『 浪漫素 ( ろうまんす )
― その壱 ― 』
そこは 流れる霧の中にあった。
白い霧が 低い雲と見紛うばかりの霧が 辺りを埋め尽くしている。
その中から ほう・・・っと黒っぽい建物が浮かびあがってきた。
風だけが 時折耳元で囁いている静けさの中、 その姿はゆらゆら揺らめいてさえ見えた。
コツ コツ コツ ― 二人の足音だけが 湖畔の風景の中に響いてゆく。
フランソワーズはしばし立ち止まり、ほう・・・っと辺りを眺めていた。
カツン ・・・ 先を行く背中にむかってほんの少し歩みを早め、ジョーの肩に追いついた。
「 ・・・ ねえ ・・・ ジョー。 あれ なの? 」
「 うん。 古い建物でさ、なんとか記念物なんだって。 」
「 まあ ・・・ 」
フランソワーズは大きな瞳をもっともっと大きく見開き まじまじと目の前の風景を見ている。
「 すごいわ ・・・ 霧の海に浮かぶお城 みたい ・・・ 」
「 お城? ・・・ あ〜 そんな風に見えるかも なあ。 でも 基本、木造 だって。 」
「 木造? え ・・・ 木で出来てるってこと?! 」
「 ああ。 日本の古い建物はね、ほとんど木で造られているんだ。 」
「 そうなの? それであんな風に柔らかい輪郭なのね。 」
「 輪郭? ・・ ああ 霧の中だからぼうっと見えるだけじゃないかな。 」
「 そんなこと ないわよ。 ああ はっきり見えてきたわ ・・・ ふうん ・・? 」
彼女は立ち止まり ゆっくりと目の前の風景を眺めている。
霧はまだ足元に溜まっていた。 雨が降っているわけでもないのに、スカートが
すこししっとりとし、脚に絡みつく。
トン トン トン ・・・ 足音が変わった。
靴の下は ふんわりとした感触になり、 革靴が微かに水気を吸い込んだ気配がした。
「 ねえ ・・・ ステキね! あのね、 霧の中を歩く不思議をうたった詩があるのよ。 」
「 へえ?? 霧の中、なんていいコトないよな〜 視界不良で事故るし〜 」
「 ・・・ あ そう かもね ・・・ でもね 歩くはステキなのよ。 」
「 ふうん ま 女の子好みってとこだな。 」
「 あらあ そんなこと、ないわよ。 ね ・・・ ちょっと冷えると思わない?
― 霧でお耳の裏が冷たい ― 」
「 はあ?? 風邪引いたのかい? 」
「 わたしのセリフじゃないわよ。 小説の中の一節。 ちょっと退廃的で不思議なの。
・・・ ジョーの国の夭折した有名な作家の本よ。 」
「 ごめん ・・・ ぼく、あんましそういうの、読まないんだ〜 」
ふううう ・・・ フランソワーズは密かに溜息をつき ― 気分を変えよう! と
もう一度目の前の霧に海をうっとり ・・・・ 眺めた。
そうよ。 オトコノコに賛同を求めたわたしがおばかさんでした ・・・!
「 ねえ ・・・ 霧の中から現れたお城にゆくのね。 あら この垣根、 ステキ ! 」
二人の前に 竹とヒバで編んだ低い垣が現れた。
「 ここ ・・・ 入ってもいいのかしら ね? 」
「 え ? だってここは旅館の玄関に続く道だよ? ほら こっち、開くから 」
「 ・・・あ 待って待って ・・・ この垣根 ・・・ 手で編んだのよね 」
「 あ? ああ ・・・ そんなこと、聞いたな〜 竹ってすごく丈夫なんだ。 防犯にも役立つし 」
「 ・・・ そう? あ 見て見て〜〜 垣根の側に小さなお花 ・・・ まあ 地面に零れてるわ。
キレイ ・・・ あん・・・ 落ちてしまったわ ・・・ 可愛い ・・・ 」
彼女は スカートの裾を巻き込むと、垣根の側に屈みこんだ。
そっと手を伸ばし、 地面に散らばる小さな花を摘み集めた。
やはり小さな丸い葉っぱを添えると なおさら可憐に思える。
「 これ ・・・ なんというお花かしら。 ぽっちり濃いピンクなのがとても可愛いわ ・・・
ねえ ・・・ 晩秋の溜息 ・・・ なのかもしれないわね。
― 終ってしまった夏の恋 へ 秋になって想いを馳せているの ・・・ 」
秋 は 初秋から晩秋 まで すべてがそれだけで女子の心を揺らす季節なのだ。
「 ね ・・・ こんな花があるなんて本当にステキ・・・
秋の日のヴィオロンの ・・・ ひたぶるに うらがなし。 」
彼女は花の間に立ちつつ 古い古い詩をゆっくりと暗唱している。
― ザザ ザ ・・・! ジョーは踵を返すと 彼女の腕をしっかりと掴んだ。
「 ・・・ ほら 行こうよ〜〜 旅館まですぐだよ。 折角仕事、片付けて時間と場所、
先取りしたんだからさあ・・・ こんなトコで停まってないでさ ・・・ 」
「 あら だって。 とてもとてもステキなんですもの。
心がね ・・・ この静かな霧の海で潤ってゆくのが わかるの。 」
「 はいはい よ〜くわかったからさ。 ぼくはね〜 早く温泉に浸かってま〜〜ったりと
湯の海で潤いたいんですが〜〜 」
「 ・・・ それはわかっているわ。 でもね 身体だけじゃなくて心も豊かになってこそ・・・
真のリゾート だと思うのね。 気持ちがカサカサしていたから 」
「 ウン わかった。 さ 心を豊かにしよう〜〜 そのためにはまず この古い古い旅館に
チェック・イン しなくちゃな。 行くぞ! 」
ジョーは ついに問答無用! とばかりに彼の恋人を抱き上げた。
「 ?? ・・・ きゃ ・・・ イヤよう〜〜 ジョーったら〜〜 こんなトコで ・・・ 」
「 おや? お嬢さん。 こちらは別に違法なことはやっておりませんが。 」
「 ヤだってば ・・・ 降ろして ・・・ もう〜〜〜 」
「 ははは ・・・ じゃあ ちゃんと一緒に歩いて行っていただけますか〜〜
玄関を前にあちこちでうろうろストップしないでさ。 」
「 ・・・ もう〜 ・・・ わかりました。 ・・・ うろうろって。 このステキな情景を
しっかり味わっていただけでしょう〜〜 」
「 だから それは。 ちゃんとチェック・インしてからにしようよ。
やあ ・・・ キレイだなあ〜 ほら 見てごらんよ。 」
「 ・・・ え ??? なあに? ・・・ あ〜ん ・・・ 」
ジョーは 彼の恋人の背を半ば抱え込むみたいにしつつ歩いて行った。
― たまには出かけないかい ?
ジョーがそんなことを言い出したのは ― 崖っ渕の家に北風が吹きつけ始める頃だった。
「 ? 出かける ・・って ・・・ お買い物? 」
「 い〜や。 キレイな景色を眺めて それでついでにあったか〜い温泉にでも
ゆっくり浸かろうかな〜〜って思ってさ。 」
「 ・・・ おんせん ??? 」
「 うん。 あ〜〜 フランスにもあるんじゃないかなあ 熱い湯がさ、 こう〜〜
地下から湧き出ていてね。 その湯を引きこんで温泉にするのさ。 」
「 ああ 病気の治療をしたり 年配のヒトたちが保養したりする場所でしょ。
パリにはなかったけど ・・・ スパ といってね、国内にもあったわ。 」
「 やっぱ有名なんだな〜〜 じゃあ さ、 次の週末とか・・・行こうよ。 」
ジョーは にこにこしつつ、どんどん話を進めてゆく。
「 あ 何か予定、あった? それならその次の週に延ばすけど? 」
「 え ああ 大丈夫よ。 まだ大掃除の時期じゃないし。 」
「 そっか♪ それじゃ決まり 決まり〜〜 週末は温泉旅行です♪ 」
「 ・・・ ええ ・・・ 」
へえ ・・・? 随分嬉しそうねえ ・・・
スパって ― 年配にヒトたちの行くところだけど
・・・ いいわ。 ジョーが誘ってくれるなんて 初めてかも ・・・
ちょっとばかり ?? な気分もあったけれど フランソワーズも <週末旅行> は
大いに楽しみでジョーのにこにこ顔を眺めていた。
あの悪魔の島から脱出し ― 幾度かの激しい戦闘をからくも勝ち残り ・・・ ここまでやってきた。
何回か焼き討ちだの、瀕死の重傷だの、凄惨な日々もあった。
そして 今 ― 彼らはなんとか平和でごく当たり前の 普通の日々 を手に入れた。
多くの仲間達はそれぞれの生活を故国で送り ― 岬の崖っ淵の洋館には例の四人が暮していた。
ジョーはともかくとして、 博士とフランソワーズもこの国の生活に馴染み始めたようだ。
「 あ ・・・ 博士とイワンはね、コズミ先生とのなにか会合があるみたいよ? 」
「 ふうん ・・・ でも日中で済むんだろう? 後からコズミ博士もお誘いしてさ〜
合流すればいいよ。 ぼくが話してみるね。 」
「 あら そう? それじゃお願いします。 」
「 おっけ〜〜♪ あ 張大人とグレートも誘っちゃおう〜〜 飯店も忙しいだろ、
きっといい休養になるさ。 」
「 そうね。 あ ・・・ でも週末ってお店、 かきいれ時じゃない? 」
「 ま ともかく聞いてみる。 温泉旅行ってさ 大勢の方が楽しいんだ。 」
「 ??? そ そうなの? ・・・ じゃあ ジョーにお任せします。 」
「 りょ〜〜うかい♪ それじゃ早速 大人に連絡してみるね〜〜 ふんふんふん♪ 」
まあ 本当に楽しそうねえ ・・・
・・・ 二人だけ♪ かな ・・・って期待したんだけどな・・・・
でもいいわ。 皆一緒、も楽しいし
― そんなわけで からっ風が吹き荒ぶ〜〜 空は真っ青かんかんに晴天の初冬のある週末、
ジョー企画・主催の < 温泉旅行 > が スタートしたのである。
まず 朝一番に ご老体が岬の洋館に到着した。
なんと ・・・ この温泉旅行のために他の予定を変更したそうな・・・
「 いやあ〜〜〜 お誘いいただきまして忝いですなあ〜 」
「 あ いえ〜〜 コズミ博士〜〜 ちょっといい温泉なんですよ〜 」
「 ほうほう ・・・ 島村クン、君は若いのになかなか詳しいのじゃな。 」
「 え へへへ ・・・ バイト先の出版社で いろいろ・・・ 」
「 ありがとうよ、ジョー。 コズミ君とイワンと・・・ ゆっくり議論を詰められそうじゃ。 」
「 あれえ〜〜 博士〜〜温泉ですよぉ〜 なんもかんも忘れてぼ〜〜っとした時間、
楽しんでくださいよ。 」
玄関先で さっそく盛りあがっている。
003の耳でなくても すべて筒抜けの大賑わいだ。
あら。 博士たちは後から・・って聞いていたけど ・・・
一瞬 ぷく・・・っとほっぺたが膨らみかけたが ― すぐに営業用にっこり、でフランソワーズは
挨拶にでた。
「 あ お早うございます、コズミ先生。 今朝は少し冷えましたわね。お寒くありませんでした? 」
「 おお〜〜 これはお嬢さん。 お早うございます。 いい温泉日和ですな。 」
「 フランソワーズ。 イワンはワシらが引き受けた。 」
「 あら ありがとうございます。 それじゃ・・・ 暖か〜くさせて連れてきますね〜 」
「 うむ うむ ・・・ 後は任せなさい。 」
「 はい ただいま。 」
まあ〜〜♪ それじゃ 旅行中はベビー・シッターしなくていいのね?
・・・ ラッキ〜〜〜 ♪
そりゃ イワンは可愛いし。 < 理性的 > だから世話も楽よ。
でも ね。 お出掛けの時には ― ね?
ハンドバッグだけになりたいのよ〜〜
≪ ふらんそわ〜ず? 楽シンデ来ルトイイヨ ≫
「 ! ・・・ あ〜〜びっくりした〜〜 イワンったら〜〜 いきなり会話を飛ばさないでよ〜 」
≪ ゴメン ゴメン。 安心シテじょート楽シンデキテ。 僕ハ 博士達ト徹夜デ論議デキソウデ
楽シミナンダ♪ ≫
「 まあ ・・・ ご老人と赤ん坊が徹夜だなんて! いけません。 」
≪ エ 〜〜〜 イイジャン〜〜 タマニハサ 〜〜 ≫
「 ダメです。 よい子は 早寝・早起き が必須条件よ? 8時にはベッドの中 よ。
それにね、博士たちは きっと夜は温泉で一杯 きゅ〜〜〜 ♪ で 早々に沈没のはず ・・・ 」
≪ エ〜〜〜 ソウカナア〜〜 ≫
「 そう です。 お〜〜っと・・・ イワンの毛糸のパンツと毛糸の腹巻を出しておかなくちゃ。
ああ そうだわ! お出掛け用のお包みもね〜 箱根は寒いのですって〜〜 ♪ 」
≪ ・・・ チェ ・・・ ! ≫
どんなスーパーベビーも ミルクをくれてオムツを替えてくれるヒトには アタマが上がらない。
「 ふふふ ・・・ 温かくしてあげなくちゃ ね。 」
フランソワーズはにこにこ ・・・ イワンの冬物の引き出しを探りはじめた。
「 ハイナ 〜〜〜〜 美味しいおべんと、持ってきたで〜〜〜♪ 」
― バンッ !!! 玄関のドアが勢いよく開いて 大人が悠々と立っていた。
「 まあ お早うございます〜〜 大人。 ・・・ あら グレートは? 」
「 今 来まっせ〜〜 途中まで乗っけてもらったさかい ・・・ 」
「 え ・・・ グレートって免許 持ってたかしら? 」
「 なん言うとりますねん。 ヨコハマの店からココまで ほんの数分やさかい〜
ワイはしっかり掴まってましたで。 ああほら・・・ 窓 開けたって〜 」
「 え?? 窓? ― あ〜〜 ! 」
003は一瞬虚空に目を凝らすと 大慌てで窓辺に駆けて行った。
バッサ バッサ ・・・・ バッサ ・・・・ どさり。
大きな猛禽類が キッチンの窓をこじ開け時間内になんとか ・・・ すべりこんだ。
「 ひえ〜〜〜 ・・・ 大人! お前さん、もちっとダイエットしろよ〜〜〜 重いのなんの・・・
こりゃ筋肉痛 必至だぞ〜〜 」
キッチンの床で 変身を解いた姿でグレートが肩やら腰を摩っている。
「 アホなこと、いいなさんな。 重いのはな、ワテやなくて これ! でっせ〜〜 」
ずむ。 大人は両手で大きな風呂敷包みを差し出した。
「 まあ なあに? 旅行の荷物? 」
「 ちゃうちゃう! コレな 皆はんのお弁当さんや。 行きの車中で食べてもらいまひょ、
思てな〜〜 昨夜から仕込みしてた〜んと作ってきましたで。 」
「 まあ〜〜 お弁当? ステキ〜〜〜♪♪ あ ・・・ でも電車の中で大丈夫かしら。 」
「 オヤツもちゃ〜んと用意してありまっせ〜〜 フランソワーズはん、あんさんの好きな
月餅やらジョーはんの好物の桃饅もありまっせ。 」
「 きゃ♪ 楽しみ〜〜〜 じゃあ 早速ジョーに持って行ってもらいましょう。 」
「 ほっほ♪ 皆はんとご一緒せな、楽しゅうないさかい ・・・ え〜と?
はて。 まだ皆到着しはってないんかいな〜〜 」
「 ほう? 彼らが遅参とは珍しいな。 」
りゅうとした背広姿になったグレートがコウモリ傘を捻くりつつ、窓の外を眺めている。
「 え ・・・ 他にまだ誰か来るの? 」
パパパ −−−ン ・・・・! なにやら大型車両のクラクションが聞こえてきた。
「 な なあに?? え ・・・ マイクロ・バス?? 」
フランソワーズは慌てて外を < 見た >
「 あ〜 やっと来てくれたんだ〜〜 よかった〜〜〜 」
ジョーがにこにこ顔で 二階から降りてきた。 なにやらでっかいバッグを持っている。
「 ジョー? いったいなんなの?? 門の前にマイクロ・バスが停まっているのよ?? 」
「 え ? あれ〜〜〜 言ってなかったっけ? 」
「 ― なにを。 」
「 ・・・あ ごめん ・・・ あの さ。 足 にね、全員一緒に・・・って思ってさ・・・・
マイクロ・バスを借りたんだ。 バイト先に頼んで ・・・ 」
「 ! だって誰が運転するのよ?? ジョー ・・・ いくらなんでもマズいでしょ? 」
ジョーは勿論 運転できるだろうが ・・・だが公道ではさすがに目立ってしまうだろう。
「 え〜〜 運転手はぼくじゃないよ〜う あ 来た 来た 〜〜 」
ドンドン ! 玄関のドアが大きくノックされた。
「 ええ??? あ は〜い ・・・ だあれ〜〜 今時ノックなんて〜〜〜 」
「 あ いいんだ いいんだ。 ごめ〜〜ん、 ぼくが道に出ている約束なんだ〜〜 」
「 道??? なんのこと。 ドアの前にいるの、誰? 」
ドン ・・・! 更なる一撃が玄関ドアに加えられた。
「 お〜〜い !! 早くしろよ〜〜 」
「 ・・・!? アルベルト?? ちょっと〜〜 ドア、 壊さないでね〜 」
フランソワーズは慌てて玄関に飛んでいった。
「 はいはい ・・・ お早う、 アルベルト。 」
「 おう! お早う。 約束どおり朝イチだぞ。 準備はいいか。 」
「 あ うん ・・・ え〜と え〜と ・・・ 」
「 おお お早う、アルベルト君。 わざわざ遠くからご苦労さんですなあ。 」
「 おう、コズミの爺様。 元気そうでなにより・・・ さ さ 出発しますぜ。 」
「 おうおう これはすまんな〜〜 アルベルト。 さあ イワンや、一番前に乗せてもらおうなあ 」
「 さあ どうぞ。 お〜〜い グレート? ご年配一行の案内を頼む。 」
「 了解。 大人? 食い物と酒は全部まとめて後部座席に固定しとくぞ〜 」
「 はいナ。 あ ちょい待ってェな。 このバスケットはワテが持ちますワ。
車内での朝御飯とオヤツやで。 」
「 はいよ、 ほら・・・。 うん? なあ アルベルト? ドライバーの交代要員はどこだい。 」
「 あ? あ〜 ヤツのことだ、どうせ予約便に寝過ごして今頃自力で飛行中、だろ。
途中で追いついてくるだろうさ。 」
「 へ ・・・ 相変わらずだね。 レーダーに引っ掛からないことを祈る。 」
「 どうだか な? お〜〜い ジョー? 高速が混まないうちに出たいんだがな。 」
アルベルトは老人連の荷物を両手に持ってずんずん出ていった。
「 は〜〜い それじゃ ・・・ 皆 用意はいいかな〜〜〜 」
ジョーが そこいら中を駆け回って < 温泉ツアーご一行 > の添乗員をしている。
「 それじゃ ― あれ。 フランソワーズ?? きみ 〜〜〜〜 」
リビングのソファで フランソワーズが膨れッ面で座っていた。
「 ねえ ・・・ 用意 ・・・ いいよね? 」
「 ― なんの。 」
「 え ・・・ だから さ〜〜その ・・・ 温泉行きの。 」
「 誰が。 」
「 あ あの〜〜〜 皆の。 」
「 ・・・ ご一行様 って。 全然聞いてないんですけど? 」
「 あ うん。 それでね〜〜 どうせなら一緒くたに行った方が楽しいかな〜〜 なんて思って。
マイクロ・バス、借りてさ〜〜 」
「 ― それはもう聞きました。 」
「 あ そ そうだっけ? あ あの〜〜 それでさ〜 ドライバーならアルベルト! って〜〜
速攻で連絡いれて ・・・ 来てもらったんだ〜 」
「 ・・・ 遊びに関しては素晴しい行動力ね、 ジョー。 」
「 え えへへ ・・・・? そ そっかな〜〜〜 」
「 で も ね。 わたし ―
そもそも ― 二人で温泉行き って聞いてたんですけど。 」
「 うん そうだよ。 」
「 は??? だって マイクロ・バスで 皆で行くのでしょう??
あ ・・・ ジェロニモとピュンマがいないけど。 」
「 あ〜 あの二人はね、現地集合なんだ。 なんか ピュンマが調べたい地層があるんだって。」
「 ふうん ・・・ で 団体旅行 なわけ。 」
「 いや。 ・・ ああ ほら。 もうマイクロ・バスは出発したよ。 ね? 」
「 え? ・・・・ あら 本当。 」
「 ― それでは 〜〜 ぼく達は〜〜 のんびりゆったりしっぽり二人だけの電車の旅 でェす♪ 」
ジョーは さ・・・っとフランソワーズに手を差し出した。
・・・ へへへ ・・・ こうやれって。 グレートとアルベルトに教わったんだ!
「 まあ ・・・ ジョーがこんなステキに誘ってくれるなんて・・・ 」
「 えへへ ・・ じゃなくて! えっへん。 お嬢さん、ご一緒に旅にでませんか? 」
「 ええ お誘い、ありがとう。 ちょっと支度してくるから 待っていてね。 」
「 え〜〜・・・じゃなくて。 えっと ・・・ もっとキレイな君を見るのを楽しみにしているよ。
心行くまでゆっくり準備をしておいで。 」
「 ・・・ わかったわ。 うふ ・・・ 今日のジョーは本当にステキ♪ 」
フランソワーズは 超〜〜〜ご機嫌チャンで二階の自室へ上がっていった。
「 ひぇ 〜〜〜〜〜 ・・・・ 慣れないコト、言うとつっかれるゥ 〜〜〜 」
ジョーは どすん!とソファに座り込んだ。
「 ま ぼくとしても電車で行く方が楽しいもんな〜〜
あ そうだ。 電車の時間、チェックしとこ。 えっと 〜〜〜 」
彼はリビングにある共用のPCを開くと 早速検索をし始め ― いつの間にかネットの大海に
その身を投じ波乗りを始めていた。
「 ・・・ っとぉ〜〜 やた! こ〜れでクリア〜〜っと ・・・ 」
カチ。 一つの画面を閉じてほっと満足の溜息をつき ― 思い出した!
「 え!? い 今何時〜〜〜??? え!? ふ フランは・・・?! 」
慌ててPCを落として立ち上がれば ・・・ 本来ならば 二人で地元駅のホームに立っている ・・・
くらいな時間だった。
「 うっそ〜〜〜〜 やっべ〜〜〜 ・・・ お〜〜い フラン 〜〜〜 」
ジョーは 最小音量でこそ・・・・っと二階に向かって呼びかけてみた。
「 ・・・ やっべ〜〜 怒って拗ねちゃったのかな ・・・ あの〜〜 もしも〜〜し ・・・? 」
足音を忍ばせこそこそ階段を登り 彼女の部屋の前に立った。
・・・ トン ・・・・ トン ・・・・? ものすごく遠慮がちにノックをしてみた。
「 ・・・ う 〜〜 やっぱ返事ないよ〜〜 ・・・ 怒ってるんだ・・・?
あ! それとも! ぼくがゲームに熱中している間に一人で出発しちゃったのかも・・・
え ・・・でも行き先、知らないよなあ・・・ とりあえず駅まで行ってみる おわ!? 」
バン ・・・! 突然 ドアが開いた。
「 ? あら ジョー。 迎えに来てくださったの? 」
「 へ?? ふ フラン〜〜 ああ いたんだ ・・・ よかった〜〜 」
「 ??? よかった ・・・・って なに? 」
「 あ いや なんでも ・・・ あの〜〜〜 ごめん〜〜 時間 ・・・ 」
「 うふふ そうなのよ〜〜 ジョーがね、ゆっくり準備してこい、って言ってくれたでしょ。
だから〜〜 ほら? 見て 見て〜〜〜 晩秋の温泉にフィットするようにね、
お洋服も全部コーディネイトし直してみました。 どう? 」
「 ・・・ え は ・・・? 」
フランソワーズは くるり、と彼の前で回ってみせた。
シックな深いセピアの濃淡の組み合わせに襟元を飾る鮮やかな赤のスカーフがよく似合っている。
彼女の輝く髪が 華を添えていて、晩秋の高原にぴったりだ。
「 ・・・ あ 〜〜〜 え〜〜〜 」
「 ねえ どう? いいと思う? 」
「 あ うん!! いい いいよ〜〜〜 すごく すごく!! さ 出発しよう! 」
「 すごくってどんな風に? ねえ アクセサリーなんだけど。 ゴールドよりもパールの方が
よかったかしら? 」
「 へ??? ぱ〜る ・・・? 」
「 そうよ。 この国ではパールがやっぱり正式だ・・・って聞いたの。
博士たちもいらっしゃるしお出掛けだからパールに換えてこようかしら ・・・ 」
「 え!? か 換える? いや! 今のままがいいよ! うん、その金色の、すご〜〜く
似合っているから! それにさ、温泉だからぱ〜るじゃなくていいよ。 」
ジョーは 彼女の前に立ち、必死で説得している。
わ〜〜〜 冗談じゃあないよ〜〜
これ以上 遅くなったら ・・・ 宴会に間に合わないよ〜〜
「 間に合わないから だから金色がいいよ! 」
もう ジョー自身なにを言っているのか ・・・ 混乱の極みである。
「 間に合わない?? ・・・・ ああ ・・・ 温泉でパールが変質してしまうってこと?
そうね〜 それじゃ ・・・ このゴールドにしておくわ。 ねえ いいかしら。 」
「 うん うん うん!! 」
ジョーは力を籠めて ぶんぶんと首を縦に振った。
「 そう? それじゃ ・・・ 荷物、持ってくるわね〜 」
「 あ! ぼくが! ぼくが持ってくるから! きみの部屋だろ、入ってもいいかな。 」
「 あら ありがと。 ドアのすぐ横にキャリー・ケースが置いてあるの。 それとね〜
横にボストン・バッグがあるから。 」
「 ・・・え? キャリー・ケースで充分だと思うケド ・・・ 」
「 だって寒かったら困るでしょう? ジョーのセーターと長袖のアンダーも持ったのよ。 」
「 ぼくの?? あ ・・・ ぼくは大丈夫だから さ 」
「 だ〜めよ、風邪ひくわ。 ふふふ・・・大丈夫、 毛糸のパンツ は入れてないから。
さあ 〜〜 わたしは戸締りを確認してくるから。 ジョー、荷物お願い。 」
「 あ うん わかった ・・・ 」
― そして 目的地に到着するまで、彼女の荷物達は彼の管轄となったのである。
ザワザワザワ ・・・ プヮン ・・・・! ピリピリピリ 〜〜〜
〜〜〜 8番線 発車いたします〜〜 白線の内側に〜〜
12番線 電車が到着します〜〜 車内清掃終了後に 〜〜
首都の主要ターミナル駅は 巨大迷路と騒音と人波のカオスだった。
「 ・・・ あ ・・・ ご ごめんなさい ・・・ パルドン ・・・ ああ すみません ・・・ 」
キャリッジはジョーに預けていたが 大きめのバッグとハンドバッグを抱えて
フランソワーズはあちこちにひっかかりよろけてもみくちゃになっていた。
「 あ〜 ・・・ フラン、 ほら。 」
「 ・・・え ・・・ あ あの ・・・ 」
見かねてジョーが手を差し出した。
「 ほら。 ぼくの手に捕まって。 それでなるべく密着して歩くんだ。 」
「 え・・・ み 密着? そ そんな・・・ 公共の場でそんなコト ・・・
日本人は嫌うのでしょう?? はしたない ・・・って ・・・ 」
「 はあ?? 混雑の中でふらふら・うろうろされる方がよっぽど嫌われるよ!
はい こっち。 」
「 ― あ ん ・・・ 」
ジョーは 問答無用! とばかりに彼女の腕をぐい、と掴んで引っ張りよせた。
「 いいかい。 こういう大きな駅ではね、人の流れに乗って歩くんだ。
逆らったりテンポを一人だけ外したら ― 皆にぶつかって迷惑をかけるんだ。 」
「 ・・・ あ はい ・・・ 」
「 わかった? じゃあ ぼくのシャツの裾、しっかり掴んで。 行くよ〜 」
「 ・・・ ハイ。 」
フランソワーズは大人しく、ジョーの後ろに <連結して> 付いてきた。
週末金曜の午前中 ・・・ だったけれど、調度連休を控えて巨大ターミナル駅は
やったらめったら混んでいたのだ。
ひえ 〜〜〜 ・・・ な なんなの 〜〜〜
ど〜して皆 整然と歩けるわけ?? リハーサルでもしたの??
・・・だって 皆 知らないヒト同士よねえ・・・?
あら。 ジョーってば ・・・ 歩くの、巧いわねえ・・・
ちっともぶつからないし〜 すいすい進んでゆくわ
確かに彼は巧みの人波の中を縫ってゆき、( 後ろに お荷物 を連結しているにも拘らず )
確実に目的のホームに近づいている。
「 え 〜〜 と ・・・ あ まだ余裕あるな〜〜 」
彼は階段の下で 発着案内を確かめほっとしている様子だ。
「 あの ・・・ ここから電車に乗るの? 」
「 うん。 あの さ。 ぼく、駅弁とか買ってくるから。 きみ、 先に乗っててくれる?
はい、これチケット。 」
ポケットからチケットを出すと 彼女に差し出した。
「 ・・・ すいか じゃないの? 」
「 あ? あは ・・・ これはね〜 座席指定券。 この番号のトコに座ってて。 」
「 まあ ・・・ 飛行機みたいね。 ウチのとこ電車とは随分ちがうわ。 」
「 あ〜 あれはローカル線だから。 あ わかるよね? 」
「 ええ 大丈夫。 ・・・ ジョー、発車に遅れないでね? 」
「 だ〜〜〜いじょうぶだって。 あ ミカンとか食べる? 」
「 ??? み みかん??? え ・・・ 別に ・・・ いいわ。 」
「 わかった〜 ・・・ あ〜 やっぱ缶ビール・・・ はマズいよなあ〜〜 」
ジョーはぶつぶつ言いつつ 反対方向に行ってしまった。
「 ・・・ ふうん ・・・・? この上 ね。 」
さすがに その階段がほとんどヒトがいなかったので フランソワーズはゆっくりと登った。
「 ・・・ っしょ ・・・っと。 ― わあ〜〜〜〜 ・・・・ 駅だわああ〜〜〜 」
今更〜〜な感想なのだが ・・・ ずっと地下構内を歩いていたので実感がなかった。
地上のホームに出てみれば 両側には多くのホームが並びそこから線路が四方八方へ
延々とどこまでも伸びている ・・・ ように見えた。
「 あ は ・・・ なんか なつかしいな ・・・ サン・ラザール駅みたい ・・・ 」
どこの国でも 未知の場所への発着地点には共通の空気が満ちているのかもしれない。
彼女はしばらく 旅人の感傷を味わい楽しんでいた。
「 ・・・ あ〜〜 めい あい へるぷ ゆ〜 ? 」
「 はい?? 」
突然 後ろから声をかけられ 彼女はびっくりして振り返った。
そこには ダウン・コートにジーンズ、耳にはイヤホン 手にはスマホ ・・・という典型的な
< ニッポンのワカモノ > が立っていた。
「 はい? あの ・・・ なにか御用ですか? 」
「 あ〜〜 う〜〜〜 ぷり〜ず るっく。 」
「 ??? 」
彼はごそごそ・・・ リュックからタブレットを取り出すと、ずいっと彼女に差し出した。
「 はい? これが なにか。 」
「 あ〜〜〜 ぷり〜ず るっく まい たぶれっと。 」
「 はあ ・・・ May I help you ・・・ って英会話のレッスンのつもりかしら・・・
あの ありがとう、でも結構ですわ。 別になにも困っていませんから。 」
「 ほわっと? わんす もあ ぷり〜ず? 」
ワカモノはど〜も全く彼女の言葉が耳に入っていないらしい。
フランソワーズは 会話は相手の言葉に耳を傾ける、 を身につけているので 少々むっとした。
「 あのね! へるぷの必要はありません! 日本語、わからないの?? 」
「 ほわっと? あい きゃのっと すぴ〜く いんぐりっしゅ そ〜〜 」
「 だから! 必要ないって言ってるでしょ! 」
「 あ〜〜〜? そ〜り〜 わんす もあ ぷり〜ず? 」
「 ! だから − 」
「 失礼。 ぼくの連れがなにか? 」
後ろからよ〜く知ってる声がして ジョーが巧みに二人の間に割り込んだ。
キャップを上げて 真正面からワカモノを見据えた。
「 あ ・・・ え ・・・ い いや あのその 」
「 ヘルプは不要 って繰り返してるだろ。 他になにか用事があるのか。 」
「 ・・・ や いや ども! あは ・・・ 」
ワカモノはしどろもどろ ・・・ 寒風の吹きぬけるホームなのにだらだら汗を流している。
「 ― 知ってるヒト ・・・ じゃあないだろ? 」
「 ええ もちろん。 あ。 」
ジョーがフランソワーズに向き直った瞬間 ・・・ ワカモノは脱兎のごとく駆け去った。
「 ・・・ かそくそ〜ち ・・・ 」
「 ? なに。 ナンか言った、フラン? 」
「 あ ウウン なんでもないわ。 ジョー 〜〜〜 メルシ〜〜〜 」
フランソワーズは ぱっと彼に抱きつきキスをした。
「 ・・・ おっとぉ〜〜〜 まあソレは後でゆっくり♪ ああ ほら、列車に乗ろうよ。 」
ジョーは周囲の男性陣からのトゲトゲ視線を感じつつ 彼女を車内へとエスコートした。
へん! こ〜れは〜〜 ぼくの、 だから!
ふん! っと肩を聳やかし、彼は得々として座席指定車両に乗り込んだ。
「 ・・・ え〜と 9のA と 9のB ・・・ あ ここだな。 さあどうぞ? 」
「 あらあ〜〜 キレイな座席ねえ。 メルシ〜〜 ジョー。 」
パリジェンヌはご機嫌で シートに納まった。
ジョーは荷物を網棚に上げたり、 駅弁やらお茶やら冷凍ミカンやらを置いたり 大忙しだ。
「 えっと ・・・ あ きみ、コートは脱いた方がいいよ。 すぐにヒーターが入るし。
あ フックはそこさ。 え〜と ・・・ あと何か欲しいもの、あるかな。
あ! エビアンとか飲みたい? 」
「 ジョー ・・・ ねえ 落ち着いて座ったら? 発車したら揺れるんじゃない? 」
「 まだ大丈夫。 発車します〜〜コール、まだだろ。 」
「 発車しますこーる?? 」
「 うん。 < お見送りの方は下車願います〜 > ってアナウンスがあるから。 」
「 へえ ・・・ そうなの? この国の鉄道は親切なのねえ 」
「 ? ふつ〜だと思うけど? 」
「 あら。 パリじゃ 時間になったらす〜〜っと発車するわよ? 」
「 ふうん? 不便そう・・・ あ ねえ お弁当、食べる? 」
「 ・・・ まだ いいわよ。 ほら ジョー ・・・ ゆっくりお座りなさいな。 」
「 あ ・・・う うん ・・・ 」
がさがさごそごそ・・・動き回っていたジョーは やっと座席に落ち着き
< スーパー踊り子号 発車いたします > のアナウンスが流れ ― 静々と列車は
動きはじめた。
「 きゃ ・・・ ステキ♪ 旅の始まり ね。 」
「 うん。 ふぁ〜〜〜 ・・・ 疲れた〜〜 あ コーク飲む? 」
「 ・・・ まだ いいわ。 」
「 そう? じゃ お先に〜〜 」
ジョーは駅での買い物の中からペットを取り出すと、嬉々として飲み始めた。
そんな彼を横目のすみっこで眺め ― 彼女のほっぺはすこしぷくっと膨れた。
・・・ もう ・・・ いい旅にしようね ・・・とか言って欲しいのに・・・・
この寒空に コーク ・・・ ねえ ・・・
ちょっとばかりがっかりしたが でもまだわくわく感の方が遥かに勝っている。
白いカヴァーが掛かり ゆったりした座席は快適だった。
そ そうよね。 些細なコトでこのステキなシチュエーションを
台無しにはしたくないもの。
そうよ ・・・ この旅はね♪ 二人の ・・・ 終わりのない旅〜〜
い〜い日 たび〜〜だち〜〜♪
一生懸命 旅情を掻き立て ― ついでにうっとり・・・彼の肩に寄りかかり・・・
「 ねえ ・・・ わたし達 どう見えるかしら ・・・ 」
「 へ?? ああ ・・・ 姉の帰省に付き合う弟。 」
「 きせい?? それ なあに。 」
「 あ ・・・ 独り言だよ。 どう見えるかって ・・・ ?? 」
「 うふ ・・・ 許されざる恋人たち ・・・ 駆落ちで北に落ちる二人 ・・・なんてどう? 」
「 ― これから南西に行くんだけど。 」
「 だから〜〜 たとえば。 想像してみるの。
わたし達はお互いになにもかも捨てて ・・・ 手を取り合って駆落ちしてきたの。 」
「 なにもかも捨てて・・・ってトコは本当かもな〜〜 」
「 わたし! なにも捨てていませんから。 」
「 あ ・・・ ご ごめん ・・・ 」
「 判ればいいのです。 で ね ひっそりと ― 二人だけの旅なの。
窓の外には霏々と雪が降っていて ・・・ 水墨画みたいな景色が 」
フランソワーズはうっとり ・・・ ジョーに寄りかかって目を閉じている。
「 寒いかい? って ジョーが聞くの。
ううん ・・・ って わたし、本当は指先が凍えているのだけれど にっこり・・・
うん? ああ ほら 指が氷みたいだよ。 って。 ジョーはわたしの手をね〜
しっかり両手で包んでくれるのよ。 はああ ・・・・
あなたと一緒なら 寒いことなんかないわ。 ぼくも さ。
って!! 二人はあつ〜〜〜い視線を絡ませ 〜〜 窓の外には降りしきる雪 ・・・ 」
「 いい天気だね〜〜 この分なら富士山もくっきり! だね 」
「 ・・・ ジョー。 わたしのハナシ、聞いてる?? 」
「 え ? あ〜〜 昨日のドラマの話 ・・・ ?? 」
「 ― もう いいわ。 」
ふうう 〜〜〜〜〜 ・・・・!
フランソワーズは特大の溜息を漏らし、 座席にぼすん・・・と身体を沈めた。
ジョーはがさがさと荷物 ― 駅で買い込んだ駅弁だのお茶だの ― を整理している。
っとに 〜〜 少しはロマンチックになってよ〜〜
「 ・・・ あら? ねえねえ ジョー。 富士山が見えるって言ったわよね? 」
「 え? ああ う〜ん 運がよければ ・・・ だけど。 」
「 ねえねえ ・・・ ってことはウチの方に ― この列車は行くの ?? 」
「 うん。 あ〜 きみだったらちょっとレンジを広げるだけで ウチが見えるよ きっと。 」
「 ― 結構です。 でも それじゃ・・・ ウチの地元駅から本線に乗り換えるほうが
ずっと早くに着くのじゃない? 」
「 あ〜 それはそうなだけど ・・・ 」
「 じゃあ どうして? 時間のロスだわね〜〜 わざわざトウキョウ駅まで戻って〜〜 」
「 いや。 え〜と ・・・ 」
「 ・・・ < え〜と > ? 」
「 あ あの。 えっと〜〜 き きみと二人っきりの旅を少しでも長く楽しみたくてね。
( ・・・ だったよな? ) 」
「 まああああ〜〜〜〜 ♪ 」
途端にフランソワーズの瞳が ほわ〜〜ん♪ とはあと型になった。
「 そうだったの ・・・ うれしいわ〜〜 わたしも よ。 」
「 それはよかった。 ・・・ 二人の思い出はもう始まっているよ。 」
「 ええ♪ ・・・ うふ し あ わ せ♪ 」
彼女はあま〜〜〜い笑みを浮かべ しっとり寄り添ってきた。
う? うっそ〜〜〜 やた!
・・・ ふうん ・・・ オンナノコって ほっんと ― よくわかんないな〜〜
ま アルベルトに大感謝〜ってトコだな。
ジョーは余裕の笑みを浮かべ ( るフリをして ) 彼女の肩に腕を回した。
この度の旅程は 確かに地元のローカル線から直接乗り換える方がずっと早い。
・・・ しかし!
「 お前なあ ・・・ カノジョ、しっかりエスコートして点数稼いでこい。
指定席くらい奮発しろよ。 」
「 ・・・ わ わかったよ。 」
「 それにな! オンナってのはコト旅行に関しては能率主義や実利主義じゃないんだ。
雰囲気 とか ムード とか ― 二人の旅の演出 が大切だぞ。 」
「 た 旅の演出?? 」
「 そうだ。 遠回りでも ろまんちっくな旅 とかの方がお気に召すのさ。 」
「 ・・・ わ わかった・・・! それじゃ ・・・ 東京駅からゆく。 たしかそんな列車、あったはず・・・ 」
「 よし。 それくらいの気合がなけりゃな。 ― フランはやらんぞ。 」
「 ・・・ う ・・・・ 」
― こんな遣り取りがあったとは さすがの003も気がついてはいない。
ともかく ジョーは大いに点数を稼ぎ、カノジョの尊敬の視線を一身に浴びて ―
目的の温泉地域駅 に到着した。
「 わあ ・・・ 寒いくらい〜〜 電車の中、結構暖房が効いていたのかしら? 」
ホームに降り立つと フランソワーズはもう目をきらきらさせている。
「 ああ そうだねえ。 この辺りは標高もあるから ・・・ あ 寒いのならぼくのマフラー、
かけてゆきたまえ。 」
ジョーはしゅるり、と白い絹のマフラーをはずすと、彼女の肩に掛けてた。
「 まあ ・・・ ありがとう、ジョー。 でも ジョーは ・・・ 」
「 ふふん、 きみと一緒なら寒さなんて全然感じないさ。 さあ 行こう 」
くい、と腰に手をまわし、ジョーはキャリッジを引っ張りつつエスコートしていった。
きゃ♪ どうしたのかしら〜〜 ステキ♪
うふん ・・・ この駅も霧がただよっていてステキねえ・・・
・・・ やっぱり <駆落ちカプ> かな〜
うふふふ ・・・不倫の恋♪ なぁ〜〜んて♪
「 ・・・ っと。 ほら 足元・・・ 気をつけて。 」
ジョーは先にバスから降りると フランソワーズに手を貸した。
「 ええ ・・・ よっと ・・・ なんだかウチの方のバスとは違うのね。 」
「 あは・・・ 地方のローカル・バスだからなあ ・・・ 車高の高い古いタイプなんだよ。 」
「 ふうん ・・・ でもね 霧の中ぼっこん ぼっこん 揺れて ・・・面白かったわあ〜〜 」
「 そりゃ よかった。 さあ ここからは歩きだよ。 」
「 そう? ・・・ まあ ・・・ ステキ ・・・! 」
フランソワーズは 目の前に広がる風景に思いっきり見惚れている。
駅を降りてから ジョーは宿の送迎バスには乗らずにわざわざローカル・バスを使った。
二人は ガラガラの旧式なバスに揺られて 霧の箱根路を目指す宿まで揺られてきたのである。
― で 宿の玄関に行きつ戻りつしつつなんとか到着するまでフランソワーズは ステキ! を連発・・・
ジョーはじりじりしつつ ・・・ 後ろに立っていたのだった。
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updated : 07,30,2013.
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はい 後は〜〜〜 ドンチャン騒ぎの大宴会??? いや
しっぽ〜り二人で温泉らぶ? どうなることやら・・・
原作 ・ 平ゼロ ・ 旧ゼロ ・・・RE:設定でもいいかも?