『 沼 ― (6) ― 』
ザ −−−−−− ・・・
突然 雨脚が強くなった。 というよりもジョーたちがいる場所めがけて無数の雨粒が
降り注いできた、と言った方が正しいのかもしれない。
「 !? なんだ いきなり? ああ これが例のピン・ポイント豪雨 か 」
「 ここにいちゃなんね こっちゃこい! 」
純朴そうな村の青年ぎゅっと彼の手を にぎった。
「 こっちゃこい! こんなトコでぼ〜っとしてっと ヌシ様に目ぇつけられる 」
「 ヌシ様? 」
「 シっ! ・・・ こっちの道行けば 村の鎮守様の < 水護りの祠 > にでる・・・
そこなら ちったぁ安心だ 」
彼はジョーの手をつかんだまま、どんどん歩き出した。
「 あ・・・ ああ 君 ! 」
ここで青年の手を振り切ることは簡単だが それでは全てを断ち切ってしまう。
なにか ・・・ 理由 ( わけ ) があるんだな?
よし ここはひとつ、彼に従っていって・・・
この村の < 事情 > とやらを聞こうじゃないか
どうやら < 伝説 > を利用しているヤツがいる のか??
篠突く雨の中、ジョーは軽く引っ張られる形で沼の裏側にまわった。
雨飛沫の向こうに 簡素な鳥居と祠が見えてきた。 真ん中におおきな丸石が鎮座している。
「 ・・・ ここなら ちょっとなら大丈夫だ 」
やっと一息、という顔で、村の青年はジョーの手を離した。
「 ・・・ ここが ・・・ ほこら ? 」
「 んだ。 ここは村のご先祖達がヌシ様の気ぃを鎮めるために建てたんだと。 」
「 ふうん ・・・ あの石がご本尊かい? 」
「 し! 石 なんて言っちゃなんね! バチ あたるで。
あの マル神様 が ま〜〜るく収めてくださるんだと・・・ 」
「 ほう ・・・ 君は若いのに村の故事とかいろいろ詳しいんだね。 」
「 この村のモンならみ〜〜んな知ってるだ。 」
「 でも ここはあまり知られていないようだね 」
ジョーはさりげなく見回した。 本来が祠なのだからごく狭いしヒトが居るための
余分な空間はない。 隅にはホコリやら朽ち葉や枯れ枝が厚く溜まっている。
「 ・・・ ああ 普通 こんなトコには来ねえ。 皆関心ねえし ・・・ 」
「 君は あるの? というか ・・・ 興味をもっていた? 」
「 ・・・ アンタ・・・ あのガイジンさんのトモダチかい? 」
「 ガイジンさん って・・・ あの〜 村はずれの家に調査に来た人達のことかい。 」
「 ご老人と若いキレイなお嬢さんだ 」
「 ウン。 彼女はぼくの ・・・ と トモダチです。 」
「 ― カノジョ だべ? 」
「 ! ・・・ うん。 ぼくの大切なヒトです。 」
「 そうか。 そんなら ・・・ どうしてもどうしても早くここから帰るだ!
あのお嬢さん 連れて! 祭が始まるまえに! この雨だし 」
青年は暗い目をしているが真剣そのものだ。
「 なにがあったのかい。 できれば話してくれませんか。 」
「 ・・・ オラのカノジョは ・・・ 生まれつき髪が金色に近い色だっただ
アンタも茶色だな ああ 染めてるだか 〜 」
「 これは! 生まれつき。 ぼくのこの茶色の髪と目は 生まれつきさ。 」
「 ・・・ ごめん。 小夜子もそだった ・・・ 」
「 さよこ? 君の彼女 かい? 」
「 ん。 小夜子はじい様もそのまたじいさまもこの村のモンだけど ・・・
生まれつき髪の色、金色で肌も真っ白 目が陽に当たるとスミレ色に見える時があったんだ 」
「 そっか ・・・ それで ・・・いじめられた? 」
「 うんにゃ。 でんも 親は小夜子の髪を黒く染めさせてた ・・・ 」
「 この村じゃ ・・・ 黒髪以外はダメなのかい 」
「 そったらことねえよ〜〜 きょう日、まっかっかやら真っ青〜〜に染めてるヤツや
パツキンもおるで もう村の年寄はあきれかえってな〜〜んもいわん。 」
「 じゃあ なんで ・・・ 」
「 後から染めるのはええんだ。 ・・・ 生まれつきは ― 」
「 生まれつきは 」
「 ヌシ様に引っ張れる、 ヌシ様が暴れる って忌み嫌うんだ 」
「 ふうむ? それでその・・君の恋人は 」
「 けんど! 金の髪に生まれたのは スミレ色の目は小夜子のせいではねえ! 」
「 ああ そうだよ。 誰の責任でもない。 ・・・ただ単なる神様のイタズラさ。 」
「 ・・ 神様 の ? 」
「 そうさ。 それで再三でてくるその < ヌシさま > ってのはなんなんだい?
どうも特定の人間ではないらしいけど 」
「 ・・・ ヒトじゃねえ。 何千年もこの地に ・・・ あの沼に棲んで
この村、護ってる御方だ。 だども 時に悪さして水が出るだ。 」
「 水? ああ 鉄砲水などの水害だね 」
「 そうだ。 」
「 ・・・ それでその・・・・立ち入ったこと、聞くけれど・・・
君の恋人は ・・・? 」
「 ・・・ 小夜子は 死んだ。 大雨の夜、避難しそこなったじいさまを迎えに戻ろうとして
増水してた沼に ・・・ 落ちただ・・・ 」
「 そ うか ・・・それは ・・・ 気の毒な 」
「 小夜子は運悪く足を滑らせただけだ。 んだども ・・・ ヌシ様に浚われたって・・・
小夜子は金の髪の娘だから ・・ 小夜子がいるとまたヌシ様が荒れるから ・・・
丁度 ・・ よかった ・・・って 」
「 そんな! そんな酷い言い方があるかい! 」
「 … 怒ってくれるだか ・・・ アンタ、ええヒトだな ・・・ 」
「 怒るって 当たり前じゃないか! 人の死を < よかった > だなんて! 」
「 ・・・ ありがと。 嬉しいだ ・・・ この村のだ〜れも小夜子の死を哀しんでねえ。
災害の前兆みたく言ってる。 俺 だからいろいろ調べてたんだけど 」
「 そうか。 なあ この辺りにはもう民家はないのかい。 」
「 ああ。 ホントにこの辺りには 人の住む家はねえだよ。 」
「 しかし ・・・フランは確かに < 近所の家 > に出かけたらしいんだ。
ちょっと出かけてくるっていう風にね。 」
「 ふらん ってあんのキレイなお嬢さんが ・・・ 」
「 彼女も ― 金の髪に空の色の瞳だろ。 もちろん生まれつきで彼女はそれを
とても気に入っているよ。 周囲の人たちも ね 」
「 アンタも だろ? 」
「 あ は うん ・・・ か カノジョ だし! 」
「 アンタ、ラッキーだな。 カワイイ人で感じえかっただ。 」
青年はほんの少し 頬を緩めた。
「 彼女と会って話 したんだろ? なんて言ってた? 」
「 ・・・ あのヒト 沼にものすごく興味を持ってただ。 村の伝説にも ・・・
そんで初めてここに来たとき 沼にはまりかけた って 」
「 あの〜〜 お転婆が〜〜 あ ごめん。 それで ? 」
「 あの沼は そんなに大きくもないし普段はごく普通の池みたいだけど 梅雨時とか
雷雨の時には氾濫するだ。 地形が悪くて外に流れ出る大きな水路がねえだ。
地面が吸いこめる量を超えると ― 鉄砲水だ。
ムカシはそったらことわかんねえから ヌシ様が荒れる って言われてた 」
「 ああ そういうの、多いよな。 それで 彼女は 」
「 あのヒト・・・ とてもとても沼に興味をもってたんだ。
俺 ・・・ 止めれ、帰った方がええって何回も忠告しただ! あんなキレイなお嬢さんが
水に巻き込まれたら ・・・ そんなの ダメだ! 」
青年は必死でジョーに訴える。
「 ・・・ お オラの小夜子みたく ・・・ 水に ・・・ そんなの もうダメだ!
水がどうのこうの ヒトの命がどうの・・・って言われるのは もう嫌なんだ! 」
「 わかった。 ありがとう。 」
「 え? 」
ジョーは大きく頷き 青年に手を差し伸べた。
「 思い出したくなかったことも話してくれてありがとう。
そうだね。 自然災害を勝手に 伝説 とやらに結びつけたのは人間だ。
もうこんなことは最後にしなくちゃ な。 」
「 ・・・ オラもそう思うだ! 」
「 ありがとう。 雨が強くなってきた。 君は村にかえって ― 万一の場合の避難に
ついて 村役場の人達に相談してくれ。 あ 例の < 災害予防の研究 > に来た
おじいチャン達と一緒にゆくといいよ。 」
「 ・・・ あのお嬢さんのおとっつぁんだべ? 」
「 あ 〜 うん そうなんだ。 だから ヨロシク! 」
「 ん。 わかっただ。 」
青年は少しもじもじしたけれどしっかりと握手に応じてくれた。
「 じゃ 頼むよ 」
「 あ! アンタは ? 」
「 ぼくはこれから沼の周囲を調べてくる。 」
「 ! だ だめだあ〜〜 あぶねえって! 」
「 大丈夫。 さあ 今のうちに里の方に降りるんだ。 」
「 けど けど アンタは !? 」
「 里の・・・ あの家で < ジョーから言われた > と言えばそれで万事OKだよ。 」
「 あ ・・・? 」
里の方向へ青年の背を押すと ― ジョーは
ザ ・・・ッ ! 雨のカーテンを割って山道を駆け上がっていった。
ザザザ −−−−− ・・・・・ 沼の水面も雨に打たれ揺れ始めていた。
「 これが例の 沼 か ・・・ う〜〜ん 」
ジョーは汀にたって中を覗きこむ。 003ほどではないが 009の視力も勿論
通常の人間の遥かに上をいっている が。
「 ・・・ だめだ。 水が濁っている上に雨で沼全体の水が動いてて・・・
中がどうなっているのか まったくわからないや。 」
ふん、と一息つくと、ジョーは周囲を見回した。
「 ― ともかく沼周辺には人家はなし。 人家の跡、とおぼしきモノものなし。
これは確定だな。 よし。 」
バサ。 ぐっしょりと濡れた服をはぎ取るみたいにして脱いだ。 その下には。
じゃぶ。 ジョーは プールにでも入ってゆくほどの足取りで沼に踏み入った。
― フラン! ぼくは必ず きみをみつけるから。
ざぶ ざぶ ざぶん ・・・ 程無くして赤い服を纏った青年の姿は沼の中に消えた。
ゴ〜〜〜〜〜 ゴ〜〜〜〜〜
外からは想像もつかないほどの勢いで水が渦巻いている。
「 ・・・ うわ ・・・ なんだこの水の流れは ! 」
ジョーは慎重に潜ってゆく。 ごうごうと沼中の水が彼を迎え打ってきているようだ。
「 くそ・・・ しかしなんて深い沼なんだ?? ― ! なんだ あれは?? 」
流れに逆らってゆくと 底の底と思われる部分になにか建造物が見えてきた。
「 ・・・ い 家?? 沼の底に ・・・ 家がある? 」
ゴ 〜〜〜〜〜 ゴボゴボゴボ ・・・・
「 し しかし この深さだからな。 いくらぼくでも水中での活動には限界があるし 」
00ナンバー達は体内に酸素ボンベを有しているが 長時間は不可能だ。
「 なんで家があるんだ?? 昔に地形変動でも起こり沈んだのだろうか 」
彼は流れに逆らいつつも慎重に潜ってゆく。
「 これは ・・・ かなり新しい家じゃないか。 うわ!? 」
ジュワ ッ ゴ〜〜〜〜〜〜ッ !!!!
突然 水流が弾丸に近い勢いで襲ってきた。
「 ? ただの渦じゃない ・・・? うわ〜〜〜 」
ゴ〜〜〜〜〜 ッ ゴ〜〜〜〜っ
水中で鉄砲水が 次々と攻撃してくる。
「 くそ〜〜〜 ッ 相手が水じゃ スーパーガンも効かないし ・・・
いや この水の発射元を探すんだ ! 」
左右に飛んでくる激流を避けつつ ジョーは目を凝らせた。
「 う〜〜〜 003がいてくれたらなあ〜〜〜 」
≪ ・・・ 屋根の大きなカワラ ・・・・ ≫
突然 聞きなれた優しい声がジョーのアタマの中にひっそりと響いた。
「 え??? フラン? フランかい?? ≪ 003?? 聞こえるかい?? ≫
フラン〜〜〜〜 どこだ 返事してくれ〜〜〜 」
声と脳波通信を駆使し叫んだけれど あの声は二度と聞こえてこなかった。
「 フラン ・・・ いや 大きなカワラ とか言っていたな ? 」
水中で彼は湖底の < 家 > の屋根を見つめた。
「 ・・・ ! あれ か!? あれは 鬼瓦 ・・・
そうか フランは鬼瓦という名称は知らないんだよなあ 当然だよね。
ありがとう〜〜〜 水中でのレーザーの威力はわからんが ・・・
よし ゆくぞっ ! 」
彼は慎重に狙いをつけ ―
ヴァ −−−−−−− ・・・・・・・!!!!
グワシャ …ッ 水中に瓦が砕け散った。
「 やったぞッ よし この勢いであの家を破壊してやるっ 」
ジョーは 湖底まで降りつくとスーパーガンを構えつつゆっくりと妻造りの家に近づいた。
「 よし。 ここから ― 」 彼はトリガーにかけた指に力を入れ ・・・
「 ・・・ その物騒なモノをしまってほしいですな。 」
突然穏やかな声が聞こえた。
「 !? だ 誰だっ ・・・・ どこにいる?? 」
「 貴方の目の前にいます。 」
「 なんだって?? 」
ス ― 家の前の竹で編んだ透垣の向こうから和服姿の青年が現れた。
「 誰 ・・・ いや 何者だ?? 」
「 私はこの家の主です。 そちらさまこそどこのどなたですか。
いきなり他人の家に踏み込んでくるとは ・・・ 無礼千万。 」
青年は静かに話ているが 声に怒気が籠る。
「 こ 攻撃してきたのはそっちだろう?? 」
「 許しも請わずに勝手に侵入してきたものに対して 威嚇するのは当然だと思うが。
君の家では泥棒にもさあどうぞ、と家の戸を開けるのか? 」
あ ちゃ ・・・ そりゃそうだよなあ ・・・
しかし 家 って この後ろの建物のことだけじゃないのか?
相手は どうやら武器らしきものをなにも隠しもっていないらしい。
ジョーはゆっくりとスーパーガンをホルスターに戻した。
「 大変失礼いたしました。 ぼくは 島村ジョー といいます。 」
「 島村君。 ・・・ して ご用件は 」
「 ・・・ ぼくは この沼の調査に来たのです。 水害防止のために・・・
ここの水脈がどうなっているのか調べようと沼に入りました。
貴方の < 家 > とは知らずに ・・・ 失礼しました。 」
「 そうですか。 もうひとつ、伺いたいのだが。 」
「 なんでしょう。 」
「 ここは水の中。 君はどうしてここまで平気でやってきたのかな。
ニンゲンには不可能ですよ。 君は ― 人間ですか。 」
「 ぼくは! ― 人間です。 ただ・・・体内にメカを埋め込んで機能をアップ
させているのです。 」
「 ・・・ なるほど。 それでここまで来られたのか ・・・ 」
「 はい。 それでお尋ねします。 若い女性がこちらを訪ねてきませんでしたか。 」
「 若い 女性 ? 」
「 はい。 金色の髪に空の色の瞳をもった女性です。 」
ジョーはまっすぐに青年を見つめた。
青年もジョーをじっと見返し ― 頷いた。
「 君は真摯な気持ちをもっていますね。 どうぞ。 この結界に入れば普通に呼吸が
できます。 」
「 ? ・・・ あ ・・・! 」
< 家 > の前庭に足を踏み入れると ― そこは地上と同じ空間だった。
「 どうぞ。 」
「 ― お邪魔します。 」
ジョーは青年について 切妻造りの家に入っていった。
青年はジョーを座敷に招じ入れた。
二人は 塗りの立派な座卓を間に向き合っている。
「 それで フランソワーズ・・・ いえ 彼女は ? 」
「 彼女は君の友人ですか。 」
「 そうです! とても ― とても大切な友達です。 」
「 私も彼女と親しくなりたい と思っています。 彼女はとても美しく優しい・・・・
容姿だけじゃない、その心根も ! 」
「 ・・・・ 」
「 私は ― トモダチが欲しい。 」
「 村の人々とは 親しくなれませんか。 」
「 ― 私は ・・・ ワタシは ・・・ 」
「 !? うわ 〜〜〜 ぁ!!! 」
ガタ −−−− ン ・・・!
青年の姿は みるみるうちに玉虫色の鱗輝く龍に変っていった。
「 あ アナタは ・・・! 」
「 私は ― この沼に棲む龍神 ・・・ ずっと太古からこの村を護ってきた 」
「 ! フランは!? フランソワーズはどこだっ 」
「 彼女と共に 居たい。 共に暮らしたい。 」
「 だめだ だめだ だめだあ〜〜 彼女は ・・・ ヌシへの生贄とは違うぞっ ! 」
「 ― 生贄 だって ? 」
龍は赤く燃える目でじっとジョーを睨みつける。
「 そうだ! 昔から何人もの若い女性が 水を鎮めるために捧げられたと聞いたぞ 」
「 ・・・ 生贄なんか 欲しかったんじゃない ・・・ ! 」
「 なんだって? 」
「 私は生贄なんかが欲しかったんじゃないんだ! ・・・
トモダチが ・・・ 愛する人が欲しかっただけなのだ。 それなのに ・・・ 」
「 ・・・ ささげられたヒトたちは ・・・ 」
「 彼女たちはここに着く前にもう息絶えていた 」
「 ・・・ そう か ・・・ 」
「 私はずっと・・・ずっと待っていた。 私の元を訪ねてくれて普通に話をしたり
笑いあったりしてくれる ・・・ トモダチを。
そうしたら ― 彼女が来てくれた。 なんのわだかまりもなくおしゃべりをしてくれた 」
「 ・・・ フランソワーズはそういう女性なんだ。 素直で優しい ・・・ 」
「 だから 彼女と一緒に居たい。 彼女と共に ! 」
カラリ。 龍は爪の先で襖を繰った。
「 ・・・? 」
隣の和室には布団に眠るフランソワーズの姿があった。
「 ! フランッ !!! フラン〜〜〜 しっかりしろ〜〜 」
ジョーは和室に飛び込み彼女を抱き起こそうとした。
「 ― あ ああ?? 」
スルリ ・・・ 彼女の身体はジョーの腕を擦り抜け宙に浮いた。
「 私の客人だ。 」
龍は恐ろしい爪のある前脚で そうっと彼女をささげ持つ。
「 私の家で 共に暮らす。 」
「 だ だめだっ!!! 彼女は ― 渡さない っ ! 彼女はぼくの全てだ! 」
ジョーは 猛然と龍の跳びかかる。
バシッ !! サイボーグの彼でも簡単に跳ね返されてしまった。
「 〜〜〜 クソ〜〜〜 ううう ・・・ フランに当たってしまうからスーパーガンは
使えないし ・・・ こうなったらこの腕で! 」
バシッ バンッ 遮二無二立ち向かうのだが尽く跳ね飛ばされる。
「 無駄だ。 ここは私の結界の中 ・・・ 君のチカラは効かぬ 」
「 ・・・ ううう ・・・ いや ぼくは 諦めないッ!
フラン〜〜〜〜 フランっ! 今 ぼくが助けるから 」
「 諦めたまえ。 ・・・ あ? 」
「 ・・・ ジョー ? 」
龍の掌で フランソワーズが静かに身体を起こした。
「 ジョー? 来て くれたの ・・・? 」
「 フランっ??? 目が覚めたのか! か 帰ろう〜〜〜 」
「 ええ 帰りましょう。 その前に ・・・ ああ アナタは ・・・ 」
フランソワーズは自分を掬い上げている龍を じっと見上げた。
「 らくがん と お茶 ・・・美味しかったです。 ありがとうございました。 」
「 ・・・ あ アナタは ・・・ 」
「 お話も楽しかったわ。 」
「 私も です ・・・ ずっと一緒に居てはくれませんか。 これからずっと 」
「 それはできません。 わたしには愛する人がいます。 」
「 私もアナタを 」
フランソワーズは 立ち上がると龍の髭に手を当てた。
「 貴方を愛し 貴方が愛するヒトは ― 必ずどこかにいるわ。 この世界のどこかに。 」
「 そのヒトは 貴女ではないのですか。 」
「 わたしは ジョーを心から愛しています。 」
「 ・・・・・・・・ 」
「 お願い。 彼の元に帰してください。 」
「 ・・・・ 」
龍は 哀しい瞳で彼女を見つめると そっと ・・・ その身体をジョーの側に降ろした。
「 ありがとう ・・・! 優しい龍さん。 」
「 ・・・ ありがとう ・・・ 」
ゴ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ・・・・・・・ !!!
突如 周囲は大きな渦に巻き込まれた。
ゴゴゴゴ −−−−−−− ザァ〜〜〜〜 ドドド ・・・・
沼は 奔流となり小川を削り流れ出た。
淋しい龍も 遠く とおくの世界へ ・・・ そう、海へと 出奔していった。
「 ! フラン!? 大丈夫か!? 」
「 ええ ジョー。 」
気がつけば 二人はあの ・・・ 小さな沼の畔に打ち上げられていた。
その年、夏祭の宵には例年のごとく集中的な雷雨があった。
また豪雨災害か?? と人々は一瞬キモを冷やしたが ― 村外れを鉄砲水が流れ下っただけで
終わった。
ト −−−− ン トン カッ カッ カッ ・・・!
緑深い村に響く笛太鼓 ― ちょっと淋しく聞こえるのは北国の空気のせいだけだろうか。
「 ― この祭が終わると 夏も過ぎるのだそうだよ。 」
「 ・・・ 淋しいわ ね 」
ジョーとフランソワーズは そっと寄り添った。
ひゅるん ・・・ この年最初の秋風が 二人の頬をなでていった。
****************************** Fin. ******************************
Last updated
: 05,05,2015.
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************ ひと言 *************
やっと終わりました。 長々ひっぱって申し訳ありませんでした。
最後までお付き合いくださったかた、いらっしゃいましたら
ありがとうございました。