『  野分 ( のわき ) ― (1) ―  

 

 

 

 

 

 

 

野分 ( のわき ) のまたの日こそ、いみじう あはれに をかしけれ

 

 ・・・なんて 昔のヒトは優雅なことを宣っているけれど

実際は ―  野分襲来は とんでもなく大変なことなのだ。

 

 ― そう ・・・ ジョーが 家族と暮らす家は海辺の崖っぷちにあるし

彼らが生活している町は 海に面した地域なのだ。 だから ・・・

 

 その年の秋の初めのこと。

 

「 うむ いかんな。 やはり直撃をくらうぞ 」

じっとモニターを見つめていた博士が 呻り声をあげた。

「 あ〜〜 やっぱり・・・ ですか 

「 うむ。 今回は予報的中ってことだ。 」

「 では シェルター・モードにチェンジですね 」

「 そうだな。 ああ 自家発電装置と地下水浄水装置の点検を 」

「 あ〜 それは毎週やってます。 でも 念のため もう一回

  点検してきます〜〜 」

「 おう ありがとう! ワシは もう少し精度を上げて進路予想をする。

 その後 下の商店街に行ってくる。 

「 商店街? お買い物ですか? なら わたしが ・・・ 

 幼稚園に子供たちをお迎えに行く時間ですし 」

洗濯モノを取り込んでいたフランソワーズが 顔をだした。

「 いや ・・・ 町会長サンとこに ちょいと話をしてくるよ 」

「 ? なにか ・・・ 」

「 うむ ・・・ おそらくこの浜は直撃じゃから。

 防災のことを少し相談してくる。 」

「 ! そうですね! あ ぼくは漁港の方、回ってきます。 

 あそこの漁師組合のオジサンに 会ってきます。 」

「 おう 頼む。 まあ 彼らにぬかりはないだろうがな 」

「 え でも ウチみたいな精密な観測装置は ・・・ 」

「 いや ・・・ 彼らの長年の経験には勝てんよ。

 まあ 話を聞いてきてごらん。 」

「 はい。 」

「 博士〜 わたしも商店街、行きます! お米とか買い出し・・・

 非常食の準備、しなくちゃ 」

フランソワーズは エプロンを外し腕まくりをしている。

「 うふふ〜〜 わたしの出番だわ〜〜  チビ達のお迎えもあるし

 博士 ご一緒しましょ 」

「 おう 張り切っておるな。

 チビさん達のお迎え、気をつけてな。 自転車でゆくのかい? 」

「 はい。 博士特製の安全装置つき電動製 ですから〜

 台風の風くらいじゃ びくともしませんわ。 」

「 いやいや・・・ チビさん達の安全第一じゃよ。

 慎重にな。 風を怖がっておるかもしれんし・・・ 」

「 はあい。 あ〜 すばるは 怖がってるかもしれませんけど・・・

 気をつけます。 」

「 頼むよ〜〜 フランソワーズ。

 じゃ ・・・ぼく 点検してから 海岸の方に行きますね 

 

岬の洋館では 防災対策を開始していた。

 

 

   ザザザザ −−−−−   波はまだそんなに高くはない。

 

ジョーは海岸に出て う〜〜んと伸びをした。

「 ・・・ う〜ん でも 風が なあ。 これは台風の風だな 

 ウチは崖っぷちにあるけど 海面近くはまた違うな 

 

 サクサクサク ・・ 

 

砂浜をすこし歩くと この地域の小さな漁港に出る。

漁港といっても 防波堤が沖に向かって伸びていて海岸には

水揚げ用の施設があるだけのごく小規模なものだ。

「 ・・・あ?  漁船が ・・・?  あ〜〜 こんにちは〜〜〜 」

ジョーは 手を振り声をあげ走りだした。

漁船が 何隻もすでに浜辺の奥に上げしっかりと固定されていた。

水揚げ用の、魚市場も兼ねた建物周辺で オジサンが戸板を打ち付けたり

作業をしている。

顔見知りのオジサンさんだ。

「 ああ?  お〜〜〜 岬の若ダンナ〜〜 チビっ子達は元気かね〜 」

「 こんにちは ! はいありがとうございます〜〜

 台風対策ですか 

「 お〜。 フネは全部上げた。 」

「 やっぱ上陸しますかね〜〜 」

ああ・・・ と オジサンは深くうなずいた。

「 ウチの爺様がさ。 今度のは気を付けろって言うんだ。

 この風だと直撃だぞってね 」

「 え・・・風だけでわかるんだ? 」

「 ふふん 50年以上この海と付き合ってんだからな〜 」

「 すげ・・・ あ ウチの親父さんも 今回は来るって言うんですよ。

 一応 レーダーとかで調べててね  

「 あ〜 さすがご隠居さんだね。 」

「 ま〜 その方面の研究、してますからね 」

 

 地元では ギルモア博士は気象・環境の研究をしている、と知られている。

気のいい住民たちは 結構気軽に聞いてくるのだ。

 

  この夏は暑いかね?   

  水不足・・・ 畑、大丈夫かなあ

  梅雨 ・・・ いつ明けますかね〜

  にちよう うんどう会なの〜 はれる?

 

その度に博士は にこにこ・・・モニターなどを使い丁寧に解説をしていた。

 

  センセイ〜 明日 出漁すんだけど また頼めますかね

 

漁協の漁師さんたちもやってくる。

 

  おう いつもの周波数でいいのかな?

  へい 変えてね〜っす

  任せてくれ

  ありがて〜〜 その代わり土産には期待してほしいっす!

  ありがとうよ〜〜

 

博士は 邸の超高性能レーダーで収集した気象情報を

地元漁船に転送している。

 

  センセイの情報は すげ〜んだ

  そうかねえ?

  ああ。 ここ3〜4年 俺ら無事故だもんな

  それは よかったのう

 

ギルモア邸の人々は しっかり地元に溶け込んでごくごく平凡に

そして 楽しく暮らしている。

 

 

「 あ それで なにかお手伝い、できることあるかな と思って来たんですけど

 ・・・ もう対策ばっちり ですね 」

ジョーは ぐる〜〜っと水揚げ用の建物を見回した。

「 あとちょいとな〜 ふっ飛ばされねえよう頑丈にしとく。 」

「 さすが ・・・ じゃあ ぼくは町内公民館の方、見てきます。 」

「 おう 頼んだぜ。 いやあ アンタ 若いのに感心だねえ 

「 あは 親父さんにとっくり言われてますから〜  」

「 いいご隠居さんだよ ウチの爺様のいい碁敵だしさ 

 ま 陸 ( おか ) の方は 町会長を手伝ってやってくれ

 俺らは ここと ・・・ あと番小屋にいる猫たちをウチにつれて帰る 

「 可愛いの、いますよね 親子? 」

「 ああ 俺達の護り神さ 」

「 へえ・・・ 猫が 」

「 おう。 この浜じゃ 代々猫、飼ってるんだぜ 」

「 そうなんですか  ウチのチビ達、猫ちゃん〜 みにいく〜って

 楽しみにしてますよ。 」

「 あはは よく来るよねえ〜 美人のかあさんとさあ

 若旦那、 あんた あんな美人のおかみさんと めっちゃ可愛いチビさん達

 がいて ほんと、 果報者だよぉ〜 」

「 いやあ〜〜 皆 地元でお世話になってて・・・

 あ すいません〜〜 作業の邪魔しちゃって 」

「 いいってことよ。 ほんじゃ 陸 ( おか ) の方は

 任せたぜ 」

「 はい! あ 風 強くなってきましたら気をつけて 〜 」

「 おうよ。 アンタもな〜〜 若旦那〜 」

オジサンは からからと笑って再び 戸板を打ち付ける作業に戻った。

 

   ビュウ −−−−  生暖かい風は 強さを増してきた。

 

「 ・・・ 海の方は大丈夫だな。 

 それじゃ公民館の方に回るか〜  」

ジョーは 砂浜から急な石段をがしがし登りはじめた。

 

 

お昼すぎの時間だったけれど 海岸通り商店街には

地元のヒト達の姿が けっこう見られた。

 

「 へえ・・・?  買い物時間には早いよなあ 」

ジョーは 商店街をずんずん進んでゆく。

「 あ 明日に備えて か。 あ こんにちは〜〜 ど〜も〜 」

彼は顔見知りの誰彼と 気軽に挨拶を交わしてゆく。

 

海岸通り町・公民館 は 商店街の外、すこし山側に上がったところにある。

古い空き家を改築したものだ。

 

「 ん〜〜 大丈夫 だな 」

ジョーは ざ・・・っと 外側を見回した。

 

   ガラガラ −−−   玄関の引き戸が開いた。

 

「 ?? あ〜〜 町会長さん〜  」

「 お 岬の〜〜  さっきお宅の親父さんが来たぞ。 」

「 ええ 伺うって言ってましたから・・・

 こちらの点検とかしないと・・・って 」

「 うんうん いつもありがたいよ〜〜

 ここもさ、 お宅の親父さんの提言で がっちり災害用の設備、

 してくれたし・・  」

「 ええ それを点検に来ました。

 こんどの台風 ・・・ 多分直撃だろうって 親父が 」

「 あ〜 漁協の組合長も言ってたよう〜

 一応ね 町会の皆には 備えろ〜〜 って 回覧 回した。 

「 回覧 ですか 」

「 俺らねえ すまほ とか使えねえ爺様やら婆様 多いんだよ。

 昔ながらの回覧板のほうが 確実なんだ。 」

「 はあ〜〜 そうなんですかあ 」

「 まあなあ 緊急の時はやっぱヒトの力さ。 」

「 ですねえ・・・ ここは皆さん いい方ばっかだし 」

「 あっはっは〜〜  おっと点検だったね 頼みます。 

「 はいっ あ さっき浜に行ったら 漁協長さんが作業してて・・・

 ハマは任せとけ、 オカは町会長さんに頼むって 」

「 お〜〜っと そうかい。 それじゃ ハマは安心だな。 」

「 ですね。 それじゃ ここの点検しますね 」

「 おう よろしく頼む。 あ カギな〜 終わったら

 帰り掛けにウチに寄ってくれるかい。 」

「 了解です。 ・・・ ここに避難することにはならないと

 いいですけど ね ・・・ 」

「 そうだけどね〜 − 今回はちょいとヤバいぞ。

 町内には しっかり対策するように回覧してるけどね。

 じゃ 失敬!  」

町会長さんは カッパを風にはためかせつつ帰っていった。

 

「 さて ― 地下の自家発電から始めるか 」

ジョーは 腕まくりをして 地下への入口を ぐ〜〜っと開けた。

 

ここ、海岸通り・公民館は ―

老朽化につき改築の際に 博士の提言で 自家発電機が地下に完備、 

裏にある井戸は 自動ポンプと浄水装置も着いていて 

水質は飲料用としても保健所からのお墨付きだ。

ここは地下水の豊富な土地で 商店街の中央にある井戸水も 本来は 

生活用水用だったが浄水装置をつけて 飲料水に適するようになっている。

 

小一時間後  ・・・

 

「 ふう〜  全て正常、と 

ジョーは パンパン ・・・と 服の埃を払った。

「 もしもの時には シェルターとしてちゃんと役立つな。

 ・・・ そんなことにはならないと思うけど さ  」

 

途中 町会長さんちに寄り、鍵を返却、 ジョーは

商店街の大通りに出、いくつか食糧品を買った。

 

   ビュウ −−−−   生暖かい風が 強さを増している。

 

「 うへえ・・・ 来る なあ ・・・

 あ〜〜 あと米も買っておくか ・・・ そうだ、山側の養鶏場は

 大丈夫かなあ 」

リュックに荷物を詰めこんだ。

 

「 ジョー 〜〜〜〜〜  」

 

自転車が 勢いよく走ってきて 彼の前できっちりと止まった。

「 あ フラン 」

「 おと〜〜さん〜〜〜 ! 」

「 ・・・ おと〜さん ・・ 」

「 ジョー!  点検 終わった? 」

「 おう すぴか〜〜 すばる〜〜 お帰り! 」

「 ただいまあ〜〜 おと〜〜さ〜〜〜ん 

自転車の前には 娘のすぴか が そして 後ろには すばるが

お母さんの背中に張り付いる。

すぴかは 身を乗り出し、ジョーに両手を伸ばす。

「 すぴか 危ないよ〜 ウン 準備オッケーさ。 そっちも買い出し完了? 」

「 ええ 見て! 山盛りよ〜〜 」

フランソワーズは すばるの後ろを指した。

そこには 食糧品をはじめ生活物資が山積みに括りつけてある。

「 お〜〜 すげ〜な〜〜 

「 えへへ 頑張っちゃったわ〜〜  わたしだって・・・ 」

「 はいはい 003さん。 」

「 うふふ あとねえ トイレット・ペーパーも買いたいのね〜 

「 ああ それじゃ  チビ達はぼくが引き受けるよ 

「 あら そう? 」

「 うん。 二人 連れて帰るから・・・ そしたら

 ペーパーも積めるだろ、 あと細かいもの、ぼくが持って帰る。 」

「 ありがとう それじゃ 二人とも〜〜 お父さんと一緒に

 帰るわよ〜〜 」

「 きゃわ〜〜〜〜 おと〜〜〜さ〜〜ん おと〜さん♪ 」

お父さん子のすぴかは もう大喜び・・・ ゆさゆさ揺れている。

「 あ こら 騒ぐなよ〜〜 危ないよ。 よい・・しょっと 」

ジョーは すぴかを前籠から下ろした。

「 さあ すばるも降りるよ〜〜 」

「 ・・・ 僕 ここにいる 」

「 え? ここって お家に帰りましょうね〜 」

「 ここで おか〜さんとかえる 」

すばるは フランソワ―ズの背中にへばり付いたままだ。

「 すばる〜 なあ お父さんとすぴかと帰ろうよ?

 あ 帰りに ころっけ 買おうか?  オヤツにしようよ 」

「 ・・・ いい。 」

「 すばる? お母さんね これからまだお買いものがあるの。

 自転車にもっと乗せないとね。 だから すばるは降りましょ。 」

「 ・・・・ 」

ジョーの息子は不承不承 かすかに頷いた。

「 よし。 そうれ・・っと。 」

ジョーはすばるを抱き下ろした。

「 おっけ〜〜 じゃ チビ達は任せてくれ 

「 了解。 あ ・・・ ジョー 大丈夫?  持って帰れる? 」

「 おいおい〜〜 

彼は にんま〜〜りして、指で 9 の字を作ってみせた。

「 あ は 失礼しました〜〜

 それじゃ お願いね〜〜 わたし、買い物続けて帰りま〜す 」

 じゃね〜 と手を振り フランソワーズは荷物山積みの自転車を 

さっそうと漕いでいった。

実は 博士の特製・超電動自転車で 強風の中でも転倒することもなく

あの! 急坂も楽々登れるのだ。

 

「 さ〜〜〜 帰ろうね〜〜 

「 おと〜〜さん おと〜さん かたぐるま〜〜 して! 

すぴかが ジョーの脚に取り付いている。

「 肩車? おっけ〜〜 それじゃ・・・っと   」

ジョーは 屈んで娘を肩にのっけた。

「 わい〜〜〜♪ わ〜〜〜〜 たか〜〜〜い〜〜〜〜〜 

「 すぴか! 暴れるな〜〜 しっかり掴まってろ 」

「 はあ〜〜い♪ うは〜〜 たかい〜〜 

「 ・・・ おと〜さん  」

「 すばるはどうする?  」

「 僕ぅ・・・ あ おんぶして 」

「 わかった。 しっかりつかまってろよお〜〜 」

背負っていたリュックを 前に回すと ジョーは息子に背中を向けた。

「 さあ こい。 」

「 ・・・ うん ! 」

「 いいかい? お父さんの首に手、手まわして 」

「 すぴかのオシリ・・ じゃま〜〜〜 」

「 あ〜〜 すばるってば つんつんしないでよぅ〜〜 」

チビ達が 父の背中でごちゃごちゃやっている。

「 ありゃ 肩車 と おんぶ はちょっち窮屈かあ。

 よ〜し・・・ すばる、ちょっと待ってろ 」

「 ・・・ うん ・・・ 」

一旦すばるを降ろし、ジョーはリュックを背負いなおす。

そして  がっちり! すばるを脇に抱えた。

「 ?  うわわ・・・? 」

「 さあ すばる、暴れるなよ?  いいね 

「 うん♪  うわ〜〜い 」

「 すぴか〜〜  いいか 出発するぞ。 」

「 うん おと〜さん !  ぴっぽ〜〜〜 」

「 おい 二人とも!?  ウチに着くまで あばれない。

 いいね?? 」

「「 はあ〜〜い 」」

「 ようし。  ウチに向かって出発しんこ〜〜〜 !! 」

 

   ぷぁ ん〜〜 !  すばるが上手に警笛のマネをした。

 

「 みなさま〜〜 ゆれますので おつかまりくださ〜い  

すぴかが 車掌さんのマネをする。

「 ははは 二人とも上手だねえ〜〜 さ 帰ろうね 

 

ジョーは笑って 娘を肩車、息子を脇に抱え 背中にはぱんぱんのリュック・・

 の出で立ちで 悠々と商店街中通りを抜けていった。

 

「 ・・・ 若いってのは  いいもんだねえ ・・・ 」

角の煙草屋のご隠居さんは そんな父子の姿を目を細めて見送っていた。

 

    ビュウ  −−−−−−−  ・・・・ !

 

海からくる生暖かい風は 強さを増してきている。

 

 

  

  カチャ カチャ ・・・  

 

「 ん〜〜 っと。 片づけ終了〜っと 

「 ありがと ジョー。  ねえ お茶 淹れましょ。

 博士〜〜 熱いお茶 如何ですか 」

キッチンからでてきたジョーに フランソワーズが声をかける。

「 あ いいねえ 

「 ちょっと待っててね 

 

外には 野分 がその猛威を振るい始めるころ ・・・

岬のギルモア邸では 晩ご飯の後のまったりした時間を迎えていた。

 

チビ達は もう歯磨きを終えて < おやすみなさい > の時間。

ジョーは 二人をしっかりとベッドに送りこんできていた。

 

「 おやすみ〜〜 すぴか すばる 」

「 おやすみなさ〜〜い  おと〜 さ ん ・・・ 」

元気モノのすぴかは ベッドに入れば すぐに爆睡してしまう。

今夜も ジョーがまだ子供部屋の電気を消す前に 金色のアタマは

枕に中に沈没していた。

「 すばる?  ほら ちゃんとベッドに入って 」

「 う うん ・・・ おと〜さん ・・・ お外・・・雨? 」

「 そうだねえ でも 明日 すばるがおはよう〜〜っていう頃には

 すっきり晴れてるよ 」

「 そうなんだ 〜〜 

「 そうだよ。 だから もう寝ようね 」

「 うん! はやくあしたになあれ〜〜  」

「 ふふふ ・・・ おやすみ〜〜 すばる〜〜 」

ジョーは すばるのアタマをくしゃり、となで、タオルケットを

かけ直した。

「 おやすみなさ〜〜い おと〜さ〜〜ん 」

「 ・・・ おやすみ ・・・ すぴか すばる 

常夜灯のぼんやりした明かりの中で ジョーは静かに子供部屋の

ドアを閉めた。

 

    ビュウ  −−−−−−  ・・・・ !

 

窓の外、風はかなりの強さで吹きつけてきている。

しかし しっかりカーテンを閉めれば これは防音効果もあるので

邸の中は いつもの夜とあまり変わらなくなる。

だから 子供達はまったく普通に安心してベッドに入ったのだ。

 

 

   コト。  湯呑み茶碗がテーブルに置かれた。

 

「 はい ・・・ いい香ね 

「 あ ありがとう  ふ〜〜ん ・・・ ホントだあ 」

オトナ達は 熱いお茶を手にまったりした夜を過ごす。

「 上陸は真夜中ですかね? 」

「 ああ だいたい日付が変わるちょっと前 だなあ 

 かなり風雨が強くなってきている。 」

博士が手元のモニターで 観測数字を読んでいる。

「 今夜、ぼくは ここで待機する。一応 これでも地元消防団員だからね 」

「 避難勧告とか 出た? 」

「 ・・・ いや まだみたいだけど ・・・ 

 漁労長さん と 町会長さんが様子を見て判断するって。

 まあね〜 あの二人はこの浜や町のことはすべてお見通しだから 」

「 ウチは平気だけ・・・ 公民館に避難する方もいるのでしょう? 」

「 そうかもしれないなあ。どこの家もちゃんと備えはしているだろうけど

 今回は風雨が特に強そうだからね  」

「 ふうん  あ そうだわ! いいものがあるの。 」

フランソワーズは にこにこ・・・キッチンに入っていった。

「 ??  」

「 ジョー。 すまんが今晩は頼むぞ。 外周りを頼む事態になるやも

 しれぬ 」

「 博士 はい! 任せてください。 博士はどうか休んでください。 」

「 冗談じゃないぞ!  情報分析くらいやらせてくれ。

 年寄は昼間 寝ればいいんだ。 ワシも今夜はここに詰める。 」

「 無理しないでくださいよ? 」

「 シロウトじゃないからな。 任せろ。 」

「 あは 失礼しました〜 」

「 うむ よろしい。 消防団員、しっかり務めるように。」

「 了解であります☆ 」

二人は に〜んまり笑いあう。

 

   カタン ・・・

 

「 は〜〜い お夜食です 」

フランソワーズが いい匂いのお皿を運んできた。

海苔で巻いたお握りが並んでいる。

「 あ わあ〜〜〜 お握りに 卵焼き??  わっほ〜〜 」

「 うふふ  これ 茶色かあさん の卵よ 」

 「 あ あの養鶏場、見てきてくれたんだ? 」

「 ええ あそこの卵、欲しかったし・・・ 茶色母さん の家系は

 代々優秀よぉ〜〜 最高の卵だわ。

 そうそう、鶏さんたち、しっかり鶏舎に入っていたわ。 

「 そうか よかった〜〜 あそこの小屋は ・・・ 」

「 そ。 博士の特製・セラミックだから 吹っ飛ぶ心配はないわ 」

「 うんうん・・・ 湧き水の井戸もあるし、安心だね

 そうそう自家発電も導入したんだったね 

「 ええ。 ちゃんとね 鶏舎も送風していて涼しいカンジだったわ。

 でも なるべく早く通りすぎてほしいわ 」

「 ああ 」

 

この地域の自家発電の電源は風力で 博士の改造で無限に補充・蓄電できる。

だから こんな強風はある意味、絶好のチャンスでもある。

 

「 おお 美味しそうじゃなあ ・・・ 夜中にいただこう 

「 そうですね。 フラン、きみは休め。

 そして いざって時には チビ達を頼む。 」

「 了解〜〜  あ わたしの 眼と耳 が必要になったら

 すぐに起こしてね 」

「 うん。 あ 今は  どう? 」

「 ん −−−−−−  」

003は 海岸通りにむかってしばらくじっと佇んでいたが。

 

「 ・・・ 今現在 目立った被害は ナシ。

 海岸通りからず〜〜っと 山側まで ・・・ 無事。

 海岸の漁業施設や 番小屋も ・・・ 無事。 」

 

「 そうか よかった! 」

「 うむ ・・ しかしなあ こりゃ 直撃 だな 」

博士はモニターを覗き 呻っている。

「 二人ともしっかり頼むぞ。 」

「「 了解です 」」

 

 

   ビュウ −−−−−−   ガタガタガタ −−−−−

 

風雨はどんどん強くなってきた。

 

「 ・・・ すごいなあ  こんなの、ぼくも初めてだ。 」

ジョーは リビングのカーテンを少し開け 外を観察していた。

 

   rrrrr  rrrrr ・・・  

 

「 ? なんの音だ?  ・・・ あ! 防災無線〜〜 」

ジョーは 窓際に置いた装置に飛び付いた。

「 !  はい?  ああ 町会長さん ええ ウチはなんとも・・・

 あ 避難指示 でましたか   はい はい !

 わかりました すぐに伺いますっ 」

 

ジョーは 静かに受話器を置いた。 

 

「 どうしたね 」

リビングのソファから 博士が立ち上がった。

「 町会長さんからで  ― 海辺の五世帯に避難指示が出たそうです。

 独り暮らしのおばあさんとか 高齢者世帯なんですって。

 手伝いに行ってきます! 」

「 おう 頼んだぞ。  フランソワーズに起きてもらうから

 緊急の時は 」

博士は つんつん・・・と自分のアタマを突いた。

「 はい  了解です。  」

ジョーは 準備しておいた防水服を纏うと静かに出ていった。

「 気をつけろよ 

「 了解。 いってきます。 」

 

  ガタン。  玄関を開けるのに ジョーでも少々苦労した。

 

 

     ビュウーーーーーーーー    ゴォ −−−−−

 

外は 雨粒が強風に踊り 勢いよく叩きつけて来る。

 

      ふふん ・・・ 009に相応しい夜だな 

 

ジョーは 雨水が流れる急坂を慎重に降りていった。

 

 

Last updated : 09,24,2019.            index     /    next

 

*************   途中ですが

お馴染み 【島村さんち】  シリーズ・・・

そして 季節小話 です〜〜 (>_<)

備えあれば患いなし ですかね☆