『  おでかけ  ― (2) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

       ダ ダ  ダ ダ  ダ  −−−−− !

 

 釣り船は 軽快に波を掻き分け進んでゆく。

島村さんち の お父さんと双子の子供達は釣り船の縁に並んで座っている。

 

「 わ〜〜 はや〜〜  自転車よかず〜っとはや〜  」

すぴかは 舳先近くまでにじり寄り、大はしゃぎだ。

「 すぴか〜〜 あんまり乗り出すなよ  」

「 は〜い〜〜  あ〜〜 きもちい〜〜 ね〜〜 おとうさん! 」

「 そうだねぇ  ホントに海の上は いいね 」

「 ね〜〜〜 ♪ 」

「 ・・・ おと〜さん つりは?  」

ジョーにひっついてるすばるが蚊の鳴くよ〜な声を出した。  

「 あ?  なに?  もいっかい言って〜  すばる 」

「 つり。  つり しないの? 」

「 つり?   あ〜  今ね  釣りするとこまで行く途中なんだよ。 」

「 ・・・ おさかなさん がいるとこ?  」

「 そうだね〜   」

「 ・・・ ふうん  」

すばるはあまり乗り気ではない ・・・ ように思える。

「 ね〜 ね〜〜  おとうさん! 海って  すっご〜くでっかいね〜  」

「 そうだねぇ 

「 きっとさ〜〜 おさかなさん ごっちゃりいるよね〜〜 」

う〜ん たぶん  ・・・ わかんないけど 

いっばい とれるかな〜   」

「 さあ どうかな〜   お父さんにもわかんないよ 」

「 ふうん ・・・ じゃ アタシがおしらせ しとくね  

「 おしらせ?  あ・・・ 」

すぴかは 舟端に すっくと立ち上がった そして ― 

 

    わっほっほ〜〜  おさかなさ〜〜ん   いま ゆくよ〜〜〜

 

海に向かって < 吠えた >。

「 こ  こら すぴか!  危ないよ  〜〜 」

ジョーはあわててすぴかを抱き戻す。

「 え〜〜   へ〜きだも〜ん   ひゃ〜きもちい〜  」

父親の腕の中から すぴかは大きく船べりから乗りだした。

「 こら〜〜 あぶないってば。 船が止まるまでちゃんと座っていろよ。 」

「 ・・・ ん〜〜〜 はあい ・・・ 」

すとん、と父の側に座ったが 手を伸ばしちらちら ちらちら海面に触れている。

「 手 あげて。  サメに食べられちゃうぞ? 」

「 おと〜さん。  さがみわん に サメはいません。 」

ジョーの後ろで すばるが突然意見をした。

「 あ そ そうか?  じゃ ナゾの魚 に食われたら困るだろ?

 船が止まってからにしなさい。 」

「 ・・・ はあい。 はやく〜〜〜着かないかなあ〜〜〜 」

金色のお下げを 海風に靡かせて すぴかはじっと前方を見ている。

 

  ジョーの娘  大切な大切な愛娘。 すぴかは  母そっくりな容姿を受け付いだが  

中身は  どんな時でも風に向かって すっく! 仁王立ちするよ〜な気質の持ち主なのだ。

 

     ・・・ 逞しいオンナノコ だよな   いいけどね

 

ジョーは苦笑しつつ 娘のライフ・ジャケットの裾をぎっちり掴んだ。

 

「 ・・・ おと〜さ  

ジョーの後ろから ちいさな声がする。  

「 なんだい  すばる 」  

「 僕  ・・・  さむい 」

「 さむい? ・・・ あ〜〜 じゃあ これ、着てろ。 」

ジョーは自分のパーカーを脱ぐと息子にかぶせた。

「 ん〜〜〜 あは あったか〜〜〜〜 」

「 おと〜〜さん さむくないの? 」

「 いや 全然。  お〜い すぴかは寒いかい 

「 う〜うん ぜ〜んぜん☆  ね みて おと〜さん!

 海のいろ 黒いみたい〜〜〜  

「 ああ そうだね。 深さがますと光が届きにくくなるだろ?

 だから 黒く見えるんだよ。 」

「 ふうん ・・・ 海は夜なのかなあ  」

「 いま 昼間だよ すぴか 」

「 だけどさ〜〜〜  まっくろじゃん すばる〜〜〜 」

 

きゃ〜きゃ〜 大騒ぎの中で 船はの〜〜んびり進み 沖まで出た。 

 

「 まずは この辺りで挑戦してみてや。 ほい 釣り竿とエサだよ 」

船長さん おと〜さんと双子に釣りの道具を渡して に〜んまりしている。 

「 はいっ  」

すぴかは先頭で釣り竿を 手にとった。

「 これ・・・? ど〜やるのぉ〜〜  」

エサは ファミリー向けの 粉状の餌を固めたものだった。  

ゴカイ ミミズ じゃないので ジョーは ほっとした。

「 すぴか  船長さんに教えていただきなさい。 おねがいします 」

ジョーは ぺこり、とお辞儀をした。

「 漁師さんに教わるのが 一番だよ 」

「 はいっ  せんちょうさん おしえてください 」

「 おう 嬢ちゃん。  この先に針があるからな このエサをつける。 

 あ  針に気をつけてな 」

船長さんは すぴかの側に屈みこんで指南してくれる。

「  はい せんちょうさん。 ・・・っと ・・・ えい  こう? 」

「 おう 上出来 上出来〜〜  」

「 えへ  これでおさかなさ〜〜んって やるの? 」

「 そうだよ。 え〜っと ・・・ ここがいいかな 

 坊主 ねえちゃんの隣においで 」

船長さんは すばるにも声をかける。

「 う  うん ・・・・ こ ・・・う? 」

「 おお いいぞ。 坊主もここにおいで。  二人ならんで 

 こうやって ・・・ 糸をなげる。 」

 

  ぽ〜〜ん ・・・ ぽちゃん。

 

糸をなげると、船長は子供たちそれぞれに竿を持たせた。

「 さ。 あとは じ〜〜〜っと魚が食い付くのを待つんだ。 」

「 おさかなさん たべにくる? 」

「 じ〜〜〜っと竿を持っているとな つんつん・・・って

 サカナが食い付いてくるのがわかるよ。 」

「 つんつん ? ふうん 

「 ・・・ 

すぴかとすばるは 神妙な顔で釣り竿を握っている。

 

「 お父さんは  ― お なかなか手つき いいねえ〜

 趣味は釣りかい? 」

ジョーは ちょいと曖昧に笑った。

「 のつもりなんですけど ・・・ サカナに嫌われるタチで 

「 わっはっは〜〜 そりゃいいや 」

「 あ きたっ おさかなさんっ 」

甲高い声がして すぴかがぴ〜〜んと棹を持ち上げた。

「 とれた〜〜〜  ・・・ あ あれれ? 」

針の先は ―  な〜〜んにもない。

「 あはは・・・ 嬢ちゃん しっかり食い付くまでまつんだよ 

「 エサは? 」

「 ごちそ〜さん〜 って魚が食っちゃったのさ 」

「 え〜〜〜 」

「 すぴか。 ほらエサつけるから。 もう一回やってみよう。

 今度はじ〜〜〜〜っと待ってるんだよ 

「 う〜〜 わかったぁ 」

お父さんにエサをつけてもらい もう一回、糸を海面に投げた。

「 じ〜〜〜 っと? 」

「 そうさ。 じ〜〜〜っと。  すばる? すばるはどうだい 

ジョーは自分の後ろで棹を握っている息子に声をかけた。

「 ・・・ おさかなさん まだこない 」

「 そっか〜 お父さんとこにもまだだなあ 」

「 おと〜さん じ〜〜〜 でしょ? 」

「 うんうん じ〜〜〜っと ね。 」

親子は並んで釣り糸を垂れていた。

 

  あ〜〜〜 にげちゃったあ〜〜   あ まってまって〜〜〜

 

その後も せっかちなすぴかは 魚がしっかり食いつく前に 竿を上げてしまい

エサを喰い逃げされ続けた。

 

「 あ〜  また にげちゃったあ〜  」

「 ふふふ すぴか もっとじ〜〜っと 」

「 まってるもん!  あ〜〜 アタシ おサカナさんにきらわれてるのかな〜

 ね〜〜 おとうさんは ? 」

すぴかは 釣り竿をあげてジョーの手元を覗く。

「 おとうさん つれた? 」

「 あはは お父さんもぜんぜんダメさ。 

「 え〜〜  じ〜〜っとまってるのに? 」

「 ウン。 お父さんもね どうやらお魚さんにあんまし

 好かれていないらしいだ。 」

「 ふ〜〜ん アタシといっしょだね〜〜 」

「 そうだねえ  すばる? どうだい 」

父は息子の手元を見る。

「 ・・・ ん  なんか ぐ〜〜〜 って 」

「 ぐ〜〜? 」

「 おさかなさん いるのかも ・・・ 

「 え〜〜〜〜 すっげ〜〜〜  ねえ くるくる〜〜〜ってやりなよぉ 」

すぴかの方が興奮し きゃいきゃい言っている。

「 ・・・ ん ・・・  」

「 ちょっと貸してごらん?   ・・・ あ〜〜〜 引いてるねえ

 こりゃ くるくるしても大丈夫かもしれないよ 

「 ・・・ ん ・・・ おもいんだ ・・・ 」

「 重い? お〜〜〜 オオモノかもな 

 よし お父さんが手伝うから  すばるはしっかり棹を握ってるんだよ 」

「 ウン 」

「 ん〜〜〜〜〜 」

ジョーは息子の棹のリールを巻いた。

「 あ!!! なんかついてるっ  なんかいるよ〜〜〜   

すぴかが船端から乗り出し海面を見つめている。

「 こ こら すぴか。 あんまり乗りだしたらあぶないよ〜〜〜

 すばる しっかり棹、持ってろよ〜〜 」

「「 うんっ 」」

 

   きゅる きゅる きゅる〜〜〜〜

 

リールが巻かれてゆき もわ〜〜〜〜・・・っと なにかが海中から

吊り上げられてきた。

「 はあああん?  あ〜〜〜 こりゃ  」

後ろから見ていた船長さんは さっと網を持ってきた。

「 さ おとうさん、 これで掬うから イッキに巻いて。 

「 は はい っ  ん〜〜〜 」

 

   きゅるるる〜〜〜〜   ざぱっ   ばしゅ。

 

船長さんが差し出した網に なにか うにゃん・・・としたモノが入った。

「 あ〜〜 ははは  こりゃ 大漁だよ 坊主。 

「 ???  ・・・ それ おさかな?? 」

「 おさかな ・・・ ? 」

すぴかもすばるも 目をまん丸にして見つめている。

「 タコだ。 

「 たこ? 

「 そうさ。 へえ〜〜  ここいらでタコがとれるのは珍しいぜ 

 

   ざっぱん。  タコは網からバケツの中に移された。

 

「 たこ〜〜〜  いち に さん ・・・ あ ホントにあし、八本ある〜〜 」

「 ほんとだ〜〜 はっぽん!  かわいい ・・・ 」

チビたちはもう夢中でバケツの中を見つめている。

 

     うん?  あ ・・・ これはマズイ〜〜

 

ジョ―は慌てて二人の間に入った。

「 すぴか すばる。  これは ウチでは飼えないからね! 」

「「 え 〜〜〜 」」

「 あはは  コイツはさっと茹でて酢味噌かワサビで食うのが一番さ 」

船長さんは 大笑いだ。

「 た  たべる?? 」

「 おう。 取れたては最高に美味いぞう〜〜 」

「 ・・・・ 」

「 すばる? なにをするんだい 」

「 すばる〜〜 」

すばるは タコの入ったバケツをうんうんいいつつ 運びだした。

「 ・・・・・ 」

彼は顔を真っ赤にしつつ バケツを船端まで持ち上げると ―

 

   「  たこさん !   にげて 〜〜〜〜 」

 

 じゃば〜  ザザザ 〜〜〜   すばるはタコを波間に返したのだ。

 

「 あ〜〜 すばる ・・・ せっかく釣ったのに 」

「 ・・・ タコさん おウチにかえるって 」

「 ははは キャッチ & リリースか。 まあ いいよ 坊主。 

船長さんは笑って くしゃり、とすばるのアタマを撫でてくれた。

「 次は魚つれるといいな〜〜〜 」

「 どうも すいません。 

「 いやいや ・・・ お〜〜 そろそろ昼飯にしようか。 」

「「 わ〜〜〜〜 おべんと おべんと〜〜〜  」」

子供達は もうはしゃぎ始めている。

「 おう そうだね。 それじゃ ・・・

 あ すぴか すばる。 クーラーボックス、 持ってきてくれ 」

「「 はあい  」」

双子は協力してクーラー・ボックスを運んできた。

「 では〜〜 っと 」

 

 パチン と フタを開け ― 昼食を取り出した。

 

「 ほら お母さんのお弁当だよ 〜〜  すぴか  すばる 」 

「 わあ〜〜〜い  おべんとう〜〜〜 」

子供たちはお弁当のつつみを受け取り、大喜びだ。

お握りとオカズの入ったお弁当箱、そして 水筒には冷たい麦茶。

海苔で包んだお握り に 弁当箱の中身は卵焼きに手製ハンバーグ、

きんぴらごぼう ほうれん草ののりまきだ。 プチトマトも入っている。

「「 いっただっきまあ〜〜〜す  」」

子供たちは 満面の笑顔でお弁当を食べ始めた。

「 ふうん ・・・ お父さん、あんた いいおかみさん、もってるねえ 」

船長さんは やたら感心している。

「 あは ・・・ 」

「 弁当、手作りだろ? 早起きしてつくったんだな〜

 嬢ちゃんも坊主もちゃ〜〜んと挨拶ができるし ・・・ うん、たいしたもんだ 」

「 はあ〜〜 フランの、いや ウチの弁当はウマいです。 」

「 お〜〜 このぉ〜〜 ま いいや。 俺もウチのかあちゃんの弁当が

 世界一 って信じてるぜ。  おっと〜〜 俺も弁当、食うかな 

 うん 食後に もうちっと沖に出よう。 < お魚さん > が

 いるかもしれね〜からね 」

に〜〜んまりして 船長さんは操舵室に入っていった。 

「 おと〜さ〜ん おべんと、おいし〜よ〜〜〜 」

「 たまごやき♪  おいし〜〜〜 」

子供たちが呼んでいる。 ジョーは自分の弁当を持って二人の間に座った。

「 お〜〜 お父さんも食べるぞ〜〜  いただきます。 」

ジョーも背筋をのばし、手を合わせてから包みを開いた。

「 ね ね〜〜〜 きんぴらごぼ〜〜 おいし〜よね〜〜 」

「 たまごやき おいし〜〜よね〜〜〜  

「 うん 全部 美味しいよ。  むぐ むぐ 」

「 バリバリ もぐもぐ 

「 もぐもぐ〜〜〜〜 」

 

 

 ―  その頃  ギルモア邸の地下・ラボでは。

 

博士は もう一度降りてきて モニター画面と003の顔色を確かめた。

「 ふむ ・・・ 安定しているな。 顔色もいい・・・

 このまま 静かに休んでいてもらおう。  夕方には元気になってほしいでな 」

 

    す〜〜 ・・・ す〜〜〜 ・・・

 

彼女の呼吸は安定し モニターに映し出される様々なデータはどれも正常値を

示す。

「 よし。 」

博士は全ての機器を取り去った。

003は、 いや フランソワーズは ごく普通にベッドで休んでいる・・・

といった様子になった。

「 ゆっくりお休み。 ・・・ 照明を落としておこう。 水は あるな ・・・

 うむ そうじゃ 音楽も流しておくか  」

メンテナンス・ルームは ほの暗くなり低くクラシック音楽が流れだした。

「 これでいいかな。 そうじゃ 空調も外の空気を取り入れよう・・・

 せっかくの晴天じゃ 風だけでも感じられるといいが 」

幾つかの操作をし 静かに部屋を出ていった。

 

   ふわ 〜〜〜 ・・・・  

 

今までとは少しちがう色の空気が流れる。

ベッドの中で 003の表情がすこし変わった ― 

 

     あ  ああ  いい気持ち ・・・

     皆 どうしてる?   おでかけ、楽しんでいる?

 

     ・・・ あ  ・・・ 海 ・・・

 

     まあ お昼なのね お弁当・・・

     ふふふ  美味しい?   よかった・・・・

     あ すばる! ぷち・とまと 食べてね

     すぴかさん、 きんぴらごぼう、 好きね

 

     ジョー ・・・ お願いね ・・・

 

 

 

          ぴっちょん。  

 

 

眠りに落ちたフランソワーズの枕元では グラスの中で赤い金魚が跳ねた。

 

 

 

 

 

 さて 釣り部隊は ― お昼ご飯の後、もうすこし沖に出た。

 

   ざ〜〜っぷん。  波が釣り舟の腹を洗う。

 

「 さ〜〜〜 さっきよか < お魚さん > いるはずだよ〜〜

 嬢ちゃん 坊主、 おと〜さん  ガンバりな〜〜〜 」

船長さんは 船を止めると 島村さんふぁみり〜 を激励した。

 

「 はいっ !! 

すぴかはもう 滅茶苦茶に張り切っていて早速エサをつけ

船長さんに釣り竿をセットしてもらう。

「 さ。 じ〜〜〜っと待つ。 いいな 嬢ちゃん 

「 はいっ  じ〜〜〜〜〜〜 っと まつ 

すぴかは 真剣な顔で釣り竿を握り船べりに座り込んだ。

「 すぴか がんばれ〜〜〜 お父さんもがんばるぞ〜〜

 さ すばる。 こっちで釣るかい? 」

「 おと〜さん  僕、 すぴかのとなりで つる。 」

「 お そりゃいいな。 じゃ ここで ・・・ ほら。 」

ジョーはセットした釣り竿をすばるに持たせた。

「 うん。  お父さんは? 」

「 お父さんは こっち側で釣ることにするよ。

 こっちにもお魚さん いるかな〜〜〜 」

「 おと〜さん  きょうそうだね〜〜〜 」

「 つりきょうそう〜〜〜  」

「 さあ どうなるかな?  お母さんにお土産 持ってかえれるように

 皆で がんばろう〜 

「「 うんっ !! 」」

父と子供たちは 真剣な顔で釣り竿を握るのだった。

 

 

  ぽっちゃん ぽっちゃん 〜〜〜   穏やかな波が船べりを撫でてゆく。

 

  さわさわ〜〜〜〜〜〜       心地よい風が船の上を通ってゆく。

 

 

「 〜〜〜〜〜 ・・・・ きもちい〜〜な〜〜〜〜

 チビたち  釣れてるかなあ ・・・ ふぁ〜〜〜 なんか眠くなってきたよ 」

ジョーは ぼわぼわ〜〜欠伸をした。

 

   ちゃぽ ちゃぽ ちゃぽ ・・・ 海は鏡みたいに平たくなっている。

 

  サ 〜〜〜〜〜〜〜〜   突然 一陣の風が吹き抜けて ―

 

    あっ ・・・  僕のぼうし〜〜〜

 

緑のリボンがついた麦わら帽子が ふわ〜〜〜・・・と空中に舞い上がった。

 

「 !  アタシ つかまえるよ 〜〜〜 

すぴかが 船の上で飛び跳ね始めた。

「 こ こら〜〜 すぴか  お父さんが取るから 〜〜  

「 アタシ とれるよ〜〜〜  え〜〜い っ  !  」

すぴかは ふわふわ漂っている帽子にむかってジャンプし ― 

 

         じゃっぽ〜〜〜ん ・・・  !!!

 

「 あ!? 」

「  !  すぴか〜〜 もう〜〜 あのお転婆があ〜〜  」

ジョーは即行ですぴかを追って海に飛び込んだ。

「 お父さん !  ムスコは任せろ。  ほれッ 」

船長さんは すぐに浮き輪を投げてくれた。

「 〜〜〜 」

ジョーは ちょいと手を振りすぴかが落っこちたところに潜った。

「 ・・・・ ! 」

すばるは船端で凍り付いていたが たっと乗り出すと海に向かって叫んだ。

 

「 ・・・ き〜すけ!  すぴか たすけて〜〜〜 き〜すけ ! 」

 

  ぴちゃん !  

 

海面で小さな赤い魚が跳ねたのを見たのは すばるだけだった。

 

「 すぴか〜〜〜 どこだ? 」

ジョーがくるり、と海中に潜った。

泳げるはずのすぴかだが いきなり海に落ちたのだ。

すぐに泳ぐのは多分 無理。 ぶくぶく沈んでいるに違いない。

ジョーは海中に目を凝らす。

 

    どこだ〜〜〜  すぴか〜〜〜  ・・・ ん?

 

ジョーの前を 赤い小さな魚が つい・・・っと横切る。

そして すぐにもどってきてまた先にゆく。

 

   ・・・ こっちへ来いってこと か・・??

 

   ジョー ・・・ !

 

ジョーのココロに愛妻の声が聞こえた。

脳波通信 ではない。 彼の心に直接響くのだ。

 

「 ??? フラン? フランか?? 」 

 

   ジョー  すぴかのいる座標を送るわ!

 

「 どうしてわかるんだ?  いや いまはそれどこじゃないっ 

 ん〜〜〜  サンキュ   」

009は瞬時に現在位置と送られてきた座標を重ね すぴかの落ちた方向に

全神経を集中した。

「 ・・・・  みつけたっ ! 」

彼は全力で接近した。

 

     すぴかっ!!!  しっかりしろっ

 

ジョーは すぴかをひっつかむとすぐに浮上した。

 

    ザバ 〜〜〜〜  船は案外近くにいた。

 

「 〜〜 よかった!!!  ほら 

船長さんは ロープを投げてくれ腕を伸ばした。

「 は  ・・・ あ ども ・・・ すぴかを 」

「 ほい。 嬢ちゃん ほらもう大丈夫だよ 」

差し出したすぴかを 船長さんはずず〜〜っと抱き上げ船の上に持ち上げた。

「 ああ 怖かったね・・・ でも もう大丈夫だよ 

 おっと おと〜さん  ロープにつかまりな 」

「 あ  ありがとうございます 〜 」

ジョーは ロープに捕まるフリをし さっと船端を乗り越えた。

「 ふう ・・・ 」

「 大丈夫かい? 」

「 ええ ・・・ ああ 助かった ・・・ 」

「 すぴか〜〜〜〜 

すばるが飛んできた。  自分のりゅっくの中からタオルをひっぱりだして

すぴかのアタマから掛けた。

ガタガタ震えているすぴかを すばるは一生懸命タオルで髪を拭いてやっている。

「 ・・・・ うう・・・  」

「 さむい? しゅ しゅ しゅ〜〜〜〜 ってふくよ 

 あ しゃつ、きがえよ?  ぱんつも ・・・ 

 僕 たおるでかくしてあげるから ね 」

「 ・・・ う  うん ・・・ 」

「 あ おと〜〜さん!  おと〜さんも しゃつ と ぱんつ きがえて!

 いつまでもぬれたの きてると かぜ ひきますよ〜 」

「 あ ああ  ありがとう すばる  」

すばるは すぴか と お父さんの間を行き来し、かいがいしく世話をしている。

「 ・・・ ふぁ 〜〜〜  」

やっとすぴかが ほっとしたみたいな声をだした。

「 すぴか? どしたの   きもち わるい? 」

「 う ううん ・・・ だいじょうぶ ・・・ 」

「 すぴか 僕のしゃつとぱんつ もはいていいよ?

 もうさむくない? 」

「 ・・・ う   うん ・・・・ だいじょぶ ・・・ 

「 よかった〜〜 あ おと〜さん?  ぱんつ もかえなくちゃ だめだよ? 」

ほら。 と すばるはお父さんのリュックの中から シャツやらタオルをだす。

「 あ ・・・ありがと すばる ・・・ 」

ジョーもびしょくたである。

「 いやあ  お父さん あんた、すごいね〜〜

 即行で飛び込めるヤツって そうそういないよ  嬢ちゃんは大丈夫だな

 ほとんど 水も飲んでないから  」

「 いや  もう・・・ お転婆が・・・ すいません 」

「 いやいや  ほら 嬢ちゃん これ・・・ 飲んであったまりな 」

船長さんは あつ〜〜〜いココアを淹れてきてくれた。

「 ・・・ ん ・・・ ありがと ・・・ 」

「 あ あ〜〜 よかった・・・  すぴか〜〜〜〜〜 」

タオルにくるまってまだ震えているすぴかを ジョーは きゅう〜〜〜っと抱きしめた。

「 おと〜さん ・・・ ごめんなさい 」

すぴかが ちっちゃな声で言った。

「 い〜よ い〜よ  すぴか〜 

「 わ〜〜〜 すぴか〜〜 」

すばるがも抱き付いてきた。

「 ・・・ ・・・ ! 」

ジョーは 子供達を両手でしっかりと抱いた。

 

「 すばる ・・・ 」

「 なに すぴか 」

「 あの ね  ありがとう っていってね  き〜すけ に  」

「 うん?   うん!!!  言っとくね〜〜〜 」

「 おねがい ・・・ 海のなかでね ずっとそばにいたの 」

「 あ〜〜 そうなんだ? 」

「 うん ・・・ だから アタシ こわくなかった  ありがとうって言ってね 」

「 うん♪  き〜すけ よろこぶよぉ〜〜 

「 うん ・・・ 

「 すばる。 お父さんからもお願いするよ。 」

「 ?? 」

「 ありがとう って言っておくれ。 

「 おと〜さんも き〜すけ にあったの? 」

「 うん  あれは  うん 多分 いや 絶対に そうだよ。」

「 わ〜〜い き〜すけ〜〜〜 ありがと〜〜〜 」

すばるは 空にむかってにこにこしていた。

 

 

船長さんにさんざんお礼とお詫びをして 島村さん達は船を降りた。

すぴかは お父さんにおんぶしてもらって帰って来たが 

お家の前の坂道の下で つんつん・・・・ お父さんの耳を引っ張った。

「 おと〜さん。 おりる 」

「 え 大丈夫かい?  」

「 へ〜き アタシ 元気だもん。  さ すばる いこ 」

「  うん すぴか! 」

二人は手をつなぎ えいほ えいほ ・・と坂道を登ってゆく。

「 お 元気だなあ  お前たち 」

お父さんは   にこにこ・・・付いてきてくれた。

 

  

 

結局 今回も獲物は ゼロ。

クーラーボックス には びしょくたのTシャツにパンツにタオル。

  でも  みんな 元気   みんな 笑顔。

 

「 お帰りなさい  ジョー すぴか すばる 〜〜〜 」

お母さんは 門のところに立っていた。

「 わ〜〜 おか〜さん ただいま〜〜〜 」

「 ただいま〜〜〜 おか〜さ〜〜ん 」

迎えてくれたお母さんの笑顔で  み〜〜〜んな もっともっと笑顔。

 

「 ただいま。 ( 元気そうだね。) 」

「 お帰りなさい。 ( ええ ばっちり ) 」

お父さんとお母さんは 門であつ〜〜く抱き合った。

「 あのね おか〜さん 」

「 なあに すばる。 」

「 僕 き〜すけ にありがとう、してくるね 」

「 アタシも ! 」

「 お父さんも行くよ。 き〜すけのお墓参りさ。 

「 わあ〜い 」

三人は 先に裏庭にまわった。

「 あらあら ―  それじゃ お参りを済ませたら 手を洗って?

 美味しい〜〜〜 ご飯 で〜す。 」

「「 わあ〜〜い 」

 

        元気で 笑顔で 帰ってくるまでが   おでかけ  ですって。

 

 

 

*****************************    Fin.    ****************************

Last updated : 06,19,2018.                     back     /    index

 

 

***************   ひと言  ***************

釣り は 全くの素人 ってか たった一回 行っただけ

ですので デタラメ個所多々あるとおもいますが〜〜

どうぞ 御目こぼしくださいませ  <m(__)m>