『 ウチの庭 ― (1) ― 』
「 ・・・ わあ ・・・ かっわいい 〜〜 」
フランソワーズは その店の前でぴたり、と足が止まってしまった。
海岸通り といわれている古い道沿いに多くの店屋が軒を連ねている。
昭和そのもの・・・みたいな町並みで店々も昔ながらの個人商店が
ほとんどだ。 チェーン店 なんてここには来ないらしい。
どこの町角にもあるコンビニも なぜかこの通りには見当たらない。
所謂大型スーパーも この先かなり行った駅前にしかない。
従って 近隣の住民たちは ここの商店街を利用することになり・・・
通りを一往復すれば 生活に必要な買い物は ほぼ完了する。
「 あれ 元気かい 」
「 あは ご無沙汰してマス〜〜 」
「 ども〜〜 」
「 やあ・・・ 日曜に ね〜 」
行き交う人々 − 様々な年代の人々は気軽に声をかけあってゆく。
この地域は ヨコハマに近いので外来者に対し適度に寛容で
適度に無関心 ― それなりに暮らし易い場所なので
ワカモノも結構な数、住みついているし 眼の色、肌の色が
違う人々も地域に解けこみのんびりと暮らしている。
そんな地域の町外れに ガイジンさん一家 が越してきた。
地元民たちは やっぱりめちゃくちゃに好奇心もりもり・・・
さあ どうやって係り合いになろう??
誰もが 最初の一歩を どうやって踏み出そうか ― 気を揉んでいた。
「 うわあ・・・ このピンクのお花はなにかしら ・・・
黄色いのは 知ってるわ! スイセン よね ・・・
う〜〜ん 全部欲しいわあ〜〜 」
フランソワーズは もう店先で感動・感激しきり、である。
「 うん。 買って帰るわ。 テラスの前に花壇、作る!
・・・ 土 とか 肥料 いるわよねえ?
ココで売ってるかな ― すみませ〜〜〜〜ん 」
「 ・・・ は はい・・・」
奥からこの店 ( 植木業 兼 生花店 ) の女将さんが
おずおず・・・出てきた。
「 あ こんにちは! ここのお花、買って帰りたいんですけど。
あと ・・・ 花壇用の土壌と肥料、あります? 」
「 あ・・・ あのぅ〜〜 」
「 たくさん欲しいので ― 配達してくださるとうれしいのですけど〜 」
「 あ ・・・ あの 」
「 配達ダメなら 後からとりに来ます! 自転車で。
あのう こっちのピンクのお花、なんていう名前ですか? 」
「 ・・・ あのう ・・・ 」
「 ― はい? 」
「 ・・・ あのう 日本語 わかりますか? 」
「 はああ? あの ・・・ ずっと日本語でハナシてますけど・・・」
「 ・・・ あ ! そ そうですよねえ〜〜 やだあ〜〜 」
女将さんは あ・・・!っと 大きく口を開けて 目の前の金髪美人と見つめ合い
― 次の瞬間
きゃ〜〜 やだ〜〜〜 うふふふふ・・・
二人は一緒に 声を上げて弾けるみたいに笑い合った。
「 もう〜〜 や〜ですねえ・・・ ごめんなさいね〜 」
「 いいえぇ あのね 花壇づくり、したいんです。
いろいろ教えてください 」
「 はい! あのう・・・岬の家のお嬢さん ですよね? 」
「 はい。 先日、移ってきました。 どうぞよろしくお願いします。 」
「 こちらこそ〜〜 あらあらまあ・・・ ホントにおきれい ・・・
皆さん 日本語 お上手なのですね 」
「 ええ これからこちらで暮らしますから・・・
あ 今ね ウチをいろいろ改築したりしているので
知り合いとか来てますけど ― ずっと住むのは三人です 」
「 あら そうなんですか
あ お買いものは どうぞここの商店街でね〜〜 」
「 はい あのう いろいろ・・・ 食べ方とか教えていただけるかしら
野菜とかお魚とか ― 初めて見るもの、多くて 」
「 もっちろ〜〜ん どの店でもね 皆 おせっかい揃いですからね〜〜
こ〜〜んな美人さんに聞かれたら み〜んな喋りまくりますよ 」
「 うふふ ・・・ あ お花ですけど 」
「 ああ はいはい。 はい 園芸用の土も肥料もありますよ。
ウチはず〜〜っと植木屋ですからね 」
「 うえきやさん? ・・・ あ 庭作りのプロ? 」
「 そうですねえ 」
「 あ あの! ウチの庭、お願いできますか。
それに ・・・ ち 父も 盆栽に興味があって 」
「 あらあ〜 それなら 主人とアタシの父に行ってもらいますよ。
父は 植木屋としてはこの店の主なの。 主人は園芸が専門 」
「 そうなんですか お願いします!
ウチの庭 ・・・ まだ全然庭になってないんですけど
あの 父は樹を植えたり垣根、作りたいのですって・・・ 」
「 そりゃ ウチの父親が喜びますよ ウチは代々植木業で・・・
最近はねえ お庭を造るって方が減っていて ・・・ 」
「 よかった〜 是非 お願いします!
それでね わたしは花壇を作りたいの。
このピンクのお花と 黄色いのは スイセン ですよね?
これを植えて ・・・ 」
「 お庭、広いですか 」
「 はい。 あ でも ず〜〜っと荒地だったので ・・・ 」
「 ああそうですねえ 海に近いし ―
花壇にするなら 土壌を改良しないと ・・・
ウチの夫は 造園専門ですからね〜 相談してくださいな 」
「 わあ 嬉しい〜〜 頼りにしてます〜〜 」
「 お任せくださいね さっそく二人を伺わせます 」
「 きゃあ 楽しみです〜〜 あ 家の父にいろいろ・・・
教えてやってくださいね 」
「 はい 承りました♪ ま〜〜 ウチもお得意さんが増えて
嬉しいですわ 」
― こうして 専属の?植木屋さんと園芸家をゲットした☆
ポッポウ ポッポウ ポッポウ ・・・
リビングの壁で鳩時計が三回 鳴いた。
「 あら ― もう三時 ・・・ 博士、遅いわねえ・・・
下の煙草屋さんまでちょっと・・・って出掛けられたのは
お昼ご飯の後 よねえ 」
フランソワーズは 時計を見直してから立ち上がった。
「 ・・・ ちょっとお迎えに行ってこようかしら ・・・
― あら? ああ お帰りね 」
ガタン。 玄関のドアがゆっくり開いた。
「 ほい ただいま・・・ 戻ったよ。 ふう〜 」
博士の元気な声が聞こえてきた。
「 お帰りなさ〜〜い ・・・ あの どちらまで? 」
フランソワ―ズは玄関に飛んでいった。
「 ふう・・・ あ? いや 下の煙草屋までじゃよ。 」
「 え ・・・でも ・・・ ずっと煙草屋さんにいらしたのですか? 」
「 ああ あそこのご隠居殿に 師事してきた。 」
「 ― しじ ・・・? 」
「 そうじゃよ。 ワシのお師匠様だ。 」
「 ?? 煙草・・・のセンセイ ですか? 」
「 あ? いやいや・・・そうじゃないんだよ。
あの煙草屋のご隠居は囲碁の達人でなあ・・・
なんとコズミ君の碁敵だったのだよ〜〜〜
」
「 まあ コズミ先生の?? ああ 囲碁のお仲間なのですね 」
「 うむ。 まことに奥の深い世界じゃよ。
いやあ パイプに詰める葉煙草を探しに行ってなあ
ひょんなことから 煙草屋の窓口で店番をするご隠居さんと知り合っての。
彼がこの地域では一二を争う囲碁の達人 と伺ったんじゃよ 」
「 そうなんですか あ では お店で碁を楽しんでいらしたのですか 」
「 いやいや ・・・ ワシなどとても相手をして貰えんよ・・・
ひたすら御指南願ってきた。 」
「 あら じゃあ 囲碁教室 ですね 」
「 修業場 だな ― いやあ しかしなあ 身近に達人がいようとは・・・
これからもちょくちょく御指南を仰ぐことにしたよ 」
「 それは楽しみですねえ ああ お茶、淹れますから 」
「 ありがとうよ 手を洗ってくるか ・・・
そうじゃ! 忘れんうちに今日の師匠との一局を
しっかり記録、そしてこのアタマの叩きこんでおかねばのう! 」
博士は 元気な足取りでバス・ルームに消えた。
常に頭脳を活性化 ― 博士の元気の秘訣・・・かもしれない。
「 ふうん・・・? 囲碁の先生 ねえ ・・・
あら アルベルトも習いたい って言うかも。
なんだか素敵なコミュニティができそうね〜〜
さあ お茶にしましょ・・・ えっと スコーンと・・・
― そうだわ〜 ちょっとイチゴ 摘んでこようかしら。
ついでに ジェロニモ Jr と ピュンマも呼んで 」
パタパタパタ −−− 勝手口から裏庭に出ていった。
「 お〜〜い ジェロニモ〜〜〜 どこ〜〜〜? 」
裏庭は ― 混沌としていた。
まだまだ 荒地 の様相が強いが 洗濯モノ干し場 が出来上がり
その奥には 温室が立ち上がり始めている。
「 わあ〜 ずいぶん出来上がったわねえ・・・
ジェロニモさん♪ おじゃましまあす 」
ガタン ― 強化ガラスのドアを開けた。
「 ・・・ あ〜 温かい・・・ もうヒーターを通しているのかしら・・・
ジェロニモ〜〜 お茶にしましょう〜〜 」
フランソワーズは 畝が並ぶ奥へ声をかけた。
「 むう ・・・ 今 ゆく 」
「 はあい。 ・・・ ねえ どこにいるの 」
「 トマトの畝だ。 支柱、立てていた 」
ぬう・・・と 緑の間から褐色の巨躯が立ち上がった。
「 わあ トマトもあるのね! 楽しみ〜〜〜 」
「 これ。 お茶時間 か 晩飯のデザートだ。 」
ことん。 籐編みの籠に 小粒な苺が満載である。
「 え・・・ わあ〜〜〜 キレイねえ うわあ 甘い香り〜〜
ねえ もう収穫時期なの? 」
「 ここに来て すぐに植えた。 ここは温かい 」
「 あ もうここにヒーターを引いたの? ぽかぽかよねえ 」
「 いや。 これ 太陽の熱だけ。 天上に特殊フィルム 貼った。
イワンの作品だ 」
「 へえ ・・・ これはお日様の賜物なのね すご〜〜い〜〜
ねえ ねえ 後はなにを作るの? 」
「 野菜、あと 花。 大人が外の畑で露地栽培する、と言っている。」
「 まあ そうなの?? うわ〜〜〜 楽しみねえ 」
「 むう。 ここは ― よい土地だ 」
「 え ・・・ まだまだ荒れ地でしょう?
海からの風も強いし ・・・ 裏山は雑木林ばかり、だそうよ 」
「 自然のチカラ 満ちている。 どの土もしっかり生きている。
そのチカラ、少しだけ貸してもらえばよい。
我々が土地を豊かにすれば ― 自然への恩返しだ。 」
「 ・・・ ふうん ・・・ そうなんだ・・・
あ そうよ そうよ、 お茶タイム〜〜 って呼びにきたの。
ねえ ピュンマは? ここじゃないの 」
「 彼 地下格納庫だ 」
「 え。 また拡張してるの? 」
「 いや 整備したい、と言っていた。 呼ぶか? 」
「 ええ お願い。 好きなスコーン あるわよ〜〜って言えば
すぐに上がってくるわ。 」
「 ははは 了解。 」
「 じゃ このイチゴ、お預かりします〜 」
「 むう。 よい出来だ。 」
ふんふんふ〜〜〜〜〜ん♪ ご機嫌ちゃんな声が母屋に消えた。
カチャ カチャ コトン コトン パリパリ サクサク
「 あ〜〜〜 これ 美味しいね〜〜 」
「 ふふふ ピュンマ、スコーン好きねえ 」
「 え〜 だってさあ 甘味にしてもオカズ系にしても美味いじゃん?
あ ねえ レシピ、書いてくれるかなあ 」
「 了解〜〜 簡単よ、特別な道具とかも要らないし 」
「 そうなんだ? なにかコツとかある? 」
「 ない です。 だってね ― これ ジョーが作りました。 」
「 ― え。 」
ピュンマは一瞬 食べかけのスコーンを口元で止めた。
「 あ〜〜 『 え 』 ってなんだよぉ〜〜 ピュンマ〜〜 」
今まで ジョーは黙々と食べることに集中していたが
ふと ・・・ 顔を上げた。
「 いやあ ごめん ごめん〜〜 ジョーがお菓子作りするって
ちょっと意外だったからさあ 」
「 ふふふ あのね ピュンマ。 ジョーってご飯作りも
結構出来るのよ。 」
「 へえ〜〜 」
「 またァ〜〜 へえ〜〜ってなんだよぉ〜〜 」
「 ごめん! この国のワカモノはカップ麺とコンビニお握りで
生きてる・・・って聞いたから 」
「 え〜〜〜 なに、その 誤情報〜〜 あんまりだあ 」
「 ごめんって・・・でも ジョー・・・ 君 家事とかやるんだ?」
「 当たり前じゃん デキるオトコは料理が上手い って
知らないの〜〜 ピュンマ〜〜 」
「 へえ・・・ ニッポンの男子は キッチンになんか入らないって
きいたけど? え〜と なんだったっけか ・・・ そうそう!
男子 厨房に入らず ― ってさ 」
「 ちょっとぉ それ いつのハナシさ?? 更新して 更新!! 」
「 ・・・ スイマセン・・・ 」
「 ピュンマ。 ジョーってば家事 ホント上手よ?
キッチンの掃除なんてね〜 大人から 花マル貰ってるの 」
「 へ え ・・・ 僕 キッチンの掃除なんて・・・
やったことない ・・・ かも。 」
「 ぶっぶ〜〜〜! ダメだよ、ピュンマ。
キッチンの乱れは家庭の乱れ ― ひいては国の乱れ にも繋がるよ 」
「 ― ジョー。 今度はなんだかやたら前時代的なこと、
言ってない?? 」
「 あのさ この前 ネットでさあ 昭和のハナシ ってのがあって。
そこに出てたんだ〜 なんかカッコよくね? 」
「 ・・・ なんだい 受け売りか 」
「 あはは ま ね♪ でもさ ぼくのスコーン、美味いだろ? 」
「 あ それは認める! ・・・だから もう一個 いい? 」
「 ピュンマ〜〜〜 晩ご飯、入らなくなるわよ?
スコーンもいいけど その前に
ほら ねえ これ。 ウチの温室で採れたイチゴなの。
ジェロニモの丹精品よ 皆で頂きましょう 」
ガラスの器に 真紅の小粒 が山と盛られてきた。
わあ ・・・ 溜息にも似た歓声が上がった。
「 ウチの温室で? 」 「 すご〜〜〜 」 「 あっま♪♪ 」
「 ほう これは 香もよいな 」「 春の宝石だね〜〜 」
絶賛の声が 盛り上がった。
「 こら ええわなあ〜 お口にも春、やね 」
料理人も目を細めている。
「 さあて。 オヤツ、たんと頂きましたよって
ワテはちょいと畑仕事してきまっさ 」
「 はたけしごと? 」
「 ハイな〜〜 温室はジェロニモはんに任せるで、
ワテは露地モノの野菜畑、作りまっせ。
まずは にんにく やら 鷹の爪 植えるたるで 」
「 たかのつめ ってなあに 」
「 赤唐芥子 のこっちゃ。 ニンニクも鷹の爪も
あんまし害虫がけえへんのや。 まあ 畑のお護りやな 」
「 へえ・・・ 裏庭 賑やかになりそうね 」
「 まあ 追々整えて行けばよいよ ・・・
ああ 皆 庭に関しては自由に好きにやっておくれ。
まあなあ 真ん中にプールを作る・・・ は 勘弁してほしいがのう 」
博士が イチゴを摘みつつ笑っている。
「 はあい♪ あの わたし 花壇 担当したいです 」
「 あ いいね〜〜 なにを植えるの 」
ジョーがすぐに乗ってきてくれた。
「 あのね ピンクのプリムラ と 黄色の水仙。
これはね じつはもう予約してきちゃった。 」
「 へえ あ 下の商店街の花屋さん? 」
「 そ! 可愛いお花の苗がい〜〜っぱいあって ・・・
それでね お店の女将さんと仲良しになったの。
あのお店は うえきやさん なんですって。」
「 ― 植木屋さん? へ〜え ・・・ 今時 あるんだ? 」
「 あ 博士〜〜 お庭のこと、お願いしてきました。
店主さんは 植木屋さんで女将さんの夫さんは造園家 なのですって。 」
「 ほう〜〜 それはいいなあ ・・・
家の前庭は できれば和風にしたいのだが 」
「 え あら ・・・ では花壇はダメですか 」
「 いやいや それはお前さんの好きにしなさい。
ワシはなあ こう・・・ 門のところに形のよい松を植え
リビングから築山が見える ― そんな風景が欲しいのさ 」
「 それなら 花壇にはいろいろ・・・植えてもいいですよね? 」
「 勿論じゃよ。 盆栽についても詳しい人はおらんかなあ
コズミ君も まだまだ入門編だ と言っておったし 」
「 あ それでしたら 植木屋さんにお願いしてきました。 」
「 そうか そうか ・・・ ありがとうよ。
うむ うむ いいのう〜〜 ここも < 邸 > になってゆくな 」
「 そうですよねえ あ フラン〜〜 花の苗は? 注文したんだろ 」
「 ええ。 後から取りに行きます、っていってあるの。
自転車押して 」
「 車 出すって。 土とか肥料とか ― 嵩張るもの、買ってこようよ 」
「 ありがと ジョー ジョーはどんな庭がお好みなの 」
「 え ・・・ ぼく? う〜〜ん ・・・?
あんまり具体的な希望ってないんだけど ・・・・ 」
「 あら こんな感じ〜 とかでいいのよ 」
「 う〜〜ん ・・・ なんでもいいけど・・・
あ! 柿! 柿の木 ほしいな〜〜〜 登って 実、取るんだ〜
あと ・・・ ほら 門の側にハバ利かせてる木、あるだろ? 」
「 ? ああ なんかトゲがある木でしょう?
すごく元気で葉っぱ わさわわ・・・ でも トゲトゲ。 」
「 そ! あれさ たぶん 夏ミカンとかの柑橘類だと思うんだ。
いっぱい実、生るよ〜〜 あれ 切らないでほしいなあ 」
「 夏にとれるミカン なの? 」
「 あ〜〜 蜜柑とはちょっちちがって でっかいけどめちゃ酢っぱ。 」
「 え ― あんまり酸っぱいのは ちょっと・・・ 」
「 ぼくもさ。 けど マーマレードにするとめちゃウマ♪ 」
「 あらあ すごい! 手作りのマーマレード? 」
「 そ。 皮 刻んで 中身 絞って煮込むんだ。
砂糖はどば・・・っと入れるけど ほろ苦くてさ〜 極ウマ☆ 」
「 ジョー 作れるの 」
「 あ ぼくは毎年 手伝わされただけ なんだけど
庭にさ ふる〜〜い夏ミカンの木があってさ 」
「 あら いいわね〜〜〜 ねえ ねえ 今年も作りましょ? 」
「 ウン あの木は多分 たくさん実が生ると思うな〜
よ〜〜く見るとさ ツボミ、いっぱいだよ
マーマレード、山ほどできるさ! 」
「 きゃ〜〜 温室にはイチゴ、 畑で 鳩の爪
庭の木から マーマレード〜〜〜 ♪ 」
「 ・・・ タカの爪 だと思うけど・・・ 」
「 ああ そう? なんか素敵なお家になるわね〜〜 」
「 そうだ マーマレードのレシピ、探しておくね
砂糖の分量とか 覚えてないから ・・・ 」
ジョーは 早速検索している。
ふうん ・・・?
彼、 きっと お母さんの手伝いとか
やってたんだわね
優しいお母さんでさ お料理得意・・とか。
庭にオレンジの木 ・・・って。
広い庭のあるお屋敷の息子 ― かも?
そうよねえ そんなカンジ・・・
なんか おっとりしてるものねえ
フランソワーズは イチゴを口に運びつつ 彼の優しい横顔を
ぼ〜〜っと眺めていた。
「 なんか 皆 すごいなあ〜〜 」
ピュンマは パン屑を拾い集めつつ溜息だ。
彼は 屋敷の中やら地下格納庫の整備に掛かり切りで
< 庭造り計画 > に乗り損ねていた。
「 ピュンマの希望は なあに 」
「 え 僕? 」
「 そうよ。 ピュンマの好きな庭。 」
「 あ でも ほら ・・・ もういろいろ決まってるよね? 」
「 あら まだ希望を提出って段階よ?
それに 表も裏庭も広いから ― いろいろできるわ。 」
「 そう? そうなんだ・・・ それなら ・・・
う〜〜ん・・・ そうだなあ ・・・ 」
ピュンマは なにか手元のメモのくちゃくちゃ書き込んでいた。
「 ?? なあに? 」
「 え あ〜〜 見取り図 というか 設計図。 」
「 ? これが? この ・・・ 細長い三角は なあに?? 」
「 それ 樹のつもり! 」
「 樹?? 三角形の樹って ある? 」
「 あの。 針葉樹のつもりなんだけど ・・・ 」
「 しんようじゅ? ・・・ ああ クリスマス・ツリーね? 」
「 まあ あれも 樅の木も 針葉樹だけどさ ・・・
あは 僕 針葉樹って憧れなんだ。
ねえ こう〜〜〜 ずっと庭の周りに植えたら 森の中の洋館 って
感じになるよね?? 霧が流れたりして 浪漫だよね〜〜 」
ピュンマは意外なことに 浪漫チックがお好き らしい。
― これは少し先のハナシになるが ―
ほぼ 皆の希望を取り居れた 庭 が出来上がった頃。
パパパ −−−− 軽トラックが 力強く急坂を上ってきた
「 ? なあに?? あら ピュンマ? 」
「 お〜い フランソワーズ〜〜 門を開けてくれるかい 」
「 はい ただいま開けますよ〜〜 」
「 サンキュ ・・・ ちょっとだけ車 いれるね〜 」
「 おっけ〜〜 ぴっぴ〜〜 そのままバックしてくださ〜い 」
「 お〜らい ・・・ っと。 ここでいいかな〜 」
軽トラを止めると ピュンマは飛び降りてきて荷台を確認している。
「 ・・・ ああ 大丈夫だ ・・・ 」
「 ?? ねえ なにを運んできたの 」
「 うん? ほら ・・・ 」
「 え ・・・ 」
なんと 軽トラの荷台には針葉樹の小さな苗を満載してあったのだ。
「 すご〜〜い たくさん仕入れてきたのねえ 」
「 ね これ。 垣根のトコに植えるんだ。 ず〜〜っとね 」
「 まだチビちゃんの木なのね 」
「 ウン。 ああ いつか ― そう ずっとずっと先のことだけど。
僕らがこの地を去った後 ・・・
ああ きっと僕はもう地上を去っている頃
・・・ ここは 針葉樹の林になっている ・・・
背の高い樹々の間からは 朽ちかけた洋館が見え隠れする・・・
白い霧が ながれ ながれ ・・・ 森はひっそりと佇み
露を結ぶ下草を 踏み分けるものは いない 」
彼は 目を閉じて朗々と語るのだ。 きば〜っと輝くお日様の下で・・・
「 ピュンマ ― 大丈夫? なんかヘンなもの 食べた? 」
「 ・・・ グレートの生霊が乗り移ったの? 」
「 帽子、被っていたか? いくらお前でも熱中症は気をつけろ 」
仲間達は 真剣に心配顔だ。
「 ! え 皆 酷いなあ〜〜
ロマンだと思わない? ここは伝説の森 になるんだ うん。
そうだなあ ・・・ 朽ちかけた墓標があってもいいな ・・・
海を愛したオトコ ここに眠る とかね〜〜〜 ああ いいなあ 」
一瞬。 シラ 〜〜〜っとした風がリビングを拭き抜けた。
「 ・・・ あのさ。 ここは海辺だから 針葉樹の森 は
ちょっと無理 かもしれないよ ・・・? 」
「 そうよねえ ・・・ 白い霧 は 海風で飛んじゃうかも 」
「 立地条件からみて ― 森 はかなりキツいな。
そもそも針葉樹は潮風に耐えられるかは 疑問だ。 」
「 お主が好みそうな 韓ドラ、たくさんあるぞ
ああ 好みの墓標、あとで教えてくれ ・・・ 」
仲間たちは ちゃんと耳を傾けてくれたが ― 全員 口元が笑っている。
「 も〜〜 がっかりさせないでくれよぉ〜〜
浪漫だってば〜〜 ロマン!
フラン〜〜 少女漫画 とか読まないの? 」
「 ― 今どき そんな少女漫画 ・・・ ある? 」
「 う〜〜ん 古典的な少女漫画 がいいなあ・・・
瞳の中に星がきらきら〜〜してて。 画面に薔薇と星が
ちりばめられてるのが いいなあ 」
「 ピュンマって ・・・ そういう趣味だったの?? 」
「 今度な 『 昭和の少女漫画 』 って特集、買ってきてやるよ
中高年に人気なんだと 」
「 ― なんて言われようとも! 僕はロマンを追及するんだあ〜 」
― という一幕があった ・・・
その後 ピュンマの針葉樹達は垣根の側で 育とうかどうしようか思案中・・・
のように見えている。
― さて。( ハナシは元に戻りまして )
ちょっぴり酸っぱいけど抜群に香のよいイチゴで
お茶タイムは 和やか〜〜にお開きになっていった。
「 ところで ― ジェットは? なんか静かだな〜〜と思ったら
あの賑やかしがいないね ・・・
あれ グレートとアルベルトは まだ仕事かい? 」
「 グレートとアルベルトは 帝劇よ。
ちょうどねえ 『 オセロ 』 の初日なのよ 」
「 ??? ふうん 二人ともゲーマーだったんだ???
あ それとも競技大会でもあるの? 」
ジョーが へえ・・・という顔で聞いてきた。
「 ・・・ ?? 」
「 アルベルトはさ 囲碁とか強いから〜〜 オセロも強いよね きっと 」
「 ― ジョー。 二人が行ったのは シェイクスピアの戯曲・・・
『 オセロ 』 の舞台公演よ。 」
「 ぶたい ・・・? 」
「 へえ〜 よくチケット 手に入ったね〜 僕も行きたかったなあ 」
ピュンマが羨ましそうだ。
「 ほら グレートが。 劇団主宰者とは親しいでしょ
リハーサル中に挨拶に行って 招待席をもらってきたみたい 」
「 ・・・ さっすがあ〜〜〜 いいなあ〜〜
次は僕も頼んでみよう。 ねえ ジョー 一緒に行こうよ 」
「 ・・・ 演劇・・・って お芝居なの? 」
「 そうだよ。 シェイクスピアの三大悲劇の一つさ。
ヒトの嫉妬心と心の弱さ を描いた傑作なんだ 」
「 ― 暗いハナシはちょっとなあ ・・・ 」
「 ふう ・・・ ジョーは 鬼のハナシとかのアニメの方がいいか 」
「 あ! うん!! ねえねえ 今度一緒に行こうよ〜〜 」
「 ああ はいはい・・・ 」
ところで ― ジェットは??
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05.24.2022.
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********** 途中ですが
こんな風に 彼らが暮らしていたらいいなあ・・・・
そんな願いで書いています <m(__)m>