『 デヴュタント・ワルツ − (2) − 』
***** 前半の復習♪ *****
【 島村さんち 】 の双子ちゃんの入園式です♪
フランスにはない習慣にお母さんは大慌て。
お父さんも緊張してどきどきしています。
そして。
当の主役達は ・・・ ↓
スカ−トが気に喰わない・しかめっ面のすぴかちゃん★
いつもにこにこ・すばる君☆
・・・ さて、どんな入園式になることやら・・・
「 しまむら すぴか ちゃん 」
「 は〜い! 」
「 しまむら すばる くん 」
「 ・・・ はい 」
先生の優しい呼びかけに ひょこん!と亜麻色のアタマが、続いて明るいセピアの頭が立ち上がった。
「 まあ〜〜いいお返事で元気だこと。 こんにちは。 一緒に楽しく遊びましょうね。
ああ、もうお座りしていいのよ。 」
「 は〜い。 すばる、おすわりしよ。 」
「 うん♪ 」
「 はい、よく出来ました。 つぎは〜 たなべ ゆり ちゃん 」
「 ・・・ はい 」
消え入りそうな声がして 大きな黒い瞳のおかっぱがおずおずと立ち上がった。
「 はい、ゆりちゃん、こんにちは。 一緒にお歌、歌いましょうね。 」
「 ・・・ はい 」
こんな具合に たんぽぽ組では先生と子供たちの簡単な <ごあいさつ> が続いていた。
コドモたちは緊張しつつも 先生とのお話を楽しんでいる風だった。
親御さん達は教室の後ろで我が子の姿を固唾を呑んで見つめているのだが・・・・
「 ・・・ ん? どうした・・・ 」
ジョ−はこそ・・・っと囁くと傍らの細君にチラリ、と視線をもどした。
細いしなやかな身体がほんの少し・・・ 少しだけ彼に寄りかかってきた風に感じたのだ。
「 ・・・ な ・・・ なんでも ない ・・・ 涙が ・・・ 勝手に・・・
すぴかもすばるも ・・・ ついこの前まで赤ちゃんだったのに・・・ はきはきご挨拶して・・・
ご、ごめんなさい、本当に・・・ おめでたい日なのに 泣いたりして・・・ でも涙が止まらないの ・・・ 」
「 ・・・ ああ。 ぼくも、さ。 我慢しなくていいよ、ほらぼくの後ろに隠れたらいい。 」
「 ん ・・・ ありがと、ジョ−・・・ 」
切れ切れの涙声の主をジョ−は目立たないように後ろ手に庇おうとしたのだが。
「 ・・・うっく!! ぐしぐし ・・・ 」
「 ぐぐぐ・・・うううう〜〜〜 」
「 ・・・えええ ・・・ぅえ〜〜〜ん ・・・ 」
周囲の親御さん達の間のあちこちからすすり泣きやら低い嗚咽が聞こえてきたのだ・・!
「 ・・・ ウチの 〇〇ちゃんが・・・ あんなに ・・・ 」
「 ああ〜〜 ウチの ××クンったら 〜〜 」
お父さん・お母さん達は皆我が子の晴れ姿に おおっぴらに涙を流していた。
そっとハンカチを目頭に当て、俯いているフランソワ−ズなど、全然・・・目立つどころではなかった。
あ・・・・ 驚いた・・・! ふうん? 最近の親御さん達って・・・?
ジョ−はほっとしつつも、ちょっと感心して辺りを盗み見していた。
そしてほろ苦い思い出をたどり、こっとり溜息を洩らすのだった。
顕かに <ガイジン> な風体の双子がイジメられたりからかわれたりしないか・・・
ジョ−はずっと気がかりだったのだ。
どうして ぼくだけ髪の色がちゃいろなの。
どうして ぼくだけ目の色が赤っぽい色なの。
どうして ぼくだけ お母さんがいないの。
どうして ぼくだけ ・・・ みんなとちがうの・・・・
幼い日、初めて<外>の世界に出たその日から ジョ−の心に刻み込まれた <どうして>。
それはすぐに単なる疑問から マイナスの感情となり長い間彼の心を侵食していた。
何をするにも付き纏う、視線。 それも興味本位なものがほとんどだった。
他人の目 は 次第に見えない毒となり 棘となり ジョ−の全てに絡み付いた。
そう ・・・ あの日。
あの運命の日。 彼が崖から身を躍らせたのも元をただせば あの視線 なのかもしれなかった。
どうせ・・・他人はみんなぼくのことなんか信用してくれないんだ・・・!
ぼくが ちがう から。 ぼくが他のヒトとは ちがう から。
・・・・ 皆 と同じじゃないから・・・!
ジョ−は彼を縛ってきた思いから逃れるためにも あの日・・・ 自ら海に飛び込んだ。
そして。
ぼくは ・・・ この女性 ( ひと ) に巡り合って人生が変わったんだ。
サイボ−グにされて、変わったんじゃない!
この、フランソワ−ズ・アルヌ−ルという女性に出会い、彼女と共に歩む道を選んだとき、
ぼくはぼくの人生の新しいスタ−トを切ったんだ・・・!
今、傍らで涙を浮かべている彼の伴侶はどんな時にでもしゃんと前を向いている女性 ( ひと ) だ。
彼女の瞳に見つめられたとき、ジョ−の全ては決まった。
とにかく! ぼくの子供達には絶対にあんな思いはさせたくないんだ!
ぼくの子供達はいつだってにこにこ・・・まっすぐに前を見つめていてほしい・・・!
子供の誕生は 勿論かけがえのない喜びだった。
初めて本当の 家族 を得た感激は一生わすれることなんかできない。
その感動と悦びは今だってずっと続いている。 多分 一生続くのだ、そうたとえ離れてしまっても。
しかし 同時にジョ−は微かな心配のタネの芽も持ち合わせていたのだった。
金髪碧眼の妻との間に生まれた子供達は どうみても<日本人>とはかけ離れた容貌だったから・・・
「 ・・・あれ ・・・ ふうん ・・・ そうなのか・・・ 」
そうっとまわりを見回しても、ジロジロと双子を眺めまわしたりコソコソ・ヒソヒソ・・・妙な耳打ち声は
まったく聞こえなかった。
もっともどの親も我が子しか目に入っていない様子だったけれど・・・
そして <おともだち> 達もコドモはコドモ同士 自然にくっついたりお喋りをしたりし始めていた。
「 ・・・お嬢さんですか? あの三つ編さん。 可愛いですね〜〜 」
「 あ・・・どうも〜〜 」
隣のいたやっぱり若いお父さんがコソ・・・っとジョ−に話しかけた。
「 いや〜〜ウチは坊主なんで。 オンナのコさんはいいですね〜 お嬢さんが羨ましい・・・! 」
「 いや もう・・・お転婆で・・・ 」
返事しつつちら・・・っと目をあげれば。 お隣は金髪に近いトサカを持った青年だった・・・!
ひえ・・・ ジョ−はあやうく漏れそうになった声を飲み込んで あわててコドモたちに視線と戻した。
落ち着いて見渡せば ・・・ 金髪トサカどころか ジェット顔負けのニンジン頭の<お父さん>もいたし。
自慢の革ジャンに身を包んだ<お父さん> やら ミニスカ・ふりふり〜の <お母さん>、
極彩色の化粧の<お母さん>もあちこちに見かけたし。
ひどくオ−ソドックスな恰好の島村夫妻は むしろ地味で全然目ただない存在だったのだ。
勿論、ス−ツ姿や落ち着いたワンピ−ズ姿の親御さん達も沢山いたけれど・・・
だけど! どのオトコも どのオトコも!
なんだってフランのこと、じ〜〜〜〜っと見るんだよ!
ジョ−はチラ・・・っと眼光するどく周囲の若いオスどもを牽制した。
そして わざと目立つ風に きゅ・・・っと <オレの女> の手を握った。
「 ・・・ なあに? 」
「 う・・・・ いや。 なんでもない。 あ・・・ 保護者はホ−ルに集まるみたいだね。 」
「 あ・・・そうね。 ねえ? お化粧、崩れていない? 」
「 え・・・ きみ、化粧なんてしていたのかい? いつもと変わらずきれいだけど・・・ 」
「 ! ・・・ それって褒めてるとはあまり思えないセリフだわよ?
あのね。 口紅が落ちてないか。 マスカラがとれてパンダになってないか。
白粉がマダラになってないかって聞いたのよ。 」
「 え・・・あ、そ、そうんだ? え〜と?? 第一チェック項目 : 口紅。 キレイな色です、でもきみの
唇の色の方がず〜っとキレイです。 ・・・ キスしていい? 」
「 ダメです!! ・・・・第二項目をお願いします。 」
「 ・・・ 了解。 チェックします。 ・・・ きみはパンダではない、と思いますが。 」
( ニンゲン、だよなあ・・? )
「 そう? ああ、よかったわ〜 こっそり能力 ( ちから )を使っても自分自身の顔だけは
見えないのよね・・・ あ、このマスカラねえ、この春の新製品なの♪ どうかしら。 」
「 そ、そうなんだ? ふうん・・・ キレイだね。 」
・・・ マスカラってなんだ??? ・・・ジョーは激しく疑問だったけれど、上手く切り抜けた。
「 第三。 おしろい。 ( 鼻の頭だけ違う色だけど・・・きっとこういう化粧なんだろうな〜 )
はい、合格です〜〜♪ 」
ジョ−は自信満々・・・なフリをして、鷹揚に頷いてみせた。
「 まあ、そう? よかったわ〜〜 あ、ほら。 早く行かなくちゃ。 園長先生のお話が始まるわ。 」
「 あ、そうだね。 ・・・ あんまり長くないといいなあ・・・ 」
「 ふふふ・・・ 日本って本当にセレモニ−が好きなのね。 」
島村夫妻はぱたぱたと <ホ−ル> に早足で歩いていった。
「 ・・・ ふぁ〜〜〜 ・・・ 」
「 ・・・・!? ジョ−! 」
「 あ・・・ ごめ・・・ 眠くてさ・・・ お話、長いなあ・・・ 」
「 し・・・! ≪ こっちでおしゃべり、しましょ ≫
≪ なんだ〜〜 きみだって退屈してるんじゃないか。 ≫
≪ ふふふ・・・ 実はね。 他のお父さん・お母さんたちも同じみたいよ?
居眠りしてるお父さんと ・・・ さすがにメ−ルしているヒトはいないわね ≫
≪ 始めに絶対禁止!のお達しがあったからな。 ≫
≪ 当然よねえ・・・ コドモ達の大切な日に・・・ ≫
≪ う〜ん・・まあね。 ぼく、すこしほっとしているんだ。 ≫
≪ え。 なにが。 ≫
≪ うん ・・・ ウチのチビ達 ・・・ 全然自然に他のコドモ達と混じってるよね。 ≫
≪ コドモはやっぱりコドモ同士、なんでしょう? ≫
≪ いや・・・ そうじゃなくてさ。 アイツらの容姿 ( みため ) ってさ・・・ そのう 〜〜 ≫
≪ 日本人っぽくないから? あら・・・ そんなコト、誰も拘らないわよ〜〜
お隣のクラスには浅黒い肌で真っ黒な髪の美少女がいたし。
<ようこそ> の ご挨拶した年長さんのボクは 赤毛にソバカスだったわよ? ≫
≪ ・・・ あ・・・ うん、そっか・・・ そうだよ、な ≫
≪ そうよ、ジョー。 肌や髪や・・・目の色に拘るヒトなんて今はもういないのよ。 ≫
≪ うん ・・・! そう、なんだよな! ≫
「 で、ありますからして〜〜 幼児教育の王道を目指し、当園は常に〜〜 」
ふわ〜〜〜・・・・ こっくりこっくり・・・
どよ〜〜ん・・・ な雰囲気の中、ひとり園長先生だけが熱弁をふるっていた・・・
「 さあさ・・・ もうすぐみんなのお父さま・お母さま方が戻っていらっしゃいますからね。
そうしたら、みんなで <さようなら> のお歌を歌いましょう。 」
「 は〜〜〜い 」
お教室ではコドモ達がすっかりリラックスしてオモチャを引っ張り出したりし始めていた。
先生もちらちら・・・眺めている程度で 特に監督していることもなかった。
おしゃまな女の子は先生とオハナシしに来たし、ママと離れて涙ぐんでいる甘えん坊にも気を配り・・・
先生はなかなか忙しかったのだ。
ああ・・・なんとかなりそう。 今年の たんぽぽ組 はみんなイイコ・・・かな。
もうすぐ園長先生のお話、終るわよね。 泣いてるコもいないし・・・
ベテランの先生も少しほ・・・っとして、やれやれ・・・・と先生用の椅子に腰を下ろした。
回りには子供たちが自然に寄ってきて なかなかいい雰囲気だった・・・ のだが。
「 ・・・ うわ〜〜〜〜ん ・・・・ うわ〜〜ん !! 」
突然女の子の泣き声が聞こえ。 子供たちは一瞬 びく・・・!とし しーーーん と静まりかえってしまった。
「 ・・・ う ・・・ うえ〜〜ん ・・・ 」
「 え・・・ええ〜〜ん ・・・ 」
訳もわからず釣られ泣きを始めたコドモもいて 先生はあわてて声の発生場所に飛んで行った。
「 どうしたのかな〜 転んじゃったのかな? 」
「 ・・・ うわ〜〜〜ん うわ〜〜〜ん ・・・ ママぁ〜〜〜 ママぁ〜〜〜〜 ! 」
「 どうしたの? えっと・・・ 」
教室の後ろの方で 女の子がひとり、ペタン・・・・と座って泣いていた。
泣いていた・・・というより 泣き声をあげていた、というべきか・・・
あら。 これは・・・ 本当に泣いてるのとはちょっと違うわね・・・
別にどこか痛いわけでもないみたいだし。 半分は甘ったれ泣きだわね。
・・・ あ ! マズいな〜〜〜 ママさんたちが来ちゃったわ・・・
がやがやがや ・・・・ コツコツコツ ・・・・
ちょうど親御さん達がホ−ルから戻って来たのだ。
「 あ! ママ〜〜〜 」
「 ?? あ〜〜 ママ〜〜 パパ〜〜 まりのママ〜〜 」
「 わあ〜〜 まま〜〜〜 まま〜〜 」
「 ママ〜〜 ・・・! 」
し・・・んとして顔を強張らせていたコドモたちは 一瞬で解凍しそれぞれの親の元に駆け出しはじめた。
教室はいっぺんで賑やかになり < 泣き声 > はかき消されてしまった。
ん? やっぱりねえ・・・ コドモ同士でちょこっとぶつかった程度なのかしらね?
先生はほっと胸をなで降ろしていた。 初日からトラブルはできれば避けたいのは当たり前だろう。
と。 とつぜんやたらと甲高い声が響いた。
「 あら〜 マユミちゃん! どうしたの? 床に座ったりしたら汚いでしょう? アラ!? 泣いてるの?! 」
「 ママ〜〜〜 マユミのママ〜〜〜 あのね〜 あのね〜〜 」
「 まあ〜〜〜 どうしたの? 可愛い可愛いマユミちゃん? 」
「 あのね、あのね〜〜 アノコがね、マユミのこと、つきとばしたの! いた〜い・・・おしり、いた〜い 」
「 まああああ〜〜! 可哀想に!! どのコ? どのコがマユミちゃんのこと、突き飛ばしたの?
ママに教えて、マユミちゃん。 」
「 ん。 このコ ! 」
派手なフリフリリボンを結んだ女の子が指さした先には。
亜麻色のお下げの女の子がお口を への字 にして仁王立ちしていた。
「 まああ〜〜〜 オンナのコなのに?! ( ・・・ああ、ガイジンなのね。 ふうん・・・ ) 」
「 マユミね〜 マユミね〜 な〜んにもしないのに。 このコがつきとばしたの〜〜 」
「 まああ〜〜〜 なんてこと! 」
「 ・・・ あの ・・・ ウチのすぴかが・・・何かいたしましたか・・? 」
ひっそりと濃いブル−のス−ツを着た母親が近寄ってきた。
「 あら。 あのですね! 御宅のムスメさんが ! 」
派手な声を上げて振り向いた <マユミちゃんのママ> は 一瞬固まった。
・・・ ぐ ・・・っと言葉が詰まる。
「 あ・・あら。 ( ・・・ なんなの〜〜このオンナ! 私よか美人じゃない〜〜 )
こっほん・・・! あの! 日本語、おわかりになるのかしら? 」
「 はい。 あの・・・ ウチの娘がお嬢さまになにか・・・ 」
「 あらそう。 見ての通り! 御宅のコドモさんが宅のマユミちゃんを突き飛ばしたんですわよ!
おお、おお〜〜 可哀想に〜〜 マユミちゃんはな〜んにもしてないのにね〜〜 」
「 え ・・・ すぴか? 本当なの。 」
同じ色の髪をした母は さっと顔色を変え、しゃがみ込んで娘の顔をみつめた。
「 ・・・ このコ。 すばるのこと、いじめたんだもん! 」
「 すばるのことを? ・・・ すばるは? すばる〜 どこにいるの。 」
「 ・・・ ここ。 」
「 すばる・・・ あら・・まあ・・・ 」
母が振り返れば。
セピアの瞳に涙をいっぱいにして彼女の小さな息子が、これもお口をきゅ・・・っと結んで立っていた。
ライト・ブラウンのくせっ毛がぼうぼうに乱れている。
青いふちのハンカチを片手で懸命に握り締めもう片方の手で亜麻色の髪の女の子のスカ−トを握っている。
「 あらら・・・・ この髪はどうしたの? 」
「 う・・・僕 ・・・ イヤっていったんだけど・・・ ひっぱるんだもん・・・ 」
「 え? 」
「 おばちゃん。 あのコがね〜 このコのかみ、わ〜〜ふわふわ〜 とか くるくる〜〜 とか・・・
いってひっぱってたの。 」
「 うん。 このコが やだ〜っていってたのに ず〜っと くしゃくしゃ〜ってやってた。 」
「 くまちゃんみたい〜〜 とか わんこみたい〜〜とか いってたの。 」
側にいた黒目がちなお嬢ちゃんとちょっとばかりくせッ毛の坊やが 一生懸命報告してくれた。
「 そうなの。 どうもありがとう〜〜 」
亜麻色の髪の母親は 二人を抱き寄せると ちゅ・・・っと軽く頬にキスをした。
「 ・・・ きゃあ〜〜 おばちゃん いいにおい〜〜 ♪ 」
「 へへへ ・・・ いいにおい〜〜 」
他の親御さん達も 何事・・・?と覗き込んでいたが ほっとした雰囲気が流れた。
要するに。 おしゃまな女の子がすばるにちょっかいを出し。
泣きべその弟を見たすぴかが 弟の一大事! とばかり <せいぎのみかた> を発動した・・・らしい。
「 ・・・ あら。 マユミちゃん? あなた、このコの髪、ひっぱったの? 」
「 ママ〜〜 だってふわふわ〜でかわいいから〜 マユミがおともだちになってあげようとおもったのに。
マユミが いいこ・いいこ〜 してあげよう!とおもったのに〜 」
「 それで くしゃくしゃ〜ってやったの? 」
「 だって〜〜 このコ、うちのクマさんみたいでかわいいんだも〜〜ん 」
「 ・・・ま。 あ、あら! それにしても。 女の子を突き飛ばすなんて!
ま〜〜いったいどういう躾をしていらっしゃるのかしら。 今からこんなんじゃ先が思いやられますわ! 」
「 ・・・ 申し訳ありません・・・ 」
「 ウチのマユミちゃんは 本当はあの有名な私立・セレブ幼稚園 に入園するはずだったのに!
ちゃんと試験は受かったんですの、すごい倍率だったんですけどね、ほほほ・・・。
でも 面接の日にほっんとう〜〜に運悪くインフルエンザに罹ってしまって。
え〜え、仕方なく地元のココに・・・ もう〜〜本当にこんなはずじゃなかったんですの! 」
やたらキンキン捲くし立てるお母さんに他の親御さん達は失笑し、コドモの手を引いて離れるヒトも出てきた。
「 まったく! 日本には日本の躾、というものがありますのよ。
どこのお国の方か知りませんけどね、この国で暮らす以上はしっかりと日本人として振る舞っていただかないと!
宅の主人は仕事でアメリカに単身赴任しておりますけれど。 躾はきちっと日本風、を望んでおりますわ! 」
「 本当に申し訳ありません。 」
亜麻色の髪の母親は ひたすら頭を垂れ続けている。
「 随分とお若いお母さんのようですけど! これは躾の基本〜〜 」
「 失礼。 ウチの娘がどうも・・・ とんだご迷惑をかけたようで・・・ 」
少し低めの声が響き、す・・・っと濃紺のス−ツ姿の男性が現れた。
「 ・・・あら。 お父さんですの? ( あ〜らま。 茶髪のヤンキ−がいっちょ前にス−ツなんか着て! )
あの、ですね・・・! 」
ひとり、ボルテ−ジを上げている母親は ば・・・っと声の主の顔を振り返り口を開き ・・・
ふん、どうせそこいらの不良のなれの果てに決まっているわ。 ・・・ ようし!
「 あの、ですね! ・・・・ !!!! ☆☆☆ ※※※ ♪♪♪ 〜〜〜 」
きんこんかんこん♪ きんこんかんこ〜〜〜ん 〜〜〜♪
彼女の頭の中で キュ−ピッドが鐘を連打し ・・・ 彼女の瞳は突如 はあと 型になり。
「 ・・・ あ ・・・・ ああ ・・・ あの。 いえ〜〜 その・・・ ( きゃ〜〜〜〜〜♪ ) 」
「 島村すぴかとすばるの父です。 どうも娘がお嬢さんに大変なことをしまして申し訳ありません。
ようく叱っておきます、二度とこんなことはさせませんから。 どうか・・・ 今日は。 」
かの若い紳士は きち・・・っと頭を下げた。
「 本当に申し訳ありません ・・・ 」
傍らに寄りそう妻も 再び夫と共に頭を下げる。
「 ・・・ あ・・・・あら。 いえ、そんな。 あの・・・どうぞ頭をお上げくださいませ。
ほほほ・・・ 子供同士のコトですし。 ウチの娘もちょっとだけご迷惑をおかけしたみたいで・・・ 」
「 そうなんですか? ま、これからはどうぞ仲良くしてやってください。 」
「 仲良く・・・! ええ、ええ〜〜〜 モチロン〜 喜んで♪♪ 」
「 ママ〜〜〜 マユミちゃんね〜〜 さっきころんでオシリ、いたい〜〜 」
「 まあ、そう。 ちょっと静かにしてらっしゃい! ママはこちらの方とお話しているの! 」
「 ママ〜〜〜 ママ〜〜〜 おうち、かえる〜〜 マユミちゃん、ジュースがのみたい〜〜 」
「 ちょっと黙って! えっと・・・ それで・・・<仲良く> して頂け・・・ 」
「 まあまあ・・・どうしたのかな。 皆、仲良くしましょうね。 」
しばらく後ろで眺めていた先生は ここが引け際と踏んで陽気な声をかけた。
時には知らぬフリをしている必要もあるのだ。
この手の母親の扱いに、先生は慣れていた。
「 あら。 先生〜〜 なんでもありませんの。 ほほほ・・・ちょっとお話、していただけですわ〜〜 」
「 いえ、あの。 ウチの娘がこちらのお嬢さんを突き飛ばしたらしくて。
本当に申し訳なく・・・ お詫びしていたところなのです。 」
「 ま・・・ご報告、ありがとうございます。この教室で起こったことは担任であるワタクシの責任ですから・・
ここはワタクシにお預けください。 」
「 そうお願いできましたら、嬉しいです。 マユミちゃんのお母さんは如何ですか? 」
「 ・・・ え・・・? ・・・あ、は、はい〜〜 ええ、もうなんでもその通りですわ〜〜( はあと ) 」
「 ママ〜〜〜 ママ〜〜〜 マユミねえ〜〜 あのコみたくなふわふわ・くるくるのかみになりたい〜
ねえ、もっとさわってきてもいい? 」
「 し! 静かにしてなさい、マユミちゃん! 」
「 マユミちゃん? ウチのすぴかとも仲良くしてやってね。 」
「 ・・・ ママ〜〜 ママ〜〜 マユミも〜〜 あのコにみたくくり〜むいろのかみになりたい〜〜 」
「 まあああ〜〜 あ、あら?? もうこんな時間? 大変〜〜〜 早くしないと
お受験塾に遅れてしまうわ! マユミちゃん、いらっしゃい! 失礼いたしますわ。 」
最後までキンキン声をあげつつマユミちゃんのお母さんは娘の手を引っ張り勝手に先に帰ってしまった。
「 あら・・・ ま、仕方ないわね。 さあ〜〜 みなさん?
一緒に <さようなら・ごきげんよう> のお歌、歌いましょう。 それでね、明日もまた元気で
<おはようございま〜す> しましょうね。 」
「「 は〜〜〜〜〜い ♪ 」」
かわいい声が 教室いっぱいに響いた。
どのお父さんもお母さんも。 コドモ達に負けない大にこにこだった。
お歌を歌って 「 せんせい さようなら みなさん さようなら 」 のご挨拶をすれば
あとはコドモ達は一斉に親の元に駆け行く。
「 おとうさ〜〜ん おかあさ〜〜ん ・・・・ ! 」
珍しくすばるが先に飛んできてフランソワ−ズのスカ−トにしがみ付いた。
「 はい、お帰りなさい、すばる。 あ〜あ・・・ 髪がこんなに・・・ 」
フランソワ−ズはふわふわの髪をそっと撫で調えてやるのだった。
「 あれ。 すぴかは? 」
「 ・・・え〜 さっきいたよ。 」
「 そうだけど。 どこへ行ったのかな・・・ おい、フラン。 ちょっと捜してくるよ。 」
「 ええ・・・ お願いね。 あ、お庭の桜の下で待っているわね。 」
「 了解〜〜 すばる? ちゃんと、顔、拭いとけ。 涙のあとが残ってるぞ。 オトコだろ。 」
「 ・・・ う? おかあさ〜〜ん、おかお、ふいて。 」
「 え・・・あらら・・・ちょっと待ってね。 タオルを持ってきたはず・・・ 」
すばるは相変わらずフランソワ−ズの側にへばりついてにこにこしていた。
ったく〜〜! すばるのヤツ、甘ったれなんだからなあ〜〜
オトコたるもの、お袋に涙を拭ってもらうなんて 恥だと思え!
ジョ−はむやみやたらと不機嫌でむす・・・っとした顔で回りを見渡した。
親子連れの群ればかりで 目立つはずの亜麻色のお下げはどこにも見つからない。
「 すぴか・・・ お〜い・・・ すぴか〜〜 」
ジョ−はいつしか教室を出て広い園庭の方に出て行った。
「 お〜い・・・ あ・・・いたいた。 すぴか・・・ 」
水飲み場の前に 小さな姿がふたつ。 仲良く手を洗っているらしかった。
「 つよいな〜〜 おまえ。 なんてなまえ? 」
「 アタシ。 すぴか。 しまむら すぴか。 」
「 す ・・・ ぴ か? ふうん・・・ かっこいいじゃん。 ボク、 はやて。 」
「 はやてくん? しんかんせんとおなじだね。 」
「 うん♪♪ あのこ、おとうと? あの・・・ないてたこ。 」
「 うん。 すばるはアタシのおとうとだよ。 」
「 そっか〜〜 ボクもおにいちゃんなんだ〜〜 おとうとがいるけど・・・まだあかちゃん。 」
「 ふうん ・・・ すばるとアタシはおんなじひにうまれたんだ〜 アタシたち、ふたごなの。 」
「 ふたご??? うわ〜〜〜 かっこいい〜〜 」
「 そう?? あ、 おとうさんだ〜〜 はやてくん、ばいばい〜〜 」
すぴかは目の前にいる 小さな男の子をきゅ・・・っと抱き締めほっぺにちゅ!をした・・!
「 ・・・?!?? うわ〜〜〜 ぉ〜〜♪ 」
「 す、すぴか〜〜〜!! こら、そんなこと、するなってば〜〜 」
「 お父さ〜ん ・・・ どうしてえ? アタシ、おかあさんのまねっこしただけだよ〜〜
あいしてるわ〜〜 じょ〜〜 って ぶちゅ〜〜ってきす、してるじゃん。 」
「 う! ああああ・・・・そそうだけど。 アレはお家の中だけなんだ。
あ・・・君〜〜 さようなら。 すぴかと仲良くしてくれて・・・ ありがとう。 」
「 うん! ばいばい〜〜〜 すぴかちゃん♪ 」
「 ばいばい〜〜〜 はやてくん。 あした、あそぼうね〜〜 」
「 す、すぴか! ・・・ もう ぶちゅ〜〜ってやったらダメだよ! 」
「 え〜〜〜 どうしてぇ〜〜〜 」
「 ・・・ う〜〜 どうしても! ぶちゅ〜ってやるのは・・・お家でだけにしなさい。 」
「 う〜ん ・・・ わかった。 あのコ、はやてくん だって。 かっこいいね〜、お父さん。 」
「 そ、そうかなあ〜〜 お父さんの方がかっこいいぞ。 」
「 え〜〜 お父さんは オジサン じゃん。 」
「 ・・・ え !? ( がび〜〜ん ・・・ ) 」
「 あ! お母さんとすばるだ〜〜 ほら、さくらのきのした〜〜 おてて ふってるよ〜
おか〜さ〜ん! す〜ばる〜〜 いま ゆくよ〜〜 」
すぴかはわさわさ手を振ると ぱっと父親の手を離した。
「 おとうさん! すぴか、さきにゆくね〜〜 」
「 ・・・あ ! すぴか・・・ 」
ジョ−は自分のもとから あっという間に駆け去った娘の小さな背中をじ〜っと見つめていた。
・・・ ああ。 いつか ・・・ そうだな、いつの日にか。
このコはぼく達の元から飛び立ってゆくんだなあ・・・
どうもジョ−は早くも <花嫁の父> 気分に浸っているらしかった。
「 ジョ−ぉ〜〜〜 ! 何してるの〜〜 」
「 おとうさ〜〜ん! はやくぅ〜〜 」
「 おとうさ〜〜ん 〜〜〜 」
ちらほら舞い落ちる桜の木の下で。 彼の妻と子供たちが彼を呼んでいる ・・・
ぼくの居場所。 ぼくの還るところ。 ぼくの ・・・ ホーム。
ぼくはやっと ・・・ みつけた・・・
うん・・・! お前達のためなら なんだってできるさ!
「 おう! 今、行くよ〜〜 ! 」
ジョ−は 大余所行きのス−ツで彼の家族の元へ 春風の吹く庭を突っ切っていった。
「 バスはまだかな〜〜〜 」
「 まだかな〜〜 ま〜だだよ? 」
「 もういいかい? あはは・・・ すばる〜、おとうさんよか かみがひょんひょんだよ〜 」
「 え〜・・・ すぴかみたくみつあみにしようかなあ〜 」
「 え〜〜 へん〜〜 おとこのこなのに へん〜〜 」
「 そうかなあ〜〜 」
「 これ、あなた達・・・ 車道に出てはだめよ、危ないわ。 」
「 ほら・・・ こっちにおいで。 お父さんとお母さんの間にいなさい。 」
「「 は〜〜い 」」
入園式も無事に終わり、 島村さん一家は帰りのバスを待っていた。
なにせ ・・・・ かなりローカルな循環バスなので一時間に2〜3本しかまわってこないのだ。
双子の同級生達は 近所の子供たちがほとんどらしく一家でのんびり歩いて帰ってゆく姿が大半だった。
岬の突端にあるギルモア邸は ・・・ やはりかなりの遠隔地なのだ。
「 毎朝、ああ、帰りもか。 送り迎えが大変だねえ。 ・・・ 大丈夫かい。 」
「 平気よ、任せておいて! ほら、博士が改造してくださった自転車があるし。
わたし、こう見えてもバランス感覚はバツグンなのよ〜〜 知ってた? 」
「 ・・・ はい、003さん。 よう〜〜く存じております。 」
「 よろしい。 丁度いい運動になってよ。 ・・・ あら・・・ 先ほどはどうも・・・・ 」
フランソワ−ズは 通りすがった一組の親子連れに声をかけた。
恰幅のよいお父さんと丸顔でにこにこしたお母さんの間にちょっとクセっ毛のボクが挟まっている。
さきほどの騒動の時、一生懸命報告をしてくれた坊やとそのご両親らしい。
「 お先に・・・ あ。 奥様? あまり気になさらないことよ。 お嬢ちゃん、ボクを守って立派だわ。
・・・ ああいう方はね、どこの世界にもいらっしゃるようですから・・・ね。 」
「 あ・・・ はい・・・・ ありがとうございます! 」
「 それじゃ・・・また明日。 どうぞよろしく〜 」
「 はい! 」
優しい笑顔のお母さんに フランソワ−ズは頭をさげつつ・・・滲んできた涙をそっと押さえた。
・・・ よかった・・・! 温かい方がいらして・・・
「 よかったな・・・・ 」
「 ・・・ ん。 」
ぽん・・・とジョ−の大きな手が フランソワ−ズの背にそっと当てられた。
「 拭けよ。 チビ達に見られるぞ。 」
「 ・・・ ん ・・・ 」
差し出されたハンカチは 少々シワになっていたけれどフランソワ−ズはそのまま顔に当てた。
「 あ! バスだ〜〜 おとうさん、 おかあさ〜ん、バスがきたよ〜〜 」
「 バスだ〜〜 バスだ〜〜 ぶっぶ〜〜♪ 」
「 お〜っと・・・ ほら、ちゃんとお父さんの横にいなさい。 フラン ? 」
「 ・・・ あ・・・ ええ、もう大丈夫。 あっと・・・帰りにわたし、ス−パ−に寄ってゆくから・・・
ジョ−、二人を連れて先に帰ってくれる? 」
「 なにか急ぎの買い物かい。 こら、すぴか。 ちゃんとお座りしなさい。 」
一家はやっと来たバスに乗り込んだ。
「 え? だって晩御飯の準備、しなくちゃ。 」
「 ああ、今日はね・・・大丈夫さ。 ふふふ〜〜 教えちゃおうかな。 」
「 なあに? なにか予定があるの。 」
「 予定って・・・ そうだな、まず帰ったら一番に、記念撮影、さ。 門のとこの桜の下で一枚。
これは博士との約束でもあるんだ。 」
「 まあ、そうなの? いいわ、大切な記念ですものね。 」
「 うん。 島村家の新しい1ペ−ジってわけさ。 そしてね〜〜 今晩は 張大人の御馳走が届く! 」
「 ええ〜〜〜 そうなの?? 凄いわ〜〜 サプライズ!ねえ〜 嬉しい♪ 」
「 今朝ね、朝イチでメ−ルをくれて。 グレ−トも手伝ってくれるそうだよ。 」
「 まあ・・・・ 嬉しいわ・・・ 皆で祝ってくれて・・・ 本当に・・・ 」
「 ほらぁ 〜〜 また泣く〜〜 きみって本当に泣き虫になってない? 」
「 え・・・ ヤダ・・・だって勝手に涙が出てくるのよ。 でもね、これって嬉しい涙だもの。
こんな涙なら もっともっと流したいな。 」
「 うん ・・・ そうだね。 」
「 ・・・ でしょ♪ 」
ゴトゴトゴト・・・! ガッタン・ゴットン〜〜
海岸通りの田舎道、循環バスは島村さんち・一家を乗せてのんびり走っていった。
「 さあ〜〜 すぴか、すばる。 ちゃんと歯も磨いてきたかな。 」
「 うん♪ ほら〜〜 ぴっかぴか! 」
「 ぴかぴか ぴっかり〜〜♪ 」
双子達はバスル−ムから賑やかにコドモ部屋に戻ってきた。
張大人心尽くしの晩御飯を終え、コドモたちは <おやすみなさい> の時間となった。
リビングで祝い酒の杯を傾けている おじいちゃま やら グレ−ト伯父さん、張伯父さんにご挨拶をし、
本日の小さな主役たちは退場をした。
二人とも寝間着に着替えればすばるはもうほわ〜〜ん・・・とアクビを連発し始めている。
フランソワ−ズはよいしょ・・・と彼をベッドに担ぎ上げ寝かしつけた。
ジョ−はすぴかを手招きした。
「 すぴか。 今日のことだけどね。 」
「 きょうの・・・? 」
「 お友達を とん・・!ってやっただろ。 」
「 おとうさん・・・! アタシ! ごめんなさい、じゃないもん。 だってあのコ、すばるのことなかせた〜
すばるのかみ、ひっぱったり ほっぺつねったりしてたんだもん。 」
「 そうか。 うん、すぴかはぜったいにウソなんか言わないもんな、本当なんだろう。
おともだちもそういってたね。 」
「 うん! アタシ、すばるのおねえさんだもん。 すばるのこと、まもるんだ! 」
「 うん・・・ 大事な弟を守ったんだね。 偉いぞ。 」
ジョ−はちょっと言葉を切ると 愛娘を抱き上げじっとその幼い顔を見つめた。
・・・ ああ。 フランそっくりなこの瞳 ・・・ この笑顔 ・・・
本当ならぼくにこんなこと、言う資格なんかないんだ・・・!
でも。 すぴか。 お前のためなら お父さんはなんだってするさ!
「 すぴか。 でもな。 これだけは約束だ。 」
「 ・・・なに、おとうさん。 」
「 どんな時でも。 暴力だけはいけない。 絶対にいけない。 いいね。 」
「 でも ! ・・・・ あ ・・・・ 」
すぴかは突然 きゅ・・・っと小さなお口を閉じた。
おとうさん ・・・ おとうさん、ないてる?
おとうさん ・・・ なみだ、こぼれてないけど。 おとうさん ・・・ ないてる・・・!
「 ・・・ ん。 おとうさん ・・・ 」
「 ・・・・・・・ 」
お父さんは何にも言わずに きゅう〜〜〜〜・・・・っとすぴかを抱き締めた。
すぴかもだまっておとうさんに きゅう〜〜〜・・・・っとしがみ付いていた。
「 ・・・ ジョー ・・・・ 」
すばるのベッドの陰で フランソワ−ズが声を殺して泣いていた。
ぼろぼろ ほろほろ ・・・ 透明な玻璃玉が白い頬をすべり落ちてゆく。
ジョ−・・・! ジョ− ・・・!!
ああ ・・・ あなたって・・・なんて素敵なの! 最高のお父さんだわ・・・!
暴力はいけない。 どんな時でも 絶対に暴力はいけない。
そんな当たり前のことを口にするのは・・・
<兵器>として存在する宿命を背負わされ 生涯戦士として生きねばならない彼らにとって
どんなに ・・・ どんなに辛いことだろう。
それも。 頑是無い我が子に言い聞かせるのだ。
フランソワ−ズは凍りつき 心が千切れる想いでジョ−の言葉を聞いていた。
ジョ−・・・! あなたってヒトは。
ああ ・・・ やっぱりあなたは 勇気ある最強の戦士だわ!
フランソワ−ズはいつしか ・・・ 寝入ってしまった彼女の息子を抱き締めていた。
ねえ、すばる。 ねえ、すぴか。
あなた達はね、 とって〜〜〜も シアワセなのよ。
あなた達のね、 お父さんはいっとう強くて 世界でいっとう・・・素敵なヒトなの・・・!
「 ・・・ なき虫 フラン〜 」
すぴかを寝かしつけ、ジョ−がそうっと歩いてきた。
「 あ ・・・ ヤダ。 もう〜〜 ジョ−ってば〜〜 」
「 アリガト・・・ 」
「 え。 なにが。 」
「 泣いてくれて、さ。 ・・・ 聞いてたんだろ。 」
「 うん・・・ ジョ−〜〜! 愛してるわ ! 」
「 おっとぉ〜〜 ふふふ・・・ ぼくもさ、奥さん。 」
ジョ−とフランソワ−ズはコドモ部屋のすみっこで熱く熱く唇を重ねた。
かわいい二つの寝息が そんな二人を包んでくれるのだった。
オトナ達だけの祝宴は ブランデ−やら紹興酒、博士の奢りでドン・ペリなども加わって
皆 春の夜をほろ酔い加減で堪能し、お開きとなった。
久し振りに <自室> に引き上げる仲間を見送り ジョ−とフランソワ−ズはリビングでほっと一息ついた。
「 ・・・ あ〜あ・・・! 長い一日だった・・・! 」
「 そうねえ ・・・ 今朝イッテキマスって言ったのが10年くらい前みたいな気がするわ。 」
「 ははは ・・・ そんな気分だね、ほんと。 あ、そうだそうだ・・・ 忘れるとこだったよ。 」
「 ・・・ なあに。 」
ジョ−はう〜〜ん・・・とソファで伸びをしていたが、なにを思いついたのかすたっと立ち上がった。
サイド・ボ−ドのキャビネをあけ、なにやらごそごそやっている。
「 あら・・・ まだ飲み足りないの? 明日、仕事でしょう・・・ 」
「 ちがうよ。 ああ、あったあった。 ちゃんと仕舞っておいたからな〜 」
ジョ−はちょっとはにかんだ風に笑った。
あら。 ・・・ 懐かしいわ〜〜 こんな笑顔、久し振りだわ・・・・
そう・・・ まだここに住んですぐくらいの頃 ・・・ ジョ−ってこんな風に笑ってたっけ・・・
甘酸っぱい思い出が ふんわりとフランソワ−ズを包む。
カサ ・・・
小さな音がして 目に前に紙袋が差し出された。
「 これ。 きみに・・・ プレゼント。 」
「 ?? プレゼント? 」
「 うん。 そうだな〜〜 プレゼント・・・ってか、お礼、かな。 」
「 ・・??? お礼 ??? なあに、ますますわからないわ? 」
「 ・・・ うん ・・・ ウチのお嬢さんと坊やを ぼくの腕に抱かせてくれたお礼さ。 」
「 まあ ・・・ ジョ− ・・・ あなたがくれた命だわ。 」
「 ぼく達の最高の宝物だよね。 」
「 ええ。 なによりも・なによりも素敵な宝モノよ。
ふふふ・・・・ きっと、これから いろいろ・・・あるわね。 」
「 うん。 小学校に中学・高校 ・・・大学に就職 ・・・ いろいろあるだろうね。 」
「 今日があのコ達の デビュウ ね。 」
「 あはは・・・ そうだね。 すぴかとすばるは <外の世界> へデビュウしたんだ。 」
うん ・・・ フランソワ−ズは頷きつつも ちょびっと、ほんのちょびっと淋しい気持ちがしていた。
ず〜〜っと。 お腹の中から一緒だった子供たち。
今はまだしっかり握りしめてくるあの小さい手も これから少しずつ離れてゆくのだ。
そして いつか。 <その日> はやってくる・・・
彼女はぷるん・・・と頭を振って 遠い未来をひとまず振り落とした。
「 ・・・ ねえ、これ開けてもいい。 」
ジョ−は何も言わずに頷いた。
「 ・・・ 良いにおいね、バタ−の香り ・・・・ あら!? これって ・・・ 」
「 うん。 < きみの国のお菓子だろ > 。 」
「 ・・・まあ〜〜 ええ、ええ。 そうよ〜〜 ああ、あのマドレ−ヌね? それもやっぱり五つ・・・ 」
「 お土産なの?ってきいたんだ、きみは、さ。 」
「 ・・・ うんうん! って。 ジョ−は頷くだけだったわ。 」
「 そしたら・・・ きみは泣き出した。 ぽろぽろ ぽろぽろ ・・・ ガラス玉みたいな涙がいっぱいでさ。
もう、ぼく困って ・・・ あ〜〜 また泣くなってば〜〜 」
「 ご、ごめんなさい・・・ 涙が勝手に ・・・。 ふふふ・・・コレはわたし、独り占めするわ。
ジョ−とわたしのマドレ−ヌですもの。 こっそり仕舞っておいて・・・そうっと食べるの。
ねえ、知ってる? 真夜中にこっそり食べるお菓子ってね。 わくわくするほど美味しいの・・・! 」
「 おやおや・・・・ そんなコトすると太りますよ、奥さん。 」
「 あら。 ・・・ それじゃ、寝る前にちょっと身体を動かしましょうか。 」
「 えええ・・・? きみって随分積極的、いや情熱的になったんだねえ? でも・・・・ ココではな〜
ちょいとマズイのでないかい。 グレ−トとか、水を飲みに降りてくるかも・・・ 」
ジョ−はリビングにソファを見回している。
「 ・・・やだ! ジョ−ったら。 なにを考えているのよ?? もう〜〜 」
「 え ・・・ ちがうの。 」
「 ・・・ 当たり前じゃない〜〜 そうじゃなくて。 ねえ・・・ 踊って? 」
「 えええ・・・・ ぼく ・・・ フォ−ク・ダンスと盆踊りくらいしか・・・ 」
「 いいの。 わたしに合わせて 揺れていてくれれば。 」
「 ・・・う ・・・ うん ・・・ それじゃ ・・・え〜と? ・・・ Shall we
dance ? 」
「 Avec plaisir ! ( よろこんで! ) 」
ジョ−はおずおずと妻に手を差し伸べる。
ふわり・・・と良い香りをまとった身体が ジョ−の腕の中にはまり込む。
らららら〜〜〜♪♪♪ ららら・・・・
低くながれる歌声は ジョ−でもきき覚えのある優しい三拍子・・・
二人はゆるゆるとリビングのテラスに近づいていった。
ジョ− ・・・ ! あなたはやっぱり世界で一番素敵なヒトだわ・・・
フランソワ−ズ! きみは最高の恋人だよ・・・
星明かりが差し込む窓際で 恋人たちはゆったりと踊る
やさしいワルツは デヴュタント・ワルツ・・・
― これから 本当にいろいろ・あれこれあるだろう。
でも。 大丈夫、 きみがいるから。 あなたが一緒だから。 乗り越えてゆける・・・!
恋人たちはうっとりと寄り添っていた。
ある春の日に。
こうしてジョ−とフランソワ−ズは
<島村さんちの お父さん と お母さん> としてデヴュウしたのだった。
******************************** Fin. ************************************
Last updated : 04,21,2009. back / index
*********** ひと言 ************
やっと終りました〜〜 ・・・!
へへへ・・・ 後半には めぼうき様 から素敵イラストを二枚も頂きまして〜〜♪
今回の 【 島村さんち 】 は 完全に二人の合作になりました。
可愛い双子ちゃん と 甘ぁ〜〜〜い93 絵をご堪能くださいませ(#^.^#)
後半の最後に出てくる< マドレ−ヌ云々 > の小話につきましては
【 Eve
Green 】 様宅の BBS にてご覧くださいませ〜〜♪♪
春の小噺、全然 009じゃないですけど・・・ のほほ〜〜ん・・・と
楽しんで頂けましたら嬉しいです。
ひと言なりともご感想を頂戴できましたら幸いでございます〜〜 <(_
_)>