悪いの?? 」
「 え〜〜 ・・・? 」
ソファのすみっこに収まっていたすぴかは へ? と顔をあげた。
「 風邪でも引いたのかしらね? 頭いたい? 熱は? 」
「 ・・・ あ? 」
冷たい手が す・・っとすぴかのオデコに当てられた。
「 お熱は ・・・ ないみたいねえ・・・ ああ ・・・ 咽喉が痛いのね、いいのよ、いいのよ
無理にしゃべらなくても・・・ お薬 確かまだ あったはずだわ。
あ 今ならまだ病院、 行けるわね! すぐに用意してくるから・・・」
「 おかあさん?? なにいっているの〜〜 」
「 え? だから すぴか、あなた風邪引いたのでしょう?? 」
「 へ??? アタシがあ〜〜?? 」
「 そうですよ。 ちゃんとダウン、着なさいっていうのに、いっつもトレーナーだけで
いるからでしょう? 今年は寒いんだからちゃんと着なくちゃ だめ。 」
「 だってアタシ、寒くないも〜〜ん それにさ〜 走ったり縄跳びしてると
ダウンは邪魔っけだし暑いの! 」
「 そんなこと 言ってるから風邪ひくのよ。 さ ・・・ 病院 ゆきましょう。
ちょっと待ってて。 お母さん、 コートを着てくるから 」
「 おかあさん! 」
「 はい、 だからちょっとだけよ。 ダウン ・ コート 羽織ってくるわ。 」
「 おかあさんってば!! 」
「 そうねえ・・・ バスでゆく? 気分が悪いのならタクシー呼ぶわよ? 」
「 おか〜〜さ〜〜〜ん!! アタシは げんき〜〜〜〜 」
すぴかは 顔をまっかにして母に宣言した。
「 え??? だって ・・・ お外にゆかずにず〜〜〜っとソファにいた じゃない?
そんなの ― すぴかじゃないわ。 」
「 けど! アタシだよ! 」
「 ・・・ じゃあ どうしたの? 」
「 べつに。 ただ ・・・ お家でご本を読んでいたかっただけ。 」
「 ご本 ? 」
「 ウン。 ・・・ あ〜〜 これ ・・・ 」
「 ・・・ ハーブ ・ ガーデンを楽しむ ?? すぴかはこういうの、好きなの? 」
「 あ ・・・う〜〜ん ただここに置いてあったから なんとなく ・・・ 」
「 ???? すぴかさん。 ・・・ なにかあったの。 あ 先生に叱られた?
お友達とケンカしたの? 」
「 な〜〜んもないよ。 」
「 隠さなくてもいいのよ? お母さんとすぴかだけのヒミツにしましょ。 」
「 だ〜から! なんもないってば。 」
「 ・・・ そう? じゃ お母さん、洗濯物を取り込んでくるわね。 」
「 いっしょにゆく! 」
「 あら手伝ってくれるの? じゃあお願いね〜〜 」
「 ウン♪ 」
すぴかは お母さんと一緒に裏庭から洗濯物を取り込んで 一緒に畳んで
一緒に五つの山を作った。
「 さて できたっと。 すぴかが手伝ってくれたからあっという間だったわ〜 メルシ♪ 」
「 えへへへ・・・ 」
洗濯物の小山の前で お母さんは ちゅ・・・っとほっぺにキスをくれた。
ふんふんふ〜〜ん♪ お母さん いつもと同じだよね♪
なんだかほっとした気分になったらもりもりエネルギーが沸いてきた。 脚がむずむずしている。
もともとじっとしている、なんてすぴかの性分じゃないのだ。
「 お〜し♪ やったるで〜 」
すぴかは皆の洗濯物をそれぞれのお部屋に配達して回った。
書斎にいたおじいちゃまには < デリバリーりょうきん > として 山椒煎餅 をもらった♪
( すばるのは ベッドの上に放り出しておいた )
その日もお父さんは帰りが遅かったけど、おじいちゃまとお母さんとすぴかとすばるで
楽しく晩御飯を食べた。 それでもって夜は こてん! と眠ってしまった。
・・・ ちょこっとは < なやみ > は減った気分だった が。
次の日も すぴかはお家にいてなんとな〜〜くお母さんを見ていた。
すばるは そろばん塾に行ってそのままわたなべ君ちに遊びに行く予定でご機嫌ちゃんで出かけた。
ふ〜ん ・・・ そろばんって楽しいのかなあ ・・・
いちいち珠を弾かなくても暗算 できるじゃんね?
すぴかちょっと不思議に思うけど、 すばるが楽しんでいるコトなので余計なコトは言わない。
さて。 どうしようか な・・? お母さんは なにしてるのか な・・?
新年を間近に控え、 この家でも主婦は大忙しだ。
ぱたぱたぱた ・・・ 今朝も お母さんは朝から家中を飛び歩いている。
「 ・・・ え〜と キッチンはこれでよし、と。 あとは掃除と ・・・ あら?? すぴか? 」
今日もまた 島村さんちのお嬢さんはリビングのソファで本を抱えていた。
「 うん? 」
「 今日もお家にいたの? ゆみちゃんやサアちゃんと遊びに行ったと思ってたわ。 」
「 ・・・ べつに ・・・ あ お母さん、今日はお稽古、行かないの? 」
「 う〜〜ん、今日中にね いろいろ年末のご用を済ませてしまうつもり。
明日からまたちゃんと朝のクラスに行くわよ。 」
「 ふ〜ん ・・・ 」
すぴかは本を持ち上げているけど ・・・ 大きな瞳はしっかり母親をみている。
あらら ・・・ これはなにかあったのねえ・・・
フランソワーズはすとん、と娘の隣に座った。
「 すぴかさ〜ん ねえ なにか言いたいこと、あるのかな〜 」
「 ・・・ え ・・・べ べつに ・・・ ない よ 」
「 そう? じゃあ お母さんが聞いても いい? 」
「 ・・・ いい けど ・・? 」
「 メルシ。 ねえ 気になることがある? ず〜っとお腹にためていること、ある? 」
「 ・・・ え ・・・ 」
「 そうねえ〜〜 クリスマスの頃からもやもや〜〜って ・・・ ちがう? 」
「 ・・・ え ・・・ 」
「 ねえ 聞かせて? これはすぴかとお母さんだけのお話よ。 」
「 ・・・ ウン。 あの ・・・さあ。 」
「 ええ なあに。 」
「 ウン ・・・あの ・・・ お母さんさあ ・・・ 」
「 ええ ? 」
「 ・・・ サンタさんのこと ・・・ すき? 」
「 は??? 」
「 お母さん、お父さんのこと、好きだよね? ちゅ〜〜♪って らぶらぶ〜 でさ。 」
「 Oui j`aime votre pere, Supica ( ええ あなたのお父さんを愛しているわよ、すぴか ) 」
「 うん♪ で ・・・サンタさんに ・・・ ちゅ〜 してた ? 」
「 え???? 」
「 アタシ ・・・ 寝ぼけてたの かなア・・・ 」
「 ! 」
はは〜〜〜ん ・・・ ここで母はやっと娘の不機嫌、というか悶々〜の原因が解った。
やだわ〜〜〜 すぴかったら見てたの???
・・・ ぷぷぷ ・・・ でも サンタさんがジョーだって
わからなかったのね ・・・ ふふふ・・・
やっぱりまだまだコドモなのねえ〜〜
思わず吹き出したくなったけれど ぐ・・・っと堪えた。
「 あ〜〜 それってイヴの夜のことかしら。 」
「 ・・・ ウン ・・・ 」
「 すぴかは サンタさんに会ったのね? 」
「 ・・・ あった、っていうか〜〜 みたの。 ドアのすきまから 」
「 ふうん ・・・ それはステキね。
お母さんねえ、 深夜のごミサから帰ってきて眠くて眠くて。 よく覚えていないの。 」
「 ・・・ 夢だったのかなア・・・ 」
「 お母さんにもわからないけど ・・・
ねえ すぴかさん。 お母さんと一緒におでかけ しない?
明日、お稽古の後に お買い物。 しましょ。 」
「 え! お稽古に一緒に行ってもいいの〜〜 」
「 ええ。 クラスの間、ちゃんと待っていられるでしょ? 」
「 うん! お稽古、見てもいい? 」
「 ええ どうぞ。 お母さん、叱られてるかもしれないな〜 」
「 お母さん 上手だもん。 わ〜〜い わ〜〜い うれしいナ〜〜 」
「 じゃ 明日、早起きよ。 いい? 」
「 うん! アタシ、 早起き、得意だも〜ん♪ お父さんやすばるとちがうも〜ん♪ 」
「 うふふふ ・・・ そうねえ。 明日はお父さん、遅出だから ・・・
男性軍にお留守番を頼みましょ。 ね すぴか。 」
「 うん♪ あ アタシ〜〜〜 遊んでくるね〜〜〜 」
すぴかは ぽ〜ん・・・とソファから飛び立った。
「 ちゃんとダウン、着てゆくのよ。 手袋も! どこに行くの? 」
「 公園。 ゆみちゃん達、いるかもしれないから。 」
「 気をつけて ・・・ あら もう行っちゃった・・・ 」
母の言葉なんか置いてきぼりにして すぴかはだだだだ・・・っとコドモ部屋に行き
だだだ・・・っと階段を駆け下り 玄関から駆け出していった。
「 ・・・ やれやれ・・・ まあ でもアレがウチの娘なのよね。 ふふふ・・・
さ〜てと! 頑張って掃除しちゃいましょ。
そうだわ、窓拭きは明日男性軍にお願いするわ〜〜 レディス・チームはお買い物♪ 」
フランソワーズは上機嫌で えいや!と袖を捲り上げると掃除機を指揮命令下に置いた。
カックン カックン ・・・ ス 〜〜〜 亜麻色のちっちゃな頭が ゆらゆらしている。
ソファに収まり本を抱えたまま ・・・ すぴかの身体は前後左右にゆれていた。
隣で編み物をしていたフランソワーズは 娘の肩をそっと叩いた。
「 ・・・ すぴかさん。 眠いのだったらちゃんとベッドに入りなさい。 」
「 ・・・! あ アタシ〜〜 眠くなんか ない ! 」
はっと身体を起こし、すぴかは本の陰に顔を隠した。
「 アタシ! 本 読んでるから! 」
「 そう?・・・ でも さっきからず〜〜っと同じページを眺めているようですけど? 」
「 〜〜〜 す すきなんだもん、このページの 絵! 」
「 絵? ・・・ それ JRの時刻表よ? それも すばるが遊ぶ古い本よ。 」
「 あ ・・・ そ そう? ふ〜〜ん じこくひょう って ・・・ 字 ばっか・・・! 」
「 そうね。 だから すぴかさん、もうオヤスミなさいな。 」
「 アタシ! まだ全然眠くないの。 お父さんにね オヤスミを言うの。 」
「 でも 今日は遅いかもよ? 」
「 へいき! 冬休みだから起きててもいいでしょう、お母さん。 」
「 起きていられるなら ね。 」
「 うん! ・・・ そうだ〜 すとれっち でもしよ〜〜っと。 」
すぴかは床に下りて 柔軟体操っぽい動きを始めた。
「 あらら・・・ 急にやらないのよ、筋を傷めるわ。 」
「 へ〜き へ〜き ♪ ・・・ ねえ おかあさん。 」
「 なあに。 」
「 ウン ・・・ お父さんってさあ〜 いっつもこんなに帰り、遅いの? 」
「 そうねえ ・・・ いつも、じゃないけど。 最近は忙しいからね。 」
「 ふうん ・・・ たいへんだね お仕事って ・・・ 」
「 そうね。 ― あ 帰ってきたわ。 」
ぱっと顔を輝かせ お母さんは立ち上がった。
「 え??? なんで〜〜〜?? アタシ、 なんにも聞こえないよ? 」
「 お母さんもよ。 けど そんな気がするの。 今 お父さんの車は門の前よ、多分。 」
「 え〜〜〜〜 アタシ、 みてくる! 」
ここで待っていなさい、と言う前に すぴかはリビングを飛び出していた。
― ガチャ。 玄関のドアを開けた。
「 ・・・うわ! つめた〜〜〜 」
がば・・・っとキンキンにつめたい空気がシャワーみたくすぴかに降りかかってきた。
「 さむ〜〜〜 ・・・ あ 門が開いた! わ〜〜〜 おと〜〜さ〜〜〜ん!! 」
すぴかは 門から入ってきた人影に確かめることもせずに飛びついた。
「 お父さん! おかえりなさ〜〜い! 」
「 !?!? うわ ・・??? す すぴか?? 」
「 ウン♪ お父さん〜〜 」
「 ああ びっくりした〜〜〜 ははは ただいま〜〜〜 すぴか。 ははは〜〜
出迎え ご苦労さん〜〜〜 」
ジョーは 仰天しつつもしっかり娘を受け止め、笑って抱き締めた。
「 なんだ〜〜 まだ起きてたのかい。 」
「 うん! お父さんを待ってたの。 」
「 へえ? あ ・・・ なにかおねだりかな? 」
「 え ちがうよ〜〜 あの さ ・・・ お父さんに聞きたいこと、あって ・・・」
「 聞きたいこと? ああ ともかく中に入ろう。 お前、風邪引いちゃうぞ。 」
「 へ〜〜き♪ お父さんにくっついてるから〜〜 」
「 だめだよ、もう真夜中に近いんだ。 ものすごく冷えてきている。 さあ 入ろう 」
「 えへへへ ・・・ おりるね。 」
「 いいさ、 このまま ・・・ 配達だ。 」
「 きゃい〜〜〜 アタシ、 パッケージだね。 島村さ〜〜ん宅配便で〜す♪ 」
「 ははは こんな宅配便なら大歓迎さ。 」
ジョーはすぴかをだっこしたまま 玄関に入った。
「 ただいま〜〜 ・・・ すぴかと一緒だよ〜〜 」
「 へへへ ・・・ あ ねえ お父さん。 聞いていい? 」
「 あ ? 」
玄関の上がり框にとん、と降ろしてもらうと すぴかはお父さんの耳元に こしょこしょ囁いた。
「 おう なんだ ・・・・ ? え? ・・・ 」
「 だから ・・・・ サンタさんとさあ ・・・ 」
「 サンタさん? あ〜〜 まあね〜 知らない仲でもないんだ。 」
「 ??? 」
「 ウン、彼も忙しいからねえ〜〜 あんまり大変は時には、 お父さんに <代打指名 >
がまわってきて さ。 」
「 だいだ?? ・・・ あ〜〜 野球の? 」
「 そうだよ。 実はね、今年も連絡があってさ。 も〜〜大変だった。 」
「 ! そっか〜〜〜〜 」
「 そうなんだ。 だから ね。 サンタさんは本当に 」
ジョーが言い終わらないうちに すぴかがまたまた飛びついてきた。
「 わお??? 」
「 お父さ〜〜〜ん♪ アタシ。 お父さんのこと、 だ〜〜〜いすき だからね♪ 」
「 あ? あはははは ・・・ うわ〜〜お シアワセ♪♪ 」
「 お帰りなさい。 あら〜〜〜あ 今晩は娘に先を越されてしまったようね。 」
気がつけば 彼の愛妻がにこにこ ・・・ 二人を眺めている。
「 ああ。 まあ 若年者に譲ってやりたまえ。 」
ばちん♪ ジョーは娘の頭越しに細君にウィンクした。
その夜 すぴかはいつもと同じに、ベッドに入ると2秒で夢の国行き〜 となった。
ザワザワザワ ・・・ カツカツ ・・・ うふふ ・・・
いろんな音に混じってピアノの音が流れてきた。
「 あ ・・・! プリエ の音だよね〜〜 どこだろ? 」
廊下の隅っこで待っていたすぴかは きょろきょろ・・・辺りを見回した。
「 でね〜〜 あら すぴかちゃん♪ ママを待っているの? 」
「 ず〜っと待っててえらいね〜〜 」
大きなバッグを抱えて更衣室からでてきたお姉さん達が すぴかに声をかけてくれた。
「 ・・・ ハイ。 」
「 ママ、もうすぐくるわよ〜〜 可愛いなあ〜〜♪ 」
「 ホント♪ いきなりこのくらいになるのなら コドモ、欲しい〜〜 」
バイバイ〜〜とお姉さんたちは手を振って 出ていった。
「 あ さようなら。 」
すぴかも きちんと手をふった。
翌日 ― すぴかはお母さんと一緒にお母さんのお稽古場にくっついて行った。
バスに乗って電車にのって。 それから地下鉄にのって。
今までも何回か来たことがあるけど、 やっぱり遠い。
ふう ・・・ お母さん、 すごいなあ〜〜
朝御飯つくって 皆を起こして・・・ 走って・・・
毎朝だもん、すごいや
お稽古場に着いてからはちゃんと先生やら事務のお姉さんにご挨拶をして ・・・
( お母さんのお友達で すぴかも知っている人もいた♪ ) クラスを見学した。
窓の外からだけど、し〜〜っかり張り付い一生懸命 見た。
うわ ・・・ すぴかの知らないステップだあ〜
うわ ・・・ 皆 ピルエット、とりぷる だあ〜〜
うわ ・・・ お兄さんたち、 すごくとぶ〜〜〜
あっと言う間にお稽古は終った ( ように感じた )
「 ・・・ すぴか〜〜〜 お待たせ! 」
大きなバッグを担いでお母さんが走ってきた。 すぴかと同じ色の髪があっちむき こっち向きしている。
「 お母さん〜〜 」
「 ごめんね〜〜 退屈したでしょう? 大人しく待っててえらいなあ〜 」
お母さんは ほっぺがぱあ〜っとピンク色で 襟元からボディ・シャンプーの香りがして・・・
わあ ・・・ お母さん キレイ だなあ
すぴかはじ〜〜〜っとお母さんを見てしまった。
「 なあに? 」
「 ・・・ ! あ アタシね ぜ〜〜んぜんたいくつなんかしなかったよ!
お母さんたち、 スゴイな〜〜〜 ってお稽古、みてたもん。 」
「 あらあ〜 さすがにお姉さんねえ すごいわ、すぴかさん。 じゃ行きましょ。
ねえ お腹、すいたでしょう? お昼にしましょ。 可愛いカフェがあるの、こっちよ〜 」
「 わあ〜〜い♪ 」
お母さんの後を すぴかは すきっぷ すきっぷ〜 で着いていった。
そこは 家族でよく行くはんば〜が〜屋さんやら ふぁみれす とはちょっと違っていた。
ちり〜ん ・・・ お母さんがドアを押すときれいな音がした。
すぴかはお母さんの背中にくっついてそのお店に入った。
入り口の側にケースがあっていろいろなケーキが並んでいる。
「 ・・・ ケーキ屋さん? 」
「 ちがうのよ、ケーキも食べられるけどね。 さあ ランチにしましょう。 」
「 うわ うわ〜〜〜 」
「 あ 二人なんですけど 」
お母さんはウェイターさんに言って 窓の側の席に案内してもらった。
「 れすとらん? 一回、いったよね〜〜 おじいちゃまも。 」
「 そうね。 ここはね ランチとかケーキとか食べるようなお店なのよ。
すぴかはなにがいい? なにが食べたい? 」
「 うわ うわ〜〜〜 」
― 結局二人は ランチ・セット にした。
「 ここのランチは美味しいわよ。 すぴかも気に入ると思うわ。 」
「 そっかな〜〜 ・・・ こ〜いうトコ はじめて〜〜 」
すぴかはきょろきょろ店内を見回している。
「 また来ましょうね。 大人しくしていられる年齢 ( とし ) になったし。 」
「 あったりまえ! アタシ、 もうすぐ3年生だも〜ん。 」
「 そうねえ ・・・ ね すぴかさん。 お母さんのお話、聞いてくれる? 」
「 え?? お母さんの?? うん いいよ。 」
「 ありがとう。 これはねえ・・・ お母さんのヒミツなんだけど・・・ 」
「 ヒミツ? 」
「 そうよ。 あのねえ ・・・ 」
「 ・・・・ 」
すぴかはものすご〜〜〜く真剣な顔で お母さんを見詰めた。
あのね・・・と お母さんはちょっと笑っているみたいな眼つきでとお〜くを見ながら
話し始めた。
「 昔 お父さんと会うず〜〜〜っと前。 お母さんがすぴかより小さい頃ね・・・
お母さんはねえ お母さんのパパが大好きで 結婚する って宣言してたの。
でもね、 パパにはママンがいるでしょ。 だから お兄さんにする!って言ったわ。
本気でお兄さんのお嫁さんになる!って決めていたの。 」
「 え〜〜 お兄さんの? 」
「 そうなの。 でもね それも出来ないって知ったときにはすご〜くショックだったの。 」
「 ふ〜〜ん 」
「 ず〜っとショックだったわ。 お兄さんより好きなヒトなんていないって思ってた。 」
「 ふ〜〜ん 」
「 でも ね。 すぴかとすばるのお父さんと初めて出会ったときに ね 」
「 うん? 」
「 お母さんは この人と会うために生まれてきたんだって。 はっきりわかったわ。 」
「 ・・・ え〜〜〜 すご〜〜〜 」
「 お父さんもね 同じ想いだって知って本当に本当に嬉しかったわ。 」
「 ・・・そうなんだ〜〜 」
「 ね ・・・ ほら これ。 」
「 ? 」
お母さんは襟元から金色の鎖を引っ張り出した。 その先にはちっちゃな赤い石が下がっている。
「 これ お母さんのタカラモノなの。 」
「 キレイだね〜 でもさ〜 お母さん もっとキレイなの、もってるよね? 」
「 うふふ これねえ・・・ お父さんに初めてもらったクリスマス・プレゼント なの。 」
「 そうなんだ〜〜〜 」
「 コレ・・・ 世界中の宝ものよりもお母さんには大事なの。
それで ね ・・・ お母さんがね この世の中でいっちば〜ん好きなヒトは お父さんなの。 」
お母さんは にこ〜〜〜・・・・っと笑った。
あ ・・・ お母さんって こ〜〜んなにカワイイ??
わ〜〜〜ん カワイイなあ〜〜〜 お母さん〜〜
なんだか目がじわ〜〜〜っと熱くなってきたので すぴかは に♪ っと笑い返した。
「 ふふふ ・・・ 知ってるも〜〜ん ♪ ひとめぼれ の べたぼれ なんだもんね。 」
「 ま♪ このコはア〜〜 」
「 えへへへ 〜〜 」
「 うふふふ ・・・ 」
「 お母さん 」
「 なあに。 」
「 ウン ・・・ あのさ〜〜 サンタさんのことはァ ・・・ いいや。 」
「 ??? いいや って? 」
「 ウン。 わかったから。 アタシ、さあ お母さんがすきなお父さんも お父さんがすきな
お母さんも だ〜〜いすき♪ ってこと♪ 」
「 ??? な なになに?? すぴか〜〜 もう一回言ってよ? 」
「 いっぺんきゃい〜わない♪ さ お母さん〜〜 走って帰ろう! 」
「 ― え。 」
「 だ〜から 帰り道。 ウチの前の坂〜〜 きょうそうだよ! 」
「 あらあ〜〜 負けないわよ〜〜 」
「 ふっふっふ〜〜 アタシ、 はやいよ? お父さんのコだもん。 」
「 ・・・ お母さんだって負けません。 お父さんのお嫁さんだもん。 」
「「 あははは うふふふ 」」
二人はにこにこ笑って。 美味しいランチを食べて。 ケーキをお土産にしてお家に帰った。
― その夜 ・・・
「 ねえ ねえ すばる〜〜 」
「 う〜〜 なに〜〜 」
隣のベッドからの < 呼びかけ > に すばるはJRの時刻表から振り向いた。
「 あのさあ ・・・ お父さんってばさ サンタさんもやるって知ってた? 」
「 あ〜 ? 」
「 アタシさあ くりすます・いぶ の夜にさ 見ちゃったんだけど〜 お母さんが 〜 」
「 知ってるってば。 」
珍しくすばるが すぴかの発言を遮った。
「 お母さんがサンタさんに ちう してたんだろ? なら サンタさんはおとうさん さ。
だって お母さんが ちう するのは〜〜 お父さんだけだも〜ん♪ 」
「 ・・・ え ・・・ そりゃ そうだけど ・・・ 」
「 僕、 ず〜〜〜〜っと前から知ってたも〜〜ん
だから さ。 サンタさんは ちゃ〜〜んといる んだよ。 ね!? 」
すばるは得意の笑顔で 宣言したのだった。
そう ・・・ クリスマス ・ イヴには サンタがどのお家にもやってくる のだ♪
***************************** Fin. ********************************
Last
updated : 14,01,2014.
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********** ひと言 *********
まったく 遅れネタ で申し訳なく〜〜 <(_ _)>
こんな具合に 島村さんち では
のんびり・ほのぼの、 にぎやかな日々が
流れているのであります♪
すばるクンは大物の片鱗を見せていますにゃ♪