『 ウチの庭 ― (2) ― 』
ガコ ―−−−−ン ・・・・
岩盤をくりぬいた高い天井に 機械音が反響する。
広い洞窟は四方八方を防護壁で補強されているので
ふと・・・ 大工場の中にいる気分になってしまう。
実際 重機から精密機器までなんでもある、といった風景だ。
「 ― だからさ ここんとこを改築して ドルフィンが
直接空中に飛び出せるようにしたいんだ。
そうすれば 操縦も ・・・ 聞いてる?? ジェット! 」
ピュンマはモニターから顔をあげ 眉を顰めた。
ずっと話しかけ 一応相談している、 と思っていた相手は
彼からは 全く明後日の方角 − 洞窟の海への出口方向 を
うろうろし きょろきょろしていたのだ。
「 ねえ ジェット。 聞いてるのかな 」
「 ・・・ へ?? 」
「 へ じゃないよ。 ドルフィンの発進について相談しようって
ここに降りてきたんじゃないか。
僕としても パイロットの意見が欲しいんだよ 」
「 あ〜〜〜 そうだっけか 」
「 そうだよ! 君だって ここから直に空中セッションに
移る場合も 視野に置いておかないと 」
「 へえ? そんなコト できるのか??
いいじゃ〜〜〜ん すっきり! だぜ〜〜〜 」
「 だから だね〜〜 」
「 うじうじ水ん中 ぶくぶく行くの、ウザ〜〜〜〜
ガ〜〜ッて 直に空中に出れたら最高じゃんか〜〜〜 」
「 ・・・ もういいよ。 ジョーに相談するから 」
「 あ? 次からはそのセンで行くんだな?
やったあ〜〜 − なあ アソコのスキマから 出れるか? 」
「 スキマ? どこだい 」
「 あすこ。 ほらあ 」
のっぽの赤毛は 長い人差し指で岩盤と防護壁の合い間を指した。
外界と直につながっているのだろう、一条の陽の光が差し込んできている。
「 ・・・ ああ あれか ・・・
出られるだろうけど マズいよ。 ここの立地を考えてみろよ 」
カチャ。 ピュンマはモニターを切り替え周囲の映像を出した。
ギルモア邸は海辺の断崖の上に建っているが その裾には
そんなに広くはないが砂浜があり ごく普通の海岸 である。
浜は私有地ではないし 小さい漁港へもつながっているので
散歩するヒトの姿を みることもある。
夏の朝など 子供たちが駆けまわっていることもある。
つまり どこにでも見る・ニッポンの海辺 なのだ けれど。
その崖の海中に没している部分は ドルフィン号の格納庫なのだ。
そしていざという時には シェルターにもなる大規模な
ベースでもあり、ドルフィンの母港、ドッグにもなっていた。
「 それで? 」
フランソワーズの顔から す・・・っと表情が消えた。
う わ ・・・
ピュンマは勿論のこと、同じ部屋にいる男性陣は皆、背中に
つめた〜〜〜い汗が転がり落ちるのを感じていた。
「 ― 地下格納庫では一緒だったんだけど・・・ 」
そこでピュンマは バツが悪そう〜〜に言葉を切った。
「 < いっしょ だった > ですって? 」
フランソワーズの眉が きりりり〜〜〜〜と吊り上がった。
ひえ〜〜〜〜〜〜〜
こ っわ ・・・!
周囲のオトコたちは縮み上がり貝のごとく、口を噤んだ。
「 ― それ で? 」
「 あ ・・・ うん ・・・それで さ ・・・ 」
『 ちょっくら 飛んでくら 〜 』って言ってさ
飛び出していっちゃったんだ〜〜 」
「 とびだしていった???
もしかして ・・・ その 隙間 から? 」
「 ・・・ あ ドッグに損傷はないよ うん。 」
「 隙間から出て行った わけ?? 彼。」
「 ・・・ まあ そういうコトなんだけど・・・
あ!! もうとっくに帰ってきたと思ってたんだけどぉ 」
カチャン。 彼女は静かにカップを置いた。
ほんの一瞬だが 静寂がその場を支配した。
オトコ共には永遠にも感じる時が過ぎ ― 彼女は口を開いた。
「 〜〜〜〜 もう〜〜〜 ! ここから飛んじゃダメって!
あれほど言ってるのに〜〜〜 」
「 だよねえ・・・ヤバいよなあ ほら このへん、ベースがあるから
かなり探知網 張ってあるよね? 」
「 わかっているはずよ?? ドルフィン号でここに着水するの、
大変だって何回も体験してるわよね!? 」
「 ・・・ 僕もそう、思いマス 」
「 見つかっちまった〜〜 じゃ すまないのよ! 」
「 だよねえ・・・
あ あのさ! 海中もさ 凄いよ レーダー網 ・・・
漁業の網みたいでさ〜 アップアップしちまったよ 」
「 ! ・・・ってことは。 ピュンマ〜〜〜〜
貴方も 潜った ってこと??? 」
「 あ ・・・ ちゃ〜〜 バレちゃったか〜〜〜
えへへ この辺の海、 興味があってさ ・・・
ちょいと三浦半島の先まで ・・・ 足を伸ばして いや
ヒレを伸ばして、かな〜 」
「 ! ちょっと!! あの辺りは〜〜 」
「 わかってるって。 ふふふ そんなモンに引っ掛かる008サマじゃあ
ないぜ? 余裕〜で クリア さ 」
「 ・・・ 空で 誰かさんも同じこと、言ってるわ きっと 」
「 ごめ〜〜ん 」
「 お願いですから。 ここから < 飛んだり > < 潜ったり >
しないでください。 」
「 申し訳ありません。 まあ ジェットは大丈夫だよ きっと 」
「 だって レーダーにひっかかるでしょう?? 」
「 あ 博士発明の ステルス加工すぷれー してたけど 」
「 スプレ― ? そりゃ姿は見えなくてもレーダーには
機影 というか 彼の姿の影が 」
「 あは あのさ ジェットがいうには
だーれも ニンゲンが単独で空を飛ぶ とは思ってないから大丈夫 って。
ヤバそうになったら ニンゲン型ドローン のフリ するって 」
「 !!! じょ〜〜だんじゃあ ないわよっ !!! 」
ばん。 この屋敷の女主人は すっくと立ち上がった。
「 皆さん。 全員で あの 飛びっ子 を呼んで。
同じ周波数で同時に呼べば ― 気がつくわ いくらジェットでも 」
「「「 了解 」」」
いい? せ〜〜〜 のっ !!!!
<現場> に居合わせたオトコ達は一丸となって!
脳波通信で赤毛の仲間を呼んだ。
即刻 帰宅せよっ! ・・・003 が。
≪ ○△◇※※※ 〜〜〜 !! ≫
全員に 意味不明な返信があり その後はぷつり、と途絶えた。
― 果たして 数分後。 のっぽの赤毛は這う這うの態で戻ってきた。
ばくばくばく。 ごくごくごく。
罰当番で 格納庫の掃除を済ませた後に
残っていたスコーンをコーク片手に手当たり次第 お腹につめこみつつ・・・
彼は しれ・・・っと報告をした。
「 ― ん〜〜〜ま〜〜〜〜 この辺り、飛んでみたぜ
な ふじヤマ みた〜〜〜 なんかおもしれ〜な〜〜
単独で ぼこっと山〜〜て 面白くね? 」
「 それは よかったこと。 」
「 ちまちまいろんなモンがあってよ〜 ドール・ハウスみて〜だな〜
なんでも細かいんだ こう・・・・なあ 」
「 そうですか 」
怒り心頭・003の木でハナを括ったみたいな返答に 彼は実に
屈託なくハナシを続ける。
本人より 周囲のモノが気を使いまくりなんとか話題を変え
雰囲気を変えようと焦っているのだが・・・
「 え ・・・ あ〜〜〜 そうだ 庭だ 庭!
ねえ ジェットはどんな庭が好きかなあ 」
なんとか話題を見つけ や〜〜っとジョーが不毛の? 会話に
割り込むことに成功した。
「 へ??? 庭ぁ?? なんでもいいけど 」
「 え あ あの あの〜〜 気に入ったのって ・・・ ある?
ほら こんな庭にしたいなあ とか あんな庭、理想だなあ とか。
ね ウチの庭、まだなんにもないだろ? 」
「 ん? ・・・ あ〜 池! 池 あってもいいんじゃね 」
「 池?? あ そ そうなんだ?? ふうん ・・・
池 ね・・・ ねえねえ フラン〜〜〜 その 造園家さんに
相談してみようよ〜〜 」
「 ・・・ 池?? ウチの庭に必要かしら。
すぐ側に 大海原があるけど・・・・ 」
「 あ〜 なんかね 日本庭園には池が必須なんだって。 ( たぶん ) 」
「 ふうん・・・ ま べつにいいけど 」
「 そんじゃさ〜〜 その がーでなー氏 に頼んでくれよぉ
そだな 〜〜〜 その中によ ナンか住んでると楽しいじゃんか 」
「 ― ナンか? 」
「 ほれ〜〜 魚とか なんかでっかい赤いヤツ いるだろ? 」
「 ・・・ 世話はジェットがしてよ? 」
「 あ 〜〜〜・・・ あ ジョー! お前に丸投げするワ。 」
「 え ・・・ まあ生き物の世話は好きだからいいけど ・・・ 」
「 な! あ そだ。 日本ってスワン、くっかな 」
「 スワン? あ〜 白鳥かあ もうちこっと北の方だと思うけど 」
「 え〜〜〜 そうなんだ?? ほんじゃ 鳥ってなんかくる? 」
「 この地域だと ・・・ なにかなあ あ カモ! カルガモとか。
あとは ツバメはよく来るよ〜 」
「 おいジョー。 いくら俺様でもツバメは池に巣を作ったりしないって
ちゃんと知ってるぜ 」
「 あ そ そんなつもりじゃなくて ・・・ 」
「 ま いい。 じゃ その カモってやつの < 世話 > たのんだぜ?
その代わり 掃除とか俺がやってやるから 」
「 ・・・ 自分のリクエストじゃないかあ〜〜 」
「 あ ああ? ナンか言ったかあ ??」
「 ― べつに ・・・ なにも。 」
「 そうかあ? んならよ〜〜 俺様の庭活動は 池の守備。
こ〜れは任せろ! 安心安全ってな〜〜 ジョー この国の
好きなコトバだろ〜 」
「 ― 安心安全って 庭の池の? 」
「 そ! 専守防衛 がモットーなんだろ? いいじゃん
」
「 ・・・ 掃除も まあ言ってみれば 防衛 だけど・・ 」
「 な! ま これで決まり 決まり〜〜っと。
あ〜〜〜 ほんじゃちょっくら ― 腹ごなし〜〜 」
ぽいっと口を拭ったティッシュを皿の上に投げ ― ドタドタドタ。
のっぽの赤毛はテラスに近づきサッシを開け 空を睨み身を乗り出し ―
「 ― じゃ 」
「 だめ。 」
ガシ。 細いけど強くしなやかな指がシャツの裾をしっかり握っている。
「 あ〜〜ん? 」
「 だめって言ってるでしょう?? 飛んじゃ だめよ。 」
「 俺 002だぜ? 飛ぶのが使命〜〜 」
「 ここでは だめ。 お出かけなら クルマかバスでどうぞ 」
「 ちぇ〜〜〜〜〜 地上をのたのた行けってのかよ 」
「 地上をのたのた行ってください。
ここは テキサスの牧場でもないし アラスカの荒野でもないのです。
ヒトは ― 飛びません。 」
「 ちぇ〜〜〜 あ だったら俺はヒトじゃなくて 」
「 あらそう。 それなら 晩ご飯は必要ないですね。 」
「 ・・・う〜〜〜〜 」
「 あ ねえ ジェット。 バイクでさあ この先の漁港まで行ってみよう。
午後の水揚げで 活きのいい魚、仕入れてこうようよ 」
ジョーが もう必死の形相で割り込んできた。
「 んん? ・・・ バイクか。 ああ アレならいいかもな〜〜 」
「 ね ね 行こうよ〜〜〜 気持ちいいよ〜〜 」
「 おい そんなに引っ張るなって〜〜 」
半ば 引きずる風にジョーは がっし! と ジェットのパーカーを掴み
― リビングから出て行った。
・・・ ああ よかった ・・・・
な なんとか 丸く収まった か・・・
オトコ達は そっと胸をなで降ろしていた。
今晩は ジョーの好物をリクエストしようよ?
僕も手伝う〜〜
ワテ 作ったるワ〜〜〜 唐揚げ! で決まりや!
野菜 採ってくる
ジョー、 トマト好きだ。
密かな会話 のつもりだったがうっかりオープン設定のままだったので
( 本人を含む )全員にダダ漏れだった・・・
けど。 どこからも文句はでませんでした とさ。
その日の晩御飯 ― 定時組のメニュウは ジョーへの感謝から、
彼の好物大盛りとなった。
「 あら その献立でいいの? 」
フランソワーズは少し不思議な顔をした。
「 フランソワーズはん。 ジョーはんの献身的な働きに
ごっつう〜〜感謝せなあきまへんで 」
「 献身的な働き?? 」
「 そや。 あのぶっ飛びモン のお守り、してくれはりましたで 」
「 ― あ ああ そうねえ 」
「 ほんなら コレでいきまっせ〜〜〜 」
「 了解。 深いお皿、だしておくわね 」
「 たのんまっせ〜〜〜 」
― 果たして。 晩ご飯の食卓でジョーは歓喜の声!をあげた。
「 え わああ〜〜〜 すっげ〜〜〜 」
「 うふふ・・・ ジョー お疲れさま 」
「 あは・・・ うっれし〜〜〜 さあ 食べようよ〜〜 」
「 そうね。 あなた達を待っていたの 」
「 そっか〜〜 ゴメン〜〜 もうちょっち早く帰ってくるつもり
だったんだけど ・・・ 」
彼はちら・・・っとソファでコークの瓶と転がっている姿に
視線を送った。
「 いいの いいの。 今日はね ジョーが主役。
― 起きなさい。 お食事です 」
フランソワーズは ソファに向かって生活指導教諭 みたく厳然と言い放った。
「 ・・・ あ〜〜〜 」
「 ジェットぉ〜〜 ご飯だよぉ〜〜 」
「 ジョー。 放っておきなさい 」
「 う うん ・・・
あ 今日はぼくが < 当番 > だよね〜 」
「 ええ お願い 」
「 うん! さ ジェットも座って。 いいかなあ?
<よい姿勢になりましょう 背筋を伸ばしてください> 」
「 へ〜い ・・・ 」
「 きちんとして。 < つくってくださった方に感謝しましょう >
< 手を合わせましょう。 いただきます > 」
「「 「 いただきます 」」」
皆で唱和し 賑やかに箸をとった。
― その晩御飯 ・・・ 大皿はあっと言う間に空となった。
大人の腕を揮った唐揚げ ジョーが大大好きなトマトとキュウリとゆで卵のサラダ
( マヨ・び〜〜む 満載 )そして やっぱり山盛りのフライド・ポテト ・・ は
ワカモノたちの胃に < 加速そ〜〜ち! > で収納されたのだった。
トポポポ −−−−
いい香の湯気とともに琥珀色の液体がジノリ・カップに落ちてゆく。
ウィスキー & ソーダ に 銘柄モノの日本酒。
そして ペールには氷が一杯。
チリリン ・・・ 時に氷が触れ合う音も聞こえる
夜になって グレート と アルベルト が帰ってきた。
二人とも 観劇の後の華やかな雰囲気を纏ったままだ。
夕食は済ませてきた、とのことなので 軽い夜食となった。
「 え・・っと? ああ アレがあるわね ・・・
あと レモン・スライスに そうだわ、梅酒の梅も! 」
フランソワーズは 銀盆をワゴンに乗せてもってきた。
「 ― お疲れ様〜〜 『 オセロ 』 は如何でした? 」
「 マドモアゼル。 いい舞台だったよ。
ああ 久々にじっくりと生のドラマを味わったな 」
「 ふん ・・・ ドラマもだが なかなかいい劇場だったな。
音響は今ひつと だが ・・・ 演劇にはよいだろう 」
「 ねえ 次はわたしも誘って! 」
「 畏まりました、姫君 〜〜〜 」
「 お願いします。 うんとオシャレするからエスコート
してくださあい 」
「 身に余る光栄です。 時に賑やかな夜食であるな ・・
お?? これは ・・・ カラスミではないか?? 」
「 そうなの。 コズミ先生がね くださったんだけど・・・
薄く切ってお酒のお供に・・・って。
ねえ これ・・・ たらこ? 」
「 まあ たらこの一種だがな 珍重されているのだよ。
おほ。 この日本酒で 頂けるとは〜〜 」
俳優氏は ボトルを持ち上げ相好を崩す。
「 どれ ・・・ ん ・・・ これは いいな 」
アルベルトも ガラスの猪口で冷酒を一口・・・
目を閉じ余韻を楽しんでいる。
「 ん〜〜〜〜 ああ 極楽 極楽〜〜〜 」
カタン。 博士がブランデーの瓶を手に降りてきた。
「 おかえり。 ワシも仲間にいれておくれ。
最近 いいのが手に入ってな ・・・ 」
「 おわ?? ― こりゃ凄い。 」
「 どんな風に < 凄い > の? 味? 香り? 」
フランソワーズは興味深々だ。
「 ふふふ ・・・ マドモアゼル? ほんのちょっと舐めてみるかね 」
「 え ・・・ 」
「 ふん オトナへの階段だ。 」
「 ・・ いい の? 」
「 お前さんらは ワインなら結構飲んでいただろうが 」
「 それは ― ワインは まあ 水みたいな感覚だったし 」
「 ま 体験編 さ。 ほら ・・・ 」
「 うふ・・・じゃあ ちょっとだけ・・・ ん〜〜〜 」
フランソワ―ズは 猪口に注いでもらったブランディに 恐る恐る
口を近づけた。
「 まず 香を楽しんでごらん 」
博士も笑顔でアドバイス。
「 はい ・・・ ふ〜〜〜〜 ん ・・・ あ いい香り〜
これ フルーツ?? お花かしら ・・・ 」
「 ふふん ― どうだ? 」
「 ・・・ ん ・・・ うわ・・・咽喉から奥に じわ〜〜〜っと
・・・ いい香が 熱い ・・・ 」
「 さ それが ブランディの第一歩 さ。 お嬢さん 」
「 ・・・ ふう〜〜ん ・・・ わたし 好き かも♪ 」
「 おやおや 同好の士の誕生とな?
ま ウチの中だけにしておき給えよ 」
「 はあい ・・・ あ〜〜〜 美味しかったわ♪
ふう〜〜ん ・・・・ 」
フランソワーズは 満足のため息を漏らす。
「 ん〜〜 あ そうだわ
ねえ グレートは ウチの庭、なにかリクエスト ありますか
植木屋さんと造園家さんにお願いするの。 」
「 はあん? 庭 とな。 ― そうさなあ ・・・
イングリッシュ・ガーデン には 薔薇が必須だな。 」
「 バラ? あ いいわねえ〜〜〜
ねえ ねえ テラスの脇にバラのアーチ、作りたいわ 」
「 よいねえ マドモアゼルは紅薔薇がお好みか? 」
「 う〜〜ん ・・・ あ 白薔薇がいいわ。 」
「 薔薇戦争 か? 英仏戦争はゴメンだぞ 」
独逸人が チャチャを入れる。
「 ふふふ あのね、白薔薇の君 がいいの♪
あ ねえ ねえ アルベルトにも 聞きたいのよ 」
彼は 冷酒をぐいぐい楽しんでいる。
辛口の銘酒が よほど舌に合ったとみえる。
「 庭?? 今のままでいいじゃないか 」
「 あら ・・・ だって今はただの荒地じゃない 」
「 ただの荒地、大いに結構 」
「 それじゃ趣がないわよぉ〜〜 ここは皆のウチなのよ?
なにかご希望は? 」
「 ・・・ それなら ジャガイモ畑を作る 」
「 畑は裏庭です! 温室も作っているわ 」
「 ふん ・・・ どうでもいいが。 岩でも置いたらどうだ 」
「 岩ぁ?? 」
パリジェンヌは 目を白黒・・・なんだって庭に岩を?? と
まったく理解ができない。
「 ああ。 こう〜〜 でかいのを どん、と。
安定感がある 」
「 え〜〜 岩を置く、なんてそんな庭って どこにあるの??? 」
「 あ ・・・ ほら 石灯籠とか どうかな?
日本庭園には よくあるんだ。 」
ジョーが 慌てて口を挟む。
彼は大人しく カラスミだの チーズだの スモーク・サーモンだの
・・・ 要するに 酒の肴 をせっせと口に運んでいたのだ。
「 いしどうろう ってなあに 」
「 あの ・・・ え〜と ・・ 石でできた街灯 ?
中にさ 火が点ってるんだ。 夜とかいいよぉ〜〜 」
「 へえ・・・ 見たこと、あるの ジョー 」
「 ― 時代劇で ・・・ 」
「 ニンジャとかがでてくるドラマ? 」
「 あ まあ そんなトコかな 」
「 今でもあるの? 」
「 ある・・・と思うよ。 あの植木屋さんに聞いてみれば。
とにかく ― 岩 だから。 」
「 ふうん ・・・ そういうのでいい? アルベルト。 」
「 ああ なかなか面白い庭になりそうだな 」
「 ウチに庭ですからね〜〜 皆が好きな部分があると
いいなあ〜って思うの ねえ ジョーのリクエストは・・・ 」
「 ぼく? 柿の木だよ 柿の木〜〜 」
「 あ そうだったわよね、 植木屋さんにお願いしておくわ 」
「 頼みまあす チビの頃さあ よく庭の柿の木に登って
叱られたんだ〜〜 へへ シブ柿だったんだけどね 」
ジョーは ちょっと遠くを見る目で 微笑んでいる。
「 そう ・・・・ 」
ふうん ・・・?
お父さんとの思い出かしら・・・
きっとジョーのお家って 広くて
お庭には大きな柿の木があったのね
― やっぱりお邸のお坊ちゃま だったんだ・・・
フランソワーズには 背の高い優しい目の茶髪パパ と
お料理上手、黒髪の美しいママ がしっかり見えてきている。
その二人の真ん中で チビのジョーが笑っているのだ。
そうよねえ ・・・
可愛いジョー君〜〜
・・・ シアワセな日々だったのよね
フランソワーズの妄想は ― どんどん膨らんで行く。
( ちなみに これが訂正?されるのは もう少し先のこと )
結局 築山の足元に小さな金魚池が 出現した。
その脇には 立派な石灯籠が鎮座まします。
「 なんだあ? あの水たまり〜〜 」
池が完成した時 赤毛のアメリカ人は 大いに不満顔だった。
「 え。 君が希望したヤツだよ? ほら 池 」
「 池ぇ?? あれがあ?? ジョークかあ?
ありゃ ただの水溜りじゃんか〜 」
「 池 だってば。 それに ほら・・・ 君のリクエストで
金魚、 泳いでるよ 」
「 あ はあん ・・・? 」
ジェットは その水溜りの縁に立ち、しげしげと中を覗きこむ。
「 ・・・ ちっけ〜〜〜のが泳いでるけど? 」
「 金魚だってば 」
「 これじゃよぉ〜〜 冬に スケート、できね〜じゃん 」
「 す スケートぉ?? 」
「 そ。 こう・・・さあ〜〜〜
だ〜〜〜〜〜っと氷が広がってて・・ ちょいミシミシいうけど
スニーカーでだって滑れるんだぜ〜〜 」
「 ・・・ 池で スケート ・・・ ! 」
「 NYの冬って きっびし〜〜〜だけどよ
公園の池が さ〜〜っと凍ってさ。 そこでスケートさあ
もう身体中 ぽっかぽかさ!
なあ なあ ジョー。 このちっけ〜水溜りじゃ、できね〜じゃん 」
「 NYって ・・・ 公園にでっかい池があるんだ・・・・ 」
ジョーは 信じがたい面持ちだ。
「 あったぼ〜よ〜〜 」
このアメリカ人にとって 池 とは セントラル・パークにあるみたいな
広大な池 のイメージしかなかったのだ・・・
― さて。 ギルモア邸の表庭は
テラスから建物に沿って花壇が広がり 庭への入口は薔薇のアーチ。
築山の手前までは芝生となり 近所の猫さん達がよく遊びにやってくる。
垣根にそって針葉樹が植えられているのだが どれもこれも
まだひよひよ・・・と頼りない。
門の脇には見事な松が枝を姿よく差し伸ばしているが
反対側には 夏ミカンの大木がわさわさとハバをきかせ
葉陰には今年の実がたくさん顔を覗かせている。
裏庭に 細っこい柿の樹が ひょろり〜と立っていた。
とにかく 和洋折衷というか かなり滅茶苦茶な庭ができあがった。
住人たちはそれぞれのリクエストが反映されていて
大いに満足 ― それぞれ受け持ちの世話に精を出している。
― 当家の庭を担当する 植木屋の棟梁と造園家氏は
こっそりアタマを抱え 溜息を吐いていた とか・・・
「 ま ウチらしくていいのじゃないかのう ・・・
皆が楽しんでくれれば それでいい 」
博士は 朝に夕にテラスの籐椅子からの〜んびり 庭を眺めるのだった。
************************** Fin.
************************
Last updated : 05.31.2022.
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************ ひと言 ***********
なんてことないハナシ ですけど。
こんな風に ギルモア邸が出来上がていたら いいな。
フランちゃんの 妄想 は もう少し続きます。
最初にイワンのハナシを聞いてなかったみたいだね・・・