『 沼 ― (1) ― 』
― ・・・ あ !
一歩踏み出した途端に フランソワーズは危うく小さな悲鳴をあげるところだった。
「 ・・・・・ 」
辛うじて息を飲み込み脚を踏みしめた。
・・・ な なんなの?? 空気全体が攻撃してきた・・・ みたい
声を上げそうになったのは 全身に痛みを感じたからだ。
銃弾やレーザー光線などによる物理的な攻撃の痛み ― とは少しちがう。
外気に触れた途端 その空気が彼女の身体に突き刺ささるほどの痛みを与えた。
くッ ・・・ う ふぅ〜〜〜 ・・・ 止んだ わ ・・・
誰?? どこから狙ったの??
勿論、咄嗟に 003の目と耳のスイッチをいれたが ―
耳入ってくるものは 小鳥の囀り 蝉やら虫たちの声 緩やかな風に靡く葉擦れ
目に映るものは 茫洋とひろがる緑 緑 緑 その合間を流れる小川 ・・・
・・・ そして
「 お〜〜 なんとも牧歌的な風景じゃなあ 〜〜〜 」
「 ほっほ ・・・ 風が爽やかでいいのう〜〜 」
老博士二人の の〜〜んびりした会話だけだった。
・・・ 精神的な遠隔攻撃 かしら?
わたしだけをピンポイントに狙ったっていうの??
何気ない振りで周囲を綿密に見回したが 怪しいモノも人もまったく見当たらない。
要するに ただの田舎町の鄙びた駅舎が夏の午後の光の中に佇んでいるだけだった。
「 この国にまだ今どきこんな町があるのじゃなあ〜〜 うん いい感じだ 」
「 ほっほ ギルモア君は海辺に住んどるから たまにはこんな山の中もいいじゃろうて 」
「 おお〜〜 こう・・・ 木々の揺れる音がなんともいえんなあ〜 」
「 気に入ってもらえたかな? 我々も 夏休み が必要じゃよ〜 」
「 ほんになあ〜 この気温なら夜は窓を開けて存分に論じあえるなあ 」
「 お〜っと なつやすみ ですぞ? 」
「 じゃ〜から 好きなこと を好きなだけするのじゃよ 」
「 ほっほ ちょいとお知恵拝借の件もあってなあ 」
「 おお ! 例のあの件じゃな? 」
「 さよう さよう さてそんならそろそろ行きますかな
おお お嬢さん、お待たせしましたな 」
「 ? フランソワーズ どうしたね? 」
老人たちは風景とは裏腹にやたらと元気いっぱい・・・なのだ。
日傘も差さずに じっと立ち尽くしている娘にやっと気がついたとみえる。
「 ! ・・・あ いえ ・・・あのぅ〜〜 あんまり気持ちのいい風なので
少しぼ〜っとしてしまいましたわ。 」
「 ほっほ ・・・ お若い方でもそう思われますかな? 」
「 え ええ ・・・ 本当に緑深い場所ですね。 」
「 その昔は林業で栄えておったらしいが 今はのう ・・・
ま 静養するにはいい場所です。 お嬢さんにはちょいと退屈かもしれんが 」
「 いやあ〜〜 後からジョーも来るから・・・若いモノ同士大いに楽しむがいいさ。
フランソワーズ、誰にも邪魔されずに二人ですごせるぞ〜〜 」
「 やだ 博士ったら〜〜 」
「 はっはっは ワシらは囲碁と散歩三昧の日々じゃて、気にせんでいい。 」
「 そういうことです。 え〜〜と ・・・? おお〜〜 迎えのクルマがきましたぞ。 」
「 あ お荷物、お持ちしますわ。 」
一行は他の乗客などいない駅舎から駅前の広場に出ていった。
その年の夏は ことさら暑かった。
崖っ淵に建つギルモア邸は 設計上風遠しもよく、快適な住まいだったけれど
やはり夏の暑さを完全に凌げるものでものなかった。
勿論 完全に人工的に操作された快適空間を作りあげることは可能だったが
住人たちはそれに甘んじることを良しとはしなかった。
「 ふう ・・・ 暑いわねえ ・・・ 」
テラスへの窓辺で フランソワーズがため息をついている。
「 うん? あ エアコン、強くしようか? 」
ジョーは熱心に読んでいた雑誌から顔を上げた。
「 あ いいわ。 夏は暑くて当然ですもの。 あんまり人工の快適な環境にいるのは
ちょっと ね? 」
「 そりゃそうだけど ・・・ 」
「 でも ね わたし達はいいけど ・・・ 博士はやっぱり堪えられているのじゃないかしら 」
「 そうだねえ。 ちょっと様子みて・・・博士の書斎だけエアコン調節し直してくるね。」
「 お願いね。 冷たいモノ、用意しておくから・・・ ティータイムにどうぞって
お誘いしてね。 」
「 ウン。 あ ・・・ 冷たいモノってなに? 」
「 うふふ・・・ ワイン・ジェリーがもう冷えているころなの♪ 」
「 ワイン・ジェリー? 」
「 安心して? ジョーの好きなミルク・ジェリーもちゃんと作ってあるから 」
「 わお〜〜〜♪ すぐいってくる〜〜 」
ジョーは読み止しの雑誌を放り出すと ばたばたとリビングを出ていった。
「 ふふふ ・・・ ほっんとコドモみたいねえ ・・・
ああ でもわたしもちょっと ・・・暑い かなあ〜〜 」
気がつけばなんとなく汗ばんでいる。
長い髪を上げ うなじを風に晒せば少しすっきりした気分になれた。
「 ・・・ ふう ・・・ この国の暑さってなんていうか粘っこいのね ・・・
風は吹くけど 熱い湿った風なんですもの ・・・ 」
やれやれ ・・・ 小さな吐息をつくと彼女もキッチンへと出ていった。
「 ほう〜〜 これはなんとも涼し気なスウィーツじゃのう〜 」
案の定 博士は相好を崩しワイン・ゼリーの器を手に取った。
「 甘さは控えめにしました。 お好みで シロップを掛けてください。 」
「 〜〜 あ シロップ いい? 」
ジョーが早速手をのばし、自分の器にとろとろとかけまわす。
「 ! ジョー ミルク・ジェリーにはちゃんとお砂糖、 入っているわよ? 」
「 うへ? ま いいや。 〜〜〜〜 ん〜〜〜〜〜 甘くて美味い〜〜 」
「 相変わらず甘党じゃのう〜 ジョー 」
「 えへへ・・・ でもすごくオイシイですよ〜〜〜 」
「 どれどれ ・・・・ ・・・ うん! これはいい味じゃ〜 うむ うむ 」
博士もおいしそうにスプーンを使っている。
「 まあ 気に入っていただけてよかったです 」
「 〜〜〜〜 おいし〜〜〜 ・・ あれ フラン、きみは? 」
ジョーはもうご機嫌で器まで舐めそうな勢いでスプーンを使っていたが ふと・・・
フランソワーズの前には 冷たいお茶のグラスしか置いてないことに気がついた。
「 あ わたしは いいの。 」
「 いいって こんなに美味しいのに〜〜 あ! ワイン・ゼリー もうない とか??
ごめん〜〜〜 ぼくがたくさん食べちゃったから ・・・ 」
「 ち ちがうわ〜 ・・・ ちょっと夏バテ気味かも ・・・
あんまり甘いモノとか食べたくないの。 大丈夫、ちゃんと野菜ジュースやお茶を飲んでいるわ 」
「 だってそれ、ただのお茶だろ? 」
「 ええ ・・・ オイシイわね。 アイス・ティやジュースよりずっと好きよ。
わたしの 夏のデザートかな〜 」
「 え そんなのダメだよ〜〜〜 ちゃんとご飯もオヤツも食べなくちゃ! 」
「 ・・・ 大丈夫よ ほら わたし達、サイボーグだし?? 」
「 ダメだよ〜〜 ねえ 博士、ダメですよね!?
」
ジョーは博士に応援を求める。
「 うむ ・・・ フランソワーズ、具合が悪いのかな? 」
「 いいえ 別に ・・・ ただちょっとこのごろの暑さが 重いなあ・・って感じて 」
「 だから〜〜 ちゃんと栄養のあるものを食べなくちゃダメだよぉ〜〜〜 」
「 夏バテ か? まあ なあ〜 この国の夏はヨーロッパに比べれば大層暑いからなあ。
そりゃ 都心付近から比べればこの辺りは過ごし易い と聞くが ・・・ 」
「 ええ ですから少し休んでいれば ・・・ 」
「 そっか! それじゃ〜さ、部屋のエアコンの設定温度を下げて の〜〜んびり
昼寝でもして過ごしたらいいよ。 フラン、きみの 夏休み にしろよ?
あ 家事はぼくが引き受ける! 食事の支度とかぼくに任せて〜〜〜 」
「 ジョー 来週から取材で遠征なのじゃなかった? 」
「 ・・・ あ ・・・ そうだった ・・・ 」
ジョーは 雑誌社でカメラマン兼編集者の見習いみたいな仕事をしている。
「 大丈夫 ご飯の支度くらいできるわ。 わたし このお家にいても十分ゆっくり
できるから ・・・ 心配しないで? 」
「 けど〜〜〜 ・・・ けど 真昼間とか・・・ ものすご〜〜く暑いよ!
あ ぼく。 取材、他の人と代わってもらうよ。 」
「 ! だめ!!! だめよ、ジョー。 折角 < やりたい仕事 > が見つかった
のでしょう? こんなことで放り出してはだめよ。 」
「 こんなことって ! きみって人は! 」
「 あなたの仕事の方が大切でしょう? 」
「 フラン 〜〜〜 」
ふざけた言葉の応酬ではない。 お互いに真剣に見あって ― 怒っている。
それだけ 相手のことを親身になって心配しているのだが ・・・ どうもこの二人・・・
いつまでたっても中学生の恋愛みたい ・・・ にみえなくも ない。
やれやれ ・・・ いつまでも世話の焼けるコドモたちじゃのう・・・
知らん顔をしつつも博士は内心呆れかえっていた。
「 ― こらこら。 やめんか。 」
見かねた博士が 間に割って入った。
「 ・・・ あ ・・・ 失礼しました。 」
フランソワーズは感情が昂ぶり頬を染めていたが すぐに平静に戻った。
「 でも ですね〜〜〜 博士!! 夏バテって甘くみちゃダメですよね? 」
「 だってそんな大袈裟にしなくても大丈夫ですもの。 自分のことは自分が一番よく 」
「 別荘に 行くぞっ 」
「「 はい??? 」」
博士の一喝に 二人は目をぱちくり・・・ 言い合いは即座に収まった。
「 ともかく。 この暑さから少し避難しよう。
丁度 コズミ君から誘いがあってなあ ・・・ 保養がてら東北の山奥に行こう。 」
「 ・・・ 別荘・・・って コズミ博士の、ですか? 」
「 うむ 別荘というか・・・ 以前にその地方の治水に関しての調査・研究に携わったのだと。
その際に懇意にした村長が古民家を保養所として用意してくれているそうだ。 」
「 へえ ・・・ あ でも 東北っていうと 震災の ? 」
「 いやいや もっと山奥でなあ 被害はほとんどなかったらしい。
ともかく過疎地じゃから 静かで朝晩には涼風がたつ地だといっておった。
そこにゆくぞ。 え〜と ? 」
博士はリビングに貼ってあるカレンダーに チラっと視線を飛ばすとすぐに言い切った。
「 うむ。 明後日 出発じゃ。 ジョーは取材仕事を終えてから追いかけてくること。
さあ 用意を頼むぞ。 」
「 ・・・ は はあ ・・・ 」 「 明後日 ですか ??? 」
「 なに ほんの身の周りのものだけ、もってゆけばよいよ。
古民家といっても 設備は現代的な別荘じゃ、と聞いておるでの。
野菜なんかは新鮮で美味いじゃろ・・・ 地酒もあるというしの〜〜〜 」
「「 はあ ・・・ 」」
「 ほらほら〜〜 若いモンがなにをぐずぐずしておるか。
さっさと準備じゃ。 うむ、先方さえよければ明日の午後にでも発とうかの 」
「 ・・・・・!?!? 」
「 ジョー、しっかり留守番を頼むぞ。 それでは <戦闘開始>じゃ!
ゆくぞ ! 」
「 は はい 〜〜〜 ! 」
ジョーもフランソワーズも目を白黒〜〜 博士の張り切りぶりに圧倒されていた。
― そんなわけで
大騒ぎの一日の後、一行はコズミ博士のご案内でこの東北の山奥の村に降り立ったのだった。
ぷァ〜〜〜〜 ぷァ〜!! 派手にクラクションが鳴った。
「 おう〜〜〜い! コズミせんせ〜〜〜〜い〜〜 」
三人が対向車もみえない田舎道を それでも端に避けた時、大声が追い掛けてきた。
「 コズミせんせ〜〜〜い〜〜 お迎えにィ あっがりまっすたぁ〜〜〜 」
「 え? ・・・ あら ぁ ・・・ 」
最初に振り返ったフランソワーズが固まった。
「 なんですな、どうしたかな? あの声はたしか〜〜 村長氏 ・・・ あれまあ。 」
のんびり向き直ったコズミ博士も 足が止まった。
「 どうしたね。 ― おお〜〜〜〜〜 こりゃこりゃ 」
最後のギルモア博士も 動作が停止した。
バンッ! 三人に前には 真っ赤なスポーツ・カーがびしっと停まっていた。
「 あっはっは〜〜 遅ぅなってすんません〜〜〜 どぞ! 」
ドアを開けてこぼれ出てきたのは ― スダレ頭のオッサン・・いやいや 中年過ぎの男性。
一応 スーツ姿のはずだが かなりユニークに気崩していた。
「 あ あ〜〜〜〜 ヤマダ村長〜〜 これはすみませんなあ〜 」
「 いやあ〜〜〜 コズミせんせ〜〜〜 この度はご足労をおかして〜〜〜 すんませんなあ〜」
「 いやいや こちらの涼しさは快適そのものですなあ 〜〜
あ こちらはやはり研究者のドクター・ギルモア。 そしてお嬢さんのフランンソワーズさん 」
「 ギルモアといいます。 娘ともども宜しくお願いします。 」
「 フランソワーズといいます、どうぞよろしく ・・・ 」
ギルモア博士はフランソワーズを促し 日本式に深くアタマをさげた。
「 うっは〜〜〜〜 こんれはまぁたチレイなお嬢さんですなあ〜〜〜〜
どんぞヨロシク〜〜〜 この村でのんびり涼しい夏を楽しんでってください〜〜 」
ささ どうぞどうぞ・・・と ヤマダ村長は三人の客人を スポーツ・カーに詰め込んだ。
― そして
「 ほんなら〜〜 いかしてもらいまっす〜〜 」
ヴァ −−−−−− −−−−−− !!!!
人通りも対向車も少ない田舎道を 真っ赤な車が疾走していった。
「 村長〜〜〜 景気がいいですなあ〜〜 」
「 ああ? はっはっは 実は〜〜〜 山をちょっこし売っぱらいまして〜〜
家屋敷は建て替えるワケには行かんで、クルマ〜〜 こんなんに変えましただ 」
「 え 山を?? 」
「 ハイな。 例の沼の裏のはしっこをちょっこし ・・・ 」
「 ― 大丈夫ですかな 」
「 なぁ〜〜に ほんのちょっこしだで ・・・ 最近 沼も荒れんし〜 大丈夫でっさ。 」
「 だと いいですなあ〜〜 」
「 そ〜〜んでもってセンセイ方には くり〜〜ん・えねるぎ〜〜 たらいう方面で
お知恵拝借ってことで。 なにせ 山と樹以外な〜〜んもねえ村だで 」
「 ふむ ・・・ あとでちょっこし いや! 少し視察させてくださいや。 」
「 勿論で〜〜 どこでもご案内しますで〜 このクルマで〜〜 」
「 あ いや 我々はのんびり見回りますので 村長、お気づかいなく 」
「 そうスかあ? そんなら御用の節はご遠慮のう〜〜〜 こちら別邸の鍵ですけ〜〜
どうぞご自由にお使いなすってくだっせ 」
村長氏はスダレ頭をふりふり、車の音に負けじと声を張り上げた。
「 あ〜〜 いやいや〜〜〜 」
応対はもっぱらコズミ博士にまかせ、ギルモア博士とフランソワーズは ただただ目を丸くして
疾走するスポーツ・カーの改造・後部座席に固まっていた。
― ご案内頂いた < 古民家風別荘 > は。
外見は全くの 古い日本家屋だった。 さすがに藁ぶき屋根ではなかったけれど切妻造で
縁側が巡る日本の家に見えた。
「 わあ〜〜 ステキ♪ わたし、ずっとこういうお家に憧れてていましたの。 」
「 ほう〜〜 これはまた ・・・ 素晴らしい家じゃな〜 」
フランソワーズは初めて踏み入れる日本家屋に大喜びだ。
「 あ ・・・ どうやって暮らせばいいんですか? キッチンの使い方とか・・・
わかるかしら ・・・ 」
「 いやいや〜〜 お嬢さん、ご心配はご無用ですよ〜 まずは入ってごらんなさい。 」
ちょっぴり心配顔のフランソワーズに コズミ博士はいつもと同じに穏やかに笑っている。
「 え? あ コズミ先生、教えてくださいます? 」
「 さあさあ ・・・ ほれ こちらがキッチンですよ〜 ああ ギルモア君〜〜
そっちの座敷でくつろいでいてくれたまえ。 」
「 いや ワシもこの家全体に興味があるからなあ〜 案内してくれ。 」
「 ほっほ・・・ではこちらへどうぞ? 」
カラリ。 木と紙でできたドアを開けると真新しいフローリングの床が見えた。
「 ここがキッチンですじゃ。 」
「 !? ・・・ まあ 」
「 ほ? おお〜〜 」
そこは ぴっかぴかの最新式のシステム・キッチンだった。
巨大な冷凍冷蔵庫に 最大出力の電子レンジに オール電化のレンジ台に 最新式食洗器 が
ところ狭しと並んでいる。
「 ・・・ すご〜い ・・・ ウチのキッチンより全然最先端だわあ〜 」
「 それで え〜と? 村長氏によると、ですな〜〜 食材は全て揃えておいた、との
ことですがなあ 〜〜 」
「 え? 冷蔵庫の中かしら ・・・ 」
彼女はおそるおそるぴっかぴかの扉を開けてみた。
「 ・・・ うわあ〜〜〜 すご〜〜い 〜〜〜 」
「 ? ・・・ ほう〜〜〜 これは これは ・・・ 」
「 ほっほ〜〜 なるほどこれはすごい ・・・ 」
三人は冷蔵庫の前で またまた固まってしまった。
冷凍庫には 輸入モノの高級冷凍食品がぴっしり。 冷蔵庫には 有名店のレトルト食品が満杯。
「 うわあ ・・・ これ、限定品でとても高いんですよ〜 ネットで見ましたわ。 」
「 ふうん ・・・ これをレンジでチン! してくれということかのう ・・・ 」
「 おやぁ ・・・ 水はこの大きなボトル入りのを使えとくことかなあ 」
「 まあ ・・・ これ フランスからの輸入品だわ ・・・ 」
ふう〜〜ん ・・・? 三人ともなんとなく黙り込んでしまった。
「 ・・・ あ あら? お野菜とかお肉とか は ・・・?
あの・・・ 普通の ・・・ 」
「 この前滞在した時は 普通の食材もありましたがなあ〜〜 」
「 あの! この村の特産品ってなんですの? 」
「 あ〜〜 特別なものはありませんが ・・・ しかし地元の畑で採れる野菜は
とても美味しかったですなあ。 新鮮で瑞々しくて ・・・ 」
カタン ! フランソワーズが立ち上がった。
「 わたし! お買い物に行ってきます! 村のお店でここで採れるお野菜とか
卵とか ・・・買ってきますわ。 」
「 ああ〜〜 この道をまっすぐ降りると一応役場前広場 に出るはずですがなあ 」
「 わかりました。 大急ぎで今晩の食材を探してきますね。 」
彼女はバッグにお財布を入れると さっさと出かけて行った。
「 ・・・ いやあ〜〜 お若い方は行動が素早いですなあ〜 」
「 そうじゃなあ 〜〜 お茶でも淹れるかな? 」
「 ・・・ 茶葉があったかなあ〜〜 」
「 どれ 捜索しよう 」
老人二人は 冷蔵庫の前に陣取った。
ガサ。 ゴソ。 ・・・ ゴトン。
「 これか??? ・・・ こりゃインゲンマメじゃなあ 」
「 ・・・ これだ!? ・・・ グリーン・ピースのピューレ か ・・・ 」
「 ところで コズミ君。 その問題の治水事業とは 」
「 ああ それなんじゃが。 この村の奥に沼があってのう ・・・
太古の昔から時に大氾濫をおこしてきたのじゃよ。 」
「 ふうん? そりゃダムでも作って治水できんのかね。 」
「 ふむ そうもその氾濫を起こすエネルギー源が謎なのじゃよ。
近年は治水工事をしてダム風にしていたので氾濫はないが。
しかし 山の一部を崩したこと でどうなるか ・・・ 」
「 ああ 村長氏の ちょっこし崩した ってヤツか 」
「 うむ ・・・ ほれ昨今のピンポイント豪雨とやらが起こらんとも限らんからなあ 」
「 ふむ ・・・ あ! あった! ・・・ いや これはエダマメじゃ ・・・ 」
どもう茶葉のストックはない ・・・ らしい。
「 ・・・ あらァ・・・ 道を間違えたのかしらぁ 」
ずっと道を降りてきたはず ・・・ なのだが。
村道の周囲はどんどん緑が濃くなってきてしまい、行き交う人影はまったく見えない。
「 ヘンねえ〜〜〜 あ? すこし向こうが広くなっているわ! 」
足を速めてみれば ― 木々の間からは 大きな水面が見えてきてしまった。
「 ウソ〜〜〜〜 ??? 」
コツン。 思うず足元の小石を蹴飛ばしてしまった。
ポチャ ・・・ ン 〜〜
足元から飛んだ小石は 鈍い音を立て ― そのまま濁った水の中に吸い込まれていった。
目の前には 淀んだ水くさい大きな池というか沼というか・・・水面が広がっている。
「 ・・・ これは 本当に深い沼なのねえ ・・・ 」
フランソワーズは じっと耳を澄ませていたが、もう水音は聞こえなかった。
「 ここの地形からみれば ・・・ もともと湿地に溜まった水が増えていったのかしら・・・
カエルとかいないのかなあ?? 」
汀まで近寄って 水面をじ〜〜〜っと観察したが小動物の影はみつからなかった。
「 ふうん ・・・? でもすごく藻が生息しているみたいだからお魚はいるのよのねえ?
睡蓮とかはないのかなあ ・・・ 」
伸びあがり見渡しているうちに つい足を踏み出してしまった。
・・・ ぐにゃり。 苔と草が入り混じっていた足元がず・・・っとのめりこんだ。
「 !? きゃ ・・・ なに??? 」
ほんの一足、踏み込んだだけなのに彼女の左足なずっぽりと泥の中に沈んでしまった。
「 いや〜〜〜 だ〜〜〜 お気に入りのサンダルなのに〜〜〜 いや〜〜 も〜〜 」
ずぼ ずぼ ・・・ ぐにゃり ・・・ ずぼ ・・・
泥はかなり粘っこく、彼女の左足をとらえて離さない。
「 え ・・・ うそ?? だってまだ沼の中じゃないでしょう?? う〜〜〜〜 ・・・ 」
バッグを草地の方に放り投げると フランソワーズは真剣になって周囲を見回した。
「 冗談じゃないわよ〜〜 こんなトコで沼に填まったりできません!
え〜〜と?? あ この草を引っ張って〜〜〜 」
えいやっと右脚を大きく開き固い土の上に伸ばすと( さすがバレリーナ♪ ) 手近な草をぎっちり掴んだ。
「 せ〜〜〜〜のっ !!! 」
ずぼぼぼぼ ・・・ ぐちゃ ・・・・ 左足はゆっくりと泥の中から引き上がってきた。
「 ・・・! ああ〜〜〜 もう〜〜〜 なんなの??? 」
どうにかサンダルはくっついて戻ってきたけれど。 両足も夏のパンツも泥まみれ・・・
両手も草のシミが点々と染まっている。
「 ・・・ うそ ・・・ こんなんじゃ買い物には行けないわ・・・ 一回戻らなくちゃ 」
投げだしたバッグを拾うと フランソワーズはかなりご機嫌ナナメで 道を戻っていった。
Last updated : 03,10,2015.
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************ 途中ですが
短くてすみませぬ〜〜〜〜
御大のあの ご名作 を下敷きにさせて頂いております。
こりゃ 平ゼロ93 か 原作93 ですなあ〜