『 おでかけ ― (1) ― 』
***** お馴染み 【島村さんち】 シリーズ *****
「 わ〜〜〜い おと〜さ〜〜ん はやくぅ〜〜〜〜 」
すぴかが玄関で喚いている。
「 アタシ じゅんび おっけ〜〜。 しゅっぱつじかん まで あとぉ
えっと ・・・ 10ぷんっ 」
昨日 おじいちゃまから貸してもらった腕時計を 得意気に読み上げる。
「 はいはい すぴかさん。 ちょっと待ってね。
お父さん 今 食後の歯磨きしてるから 」
お母さんが 玄関に跳んできた。
「 お帽子は? 」
「 ちゃ〜〜んとかぶってるもん。 すいとう おべんとう おやつ
すたんばい おっけ〜〜 」
「 まあ すごいわ。 あ タオルと着替えは? 」
「 ちゃ〜〜んと入ってるもん。 パンツとTしゃつ たおる。
あ おかあさん! 」
「 なあに すぴかさん 」
「 あのね! お父さんも ぱんつ と しゃつ もってく? 」
「 もちろんだよ 」
ジョーが ぬ・・・っと出てきた。
「 さあ おまたせ すぴか。 用意できたかい。 」
「 おと〜〜さ〜〜ん♪ うん おっけ〜〜 おとうさんは? 」
「 ぼくもオッケー。 ちゃんと ぱんつもしゃつもタオルも持ったよ。 」
「 いっしょだね、おと〜さん 」
「 うん。 ・・・ あれ? すばるは ? 」
「 え すばる いかない〜〜 って言ってたじゃん 」
「 でもね 海釣りなんてめったに行けないからさ、
一緒に行こう〜〜ってさそったんだけどね 」
「 いかない〜〜 ってずっと言ってるよ? 」
「 お母さんが 説得するはずなんだ。 」
「 せっとく ってなに 」
「 あ〜〜〜 一生懸命 行こうよ〜 って言うこと
」
「 ふうん ・・・ 」
「 だからさ もうちょい、待っていようよ 」
「 ん 〜〜〜〜 じゃ おと〜さん なわとび しよ! 」
「 お いいね〜〜 」
「 アタシ まい・なわとび もってくる!
ふっふっふ〜〜〜 アタシ なわとびめいじん だかんね〜〜 」
「 お おう〜〜 お父さんだって結構上手なんだぞ 」
「 あは まってて〜〜 」
すぴかは お母さんお手製の きょうりゅう・りゅっく を 置くと
だだだだ〜〜〜 と 子供部屋に上っていった。
― その頃 キッチンでは 母と息子が対峙?していた。
「 ・・・ だから
僕 いかない。 」
「
どうして? 楽しいわよ〜
お父さんと すぴか と いってらっしゃい 」
「
… 僕 いい。 」
「 いろ〜んなお魚 釣れるかもよ〜 」
「 き〜すけ いる?
」
「 え? 」
「
き〜すけ うみにいる?
」
「 あ あら き〜すけ
は 天国でしょ?
すばるく〜ん
釣り がんばって〜 って 空から応援してくれるわよ?
」
「 … 僕 いい
き〜すけ の おはか、おそうじ してる 」
う〜 ・・・ 冗談じゃあないわよ
小学生のムスコに 墓守 なんかやってほしくない〜〜
もう〜〜 たかがちっぽけなきんぎょ一匹じゃない!
・・・ この時点で お母さん は 完全に息子のことを侮っていた・・
「 ねえ おか〜さんは? つり いく? 」
「 お母さんは 今日はお仕事。
」
「 じゃ 僕 き〜すけ と一緒にお留守番してる。 ひとりでいる。
」
ったく〜〜〜〜 この頑固もの〜〜
フランソワーズの息子は 赤ちゃんの頃から頑固モノだった。
いつも最後の最後まで ぐしぐし泣き続け母を困らせ泣かせた。
その気質は 今も変わらない ・・・ らしい。
「 すばるく〜ん
ね 海に行ってみよ? お船に乗ってゆくのよ? 」
「 海なら 二階からまいにちみてるもん いい。 」
「 見てるのとは違うと思うな〜〜 お母さん。 」
「 僕 ちがうと思わないもん。 」
「 すばる〜〜〜 お家にいても き〜すけは喜ばないと思うわよ 」
「 ・・・・ 」
やっと ちらり、とこの傷心息子のココロが動いた。
― き〜すけ は 一週間前の朝 安らかに?天に召されていた。
き〜すけ ― フランソワ−ズ いわく ちっぽけな 金魚 は
すばるの大切な 大切な おともだち 。
幼稚園時代 地元の縁日での すばるのたった一匹の戦利品として
しまむらさんち に やってきた。
そのただの赤い小さな金魚 を すばるはそれはそれは大切に 熱心に お世話した。
彼は珍しくおねだり をし 買ってもらった
『 きんぎょのかいかた 』
を 常に愛読、
エサやり から 水換え、 水槽の掃除まで ていねいに心をこめてやった。
・・・その結果 ちっぽけな金魚・き〜すけ は 健やかに成長、
結構立派な赤い和金となり 天寿をまっとうした ・・・多分。
家族の中では つねに 末っ子 扱いのすばるには き〜すけ は
だいぢな弟であり 家来 でもあったのだ。
彼の悲嘆ぶりに 家族はただ ただ 見守っているしかできなかったのだが。
「 すばるや 」
コーヒーを置き 新聞を静かにたたんで博士が声をかけた。
「 なに おじいちゃま 」
すばるは大好きなおじいちゃまの側に ぴと・・・っとくっついた。
「 あのな すばる。 ワシの頼みを聞いてくれるかな 」
「 たのみ? おねがいってこと ? 」
「 そうじゃよ 」
「 え〜〜 なに おじ〜ちゃま 」
「 うむ あのなあ 海の魚 はどんな顔をしているか
観察してきてほしいのじゃ
」
「 うみ の さかな ? 魚屋さんにいるのと同じでしょ? 」
「 いやあ わからんぞ?
それとな 海の様子を 海の上から感じたこと を よ〜く覚えてきて
き〜すけ に話しておやり。 き〜すけ は 海を知らん魚だったからね 」
「 そ そっか き〜すけ 海、いってないよね
わ わかった〜 僕 ・・・ いく! いく〜〜 おかあさんっ 」
すばるは すっくと立ち上がった。
お〜〜〜 珍しいわねえ ・・・
うん さすが 博士!
海の魚の顔 ねえ ・・・
う〜〜ん ・・・ 釣れるかなあ
過去の実績からみても ねえ・・・
びみょう 〜〜〜
母は素知らぬ顔をしつつ 心中ひそかに危ぶんでいた。
「 ・・・ お おとうさんっ 僕もいくっ ! 」
朝御飯を
サンドイッチにして持たせてもらって すばるは
とたとた〜〜〜 玄関に駆けこんできた。
「 お〜〜 すばる 来たか 」
お父さんは に〜〜っと笑って迎えてくれた。
「 ・・・ ごめんなさい 」
「 い〜よ いっしょにいこ。 」
同じ日に生まれた < 姉 > も に・・・っと笑った。
かなり待たされたが 珍しくすぴかは やいやい言わなかった。
お父さんに縄跳びで勝ったからかもしれないけど・・・
すばる、き〜すけ のこと と〜〜ってもだいじにしてたもんね
アタシがエサ やっても喜んでたし
すぴか は すばるの傷心が よ〜くわかってたから。
すぴかだって ず〜っと 子供部屋に 住んでた き〜すけ が好きだったから …
「 そんじゃ おふね で つ〜り〜 に しゅっぱ〜つ! 」
すぴかの号令で しまむらさんち の お父さんと双子は たったか出掛けた。
「 いってらっしゃ〜〜〜い 」
お母さんは 門のトコで大きく手を振って送ってくれた。
「 やっとご機嫌は持ち直したようだな 」
「 はい 博士 ありがとうございました。 」
リビングに戻ると 博士がくすくす笑っていた。
「 も〜 あの子ってば金魚一匹にいつまでこだわっているのかしら・・・
べそべそ泣いたりして〜〜〜 オトコノコなのに ! 」
「 いやいや すばるは真剣に 死 というものに立ち向かっているんだな。
彼にはとてもいい勉強になるだろうよ 」
「 そうですねえ ・・・ あんなちっぽけな金魚がねえ ・・・ 」
「 すばるには大切な弟分 だったのさ。 」
「 ・・・ う〜〜ん 」
「 そころで ― 今日 本当に施術してよいのか 」
「 はい。 お願いします。 」
二人は す・・っと真顔になった。
「 これ以上の能力のバージョン アップは 不要、と思っていたのだが。
現在の能力でなにか不都合なことでもあったのかい
」
「 いえ。 でもこれはわたしの希望です。 」
「 なぜ、と理由を尋ねてもいいかな 」
「 もちろんです、わたしからのお願いなのですから。 」
「 うむ。 話しておくれ。 」
「 はい。 あの ― 子供達の行動範囲は どんどん広がってゆきます。
わたし あの子達を必ず護ります、この身に代えても。
そのためにも
能力のバージョン アップを お願いします。
GPS機能の精度を最高にしてください。 」
フランソワーズ いや 003 は まっすぐに博士を見つめ
静かに語る。
「 わかった。 しかしバージョン・アップの作業を
半日で済ませるには お前の身体への負担もある。 」
「 構いません。 夕方 子供達を笑顔で迎えられれば それで十分ですわ。」
「 ― わかった 全力を尽くす。 」
「 ありがとうございます、博士。 あの ・・・ ワガママ言ってごめんなさい 」
「 なんの ・・・ これはワシにしかできんワシの仕事さ。
ははは 腕が鳴るよ。 」
「 ふふふ ・・ あ 今晩のご飯は 博士も皆も大好きな我が家の肉ジャガですから
デザートは 梅ゼリー入りの杏仁豆腐ですわ 」
「 おお
それはいいのぅ 最高のお楽しみじゃな。
・・・
あ でも ジョー達の戦利品は どうするね?
海釣りだからなあ 」
「 うふふ ・・・ 大丈夫、まず 何もナシ でしょ。
今まで ジョーがなにか釣りの成果を持って帰ってきたこと、あります? 」
「 う〜〜ん ・・・ そう言えば・・・ 」
「 ね?
すばる が 海草でも拾ってくるかもしれませんけど。
すぴかは せっかちだから 釣りはむりでしょ 」
「 ああ まあ なあ ・・・ では 始めようか。 」
「 お願いします。 」
博士は003を連れて 地下のメンテナンス・ルームに籠った。
「 システム・ダウンする 」
「 了解 」
処置台で 003は静かに深い睡眠状態に入っていった。
「 ・・・ む。 」
博士は的確にキーボードを操作してゆく。
「 ・・・ キャパは誰よりも容量があるから な ・・・
希望は GPS関連だったな ・・・ 」
カタカタカタ ・・・ ウィ〜〜〜〜 ン ・・・
頭部と頸部にアタッチされた数本のケーブルを通じ 新たなアプリケーションが
投入されてゆく。
「 ・・・ うむ。 感覚の問題もあるからな ・・・
これは本人にも手伝ってもらうか ・・・ 」
博士は 別のキーボートを操作する。
「 これで 呼びかけてみるか 」
・・・ フランソワーズ ・・・?
? ・・・ 博士 ?
聞こえるね? ちょっと手伝っておくれ
はい ・・・ なにを?
バージョン・アップのテストをするよ
見よう と思っておくれ
はい ・・・ どこを?
そうさな・・・ ああ 海の、
ほら 海釣り部隊 を 見てごらん
はい! ・・・ みつけた!
おお はやいな
見つけたものの映像と情報を
送っておくれ
はい ! あ〜〜 すばるってば・・・
003からの情報を 博士はモニターの上で確認を始めた。
― さて 釣り部隊は といえば。
「 おと〜〜〜 さんっ すばるっ はやく はやく〜〜〜 」
港、 というか 海岸にず〜〜〜〜っと付きだした防波堤の先で
すぴかが ぶんぶん手を振っている。
「 すぴか〜〜〜 おい 気をつけるんだよっ!
そこでじっと待っておいで〜〜〜 」
「 え なに〜〜 おと〜〜さ〜〜ん 」
すぴかが だ〜〜〜〜〜 っと駆け戻ってきた。
手すりも 足止めも な〜〜〜んもないがたがたの堤防の上なのだ。
「 わ!?!? すぴか〜 歩いておいで!!
転んだり すべったりしたら〜〜 」
ジョーは思わず奥歯のスイッチに舌先が伸びたが ―
きゅう。 左手をがっちり握っている生暖かい小さな手の存在に
引き留められた。
「 おと〜さん ・・・ こわい ・・・ ここ ・・・ 」
「 え?? なに すばる? 」
「 ここ こわい 海におちる ・・・ 」
「 お父さんが手、繋いでるだろう? 大丈夫だよ
ああ〜〜 それよりも すぴか〜〜〜 気をつけろ〜〜〜 」
「 はいっ なに〜〜 おと〜さん♪ 」
すぴかは あっという間に戻ってきてジョーを見上げている。
ジョーの娘には 天然の加速装置が搭載されている らしい。
「 あ・・・よかった ・・・ すぴか〜〜 気をつけろよ
堤防で転んだりしたら 〜〜 海へ じゃぼん だよ
」
「 え〜〜〜 アタシ 転んだりしないも〜〜ん こんなひろい道でさ〜〜
ね〜 ね〜〜 おと〜さん あのおふねにのるの? 」
すぴかは 堤防の先に停泊している小舟を指す。
「 うん? あ〜〜 そうだよ。 あれに乗って 釣りだ 」
「 おと〜さんがうんてんするの? あのお船 」
「 え? あ いや、ちゃんと船のヒトがいるよ。 船長さん さ。 」
「 ふうん せんちょうさん がうんてんするんだ? 」
「 船はね 操舵 というんだよ。 」
「 そうだ? そ〜だ〜〜〜? あははは・・・おもしろ〜〜〜 」
「 あ ちゃんとご挨拶するんだよ、 さ 行こう 」
「 わ〜〜〜い〜〜〜〜 ♪ ね はやくいこっ!!
ね〜〜〜〜 走ってこ っ !! 」
「 ああ 大丈夫、 ゆっくり行こうね さあ すばる? 」
「 こわい ・・・ 」
「 ほら お父さんがいるよ。 一緒だよ。
」
「 すばる〜〜〜 いこっ 」
すぴかは 弟の空いている手を取った。
「 そうだね〜〜 三人で行こうね 」
「 ね〜〜〜 ♪ 」
「 う うん ・・・ 」
ああ よかった ・・・ やっと出発ね
「 うん? フラン なに? 」
「 ? おと〜さん どうしたの? おか〜〜さん いないよ? 」
「 あ う うん なんかちょっと お母さんの声がした気がしたんだよ 」
「 ?? おか〜さん お仕事でしょう? 」
「 おか〜さん? おか〜〜さ〜〜〜〜ん 僕 これからつり だよ〜〜 」
すばるが 海に向かって吠えた。
はいはい わかったわ 気をつけてね
「「「 は〜〜い 」」」
ジョーと子供たちは たんたん たかたか〜〜 釣り船に向かった。
「 あの〜〜〜 釣り船の うみひこ丸 さんですか〜〜 」
ジョーは 堤防の先で声を張り上げた。
「 お〜〜う うみひこ丸 だぜ 」
「 あ 予約した しまむら ですが〜〜 」
「 ・・・ お! 時間 ぴったしだね! さあ のってのって 」
「 はい。 すぴか すばる おいで 」
「 アタシ いっちば〜〜〜ん♪ 」
すぴかは 一枚板の < 渡し > を とんとんと〜〜んと通過してゆく。
「 お〜〜 嬢ちゃん 元気だな〜〜 勇気もあって頼もしいぞ 」
「 えへへ・・・ おじさん、 せんちょうさん? こんにちは! 」
「 お こんにちは。 うれしいねえ〜〜 そうだよ、
おじさんは この うみひこ丸 の 船長さ。 兄ちゃんと弟はまだかな 」
「 ? にいちゃん? いないよ〜〜 おと〜〜さんっ すばる〜〜〜
はやくぅ〜〜〜 」
「 !?!? お お父さん なのかい?? 」
「 そだよ〜〜〜 おと〜〜さん すばる〜〜〜 はやく はやく〜〜 」
「 ひぇ〜〜〜〜 てっきり兄弟だと思ってたぜ・・・
わっかい父ちゃんだなあ 」
船長さん はしげしげと < お父さん > を眺めた。
「 あ〜〜 お世話になります〜〜 しまむらです〜〜
すぴか じっとしてなさい。 すばる ほら お舟に乗るよ〜〜 」
< お父さん > は 元気いっぱいな娘に注意をとばし、自分の脚に
へばりついている息子を引きはがそうとしている。
「 おいで すばる。 ほら この板をわたるんだよ 」
「 ・・・ やだ ・・・ 僕 やだ ・・・ 」
「 え? ほら カンタンだよ。 普通に歩けばいいんだ。
すぴか〜〜 ちゃんと待ってるんだよ〜〜 」
「 は〜〜い おと〜さ〜ん すばる はやくぅ〜〜〜 」
すぴかは船の上でぶんぶん手を振っている。
「 おう 今ゆくよ。 さあ すばる? 」
「 ・・・ やだ やだあ〜〜〜 こ こわい ・・・ 」
「 こわい? ああ 下 見ないで。 すぴかの方を見てゆけばいいんだよ。
な〜〜んにも怖くないさ。 お父さん 先に行こうかな〜〜 」
「 や やだっ・・・ こ こわ ・・・ 」
「 すばる〜〜〜 へいきだよ ほらぁ〜〜 」
「 がんばれ すばる 」
「 ・・・・ ・・・・ ・・・ 」
すばるは へっぴり腰になりほとんど這いつくばるみたいな恰好で
なんとか かんとか ・・・ 渡り板を通過した。
「 わ〜〜 すばる〜〜 」
「 すいません、お待たせしました。 」
ジョーはまず 船長さん にアタマを下げた。
「 あ〜〜 いやいや・・・ ぼうず 頑張ったな。 」
船長さんは に・・っとすばるに笑いかけたくれた。
「 ・・・ え ・・・ えへ ・・・ 」
「 すばる さあ 釣りに出発だぞ〜〜 」
「 わあ〜〜い しゅっぱつ〜〜〜〜 」
すぴかはもう大はしゃぎ、 すばるもやっと笑顔になった。
「 ようし。 おっと忘れちゃいけね〜 ほら ライフ・ジャケットです。
オトナ用と子供用が二着な 」
「 あ ありがとうございます。 すぴか すばる これ 着て 」
「 ウン。 おと〜さんも! 」
「 お父さんも着るよ すばる? 」
「 これ なに? 」
「 あのね〜〜 うきわ だよ 」
「 うきわ? わっかじゃないよ? 」
「 でも うきわ! ね〜 お父さん 」
「 そうだね。 これを着てればね、 海に落ちてもぷか〜〜って浮くんだよ 」
「 僕 15め〜とる およげるもん 」
「 アタシだって 25めーとる 泳げるもん! 」
「 そうだね〜 でも 海に出るときはこれを着るのが約束だ。
ちゃんと着たかい? 」
「 「 うん ! 」 」
「 お待たせしました 」
お父さんは 船長さんに声をかけた。
「 お〜〜。 準備完了か?
それじゃ船 出すからね〜〜 ちゃんと捕まってなよ ! 」
「「「 はい 」」」
お父さんを真ん中に すぴかとすばるは真剣な顔で船のヘリを握った。
すばる〜〜〜 ひとりでがんばったわね〜
すぴか すばるをおねがいね
「「 うん !! 」」
「 ・・・??? 」
空に向かってにこにこ・・・返事をしている子供達を ジョーはぽかん、と
眺めていた。
船長のオジサンは 操舵室に入り 島村さんちの三人は
わくわくしつつ 船のヘリで待機している。
ごっとん ぶるんぶるんぶるん 〜〜〜〜
エンジンは音をたてて回転を始めた。
ざ っぱ〜〜〜ん ・・・・ ざざざざ 〜〜〜
うみひこ丸 は 堤防を離れ舳先で波を掻き分け進んでゆく。
「 わ〜〜〜 わ〜〜〜〜 すごい すごい〜〜〜〜
ざぶ〜〜ん ざぶん すすめえ 〜〜〜 」
すぴかはいつのまにかジョーの前にでて 舳先の方にじりじり移動してゆく。
「 こら すぴか。 危ないよ。 勝手に動いちゃだめだ。 」
「 ちょっとだけ〜〜〜 ねえ お父さんも きて! 海 すごい〜〜 」
「 ここからでも見られるよ。 」
「 アタシ いっちばん前にいきたい〜〜 」
「 一番前にいっちゃったら 船長さんが前をみられないよ 」
「 う〜〜〜ん ・・・ じゃ さ もうちょっと前 いきたい〜〜 」
「 じゃあ皆でゆっくり動こう。 一緒にね 」
「 うん! 」
ジョーはすぴかのライフ・ジャケットの裾をしっかり握っておいて 腰を浮かせた。
「 〜〜〜 おと〜さん いっちゃやだ〜〜〜 」
「 あ?? 」
後ろから 泣き声が聞こえた。
あわてて振り返ると ― ぎっちり船端を握ったすばるが 涙目になっている。
「 すばる? ほら すばるもおいで? 」
「 ・・・ できない〜〜
」
「 ?? そこがいいのかい? じゃ すばるはそこにいる? 」
「 や やだ〜〜〜 おと〜さんトコにいる〜〜 」
「 じゃ 一緒においで。 ず〜っとヘリをもって行けばいいんだよ 」
「 ・・・ こ こわい ・・・ 」
「 怖くないってば。 普通の部屋と同じだよ。 」
「 おなじじゃない〜〜〜 ゆ ゆれるもん〜〜〜 」
「 も〜〜 しょうもないなあ・・・ ほら おいで 」
お父さんは すばるの手を掴むとゆっくり引き寄せた。
「 あは・・・おと〜さ〜〜〜ん ! 」
ぴと・・っと張り付こうとした息子を ジョーはするり、とよけて
そのまま すこし先の舳先に押し付けた。
「 ほら ここをしっかりにぎっていなさい
」
「 う うん ・・・ 」
「 あ 海〜〜〜〜 きゃ〜〜〜 つめたい〜〜〜 」
ジョーのすこし前方で すぴかが縁から乗り出し、海面を触っている。
「 あ こら〜〜 あぶないよっ すぴか〜〜 」
「 へ〜〜きだも〜〜〜ん 」
「 だめだ。 ほら こっちおいで。 」
「 え 〜〜〜〜 」
すぴか。 お父さんのいうこと、聞いて。
すばる 勇気をだして?
「 ・・・ はあい 」
「 わ わかった 」
「 ?? 」
チビ達 ・・・ なにやってんだ??
ジョーはますます首をひねってしまった。
さて メンテナンス・ルームでは ―
うぃ −−−− ん ・・・・
微かなノイズもゆっくりと消えていった。
「 ・・・ ふ む ・・・ これで完了 だ 」
博士は慎重にモニターをチェックし 再度チェックし、安堵のため息を吐いた。
「 あとは 彼女の神経になじむ時間が必要だな。
ゆっくり休んでいてもらおう。 」
コトン。 博士はグラスに水を満たし、枕元に置いた。
「 目覚めた時に・・・な さあ ゆっくりお休み ・・・ 」
博士は 照明を落とし、フロア・ランプだけにして 静かに処置室を出た。
室内は 低い空調の音と 003の穏やかな寝息が 聞こえていた。
ぴっちょん。
ほんの一瞬 グラスの中で小さな金魚の姿が見えたが すぐに消えてしまった ・・・
Last updated : 06,12,2018.
index / next
************* 途中ですが
いつもの 【 島村さんち 】 ですので
事件はな〜〜んも起きません〜〜〜
ジョー君って 釣り が趣味なのですかね・・・