『   プリンス ・ メランコリィ  ― (4) ―   』

 

 

 

 

 

 

優雅な生演奏での楽曲が流れ、 招待客たちは和やかに踊り そして歓談している。

主催者の王太子殿下は 金髪碧眼の美女をパートナーに、それはそれは優美なステップを踏み

彼女を巧みにリードした。

「 ・・・ お上手ですね、 殿下。 」

「 テオ です、僕たちの間では 」

「 ふふふ  はい、テオ。  上手ね!  わたし、羽が生えたみたいに踊っているわ。 」

「 あはは フラン さん 〜〜 それはアナタが上手だからですよ 」

「 ううん。 わたし、社交ダンスはあまり踊ったことがないの。

 だけど こんなに軽く踊れるわ。 それは 男性のサポートが上手だから よ。 」

「 サポート? 」

「 あ ・・・ 社交ダンスでいえば リード かしら?

 バレエでもねえ 上手な男性と組むと、女の子はウソみたいに巧く踊れるの。 」

「 今は ウソみたい じゃないですよ。 フラン さんは本当にお上手です。 」

「 まあ ありがとう!  ダンス・パーティって その・・・ 昔にほんの数回行っただけなの。

 この国では ・・・ こういうダンスを踊る機会があまりないのよ。 」

「 じゃあ 今日、存分に踊りましょう!   僕、 こんなに上手でステキなパートナーは

 初めてですよ〜 」

「 もう〜〜 お上手ねえ  テオはダンスがお好き? 」

「 ええ。 ・・・ 踊っている間は 自由ですから。  < テオ > でいられます。  」

「 ・・・ テオ ・・・ 

「 あれ? そういえば ― ムッシュウ・ジョー は? 席を外されたのかな? 」

テオ はリードしつつ 何気に部屋中に気を配っている。

 

    う〜〜〜ん さすが 王子サマ だわねえ〜〜

    ―  このコは ホンモノだわ。 

 

フランソワーズも軽々とステップを踏みつつ 、満面の笑顔で応えていた。

「 ええ ちょっと急用が ・・・   あの 殿下? 」

「 はい? 」

「 これは テオ じゃなくて。 < 殿下 > としての貴方様に伺いますわ。 

「 なに か ・・・? 」

「 はい。 あの ― ご即位のこと ・・・ あの なにか嫉みに思う輩がおります? 」

「 はい?  ・・・ ああ この前のヤツラですか?  フラン さんに蹴飛ばされた〜 」

「 し しィ〜〜〜 !  ナイショにしてくださいな? ・・・ ウチで叱られますわ。 」

「 いいじゃありませんか。 僕 〜〜 あんなにカッコイイ女子を見たの、初めてです♪

 も〜〜〜 アレ以来ますます貴女が好きで 好きで ・・・ 」

「 ちょ ちょっとお待ちくださいな。  ねえ  なにか不穏な動き、ありますか? 」

「 不穏 ・・・と言っていいのか ・・・ 」

テオはためらい勝ちに ぽつぽつ話し始めた。

「 僕には叔父上が一人、います。  亡くなった実父の弟です。 」

「 その方が ― 王位 を? 」

「 わかりません。  でも ・・・ 子供の頃からなにか 何と言うか その・・・ 不気味な

 雰囲気の方だなあ〜〜と思ってました。  僕には礼儀正しく接してくださいましたが ・・・

 どうも あまり好かれてはいないな って感じていました。 」

「 そう ・・・  とりあえず  この国いる間は安心して! 」

「 いくらなんでも 他所様の国で騒動を起こしたりはしないでしょう。 」

「 あの ・・・ その <他所の国 > って。 自国より警備が手薄になるので

 事件が起き易いの。   でも ね ? 」

「 はい? 」

フランソワーズは ぱちん・・・! と小さくウィンクしてみせた。

「 わたし達が  わたしとジョーが 殿下をお護りいたします。 」

「 ・・・ あなた方は ・・・ いえ 余計な詮索は止めましょう。 不愉快になるだけですからね。

 僕は  ―  本当は王位なんて いらないんだ・・・! 」

「 し ・・・ テオ。 声が高いわ ・・・ 」

「 あ ・・・ 失礼。  つい ・・・ えへへ ホンネが出てしまいました ・・・ 」

「 テオ。  貴方 きっととても聡明で立派な君主になれるわ。 ええ 保証します。 」

「 そんな ― 僕は ただの <テオ> として 生きてゆきたいのに・・・

 でも ずっとお側に居させてくださったお祖父様の期待を 裏切ることは ― 出来ない・・・ 」

「 テオ テオ!  あなた ・・・ 本当にステキ!  ああ なんてステキなの! 」

フランソワーズは ステップの足を止め、殿下にきゅ・・・っと抱きついた。

「 !?!? ふ フランさん〜〜〜 」

「 失礼いたしました、王太子殿下。   大変楽しゅうございました。 」

ダンスが 終ると、彼女は長い裳裾をゆらし、パートナー殿下に挨拶をした。

「 いやあ〜〜僕のほうこそ ありがとうございました。

 あの。  本日の ラスト ・ ワルツ は 是非 お願いいたします。 」

「 歓んでお相手をさせて頂きます。 お誘いくださいまして ありがとうございました。 」

フランソワーズは はっきりと通る声で言うと、 再び腰を折ってお辞儀をした。

そしてそのまま 小声で話続けた。

「 ・・・ テオ。  落ち着いて聞いて 」

「 !?  な なに ・・? 」

「 あの ね。  テオが使っている車のブレーキに細工をしていたオトコ達がいたらしいわ。 」

「 !  ・・・ なぜ ・・・ 」

「 だから アナタが邪魔って考えている誰かがいるのよ。 」

「 わかりました、早速 故郷 ( くに ) の警護隊長に連絡して  」

「 いえ その必要はなさそう。  ―  ジョーが やっつけましたわ。 」

「 や やっつける?? 」

「 ええ。  この国での犯罪ですから この国の警察に突き出しました。

 殿下は なにもお気付きにならなかったことにしてください。  」

「 しかし ― ! 」

「 直接、 お国の警察に引き渡すでしょう。  ― 陰謀は芽のうちに摘み取れました。 」

「 ・・・ フラン さん ・・・ 

「 殿下  すこしのぼせてしましました。  外の空気が吸いたいのですが・・・ 」

「 あ ・・・ は はい。  こちらからテラスにでられますよ。  ご案内しましょう。 」

「 ありがとうございます。 」

「 どうぞ?   ・・・ ああ マドモアゼルが少し 涼しい風に当たりたい、言われるので 

 東のテラスにご案内するから。 」

テオはパートナーに腕を貸し、 付き人に囁くと彼女と一緒にテラスに出た。

 

    キ ・・・   ガラスのフレンチ・ドアを開けると  ぴん・・・とした冷気が攻めてきた。

 

「 きゃ ・・・ 寒い ・・・  

「 !  風邪を引きますよ。 さあ どうぞ! 」

テオは 急いで礼服の上着を脱ごうとした。

「 あ 大丈夫よ。  それより ―  彼の話を聞いてください。 」

「 ― 彼?  ムッシュ・ シマムラ ・・? 」

「 はい。  ジョーが 挙動不審者 数名をみつけました。

 車に細工した他に何人かは この大使館の塀を乗りこえ、侵入に成功したらしいです。 」

「 な なんてことだ!  警護のものたちは一体〜〜〜 」

「 し ・・・  あ あそこにジョーがいます。  直接話をお聞きになってください。 」

フランソワーズはテラスから 夜の庭の植え込みを指している。

「 !?? え ? え??   ムッシュ・シマムラ ?? 」

 

「 ― 殿下。 」

 

暗闇から声が飛んできた。

「 !  どこに居られるのです?  」

「 どうぞ そのまま・・・ テラスで フランと談笑してる ・・・って様子でお聞きください。 」

「 ・・・ わかりました。 」

「 さあ テオ ・・・ 」

そっとフランソワーズが寄り添った。

 

  ―  ガサッ !!   暗闇の庭で 茂みが鳴った。

 

≪  ジョーォ!  これは芝居よ! ≫

≪ ・・・ う うん ・・・わかってる ・・・ けど ・・・ 

≪ ほら! ちゃんとテオに話して! 

≪ う うん ・・・ 

 

「  え ・・・ 夜風はなかなか快適ですね?   ・・・ それで? 」

テオは フランソワーズと並んで庭を眺めている ― 風を装っている。

「 はい。  フランからだいたいお聞きと思います。

 結論だけ申し上げますと ― 不審者はこの国の警察からお国の警察へ引き渡されます。

 そちらで公正な裁きを受けるでしょう。 」

「 そ  そうですか !  ・・・ ありがとう。 

「 いえ。   あの ・・・ 一つだけ お願いがあるのですが ・・・ 」

庭からの声の調子が がらりと変わった。

たった今の低い声、でも明瞭できっぱりと 頼りになる声 は  おずおずした青年のものにヘンシンした。

「 ???  あ?  あの ・・・・ ムッシュ・ シマムラ ですよね? 

「 あ  は はあ そうなんですが。  あのぅ〜〜〜 大変恐縮なお願いなのですが 」

「 なんでしょう。 僕でお役にたてますか? 

「 はい 勿論!   あのぅ 〜〜〜 」

「 ジョー??  どうか  したの ・・?? 」

「 いや  あの。 礼服がさ ぼろぼろになっちゃって ― その ・・・ 」

「 あ。  ・・・ 加速したの? 」

「 ウン ほんのちょっとだったけど。 それと ・・・まあ 少々派手なアクション でさ。

 ≪  一般人相手に スーパーガン、使えないだろ? ≫   」

「 ムッシュ ・シマムラ。  歓んで服をお貸ししますよ。 あ ・・・僕のこの礼服 どうぞ! 」

「 い いえ いえ そんな。  あ あの〜 フランに聞いたのですけど。

 上野でお求めになった そのう〜〜 珍奇な ・・・ いや 派手な服で結構です。 」

「 え ・・・ それは ちょっと ・・・ 」

テオが珍しく渋っている。

「 ジョー ・・・ 失礼よ、そんな言い方。  上にわたしのコート羽織れば 」

「 女物のコート着て 電車で帰れってのかい。 」

「 あ ・・・ そうねえ ・・・ 

「 ・・・ ムッシュ ・ シマムラ。  ご要望とあらば お貸ししますが。

 あの! 必ず 必ず 必ず!  ご返却ください。  」

「 え それはもう ・・・  当然です。 」

「 よかった〜〜  あの服 ・・・ 僕のタカラモノなんです! 」

「 ・・・ は はあ ・・・ 

「 どうぞ破かないでくださいね。  お願いします。  」

テオは本気になって心配している。  

「 テオ。 どうぞ安心してね。 わたしが側に付いて監視しますから。

 アキバやハラジュクで ケンカ、売られたりしないようにね。 」

「 ちょ・・・ フラン 〜〜〜 」

「 あはは そりゃいいや〜〜 僕のお気に入り服を守ってください。 」

テオは腹を抱えて爆笑している。  

 

    あら ・・・ いい笑顔。  テオ ・・・ 可愛いわあ〜

    そうよねえ そうやってバカ笑いしていい年頃なのよねえ ・・・・

 

フランソワーズは彼の側に寄り添うと すこしだけ歪んだタイを直した。

「 ・・・ あ ありがとうございます、 フラン さん〜〜 」

「 うふ・・・ この服も素敵だけど。  わたし、あの服のテオが 好きよ。 」

「 え!? え〜〜〜〜 本当ですかあ〜〜 うわ〜〜〜〜〜 」

 

   ガサ ガサ !!!  庭の茂みが不穏な?音を立て捲くっている

 

「 ええ。 だってとってもよく似合っているもの。

 ああいうファッションを着こなせる年頃だってことよ、テオ。 

 ・・・ テオ。  あなたの心はもっと もっと ・・・ 自由に生きて!  」

「 ― フランソワーズ  ・・・ あ 失礼しました フラン さん ・・・ 

「 フラン でいいってば。   ねえ あなたの若さを自分自身から削ぎ落とすみたいなことは

 しないでね。  ・・・ 王子サマだって 王様だって 若い時代はあるのよ! 」

「 ・・・・・・・ 」

「 うふふ ・・・ これ以上ぴったりくっついていると お庭の植え込みが皆散ってしまいそう♪

 さあ 中に入りましょう、 殿下。 」

「 あ  ああ  そ そうですね。  それでは ・・・ 」

テオはす・・・っと腕を差し出し フランソワーズは裳裾を摘まみ上げ隣に並んだ。

「 ステキねえ ・・・ テオ。  あ ・・・ それじゃ服のことですけど 」

「 はい、すぐに持ってきますよ。  退席する失礼をいたしますが。 」

「 ??  ご自身で行かれますの? 」

「 あは アレはね、僕のタカラモノですから。  僕にしかわからない場所に隠匿してあるんです。

 国の大法官や中央銀行総裁だって開けられない場所です!  秘密の場所です。」

「 まあ ・・・・ あ♪ わかったわ〜〜  ベッドの下 でしょ? 」

「 !?  な なんで知ってるんですか?!? 」

テオは本気になってうろたえている。

「 うふふ ・・・ 青少年がね、ヤバいものを隠すのはいつだって ベッドの下 なの♪ 」

「 ・・・ やっば ・・・ 」

「 ほらほら 殿下?  皆さんがお待ちですわ。 」

「 ・・・ あ は はい。 え〜と・・?  マドモアゼル? 月がきれいでしたね。 」

「 はい、 殿下。  」

二人はにこやかに談笑しつつ ・・・ 大広間に戻っていった。

 

 

舞踏会は華やかに進行し、やがてお開きの時刻も近くなった。

招待客は 名残惜し気に談笑している。

「 ・・・ 殿下。 本日はありがとうございました。  連れが先に退出しまして

 失礼をいたしました。 」

「 マドモアゼル ・ フランソワーズ。  こちらこそ ― 最高のダンスのお相手を

 感謝しています。 」

「 恐れ入ります。  ―  今度はお国にお訪ねさせて頂きたいです。 」

「 え ・・・ 本当ですか!? 」

「 はい。  ―  連れもいろいろ <気にして> いますし ・・・ 」

「 きっと ・・・ きっと来てくださいね! 」

「 ええ ええ。 テオの国を ・・・テオがやがて治める国を 拝見しにゆくわ。 」

「 ありがとう・・・!  待ってます、 え〜と ・・・なんて言うのでしたっけ?

 ・・・ そうそう 気を長くしてお待ちしています! 」

「 うふ それを言うなら < 首をながくして > よ? テオ ・・・ 」

「 あ そっか ・・・ へへへ ・・・ 」

楽師たちが 再び席に着き始めた。  最後の演奏が始まるらしい。

「 あら。  ラスト ・ ワルツ かしら。 」

テオは 淋しい笑みを浮かべ フランソワーズの手をとった。

「 ・・・ でも これ。 僕とフラン さんの ラスト・ワルツ じゃないですから! 

 僕の国でまた踊ってください! 

「 歓んで ・・・ 

「 では ― マドモアゼル? 踊っていただけますか? 」

「 はい、殿下。 」

 

 ―  ラスト ・ ワルツ が始まった。

 

嫋々と流れる弦楽曲に 人々は心の揺れを乗せて ・・・ 踊りはじめた。

王太子殿下も 例の金髪美人と滑るようにステップを踏む。

裳裾が翻り ブラック・タイが揺れ ―  惜別の微笑みがそちこちで交わされていた。

 

 

「 ・・・ ふふふ ・・・・ 」

「 おい〜〜笑うなよォ 

ジョーは 本気で怒っている風に見えなくも ・・・ ない。

大使館からホテルまでリムジンで送ってもらい、 フランソワーズは着替えをした。

ジョーは 例のテオ秘蔵のぎんぎんファッションで着心地悪そう〜〜にもじもじしている。

「 なんかすご〜〜く似合ってるわよ ジョー。 」

「 ちょ・・・ それ イヤミかなあ〜 

「 さあねぇ ?    はあ 〜〜〜 それにしても楽しかったわあ〜〜 」

「 ふ〜〜ん そりゃよかったね。 」

「 だってステキじゃない? 大使館でのパーティ なんて一生に一度の体験だし〜 」

「 まあね ・・・ 」

「 ダンスもねえ〜 わたし、 パーティ・ダンスってそんなに踊ったことないから心配だったの。

 だけど〜〜 もう〜〜 羽が生えたみたいにかる〜〜く踊れたのよ〜〜♪

 博士が買ってくださった真珠もドレスもステキだったし  ・・・ あ〜〜 楽しかった♪ 」

「 ふ〜〜ん そりゃよかったね。 」

「 ・・・ なに、拗ねてるのよ? 」

「 拗ねてなんかいない。 率直な感想を述べているだけさ。 」

「 あら そう。  それならもっと機嫌のいい顔、したら。 仏頂面は失礼よ。 」

「 これが普通の顔です。  ・・・ 必要もないのににこにこできないよ、ぼくは。 」

「 へえ??  レース・クィーンに花束もらって にっこ〜〜り♪ って お得意よね? 」

「 あれは ― !  仕事だろ。  きみこそ、ずいぶんにこやかだったよな〜 」

「 あら そう。  わたしだって お仕事 よ。 ご招待受けた以上、 当然でしょ。 」

「 ・・・ ものすご〜〜く幸せそうだったよ。  あの坊やと一緒でさ。 」

「 いや〜ね? 妬いているの?  テオは ― まだコドモ でしょう? 」

「 い〜や。 年齢には関係ない。 アイツは 大人さ。 」

「 そりゃ・・・ 将来は一国を統べる方ですからね。 」

「 きみは ―  王妃の地位に一番近いんじゃないのかな。 」

「 ― どういう意味?? 」

「 さあね。  ・・・ ともかく帰ろう。  」

「 そうね。  ― ねえ?  

「 なに。 」

「 真面目に  似会うわね、ソレ。 」

「 ― フラン。  本気で言ってる? 」

ジョーは ・・・ 本当に怒っている・・・ 風にみえた。

「 ごめんなさい。  ちょっと言ってみただけ。 さあ 帰りましょう。 」

「 ん。 」

フランソワーズは可笑しくて 可笑しくて 笑いを噛み殺すのに苦労している。

先に立って歩くジョーの背中が とてもとても愛しくて可愛いくて。

 

    もう〜〜 本当にヤキモチ妬きなのねえ ・・・

    それでもって ちっちゃなボク なんだから

 

    でも ごめんなさいね、 ジョーがいてくれるから

    安心してテオと踊れたの

 

「 ね?  バイク って借りられないかしら? 

「 え?? バイク?? 」

「 そう。 バイク借りて それで帰りたいなあ〜って ・・・ 」

「 あ〜 レンタル ・ バイクってのはないんだよな。  レンタカーならあるけど。 

「 じゃ それにしましょ。   ジョーの車 乗りたい♪  」

「 お。 そうかい? それじゃ ・・・  駅前の方に出れば  」

「 ねえ?   その服に合ったの、借りてよ。 」

「 え。 こ  この服に ・・・? 」

「 そ。  その服にぴったりでジョーの好きな車、借りて。 

「 ふん ・・・ そうだなあ〜 今更電車で帰るって気分でもないしな〜 」

「 そうよ そうよ 〜 思いっ切り飛ばして 

「 やれやれ ・・・ 今晩はもう閉店なんですけどね? 」

ぶつくさ言いつつも ジョーの機嫌は急速に回復していった。

 

     ふふふ  ごめんなさいね〜〜 

     舞踏会 なんて超〜〜〜 退屈だったでしょう?

     わたしだって気取って ちょっとは肩が凝ったもの。

 

     ねえ 久し振りに ハリケーン ・ ジョーの運転で

     ぶっ飛ばして欲しいの〜〜

 

 

    ババババババ  −−−−−−− ・・・・・・

 

しばらく後  ヨコハマ方面へスポーツ ・ カー が一台、 この季節 この時間 に!

わざわざオープン ・ ルーフ で かっ飛ばして行った。

ぎんぎんファンションのドライバーの横には 金髪碧眼の美女〜〜!

 

 

 

「 ―  おお  これは ・・・ 」

「 おはよ〜ございます〜〜   え ? 博士 ? なにか  ありましたか? 」

まだ  < 新春 > という言葉が街にもメディアにも散らばっている頃のこと。

ある朝、 ギルモア博士は新聞を開くなり、声をあげた。

燦々と朝陽が差し込むリビングで 早起きの博士はもう散歩からもどり担当の庭掃除も

しっかり終えていた。

「 ふぁ〜〜〜 ・・・っと失礼。 あの なにか? 」

ジョーは相変わらず朝には弱く バタバタ階段を降りてきたが 欠伸の連続だ。

「 お早う。  おい、顔  洗ってきたのか。 」

「 はい。  でも ・・・ ね〜〜むくて ・・・ 

「 いったい何時に寝たのかね?  睡眠不足は効率を低下させるだけだぞ。 」

「 ふぁ〜〜い ・・・ って なにか ― そのう事件ですか? 」

「 いや いや キナ臭い話ではないよ。  あの坊主のお国で ― 代替わりだ。 」

「 え?  まあ ・・・ とうとう? 」

フランソワーズもキッチンから出てきた。

「 ジョー。 もうすぐトースト、焼けるわよ。  ― 新聞に載ってましたか? 」

「 ああ ほら ここをご覧。 

バサリ、と博士は朝刊を二人の前に広げた。

「 ・・・ まあ ・・・ とうとう薨去なさったのね。   テオ ・・・ なんだか急に大人びたわね? 」

「 そりゃ  < 公式写真 > だものな〜 」

「 ジョー。 そんな風に言わないでよ。  彼は ― 大変なのよ? 」

「 へいへい すいませんね〜  ああ でもこれでますます別世界のヒトですよね。 」

「 ほんになあ ・・・ まあ 彼が無事に国を統べてゆけることを祈るのみ、じゃな。 」

「 あ ・・・ やはりなにか? 政変とか ・・・ 陰謀とか? 」

「 わからん。  しかし風の噂では 新国王の叔父君の周囲がなにやら・・・不穏らしいぞ。 」

「 まあ ・・・ やっぱり!   あの時、 遠慮せずに全力で蹴っ飛ばしておけばよかったわ! 」

「 ― 蹴っ飛ばす?  おい〜〜〜 フラン〜〜〜 きみ ! 」

「 あ。  ・・・ あのね、 だけどね、 アレは正当防衛だったの。 ううん、 テオを、あの時の

 王太子殿下をお護りするための < 作戦 > よ! 

「 きみ一人の?? 」

「 その なんだ、 お前一人で怪しいヤツを蹴飛ばした ・・・ のか? 」

「 ・・・ あ〜〜〜   そ! わたしの脚はね、立派な武器なの。 」

「 おい〜〜〜 」

「 フランソワーズ。  嫁入り前の娘が はしたないぞ。 」

「 はあ〜〜い・・・・  」

とんだ薮蛇? に フランソワーズは肩を竦めた。

 

      テオ ・・・!  頑張っている?

      即位 おめでとう!  

      遠い空からお祝いさせてください。

 

      いつだってわたし達、 テオの味方よ♪

 

最早別世界の住人となった旧友に フランソワーズは心で最大のエールを伝えていた。

 

  ―  それだけ、 のことだった  はずだ。     だけど。

 

 

「 え〜〜〜〜 ウソォ  海外公演 ??? 」

「 そ〜なのよォ なんでもね、 招待状が来たらしいよ〜〜

 ほら 欧州のさ この前、若い王様が即位した国があるじゃん? あそこ。 」

「 へえ ・・・・・?  なんでウチが 中規模バレエ団が招待 なのさ。 」

「 なんでも即位式のお祝いに、だって。 」

「 ひえ〜〜〜〜 」

その日、 フランソワーズが所属している中堅どころのバレエ団は大騒ぎになっていた。

 ―  テオは ・・・ いや 新国王テオドール3世陛下は 

自らの即位式への祝賀の催しに 遠い極東の国のバレエ団を招待した。

新国王は 若い年齢にも拘らず学問・芸術への理解が大層深い方なのだ。

バレエ団は大騒ぎとなり、全力で海外公演に臨むこととなった。

 

 

「 ほうほう ・・・ あの坊主はちゃんと約束を守ったのだな。 」

「 坊主、だなんて。  博士、彼は一国の元首ですわ。 」

「 けど ほやほやの新人、だよ。  まあ〜 先代からの側近がしっかりしているから

 なんとかなるだろうけど。 」

「 ジョーォ? そんなイジワルな言い方、やめて。 彼は必死で頑張っていのよ、きっと。 」

「 ふ〜ん ・・・ まあ いいよ。  で  その公演にきみも参加するわけ? 」

「 勿論♪  全幕モノ と 小品集 の予定なの。 わたしは小品集でパ・ド・ドゥ を

 もらえそうなの。 」

「 それは凄い、 頑張れよ フランソワーズ。 」

「 ありがとうございます、 博士。  テオの即位のお祝いですもの、頑張っちゃう♪ 」

「 うむ ・・・  ジョー? 

「 はい。  じゃあ ・・・ フランソワーズ、 きみは今回のミッションからは外す。 」

「 ―   え ???   ミッション? 」

フランソワーズの顔色が変わった。  いや ― 部屋の雰囲気自体が一変した。

 

「 ・・・ なにか 事件ですか。 」

「 うむ。  別口から入った情報なのだがな。  あの坊やのお国が やはりキナ臭い。

 全員、は無理でもできるだけメンバーを集めよう。 

「 博士。 やはり? 」

「 うむ。  以前のコトも裏で叔父君が糸を引いていたらしい。 」

「 なにがあったの?  わたしも参加します、教えてください!  」

「 フラン。 きみは公演があるのだろう? 」

「 でも わたしだって ―! 」

「 ジョー。 説明しておやり。 」

「 はい。 フラン。 きみが蹴飛ばしたヤツらなんだけど ― やはりあの坊やを狙っていたんだ。」

「 ええ?? テオのことを?  ・・・ じゃ ・・・ 今度の即位式も・・・? 」

「 ああ。  新国王の例の叔父君 が な。 どうもバックに後ろ暗い組織がいるらしい。 」

「 あの国は小国ですが欧州では交通の要所ですよ。 」

「 うむ。 先代の大公は賢明にして老練な政治家で巧く押さえていたのだがな。 

 国内の安定は勿論、国益や欧州の平和のために実に巧みに立ち回っていたな。 」

「 そうなんですか。  ふうん ・・・ 」

「 じゃから 小国といえど列強の間でもあの国を軽く見るものはおらん。

 付き合いは友好的に、しかし細心の注意を払っておる。 」

「 ・・・ その名君の後を継ぐのは ― 大変ですね。 」

「 そうじゃな。  しかし新国王も若いに似合わず聡明で冷静な人となりだ、と評判らしい。 

 ・・・ あの坊やは なかなかの人物じゃったしなあ。 

「 それなら ― どうしても 彼 を、そしてあの国に害するヤツラを排除しなければ! 」

「 ともかく力ずくの不祥事だけは ― 避けなければ。 」

「 不祥事 ・・・って  あの なにか陰謀があるの?  テオを狙って・・・? 」

「 それをはっきりさせて 未然に防ぐが ぼく達のミッションさ。 

 できれば全員で 警護に当たりたい。 」

「 頼むぞ。 ワシも詳しい情報が入り次第 送るでの。 」

「 わたしも参加します。 わたしだって 003 ですから。 」

「 しかし きみは公演があるだろう?  新国王からのたってのお招きじゃないか。 」

「 それは ・・・ でも! テオの命には 」

「 !  そうじゃ。  いい作戦があるぞ。  これはお前にしかできん。 」

「 え??  」

「 バレエ団のトップの御人にお願いせにゃならんが ・・・ お前たちの公演を利用する。

 いや なに、舞台を邪魔したりはせんよ、 安心しなさい。 」

「 博士??  」

「 うむ うむ ・・・ 実は な ・・・ 」

博士は 009と003を近くにまねくと作戦の詳細を語り始めた。

 

 

 

   ゴ −−−−−− ・・・・・・・  !

 

旅客機はほんの僅かな振動を伝えつつも 順調にフライトを続けている。

長距離なルートなのでブランケットを被って寝ている客が大半である。

「 ・・・・・・・ 

フランソワーズは 膝に掛けたブランケットを引っ張り上げつつ窓の外を眺めた。

「 ・・・ 眠れないのかい。 」

「 ・・・ ジョー ・・・ 」

隣の席から 低い声が訊ねてきた。

「 ・・・ ううん  ・・・ ちょっと外が ― 雲海がみたいなって思って ・・・ 」

「 まだ先は長いよ。 いくらきみでもしっかり休んでおいたほうがいい。 」

「 ええ ありがとう ・・・  うふふ なんだか不思議な気持ちよ? 」

「 ? なにが かい。 」

「 海外公演に行くのに ジョーと一緒 ・・・って。 こんなこと今回きりよね。 」

「 あは  そうだねえ。  ぼくは一応、公演のために臨時・演出助手・・・ってことに

 してもらったんだけど・・・  なあ、演出助手 って何をすればいいのかな。 」

「 ― なにも。 」

「 え?? 」

「 だってもともとそんなポジションはないんですもの。  

 そうねえ ・・・ せいぜい舞台装置さん達の邪魔にならないようにしてね。  」

「 あ ・・・ ひどいなあ〜〜 」

「 だって ジョー、ずっと袖  ( 注 : 舞台袖のこと ) に詰めているのでしょ。 」

「 うん。 そこで監視している手筈さ。  」

「 だったら〜〜 そうねえ?  ダンサー達の < 背中を縫う > とか 

 落し物 ・ 忘れ物を拾い集める とか? 」

「 せ 背中を縫う??? 

「 そ。 衣裳の背中をね、糸でぐしぐし縫って締め上げるの。  それも大急ぎでね。

 早変わりのヒトには絶対に必要だもの。  」

 

    ( いらぬ注 :  衣裳の背中を縫う ・・・これは本当。男女ともパ・ド・ドゥの時には必須 )

 

「 ・・・ ぼく ・・・ 裁縫は  苦手だ。 」

「 あ〜〜〜ん それじゃ 皆のタオルやらウォーマーを預かるくらいしか仕事はないわ。 」

「 へいへい ・・・ 

「 我輩は 如何に? 」

前の座席から くるり、とスキン ・ ヘッドが振り返ってきた。

「 グレート。  あなたは男性ダンサーっぽく変身して 上手 ( かみて  客席から見て右側の

 袖のこと ) に待機 でしょ。 」

「 承って候。 ふふふ ・・・ やはり舞台前ともなると胸が踊りますな。 」

「 ― 踊らないでね、 グレート。  」

「 了解。 」

「 さあ 静かにしようよ ・・・ 他の乗客の迷惑になるよ。 」

「 そう  ね   お休みなさい、 ジョー 」

「 ん ・・・ 」

   きゅ。  隣から大きな手が伸びてきてフランソワーズの白い手を包んだ。

「 ・・・・・・ 」

白い手の持ち主は 安心して浅い眠りに落ちた。

 

 

欧州のその国は 高揚感に満ち溢れていた。

前大公の葬儀を終え服喪の期間を過ぎ ―  今 国中が華やかなムードで盛り上がっている。

「 じゃあ ・・・ わたしは皆と一緒に行動するわね。 」

「 うん。  緊急の場合は ―  」

「 了解。 それじゃ 」

「 ・・・・ 」

彼女はさり気なく 先に席を立ち航空機から降りてゆく。

ジョー達はスタッフとして、 フランソワーズはバレエ団のダンサーの一員として入国した。

 

≪ よォ〜〜 ちっちゃなトコだよなあ〜〜 オモチャみたいだぜ〜〜 ≫

≪ 失礼なことを言うな。 繊細な美 と言え! ≫

≪ 全体が繊細にして精緻 ・ 上質の芸術品なのだ。  大きいだけが取り柄 ・・・ってのとは

 ちょいとワケが違う ≫

≪ ふん! ど〜せオレらはガサツだぜ! 

≪ なにもそんなことは言っておらんぞ。 ≫

≪ おい! 監視を怠るな! ≫

≪ へいへい 了解〜〜 ≫

 

即位式当日 ― 

サイボーグ達は 観光客やら報道関係者に紛れ < 例のヤツラ > の動きを監視していた。

式典には国家の精鋭・警備部隊が目を光らせているので 少しは気が楽だ。

問題は ・・・ その後に繰り広げられる即位記念のイベントの数々なのだ。

 

国立劇場は 夕刻からの公演の準備にごった返していた。

新国王即位の祝賀イベントに  海外から招かれたバレエ団の公演があるのだ。

この催しは 新国王ご自身のたっての希望によるもの ・・・ との世間ではもっぱらの噂だった。

 

「 小品集〜〜 ! スタンバイ オッケーかな? 」

舞台監督が急ぎ足で舞台袖を巡っている。

「 『 海賊 』 います! 」

「 『 パ ・ ド ・ カトル 』 揃っています 」

「 『 白鳥 〜 』 オッケーです。 」

出演者から 次々に応えがある。  監督はうんうん・・・と頷いた。

「 よ〜し。  国王陛下はもうすでにご臨席だそうだ。 皆  ・・・ しっかりたのむ。

  それじゃ ・・・ 一ベル ( いちべる ) 入れるぞ。 」

「「「  はい   」」」

 

   りんご〜〜〜ん   りんご〜〜〜ん ・・・   大劇場に開幕のベルが響き渡った。

 

新国王 テオドール三世即位の祝賀の催しとして、そして国王ご自身のたっての希望で

国外のバレエ団が招聘されての記念公演が開演となった。

プログラムは 小品集と < ご祝儀モノ > で  『 眠りの森の美女 』 から

『 オーロラの結婚 』 (  眠り〜 の第三幕を単独で公演すること ) である。

幕開けは 小品集  ―  元気のよい若手のダンサーたちが妍を競う。

 

 

「 ・・・ 大丈夫 大丈夫 ・・・いつもの通りでいいのよ ・・・ 」

フランソワーズは舞台袖で ぶつぶつ ・・・天井を見上げて呟いていた。

「 ん? なに。 」

王子役の青年がやはり緊張した面持ちで聞いた。

「 あ・・ ううん  なんでもないの。 わたしのオマジナイみたいな言葉なの。 」

「 あは それいいな〜 僕にも教えてくれよ。 」

「 いいわよ〜  ダイジョブ  よ。 」

「 いいねえ〜〜 フランって本当に楽しいなあ〜 」

「 ・・・ じゃ にこにこした ジークフリード王子とオデット姫になりましょ 」

「 お〜らい♪   ・・・ よし ゆくよ。  ヨロシク 」

「 はい ヨロシク。   ダイジョウブ! 

「 ああ ダイジョウブ! 」

二人は 『 白鳥の湖 』 第二幕から  グラン ・ アダージョを踊る。

 

 

    ・・・ フラン ・・・ がんばれ ・・・!

 

ジョーは固唾を呑んで かちんこちんに緊張し  ― 009 ともあろうものが冷や汗まで

 かいて ― 舞台を見守っていた。

勿論 客席、特に貴賓席周辺は油断なく見張っている ・・・ つもりだけれど どうしても

視線は舞台の 白鳥姫 にふらふらと舞い戻ってしまっていた。

 

≪  おい〜〜 我らがマドモアゼルは  素晴しいな! 

≪  グレート!  うん!   ・・・ おい〜 ちゃんと監視怠るなよ〜 

≪  お〜っと それはお前さん自身のコトであるな ≫

≪  ・・・ と ともかく! ぼく達のミッションは ≫

≪  わか〜とるって。  ≫

 

グレートも舞台に目を奪われがちになっていると見える。

 

< グラン ・アダージオ > は 王子を白鳥姫の愛の踊りである。

通常の グラン・パ・ド・ドゥ とは異なり そのタイトルどおり アダージオ のみだ。

つまり ― ゆっくり滑らかな音楽に乗った二人の熱い愛の踊りなのだ。

当然 一般的に見れば密着度は高く  ・・・

 

    あ!  また〜〜〜  クソ〜〜〜 

    おい! そのオンナはオレの ・・・!

 

009  いや ジョー は一人熱くなったり冷汗ながしたりしていた。

勿論 フランソワーズは 踊りの集中だ。  003 はこの際オアズケである。

 

   ・・・ 次。  次のリフト ・・・ いつも高さが足りないって言われてる ・・・

   ! ・・・ 空中でも  脚を  ひきあげ〜〜〜 ・・・・!

 

フランソワーズは ふんわり・・・ 宙に浮き高々と脚をキープした。

  

    わ♪ タイミング ばっちり〜〜〜   えいっ!

 

    ―      あ。   

 

その時 003 の目が 二階のキャット・ウォークの暗がりから貴賓席を狙う武器の

鈍い輝きを 拾った。

 

「 ・・・!! 大変〜〜  う〜〜〜ん でも今・・・ 通信は 無理・・・

  でも でも ・・・・  いいわっ 

≪  ジョー −−−−−−−!! グレート !!   二階ッ  ≫  」

ツイッターみたいな短い呟きが ジョーとグレートの頭内に届いた。

 

「 ・・・ がんばれ  フラン 〜〜       え?  なんだって!?  」

ジョーの < 目 > は すぐに暗闇に蹲る影を発見した。

≪ 任せろ!   グレート ちょっと上から行く ≫

≪ 上?  お〜お ・・・ 格好の装飾品がぶら下がっておるな。  健闘を祈る! ≫

≪ おい〜〜 ?!  舞台の収拾、頼む ≫

≪ 承って候。  ふふん ・・・ 次は 『 オーロラの結婚 』 だったな ・・・

 ・・・よし。 それでは名演出家・ブリテン氏のお手並みをご覧あれ ≫

≪ ??  ともかく − 行くよっ   フラン〜〜〜 パートナーと下がってろ ≫

≪ あら!  003なのよっ!  わたしも〜〜  ≫

≪ ・・・ おい 踊りながら脳波通信、送るなよ? ・・・ 転ぶぞ! ≫

舞台上では 王子と白鳥姫があつ〜〜〜く密着して踊っている。

≪ ! 失礼ねっ!  そんなことくらいじゃ転びませんっ! ≫

≪ それは失礼。  あ ―  じゃ ヤツの武器を飛ばすから。 ≫

≪ 了解〜〜 ≫

 

   わ〜〜〜〜 パチパチパチ 〜〜〜〜 !!!

 

王子と白鳥姫 は万雷の拍手に優雅なレヴェランスで応えていた ― その時 

 

    ザ −−−−−− !   天井から下がっていたシャンデリアが大きく揺れた。

そこからは赤い服をきた青年が 白鳥姫に手を伸ばし抱え上げると 

 

        ぱ〜〜〜ん  −−−−−  ・・・・ !  

 

と大ジャンプをして 劇場二階へと飛び込んだ。

 

   きゃ 〜〜〜  わア 〜〜 なんだ なんだ???  

 

当然、客席は騒然となった。

 ポーン ・・・!  狙撃銃が一階客席通路に落ち同時に今度は白鳥姫が貴賓席に飛び込んだ。

 

「 !?!?!?  う わ ・・・・!?  ふ ふ フラン  さん ??? 」

「 陛下!  不埒ものが陛下のお命を狙っております。  わたくしがお護りしますから 」

「  な なんだって?? 」

 

  バン ―  貴賓席のドアが乱暴に開き 黒尽くめのオトコが転がり込んできた。

「 くそ〜〜〜・・・・!  狙撃用の銃を吹っ飛ばされちまった!

 こうなったら至近距離から ― 確実に仕留めてやるっ 」

オトコは拳銃を手に 国王に狙いを定める。

「 陛下〜〜〜〜!!! 」 

どたばた駆けつけた警護隊も 手出しができない。

「 ふん。 キサマらの目の前で 国王を血祭りにしてやるッ ! 」

「 テオ!  じっとしていて! 」

白鳥姫、いや フランソワーズがじりじりとオトコに接近してゆく。

「 フラン さん。 大丈夫。  ・・・ どうぞ下がっていてください。 」

「 え??? 」

「 ふふふ 貴女から学びました。 見ていてください。 」

「 ??? 」

「 ・・・? ふ ふん!  この距離なら一発で充分 〜  死ねっ!! 」

オトコの指がトリガーに掛かったが ・・・

「 さあ〜〜〜 覚悟してもらいましょうか? 」

国王陛下は爽やかに叫ぶと ―

 

   シュ ・・・・ッ    テオの脚が華麗に弧を描いて宙に上がり ―

 

「 ぐわっ 〜〜〜〜〜 !!!! 

オトコはトリガーを引く間もなく 貴賓席から下の席へと落下していった。

「 ・・・・  テオ ・・・ すご ・・・・ 」

「 え へへへ ・・・ さんざん練習しましたから。  あ〜でもフラン さんみたく

 顎にストレートに当たらなかったなあ〜〜 残念! 」

「 陛下〜〜〜〜 素晴しい〜〜〜〜 」

「 ご無事で 〜〜〜  陛下〜〜 」

警護隊の面々は唖然としたり感動したり大騒ぎである。

「 ・・・? なに ジョー?  え?  グレートが?  ・・・ はい 了解。  」

白鳥姫は さっと国王の前に進み出た。

「 陛下。  陛下を オーロラ姫の結婚祝賀会へとご招待いたします。 」

「 え ???? 」

「 どうぞ。 舞台まで御案内いたしますわ。 」

白鳥姫は優雅にレヴェランス ( お辞儀 ) をすると 国王の手をとった。

「 え え ?? うわ〜〜〜〜 い いいのですか 」

「 はい。 皆がお待ち申し上げております。 

 ・・・ テオ。 観客には 演出・・・ってことになってますので  どうぞ。 」

「 うわ〜〜〜 すごい。 すごいサプライズですね!  すばらしい〜〜〜〜! 

 警護部隊長?  ・・・ あの暴漢の始末を。 」

「 は。 」

「 それと ―  監視に当たってくださっている赤い服の方々に協力を。 よいな。 」

「 はは! 」

警護部隊は緊張の面持ちでどたばたと退出した。

 

 

  その夜 ― バレエ団の公演は大盛況だった。

 

特に 『 オーロラの結婚 』 では 国王・テオドール三世 が賓客として招かれた・・・という

洒落た演出で観客たちも大いに楽しんだ。

( その前の 白鳥姫の大ジャンプも話題沸騰だったが ・・・ )

そして 国王の側近や警護部隊では陛下が御自ら不埒モノを成敗した、と大評判になった。

 

 

翌日は 国王陛下主催の大晩餐会となり、多くの国民やら祝賀の催しに参加した人々が

招待された。

フランソワーズの所属するバレエ団も全員が参加した。

 

晩餐が終ると舞踏会となり 人々は宮殿の大広間に三々五々広がってゆく。

その片隅で ― 

赤い服の青年が 国王と密かに面会していた。

「 ・・・ 叔父上 が ・・・? 」

「 はい。  叔父君は ― ネオ・ブラック・ゴースト という組織に利用されていたのです。

 彼らは陛下のお国を手に入れようとしていた・・・ 」

「 ・・・ ! 」

「 その陰謀は失敗に終わり ヤツラは叔父君を 」

「 わかりました。  ・・・ 不慮の事故、ということで丁重にご葬送しましょう。 」

「 陛下。 ご英断ですね。 」

「 いや。  ムッシュ・シマムラ。 あなた方のご協力 ・・・ 心から感謝いたします。

 ひとつだけ伺ってもよろしいですか。 」

「 ― なんなりと。 」

「 あなた方は ―  」

「 ぼく達は サイボーグ。 生身の人間ではありません。 」

「 ―  そ うですか。  大切な友人であり恩人に、変わりはありません。 」

「 ありがとうございます。  さあ 陛下、大広間へ。 皆さんお待ちです。 」

「 ・・・ また ・・・会えますか。 」

「 ・・・・・ 」

ジョーは黙って微笑むと 静かにアタマを下げた。

 

 

大広間では 昨夜の白鳥姫が満面の笑みで待っていた。

「 フラン さん! 」

「 陛下。  お招きくださいまして ・・・ 」

「 テオ でいいっていいましたよ? 」

「 テオ。 あの ・・・見たでしょう?  ・・・ あれがわたしの ・・・ わたし達の姿なの。

 わたしも サイボーグなのよ。  」

「 見ました。 しっかりと。  ― それでますます夢中になりました! 

 フラン さん! 貴女は僕の理想の女性 ( ひと ) です〜〜〜 どうぞ 」

「 ストップ。  テオ、 それ以上言ってはだめ。 」

「 !  フラン さん、僕は決して浮ついた気持ちじゃ 」

「 わかっています。 貴方はいつだって真摯で誠実な方よ。 」

「 だったら ― 」

「 ― テオ。   必ず貴方にも オデット姫 が現れるわ。

 でも それはわたしじゃないのよ。 」

フランソワーズは優しく微笑んでいるが その瞳には強い光が満ちている。

 

    ああ  ・・・ この女性 ( ひと ) は ・・・

    僕にはどうしても どうしても ― 手の届かないヒトなんだ 

 

テオは 直感的に悟った。

 

  ふううう ・・・   青年国王の口から 切ない吐息がもれる。

 

「 ―  踊って  いただけますか。 僕の大好きなフランさん。 」

「 ええ 歓んで。 」

「 これが フランさんとの  ラスト・ワルツ ですね ・・・ 」

「 テオ ・・・ 」

 

二人は踊る。 

王子と踊り子は  ―  国王と舞姫は ひらりひらりと軽やかに くるくると華麗に 

青春の煌きをステップにのせ 愛の夢をリズムに刻み 踊ってゆく ・・・

 

「 ふふふ ・・・ 彼には悪いことをしてしまったかな ・・・ 」

「 ・・・ 彼? 」

「 ええ。 ムッシュ ・ シマムラ ですよ。 ・・・  ほら? 

テオはカーテンの陰の方へ ひょい、と彼女をホールドしている腕を向けた。

 ― ちらり、と赤い服の端が見え ・・・

「 え?  ・・・ あら やだ。 もう〜〜  ジョーってば  なんて顔してるのかしら・・・ 」

「 は   ああ もう負けましたよ。  君の プリンス ・ メランコリィ には  ね。 」

「 え?? 」

「 プリンス ・ メランコリィ。   ほっんとうに彼は君のことが好きなんですねえ〜 」

「 ・・・ 陛下・・! 」

「 うふふ ・・・ この曲が終るまでは 僕が君を独占します。 僕の ― フランさん! 」

「 テオ ・・・ 」

 

二人は踊る。 

自信に満ちた青年国王は頬を染めた乙女と踊る ・・・ 青春の煌きを 撒き散らしつつ ・・・

 

 

 

 

******************************      Fin.     *****************************

 

 

Last updated : 03,12,2013.                back       /       index

 

 

 

**********    ひと言   *********

や〜〜〜〜っと終りました。

新ゼロ から 旧ゼロ になりまして〜〜〜

ラスト後半は 旧ゼロ 『 ガラリヤ王救出作戦 』

フランちゃんがね〜 大活躍するのですよん♪