『 あめ あめ ふれふれ ― (1) ― 』
ふわり ふわり ・・・ 甘さを含んだ風が ゆるゆると流れてくる。
「 ふう 〜〜 ん ・・・・ 」
フランソワーズは大きく息を吸った。
「 ・・・ あ〜〜〜 いい香り ・・・ ふふふ 海のニオイまでちがってくるのねえ
あ 潮の香りっていうんだったかしら 」
彼女は フレンチ・ドアをあけてテラスにでた。
「 まあ 垣根の近くにある木にお花が咲いているわ〜〜 何の木かしら? 」
スリッパを脱ぎ飛ばし ぱたぱた庭を横切って行った。
「 ふ〜〜ん ・・・? 白くて小さなお花ね・・・ あら いい香り
・・・ 葉っぱは ・・・ ないのね? 」
細い木の側に立ち そのごつごつとした枝をつくづくと眺めた。
「 お〜〜い フランソワーズ〜〜 コーヒーの買い置き どこかなあ〜 」
ベランダから 茶色のアタマが現れた。
「 え? ああ それはね ・・・ 今 ゆくわ〜〜 」
「 ウン 頼む〜〜 あれ?? サンダルは? 」
「 え? あら ・・・ うふふ・・・ 履くの、忘れちゃったわあ〜 」
「 あ〜あ・・・ 靴下、汚れたろ? 待ってて〜〜 雑巾、もってくるから。」
「 あら ありがとう〜〜 ああ いい香・・・ ここにいても香るわあ〜〜 」
ふうう 〜〜 ・・・ 軽い 明るいため息が 早春の空にのぼってゆく。
「 うふ ・・・ このお家って。 この地域って 好きかも ・・・ 」
ふ〜〜わり ふわり ・・・ 薄いピンク色の早春の風がのんびりと通って行った。
ほとんど予備知識もなく関心すらなかった、この極東の国に住むことになった。
当初は 逃亡の果てに辿り着いた地であり、慣れ親しむ余裕もなく再び放浪の旅に
出てしまった。
― 激しい戦闘の後 紆余曲折を経て再びこの地にやってきた。
そして 今回はしっっかりと根を下ろすことができた。
住居は 相変わらず町外れの辺鄙な場所だったが 安住の地 としては十分だった。
ふぅ …
わたし どんどんこの場所が好きになるわ
…!
平穏だが平凡な日々が流れ始め フランソワーズはこっそり安堵の吐息をもらしていた。
この極東の国は思いもかけず、 豊かな時間を彼女に与えてくれたのだ。
「 ・・・ すてき ・・・! 」
金髪碧眼の仏蘭西乙女はしばし感歎の声を上げた。
故郷の街は 勿論恋しいし涙がでるほど懐かしい。 しかしそんな想いとはまた別に
彼女はこの国の、さらに鄙びた町とその環境に心を奪われていった。
春の桜の見事さ
そして その散り際の美しさに圧倒され 初夏の様々な緑に目を見張り
梅雨すら 糸を引くようにそめそめ切れ目なく落ちてくる雨粒を
飽かず眺めた。
夏の空と海の青は圧巻で地域の人々の夏の過ごし方に感心し
― 蚊取り線香 は お気に入りになり
―
秋の錦繍には 身も心も染まった。
仲間と住む邸があるのは 温暖な地域なので 冬の雪とは縁がなかったが
冬場の突き抜ける高く青い寒空や 日差しの温もりを閉じ込める 布団干し の魅力の虜になった。
ああ なんてステキなの〜
彼女は 長い悪夢の日々の記憶をその地で少しずつ洗い流していた。
ささくれ立ち冷え固まっていた心は ゆっくりと潤びていった。
わたし ・・・ 気持ちだけは 普通の女の子に戻れるかも
・・・ そうよ ・・・ この空と海と緑の国にいられたら ・・・
そんなふんわりした気持ちは この国の青年と結婚した後もますます膨らんだ。
そして。 待望の小さな顔が二つ加わった日から
―
雨散霧消 した★
のんびり梅の香りを楽しんだり 桜の花風吹の中を歩く時間は ― どこかへ飛んでいった。
季節は気が付かないうちに あっと言う間に飛び去ってゆく。
「 ほらほら・・・ そんな大きな声で泣かないで〜〜 すぴか ・・・
すばるがお目目を覚ませてしまうでしょう ・・・? 」
「 すばる〜〜〜 泣き止んで〜〜 すばるのお父さんは明日の朝 早いの。
ね? すばるが大好きなお父さんのために … ねんねしてちょうだい 〜〜 」
双子の子供たちは 時間差攻撃で母を困らせる。
「 ・・・ しょうがないわねえ〜〜 じゃ ちょっと外に行きましょう・・・ 」
母はため息つきつき 息子を抱きあげた。
「 ねえ ・・・ すぴかはもうとっくにねんねしているのよ・・・
えっと ・・・ タオルケットで包んでゆけば大丈夫ね 」
うぇ〜〜〜〜 くしゅ くしゅ くしゅ・・・・
「 ほ〜ら お外に行きましょ? お星さま 見えるかな・・・ 」
そうっと廊下を抜けてキッチンから 裏庭に出た。
カタン ― 晩春の暖かい夜気が ふんわりと母をつつむ。
「 ふう ・・・ ああ もう外でも寒くないのねえ ・・・
すばる? ほうら ・・・ お月さまがみえるわよ 」
町外れの辺鄙な場所だが 空は澄んでいて中天には白く月が輝く。
あ ・・・ 桜って ・・・ もう散ってしまったの?
やだ 桜が咲いたの、見たかしら??
・・・ 梅も見てないわ !
わたしのお気に入りの 白梅さん 〜〜〜
「 うっく・・・ うぇ〜〜〜 」
腕の中で すばるがまたぐずり始めた。
「 ほらほら ・・・ すばる〜〜 お月さまが笑ってるわよ〜〜
」
とんとん・・と軽くムスコのオシリを叩きつつ 裏庭をぶらぶら歩く。
〜〜〜 ♪♪ ♪♪ 〜〜〜♪
低い声で 母は歌い始めた。
「 ・・・ 素敵な歌だね 」
後ろから こそ・・っと声が聞こえた。
「 ?! ジョー・・・ ご ごめんなさい、煩かった?? 」
びっくり仰天、やっと寝息をたて始めた息子を抱いたまま彼女は固まっている。
「 ごめんなさい〜〜〜 起こしちゃったのね。 すばるが早くねんねするように・・・って
思って歌ってたんだけど ・・・ 」
「 そんな慌てないで・・・ いや全然、声は聞こえなかったよ?
泣き声だって ・・・ あんまり静かなんでそう・・っと子供部屋を覗いたらさ、
すぴかがく〜〜く〜〜 眠ってるだけで ・・・ きみもすばるもいないから
どうしちゃったのかって 」
「 あ ・・・ ごめんなさい〜〜〜 すばるってばもう全然ネンネしないのよ
泣き声でジョーが眠れないと困るから・・・ 外に出たの。 」
「 大丈夫だってば。 チビたちの声を聞くとさ、 あ〜〜〜 ウチに帰ってきたんだ〜〜
って かえってほっとするよ? 」
「 え ・・・ でも 明日早いのでしょう? 」
「 平気だよ。 ぼく、小さな子たちと一緒に育っただろ? かなり煩くても平気なんだ。
あはは ・・・ 免疫 あるんだ〜 」
「 まあ ・・ そう ・・・? 」
「 ウン。 だからもう中に入ろうよ。 きみの子守歌 もっと聞いてたかったけど・・」
「 うふ・・・ フランスの古い子守歌よ。 ママンが小さな頃 歌ってくれたわ・・
日本の子守歌も おぼえなくちゃね 」
「 ふうん ・・・ 素敵な歌だったなあ こんど ぼくのために歌ってくれる?
・・・ チビたちにはまだもったいないさ。 」
「 まあ ・・・ うふふ・・・ 自分の子供たちにヤキモチやいてどうするの? 」
「 ふ ふん ・・・! あ〜〜 ほら すばる・・ ぐっすり だよ
」
「 あら 本当・・・・ うふふ・・・ 頑固モノのプチ・ムッシュウ♪ 」
母は ちょん・・・と息子のぷっくり丸い頬にキスをす
「 さすがだね〜 お母さんはちゃ〜んとわかってたんだ?
外の空気が吸いたかったんだね、すばるはさ。 」
ジョーの指がそう・・・っと息子の髪を撫でる。
「 え? ううん ・・・ 全然泣き止まないし ジョーが眠れないって思って
仕方なく外に出たの。 」
「 そう? ね これからはぼくに遠慮はいらないから。
チビ達がぐずったらぼくを起こしてくれ。ウチはさ〜二人いるんだ、手分けしなくちゃ。 」
「 そう ね ・・・ ありがとう ジョー・・・ 」
ぽつり。 涙が一粒 彼女の手に転げ落ちる。
「 ぼくが抱っこするよ・・・ わあ〜〜 コイツ、こんなに重かったっけ? 」
ジョーは 眠っている息子を器用に抱き取ってくれた。
「 うふふ・・・・ やっぱりね〜 オトコノコはずっしり重いの。
生まれた時にはすぴかの方が大きかったのにね 」
「 そっか〜〜 ああ 早くかえってきてコイツらと遊びたいよ〜〜
すばる? 早くおっきくなれ〜〜〜 お父さんとキャッチ・ボール しような〜 」
「 ふふふ ・・・ すばる? いいわねえ〜〜 楽しみねえ〜〜 」
「 さ 戻ろうよ。 すぴかも心配だし ・・・ 」
「 そうね ・・・・ きっとあの子、お布団を蹴飛ばしてるわよ 」
「 は〜やく大きくなあ〜れ ・・・・ 」
ジョーは彼のムスコをタカラモノみたいに大事に大事に抱えていった。
ああ ・・・ シアワセ だわ ・・・
フランソワーズは 今度は温かい吐息を月夜の空にゆっくりと吐き出すのだった。
― たまには そんな穏やかな夜もあった。
ジョーはいつだってとても熱心に子供たちの世話に協力してくれたし
なによりも彼はもう無条件に 盲愛に近い愛情を我が子たちに注いでくれるのだった。
しかし ― ジョーは四六時中 一緒に居てくれるわけじゃあないのだ。
やはり子供たちの世話は フランソワーズが一手に引き受けなければならない。
彼女はずっと 子育てには自信をもっていた。
結婚前から ひそかに思っていたことだ。
だって わたし。 子育て経験者 ですもの♪
< 産みの母 > になったのは初めてだけど 赤ん坊の世話はちゃ〜んとこなしてきた。
それも 平時だけではなく戦場でだって赤ん坊を抱き切り抜けてきた。
うふふ・・・ 楽勝よ、楽勝〜〜〜
楽しみだわあ〜〜〜 双子でよかったわ、一人っきりだったら退屈しちゃうわ。
それにね〜〜 わたし、< こだわり > があるの。
自分の子供は どうしてもこうやって育てたいってず〜〜っと思ってたわ。
静かで穏やかな環境での子育てでしょう?
もう う〜〜〜んと拘りたいの。
着るモノの食べるモノも なんだってわたしが作るの♪
きゃ・・・ 楽しみ〜〜 早く元気で出てきてね〜〜
にこにこ・・・二人が詰まった大きなお腹を擦って それはそれは楽しみにしていた。
そんな余裕は 双子を抱いて帰宅した日に ― 消えた。
「 あ〜〜 また 雨?? 」
カーテンの隙間からチラっと外をのぞき、フランソワーズは大きくため息をついた。
「 もう〜〜〜 嫌になっちゃうわね! 洗濯もの、パリっと乾かないんだもの。
いったいどれだけ雨 降れば気がすむのかしら 」
エプロンのヒモをきゅっと締め直し、彼女はそっと寝室を出ていった。
「 え〜と ・・・ 仕方ないわね、今日も乾燥機ね・・・
う〜〜ん できればお日様に乾かして欲しいんだけどなあ ・・・ 」
新生児の段階を卒業したチビ達二人は 日々ちまちまとでも大量の洗濯ものを < 造りだした >。
「 あ〜〜〜 また乾かないわあ〜〜 もう ・・・ 」
新米・母 は ぶつぶつ言いつつ、小さな洗濯モノやらタオルやらを部屋の中に乾した。
「 お早う〜〜 あれ ? 乾燥機、壊れているのかい。 」
起き出してきたジョーは 少し驚いた顔をした。
「 すぐに直すよ? ちょっと待ってて・・・ 」
「 あ ・・・ ジョー。 乾燥機は壊れてないわ。 」
もうバス・ルームに行きかけた彼を 慌てて止めた。
「 え?? だってそれじゃどうして ・・・・? 」
「 ええ ・・・ あのう ・・・ね、できればわたし、お日様に乾かして欲しくて・・・
今日は晴れるかな〜〜〜って思ったのよ。 それが・・・ 」
「 あ〜 この時期はちょっと無理だよ。 うん それじゃさあ 部屋に乾して
エアコンのドライをかけようよ。 そうすれば少しは早く乾くから 」
「 そう ね ・・・ 」
「 ・・・っと。 ほら これでいいや。 あ 乾すの、てつだうよ〜〜 」
リモコンを操作すると ジョーはさっさと洗濯ものを乾し始めた。
「 あは ・・・ ちっちゃいモノばっかりだねえ〜〜〜 わあ〜〜 これって・・
チビたちの靴下かあ〜〜 オモチャみたいだなあ 」
「 小さくてもたくさんあるから ・・・ もう〜〜 二人ともすごい汚し屋さんよ! 」
「 ふふふ ・・・ あれ? これ・・ なに? タオル・・・じゃないよね? 」
「 え あ それ オムツよ。 」
「 オムツ?? だって紙オムツだろ? 」
「 ええ ・・・ でもね、使い捨てはちょっと・・・ そりゃ便利だけど・・・
布のオムツの方が気持ちいいだろうな〜って思うし 資源の保護とか 」
「 え それじゃ ずっと布のオムツ、使ってるのかい?? 」
「 全部じゃないわ。 なかなか乾かないから数も足りないし ・・・
それにね〜〜 紙オムツって嵩張るからあまりたくさん買ってこれないもの。 」
「 いいんだよ 特にウチは二人分なんだもの〜〜〜 いちいち洗ってたら大変だよ。
ぼくが買ってくるから ね! まとめてどか〜〜んと さ。」
「 ええ ・・・・ ありがとう ジョー。 」
「 気が付かなくてごめん! なあ どんどん言ってくれよ〜〜 ね? 」
「 ええ、うれしいわ。 」
にっこり笑って背伸びして ー 彼女は小さなキスを彼の頬に届けた。
「 うほ♪ さ〜〜〜 張り切って乾しちゃうぞ〜〜〜 」
ジョーは ダッシュで洗濯ものの山をどんどん吊るし始めた。
ありがとう〜〜 ジョー ・・・
ああ でもね わたし ・・・ ずっと思ってたの。
子供たちは 布のオムツで育てたい・・・って。
そりゃね 紙オムツは便利よ。 この国で初めて知ってスゴイって思ったわ。
移動する時とか < 非常時 > にはすごく便利。
でも 普通にお家で過ごせる時ならって・・・
だけど このお天気じゃあねえ〜〜〜
ふうう〜〜〜 ・・・・ 彼女はこっそりため息を漏らしてから 夫と一緒に
小さな洗濯ものを欲し始めた。
乳児たち以外な〜〜にも見る余裕なんかない日が続き ― 季節は全然気がつかないうちに
巡っていった・・・らしい。
「 おか〜〜〜しゃ〜〜ん おそと! すぴか おそと いきたい〜〜〜 」
すぴかはさっきからテラスへのサッシに張り付いている。
「 すぴか〜〜〜 おそと いく〜〜〜 」
ぱん ぱん ・・・ 小さな手がサッシを叩いている。
テラスへの出入り口は以前は 優美なフランス窓だったけれど 子供たちがハイハイし始めたとき、
博士は安全なサッシに変えた。
同時に家の中はすべて段差ナシのバリア・フリーとなり、地下の研究室に続く階段には
厳重なドアがつけられ電子ロックを通らないと開かない仕組みになった。
「 ― 余計なことは知らんでもいい。 子供はな ただ ただ 元気に明るく
笑って泣いておればいいんじゃ。 」
博士の独り言めいた呟きに ジョーもフランソワーズも 黙ってうなずくのだった。
そして その言葉通りに二人のチビたちは笑ったり泣いたり ― 元気すぎる日々を
送っている。
「 はいはい ・・・ すぴか? そんなに叩いたらドアさん、いたい〜〜〜って
ほうら ・・・ お外、見てごらんなさい? 」
フランソワーズは窓辺に駆け寄ると ひょいと娘と抱き上げた。
「 わあい〜〜 おか〜しゃ〜ん おそと! すぴか おそと いくのぉ〜 」
「 お外はねえ 雨なのよ、ざ〜ざ〜〜って。 ほらね? 」
「 ?? たんたん てんてん 〜〜 って〜 すぴかも〜〜 」
すぴかは 小さな手足をばたばたさせる。
「 あ こらあ〜 あばれないで・・・ 」
「 たんたん てんてん するの〜〜 すぴかも! 」
「 たんたん てんてん? 」
「 そ! いっしょにするのぉ〜 」
小さな指ですぴかは窓の外・・・ 降りしきる雨を差している。
「 ??? 雨 ?? ・・・ ! あ もしかして ・・・
雨がテラスに当たる音のことかしら ・・・ すぴか? あの音のこと? 」
よいしょ・・・っと娘を一段と高く持ち上げ テラスを見下ろせるようにした。
「 わ〜〜〜 たんたん てんてん〜〜〜 たんたん てんてん〜〜〜
おか〜しゃん すぴかも たんたん てんてん〜〜〜 って 」
「 ふうん なるほどねえ たんたん てんてん・・・か ・・・
確かにそんな風に聞こえるわね? ほんとね 雨さんが踊っているわね 」
「 うん! すぴかも〜〜 おどるのぉ〜〜 たんたんてんてん〜〜 」
「 うふふ じゃあ お母さんと一緒におどろうか?
雨さん 雨さん〜〜 おどりましょ? とんとんたん てんてんたん〜〜〜 」
フランソワーズは娘を抱いたまま 軽くステップを踏む。
「 とんとん てんてん〜〜〜 きゃ♪ 」
小さな娘はもう 大はしゃぎ・・・
「 すぴかも すぴかも〜〜〜〜 」
「 あら じゃ 一緒に踊りましょ? ほうら ・・・ とんとん てんてん〜〜 」
「 きゃあ〜〜〜 」
抱き下ろした娘の手をとって踊りだした。
「 こっちのあんよで とんとんとん こっちのお手々で てんてんてん〜〜♪ 」
「 きゃあ〜〜い とんとん てんてん〜〜〜 ♪ 」
「 そうね あらあらお上手〜 すぴさん とんとんとん てんてんてん〜〜〜
雨のワルツですよ〜〜 とんとんてん てんてんとん♪ 」
「 きゃわ きゃわ〜〜〜〜 」
「 まあ〜〜 すぴか ワルツがお上手。 ちゃんと三拍子が踏めるなんて〜〜
うふふ・・・ ちゃんとパリジェンヌの血が流れているのねえ〜〜
これだけは ジョーには似てほしくないなあ〜って思ってたけど うふふ 」
( いらぬ注 : 日本人は先天的に三拍子が苦手 )
「 ね〜〜〜 おそとで〜〜〜 雨さんと とんとん てんてんする〜〜〜 」
すぴかは くいくい母の手を引く。
「 あらら・・・ お外はダメよ、すぴかさん。
ほうら ・・・ とんとん てんてん 雨が降っているでしょう? 」
娘を抱き上げて 一緒に外をよ〜く眺めれば。
「 おか〜しゃん 雨 ・・・ ない! 」
「 え?? ・・・ あ あら 大分小降りになってきたのね〜〜
でもね すぴか? よ〜〜く見てごらんなさい? ちっちゃな雨さんがいるでしょう? 」
「 いない! すぴか おそと いく〜〜〜〜 」
「 雨の日はダメよ。 」
「 やだあ〜〜〜〜 あ〜〜〜〜 ん あ〜〜〜ん 」
「 泣いてもダメなものはダメです。 さ 猫ちゃんのご本 よみましょ、一緒に。 」
「 や!! すぴか おそとがいい! 」
「 すぴかさん。 」
「 や!! あ!! すばる〜〜〜 おそとにいるよ 」
「 え??? そんなはずないわ。 ウソはだめよ、すぴか。 」
「 ちがうもん〜〜 すばる〜〜 あ おとうしゃん 〜〜〜 」
「 !?!? 」
慌てて庭に目を向ければ ―
レインコートに長靴の すばる が ジョーと水溜りでげでげでになっていた。
「 ??? な な なんなの〜〜〜〜〜 」
すぴかを置いて庭に飛び出そうとしたが。
「 おか〜しゃん! すぴかも〜〜〜 」
「 え?? 」
ぎゅ。 小さな手が彼女のスカートの端をぎっちりと握っていた。
「 すぴかさん? 濡れちゃうからお家で待ってて? 」
「 や!! すばるとおと〜しゃんとあそぶ〜〜 」
「 ・・・ う〜〜〜〜 え〜いそれじゃ! 一緒にいらっしゃい! 」
「 わにゃ〜〜〜?? 」
彼女は自分のレイン・コートですぴかを包むと さっと背負った。
「 しっかりつかまっているのよ!? すぴか 」
「 わい〜〜 きゃ〜〜〜 」
「 もう〜〜〜 ・・・ 」
フランソワーズは傘を広げると まだ小雨が散っている庭に出ていった。
「 ジョー !? どうしたの?? 」
「 あ〜〜〜 おか〜〜しゃん〜〜〜 」
「 やあ フラン〜〜 雨 小降りになってきたね〜〜 」
「 小降りって ・・・ 」
ジョーもすばるも 同じ色の髪からぽとぽと雫が落ちている。
「 二人とも びしょびしょじゃない!? 」
「 え ? あ〜 寒くないし平気だよ。 な〜〜 すばる? 」
「 うん! おか〜しゃん〜〜〜 」
ぺと。 すばるがげでげで状態でにっこり・・・抱き付いてきた。
「 ( うわ・・・ ) すばる〜〜 寒くない? 」
「 う〜〜うん〜〜〜 ぴっちゃ ぴっちゃ ぴっちゃ〜〜 」
「 おか〜〜しゃん すぴか も〜〜〜 すぴかも ぴっちゃ〜〜 」
彼女の背中で すぴかが降りたくてもごもごやっている。
「 こら〜〜 暴れたらおっこちちゃうわよ〜〜 」
「 すぴかも〜〜〜 ぴっちゃ ぴっちゃ〜 やる〜〜〜 」
「 あは・・・ ほら 下ろしてやるよ〜 すぴか。 」
「 あ ・・・ ジョー 」
ジョーは笑って彼女の背中からすぴかを引き取った。
「 さあ〜〜 皆で遊ぼう〜〜〜 あめ あめ ふれふれ〜〜♪ 」
「 わあ〜〜い ♪ 」
「 きゃわ〜〜〜♪ 」
子供たちは 小雨の中声をあげて父親に纏わり付いている。
「 ― ジョー 〜〜〜〜 」
「 あはは ・・・ 大丈夫、 ぼくが見てるから。
ぼくが洗濯 引き受けるからさ〜〜 チビっこなんて 汚してナンボ さ。 」
ほら 濡れるよ? と彼は傘を差し掛けてくれた。
「 あ え ・・ええ ・・・ 」
「 もうちょっと遊んだら コイツら抱えてバス・ルームに直行するから。
着替えだけ用意しておいてくれる? 」
「 わかったわ。 」
「 あ 着替えがもうなかったら 古いタオルとかでも平気だから 」
「 ・・・・・ 」
ちょっと肩を竦めてから フランソワーズは傘を差してキッチンに戻った。
気分を変えたくて インスタント・コーヒーをうんと熱く淹れた。
「 チビ達はご機嫌だし 確かに寒くはないけど ・・・ 」
ふう・・・ またため息が出てしまった。
「 ジョーってば どういう考え方なわけ? 日本では子供は雨の中でも遊ぶの?? 」
あらあら ・・・ まあ 沢山遊んだわねぇ〜
不意に ― 懐かしい母の声が蘇った。
「 あ ・・・ ママン ・・・ そう だわ。 わたし、雨の日に水溜りが面白くて
夢中になって・・・ びしょびしょになって帰ってきたっけ 」
濡れてネズミの娘を 母は笑ってタオルで包んでくれた。
「 そう よ ・・・ それでバス・ルームに連れていってくれて・・・ それから 」
― カタン。 フランソワーズは勢いよく立ち上がった。
「 うふふ ・・・ 楽しみにしていてね? 」
彼女は張り切って キッチンの戸棚を開いた。
― しばらくして
「 おか〜〜〜しゃ〜〜ん ただいまよ〜〜〜 」
「 おか〜しゃ〜〜ん
」
「 フラン〜〜 雑巾、頼む〜〜〜 」
玄関に げでげで軍団 が立っていた。
「 はあ〜〜い おかえりなさ〜い。 ほら 皆 ここで服を脱いでちょうだい。
ほらほら・・・ すぴか すばる〜〜 」
待ち構えていた母は 子供たちの服をするするとぬがしてゆく。
「 きゃわ〜〜? 」
「 うぴゃあ〜〜 」
「 あ ジョーも! ほらほら ・・・・ 」
「 え ぼくも? 」
「 そうです。 お風呂、ちょうどいい湯加減よ? お父さん、すぴかとすばるを 」
「 おっけ〜〜 任せとけ〜〜 さあおいで すぴか すばる〜〜 」
ジョーはパンツ一丁で これもパンツだけの子供たちをおんぶとだっこした。
「 さあ〜〜 お風呂だぞお〜〜〜 」
「「 わあ〜〜〜〜〜い ♪ 」」
湯上りの三人の前には ほかほかのミルクとほかほかの蒸しパンが待っていた。
「 すぴか〜〜〜 あめ だいすき〜〜 」
「 僕も! あめ あめ ふれふ〜れ〜〜 」
「 お母さんもね 雨の日は好きよ。 」
「 ぼくも さ。 」
蒸しパンに夢中の子供たちを挟んで ジョーとフランソワーズは熱くキスを交わした。
やさしい雨が 岬の家に落ちてくる ・・・
Last updated : 09,15,2015.
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*************** 途中ですが
お馴染み 【 島村さんち 】 シリーズです。
幼児期はこんなモンだったでしょう ・・・・
でもね いつまでも幼児じゃないんだよね〜〜
で 続きます〜〜〜