『 屋根の上  ― (2) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

  § 乙女 ・ フランソワーズ  ( 承前 ) 

 

 

  ふぅ〜〜〜〜〜   乙女がひとり、窓辺で吐息をもらす・・・

 

金色の髪を さらりさらさら ・・・ 春浅い風が揺らしてゆく。

 ― 一見 ろまんちっく な光景なのだが。  肝心の乙女は 膨れっ面だ。

 

「 ふ 〜〜〜  ん  ・・・だ。  お兄ちゃんってばぁ〜〜〜

 あんなにさ コドモみたいに怒らなくてもいいじゃない〜〜〜  ぷん☆ 

膨れっ面な彼女は カーテンをいじくりつつ スカートの裾をひっぱった。

 

 

 ― 兄は さんざん説教をして 出かけていった。

 

幾つになったと思っているのか  とか  若い女性としてみっともない とか 

だいたい あんなところに登るなんて信じられない とか  落ちたらどうする とか

・・・・

 

「 はいはい 」  「 わかりました  」  「 すいません  」  

「 もうしません  」  「 わかりました 」

 

同じ言葉を順番に繰り返し ― 後はココロの耳センをした。

 

   ・・・ そりゃ ・・・ 危なかったかも ・・・

   でもぉ〜〜〜  新しい風をね 迎えたかったのよぉ〜

 

   だってね  ―  空の高いとこに 春が見えたのよ ちょっぴり ね

 

「 わかったか!  もう〜〜〜 いい加減で子供じみたこと、やめろよ。 」

「 ・・ は〜〜い 

兄は もうどうしようもないなって顔で ふか〜〜〜いため息を吐いた。

「 ・・・・・ 」

「 ファン。  お前な いくつになったかよ〜〜〜く考えるんだな。

 それに ダンサーにとって 脚 は大切な商売道具 なんだろ?

 余計なことやって 商売道具 傷めたりしたらどうするんだ 」

「 ・・・ あのくらいじゃ どうもしないわよ。 」

「 なんだって。 」

「 ・・・ い〜え。 」

「 わかったな!!  今 考えなくちゃいけないのは 次のオーディションだろ!

 お前 昨日そう言ってたじゃないか 

「 ・・・ う ん ・・・ 」

「 わかったら。 もう二度と 屋根になんかのぼるな 

 俺には 妹 はいるが 弟 はいないぞ!! 」

「 はい。 アルヌールさんとこは 兄と妹デス 」

「  ―  いいな!  俺の留守中も 」

「 はいはい もう よ〜〜〜くわかりました、 どうぞ安心して 

 次の任務についてください。  フランス空軍の人的資源の損失に

 なってほしくありません。 」

「 よし。  ― 行ってくる。 

「 はい いってらっしゃい。 お兄さん 」

「 ふん。 」

兄は まだ半分雷雲みたいな雰囲気で 出かけていった。

 

「 いってらっしゃい〜〜〜 」

妹は 窓から慎ましく手を振り兄を見送った。

 そして 兄の姿が角の向こうに消えたとき 

 

    ふぁ〜〜〜〜〜〜〜ああああ  !!!

 

フランソワーズは 両手を大きく上げて欠伸をした。

「 ・・・ ふ〜〜〜ん だ。  もう ウルサイったら〜〜 」

ばさばさばさ。  スカートを大きく振り回す。

「 だってね。 なんか こう・・・ 屋根の上って ステキじゃない?

 すっきりするっていうか ・・・ 自分の気持ちがはっきりわかるわ。 

 そうよね〜〜 アーティストには必要な刺激だわ。  よし! 

彼女は ささ・・・っとジーンズに履きかえると 再び窓わくに足を掛けた。

「 よ・・・っと。 あ こっちなら下から見えないわね〜〜

 う〜〜〜ん アチチュード バランス!  わたしは 16歳のオーロラよ〜 」

屋根の上で ローズ・アダージオ を踊り始めた。

「 〜〜〜〜 !! っ! 」

最後のマチネは 流石に止めたけれど トリプル・ピルエットはちゃんと決めた。

「 ふぅ〜〜〜 ・・・・  空で踊れたら いいな ・・・

 ほ〜〜ら こんなに自由だわ  こんな風に 踊ってゆきたいな〜〜 

 屋根の上って ふふふ ・・・ なんか不思議ね♪  」

 

 

 ― 自由な空 を のんびり眺めたのは  その日が最後となった。

 

 

 

 

  § ちび ・ すぴか  ちび ・すばる

 

 

「 〜〜 おか〜さん おうた うたってぇ〜〜 」

母と同じ色の 大きな瞳がじ〜〜〜っとこちらを見あげている。

「 え・・・ お歌? もう沢山歌ってあげたでしょう? 」

「 もっとぉ〜〜〜 」

「 う〜〜ん  すばる はよ〜くネンネしてるから ・・・ お歌はおやすみ。 」

「 すばる おきないもん。 ね〜〜 おうたぁ〜〜 」

「 お母さんね 知ってるお歌 もうぜ〜〜〜んぶうたっちゃったわ?

 ね すぴかさん。 お目目を閉じて? ネンネしましょう? 」

「 ・・・ ん〜〜〜 ねむくな〜〜い〜〜〜 」

「 ・・・ おかあさん もう眠いわあ 〜 」

フランソワーズは 大きな欠伸をして目を閉じてみせた。

「 ! だめぇ〜〜〜 おかあさん だめぇ〜〜〜 」

  ごそ!!  彼女の小さな娘は 布団から抜け出し母の腕にぶらさがってきた。

「 あ〜らら ・・・ だめよ、すぴかさん。 ほらおふとんにもどって? 」

「 ん〜〜〜〜 じゃあ お歌ぁ〜〜〜 」

 

    ふう ・・・・・  

 

「 じゃあ ・・・ さっき歌ったのでもいいでしょ? 」

「 うん♪ おうた〜〜〜 

「 ・・・ はいはい ・・・ 

フランソワーズはため息をつき 小声で歌い始めた。

 

ジョーと結婚し なんと双子の子供たちを授かった。

もう信じられないほどのシアワセに フランソワーズだけじゃなく

ジョーも 感涙に浸り、最高の日々♪ と 喜びあった。

 

  けど。 それは 幸せと一緒にとんでもない日々の到来であった・・・

 

双子のコドモ達は 眠っている時には天使だったけど ― ぐずり始めると

 もう 地獄の使者 にヘンシンするのだ。

 

元気いっぱいな姉娘・すぴか は いつも元気いっぱい、 ゴハンをいっぱい食べ

お外を駆けまわり遊び 夜はことん・・・! と眠る のだが。

たま〜〜〜に   そう 今晩みたいに いつまで〜〜〜〜も おっきなお目目を

ぱっちり開いている時があるのだ。

 

フランソワーズは 本箱の端から端までの絵本を読み 知ってる限りの歌を

( 日本語もフランス語も ) 歌っても すぴかの碧い瞳は一向に

瞑ってくれない。

「 すぴかさん。 お目目 つぶってごらんなさい?

 ほ〜〜ら ・・・ ねむ〜くなってきて ・・・ 」

「 ねむ〜くならない アタシ !  」

一瞬 閉じてくれた大きな目は すぐにまたぱっちりと開いてしまう。

「 すぴかさん。 明日は公園に行く約束ね。

 だから 今晩はた〜〜くさんネンネして 明日の朝 元気に起きて

 元気に公園に行きましょう。 」

「 アタシ 元気!  いっつもげんき! 」

「 ・・・ そうよねえ ・・・ すぴかさんは いっつも元気だわねえ  」

「 うん! だから〜〜〜 おかあさん おうた うたってぇ〜 」

「 いま 歌ったでしょう?   おかあさん 眠いなあ〜〜 

 ねむ ねむ〜〜〜 ・・・ すぴかさんのベッド、借りてもいい? 」

「 いいよ〜〜  アタシ おっきするから〜〜   

すぴかは 大喜びでべッドからずり降りようとした。

「 ! ・・・ いいわ やっぱり。  お母さんはお母さんのベッドで

 眠ります 

「 アタシのべっど、 おか〜さん ねていいよ〜 」

「 ・・・ ありがと ・・・・  ほら 入って・・・ 」

母は慌てて小さな娘を お布団の中に押し込んだ。

 

    ふぅ〜〜〜〜  ・・・ こっそり、のつもりが盛大なため息が漏れてしまった

 

「  おやおや ・・・ 大きなため息だなあ〜 」

コドモ部屋の戸口で 彼の声がした。

「 !  ジョー ・・・ お帰りなさい〜〜 

 ごめんなさい、 気がつかなくて・・・ 」

「 あ〜〜〜〜 おと〜さん!!  わ〜〜〜い 」

「 あ すぴか〜〜 

ジョーとフランソワーズの小さな娘は あっという間にベッドからすべり下りて

父親の脚に飛び付いた。

「 おと〜さん 〜〜〜  ね〜〜〜 あそぼ〜〜〜 

「 え〜〜 すぴかはもうネンネの時間だろう? ねえ お母さん 

「 そうなんだけど ・・・ もうちっともじっとしていないのよ・・・

 ねえ すぴかさん お父さんが側にいてくれたらネンネできますか 」

「 う〜〜〜 アタシ〜〜〜 おと〜さんとあそぶぅ〜〜〜 」

ぱっちり開いた碧い瞳には 微塵も眠気の精は感じられない。

「 そっか〜〜〜 すぴかはお父さんと遊びたいのか 」

「 うん!!!  あそぼ〜〜 おと〜さん 

「 そっか。 それじゃ・・・ 」

ジョーは自分のセーターを脱ぐと ずぼ・・・っと娘に着せた。

「 うわお〜〜〜  ぶかぶかあ〜〜〜 」

「 そうだねえ  夜はまだまだ冷えるし ・・・・

 さあ これから ちょっと・・・ < おでかけ > しよっか 」

「 おでかけ?? 今から?? 」

娘より 母親の方が驚いて声を上げた。

「 うん。 フラン、きみも一緒に行こうよ。 あ〜〜 すばるは 」

「 一緒って・・・ あ すばるはぐっすり眠っているから ・・・ 

 そっとしておいてやって・・・ 」

「 そっか〜〜 それじゃ ・・・ 皆で屋根裏部屋へgo! 

 あ フラン ・・・ すばるのこと < 見て > てやってくれ 」

「 了解。 でも 屋根裏へ < おでかけ > なの? 

「 い〜や。 そうだな〜 きみもコート、着ておいで。 

「 コート?? 

「 そ。 夜は冷えるからね〜〜〜  さあ 行こう。 」

「 ??? 」

フランソワーズは 首をひねりつつ娘を抱いたジョーの後を着いていった。

 

 

   ガッタン。  きぃ〜〜〜〜〜 ・・・・

 

少々耳障りな音とともに その窓は開いた。

「 よし ・・・ さあゆくよ 」

ジョーは 振り向くと に・・・っと笑った。

「 うふ ・・・ 了解〜〜 ああ ここから出られるのね 〜 」

「 そういうこと。 先に出るから きみ、すぴかを持ち上げてくれ。 」

「 オッケ〜  さあ すぴか 高い たか〜〜〜い〜〜〜〜〜 」

「 きゃわ〜〜〜〜〜〜♪ 

「 ばんざ〜〜い してそのままね。 

「 ばんじゃ〜〜〜い  えい! 

「 そうよ。  ジョー ?  いい? 」

「 お 〜〜 し ・・・  すぴか 〜〜 」

「 おと〜さ〜〜ん アタシ ばんじゃ〜〜〜い ! 」

屋根裏部屋の天窓から ジョーとフランソワーズは娘をつれて乗り出す。

 

   がたがた  ごとん。  屋根が鳴る。

 

「 ほら ・・・ よ・・いしょ・・・ 大丈夫? 」

「 え〜〜い っ!  うん おかあさん  わああ〜〜〜〜 

「 どうだい すぴか。 

「 おとうさんっ すごい すごい〜〜〜 お星さま とれそう〜〜〜 」

すぴかは 怖がる様子もなく天にむかって両手を伸ばした。

「 すご〜〜〜 い〜〜っぱい!  えいっ えい 〜〜〜 

「 おっと ここでぴょん ぴょん はダメだよ。 こっちおいで 

「 うん 

ジョーは 娘を抱き屋根の中央付近まで行った。

「 よっしょ・・・っと。  わあ〜〜〜 ホント すごい星空ねえ 」

「 だろ?  ここって ・・・ 最高だよね 

後から出てきたフランソワーズも 夜空に見とれている。

「 さあ すぴか 三人で星見 しよう。 」

「 うん!  おか〜さん  ・・・ あ  すばる は?? 」

腰を浮かしていたフランソワーズは 足を止めた。

「 え・・・? 」

「 おか〜さん  すばる。 すばる いないよ? 」

「 すばるはネンネしているんだよ〜 」

「 ・・・ すばる〜〜〜 すばる はぁ〜〜 」

元気印のすぴかの瞳に みるみる涙が盛り上がってきた。

「 やっぱり すばる 連れてくる! 

「 え・・・ 寝てるんだろ? 」

「 うん。 でも 一緒にこの星 ・・・ 見せたげたいの。 ね〜すぴか。

 一緒がいいよね  」

「 ん〜〜  すばるといっしょ  」

「 ね♪ ジョー  すぴか をお願いね 」

「 ふぁ〜〜〜〜 」

すぴかが 大きな欠伸をした。

「 うん。 ・・・ あ なんか 眠そうだよ? 」

「 あらら ・・・うふふ いいことよ  眠っちゃったらそのままにしておいてね 」

「 了解  すぴか ほら お父さんの膝においで  

「 ん 〜〜〜 ・・・ ふぁ 〜〜〜  」

すぴかは ジョーの膝に登ると こっくりこっくりしはじめた。

「 おやおや ・・・ もうすぐすばるがくるよ? 」

「 ・・・ ん ・・・ す ばるぅ〜〜〜 」

「 ネンネするかい?  」

「 ・・・ んん〜〜 すばる ・・・ 」

「 よしよし それじゃ ほら お星さま キレイだよ? 

 すぴかのお星さま さがそうか。 」

「 アタシのおほしさま? 」

「 そうだよ〜 すぴか も すばる も 星の名前なんだよ 」

「 ふ〜〜ん ・・・ あ おか〜さん! 」

 

  カタ。  フランソワーズが毛布の包み ― いや すばる を抱っこしてやってきた。

 

「 あ  呼んでくれれば  行ったのに  」

「 大丈夫。  コアラみたいにくっついてごらん っていったら ピタリ。

 余裕で屋根に出られたわ。 ね すばる ? 」

「 う  ・・・ うん ・・・ ここ どこ 」

フランソワーズの腕の中から すばるの声が聞こえた。

「 すばる 見てごらん。 上 ・・・ お星さまだよ〜 」

「 ・・・ おほしさま ・・・?    うわ ・・・ 」

「 すぴか?  起きてるかい。 すばる、きたよ 

「 ・・ う   うにゅぅ〜〜 」

「 はは ・・ やっぱりおねむかなあ〜  フラン もっとくっつけよ

 チビたちを真ん中にして さ 」

「 ええ ・・・ ふふふ〜〜 温かいわね 」

「 うん。 ああ 本当に綺麗な星だなあ ・・・ 」

ジョーは チビ達の背にまわしつつ 空を仰ぐ。

「 ふふふ・・・ すぴかは あらら ネンネしちゃったし・・・

 すばるも 沈没よ 

「 だろうな。  ・・・ あ  流れ星 ・・・ 」

「 どこ? 」

「 あっち、 西の方 ・・・ 」

「 ・・・ 見損ねたわ ・・・ でもいいわ。  あんまり見たくないもん 」

「 え   そう ? 

「 ・・・ わかってるクセに。  」

「 ・・・ ごめん。 」

「 いいけど。  いま ジョーはわたしの隣にいるわ。 コドモ達もいる。

 幸せな気分で 流れ星を眺められるわ。 

「 ん ・・・ 屋根の上って さ ・・・ 」

「 え? 

「 なんか  トクベツだと思わないかい? 」

「 あ  ジョーもそう思う? 」

「 うん。  ・・・ きみも? 」

「 そうなんだけど ・・・  屋根の上 って ね 

「 そうだよねえ  」

ジョーもフランソワーズも 温かい愛のカタマリを間に だまって星を見上げるのだった。

  

うふふ ・・・   くすくすくす・・・

  

    ねえ ―  屋根の上 って ・・・ さ。  

    ええ。 屋根の上って ね。

 

 

 

 

  § すぴか ・ すばる    明日へ  

 

 

 

   ゆさゆさ  ゆさ ・・・

 

「 ・・・ う?  ・・・ 」

ジョーは 夢うつつのまま ぼ〜〜〜っと薄目を開けた。

「 ・・・ なん か  ゆれ  てる ・・・? 」

「 わたしが揺らしてるの。  ジョー ・・・ 起きて 」

「 ・・・ う ・・・?  あ ・・・ああ フラン かぁ・・・ 」

目の前に 彼の愛するヒトの顔が迫っていた。

「 フランかぁ じゃないわよぉ〜〜 ね 起きて ジョー。 」

「 あ ああ  ウチにいるんだあ・・・  なんだ・・ よ ・・・・ 」

眠気に負けて ジョーはコシコシ〜〜 眼をこすっている。

「 どこで寝てるつもりなのよ??? ・・・ ま いいわ。

 ねえ ジョー。 屋根の上に  なんかいる わ 」

「 ・・・へ???  な なに・・? 」

「 ん〜〜〜〜 

フランソワーズは 横たわったままじ〜〜〜っと天井を見つめている。

「 ! すぴか! 

「 すぴかぁ?? 」

「 そ。 屋根の上に すぴか! 

「 え?? だって あそこには屋根裏部屋からしかでれないぜ?

 天窓は もうずっと前に閉じたはずだよ 」

「 ちがうの、東側の屋根にいるのよ 」

「 ど どうやって登ったんだ〜〜 

「 ・・・ん〜〜〜 まって。 詳しく見て みるから・・・・  」

闇の中 ― 003 の 瞳が光る。

「 ・・・・ ! わかった! テラスの柵からよじ登ったんだわ 」

「 !  冗談じゃあないよっ! すべったら・・・ ぺしゃんこ だぜ??

 っとに〜〜〜〜 あのお転婆〜〜〜〜〜 」

ジョーは 飛び起きるとパジャマのまま部屋から飛び出していった。

「 ジョー パジャマのまま ・・・・ あ〜あ いっちゃった・・・ 」

 

 

  カタン カタ ・・・

 

「 ? 」

ぼ〜〜っと寝転がっていたすぴかは 顔を音の方に向けた。

「 こ〜の お転婆〜〜〜 」

「 ? あ ・・・ お父さん・・・ 」

言葉とは裏腹に ジョーは静かに娘の隣に座った。

「 おい〜〜〜 どっから出てきた 」

「 え ・・・ あ〜アタシの部屋 テラスから ・・・ 」

「 危ないぞ おい 」

「 へいき。 慣れてるもん。 」

「 な 慣れてる?? 」

 

  ギシ。 屋根が鳴った。

 

「 おとうさん! 暴れない方がいいと思うよ 」

「 ・・・ ・・・ 」

「 ね すばるは 」

「 寝てるだろ アイツ 爆睡〜〜って 」

「 ふん そうだよね  チビの頃からさ、アイツってば一回

 寝ちゃうと〜〜 もう絶対起きないもん 」

「 あはは  よく寝坊してるよなあ 

「 うん ・・・ 」

「 ・・・ すぴか。 どうした 」

「 ・・・え?? 」

「 ここにいる理由だよ。 」

「 うん ・・・ 

「 屋根の上で こう〜〜 ・・・ 空を見たくなるってナンかある時だろ 」

「 お父さんはそうなの? 」

「 え・・・ あ〜〜〜 まあ な。

 うん。 チビの頃からお父さんの < ひみつきち > だった・・・ 」

「 へえ・・・ すばるたちみたい 

「 は ・・・ オトコの子なんてみんなそんなモンさ。

 で ウチのお嬢さんは どうしたのかな 」

ジョーは娘の隣で 星を見上げつつ聞いた。

「 うん ・・・ お父さん。 アタシ さ。  ― 行ってもいい 」

「 ・・・ どこ へ 」

「 うん ・・・ あの さ。  お母さんの国へ ・・・ 」

「 旅行・・・じゃないな。  留学 か 」

「 ウン ・・・ アタシさ。 お母さんの子なのにお母さんの国のこととか

 全然知らないんだ。  お母さんはさ こんな遠い国まで来てるのに 

「 ・・・ そうだなあ 」

「 お父さん。 どう思う? 」

「 すぴか。  お父さんもな、こんな風に屋根の上でもらったコトバがあるんだ。 」

「 ことば? 」

「 ウン ・・・ ジョー   君はどこにでも飛んでゆけるのですよ ってな。 」

「 ・・・ そっか ・・・ 」

「 すぴかに同じ言葉をあげる。 」

「 おと〜さん ・・・ ! 」

「 うぉっとぉ〜〜〜 」

  がばっと抱き付いてきた娘を ジョーは最高に愛おしく抱き留めた。

 

   ギシ  ・・・ ガタン。  屋根が鳴る。

 

「 ?? だ だれ?? 」

「 まるきこえ 」

ジョーとすぴかの横に ひょろん〜とした少年が立っていた。

「 ! すばる!!  なんで?? 」

「 忘れてない?  俺の部屋 ここの真下。 窓開けてたら さ〜〜〜

 すぴかの声 丸聞こえ。 」

「 ・・・ ! 」

「 俺 爆睡なんかしてね〜よ 」

「 あはは それも聞こえたんだ〜〜 」

「 あったりまえ〜〜 」

「 すばるは どう思うのかい 」

「 どう・・って すぴかの希望のこと? 」

「 そうだよ。 来年は二人とも高校受験だろ 」

「 え  そりゃ    ま〜 ・・・  思い通りやればいいじゃん。 

「 そっか。 すばるは。 

「 俺?  ・・・ う〜〜ん まだ未定ってとこかな 

「 まあ ゆっくり考えてみろよ。  たまにだったら屋根の上で考えてもいいぞ。」

「 俺は部屋の中でいい。 

「 あは〜〜〜 すばるってば恐いんだあ??  や〜〜い 弱虫〜〜  

「 っだとぉ〜〜〜  

「 こら  屋根の上で姉弟ケンカなんかするなよ。 マジ危険! 

「 ・・・ あ  うん ・・・ 

「 ごめん ・・・ 」

「 さあ 戻ろう。 お母さんが心配してるよ ・・・ 全部聞いてるだろうけど 」

「 え  なに?? 

「 いや なんでもない。 さ〜〜 戻って熱いミルク・ティでも飲もう。 」

「「 うん  」」

 

  ギシ ギシ ・・・ ギシ ・・・・  屋根の上から人影は消えた。

 

≪  ねえ ジョー。    屋根の上って ・・・ ≫

≪  フラン。    そうだな。 屋根の上って。 ≫

 

こっそり交わされた < 会話 > を 聞いたのは星たちだけだったかもしれない。

 

     

 

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  ガタ  ガタン  ・・・ ゴト ・・・!

 

「 うわ ・・・ !  」

「 気をつけて!  なにせ築50年以上だから ・・・ 」

「 ああ ・・・ やっぱもう取り壊し時期だったんだな 

「 そう ね ・・・ あ まだココ 平気みたいよ 」

「 ウン。 よっこらせ・・・ 」

古い家の古い物干し台に 初老の姉弟は並んで座り込んだ。

「 へえ ・・・ ここいらも高いビルとか増えたんだなア 」

「 そうねえ  ムカシはもっと空が広かったね 」

「 ああ ・・・ 」

 

明日 姉弟の実家であるこの古家は 取り壊し工事が始まる。

もう何年も空き家になっていた。

取り壊しの前夜 二人は久々実家にやってきたのだった。

 

「 ・・・ そういえばさ チビのころ 二人でよくここに上ったよな〜

 それも夜にさ 」

「 そうそう・・・  もうちょっと星が見えたよね。 」

「 ウン。  ―  あ! 」

「 え?    あ ・・・  流れ星 ! 」

「 ・・・ ん ・・・ 

 

「 ふふ ・・・ 何ねがったの  カズちゃん  

弟は ちらっと姉の方を見た。

「 は ・・・ カズちゃん  か 

「 あ  ごめん  つい ・・・・ 」

「 いいさ ・・・うん ・・・?    うん・・・    ありがとう   って さ  」

「 そう ・・・ 」

「 お姉ちゃん は。 

「 アタシ?  アタシは ね  ・・・  ふふ    ありがとうございます  って  」

「 ・・・ そっか ・・・ 」

「 そうだよ ・・・ 」

 

              そう  屋根の上 って  ね ・・・。

 

 

******************************      Fin.     *********************************

Last updated : 09,05,2017.                  back       /      index

 

 

*****************   ひと言  **************

原作 も 平ゼロ も  あのシーン 大好き♪

009 は あのシーンのために存在するのかも・・・