『 ― 愛 を ! ―(1)― 』
****** おことわり ******
このお話は 009 RE:サイボーグ の逆転版です。
映画未見の方 ごめんなさい。
アンチ・RE: の方、 引き返すことをお勧めします。
『 RE:93 』 ですので、 マッパなヒト はあまり出てきません。
それでもおっけ〜♪ という方のみ ・・・ どうぞ。
― はじめに 声ありき
「 〜〜〜 現地との連絡は途絶したままとなっています。 復旧の目処は全く立っていません。」
TVからは緊迫したアナウンサーの声が聞こえている。
画面には次々に倒壊してゆく高層ビルの様子が映し出されている。
かなり押さえているらしいが 激しい破壊音も聞こえてきた。
「 ジャン? TVの音・・・! 絞りなさい! ・・・ あら またなの。 」
キッチンから母親が顔をのぞかせたが ― 画面をチラリと見て眉を顰めた。
濛々と立ち昇る煙やら逃げ惑う人々、そしてついに火の手があがった様子が中継されている。
「 あ ・・・ うん。 今度は 上海だって 」
「 いやねえ・・・ 本当に最近は物騒だわ。 また自爆テロとかなの? 」
「 ・・・わからないらしい。 すごい被害だよなあ・・・ 」
「 おお 怖い ・・・ ま ここはそんなこと、起こらないでしょうけど ・・・
パパがトウキョウ勤務で、ウチは運がいいわ。 」
「 ママン。 それ、過信だよ。 日本の安全神話は崩れ去ったんだ。 」
「 でもトウキョウは 世界一、安全な都市でしょう? 」
「 今までは ね。 でもそれが過信ってことさ。
ウチのビルだって いつ自爆テロの標的になるかわかったもんじゃないんだ。 」
「 ジャン ― イヤなこと、言うのやめてちょうだい。
もうすぐパパが帰ってくるから ・・・ このビルの安全性について確認して頂きましょう。
・・・ あら ファンション。 出かけるの ? 」
リビングの前を 亜麻色の髪の少女が通りかかった。
すらりと姿勢のよい姿で 彼女はちら・・・っとリビングに視線をなげる。
「 ママン ― ちょっと出掛けてきます。 ええ 晩御飯、いらないわ。 」
「 あら こんな時間から? ふ〜〜〜ん??? デートかしら?
そうそう ・・・ この前 送ってくれたセピアの髪のコかな。 」
「 え。 ・・・ デートとか そんなのじゃないわ。
あのね 今度の舞台のためにジョルジュとリハに行くの。 貸しスタジオ、取れたから・・・
また新宿の・・・あそこのスタジオよ。 」
少女は大きなバッグを肩からかけている。
「 まあ そうなの。 でも気をつけるのよ、ファンション。 あんまり遅くならないでね。
なんだか物騒な事件が多いから ・・・ 」
「 わかってマス。 じゃあね。 」
少女はスタスタとリビングを横切ってゆく。
「 ― おい ファン! 本当にリハーサルなんだろうな? 」
兄は TVの前からじろり、と妹を睨む。
「 お兄ちゃん ・・・ 当たり前でしょう? わたし、今 来月の舞台を控えて忙しいの。
あれこれ口を挟むの、やめてちょうだい。 」
「 ! 俺はお前のためを思って だな 〜〜〜 」
「 だったら! いちいちわたしのパートナーにイチャモンつけるの、やめてよね。
わたしたちのお仕事 なんだから! 」
「 イチャモンだとォ〜〜? 俺はな ただひたすらお前のためを思って、だな!
おい! 相手はいつものアイツか?! 」
「 お兄ちゃん! いい加減にしてよね〜〜 相手とかアイツって言うけど
彼はわたしにとっては大切な仕事上のパートナーなのよ。 」
「 彼、 だとォ?! 」
「 ほらほら・・・ ファン? 約束の時間に遅れるのじゃなくて? 」
見かねて母親が助け舟を出した。
「 ― ママン。 ・・・あ! いっけない・・・急がなくちゃ・・・
それじゃ いってきます。 」
少女は真っ白なオーバーを羽織ると そそくさと出ていった。
「 いってらっしゃい。 ファン! 門限、守るのよっ ! 」
「 ― はあい。 ・・・ 先、 越されちゃったわ ・・・ 」
「 え なあに? 」
「 なんでもないわ ママン。 イッテキマス ! 」
元気な声と一緒に ドアがしまった。
― 誰もいない 家具すらもないガラン ・・・とした部屋に ドアの閉じた音だけが響いていた。
居住棟専用のエレベーターを下りてエントランスを小走りに抜けてゆく。
そろそろ夕闇が 夜の色に変り始めていた。
― ス ・・・・!
自動ドアをくぐると 冷たい湿気がどっと押し寄せてきた。
「 ・・・ 雨 ・・・ まあ全然気がつかなかったわ・・・ 」
よいしょ・・・と大きなバッグを持ち直し、 少女はちらり、と空を見上げた。
「 傘〜〜〜〜 えっと ・・・ どこに入れたかしら ・・・ う〜〜〜 」
しばらくごそごそバッグの中を探っていたが やがてピンクの折り畳み傘をとりだした。
「 いつもの事だけど・・・バッグ、重いなあ〜〜 ダンサーの宿命かしら・・・
それにしても ちょっとガラクタが多すぎるかも・・・ 」
彼女は ちらっと大きくふくらんだバッグを覗き込む。
バッグの中には ― コイルを絡めた筒状のものやら 時計・・・みたいなモノもみえた。
「 ・・・ ま 天気には左右されないわ。 ・・・ 最後に見る空が晴れていないのが残念ね。 」
しばらく折り畳み傘を開くことに専念していた。
う〜〜〜 なんて固いのォ??? ・・・ えい !
― バサ。 やっとピンクの折り畳み傘が その羽を広げた。
「 あ〜〜〜 やれやれ・・・っと。 雨 ・・・ 止みそうもないわねえ・・・ 。
フランソワーズはぼんやりとたった今、出てきた高層ビルに沿って視線を空へととばす。
今日で ― 見納め ・・・ なのかなあ・・・
「 ― フランソワーズ! 」
金茶の髪をした青年かけよってきた。
「 ジョルジュ! 」
「 ご ・・・ ごめん、遅れて ・・・ でも 君が呼んでくれるなんて ・・・ 」
「 あ ・・・ 都合、悪かった? 」
「 ノン ノン! 嬉しすぎて〜〜 服、キメるのにヒマかかっちまったんだ〜 」
青年は照れ笑いをしつつも お気に入りの革ジャンの裾をパン! と引っ張った。
「 うふふふ・・・ カッコいいわよ〜〜 ねえ 急いで移動しましょうよ。
新宿村のスタジオ、取れたのよ。 ダメもとで電話したら、たまたまキャンセルが出たからって 」
「 わお♪ やったネ〜〜 あっと ・・・ そうだね。 ここにいたら濡れちゃうよな〜 」
「 ええ。 デートなんだっていう風に見えた方が ・・・ いいでしょ? 」
「 ・・・ デートじゃない のかなあ・・・・ 」
「 あら。 ちゃんとデートです♪ ジョルジュにとっても会いたかったの。
ふふふ・・・ パ・ド・ドゥ の パートナーとして、じゃなくってよ? 」
「 じゃあ ― なに。 」
「 わたしに言わせてたいの? 」
「 ― この唇に聞いてもいいぜ。 」
「 どうぞ? ・・・ ただし。 兄のジャンが飛んできて ・・・ 一発! よ? 」
「 げ。 フランのアニキ、おっかないもんなあ〜 」
「 うふふ・・・ ねえ、リハが終ったらちょっとだけ・・・お茶しない?
わたし、門限があるからあんまり長い時間は無理なだけど。 」
「 わお♪ もっちろ〜〜ん♪ 僕のお姫様〜〜 それでは いざ・・・ 貸しスタへ 」
彼は大仰に、しかし優雅にお辞儀をすると、フランソワーズへ手を差し伸べた。
「 ありがとう。 では 参りましょうか、王子サマ♪ 」
「 御意。 では いざ・・・ 」
「 うふふ・・・いつもカッコイイわね、ジョルジュ。
じゃあね、今はコレでちょっと我慢して? はい あ〜ん♪」
「 え? ・・・ わ ・・・? 」
フランソワーズはポケットからなにか小さなものを取り出すと ジョルジュの口に放り込んだ。
「 ・・・ やあ ショコラ? 」
「 そうよ きす・しょこら♪ 」
「 あ〜〜 きみ、いっつも持ってるもんなあ〜 アレ・・・ 」
「 うふふ・・・ 大好きなんですもの。 ねえ これもキスよ? 」
「 あは まいったなあ〜〜 」
「 さ 行きましょ♪ 」
二人は腕を組み ・・・ 傘の下でこっそりステップを踏みつつメトロの駅を目指していった。
〜〜〜〜〜♪♪ 曲がクライマックス目指して盛り上がる。
軽快なステップを踏んでいた二人が 一瞬緊張する。
「 ― はいっ ! 」
「 ・・・ い よっと ・・・! 」
ジョルジュは飛び込んできた彼女を巧みに抱きとめ彼女は身を反らし ― フィッシュ が決まった。
( いらぬ注 : フィッツュ ・・・ フィニッシュ、じゃないです〜 パ・ポアソン とも。
リフトのひとつ。 二人が踊っているのは 『 眠り〜 』 三幕の G.P. )
「 ・・・ ふぇ〜〜〜 ・・・ なんとか ・・・ いいか 降ろすよ〜 」
「 ウン。 ・・・は −−−− ・・・ でも なんかいいカンジ・・・ 」
ポーズを解くと 二人はそのままバタン、と床にひっくりかえった。
「 フラン ・・・ 君って軽いねえ〜〜 」
「 そう? そんなに細くないわよ、わたし。 本番に備えてそろそろダイエット〜〜って
思っているの。 ・・・ ショコラはしばらくオアズケ・・・かも。 」
「 あ〜〜 体重とかじゃなくて・・・ リフトの時、こう ・・・ふわっと一瞬宙に浮くよ
なんていうかなあ ・・・ 羽があるみたいだ。 」
「 ・・・ え〜〜 わたし、天使じゃないわよ〜 」
「 天使? あは ・・・ そんな感じかなあ・・・ 」
「 ― 困るわ。 」
「 え? あ ・・・ ご ごめん ・・・ 気に障った? 」
「 だって。 わたし達、 おうじさま と おひめさま 踊るのよ〜〜 それも幸せ満載な。
それが ・・・ 天使サマじゃ 困るのよ。 」
「 あ ・・・ は。 な〜んだ〜〜 なにか拙いこと、いっちまったかなあ〜って ・・・ 」
「 うふふ ・・・ 半分冗談・半分本気。 怒ってなんかいません。 」
「 よかった〜〜〜 」
「 でもねえ、天使を踊るのじゃないから ・・・ 結構いいセンゆくかも・・・わたし達。 」
「 だろ? ― なあ 最後のリフトだけど〜〜 」
ジョルジュは ぽん、と跳ね起きると、手招きした。
「 え〜〜 フィッシュのとこ? 」
「 ウン。 あのタイミングだけど さ ・・・ 」
「 待って! ちょっと・・・ ポアント、履き替えていい? 」
「 おっけ〜 その間、俺、ちょいと音、出してもいいかな。 」
「 どうぞ〜〜 」
「 めるし〜〜 あ ・・・ごめ〜ん あれ?? 何番だったっけなあ・・・ 」
ジョルジュはさかんにMDのメモリを探している。
「 これで ・・・いっか? ほら、あの・・・ こう〜〜 回り込むところのちょっと前にしたいんだけど
う〜〜ん?? あれれ・・・ 」
「 ・・・・ 履けたわ! 音ナシでいいわよ、ジョルジュ。 さあ ・・・ 飛び込むよ〜〜 」
「 わわわ !! え〜〜〜 お よし。 俺 カウントするからタイミング〜〜 」
「 オッケ〜 合せるわ! じゃ ワン ツ ・・・ ん 〜〜〜〜♪ 」
「 ・・・ ん〜〜〜 ら・ら ららら〜〜 ら・ら ららら〜〜 ♪ 」
聞こえるのは二人の息と 靴音だけ ― ぽん ・・・! 彼女は彼の腕に身を任せる。
ぱし ・・・! 彼は彼女をキャッチし、同時に彼女は上体を起こして ― 優雅に微笑んだ。
― !! 音楽がなくても ぱっと華やかな雰囲気が広がった。
「 ― ふ〜〜〜 いいんでな〜〜 」
「 ええ ・・・ 今のタイミング あ 降りる〜〜 うん オッケ〜〜 」
「 あは ・・・ 俺の眠り姫さま? ご満足ですか? 」
「 わたしの唇を奪った王子サマ? ・・・ 責任 取ってもらいますからね〜〜〜 」
「 うは? うははははは ・・・・ 」
「 ふふ ふふふふ ・・・・ 」
二人は顔を見合わせ 大笑いを始めた。
「 は・・・ ははは ・・・ フラン〜〜〜 君って〜実は楽しいヒトだなあ〜〜 」
「 あら ・・・ふふふ ・・・ 今頃気がついたの?
うふふ うふふ ・・・ ねえ いい舞台にしたいわね! 」
「 ああ! 俺・・・ 君と組めてラッキ〜〜 」
「 わたしも♪ ねえ もう一回アタマから ・・・っと ・・・ダメだわ、もう時間よ。 」
「 え? ・・・あ〜〜 参ったな・・・ 」
二人は壁の時計を見て、がっかり ― 肩を竦めあう。
「 また 借りましょうよ。 今は早くここ、出なくちゃ。 ね。 あっち向いてて。 」
「 ??? 」
「 だから〜〜 急いで着替えなくちゃ! カーテン、引くの、面倒でしょ!
ジョルジュが覗き見、しなければいいわけ。 」
( いらぬ注 : 貸しスタジオには普通更衣室はない。 カーテンで仕切ったりするだけ )
「 ― 了解いたしました、 姫君。 決してピーピング・トムにはなりません 」
「 いいコね♪ じゃあ 〜〜 5分後に着替え完了〜〜よ! 」
「 へいへい〜〜 わわわ・・・ え〜と・・・ 俺の靴下??? 」
「 わたし、事務所に鍵、返してくるから。 戸締り、お願い〜〜 」
「 あ おっけ・・・ 靴下はどこだぁ〜〜〜 」
そんなに広くもなく。 古ぼけた貸しスタジオ ― ずっと雨の音が聞こえる。
無愛想な蛍光灯が 素っ気無く室内を照らす。
殺風景なその中に ちっとも効かないヒーターが音だけが派手に響く。
部屋の前面に張り詰めた鏡に 乙女がたった一人写っていた。
「 うわ・・・ すげ〜〜 ・・・ 」
「 ・・・ イヤだねえ・・・ 今年に入って何回目だ? 」
「 とうとうアジアにまで飛び火 かあ〜 」
事務所でも スタッフたちが皆でTVを囲んで眉を顰めていた。
「 ― あの〜〜 39スタ借りてたものですが ・・・ 鍵の返却です〜 」
カウンターから 女性の声がする。
「 自爆テロって ・・・ あ! すいません〜〜 どうも〜〜 」
係りの青年は慌ててカウンターに出てきた。
「 ありがとうございました。 あ 戸締りはちゃんとしてあります、ヒーターも切ったし・・・ 」
「 すいませんね。 はい、 確かに〜 お疲れ様でした〜 」
「 お疲れ様でした。 また 借りにきますね。 」
「 是非どうぞ。 」
にっこり笑って会釈をすると 件の美女は事務室から離れた。
「 お。 か〜わい〜〜〜 パツキン美人や〜〜 女優? 」
「 いや ダンサーだね。 ・・・ けど ・・・ 」
「 けど? 」
「 あのコ ・・・ いっつも一人で借りてゆくんだ。 」
「 一人で練習したいヤツだっているだろ? 」
「 まあ ね。 けど 39スタって結構広いじゃん? あそこで一人で踊ってるのか ・・・ 」
「 う〜ん ・・・ まあ いろいろあり、さ。 」
「 だ な。 おっと電話〜 〜〜 はいはい ・・・ そうですが。 28日ですかぁ〜? 」
「 あ、 先生〜 お早うございます〜 」
事務所の受付は どっと仕事が押し寄せ、 一人で借りていった美人客のことは
いつの間にか忘れられていった。
「 おまたせ〜〜 ジョルジュ 〜 」
「 やあ ・・・ ご苦労様〜 」
駆けてくる彼女を ジョルジュは笑顔で迎えた。
「 ふふふ ・・・ 疲れたけど ― いい気持ち ね。 」
「 うん。 ・・・ 上手く行きそうだし。 」
「 うん。 あ 〜〜 冷たい空気がいい気持ち〜〜 」
彼女はう〜〜ん・・・と伸びをして空を眺めた。
あ ・・・? ああ 西新宿の ビル街ね
彼女の視界のはじっこに 天に向かう塔 ― いや超高層ビル群が写った。
それらは 凍て付く冬の夜空にそそり立ちひたすら天に挑んでいる ・・・ ように見える。
「 ― 予定変更だわ。 あっちでもいいもん。 」
「 え? なんだい。 予定変更? 」
ジョルジュが 顔を覗き込む。
フランソワーズはほんの一瞬俯いたけれど ― 一瞬後にはかっきり顔をあげて微笑んだ。
「 ・・・ ううん、 なんでもないの。
うふふ ・・・ ジョルジュとお茶♪ なんて初めてなのよね・・・
それで嬉しくてワクワクしてちょっと緊張もしているの、わたし。 」
― チリン ・・・ 彼女が胸に掛けたネックレスが小さく鳴った。
「 く 〜〜〜 嬉しいこと、言ってもらっちゃったあ〜〜 」
「 展望台の方まで 行ってみましょうよ。 」
「 OK〜 今からだったら夜景が綺麗だよ 〜〜 雨も ほら・・・小降りになってきたし。 」
「 ・・・ うん ・・・ 行きましょ♪ 」
二人はビル前の広場を抜けて 目の前に見える高層ビル街へと歩いてゆく。
ピシャ ・・・! 足元に溜まった雨がいじわるく ハネた。
「 ご協力くださ〜い ! 」
高層ビルの入り口で 誰かが叫んでいる。
「 ・・・ 濡れちゃった? ジョルジュ ・・・ あら なあに? 」
フランソワーズは傘を受け取り、入り口に目を向けた。
「 あ これくらい平気さ。 ・・・え? ・・・ ああ 荷物検査じゃないかな。 」
「 荷物 検査 ? 」
「 うん。 ほら、例の自爆テロ事件以来 皆ぴりぴりしているから・・・
別にどうってことないよ、バッグの中を見せればいいだけだし。
俺たちのは 汗臭くて気の毒だけど。 」
「 ふふふ 本当ね。 これは武器か?? って言われそう〜〜 」
フランソワーズは ポアントの袋を指して笑った。
「 あは・・・ カンカチだからな〜 あ・・・ほら あそこを通るみたいだよ。 」
二人は手荷物検査の列に並んだ。 そんなに人がいないのですぐに順番が回ってきた。
「 えっと・・・ あ。 これ・・・ 聞いてみなくちゃ・・・ 」
フランソワーズは大きなバッグをごそごそ探っている。
「 ?? あ〜 はい、 これです、どうぞ〜 中身は衣類。 」
ジョルジュは先にたち、彼のバッグを検査台に置いた。
「 あの〜〜 これ。 多分引っ掛かっちゃうと思うのですけれど。 ほら・・・きんこん、って。 」
「 きんこん? 」
係官は亜麻色の髪の乙女が差し出した袋を見て 首を捻った。
「 ・・・ああ〜〜 金属探知機 ですね? この中身は機械かなにかなのですか? 」
「 いえ・・・ これ ・・・ あの。 ほら ・・・ 」
彼女はちょっと口ごもりつつ袋の口を開けた。
「 ? ホイル? ・・・ いや 包み紙? 」
「 いえ ・・・ あの〜〜 チョコレートなんですけど・・・ 」
袋の中には 銀紙に包まれたキス・ショコラがぎっしり詰まっていた。
「 あ〜〜 あのチョコですね。 いいですよ〜 じゃあコレはこっちから通しますから・・・
アナタはそのまま探知機ゲートを潜ってください。 」
検査のガードマンはにこにこ笑い 他のガードマンもジョルジュも笑っている。
「 おねがいしま〜す♪ 」
乙女もにこにこ ・・・ 身軽にゲートを通過した。
お願いね、ガードマンさん。
・・・ ショコラの下には ・・・ いろいろ入ってますけど・・・
「 はい。 これ・・・お気に入り袋をお返しします。 」
「 ありがとうございます。 はい、皆さんでどうぞ〜〜 ご苦労様で〜す♪ 」
キス・ショコラを一掴み、ガードマンさん達に差し出し乙女は高層ビルの中に入っていった。
「 ― キス・ショコラが大好きなのは 本当よ? 」
「 フランソワーズ ・・・ なに? 」
「 ジョルジュ・・・ 本当、簡単な検査なのね。 」
「 ぼく達を疑っても仕方ないし ・・・ え〜と・・・展望台は ・・・ ああ あっちのエレベーター
だね。 」
行こう、と二人は手を繋いで高層階用のエレベーターに乗り込んだ。
― ウィン ・・・ 降りたフロアは、それほど混雑していない。
「 こっちよ ! ジョルジュ ! 」
「 あ ・・・ うん ・・・ 」
そのビルの展望台は 最上階より一つ下のデッキを解放して使っていた。
中心部にはカフェがあったが 窓辺にそってぐるりとソファや椅子が並べられている。
「 う〜ん ・・・雨だとさすがにヒトはすくないな。 」
「 そうね。 あんまり景色、 よく見えないし ・・・ 」
「 夜景もなあ ・・・ あ でも雲が薄くなってきたから ・・・ あ〜 ほら!
少しは地上の明かりが見えてきたよ ほら! 」
「 あら ・・・ わあ・・・ 綺麗ねえ・・・ 違う世界みたい・・・ 」
「 ・・・ ん ・・・ キレイだ ・・・ 」
「 やだ、ジョルジュったらどっちを見ているのよ〜 」
「 ・・・え! あ ・・・・ご ・・・ ごめん ・・・ きみが その・・ あんまり・・・ 」
彼は真っ赤になってそっぽを向いてしまった。 じっと彼女の横顔だけを見ていたのだ。
「 え? ・・・・ なあに? ジョルジュってば可笑しなヒト ・・・・ 」
ぱっと俯こうとしたが ― ずっと付いてくる視線がとても気掛かりだった。
隣にいる青年のものでは ない。
「 ね? なあに。 」
「 あ ・・・ご ごめん ・・・その・・・なんでもないんだ。 」
「 そう? 」
「 うん。 ごめん ・・・ 」
「 やだ、そんなに謝らないで? ね・・・ 」
「 ・・・ ごめん ・・・ 」
「 ほら またぁ〜 」
「 え? あ ・・・うん ・・・ 」
「 ・・・ ジョルジュ ・・・ 」
隣からそうっと手が伸びた。 彼女もこそ・・・っとその手を握り返す。
「 ・・・ うふ ・・・? 」
「 あ ・・・ え えへ・・・ 」
踊っている時にはなんでもなく握り合う手が ― 今 じんじんと熱い。
演技ではない、本当の微笑みを二人は交わす・・・
「 ・・・ あ? 」
「 ? なに? 」
「 ・・・ え う ううん なんでもないの・・・ 」
「 ? 」
突然、彼女はまたあの視線を感じた。 隣からじゃない。 彼女だけを見ている。
・・・・ え? だあれ? ジョルジュ ・・・ じゃないわ
ずっと ・・・ずっと ・・・ 見ている わ
フランソワーズは 何気なくジョルジュの後ろに回った。
「 なあ ・・・ ファンション。 今日 ・・・ 学校、来なかったよね? どうして。 」
「 あ ・・・ 舞台近いから・・・レッスンちゃんとしてからリハしたくて ・・・ 」
「 ふうん ・・・ あ 窓際のシート、空いた! 」
「 どこ? あら本当。 」
二人は隅の方のシートに座った。 ロビーの真ん中はけっこうヒトが動いているが・・・
この席の辺りには 声もあまり聞こえてこない。
「 ・・・ わあ〜〜 ほら? 雨降りでも結構夜景も綺麗よね。 」
「 そうだね。 なあ ファン。 この春で卒業 だろ?
どうするんだ? この地に ・・・トウキョウにずっといるのかな と思って。
この前、お父さんがそろそろ転勤かもしれないって言ってただろ。 」
「 ・・・ わ わたし ・・・ わからない ・・・ 」
「 どういうことかい。 あ きみのはまだ決めてないってこと? 」
「 え ・・・ あ ええ そうなの。
父は仕事柄転勤が多いの。 トウキョウも3年目だからそろそろまた変わるかも・・・って。
多分 次はパリに帰れるかなあ・・なんて言ってたわ。 」
「 ふうん ・・・ じゃ きみは ? 」
「 わたし ? ・・・ その まだ決めてなくて。 ( だって 先 はないんだもの。 ) 」
ことん ・・・ 亜麻色の頭がジョルジュの肩に寄りかかってきた。
・・・ あ ・・・ 彼女のにおい ・・・ 甘いにおい ・・・
ジョルジュ ・・・ 知ってる? アナタ 青い柑橘類の香りがするのよ
雨の日だからだろうか。 互いの体臭がいつもよりはっきりと感じ取れた。
「 あ ・・・ あのね ジョルジュ。 わたし ・・・ なんだかこのごろヘンなことばっかり考えてて 」
「 ヘン?? 」
「 ええ。 なんか ・・・ わたし ずっと・・・こんなこと、繰り返しているみたいな気がしてきたの。
トウキョウのリセに通って バレエのレッスンに通って ・・・ 本番を控えていて・・・
そんな暮らしを繰り返し 繰り返し ・・・ 」
「 あ ・・・ は? フラン、 疲れているんじゃないかい。 」
「 ・・・ かも しれないわ ・・・ 」
「 僕じゃ ・・・ ダメかな。 」
「 え? 」
「 その・・・ ぼくじゃ頼りにならないかな。 きみが安心して 飛べる ように ・・・
ぼくがきみをリフトするよ、パートナーとして。 ― その ・・・ 人生の さ。 」
「 ― ジョルジュ ・・・ 」
「 本気だよ。 キス・ショコラ じゃなくて本当のキス、きみから貰いたいんだ。 」
「 ・・・・・・ 」
フランソワーズはつ・・・っと身体を起こすと 彼に向き合った。
「 わたし でいいの? 」
「 ぼくは ― !? な なんだ?! 」
グワ −−−−− ン ・・・・!!!
足元の床が跳ね上がった ― 二人は咄嗟に支えあい抱き合った。
ガシャ −−−− ン !!! ド −−−− ン ッ !
物凄い衝撃がビル全体を襲った。
それと共に照明が落ち、悲鳴と怒号が暗闇に充満した。
人々は立っていられず、その場に蹲っている。
「 な なんだ??? 地震 ?? 」
「 ・・・ ちがうわ! このビルになにか・・・ぶつかったのよ! 」
「 ! じ 自爆テロ??? まさか ・・・ このトウキョウに ? 」
グワ −−−− ン ・・・!
再び大きな衝撃が足元から突き上げてきた。
床が ― 崩れる。 逃げなくては ・・・ と思うが動けない。
「 ・・・ ?? 」
ぱあ〜〜っと 窓の方が明るくなった。
彼女は慌てて顔を上げ外を見たが ―
「 ! 見て! あっちも! あっちも ・・・ 爆発 ?? 」
六本木ヒルズが 最上階に近い部分から盛んに煙をあげている。
― また 先 越されちゃった・・・
轟音と悲鳴が渦巻く展望ロビーの隅に 亜麻色の髪の乙女が一人、佇んでいた。
― 時間は少し時代を遡る。
広い部屋に 数人の男たちが大きな円卓を囲んでいる。
人種 ・ 年齢 ・ 風貌ともにまちまちだが 一様に厳しい表情だ。
一人の老人が その集団の主導権を握っている らしい。
― ガタ ・・・ッ ! 茶髪の青年が椅子を鳴らして立ち上がった。
「 !? それじゃ ・・・ フランソワーズの記憶を さ 三年ごとにリセットする・・・って
仰るのですか!? 」
「 ・・・ うむ ・・・ 」
「 そんな ・・・ そんなこと! 彼女はただでさえ今回のミッションで負傷して ・・・
やっと回復したところじゃないですか! 」
「 ジョー。 落ち着け。 」
銀髪の男が淡々と言う。
「 ・・・ けど! 」
「 声を荒げたところでなんの解決にもならんぞ。 」
「 ・・・う ・・・ん ・・・ 」
彼は口を閉じたが 座ろうとはしなかった。
「 博士。 それでマドモアゼルの状態は如何なのですかな。 」
「 うむ ・・・ 今、眠っている。 外的損傷はすべて処置した。 」
「 そりゃ ・・・ 一応安心、というところですな。 」
「 問題はこれから、 か。 」
「 アルベルト? 」
「 そうだろう? 彼女は我々のミッションに欠く事はできない存在なんだ。
現代の戦闘で情報収集と分析なしで闘うことは ― 海図なしで大海原に出るのと同じだ。 」
「 左様 左様 ― しかし それだけの負担をマドモアゼル一人に負わせるのは なあ・・・ 」
グレートがぴしゃり、と禿頭を打つ。
「 そうだね。 僕達がいくらメカ類を駆使してフォローしてもとてもとても彼女には敵わないよ。
フランソワーズの精神的負荷は ― 想像するだけでぞっとするよ。 」
仲間内で一番情報処理に長けているはずのピュンマですら 嘆息している。
「 ・・・ 皆 わかってくれるか。
彼女にこれ以上の負荷をかけたくない。 彼女の精神的安定、ひいては肉体的劣化を
一日でも遅らせるためにも ― この処置は必要なのじゃ。
わかってくれ ・・・ ジョー ・・・ 」
「 ・・・ 彼女には? このことを説明したのですか。 」
「 うむ。 」
「 それで ― 彼女はなんと? 」
「 理解した、と。 ワシの提案を理解した、と応えたよ。 」
「 理解した? ・・・ それじゃ納得して同意したわけじゃないんですよね? 」
「 ・・・うむ ・・・。 だから ジョー。 お前から説得してほしいのじゃ。 」
「 ― ぼ ぼく が? 」
「 うむ。 酷な話だと思う。 結果的にはお前たち二人を引き離すことじゃ。
・・・ 無慈悲なことを言わせてすまん。 本当に ・・・ すまん。
しかし これが彼女を救う ・・・ 彼女の精神の均衡を正常に保つための唯一の方法なのだ。」
「 ・・・ な ぜ ・・・ 」
「 うん? 」
「 なぜ ・・・ どうして ・・・ 彼女だけが フランソワーズだけが
こんな こんな酷い目に遭わなくちゃならないんだ ・・・!? 」
― ドン ・・・・ ! ジョーの拳が円卓を叩く。
「 ジョー。 見守れ。 それがお前の仕事。 」
寡黙な巨人が 穏やかな声で言った。
「 見守る・・・って言っても・・・
博士。 彼女は ― ぼく達とは離れて生活してゆくのですか。 たった一人で?? 」
「 実際には そうだ。 しかし003自身はごく平凡な10代後半の少女として生きている、と感じるはずじゃ。」
「 ・・・ ど どういうことです 」
「 暗示ダヨ。 僕ガ 彼女ノ家族ヤ友人トノ < 普通ノ生活 > ノ暗示ヲ与エルンダ。 」
ふよふよと浮かぶクーファンから 全員の心に返事があった。
「 暗示? ・・・ 彼女自身は信じていられるのかい?
その ・・・ 平和で普通の日々を生きている・・・って 10代の女の子として ・・・ 」
「 ソウダ。 ソノ3年間ノ < 平和ナ日々 > デ、 ふらんそわーずハ 精神ノ均衡ヲ
取リ戻スコトガ出来ル。 」
「 精神の均衡? ・・・ それは 心の平安、ということかい? 」
「 マア ソンナにゅあんすダネ。
じょー。 コノママデハ 彼女ハ数年ノウチニ、心身トモニ崩壊シテシマウヨ。 」
「 ・・・ ・・・ 3年目ごとに記憶をリセットして ・・・ 同じ日々を繰り返す、というのかい? 」
「 ソンナ処サ 」
「 ふう〜ん ・・・ 永遠に終らないリフレイン、 という訳か。 」
「 ブリテンはん。 あんさんが言いよると キザやな〜〜 」
「 ふん。 文学的、と言ってくれたまえ。
ジョー。 ここはひとつ ― 我らがsleeping beauty ( 眠り姫 ) を護るナイトになれ。」
「 ・・・ ナイト ? ああ ぼくのことはどうだっていいんだ。
その三年間 ・・・ フランソワーズがたとえ夢でも幸せな日々を送っていられる なら・・・ 」
ジョーは言葉を切ると ギルモア博士を見つめた。
「 ― わかって くれたか。 」
「 納得なんか出来ません。 ― けど ・・・ 」
「 ・・・ うん? 」
「 けど。 それが彼女が望むことならば。 ぼくはどんなコトだって全力でサポートします。
フランソワーズと直接 話あってもいいですか。 」
「 構わんよ。 補修後の臨時メンテナンスも終了した。
今は ― 休養が必要じゃ。 ゆっくり ・・・ 彼女と話をしておいで。 」
「 ― ありがとうございます。 」
ジョーはゆっくりと立ち上がると博士に深々と頭を下げた。
≪ じょー。 ≫
イワンがジョーだけに話かける。
「 う ・・? ≪ なんだい、イワン ≫
≪ ウン。 アノネ。 君ノいめーじヲ 彼女ノ深層意識ニ送ッテオクヨ。
彼女ノ側ニ じょー、君ハ形ヲカエテ居ルコトガ出来ル ≫
≪ そうか。 ありがとう イワン! ≫
≪ ドウイタシマシテ。 僕ガ出来ルノハ コンナコトクライサ ≫
≪ 十分だよ ・・・ 僕はずっといつでも彼女を見守ってゆくから ≫
≪ ソウダネ ・・・・ ≫
「 それでは。 ジョー、 フランソワーズのことは君に一任する。 」
「 ・・・ 彼女はきっともっと詳細に事情を知りたがると思います。
今 伺ったことを説明してもかまいませんか。 」
「 当然じゃ。 彼女自身のことなのだからな。
・・・ しかし ショックを受け ・・・ 錯乱状態になったりせんとよいのだが ・・・ 」
「 博士。 フランはよ、 そんなヤワなヤツじゃね〜よ。 」
突然 それまで口を閉ざしていた赤毛ののっぽが言った。
「 ― ジェット・・・ 」
「 オレら みんなわかってるだろ? 特に ジョー、 お前が、だよ。
オレらの仲間内で一番 ・・・本当に <つよい> のは ― アイツ さ、 フランだぜ。 」
全員から嘆息やら唸り声、そして 呻吟まで漏れ ― 皆の賛同が確認された。
「 ・・・ そう ・・・ そうじゃった な。 それゆえ 尚一層 今回の処置が必要なのじゃよ。
ジョー。 わかってくれるか ・・・ 」
「 ・・・ ぼくが 全てを背負えるのなら ・・・ 」
ジョーは円卓に頭を垂れ 呻いた。
「 ジョーはん? ワテら仲間でっせ? ワテら み〜んなで重い荷物、分けまひょ。
それ、フランソワーズはんにしっかり言うといてや。 一人やない、てな。 」
飄々とした張大人の発言で、部屋の空気はすこし明るくなった。
博士は全員を見渡し 辛そうな表情で告げた。
「 では ― これで解散するが。 後は各自 ― 」
「 有事の際は ココに再び集う ― コレは永遠の お約束 さね。 」
グレートが重々しい口調で付け足した。
「 ・・・・・・・ 」
全員がしっかりと頷き ― 静かに席を立った。
― シュ ・・・・ 僅かな音を残してドアが開いた。
僅かに消毒薬のにおいがするが 鼻に付くほどではなかった。
「 ・・・ だ れ ・・・? 」
カーテンの向こうから 声が聞こえる。
「 あ・・・ 起こしてしまった? ぼくだ ジョーだよ ・・・ 」
「 うふ ・・・ 判ってたわ。 足音で わかるの。 」
「 フラン ・・・ そっちに入ってもいい? 」
「 どうぞ? なにを遠慮しているの。 ・・・淋しかったわ・・・
皆 顔を出してくれたのに・・・ ジョーだけ来ないんだもの。 」
ジョーは ゆっくりとカーテンを分けて 彼女のベッドに近づいた。
フランソワーズはベッドを半分起こし、枕に寄りかかっていた。
「 あ ・・・ は ごめん。 今 来たから・・・ 許してくれる? 」
「 いいわ ・・・ ねえ もう起きてはだめ? 補修した損傷部分もしっかり馴染んだし ・・・
頭痛もないわ。 能力 ( ちから ) を試してみても いいかしら。 」
満面の笑顔・・・といいたいところだがまだどこか痛々しさが残る。
「 あ〜 ・・・ それはもうちょっと待ったほうがいいかも ・・・ 」
「 え〜〜 どうして? 次のミッションに備えて不具合が無いかしっかりチェックしなくちゃ。 」
「 あのね フランソワーズ。 」
ジョーはベッドの端に座ると 彼女の手を取った。
「 ― な に ・・・ ジョー・・・ 」
「 ぼくの話 ・・・ 聞いてくれる? 」
「 ジョーのこと? それとも ― わたしの この・・・身体のこと? 」
「 うん ・・・ 両方、かな。 」
「 話して。 ジョー。 」
碧い瞳が かっきりとジョーをみつめる。
「 ― 博士の提案は聞いたと思う。 それについて― 」
ジョーはゆっくりと、しかし明確に語り始めた。
・・・ しばらくの間 ジョーの声がだけが病室に響いていた。
「 ― これで全部なんだ。 きみは どう ・・・ 」
「 ジョー。 その処置を受ければ わたしがジョーと生きられる < 時間 > が延びる、のね。 」
フランソワーズが ひと言 ひと言 確かめつつ訊く。
「 そうだ。 でも! ぼく達が、きみとぼくが < 会える > のは!
三年ごとのリセット時、だけだ。 ほんの束の間 だけ ・・・ 」
「 でも 一緒にいられるわ。 」
「 ・・・ フランソワーズ・・! きみって ヒトは・・・ 」
「 死ぬことは少しも怖くないわ。 ― ただ ジョーと会えなくなるのが ・・・ いや。
だったらほんの少しの時間でもいいの、 ジョーと一緒の時がまた巡ってくるのなら! 」
「 ・・・・・・ 」
ジョーは黙ってフランソワーズの手を握りなおした。
暖かい 白い 優しい 芳しい ― そして 彼を愛し・彼が愛した 彼女の手。
だれよりも勇気のある 手 ・・・ 愛しい 手。
「 ぼくは ― 無力だ ・・・ ぼくは なにもしてやれない・・・! 身代わりになりことすら・・・
できないんだ ・・・ ! 」
「 ね? ジョー。 約束して。 」
「 ・・・ え? 」
「 ジョー ・・・ きっとあなたが ジョーが 起こして、 わたしのこと。 ジョーが覚醒させて。
・・・ ね? 目覚めた時には隣にいてほしいの。 うふ・・・ 三年ごとのデート ね。 」
「 ウン ・・・ ぼくの眠り姫 ・・・ 」
「 ・・・・・・ ! 」
― ことん。 柔らかい身体が ジョーの胸に寄りかかる。
「 ― 愛しているわ ジョー ・・・ あなただけ よ 」
「 フランソワーズ。 ぼくも ― 愛しているよ ! きみだけ だ。 」
二人は 最初で最後の深い・深い口付けをした。
翌週、ギルモア研究所からは数人が < 帰国 > あるいは < 退職 > し、 去った。
ゲストだというフランス人の若い女性も 所員に付き添われ帰宅していった。
ギルモア博士の側近としては 茶髪の青年と赤ん坊だけが残った。
― そして 30年近い月日が流れ ・・・
研究所のメイン・ミーティング・ルームでも 中継映像が映しだされている。
「 ― これは ! 博士 ・・・! 」
「 うむ ・・・。 全員召集をかけてくれ。
そして ― 003 を フランソワーズを覚醒させるのだ。 」
「 ・・・ 博士 ・・・! まだ ・・・三年目には達していません。 」
「 むむ ・・・ 仕方ない。 強制覚醒させてくれ。 」
「 ― 了解。 ジェロニモ Jr. とトウキョウに向かいます。 」
「 頼んだぞ ジョー。 」
「 ― はい。 」
島村ジョーは 半時間後にイスタンブールの研究所から出発した。
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updated : 01,08,2013.
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******* 途中ですが ( 読んでください〜 )
こりゃ ・・・ キャラが平93だなあ〜〜 ・・・
何回でも観たくなり、観るたびに違った感銘を受ける不思議な映画ですね 『 RE: 〜 』
そして! フランちゃんは バレリーナなんです! どうしても。 ( きっぱり )
いらぬ注 いくつか。
新宿村 : 実在の貸しスタ村です〜 知ってるヒトはよ〜く知ってるよ〜
しょこら : アレですよ、有名なアレ。 名前、あえて変えたけど・・・
三年毎の云々〜 : もちろん!例によって ウソ8000000 〜〜〜♪
全部書くかって? いいえ〜〜 美味しいトコだけ♪ですよ〜
後半はアレとかアレとかアレとか〜〜〜 (^.^)v
お宜しければお付き合いくださいませ <(_ _)>