『 おおさむ こさむ ― (2) ― 』

 

 

 

 

  カタン カタン ・・・・

 

電車の規則的な間隔での軽い揺れは 眠気を催すものだ。

昼の、それも かなり空いた車輛では 大半のヒトが眼を閉じていたり

ぼんやりとスマホの画面を眺めていたり する。

 

「 ・・・ ふぁ・・・ ねむ ・・・いわあ 

隅っこのシートで フランソワーズはこっそりアクビをかみ殺す。

「 中華街 まで あと・・・少し ね 

彼女は 荷物を持ち直し、姿勢を正した。

「 しゃんとしなくちゃ ね。 

 しっかり ちゃわんむし と おだまきむし を習うのよ。 」

 

コズミ博士から頂いた 和食器。

赤を基調とした意匠が とても気に入ったけれど

その使い道についても おおいに気になる。

コズミ博士は 

 

   ちゃわんむし や おだまきむし  にでも ・・・

 

                       と 言った。

 

「 ・・・??  〜むし って あの・・・虫のこと? 」

彼女は夫の耳元で こそ・・・っと呟いた。

「 え?  ・・・ああ その < 虫 > じゃないよ。

 蒸す・・・って あ〜〜 なんて言えばいいのかなあ 

 調理の方法なんだけど さ 

「 レンチン とは ちがうの? 」

「 もっと昔の方法だと思うよ 」

「 ふうん ・・・? 」

「 ぼくもよく知らないんだ  茶碗蒸し はあまり食べたことないし。 」

「 そうなの・・・  うん いいわ  わかった。

 わたし 大人に聞いてくる。 

「 あ そうだよね 専門家に聞くのが一番だよ!

 それでもって ・・・ 美味しいの、作って・・・ 」

「 習ってくるわ。 土曜日の午後、チビ達の相手 頼んでいい? 」

「 もっちろ〜〜ん♪ 任せてくれよ 」

 

 

  ― そんなわけ で。

 

とある土曜の午後 フランソワーズは中華街にある

張々湖飯店 に向かっているのだ。

茶碗蒸しの作り方は もちろん ネット検索もしてみた。

 

「 ・・・あ あるある たくさんあるわ〜〜〜 」

フランソワーズは モニターの前で歓声をあげた。

「 これを見れば ・・・ ふんふん 」

最初 メモを取りつつかなり熱心に見ていたのであるが。

 

  カチ。  画面を消した。

 

「 やっぱり 直接習ったほうが いいわ。

 ウチには すご〜〜い料理人がいるじゃない〜〜 

早速 仲間の偉大なる料理人に連絡をとってみた。

 

「 ハイナ〜〜 元気でっせ〜〜  お店?  

 おかげさんでなあ 繁盛してまっせ〜〜  どないしたん? 」

カンのいい彼は すぐに自分の方から尋ねてくれた。

「 はああん?  食器ネ?  コズミ先生から?

 そら よかったなあ〜   ほいで どないしたんね? 」

 

 ふんふん・・・と 彼はきっちり耳を傾けてくれる。

 

「 ふん?  ちゃわんむし?  ええなあ〜

 ほいで 小田巻蒸しやら お子達が喜びまっせえ〜 

 しらない? さよか〜 ふんふん  ええで いつでん おいで。

 きっちり教えたあるで。 うっとこが忙しい? そんなん いつもでっせ〜

 ウチの厨房は 広いさかい の〜ぷろぶれむ やで 」

「 ほんなら まってるで おいで。

 材料?  いらんて。 あんさん、エプロンとタオル、持っておこしや 」

 

 ―  ということで 今 彼女は 張々湖飯店 へ向かっている。

 

  カタン カタン〜〜〜 

 

電車のスピードが落ちてきた。 駅に近づいているのだろう。

「 うふ・・・ 久し振りのヨコハマだわ〜〜〜

 たのしみ 〜〜〜 ♪ 」

フランソワーズは スマホを仕舞いバッグを引き寄せた。

 

  わあ〜〜い♪ 新しいお料理、習うのよ〜〜

 

その日 古い港街の空はすっきり晴れ 海の上にその青さを競っていた。

 

 

さて 一方 島村さんち のキッチンでは ― 

 

「 えっとぉ〜〜  おと〜さん にんにく と しょうが、すりすりして。

 すぴか〜〜 ほうれんそう、 あらった? 」

すばるは まな板を前に < 助手たち > に指示を飛ばしている。

「 うお〜〜い どのくらい? ・・・ にんにく はひとかけら

 しょうが はこゆびくらい?  へいへい 了解 

「 あらったけどぉ〜 これ ふくの? 」

「 おと〜さん しっかりすりすりして。

 すぴか ふかなくてもいいです。 ザルの上のおいといて 

 さ・・・っと お湯 かけるから 」

「「 はあい 」」

ギルモア邸のキッチンで ジョーとすぴかは 従順は助手になり切っている。

 

    ふ ふ〜〜〜ん♪

    きょうの しぇふ は ぼ・く ♪

 

 

 

「 すばる君。 お母さん、お出かけします。 

 土曜日 お昼ごはん、お願いしても いい? 」

木曜の晩御飯の時 フランソワーズは息子に声をかけた。

「 むぐむぐむぐ ・・・ へ?? 

「 おか〜さん どこ いくの? おしえ? りは〜さる? 」

色違いのアタマが ぱっと母を見た。

「 張伯父様のお店です。  < ちゃわんむし > を

 習ってきます 

「 うわあ〜〜〜〜 ちゃわんむし! 」

「 ちゃわんむし〜〜〜〜  食べたあい〜〜〜 」

「 だから 作り方を習ってきます。

 ほら この前 コズミ先生からキレイな食器を頂いたでしょ? 」

「 ・・・ あ〜 赤いの? 」

「 おどんぶり だよね? 」

「 ええ  あれを使ってみたいと思うの。 

 で それで お昼ご飯、作ってくれる すばる君。

 すばるの助手をやってくれる すぴかさん 

「「 やる〜〜〜〜!! 」」

「 ありがとう では二人にお願いします 」

「 あ おか〜さん おと〜さん・・・・いるんだ? 」

「 ええ 土曜日はお休みだから お父さん いるわよ 

「 おと〜さんも! すぴかといっしょに じょしゅ! 」

「 そうねえ  すぴかさん、 お父さんにお願いしてごらん? 」

「 ん! そうするね!  ひゃっほほ〜〜〜♪ 」

すぴかは料理にはあまり興味はないが お父さん子なので

< お父さんと > で もう盛り上がっている。

「 おか〜さん。 」

すばるが真剣な顔で 見上げている。

「 なあに すばる君。 火を使う時や固いモノを切るのは

 お父さんにやってもらってね。 お父さんの助手 して頂戴 」

「 ううん。

茶色の瞳が ひた! とフランソワーズを見つめ

茶髪アタマが ぶんぶんと横に振られている。

「 ううん ううん ! おか〜さん 

「 ??? 」

「 おと〜さん が じょしゅ。 

 すぴか と おと〜さん が 僕のじょしゅ で 

 僕が お昼ごはん つくる ! 」

「 ああ そう? いいわよ〜〜 お願いね〜〜 」

「 うん!!! 

 

    どっちだってたいして変わらないわよね?

    コドモって面白いコト 言うわねえ〜〜

 

フランソワーズは 息子の主張?を全然理解していなかった らしい。

「 僕 しぇふ です♪  ・・・ あ! 」

 

   たたたた。 突然 箸をおいてすばるは冷蔵庫に駆け寄った。

 

「 あら すばる。 どうしたの、御飯の途中でしょう?

 マヨネーズは ちゃんとテーブルに出てますよ? 」

「 ・・・ち が〜〜う!  なかみ みなくちゃ! 」

すばるは 大型冷蔵庫のドアを開け放つと 身体ごと入れるみたいにして

覗きこんでいる。

「 なにがほしいの すばる 」

「 ・・・ ん〜〜〜〜  ほうれんそう ・・・ある。 

 たまねぎ おっけ〜  たまご ある。 

 ばた〜 ある・・・ ふんふん 」

「  すばる?? 」

「 おか〜さん! 」 

 

  バタン。  冷蔵庫のドアを閉めると 彼は母をまっすぐに見つめた。

 

「 はい? 」

「 とりにく 買って。 かわ がついてるの。 

 あと ・・・ ばなな。 」

「 鶏肉とバナナ??  食べたいの? 」

「 ・・・ が〜〜う!  土曜の めにう! 」

「 めにう?  ・・・ ああ 献立に使いたいの? 」

「 そ!  とりにく と ばなな。 買って 」

「 はいはい  なにができるのかな〜 」

「 ・・・ ひみつ! 」

「 そっか〜 じゃ すばる君にお願いしましょ。

 明日 鶏肉とバナナ 買っておくわ。 」

「 うん! かわつき。 いい? おか〜さん 」

「 はいはい  わかりました。 さあ 晩御飯の続きよ 」

「 は〜い 」

すばるは 素直に自分の椅子に戻った。

「 ・・・ すばる?  なにつくるの 」

すぴかが隣から コソコソ・・・聞いている。

「 ないしょ。 」

「 え〜 いいじゃん ちょっとだけ〜〜〜 」

「 な い しょ。 」

「 ・・・ケチ〜〜 おしえてよ〜〜〜 じょしゅ するからあ 

「 ・・・うふふふ  すぴかもすきなもの。 」

「 アタシも?? 」

「 そ。  ふんふんふ〜〜ん♪ 」

すばるは 一人、ご満悦でゆっくりサツマイモの天ぷらを

齧っている。

「 ???  ・・・ ま いっか。

 アタシも好きなもの ならいいや。

 あ すばる〜〜 アタシのサツマイモ と 

 あんたの たまねぎとにんじんのかき揚げ 交換しない? 」

「 する! 」

「 じゃ ・・・ そ〜っと 

「 そ〜〜っと。  へへへ〜〜 サツマイモ すき〜〜 」

「 たまねぎ 大好き♪ 」

 

    ・・・ また やってるな〜〜

    まあ いっか・・・

 

    二人とも一応 メインは食べたから・・・

 

母は 見て見ぬフリ・・ 知らん顔で白身魚の天ぷらに

タルタル・ソースを!! かけて嬉々として口に運んでいた。

 

    土曜日の留守番隊はなんとかなりそうだし。

 

    ふふふ・・・ 大人のとこでお料理習って

    帰りには モトマチ にでよっかな〜〜

    お買いモノ したいし〜〜

    あ 港をみてこよっかな〜〜

 

    ふんふんふ〜〜〜〜ん♪

 

フランソワーズは 超ご機嫌ちゃんだった。

「 ふんふ〜〜ん♪ おりょうり〜〜〜  るん♪ 」

すばるはもう わくわく・にやにや しっぱなし。

「 へへへ〜〜ん♪ おと〜さんと一緒だあ〜〜い♪ 」

すばるは自分では気づかずに ハナウタを歌っていた。

 

      とにかく  皆 やたらとはっぴ〜 だった。

 

 

  ― そんなワケで 土曜のランチ作りは すばるが仕切っているのだ。

 

「 おと〜さん できましたか 」

「 ほい 完了 」

「 つぎ〜 とりにく 切って。 ひとくち の大きさです 」

「 へいへい 

「 あ 皮もいっしょに切ってください。 」

「 アタシは〜〜 」

「 すぴかさん。 ほうれんそう 切って。 

「 ひとくち のおおきさ? 」

「 うう〜〜ん  こんくらい。  くきも だよ 

すばるは ぷっくりした指で大きさを示す。

「 はい〜〜〜  ・・・ えい!  こんくらい? 」

「 そ〜 あ すぴかさん ほうちょうで切るときはね〜

 こうやって 左手を ねこさんの手 にして ・・・

 ほうれんそうをおさえます 」

「 ふ〜ん ・・ ねこさんのて ・・・ こう? 」

「 そだよ〜〜〜  おと〜さん きれましたか  

「 おう 全部切ったぞ 

「 そんじゃ このなかにいれてください 」

彼が差し出したボウルの中には 調味料がすでに合わせてあった。

「 はいよ。  ・・・ っと いれたよ 

「 じゃ さっきすりすり〜 した にんにく と しょうが も。 」

「 ん〜〜〜 入れました 」

「 おっけ〜  で ・・・ まぜる。 んしょ〜〜 」

大きなヘラを 彼は器用に扱いボウルの中身を混ぜ合わせてゆく。

袋に入れてもみもみしたりする方法は 好きではないらしい。

彼は その手には大きすぎるはずのキッチン用品を 

実に上手に扱うのだ。

「 へえ ・・・ すばる 上手だねえ〜 」

「 えへへ ・・・ ケーキをつくるときといっしょだよん。

 あ すぴか〜〜 ほうれんそう きれた? 」

「 ・・・ ん と  あとちょっと。 ・・・えい えい 

 

  だん だん !  包丁がまな板を叩いている。

 

「 すぴか〜〜 ねこさんのて! 」

「 ・・・ あ いっけね〜〜 ねこさん ねこさん ・・っと 

すぴかも結構器用に ほうれん草を切り分けるのだった。

「 ふっふっふ〜〜 では〜〜 ぐらたん さくせい を始めます。 」

すばるは 一生懸命? 重々しい声で宣言した。

「 お〜い すばるシェフ。  ホワイト・ソースは

 お父さんが作ろうか? 」

「 んん〜〜ん。 ほわいと・そ〜す はつくりませ〜ん 」

「 え!? だってグラタン ・・・? 」

「 うん! フライパンの中でいっしょにつくりま〜〜す」

「 一緒に? へええ ・・・ 」

「 そ。 だ〜から あとかたづけ もらくちんです 」

「 ・・ あ な〜るほど 」

「 えっと。 すぴかさん。 おさら、だして。 」

「 おっけ〜〜  ・・・どのおさら? いつもの・・・? 」

「 あ ぐらたん だから スープのがいいな〜 

「 りょ〜かい! 」

「 お父さんは次に何をしたらいいですか すばるシェフ。 」

「 あ  僕のだい もってきて。 おじいちゃまがつくってくれたヤツ 」

「 だい??  あ あれかあ〜  わかった、今 持ってくるよ 」

ジョーは 可愛い踏み台を持ってきて ガス台の前に設置した。

すばるには 調理するにはガスレンジの台はまだ高い。

彼の料理好きを知って 博士が木製のがっちりしたものを

作ってくれたのだ。

 

「 っと。 はい〜 ぐらたん つくります〜 

すばるは 張り切ってフライパンを前に 台に上った。

 

    ジャ −−−−−  じゅわああ〜〜〜〜

 

フライパンは賑やかな音を上げ始め 同時に食欲をう〜〜んと誘う

いい匂いが キッチンに満ちてゆくのだった。

 ― やがて

 

     タン。  ぷっくりした手がレンジの扉を閉めた。

 

「 あとは チン まち〜〜 」

「 い〜〜〜におい〜〜〜  アタシ お腹ぺここ〜〜 

すぴかが 鼻をくんくん・・・させている。

「 ・・・ すばる〜 すごいなあ〜〜

 お父さんより料理 上手だよ 〜 

ジョーはひたすら息子の手際に感心している。

 

「 ふっふっふ〜〜  で〜は ばなな・しふぉん・けーき

 のじゅんびをします 」

「 わい♪  あ すばる〜 あのさあ あんまし甘いのはあ 」

「 わか〜〜ってるう  あまさ ひかえめ デス。

 僕は ほいっぷ・くり〜む をかけてたべます 」

「 え この上 ケーキも作るのかい? 」

「 でざーと だもん  おと〜さん。 」

「 すばる、 このバナナ むく? 」

「 あ うん 全部むいて。

 そんでねえ  つぶして 」

「 ふんづけるの? 」

「 っが〜〜う!  ふぉーくで! 」

「 つんつん・・・ってやるの? 」

「 っが〜〜〜う!! こ〜やってえ〜〜 ぎゅ ぎゅ ぎゅ 」

すばるはフォークの背で バナナを潰す。

「 へ え・・・ 上手だねえ すばる〜〜 」

「 えへへん あ おと〜さんも すぴかのおてつだい してください 」

「 ほいほい  すぴか  ゆくぞ〜〜 」

「 うん♪ おと〜さん ぎゅ ぎゅ ぎゅううう〜〜〜 」

「 お すぴかも上手だなあ〜〜  いっぱいあるから

 二人で頑張ろうな〜 」

「 うん♪ ぎゅ ぎゅ ぎゅ〜〜 」

すぴかはお父さんと一緒の作業で ご機嫌ちゃんだ。

そんな二人を横目に すばるは慎重に粉を計量し 砂糖と卵を用意している。

 

「 ふう〜〜  なあ すばる〜〜

 今日のお昼は ご馳走だねえ 」

「 うん あ お父さん、 みるく・てい つくって。

 すぴか〜〜 温室でさあ ぷち・とまと とってきて 

「「 了解 」」

 

チキンとほうれん草のグラタン。

ぷち・とまと と レタスのサラダ。 ミルク・ティ

バナナシフォン・ケーキ

 

それが本日のランチのメニュウなのだ。

 

土曜のお昼 ― お母さんはお出かけだけど 

島村さんち は ちょいと遅くなったけど 皆で作って・味わって

お昼ご飯 を楽しんでいた。

 

 

 ― さて ちょいと時間は遡って ・・

ヨコハマの 張々湖飯店 厨房 では ―

 

  ふぉわああ〜〜〜〜〜 ん ・・・

 

蒸籠を開ければ 美味しい匂いの湯気が盛大に立ち昇る。

「 ・・・ う〜〜ん いいにおい〜〜 」

「 ほっほ〜〜  でけたで  ああ ええ塩梅やな 」

「 そ そう? 」

「 はいナ。 ほな 熱々を頂きまほか 」

「 これ が ちゃわんむし? 

 食器入りの 卵料理 ・・・って感じね 

「 ほっほ〜〜 そうやなあ  おんや? 

 

  カタン。  厨房に 三つ揃いのスーツ姿が 颯爽と入ってきた。

 

「 いやあ〜〜 マドモアゼル。  いつもお美しい 」

グレートは 慇懃に身をかがめると手を差し出した。

「 ご機嫌 麗しゅう 」

「 ふふふ〜〜 相変わらずお上手ねえ  ミスタ・ブリテン 」

「 いやいや 吾輩は虚言は申しません。

 ・・・ところで盛大にいい香がするのですが〜〜〜 

「 鼻も利くのね ミスタ。 たったいま 茶碗蒸し が

 出来上がったところ 

「 うっほほ〜〜 これはいいところに参上しましたな 」

「 ・・・ 調子 良すぎるがな〜〜

 ま たんと作ったで 皆で頂きまひょ 

 ここではなんですさかい 店の   あ〜 個室 空いてまんな? 」

大人は ちょいと声を上げた。

「 あ 店長  すいません、個室予約満杯で 」

店の方から きっちりスーツを着た人物が飛んできた。

彼は 支配人です、よろしく と丁寧に挨拶をした。

「 ほう さよか 」

「 あら 大人、お店の隅っこでいいわ。

 あ ジャマかしら 」

「 ええよ ええよ ほな 運びましょか 

 

   カラカラカラ −−−−

 

店長自ら ワゴンを押してゆき、三人は賑わっているお店の

隅っこに席をみつけた。

 

「 ここでええか 

「 ええ ええ。 張々湖飯店はどこに座っても

 気持ちいいわ 」

「 実はなぁ 吾輩はよくこの席に座って ・・・

 客人たちを観察しておるのであるよ。 」

「 さすがグレート〜〜 いつでも役者さんなのね 」

「 忝い。 マドモアゼル。 」

「 うふふ もう二人の子持ちのオバチャンですから〜〜 」

「 はいはい  熱々を頂きまひょ 」

 

   ほわああ〜〜〜ん ・・・ 再び美味しい湯気が立ち昇る。

 

  カチン  カチャ カチャ   カチャ

 

しばらくは スプ―ンやら箸が蒸茶碗に当たる音だけが 聞こえていた。

 

   !  お  いし〜〜〜〜〜〜

 

   ほほう〜  絶品であるなあ

 

   ほっほ  ようできましたナ

 

三人は 満足のため息と一緒に 箸とスプーンを置いた。

「 ・・・ すっごく 美味しかったわ・・・! 

「 逸品なり 」

「 そら よかったわな 」

「 これが 茶碗蒸し なのね 」

そうや、と 料理人はに〜んまり・・・・頷く。

「 作り方 大丈夫かいな 」

「 はい 先生!  でも 蒸し器・・・ ウチにはなくて。

 大きいの 帰りに買って帰ろうかと  」

「 はん うっとこで使うてない蒸籠あるで、持ってゆき。

 年末までに返してくれれば ええで  」

「 え いいの? 」

「 構わん 構わんて。 」

「 ありがとうございます。 

 あ おだまきむし も 同じ作り方ですか? 」

「 ああ 小田巻蒸し たら こん中に おうどん 入りますな 」

「 まあ おうどん?  美味しそう〜〜〜 

「 おおきな茶碗が ぴったりですがな。

 優しい味になるさかい、お子達が喜びまっせえ 」

「 ええ ええ そうですね!

 チビ達の献立にぴったり。 さっそくつくります。

 ぽかぽか・・温まっていいわよねえ 」

「 そやなあ この季節にはぴったりやで 

 コタツで み〜んなで小田巻蒸し がええ。 」

「 ・・・ あ そのコタツ なんですけど。

 ちょっと今 < お休み > なのよ。 」

「 はあん?  壊れたのかね?

 そなたの背の君なら すぐに直せるであろうが 」

「 グレート、 そうじゃなくて。

 コタツがあると そのう〜〜 ついついごろごろしちゃうでしょう?

 いろいろ・・・ そのまんまで。 」

「 なんやて? コタツで みんながごろごろ?

 ・・・そら ちいと行儀わるいけんど ・・・  

「 この国のコタツ は たいそう魅惑的であるからなあ 」

「 あらあ グレート。 そうお思いになる? 」

「 御意。 コタツがあれば 寒さ厳しい我が母国の冬も

 快適にすごせる、と思いますな 

「 ええ 確かに暖かいんだけど・・・ 

 もうねえ チビ達は中にはいって寝転がったり・・・

 宿題も寝そべってやっちゃうのよ 」

「 寝そべる?  ははあん・・・ わかるなあ

 この国のコタツは 非常に優れた 暖房器具 だと思うぞ。

 私見だが 暖炉なんぞは足元にも及ばんよ 」

イギリス人も コタツがお気に召している らしい。

「 だけどね! お行儀悪いし。

 だから今 ウチは コタツはお休み なのよ 」

「 はっはっは  そりゃ気の毒になあ  

「 だって。 お食事は楽しく でも ちゃんとマナーも守りたいの。 」

「 ふうむ・・・? 

 おお それなら テーブル式にしたらどうだね? 」

「 ・・・ え・・・? 」

「 なにやら そのような装置がある、と聞いたぞ 

 机の脚を伸ばす器具があるらしい。 」

「 そうなの?? わ〜〜 帰りにホーム・センタ― に

 寄ってみるわね 」

「 ほっほ〜〜〜  ジョーはんに やってもろたらええ。

 どうせお子達と一緒に コタツでごろごろしとるんやろ ? 」

「 ・・・ 当たり。 コタツ、一番喜んでるのよ 彼が。」

「 そやろなあ〜〜 」

「 ま ご家庭円満で なによりであるよ、マドモアゼル。 」

「 ・・・ そう  なんだけどぉ〜〜〜 」

フランソワーズは フクザツ〜〜な気分だった。

 

 

 ― そして。

 

結局 島村さんち のコタツは テーブル式 となった。

コタツ休業 は やはり家族には大不評・・・

 

「 日本の冬に こたつ は必須! 」

 

ジョーの主張が通り、子供達もやっと笑顔になった。

茶碗蒸し は 勿論 大好評〜〜〜

 

 

   カチン カチャ。

 

ジョーは スプーンをゆっくりと置いた。

「 ・・・ あ〜〜〜 ・・・ 美味かったぁ 」

「 うふふ ・・・ 気に入った? ちゃわんむし。」

「 ものすご〜〜〜〜く! めっちゃウマだあ 」

「 よかったわ。 子供達もぺろり、平らげてくれたのよ 」

「 だろう なあ・・・ 」

う〜〜ん ・・・ ジョーは テーブル式コタツで脚を伸ばす。

「 ・・・ あ〜〜 ・・・ きもちい〜〜

 なあ ・・・ これがさ ウチ ってことなんだよね 」

「 え? 」

「 うん ・・・ ああ これが さ。 ぼくのウチ。

 ぼくだけの ぼくときみのウチ 

 ・・・ ずっとずっと 欲しかったんだ  ずっと ・・・ 

「 ジョー ・・・ 」

「 フラン。  ありがと 」

天板の上で ジョーは きゅ ・・っと 彼の愛妻の手を握った。

 

    ・・・ !  

    うわ あ ・・・ 

    ああ〜〜 もう 最高! 

 

手を繋いだだけなのに。

フランソワーズは心の奥から身体の芯から 熱い想いがこみ上げていた。

 

 

 ― ちょいとおまけ。

 

数日後の午後・・・

「 おと〜さん。  今日さ おか〜さん  かえり、おそい? 」

「 ああ リハ―サルだからね〜 晩ご飯はお父さんが 」

「 僕がやる!!! 」

「 あ〜 すばる おねがい〜〜 アタシさあ 

 この前のぉ ほうれん草ととり肉のぐらたん がいいなあ 

「 お。 お父さんもあれ また食べたいぞ〜 

「 おっけ〜〜〜♪ 」

 

  でも さ。 その前に〜〜〜

 

パチン パチン パチン。   ジョーは テーブルの脚を操作した。

 

     さあ〜〜〜 コタツにしよ!!!

 

      うわ〜〜〜い♪♪♪

 

父と子供達は コタツ布団の中に潜りこみ〜〜 顔だけだして ・・

 

       あったか〜〜〜〜〜い ・・・・

 

おおさむ こさむ の日には やっぱりコタツ! なのである。

 

 

******************************    Fin.    *******************************

Last updated : 12,08,2020.             back      /     index

 

 

***************  ひと言  *************

コタツ・みかん は 日本の誇るべき!冬文化♪

隣に にゃんこ が寝ていれば ますますぐっど(^^

テーブル式より 掘りごたつ が 好きかも (*^_^*)