『 アタシのお父さん ・ ボクのお母さん  ― (2) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

 

   ガラガラガラ −−− −−−− !

 

重いガラス戸を開けると いがらっぽい・生暖かい空気がどっと流れでてきた。

あまり広くはない店内に客の姿はほとんどない。

「 ・・・ っらしゃい。 」

店のオヤジらしき人物はカウンターの中からじろっと新しい客をみつめたが、さり気なく視線を逸らせた。

正月明けの真昼間、店を開けて間もない時間に入ってきたのは ―  かなり若い親子連れ。

「 ・・・ こ こんにちは! 」

小学生低学年と思われるチビっこが先に立って入ってきた。

目深にかぶった毛糸の帽子の下でちょっとだけ眼をまん丸にしていたけどすぐに に・・・っと笑った。

一瞬兄弟かな? と思ったが チビっ子の方が <お父さん> を連発している。

 

     はあん? 随分 若い父ちゃんだなあ。  大丈夫か・・?

     ま、 ガキに地味だがしっかり暖かい身なりさせてるし元気もいい・・・

     こりゃ しっかりモノの嫁さんがいるな。

 

「 ・・・ あの ・・・ 」

若い父親は マフラーを緩めつつ、きょろきょろしている。

「 こっちのカウンターにどうぞ。 奥の座敷席は夜だけなんで。 」

「 あ すいません。  すぴか、こっちにおいで。 

「 ・・・ うん! 

二人はカウンター席に座り、父は子供のマフラーを外してやっている。

手編みらしい毛糸の帽子をすぽん・・・と脱がせればクリームがかった金髪のお下げが現れた。

 

     ・・・ ほ・・・ ガイジンか? それに 娘っこか・・・坊主かと思った・・・

     そういや こっちの父ちゃんの茶髪もホンモノかもなあ・・・

 

まあ 種々雑多な人が行き来する町、まして路地裏の呑み屋である、大概な形 ( なり ) には

驚きはしない。

要は客として来てくれて 自慢の味をふるまって商売ができればそれでいいのだ。

アタマが金色であろうが真っ赤っかであろうが 大したことではない。

 

「 え・・・ 焼き鳥と・・・ツクネ。 あと・・・ 飲み物はウーロン茶、ください。 」

「 はいよ。  ・・・ ジュースもありますぜ。 」

オヤジはちょろっと子供の方をみた。

「 ウーロン茶の方がいいんです、こいつ。 」

父親はくるり、と娘の頭を撫でた。

「 おじさん! 」

小さな娘が じ〜っとカウンターごしにオヤジを見つめている。

「 ??? 」

「 あの ・・・ ここでおにぎり、たべてもいいですか。 」

彼女はリュックの中から なにやらごそごそ包みを取り出した。

「 あ〜 悪いな〜 持込は勘弁してほしいな。 」

「 ・・・ え 」

「 すぴか、仕舞いなさい。 他所のものを食べるのは失礼だよ。 」

父親は穏やかに娘の手を制した。

「 え ・・・でも  これ・・・あの これ。 お弁当なの。

 お母さんが作ってくれたおにぎりなの。 お母さんのお弁当、・・・ 」

小さな娘は その碧い瞳がじわ〜〜っと涙目になってきている。

「 なんだ それをはやくいいな。 母ちゃんの弁当なら ハナシは別だ。 」

「「  え ・・??   」」

父子が 一緒に店のオヤジを見る。

「 ああ いいさ、ここで食ってけ。 母ちゃんに感謝してしっかり食うんだぞ。 

 なあ? 知ってるかい。 この世でいっちばんウマイもんはな、母ちゃんが作ってくれたモンなのさ。 」

「 うん! すぴかね、お母さんのおにぎり  だ〜〜いすき! 」

「 おう 全部ちゃんと食えよ。 ウチのうま〜〜い焼き鳥と一緒にな。 」

「 ありがとう! おじさん。 」

「 あの・・・ いいんですか。 」

「 いいってことよ。 兄ちゃん、アンタ・・・ いいカミさん、持ってるな。 」

「 ・・・ あは・・・ ど〜も・・・ 」

ジョーは頭を掻き、すぴかはにこにこしてカウンターの上にお弁当の包みをひろげた。

ころん、と海苔で巻いたお握りが3個 でてきた。

「 はい、 お父さんも。 」

「 え ・・・あ いいよ、これはすぴかのお弁当だろ。 」

「 でも いっしょにたべよ〜、お父さん。 いっしょがおいしいよ。 」

小振りのお握りを父に差出し すぴかはまた に・・・っと笑った。

「 ありがとう すぴか。  それじゃ いっこ、もらうな。 」

「 うん♪ 」

「 へい お待ち!  焼き鳥とツクネ! 」

ことり、と二人の前に皿が置かれ 香ばしい香りがうわ〜〜ん・・・と広がった。

「 わ〜〜〜〜 ・・・・ すっごくおいしそうだね お父さん! 」

「 うん。 それじゃ ・・・ いただきます。 」

父子は声を合わせ、手も合わせた。

 

「 ・・・ おいしい! おいしいね〜〜〜 これ! 」

すぐに娘の甲高い声が 店の中に響く。

「 こ こら・・・すぴか。 静かに食べなさい。 他のお客さんもいるんだからね。 」

「 ・・・ は〜い ・・・  おいしいね〜 おとうさん ・・・ 」

娘はひそひそ声で 父の耳元でささやいた。

「 あっはっは・・・ 嬢ちゃん、大声で言ってくれ。 その方がおっちゃんも嬉しいぜ。 」 

「 え・・・ いいの。 」

「 おう。 嬢ちゃんの声で またお客がくるさ。  な? 」

「 うん! 」

「 あ ・・・ すいません、もう一皿お願いします。  あ 焼き鳥の方・・・ 」

「 はいよッ! 」

 

  ― 結局、 父子はオトナ二人前の焼き鳥をぺろり、と平らげた。

 

 

「 あ〜〜 おいしかったァ〜〜〜 ・・・ 」

「 本当にすごく美味しかったね。 それじゃ 」

「「 ごちそうさま 」」 

父子は一緒に空っぽのお皿に手を合わせた。

 

     へえ・・・? 若いのに ま〜 行儀もいいし

     今時 きっちりした親子だね 〜

 

オヤジは串の準備をしつつ・・・ どうもこの父子が気になって仕方がない。

「 ねえ お父さん。  これ ・・・ おみやげにしようよ!

 お母さんと すばるも きっと大好きだよ!  だってすっご〜〜く美味しいじゃん♪ 」

「 そうだねえ・・・ 持ってかえれるかな、聞いてみよう。

 さ・・・ ちゃんとマフラーと帽子、被ってなさい。  外は寒いよ。 」

「 うん!  ・・・・ よ・・・ いしょ・・? あれ・・・? あれれ・・・ 」

「 すいません・・・あの〜 持ち帰りってできますか。 」

「 ああ 土産用があるよ。 焼き鳥だけだけど・・・ 何本かい。 」

「 え〜と・・・ 20本お願いします。 」

「 ほい、ちょいと待っててくんな。  ・・・ ははは ・・・ 嬢ちゃんが苦戦してるよ、父ちゃん 」

オヤジはカウンターから身を乗り出して笑っている。

「 あ ・・・ すぴか おいで。  ほら ・・・ お父さんが巻いてあげるから・・・ 」

「 う ・・・ ありがと〜 お父さん。 」

「 あれ?  ・・・ なんか上手く巻けないなあ・・・ 」

ジョーもすぴかの長いマフラーに手古摺っている。

 

     あれれ?  ・・・ 垂らして靡かせておくのとはワケがちがうからなあ・・・

     マフラーは苦手だよ ・・・

     アレだって 今だにすぐには結べなくてさ・・・ 

 

実は ― ジョーは防護服のマフラーは まだ! フランソワーズに結んでもらっている・・・!

 

「 嬢ちゃん。   ちょっとこっちおいで。 

「 ・・・ え? 

カウンターの一番奥から 声が聞こえてきた。

そこには ジョーとすぴかが入ってきた時から ひとりのオバサンが座っていた。

スウェットの上下に ダウン・コートを引っ掛けて ― 髪を一つに括ったヒトで・・・

化粧ッ気のない顔は 若くはなかった。

彼女は ず〜っと一人静かに焼き鳥を食べウーロン茶を飲み、ジョー達には関心がない風に見えていた。

 

「 オバチャンがやったげるよ。  ほら・・・ 」

「 ・・・あ  あの〜 

「 おいで。  ちょっと全部はずすからね。  」

「 ・・・わ ・・・ うん ・・・ 」

そのオバサンはすぴかのぐるぐる巻きのマフラーをはずし、被っていた毛糸の帽子をすぽっと脱がせた。

「 うわ・・・っぷ ・・・ 」

「 あはは ・・・ これじゃせっかくの可愛い顔が隠れちまう。 」

「 ・・・ アタシ ・・・ かわいくなんかないもん。 ・・・カワイイって皆が言うのは すばる。 」

「 こ〜ら そんな膨れッ面、しない。 ホントにほっぺがふくれちまうよ! 」 

「 てへ・・・ 」

つん・・・とほっぺを摘まれすぴかは またまたに・・・っと笑った。

「 そうそう、女の子はね、いつだって笑ってなくちゃいけないんだよ。 」

「 どうして? 」

「 だってそうじゃなくちゃ 美味しいゴハンができないからさ。 」

「 あ ・・・ そっか。  アタシのお母さん いつもにこにこしてる・・・ 」

「 だろ? だからアンタの母さんの御飯は美味しいのさ。 ・・・ さあ こっち向いて、そうそう・・・ 」

「 うん ・・・ 」

 

「 ―  はい、 お待ち! 」

店のオヤジが焼き鳥の包みを差し出した。

「 あ、ありがとうございます。 」

「 はい 父さん? こっちもお待ちどう〜 」

オバサンがジョーの肩を とん、と叩いた。

「 え あ ・・・お世話かけました。 すぴか ・・・ うわあ・・・・ 」

「 えへ どう お父さん? 」

「 うひゃあ〜 嬢ちゃん、カッコいいなあ〜〜  姐さん、すいませんね〜 」

「 あたしは何にもしてやしないよ。  ・・・ お兄さん? 」

すぴかの身支度を手伝っていたオバサンは ジョーを真正面からみつめている。

ジョーは ・・・ 娘に見とれていた。

フランソワーズの手編みのマフラーをぐるぐる巻き、眼の上まで毛糸の帽子をすっぽり被っていたはずなのだが。 

男の子みたいなお転婆さん・・・ なはずなのだが。

  ― 今は マフラーは半分 ジャンパーの中にいれ、帽子は耳を隠して前髪を出している。

すぴかのきらきらした大きな瞳がとても印象的に見える。

つやつやのほっぺは桃みたいで、  元気パワー  が四方八方に広がってくる。

 

      うわ ・・・ コイツ、 こんなに可愛いかったっけ??

      いやぁ〜〜 フランとは全然別の魅力だよなあ・・・

 

「 すぴか・・・! かっこいいよ!  ほら・・・! 」

ジョーは娘をガラス戸の方に押しやった。

「 ・・・?  あ ・・・ わあ〜〜 アタシ こういうの、好きだあ〜〜〜!! 

 オバサン! ありがとう〜〜 」

「 いいって いいって。   ねえ、父さん? 」

「 は はい・・? 」

「 この嬢ちゃん、あんたにそっくりね。  あんたら・・・カッコイイよ。 」

「 え・・・ あ あの・・・ 娘はそのう・・・女の子らしい服とか ・・・ 嫌いで。

 フラ・・・いえ うちのが可愛いひらひらした服とか着せたがるんですけど・・・ 」

「 このコには ひらひらした服は似合わないよ。

 すっきりしたラインのモノがいいのさ。  本人の中身と同じにね。 」

「 あ ・・・ はあ ・・・ 」

「 嬢ちゃん? あんたはね、と〜っても優しいこころの持ち主なんだよ。

 それが本当に <おんならしい> ってことなのさ。 」

それじゃね、お代はここにおくよ・・・とそのオバサンは店にオヤジに軽く手を上げ、

すいっと出て行ってしまった。

 

「 ・・・ すご〜い ・・・ あのオバサン、かっこいいね〜 、お父さん。 」

「 あ  ああ・・・。 あの! あの方はどういう・・・? 」

「 ははは・・・ この先の古くからあるバーのママさんだよ。 

 俺たちの大先輩さ。  ここいらでは知らないヤツんなんぞいないねえ。 」

「 へえ ・・・ 」

「 自慢しちまうとな、いっつもウチで飯 食っていってくれるんだ。 」

「 ・・・ お父さん。 あのオバサンも  ママ  なの? かっこいいね〜〜

 ウチのお母さんはね とってもキレイなんだ〜 ねえ お父さん? 」

「 あは・・・・ そ、そうだね。  あ ど どうも〜〜 御馳走さまでした! 」

「 おうよ、また来とくれよ 嬢ちゃん! 」

「 うん!  ばいば〜い オジサン! おいしかったよぉ〜〜 」

ご機嫌な娘の手を引いて ジョーもお腹の底からじわ〜っと温まり店を後にした。

 

「 お父さん〜〜〜 おいしかったね!  おみやげも買ったし〜 うわ〜い! 」

すぴかはご機嫌で ジョーの前をちょんちょん跳びはねてゆく。

毛糸の帽子からはみ出したお下げが 金魚の尾ひれみたくぴんぴん跳ねる。

 

      あは・・・ 可愛いなあ・・・

      そっか・・・ コイツ、やっぱり女の子なんだなあ

      ちょっとマフラーと帽子の被り方を変えただけで

      ・・・ ホント、可愛い・・・!

 

ジョーはもう・・・大甘パパ全開で目尻を下げていたのだが・・・

すれ違う人々も 多くがにこにことこの少女を眺めていた。

「 さ・・・すぴか。 ここはヒトがいっぱいいるからね こっちへおいで。 」

「 うん、 お父さん! 」

すぴかはジョーの側に戻り しっかりと手を繋いだ。

「 あ そうだ。 すぴか、買い物がしたいんだろ? お母さんに聞いたよ。

 なにが欲しいのかな。 お父さん、付き合うぞ 」

「 ・・・ うん ・・・ あの さあ・・・ 」

「 なに? 言ってごらん。 」

「 ウン ・・・ アタシ・・・ すにーかー ほしいんだ。 」

「 スニーカー? ・・・ それ・・・ 破けちゃったのかい。 」

ジョーは娘の足元に目を落とした。

すぴかのGパンの裾からはピンク色の運動靴が覗いている。

「 ・・・ ううん ・・・ やぶけてない・・・ 」

「 ?? ああ それじゃ ・・・ もうキツくなったのかな。 」

「 ううん・・・ きつくない ・・・ 」

「 それならどうして。 その運動靴、可愛いじゃないか。 他のスニーカーが欲しいの。 」

「 ・・・ ウン ・・・ すぴかのお小遣いで ・・・買える・・・ カナ ・・・ 」

すぴかは俯いたままモジモジしている。

ジョーは ピンと来た。

「 ああ ・・・ そうか。 すぴかはどんなデザインが好きなのかい。 」

「 お父さん!  あの  あのね・・・! 」

ぱっと笑顔になり すぴかはジョーの手をきゅうっと握った。

すぴかが今履いている運動靴は 赤とピンクで可愛い女の子キャラがついている。

スニーカーっぽい形なのだが ヒモではなくリボン風な飾りをマジック・テープで留める仕組みだ。

女の子好みで可愛いけれど あまり <かっこよく> はない。

その上、活発なすぴかにとって  可愛い運動靴   では機能的に <タルい> のだろう。

「 よし、わかった。 じゃ・・・お父さんが買ってやる。 ・・・ これは お年玉だ。 今回だけだぞ。

 お母さんに、すぴかのほしい靴とか服のこと、ちゃんと言っておくよ。 」

「 うわ・・・  お父さんッ ありがと〜〜〜 」

すぴかはきゅう〜〜っとジョーにしがみ付いてきた。

 

      あは ・・・ かっわいいなあ・・・

      そっか。  すぴかのヤツ・・・ずっと好きじゃないもの、着せられてたんだ・・・

      うん ・・・ いつもGパンとTシャツかトレーナー・・・ってのは

      すぴかの必死の抗議だったのか・・・

      ・・・ 気づかなくて・・・ごめんな ・・・

 

「 さ それじゃ。 靴屋さん・・・う〜ん、スポーツ用品の店に行こうか。 」

「 うん!! 」

父と娘は に・・・・っと笑いあい美味しいお土産をもって<寄道>した。

 

    ― その日から 銀のラインの入った黒いスニーカーがすぴかの親友になった。

 

 

 

 

   カリカリカリ ・・・・ カリカリ ・・・・

 

すばるは一生懸命だった。  

全身を耳と目にして・・・せんせいのいう事をひとっことも聞き漏らさないように。 

そして タクヤお兄さんをしっかりみるんだ!

   ・・・ ちゃんと書けるかな・・・

すばるは始め とっても心配していた。  お母さんのお願いだから がんばる!って決心したけど・・・

どきどきして ・・・ 口から心臓が飛び出しそうだ・・・!

   でも!  がんばるんだ・・・!  お母さんとタクヤお兄さんのお手伝いだもん!

 

 

 

 

「 はい、始めましょう。 」

「「 よろしくお願いします! 」」

さっきの先生がスタジオに入ってきて、 お母さんとタクヤお兄さんは一緒に御挨拶をした。

先生は頷くと 鏡の前に出してあったイスに腰かけた。

 

お母さんたちはスタジオの端っこ、隅の方にいる。

静かな ちょっと哀しいカンジの音が流れ始めた。

 

「 ・・・・・・ ・・・・・ 」

始めの頃、 せんせい は あまり口を開かなかった。

おかげですばるは 鉛筆を握ったまま じ〜〜〜っと お母さんたちの踊りをみることができた。

まず お母さんが一人で とってもとっても静かに踊りはじめた。

 

     ・・・  お母さん ・・・・!

 

去年 やっぱりこんな風にお母さんたちのりはーさる を見学した。

あの時は 見ているすばるでもむずむず一緒に踊りだしたくなっちゃうみたいな楽しい音楽だった。

そしてお母さんもタクヤお兄さんもず〜〜っとにこにこしてた。

特に 二人が一緒に踊りところなんてお母さんはとろけるみたいな笑顔で

( すばるはちょこっとヤキモチが妬けてしまった・・・! ) タクヤお兄さんも素敵な笑顔で

お母さんだけ! を見つめていた。

 

   だけど。  今日は。

 

音楽はとっても静かで淋しくて。 なんだかちょこっと哀しいカンジだ。

お母さんがゆっくり ゆっくり 踊りはじめ ・・・ 

 

 

さっき、リハーサルが始まる前に、お母さんはすばるを真正面から見て 言った。

「 すばる。 それじゃあお願いね。  タクヤお兄さんが伸び伸びと踊れるように・・・

 先生のご注意を書いておいてね。 」

「 うん!  僕 ・・・ がんばる。 」

すばるはこっくん、と頷いた。

   ― タクヤお兄さんが 踊れるように。 

お母さんは確かにそう言った。  タクヤお兄さんが  タクヤお兄さんのために・・・!

 

お母さんの声が すばるの耳の奥からもう一回聞こえてきた。

すばるはお腹にぐ・・・っと力をいれた・・・! 

 

     よォ〜し。 僕の ・・・ おしごと だ!

 

 

 

「 ・・・ そう・・・ もうちょっと上体を起こして・・・うん、そのくらい・・・ 」

やがてタクヤお兄さんが出てきて  す・・・っとお母さんをささえ、二人はゆっくりと踊り始めた。

先生は ほとんどなにも言わない。

「 ・・・ センター まもって。  そう・・・ 」

「 どっち向いてるの そうよ ・・・ 」

キレイにキレイに・・・でもお母さんもタクヤお兄さんも ちっとも楽しそうじゃない。

 

      どうして? ・・・ なんか・・・泣きそう・・・みたい・・・

 

すばるはぺったり床に座っている。  ノートはまだほとんど真っ白だ。

タクヤお兄さんは ふわ・・・・っとお母さんを持ち上げた。

 

      あ。  ここ ・・・ さっき練習していたとこかな・・・

 

「 ・・・・ ・・・・・ 」

先生は まだなんにも言わない。

二人の踊りが終ると すぐにお母さんが一人で踊り始めた。

曲は少し明るい感じになったけど、お母さんは笑っていない。

すばるは あんな悲しそうなお顔のお母さんは ― 初めてみた。

お家に居るとき お母さんはいつだってにこにこ・・・楽しそうなのだ。

すばる!って 叱られることもあるけど、 こら!って怒られる時もあるけど ・・・

どんな時だって お母さんは悲しい顔なんかしたことがない。  

 

     お母さん??  ・・・どっかいたいの・・・?

     お母さん ・・・ どうしたの?   タクヤお兄さん、いるのに・・・

     ・・・あ! もしかして  お父さんがいないから??

 

すばるはきゅう〜〜っと胸が痛い・・・みたいな気持ちになってきた。

今度は タクヤお兄さんが一人で踊り始めた。

 

     わ・・・・ すご・・・ タクヤお兄さん・・・!  すご〜〜い!!

 

速いテンポの音楽に乗って タクヤお兄さんはず〜〜〜っとジャンプしっぱなしだ。

「 音にあわせて! タクヤ、遅い 遅い〜!  ・・・・そう! 音に乗るの! 」

「 もっと 高く! 上体、曲げない! 」

すばるの鉛筆がカリカリカリ ・・・・ ノートの上を滑り始めた・・・!

 

     お母さん 言ったもんね!  タクヤお兄さんのためって・・・!

 

「 〜〜〜 !  ・・・ 〜〜〜  〜〜〜 ! 」

「 〜〜!  ・・・ 〜〜  〜〜〜 !

 ― カリカリカリ ・・・・!

先生の声を追って すばるの鉛筆が走る。

 

  !!!  強い音楽と一緒にタクヤお兄さんは床に倒れた。

曲が変わった。   

お母さんが出てきた。 しずか〜〜だけどなんだか涙が出てきそうな曲だ。

すばるは息を詰めて じ・・・っと見ている。

お母さんは そうっと優しく優しく倒れているタクヤお兄さんを助け起こした。

 

     あ ・・・ お母さん、お父さんを起こす時みたいだ〜

     ジョーォ?  起きて ・・・って言うんだよね〜

     お父さんってば 半分目、開けてるくせに 寝たふり、してさあ♪

     僕 ちゃ〜んと知ってるも〜ん♪

 

すばるはちょっとばかり得意な気分になったが すぐにお母さんたちの踊りに夢中になった。

 

     タクヤお兄さん・・・ ぶったおれちゃったんだ?

     ・・・ お母さん や〜さし〜・・・  

     なかよしにおどってるのに ・・・ なんか二人ともかなしい顔だよ?

 

お母さんとタクヤお兄さんはじ・・・・っと見つめ合い ゆっくりゆっくり離れてゆく。

二人の間は離れても 視線はしっかり結びあわせているのだ。

 

     すご ・・・ あ!  この二人は こいびと なんだ!

     おうじさま と おひめさま ・・・ なのかな?

     ・・・ う〜ん ・・・ でも ちがうカンジもする・・・よ・・・

 

「 フランソワーズ!  もっと押さえて。   タクヤ そんなに熱い目でみない! 永遠の別れ、よ!  」

「 ゆっくり ゆっくり!  ・・・ そう! 」

先生が ぽんぽん注意をし始めた。

 

     ! ・・・ えっと ・・・  〜〜めでみない。 ・・・・と。

 

すばるはまた鉛筆を走らせる。  真っ白なノートはすばるの字でどんどん埋め尽くされてゆく。

お母さんがひっこむと タクヤお兄さんはものすご〜〜〜くものすごく・・・哀しそうに立ち上がった。

お兄さんはもっのすご〜〜〜く悲しい顔で だ〜〜っと駆け出し、 ・・・ がっくり膝をついた。

そして宙をみあげてから ・・・ 床に崩折れた。

   ―  音が 消えていった。

 

     タクヤお兄さん・・・!  泣いてる ・・・ 泣いてるよね??

     ・・・ お母さんとお別れ、しちゃったから?

     あれ? これはおうじさま と おひめさま の踊り、じゃないのかなあ?

     このまえ、見たのはと〜ってもうれしそう〜なふたり、だったよね。

 

すばるは鉛筆を握ったまま う〜ん??? と首をひねっていた。

  ― カタン  ・・・  鏡の前のイスから 先生 がたちあがった。

「 う〜ん ・・・ テクニックはまあ ・・・ ちょこちょこ注意したでしょ。 わかった? 」

お母さんとタクヤお兄さんは はあ〜・・・って大きく息をついている。

 

     うわあ〜・・・二人とも 汗 びたくただあ〜・・・

     走ったわけじゃないのに ・・・ すご・・・・

 

「 最初のリフト、 イントロのところの。 」

うんうん ・・・と お母さんもタクヤお兄さんは頷いた。

 

     リフト・・・って  あ! あの ぽわ〜ん・・・ってお母さんをもちあげるトコだ!

     さっき 二人でれんしゅう、してたよね!  

 

すばるも一緒になって うんうん・・・と頷いている。

「 普通・・・ 音って。 ・・・とり方はヒトによって違うわね、早取りのヒトもいればすこし遅くとるヒトもいるわ。  

どちらが正しいのだとおもう? 

「「 ・・・・・ ? 」」

お母さんもタクヤお兄さんも なにも言わない。

「 ― あのね。  音通りに 踊りなさい。  いい? 」

「「 ・・・・・・・ 」」

二人は ちら・・・っとお互いに見合って また俯いてしまった。

「 小細工、しない。  ・・・ それじゃ さっき言ったこと、次までにやっておくこと。

 ふふふ〜〜 タクヤ? 最後のカオ、いいわよォ〜〜 失恋オトコ? 実体験かな〜 」

「 え ・・・ あ。 あは・・・ 」

タクヤお兄さんは なんだか眩しそうな顔して目をぱちぱちしている。

「 ああ そうだ、フランソワーズ。  <哀しい>って、眉間に縦ジワ、寄せることじゃないのよ?

 本当に哀しいこと、考えてごらん? 」

「 ・・・ ァ・・・ は はい ・・・ 」

「 ふふふ ・・・幸せな奥様にはムリかな?  

 ま、 もっともっと踊りこまなくちゃね、二人とも。  それじゃ お疲れさま。 」

「「 あ・・・ ありがとうございました。 」」

お母さんとタクヤお兄さんは ぺこ・・・っとお辞儀をした。

「 お。 ボク? どうだった、面白かったかな〜 」

先生は ピアノの横でじ〜〜っとしているすばるにも ちゃんと声をかけてくれた。

「 ・・・ あ ・・・ はい。 」

「 大人しくできたね。 偉いぞ。  じゃあ またね。 」

「 さ  さよ〜なら ・・・ 」

すばるは ぺこん、とお辞儀をした。

 

 

「 ・・・ ふえ〜〜〜  ちぇ、お見通しってことかよ〜〜 」

「 ・・・ タクヤ ・・・ 」

先生がスタジオから出て行った途端に タクヤはがった〜んと後ろにひっくり返った。

「 へいへい・・・ 音どおりに跳びます、 音どおりにリフトしますって。 

 あ〜あ・・・ ったくなあ 〜〜 」

「 大変だわ・・・ごめんなさい、タクヤ。 ・・・わたしには難しくて・・・ 」

「 そ〜れはオレもおんなじだって!  しっかし 難しいなあ〜 

 お〜 すばる〜〜 どうだった? 見てて、面白かったか〜 」

タクヤは床に転がったまま、すばるに にや・・・っと笑いかけた。

「 うん!  すご〜く!  あ お母さん あの ・・・・ 」

「 ああ すばる!  見ててくれた? どうだったかしら・・・ 」

「 うん あのね と〜ってもすごい!  お母さんたち、 やっぱりロケットみたいだった! 」

「 あら〜 そう?   ・・・ あ、 書けた? 」

「 うん、  あ  字、まちがってるかも・・・ 」

「 いいの いいの。  見せてくれる? 」

「 ・・・ うん ・・・ これ・・・ 」

すばるは ずず・・・っとノートを押しやった。

「 お。 な〜んだ?  そういえばなにかず〜っと書いてたよなあ? 」

「 え あ うん ・・・ 」

「 あのね。 ふふふ ちょっとズルしたのよ、わたし。  すばるに頼んじゃったんだけど。 」

「 なにをさ。  見てもいいかい、すばる? 」

「 ぅ   うん、 いいよ。 タクヤお兄さんなら! 」

タクヤお兄さんとお母さんはいっしょに すばるの書いたノートを見始めた。

「 ・・・・・ ・・・・!? 」

「 ・・・ あ。  あら ・・・ これって ・・・ 」

タクヤお兄さんは物凄く熱心にすばるの書いたところを読んでいる。 

ちょっと怖い ・・・お顔だ。

すばるは ― なんだかとっても緊張してしまった。 きゅう〜っと鉛筆を握り締めた。

 

 

   パサリ ・・・。   タクヤお兄さんが最後のページまで読み終えた。

 

「 ・・・フラン!  いや、すばる!  これ・・・コピーさせてくれ! 」

「 ― え〜 ・・・だって 読めるの、タクヤ? 」

「 読めるさあ! オレなんかよかよっぽどキレイな字だよ! すばる〜〜 ありがとう!! 」

「 え・・・・ えへへへ ・・・・ そ、そっかな〜〜 」

「 ・・・・ あ あの? すばる・・・?  これで全部、よねえ? 」

「 お母さん。 うん そうだよ〜  先生のいったこと、僕 書いた! 

 先生が タクヤお兄さんに言ったこと、み〜んな だよ〜〜 」

「 ・・・ あ!  あぁ ・・・ そうねえ〜・・・ タクヤのところ、よねえ・・・・ 」

「 うん うん! そうだよ ・・・・ そうなんだ・・・!  マダムが言ったこと、ばっちり!

 うわ〜〜〜 すばる〜〜 最高に感謝・・・・!! 」

「 ・・・え  うわぁ〜〜 ?? 」

タクヤはぴょん、と飛び起きると すばるをぽ〜〜ん・・・とアタマの上まで持ち上げてくれた。

「 タクヤ。  ねえ これ・・・ このノート、持っていって? 

 すばる、タクヤお兄さんにあげてもいいわねえ? 

「 ? え ・・・ フラン、だってこれ、お前のノートだろ? 」

「 ・・・ わたしがコピーを貰うわ。  ・・・ これはタクヤのためのノートだと思うし。

 ふふふ ・・・ やっぱりズルしちゃだめってことね。 」

「 え? ズル?? 」

「 お母さん ・・・僕、ズルなんかしてない。 」

すばるが真剣な顔で 母を見つめている。 

「 ああ ごめんごめん・・・・ すばるのことじゃないの、 お母さんのこと。 」

「 お母さんの? 」

「 そう。  ・・・ わたし、先生のご注意、あとから復習してよう、って思って・・・

 それですばるにノートに書いておいて? って頼んだの。 

 ・・・ タクヤに迷惑、かけないように、って思ったのよ。 」

「 フラン〜〜 迷惑、なんて言うなよ!  パ・ド・ドウ は二人でつくる作品だろ。 」

「 そうなんだけど・・・・ でも。 わたし、ヘタクソだから・・・

 それでね。  タクヤお兄さんのために ノートをとってね、ってすばるに頼んだの。 」

「 うん!  だから 僕! ノートに書いたよ! 先生がタクヤお兄さんに言ったこと。 」

すばるは とん・・・っと足を踏んでから と〜っても嬉しそうに に・・・っと笑った。

「 あ ・・・! それで・・・ オレのパートだけマダムの注意を書いてくれて

 ・・・ フランのトコは書いてないのか。 」

「 そうなのよ・・・ へへへ・・・子供は正直よね。 < お母さんが言った通り> にしたわけ。 

 あは・・・ 自分のことはちゃんと自分でやりなさいってことだわ ね。 

 だから そのノートは タクヤのよ。 」

「 ・・・・ そっか。  うん・・・ ありがとうな、すばる。 フラン・・・ 」

「 あ、でもね、コピーは頂戴ね。 息子の記念品ですから。 」

「 あ〜 うん、勿論 ・・・  これ・・・オレの宝ものだ・・・一生の。 な〜〜すばる♪ 」

「 うん! タクヤお兄さん♪ 」

タクヤお兄さんも に・・・っと笑ってすばるの髪をくしゃり、と撫ぜた。

 

 

 

 

 

「 すばる〜〜  行きますよ〜 」

「 ・・・ あ うん。 まって まって〜 お母さん・・・ 」

フランソワーズはカンパニーの門のところで振り返った。

彼女ののんびり息子は ジュースの缶を持ってそろりそろり・・・と歩いてきた。

「 どうしたの? 

「 ジュース・・・ こぼれそう〜 タクヤお兄さんがくれたんだ・・・ 」

「 あら・・・ それでタクヤは? 」

「 あのね、じしゅう、してくって。 それでね、 お父さんにアリガトウって言っておけって・・・

 なんで お父さん なの〜〜???  お母さんじゃなくて。 」

息子は 単純に不思議そう〜〜な顔で母に尋ねている。

 

     まあ・・・! タクヤったら・・・

     ふふふ・・・ わたしね、ジョーとは違った意味で

     タクヤが 好きよ。  

     ・・・ タクヤと踊れて とってもとっても嬉しいの・

 

     ・・・  舞台の上での <私の恋しいヒト> ・・・

 

「 ふふふ ・・・ なんでかな〜?  お母さんにもわかんないわ。

 さあ 帰りましょう。  あ・・・ ありがとう、すばる! 」

「 ??? 」

「 一生懸命 ノート書いてくれたでしょ。   そうだ! ケーキでも食べてゆく? 」

「 え ・・・ う〜ん ・・・でも さ。 お父さんとすぴか・・・、帰っちゃったよ・・・ 」

「 ああ ・・・ そうねえ。 それじゃ お土産にしよっか。 」

「 うん!!!  ・・・ あ、 すぴかは おせんべい が好きだよ、きっと。 」

さすが双子・・・ 姉の好みはちゃんと知っているらしい。

「 わかってるわ。  お父さんとすぴかにはチーズ・ケーキにしましょ?

 すばるは・・・ チョコレート・ケーキ、でしょ? 」

「 うん♪♪ うわ〜〜い〜〜〜♪ 」

「 じゃ・・・ 行きましょ、 すばる。 」

フランソワーズは きゅ・・・っと息子の手を握って。 二人はゆっくり舗道を歩いていった。

 

 

 

 

   タン ・・・!   シュ ・・・ッ ・・・・!

 

軽快に床を蹴る音がして 青年の身体はふわ・・・っと宙に浮き ― 落ちた。

「 ・・・ くそっ!  もうちょっと・・・高く・・・! 」

え〜と・・・ と、彼は床に広げてあるノートを読み返す。

「 ・・・ そうだ そうだ・・!  おとといっしょ、だったよな ・・・ ふふ・・・ 」

大きな平仮名が ノートいっぱいにまさしく踊っている。

彼はしばらくじっと見つめていたが ふ・・・っと笑みを浮かべた。

「 すばる ・・・ ありがとうな。   オレ・・・ このノート、タカラモノにするぞ。 」

青年は立ち上がり、再び踊りはじめた。

速いするどいジャンプが続く。

 

     フラン・・・!  オレ、やっぱり君が好きだ・・・・!

     君が人妻であっても ・・・ 母親であっても な。

     いや ・・・ オレはそんなフランが好きなのかも ・・・な ・・・

 

青年 ― タクヤはパートナーとしての彼女だけでなく、フランソワーズ自身が好きなのだ。

彼女の家族、 夫と子供たちともちゃんと会ったこともあるし、彼らの家庭の温かさも知っている。

 

     それでも  それでも ・・・!

     オレはさ。  フラン、君を好きになることを止められない・・・!

     ・・・ ああ そうさ。  そうなんだ・・・!

     だけど  ・・・  手の届かないヒト ・・・

  

       ―  ああ   そう  か。

       

     これが ― これが  アルブレヒトの心 ・・・ !!

     オレが。 オレだけが表現できる ・・・ ヤツの心 だ

 

シュ・・!!!  パパン ・・・!!

 

タクヤは見事なアントルシャ・シスを連続して決めていった。

 

   後年。 彼、山内拓也は引退する最後の舞台まで 常に一冊のノートを持ち歩いていた。

表紙はぼろぼろになり、ページの紙もところどころ変色した。

しかし 彼はいつもそれを開き読み返してから 舞台に出ていった。

大きな文字の平仮名だらけ ・・・ でもそのひと言 ひと言が彼を支えたのだ。

昔の恩師と  弟でも後輩でもない、息子ともちがう、不思議な少年と ・・・ そして。

 

    ・・・ ありがとう!  マダム  すばる  ・・・そして フラン・・・!

 

  フラソワーズ  ・  アルヌール   ―   彼女はタクヤの生涯の心の恋人だった。

 

 

 

 

「 あ〜あ ・・・ やっと寝たよ〜〜 アイツら・・・ 」

ジョーが う〜〜ん・・・と伸びをしつつ 子供部屋から戻ってきた。

「 ふふふ ・・・ お疲れ様。 子供たちと一緒にお風呂、なんて久し振りね。 」

「 うん。  なんだかさ、二人ともとっても楽しかったらしくて。 

 も〜〜 お喋りがなかなか終らないんだ。  さんざん晩御飯の時にしゃべってたのにな。

 すばるも、だぜ。 アイツも珍しく すぴか顔負けにしゃべった・・・! 」

ジョーはパジャマ姿のまま どたん・・・とソファに座りこんだ。

「 あらら・・・・ そのままじゃ風邪 引くわ。 ほら・・・ 」

フランソワーズが ジョーのパーカーを渡した。

「 あ・・・ サンキュ・・・  」

「 すぴかもね、 夕食の用意、手伝いながらまあよくしゃべったわよ。 

 ねえ ジョー?  < ママ > っていうヒトと一緒だったんですって? 」

「 え?!  ・・・ あ。 あの焼き鳥屋で ・・・ 」

「 へ〜え・・・?  娘を連れてそういうヒトが居る所へ行ったわけ? 」

「 ち! 違うって!  真昼間だぜ〜〜  

 あのな、焼き鳥屋にいたオバサン・・・ 素顔なバーのママ だったんだよ。 」

「 いや〜だ、そんなに慌てないでよ。 ちょっとからかってみただけよ。

 ・・・素敵なヒトだったみたいね。 」

「 うん ・・・ いいカンジだった。  すぴかのこと・・・ 女らしい って。

 かっこよくマフラー巻いて、帽子、被せてくれたよ。 」

「 そうそう!  すごく可愛かったわよね。  ・・・ あ〜あ いいなあ すぴかは。 」

「 ええ?? 」

「 だって。 ジョーとデートして、美味しいもの食べて ・・・ 」

「 ・・・ あ〜 それなら ぼくはすばるが羨ましいな 〜〜

 きみが踊る姿 た〜〜っぷり見てたんだろ? 例のアイツと・・・さ。 」

「 まあ ・・・うふふふ・・・そうなのよ〜 すごくいい子だったの〜♪ 」

「 ふ ふん ・・・ 」

 そういえば ―  タクヤお兄さんがねえ、 お父さんにありがとう!って ・・・

息子は何だってあんなコトを言ったのかな・・・・? と ジョーはちょいと首をひねった。

 

「 ・・・ ねえ。 ねえってら・・・ 」

「 え・・・?  あ・・・ な なんだい。 」

気がつけば ジョーの横には。 亜麻色の髪の美女がぴたりと身体を寄せてきている。

「 ・・・ だから ・・・ ね?  今からはわたしが独占したいの。

 このヒトはわたしだけのモノなんですもの 〜〜〜 」

「 あ ・・・ は ・・・。  ふふふ・・・ 新年早々随分積極的ですね〜 奥さん?

 それじゃ ― リクエストにお応えして♪ 」

「 ・・・ ふふふ ・・・ だ  い  す   き   ・・・ ♪ 」

「 こら・・・ おしゃべりは ・・・ 」

  カチン ・・・  ジョーは腕を伸ばして電気のスイッチを切り ― 二人の声と光はすっと闇に消えた。

 

 

 

その頃、子供部屋では ― 

「 すばる〜〜  チーズ・ケーキ、美味しかった〜〜! サンキュ♪  」

「 えへ・・・ あの、さ・・・ すぴか・・・ 」

「 ・・・ ウン わかってるってば。  スニーカー貸したげる、すばる。 」

「 うん!  すぴかのスニーカー・・・ かっこいいもんね! 」

「 うん♪  すばるもきっと速く走れるよ! すばるにもぴったりだよ。 」

「 ジャンパー・・・貸したげる。  すぴか、かっこいいもん。 」

「 すばるだって かっこいいよ! ありがと♪ 」

「 ん・・・ あの  さ。 」

「 なに・・・ 」

「 お母さん ・・・ かっこよかった よ・・・ 」

「 そっか。  お父さんもさ  ・・・ かっこいいよ ね 」

「 ・・・ ん ・・・ 」

 

      アタシ ・ ボク のお父さんだもん  お母さんだもん   ね!!

 

双子は目と目でお話をしてから  に・・・っと笑った。

 

 

 

***************************    Fin   ****************************

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Last updated : ,01,18,2011.                   back         /        index

 

 

 

*************     ひと言    ************

例によってな〜にも起きません、ごく普通の日々です〜

こんな日々が ジョー君とフランちゃんに訪れますように・・・

そうして ね。

そう・・・ほら・・・ あの岬の家を覗いてみれば ―

いつだって 賑やかな双子ちゃんがお父さん・お母さんといっしょに

笑ったり・怒ったり・泣いたり・・・して元気に暮らしているのです。

・・・・そんな風に思いたくなってきました ・・・