『 屋根の上 ― (2) ― 』
§ 乙女 ・ フランソワーズ ( 承前 )
ふぅ〜〜〜〜〜 乙女がひとり、窓辺で吐息をもらす・・・
金色の髪を さらりさらさら ・・・ 春浅い風が揺らしてゆく。
― 一見 ろまんちっく な光景なのだが。 肝心の乙女は 膨れっ面だ。
「 ふ 〜〜〜 ん ・・・だ。 お兄ちゃんってばぁ〜〜〜
あんなにさ コドモみたいに怒らなくてもいいじゃない〜〜〜 ぷん☆ 」
膨れっ面な彼女は カーテンをいじくりつつ スカートの裾をひっぱった。
― 兄は さんざん説教をして 出かけていった。
幾つになったと思っているのか とか 若い女性としてみっともない とか
だいたい あんなところに登るなんて信じられない とか 落ちたらどうする とか
・・・・
「 はいはい 」 「 わかりました 」 「 すいません 」
「 もうしません 」 「 わかりました 」
同じ言葉を順番に繰り返し ― 後はココロの耳センをした。
・・・ そりゃ ・・・ 危なかったかも ・・・
でもぉ〜〜〜 新しい風をね 迎えたかったのよぉ〜
だってね ― 空の高いとこに 春が見えたのよ ちょっぴり ね
「 わかったか! もう〜〜〜 いい加減で子供じみたこと、やめろよ。 」
「 ・・ は〜〜い 」
兄は もうどうしようもないなって顔で ふか〜〜〜いため息を吐いた。
「 ・・・・・ 」
「 ファン。 お前な いくつになったかよ〜〜〜く考えるんだな。
それに ダンサーにとって 脚 は大切な商売道具 なんだろ?
余計なことやって 商売道具 傷めたりしたらどうするんだ 」
「 ・・・ あのくらいじゃ どうもしないわよ。 」
「 なんだって。 」
「 ・・・ い〜え。 」
「 わかったな!! 今 考えなくちゃいけないのは 次のオーディションだろ!
お前 昨日そう言ってたじゃないか 」
「 ・・・ う ん ・・・ 」
「 わかったら。 もう二度と 屋根になんかのぼるな
俺には 妹 はいるが 弟 はいないぞ!! 」
「 はい。 アルヌールさんとこは 兄と妹デス 」
「 ― いいな! 俺の留守中も 」
「 はいはい もう よ〜〜〜くわかりました、 どうぞ安心して
次の任務についてください。 フランス空軍の人的資源の損失に
なってほしくありません。 」
「 よし。 ― 行ってくる。 」
「 はい いってらっしゃい。 お兄さん 」
「 ふん。 」
兄は まだ半分雷雲みたいな雰囲気で 出かけていった。
「 いってらっしゃい〜〜〜 」
妹は 窓から慎ましく手を振り兄を見送った。
そして 兄の姿が角の向こうに消えたとき
ふぁ〜〜〜〜〜〜〜ああああ !!!
フランソワーズは 両手を大きく上げて欠伸をした。
「 ・・・ ふ〜〜〜ん だ。 もう ウルサイったら〜〜 」
ばさばさばさ。 スカートを大きく振り回す。
「 だってね。 なんか こう・・・ 屋根の上って ステキじゃない?
すっきりするっていうか ・・・ 自分の気持ちがはっきりわかるわ。
そうよね〜〜 アーティストには必要な刺激だわ。 よし! 」
彼女は ささ・・・っとジーンズに履きかえると 再び窓わくに足を掛けた。
「 よ・・・っと。 あ こっちなら下から見えないわね〜〜
う〜〜〜ん アチチュード バランス! わたしは 16歳のオーロラよ〜 」
屋根の上で ローズ・アダージオ を踊り始めた。
「 〜〜〜〜 !! っ! 」
最後のマチネは 流石に止めたけれど トリプル・ピルエットはちゃんと決めた。
「 ふぅ〜〜〜 ・・・・ 空で踊れたら いいな ・・・
ほ〜〜ら こんなに自由だわ こんな風に 踊ってゆきたいな〜〜
屋根の上って ふふふ ・・・ なんか不思議ね♪ 」
― 自由な空 を のんびり眺めたのは その日が最後となった。
§ ちび ・ すぴか ちび ・すばる
「 〜〜 おか〜さん おうた うたってぇ〜〜 」
母と同じ色の 大きな瞳がじ〜〜〜っとこちらを見あげている。
「 え・・・ お歌? もう沢山歌ってあげたでしょう? 」
「 もっとぉ〜〜〜 」
「 う〜〜ん すばる はよ〜くネンネしてるから ・・・ お歌はおやすみ。 」
「 すばる おきないもん。 ね〜〜 おうたぁ〜〜 」
「 お母さんね 知ってるお歌 もうぜ〜〜〜んぶうたっちゃったわ?
ね すぴかさん。 お目目を閉じて? ネンネしましょう? 」
「 ・・・ ん〜〜〜 ねむくな〜〜い〜〜〜 」
「 ・・・ おかあさん もう眠いわあ 〜 」
フランソワーズは 大きな欠伸をして目を閉じてみせた。
「 ! だめぇ〜〜〜 おかあさん だめぇ〜〜〜 」
ごそ!! 彼女の小さな娘は 布団から抜け出し母の腕にぶらさがってきた。
「 あ〜らら ・・・ だめよ、すぴかさん。 ほらおふとんにもどって? 」
「 ん〜〜〜〜 じゃあ お歌ぁ〜〜〜 」
ふう ・・・・・
「 じゃあ ・・・ さっき歌ったのでもいいでしょ? 」
「 うん♪ おうた〜〜〜 」
「 ・・・ はいはい ・・・ 」
フランソワーズはため息をつき 小声で歌い始めた。
ジョーと結婚し なんと双子の子供たちを授かった。
もう信じられないほどのシアワセに フランソワーズだけじゃなく
ジョーも 感涙に浸り、最高の日々♪ と 喜びあった。
けど。 それは 幸せと一緒にとんでもない日々の到来であった・・・
双子のコドモ達は 眠っている時には天使だったけど ― ぐずり始めると
もう 地獄の使者 にヘンシンするのだ。
元気いっぱいな姉娘・すぴか は いつも元気いっぱい、 ゴハンをいっぱい食べ
お外を駆けまわり遊び 夜はことん・・・! と眠る のだが。
たま〜〜〜に そう 今晩みたいに いつまで〜〜〜〜も おっきなお目目を
ぱっちり開いている時があるのだ。
フランソワーズは 本箱の端から端までの絵本を読み 知ってる限りの歌を
( 日本語もフランス語も ) 歌っても すぴかの碧い瞳は一向に
瞑ってくれない。
「 すぴかさん。 お目目 つぶってごらんなさい?
ほ〜〜ら ・・・ ねむ〜くなってきて ・・・ 」
「 ねむ〜くならない アタシ ! 」
一瞬 閉じてくれた大きな目は すぐにまたぱっちりと開いてしまう。
「 すぴかさん。 明日は公園に行く約束ね。
だから 今晩はた〜〜くさんネンネして 明日の朝 元気に起きて
元気に公園に行きましょう。 」
「 アタシ 元気! いっつもげんき! 」
「 ・・・ そうよねえ ・・・ すぴかさんは いっつも元気だわねえ 」
「 うん! だから〜〜〜 おかあさん おうた うたってぇ〜 」
「 いま 歌ったでしょう? おかあさん 眠いなあ〜〜
ねむ ねむ〜〜〜 ・・・ すぴかさんのベッド、借りてもいい? 」
「 いいよ〜〜 アタシ おっきするから〜〜
」
すぴかは 大喜びでべッドからずり降りようとした。
「 ! ・・・ いいわ やっぱり。 お母さんはお母さんのベッドで
眠ります 」
「 アタシのべっど、 おか〜さん ねていいよ〜 」
「 ・・・ ありがと ・・・・ ほら 入って・・・ 」
母は慌てて小さな娘を お布団の中に押し込んだ。
ふぅ〜〜〜〜 ・・・ こっそり、のつもりが盛大なため息が漏れてしまった
「 おやおや ・・・ 大きなため息だなあ〜 」
コドモ部屋の戸口で 彼の声がした。
「 ! ジョー ・・・ お帰りなさい〜〜
ごめんなさい、 気がつかなくて・・・ 」
「 あ〜〜〜〜 おと〜さん!! わ〜〜〜い 」
「 あ すぴか〜〜 」
ジョーとフランソワーズの小さな娘は あっという間にベッドからすべり下りて
父親の脚に飛び付いた。
「 おと〜さん 〜〜〜 ね〜〜〜 あそぼ〜〜〜 」
「 え〜〜 すぴかはもうネンネの時間だろう? ねえ お母さん 」
「 そうなんだけど ・・・ もうちっともじっとしていないのよ・・・
ねえ すぴかさん お父さんが側にいてくれたらネンネできますか 」
「 う〜〜〜 アタシ〜〜〜 おと〜さんとあそぶぅ〜〜〜 」
ぱっちり開いた碧い瞳には 微塵も眠気の精は感じられない。
「 そっか〜〜〜 すぴかはお父さんと遊びたいのか 」
「 うん!!! あそぼ〜〜 おと〜さん 」
「 そっか。 それじゃ・・・ 」
ジョーは自分のセーターを脱ぐと ずぼ・・・っと娘に着せた。
「 うわお〜〜〜 ぶかぶかあ〜〜〜 」
「 そうだねえ 夜はまだまだ冷えるし ・・・・
さあ これから ちょっと・・・ < おでかけ > しよっか 」
「 おでかけ?? 今から?? 」
娘より 母親の方が驚いて声を上げた。
「 うん。 フラン、きみも一緒に行こうよ。 あ〜〜 すばるは 」
「 一緒って・・・ あ すばるはぐっすり眠っているから ・・・
そっとしておいてやって・・・ 」
「 そっか〜〜 それじゃ ・・・ 皆で屋根裏部屋へgo!
あ フラン ・・・ すばるのこと < 見て > てやってくれ 」
「 了解。 でも 屋根裏へ < おでかけ > なの? 」
「 い〜や。 そうだな〜 きみもコート、着ておいで。 」
「 コート?? 」
「 そ。 夜は冷えるからね〜〜〜 さあ 行こう。 」
「 ??? 」
フランソワーズは 首をひねりつつ娘を抱いたジョーの後を着いていった。
ガッタン。 きぃ〜〜〜〜〜 ・・・・
少々耳障りな音とともに その窓は開いた。
「 よし ・・・ さあゆくよ 」
ジョーは 振り向くと に・・・っと笑った。
「 うふ ・・・ 了解〜〜 ああ ここから出られるのね 〜 」
「 そういうこと。 先に出るから きみ、すぴかを持ち上げてくれ。 」
「 オッケ〜 さあ すぴか 高い たか〜〜〜い〜〜〜〜〜 」
「 きゃわ〜〜〜〜〜〜♪ 」
「 ばんざ〜〜い してそのままね。 」
「 ばんじゃ〜〜〜い えい! 」
「 そうよ。 ジョー ? いい? 」
「 お 〜〜 し ・・・ すぴか 〜〜 」
「 おと〜さ〜〜ん アタシ ばんじゃ〜〜〜い ! 」
屋根裏部屋の天窓から ジョーとフランソワーズは娘をつれて乗り出す。
がたがた ごとん。 屋根が鳴る。
「 ほら ・・・ よ・・いしょ・・・ 大丈夫? 」
「 え〜〜い っ! うん おかあさん わああ〜〜〜〜 」
「 どうだい すぴか。 」
「 おとうさんっ すごい すごい〜〜〜 お星さま とれそう〜〜〜 」
すぴかは 怖がる様子もなく天にむかって両手を伸ばした。
「 すご〜〜〜 い〜〜っぱい! えいっ えい 〜〜〜 」
「 おっと ここでぴょん ぴょん はダメだよ。 こっちおいで 」
「 うん 」
ジョーは 娘を抱き屋根の中央付近まで行った。
「 よっしょ・・・っと。 わあ〜〜〜 ホント すごい星空ねえ 」
「 だろ? ここって ・・・ 最高だよね 」
後から出てきたフランソワーズも 夜空に見とれている。
「 さあ すぴか 三人で星見 しよう。 」
「 うん! おか〜さん ・・・ あ すばる は?? 」
腰を浮かしていたフランソワーズは 足を止めた。
「 え・・・? 」
「 おか〜さん すばる。 すばる いないよ? 」
「 すばるはネンネしているんだよ〜 」
「 ・・・ すばる〜〜〜 すばる はぁ〜〜 」
元気印のすぴかの瞳に みるみる涙が盛り上がってきた。
「 やっぱり すばる 連れてくる! 」
「 え・・・ 寝てるんだろ? 」
「 うん。 でも 一緒にこの星 ・・・ 見せたげたいの。 ね〜すぴか。
一緒がいいよね 」
「 ん〜〜 すばるといっしょ 」
「 ね♪ ジョー すぴか をお願いね 」
「 ふぁ〜〜〜〜 」
すぴかが 大きな欠伸をした。
「 うん。 ・・・ あ なんか 眠そうだよ? 」
「 あらら ・・・うふふ いいことよ 眠っちゃったらそのままにしておいてね 」
「 了解 すぴか ほら お父さんの膝においで
」
「 ん 〜〜〜 ・・・ ふぁ 〜〜〜 」
すぴかは ジョーの膝に登ると こっくりこっくりしはじめた。
「 おやおや ・・・ もうすぐすばるがくるよ? 」
「 ・・・ ん ・・・ す ばるぅ〜〜〜 」
「 ネンネするかい? 」
「 ・・・ んん〜〜 すばる ・・・ 」
「 よしよし それじゃ ほら お星さま キレイだよ?
すぴかのお星さま さがそうか。 」
「 アタシのおほしさま? 」
「 そうだよ〜 すぴか も すばる も 星の名前なんだよ 」
「 ふ〜〜ん ・・・ あ おか〜さん! 」
カタ。 フランソワーズが毛布の包み ― いや すばる を抱っこしてやってきた。
「 あ 呼んでくれれば 行ったのに 」
「 大丈夫。 コアラみたいにくっついてごらん っていったら ピタリ。
余裕で屋根に出られたわ。 ね すばる ? 」
「 う ・・・ うん ・・・ ここ どこ 」
フランソワーズの腕の中から すばるの声が聞こえた。
「 すばる 見てごらん。 上 ・・・ お星さまだよ〜 」
「 ・・・ おほしさま ・・・? うわ ・・・ 」
「 すぴか? 起きてるかい。 すばる、きたよ 」
「 ・・ う うにゅぅ〜〜 」
「 はは ・・ やっぱりおねむかなあ〜 フラン もっとくっつけよ
チビたちを真ん中にして さ 」
「 ええ ・・・ ふふふ〜〜 温かいわね 」
「 うん。 ああ 本当に綺麗な星だなあ ・・・ 」
ジョーは チビ達の背にまわしつつ 空を仰ぐ。
「 ふふふ・・・ すぴかは あらら ネンネしちゃったし・・・
すばるも 沈没よ 」
「 だろうな。 ・・・ あ 流れ星 ・・・ 」
「 どこ? 」
「 あっち、 西の方 ・・・ 」
「 ・・・ 見損ねたわ ・・・ でもいいわ。 あんまり見たくないもん 」
「 え そう ? 」
「 ・・・ わかってるクセに。 」
「 ・・・ ごめん。 」
「 いいけど。 いま ジョーはわたしの隣にいるわ。 コドモ達もいる。
幸せな気分で 流れ星を眺められるわ。
」
「 ん ・・・ 屋根の上って さ ・・・ 」
「 え? 」
「 なんか トクベツだと思わないかい? 」
「 あ ジョーもそう思う? 」
「 うん。 ・・・ きみも? 」
「 そうなんだけど ・・・ 屋根の上 って ね 」
「 そうだよねえ 」
ジョーもフランソワーズも 温かい愛のカタマリを間に だまって星を見上げるのだった。
うふふ ・・・ くすくすくす・・・
ねえ ― 屋根の上 って ・・・ さ。
ええ。 屋根の上って ね。
§ すぴか ・ すばる 明日へ
ゆさゆさ ゆさ ・・・
「 ・・・ う? ・・・ 」
ジョーは 夢うつつのまま ぼ〜〜〜っと薄目を開けた。
「 ・・・ なん か ゆれ てる ・・・? 」
「 わたしが揺らしてるの。 ジョー ・・・ 起きて 」
「 ・・・ う ・・・? あ ・・・ああ フラン かぁ・・・ 」
目の前に 彼の愛するヒトの顔が迫っていた。
「 フランかぁ じゃないわよぉ〜〜 ね 起きて ジョー。 」
「 あ ああ ウチにいるんだあ・・・ なんだ・・ よ ・・・・ 」
眠気に負けて ジョーはコシコシ〜〜 眼をこすっている。
「 どこで寝てるつもりなのよ??? ・・・ ま いいわ。
ねえ ジョー。 屋根の上に なんかいる わ 」
「 ・・・へ??? な なに・・? 」
「 ん〜〜〜〜 」
フランソワーズは 横たわったままじ〜〜〜っと天井を見つめている。
「 ! すぴか! 」
「 すぴかぁ?? 」
「 そ。 屋根の上に すぴか! 」
「 え?? だって あそこには屋根裏部屋からしかでれないぜ?
天窓は もうずっと前に閉じたはずだよ 」
「 ちがうの、東側の屋根にいるのよ 」
「 ど どうやって登ったんだ〜〜 」
「 ・・・ん〜〜〜 まって。 詳しく見て みるから・・・・ 」
闇の中 ― 003 の 瞳が光る。
「 ・・・・ ! わかった! テラスの柵からよじ登ったんだわ 」
「 ! 冗談じゃあないよっ! すべったら・・・ ぺしゃんこ だぜ??
っとに〜〜〜〜 あのお転婆〜〜〜〜〜 」
ジョーは 飛び起きるとパジャマのまま部屋から飛び出していった。
「 ジョー パジャマのまま ・・・・ あ〜あ いっちゃった・・・ 」
カタン カタ ・・・
「 ? 」
ぼ〜〜っと寝転がっていたすぴかは 顔を音の方に向けた。
「 こ〜の お転婆〜〜〜 」
「 ? あ ・・・ お父さん・・・ 」
言葉とは裏腹に ジョーは静かに娘の隣に座った。
「 おい〜〜〜 どっから出てきた 」
「 え ・・・ あ〜アタシの部屋 テラスから ・・・ 」
「 危ないぞ おい 」
「 へいき。 慣れてるもん。 」
「 な 慣れてる?? 」
ギシ。 屋根が鳴った。
「 おとうさん! 暴れない方がいいと思うよ 」
「 ・・・ ・・・ 」
「 ね すばるは 」
「 寝てるだろ アイツ 爆睡〜〜って 」
「 ふん そうだよね チビの頃からさ、アイツってば一回
寝ちゃうと〜〜 もう絶対起きないもん 」
「 あはは よく寝坊してるよなあ 」
「 うん ・・・ 」
「 ・・・ すぴか。 どうした 」
「 ・・・え?? 」
「 ここにいる理由だよ。 」
「 うん ・・・ 」
「 屋根の上で こう〜〜 ・・・ 空を見たくなるってナンかある時だろ 」
「 お父さんはそうなの? 」
「 え・・・ あ〜〜〜 まあ な。
うん。 チビの頃からお父さんの < ひみつきち > だった・・・ 」
「 へえ・・・ すばるたちみたい 」
「 は ・・・ オトコの子なんてみんなそんなモンさ。
で ウチのお嬢さんは どうしたのかな 」
ジョーは娘の隣で 星を見上げつつ聞いた。
「 うん ・・・ お父さん。 アタシ さ。 ― 行ってもいい 」
「 ・・・ どこ へ 」
「 うん ・・・ あの さ。 お母さんの国へ ・・・ 」
「 旅行・・・じゃないな。 留学 か 」
「 ウン ・・・ アタシさ。 お母さんの子なのにお母さんの国のこととか
全然知らないんだ。 お母さんはさ こんな遠い国まで来てるのに 」
「 ・・・ そうだなあ 」
「 お父さん。 どう思う? 」
「 すぴか。 お父さんもな、こんな風に屋根の上でもらったコトバがあるんだ。 」
「 ことば? 」
「 ウン ・・・ ジョー 君はどこにでも飛んでゆけるのですよ ってな。 」
「 ・・・ そっか ・・・ 」
「 すぴかに同じ言葉をあげる。 」
「 おと〜さん ・・・ ! 」
「 うぉっとぉ〜〜〜 」
がばっと抱き付いてきた娘を ジョーは最高に愛おしく抱き留めた。
ギシ ・・・ ガタン。 屋根が鳴る。
「 ?? だ だれ?? 」
「 まるきこえ 」
ジョーとすぴかの横に ひょろん〜とした少年が立っていた。
「 ! すばる!! なんで?? 」
「 忘れてない? 俺の部屋 ここの真下。 窓開けてたら さ〜〜〜
すぴかの声 丸聞こえ。 」
「 ・・・ ! 」
「 俺 爆睡なんかしてね〜よ 」
「 あはは それも聞こえたんだ〜〜 」
「 あったりまえ〜〜 」
「 すばるは どう思うのかい 」
「 どう・・って すぴかの希望のこと? 」
「 そうだよ。 来年は二人とも高校受験だろ 」
「 え そりゃ ま〜 ・・・ 思い通りやればいいじゃん。 」
「 そっか。 すばるは。 」
「 俺? ・・・ う〜〜ん まだ未定ってとこかな 」
「 まあ ゆっくり考えてみろよ。 たまにだったら屋根の上で考えてもいいぞ。」
「 俺は部屋の中でいい。 」
「 あは〜〜〜 すばるってば恐いんだあ?? や〜〜い 弱虫〜〜
」
「 っだとぉ〜〜〜
」
「 こら 屋根の上で姉弟ケンカなんかするなよ。 マジ危険! 」
「 ・・・ あ うん ・・・ 」
「 ごめん ・・・ 」
「 さあ 戻ろう。 お母さんが心配してるよ ・・・ 全部聞いてるだろうけど 」
「 え なに?? 」
「 いや なんでもない。 さ〜〜 戻って熱いミルク・ティでも飲もう。 」
「「 うん 」」
ギシ ギシ ・・・ ギシ ・・・・ 屋根の上から人影は消えた。
≪ ねえ ジョー。 屋根の上って ・・・ ≫
≪ フラン。 そうだな。 屋根の上って。 ≫
こっそり交わされた < 会話 > を 聞いたのは星たちだけだったかもしれない。
************************************************
ガタ ガタン ・・・ ゴト ・・・!
「 うわ ・・・ ! 」
「 気をつけて! なにせ築50年以上だから ・・・ 」
「 ああ ・・・ やっぱもう取り壊し時期だったんだな 」
「 そう ね ・・・ あ まだココ 平気みたいよ 」
「 ウン。 よっこらせ・・・ 」
古い家の古い物干し台に 初老の姉弟は並んで座り込んだ。
「 へえ ・・・ ここいらも高いビルとか増えたんだなア 」
「 そうねえ ムカシはもっと空が広かったね 」
「 ああ ・・・ 」
明日 姉弟の実家であるこの古家は 取り壊し工事が始まる。
もう何年も空き家になっていた。
取り壊しの前夜 二人は久々実家にやってきたのだった。
「 ・・・ そういえばさ チビのころ 二人でよくここに上ったよな〜
それも夜にさ 」
「 そうそう・・・ もうちょっと星が見えたよね。 」
「 ウン。 ― あ! 」
「 え? あ ・・・ 流れ星 ! 」
「 ・・・ ん ・・・ 」
「 ふふ ・・・ 何ねがったの カズちゃん 」
弟は ちらっと姉の方を見た。
「 は ・・・ カズちゃん か 」
「 あ ごめん つい ・・・・ 」
「 いいさ ・・・うん ・・・? うん・・・ ありがとう って さ 」
「 そう ・・・ 」
「 お姉ちゃん は。 」
「 アタシ? アタシは ね ・・・ ふふ ありがとうございます って 」
「 ・・・ そっか ・・・ 」
「 そうだよ ・・・ 」
そう 屋根の上 って ね ・・・。
******************************
Fin. *********************************
Last updated : 09,05,2017.
back / index
***************** ひと言 **************
原作 も 平ゼロ も あのシーン 大好き♪
009 は あのシーンのために存在するのかも・・・