『  ・・・ RE?  RE!  ― (1) ―  』

 

 

 

 

 

 

 *******    はじめに   *******

時計の針を少し戻してみました。

そして 009作品の時系列も ちょ〜っと換えてみました。

 

 

 

 

 

   カタン ・・・   引き戸になっている窓はほんの少しの力でも 開いた。

 

青く高い空が 約束してくれた心地好い風がさわさわとギルモア博士の蓬髪を揺らした。

「  どれ ・・・ おお 今日もよい天気じゃなぁ ・・・・ 」

ぼわぼわ欠伸をし、トントン・・・ と腰を叩きつつ 博士はぼんやり景色を眺めている。

「 ふん ・・・ なんだか気が抜けてしまったのう ・・・ 静かすぎるわい ・・・ 」

彼は 大きく伸びをすると、思いっ切り深呼吸をした。

 

     本音をいえば ・・・ 寂しいのう ・・・

     ワシの息子たち  ・・・  今度こそ平穏に暮しておくれ

 

切ない想いを 空にとばし、博士はことさら何気なくふるまってみせる。

「 ふぁ〜〜〜・・・  ああ  いい気候になったものだ ・・・ 

 ふ ・・・ 一時に人数が減るとは ・・・ ちと 拍子抜けだわい ・・・ なあ じょー?  」

彼は景色に見惚れたフリをして 室内にいる人間に声をかけていた。

「 は   はい??  どうかなさいましたか? 」

「 あ  いや。  ちょっと独り言さ。 」

「 そうですか?   えっと ・・・ 定時連絡です。 各地 <異常ナシ> ですね。 」

「 そうか ・・・ ご苦労さん ・・・ 」

「 はい。  それでは 001の様子を確認してきます。 」

「 うん?  フランソワーズはどうしたね?  また踊っておるのかね。 」

「 あれ・・・ 博士〜〜 彼女は一番最初の便で帰国したじゃないですか〜  」

「 あ ・・・ っと ・・・ そうじゃった  そうじゃった ・・・ で 元気でおるかのう・・・ 」

「 ええ。  帰国後すぐにバレエ団のオーディションを受けてなんとか合格したって 

 電話してきたじゃないですか。 」

「 おお おお そうじゃったの〜〜 ははは あんまり平和でヒマなのでな、

 なんだかぼう〜っとしてしまったよ。 すまん すまん ・・・ 」

「 彼女 ・・・ アルベルトやグレートの欧州組は 一番先に帰りましたから ・・・

 もうすっかり故郷で落ち着いていますよ。 かれこれ・・・2年以上経ちますからねえ。 」

「 ・・・ ふん ・・・ お前たち ・・・ それでいいのかい。 今のままで。 」

「 え? なにがですか? 」

ジョーは心底 ハトが豆鉄砲・・・といった顔で問い返してきた。

 

     ・・・ やれやれ ・・・ コイツの朴念仁ぶりは治ってない か ・・・

     しかし フランソワーズよ?  

     長距離恋愛 + この朴念仁 じゃ ・・・ あんまり脈はないぞ? 

 

博士は内心 <一人娘> のためにふか〜〜〜い溜息をこっそり吐いた。

「 いや  まあ ・・・ 仲良くやっておるのか? と ・・・ な。 」

「 ああ!  はい 彼女、毎週手紙をくれますし。 ぼくもすぐにメールしてます! 」

「 あ ・・・ そ そうか?  あ〜〜 まあたまにはお前も手紙、かいてやれよ。 」

「 え〜〜 紙の手紙って〜 苦手っすよ〜〜 ぼく、漢字、苦手だし・・・

 ぼくの顔文字のメールとか 彼女・・・ 楽しいわって言ってくれてます♪ 」

「 じゃから そこを ・・・  あ ・・・い いや ・・・ すまん、忘れてくれ。 」

「 ???  は はい? 

「 ああ じゃあワシは書斎におるから ・・・ 」

「 はい。  なにか連絡等ありましたら すぐにお知らせします〜〜 」

「 あ ああ  庭におるかもしれんよ。   」

「 庭ですか。 まだどの花も咲いていませんが。 」

「 あ   うん ・・・ なんとなくまた庭を楽しみたくてね。 」

「 園芸ですか?  ぼくも勉強したいです、 フランソワーズがいればなあ・・・ 」

「 ああ 彼女は庭いじりが好きじゃったものなあ  ・・・ 今年も芍薬が派手に咲きそうじゃ。

「 ― しゃくやく???  初めて聞く単語です。 」

「 そうかね?  お前の国の花だ、とフランソワーズが教えてくれたぞ。 」

「 そうですか!  あとでPCで検索してじっくり観察してみます。 」

「 ・・・ そうしておくれ。  それで彼女に手紙を書いてやればよいではないか。 」

「 しゃくやく という花が咲きました、と報告します。 」

「 ・・・ まあ ・・・ 頑張って送れ。 」

「 はい! 」

ジョーは にこっと笑うとすたすたとリビングを出て行った。

 

     やれやれ ・・・  もうちょっと人間味のあるヤツだったと思っていたが ・・・

     あの時 ・・・ いろいろジョーの記憶を弄った影響かのう ・・・

 

     ・・・ ワシの手は どんどん血に塗れてゆく ・・・ か ・・・

     

博士は今度は盛大に溜息をつくと とんとん・・・腰を叩きつつ 庭に出ていった。

 

 

 

約3年前 ゼロゼロナンバー・サイボーグ達は <解散> をした。

冷戦時代が終わりを告げ 世界中に表立った大きな戦いは ― ほぼ姿を消した。

それと共に、彼らは < 帰国 > したり < 引越し > をしたり したのだ。

それまでは ギルモア研究所を拠点とし、ほぼ定期的に集結し、あるいは長期間、滞在して

ミッションに出動していたのだが ―  全員がその任を解かれた。

平和を護るサイボーグ戦士 ・・・ の存在は必要とされない時代になったのだ。

彼らはそれぞれの故国に帰り それぞれの新たな仕事をみつけ それぞれの人生を ― 歩むことになった。

 

「 俺は祖国に帰る。 ここまで生きていたんだ、 統一ドイツとやらをじっくり見詰めてゆく。 」

「 我輩も帰国するぞ。 痩せても枯れても < 女王陛下の007 > だからなあ〜 」

アルベルトとグレートは一番の組で出立することになった。

ピュンマもすぐに帰国したがっていたが 乗り継ぎ便の関係で少々手間取っていた。

「 ちょっとね、興味のある分野ができたんだ。 うん・・・今までとは全然畑違いなんだけど・・・

 うん、独立運動はやっと発展的解消になったし、新国家造りは後進にまかせたよ。 」

彼はどうやら学問の世界に進みたいらしい。

「 ワテは! どんどん手ェを広げまっせ〜〜〜 世界中に張々湖飯店の名ァを広めます。

 最初はこのお国でしっかりモトを作りますさかい ― ヨコハマに根ェを張りまっさ! 」

大人 ( たいじん ) は料理人としての道を邁進する、と宣言した。

彼は今までも中華街に店を構えていたが 今後全国的に進出する計画を立てている。

「 ・・・ フランソワーズ?  きみはどうするのかい。 

「 ジョーは ・・・? 」

「 ぼくは ここに残る。 博士からリーダーの役目を仰せ付かったし ・・・ 

 やっぱりぼくは自分の国にいる方がいいらしい。 」

「 ・・・ そう ・・・  あの ・・・ ジョー ・・・わたし ・・・ 」

「 ―  パリに帰りたい ・・・ んだね? 」

「 ・・・ ええ ・・・ ごめんなさい。 」

「 どうして謝るんだい? パリはきみのふるさとだもの。 生まれ育った街なんだろう?

 皆と同じように帰りたくて当然じゃないか 」

「 ・・・ でも ・・・ ジョーの側に ・・・ 」

「 いつだって会えるよ。  ぼくはきみのことをずっと ・・・ 見ているから ・・・ 」

「 ・・・ ごめんなさい・・・!  ジョーの側にいたいの、ジョーとこの岬のお家で暮したい・・・

 でも  ・・・ もう一度・・・ もう一度踊りの世界に戻りたいの。 」

フランソワーズはぽたぽたと涙を落とし ・・・ それでもしっかりと顔を上げ、言った。

「 そうだろうと思っていたよ。  きみはきみの望む道をゆきたまえ。

 ぼくにそれを止めたりする権利はないよ。 がんばれ。 いつだって応援しているよ。 」

「 ・・・ ジョー ・・・・! 」

「 ね、 いつか言ったこと、覚えていてくれたかな。 

 戦場を駆けるきみよりも 舞台で踊っているきみの方がずう・・・・っと素適だ、って。

 ずうっと ・・・ 好きだ って ・・・ 」

「 ・・・ ジョー ・・・!! 」

「 フラン ・・・ フラン ・・・  きみはより高く飛んでゆけばいい。 ぼくの心はいつだって

 きみと一緒だよ。 」

「 ・・・ ジョー  ありがとう ・・・ ジョー ・・・ 愛しているわ ・・・ 」

二人はしっかりと抱き合い熱く熱く口付けを交わした。

 

  ―  そして 岬の突端にある研究所には 博士とイワン、そしてジョーがひっそりと

暮してゆくことになった。

博士は日々、 サイボーグ達のメンテナンス軽減化への研究に没頭し ジョーは時には

助手を務めたりしつつ、研究所全体の運営・管理維持を担当していた。

彼は案外器用にイワンの世話もした。

「 ほう ・・・ なかなか上手いな ジョー。 」

ジョーがオムツを換えるところを博士は感心した面持ちで眺めていた。

「 いやあ ・・・ ぼく、施設で小さな子達の面倒をみていましたから・・・ 」

「 ああ そうか それで手馴れておるのじゃな。  イワン? よかったのう  」

一度眠ってしまえば < ただの赤ん坊 > の ぷっくりした頬を 博士は優しくなでた。

「 お前が次に目覚めるまでに 宿題 を仕上げておかねばなあ  」

「 博士  あまり根を詰めないでください。  のんびり ゆっくり・・・ 」

「 ジョー ありがとうよ。 しかしなあ  ワシもいつまで保つかわからんし ・・・

 出来るだけのことはしておくつもりじゃよ。 」

「 そんな! 縁起でもないこと、言わないでください! 」

「 いいや。 直視せんといかんことだよ。  それに ・・・ ジェットにことも気にかかる・・・ 」

「 ・・・ ・・・・・ 」

ジョーは黙ってイワンを静かにクーファンに寝かせた。

「 ― 勝手に出ていったんですから。 博士が気にされる必要、ないですよ! 」

「 ジョー ・・・  放蕩息子ほど 親は気になるものなんじゃよ。 

 そもそもの罪の原因はワシじゃて ・・・ ワシが最後まで責任をもつ。 いいな。 」

「 ・・・ はい ・・・ でも!  本当に無理は禁物ですよ? 」

「 うむ うむ ・・・ありがとうよ。  」

トントン ・・・と腰を叩き 博士はそれでもしっかりとした足取りで研究室に消えた。

「 ・・・  ジェット ・・・ これ以上博士に心配、させるなよ・・・ 」

ジョーは空に向かって ぶつぶつと小言を言っていた。

 

     ぼくだって ―  喜んで引き受けたワケじゃないのに ・・・ 

     ふん。  勝手に怒って 勝手に飛び出して

 

     っとに もう知らないからな〜〜〜  くそっ 〜〜〜 !

 

002 ― ジェットは 誰よりも先にギルモア研究所から姿を消した。

帰国した、というより 文字通り<飛び出して行った> のだ。

ゼロゼロ・ナンバー達の解散時、博士は今後の方針なども説明し ジョーをリーダーに指名した。

「 な! なんだって コイツがリーダー なんだよっ??? 

「 理由は論理的に説明したぞ。  009が一番新しいバージョンのパーツを使用しておる。

 彼がリーダーになるのが順当じゃろう。 」

「 はん! おれたちだってメンテの度に ― バージョンアップ してもらってね? 」

「 基盤からして違うのじゃよ。 」

「 ―  へ!  お古はお払い箱ってことかよ〜〜? 」

「 そんなことは言っておらん。 ジョーの一番の役目は ともかく我々の急務の場合には

 世界中に散る仲間達に 集合を掛けることじゃ。 」 

「 ・・  ふん ! 」

「 だから 皆も彼に協力してやっておくれ。  勿論 ・・・ 急務 などないことを祈るがの。 」

「 ・・・・・・・・・ 」

サイボーグ達は 押し黙ったまま固い表情で頷いた。

「 へ!   やっちゃらんね〜ぜ!  」

 

   ―   バンッ !!!    手荒くドアをあける音と共に 赤毛ののっぽの姿は消えた。

 

「 ・・・あ ・・? ジェット・・・? 」

「 ・・・!?   ほら あそこ! 」

「 え?  えええ〜〜〜 」

フランソワーズは窓の外を指し  仲間たちはゆらぐ一筋の飛行機雲を呆然と見上げるのだった。

それ以来、 彼の消息は途絶えた。  研究所や仲間からのメールには一切返事はなく

可聴範囲からの脳波通信にも 応じる気配は全くなかった。

彼 ― 002の足取りはぷつり、と消えてしまった。

 

 

 

   ヴィ −−−−− !!!!  ヴィ −−−−−−−− !!!!!

 

≪ 警報! 警報!!!  ≫

 

突然 研究所のアラームが鳴り響き イワンの絶叫が響き渡った。

博士には 赤ん坊の大泣き として  そしてジョーには 最大ヴォリュームの脳波通信として。

 

博士とジョーは ほぼ同時にリビングに飛び込んできた。

「 !?  な 何事かね?  おい ・・・ イワンや、 なにがあったのかい 」

「 ・・・ うわあ〜〜〜  イワン? どうしたんだあ 」

二人は片隅にあるクーファンを覗き込んだ。

「 ジョー??  イワンはなんと言っておる? 」

「 判りません。  絶叫に近い通信がいきなり飛び込んできただけで ・・・ 」

ジョーは頭を抑えしかめっ面をしている。

「 イワン〜〜〜 ヴォリュームを下げてくれ〜〜〜 」

「 これ  ・・・・ イワン? なにがあったのだね? うん ・・・? 

博士はそっと その小さな身体を抱き上げた。

「 あ・・・ ぼくが・・・。  あれえ ・・・汗びっしょりだねえ〜 ちょっと沐浴するかい? 」

びくり、とイワンの身体が震えた。

 

≪ 来ル!  来ルヨ  ・・・・!  大キナ トテモ大キナ えねるぎーノ塊 ・・・! ≫

 

「 ?? エネルギーの塊、じゃと? 」

「 来る・・・ってどこから来るのかい、イワン? 」

≪ ・・・ 空 ・・・ 宇宙 ・・・ ズット遠クカラ ・・・ 来ル! ≫

「 宇宙??  隕石のようなものかの? 」

「 さ さあ・・・ でもただの隕石ならイワンがこんなに反応はしないと思いますが ・・・ 」

「 そうじゃのう ・・・ イワンや、 もう少し詳しくわからんか。 」

≪ ・・・ えねるぎーノ塊 !  ・・・ 悪意ノ塊 ・・・ 敵意シカナイ ! ≫

「 なんじゃと?! 」

≪ 警報 ・・・ 警報!  注意セヨ! 注意セヨ ・・・ 悪意ノ塊 ・・・・・・ ≫

イワンの絶叫は次第に小さくなり 間遠になり ・・・  やがて 沈黙した。

「 イワン? イワン〜〜〜?  寝ないでくれよ〜〜〜 」

ジョーは腕に抱く小さな身体に懸命に語りかけたが ―  今は可愛い寝息しか聞こえない。

「 ・・・ あ〜〜ダメだあ〜〜 本格的にぐっすり眠っちゃった・・・ 」

「 ふむ ・・・  ジョー、ちょいと手伝っておくれ。

 NASAにおる友人や 国際宇宙研究所にも 問い合わせをしてみる。

 そしてここの観測網のデータ解析も頼む。 」

「 はい。  ・・・ なにか ・・・ 事件の前触れなのでしょうか ・・・ 

 イワン ・・・?  ああ 涙の痕 が ・・・ 泣き寝入りってまさにこのことだなァ  」

ジョーは ガーゼで赤ん坊の柔らかな頬をそっとぬぐってやった。

 

 

 ほどなくして。  世界中の各地で人々は空を見上げ ― 大騒ぎになった。

「  流れ星!??  巨大な流れ星が !!   落ちてくる?? 」

ソレは 大きな火球が大気圏に突入し 燃え尽きた ・・・ かのように見えた。

「 なんだ〜〜〜???  異星人の襲来か?? UFOか ??? 」

当然マスコミも煽りたて、 世界各国は連日様々な憶測や想像・妄想で湧き立った。

 

  ― しかし 一週間後。

 

    大火球は 大型隕石    大気圏突入で完全燃焼す   地球に被害ナシ

 

各国の大手新聞の朝刊には 申し合わせてごとく同じ記事が掲載された。

詳しい解説やら詳細な写真付きで 全体にひどく冷静な雰囲気だった。

「 隕石は完全燃焼してしまったので 未知の細菌等の侵入も不可能。 」

国際宇宙研究所も 淡々とコメントを発表し  ―  それは少々強引な幕引き宣言ともとれた。

 

  な〜〜んだ〜〜〜   脅かしやがって  ・・・   でもさ〜 キレイだったね〜

 

熱し易く冷め易い一般大衆は大騒ぎし  そして すぐに忘れた。

一部の ヲタと呼ばれる輩たちは いろいろ想像逞しく異星人攻撃等・・・異説を唱えたが

いずれも 想像過多、 妄想  アニメ・ヲタ ・・・ と片付けられていた。

 

 

 

「 ―  なんですって ? 」

ジョーは思わず大きな声をあげてしまった。

「 ・・・あ ・・・ すいません  博士 ・・・ 」

「 いや いや ・・・ よいよ。  お前ですら驚愕するんだからなあ ・・・

 この事実を公表したら ― それこそ全世界にどんなパニックが起きるか想像もつかない。 」

「 ・・・ しかし ・・・ 本当に ・・・・ 」

ジョーは そっと側のクーファンに眠る赤ん坊に視線を投げた。

 

例の大火球騒ぎ ― ここギルモア邸でも大いに盛り上がり ジョーは博士と熱心に観察した。

「 すごかったですねえ ・・・  あんなに大きな隕石は初めてだ ・・・ 」

「 うむ ・・・ 」

「 完全燃焼・・って そんなこともあるんですね?  質量が大きいと速度も増すから ? 」

「 ・・・ うむ ・・・ 」

博士はどうも歯切れが悪い。 生返事ばかり繰り返しじっと考えこんでいる。

「 博士?  どうか ・・・ しましたか。 」

「 あ?  ああ ・・・ いや ・・・。  うん やはり気になるな ・・・ 問い合わせしてみるか。 」

「 問い合わせ?  ・・・ってあの隕石のことですか? JAXA? それとも NASA? 」

JAXA にも NASA にも ギルモア博士とは昵懇の天体物理学者が複数いる。

「 いや。  ― 国際宇宙研究所じゃ。 」

「 は はい ・・ 」

 

小一時間 ギルモア博士は先方とテレフォン・カンファレンスをしていた。

ジョーが気遣って お茶をそっと差し出したとき、 博士はカチリ、と受話器を置いた。

「 ?  ・・・ あ 終りましたか。  博士 お茶を ・・・ 」

「 ジョー。  ちょっと研究室まできてくれ。 」

珍しく博士は茶碗などには目もくれず、強い調子でジョーを促がした。

「 あ ・・・ イワン ・・・ 一緒に連れてゆきます。 さあおいで・・・ 」

「 うむ。 そうじゃな・・・。  ああ ジョー ・・・ クーファンごと持ってゆくか。 

 いや  それよりも ジョー 君に頼まなければならないことがある。 」

「 あ  はい ・・・ 」

ジョーは博士と共に 研究室に入った。

 

 

「 い ・・・ 異星人 ??? 」

ジョーは博士の発言に 仰け反るほど驚いてしまった。

「 だ ・・・だって 隕石 じゃなかったのですか? ほら 映像も見ましたよね? 」

「 うむ。  あれは 他の天体からやってきた宇宙船じゃった。 」

驚愕しているジョーの前で 博士は淡々と話はじめた。

「 マスコミ等へ発表した内容と映像は ― 地球側で差し替えたものだ。 」

「 さ 差し替え?? 」

「 うむ。  たしかにアレは大火球となって大気圏に突入した。  しかし燃え尽きることはなかったのじゃよ。  

特殊なフィルターに護られておったのじゃ。 」

「 ・・・ う ウチュウセン ・・・って どこ から? 」

「 詳細はこれから国際宇宙研究所で聞く。  とりあえず、ワシらにも協力の要請があった。

 ジョー。  きみは速やかに各地に散ったメンバー達を招集してほしい。 」

「 皆を ・・・ ですか。 ぼく達とその宇宙船となにか関係があるのですか。 」

「 そうなのじゃ。 その宇宙船からの救難要請通信を国際宇宙研究所がキャッチした。

 そして研究所近辺の海域に誘導したのじゃよ。 」

「 ・・・で・・・ 乗っていたのは ・・・ 異星人 ? 」

「 左様。 これはどうやら先日イワンが言っておった 厖大なエネルギー  とか 

 悪意の塊 とか と関係があるらしい。 」

「 わかりました。  いえ、今回の事件のことじゃなくて ・・・ その 皆を招集する件ですけど。 」

「 うむ。 宜しく頼む。   ・・・ 皆 それぞれの地に馴染んでおるのにのう ・・・ 」

「 博士。 有事の際には再び集結する・・・って、 約束じゃないですか。

 久し振りに皆に会えて嬉しいです、ぼく。 」

「 そう ・・・ 言ってくれるか。  ワシの方からも皆に連絡はいれておくぞ。 

 張大人とジェロニモ Jr. はワシから直接電話をするよ。 」

「 お願いします。  ・・・ 皆に会えるといいなあ ・・・ 

ジョーは ちょっと言葉を切ってから 空を見上げた。

 その日も 抜けるような青空で ―  大海原は穏やかにたゆたっていた。

 

   ・・・ 会える よね  ジェット ?

 

   フランソワーズ ・・・  会いたい 会いたいよ!

 

「 じゃ ・・・すぐに用意します。 」

「 うむ。  よろしく頼むよ。 」

博士はジョーの後姿に できれば手を合わせたい気持ちだった。

 

   ― 三年 か。   短い時間ではないのう ・・・

 

   すまん ・・・  諸君 ・・・ 本当にすまん ・・・

   

 

 

  ―   カラ −− ン ・・・    ドアベルが不機嫌そうに鳴る。

「 ・・・・ え〜と ・・・? 」

ジョーはその店に入ると しばらくきょろきょろと周囲を見回していた。

店の中は薄暗く どの程度客が入っているのかすぐにはわからなかった。

「 ここ ・・・ だよね・・・  ぱぶ・うぉ〜た〜る〜ぶりっじ って ・・・ 」

カウンターの中から マスターらしき中年男がジョーをじ〜〜〜っと見詰めている。

少々ビビりつつ ジョーはカウンターに近づいてゆく。

「 あ ・・・ あの ・・・ ここ ・・・ ぱぶ ですよね? 」

「 ああ。 コドモの来るところではないよ。  お帰り ボウヤ。 」

「 え! あ あの〜〜 ぼく !  ボウヤじゃありません! 待ち合わせをしているのですが 」

「 ・・・ ウチで <商売> はしないでくんな! 」

「 ??  しょうばい? 別になにも売りませんよ? 」

「 ふん、そのテの容姿はウケるだろうよ。  ともかくウチには入れないぞ。 」

「 え 〜〜〜  でもォ 〜〜〜 

ジョーはおろおろ・・・カウンターの前でうろうろしている。

「 さっさとでてけ。 じゃないと 水、ぶっかけるぞ! 」

「 あ あの 〜〜〜 」

「 おう。 待たせたな〜〜 ジョー。 」

不意に 入り口から艶やかな声が響いてきた。

「 !?  あ !  グレートォ〜〜〜 ! 」

「 マスター。 迷惑かけてすまん。  この少年、 実は我輩の知り合いでな。

 なに、一杯貰ったらすぐに退散するよ。 我輩はいつものヤツ。 半パイントで。 」

「 おや ブリテンさん。  アンタの弟子かい。 それじゃ ・・・ ほら これでも飲んでな。 」

 コトン。  ジョーの前にグラスが置かれ 中にはなみなみとミルクが注がれていた。

「 あっはっは ・・ こりゃ忝い!  おい ジョー? ありがたく頂くんだぞ〜〜 」

「 ・・・ ふぇ〜〜い ・・・ 」

二人はそれぞれのグラスを持って パブの隅っこに移動した。

 

「 ―  え。   そりゃまた ・・・ 」

 フゥ 〜〜〜〜 ・・・・ グレートは大きく紫煙を吐いた。

「 ウン。  仕事中申し訳ないんだけど。 そんな訳なんで急いでほしいんだ。 」

「 そりゃ ―  ドクターからの召集とあらば ・・・ と言いたいところなんだがなあ・・・ 」

「 都合、つかいない? 」

「 っていうか。  おい boy ?  お前、社会の仕組みってモン、わかっておるのかい? 」

「 社会の仕組み?? 」

「 そうさ。  社会・・・というよりも だな。 勤め人社会の仕組み さ。 」

「 勤め人・・って グレートは天下のSISの腕利き諜報部員 なんだろう? 」

「 ・・・ まあな。 しかし! 腕利きだろうが御用聞きだろうが! ルールは同じなんだ。 」

「 ルール?? 」

「 ふ ・・・ まあ プータロー高校生にはわからんだろうが ・・・ 」

グレートは深々と溜息をつき、 グラスの黒ビールをずずず・・・と啜った。

「 ―  ん 〜〜 ・・・ 」

  シュ ・・・   彼は新しいタバコに火をつけた。

ゆらゆらとタバコの煙が二人の間に立ち昇ってゆく。

「 ぼくだって仕事のことくらい知っているさ。

 ちゃんとした企業なら 有給休暇ってモンがあるんでしょ?  SISって国の機関でしょ。

 グレートってば国家公務員 ・・・ ? 」

ジョーも負けずにミルクを啜っている。

「 一本 いい? 」

ジョーがタバコの箱に手を伸ばした。

「 だ〜め。 ガキはチョコレートでもかじってな。 」

「 ちぇ ・・・ ぼく、もうハタチすぎてるんだよ? 」

「 はん。  <永遠の18歳 > がな〜にを言っておるか〜〜 」

「 う〜〜 イジワルSIS〜〜〜 」

「 おいおい ・・・ あのな。 我輩は SIS に入ってまだ3年経っておらんのだぞ?

 そりゃあなあ・・・腕利には違いないが。 

 有給休暇の日数はそんなにないんだ〜〜 どこだかわからない星まで行くにはちょっと・・・ 」

「 ・・・ だめ? 」

「 他のメンバーはどうだ?  アルベルトは? 奴さんの勤め先もGSG・・・国家機関だぞ。 」

「 ウン。 一応連絡は入れたんだ。  休暇申請しておくって。 」

「 ふん ・・・ まあ ・・・奴さんは閑職だからな ・・・ 」

「 かんしょく?? なに それ。 」

「 いや ・・・ こっちの話さ。 boy にはわからんでもいいんだ。 」

「 久し振りに皆が集まるだろ、ぼく すごく楽しみにしているよ! 」

「 ・・・ お前なあ ・・・  で 肝心のマドモアゼルは? 」

「 え??  フランソワーズ ・・・? 」

「 そうさ。 彼女にも連絡、入れたんだろう? 」

「 うん。 でもね、なんか公演の真っ最中で ・・・ 詳しい返事はまだなんだ。

 ともかく  了解  って。  このあとフランスに回る予定さ。 」

「 ・・・ そっか ・・・  公演中 ・・・ か。 」

「 ウン。 なんでも 『 白鳥の湖 』 の主役なんだって! 凄いね〜〜〜 」

「 ・・・ その最中に呼び出すのかい。  」

「 ・・・ それは ・・・ うん ・・・ なんか申し訳ないけど ・・・ 」

 ふ 〜〜〜〜〜〜 ・・・・!  もう一回特大の溜息をつくと グレートはグラスの残りをイッキに

呷った。

「 ・・・ 仕方あるまい。  ドクターとは約束があるし な。

 親戚の葬式と結婚式と有給の全部をひっくるめて申請するか ・・・ 」

「 ありがとう〜〜 グレート〜〜〜  」

「 で?  ヤツは?  ・・・ ちゃんと参加するんだろうな? 」

「 ― 全員に通知はしたよ。 」

「 それで返事は。 」

「 ・・・ 来ない。 っていうか ・・・ あれから音沙汰ナシなんだ。 」

「 ・・・ 困ったやつだなあ・・・ まだ根に持っているのか。 」

「 グレート ・・・ 」

「 おい、boy 〜〜 そんな顔、しなさんな。  わかった。 お前 とっととマドモアゼルの所に

 飛べ。  我輩からもヤツに連絡をいれてみるから。 」

「 ありがとう!!  ・・・ 次はここで堂々とビールが飲みたい! 」

「 あっはっは・・・ お前にはミルクがお似合いさ。  じゃあ ・・・ 」

グレートはタバコをアシュトレイに捻ると ぽん、と硬貨をジョーに投げた。

「 これ・・・支払っておいてくれ。  我輩は仕事中なんでな ・・・ それじゃ。 」

「 あ ・・・ うん。 それじゃ ・・・ 待ってるから。 」

「 〜〜 ♪ 」

片手を挙げ、 スキン・ヘッドの諜報部員は飄々とパブから出ていった。

 

 

 

 

「 ・・・ すごいな ・・・ フラン ・・・ 」

ジョーは低く呟いた。

彼の座席は二階の左隅だったけれど それでもキャンセル待ちでやっと取れたチケットだったのだ。

フランソワーズ・アルヌール主役の 『 白鳥の湖 』。

パリに到着して すぐにチケット・センターに問い合わせたのだが すでに完売だった。

ホテルで新聞や雑誌の芸術欄を読み漁り その期待度の高さにちょっと感動してしまった。

 

    フラン ・・・ 本当によく ・・頑張ったね ・・・!

    とうとう夢の実現への第一歩を踏み出したんだ

 

彼女とはこの三年間 一度も会っていない。

手紙とメールにやりとりはしているが 実際には会っていないのだ。

 

    会いたかったよ! 本当に本当に会いたかったんだ・・・!

    ・・・ けど。  

    踊りの世界のこと、なんにも知らないぼくが できる唯一の応援って 

    きみの邪魔をしないこと だと思ったんだ 

 

    きみが晴れて舞台の真ん中で舞う日  ぼくは会いにゆくよ!

 

たったの三年 ― そんな短期間で彼女は主役を踊る、という地位まで駆け登ったのだ。

彼は芸術方面にとんと疎いのだが ―  彼女の真摯な努力は十分に理解できた。

 

「 フラン。 だから今夜は そっと ・・・ 隅っこで観ているよ。

 きみの 情熱と努力の証をしっかりとぼくの魂に刻み込むさ。 」

 

舞台は第一幕から熱気を孕んで展開し そのボルテージはどんどん上がっていった。

観客は 二幕の王子とオデット姫の愛の踊り ( グラン・アダージオ ) に酔いしれ

三幕のオディールの巧者な踊りに感嘆し  そして 終幕 ・・・ 

今 王子はロットバルトを倒し オデットと愛の賛歌を踊っている。

 

  ふう 〜〜〜 ・・・   はあ ・・・・   ほう 〜〜〜

 

客席はもう熱い吐息と感動の溜息ではち切れそうだった。

 

    フラン ・・・ フラン ・・・ 素晴しい よ・・・!

    ああ  なんだかぼく、涙が出てきて・・・

 

試練を乗越えた王子とオデット姫の姿に ジョーも感激し涙ぐんでしまった  のであるが。

熱く熱く見詰めあう二人の視線は ― あまりにも熱く。  あまりにも甘く ・・・

その眼差しは迫真の演技 ・・・ を超えている風にも思える。

ジョーは 彼女を愛しているゆえに 彼女の愛情深い眼差しを知っているがゆえに

  ― 一抹の不安を感じてしまう。

 

「 ・・・ きみは  愛している?  その  オトコ を・・・?   いや まさか。 

   え  ・・・   でも。  」

 

一度生まれた不安は どんどんと脹らみ始めジョーの心に影を落としだすのだった。

 

 

「  ・・・ ジョー  !!! 

  カツ カツ カツ カツ ・・・・!!   足音も高く彼女が駆けてきた。

「  やあ ・・・ ここだよ。 」

ジョーは手を振って合図をした。  すでに夜の闇は濃く、パリの街は外灯に彩られている。

「  ・・・ ジョー ・・・!  ああ  ジョー ・・・・!! 」

「 フランソワーズ・・・!  」

二人は 橋の手前でしっかりと抱き合った。

「 ジョー ・・・ ああ ジョー ・・・ 会いたかったわ  ・・・ 会いたかった ・・・ 」

「 フラン。 ぼくもだよ。 ずっとずっと ・・・ 気が狂うほど会いたかった ・・・ 」

「 ・・・ ああ この温かさはジョーね、わたしのジョーの温もりだわ。 」

「 フラン ・・・ もっとよく顔 ・・・ みせて。  ぼくのフラン ・・・ 」

「 ・・・ ふふ ・・・ 急いできたから・・・まだメイクがちゃんと落ちていないかも・・・ 」

「 ぼくの白鳥姫 ・・・ ステキだった・・・!  ぼく、感動して涙が出たよ。 」

「 ジョー!  観ててくれたの? 」

「 うん。  もうギリギリでやっとチケット取って。  ・・・ すごかった ・・・ 」

「 嬉しい ・・・ ジョーにそんな風に言ってもらえるのが 一番嬉しいわ ・・・ 」

「 出来れば博士もお連れしたかったんだけど ・・・ 」

「 !  ・・・  ジョー。  あなたは ― 」

「 ごめん。 ぼく ・・・ 不幸の使い、だね。  きみの夢をぶち壊しに来た・・・悪魔の使いだ。 」

フランソワーズは静かにジョーの腕から離れ 彼と向き合った。

「 ―  博士から  召集がかかったの ね? 」

「 うん。  今度は  もしかしたら長いかも ・・・ しれない。 」

「 ・・・ そ  そう ・・・ 」

ジョーも しっかりと彼女を見詰め そしてその白い手をとった。

「 ごめん。  予定変更だ。   ぼくは帰る。 」

「 え ええ??? 

「 本当は  ― きみの予想通り ・・・ 博士からの司令で皆に召集を掛けにきたんだ。

 でも。  今日のきみのステージを見ていて心を決めた。 」

「 ・・・ ジョー ? 」

「 きみは ― きみが選んだ道を行くべきだ。  踊りの世界にいるべきだよ。 」

「 ・・・ ジョー ・・・なにを 言っているの? 」

「 きみに似会うのは美しい芸術の世界だ。  ぼくが来たことは忘れてくれたまえ。 」

「 !?  ジョー。 どういうこと ・・・ 」

「 ぼくはこれで帰る。  ねえ いつか ・・・ 言った言葉、もう一度だけ言わせてくれるかな。 」

「 ・・・ な なに・・・? 」

「 本当を言うとね、防護服で戦場を駆けるきみよりも 舞台で踊っているきみの方が

 ずう〜〜っとステキだよ。  ぼくはそんなフランソワーズが好きなんだ。 」

「 ・・・ ジョー ・・・  それって ・・・ 来るな ということ・・・? 」

「 うん。  きみは ゼロゼロ・ナンバーチームに復帰する必要はない。 」

「 どういうこと ・・・ 何を言っているの、ジョー! 」

「 きみは ずっと ・・・ フランソワーズ・アルヌールとしてだけ、生きてゆきたまえ。 

 さよなら ・・・ どこにいてもいつまでもきみのこと ・・・ 想っているよ。

 きみの幸せだけを 祈っている ・・・ よ ・・・ 」

ジョーは すこしづつ後退りしてゆく。

外灯の淡い光では お互いの顔がぼやけてよく見えない。

   

     さよなら ・・・ ぼくの天使。 ぼくの  愛した ひと  ・・・!

 

ジョーは唇を噛み、静かに踵を返した。    ―  もう 会えない。  

 

  カッ ・・・!!!   カツカツカツ ・・・!   高い靴音が彼を追ってきた。

 

「 ジョ  ジョー !!  ま  まって !!  行かないで ・・・ !! 」

「 ?!  フラン ・・・・ 」

脚をとめた彼の背に  どん ・・・と 細くしなやかな身体がぶつかってきた。

「 いや  いや よ  ・・・  ジョー ・・・ 愛しているの ・・・ 」

「 フランソワーズ ・・・! 」 

「 ・・・ いや ・・・ そんなの、いやよ!  ジョーともう会えないなんて  いや! 」

「 フラン ・・・ 」

「 わたし、 行くわ。  一緒に行くわ。  ね ・・・ いつかこの日が来るってこと、わかっていたの。

 だから ・・・ それまでに精一杯努力をして 主役を踊るんだ!って  頑張っていたの。 」

「 ・・・ きみってひとは ・・・ 」

「 さあ。  ジョー。 いえ 009。  一緒に行くわ。 」

「 え ・・・ でも まだ 明日舞台があるのだろう? 明日は ・・・ 」

「 ええ 千秋楽だけど。  でも 緊急の召集なのでしょう? 」

「 ああ。 しかし まだ全員集まってはいないから ・・・ 」

「 でも ・・・ 」

「 いいんだよ。 踊れよ。 ・・・ ううん ごめん、違うね。 

 どうぞ踊ってください。 きみの舞台はまだ終っていません。 

 最終日 きみの最高の踊りを見せてください。 世界にフランソワーズ・アルヌールの最高の 

 白鳥を見せてください。 」

「 ・・・ ジョー ・・・ でも  でも ・・・ 」

ジョーは彼女を抱き締めると こそ・・・っと耳元に囁いた。

「 オデット姫は  最後には人間に戻れるのだろう? 」

「 え ええ・・・ 王子がロットバルトを退治すると魔法が解けるのよ。 」

「 ・・・ うん わかった。  明日  ―  白鳥姫は 天使になるんだ。 」

「 ???? 」

フランソワーズは狐に抓まれた気分で ジョーの悪戯っぽい笑みを見ていた。

 

 

 ―  翌日。

劇場は天井桟敷の立見席も満員となり、 キャンセル待ちもほぼ不可能となっていた。

 

今 ―  舞台は終盤に差し掛かっている。

王子は悪魔 ・ ロットバルトに果敢に闘いを挑もうとしている。

 

   オデット ・・・!  私があの悪魔を斃せば 

   君は  君達の呪いは解かれます !

   人間の娘に戻れるのですよ !  

 

   王子様 ・・・ ありがとうございます ・・・

 

   姫!  私が勝利したら その時は ― 結婚してくれますか。

 

   ―  王子様。 どうぞお幸せに ・・・ わたくしが皆を そして 貴方を 救います。

 

    ・・・  ??? 

 

台本にないマイムに 王子役の動きが一瞬止まった。

 その時 ・・・

 

   ファサ ・・・・   白鳥姫の姿は ふわり ・・・ と宙に浮かぶと どんどん上昇してゆく。

 

ざわざわざわ  ―  客席も勿論、 舞台袖でも そして舞台上でも全ての人々があっけにとられ

ただ呆然と成り行きを見守っているうちに ・・・

 

   ( カチ ・・・ ) ごく小さな音とともに 白鳥姫の姿は  ふ・・・・っと宙に溶け込んだ。

 

 

  ・・・ 後の蜂の巣を突いたが如くの騒ぎを残し  今晩の主役は忽然と消えてしまった。

 

 

   ゴ −−−−− ・・・・  小型機は快調に飛行している。

女性が一人、コクピットに現れると パイロットに後ろから抱きついた。           

「 ― ジョー ・・・・!  」

「 フランソワーズ ・・・ ごめんよ、きみの折角の晴れの舞台を・・・ 」

「 ううん ・・・ 待っていたの。 ジョーがこうしてわたしを浚ってくれる日を待っていたのよ! 」

「 フラン ・・・ 」

「 オデット姫は その身を天使に捧げ ・・・ 王子の命と白鳥に変えられた娘たちを救ったの。 」

「 フラン ・・・ きみってヒトは ・・・ 」

「 さあ 行きましょう!   ギルモア博士の元に再び集う日が来たのよ。 」

「 ―  うん。   よろしく。  003。 」

「 ん。  009。 」

二人は愛と信頼の眼差しを交わし 密かにパリを後にした。

 

 

 

 

   数日後 ― 

 

「 ・・・ やはり  来ない  か。 」

「 うん。  何回も連絡を入れてみたんだけど ― 返事、もらえなくて。 」

「 我輩もなあ ・・・ NYまで脚を伸ばしたが。 会えなかった・・・ 」

「 そう  か。  これもヤツの選択だ。 」

「 ・・・ そうだね。 僕たちには選択の権利があり、 彼は彼の意志で決めたんだよね。 」

「 でも ・・・ 」

「 ―  ジョー。  発進しよう。 」

「 わかったよ、アルベルト。   ・・・ 皆 準備はいいかい。 」

「 了解 」

ゼロゼロナンバー・サイボーグたちは 久々に深紅の防護服を纏い ―  この異星から

やってきた宇宙船に搭乗している。

今 彼らは地球を後にし はるか遠い天体へと向かうのだ。 

「 よし。  ―   イシュメール 発進 ・・・! 

 

異星の艦は ゆっくりとその翼を広げ始めた。

 

 

 

Last updated : 05,07,2013.                      index          /         next

 

 

 

 *******  途中ですが。

 

皆さん!!!  大切なこと、忘れていませんか??

 

   27年前には  六本木ヒルズはまだ存在しませんでした★

   日本には  すたば  はまだありませんでした★

 

・・・ RE:ジョー ・・・どこでどうやって暮していたんだ??

 

例によってはちゃめちゃ・展開で ・・・ 続きます〜〜 <(_ _)>