『 アタシのお父さん・ボクのお母さん  ― (1) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

お正月はあっと言う間に過ぎて ―  オトナの社会は<普通の日々>が 始まった。

ジョーは三が日こそゆっくり家で過したけれど、明ければすぐに通常通り 深夜近くの帰宅 になる。

今年は博士が正月三日に学会参加の準備などのために渡米、岬の邸はいささか寂しい新春なのだが・・・

ジョーとフランソワーズの双子の子供たちは まだまだお正月気分に浸っている・・・らしい。

 

三が日の翌日、一家の主を送り出し ― 

つまり家族全員で 「 いってらっしゃ〜〜い お父さん ( ジョー ) 」 と坂の上で手を振ったあとのこと。

 

「 ね〜〜 今日〜〜 お買い物につれてって〜 お母さん 」

珍しく双子の姉娘が <おねだり> をした。

「 あら なあに。 すぴか、なにか欲しいものがあるの?  」

「 うん。 お年玉でね〜 買いたいものがあるんだ〜 」

「 まあ珍しいわねえ、なにが欲しいの?  お母さんに教えて?  あ、バレッタとか髪留めかな?

 それともリボン? ・・・ う〜ん? 可愛いハンカチかポーチかしら。 」

フランソワーズは もう娘とファンシー・ショップであれこれ買い物をする気になってにこにこしている。

小学三年なったすぴかは くるりん!と亜麻色の髪が肩口で跳ね、大きな碧い瞳・・・

<見た目> は 母によく似てなかなかの美少女ぶりである。

 

     ふふふ・・・ やっと娘とお買い物にゆけるわ♪

     もう〜〜 ず〜〜っと待っていたのよ〜〜

 

     ちっちゃい頃は男の子みたいだったけど

     小学三年生にもなれば もう一人前の マドモアゼル・シマムラ よね♪

 

母は大にこにこである。

「 お母さんってば 今日はお稽古にリハーサルなんでしょ。 キッチンのボードに書いてたじゃないかア 」

父よりちょっとばかり明るいセピアの髪を揺らし、弟息子がのんびりと口を挟んだ。

島村家では家族の予定をキッチンにあるボードに、本人が記入することになっている。

 

  ― いつもにこにこ・すばるクン

  ― 笑顔が可愛いすばる君

 

フランソワーズの息子は これも現在 <見た目> は ジョーのほぼミニチュア版・・・

しかし中身は 至って平和で明るい・甘えん坊ののんびり屋なのだ。

活発で男の子顔負けのお転婆な姉・すぴかの後をいつもにこにこ・・・くっついて歩く。

 

「 そ・・・ そうなんだけど。 あなた達の学校の帰りに待ち合わせれば ・・・ 」

「 僕たち まだお休みだよ〜 」

「 始業式、まだだも〜ん。 」

 

   「 ・・・ え。 」

 

フランソワーズの手がとまった。

彼女はキッチンで洗い物をしていたのだが・・・ 子供たちの声に固まった・・・!

「 あ・・・ そ、そう・・・ね。 あなた達 まだ冬休みだったわねえ・・・

 それじゃ  お母さんと一緒に出て学童クラブにゆきましょう。 」

「 おか〜さん、がくどうくらぶ、お休み〜 」

「 よんにち・・・じゃなくて よっか までお休みです、ってお知らせぷりんとに書いてあるよ〜 」

「 だんぼうの工事なんだって〜 しゅうりしないとさむくて、皆おかぜ 引いちゃうもんね〜 」

「 ・・・・ あ ・・・ そう  そうよねえ・・・ お正月ですものねえ・・・

 今日はまだ四日 ですものねえ・・・  そうよねえ・・・ 」

「「 うん、 そう! 」」

子供たちは にこにこ・・・ 姉は元気いっぱい、弟はの〜んびりお返事をしてくれた。

 

     しまった・・・!  学童クラブがお休み・・・ってすっかりわすれていたわ。

     う〜〜ん・・・・どうしよう?

     博士はお留守だし・・・ 

     まさかいくらお休みでも子供たちだけで半日もウチに置いてゆけないし ・・・

 

     この辺りはやっぱり辺鄙なのよね・・・ ウチのセキュリティは万全だけど・・・

     でもやっぱり二人だけ・・・っていうのは心配よ。

     まあ ・・・ 街中だったら別の意味で心配だけど。

 

フランソワーズは 洗いかけのカップをにぎったままシンクの前で考えこんでしまった。

「 おか〜さん! おか〜さんさあ 今日もおけいこでしょ? 

 だいじょうぶ! アタシ達 ・・・ ちゃんとおるすばん、できるよ。 」

「 うん。 おひるごはん、たべたらおかあさん、かえってくるでしょ。 僕、お留守番できる。 」

双子は母の側にたち、小さな頃みたいにスカートの左右にぴったりとくっついた。

「 え ・・・ ええ ・・・ そう・・・なの?  あらあら・・・・ 」

 

      ・・・  やっぱり淋しいのよね・・・・

      いつもはもうこんな風にくっついてきたりしないのに。

 

      三年生でも・・・そうよね・・・

      でも・・・・ 今日はリハーサルもあるし 帰るのは夕方になるわ・・・

 

      う〜〜〜ん ・・・???

 

「 おかあさん?  ・・・ カップ・・・こわれるよ? 」

「 おかあさん。 ボク・・・おらさ、ふくよ?  はい、ちょうだい。 」

色違いの瞳が彼女の左右から じっと見上げている。

 

      ・・・ いっけない・・・!  心配させちゃった・・・

      よおし・・・・  うん。  決めた!

 

「 ねえ? 二人とも。  お母さんと一緒に行きましょう。 」

フランソワーズは 二人に満面の笑顔を向け、両腕できゅうっと抱き締めた。

「 一緒に・・・って。 おけいこに? 」

「 わ・・・電車にのってゆくの? 」

「 そうよ。 すぴかはお父さんの車で来たことあるわね。

 すばるは一緒に電車で行ったわね? 覚えているでしょ。  」

「 うん!  サンドイッチ、もっていった〜  今日もお弁当、もってゆくの? 」

「 ・・・タクヤお兄さん!  お兄さんにあえる? お兄さん、げんきかな〜 」

子供たちは たちまち目を輝かせた。

三年生になったんだもん! と 威張ってみたけれど。

やっぱり二人きりの お留守番 は、 嬉しくなんかなかったのだ。

「 そうね・・・お弁当は・・・いいわ、お母さん、大急ぎでお握りを作るわ。

 ええ、タクヤにも会えるわよ。 お母さん、またタクヤと組んで踊るから・・・ 」

「 うわ〜〜 タクヤお兄さん〜〜 おうじさま なんだ〜〜 うわ〜 」

「 ・・・ う〜ん そうねえ・・・ 王子サマ にはちがいないけど・・・

 でもかっこいいのよ、応援してあげてね。 」

「 うん! すぴか〜〜 電車に乗ってこ! うわ〜い 」

「 すばる。 あんた、もういっかい、お顔、洗ったほうがいいよ? 

 ほっぺにジャムがくっついてる〜 ! 」

「 え ・・・ 僕 !  お顔、洗ってくるから〜〜 待ってて! 」

ばたばたばた・・・ すばるはバス・ルームに駆けていった。

「 おかあさ〜ん アタシ、お買い物もしたいんだ・・・ 」

「 ええ ええ。 帰りに一緒にお買い物しましょ? 

 バレエ・カンパニーの近くにはね オシャレなお店がいっぱいあるの。  

 きっとすぴかが欲しいもの、あるわよ? 」

「 え〜 ・・・ う〜ん・・・・あるかなあ・・・?

 あ でも。 アタシもお母さんと一緒に行く〜〜♪ おでかけ〜〜大好き♪ 」

「 そうね。 あ・・・それじゃね、 ほら・・・ クリスマスにおじいちゃまから頂いたオーバー、着ない?

 白い毛皮のフリフリが ウサギさんみたいで可愛いわよ。 」

「 ・・・ え ・・・ あのオーバーかあ・・・ オンナノコみたいなんだよね〜 」

「 すぴかさん。 あなたは女の子なのよ? 」

「 う〜ん・・・ すぴかさ〜〜 お父さんとお揃いのじゃんぱーが好き♪ あれ、着る。 」

「 ・・・ そう・・・それじゃ・・・寒いからマフラーしっかり巻いて。 お帽子と手袋もわすれないこと。 」

「 うん!  あ、すばるにもちゃんと着せなくちゃ。  す〜ばる〜〜 」

すぴかも弟の後を追って子供部屋に駆けていった。

お転婆の跳ねっかえりだが 弟の面倒はちゃんと見る <お姉さん> なのだ。

「 ・・・ あのオーバー・・・可愛いのに・・・・真っ白うさぎさんみたいで・・・

 スタジオの皆に わたしの娘よ♪ って可愛い姿、みせたいのになあ・・・ 」

博士がクリスマスにくださったのは ― 真っ白なオーバーで 襟と袖口・裾にふわふわの毛皮つき。

フードにも毛皮のぽんぽんが付いていて ・・・ すぴかにとてもよく似合った。

   ― ただし。 一回着てみただけ。 本人はお口をへの字にしてた・・・

 

黙ってたけど。 言わなかったけど。  

すぴかはすばるがおじいちゃまに頂いた、襟に茶色の毛皮がついたジャンパーが

ものすご〜〜く羨ましかったのだ。

ポケットがいっぱいついていて、袖口がきゅっと絞まるようになってて。

オトナの人のみたいで すごくカッコイイ・・! とすぴかは憧れている。

 

      アタシ。 きゅ・・・っとしたのが好き! ふりふり〜〜は好きくないもん!

 

いつだってお母さんの選んでくれる服を見るたびに すぴかはそう思っているのだが・・・

・・・ なかなかお母さんはわかってくれそうもない。

 

 「 ・・・ ま  しょうがない、 か・・・ スカートもキライなんだもんね・・・

 あ! 急いでお握り、作らなくちゃ!  余分につくっておけば ジョーの夜食になる かも・・・ 」

フランソワーズは炊飯器を開けて 御飯を大皿の上にあけた。

    

 

 

 

 稽古場に着くまでの道中 ―

幸いまだ正月休みの会社もあるらしく、電車はぎゅう詰めのラッシュではなかった。

ちょうど双子は端っこに座れ 母はその前に立った。

都心まで車内で すばるは電車の観察に余念がなくすぴかは小さなノートをリュックから出して

こしょこしょなにか書いていた。

 

      ふうん ・・・ ?  

      電車の中で、一人でもちゃんと静かにしていられるのね。

      二人とも ずいぶんオトナになってきたのね・・・

 

少し混んできた車内で 子供たちを庇いつつ・・・フランソワーズはちょっと感激だった。

おかあさん おかあさ〜ん・・・といつでも彼女の側でぴいぴいいっていた頃がウソみたいだ。

 

      これなら スタジオでも大人しくしていてくれるわね。 

      すぴかはクラスにも興味があるでしょうし・・・

      タクヤがいるなら すばるはご機嫌よね。

 

やっと目的の駅についたが 子供たちは元気いっぱい、きょろきょろ周辺を見回している。

「 さあ 二人とも? お母さんと一緒に早足〜〜 よ? 」

「「 うん! 」」

「 はい、お手々繋ぎましょ。 ここからは人がいっぱいいるから。 」

フランソワーズは大きなバッグを肩にかけると 子供たちに両手を伸ばした。

「 お母さん。  アタシ、一人で へいき! 」

「 すぴか・・・ 」

「 すばる、 あんたしっかりお母さんと お手々つないでなくちゃ。 」

「 うん・・・ でも でも・・・ すぴかは・・・? 」

「 アタシ・・・ひとりでもへいき  だもん ・・・ 」

「 すぴか、ありがとう!  じゃ・・・すぴかさんはお母さんのコート! 

 ここを持っていてちょうだい。  ね? 

「 うん! お母さん! 」

すぴかは ぐ・・・っとお姉さんぶっていたのだが 母の助け舟にほっとした様子だ。

「 よ〜し・・・ それじゃこんどこそ 出発、ね? 」

「「 うん! 」」

母と双子は 元気よく人混みの海に漕ぎ出していった。

 

    

 

 

「 あら・・・? フランソワーズさんのチビちゃん達は? 」

「 ん〜?  ・・・ ああ 1スタの見学してない? イス、出してあげたけど・・・ 」

「 う〜ん ・・・ いないわよ、二人とも。 」

「 そう? じゃ ・・・ 空いてるスタジオでも覗いているのじゃない? 」

「 そうね〜  ま・・・悪戯したくてもな〜んにもないし〜 」

「 あのコたち 悪戯なんかしないわよ。 ウチのジュニアクラスのコ達よかずっとお行儀いいわ。

 さすが ママの躾が行き届いているってかんじ。 」

「 ふうん ・・・ それならいいけど ・・・ 」

 

バレエ・カンパニーの事務室で 係りのお姉さんたちがおしゃべりをしていた。

スタジオでは朝のクラスの真っ最中 ― ピアノの音と靴音だけが響いてくる。

すぴかとすばるは ・・・ お母さんがレッスンをしているスタジオの隣の部屋にいた。

「 だ〜からあ〜 ちゃんと〜 ばーれっすん してからじゃないといけないんだってば〜 」

「 さっき いっしょにひっぱりっこしたよ〜 」

「 アレはァ〜 すとれっち だよ。  まず ばーれっすん するの! 」

「 タクヤお兄さんは〜 すぐに とぅーる・あん・れーる、教えてくれたよ〜 」

「 だけども〜〜! ばーれっすん がさき! 」 

姉弟は鏡の前で ごちゃごちゃ言い合っていたが ・・・・

「 いいもん! アタシ、お母さんたちのれっすん、見てくるもん! 」

「 ・・・ 僕、 とぅ〜る・あん・れ〜る 練習する! タクヤお兄さんにみせるんだ〜 」

「 ふ〜〜ん だ! 」

「 ・・・ふ〜〜ん だ 」

すぴかが イ〜〜〜ってすると 珍しくすばるも イ〜〜〜〜だ! をした。

「「 ふん!! 」」

すぴかは弟を置いてお母さんのいるスタジオの方へ行った。

 

 

「 ・・・ よいっしょ・・・! あ・・・ もう ぐらん・わるつ だあ〜  

 お母さんは ・・・  あ! いた・・・! 」

イスによじ登り、スタジオの中を覗くと、すぴかはすぐにお母さんをみつけた。

ブルーのお稽古着で きゅ・・・っと髪を結ったお母さんは。 いつものお母さんとは別のヒトみたいだ・・・!

「 わあ・・・ お母さん、 キレイだあ〜・・・ 」

お母さんは他のお姉さんたちと3人一組になって 踊り始めた。

 

「 うわあ・・・・すごい〜〜 みんな とりぷる・ぴるえっと  だ・・・!

 ・・・ え〜〜 なになに〜〜? すぴかのしらないパだよ??  えっと??

 じゅって・あんとーるなん・・・あれれ? もう一回まわってる?? 

 あ! タクヤお兄さん〜〜 みっけ♪ 」

すぴかはスタジオとの窓がらすにオデコを押し付けてじ〜〜〜っとレッスンを見ていた。

 

 「 ・・・ すご〜〜〜い〜〜〜〜〜 ・・・・ 」

 

すぴかが感心している間に お母さん達女の子は最後に32回のグラン・フェッテを回り、 

タクヤお兄さん達オトコの子はア・ラ・セゴン・ターンをしてクラスを終えた。

「 あ・・・ おわっちゃった!  よ・・・っとォ〜 」

すぴかはイスから飛び降りて スタジオの入り口まで飛んでいった。

ドアの横で待っていると ・・・ ピアノの音がやんで拍手が聞こえてドアが開いた。

「 はい お疲れさま。 」

 

     あ。  せんせい だ。 この前・・・ こんにちわ、したよね・・・

     

「 ・・・ こ こんにちは・・・! 」

すぴかはちょっと恥ずかしかったけど 一番最初に出てきた女のヒトにご挨拶をした。

「 ?? ・・・ああ。 フランソワーズのチビちゃんね。  お母さんのお迎えかな。 」

「 ・・・ はい。 

「 フランソワーズ?  チビちゃんが待ってるわよ! 」

先生はスタジオの中へ声をかけてくれた。

「 ・・・ すぴか! ちょっと待ってね〜〜 」

タオルでごしごし顔を拭いつつお母さんが 飛んできてくれた。 

 

     うわ〜〜・・・ お母さん 汗 びったくた・・・

 

「 お母さん ・・・ アタシ ・・・ 

「 すぴか。  更衣室、行っててくれる? お母さんね、まだこのあとリハーサルが・・・ 」

「 うん、いいよ。  あ ・・・ バッグ 持ってくね。 」

「 まあ ありがとう! それじゃハンドバッグ 持ってて? お母さんがシャワーしてる間・・・ 」

「 うん! 」

すぴかはお母さんのバッグを抱えて更衣室にゆくと隅っこにちんまり座っていた。

 

「 あ〜〜 疲れた〜〜 」

「 ・・・ リハ 何時からだっけ・・・? 」

「 う〜〜〜・・・・ あ〜あ・・・やっぱ足 剥けてたァ〜〜 いった〜〜 」

お姉さんたちがつぎつぎに更衣室に戻ってきてお着換えしたりシャワーを浴びたり・・・し始めた。

「 あ  すぴかちゃ〜ん♪  こんにちは〜 」

すぴかのことを知っているお姉さんが 手を振ってくれた。

「 ・・・えへ・・・ コンニチワ・・・ 」

すぴかはお母さんのバッグをしっかり抱えたまま、ちょこっと笑った。

 

   ― じ〜〜 じ〜〜 じ〜〜〜・・・・

 

すぴかの腕の中でバッグがじりじり震えた。

「 ??  ・・・ あ そっか〜 携帯だ! え〜と・・・? 」

すぴかはすぐに気がついて お母さんのバッグのポケットに手を突っ込んだ。

「 おか〜さん・・・ 携帯。 鳴ってる。 メールだよ〜  」

お母さんはシャワーから出てお着換えの最中だ。

「 誰から? 」

「 見て いい? 」

「 ええ お願い、すぴかさん。 」

「 ― ― ん〜〜〜  ジョー ・・・ お父さん から。 」

「 それじゃ・・・ 読んでくれる? 」

「 いいの? 」

「 いいわよ。 なにか急ぎの連絡かな・・・? すぴかさん、教えてちょうだいな。 」

「 うん  ・・・っと。 ・・・ 読むね。 えっとォ〜〜・・・

 ふらん〜〜 はあと。  早く帰れそうなんだ おんぷ。

 スタジオまで迎えにゆくから はあと。 デート はあと。 しよ〜〜 はあと。

 愛してるよ〜〜  きす きす きす  ジョー  はあと。   でおしまい。」

甲高い少女の声が 無邪気にラブ・メールを読み上げた。

「 す・・・すぴかァ 〜〜〜 」

 

  ぷっ・・・・  くすくすくす・・・ うふふふふ・・・・

 

更衣室の中は笑い声でいっぱいになった。

「 ・・・ お母さん ・・・ アタシ ・・・」

「 あは・・・ いいのよ〜 すぴかちゃん♪ えらいね〜〜 

 すぴかちゃんのお父さんとお母さんはいっつも熱々なんだね。 」

不安な顔をしている少女に お姉さんの一人がぽんぽん・・・と頭を撫でてくれた。

「 え・・・ う うん♪  すぴかのお父さんとお母さんはァ〜 らぶらぶなんだ〜 」

「 そっか〜〜  らぶらぶなんだ♪ 」

「 うん♪ 」

すぴかはすっかりご機嫌になり フランソワーズはますます・・・真っ赤っかになった!

「 ほらあ〜 フランソワーズお母さん? 愛しのダンナ様に返事してあげれば〜〜 」

「 お母さん ・・・ アタシ お返事、しようか? 」

「 そ ・・・ そうね。 さ、リハーサルだから。 すぴかさん、バッグもっててね。 」

「 うん! 」

「 ・・・ じゃ・・・ お疲れ様でした〜 お先に・・・ 」

「 〜でしたァ〜 」

すぴかはお母さんにくっついて更衣室を出ていった。

 

「 かっわいい〜〜〜♪ 」

「 いいねえ・・・ 可愛いししっかりしてるし。 」

「 あんなコなら 欲しい〜〜♪ 」

すぴかの株はお姉さんたちの間でぐう〜〜んと上がった♪

 

 

 

「 お母さん ・・・ お返事 する?  お父さんに ・・・さ。 」

お母さんと一緒に ちがうスタジオに入るとすぴかはすぐに聞いた。

なんだかお父さんがすご〜く待っているみたいな気がして むずむずするのだ。

お母さんは床に座って ポアントを履いている。  

レオタードも着替えて・・・ さっきとはまたちょっと違う雰囲気だ。

お顔も真剣で じ〜〜っと一箇所を見つめていたりしている。

 

「 ・・・ お母さん? 」

「 ・・・ え? ・・・ あ すぴか・・・ なあに。 」

「 あの・・・ メール。 お父さんにお返事する?  」

「 あ ・・・ああ! そうね。   あら? すばるは? 」

「 え? ・・・あれ〜〜??? どこだろ?   

 さっきね いっしょにお隣のすたじおにいたんだ〜 すばるってばどこいったのかな〜

 アタシ、探してこうようか。  」

すぴかはきょろきょろ・・・廊下にまで出てみたが すばるの姿は見えなかった。

「 お願いできる、すぴかさん。 お母さん・・・ もうすぐリハーサルだから・・・ 」

「 はい! 」

すぴかは張り切って弟を探しにいった。

「 え〜と・・・ どうしようかしら。  ジョーが早く帰れそうなら・・・ 」

フランソワーズは ポアントの調子を試しつつしばし考えていたが やがて携帯を取り出すと

メールを打ち始めた。

 

   Dear Joe、 早く帰れるのね?  今、子供たちも一緒にカンパニーにいるの。

   一緒に先に帰ってくださる? すぴかは買い物がしたいらしいわ。

 

ジョーも勤め先のある都内にいる。 現在二人は脳波通信が可能な距離内だ。

しかし ジョーもフランソワーズも ― これは他のメンバーたちも同じだけれど、

日常生活で 能力 (ちから) を使うことは極力避けていた。

だから ごく普通に連絡は電話かメール、時には行き違いの連絡ミスもあったが

それは <ふつう> の人間として当然、のことなのだ。

 

「 ・・・ っと。 これでいいわね。  さ〜て! ・・・ こちらの世界に没頭しなくちゃ! 」

メールを送信すると フランソワーズはきゅ・・・っとポアントのリボンを結びなおした。

「 ・・・ 頑張らなくちゃ。  ふふふ・・・負けないわよ〜〜タクヤ・・? 」

フランソワーズはMDプレイヤーをセットし、リハーサルの準備を始めた。

 

 

 

「 お〜・・・・ お疲れ〜   よろしく、フランソワーズ! 」

スタジオの入り口で元気な声がした。

「 おか〜さん すばる、いたよ!  タクヤお兄さんといっしょ。  ね〜〜?  」

「 おか〜さ〜ん 僕、 タクヤお兄さんといっしょにいたんだ〜 ね〜? 」

子供たちは大好きなタクヤお兄さんに纏わりついている。

「 あらら・・・ 二人とも・・・タクヤの邪魔をしてはだめよ。 

 これからリハーサルなんだから。  タクヤ、ごめんなさい。 準備してね。 」

「 気にするなって。  俺、負けないからな〜 」

「 ええ わたしもよ。  あ ・・・ ちょっと待ってね。 

 すぴか、すばる ・・・いらっしゃい。 」

フランソワーズは子供たちを廊下に連れ出した。

 

「 ・・・お父さんと? 」

「 さきにおうちへかえるの? 」

「 そうよ。 お父さん、お仕事早く終るのですって。 ここまでお迎えにきてくれるそうよ。 

 ね? お父さんと一緒に帰ればいいわ。  お母さん、こらからリハーサルだから遅くなるのよ。 」

「 ・・・ 僕。 みたい・・・ 」

「 え? なにを? 」

「 ・・・僕、 タクヤお兄さんとお母さん、みたい。 みたら だめ? 」

「 だめじゃないわよ、もちろん。  でも・・・いいの、すばる。 お父さんとすぴかと一緒じゃなくていいの? 」

「 ・・・ウン。 ぼく、りはーさる、みててもいい? 」

「 ええ ええ オッケーよ。 すぴかはどうする? 」

「 アタシ ・・・  お父さんといっしょにいる。 お父さん、一人でお家に帰るの、つまらないよ、きっと。 

 お父さん ・・・ 一人は好きくないとおもう。 」

「 すぴか ・・・ それじゃ・・・すぴかさんにお父さんをお願いしても いい? 」

「 うん!! まかしといて。  」

「 じゃ、お願いね、すぴか。  ここのご門のところまでお迎えに来ますって。 

「 うわ〜〜い♪ 」

「 それじゃ・・・ お願いね。  ほら・・・ちゃんとジャンパー着て・・・マフラーも手袋も忘れないでね。 」

「 うん♪  ・・・・っと。 これでいっかな〜〜  あ! お弁当〜〜 」

「 あなたのリュックに入っているわ。  ・・・ よし、 オッケーよ。 」

「 お母さん。 ぼく、すたじおの中にいてもいい。 」

「 いいわよ。  見学オッケーだけど 覚えてる? <おしゃべりはナシ>。 」

「 うん! ちゃんと僕・・・おぼえてる。 」

「 よ〜し えらいわね。 じゃ すぴかさん、気をつけて。 すばる・・・いらっしゃい。 」

「 ばいば〜い お母さん♪  ばいば〜い すばる 」

すぴかはぶんぶん手を振るとぱっと駆け出していった。

 

      やっぱり すぴかはお父さんっ子なのかしら・・・

      あ ・・・ でも  <お父さんは一人はすきじゃない> って・・・

      そっか ・・・ すぴか? そうなんだ・・・

 

娘の跳ね上がっているお下げを見送りつつ、フランソワーズはちょっとばかり涙が出てきてしまった。

すぴかは ― 男の子みたいなお転婆さんだけど。 

本当は・・・やっぱり可愛くてあったかい心の女の子 ・・・ なのかもしれない。

「 ・・・ お母さん? 」

息子が つんつん・・・ 母の手を引いた。 

「 あ・・・すばる。  さ・・・スタジオに戻りましょ。 」

「 うん♪  あれ? タクヤお兄さんは〜 」

「 多分、 お着換えしているんじゃない? すばる、寒くない? 」

「 ぜ〜んぜん。 ここ、暖かいよ〜  ねえねえ、タクヤお兄さん、とぅ〜る・ざん・れ〜る する? 」

「 え・・・ ? あ〜・・・ 今度の踊りにはないかも・・・ね。

 でもねえ いっぱ〜〜いジャンプがあるから。 ようく見ててあげてね。 」

「 うん♪ わ〜〜い・・・ タクヤお兄さん〜〜 早くみたいな〜〜 」

すばるはご機嫌ちゃんだ。

「  あ ・・・ そうだ。 すばる。 お母さん すばるにお願いがあるの。 」

「 なに〜 ? 」

「 あのねえ・・・ お母さんたちがリハーサルしているとき ・・・ 先生がいろいろご注意なさるでしょ。 」

「 ・・・ うん、あの鏡の前に座るヒトでしょ。 」

「 そうよ。 その先生がね おっしゃること・・・すばる、書いておいてくれる? 」

「 え ・・・僕が。  どうして。 」

「 うん ・・・ お母さんもタクヤお兄さんも・・・一生懸命踊っているでしょ、音楽も聞いてるでしょ・・

 そうすると先生のご注意がよく聞き取れないのよ。  」

「 ふうん ・・・ でも・・・いっぱい?? 」

「 そんなに沢山じゃないと思うわ。  すばるが書けるとこまででいいの。 」

「 わかった。 僕 ・・・ 書くね。 」

「 わあ〜〜 ありがとう!  それじゃ ・・・ ほら、このノートと鉛筆。 」

お母さんは大きなバッグの中から 大判のノートと鉛筆を出してすばるに渡した。

「 ん ・・・ わかった・・・ 」

すばるは真剣な顔をしてノートを抱えてスタジオのピアノの横に座りこんだ。

 

「  ― ん〜〜〜っと。  な〜 フラン? あそこのリフトだけど〜  」

タクヤがぶんぶん腕をふりまわしつつ入ってきた。

「 どこ?  あの最初のリフト? 」

「 ん。 もうちょい・・・ほんのちょい ・・・半拍くらい早く踏み切れるか? 」

「 え・・・なぜ。 」

「 ウン  そのほうがさあ フランの滞空時間がながくなって ふわ〜〜っとした感じ、強くなるだろ。 」

「 う〜ん ・・・ でも 音、無視は ・・・ 」

「 無視じゃないって。  な ・・・ ちょっとトライしてみよう? 」

「 いいけど ・・・・ でもタクヤに負担、かかると思うわ。 」

「 へ〜き へ〜き。 そのつもりでオレも早くリフトするからさ。 」

「 ・・・ そう?  じゃ ・・・ 」

「 おう。  ・・・〜〜〜っと 次 4小節 待って ― 」

 

 

「 ・・・ う わあ ・・・ 」

すばるはピアノの横でお膝を抱えたまま  ぽか〜〜ん ・・・とお目々とちょっとだけお口も開けちゃって

目の前の二人を見つめていた。

お母さんが かるく走ってきて。  ぽ・・・っと踏み切ったら。 

タクヤお兄さんが ふわ・・・っと持ち上げて。次の瞬間にはお母さんはタクヤお兄さんの頭よりも上なのだ!

 

       え ・・・う ・・・うそ・・?

       お母さん ってば。 えむーぶいふぁいぶ ( MV−5 : 宇宙機打ち上げ用ロケット )

       みたいに・・・ エンジンあるの???   イオン・エンジン?!

 

       タクヤお兄さん!? お母さんがアタマの上にいるよ??

 

「 ・・・ すご ・・・ い ・・・ 」

すばるはあんまりびっくりしたので 身体中がカンカチに固まっていた。

 

 

 

「 ・・・ん〜〜〜っと。  どう? こんなもん? 」

ひょい・・・っとタクヤはパートナーを降ろすと 得意そうな顔をした。

「 そう ねえ・・・ たしかにふわっとしたカンジにななるけど。  でも 音 ・・・ 」

「 だからァ〜 ・・・ ま〜 決めるのはオレ達じゃないからな〜

 あとでマダムに相談してみようぜ。  コンクールじゃねんだからいいと思うなあ。 」

「 ・・・ わたしとしては なんとも言えないわね。  

 今日は始めは普通に、今まで通りの音取りで踊ってね? 」

「 了〜〜解!   お? すばる、なんだそんなトコにいたのか〜 」 

タクヤはじ〜〜〜っとこちらを見つめている少年に声をかけた。

「 え? あら ・・・すばる? どうしたの? 」

「 ・・・ う ・・・ あ ・・・ お母さん ・・・ 僕・・・ 」

「 なあに、どうしたの。  あ・・・ 御手洗なら早く行ってらっしゃい。 」

「 ! ち ちがよ〜〜 僕 僕ぅ〜〜  」

「 どうした すばる? うん? 」

タクヤはひょい、と身を屈めるとすばるを持ちあげてくれた。

「 あ ・・・ あの ね!  すご〜〜いな〜〜って。

 えむ・ぶい・ふぁいぶ のはっしゃみたいだった・・・! 

「 えむ・ぶい・ふぁいぶ・・・?  ああ! MV−5か!  へえ〜〜 すばる、宇宙、好きかい。 」

さすが男子、タクヤはすぐに ピンときたらしい。

「 うん♪ だ〜〜いすき。 僕のなまえ、星のなまえだもん。 

 お母さんとタクヤお兄さん ・・・ 宇宙までとんでゆけそうだね〜〜 」

「 あ ・・・ そうだよなあ。 ふうん ・・・ オレたちはロケットかあ。 こりゃいいや! 」

「 ロケット、ねえ・・・ 」

あははは・・・とタクヤお兄さんは大笑いし、 お母さんも苦笑している。

すばるもなんとな〜く 楽しい気分になってきた。

 

「 準備はいいの?  始めましょ 」

 

スタジオのドアが開き お母さんよりずっと年上っぽい女のヒトが入ってきた。

「「  はい、マダム。  」」

 

       あ。  せんせい、だ ・・・

 

「 ・・・ こ  こんにちは・・・ 」

すばるは びくっとしたけどちゃんと御挨拶した。

「 あら ボク、見学?  じゃ ・・・ し〜〜・・・ね? 」

「 ハイ。

すばるは こくん・・・っと頷くとまたピアノの横に座り込んだ。

 

「 じゃ ・・・音、出してもいいかしら。 」

「「 はい お願いします。 」」

お母さんとタクヤお兄さんは ちょっと会釈をするとスタジオの左右に分かれて立った。

 

 ― 静かに ちょっと哀しいかんじの曲が流れだした。

 

すばるはぐ・・・っと鉛筆を握りしめた。  ― お母さんのお願い、だもん! よォし・・・!

 

 

 

 

「 ― ええ??? 」

ジョーは素っ頓狂な声を上げてしまい・・・ 慌てて周囲を見回した。

  ・・・いけね・・・! 

思わず首を竦めたが。  休み明けの賑やか気分満載な編集部ではだ〜れも気にするヒトはいなかった。

というより ジョーの声などたちまち飲み込まれ埋もれてしまった。

そう・・・まだ正月気分濃厚の社員達皆が普段の5割増しくらいな音量と質量で談笑していたから・・・

「 あ・・・よかった・・・  そ、それで・・・ ち、チビ達 一緒なのか・・・? 」

ほっと胸をなでおろしたのも束の間、 ジョーは眼を剥いた。

彼の細君は ちょろちょろする子供達をバレエ・カンパニーに引き連れていったのだ・・・!

「 すげえなあ・・・さすが・・・母親・・・   え? 帰りはぼくが担当かあ・・・ 

 よォし・・・! 父親の実力をみせてやるぞ〜〜 ・・・んん?  お、すぴかだけか! 」

 うん ・・・ それなら。

ムスメと一緒にこじゃれたカフェで お茶でも・・・♪

ジョーの顔はたちまち・・・ヒモが解けにへら〜〜・・・っと締まりなく間伸びしてきた。

 

     そうだよ〜〜!  これこそ、娘をもった父の特権♪

     すぴかのヤツ、 見た目はかなりの美少女だものな・・・

     お出掛けなら きっとあの! 博士がくださった白いオーバー、着てるぞ?

 

     ふふふふふ〜〜ん♪ 真っ白ふわふわ白ウサギ・・・みたいな娘とお茶だ♪

     美味しくて可愛い店、検索しておこう!

 

ジョーは張り切って検索を始めた。

「 ふんふんふ〜ん♪  そうだな〜〜 銀座の方まで出てみるか〜 

 うん、あのオーバーに合うバッグとか靴とか ・・・ 買ってやるかな・・・ 」

「 島村く〜ん? なに、ニコニコしてるのかな〜〜 」

「 あ ・・・ アンドウ・チーフ・・・ 」

「 熱心に仕事か、さっすが島ちゃん〜・・・って思ったけど ・・ 

 な〜んだ・・・カフェの検索? あ〜 また奥方とでーとォ? お熱いこって。 

「 あ ・・・ え ・・・ い  いえ。  ・・・ ウチのと じゃなくて ですね・・・ 」

「 え。  ・・・ちょっとォ〜〜 島ちゃん! 

 アンタ、あの! 才色兼備の良妻賢母を裏切るつもり?! 

 そんなこと、 このアンドウミキが許さないからねッ!! 」

「 あ・・・え〜〜 そのぅ〜〜〜  ふ フランは今日、遅くなるんで・・・

 リ  リハーサルがあるとかなとか・・・ 」

「 え!? ちょっと!! 」

   どん! ・・・・ ジョーの机にアンドウ・チーフの鉄拳が落下しぐらり、とモニターが揺れた。

「 ・・・おっと〜〜  あの! ち 違うんです、 チビと出かけようとおもって・・・ 」

「 チビ? ・・・ あ な〜んだあ〜〜 

 へえ? それじゃ双子ちゃん達、くるの? わ〜〜〜会いたいなあ、つれておいでよ。 」

「 あ ・・・そうじゃなくて、ぼくが拾って先に帰る予定なんです。 

 ま、その途中でちょっと銀座にでもつれていってやろうかなあ・・・と思って。 」

「 あ な〜る・・・ それで検索してたのかあ・・・

 双子ちゃんたち 幾つだっけ?  アア 小三? それじゃ〜 銀座はまだあまり面白くないかもよ? 」

「 え  ・・・ そ そうですか・・・? 」

「 うん。 どっかファースト・フードとか居酒屋とかの方が楽しいかもね。 

 ほらあ・・・ 新橋方面まで抜ければいろんなお店あるでしょ。 」

「 あ・・・ そうですねえ。  あそこなら日比谷にもすぐだしなあ・・・ 

 ありがとうございます、 チーフ。 」

「 い〜え。 ねえ またつれておいでよ、 チビちゃん達♪ 」

「 あ は・・・・は・・・ 」

ジョーは微妙〜な笑いで誤魔化し、そそくさ〜〜とデスク周辺を片付け始めた。

 

      チーフのアドバイスはありがたいけど・・・

      ぼくとしては やっぱりすぴかと銀座や日比谷を歩きたいんだよね〜〜

 

      ふふふ〜〜〜  すぴかってばオシャレすると可愛いもんな〜〜

      だんだんフランとそっくりになってきてさ。

      生きてるフランス人形を連れて歩くんだ♪

      あ〜〜 娘をもった幸せ〜〜〜♪♪

     

正月休み明けの都会を ジョーはご機嫌ちゃんで抜けていった。

 

 

 

 

      ・・・えいや・・・!   タ ・・・・ タンっ!

 

「 ふふ〜ん♪ やったあ〜〜 」

すぴかは連続の側転をして巧く着地し ぱん・・・!と掌を払った。

 

      お父さんってば ・・・ 遅いなあ〜〜

      車じゃなくて電車でくるんだよね

 

バレエ・カンパニーの門の前で さっきからず〜〜っとお父さんを待っていた。

ジャンパーはしっかり着ているけれどじっとしているとやっぱり寒いし・・・

そこですぴかは お得意の側転をやり始めた!

 

      ふぇ〜〜 ・・・ なんだか熱くなってきたよ〜

      ジャマだし〜 お帽子もマフラーもとっちゃお・・・

 

「 そ〜れ・・・ こんどは三回れんぞく〜〜〜 ! 」

ついにはジャンパーも脱ぎ すぴかは側転の連続ワザにチャレンジを始めた。

「 ・・・ って・・・!  う〜ん ・・・ やっぱ三回はむりかなあ〜 」

二回続けて三回目で失速し、地面に倒れてしまった。

「 いって〜・・・・ もっと はやくかいてん すればいいのかなあ・・・ 」

ようし・・・とすぴかは助走し始めた。

「 ・・・ 身体、真っ直ぐにしてごらん? 」

「 ?! あ  お父さん ! 」

「 ほらせっかく練習しているんだろ、やってみろ、三回連続。 」

「 うん! 」

すぴかは た・・・っと助走し両手を地面に付いた・・!

 

    くるん  くるん   くるん ・・・!

 

「 よ〜し いいぞう〜 」

「 うわ〜〜 い できたよォ〜〜〜   お父さん! 」

「 あははは ・・・ すごいぞ、すぴか! 」

「 うん♪ へっへ〜〜 こんなモンさ♪ 」

ジョーは娘の汗ばんだ身体を ひょい、と抱き上げた。

「 すごいな。  ・・・だけど。 道で側転なんかやるのはこれが最後だ。 いいな? 」

「 あ・・・ はァ〜〜い。 」

「 よし。 それじゃ オーバー、着ておいで。 一緒に御飯食べに行こう。 」

「 ・・・ お昼、 おべんとうがあるよ。 お母さんが作ってくれたお弁当・・・

 すぴか、お弁当がいいな。 」

「 あ ・・・そっか。 それじゃ・・・どこかお弁当を持ち込めるところを探そう。 

 それならいいだろ? 

「 うん♪  えっと・・・ マフラーとお帽子 ・・・・ てぶくろっと・・・ 

 ・・・・ お父さん、できた〜〜 

「 おう。 ・・・ あ ??? あああ? 」

真っ白うさぎのフランス人形 ― なはずの娘は。  毛糸の帽子を眼の上までかぶり、

ぐるぐるソフト・クリームみたいくにマフラーを巻いて、黒っぽいじゃんぱーを着ていた。

 

     あああ ・・・・ ぼくの ぼくの白いもふもふな子ウサギがあ〜〜〜

     ・・・ ああ ・・・銀座のカフェでフランス人形娘とお茶・・・したかった・・・

     ああ ・・・ 日比谷のホテルのロビーを 白い妖精をつれて歩くつもりが・・・

 

「 おとうさん? どしたの。 」

「 ・・・あ  ああ いや。 なんでもないよ。 

 さ・・・御飯でも食べにゆこうか・・・  こりゃ・・・やっぱファースト・フードだなあ・・・ 」

「 なに、お父さん。 」

「 い いや・・・ あ。 すぴか。  まっ〇とか好きかい。 」

「 好き!!  わ〜〜 早く行こうよ〜〜お父さんっ! 」

「 うん  ・・・  ああ 正月のムスメとのデートは まっ〇かあ・・・・ 

 ま・・・ アイツが好きならそれでいいか。   お〜〜い 待てよ、すぴか〜〜 」

やっぱり滅茶苦茶に娘が可愛くて。 ジョーはにこにこしつつすぴかを追いかけていった。

 

 

 

「 ・・・ い〜におい!  ね! ココ! ここがいい〜〜 すぴか。 」

すぴかは父の腕をくい・・・っとひっぱり、そのお店のヒモがい〜〜〜っぱいぶら下がっている入り口で

立ち止まった。

「 ・・・ え。 ここは ・・・ 呑み屋・・・ってか、まあこの時間はただの居酒屋、か・・・ 

 すぴか、ここは ・・ そのう〜〜すぴかの好きなハンバーガーやポテトはないよ。 」

「 うん、いい。 すぴか、あのいいにおいでじゅ〜〜って焼けてるの、食べたい。 」

すぴかがじ〜〜〜っと見つめているのは。 炭火風コンロの上に並ぶ ・・・ 焼き鳥・・・!

「 ま  まあ なあ・・・ 昼飯に焼き鳥を食べても・・・悪くは ない よな。 

 フラン・・・? いいよな? 

「 おとうさん〜〜 ここにしよ!  ほら・・・ こんでないよ? 」

「 ・・・あ  ああ。 」

 

ジョーとすぴかは 銀座へ行き・・・どんどん どんどん歩いて どんどん歩いて ・・・

もうちょっと庶民的な地域までやってきた。

そこはいつもは種々様々な <オジサン>達の町なのだが 

さすがに正月四日の今日は 少し華やいだ雰囲気だ。  

早くお仕事が終った人が多いらしく 女性も多くみんななんとな〜くウキウキしていた。

駅前から ファースト・フードの店へゆく途中 ―  

 

「 くんくん・・・ いい匂い〜〜 お父さん、これ なんの匂い?? 」

路地の奥の方から 香ばしい匂いが流れてきた。

すぴかはたちまち眼を輝かせ・・・ ジョーの手を引っ張っていったのだ。

 

 

「 ・・・ あけるね〜 ・・・うん・・・せ・・・!

すぴかはいっぱい垂れ下がっているヒモをくぐり ちょっと重いガラス戸を開けた。 

  

    ガラガラガラ ・・・・

 

「 ・・・ っらっしゃい! 」

 

野太い声が飛んできた。

 

 

 

Last updated : 01,11,2011.                   index       /      next

 

 

 

********    途中ですが

例によって なんにも起きない・のほほん話 @ 島村さんち  です。

双子ちゃんたち、少し世界が広がったかな・・・

お父さん、お母さんにくっついてオトナの世界を見学??

相変わらずユルい話ですが よろしかったらもう一回 お付き合いを・・・ <(_ _)>