『 ウチにサンタがやってきた ― (1) ― 』
******** はじめに *******
お馴染み 【 島村さんち 】 シリーズです♪
シュ パサ パサ ・・・ バサ・・・ ぷち ぷち ・・・ ぷち ・・・
洗いたてのパジャマに 小さな手足が通されてゆく。
きゃは〜〜 コソコソするぅ〜〜 きゃはははは ・・・・
・・・ ぷっちん ぷっちん ぷっちん 〜〜 きゃい〜♪
温かいリビングの中で子供たちは くすくす けたけた・・・ フザケちらしつつ着替えていた。
「 ・・・ はい すぴかさん、ソックスはいて。 」
「 え〜〜 アタシ、いらない 〜〜 」
「 ベッドに入る時に脱いでもいいから。 それまでははいてゆきなさい。 」
「 ・・・ う〜〜ん アタシ、 寒くないけどぉ 〜 」
「 寒くなくても すぴかさんのあんよは冷たいわよ? だから ソックス、はいて。 」
「 すりっぱ はいてくから〜〜 」
「 ソックス を はきなさい。 」
「 ・・・ ふぇ〜〜い ・・・ 」
「 僕! 一番さきにはいたよ〜〜 ほら! 」
側でセピアの髪の弟が とんとん足踏みをしている。
「 はいはい ・・・ すばるクンはソックスよりも先にズボンをはきましょう〜〜 ほらあ〜 」
「 あは〜〜 そっくす とんとん♪ そっくす とんとん♪ 〜〜 」
弟はパジャマの上着だけで 跳ね回りはじめた。
珍妙な節回しの < 歌 > は 彼が超〜〜ご機嫌ちゃんの証拠だ。
「 すばる君。 やめなさい。 はやく ずぼん はくの〜〜 風邪 引きますよ 」
「 へ〜きだも〜ん そっくす とんとん♪ そっくす とんとん〜〜〜♪ 」
「 ・・・ すばる君。 やめなさい。 」
「 暖かいも〜〜ん♪ そっくす〜〜 とんとんとん〜〜〜♪ 」
「 す ば る。 やめなさい。 やめないと〜〜 サンタさんが 」
「 ば・・・っか〜〜! ほらァ〜〜 すばる ずぼん! 」
同じ日に生まれた姉 が 弟を捕まえて強引にパジャマのズボンに足を突っ込んだ。
「 うわ??? いって〜〜〜〜〜 あ〜〜〜〜ん すぴかが〜 〜〜 」
「 うるさいっ! すばるがズボン、はかないからだよ〜〜〜 」
「 あ〜〜ん あ〜〜ん いたいぃ〜〜〜〜 」
「 いたくない!! ほら 〜〜 ァ いくよ〜 」
現在 弟よりも5センチ背が高い姉は 弟のパジャマを引っつかむとずりずりと引っ張っていった。
「 いてっ! うわ〜〜ん すぴかがらんぼうする〜〜〜 」
「 らんぼうなんかしてないも〜ん おやすみなさい、するんだも〜ん 」
「 あ〜〜ん あ〜〜〜ん おか〜さ〜〜ん ・・・ 」
「 すぐ泣くんだから〜〜 ほっんとすばるってば あかちゃん〜〜 」
「 あ あかちゃんじゃないやい! うわ〜〜ん・・・ 」
「 や〜〜い 泣き虫〜〜 なきむし ・ すばる〜〜〜 」
「 ち ちがわいっ な なきむしじゃないもん〜〜 うっく ・・・ 」
「 だって泣いてるじゃ〜ん なきむし〜〜 なきむし〜〜 」
「 ち ちが〜 うっく うっく ・・・ 」
「 ああ ああ もうお願いだから二人とも〜〜 静かにしてちょうだい。
そんなに騒いだら眠れないでしょう? お口、 閉じて! お部屋の電気、消しますよ? 」
「「 は〜〜〜い 」」
・・・ という騒ぎが毎晩リビングで繰り返されているのだが。
その夜は ちょっとばかりいつもと違っていた。
「 おか〜さ〜ん オヤスミなさい〜〜 」
「 ・・・すみなさい〜〜 」
すぴかとすばるは きちんとパジャマを上下ともに着て。 すぴかはソックスをちゃんと履いているし、
二人ともセーターを上からきちんと羽織っている。
「 あらあ〜〜 どうしたの、二人とも。 今日はずいぶんいい子なのねえ 」
お母さんは キッチンからエプロンで手をぬぐいつつ慌てて出てきた。
「 いつもならまだリビングで騒いでいるでしょう? 」
「 ふうん? そうなんだ〜〜 二人とも毎晩そんなこと しているのかい。 」
お父さんもお母さんの後から出てきて 子供達をにこにこ顔で眺めている。
いっつも帰りが遅いお父さんなのだけれど、今日は早く帰ってきてくれて 皆で晩御飯を一緒に食べた。
「 ・・・ だって今日はァ くりすます ・ いぶ でしょう? 」
「 いぶ でしょ〜 」
「 そうよ。 さっき皆で美味しい〜〜〜 チキンやらサラダやら・・・ ケーキも食べたでしょ? 」
「「 うん ♪ 」」
「 ホント 美味しかったよなあ〜〜 ウチのお母さんの御飯は最高だよね。 」
「「 ウン ♪ 」」
お父さんもにこにこ ・・・ すぴかもにこにこすばるもにこにこ。
だって今晩の チキンの腿焼き と じゃがいもサラダ と タマネギと人参とコーンのスープと
ぷち・とまととキュウリとサーモンのマリネ と そして♪ なぜかイチゴがいっぱい乗っかっている
甘酸っぱいクリスマス ・ ケーキ は 最高に最高に最高〜〜〜に美味しかった。
家族皆が 美味しいね〜 美味しいな〜 さいこ〜 ・・・って言って大にこにこで食べた。
ケーキは甘いモノあんまり好きじゃない・すぴか用に土台はバターの味が効いたタルトで
その上に甘酸っぱいイチゴくり〜むとイチゴがたっくさん乗っていた。
それで。 「 今日は くりすます ・ いぶ なんだもん 」 なのである。
「 そうよ、二人ともよ〜く知ってるわよね。 」
「 ウン。 だからさ〜〜〜 つまり〜〜〜 今晩 〜〜 」
「 こんばん〜〜〜 」
「 ? ああ そうよね。 今晩はね お父さんとお母さんは 深夜のごミサに行くけど。
二人はしっかりおじいちゃまと お留守番 できるね? 」
「「 できる ♪ 」」
姉と弟は 張り切ってお返事をする。
「 あ〜 それでいい子で お休みなさい、 の準備をしたわけなのね。
なんていい子達なんでしょう〜〜♪ 」
ちゅ ちゅ〜〜 お母さんは屈みこんで二人にキスをいっぱいくれた。
「 えへへへ ・・・・ 」
「 てへ〜〜〜♪ 」
「 う〜ん 偉いぞ、さすがに小学生になると聞き分けがいいね。 もう来年は三年生だもんなあ。
新しい一年生や二年生の お兄さん ・ お姉さん になるんだね。 」
「 ・・・ ま〜 そうなんだけど 」
「 けど。 」
「 じゃあ ね さあ おじいちゃまとお父さんに お休みなさい、 しましょ? 」
「 え あ う うん ・・・ 」
「 うん ・・・ 」
たった今までのはきはきしたお返事とは急に変わって二人はもじもじ・・・
突っつきあいっこ して くねくねスリッパを捩っている。
「 ??? ね? なにか ・・・ あるの? 」
う〜〜〜 すぴかとすばるはまだしばらくもじもじしてたけど ・・・ ついに。
あのねっ サンタさん がくる でしょう???
「 はい? 」
「 ・・・ え ? 」
お父さんとお母さんは 笑顔のまま、かちん、と固まっている。
「 さんたさん! だ〜から イイコにしてるの。 」
「 いい子にしてないと サンタさん、こないってお母さん いつも言うよ〜 」
「 だからね だからね アタシ そっくす、はいたんだ〜 」
「 僕、 ぱじゃまきたよ〜 ほら ずぼんも〜 」
子供たちはてんでに足を上げたりスボンを引っ張り上げたりしてみせた。
「 ・・・ あ ああ そうなの? サンタさんのために ・・・ いい子なの? 」
「「 うん!!! 」」
「 ・・・ まあ そう ・・・ ふう ・・・ 」
お母さんはちょっとがっかりしたみたいな顔をしている。
「 うん いいじゃないか。 理由はともあれ、きちんとパジャマに着替えて
寝る時間の前に < オヤスミナサイ > をいえるってすごいぞ〜〜 二人とも 」
「「 え えへへへへ 〜〜〜 ♪ 」」
お父さんに褒めてもらえて すぴかもすばるも大得意だ。
「 じゃ サンタさんにもっと感心してもらえるように〜〜 ベッドまで出発〜〜 」
「 は〜〜い 前方よ〜し。 しゅっぱつ しんこ〜〜〜 ! 」
珍しくすばるが先に答え ぷしゅ〜〜 がった〜〜ん ・・・ と 子供部屋に向かって
< 発車 > した。
「 がたん がた〜〜ん がたん ごと〜〜ん ・・・ ? 二号車〜〜 続いてください? 」
「 ・・・ わかったよ 」
すぴかが渋々 ・・・ 弟の後を追いかけてゆく。
「 よ〜し。 それじゃ お父さんが車掌さんだ。 出発しました〜〜
( おい ベッドに < 到着 > させてくるから ・・・ ) 」
「 確認しました〜 < すばる号 > 発車。 オヤスミナサイ〜〜〜
( お願いね。 < 車庫入れ > も確認してね ) 」
「 了解〜〜 ぴぽ〜〜 」
父子電車は リビングを発車、 階段を登り 子供部屋駅の ベッド車庫 へ無事到着した。
もぞもぞもぞ。 ごそごそ〜〜〜 ごとん。がたん。 ぼとん。
並んだ二つのベッドから 賑やかな音が聞こえている。
ベッドの間にはお父さんが < 現場監督 > して立っていた。
「 すぴか ・・・ ほら、足がでてるよ ・・・ ソックスは? 脱いだ?
かたっぽしかないよ? 」
これ! と ベッドの中から可愛いあんよがジョーに向かって突き出された。
親指と人差し指 ( 足の! ) でしっかりソックスを摘まんでいる。
「 ・・・ はいはい。 お母さんの前でやるんじゃないよ? 」
「 へへへ りょうか〜い♪ 」
すぴかはばちん! とお父さんにウィンクした。
「 おい すばる? 潜っちゃってるぞ? ・・・ え いつもそうやって寝るのかい。 」
うん〜〜 毛布の中から息子の声がする。
「 いいけど ・・・ 暑くないのか、お前? え? そうなんだ? ・・・ ならいいけど。
今晩だけだぞ? いいな、お父さんとの約束だぞ。 」
約束する〜〜・・・! と 毛布の中からもごもご・・・返事が聞こえた。
どうやら やっと二人とも < 就寝 > 準備完了 ・・・ らしい。
「 じゃ ・・・電気、消すからね。 オヤスミ〜〜 すぴか すばる 」
お父さんは 子供部屋のドアの所に立っている。
「「 オヤスミナサイ〜〜〜 」」
ひらひら手を振りジョーは部屋を出ようとしたが ふと立ち止まった。
「 あの ・・・ ね、 すぴか すばる? 」
「「 なに?? 」」
薄暗がりの中で ぴょこん! と小さな頭が二つ、持ち上がる。
「 あ ・・・ 寝てていいんだ、 ちゃんと寝なさい・・・そう そう ・・・
あのね それで そのう ― 二人に聞くけど。 サンタさんのことだけど。 そのぅ〜 ? 」
「 なに? 」
「 な〜に〜〜 」
「 うん ・・・ あの さ。 サンタさん ・・・ いる ・・・ よな? 」
「 サンタさん? いるよ〜〜 決まってるジャン。 だから毎年プレゼントがくるもん。 」
珍しくすばるが先に答えた。
「 そ そうだよねえ・・・ すぴか は? 」
「 う〜〜〜ん ・・・ びみょう〜〜 でもね ぜひ一回 会いたい 〜〜 」
「 あ 会いたい? 」
「 うん! だからね〜〜 あのね、お父さん、コレってナイショなんだけど〜〜 」
「 うん? 教えてくれるかな。 」
「 誰にも言わないでよ? ナイショだよ? 」
「 うんうん だから教えてほしいな〜 すぴか〜 」
「 あ の ね♪ 今晩ね〜〜
アタシ サンタさんが来るのを 待ってる! しっかり起きてまってる。 」
「 僕も〜〜 ! 僕もまってる〜〜 」
「 ね〜〜〜 すばる? 」
「 ね〜〜〜 すぴか。 」
「 あ ・・・ そ そうなんだ? ・・・ そしたら サンタさんに お父さんからもヨロシクって
伝えておいてくれ。 おしごと、たいへんですね〜ってね。
あ 起こしてごめんな 今度こそ ・・・ オヤスミナサイ 」
「「 うん! オヤスミナサイ〜〜 お父さん♪ 」」
二つの頭は満足したのか ぽすん ・・・と枕の上に消えた。
おやすみ ・・・ もう一回呟くと、ジョーは子供部屋を後にした。
「 起きてまってる? すぴかが? そう言ったの? 」
熱いお茶を淹れつつ フランソワーズはくすくす笑い声をたてた。
「 うん。 大真面目なんだ。 ああ すばるもさ ・・・ どうする? 」
「 どうする・・・って ・・・ はい お茶どうぞ。 」
「 ありがとう。 ・・・ ん〜〜〜 うま〜〜 だからさ、 今晩の < デリバリー > 」
「 < デリバリー > ねえ・・・ 」
「 だってそうだろ? 宅配 じゃなくて 枕元配 だけど。 ― プレゼントは? 」
「 もうちゃんとラッピング済。 すばる は プラレール・アドヴァンス と 泡だて器。
すぴか は 〇イキのスニーカー と ポシェット よ。 」
「 ご注文の品、なんだろう? なんだっけ ほら ・・・ 」
「 サンタさんへの手紙 よ。 二人ともこしょこしょ書いてね、枕元に置いてあったの。 」
「 ふ〜〜ん ・・・ スニーカーに泡だて器ねえ。 え あわだてき?? すばるが?? 」
「 ええ・・・ そうよ、あの子の希望なの。 ほら ・・・ 生クリームとかシャカシャカやるヤツ。」
「 へえ〜〜〜 妙なモノがいいんだねえ、アイツ・・・ 」
「 本当はね マイ ・ 包丁 って < サンタさんへの手紙 > に書いてたんだけど・・・
ちょっとまだ早いかなあ〜 と思って ・・・第二希望を採用しました。 」
「 ふうん ・・・ それにすぴかは可愛いドレス とか バッグ じゃないのか ・・・ 」
「 ええ。 もっと速く走りたいのですって。 ・・・さすが ジョーの娘よねえ 」
「 え ・・・ まあ なあ ・・・ ピンクのれおたーど とか言ってるのかと思ってた・・・ 」
「 わたしもよ ・・・ フリルとライト・ストーン付き、かなって期待してたんだけど 」
「 ま 本人のご希望に沿うことにしようよ。 で さ。 問題は ― 」
「 サンタさんに会いたい ・・・ でしょ。 」
「 そ。 起きて待ってる ・・・ だそうだよ。 」
「 すぴかが? すばるもそういったの? 」
「 ふたりとも しっかり待ってる! そうだよ。 すぴかなんか顔中目にしてたもんな〜 」
「 ぷ・・・ すぴからしいわねえ。 でも大丈夫よ。
あのコ、 ベッドに入って3分以上起きていられたこと、ないんですもの。 」
「 ・・・ きみ そっくり。 ぼくはおいてきぼり ・・・ 」
「 え? なあに。 」
「 いえいえ・・・ でも すばるは? あいつ、わりかしベッドでごそごそ・・ってタイプだろ。 」
「 そうねえ。 わたしとしては考えられないのよね〜 ベッドに入ってからも
ず〜っと起きてる なんて。 ねえ? 」
「 あ〜 ・・・ まあ ヒトそれぞれなんじゃないかなあ〜 」
「 え そう?? 」
「 って 聞くけど? 」
「 ふ〜〜ん ・・・ 」
ジョー自身 結構 < ベッドでごそごそ > タイプなのだ。
で あるからして。 甘ァ〜い夜を期待していたのに、こてん、と眠ってしまった細君に
<おいてきぼり > を喰うこともしばしば・・・なのである。
「 ともかく〜 すばる、起きてるかもしれないよ。 」
「 そう ・・・ねえ・・・ あ でもね、 すばるって寝つきは悪いけど 一回眠ってしまえば
揺さぶっても大声で呼んでも なかなか起きないから ( 誰かさんそっくり! ) 」
「 あ そ そうか? それじゃ ・・・ 眠ってるのを確認できれば 」
「 そ。 サンタさんのミッションは 楽勝〜〜ってことよ。 」
「 だ ね。 ミサから帰ってきてから プレゼント、持ってゆけばいいよね。 」
「 そうね。 帰ってきたら あつ〜いカフェ・オ・レ でも飲みましょう♪ 」
「 お いいねえ〜 なにが ・・・ ツマミ、あるかなあ〜 」
「 ふふふ〜〜〜 こんなこともあろうかと〜 大人用のサバランを買ってあるのよ。 」
「 うわぉ〜〜 アレってさあ 博士も好きだよね〜 」
「 そうなの そうなの〜〜 だから 深夜のお茶会は大人だけで♪ 」
「 うん うん ・・・ チビ達は夢の国だもんな。 」
「 うふふ・・・ じゃ サンタ ・ ミッション 、お願いします。 」
「 了解〜〜。 ミサは何時ころにでかけるかい。 」
「 え〜とね ・・・ バスは・・・もうないから車? 」
「 だめだよ、あの教会は駐車場 ないもの。 」
「 じゃ 歩いてゆきましょ。 腹ごなし、よ。 」
「 だ ね。 」
ジョーは教会育ち、 フランソワーズはもともとカトリック信者 なので 島村一家は
クリスマス ・ イヴに御ミサに与るのはもうずっと習慣となっている。
「 来年は 子供たちも連れてゆける ・・・ かな? 」
「 う〜〜ん ・・・ どうかしら。 行けてもぐうぐう眠っちゃうかも ね。 」
「 あはは ・・・ そうだねえ、 結局二人であいつらをオンブして帰るだけ かも〜 」
「 そうねえ ・・・ あ かなり冷え込みそうだらかしっかり着てゆきましょう。
ジョー、ダウン・コート 出しておくわ。 」
「 うん たのむ。 この辺りは温暖だけど冬の深夜はやっぱり冷えるよ 」
「 あの教会は 床暖房で気持ちいいわね。 」
「 そうなんだよね、ぼくさときどきミサの最中に靴を脱いでるんだ。 あったかいよ〜〜 」
「 え・・・ やだわ〜 ちょっと〜 居眠りなんかしないでよね 」
「 え あ う うん ・・・ 」
「 ( 怪しいわね? ) じゃ わたし、キッチンを片付けてしまうわ。 戸締り確認と
サンタ ミッションの準備をお願いします。 」
「 了解。 え〜と ・・・ 11時すぎには出掛けよう。 」
「 はい わかりました。 」
夫婦はそれぞれの仕事を片付け始めた。
ふふふ ・・・ サプライズで これ ・・・ プレゼントするのさ。
いい真珠のネックレスがあったんだ。 絶対似会うさ〜〜
ふんふんふ〜〜ん♪ ネクタイ・ピン と カフス・ボタン なんだけど。
ジョーの大事にしてるネクタイにぴったりのを見つけたのよね〜
お互いナイショにしているプレゼントに に〜〜んまりしつつ ・・・ 家庭の雑用をこなしていた。
さて。 その夜 ・・・・
ベツレヘムの郊外で聖なる御子が誕生してから2000年とちょっと過ぎた夜なのだが。
― カタン ・・・ キュ ・・・!
小さな音がして ・・・ 髪の毛が引っ張られた。
「 ・・・! いて! ・・・? なにぃ〜〜 いたぁいなあ〜 ・・・ あ! 」
むにゃむにゃ言ってたすぴかは はっとして目を覚ました。
「 サンタさん ・・・ きた ! 」
常夜灯のぼんやりした光の中で すぴかはそうっと髪の毛に結んでいたヒモを取った。
ドアの取っ手からヒモをず〜〜〜っとず〜〜っとのばして自分のベッドまで持ってきて・・・
髪に結んだ。 こうしておけば 誰かがドアを開ければ ツン! と髪が引っ張られる。
「 ・・・ やっぱほんと〜〜に サンタさん はいるんだ! ホントだったんだ! 」
どきどきどき。 心臓が口からとびだしそう〜〜 なのですぴかはきゅっとお口を結んだ。
カタン。 子供部屋のドアがゆ〜っくり開いた。
コトン。 トン トン ・・・ 誰かがそ〜っと入ってきた。
ガサ ガサガサ 紙がこすれる音がする。
きゅう〜〜〜っと目をつぶり 毛布の下でかちん! と身体を固くした。
「 ( ・・・ お おきてるって わかっちゃ ダメなんだよね!
アタシはねてます〜〜〜 く〜〜く〜〜く〜〜〜 ) 」
コトン。 トン トン ・・・ 誰か は 双子のベッドに近づいてきた。
フウ〜 ふふふ こっそり溜息と小さな笑い声が聞こえた。
トン トン カタン。 誰かはそ〜っと 出ていった。
ドアは閉って子供部屋は もとのぼんやりした常夜灯が照らしている。
「 ! ・・・ サンタさんだっ 」
ば!っとすぴかは毛布を跳ね除けると ベッドから飛び降りた。
「 すばるっ!! サンタさんだよ 」
「 ・・・・ すぴ 〜〜〜〜 ・・・・ 」
でっきるだけちっさい声で呼んだけど 隣のベッドから返事はなかった。
替わりに 気持ち良さそう〜〜な寝息が聞こえるだけだ。
「 すばる〜〜〜〜 」
ゆさゆさゆさ・・・ セピアの髪がくちゃくちゃになるほど、揺さぶったけど、すばるは起きない。
「 ! もう〜〜〜 ・・・ いいもん、 アタシ、 ひとりでみる! 」
すぴかはドアに駆け寄り そ〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ・・・・ っと。 ほんの少しだけ あけた。
・・・ カ ・・・ タ ン ・・・
やっぱり暗いろうかに 縁に白いもわもわのついた赤い服の背中が見えた。
「 う わ〜〜〜 ! サンタさん・・・ ! 」
すぴかはドアの隙間に顔を押し付けて じ〜〜〜っと見ている ― と ・・・
「 ? あれ ・・・・ おかあさん ・・・? 」
階段の方から ぱたぱたぱた ・・・ 軽い足音が聞こえて お母さんがやってきて サンタさんと向き合って ・・・
そして 二人は。
「 !?!?!? おかあさん サンタに ちう してる ・・・!! 」
見まちがいかもしれない。 すぴかはぎゅ〜〜〜っとドアの隙間にお顔を押し付けた。
それでもって じ〜〜っと < ふたり > を見た。
子供部屋の前の廊下で、 ぼんやりした夜用の電気が照らす中で 二人の人間が ぴったんこ!
してるのだ。 そんな様子はいつもよ〜〜く見てるから 別に驚いたりはしない。
すぴかの お父さんとお母さん は 朝から晩まで何かある度に ちゅ をしているから。
でも。 今は ― 見慣れた光景 とはちょっとばかり違う。
片方はすぴかと同じ色の髪と同じ色の目 ( ここからは見えないけど ) でなぜか
オーヴァを着て手袋をしたままの お母さん。
そしてこっちに背中を向けているのは ・・・ 赤い上着に赤いズボン。 頭には白いもわもわの
ヘリがついた赤い帽子 で。 もこっと太って白いおひげもじゃ〜〜な サンタさん。
何回見ても 瞬きしないでず〜っと見ても それは確かだ。
で もって二人は ちう〜〜〜 ってアツアツなのだ。
「 ・・・ ウソ ・・・ だってお母さんが ちゅ〜〜 ってするのは お父さん だけだもん!
でも でも ・・・ ちう してる ・・・ おかあさん ちう してるよ〜〜 」
すばる! 彼女は たたた・・・っと隣のベッドに駆け寄った。
「 ねえねえ すばる〜〜〜 ねえったら〜〜〜 」
ゆさゆさゆさ ・・・・ 同い年の弟を思いっ切り揺すった。
「 ・・・ん ・・・? むにゃあ〜〜〜 」
「 おきてよ〜〜 ねえ ねえ〜〜 いっしょにサンタさんをまつって約束だよ〜〜 」
「 う〜〜ん ・・・ 明日にする〜〜 」
「 ちょっと!! お き てってば! 」
がくがくがく! すぴかはすばるの肩を掴むと力いっぱい押したり引いたりした。
「 ・・・ むにゃあ? ・・・ じしん ? あれ〜〜 すぴかァ? 」
セピア色の頭が や〜〜〜っとゆっくり起き上がった。
「 え〜〜 もう あさァ??? 」
「 ちょっと!! おきてってば!! あのね あのね〜〜 たいへん だよっ 」
「 な〜に がァ ・・・ ふぁ〜〜〜 」
「 ふぁ〜 じゃなくて! あのねっ お母さんがね ちう〜〜〜 してるっ ! 」
「 ?? それがァ? 」
「 だから その! ・・・ アタシたちのお母さんがねっ ちう してるよっ 」
「 いっつもやってるじゃ〜ん ・・・ ふぁ〜〜 ねむ〜〜〜 ・・・・
あ 〜 僕 サンタさんみはり、 やっぱ や〜〜めた だから。 すぴか〜〜〜
たのむね ・・・・ 」
「 すばるっ だからね それでね あのね ! お母さんがね ! 」
「 へいへい ちう〜〜〜 してたんだろ。 お父さんと ・・・ いっつもじゃん〜〜
わかってるからあ ・・・ オヤスミ 〜〜〜 」
「 あ すばる〜〜〜 すばるってばあ〜〜 ・・・・ もう !! 」
すばるは こてん、と枕に頭を落とすと く〜く〜寝てしまった。
「 おきろ〜〜〜〜 ・・・・ って おきないよね〜〜 」
すばるを起こすのは大事業なのだ。 すぴかは幼稚園に上がる前から 一人でぱっと
起きるのだが ・・・ 弟は毎朝 お母さんの苦労の種になっている。
「 ほっんとうに すばるはジョーの子供だわ ・・・ 」
時々 お母さんはワケのわからないことを言うよなあ〜 とすぴかは思っている。
ヘンなの。 すばるとアタシは おとうさんとおかあさんのこどもじゃん。
― ともかく すばるはとっくに夢の国、相談相手にはならない。
どうしよう ・・・ アタシ しっかりみちゃった ・・・
すぴかはことん、と床に座り込んでしまった。
目の前には プレゼントっぽい箱が置いてあるのだが、全然目に入っていない。
「 ハックシュ ・・・! う〜〜〜 さむ〜〜〜 おふとん、入ろ ・・・ 」
ごそごそとベッドに戻って羽根布団にもぐりこんだ。
いつもなら そのまま す〜〜〜・・・っと眠ってしまうのだけど。 けど。
おかあさん ちう してた。 サンタさんと ちう してた。
さっきの光景がすぴかの頭の中でぐるぐる ぐるぐる 〜〜〜 終わりのないフィルムみたく
繰り返しくりかえし・・・を続けている。
「 ・・・ おへやって こんなにくらかったっけ? はどどけいのおとってこんなに大きいのかな 」
すぴかはお蒲団のなかで おおきな目をもっとおっきく開いている。
「 すばる 〜〜 ねえ すばるってばあ〜 」
となりのベッドによびかけてみたけど、 お返事なんて返ってこない。
す〜〜〜ぴ〜〜〜 ・・・・ 特大の寝息が聞こえてくるだけだ。
「 へえ ・・・ すばるってねてるとき、うるさいんだ? へえ 〜〜〜 すごいねぞう ・・・ 」
いつも先に ぱたん! と寝てしまうので 隣のベッドの住人がどんな風に
眠っているのか ほとんど知らなかった。
常夜灯だけの子供部屋の暗さも 初めて気がついた。
「 ふうん ・・・ くらいとひろ〜〜くかんじるね ・・・ 」
ポッポウ。 鳩時計が ひとつだけ鳴いてすぐに引っ込んでしまった。
「 ??? こわれてるのかなあ〜〜 いつも もっといっぱいなくよね?
・・・・ はやく寝よ。 明日の朝、おねぼうしちゃう〜〜 」
バサ ― すぴかはお蒲団をひっぱりあげると きゅ ・・・っと目を瞑った。
ねむらなくちゃ ― あ おかあさん ちう してた ・・・
「 !! だめ〜〜〜 きえて〜〜〜 アタシ、 はやくねるのォ〜〜 」
ゴソゴソゴソ ・・・ 結局 東の空がちょこっとだけ色が変わるまで すぴかは
ベッドの中でもぞもぞ していた。
・・・ ゆさ ゆさ ゆさ ・・・・ 身体がゆれている。
あれえ・・・? じしんかなあ ・・・ なんでアタシ、ゆれてるのォ ・・・
すぴかはと〜ってもいい気持ちなんだけど ゆ〜らゆら・・・身体が揺れているのだ。
「 ・・・ あ あれえ ・・・? 」
目を開けると 天井が見えた。 いつもの見慣れた子供部屋の天井だ。
― もっとも、 彼女はベッドでぼ〜〜っと天井なんか眺めていたことはないのだが。
「 おっはよ〜〜〜 すぴか! 」
ひょこん。 目の前にセピアの髪のにこにこ顔が現れた。
「 ・・・ あ ? すばる?? 」
「 おっは〜〜! へへへ〜〜 すぴかよかはやく起きたのって初めて〜〜〜
ねえねえ プレゼント みた? サンタさん、ちゃ〜〜んと来たよ〜〜 」
「 え ・・・ サンタ さん ・・・? 」
どきん。 すぴかの心臓が大きく跳ねた。 ふわふわ〜〜な気分に包まれていたのに
いっぺんに目が覚めてしまった。
「 さ サンタ さん ・・・? 」
「 うん! ちゃ〜〜んとね〜〜〜 僕のりくえすと、聞いてくれたよ〜〜
ほらほら 見て 〜〜〜 泡だて器 〜〜〜 これ ほしかったんだ〜〜〜い♪ 」
「 あ・・・ くりすます・ぷれぜんと ・・・? 」
「 ねえねえ すぴかのはなに??? みせて みせて〜〜〜 」
「 あ ・・・ うん ・・・・ あ〜〜〜 すばる〜〜 ちゃんと着替えないと〜 しかられるよ〜 」
すばるはパジャマのまんま 泡だて器を持って部屋の中で跳びはねているのだ。
「 い〜んだも〜〜ん きょう〜〜は楽しいくりすます♪ だから〜 」
「 クリスマスだっておんなじだよ。 ほら〜〜 はやく着替えなって。 」
「 ほら〜〜 はやく起きれば、 すぴか。 」
「 ! わかってマス。 ・・・ ふん なにさ〜〜 初めてアタシよか早起きしたクセに〜〜 」
「 ふん ふ〜〜ん♪ 泡だて器〜〜 シャカシャカシャカ〜〜 ぷられ〜る も
シャカシャカシャカ 〜〜 」
パジャマではしゃいでいる弟を横目に、 すぴかは大急ぎで着替えた。
枕元のプレゼントも気になっていたが 弟より遅く目覚めたことに結構ショックを受けている。
ふん! アタシは昨夜 ちゃ〜んとサンタさんを見たんだもんね!
セーターをひっかぶってソックスはいてジーンズに脚を突っ込んで。 それから・・・
どきどきしつつ 枕元を覗いた。 箱はふたつ。 キレイな紙で包んである。
・・・ あった♪ え〜と ・・・・ わあ〜〜い♪ 〇イキのスニーカー♪
・・・ で ・・・ あ ポシェット だあ〜〜♪
うわ うわ〜〜 これ・・・普通の布じゃないよ?? すご・・・・
夢中でプレゼントを開いていたが ― ふっと。 すぴかの手が止まった。
あ。 プレゼントがあるってことは。
― サンタさん はちゃんと来たんだ ・・・
で もって。 アレはやっぱ サンタさん なんだ
ってコトは ・・・・あのことは本当なんだ
おかあさん は サンタに ちう してた
ドキン。 すぴかの心臓が大きく跳ねた。
「 ・・・ あ あの さ す ばる あの〜〜 さ 」
「 これとコレがつながって〜〜〜 え なに? あ 朝ごはんだ〜〜
すぴか、 あさごはんタイムだよ〜〜〜 」
「 ! ちょっと! すばる、アンタってばまだちゃんと着替えてないよっ 」
「 あ うん ・・・・ あれえ??? 僕のおようふく はあ〜〜 ? 」
「 し〜らない。 アンタいつもちゃ〜んと畳んでるじゃん。 」
「 ・・・ なんだけど。 ない んだ〜〜 」
「 ない? きがえ が? 」
「 うん ・・・ あれえ・・・・ ? 」
「 あんた、昨夜だしておくこと、わすれたんとちがう? 」
「 う〜うん ・・・? あ。 リビングにおきっぱ〜〜〜 昨日 持ってくるの、わすれた〜 」
「 ばっかみたい。 はやくとってくれば。 」
「 すぴかァ〜〜 とってきて〜〜〜 」
「 は??? なんで。 すばる、アンタの服でしょ? 」
「 けど〜〜〜 あ ほら〜 僕 もうパジャマぬいじゃったからさあ〜〜 」
すばるはしゃべりつつ ぷちぷち ・・・・ パジャマを脱ぎ始めた。
「 あ〜〜〜 ずるっこ〜〜〜 」
「 ほ〜ら〜〜〜〜 ぬいじゃったからさあ〜〜 すぴか〜〜 」
「 ・・・!!! っとに〜〜 ズルっこ! 」
「 へへへ〜〜ん♪ 」
「 お母さんにいいつけるからね! お父さんにだって〜〜〜 」
「 い〜よ〜〜 今日はクリスマスだも〜〜ん♪ 二人とも怒んないよ〜 」
「 そんなん、誰がきめたのさ? し〜らないからね〜〜〜 」
すぴかは スニーカーとポシェットを大事 大事〜に ベッドの中につっこむと
たたたたっと子供部屋から駆け出していった。
「 っとに〜〜〜 すばるってば ! 」
すぴかはぽっぽと怒りつつ 階段を駆け下りた。
ふ〜〜ん ・・・ この手すり〜〜 滑りたいなあ〜〜
「 よう すぴか。 おはよう〜〜 」
「 あ! おとうさん〜〜〜 おはよう ・・・ 」
玄関でお父さんが スニーカーを脱いでいた。
「 お父さん〜〜 でかけるの? 」
「 いや? 今ね、 ジョギングから帰ってきたところさ。 今日は土曜日だろ。 」
「 あ ・・・ てへへへ そ〜だね〜 」
すぴかはお父さんの側に飛んでゆき ぴた!っとくっついた。
「 あ〜 今 お父さん、汗かいてるぞ? 」
「 い〜もん♪ いっぱい走ってきたの? 」
「 いつものコースさ。 ・・・ なあ サンタさん、来たか? 」
「 え? あ うん〜〜♪ あのね。 ・・・! 」
大にこにこでプレゼントの話をしよう〜〜 と思ったが ― また 思い出してしまった!!
お母さんが サンタさんと ちう してた ・・・!
「 ん? どうした? すぴかの所に、ちゃんとサンタさん、来たんだろ? 」
「 ・・・ あ う うん ・・・・ あのね おとうさん! 」
「 うん? 」
「 アタシ ・・・! アタシね! お父さんのコト だ〜〜〜〜い好き だからね! 」
「 ??? はい? 」
「 だから! おとうさん、大好き なの! 」
「 それはどうもアリガトウ ?? 」
「 うん! ― だから ・・・ 元気、だしてね! 」
「 ・・・ はい??? 」
「 げんき だして! アタシはいつだってお父さんのこと、大好きだから! 」
すぴかは 大真面目〜〜な顔で言うと たたたた・・・!っとリビングに駆け込んでいった。
「 ??? な なんなんだ〜〜〜 アイツ ? 」
シャワシャワ シュ 〜〜〜〜 ・・・!
ふんわりオムレツが ぽん ! とフライパンの中で宙返りした。
「 うわ〜〜 ・・・ おかあさん じょうず〜〜〜 」
「 うふふ 〜〜 中身はとろ〜り外はふんわり♪ はい、できあがり。 」
ぽん。 ステキに美味しそうなオムレツがお皿に着地した。
「 ふんふん〜〜♪ いい匂い〜〜〜 」
「 さあ〜〜 御飯にしましょ。 あら? すばるは? 」
「 ・・・ 遊んでる。 泡だて器もっておどってた。 」
「 え?? 子供部屋で? 」
「 そ。 」
「 まあ〜〜 いい子ですぐに着替えたのは昨夜だけだったのかしら。
もう〜〜 サンタさんにちゃんと言っておかなくちゃ! 」
「 ・・・ え ・・・ サンタ ・・・さん に? 」
どきん。 すぴかの心臓が また跳ねた。
「 そうよ〜〜 一日だけのいい子 には来年はサンタさんはプレゼント、持ってこなくてもいいですって。」
「 あ ・・・ サンタさんに 言う の? 」
「 ええ。 もう〜〜 すばる〜〜〜!! はやく着替えなさい〜〜〜 ! 」
お母さんは フライパンを置くと、階段を駆け登っていった。
「 ・・・ おかあさん ・・・おはなし、するんだ ・・・ サンタさん と。 」
サンタさん と。 サンタさん と。 ・・・ 同じ言葉がわんわん頭の中で回っている。
すぴかは ぼ〜〜っと突っ立ったまんま、テーブルを見た。
わりかし広いテーブルに イスが5つ。
おじいちゃま と お父さん と お母さん。 そして すぴか と すばる。
サンタさん用のイスは ない。
だってサンタさんは うちのヒトじゃないもんね〜〜〜
― けど。 おかあさん ・・・ サンタさんに ちう してた ・・・
サンタさん ウチのヒトになるの???
それは ― 嬉しくないわけでもないけど ちょっとイヤなわけでもあって。
「 う〜〜〜〜〜 ??? 」
すぴかはワケがわからなくなってきた。
すとん。 自分の椅子にすわってみる。
ウチはさ。 ず〜っと5人なんだ よ ね?
「 おはよう〜〜 って あれ? すぴか〜〜 お母さんは? 」
お父さんが がしがしタオルで髪を拭いつつ入ってきた。 シャワーを浴びてきたのだ。
「 あ うん ・・・ すばる、起こしにいった。 」
「 あ〜 そっか・・・ お♪ くんくん 〜〜 いい匂いだなあ〜〜 」
「 でしょ? オムレツだよ〜〜♪ 」
「 そっか〜 あ そうだ そうだ。 すぴかにお願いがあるんだけどなあ。 」
お父さんは ミルクパンを取り出し牛乳を冷蔵庫から出して 言った。
「 なに、 お父さん。 」
「 おじいちゃまに 朝御飯ですよ〜〜 って。 お呼びしてきてくれるかな。
その間に お父さんはコーヒーやミルクを温めておくから。 」
「 おっけ〜〜〜 ♪ ・・・ あ お父さん アタシ、ミルクに 」
「 ― お砂糖 ナシ だろ? 」
「 そ♪ じゃ 行ってくるね〜 おじ〜〜ちゃま〜〜〜 」
すぴかは子供用のイスから滑り降り 駆け出していった。
「 元気だなあ〜〜アイツ。 じゃ 美味いコーヒーとカフェ・オ・レとホットミルク 〜〜 行きます!」
ジョーは勇んでガス台の前に立った。
コンコン コン ・・・ 大きなドアをちょっと叩いて。
「 おじ〜〜ちゃま〜〜〜 すぴかよ〜〜 ゴハンですって〜〜〜 」
すぴかは精一杯声を張り上げた。
おじいちゃまは早起きだ。 家中で一番の早起きなのだ。
それでもって 皆が起きる前に ぼんさい にお水をあげたり、 お庭の掃除をしたり
お散歩に行ったりする。
身体を動かすことは < のうのかっせいか > によいのじゃ ・・・ が口癖なのだけど。
すぴかやすばるにな なんだか全然わからない。 でもすぴかはお供をすることが多い。
「 おじ〜ちゃま〜〜〜 ごはん!! 」
もう一回 亜麻色の髪の ぷち ・ 乙女 は思いっ切り声をはりあげた。
「 ・・・ ほい ・・・ 今 ゆくぞ。 ちょいと待っていておくれ。 」
しばらくたっておじいちゃまの声が聞こえた。
きっとまた分厚いご本に熱中していたのだろう。 すぴかは大人しく待っていた。
「 おはよう、 すぴか。 」
やがてドアがあき、 おじいちゃまの大きくて暖かい掌が ぽんぽん・・・と
すぴかの頭にあてられた。
「 うふふ・・・ おはよう、 おじいちゃま。 ごはん〜〜って。 」
「 うむ ・・・ ありがとうよ。 ああ すぴかはいつもでも元気でいいのう。 」
「 そ? おじいちゃまだって元気じゃん? 」
「 ははは ・・・ ワシはすぴかの元気を分けてもらったから さ。 」
「 そ〜なの? 」
「 そうさ。 ・・・ うん? なにか ・・・ あったのかな。 」
「 ・・・ え? 」
「 いつもぴかぴかの顔なのに 今朝はちょっと寝不足なのかな? 」
「 ねぶそく? 」
「 いっぱい眠っていない、ということじゃ。 すぴかはいつでも ぱたん・ぐ〜 なのだろ? 」
「 ん〜〜 」
おじいちゃまは本当になんでも知ってるなあ〜 とすぴかは感心してしまった。
彼女は腫れぼったい瞼や赤い目をしていたわけではない が。
いつもきちっと編んであるはずのお下げが ぐしゃぐしゃだったのだ。
「 うん? どうしたのかい、話してごらん。 」
「 ・・・ あ〜〜 うん。 あの さ ・・・ おじいちゃま。 」
「 なんじゃな。 」
「 あの〜〜 さ。 お父さんとお母さん さ。 らぶらぶ〜〜 だよね? 」
「 あ〜 お前の父さんと母さんは もうねんがら年中 アツアツさ。 」
「 そうだよね? 」
「 そうだとも。 お前たちが生まれる前からなあ〜 父さんと母さんはいつだってもう
お互いのことしか見えてなかったなあ。 」
「 みえてない? 」
「 ああ。 ジョー・・・いや、 お前たちの父さんは母さんに一目惚れだったようじゃし。
母さんの方もなあ〜 父さん以外のヒトは目に入らなかったらしいぞ。 」
「 ひとめぼれってなに。 お米のなまえ? 」
「 あ?? ははは・・・ちがうよ。 そうさなあ・・・ 初めて会って ぱっと大好きになる、
ということかな。 」
「 え〜〜〜 そうなんだ〜〜〜 」
「 そうじゃとも。 」
― 確かに ・・・ あの孤島の海岸で < 初めて会ったその日から > を
009は 実体験してしまった ・・・ らしい。
「 そっか〜〜 そうだよね♪ お母さんも ・・・ ひとめぼれ? 」
「 う〜〜ん それはワシにもわからんのだがなあ。
でもお前たちの母さんは父さんにベタ惚れさ。 これだけは確かじゃよ。 」
「 べたぼれ??? 」
「 ものすご〜〜〜〜く好き、ということさ。 すぴか、お前の父さんと母さんはな、
永遠の恋人同士のアツアツの仲、なんだ。 」
「 えへ? そ そうだよね〜〜〜 うん♪ あ! おじいちゃま〜〜 ごはん ごはん!
皆 待ってるよ〜〜 」
「 おっとそうじゃった〜〜 いかん いかん ・・・ さあ 一緒に駆け足、じゃ。 」
「 うん♪ 」
すぴかはおじいちゃまの手を取ってすきっぷ すきっぷ でリビングへ向かった。
よ〜〜かった♪ お父さんとお母さんは ひとめぼれのべたぼれ なんだ〜
ふんふんふ〜〜〜ん♪ らりらりら〜〜〜♪
「 ― もう 〜〜〜 ! 」
フランソワーズのご機嫌は 最悪 だった。
クリスマスの朝 だというのに、 島村さんちの奥さんは、すぴかとすばるのお母さんは
ぶ〜〜〜〜っとむくれていた。
「 なんなんでしょうね、 ウチの家族は! パジャマのまんま、泡だて器と踊っているヒトに
ミルク・パンを焦がすヒトに 呼びにいっておしゃべりに夢中になっているヒト達と。
せっかくのふわふわオムレツが すっかり冷えてしまったわ。 」
「 ・・・ あ〜〜〜 ごめん〜〜〜 フラン〜〜 」
「 こりゃすまんかった・・・ ワシがつい、話しこんでしまって ・・・のう 」
「 ウウン! アタシがね おじいちゃまに <しつもん> してたの 〜〜〜 お母さん 」
「 ・・・ ごめんなさい ・・・ くっしゅん! 僕 ・・・ 」
彼女の前に立って家族全員が ごめんなさい をした。
「 ・・・ はい わかりました。 じゃ ・・・ 温め直しましょ。 ジョー、今度こそホット・ミルク、
お願いね。 」
「 うん! 」
「 ああ ワシがやろう。 コーヒーもな。 微妙な火加減が大切なんじゃ。 」
「 あ お願いします。 じゃあ ぼくはパンを ・・・ 」
「 アタシ! 皆のトーストにバター ぬる! 」
「 僕! 皆のトーストにいちごジャムとハチミツとマーマレード ぬる! 」
「 すばる〜〜 アタシのには ぬるな! 」
皆でわいわい ・・・ 結局賑やかで楽しい朝御飯になった。 お母さんもにこにこ顔に戻った。
「 なあ 二人とも。 サンタさんと ・・・ 会ったかい。 」
朝御飯の後でジョーは何気なく聞いてみた。
「 うん! みてみて〜〜 お父さん〜〜 僕の泡だて器〜〜〜♪ 」
すばるはず〜っと泡だて器を持ったままだ。
「 ああ かっこいいね。 で ・・・ サンタさんに会った? 」
「 う〜〜ん ・・・・ でもさ、 プレゼントがきたってコトはサンタさんが来たってことでしょ? 」
「 まあ そうだけど ・・・ すぴかは? 」
「 え? ・・・ あ アタシ ・・・ 」
「 すぴかはサンタさんに会えたかな。 」
「 ・・・ あ〜〜〜 アタシ ・・・ ねちゃったから ・・・ 」
「 そうか〜〜 それは残念だったねえ〜〜 」
「 ・・・ あ うん ・・・ ざんねん ・・・ かも。 」
「 そっか〜〜 カッコイイ サンタのおじさん に会えなかったのか。 」
「 ・・・ ウン ・・・ 」
「 じゃあ また来年のお楽しみ、だな。 で すぴかは何を貰ったのかな? 」
「 あ アタシはねえ ・・・ 」
ぴっかぴかのスニーカーを見せつつ すぴかはお父さんがものすご〜くにこにこしているのに
気がついた。
お父さん! お父さんってば サンタさんよか
ず〜〜〜〜っとステキだから!
「 おとうさん 」
「 うん? なんだい。 今度 一緒にジョギング、しような〜〜 」
「 ウン。 あのね! アタシ! お父さんのコト、 だ〜〜〜い好き だから! 」
すぴかは ぱっとジョーに飛びついた。
「 わほ? 」
「 あ〜〜〜 僕も 僕も〜〜〜 僕もお父さん、だいすき〜〜〜 」
ワケわからないが すばるも飛びついた ― 泡だて器を持ったまま ・・・
「 わほほほ??? わ〜〜 重いよぉ〜〜 二人とも〜〜 」
お父さんはそんなコト言っているがもう大ニコニコだ。
「 あらら ・・・まあ いいわねえ〜〜 」
「 おお モテモテじゃなあ〜 父さんや 」
そんなお父さんを見てお母さんもおじいちゃまもニコニコ顔だ。
えへへへ ・・・ ぽかぽかだあ〜〜い♪
あ。 お母さん サンタさんに ちう してた ・・・
すぴかの胸が またチクン ・・・としてしまった。
Last
updated : 07,01,2014.
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*********** 途中ですが
え〜〜 時期外れというか 遅れネタで申し訳ありませぬ〜〜
もとネタは あの歌 『 ママがサンタにキスをした 』 です♪
めぼうき様とのおしゃべりからうまれたお話です〜〜☆