『 デヴュタント・ワルツ − (1) − 』
***** はじめに *****
この物語は めぼうき様の【Eve Green】様宅、<島村さんち>の設定を
拝借しております。
今回は♪ 完全なる合作です〜〜〜(#^.^#)
二人でお喋りしつつ練り練りしたネタ〜 満載です♪
「 ・・・なあ? ぼくのあのスーツ・・・ クリ−ニングから帰ってきているよな? 」
「 え・・・ どのス−ツ。 」
「 だから〜〜 あのスーツさ。 ・・・ 変だなあ? この奥に掛けておいたのに・・・ 」
ジョ−は帰宅してからずっとクロゼットの中に篭ってごそごそやっている。
もうけっこうな時間だし、フランソワ−ズも早く休みたいのでずっと見て見ぬフリを決め込んでいた。
へえ〜〜・・・? ス−ツ? 珍しいこともあるものだわねえ・・・
ああ、なにかお固い方面の取材でもあるのかしら・・・
彼女の夫にして 双子の子供達の父・島村ジョ−氏は都心にある出版社の編集部に勤務している。
一応 サラリ−マン なのだが、仕事の性質上、日々ス−ツで通勤しているわけではない。
むしろラフな恰好の方が圧倒的で、ス−ツ着用・・・な特別な時だけだった。
そんなわけで・・・ 島村さんちのクロゼットにはス−ツは数えるほどしか下がっていないのだ。
「 う〜ん・・・ この前、着たのは・・・いつだったかなあ・・・ でも絶対クリ−ニングに出したし・・・ 」
ウォ−ク・イン・クロゼットの中からなにやらぶつぶつ、独り言が聞こえてくる。
フランソワ−ズはドレッサ−の鏡越しにちらり、と視線を送ったがすぐに鏡の中の自分自身に戻してしまった。
ご自分でお探しください。 わたしは洋服探査装置、じゃありませんから。
それよりも・・・う〜〜ん・・・ もっと早くからパックとかしておいたほうが良かったかも・・・
島村さんの奥さんはふか〜〜い溜息をつき、ドレッサ−の引き出しからクリ−ムの瓶を取り出した。
せめて・・・ マッサ−ジ、しておきましょう・・・
最高に真剣な顔で 彼女は顔にクリ−ムを塗りたくりマッサ−ジを始めた・・・!
「 ねえ・・・ちょっと。 見てくれないかな。 ぼくのあのス−ツがさ〜 」
ジョ−はついに応援を求め、クロ−ゼットから顔を出した。
「 ・・・ え ・・・ だから、どのス−ツのこと? 」
「 だから あのス−ツ・・・ うわ!!!! ど、どうしたのかい???
あ・・・! どこか不具合で・・・ オイルが滲み出てきてしまったの? 大変だ、すぐに博士のトコに! 」
「 ジョ−。 ・・・顔のマッサ−ジをしていただけよ! 」
「 ・・・ まっさ−じ ・・・? だって ・・・ きみ、顔の表面 てかてかのつるつるだよ?? 」
「 ・・・ これは! 小皺とりクリ−ムなの! 」
「 こじわ ・・・ あ・・・そ・・・。 え? で、でもなんで。 ぼくたちは・・・ 」
「 あの、ね! いくらサイボ−グでも人工皮膚でも! お手入れを怠ったらたちまち小皺が増えるの。
わたし、もうオバチャンなんだから気をつけないと。 」
「 ・・・ あ ・・・はあ。 そ、そんなモンですか。 奥さん・・・ 」
「 はい、そんなモンですの。 ダンナさん。 ですから、今は取り込み中ですの。 」
「 ・・・ 申し訳ない。 あの〜〜ヒントだけでもいただけますか。
ぼくのあの、大他所行き用のス−ツはどこにしまってあるのでしょうか。 」
「 ああ、濃紺に細〜〜〜いグレ−のストライプが走っているのね。 」
「 そうです。 」
「 あれはほとんど着ないでしょ、一番奥・・・防護服と同じ列に仕舞ってあります。 」
「 ・・・! 防護服と・・・! ・・・ ありがとう。 」
ジョ−は一瞬 ・・・ むすっとした表情になりすぐにまたクロ−ゼットの中に消えた。
あらヤダ。 ・・・ふふふ・・・加速するより速かったりして・・・
ふうん ・・・そんなに防護服と一緒ってイヤかしらね?
フランソワ−ズは手に残ったクリ−ムをふき取るとドレッサ−の前から立ち上がった。
「 ・・・ 見つかった! ありがとう〜〜〜 オクサン・・・ 」
クロ−ゼットの奥から ぼわぼわ声が響いてきた。
「 いえ、どういたしまして。 ・・・ ああ、もう先に休みますわね、わたし。 」
「 ・・・ ああ ・・・ オヤスミ〜〜 」
先に眠っちゃおうっと。 今晩はオツキアイできませ〜ん・・・
フランソワ−ズはさっさとベッドに潜りこみ毛布に包まった。
う〜〜〜ん ・・・! と伸びをひとつ。
毎日がてんてこ舞いの連続で それは双子の母として当たり前なのかもしれないけれど、
ここ数日はさらに スペシャル・作業 が加わっていた。
勿論、その作業にはジョ−も手を貸してくれ ― というより彼は大喜びで ― 夫婦協同での夜なべ仕事の果て、
なんとか・・・かんとか完成したのだった。
準備万端、これであとは当日の好天を祈るのみ、なのだが・・・
ああ ・・・ 今日も一日 大忙しだった・・・ でもなんとか。 明後日に間に合いそう・・・!
満足の吐息はすぐに寝息に替わりつつ・・・あるとき。
「 ああ。 ぼく、ちゃんと明後日は休暇、取ったからね! 」
「 ・・・ う・・・ん・・・? きゅ・・・う か ・・・ あ ・・・ そ ・・・・ 」
「 うん! なにせ〜〜 一世一代の晴れ舞台だもの! う〜〜ん、もう今から緊張だよ〜〜
なあ、フラン、きみはどう? 」
「 ・・・ う ・・・ ん ・・・ ・・・・・・・ 」
「 ・・・ フラン? ・・・ なんだよ〜〜 もう眠っちゃったのか。 ちぇ・・・久々にゆっくり〜♪って
思ってたのになあ。 おい・・・フランってば〜 」
ジョ−はベッドに上がり彼の妻の肩をそっとゆすってみた。
「 ・・・ う ・・・ おやす ・・・み ・・・ ジョ ・・・ 」
「 あは。 沈没かあ・・・ まあ、無理ないよな〜。 明日は寝かせないからネ♪
さ〜て・・・あとはネクタイだな〜 うん、これはやっぱアレだよ、あれっきゃない! 」
満面の笑みで眠る彼女に軽く口付けをすると、ジョ−は再びクロ−ゼットに戻っていった。
春爛漫の夜、花びらが舞う夜空ではお月さまもにこにこ顔で岬の一軒家を眺めていた。
春 四月。
島村さんちの双子、すぴかとすばるの姉弟はめでたく幼稚園に入園する。
岬の洋館で元気いっぱいに暮らし、最近では地元の商店街やら公園でもなかなかの人気者の二人なのだが、
いよいよ <外の世界> へ踏み出すのだ。
「 ・・・ わあ〜〜 これ、きるの? 」
「 そうよ、幼稚園の制服よ。 お友達とみ〜んなで同じの着るの。
これはすぴかのよ、ほら・・・着てみて。 ああ、すばるもよ。 あなたのはこっち。 」
「 わあ〜い♪ これ、ぼくの? 」
「 そうよ、すばるのよ。 ああ〜〜、 すぴか!リビングででんぐり返しなんかやっちゃいけません! 」
「 どうして〜 アタシ、れんぞく・まえまわり、できるようになったんだ〜
ね、おかあさん、すばる〜〜 みててね〜 せえのっ! 」
島村すぴか嬢は幼稚園の可愛い制服を前にしてリビングの床ででんぐり返しを始めようと・・・
「 だめ! ここではいけません! すぴかさん、ほら、幼稚園のお洋服、着てごらんなさい? 」
「 ・・・ う〜ん・・・ 」
「 すぴか〜〜 僕、きれたよ〜 おかあさ〜ん、僕、きれた〜 」
「 あらぁ〜〜 可愛いわよ〜 すばる♪ 素敵すてき〜〜 」
母の拍手に小さな息子はにこにこ顔である・・・のだが。
「 本当にお父さんそっくり・・・♪ あら? どうしたの、すぴか。 一人でお着替えできるでしょう?
すばるとお揃いでいいわねえ。 」
顔だけは母によく似た娘はようやっとでんぐり返しを諦めたのだが、なにやら仏頂面である。
「 ・・・ おかあさ〜ん、アタシのずぼんがない。 」
「 え? あら、女の子はスカ−トよ。 ほら・・・これ。 可愛いわね〜〜 ひらひらでいいわね。 」
「 ・・・ すばるとおそろい、じゃないじゃん。 ・・・ すか-となんか、やだ。 アタシ、ずぼん がいい。
すばる〜 とっかえっこして〜 」
「 うん、いいよ〜 ぼく、すかーと、はいてみたかった♪ 」
「 だ、だめです! すぴか、あなたはちゃんとスカート、穿くの。 これはすばるのズボンです。 」
「 え〜〜〜 ヤダなあ〜〜 アタシ、ようちえん・・・ やだぁ〜〜 」
「 そんなこと、言わないの。 ほうら・・・ひらひら〜〜ってかわいいな。 蝶々さんみたいよ?
すばるもかっこいいわ。 お父さんと一緒で、そっくりね。 」
「 ・・・ おとうさんのずぼん、そんなにみじかくないもん。 ね〜おか〜さ〜ん、アタシもずぼん〜〜 」
「 だめです。 どうしてそんなワガママ、言うの。 」
「 ・・・ おかあさん、僕・・・すぴかととりかえっこして・・・いいよ? 」
仏頂面の姉をみつつ・・・弟は母のスカ−トをつんつん引っ張っている。
「 いいの! すばる、あなたはズボンを穿きなさい。 すぴか〜〜 自分の制服を着てちょうだい!
ほら 制服、着てないコは幼稚園、入れませんよ〜って。 」
フランソワ−ズのイライラはどうやら爆発してしまったらしい。
そんな母の口調の変化に子供たちはすぐに反応した。
「 ・・・ やだ〜〜 ・・・ようちえん ・・・やだ・・・〜〜 」
「 ・・・ うっく ・・・ すぴかがヤなら 僕も・・・ ヤだ〜〜 うっく・・・ 」
「 ああ、ああ・・・! もう二人して・・・お願い、大人しくしてちょだい〜〜 ! 」
「 ただいま。 みんな・・・どうしたの。 」
リビングの入り口で穏やかな声が聞こえた。
「 !? あ、ジョ−・・・! どうしたの?? こんなに早く・・・ 」
フランソワ−ズびっくりして振り返り・・・あわてて目の縁を指で払った。
自分の両脇で半ベソをかき始めた子供たちにほとほと手を焼き、彼女自身もちょびっと涙が
にじみかけていたのだ。
い、いけない・・・! こんな顔で おかえりなさい をしてはダメだわ。
髪を撫で付けるフリをし、ぱっと笑顔になって彼女は夫のもとに駆け寄った。
「 お帰りなさい〜〜♪ ごめんなさい、全然気がつかなかったわ。 車・・・? 」
「 ただいま、 フランソワ−ズ・・・ 」
「 ジョ−・・・ 淋しかったわ ・・・ んんん 」
― お帰りなさい、のキス ただいま、のキス。
子供たちが泣きべそをかいていようが 邸の屋根が吹っ飛んでいようが、これだけは最優先なのだ。
島村夫妻はリビングの真ん中で 子供達の前で 熱く熱く唇を重ねていた。
「 ・・・ いったいどうしたの。 あ、また会社にとんぼ帰りするの? 」
「 いや。 早退してきたんだ。 今日は車は社に置いてきた。 」
ジョ−はようやく細君の身体を離し 次に彼のタカラモノ達に腕を差し伸べた。
「 すばる〜〜 すぴか〜〜 ただいま〜〜 」
「 うわ〜〜〜い 〜〜〜 おとうさ〜〜ん♪ 」
「 おとうさ〜〜ん わ〜〜い♪ 」
双子の姉弟は ぽん・・・と父親の腕に飛びついてきた。
「 ただいま〜〜 イイコにしてたかなあ? おや、すばる? カッコいいなあ。 」
「 おとうさん〜〜 これ、ようちえんのせいふく だよ。 」
「 そうか〜 よく似合うぞ、ハンサムさんだ。 あれ、すぴかは? 」
「 ・・・ アタシ、これ、キライだ。 」
「 う〜ん、お父さん、見たいな〜 すぴかが制服きたとこ、見たいなあ。
きっと可愛くてカッコいいと思うんだけどな〜 ・・・ お父さんに、着てみせてくれるかい? 」
「 ・・・ ん。 」
まだ涙の痕をほっぺに残しつつ・・・ すぴかは素直に <すか−と> を穿き始めた。
あ、あ〜ら・・・ たった今まで半ベソかいてオヘソを曲げていたくせに・・・
もう〜〜 本当に女の子って難しいわねえ・・・
フランソワ−ズはこっそり、本当にこっそり、溜息をつきすぐに仕舞いこんだ。
「 うわあ〜〜 すごく可愛い♪ すぴか〜〜 美人さんだなあ〜〜
すばる、カッコいいなあ〜〜 お父さん、びっくりしちゃったよ。 ねえ、フランソワ−ズ? 」
「 えへへへ・・・・ 」
「 ・・・ うふふふ・・・ 」
父に手放しで褒められ双子たちは得意満面で二人で手を繋いでにっこりしている。
「 え・・・ええ、ええ。 本当によく似合っているわよ、二人とも。
さあ・・・ これで明日の準備はぜん〜ぶオッケ−ね。 じゃ・・着替えてオヤツにしましょ。
手を洗っていらっしゃい。 」
「「 は〜〜い 」」
子供たちはぱらぱら制服を脱ぎ普段着のトレ−ナ−を着ると、仲良くバスル−ムに跳んでいってしまった。
「 ・・・ あ〜あ・・・やれやれ・・・・ ジョ−〜〜〜 ありがとう・・・! 」
「 え? なにが。 」
「 もうね、すぴかがゴネ始めてそのうち二入とも泣きべそで ・・・大変だったのよ。 」
「 ウチのお嬢さんはなんでそんなにゴネていたのかい。 」
「 ・・・ スカ−ト、穿きたくないんですって。 ズボンがいい!って・・・
もう〜〜 女の子なのに、ちっともお淑やかじゃないのですもの。 心配になっちゃうわ。」
「 あは。 ・・・ 大丈夫だよ、あんなに得意気にしてたから。 ちょっと拗ねていただけじゃないのか。 」
「 ・・・ だといいのだけれど。 本当にあのコは・・・よく判らないわ、わたし。 」
「 ただのお転婆さんなだけだよ。 きみの娘だもの、元気いっぱいなのさ。 」
「 ・・・ そうかしら。 それなら・・・う〜〜ん・・・あんまりよくはないけど。
あ・・・! ジョ−! あなたってば、 どうしたの?? どこか・・・具合でも悪いの? 」
「 えええ? どうして。 」
「 だって・・・ こんなに早い時間に・・・ 早退までしてくるなんて。 」
夫婦はお互いの腰に手を回し ゆったりとソファに座った。
春の日差しはまだまだリビングに明るく注いでいる。 空が茜色に染まるまでまだかなり間がありそうだ。
「 うん、なんか緊張しちゃってさ。 ふふふ・・・おかしいよね、ぼくの方が緊張するなんて。 」
「 ・・・ 緊張? なにか・・・あるの。 」
「 なにかって・・・ 明日はにゅ ・・・ 」
パタパタパタ・・・・ 賑やかな足音がリビングに戻ってきた。
「 おかあさ〜〜ん、 お手々〜〜 あらった〜〜 すばるはおかおまであらった〜〜 」
「 僕〜〜 おかおもあらったよ、おかあさん〜〜〜 」
すばるは父よりすこしだけ薄い色のセピアの髪を ぷるぷる震わしている。
「 あらら・・・ 髪まで濡らして・・・ ちょっと待っててね、拭かなくちゃ・・・ タオルを取ってくるわね。 」
今度はフランソワ−ズがバスル−ムに駆けていった。
「 おいで、二人とも。 ・・・ ああ、お手々、きれいになったね〜〜
すぴか・・・ ほら・・・髪がくちゃくちゃだ。 お父さんが三つ編、やりなおしてあげるよ。 ここに座って。 」
「 うん♪ わ〜い ・・・ あ! いた〜い! いたいってば、おとうさん ! 」
「 あ・・・ごめんごめん ・・・ すばる、そのゴム、とってくれ。 」
「 うん。 ・・・・はい、お父さん。 わあ〜〜 おとうさん、じょうず〜〜 」
「 おとうさん、ま〜だ? 」
「 もうちょっと ・・・ ま〜だだよ♪ 」
「 うふふふ・・・ も〜いいかい♪ 」
「 うわ〜〜 僕もいわせて! すぴか、ま〜だだよ♪ あとかたっぽだよ♪ 」
うふふふ・・・くすくすくす・・・
父と子供たちは一塊になり、声を上げて笑いあっていた。
「 ほら、タオルよ・・・ あら。 」
「 あ、フラン〜〜 ははは・・・なんだかすばるの髪はもう乾いちゃったみたいだよ。なあ、すばる。 」
「 うん♪ ふわふわだよ〜〜 」
「 ほんとだ〜 くるんくる〜〜って、おとうさんといっしょだね〜 いいな〜 すばる〜〜 」
「 すぴかだって綺麗な髪だよ? きらきら〜ってしてて。 お母さんと同じだ。 」
「 う〜ん ・・・ アタシ、おとうさんとおんなじがいいな〜 」
「 まあ・・・ じゃあ、オヤツ食べてらっしゃい。 テ−ブルの上に用意してあるわ。
すぴか、お祖父ちゃまのお友達から頂いたお煎餅があるのよ。 すばるにはカリントウよ。 」
「「 うわ〜〜〜い♪♪ 」」
双子達は歓声をあげ、キッチンに駆けていった。
「 ああ! お行儀、よくするのよ! すぐにお母さんも行きますからね〜 」
「「 はあ〜い ♪ 」」
お返事だけは元気に聞こえてきたのだが・・・
どうせまた ミルク・ティ−をこぼしたりお煎餅とカリントウミックス〜とかやってるのよね・・・
ふうう〜〜・・・と溜息がまたひとつ。
「 ちょっと見て来るわね。 ・・・ああ、ジョ−もお茶、召し上がる? 」
「 うん ・・・ そうだな。 ぼくもすぴかのお煎餅が食べたいかも。 」
「 あらまあ。 ふふふ・・・それじゃすぴかに分けてもらいましょうか。 」
「 娘のお残りを期待しています。 」
「 ふふふ・・・どうだか・・・ ちょっと待っててね。 」
フランソワ−ズはソファから立ち上がった。
相変わらずきゅ・・・っと引きあがったヒップが ジョ−の目の前を過ぎてゆく。
見慣れたはずの後姿に ジョ−はまたしても見惚れてしまう。
・・・ そそられるよ、なあ〜〜・・・ うん♪
服の上から想像するのも すご〜く刺激的だ・・・って判っているのかなあ
明日の彼女の姿、これはもう絶対だ! とジョ−はひとり、力強く頷いていた。
すぴかに<分けて>もらったお煎餅で夫婦は午後のお茶タイムを楽しんでいた。
子供たちは なにやらお気に入りのアニメを 二人で熱心に眺めている。
色違いの小さな頭がTVの前に並んでいる。
ジョ−は満面に笑みをたたえてその光景を眺めていた。
目を転じれば 彼の美人の細君が側に寄り添いいい匂いのする身体が触れている・・・
ずっと・・・ 生まれてからずっと。 欲しくてたまらなかった <家族> の温もり。
それがいま、ここに、ジョ−の手に中にしっかりと存在するのだ。
・・・ あ ・・・ なんだか。 涙がでそうだな・・・
ふふふ・・・ シアワセでも 涙って 零れるんだなあ・・・
ジョ−はティ−・カップをテーブルに戻すと、満足の吐息をふかく深く洩らした。
「 ところで、明日だけど。 きみは何を着てゆくの。 」
「 わたし? え・・・別に普通よ。 明日もお天気だそうだから自転車で行けるでしょ。
いつものジ−ンズとパ−カ−で・・・もう寒くないし。 」
「 !? ・・・ 明日、入園式なんだよ〜〜 」
「 ええ、そうね。 10時からでしょ。 ちゃんと間に合うように送ってゆくわよ、わたし。 」
「 送ってゆく・・・って! 家族全員で行こうよ。 お車はご遠慮ください、だから
バスで途中まで行って。 後はぷらぷら歩けばいいよね。 」
「 ・・・ ? だって・・・ ジョ−、あなたは明日もお仕事でしょう? 」
「 休んだよ、勿論〜〜! もうず〜っと前に休暇申請してあるもの。 この日は絶対に、って。 」
「 ・・・ 休んだ?? か、会社を・・?? 」
「 そうさ。 編集部の皆も編集長も、快くオッケーさ。 しっかり父親業、やってこい!ってね。 」
「 ・・・ あの。 幼稚園の入園式のために? 」
「 うん。 日本ではね〜コドモの入園・入学式、 卒園・卒業式って家族にとっても大切な行事なんだ。
幼稚園や学校に行って ・・・ 一緒に式に出る正式の日なんだよ。 」
「 正式の日 ・・?? え・・・・ あ! それじゃ・・・ あのう〜〜 お宮参り とか 七五三 とか・・・
初詣なんかと同じってことなの? 」
「 う〜〜ん・・・ ニュアンスは若干ちがう気もするけど・・・まあ、似たり寄ったり、かなあ? 」
「 そうなの??? え・・・それじゃ・・・もしかして。 キモノ、ね?! 」
「 ・・・さ、さあ〜〜?? 別にそんなキマリは・・・ 」
「 えええ〜〜 ど、どうしましょう〜〜 わたし、一人ではキモノ、着れないのよ〜〜
大変〜〜! 美容院に予約・・・ まだ間に合うかしら! 振袖・・・じゃなくて え〜と??エドヅマ? 」
フラソワ−ズはがば!っと立ち上がり リビングの隅にある固定電話に突進した。
「 あ・・・・! 多分 ・・・着物、とかじゃなくていいと思うけどなあ。
ぼくが小学校に入った時。 お母さん達ってス−ツ姿だったよ。 」
「 ・・・ スーツ!? ・・・ ウチにあったかしら・・・ ちょっと捜してくるわ! 」
「 ・・・あ ・・・ふ、フラン 〜〜 」
ジョ−の自慢の愛妻は 彼女の夫の声などまるで耳に入ってはいない様子で二階へ駆け上がっていった。
「 ・・・ あ〜あ・・・・ ウチの中で加速するのはきみのほうだよなあ・・・ 」
「 おとうさ〜ん かそく ってなに。 」
すぴかがくるり、と振り向いて まじまじとジョ−を見つめている。
夢中になってTVのアニメを見ている、と思っていたのに・・・ どき・・ん!とジョーの心臓が跳ね上がる。
「 え? そんなこと、言ったかなあ。 」
「 いった。 おとうさん、いま、いったよ。 かそくするのはきみのほう・・・・って。
おかあさんがなにをするの。 」
「 え・・・っと・・・ ( うわ・・・ やっぱフランの娘だけあるよ〜〜 耳の感度、最高だ・・・ )
あの〜〜 つまり。 ( ええい、言っちまえ〜 ) う〜んと速く走るとこさ。 」
「 ふうん・・・そっか。 おかあさん、はしるのはやいもんね。 」
「 すぴか〜〜 だまってて〜〜 ほら、もうじきだよ〜〜 へんしん、するよ? 」
「 あ!? ごめん〜〜 ・・・ 」
弟に小突かれ、すぴかはまた熱心にTVの画面を見つめ始めた。
「 あ・・・ ( よかった〜〜〜 ) 」
ふうう〜〜〜と 湧き上がってきた溜息を ジョ−はこっそり・こっそり・・・散らしていった。
・・・ コドモって。 ほ〜んと、油断もスキもないよなあ・・・
歴戦の・最強の・サイボ−グ戦士009は 彼の小さな娘相手に冷や汗、たっぷり〜〜苦戦していた。
「 ジョ−・・・! これで、どう?? 」
「 ・・・・ え。 あ・・・ フラン〜〜 ス−ツ、あったかい? ・・・ あ・・・・う〜〜ん ・・・ 」
ジョ−の目の前に昨今街中でよく見かけるスタイルの うら若い女性 が立っていた。
「 フラン・・・ その恰好・・・って・・・ あのぅ〜〜 」
「 ぼんそわ−る、マドモアゼル♪ 」
つややかなスキン・ヘッドが 飄々とリビングの入り口に現れた。
すぐ後から子供達がわらわらと追いかけてきた。
いつの間にか玄関に出てくれたらしい。
「 おとうさ〜ん、 おかあさ〜ん。 グレートおじちゃまだよ〜〜 」
「 グレートおじちゃまだよ〜〜 」
「 あら?! 全然気がつかなかったわ〜〜 玄関のアラ−ム、鳴った? 」
「 さ、さあ・・・ぼく、きみに目が集中してから ・・・ 」
「 うふふふ・・・ いやぁねえ〜〜 あ、ありがとう、あなた達。
グレ−ト〜〜、 いらっしゃい! お久し振りねえ。 」
「 いらっしゃい、グレ−ト。 ごめん、気がつかなくて・・・ 」
「 いやいや・・・ ちっちゃな姫君とナイト君がお迎えしてくれましたからな。
my boy、元気かな。 」
「 お蔭様でね・・・なんとか。 グレ−ト、最近富にご活躍だね。 大人からも聞いているよ。 」
「 いやいや。 まだ序盤戦、というところであるよ。 まあ、見ていてくれたまえ。
おっほん、今日は 島村すぴか嬢とすばる君のお祝いに参上いたしましたぞ。
嬢と坊には張々湖飯店特製のスウィ−ツの詰め合わせ。 そして ご両親には これだ。 」
グレ−トは大きな箱を傍らのテ−ブルに置き、背広の内ポケットから袱紗包みを取り出した。
「 ま。 万事モノイリと思ってな。 」
「 ・・・ ありがとう! グレ−ト・・・ 本当に申し訳ない。 」
「 いやなに。 チビさん達の笑顔は我輩らにとっても太陽だからなあ。 」
「 グレ−ト、ありがとう〜〜 本当に助かります。 あ〜 あなた達〜〜 お祝いを頂いたの、
美味しいお菓子ですって。 グレ−ト伯父さんにありがとう、を言いましょうね。 」
「 うわ〜〜 おかし〜〜♪ グレ−トおじさん、おせんべい、ある? 」
「 おお、あるとも。 すぴか嬢の大好きな特製・ごま煎餅が入ってるぞ。 」
「 うわ〜〜 うわ〜〜♪ ありがとう〜〜〜 」
「 グレ−トおじさん。 ごまだんご、ある? 」
「 おう、勿論。 坊の好物だもの、張大人が腕にヨリをかけてつくっていたぞ。」
「 うわ〜〜い♪ ごまだんごぉ〜〜♪ ご〜まだんご〜〜♪ 」
「 おかあさ〜ん、アタシ たべたい〜〜 」
「 僕も! 僕も〜〜たべたい〜〜 ごまだんご〜〜〜ぉ♪ 」
子供達は グレ−トが置いた大きな箱のまわりで跳びはねている。
「 う〜〜ん・・・もう今日のオヤツ、食べてしまったでしょう?これはね、明日のおめざにしましょうね。 」
「 え〜〜〜 だってだってぇ〜〜 」
「 今食べたら晩御飯が食べられませんよ。 美味しいお土産は明日ね。 」
「 おお、そうだな。 チビさん達? 知ってるかな。 お菓子はなあ〜 楽しみに待つとそれぶんだけ
ず〜〜っと美味しくなるんだ。 」
ばちん・・・! とグレ−トは愛嬌たっぷりにウィンクを送る。
それだけで 子供達はもう半分<まほう>にかかってしまうらしい。
「 え。 ほんとう? グレートおじさん。 」
「 本当だとも。 おっほん! それでは仕上げの呪文を・・・ びびでぃばびでぃぶ〜〜♪ 」
グレ−トは想い入れたっぷりに <呪文> を唱え箱の上で手をひらひらさせている。
「 うわあ・・・・♪♪ ほんとに まほうつかい だあ〜〜〜 」
子供達は最早尊敬の眼差しで 名優・グレート伯父さん を見つめていた。
「 さあ、あなた達。 おじいちゃまをお呼びしてきてちょうだい。 グレ−ト伯父さんが見えましたって。
皆でお茶にしましょう〜って。 」
「「 は〜〜い♪ 」」
双子達は競争で博士の書斎へと駆け出していった。
「 お〜お・・・元気だなあ〜〜 子供ってのはいつだってエネルギ−のカタマリであるな。
うん、我輩も彼らの元気のオ−ラを頂戴した気分だぞ。 」
「 ふふふ・・・ さすがね、グレ−ト。 ああいう風に言えばいいのね〜 」
フランソワ−ズはくすくす笑い、お茶を入れ替えている。
「 あはは・・・ アレはアドリブだよ。 ときに マドモアゼル。 」
「 え? なあに。 ・・・ グレ−トだけね、未だに <マドモアゼル>って呼んでくれるのは・・・・ 」
「 おぬしは我らが永遠のマドンナだからな。 ・・・しかし。 」
「 ・・・ はい? 」
グレ−トは口を閉じると、フランソワ−ズの出立 ( いでたち ) を上から下までずずず〜〜っと眺めた。
「 ・・・ マドモアゼル。 その姿は ― 就活かい。 」
結局。
すったもんだの騒動の果てに ・・・ グレ−トをクロ−ゼットにまで案内しあれこれ見つくろってもらい。
黒の上下に開襟白ブラウス、髪は中ほどの高さに結ってゴムで留めていた・就活スタイル は
濃紺の膝が隠れる丈のスカ−トに紺の千鳥格子のジャケット、スタンド・カラ−には軽くレ−スを
あしらった白いシルクのブラウス ・・・ に落ち着いた。
「 うん・・・ これでどうかな。 おい、ご亭主? 感想をたのむ。 」
「 ・・・ いや〜〜 ・・・ ありがとう・・・! 」
ジョ−はぎゅ・・・っとグレ−トの手を両手でにぎりアタマを垂れた。
「 これでなんとか。 明日の入園式準備、クリアだ・・・ 」
「 ふうん・・・ こういう恰好をするものなの? ふうん・・・・ そうなんだ、ふうん・・・ 」
当のご本人は鏡に前で くるり、と回りしげしげと我が姿を眺め回している。
「 フラン・・・! ああ、立派な <新入生のお母さん> だよ〜〜 うん♪ 」
ジョ−もにこにこと細君の姿を 見つめ・・・ これは多分にハナの下を伸ばしていた。
「 おお ・・・ これはこれは。 匂うがごとき若妻の姿、じゃなあ・・・ 」
「 博士 ・・・ まあ、イヤですわ。 」
「 うん、よく似合っておるよ。 ああ、お前も立派な母親じゃのう・・・ うん、うん・・・ 」
二階の夫婦の部屋に顔を覗かせた博士は <愛娘> の晴れ姿に目を瞬かせている。
「 お前達も一人前の親になったか・・。 うん うん ・・・ 」
「 も〜〜 博士ったら。 明日は皆で記念撮影、しましょう。 」
「 うん うん ・・・ おお、そうじゃ。 チビさん達がもうオネムでの〜一緒に風呂に入っておいたぞ。 」
「 ・・・ あ!! す、すみません〜〜 きゃあ・・・ もうこんな時間!! 大変だわ〜〜 」
フランソワ−ズは時計を見て 悲鳴を上げた。
いつもの子供達の夕食の時間はとっくに過ぎている。
「 晩御飯・・・! あの子達、 食べてないのよ〜〜 」
「 ああ、ワシがな。 適当に作ってみたぞ。 ははは・・・コドモは目新しいモノが好きだからなあ。
二人ともぺろり、平らげてくれたわい。 ワシも作り甲斐があるというものだ。 」
「 え・・・ は、博士が?? 」
「 ああ、カルいもんじゃ。 ・・・ と言っても冷凍庫にあったストックをチン! しただけだが。 」
「 ありがとうございます〜〜〜 すみません、すみません〜〜
ああ・・・どうしましょう、全然晩御飯の用意、していないわ・・・ コドモ達のお風呂まで・・・ 」
フランソワ−ズはもうパニック寸前である。
「 ぼく。 夕食の用意、してくるから。 きみは着替えてから子供達をたのむ。
歯磨きさせて ・・・ オヤスミをしてやってくれ。 」
「 ジョー・・・ありがとう・・・! 博士 〜〜 グレート〜〜 本当に本当に・・・ 」
「 すまんな〜 マドモアゼル。 我輩もすっかり時間を忘れてしまって・・・ 申し訳ない。 」
「 とんでもないわ。 原因は全てわたし、ですもの。
皆さん ! 本当に本当に ありがとう〜〜〜 」
亜麻色の髪をぶんぶん振って 涙まで飛ばしている彼女に 博士もグレ−トも
なぜか とても・・・ とてもほっこりと温かい想いを感じていた。
入園式の前夜。 岬のギルモア邸ではかなり遅い時間のディナ−・タイムとなった。
「 ほう?? これは・・・懐かしいなあ〜〜 あの頃、よく食ったもんさ。 」
「 あは。 懐かしいって言ってっくれるの、グレ−ドくらいだよ。 あの頃は、もう散々だったからね〜 」
「 ははは・・・ 思い出したぞ、<ジョ−のインスタント料理> じゃな。 うんうん・・・懐かしい味だ。 」
「 ああ〜〜 博士まで・・・ へへへ・・・でもぼくも実はキライじゃないんだ、この味。 」
案外美味しそうな顔で箸を運ぶ、今晩の料理人に 博士もグレ−トも腹を抱えている。
「 ねえ、フラン? そんなに捨てたモンでもないだろ。 」
「 ・・・ ええ。 ・・・美味しいわ ・・・ 」
「 あれ。 どうかしたのかい。 なんだかちっとも食べていないね? あ・・・やっぱ不味いかなあ。 」
フランソワ−ズの皿は あまり手を付けられていなかった。
レトルト食品は <出来立て・命>、時間が経てばやはり手の込んだ料理には大幅に負けてしまう。
「 あの・・・ あまり冷めないうちに食べたほうが・・・ちょっとはマシだと思うよ? 」
ジョ−は遠慮がちに付け加えた。
「 ううん ・・・ ううん・・・ 美味しいわ、これ。
あの ・・・! ごめんなさい!! わたし・・・ 主婦も母親も失格ね。 自分のコトにかまけて
皆の晩御飯のこと、忘れてしまうのなんて・・・ 本当に ・・・ 」
・・・ ぱた ・・・
彼女の前のテ−ブルに水玉模様がひとつ、落ちた。
「 おお? 我らがマドモアゼル〜 我輩はなんと申したかな。 」
「 ・・・ え・・・? 」
グレ−トは皿に残っていた最後の一切れをフォ−クに突き刺し、持ち上げた。
「 懐かしのキミよ 今も汝の健在を祝す
美味にして有能なるキミよ 汝のわが胃袋への安全なる航海を祈る・・・ 」
ぱくり。
朗々と響くつぶやきの果てに、ソレはグレ−トの胃の腑へと収まった。
「 ・・・ うむ。 ここに美女の微笑みあらば 完璧なる晩餐・・・ マドモアゼル? 」
「 そうじゃ、そうじゃ。 フランソワ−ズ、そんなに気にするな。
お前は明日のチビさん達の入園式のことでアタマがいっぱいだったのじゃろう? 母親として当然じゃ。 」
「 フラン〜〜 ごめんね。 ぼくが気がついていれば・・・ ごめん!
あの・・・ これ、そんなに不味くはない、と思うからさ。 」
「 左様! 昨今のこの国の インスタント食品 は宇宙食にも採用されているそうだからな。
おお ・・・ その笑顔だ、マドモアゼル♪ これぞ春の女神の微笑み・・・ 」
グレ−トはナイフ・フォ−クを置くと 大仰に会釈をした。
「 まあ、グレ−トったら。 お世辞は結構よ〜〜 ごめんなさいね、折角来てくださったのに・・・ 」
「 なんのなんの。 それに我輩は世辞なんぞ申しませんぞ。
それにな。 これは ・・・ あの頃の味、だ。 我らがようよう自分自身に戻れた頃の、な。 」
「 ・・・ あ ・・・ うん。 そうだね。 そうだった・・・ 」
あの頃 ― ようやく暗黒の世界から必死の思いで抜け出すことができ。
ようやく日の当たる<当たり前>の世界に戻ることができ。
しかし 戸惑うことばかりで。 行動を共にした人々は、まだ<仲間>ではなかった・・・
そんな頃、食事だけが唯一皆が顔を揃えるときだった。
そして ただ単に便利だから、というだけで唯一の地元民であるジョ−はレトルト食品を買い入れていた。
「 味なんて・・・わからなかったな。 空腹が解消されればいいや・・・って気分だったよ。 」
「 う〜む。 不味いとか美味いとかを問う段階ではなかったな。 」
「 ・・・ ふふ・・・ 少なくともコウモリよりはマシだわ、って思ってたわ。 」
「 え〜〜 そりゃないよ〜〜 フランソワ−ズ〜〜 」
「 こうして皆で <懐かしい> と思えるのはありがたいことじゃな。 」
博士の低い声に 皆、ただだまって頷くだけだった。
「 ・・・ これ、美味しい・・・ 本当よ。 」
フランソワ−ズは自分の皿から 冷めてしまった夕食をゆっくりと口に運び始めた。
ちゃんと味わえる 今 という時間を 誰もがこころのうちで噛み締めていた。
「 あ・・・・ なんだか ほっとして。 お風呂で眠ってしまいそうになったわ・・・ 」
「 おいおい? 本番は明日なんだよ〜 しっかりしてくれ、お母さん。 」
「 ・・・ そうよね〜〜 ああ でも・・・ 今夜ほど日本のお風呂が嬉しかったこと、ないわ。
ああ ・・・ う〜〜ん ・・・ いい気持ち・・・ 」
フランソワ−ズはバス・ル−ムからもどり、タオルで髪を包んだままドレッサ−の前に腰を掛けた。
「 これで明日への準備は万事 オッケ−だよね。 明日は晴れの予報だし・・・ 良かったなあ。 」
ジョ−も う〜〜ん・・・とベッドで伸びをしている。
「 ええ、そうね。 ああ、グレ−トったら泊まっていったらよかったのに・・・ 」
「 なんかね、大人の仕込みの手伝いがあるんだって。 きっと大きな宴会でもあるんだよ。 」
「 そうね、お仕事なら仕方ないわね。 仕事ってば。 ジョ−・・・ 本当にいいの? 」
「 ・・・? なにが。 」
「 明日よ! 明日、会社を休んでしまって・・・本当に大丈夫? 」
「 平気だってば! 子供の学校行事参加の為の休暇は誰だってフリ−パスさ。 」
「 ・・・ へえ 〜〜 そうなの。 日本って ・・・ そうなのね〜〜 準備も大変だったけど・・・ 」
「 うん。 お茶の時にも言ったけど。 子供の入学・入園って家族の大切な節目だから。
皆で一緒に参加するのさ。 フランスでは違うのかい。 」
「 違う、っていうより・・・ 入学式とか・・・なかったと思うわね〜 そりゃ、初めて小学校に行く朝、
母は丁寧に髪を梳かしてくれて白いレ−スのリボンを結んでくれたけど。
わたしは兄がいたから、兄が手を繋いで一緒に一年生のクラスまで送ってくれたわ。
でも ・・・ それだけだったと思うのね。 」
「 ふうん ・・・ ああ、いいお兄さんだね・・・ 白いリボンのきみ・・・可愛いかっただろうなあ〜〜 」
「 うふふ・・・少なくともウチのお嬢さんよりはず〜っとお淑やかでしたわ。 」
「 へえ? でもさ、ウチのお嬢さんも可愛いよ〜〜 きみとそっくりだし〜〜
ぼく、あの瞳とこの瞳に じ〜〜っと見つめられると・・ もうもう〜〜 思考能力、ゼロって気分でさ。 」
「 まあ〜〜 お父さん? しっかりしてくださいね。 」
「 ふ、ふ〜ん・・・だ。 それじゃ・・・ ご褒美、欲しいな〜 」
ジョ−はすた・・・!っとベッドから起き上がると彼の細君の後ろから一緒にスツ−ルに座った。
「 あらら・・・ わたし、まだ髪が乾いていないのよ? ジョー パジャマがぬれてしまうわ・・・ 」
「 いいよ ・・・ すぐに脱ぐから。 ・・・ ああ、洗い髪のきみも 〜〜 すご・・・色っぽい・・・ 」
ごくり、とジョ−の咽喉が鳴る。
「 まあ、困ったヒトねえ。 でもちょっとだけ待って・・・ 顔のマッサ−ジだけさせて。 」
「 そんなもん、いらないよ。 マッサ−ジなら ぼくが♪ ほら・・・ほら・・・ここ・・・ 」
「 ・・・ ! や ・・・ もう〜〜 ・・・ 」
「 昨夜はさ〜 オアズケ、喰っちゃったもんな。 その分今晩〜〜 たっぷり、さ♪ 」
「 だめ ・・・ 明日 入園式でしょ・・・ 寝不足な顔は ・・・ あぁぁ 〜〜 そこ ヤ ・・・! 」
フランソワ−ズの身体が びくり、と震え仰け反った。
「 だ〜から。 きみを最高に綺麗にするよ。 ぼくが 精魂こめて磨きあげてやる・・・・
この顔も この身体も ・・・ いっぱいいっぱい愛して ・・・ ぴかぴかに・・・! 」
「 ジョ ・・ ー ・・・ ちゃんと ベッドに ・・・ 」
「 あは、ごめん。 じゃ・・・ このまま・・・ 」
肌蹴た胸に手を当てたまま、 ジョ−は彼の恋人を抱き上げベッドに運んだ。
はらり・・・と薄物のネグリジェが床に落ちる。
清潔なリネンの上には 薄薔薇色にそまりつつある肢体が潤んだ瞳でジョ−を見上げていた。
「 ・・・ ああ 綺麗だね。 こんなにキレイなきみが ・・・いけないんだ・・・ 」
「 まあ ・・・ 勝手なヒト ・・・ね ・・・ 」
「 それでは。 イタダキマス♪ ・・・ んんん ・・・・ 」
「 ・・・あ ・・・ んんん ・・・ 」
ジョ−は亜麻色の髪に顔を埋め 甘い香りと柔らかい感触を思いっきり楽しむ。
長くしなやかな指は 白い双丘を辿り頂点の蕾を探り当てた。
夫婦の寝室に言葉は絶え 熱い息遣いと甘い呻きだけがどんどん満ちてゆく・・・
妻を 夫を。 いや 恋人を貪るのか 与えるのか 最早そんな境界は消え去っていた。
セピアと亜麻色の髪が枕の上で混じりあい絡まりあう。
ジョ−はそんな彼自身の目の前の色彩が 気に入っていた。
きみ と ぼく。 亜麻色 と セピア ・・・ 二人でひとつ ・・・
あ。 あのコ達。 ・・・・大丈夫、かな。
茶色の髪に ・・・ すぴかなんて完全に金髪っぽいからなあ・・・
・・・ イヤな思いをしなければ いいのだけど・・・ 幼稚園でさ・・・
ジョ−はふと甦った思い出に ひとり、苦い笑みを浮かべた。
「 ・・・ う ・・・? ジョ ・・・ー ・・・? 」
「 あ ・・・ ごめん。 うん ・・・ アイシテルよ! ぼくは ・・・! 」
ジョーは イッキに彼自身を爆ぜさせ彼女の熱い中に迸っていった。
翌朝は うららかな春日和、少しだけしろっぽい空に満開も近い桜がよく映える。
ギルモア邸でも門の側で若い桜が 懸命に花を咲かせていた。
「 ・・・ フラン〜〜 まだかい。 もうすぐバスの時間だよ。 」
「 おか〜〜さ〜〜ん! は ・ や ・ く〜〜 」
玄関ポ−チの外ではジョ−とすぴかが並んで立っている。
「 ほいほい・・・ちょっと見てこようかの。 遅刻してしまったら大変じゃ・・・ 」
一緒に出てきた博士の方がそわそわし始めた。
「 あ、博士。 大丈夫ですよ、フランだってちゃんと時間はわかっているはず・・・ でも どうしたのなあ。
あれ、 すばるは? 」
「 すばるね〜〜 みるく をみんなのむんだ〜ってがんばってたよ〜〜 」
「 え。 アイツ ・・・ まだ朝飯食ってるのか・・・! 」
「 うん、 すばるってばのろまなんだも〜ん。 」
「 う〜〜ん・・・ のんびり屋さんだと思ってたけど。 なあ、すぴか。 もう一回二人で呼んでみようか。 」
「 うん♪ あ、 ふらんそわ〜〜ずぅ〜〜 って? 」
「 え・・・! あ、い、いや〜〜 < おかあさ〜〜ん すばる〜〜 > にしようよ。 」
「 いいよ〜 」
ひえええ・・・ やっぱ女の子はオマセだなあ・・・
ジョ−は密かに冷や汗を流し、愛娘の髪にそっと手を当てた。
「 それじゃ。 」
「 うん! ・・・いっせ〜の〜せ! 」
「「 おかあさ〜〜ん すばる 〜〜〜 」」
「 はいはい・・・ ちゃんと聞こえてますよ。 そんな、二人して怒鳴らないで頂戴 ・・・ もう ・・・ 」
「 ま〜だだよ〜〜〜♪ いま いくよ〜〜♪ 」
清んだ声と ハナウタ交じりのの〜んびりした声が聞こえ、母と息子がやっと玄関から出てきた。
「 お待たせ。 あら、ジョ−・・・ ネクタイがちょっと曲がってるわ・・・ 」
「 え・・・あ、そうかなあ〜〜 」
「 ええ・・・・ ちょっとじっとしてて。 」
「 うん♪ 」
≪ ・・・もう〜〜 昨夜の痕を隠すの、大変だったのよ〜〜 だから首筋はやめてって言ったのに・・・ ≫
≪ ・・・ え ・・・ どこ どこ? ≫
≪ 見えません。 ・・・襟にレ−スを足してなんとかカバ−したんだもの。 ホントに〜〜 ≫
≪ スミマセン・・・ ≫
「 ・・・ っと。 さあ これでいいわ。 」
「 お。 ありがとう、フラン。 」
夫婦はない喰わぬ顔で プチ・痴話喧嘩をしていた。
「 それじゃ・・・ あらら・・・ すぴかさん、お帽子をちゃんと被りましょ。 まあ〜〜よく似会うわ〜 」
「 ・・・ えへへ・・・ うん。 」
「 僕〜〜 僕もちゃんとかぶった〜〜 」
「 そうね、すばるもよく似会うわよ。 じゃあ、行きましょうか? 」
「 そうだね。 博士、それじゃ・・・行って来ます。 留守をお願いいたします。 」
「「 いってきま〜す、 おじいちゃま 」」
島村さん一家は 並んでギルモア博士にお辞儀をした。
「 うむうむ ・・・ 行っておいで。 報告を楽しみに待っておるぞ。 」
「「 は〜〜い♪ 」」
「 では・・・ 」
子供たちを真ん中に 父と母は両脇を守って坂道を下っていった。
「 ・・・ああ ・・・ ああ ・・・ こんな姿を見送れるとは・・・!
ワシは・・・ ワシは。 ・・・ おお 神よ ・・・ こころから感謝いたします・・・ 」
ひとり、門前に佇む老人の上に ひとひら ひとひら 春を告げる花が間落ちていた。
Last
updated : 04,14,2009.
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*********** 途中ですが・・・・
はい、入園式の模様は次回〜〜 ♪♪
お気に召して頂けましたら あと一回、お付き合いくださいませ。 <(_ _)>
今回、いっこだけ ウソツキ? しました(^_^;)
<ジョ−のインスタント料理> 云々〜〜 は原作後期の作品の中での
博士のセリフです。 ま、でもX島から日本に逃げてきた頃も きっと
ジョ−君がさかんに チン! と御飯を作っていた・・・・かも???
ひと言なりともご感想を頂戴できましたら幸いでございます〜〜〜 <(_ _)>