『 野分 ( のわき ) ― (2) ― 』
ザザザ −−−−−− ゴォ −−−−−−
雨は地上からも跳ね上がり 風に弄られ ジョーの膝下くらいまで
這い上がってきていた。
うわ ・・・ こりゃ 要注意 だなあ
う〜〜 防護服、着てたらなあ
もっと自由に動けるんだけど ・・・
まさか地元で あの目立ちまくりの服を着るわけにもゆかず
ジョーは 足元を慎重に見定めつつ 海岸通り に降りた。
「 ・・・ な ・・・ なんだ こりゃ 」
日頃 すぴかやすばると楽しく行き来するのどかな商店街は
― 川になっていた。
「 すげ〜な・・・ お店は大丈夫なのかな ・・・
床上浸水とかしていないんだろうか 」
彼は 左右の店を見回しつつ ゆっくり進んでいった。
「 えっと・・・ 中央の井戸のとこって言ってたよな 」
叩きつける雨脚の間から ぼんやりとした灯りの中に人影が見えてきた。
井戸の周りに 数人の人が集まっている。
「 あ 会長さ〜〜ん!! 」
ジョーは 声を張り上げ足を速めた。
はたして 消防団の防災服に身を固めた人たちが雨の中、立っている。
「 遅くなりましたっ 」
「 おう! すまんな〜〜 岬の若だんな 」
「 それで 避難指示の御宅は ? 」
「 ああ それなんだけど ・・・ 四世帯は町内会館に避難した。
俺らが付き添って送り届けた。 」
「 それがさ〜〜 一番海沿いのタナカさんが まだなんだ 」
八百屋のオジサンが 腕組みをしている。
「 すまんが 五番地のタナカのばあちゃん を頼む。
魚屋のヤスさんが詳しいから 一緒に行ってくれるよ 」
「 了解しました! ヤスさん よろしくお願いします 」
「 おうよ 双子ちゃんのお父さん! 頼もしいねえ〜〜
こっちが近道だよ 」
「 はい ! 」
ヘルメットに点灯しスタスタ歩いてゆく ヤスさん の後を
ジョーは急いで追った。
ザザザ −−−−− ゴ −−−−
「 ・・・ すごいですね 」
「 ああ あ 気をつけて、そこ、段があるよ 」
「 はい 」
「 タナカのばあちゃんさあ 足が悪くてね ・・・
日頃からあんまし出かけたりできないんだ。 」
「 あ〜 杖 ついてらっしゃいましたっけ?
ウチの坊主のこと、可愛がってくださって 」
「 あ そうかい? オタクのチビさん達はさあ
この商店街のアイドルだからね〜 」
「 みなさん いい方ばかりですね 」
「 まあな〜 あ あの先の家だよ、屋根 大丈夫かなあ 」
「 う〜ん ・・・床上浸水とかしてないといいけど 」
「 だ な。 俺 ばあちゃん おぶってくから。
あんた 必要なものとか聞いて持ってってやってくれるかい 」
「 はいっ あ そのライト、持ちます! 」
「 お ありがとう! 」
ジョーは ヤスさんが背負っていた大型の投光器を受け取った。
ザ −−−−− 叩きつけるみたいに雨が落ちてくる。
「 ひで〜な ・・・ あ? 誰かいるぞ 」
「 あ ・・・ 男子高校生かな お〜〜い キミ! 」
雨の音を割って ジョーが声をはりあげる。
「 高校生? あ おまえ〜〜〜 ヤマダんとこの息子かあ〜〜 」
ヤスさんも呼びかけた。
「 ・・・・ 」
その高校生は 黙って立ち尽くしている。
「 なにやってんだ! 避難しろっ ! 」
「 ・・・ 」
彼はどうも 大雨や浸水の様子を撮っていたらしい。
「 こんな時にうろうろすんな! 危ないぞ 」
「 ・・・ 」
高校生はなにも答えない。
「 こいつ〜〜〜 」
「 ヤスさん。 タナカさんとこに急ぎましょう。
あ 君 ちょっと一緒に来てくれ! 」
「 え〜〜〜 なんだよぉ〜〜 」
「 いいからっ! 」
ジョーは がっちり彼の腕を掴むと強引に引き連れゆく。
タナカさんの家は 海岸のすぐ側にある。
「 ようし。 ここにライトを置いてくれ。 足元、照らす。 」
「 はい。 っと・・ 君! ここを抑えててくれ。 いいね!
ぼく達は お婆さんを保護してくる。 頼んだよ! 」
「 ・・・・ 」
高校生は黙ったままだが 先ほどまでの反抗的な態度は消えていた。
こくん、と頷き、彼は投光器の側に立ち体重と掛けてしっかりと押さえた。
ドンドン ドンドンドン ・・・
ヤスさんが タナカのお婆さんちのドアを叩く。
「 タナカのばあちゃん!! いるだろ〜 開けてくれ〜〜 」
「 タナカさ〜〜〜ん ! 消防団です〜〜〜
避難しましょう
」
ジョーも 雨音に負けじと声をはりあげる。
ガタ ・・・ やっと雨戸の一部が開いた。
「 誰だい ?? 」
「 タナカのばあちゃん! 俺だよ、魚屋のヤスだよっ
水がでるよ、逃げろ! 」
「 タナカさん 町内会館に避難しましょう!
ぼく達が一緒に行きますよ 」
タナカのお婆さんは ちょっとだけ顔をだした。
「 ヤスさん・・・ と ああ あんた すぴかちゃんと すばるちゃんの
お父さんかい 」
「 そうですよ さあ ここは危ないから避難しましょう 」
「 ・・・できないよ 」
「 え?? 」
「 なに言ってんだ〜〜 ばあちゃん 逃げるんだ〜〜 」
「 多分 このままだと床上浸水か 屋根が危ないですっ
すぐに避難しましょう。 」
「 ・・・ できねえよ 」
おばあさんは 小さい声だけどきっぱりと言った。
「 ! な なんでだよっ! 俺がおぶってってやるからさ 」
「 大事なもの、もって行けますよ まとめて! でも急いで! 」
二人の必死の説得にも おばあさんは首を横に振り続ける。
「 ― ムスメを置いてでられるかい 」
「 むすめ? ばあちゃん、 一人暮らしだろが! 」
「 大事な大事なウチの娘なんだ。
マリ〜〜 お母ちゃんのとこにおいで 」
クウ〜〜〜ン ・・・・
でっかいシェパードが ちらっと顔をみせた。
「 わん公かよ ・・・ ひえ ・・・でか〜〜〜 」
「 タナカさんっ そのコも一緒に避難しましょう !
ぼくがおぶってゆきます だから 急いで〜〜 」
「 おう ばあちゃんは俺がおぶってやる。
わん公は ・・・ 一緒に入れてもらえるよう 俺が頼むよ 」
「 え ・・・ 」
「 はい。 もしダメだったら・・・ わんさんは ぼくのウチに
避難してもらいます。 だから逃げましょうっ 」
「 ・・・ そ そうかい ・・・ 」
おばあさんは やっと避難を承知した。
「 それじゃ ゆくよ、ばあちゃん。 」
「 頼みます ヤスさん。 」
「 おう、しっかり掴まってな〜〜 」
おばあさんを背負うと ヤスさんは確実な足取りで歩きだした。
「 わんこ? いいかい、大人しくしていろよ 」
「 くぅ〜〜ん 」
ジョーも でっかいシェパードを背中に乗せた。
初めて会うわんこだが 大人しくジョーに背負われた。
「 ・・・っと 貴重品、持った、と。
ああ 君! ありがと〜〜 助かったよ 」
「 え えへ・・・ 」
投光器を抑えていた高校生は 頬を赤らめている。
「 さ 君も避難しよう! この雨は危険だよ 」
「 ・・・ これ ? 」
「 ああ ぼくが後でとりにくる。 」
「 ― 俺。 持ってくよ。 」
「 重いぞ? 」
「 これっくらい 持てるさっ 」
「 よし。じゃあ 頼む。 ぼくの前をゆけ 」
「 うん。 ・・・ マリ よかったなあ〜 」
高校生は ジョーの背中の犬のアタマを撫でた。
「 お 知ってるのかい 」
「 ・・・ 俺のトモダチなんだ おばあちゃん も やさしい 」
「 そっか! わんこも知り合いがいて安心だろう。
さあ 行くよ。 足元、気をつけてな 」
「 うん! オジサン・・・ マリ、頼むね 」
「 おう 任せとけ。 」
ジョーと高校生は 町内会館めざし出発した。
ゴォ −−−−−−− !! 風はますます強くなってきた。
ヤスさん、 高校生 ジョー の順番で進む。
通りはもう濁流の川になっていた。
「 ぼうず! 若旦那! 大丈夫か〜〜 」
先頭のヤスさんが叫ぶ。
「 大丈夫ですよ〜 タナカさん、わんこも元気ですっ
高校生? 大丈夫かい 機械、重かったら置いてゆけよ 」
「 だ 大丈夫! このくらい・・・軽いさっ 」
「 おう ぼうず〜 その元気 もらったぁ〜 」
ヤスさんの声に ジョー達こそが元気をもらった。
「 ! あ あの屋根! 危ない 〜〜〜 」
009の眼が 海側の家の屋根の破損を見つけた。
「 今 重石をしておけば ・・・ よし。 」
タッ ・・・!
ジョーは わんこを背負ったまま地面を蹴った。
次の瞬間、彼は屋根の上に着地し、危険な個所を確認した。
「 ・・・ よし。 こっちの瓦を ・・・ とりあえずこれでいいか 」
なんとか 応急処置をして屋根が吹っ飛ぶの防止した。
「 お〜〜い 若旦那〜〜 いるかあ 」
下で ヤスさんの声がする。
「 ・・・ あ ヤバ ・・・ は〜〜い 大丈夫ですよ〜〜
はやく降りて合流しないとなあ ・・・ 」
ジョーは 屋根に隠れて様子を見る。
「 ・・・ ぼくならここから飛び降りて大丈夫だけど・・・
誰かに見られたら ちょっとヤバいかも ・・ 」
「 わんっ 」
背中で わんこ が吠えた。
「 お 行けってか? よ〜し。
おい わんこ、いや マリ? だっけ?
このことは ずえ〜〜〜〜ったいに ナイショ だぞ?
いいな? お前は よ〜〜く掴まってろ 」
「 うおん! 」
「 よし。 ゆくぞっ ! 」
ジョーは わんこをおぶったまま屋根の上から大跳躍をし、道路に降りた。
派手な水しぶきが上がったけれど 雨の音が掻き消しくれた。
「 ・・・っと。 わんこ? 無事か? 」
「 ・・・ わ わ わん ・・・ 」
「 よかった〜 おい わかってるよな? ナイショだぞ〜〜 」
「 うおんっ 」
「 お〜〜い 双子ちゃんのおと〜さ〜〜ん 」
あの高校生の声がする。
「 あは? おう ここにいるよ〜〜 わんこも元気さ 」
「 あ よ よかった〜〜〜〜〜 姿、 見えなくて・・・
俺 ・・・ どうしようかと・・・ 」
「 あはは 大丈夫さ。 君 ウチのチビ達 知ってるんだ? 」
「 あ うん ・・・ 俺さ 学校フケてふらふら〜してたら
おに〜ちゃん おかえりなさい なんて言ってくれてさ・・・
か カワイイなあ〜〜って。 」
「 お〜 サンキュ。 さあ 行こう。 それ 持てるか 」
「 持てる。 これは俺の役目だもんな 」
「 よし 頼むぞ。 あとちょっとだ 」
「 ん。 マリ 町内会館ついたらビスケット、やるよ〜 」
「 くうん♪ 」
町内会館には 5世帯のヒト達が避難していた。
嵐の中 ・・・ ここは煌々と電気が灯り冷房はばっちり。
水道も 豊富な地下水で安心、 風呂も沸かし皆 順番で入った。
「 俺 玄関でねる ・・・ わんこと一緒に 」
「 え そんな 」
「 俺 そうしたいんス タナカのばあちゃ〜ん マリは
俺がめんどうみるよ〜〜〜 」
「 ありがと。 ばあちゃんもここで寝る。
なあ マリ〜〜 兄ちゃんとお母ちゃんと一緒だよ 」
「 くぅ〜〜ん 」
シェパードは ばさばさ〜〜尻尾を振っている。
「 タナカさ〜〜ん 炊き出しだよぉ〜〜 あったかいご飯に
豚汁があるよ 」
台所から 声がかかった。
「 ああ ありがとう。 兄ちゃん、お腹減ってるだろ。
食べておいで 」
「 ・・・ 俺 マリと食べる。 ここで 」
「 アンタ ・・・ いいコだね 」
そんな二人と一匹のやりとりを ジョーは黙ってにこにこ聞きつつ
玄関の内側にも土嚢を積んだ。
≪ ジョー ! 戻ってきて! すぴか が ≫
突然 フランソワーズから脳波通信が飛んできた。
≪ !? すぐ戻る! ≫
ジョーは 一応スマホを見るフリをした。
多分 顔色が変わっていたのだろう。
「 なんか あったかい 」
タナカのおばあさんが すぐに気づいた。
「 い いえ なんでも 」
「 なんでも・・って顔じゃないよ 早くかえってやんな! 」
「 え・・・ 」
「 え じゃないよっ。 あんたんちだって ご隠居さんと奥さんと
チビっこ達なんだろ? 帰ってやんな。
ここは 大勢いるからなんとかなるよっ 」
「 すぴかちゃんちのオジサン。 ここの警備は 僕とわんこに任せて! 」
「 ・・・ あ ありがとう ・・・ 一応、町会長さんに相談 」
「「 すぐ 帰んなっ 」」
町会長さんとヤスさんが 転がり出てきた。
「 ここは大丈夫だよ。 若旦那、 あんたが定期的に点検しててくれたから
自家発電も水も 自由に使える。 食糧の備蓄も十分にある。
さ はやく家族のとこに !
」
「 そうだよっ 皆 お父ちゃんを待ってる。
な〜に 明日の朝には大風も大雨も止んでるさ 」
ありがとうございますっ ・・・ !
ジョーは ぺこん、とお辞儀をすると躊躇いもせずに豪雨の中に
飛び出していった。
カチッ 玄関をしっかり閉めた直後 彼の姿は消えた。
― 次の瞬間・・・
シュ − ッ 独特の匂いの空気が リビングに吹きこんだ。
「 フランっ どうした ! 」
「 ジョー ! ごめんなさい、いきなり呼んで・・・
消防団のお仕事中なのに 」
「 避難所の方は大丈夫だから。 町会長さんや避難してきた人達も
早く家族のとこに戻れって言ってくれたんだ。 」
「 そうなの・・・! ああ ありがとうございます 」
フランソワーズは 涙ぐんでいる。
「 うん ・・・ それで すぴか、どうしたんだ 」
「 そ そうなのっ すぴか ・・・ いないのよ 」
「 ?? いない ・・・? どういうことなんだ? 」
「 ええ あのね ジョーが出かけてからすぐに わたし、ここで
モニターで監視を続けていて・・・ 」
ビュウ −−−− ザァ −−−−−
岬の邸の周りでは 風と雨が渦巻いている。
フランソワーズは 用心のために防護服を下に着こんでいた。
「 ん〜〜〜っと ・・・ 」
え?? ― モニターに赤ランプが点った。
「 !? 窓が ・・・ 開いてる?? あ 閉まった? 」
「 なんじゃと? 」
博士も駆け寄ってきて 覗きこむ。
「 風で 割れたのかしら 」
「 いや? そんな反応はないぞ 」
「 でも 一旦開いたのです! 子供部屋 ・・・ ! 」
「 子供部屋じゃと? 」
次の瞬間 フランソワーズは寝室を飛び出していた。
すぴか すばる ・・・ !
「 どうしたのっ!? 」
「 ・・・・ 」
飛び込んだ子供部屋では ―
すばるが 窓にはりついている。 窓は しまっている。
「 すばる!! どうしたの?? すぴかは? 」
「 ・・・・ すぴか ・・・おそと ・・・ 」
「 そ 外ぉ〜〜??? 」
「 おそと みてくるって まど から・・・ ちゃんとしめなさいって 」
「 !! 」
≪ ジョー −−− ! 帰ってきてっ ≫
咄嗟にフランソワーズはジョーに脳波通信を送っていた。
「 で すぴかは 」
「 ベッドはもぬけの空。 すばる曰く、すぴかはお外 だっていうのよ。 」
「 ! あのぉ〜〜〜 お転婆があ〜〜 テラスか?? 」
「 ちゃんと < 視た > わ。 テラスにはいなかったの。 」
「 ソフト・バリアが張ってある。 嵐の中には出られないはずだよ
庭 見てくる。 きみもさがしてくれ。 」
「 ええ 家の中には いません。 < 視た > から。 」
岬の洋館は < 有事 > には シェルターなみのバリアを張る。
それは最悪の非常時用であり 通常は封印してある。
荒天の場合には 外からのダメージから家を護るソフト・バリアを使う。
透明の強固な幕のようなもので 通常のニンゲンには識別は不可能だ。
そして 雨風から家を護る。
中から外に出るためには 部分解除しなければならない。
「 わかった。 博士は? 」
「 え ・・・? あら ・・・ 書斎に戻られたのかしら 」
「 ふうん? あ あれ 玄関が開いたぞ 」
「 え? あ 博士が〜〜 」
フランソワーズは 玄関に飛んでいった。
「 だは ・・・ すごい雨じゃよ 」
玄関に 博士がずぶ濡れで立っていた。
「 外に出られたんですか?? 」
「 ちょいとな ソフト・バリアを潜ってな ・・・
すぴかを探しに行ってきた。 」
「 すぴかを?? 」
「 ああ。 表庭には誰もおらんかった 」
「 ! じゃ ぼく 裏庭 見てきます! フラン 部分解除してくれ 」
「 了解。 」
二人の脇を ジョーがすり抜けて外に出ていった。
≪ ・・・ いたよっ !! ≫
すぐにジョーから通信が入ってきた。
≪ え!? ど どこに ≫
≪ 温室の中。 逃げ込んで縮こまっていたよ ≫
≪ よかった〜〜〜〜 バス・ルームに直行して! ≫
≪ 了解! ≫
「 おったのかい 」
「 ええ 博士! 温室の中に逃げ込んでたって ・・・ 」
「 ああ よかったなあ 」
「 ほっんとに あのコは〜〜 もう〜〜〜 」
フランソワーズは すぐに立ち上がった。
「 お風呂、用意してきます 」
「 うん あ あまり叱らないでやっておくれ 」
「 え? でも こんな時に外にでるなんて ! 」
「 そうだが・・・・ どうして行ったのかちゃんと聞いて な? 」
「 はい。 もう〜 」
お母さん自身も半分ベソをかいているのに 多分気づいていないのだろう。
ふふふ・・・ まあなあ 母さん譲りのお転婆さんだ ・・・
博士は苦笑しつつ モニターを開いた。
「 セキュリティは万全だと思っていたんが こりゃ盲点だったぞ
外からの侵入を防ぐことばかり考えていたが ・・・ 」
カチャ カチャ・・・ 博士はプログラムの修正を始めた。
うむ ・・・ すぴかに教えられたのう・・・
内側から開ける は 想定外 だった!
カタン。 リビングのドアが開いた。
博士は 作業に集中しつつも 声をかけた。
「 おう 戻ってきたかい すぐにバス・ルームに・・・ 」
「 ・・・ おか〜さん ・・? 」
「 ?? あ すばる かい! 」
泣きそうな声に 博士はあわてて駆け寄った。
入口には 顔中洪水寸前のすばるが立っていた。
「 ・・・ おか〜さん は?? おか〜さん〜〜 」
「 おう おう すばる! ねんねできないかい 」
「 ・・・ すぴか ・・・ いないよぉ〜〜〜 」
「 よしよし ・・ すぴかはすぐに戻ってくるぞ。
母さんはバス・ルームじゃよ 大丈夫 」
「 おじ〜ちゃま ・・・ 」
「 おいで 」
よいしょ・・っと 可愛い孫を膝に抱き上げる。
「 一人で淋しかったかい
」
「 ・・・ ん ・・・ かぜ ご〜〜〜って ・・・ 」
「 うんうん もうすぐ静かになるよ。 」
「 ほんとう? 」
「 ああ。 明日の朝は きれい〜〜なお空が見られるよ 」
「 お日様 でる? 」
「 おう ちょっと暑いかもしれんな 」
「 わあ〜〜 おそとであそべる〜〜
」
「 遊べるぞ。 一緒に公園に行こう 」
「 わあ〜〜 おじいちゃまとこうえんだあ〜〜 」
「 ふふふ ・・・ お すぴかが 戻ってきたぞ 」
「 ? あ すぴかあ〜〜〜 」
すばるは 博士の膝からすべり降り 戸口に駆けていった。
お風呂であったまり 新しいパジャマにくるまって
すぴかは リビングに戻ってきた。
「 あら すばる? 目が覚めたの? 」
「 すばる〜〜〜〜 」
「 すぴかあ〜〜 僕 ちゃんとまど しめたよ〜 」
「 うん! さんきゅ 」
「 さあさあ すぴかもすばるも こっちへおいで。 」
ジョーはチビ達をソファに抱き上げた。
「 さあ 冷たい麦茶があるわよ〜〜 」
お母さんが キッチンから冷え冷えのグラスを運んできた。
「「 わあい〜 」」
やれやれ ・・・ オトナ達は こっそりため息 だ。
外の嵐 より ウチの台風 の方が大変 ・・・
別に語り合うわけではないが 皆 同じ思いだった。
博士が ゆったりとした雰囲気ですぴかに尋ねた。
「 すぴか。 教えてくれるかい。 どうして外に出たのかな?
暗いし 雨 ざ〜ざ〜 じゃったろう? 」
「 アタシ・・・ ずすめさんのおうち、みにいったの 」
「 すずめさん の・・・? 」
「 うん。 おともだちだもん。 」
「 ・・・ そっか・・・ 巣箱、作ったもんなあ 」
「 うん。 おうち とんでってないかな〜〜って
でもね でもね おにわにでれなかったぁ〜 」
「 それで 温室にいたのかい 」
「 ん・・・ おうち、はいれないし〜 あめ いたいし〜
すぴか おんしつにいたの 」
「 そうか そうか ・・・
なあ すぴか ・・・ 今度からは 外に出たい! と思ったら
父さん母さん か ワシに言うんじゃよ 」
「 ・・・ だめ っていわない? 」
「 う〜〜ん そうだなあ〜 なにかよい方法を一緒に考えるよ。 」
「 そっか〜〜〜 」
「 そうじゃよ。 明日 雀さんの巣箱、補強しような 」
「 ほきょう ってなに 」
「 しゅうりして〜〜 がんじょうにすること! 」
すばるが にこにこ・・・ 口を挟んだ。
「 そうだねえ じゃあ 明日のためにもう寝ようね。 」
「 そうよ 明日元気に起きましょ。 」
「「 うん 」
「 おやすみなさ〜〜い おと〜さ〜〜ん おじ〜ちゃま〜 」
「 ああ お休み 」
フランソワーズが子供部屋へ チビ達の手を引いて行った。
・・・ は ・・あ ・・・・
ジョーは ぼすん、とソファに腰を落とした。
「 ジョー ? 」
「 あ は ・・・ 気が抜けました ・・・ はあ〜〜 よかった・・・ 」
「 ふふふ・・・ 父さん、ご苦労さん。 」
「 いや ホントにあのお転婆は・・・ 」
「 面白いコじゃなあ・・・ ああ 町の人々は如何かな
大きな被害は なかったかい 」
「 ええ 避難指示がでたヒト達も無事に町内会館で過ごしてました。 」
「 それで 町内会館は? 設備は無事かい 」
「 ・・・ 」
ジョーは に・・・っと笑って黙って Vサイン をした。
「 そうか そうか よかったのう〜 」
「 博士の防災計画のお蔭です。
この地域、大きな被害はほとんどないと思いますよ 」
「 そうか そうか ・・・ 父さんが疲れきっただけ だな 」
「 あ ははは ・・・・ すぴかには負けました・・・ 」
「 最強は すぴか だな。 」
「 ははは ・・・ なにせ フランの娘ですからね 」
「 まったくじゃ ご苦労さん 」
ぽん ぽん ― 博士は009の背を笑いつつ叩いた。
翌日は お約束のぴっかぴかの晴天〜
「 おか〜〜さ〜〜〜ん どこ〜〜〜 」
すぴかが 大声で呼びつつ子供部屋から駆け下りてきた。
「 はあい〜〜 お庭よ〜〜 お洗濯、乾してるの 」
「 すぴかも やる〜〜〜 」
カタカタカタ −−−− すぴかがサンダルで走ってきた。
「 おはよう すぴか 」
「 おはよ〜〜〜 おか〜さん おひさま〜〜〜 おはよう〜〜〜 」
「 ふふふ 元気ね〜 ね 手伝って 」
「 うん! 」
「 お母さん 乾すから。 タオル広げてくれる? 」
「 うん! 」
すぴかは ぱんっ と タオルをひっぱった。
「 あら 上手〜〜 」
「 えへへ〜 ねえ お父さんは? 」
「 まだ 寝てるわ すばるは? 」
「 ぐ〜〜すぴ〜〜〜 」
あはははは うふふふ 女性陣は大笑い。
「 すぴか、お父さんを起こしてきて? 」
「 うん! おと〜〜さ〜〜ん すずめさんのおうち、みて〜〜〜〜 」
すぴかは 元気よく家に駆けこんでいった。
うふふ・・・ ジョーってば一発で起きるわね。
じゃ わたしは 甘ったれ坊やを起こしましょうか
フランソワーズは 空になった洗濯籠を取り上げた。
ああ いいお天気 ・・・ !
町の人々は 元気いっぱい片づけを始めていた。
町内会館に避難した人々も 一晩、ゆっくり過ごしたので
元気な顔で 我が家に戻った。
「 お〜〜 屋根 無事だったわあ 」
「 床上浸水は 免れた・・・ よかった ! 」
「 畑 畑 ・・・ あ〜 なんとか水捌けできたか・・・ 」
「 フネは? 漁労長さん 」
「 町会長〜〜 ばっちり さ。 加工施設も番小屋も 無事! 」
「 お〜 さすがだなあ 」
「 いやあ ウチの爺様の言うコトに従ったまでさ 」
「 商店街はどうだね? 」
「 床上浸水 ナシ。 屋根も飛んでない。 瓦が二〜三枚 飛んだがね
朝イチで 工務店のおやっさんが修理に飛び回ってる。 」
「 そっか! よかった よかった・・・ 」
「 岬のセンセイんちは どうだね? 」
「 ああ 無事ですって若旦那が連絡くれたよ。
夜にね〜 すぴかちゃんが 外に出ちゃったけど 無事でした とさ。 」
「 あはは〜〜 あのチビっこらしいなあ〜 」
海岸通りの人々は 嵐なんかには負けないのだ。
数日後 ―
ジョーが 浜辺を早朝ジョギングしていると ・・・
「 あ〜〜〜 すぴかちゃんと すばるくんちのオジサン〜〜〜 」
「 わんわん わわ〜〜ん 」
少年とシェパードが駆けてきた。
「 あ ヤマダさんとこの〜〜 」
「 おはよ〜〜っす! 」
「 わおん! 」
「 おはよう! ジョギングかい 」
「 うん あ はい! 俺 進路きめたっす。 ハイパー・レスキュー隊
目指しますっ ! 」
「 お 凄いなあ ・・・ 大変だろ? 」
「 ん。 だから頑張るんだ〜〜 マリも応援してくれるし。
めっちゃ勉強してる。 ・・・ ウチの親父も やってみろ って 」
「 そっか! がんばれ。 」
「 ん。 俺 やるっ! 」
「 わお〜ん ! 」
明るい笑い声が 穏やかになった海に響いていった。
野分 ( のわき
) のまたの日こそ、いみじう あはれに をかしけれ
************************** Fin. ***************************
Last updated : 10,01,2019.
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*********** ひと言 ********
フランちゃんの出番が あんまりなかった〜〜
ごめんね フランちゃん☆
ジョー君、 わんこと仲良くなったでしょうね (>_<)