『  ただ一度 ( ひとたび ) の   ―  (1) ―  』

 

 

 

 

 

*******  はじめに  *******

ご存知 【島村さんち】 設定です ・・・が。

今回双子ちゃんたちはあまり登場しません〜<(_ _)>

 

 

 

 

 

   ―  やったわ・・・・!

 

フランソワーズは ぎゅ・・・っと手を握りその紙を見つめていた。

嬉しくて叫びだしそうだ。 でも口の中はカラカラ、目は自分の名前に釘付けだ。

バレエ団の廊下の連絡用ボードには次の公演のキャスト表が張り出されていた。

 

 

    『 白鳥の湖 』  より  第二幕  第四幕

    キャスト:   オデット    フランソワーズ・アルヌール   

              

 

「 きゃあ〜〜 フランソワーズ〜〜 おめでとう!! 」

「 やったね! フラン〜〜 」

仲良しのみちよやりえが ぽんぽんフランソワーズの肩やら背中を叩き祝福してくれる。

「 ありがとう〜〜  発表会だけどすごく嬉しい! 」

「 うんうん。 ぴったりだよ、フランソワーズ! 」

「 王子は?  タクヤ? 」

「 ううん ・・・ タクヤはね、 ドンキ で ユミちゃんと組むの。 王子はわたし知らない方だわ・・・」

「 あれえ  山川さんだよ〜  ほら、ベルリンで踊っていたヒト。 」

「 え・・・うわ・・・キビシ ・・・。  あ みちよは? りえは? 」

「 アタシは  スワニルダ♪ ( 注: 『 コッペリア 』 の主役 )

 えへへ・・・ロリロリでやっちゃおうかな〜 」

「 私、 シス ( パ・ド・シス  『 眠りの森の美女 』のプロローグでの踊り  ) のリラだよ〜 」

「 うわ〜〜 みちよもりえも やったわね♪ 」

「 がんばろ〜〜ね〜〜 」

華やいだ声が廊下にひびく。  

フランソワーズたち、若手のダンサーは初めて大きな役を振られて大喜びだった。

 

 

 

   ふんふんふん ・・・・

 

道を歩いていても、家で掃除をしていても 自然にハナウタがこぼれてしまう。

フランソワーズはものすご〜〜く上機嫌なのだ。

今朝もリビングに掃除機をかけつつ・・・自分自身でBGMを提供している。

「 お〜い フランソワーズ・・・ 悪いが日本茶をもらえんかね。 」

博士が リビングに顔をだした。

時計の針はもう10時過ぎ、日曜日なのだが ジョーは取材で出勤、 

子供達は朝御飯をすませとっくに遊びに飛び出していった。

「 ・・・・うん???  ああ 掃除中か・・・ 

 おやおや・・・ 随分とご機嫌なようだな。  ふむふむ・・・ いいことじゃ。 それじゃ・・・ 」

博士は茶碗をもって自らキッチンに入っていった。

「 ふんふんふ〜ん ・・・・って 振りはもうアタアに入っているし。

 こう見えても? オデットのV.( ヴァリエーション ) は得意だったのね〜〜

 あの頃・・・卒業コンサート もオデットで出たし♪ 結構いい点で卒業したのよね〜 」

掃除機相手に彼女は 踊りだす。 

 

フランソワーズが通っているバレエ・カンパニー では年に一度、若手の研修生中心の <発表会>を

催している。

本公演ではまだ主役はもらえない若手たち、そしてスクールに通うジュニアたちが中心になる。

今年 フランソワーズにもタイトル・ロール (主役)が回ってきたのだ。

『 白鳥の湖 』 から  第二幕と第四幕。  白鳥たちを従え、オデット姫は王子と踊る。

コールド・バレエの 白鳥たち  はジュニア・クラスの生徒たちが務めることになっていた。

 

「 〜〜 〜〜〜でしょ。 うふふ・・・わたし、頑張っちゃう〜〜 」

掃除機を持ったまま フランソワーズの手脚は自然にステップを分でゆく。

エプロンかけたオデット姫は 掃除機相手にグラン・アダージオまで踊り始めた。

 

    ―  ガッチャン ・・・!!

 

「 うわ〜!! あっつっつ〜〜 」

キッチンから なにかが割れる音と博士の悲鳴が聞こえてきた。

「 え? なに どうしたの??  ・・・ 博士〜〜 大丈夫ですか!  」

フランソワーズは掃除機を放り出し キッチンに飛んでいった。

 

ジョーと結婚し すぴかとすばる、双子の子供たちが生まれ・・・

子育てに忙しい日々の真っ最中だが フランソワーズは毎朝熱心にレッスンに通っている。

最近は ちいさな子供たちのクラスを受け持ったりますます忙しい。

「 ・・・ごめん・・・ ぼくがもっと早く帰ってこれれば・・・家のこととか全部押し付けてゴメン・・・ 」

ジョーは 帰宅が毎日深夜に近い。

彼も出版社での仕事が軌道に乗りはじめ、多忙極まりない日々なのだ。

「 大丈夫よ 任せて、ジョー。  」

「 うん ・・・ ごめんな。  それに ぼく・・・ もっとアイツらと一緒に居たいなあ・・・ 」

「 子供たちもお父さんと遊びたがっているわ。

 今日もね、すぴかが起きておとうさんが帰りまで待ってる!って頑張っていたのだけど。

 お休みの日とか・・・相手してやって? 」

「 もちろん〜〜〜! 」

仕事は勿論面白いし遣り甲斐も大いにあるのだけれど、彼は家にいる時間が短いことが

なによりも辛いらしい。

ジョーは子煩悩、というより家庭に 家族に ずっと憧れ続けていたのだから・・・

時間に不規則な仕事でかなりハードな日々なのだが どんなに遅くなっても必ず帰宅する。

そして 子供部屋に寄ってそ・・・・っと子供たちの寝顔を見つめ溜息をついている。

 

      あらまあ ・・・ このヒトってこんなに子煩悩だったのねえ・・・・

 

フランソワーズは そんな夫を感心して眺めたりしている。

もっとも ― 肝心の子供たちは もう小学生、父親のことは勿論大好きだけど。 

親には構わず どんどん勝手に外に飛び出してゆく。

それが 成長というものなのだろう。

 

 

 

 

「 ・・・ うむ ・・・ これは美味いお茶だなあ・・・ 」

「 ええ お友達のお土産なんですけど。  あ もう一杯淹れてきましょう。 」

「 お すまんなあ・・・ 急須を割ってしまったな・・・ 」

「 あら お気になさらないで。  怪我、なさらなくてよかったですわ。

 ちょうどいい時間ですもの、テイー・タイムにしましょう。

 そうだわ、和菓子があったはず・・・ 持ってきますね。 」

フランソワーズは身軽にキッチンへともどり、新しい茶葉を急須に入れた。

 

日曜の昼ちかく、博士とフランソワーズは のんびりお茶たいむを始めた。

そろそろ桜の花も散り終え 重いコートを脱ぎ捨てる季節がやってくる。

子供たちの学校のことや博士の学会の動静・・・ 二人の話題は尽きない。

 

「 ほう・・・ それで 『 白鳥の湖 』 か。 やったな、フランソワーズ。 」

「 全幕じゃないんです、二幕と四幕だけ。 ・・・ でも嬉しいです。 」

「 毎朝熱心にレッスンに通っていた甲斐があったなあ・・・ 

 そうか・・・ オデット姫、 か。 うむ ・・・よく似合いそうじゃな。 」

博士は <一人娘> の 笑顔に目を細めている。

「 似会うかどうか・・・  でも精一杯がんばります。 こんなチャンス、もうないかもしれないし。 」

「 しっかりおやり。 ウチのことは出来る限りワシも手伝うよ。

 ・・・ もっとも急須を割ったばかりで・・・ なにも言えないがな。

 留守番やチビさんたちの相手なら ワシにも務まるぞ。

 そうじゃ そうじゃ ジョーのヤツにもっと家事をやってもらおう。 」

「 まあ・・・ ジョーはかえって喜ぶかもしれませんわ。 」

二人は顔を見合わせ 笑いあった。

「 さあ ・・・ そろそろ腹ペコ部隊が帰ってくる時間だから お昼の用意をしなくちゃ。

 う〜ん・・・どうもすばるが <しんゆう> をひっぱってくる気がするわ。 」

「 どれ ・・・ それならばワシは坊主たちの喜びそうな雑誌でも持ってこよう。 」

「 お願いします。  え〜と・・・ お結びさんにしようかしら・・・ 」

フランソワーズは エプロンを取り上げた。

  ― そして   ふんふんふん♪  またまた陽気にハナウタまじりにキッチンに立った。

 

 

 

 

    ふん ・・・・!!!

 

バサ・・・・ッ!!  シューズとニットとタオルが一緒くたになって床に投げ出された。

「 ・・・・ ふん・・・・! 」

「 な〜んだよ〜〜 タクヤ ・・・ ぶ〜たれやがって〜 」

「 ふん ・・・ ぶ〜たれてなんかいねェ  ヤル気がね〜だけさ・・・ 」

「 なんだよ〜 それ。  あと5分だぞ〜 」

「 ・・・ 知るか〜 」

「 しらねえぞ〜 遅刻厳禁、 マダムはスタジオに入れてくれないぜ。 」

「 んなこと、わかってるって。  ・・・ あ〜〜オモシロクね〜〜〜 」

タクヤは ぶつぶつ言いつつもスタジオへ出ていった。

 

   ―  バン ・・・・!

 

男子更衣室のドアがトバッチリを受けて乱暴に閉った。

「 ひゃ ・・・ アイツ、ど〜したわけ? 」

「 ああ タクヤのやつ?  ・・・例の発表会のキャストがさ 気に食わないんだろ。 」

「 え〜〜 だって確か・・・あいつ、 ドンキ だろ? 

「 んでもパートナーがさ。  ・・・ ほら タクヤはさ。 」

「 あ〜 ・・・ フランソワーズじゃねっから・・・か。 」

男子共もそれなりに・・・無駄口を叩きあうらしい。

  ― ともかく  山内タクヤ は最低のご機嫌なのだった。

 

     ふん・・・・!   なんだって俺 『 ドンキ 』 なんだよ!

     俺だってジークフリート ( 『 白鳥〜 』 の 王子 )、踊れるぞ〜〜

     フランとのコンビは マダムだって認めてくれてるのに〜〜

 

「 ちぇ・・・!  クラス・レッスンなんてウザくて受けてらんね〜な〜 」

ずりずり床をずって仏頂面で 彼は廊下を歩いている。

「 帰っちまおうかな〜 ・・・   うん? 」

反対側からにぎやかな声が響いてきた。  女子たちが更衣室から出てきたらしい。

「 だからさ、通販なら安くなるよ。 皆でまとめれば ・・・ 」

「 そうね〜  あら? おはよう タクヤ。 」

 

     ・・・・ うっわ −−−−−  この笑顔〜〜♪

     この声 〜〜〜♪ 

 

「 あ ・・・お おはよう ・・・ ふ フランソワーズ・・・・ 」

「 あら。 どうしたの、 なんだか元気がないわねえ。 風邪? 」

「 う? ・・・ そ そんなこと、ないよ。  さ レッスン、頑張ろうな。 」

「 ええ。 わたし、張り切っているのよ〜 

「 え あ ・・・ 俺もさ。 ( フランにイイトコ 見せつけるぜ! ) 」

タクヤはたちまち 爽やか系 に変身し、熱心にストレッチなんぞを始めた。

 

「 ― おはよう。  始めますよ。 」

 

初老の女性のりんとした声が響き ピアノが鳴りはじめ ― 朝のレッスンが始まった。

 

 

 

 

  びし・・・っとラストのポーズが決まる。 同時に音もぱっと消えた。

タクヤはリフトしていた女子をゆっくりと降ろした。

『 ドン・キホーテ 』 より キトリとバジルのグラン・パ・ドゥ ― 

二人ともなかなか達者に踊り終えた。

「 ・・・・うん、 悪くないわ。 二人ともなかなか息もあっているし。 」

「 え ・・・ はあ ・・・ 」

「 ・・・ はい ・・・ 」

「 このままもっと踊り込みなさい。  ああ  ユミ、ヴァリエーションでねえ・・・ 」

芸術監督のマダムは 二人のダンサーにそれぞれいくつかの注意を与えた。

「 じゃ・・・ 自習しておいて。  次のリハーサル、楽しみにしているわ。

 お疲れさまでした。  」

「「 ありがとうございました! 」」

汗だくのダンサー二人は ぺこ・・・っとお辞儀した。

 

    ぼとぼとぼと・・・・

 

大粒の汗が 床に落ちる。

 

「 あ・・・は・・・・タクヤさん ありがとうございましたっ 」

「 い いや・・・ ユミちゃん、上手だから。 俺 全然楽だったし・・・ 」

「 あの! どんどん言ってください! タイミングとか ・・・ なんでも。 」

「 あ うん・・・ ま、このまま踊りこんでゆこう。 」

「 はい!  ・・・お疲れさまでした。 」

「 あ〜  おつかれさま・・・ 」

タクヤは軽く挨拶をして スタジオを出ていった。

リハーサルは ・・・ 上手くいった。

彼自身、 『 ドンキ 』 のバジルは得意な演目だったし、パートナーのユミは優等生だ。

ヴァリエーションも コーダの32回転も ほとんど難なくこなしていた。

問題は ない  ― けど、オモシロク・・・もない。

 

    ま・・・ 楽勝、かな・・・

    あとは ・・・ 感情表現をちょっと・・・か。

 

「 ふう ・・・ 」

無意識に溜息が出てしまう。  決してユミに失望したわけでも疲れたわけでもないのだが・・・

「 ―  退屈そうね、 タクヤ 」

「 ? マ  マダム・・・? 」

突然声をかけられ ぎょっとして振り向く芸術監督のマダムが笑っていた。

「 え・・・あ ・・・ あの その・・・ 」

「 ふふふ・・・暴れ足りない?  それじゃ ・・・ひとつ、手伝ってくれる? 」

「 え・・・ あ はい。  俺ができることなら・・・ 」

「 これは君の勉強にもなると思うわ。  キャラダン ( キャラクター・ダンス ) なんだけどいいかしら 」

「 へ・・・? 」

「 『 白鳥〜 』 組でね  ロットバルト、やってくれない? 」

「 ・・・ へ??? 」

「 タクヤはプリンシパルばかり踊っているでしょ。  たまにはこういう役も  ・・・ え? 」

「 あの!  お オデット・・・・ ふ、 フランソワーズ ですよね?! 

「 ええ そうよ。  彼女 どんなオデットを踊るかしら楽しみなの。 どう、やってくれる 」

「 ・・・・!!!!!! 

タクヤは声も出せずに ただやたらとぶんぶん・・・首を縦に振っている。

「 あら おっけー? うれしいわあ。  それじゃ・・・スケジュールは後で事務所に寄ってね。

 リハには 『 白鳥〜 』 の組が固まったら参加して? 」

「 ・・・ はい・・・!!!  お願いしますッ !! 」

「 はい お願いね・・・  あら? 

次の瞬間 タクヤは回れ右! して スタジオに戻っていった。

 

    ―  ひゃっほう〜〜〜 !!!

 

なんだか奇妙な声と バンバン飛び上がる音が聞こえてきた。

「 ・・・あらあら。  うふふふ・・・ これは楽しみだわね〜 」

マダムはクスクス笑いつつ事務所に消えていった。

 

 

 

  ― ばたん ・・・!

 

玄関のドアが盛大な音と一緒に開いた。

「  ・・・ ただいまッ!  ああ〜〜遅くなっちゃった・・・ あら? 」

フランソワーズは大荷物 ― レッスンバッグにスーパーのレジ袋がふたつ ― を持ったまま

玄関に佇んでいた。   大きな靴が 端っこに脱いである。

「 ジョー・・・ 帰ってきているの?? 」

疲れた顔をぱっと輝かせ フランソワーズは靴を脱ぎ飛ばした。

「 ― ジョー!  お帰りなさ〜〜い! 」

 

 

「 早かったのね、嬉しいわ・・・ ! 」

「 うん、たまにはね。  ―ただいま フランソワーズ・・・! 」

「 お帰りなさい・・・ジョー・・・」

二人は陽射しいっぱいのリビングで あつ〜〜〜く抱き合い <お帰りなさいのキス> を交わす。

子供達は 遊びに出てまだ帰っていない。

「 ・・・ うん?  チビ達は・・・」

「 ええ ・・・ もう飛び出していったきり、よ。 大丈夫、お腹が空けば帰ってくるわ。 」

「 あは そうだね。  きみもお疲れさま・・・ 」

ジョーはもう一度 ちょん・・・っと愛妻の唇にキスをした。

「 うふ・・・  ホントは疲れていたけど・・・ジョーのキスで治りました♪ 」

「 うふふふ・・・・ また舞台が近いのかい。 」

「 そうなの♪  ねえ 聞いて? 今度はねえ、オデットなの♪ 」

「 ・・・ オデット・・・ って・・・ あ 『 白鳥の湖 』 の? 」

「 そうよ〜〜 主役なの♪ ・・・でも全幕上演じゃないし発表会なんだけど。 」

「 うわ〜〜 やったね! 」

ジョーはひょい、と彼女を抱き上げた。

「 きゃ・・・ うふふふ・・・わたしもすごく嬉しいわ。 」

「 うん うん ・・・ きみの夢の実現だね。 よかったなあ・・・ 」

「 まだまだ第一歩よ。 本公演じゃないし。 二幕と四幕だけだけど・・・ 」

「 でも 主役 だろ♪  すごい すごいよ〜〜 フラン♪ 」

「 ジョー ・・・ ありがとう♪ ジョーに祝ってもらうのが一番嬉しいわ。 」

「 フラン ・・・ 」

「 ・・・ ジョー 」

二人はそのまま・・・もう一回キスを交わす ・・・

 

      「  ながいね〜〜〜 」

      「 ウン ・・・ まだかなァ〜〜 」

 

戸口からチビっこの声が聞こえてきた。

「 !? やだ・・・すぴか  すばる・・・ 」

「 あ・・・ や  やあ・・・ おかえり・・・ 」

子供たちの声で 二人はやっと身を離した。

「 お父さん!  おかえり〜〜〜!!! 

「 おかえり  お父さん〜〜!!! 」

「 ただいま〜〜 すぴか すばる! 」

双子の姉弟は 父が広げた両腕にぱ・・・っと飛びついた。

「「 うわ〜〜〜い ♪♪ 」」

 

 

その日の晩御飯は家族皆がたくさんお喋りして、 たっくさん食べ 笑顔と御飯でお腹いっぱいになった。

「 ・・・・ ほらほら あなた達。 もうお休みなさい。 」

「 う〜ん・・・まだねむくないも〜ん ・・・ 」

「 ふぁあ〜・・・・ ね ねむくない〜 おとうさ〜ん・・・ 」

子供たちはソファの上でジョーの両脇にひっついて こっくりこっくりし始めていた。

「 ああ ああ ぼくが寝かせてくるから。  さあ 二人ともお休みたいむだよ。 」

「 う・・・ う〜ん ・・・ 」

「 ねむ ・・・ くなんかない・・・ 」

ひょい、と二人を抱え上げ、ジョーはたちあがった。

「 さ・・・ おかあさんにお休みなさい、して? 

「「  おかあさん・・・・ おやすみ  なさい ・・・ 」」

「 すぴか すばる。  はい、 お休みなさい〜 」

「 じゃ・・・ チビたち、寝かせてくるな。 」

「 ええ お願いね。 」

 

 

はしゃぎすぎ、チビ達が早めに沈没したので 二人の夜 はゆっくりとした時間になった。

 

「 ・・・ ジョー、お茶 いかが・・ 」

「 うん あ ・・・ ありがとう。  ・・・ まだまだ温かい飲み物はいいな。 」

「 そうね。  日本茶って美味しいのねえ・・・ わたし やっと判った気がするわ。 」

「 お? すごいぞ。 そういえば初めの頃は 砂糖をいれる〜、って言ってたなあ 」

「 そうよ、 <苦い>って知らなかったから。 

「 ふふふ・・・ きみも大人になったということだな。

 そうだ・・・ それで今度の舞台・・・ パートナーは・・・・ アイツかい。 

「 え? アイツ? 」

「 うん ほら・・・・例のアイツさ。  ・・・ きみがよく組むやつ・・・ 」

「 ?  ・・・ 誰のこと?   今度の王子様はねえ、ベテランの先生なの。

 海外のカンパニーで踊っていた有名な方よ。

 わたし、まだ全幕もの主役踊ったことないでしょ。 経験の多いパートナーに助けてもらうのよ。 」

「 ふうん・・・ そっか♪  うん いいことだな。 」

「 ?? なあに、嬉しそうに・・・ おかしなジョーねえ。 」

「 いやなに・・・  うん、白鳥はきみに相応しいよ♪ 」

「 ??? ・・・ あのね、タクヤも一緒に踊るの。 」

「 え・・・! だって今・・・王子は他のベテランさんだって・・・ 」

「 ええ 王子は ね。   タクヤはロットバルトもやってもらうのよ。 」

「 ・・・ ろっとばると?? なんだ それ。 」

「 悪魔よ。 」

「 あ ・・・ あくま ・・?? 」

「 ええ そう。  あのね、『 白鳥の湖 』 ってね。

 オデットは悪魔のロットバルトに魔法をかけられ白鳥の姿にされてしまったの。

 夜だけ魔法が解けて人間の姿にもどれるのよ。 」

「 へ ・・・ え・・・・・? なんか  すげ〜 ファンタジー・・・ 」

「 そう?  それでね、真実の愛を誓う若者だけがその呪を解くことができるのよ。 

 一度は愛を誓った王子も ・・・ 騙されて裏切ってしまうのね。 」

「 裏切る? ふん・・・ とんでもないヤツだな! 」

「 まあ ねえ・・・ オディールって悪魔の娘がね、オデットにそっくりで・・・

 誘惑に負けて花嫁に選んでしまうの。 

「 とんでもないヤツだな!! そんなヤツは見限ったほうがいいぞ。

 うん、そういう手の早いやつと一緒になると一生苦労するからなあ・・・ 」

「 あら・・・ わかったようなこと、言うのね ジョー。 体験済み? 」

「 い ・・・ いや そんなまさか・・・

 い いや しかし だな!  <真実の愛> かあ。  アニメみたいだなあ・・・ 」

「 アニメ??  そういうお話があるの? 

 まあ それでね、 四幕で 王子とロットバルトは対決するの。 」

「 へ・・・え〜〜〜 すげ・・・ 」

「 それでね、王子が悪魔・ロットバルトを倒して・・・ オデットとめでたし・めだたし になるわけ。

 多分 ・・・ ロットバルトもオデットを愛していたのよね。 」

「 ・・・え!??! なんだって? 」

「 ?? そんなに驚くこと? 

 だって好きだから捉えて魔法をかけたわけでしょ。 」

「 ・・・ う ・・・む・・・・ そうか〜・・・・ 」

「 やだわ、そんなに感心しないでよ。  それでね・・・ 」

「 ・・・ 悪魔 か。  うむ・・・ぼくのフランに横恋慕とは・・・ 許せん・・! 」

ジョーの愛妻はなにやら楽しそうに語っているのだが、もはや彼の耳には入ってこない。

  悪魔と王子・・・ 悪魔・ろっとばると は フランソワーズ ( 扮するオデット姫 ) に横恋慕

ひたすらそのことだけが ジョーのアタマの中を駆け巡っている。

 

島村ジョー氏は奥方の仕事に <理解> はあったが <関心> はなく・・・

従って当然 バレエの作品については疎い。

細君の舞台を観にいっても、じ〜〜〜っと見つめているのは愛しい妻♪ だけなのである。

 

 

    ・・・うむ〜〜  アイツ・・・ <仕事>だからって大目にみてやっていたのに・・・

    ゆ 許せない!!  ああ ぼくは絶対に・・・

 

ジョーはもちろん タクヤとフランソワーズが <仕事上の付き合い> だということは承知している。

彼の愛妻が タクヤのことを踊りのパートナーとして大切にしていることも・・・

だけど。   タクヤがフランソワーズに惚れていることもそこはオトコ同士、一目で見抜いた。

ジョーはフランソワーズを信頼しているから妙な勘ぐりはしなかったけれど・・・

    けど。  

こと彼女のことになると理性ふっとびの滅茶苦茶ヤキモチ妬きなのだ。

よって  ―  タクヤの存在はジョーにとって滅茶苦茶フクザツなものになっていた。

 

「 そうだよ・・・!  ぼくがだったら。  ぼくが王子だったら・・・ 

ジョーの目はリビングの中空に固定され ・・・彼の視界にはいつの間にか湖をのぞむ森が見えていた・・・!

 

 

「 ・・・ オデット姫・・・ 姫・・・ ? 

高貴な身なりをした若者が足早にやってくる。

小暗き森をぬければ 目の前はさあ・・・っと開けて月の光に輝く水面が見える。

「 ・・・ そう、この道だった・・・ 姫! オデット姫〜〜 」

小路には木々の枝が張り出し王子の腕やら脚にひっかかり、足元には蔓草が絡みつく。

「 くそ ・・・  ぼくは敵じゃないのに・・・  邪魔しないでおくれ・・・ 」

若者は セピアの髪に月光をとまらせやっと湖の畔に出た。

「 ああ ・・・ ここだ。  オデット?  どこいるんだい? 」

あちこち見渡すが オデットの、いや 白鳥たちの姿すら見あたらない。

 

「 ・・・ そうか。 ぼくは裏切りモノだからな・・・ 怒っているのかい・・・

 いや・・・ こんなやつのことは見捨ててしまったのか・・・ 」

王子は 重い溜息をつきやるせない想いで湖を見回す。

「 こんなぼくを・・・許してくれるのなら。  どうか姿を見せてくれ・・・ オデット姫・・・ 」

岸辺の葦原をみつめつつ彼は呟いた。

 

    ・・・・ 王子さま ・・・・

 

「 ?!  ・・・オデット姫 ! 」

ジョー・・・いや王子が振り返ると 彼女が淋し気な笑みを浮かべて立っていた。

「 王子さま ・・・・ お待ちしておりました・・・  」

「 オデット姫・・・! 」

王子はつかつかと彼女に歩みより、 そっと手をとった。

「 姫 ・・・ どうぞぼくを信じてください! 」

「 ・・・ 王子さま ・・・ あなたは。 あのオンナに真実の愛を誓っておしまいになりました・・・

 もう・・・ ダメです、呪を解くチャンスは 失われてしまいました。 」

「  そ ・・・ そんな ・・・  姫 ・・・ 」

「 王子さま ・・・ 」

ジョーは彼女を抱きよせ亜麻色の髪をそっと撫でる・・・

「 すまない・・・ぼくが ・・・ ぼくが・・・ 」

「 ・・・ 王子さま ・・・ もうご自分をお責めにならないで・・・ 」

二人はよりそってゆっくりと湖の汀を歩いてゆく。

「 オデット姫 ・・・  ぼくにできることはもう・・・なにもないのでしょうか。 」

「 ・・・・・ 」

湖にはオデットを慕う白鳥の娘たち集まり、心配そうにこちらをみつめている。

「 もし。 ・・・ もし、あなたが ・・・ 」

「 え? 」

「 あなたが。 ロットバルトと戦ってあの悪魔を打ち破ってくださったら・・・ 」

「 ソイツをたおせば あなたにかけられた呪は解けるのですか。 」

「 はい ・・・ でも・・・ 」

「 でも・・? 」

「 悪魔は ・・・ロットバルトは魔王・・・ 打ち勝つのは容易なことではありません。 」

「 いや! ぼくが・・・ このぼくがかならずあなたを自由にします!

 してみせます・・・!  」

「 ・・・ ジョー・・・・!  」

「 フランソワーズ・・・! 」

 

       やるぞ !  ぼくが フランソワーズを護る ・・・!!

 

 

「 ・・・ ジョー?  ねえ どうしたの。  ジョーってば!? 」

「 ・・・ 姫 ・・・ 」

「 え?? なにを言っているの。 」

「 ・・・ へ・・・? 」

気がつくと ― ジョーの目の前に 碧い大きな瞳が心配そうに見つめている。 

当然ながら周りは 見慣れたリビングで  ・・・ 葦のしげる湖・・・は跡形もない。

 

      あ ・・・ な なんか ・・・ぼく・・・

      夢でも見てたのか・・・な・・・

 

「 ジョー ・・・大丈夫?  疲れ過ぎじゃないの。  」

「 あ・・・う うん いや。 なんでも・・・ 」

「 そう・・・・?  なんだか顔色、悪いわよ? 」

「 そ そうかな・・・ いや なんでもないさ。  なあ それよりもさ、ロットバルトってさ。 」

「 はい?? ロットバルト?? 

「 ウン  あの・・・ きみのバレエの・・・・ 」

「 ああ ・・・ 『 白鳥〜 』 の ね。 なあに、急に ・・・ 」

「 え あ ・・・・ うん ・・・ あの、その悪魔なんだけど・・・・

 ぼくは  いや! 王子はどうやってソイツを倒すんだい。 」

「 決闘するのよ。  一対一でやりあってね。 王子に羽をもがれて断末魔〜〜って♪

 ここね〜〜 ステキなの。 キャラクター・ダンサーの腕の見せどころ♪

 裏切り者の王子より よっぽどいいわあ〜 」

「 な・・・ なんだって・・・! 」

 

      そ そんな!  ぼくよりも アイツの方がいいと・・・!?

      フラン ・・・ そんな ・・・

 

「 そうなのよ〜〜  対決シーンがあってね。 ちゃんばらみたいにね〜♪ 」

「 ちゃ ちゃんばら??  だってこれ・・・バレエだろ?? 」

「 そうなんだけど。  武器とかないのね〜  ちゃんばらとも違うかしら・・・

 あ! そうよそうよ ジョーがね スカールと殴り合いの決闘したでしょ。 」

「 ・・・ 決闘・・・とは違うんだけどな・・・ 」

「 そう? でもね ほら 一対一のタイマンでね! ばし〜〜〜っとね♪ 

 来い! ボクが相手になってやる! 〜〜ってね♪ きゃ〜♪ 」

「 ・・・フラン・・・ 楽しんでない? 」

「 ええ 大好き♪  この場面はね〜 ゆっくり見れるし♪ 

 タクヤのロットバルトって きっとすご〜〜〜くステキだと思うの。

 キャラクター・ダンスなんだけど、テクニックが必要なのね〜〜

 うふふふ・・・ 自分のために王子とステキな悪魔さんが争ってくれるなんて・・・最高♪ 」

「 す ・・・ ステキな悪魔さん?? 」

「 うふふふ・・・まあ楽しみにしてて?   わたし、張り切っているの♪ 」

「 ・・・ あ ・・・・  そ ・・・・ 」

「 あらら・・・ おしゃべりに夢中でお茶が冷めてしまったわね・・・

 ちょっと淹れなおしてくるわ。  あ なにかお菓子ももってくるわね。 」

「 あ ・・・う うん ・・・ 」

ジョーはぼす・・・ん とソファに座り込んだ。

  ・・・ なんだか気が抜けてしまった・・・・

 

       ステキな悪魔さん  ・・・ だって???

       だって自分に呪をかけた張本人だろう?

 

       ・・・・ ってことは。

       フランってば ・・・ スカールのヤツとか好みなのかあ???

 

「 ううう 〜〜〜〜  」

ジョーは自分自身の妄想に妄想を重ね その妄想に呻いていた。

「 ・・・ おかしなジョーねえ・・・ ホントに疲れているのじゃなくて?

 今日は早く寝た方がいいわ。 」

「 ― え? 」

「 お風呂 沸いているから。  ・・・ ちょっと残念だけど ・・・ 」

「 フラン〜〜  なにが <残念> なのかな〜〜 」

ジョーはくい、と彼の細君の肩を引き寄せた。

「 ・・・・ あん  な なんでもないわ。 」

「 なんでもなく ないだろ。   んんん ・・・・ ぼくは元気だからね。 」

キスのついでに ジョーの手がセーターの下に忍び込む。

「 きゃ・・・だめよ、こんなところで・・・ 子供たちが・・・ 」

「 ふふん♪ 子供たちはもうすっかり夢の国だろ。  な・・・? 」

「 ・・・ もう ・・・ 仕方のない人ねえ・・・ んんん ・・・ 

 でもここじゃイヤ。  ちゃんと・・・ベッドじゃないと・・・ 」

「 んんん ・・・ わかった・・・よ  じゃ・・・ 」

ジョーはそのまま彼女を抱き上げると 足早にリビングを出ていった。

 

 

 

 

 

音楽のテンポが上がる。 優雅な舞は手は羽ばたく白鳥の羽となり ―

 ヴァリエーションのラスト ピケ・ターンでのマネージュからシェネに入り ・・・ ぴたり、とポーズを決めた。

 

  ・・・!   ふうう・・・・・

 

音が消える。  本来ならこの後に群舞の踊りが続くのだが、今は主役だけのリハーサルなのだ。

    ハア ハア ハア ・・・・

オデット姫の荒い呼吸だけがスタジオに響く。

カタン ― 芸術監督のマダムが椅子から立ち上がった。

「 ・・・ あ   あの ・・・? 」

「 フランソワーズ。 あなたがこの踊りの振りも音もよ〜く知ってることは よくわかったわ。 

 でもね あなた。 観念で踊っちゃダメ 」

「 ・・・ はい? 」

「 観念。 ああ ・・・ idee と言えばわかるかしら。 」

「 え ・・・ あ  はい。  でも・・・? 」

「 ちゃんと踊れていたわ。 ミスもなかったし音にもちゃんと合っていた・・・

 だけど。 さっきのあなたの踊りは 今 聞いている音を 今 踊っていない。 」

「 ・・・・・・・・ 」

「 ようく考えてみて。  あなたならわかると思うの。  次回を期待してるわ。

 お疲れ様。   次は パ ・ ド ・ ドゥね。  楽しみにしているわ。 

「 ・・・ ありがとうございました ・・・ 」

 

    パタ ・・・ パタ パタ ・・・・

 

スタジオの床に 水玉が沢山の模様を描いていった。

 

 

    ・・・・  idee ?  ・・・ どういう こと?

    今日の踊り方じゃ ・・・ダメなの?

 

 

 

 

かっつん   かっつん  ・・・・  かっつん ・・・

ブーツのヒールの音が 止まった。  どさ・・・っと大きなバッグが肩から落ちる。

「 ・・・ ふう ・・・・・ 

フランソワーズは ぼんやり街路樹を見上げていた。  いやただ上を向いているだけ かもしれない。

満開に近い桜から 時折ひとひらふたひら花びらが舞い落ちる。

 

      わからないわ ・・・ 

      だってあの踊りで卒業したのよ?  

      自習もして ・・・ 振りも音取りも確認したわ。 なのに・・・

 

「 せっかく・・・張り切っていたのに。  ・・・あの頃の踊り方じゃ・・・ダメなの? 」

ふうう ・・・・ またまた溜息だけが春の空にふらふらと立ち昇っていった。

「 ・・・ 踊るしか ・・・ ないのかしら。  でも無闇に踊ってもなんの解決にもならないし。

 今 聞いている音 ? 今を踊る・・・? どういうこと・・・? 」

亜麻色の髪がぱさり、と肩から落ちた。

 

「 フラン〜〜 今帰りか? 」

ポン ・・・・と背中に手が当たり、 陽気な声が一緒に飛んできた。

「 ? ・・・ まあ  タクヤ ・・・ 」

「 初回のリハ、終ったか? まあ〜フランなら問題ナシの 花マルだろ〜〜 」

「 ・・・ そんなこと ・・・ないわ。 」

「 そっかあ? ま、今日は一回目だしな。 

 オレさあ〜 もうめっちゃ張り切ってるんだ♪ 負けないぜ。 ロットバルト〜♪  」

「 ・・・ そう ・・・・ 

「 オレってさ、キャラクター・ダンスは初めてなんだけど♪

 勉強しておく最高のチャンスさ〜 なあ そう思わないか? 

「 え ・・・ ええ。  そうねえ ・・・ 」

「 だろ?  それに〜〜 王子と対決! だもんな。  

 あ ・・・ フランと踊れないのは すご〜〜〜〜く残念だけど ・・・ 」

「 そう?  ・・・ あら。 ちょっとだけ組むでしょ。  ほんのちょっとだけど。 」

「 ああ ・・・でもなあ〜〜  ま、フランと同じ舞台を踏めるんだからな。

 なあ いつか 『 白鳥〜 』 のグラン・アダージョ、二人で踊ろうな♪  」

「 ええ ・・・そうね・・・ ねえ・・・タクヤ。 」

「 なんだ?  あれ・・・フラン、なんか元気ないなァ。 リハで絞られたか? 」

「 ・・・ ううん ・・・絞る・・という段階までゆかなくて。

 あの ね。 タクヤ ・・・  聞いても いい? 」

「 おう? なんだよ。 」

「 あの ・・・ あの。  ちゃんと振りが合っていて音取りも正確なら・・・ 」

「 うん? それでいいんじゃねえの?  ダメだって? 」

「 ・・・ わからないの。  わたし ・・・ よくわからないのよ。 」

「 ?? フラン〜〜 やっぱ疲れているのじゃないか? 

 今日はな〜んにも考えないで 早寝しちゃえよ?  調子の悪い時は誰にでもあるさ。 」

「 ・・・ え ええ ・・・ 」

「 家まで送ってやりたいけど〜 オレ、これからバイトなんだ。 ごめんな〜

 途中まで一緒に行こうぜ。  あ すばる! すばる、元気かい。 ヨロシク言ってくれ 」

「 ・・・ ええ。  あの子・・・・ タクヤのファンだから喜ぶわ。 」

「 へへへ・・・ オレもすばる、好きだよ〜〜   

 フラン〜  あんましいろいろ気にするなって。  な。 」

「 そう ね。   ・・・ ねえ? オデットも・・・ ロットバルトのこと、好きだったのよねえ・・・ 」

「 ・・・へ?  あ ・・・ ああ そうかもなあ。 」

「 そうよねえ・・・ あ、タクヤはJRでしょう?  じゃ・・・また明日ね。 」

「 あ  ああ。 バイ・・・! 」

「 ・・・・・・ 」

 

      なんか・・・元気、ねえなあ ・・・フラン・・・・

      オレの気の回し過ぎか・・・

     

タクヤはしばらく彼女の後姿を見つめていたが、アタマを振って踵を返した。

「 さ〜 稼ぎに行くか。  悪魔王〜〜ロットバルト〜〜  」

 

   ― オデットもロットバルトのこと、好きだったのよね・・・

 

不意に。 彼女の言葉がタクヤの耳の奥から響いてきた。

  ― がびん・・・★

「 え・・・ それって。  オデット = フランソワーズ  も  ロットバルト = オレ様 のことを・・・

 って こと・・・か?  そうだよな?   ・・・ そうだ、そうなんだよ!! 

 ばたん ・・・!

タクヤの肩からでっかいバッグが地面に落ちた。

「 そうか!! それで悩んでいたのか〜〜  あのダンナ、きっと浮気でもしたんだぜ。

 待ってろ〜〜 フラン、 オレがお前をまるごと引き受けてやる〜〜  ふん!! 」

 

     ガシガシガシ ・・・

 

タクヤは胸を張り意気揚々と ― 舗道を歩きだした。

 

 

 

       ふんふんふん・・・・♪

 

山内タクヤはご機嫌ちゃんである。

今度の舞台、 リハーサルからどうやら <楽勝コース> のようだ。

初めて組む相手は優等生の女子、心配はいらない。 

  そして。

「 ふんふんふん ♪ まずは俺さま自身の踊りをびし!っと決める。

 そ〜して♪ ふっふっふ〜〜〜  ロットバルト〜〜〜 ♪ 」

 

    フランを奪うのだ〜〜〜  王子 ( = 茶髪ダンナ ) を倒してオデット姫を奪う!!

 

 ― その日から山内タクヤはレッスンの鬼 となった・・

 

 

 

 

 

  カチャ カチャ ・・・ カチャ・・・・

 

洗い物をする手がだんだんと遅くなる・・・ 

気がつけばフランソワーズは シンクの前に立ち尽くしていた。

 

     今 を踊る・・・って。 どういうこと・・?

 

ずっと考え続けているのに 答えはちっとも見つからない。

溜息はもうキッチン満杯になっている。

「 ・・・ いっけない・・・ はやく片付けてチビたちのオヤツ、用意しなくちゃ。 

 あら?  ・・・ 台風娘のお帰りね。 」

母が呟いたすぐ後に ―

 

   ― バターーーン ッ !!

 

「 ただいま〜〜〜!! おか〜さ〜〜ん、オヤツゥ〜〜 

甲高い声と一緒にジョーとフランソワーズの双子の姉娘・すぴか が駆け込んできた。

「 お帰りなさい、すぴかさん。  お手々洗ってウガイしてね。 」

「 うん ・・・ わかった〜〜 」

  バタバタバタ ・・・ 賑やかな足音がバス・ルームに行って ― 戻ってきた。

 

      うふふふ・・・ 本当にいつも元気ねえ・・・

 

「 おかあさ〜ん あのねえ  ・・・ あれ? どうしたの。 」

「 え ・・・ べつに どうもしませんよ。 オヤツでしょ。 ちょっと待ってね・・・ 」

「 おかあさん・・・ げんきじゃないみたい・・・ 」

「 そ そんなこと、ありませんよ。 ・・・そうね、お稽古でちょっと草臥れたかな。 」

「 そっか〜  あ、 アタシ〜〜 おせんべいがいいなあ。 」

「 はいはい。  ・・・ ねえ すぴか。  」

「 なあに  おあかさん。 」

「 すぴかが踊るとき・・・ どんなこと、考える? 」

「 え〜 アタシ?  う〜ん ・・・とねえ。  あ〜〜たのしいなあ〜〜って思うの。 」

「 え ・・・・ たのしいなあって・・・? 」

「 ウン。 おどっているときって だ〜いすきだもん。 すごくすき。  」

「  ― 踊っている時 ・・・ その時 ・・・!  」

 

     ―  今 この時を踊る・・・・ってことね・・・!

 

「 ねえねえ おかあさ〜〜ん  おせんべいはあ〜 」

「 すぴか・・・・!  ありがとう〜〜〜♪ 」

「 ??  え・・・えへへへ・・・ おかあさ〜ん いいにおい〜♪ 」

いきなり きゅう〜〜っと抱き締めてくれた母に 娘は目を丸くしたが

ちっちゃな手で母の首を抱いてくれた。

 

    ありがとう・・・! すぴか。  お母さん やるわ!

 

 

Last updated :  04,05,2011.                  index         /        next

 

 

 

 

********   途中ですが

続きます!  タクヤ君についてご存知ない方は 

拙作 『王子さまの条件』  をどうぞ。

あ・・・ 島村さんち・設定 ですので 平ゼロです〜〜