『 浪漫素 ( ろうまんす ) ― その弐 ― 』
その建物は 霧の中にやわやわと佇んでいた。
白い帳は玄関までも包み込んでいて 旅人たちをそっとその衣の内に招き入れるのだった。
コツ コツ コツ ・・・ 二人の少し湿った足音が続く。
「 ・・・ ジョー ? ここ ・・・ なの ・・・ 」
「 そうだよ。 ― あ〜〜 こんにちは〜〜 」
ジョーは 大きな引き戸に手を掛けた。
「 あの〜〜〜・・・ 予約したモノですが〜〜 」
「 ― いらっしゃいませ ・・・ 」
す ・・・っと 何時の間にやら初老の男性が二人のすぐ後ろに立っていた。
「 お客様 お履物を ・・・ どうぞ? 」
「 へ??? 」
「 あ ・・・ ああ ここで履き替えるのですね? 」
「 はい、 奥様。 ああ お荷物はこちらへ どうぞ。 旦那さんも ・・・ 」
「 え? あ あの ・・・ おくさま って ・・・ 」
「 ああ ありがとうございます。 ぼくのは自分で持てますので彼女のをお願いします。 」
「 はい かしこまりました。 」
頬を染めて どぎまぎしているフランソワーズの前に ジョーはずい、と歩み出て
彼女のバッグをその男性に預けた。
「 ・・・ ジョー ? 」
「 お願いしようよ。 さ ちょっとここで待っていてくれ。 ぼくはチェック・インしてくるから。 」
「 ― あ は はい ・・・ 」
うふ? なんだかとっても頼もしいのねえ ・・・ ジョー ・・・
それに 奥様 ですって♪
きゃ・・・ 周りから見たら ・・・ そう見えるのかしら〜〜
フランワーズは静かにマフラーを外しつつ またまた頬を染めていた。
さり気なく髪をなおし、<奥様> に相応しく落ち着いた素振りで微笑みつつ立っている。
「 さあ これでいい ・・・ 待たせたね。 」
ジョーが フロント ・・・と思われる場所から戻ってきた。
「 あ ・・・ あの ジョー ・・・ 皆は? 」
「 ああ ちゃんと無事に到着してるって。 」
「 そうなの、 よかった〜〜 あら でもどこにいるの? あ スパに入っているのかしら。 」
「 え? ああ ・・・ どうかなあ ・・・ 宴会の前に入ったやつもいるかもしれないけど ・・・
きみは ・・・ 入りたいのかな、 」
「 え あ ううん ・・・ あの ・・・どちらでもいいわ。
・・・ 皆 いわねえ・・・ わたし ・・・お風呂は独りだけだからつまらないわ。 」
「 あ の ね♪ 大浴場やジャングル風呂やら露天風呂ほどじゃないけど ・・・
別に家族風呂もあるそうだよ。 」
「 かぞくぶろ? 」
「 うん。 家族だけで入れる温泉ってこと。 ― 一緒に ・・・ どう? 」
「 え ・・・ 」
「 あとで誘うから・・・ な いいだろ? 」
「 ・・・ え ええ ・・・ 」
「 ウチじゃさ〜 さすがにちょっと出来ないもんな〜 」
「 ・・・ え ・・・ 」
耳元で熱く囁かれ ますます彼女の頬は紅潮するのだった。
「 お客様〜〜 島村さま? どうぞ こちらですから 」
先ほどの男性が 二人の荷物を持ち呼んでいる。
入り口の大きなロビー風の処から またさらに奥へ渡りろうかが延びている。
「 あ はい 〜〜 さ 行こうよ フラン・ 」
「 ええ! ああ ちょっと待ってね・・・ 」
彼女は ハンドバッグをごそごそ探っている。
「 どうした ? 」
「 あの! ほら 楽しくてずっと忘れていたけど。 皆に連絡忘れていたわ。 」
「 いいよ〜〜 どうせすぐそこに居るんだぜ? それに・・・ ははは
この時間ならそろそろ・・・出来上がっているかも、だぜ。」
「 できあがっている?? 」
「 そ。 なんとか < 公式・宴会開始たいむ > には間に合ったけどね。 」
「 えんかい って ・・・ だってまだ夜じゃなくてよ? 」
「 う〜ん まあいいんだ。 さ ほら ・・・そっち曲るよ。 」
「 あ は はい ・・・ 」
「 お客様。 団体のお客様にはこちらのお離れを御案内しております。
直接、温泉にもでられますし、他の棟とも離れていますからご存分に − お楽しみください。 」
「 あ 〜〜 すいませんねえ〜〜〜 」
ジョーはキャリッジを引っ張りつつ 彼女の背を守って長い廊下を歩いていった。
うふ ・・・ ステキ〜〜〜〜♪
なんかとっても由緒がありそうな場所 ね
都心にある大きなホテルとは全然別世界だわ・・・
・・・ でも < 駆落ち > カップルにはいいかもフラージュかしら。
二人はひっそりと偽名で宿に落ち着くのよ。
ふう ・・・寒いね ・・・ ええ 寒いわねえ・・・
大丈夫かい? ほら ・・・ こんなに手が冷えているよ
・・・大丈夫。 ジョーが握っていてくれるんですもの
〜〜〜 なあ〜〜んて〜〜〜♪
でね でね ・・・ 二人は <りょかん> の廊下を歩いてゆくの
窓の外には荒れる北国の空模様〜〜 なのよ〜〜♪
ああ ・・・ 雪が あんなに ・・・
うん? すまない ・・・ きみをこんな所に連れてきてしまった・・・
ううん! わたしが 連れて逃げて!って頼んだのよ!
なあ〜んて〜〜〜 きゃ♪♪
「 あのう ・・・ フラン? 大丈夫かい。 」
「 それでね〜〜〜 え?? 」
ふと ・・・・ 気がついてみれば。 ジョーがものすごく心配顔でじ〜〜っと見ている。
「 ・・・あ ? な なあに? 」
「 なあに、はぼくのセリフだよ〜〜 さっきからなんだか 笑ったり哀しそうな顔したり・・・
それでもっとぶつぶつ言ってるじゃないか〜〜 」
「 え? ・・・ いっけない ・・・ あ ちょっとね! あの〜〜 こ 今度の公演のね
作品についていろいろ ・・・ 考察していたの。 」
「 あ 公演、あるんだ? ねえ どんな話なんだい。 きみの役は? 」
「 え ・・・ あ あの〜〜 ね ・・・ う〜んと ・・・ 許されざる愛 に溺れた
カプが手に手をとって駆落ちをして 〜〜 」
「 へえええ??? そんなバレエ、あるんだ?? 」
「 え?! あ ・・・ あ〜〜〜 そうなのよ! ロミジュリの後日談みたいな・・・ 」
「 へえ?? なんか面白そうだね? 見に行くよ〜〜 で きみは何を踊るの。 」
「 え? ・・・ あ あ〜〜〜 ・・・ わたし はね。 駆落ちカプの片割れ。 」
「 わあ〜〜 それじゃ主役じゃないか? すご〜〜いね〜〜〜 やったね〜〜〜 」
「 え ・・・ あ そ そんなんじゃ・・・ えっとコールドだし。 」
「 え?? 駆落ちカプのコールド?? 」
「 そう! そうなの。 だからね〜〜 いろいろ・・・ 役の解釈を掘り下げて
目立たないとね! 」
「 ふうん ・・・ きみってすごいね〜〜〜 プロ根性に萌えてるんだね〜〜 」
「 え ・・・ あ そ そう?? 」
「 うん! 尊敬しちゃうよ〜〜 でもさ〜 せっかく温泉に来たんだから
しばらく忘れて〜 のんびり楽しもうよ〜〜 ね? 」
「 え ええ そうね。 ・・・ ( うわあ ・・・ ) ・・・・ 」
ちょうどその時。 さあ・・・・っと金色の光が入ってきた。
旅館の庭をそれとなく眺めれば 穏やかな陽射しがすっかり霧を追い払っていた。
「 あ ・・・ 晴れてきたよ。 この分なら今晩も安心して露天風呂に入れるよ〜 」
「 ろてんぶろ? 」
「 あ うん。 あの ・・・ 戸外で入る温泉のことなんだ。 気持ちいいぜ〜〜 」
「 まあ ほんとう?? うわ〜〜楽しみ〜〜〜♪ ね! きっと一緒に入りましょうね! 」
「 え!?? あ ああ 〜〜 う うん ・・・・ 」
今度はジョーが 首の付け根までまっかっかになり俯いてしまった。
「 ?? ( ナンかわたし 余計なこと、言ったかしら・・・ ) 」
「 あ ・・・ う ううん ! な なんでもない〜〜 さ〜〜あ 今日の御飯はなっにかな〜
っと 〜〜ああ ここだ ここだ〜〜 海豚の間。 お〜〜い 来たよ〜〜 」
「 え ・・・ ねえ ジョー? その ・・・ ここなの? 」
彼女はくいくいジョーのジャケットを引っ張った。
「 え なに? 」
「 だからその ・・・ わたし達の と 泊まるお部屋 ・・・ 」
「 え?? あ ああ〜〜 そうだ〜 ごめん! 先に荷物、置いてこなくちゃな〜
こっち こっち。 」
「 え?? 」
ジョーは < 海豚の間 > という表札みたいな表示のある入り口から また先へと
彼女を引っ張っていった。
「 ・・・ ?? あの ・・・? 」
「 ごめん〜 えっと〜〜 ? あ こっちだ、ぼく達の部屋〜〜 」
「 ・・・まあ ・・・ 」
蛍の間 ― そんな表示が出ている下に 引き戸の入り口が あった。
ジョーはさっと身を引いて フランソワーズの前に手を差し伸べた。
「 じゃ〜〜ん♪ ここがぼくときみの部屋で〜す♪ さあ 荷物、置いてこよう。 」
「 え ええ ・・・ 」
カラリ、と引き戸を開ければ一畳ほどの玄関があり、次の間を通れば ― 明るい和室が広がっていた。
障子を半分明けた窓からは 穏やかな日が差す晩秋の山が見渡せる。
建物自体が高台にあるので秋のパノラマが目の前にひろがっている。
「 ・・・ わあ ・・・・ きれい ・・・・ 」
フランソワーズは荷物を置くのも忘れてうっとり ・・・ 景色に見惚れている。
「 あは 眺め、一番なんだって、 ここ。 ― 気に入ったかい。 」
「 ええ ええ! ものすご〜〜く♪ 」
「 よかった〜〜 えっと ・・・ きみのキャリッジ、 こっちに置くね〜 」
「 あ ありがとう! ・・・ まあ ドレッサーかしら、これ・・・座って使うの? 」
部屋の隅には和風の鏡台があり、緋色の縮緬の覆いが華やかだ。
「 うん? ああ そうだね〜 日本のドレッサーさ。 」
「 ふうん ・・・ 可愛い♪ えっと ・・・ ねえ ちょっと着替えてもいいかしら。 」
「 あ いいよ〜 あ ほらコートはこっちにかけておこうよ。 」
「 ええ そうね。 ジョーの、かして。 マフラーも・・・ 」
「 あ うん ありがとう! じゃあぼくの荷物もここに置くね。
えっと〜 ぼく、さっきの < 海豚の間 > に先に行ってるから ・・・ きみ、着替えてきなよ。 」
「 ええ。 入り口を出て右・・・でしょ。 」
「 うん。 < 海豚の間 > ってプレート、あっただろ。 じゃ ・・・先に行くね。 」
「 はい、 すぐにわたしも行くわ。 」
ジョーはひらひら手を振ると さっさか行ってしまった。
あら。 やっと二人っきりになれたね ・・・とか言ってほしかったのに・・・
こそ・・・っと肩を抱いて 窓辺へ行って
この雄大な景色の中で 永遠の愛を誓うよ〜〜 なんて♪ きゃ♪
あら。 さっきまでの霧の海はどこへ行ったのかしら〜〜
う〜〜ん ・・・ 晩秋の山も赴きがあるけど〜 やっぱり海とか霧とか・・・
くらい〜〜い雰囲気がろまんちっくよねえ〜〜
ジョー! ジョーと一緒ならわたし。 怖いモノなんてなんにもないわ!
フラン・・・ きみがいてくれれば ぼくは他になにもいらない・・・なんて〜〜
ひし! と抱き合って駆落ちするのよ〜〜
で ね。 こう ・・・ 雪がざんざか降ってるのよね〜〜
ひゅるる〜〜 ひゅるる〜〜♪ って灰色の空でェ
あれをごらん フラン ・・・ ほら 越冬つばめだよ。 ツガイでいるよ・・・
まあ ・・・ やっぱり二人だから耐えてゆけるのね ・・・
そうだよ ・・・ そうね ・・・ ― なんて〜〜〜〜♪
フランソワーズが窓辺で大熱演をしている ― と ・・・
カア 〜〜〜〜 カア〜〜〜〜〜 ・・・・!
真昼間の空を穏やかな陽射しの元、 カラスが一羽 の〜〜んびりと横切っていった。
「 ! ! っとに〜〜〜 せっかくいいムードだったのに!!
・・・ あ いけない〜〜 荷物整理してっと ・・・ 着替えようかな〜〜
せっかくおニューのワンピ、シワになるのもイヤだし。 宴会〜〜って言ってたから ・・・
やっぱり持ってきてよ〜かった♪ 」
彼女は得々として キャリッジの中からジャージの上下を出した。
「 うふん♪ これならど〜んなに騒いでもおっけ〜だし。 お腹いっぱい食べても大丈夫♪ 」
それじゃついでに・・・ と 彼女はくるりん、とカールした煌く髪を纏めて捻りあげた。
「 さ〜て これでいいわね。 ・・・ あ。 ちょっとストレッチ、しておこうかしら。
今日はレッスン、サボっちゃったし。 ず〜っと電車に乗っていてあまり身体を動かしてないし。 」
まずは ・・・ と畳の上で簡単ストレッチを始めたのだが ― だんだん夢中になってきた。
「 ・・・っと ・・・。 う〜〜ん ちこっと回りたいわよねえ〜〜 せっかくなんだし。
あ このお部屋広いわね〜〜 ちょっと・・・踊ってみよっかな〜〜 」
中央にあった低い座卓を片寄せると 彼女はつい・・・っと脚を上げ ―
― トン トン ・・・ 蛍の間 の引き戸が遠慮がちにノックされた。
「 ・・・ あの ・・・フラン? 着替えとか・・・終ったかい〜〜? ・・・寝ちゃったのかな・・・」
ドアの外でジョーがぶつぶつ言っている。
「 あ ジョー! ねえねえ〜〜 ちょっと入ってきてみて〜〜 」
「 ? なんだ〜〜 皆待ってるからさあ〜〜 」
「 ちょっとだけ! ねえ ジョーにも見て欲しいの〜〜 」
「 なんだよ〜 ・・・・ あ おニューの服でも持ってきたのかい? ― おわ!? 」
ジョーが次の間から襖を開けて一歩 踏み込んできたとき 〜〜
「 ね〜〜 見て見て。 わたし、こんなに軽くグラン・フェッテできたの初めて〜〜 」
「 ・・・ ぐらん ふえって?? どうかしたのかい!? 」
― 畳の上で ジャージ姿の姫君が くるくる くるくる・・・回っていた。
「 ・・・ は!? お おい〜〜〜 なにやってるんだよ〜〜 」
「 24 25 26 ・・・ だから ・・・ 29 30 グラン ・フェッテ よ〜〜 32!! 」
ぱん。 ジャージ姫は すぱ!っとポーズを決めて くるくる・くるくる を止めた。
「 ・・・ あの。 どうか ・・・ したのかい? 」
「 え? だから〜〜 グラン ・ フェッテ。 ねえねえ 聞いて! わたしね〜〜
ぜ〜〜んぶダブルで出来たのなんて初めてなのよ〜〜〜 」
「 は い ・・?? 」
「 わたしの自己ベストかも♪ ウチの和室じゃとてもこうは行かないわ〜〜 」
「 もしかして。 ウチでもやってるワケ? ・・・ その ・・・ くるくる ・ くるくる ・・・ 」
「 ・・・ あ〜ら ウチじゃやってないわよ。 ねえ ここのタタミ、すごくいいわね〜〜
ウチのタタミより上等なのかしら。 今度、博士にお願いしてウチのも 」
「 くるくる はお終い! 擦り切れちゃうよ〜〜 旅館のヒトに叱られちゃうよ?
ココはね、 旅館なんだ、きみの稽古場じゃないよ。 」
「 ・・・ わかってマス。 ― で なんの御用? 」
「 なんの・・・って。 きみがなかなか来ないから 」
「 え? あ〜〜 ごめんなさい。 ちょっとストレッチしてたの。 」
「 ちょっと ・・・ ねえ? もういいだろう、 皆待ってるよ〜〜 」
「 はあ〜い ・・・ でも 宴会 なの? だってまだ昼間でしょう? 」
「 宴会 は夜! 昼ごはんだよ〜〜 大人が沢山食べ物を用意してきてくれただろ? 」
「 そうね! あ〜〜 月餅〜〜 まだあるかしら 」
「 だから〜〜 早く行こうよ。 ・・・ あれ? 着替えは 」
「 あら これよ。 ジャージなら汚れても安心です♪ 」
「 ・・・ あの 〜 ここの旅館の浴衣とか あるけど ? ( 着てくれないかな〜〜 ) 」
「 浴衣? お風呂の後に着るものじゃないの? そう聞いたけど? 」
「 ・・・ う〜ん ・・・ まあ いっか ・・・ ともかく早く〜〜 」
「 はいはい。 あ〜〜 でも気持ちよかった〜〜 ねえ 今度はウチの和室で
レッスンして見ようかしら。 きっともっと回れるかも〜〜 」
「 だめです〜〜〜 タタミが擦り切れちゃうよ! 」
「 う〜〜ん 残念。 あら お腹空いてるみたい♪ お昼ごはんはな〜にっかな♪
えっと ・・・ ドルフィンの間 でしたっけ? 」
「 ― 海豚の間 」
「 ああ そうそう ・・・ こっちね〜〜 大人〜〜〜 月餅〜 まだあるかしらァ〜〜〜 」
「 ・・・ ああ 女子ってホントになんだか よくわかりません ・・・ 」
ふうううう ・・・・ 重い溜息を吐き、ジョーは二人の愛の部屋 となるべき 蛍の間 の入り口の引き戸を閉めた。
― ぽっちゃ −−−− ん ・・・・!
透明な湯が 広い広い浴槽の中でゆ〜〜ったり波打っている。
浴槽も広いけれど この部屋・・・というか < 大浴場 > 自体もとてつもなく広かった。
メインのひろ〜〜い浴槽の他に ミルク風呂 とか ハーブ湯 とか 鉱泉湯 とか・・・
いろいろあるらしい。
そのいろいろな湯は 潅木の茂みに隠れているのでよく見えない。
「 ・・・ ふぁ〜〜〜〜 ・・・・ いい気持ち ・・・! 」
フランソワーズは だ〜れもいない浴槽の中で、手脚を存分に伸ばしていた。
「 ・・・ ステキ・・・! お風呂の中でこ〜〜んなにのびのびできるなんて ・・・
それにしても広いわね〜〜〜 ・・・ ここってプールくらいあるんじゃない? 」
ぐる〜〜っと見回してみたけれど 端っこにライオンの顔を模った噴出口があり、 どぼどぼと
透明な湯がライオンの口から流れ落ちている。
「 こ〜んなところでのんびりお湯に浸かっていたら 大概の病気は治っちゃうわよねえ・・・
あ〜 ・・・ 昔、こんなの知ってたらなあ・・・ 足が痛いのとかすぐに治ったでしょうに ・・・ 」
生身で踊っていた頃、ダンサーの宿命だが彼女も足やら脚を傷めたりしたものだった。
一人前のダンサーになる頃には 大抵の者が古傷を抱えていた。 足は子供の頃にもう変形
し始めて 彼女自身もひどく歪な足の持ち主だった。
でも。 今 ここにあるのは まっすぐに伸びた白い細い脚 ・・・ 見かけは素晴しい。
「 こんな脚 ・・・ わたしの脚じゃない。 わたしが作ってきた脚じゃないのよ・・・ 」
嘆いてもどうにもならないことだ。 彼女はアタマを振って 気持ちを切り替えた。
「 ・・・ あ〜〜〜 あ ・・・・ 美味しいお昼をたべて温泉に浸かって ・・・
わたし 〜〜 ふにゃふにゃになっちゃうかも〜〜 」
午後の大浴場、 他の客は 鉱泉の湯 に浸かっている湯治客の老婆だけのようだ。
「 えい・・・・!って お湯の中でもストレッチできちゃうわねえ・・・
あ そうだ〜〜 あれ やってみよ♪ 一回やってみたかったのよね〜〜 」
ざっぱ ーーーー ・・・・! 透明な湯の中から白い脚が現れた。
「 あは♪ かる〜〜い・・・ シンクロナイズド・スイミング〜〜〜って♪
地上でやるよりずっと楽ねえ。 えい! 空中パッセ〜〜 ローンデジャンブ〜〜
きゃ・・・ あはは ・・・・ 沈没しちゃったあ〜〜 」
ばしゃばしゃはしゃいで湯の中に沈み込んだり ・・・ 大騒ぎである。
「 ? お客様 ・・・ どうかなさいましたか ・・・ 」
遠慮がちに後ろから声が飛んできた。 宿の従業員さんが心配顔で立っていた。
「 え!? あ あ ・・・・ い いえ ・・・ ちょ ちょっと滑っちゃって・・・
お お風呂の中で ・・・ 」
「 ああ そうですか。 どこもお怪我は ・・・? 」
「 大丈夫ですわ。 ありがとうございます。 あの ・・・騒いでしまってごめんなさい・・・ 」
「 いいえ お怪我がなくてなによりです 失礼いたしました。 」
従業員さんは静かに帰っていった。
「 ― ・・・ ヤッバ〜〜〜〜 ・・・・ 見られちゃったかしら ・・・ 」
ぶくぶくぶく ・・・ 目の下まで彼女は潜航するとじ〜〜〜っと周囲を窺った。
・・・ 誰も いない。 さっきいた老婆ももう上がってしまったらしい。
「 ・・・あ よかったあ・・・ ちゃんと真面目にお風呂、はいろっと。 」
ぱっしゃん ・・・ 広い浴槽からあがってこれまたひろい洗い場を独占である。
「 皆も 温泉してるのかしら 〜〜 ・・・ 男性用もこんな風に広いのかな ・・・
そうだ! ろてんぶろ ってジョーが言ってたわよね〜〜
夜に絶対に連れていってもらおう〜〜っと。 あら〜〜 お肌 すべすべ〜〜〜♪ 」
備え付けのシャンプーやらボディ・ソープをあれこれ試し感激し フランソワーズは完全に
温泉の虜になっていた。
「 お〜〜〜〜 ・・・・ すげ〜〜〜 こっからフジヤマ、見えるぜ〜〜〜 」
ノッポの赤毛が 岩壁の端に立っている。
「 おい! 落ちるぞ。 」
「 へん? だ〜れに向かって言ってるんだよ〜〜 オレ様が <落ちる>わけ ね〜だろ 」
「 ジェット〜〜〜 その格好でそこから落ちたら ― 逮捕されるよ〜 」
「 左様 左様〜〜 ワイセツ物チンレツ罪だな。 こりゃいいわ〜〜 」
「 グレート! 笑ってないで止めてくれよ〜〜 」
「 自業自得だ。 放っておけ。 」
「 だめだよぉ〜〜 旅館にも迷惑がかかるし〜〜 」
ジョーは一人でおろおろしつつ 岩壁によじ登ろうとしている。
男湯 は 露天風呂 だった。
さすがに老舗の温泉旅館、 山中の絶壁に露天風呂が設えられていた。
湯は滾々と湧き出、 眺望は最高 ― ちょいと、アタマを巡らして運がよければ
富士山が望める、という素晴しさだった。
サイボーグ達の男性陣は 昼食を済ませるとどやどやとやってきていた。
ジョーの < 公衆浴場の使い方 > レクチュア など皆聞き流し、てんでに露天風呂を
楽しみ始めた。 その結果が ―
「 ― 任せろ。 」
「 え? 」
ずい、と巨躯がジョーを押しのけ 岩壁にとまっている赤毛の鳥をむんず、と捉えた。
「 !? おわ!? あ〜〜〜 は はなせェ〜〜〜 」
「 むう。 」
「 あ あ〜〜〜 ・・・・ !! 」
じゃぼん。 <鳥> はそのまま湯の中に落ちた。
「 迷惑は よくない。 」
ぶくぶくぶく ・・・ やがて鳥はぷか〜り・・・と浮かんできた。
「 アタマ 冷せ 」
ジェロニモがもう一度、鳥をつかんで湯から引き上げた。
「 ・・・・ ・・・・・・ 」
「 ふん。 そこに転がしておけばいいさ。 風に吹かれて正気に戻るだろ。 」
「 あ〜あ ・・・ もう ・・・ 岩場、崩してないよねえ? 」
ジョーは浴槽の中でうろうろしている。
「 もう〜〜 ・・・おわ!? な なんか蹴飛ばしちゃったよ? 」
「 −−−− いて〜〜な〜〜 ジョー ・・・! 」
湯の中から声が飛んできた。
「 ??? ぴゅ ピュンマ〜〜〜 !? 」
「 なかなかよく出来た < 露天風呂 > だね。 天然の岩壁の窪みを利用しているんだ。
で さ! 興味深い地層を見つけたんだけど・・・ 掘ってもいいかな? 」
「 ! だ だめ〜〜〜〜〜〜 ダメだよっ!! それにね お風呂屋さんでは
浴槽に潜るのは なし! ここはプールじゃないんだ〜 」
「 ・・・ ここの岩場は ― 最高だ。 天と地と。 空気と水と。 森と大地の声が聞こえる。 」
今度は 岩場の上の方から呟きが漏れてきた。
「 おわ?? ・・・ あ〜〜〜 ジェロニモ〜〜 そ そんなトコで瞑想しないで〜〜
そこは! 立ち入り禁止だよ! ここはお風呂なんだよ〜〜 」
ジョーはざぶざぶ浴槽を横切り 岩壁の上に向かって懇願している。
「 え〜〜ん みんな 頼むよぉ〜〜 < お風呂屋さんでの約束 > 守ってくれよ〜 」
・・・ 幹事さんは大忙し、なのだ。
「 ・・・ ほんじゃ そろそろ・・・上がるか? 」
「 あ〜〜〜 ・・・ 我輩はここで寝ちまいそうだ・・・ 」
「 ふやけるぞ。 ・・・ 湯上りに一杯〜 どうだ? 」
「 お。 いいねえ〜〜 」
「 そうだよ〜〜 もういいだろ〜 いい加減で上がらないと ・・・ 皆 湯中りするよ? 」
ジョーはじゃぼじゃぼ ・・・ 仲間たちの背を押して露天風呂から上がった。
「 いやあ〜〜〜 しかしナンだな。 湯に浸かりつつ景色を楽しめる、とは
なかなかオツなモンだな。 日本人の目の付け所はさすがだ。 」
「 まあな。 スパとはちょっと違うが ・・・ なかなか気分がいい。 」
「 そうだねえ すごい発想だよね。 入浴は清潔と疲労回復が目的だろ?
そこに楽しみを付加するなんてね〜〜 日本人ってスゴイよねえ 」
「 ピュンマ、 そういうオヌシも楽しんでいたじゃないか。 」
「 あははは ・・・そうなんだけど さ。 あれ? ここでコレを飲むのかい。 」
湯上りの脱衣所では ジョーがにこにこ顔で牛乳を並べていた。
「 ああ 皆〜〜 上がったかなあ〜〜 」
「 全員いるぞ。 ・・・ アタマから湯に突っ込んだ <鳥> が一羽 伸びているがな。 」
「 ありがとう〜 じゃあ 皆〜〜 まずは牛乳、配りま〜す 」
???? クエスチョン・マークが飛び交う中、ビン入りの牛乳が回ってきた。
「 へえ ・・・ 冷え冷えなのかなあ〜〜 あは 気持ちいい ・・・ 」
ピュンマは露を結んだ ガラス瓶をオデコに当てている。
「 ピュンマ〜〜 ダメだよ。 えっとね〜〜 皆さん?
お風呂上りにはねえ こうやって・・・ 腰に手を当てて はい牛乳のイッキ飲み♪ 」
― ぐい ! ぐい。 ぐい〜〜
・・・ 温泉宿の脱衣場では外人さん達が パンツ一丁で牛乳をぐい飲みしていた。
大人のスペシャル弁当を楽しんだ後、 彼らは露天風呂を満喫〜〜
< ニッポンの温泉 > の楽しさを充分に味わった。
やれやれ ・・・と 海豚の間 に戻ってきた。
「 しかしすごい文化だよねえ ・・・ 入浴の効果+絶景を楽しむ ・・・ こんな欲張りな
文化って他にはちょっと見当らないよ。 」
「 左様 左様 〜〜 ただ惜しむらくな飲酒できんことだな。 」
「 グレートはん? 昼日中からナニ言うとりますねん?? 御酒はおてんとうサンが
沈みはってからやで。 」
「 固いコト 言うな〜 そうそう ・・・ 地酒の有名な酒蔵があるとか聞いたな。
我輩はちょいと味見に行ってくる。 」
「 さよか〜 ほんならワテも行きまほ。 ええ御酒やったら店に入れるさかい。 」
飯店組は わいわいと出かけていった。
「 身体、すご〜〜くリラックスだよね。 僕 さっきの露天風呂から眺めていてね、
ちょっと気になる地層を見つけたんだ。 夕食まで ・・・ いいかな? 」
「 俺もこの地を歩いてくる。 話したい。 」
アウト・ドア組は嬉々として森の中に散歩にいった。
「 ふん ・・・ 俺も散歩でもしてくるか。 」
「 お〜い? アルベルト君や。 一局 どうじゃね〜〜 」
つやつやした血色のコズミ博士が 顔を出した。
「 お。 いいですな。 ― しかしイワンとなにやら協議する予定だとか聞いたが 」
「 ふぉっふぉっふぉ ・・・ 赤ん坊は沐浴の後は昼寝、と決まってますでな。
坊の御守はギルモア君が引きうけてくれましたで ・・・ 」
「 へえ ? ギルモア博士が? 」
「 なにやらインスピレーションが浮かんだ、とかで ― 坊の隣で瞑想中のようですな。
で − どうじゃな、アルベルト君? 」
じゃらり ・・・とコズミ博士は碁笥を振ってみせた。
「 望むところです、 お相手しますぜ。 」
「 ふぉっふぉっふぉっ ・・・・ それじゃ 座を移しますかな― 」
「 ああ こっちがいい あ ・・・ 碁笥と碁盤は俺が持ちますよ。 」
「 ほい、これはありがとう。 」
二人は座敷に続く窓辺の板敷きの間に並んだ籐椅子に向き合った。
「 ほう ここは眺めも抜群だな。 おっと 見惚れてちゃいませんぜ。 」
「 ふぉっふぉっふぉっ ・・・ では 」
ピシ ・・・! 烏鷺の闘いが始まった。
「 あ ・・・ ぼく ・・・ 置いてきぼりかあ〜〜 」
ジョーが気が付くと ― 海豚の間 は がら〜〜ん・・・と人気がない。
「 ・・・と。 うん? お前、カノジョはどうしたんだ? 二人でお熱い散歩にでも行ってこいよ。 」
対局中のアルベルトが 声をかけた。
「 ― フラン さ。 寝てるんだ。 」
「 寝てる? 」
「 ウン。 温泉に浸かりすぎて ― 湯中り。 」
「 あ は? まあ そっとしておいてやれ。 ― 悪さするんじゃないぞ! 」
「 悪さって・・・ 当たり前だよ! 旅館の仲居さんに 保冷剤もらってさ、頭冷してるんだ。 」
「 ふ〜ん お。 そう来たか〜〜〜 おし! 」
「 ふぉ ふぉ ふぉ ・・・ 君もなかなか腕を上げましたな。 」
「 くっそ〜〜 ・・・ 」
「 ああ ジョー君や。 例の赤毛クンはどうしました? 」
「 あ ・・・ あのぅ ・・・ アイツも湯中りで・・・ ほら、座敷の隅に転がしてあります。 」
ジョーは座布団の山を指した。
「 あれま ・・・ まあお若いですからな〜 そのうち元気になりますわな。 ・・・ ほい。 」
パチリ。 ご老体が絶妙の一目を置いた。
「 あ! ・・・ う〜〜〜〜 ヤラレタァ〜〜〜 う〜〜〜 」
二人は勝負の世界に没入してしまった。
ジョーは邪魔をしないように 座敷へと戻った。
ちぇ・・・ せっかく温泉宿まで来たのに〜〜
彼は座卓の前に陣取り 手持ち無沙汰なので置いてあった鉱泉煎餅をやたらとかじっている。
フランとさ〜 二人っきりでさ〜〜 温泉♪ って・・・
こう ・・・ さ ぼくが先に入っていると ・・・
あ あの ・・・ なんてこそ・・・っと入ってくるんだ。
ああ ほら。 冷えるから ・・・ 早くお入り ・・・ なんてさ〜
ぼくは余裕の笑みで振り返るんだ。
きゃ ・・・ あの あの ・・・
うん? ・・・ さあ おいで。
湯気の中にさ〜 彼女の白く輝く裸体〜〜〜♪
うわうわうわ〜〜〜〜♪
温泉ったらこれしかないよねえ・・・・
団体サンできたってもさ、 二人だけになるチャンスはあるし
せっかく二人だけの部屋も取ったのになあ・・・ ちぇ!
ジョーはそのままごろん・・・とタタミの上に仰向きにひっくり返った。
「 あ〜あ ・・・ それにさ〜〜 メシ喰ってフロはいったら〜〜 皆いなくなるし。
ふん ・・・ あ ゲームでもやろっかな ・・・ えっと ・・・ スマホ・・・ 」
ポケットをごそごそやってみたが ・・・
「 ・・・あれ!? ― あ そうだ・・・ フランのトコに置いてきたんだ ・・・
連絡用に使えって ・・・ う〜〜ん ・・・ 取りに行くのもなあ・・・
この旅館、ロビーにゲーム機とか ・・・ なかったよなあ ・・・ ふぁ〜〜〜 」
つらつら考えているうちに 大欠伸の連発となった。
「 ふぁ〜〜〜〜 ・・・・ ああ 今朝やたらと速かったからなあ・・・
昨夜もいろいろ連絡とかで ・・・ ほとんど寝てないし ふぁ〜〜〜 ・・・・ 」
― やがて。 サイボーグ009 はことん! と大の字になって寝入ったのであった。
ユサユサ ・・・ ユサユサ ・・・
「 ジョーったら ・・・ ねえ 起きて? 」 肩を優しく揺すって 優しい声が聞こえる。
「 ・・・ う ・・・・ もう朝かあ ・・・ あと五分 〜〜〜 」
「 まあ? ジョーってば、寝ぼけているの? ほら起きてちょうだい。 」
「 だから〜〜 あと五分 ・・・ 大丈夫さ、走れば15分のバスに間に合う ・・・ 」
ジョーは 半分だけ開いた目をまたすとん、と閉じてしまう。
「 ジョーォ〜〜〜 宴会が始まるのよ〜〜〜 起きて!
もう〜〜〜 ・・・ よおし ・・・ さあ これで起きないと! ・・・・ んんんん 」
突然 温かくて柔らかくてオイシイものが ジョーの唇を塞いだ。
「 ・・?? う ・・・? な ・・・ うわああ??? 」
― ひぇ !? がばっ! と飛び起きると − 目の前には浴衣美女が〜
「 うあわわわ ??? あ あの〜〜 ど どなた様で・・・ 」
「 もう ・・・ やっと起きたわね。 ねえ顔でも洗ってきたら? 」
「 ・・・ あ ふ フラン 〜〜〜 」
「 はい、幹事さん? しっかり起きてくださいね。 もう ・・・ こんなトコロでぐ〜ぐ〜
眠っちゃうって神経、 判らないわよ〜 」
「 ・・・ あ ご ごめん ・・・・ だってさ 皆 出かけちゃうしきみは伸びてるし ・・・ 」
「 あら。 伸びてなんかいませんわ? ・・・ ちょっと休んでいただけよ。 」
フランソワーズはちょっとばかり赤くなって口を尖らせている。
あ・・・は ・・・ えへへ なんか〜 カワイイなあ〜〜
ほっぺもつやつやで いつもにも増してキレイだし・・・
! そうだよ! 夜は!ずぇったいに ―
やっと二人だけになれたね。 耳元で囁けば〜
・・・ ジョー ・・・ 彼女も頬を染めて抱きついてくるんだ♪
この時をずっと待っていたんだ ・・・ 好きだよ 大きな声で言える
なんて〜〜〜 きゅ・・っと抱き締めて ・・・
ジョー ・・・ わたしも よ ジョー ・・・
なんて〜〜 きゅ・・っと白い腕がぼくに絡みつくんだ・・
そんでもって― しゅるり ・・・ 帯を解くよ ・・・ はらり ・・・ 浴衣が滑りおちるよ
蒲団の上に リネン類よりももっと白く輝く身体が さ〜〜〜
「 ・・・ ジョ〜ぉ ?? ちょっとぉ〜〜〜 ジョー?? 」
ぺち ぺち ぺち ― 突然 頬に衝撃を感じた。
「 ・・・ う うわ?? 」
「 お き て ! ほらあ〜〜 幹事さん なんでしょ。 宴会よ、 宴会。 」
「 えんかい? 」
「 そう! 大人がね、 旅館の方にお願いして地元の食材も持ち込んでね、
こちらの御馳走と一緒に並べて もう すごいの! 」
「 あ・・・ へ ・・・・? 」
「 もうセッティングは終っているわ。 ねえ だからあとは かんぱい ! だけよ。
博士方ももう座っていらっしゃるし 」
「 え! か かんぱい?? 」
「 そうよぉ〜〜 博士方に音頭を取っていただきたいけど、司会するのは ジョー!
幹事さんの仕事でしょ。 」
「 ・・・ あ う うん ・・・ 何時の間にそんなコトになったのかなあ・・・ 」
「 ともかく〜〜 皆 お腹空いて 呑みたくてわいわい言ってるのよ 早く〜〜 」
「 は はい〜〜 」
ジョーは 浴衣美女に手を引かれ〜〜 大広間へと一緒に駆け込んだのだった。
・・・ えへ ・・・? 手に手を取って〜〜 だね♪
「 ねえ ・・・ フラン〜〜〜 フランってばあ〜 」
ジョーは そっと最愛のヒトの肩を揺する。
「 ・・・ んん〜〜〜 もうのめまっしぇえ〜〜ん 〜〜 」
「 だからね〜〜〜〜 あははは あははは〜〜 地層の中には化石もな〜〜にもなくてさ〜〜
あははははは 〜〜〜 」
「 ・・・るせ〜〜〜〜 だいたいお前は だな! ぶつぶつぶつ ・・・・ 」
「 さ〜〜〜〜けェは の〜〜〜めェ の め ・・・ とくらァ〜〜〜 」
「 ぐぉ〜〜〜〜〜〜〜〜 ・・・・ ! 」
「 ・・・ ごが〜〜〜〜〜〜〜 ・・・・! 」
大広間は ― 闘い終わって夜も更けて。
テーブルの上な杯盤狼籍 ・・・ カラの酒瓶だのジョッキだのが林立 汚れた食器山積み。
要するに 大宴会はみごと成功裡にお開きとなっていた。
そして ― そちこちには < 討ち死 > したサイボーグ戦士達が陽気なイビキをかき
転がっていた。
「 フラン〜〜〜 ねえ ・・・ 一緒にお風呂・・・ 入ろうよう〜〜 」
「 ・・・ んん〜〜〜 もうのめまっしぇ〜〜ん ・・・・ 」
「 ねえねえ 酔い覚ましに、さあ〜 」
「 ・・・うふん♪ ジョー〜〜〜 アイシテルゥ〜〜♪ ちう〜〜〜♪ 」
「 あ! ちょ ちょっと ・・・ ねえ どうせなら二人っきりで ・・・ あ〜 寝ちゃった・・・ 」
抱きついてきた恋人は ちう〜〜〜♪ の姿勢で ― そのままく〜く〜眠ってしまった。
「 ・・・ せ せっかく温泉宿に来たのに〜〜 あ! ピュンマ! そこは畳だよ〜〜
持ち上げちゃダメだ〜〜 」
ご老体を二人、なんとか寝室に案内し 酔いつぶれた恋人をそう〜〜っと別室に移し。
大広間の飲み食いの跡を片付け 旅館のヒトに謝って。
「 え〜〜〜ん ・・・ なんだってこんなコトになるんだよ〜〜う ・・・ 」
― 幹事さんはツライよ。 なあ ジョー君 ・・・
パパ −−− ・・・!
「 それじゃ また! 楽しかったぜ! 」
「 また勝負しような〜〜 コズミの爺様〜〜 」
「 温泉〜〜 最高〜〜〜 幹事さん によろしくゥ〜〜〜 」
車窓からの多国籍な叫びを振り撒き マイクロ・バスは陽気な警笛を残して坂道を下っていった。
翌日の昼に 無事一行は岬の家まで戻ってきて ― 彼らはその足でそれぞれの地へ散っていった。
「 ほい、 ご苦労さんじゃったなあ〜〜 ありがとうよ。 」
「 ギルモア君、 いやあ〜〜 久々に痛飲して楽しかった! ありがとう! 」
「 いやいや ワシもほんに楽しかったよ。 」
「 いやあ〜〜 お宅のジョー君、若いのに世話役、頑張ってくたのう〜 」
「 あはは アイツには向いているのかもしれんな〜
ところで例の件じゃが。 イワンもすっきりお目覚めじゃし、協議を進めるかい。 」
「 いいのう〜〜 あ ・・・ いや。 今度はワシの家にいらっしゃらんかね。 」
「 ?? なぜじゃね。 ウチは皆帰ったから静かじゃよ? 」
「 いや ― お二人サン のために なあ? 」
「 ― ああ? 」
コズミ博士はにっこり笑って リビングのソファを指した。
そこには。 疲れ果てた彼と二日酔い気味のカノジョが寄りかかり合って熟睡していた。
「 ・・・ うふふ ・・・ そうじゃな〜〜 せっかくの二人っきり、なんじゃし? 」
「 ああ。 邪魔モノはとっとと消えることにいたそうではないか。 」
「 うむ うむ ― 恋せよ 乙女〜〜 いや 若者も ・・・ 」
「 ふぉ ふぉ ふぉ ・・・ 」
老人二人は微笑みつつ赤ん坊を連れて岬の家を後にした。
浪漫素は ― 身近なところにある のかもしれない。
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Fin. ****************************
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Last updated
: 08,06,2013. back / index
**************** ひと言 ****************
ジョー君気の毒な巻 でした★ いや 案外向いてるかも?>>幹事
わざわざ遠出しなくても〜 ろまんちっくはどこにでも♪