『 おおさむ こさむ ― (2) ― 』
カタン カタン ・・・・
電車の規則的な間隔での軽い揺れは 眠気を催すものだ。
昼の、それも かなり空いた車輛では 大半のヒトが眼を閉じていたり
ぼんやりとスマホの画面を眺めていたり する。
「 ・・・ ふぁ・・・ ねむ ・・・いわあ 」
隅っこのシートで フランソワーズはこっそりアクビをかみ殺す。
「 中華街 まで あと・・・少し ね 」
彼女は 荷物を持ち直し、姿勢を正した。
「 しゃんとしなくちゃ ね。
しっかり ちゃわんむし と おだまきむし を習うのよ。 」
コズミ博士から頂いた 和食器。
赤を基調とした意匠が とても気に入ったけれど
その使い道についても おおいに気になる。
コズミ博士は
ちゃわんむし や おだまきむし にでも ・・・
と 言った。
「 ・・・?? 〜むし って あの・・・虫のこと? 」
彼女は夫の耳元で こそ・・・っと呟いた。
「 え? ・・・ああ その < 虫 > じゃないよ。
蒸す・・・って あ〜〜 なんて言えばいいのかなあ
調理の方法なんだけど さ 」
「 レンチン とは ちがうの? 」
「 もっと昔の方法だと思うよ 」
「 ふうん ・・・? 」
「 ぼくもよく知らないんだ 茶碗蒸し はあまり食べたことないし。 」
「 そうなの・・・ うん いいわ わかった。
わたし 大人に聞いてくる。 」
「 あ そうだよね 専門家に聞くのが一番だよ!
それでもって ・・・ 美味しいの、作って・・・ 」
「 習ってくるわ。 土曜日の午後、チビ達の相手 頼んでいい? 」
「 もっちろ〜〜ん♪ 任せてくれよ 」
― そんなわけ で。
とある土曜の午後 フランソワーズは中華街にある
張々湖飯店 に向かっているのだ。
茶碗蒸しの作り方は もちろん ネット検索もしてみた。
「 ・・・あ あるある たくさんあるわ〜〜〜 」
フランソワーズは モニターの前で歓声をあげた。
「 これを見れば ・・・ ふんふん 」
最初 メモを取りつつかなり熱心に見ていたのであるが。
カチ。 画面を消した。
「 やっぱり 直接習ったほうが いいわ。
ウチには すご〜〜い料理人がいるじゃない〜〜 」
早速 仲間の偉大なる料理人に連絡をとってみた。
「 ハイナ〜〜 元気でっせ〜〜 お店?
おかげさんでなあ 繁盛してまっせ〜〜 どないしたん? 」
カンのいい彼は すぐに自分の方から尋ねてくれた。
「 はああん? 食器ネ? コズミ先生から?
そら よかったなあ〜 ほいで どないしたんね? 」
ふんふん・・・と 彼はきっちり耳を傾けてくれる。
「 ふん? ちゃわんむし? ええなあ〜
ほいで 小田巻蒸しやら お子達が喜びまっせえ〜
しらない? さよか〜 ふんふん ええで いつでん おいで。
きっちり教えたあるで。 うっとこが忙しい? そんなん いつもでっせ〜
ウチの厨房は 広いさかい の〜ぷろぶれむ やで 」
「 ほんなら まってるで おいで。
材料? いらんて。 あんさん、エプロンとタオル、持っておこしや 」
― ということで 今 彼女は 張々湖飯店 へ向かっている。
カタン カタン〜〜〜
電車のスピードが落ちてきた。 駅に近づいているのだろう。
「 うふ・・・ 久し振りのヨコハマだわ〜〜〜
たのしみ 〜〜〜 ♪ 」
フランソワーズは スマホを仕舞いバッグを引き寄せた。
わあ〜〜い♪ 新しいお料理、習うのよ〜〜
その日 古い港街の空はすっきり晴れ 海の上にその青さを競っていた。
さて 一方 島村さんち のキッチンでは ―
「 えっとぉ〜〜 おと〜さん にんにく と しょうが、すりすりして。
すぴか〜〜 ほうれんそう、 あらった? 」
すばるは まな板を前に < 助手たち > に指示を飛ばしている。
「 うお〜〜い どのくらい? ・・・ にんにく はひとかけら
しょうが はこゆびくらい? へいへい 了解 」
「 あらったけどぉ〜 これ ふくの? 」
「 おと〜さん しっかりすりすりして。
すぴか ふかなくてもいいです。 ザルの上のおいといて
さ・・・っと お湯 かけるから 」
「「 はあい 」」
ギルモア邸のキッチンで ジョーとすぴかは 従順は助手になり切っている。
ふ ふ〜〜〜ん♪
きょうの しぇふ は ぼ・く ♪
「 すばる君。 お母さん、お出かけします。
土曜日 お昼ごはん、お願いしても いい? 」
木曜の晩御飯の時 フランソワーズは息子に声をかけた。
「 むぐむぐむぐ ・・・ へ?? 」
「 おか〜さん どこ いくの? おしえ? りは〜さる? 」
色違いのアタマが ぱっと母を見た。
「 張伯父様のお店です。 < ちゃわんむし > を
習ってきます 」
「 うわあ〜〜〜〜 ちゃわんむし! 」
「 ちゃわんむし〜〜〜〜 食べたあい〜〜〜 」
「 だから 作り方を習ってきます。
ほら この前 コズミ先生からキレイな食器を頂いたでしょ? 」
「 ・・・ あ〜 赤いの? 」
「 おどんぶり だよね? 」
「 ええ あれを使ってみたいと思うの。
で それで お昼ご飯、作ってくれる すばる君。
すばるの助手をやってくれる すぴかさん 」
「「 やる〜〜〜〜!! 」」
「 ありがとう では二人にお願いします 」
「 あ おか〜さん おと〜さん・・・・いるんだ? 」
「 ええ 土曜日はお休みだから お父さん いるわよ 」
「 おと〜さんも! すぴかといっしょに じょしゅ! 」
「 そうねえ すぴかさん、 お父さんにお願いしてごらん? 」
「 ん! そうするね! ひゃっほほ〜〜〜♪ 」
すぴかは料理にはあまり興味はないが お父さん子なので
< お父さんと > で もう盛り上がっている。
「 おか〜さん。 」
すばるが真剣な顔で 見上げている。
「 なあに すばる君。 火を使う時や固いモノを切るのは
お父さんにやってもらってね。 お父さんの助手 して頂戴 」
「 ううん。 」
茶色の瞳が ひた! とフランソワーズを見つめ
茶髪アタマが ぶんぶんと横に振られている。
「 ううん ううん ! おか〜さん 」
「 ??? 」
「 おと〜さん が じょしゅ。
すぴか と おと〜さん が 僕のじょしゅ で
僕が お昼ごはん つくる ! 」
「 ああ そう? いいわよ〜〜 お願いね〜〜 」
「 うん!!! 」
どっちだってたいして変わらないわよね?
コドモって面白いコト 言うわねえ〜〜
フランソワーズは 息子の主張?を全然理解していなかった らしい。
「 僕 しぇふ です♪ ・・・ あ! 」
たたたた。 突然 箸をおいてすばるは冷蔵庫に駆け寄った。
「 あら すばる。 どうしたの、御飯の途中でしょう?
マヨネーズは ちゃんとテーブルに出てますよ? 」
「 ・・・ち が〜〜う! なかみ みなくちゃ! 」
すばるは 大型冷蔵庫のドアを開け放つと 身体ごと入れるみたいにして
覗きこんでいる。
「 なにがほしいの すばる 」
「 ・・・ ん〜〜〜〜 ほうれんそう ・・・ある。
たまねぎ おっけ〜 たまご ある。
ばた〜 ある・・・ ふんふん 」
「 すばる?? 」
「 おか〜さん! 」
バタン。 冷蔵庫のドアを閉めると 彼は母をまっすぐに見つめた。
「 はい? 」
「 とりにく 買って。 かわ がついてるの。
あと ・・・ ばなな。 」
「 鶏肉とバナナ?? 食べたいの? 」
「 ・・・ が〜〜う! 土曜の めにう! 」
「 めにう? ・・・ ああ 献立に使いたいの? 」
「 そ! とりにく と ばなな。 買って 」
「 はいはい なにができるのかな〜 」
「 ・・・ ひみつ! 」
「 そっか〜 じゃ すばる君にお願いしましょ。
明日 鶏肉とバナナ 買っておくわ。 」
「 うん! かわつき。 いい? おか〜さん 」
「 はいはい わかりました。 さあ 晩御飯の続きよ 」
「 は〜い 」
すばるは 素直に自分の椅子に戻った。
「 ・・・ すばる? なにつくるの 」
すぴかが隣から コソコソ・・・聞いている。
「 ないしょ。 」
「 え〜 いいじゃん ちょっとだけ〜〜〜 」
「 な い しょ。 」
「 ・・・ケチ〜〜 おしえてよ〜〜〜 じょしゅ するからあ 」
「 ・・・うふふふ すぴかもすきなもの。 」
「 アタシも?? 」
「 そ。 ふんふんふ〜〜ん♪ 」
すばるは 一人、ご満悦でゆっくりサツマイモの天ぷらを
齧っている。
「 ??? ・・・ ま いっか。
アタシも好きなもの ならいいや。
あ すばる〜〜 アタシのサツマイモ と
あんたの たまねぎとにんじんのかき揚げ 交換しない? 」
「 する! 」
「 じゃ ・・・ そ〜っと 」
「 そ〜〜っと。 へへへ〜〜 サツマイモ すき〜〜 」
「 たまねぎ 大好き♪ 」
・・・ また やってるな〜〜
まあ いっか・・・
二人とも一応 メインは食べたから・・・
母は 見て見ぬフリ・・ 知らん顔で白身魚の天ぷらに
タルタル・ソースを!! かけて嬉々として口に運んでいた。
土曜日の留守番隊はなんとかなりそうだし。
ふふふ・・・ 大人のとこでお料理習って
帰りには モトマチ にでよっかな〜〜
お買いモノ したいし〜〜
あ 港をみてこよっかな〜〜
ふんふんふ〜〜〜〜ん♪
フランソワーズは 超ご機嫌ちゃんだった。
「 ふんふ〜〜ん♪ おりょうり〜〜〜 るん♪ 」
すばるはもう わくわく・にやにや しっぱなし。
「 へへへ〜〜ん♪ おと〜さんと一緒だあ〜〜い♪ 」
すばるは自分では気づかずに ハナウタを歌っていた。
とにかく 皆 やたらとはっぴ〜 だった。
― そんなワケで 土曜のランチ作りは すばるが仕切っているのだ。
「 おと〜さん できましたか 」
「 ほい 完了 」
「 つぎ〜 とりにく 切って。 ひとくち の大きさです 」
「 へいへい 」
「 あ 皮もいっしょに切ってください。 」
「 アタシは〜〜 」
「 すぴかさん。 ほうれんそう 切って。 」
「 ひとくち のおおきさ? 」
「 うう〜〜ん こんくらい。 くきも だよ 」
すばるは ぷっくりした指で大きさを示す。
「 はい〜〜〜 ・・・ えい! こんくらい? 」
「 そ〜 あ すぴかさん ほうちょうで切るときはね〜
こうやって 左手を ねこさんの手 にして ・・・
ほうれんそうをおさえます 」
「 ふ〜ん ・・ ねこさんのて ・・・ こう? 」
「 そだよ〜〜〜 おと〜さん きれましたか
」
「 おう 全部切ったぞ 」
「 そんじゃ このなかにいれてください 」
彼が差し出したボウルの中には 調味料がすでに合わせてあった。
「 はいよ。 ・・・ っと いれたよ 」
「 じゃ さっきすりすり〜 した にんにく と しょうが も。 」
「 ん〜〜〜 入れました 」
「 おっけ〜 で ・・・ まぜる。 んしょ〜〜 」
大きなヘラを 彼は器用に扱いボウルの中身を混ぜ合わせてゆく。
袋に入れてもみもみしたりする方法は 好きではないらしい。
彼は その手には大きすぎるはずのキッチン用品を
実に上手に扱うのだ。
「 へえ ・・・ すばる 上手だねえ〜 」
「 えへへ ・・・ ケーキをつくるときといっしょだよん。
あ すぴか〜〜 ほうれんそう きれた? 」
「 ・・・ ん と あとちょっと。 ・・・えい えい 」
だん だん ! 包丁がまな板を叩いている。
「 すぴか〜〜 ねこさんのて! 」
「 ・・・ あ いっけね〜〜 ねこさん ねこさん ・・っと 」
すぴかも結構器用に ほうれん草を切り分けるのだった。
「 ふっふっふ〜〜 では〜〜 ぐらたん さくせい を始めます。 」
すばるは 一生懸命? 重々しい声で宣言した。
「 お〜い すばるシェフ。 ホワイト・ソースは
お父さんが作ろうか? 」
「 んん〜〜ん。 ほわいと・そ〜す はつくりませ〜ん 」
「 え!? だってグラタン ・・・? 」
「 うん! フライパンの中でいっしょにつくりま〜〜す」
「 一緒に? へええ ・・・ 」
「 そ。 だ〜から あとかたづけ もらくちんです 」
「 ・・ あ な〜るほど 」
「 えっと。 すぴかさん。 おさら、だして。 」
「 おっけ〜〜 ・・・どのおさら? いつもの・・・? 」
「 あ ぐらたん だから スープのがいいな〜 」
「 りょ〜かい! 」
「 お父さんは次に何をしたらいいですか すばるシェフ。 」
「 あ 僕のだい もってきて。 おじいちゃまがつくってくれたヤツ 」
「 だい?? あ あれかあ〜 わかった、今 持ってくるよ 」
ジョーは 可愛い踏み台を持ってきて ガス台の前に設置した。
すばるには 調理するにはガスレンジの台はまだ高い。
彼の料理好きを知って 博士が木製のがっちりしたものを
作ってくれたのだ。
「 っと。 はい〜 ぐらたん つくります〜 」
すばるは 張り切ってフライパンを前に 台に上った。
ジャ −−−−− じゅわああ〜〜〜〜
フライパンは賑やかな音を上げ始め 同時に食欲をう〜〜んと誘う
いい匂いが キッチンに満ちてゆくのだった。
― やがて
タン。 ぷっくりした手がレンジの扉を閉めた。
「 あとは チン まち〜〜 」
「 い〜〜〜におい〜〜〜 アタシ お腹ぺここ〜〜 」
すぴかが 鼻をくんくん・・・させている。
「 ・・・ すばる〜 すごいなあ〜〜
お父さんより料理 上手だよ 〜 」
ジョーはひたすら息子の手際に感心している。
「 ふっふっふ〜〜 で〜は ばなな・しふぉん・けーき
のじゅんびをします 」
「 わい♪ あ すばる〜 あのさあ あんまし甘いのはあ 」
「 わか〜〜ってるう あまさ ひかえめ デス。
僕は ほいっぷ・くり〜む をかけてたべます 」
「 え この上 ケーキも作るのかい? 」
「 でざーと だもん おと〜さん。 」
「 すばる、 このバナナ むく? 」
「 あ うん 全部むいて。
そんでねえ つぶして 」
「 ふんづけるの? 」
「 っが〜〜う! ふぉーくで! 」
「 つんつん・・・ってやるの? 」
「 っが〜〜〜う!! こ〜やってえ〜〜 ぎゅ ぎゅ ぎゅ 」
すばるはフォークの背で バナナを潰す。
「 へ え・・・ 上手だねえ すばる〜〜 」
「 えへへん あ おと〜さんも すぴかのおてつだい してください 」
「 ほいほい すぴか ゆくぞ〜〜 」
「 うん♪ おと〜さん ぎゅ ぎゅ ぎゅううう〜〜〜 」
「 お すぴかも上手だなあ〜〜 いっぱいあるから
二人で頑張ろうな〜 」
「 うん♪ ぎゅ ぎゅ ぎゅ〜〜 」
すぴかはお父さんと一緒の作業で ご機嫌ちゃんだ。
そんな二人を横目に すばるは慎重に粉を計量し 砂糖と卵を用意している。
「 ふう〜〜 なあ すばる〜〜
今日のお昼は ご馳走だねえ 」
「 うん あ お父さん、 みるく・てい つくって。
すぴか〜〜 温室でさあ ぷち・とまと とってきて 」
「「 了解 」」
チキンとほうれん草のグラタン。
ぷち・とまと と レタスのサラダ。 ミルク・ティ
バナナシフォン・ケーキ
それが本日のランチのメニュウなのだ。
土曜のお昼 ― お母さんはお出かけだけど
島村さんち は ちょいと遅くなったけど 皆で作って・味わって
お昼ご飯 を楽しんでいた。
― さて ちょいと時間は遡って ・・
ヨコハマの 張々湖飯店 厨房 では ―
ふぉわああ〜〜〜〜〜 ん ・・・
蒸籠を開ければ 美味しい匂いの湯気が盛大に立ち昇る。
「 ・・・ う〜〜ん いいにおい〜〜 」
「 ほっほ〜〜 でけたで ああ ええ塩梅やな 」
「 そ そう? 」
「 はいナ。 ほな 熱々を頂きまほか 」
「 これ が ちゃわんむし?
食器入りの 卵料理 ・・・って感じね 」
「 ほっほ〜〜 そうやなあ おんや? 」
カタン。 厨房に 三つ揃いのスーツ姿が 颯爽と入ってきた。
「 いやあ〜〜 マドモアゼル。 いつもお美しい 」
グレートは 慇懃に身をかがめると手を差し出した。
「 ご機嫌 麗しゅう 」
「 ふふふ〜〜 相変わらずお上手ねえ ミスタ・ブリテン 」
「 いやいや 吾輩は虚言は申しません。
・・・ところで盛大にいい香がするのですが〜〜〜 」
「 鼻も利くのね ミスタ。 たったいま 茶碗蒸し が
出来上がったところ 」
「 うっほほ〜〜 これはいいところに参上しましたな 」
「 ・・・ 調子 良すぎるがな〜〜
ま たんと作ったで 皆で頂きまひょ
ここではなんですさかい 店の あ〜 個室 空いてまんな? 」
大人は ちょいと声を上げた。
「 あ 店長 すいません、個室予約満杯で 」
店の方から きっちりスーツを着た人物が飛んできた。
彼は 支配人です、よろしく と丁寧に挨拶をした。
「 ほう さよか 」
「 あら 大人、お店の隅っこでいいわ。
あ ジャマかしら 」
「 ええよ ええよ ほな 運びましょか 」
カラカラカラ −−−−
店長自ら ワゴンを押してゆき、三人は賑わっているお店の
隅っこに席をみつけた。
「 ここでええか 」
「 ええ ええ。 張々湖飯店はどこに座っても
気持ちいいわ 」
「 実はなぁ 吾輩はよくこの席に座って ・・・
客人たちを観察しておるのであるよ。 」
「 さすがグレート〜〜 いつでも役者さんなのね 」
「 忝い。 マドモアゼル。 」
「 うふふ もう二人の子持ちのオバチャンですから〜〜 」
「 はいはい 熱々を頂きまひょ 」
ほわああ〜〜〜ん ・・・ 再び美味しい湯気が立ち昇る。
カチン カチャ カチャ カチャ
しばらくは スプ―ンやら箸が蒸茶碗に当たる音だけが 聞こえていた。
! お いし〜〜〜〜〜〜
ほほう〜 絶品であるなあ
ほっほ ようできましたナ
三人は 満足のため息と一緒に 箸とスプーンを置いた。
「 ・・・ すっごく 美味しかったわ・・・! 」
「 逸品なり 」
「 そら よかったわな 」
「 これが 茶碗蒸し なのね 」
そうや、と 料理人はに〜んまり・・・・頷く。
「 作り方 大丈夫かいな 」
「 はい 先生! でも 蒸し器・・・ ウチにはなくて。
大きいの 帰りに買って帰ろうかと 」
「 はん うっとこで使うてない蒸籠あるで、持ってゆき。
年末までに返してくれれば ええで 」
「 え いいの? 」
「 構わん 構わんて。 」
「 ありがとうございます。
あ おだまきむし も 同じ作り方ですか? 」
「 ああ 小田巻蒸し たら こん中に おうどん 入りますな 」
「 まあ おうどん? 美味しそう〜〜〜 」
「 おおきな茶碗が ぴったりですがな。
優しい味になるさかい、お子達が喜びまっせえ 」
「 ええ ええ そうですね!
チビ達の献立にぴったり。 さっそくつくります。
ぽかぽか・・温まっていいわよねえ 」
「 そやなあ この季節にはぴったりやで
コタツで み〜んなで小田巻蒸し がええ。 」
「 ・・・ あ そのコタツ なんですけど。
ちょっと今 < お休み > なのよ。 」
「 はあん? 壊れたのかね?
そなたの背の君なら すぐに直せるであろうが 」
「 グレート、 そうじゃなくて。
コタツがあると そのう〜〜 ついついごろごろしちゃうでしょう?
いろいろ・・・ そのまんまで。 」
「 なんやて? コタツで みんながごろごろ?
・・・そら ちいと行儀わるいけんど ・・・
」
「 この国のコタツ は たいそう魅惑的であるからなあ 」
「 あらあ グレート。 そうお思いになる? 」
「 御意。 コタツがあれば 寒さ厳しい我が母国の冬も
快適にすごせる、と思いますな 」
「 ええ 確かに暖かいんだけど・・・
もうねえ チビ達は中にはいって寝転がったり・・・
宿題も寝そべってやっちゃうのよ 」
「 寝そべる? ははあん・・・ わかるなあ
この国のコタツは 非常に優れた 暖房器具 だと思うぞ。
私見だが 暖炉なんぞは足元にも及ばんよ 」
イギリス人も コタツがお気に召している らしい。
「 だけどね! お行儀悪いし。
だから今 ウチは コタツはお休み なのよ 」
「 はっはっは そりゃ気の毒になあ 」
「 だって。 お食事は楽しく でも ちゃんとマナーも守りたいの。 」
「 ふうむ・・・?
おお それなら テーブル式にしたらどうだね? 」
「 ・・・ え・・・? 」
「 なにやら そのような装置がある、と聞いたぞ
机の脚を伸ばす器具があるらしい。 」
「 そうなの?? わ〜〜 帰りにホーム・センタ― に
寄ってみるわね 」
「 ほっほ〜〜〜 ジョーはんに やってもろたらええ。
どうせお子達と一緒に コタツでごろごろしとるんやろ ? 」
「 ・・・ 当たり。 コタツ、一番喜んでるのよ 彼が。」
「 そやろなあ〜〜 」
「 ま ご家庭円満で なによりであるよ、マドモアゼル。 」
「 ・・・ そう なんだけどぉ〜〜〜 」
フランソワーズは フクザツ〜〜な気分だった。
― そして。
結局 島村さんち のコタツは テーブル式 となった。
コタツ休業 は やはり家族には大不評・・・
「 日本の冬に こたつ は必須! 」
ジョーの主張が通り、子供達もやっと笑顔になった。
茶碗蒸し は 勿論 大好評〜〜〜
カチン カチャ。
ジョーは スプーンをゆっくりと置いた。
「 ・・・ あ〜〜〜 ・・・ 美味かったぁ 」
「 うふふ ・・・ 気に入った? ちゃわんむし。」
「 ものすご〜〜〜〜く! めっちゃウマだあ 」
「 よかったわ。 子供達もぺろり、平らげてくれたのよ 」
「 だろう なあ・・・ 」
う〜〜ん ・・・ ジョーは テーブル式コタツで脚を伸ばす。
「 ・・・ あ〜〜 ・・・ きもちい〜〜
なあ ・・・ これがさ ウチ ってことなんだよね 」
「 え? 」
「 うん ・・・ ああ これが さ。 ぼくのウチ。
ぼくだけの ぼくときみのウチ
・・・ ずっとずっと 欲しかったんだ ずっと ・・・ 」
「 ジョー ・・・ 」
「 フラン。 ありがと 」
天板の上で ジョーは きゅ ・・っと 彼の愛妻の手を握った。
・・・ !
うわ あ ・・・
ああ〜〜 もう 最高!
手を繋いだだけなのに。
フランソワーズは心の奥から身体の芯から 熱い想いがこみ上げていた。
― ちょいとおまけ。
数日後の午後・・・
「 おと〜さん。 今日さ おか〜さん かえり、おそい? 」
「 ああ リハ―サルだからね〜 晩ご飯はお父さんが 」
「 僕がやる!!! 」
「 あ〜 すばる おねがい〜〜 アタシさあ
この前のぉ ほうれん草ととり肉のぐらたん がいいなあ 」
「 お。 お父さんもあれ また食べたいぞ〜 」
「 おっけ〜〜〜♪ 」
でも さ。 その前に〜〜〜
パチン パチン パチン。 ジョーは テーブルの脚を操作した。
さあ〜〜〜 コタツにしよ!!!
うわ〜〜〜い♪♪♪
父と子供達は コタツ布団の中に潜りこみ〜〜 顔だけだして ・・
あったか〜〜〜〜〜い ・・・・
おおさむ こさむ の日には やっぱりコタツ! なのである。
****************************** Fin. *******************************
Last updated : 12,08,2020.
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*************** ひと言 *************
コタツ・みかん は 日本の誇るべき!冬文化♪
隣に にゃんこ が寝ていれば ますますぐっど(^^♪
テーブル式より 掘りごたつ が 好きかも (*^_^*)