『 はないちもんめ ― (2) ― 』
となりのおばさん ちょっとおいで
おに がこわくていかれない
あのこがほしい このこがほしい
そうだんしよう
ジュワ −−−−−− ・・・・ カチャ カチャ ・・・・
「 ほい、アルベルトはん! そっちは大きな皿、並べといてェな〜 」
「 へいへい ・・・ あ ? 大人〜 大皿 ・・・ 一枚しかないが。 」
「 ふん! ほな ナンか工夫しなはれ! アンサン、首の上についてるモンは何ネ! 」
「 ・・・ はい ・・・ うわ ・・・おっかね〜 」
「 なんやて!? 」
「 い いえ ・・・ なんでアリマセン〜〜 」
「 ふん!!! ブリテンはん! あんさんはでけたんか? 」
「 あ・・・ ちょっと待ってくれ ・・・ 」
「 はよ! ・・・ う〜〜〜 ワテはな! イラチなんやでっ ! 」
「 へえへえ すんまへん ・・・・ って も〜〜 おっかね〜な 」
サイボーグ達がホテルに戻ってきてみると ロイヤル・スウィートに付属している
ほんの簡単なキッチン・スペースで 張大人は < 張々湖飯店 > を開業しはじめていた。
「 う〜〜〜 食材 まだアルか〜〜 」
バッターーン ・・・! ホテルの最高級室のドアが 乱暴に開いて 閉った。
「 うっほ〜〜〜い♪ お待ちかね〜〜〜 ドルフィンの倉庫から取ってきたぜ〜 」
「 あいや〜〜〜 まっとったでぇ〜 」
「 これでもよ〜〜 いろいろ考えたんだぜェ〜〜 」
ジェットは 防護服のポケットからジャガイモやら人参を、 そして
キュウリやらセロリをジャケットに下から ひょいひょいとりだした。
「 へえ〜〜〜??? ジェット、オヌシ・・・大道芸の手品師になれるぜ? 」
「 ほう〜〜 お前にしちゃ上出来だな。 」
「 るせ〜〜〜!!! 手ぶらで出て行って手ぶらで戻ってきました〜って見せなくちゃ
なんね〜んだからよ〜〜 これでもいろいろ工夫したんだぜ? 」
「 だから褒めてやったじゃないか。 ははは ヤクの運び屋だな〜〜
「 オッサン〜〜 」
「 ほうれ〜〜 アルベルトはん! アンサンのお仕事、来ましたで? 」
大人は < 密輸 > されてきたジャガイモを拾い集めてアルベルトに押し付けた。
「 皮むき、 たのんまっせ〜〜〜 」
「 ― は ・・・!? 」
「 ココはな〜 包丁の数も限られてますねん。 刃物もってはるのん、あんさんだけや。 」
「 ・・・ まあな、ジャガイモを他のヤツらにいじくらせる気はないからな。 」
「 ほな、はよ! お願いしますワ。 」
「 ふん ・・・ しっかしまあ ・・・ ここの形ばかりなキッチンでよく料理ができるな? 」
「 ほうほう〜〜 あんさん、忘れはってんか? ワテの火ィは天然ガスなんぞよりも
遥か〜〜〜に 上 やで。 」
「 ― だ な。 」
「 ただいま。 やあ 皆戻ってきたんだね。 」
ピュンマが いつもと変わらぬ笑顔で戻ってきた。
「 おう ピュンマ。 そっちはどうだったかな。 オヌシ、 < 水 > に潜ったのだろう? 」
「 グレート ・・・ うん。 湖 と称する水辺にちょっとお邪魔してきたよ。
うわ〜〜 なんだか美味しそうなモノが出来てるね〜〜 一口、いいかなあ? 」
「 ちょいと待ってくれ。 で ― どうだった? 水の中 は。 」
アルベルトが ジャガイモを剥きつつ訊いてきた。
「 ・・・ アルベルト ・・・手、 気をつけてくれよ?
うん それで水辺に潜ってみたけど。 < 絵に描いたような > 古びた池 だったよ。 」
よいしょ・・・っと彼はソファに腰を落ち着けた。
「 一応ね、 泳いでもお咎めはなし、ということだったんだ。 」
「 ほう ・・・ ? 市民池 というわけか。 釣り人もいたかね? 」
「 ・・・ いや。 浅瀬でじゃぶじゃぶやってる子供達はいたけど。 釣り糸を垂れるヒトは
いなかった。 皆 知っているみたいだったよ。 」
「 知っている? なにをかね、釣れないってことを、か? それとも ・・・
・・・ ほい、まあいっぱいお茶でも飲み給え。 」
「 うん。 ・・・ それがねえ あ ありがとう! 」
グレートが持ってきた紅茶を一口飲むと ピュンマは語りだした。
ピュンマは ぷらぷらと水辺ちかくまでやってきた。
「 なかなか風情のある池ですねえ・・・ 」
「 はい? ああ ・・・ 観光視察でいらした方ですか。 」
池の端でのんびり散策する老人に声をかけた。
「 はい。 僕は水質管理に関心がありましてね。 ここの池の水はきれいですねえ。
こんな池を僕の故郷にも作りたいなあ。 」
「 ええ 子供らが遊んでも大丈夫ですし、 まあ飲んでもオッケーということですよ。 」
「 なるほど ・・・ 中に入っても構わないのですか? 」
「 どうぞどうぞ。 まあ ・・・ まだちょいと水浴びには早い時期ですが・・・ 」
「 あは ・・・ そうですね。 これも仕事柄ですから。
この都市の整然とした運営ぶりをしっかりと視察して学んで帰りたいと思っているんです。 」
「 そうですか〜 ・・・ まあ < キレイ > ですから ね。 」
「 そうですねえ。 この街は本当にどこもかしこも 大変キレイだ。 」
「 ・・・ ハエとか蚊とか ・・・ そんな虫もいませんよ。 まあ ・・・ 夏にホンモノの蝉の声
が聞けないのはちょいと残念ですが。 」
「 ・・・ ハエも蚊も ・・・ 蝉も いないのですか? 」
「 ええ。 およそ害虫と呼ばれるモノは この都市にはいません。
お蔭で窓を開け放していても平気なので快適ですよ。 ゴキブリやらネズミなんかもいなくて
清潔で安心です。 」
「 ・・・ それは ・・・ いいですね。 あの〜 害虫以外の その 普通の虫 は
いるんですよねえ? 」
「 いいえ? ここの空気は全て自動濾過装置から流れてきています。
だから虫やらゴミやら ・・・ そうそう、アレルギーの元になる花粉も除去済、ですよ。 」
「 はあ ・・・ そうですか。 あのう ・・・ 水も同じなのですか? 」
「 ええ。 全て清潔で安全です。 ・・・ それじゃ・・・ 」
「 あ はい ・・・ いろいろ教えてくださってありがとうございました。 」
ピュンマは丁寧に礼をいい、 その老人は気さくに手を振って去っていった。
「 ― と いうわけさ。 」
「 へええ・・・ それで池は水 清くして 魚 住まず、ってことかい。
都市部の池なら そんなモンかもしれんな。 」
「 グレート。 このドーム都市って設立何年になるのさ?
いろいろ補修も何回かしてるだろ? だからまだ 古びた池 なんてありえないはずだよ。
それが ・・・ 藻は繁茂し、湖底の石はびっしりと苔が覆っていた。
潜ってみたら さあ ・・・ 朽ち果てた風情の杭まで打ってあったんだよ。 」
「 ・・・ それで < 絵に描いたような > か ・・・ 」
「 うん。 なんかね ・・・ 50年も経った古池っぽかった。
そんな風情なんだけど ― 魚は一匹もいない。 害虫だけじゃないんだ。 」
「 ― なんだって? 」
「 ああ 生物は全く見当たらないんだ。 魚が居なかったら微生物とかわんわん湧きそうな
もんなんだけど ・・・ 」
「 水の成分は? 簡易分析、したか。 」
「 勿論。 PH は ごくごく微弱なアルカリ性。 飲料に有害な要素はなかった ― まっさら さ。
そう ・・・ < ナントカの水 > ってペット・ボトルで売っているのと同じなんだ。 」
「 そりゃ あまりに ― 不自然だ。 」
「 当たり前ネ! 」
いつのまにか料理人が 憤怒の表情で立っていた。
「 大人 ・・・ 」
「 虫やらおらへん て? そんなん ダメあるネ!!
人間ちゅうもんはなあ〜 刺激、のうなったらいっぺんにヤワになりよるで。 」
「 ・・・あ 確かに ・・・ 適当量の埃は必要だよねえ ・・・ 」
「 だ な。 滅菌状態で育ったものは ほんの僅かな刺激でも自滅する。 」
「 うむ。 ・・・ この場所に精霊はいない。 自然はあるが精霊は いない。 」
ジェロニモがぼそり、と呟いた。 彼は部屋の隅で 黙々と野菜を切っていたのであるが。
「 空気も水も − つくられたモノ ばかり。 精霊は住めない。 」
・・・・・・。 部屋にいた全員が 言葉を飲み込み 手もとまってしまった。
「 あ それでね ・・・ 別に散策していた人に聞いたんだけど ・・・
天気は明日は雨。 晴れが二日続いたから、なんだって。 そう決まっているってさ。 」
「 ・・・ なんだと? 」
アルベルトのナイフが ぎらり、と光った。
「 天気までプログラムされているってことかね?! いかにドーム都市、とはいえ ・・・
それは大自然への ひいては 神への冒涜ではないかね。 」
グレートも憤懣やる方ナシ、の風情だ。
「 ドーム都市だ。 もともと 天候 は存在しない。 しかし 意図的に操作するとは な。 」
「 皆はん! はよ、帰りまひょ。 こんなんトコ、 居てたらオカシクなるで。 」
大人が 珍しく断固として主張する。
「 だ な。 ふん、老人と赤ん坊を留守番にしたのは大正解だったな。 」
「 むう・・・ ここは ― 不自然すぎる。 」
「 うむ。 ピュンマ、 万が一に備えて研究所とのダイレクト・コンタクトの準備を頼む。 」
「 了解〜〜って へへへ もう完了済み、さ。 」
「 お〜〜 さすが我らがIT戦士よ〜〜 」
― どさ。 大人が食材を皆の前に披露した。
「 今日の御飯は ドルフィン号で持ってきた食材で作るで。 ココのモノは使われへん。
ワテの御飯、食べて 帰ろ。 それが一番ええ。 さあさ ・・・ はよ、御飯にしまひょ! 」
「 お おう〜〜 」
彼らは 分担して調理の手伝いを始めた。
「 アイヤ〜〜〜 おおきに〜〜。 ほんなら ジェットはん? も一回ドルフィンに行て
お皿やらかっぷ、持ってきてくれへんか? 」
「 ― え 」
「 あ〜? アルベルトはん? ま〜だ剥けへんのんか? はよ はよ〜〜 」
「 ― クソ! 」
「 ピュンマはん! ちゃう ちゃう!! おコメさんは こうやってとぐんや! よう見とき! 」
「 え ・・・ だっさ、僕、 初めてで 」
「 誰かて最初は <はじめて> や。 よう見とき。 」
「 ・・・ ハイ。 」
「 グレートは〜〜ん!! インゲンのスジ、とれたか? タマネギのみじん切りは?
人参は花形に切れ目 入れてや。 ピーマンは細切りやで。 ええな! 」
「 ― 承って候 」
≪ ひえ〜〜〜〜 こえ〜〜〜〜〜〜 ≫
全員の脳波通信が 一致した。
― カチャ ・・・ ベッド・ルームのドアが静かに開いた。
「 ・・・あ ごめんなさい、皆。 わたしも手伝うわね。 」
「 お〜〜 フラン? なんだ お前、帰ってたのか〜〜 」
「 ええ。 えっと? ああ サラダを作ろうかしら。 」
「 おい ジョーは。 まだ外なのか。 」
「 え? いいえ。 散歩に出たけれど お昼前にもどって来たの。 」
「 ふうん? それでどこにも居なかったんだね、二人とも。 」
「 ええ。 ジョーが ・・・ 少し頭痛がしてだるいっていうから ・・・ 戻って来て休んでいたのよ。 」
「 頭痛〜〜〜 ?? だるい??? あっは! お前らぁ〜〜 励み過ぎだぜェ〜〜 」
「 ・・・おい ・・・ 」
「 へへへ ・・・ お前がヤツを寝かせなかったんじゃね〜のォ? 」
「 ジェット ッ !!!! 」
― ボスンッ ! クッションがへらへら笑っていた赤毛を直撃した。
「 ― ダワ!? ・・・って〜〜〜 ・・・ 」
「 ジョー、本当に具合が悪いのよ! からかわないでよっ 」
彼女はひと声抗議をすると 顔を背けて簡易キッチンに立った。
「 こっちの材料 ― サラダ用でしょう? 」
「 え ああ そうアルよ〜。 けど その前にちゃ〜んと説明してくれへんか?
ジョーはん、具合がわるい、てホンマかいな。 」
「 大人。 ええ そうなのよ。 」
「 フラン。 わかっているはずだが ― 」
アルベルトが真剣な調子で聞いた。
「 ええ。 わたし達の場合、< 具合がわるい > ってメカの不具合、よね。
特にその ・・・ ジョーなんかの場合は。 」
「 ああ そうだ。 お前自身は別として俺たちには いわゆる身体的な疾病はありえん。 」
「 そうなんだけど ・・・ 。 ジョー自身も面食らっているみたい。 」
「 その症状の原因は なにか思い当たることはないのかね。 いやこれは真面目な意味で
聞いておるのだぞ? 」
「 わかっているわ、 グレート。 多分 ・・・ これはわたしの推測だけれど。
睡眠不足 ・・・ いえ 熟睡できない、というより 魘されているのよ。 」
「 へええ??? ジョーが かい?? 本当に?? 」
「 本当よ、ピュンマ。 わたしが彼の寝言で目が覚めると 酷く魘されているの。
そして 起こすと ああ 夢か ・・・ って ぼんやり呟いて また眠ってしまうのだけれど 」
「 ― 夢魔は苛む、ってことか ・・・ 」
「 む ま ァ? なんだ、そりゃ? 」
< 運び屋 > と化した赤毛が口を挟む。
「 はん、お前さんにはわからんだろうが 悪夢の使い、 とでもいうべきかもなあ・・・ 」
「 フラン。 それはやっぱり人工能と補助能のバランスが適切じゃないからだと思うよ。
博士 ・・・ は 今回留守番だからね、早く帰国して 精密メンテを受けた方がいいよ。 」
「 そうよねえ ・・・ わたしもそう思うのだけれど ・・・ 」
「 ど ? ヤツはイヤだってのかい? 」
「 いえ ・・・ 自分で原因を究明したい、って。 だからしばらくココに滞在したいって。 」
「 え・・・・ このバケモノ都市に、 かい?? 」
「 そうなの。 ジョーもね、 その ・・・ サイボーグになってから < 魘される > なんて
初めてだから。 気にしているの。 」
「 ふん。 やっぱり な。 」
「 なんだい、アルベルト。 原因について思い当たるのかい。 」
「 いや。 しかし ― 今回の < ゴ招待 > の本意が見えてきたじゃないか。 」
「 本意? ・・・ あ ! な〜るほど ・・・ 」
「 左様 左様。 コチラさんも 穏やかじゃない、ということですな。 」
「 ??? わかんね〜〜〜 ナンなんだよ〜〜 」
皆が ふうん? と頷く中、 ジェットが一人喚いている。
「 なあ〜〜 わかんね〜〜ってば〜〜 」
「 アンサン ・・・ アタマの配線、こんぐらかっとんのとちゃいまっか 」
「 いや ― 数本、足りないのだろう。 」
「 わは ・・・ アルベルト 〜〜 相変わらずキツいなあ〜 」
「 おい〜〜 だから〜〜 ナンなんだってばあ〜〜 」
「 ― 敵意は消えていない、ということだ。 」
「 ・・・ そう なのかしら。 だって ・・・ 博士もスフィンクスももう存在しないのでしょう? 」
「 <入れ物> は ね。 」
「 いれもの? ピュンマ、 どういう意味? 」
「 だから さ。 エッカーマン博士 というヒトもスフィンクスというスーパーコンピューターも
その外観を成していたものは 消滅したさ。 博士は亡くなり スフィンクスはただの
平凡はコンピュータに戻った ってこと。 」
「 だから ― 」
「 だから。 いや だけど だよ。 はたしてその中身 ― 精神 や 心 は
どうなっているのか。 それは 誰にもわからないよ。 」
「 ・・・ それは そうだけど ・・・ 」
「 それよりもさ? ジョーは寝ているわけ? 」
「 え ええ ・・・ 食事もいらない、って。 」
「 ― そうか。 」
そうか ・・・ うん、とほぼ全員が頷いた。
あの時。暴走した <スフィンクス> に直接アクセスしたのは ジョーなのだ。
結果的には そのおかげでフランソワーズを救出することができたのだが ・・・
彼自身の情報を < 盗む > チャンスは十分にあった。
なにか が残りシコリとなったとしたら ― その標的となるのは彼が一番可能性が高い はずだ。
( お断り : 直アクセス云々 は 平ゼロ版ですが。 敢えて使わせてもらいます )
「 あ〜〜 ほんなら ・・・ 皆はん、 御飯でっせ〜〜〜 ほいほい ・・・
手ェの空いてるお方、 お皿、運んで欲しいワ 」
大人が賑やかに声を張り上げ 部屋の雰囲気を変えた。
「 ・・・ あ ああ ・・・ そうだな。 おらおら〜〜 皿、並べるぞ。 」
「 ほいきた、我輩が鍋をはこぶぞ。 」
「 さあさあ 皆はん〜〜 美味しいモン、たんとあがりはって元気つけてや〜
ほれ フランソワーズはんも! お腹 減ってる、いうのんは一番あかんで。 」
「 え ええ・・・ そう ね。 」
「 そうそう その笑顔さ、マドモアゼル。 それが アイツの勇気の元さ。 」
「 グレート・・・ 」
「 ジョーだけじゃないよ? 僕たち皆の勇気と元気のモト、なんだからさ。
フランソワーズ、君はいつでも笑顔でいてくれよ。 」
「 俺たちは闘うんだ ― 誰かの笑顔を護るために な。 」
「 ・・・ ん ・・・ 」
皆 ちょっとばかり黙り込んでしまった。
「 ほいほいほい〜〜 御飯時に辛気臭いのんはナシやで。
ほれほれ 座って・・・ あ! ジェットはん! 手ェ、洗うてな! ほんなら 皆で ・・・ 」
いただきます っ !
声を合わせると サイボーグ達は賑やかに食事を始めた。
「 た〜〜んと食べてや〜〜〜 どんな時でん、腹ペコなんはいっとうダメや。
寝が足りんのもあかん。 しっかり寝て た〜んと食べて腹を固めて ―
皆はん そんで安生 気張ってやぁ〜〜〜 」
「 ・・・ わあ〜〜 これ、美味いなあ〜〜 」
「 あら 本当! ねえ ピュンマ。 そっちのお皿の、取ってくださる。 」
「 うん いいよ。 ・・・ ほら〜〜 美味しいよ〜 」
「 うひゃあ〜〜 ウマ! ウマ〜〜〜 ! 」
「 フランソワーズはん! ジョーはんにはちゃ〜んと別にとってあるさかい ・・・
安心してた〜んとおあがり。 」
「 ええ ありがとう、 大人。 ・・・ 美味しいわあ〜〜 」
「 ふん ・・・ 食べすぎるぞ、これは。 」
「 たまにはよかろうよ、ご同輩。 」
彼らは笑いあい、喋りあい ― 心身ともに十分に < 充電 > していった。
― そして ジョーは といえば ・・・
一本道がずっと続いていた。 足元の感覚ではかなりでこぼこな道なのだが ・・・
目に映るかぎりは平坦に舗装されていた。 左右には延々とグリーン地帯続く。
ジョーはそこと歩いている ― ずっと ずっと歩き続けている。
その道がどこに彼を導くのか わからないのだけれど。
ふん ・・・ 何が出てくるかは お楽しみ、というわけか。
おいおい テーマ・パークのアトラクションじゃないんだからな〜
彼は幾分鼻白みつつも 油断なく左右に気を配り進んでゆく。
「 ねえ 待っていたのよ! 」
「 !? 」
突然 ぽん、と肩を叩かれた。
驚いて振り向くと ― 煌く髪の女性が立っていた。
「 ずっと待っていたの。 会えてうれしいわ。 」
「 ・・・ あ あの ・・・ ? 」
「 ね、私。 アナタが好きだったの。 だから ・・・だから援けたの。
あの時 ・・・ 私を助けてくれた時から虜になってしまったわ ・・・ 」
「 ここに いたのかい? 」
「 やめて って言ったのに。 弟と闘うなんて ・・・ やめてって ・・・ 」
「 ! しかし あれは 彼の方が 」
「 ずっと一緒にいたかったわ ・・・ ねえ 」
す・・・っと白い手が彼の腕に絡まる。
「 きみは ・・・ あの時、海に ・・・ 」
「 そうよ。 そして ずっと待っていたの ずっと ずっと 」
「 う ・・・わ ・・・ちょっと ・・・ 」
「 もう 離さない。 一緒に海の底に沈んで ・・・! 」
「 !? うわ ・・・ うわあ〜〜〜〜 !!! 」
いきなり足元が崩れ 抱きついてきた彼女と真っ逆さまに落下 ― ・・・!
「 うわああ〜〜〜 ・・・・!? 」
がば!っと跳ね起きれば そこは ― 豪奢なリネンの海、ベッドの上だ。
「 ・・・ あ ああ ・・・ 夢 か ・・・ 」
しとど冷や汗に濡れ ジョーはアタマを押さえた。
「 ・・・ ふ ん ・・・ よく調べたな。 そうさ ― 彼女は海に落ちていったよ ・・・
ぼくと彼女の弟との闘いを 止めるために ね ・・・ 」
ふうう ・・・・ やるせない吐息が ベッド・ルームに満ちてゆく。
「 ・・・ いっそ全く眠らせない、 というのなら楽なんだが ・・・ ああ ・・・
これは ・・・ 催眠効果 なの ・・・ か ・・・ 」
ジョーの身体は 大きく揺れると ― 再びベッドの上に突っ伏してしまった。
気が付けば あの一本道だった。
ひゅうひゅうと風が吹きぬけ 彼のマフラーが派手に後ろに靡いてゆく。
「 ・・・ 気候も変わるのか。 ご苦労さんなことだな ・・・ 」
・・・ また あの道 か ・・・? どれほど歩けばいいのか
いい加減にして くれ ・・・!
と。 突然、目の前に黒髪の女性が現れた。
「 !? 」
「 待っていたの ・・・ あの時からずっと ・・・ 」
濡れ濡れとした黒い瞳が しっかりと彼を捉える。
「 あの ・・・ ? 」
「 まあ 覚えていないの? ほら ・・・ こんな風の中で出会ったわ、私たち。
ずっと一緒にいてくれる ・・・って信じていたのに 」
結い上げていた黒髪が 一筋 二筋 風に乱れ弄られている。
「 ・・・ 君は ・・・ 」
「 淋しいの。 あの頃よりももっと もっと ・・・
だって アナタに出会ってしまったから。 せっかく会えたヒトが去ってしまったから ・・・ 」
「 君は ― あの 風の都にいた ・・・ 」
「 そう よ ・・・ ああ あなた。 お願い もう・・・ 一人にはしないで ・・・ 」
「 ・・・・・・・ 」
ひっそりと彼女は寄り添ってきた。 するり、と細い腕が絡んでくる。 豊かな胸が押しつけられる。
「 お願い ・・・ 一緒にきて ・・・ 悠久の時の彼方へ ・・・ 」
「 ダメだよ それは ・・・ それはできない。 」
「 どうして。 私 ・・・ 一人には耐えられない ・・・ あ! いけないッ !! 」
「 ?? なんだ?? 」
バシュ ・・・・!! 一条の光線が襲ってきて ― 彼女の身体が跳ねとんだ。
「 ぎゃ あ ・・・・ ぁ ・・・・・ 」
「 君 !? おい、しっかりするんだ! 」
ジョーが抱き起こしたのは 半壊したロボットの姿。
「 ・・・ まっていたのに ・・・ アナタは ・・・ 一緒に来てはくれない ・・・の ね ・・・ 」
「 おい!? ・・・ うわ〜〜〜〜 」
突風が全てを巻き上げ 彼の視界をも遮って吹きぬけてゆく。
「 うわあ 〜〜〜 ・・・・・・! 」
息苦しさに咽喉を掻き毟り ― 気が付けば そこは毛布の中。
「 ・・・ あ ・・・ああ ・・・・ また 夢 ・・・ 」
からからに乾いた口がひりひりと 心の中まで傷みを浸食させてゆく。
「 ・・・ 水 ・・・ 」
彼はふらふらと起き上がり 枕元の水差しから一杯の水を飲んだ。
「 ・・・ う ううう ・・・ そうさ 乾いていたよ ・・・ あの都は さ ・・・
置いていったのじゃない ・・・ 見捨てたのじゃない
・・・でも 一緒にはいられなかった ・・・ 」
コトン ― グラスを置くと 彼は再び睡魔に絡め捕られてゆく。
・・・ うん? ああ 今度は夜道か ・・・・
ふん ・・・芸が細かいなあ ・・・
大気がしっとりしていて ・・・ 気持ちいいや
やあ ・・・ キレイな月だ ・・・
気がつけば またしてもあの道を歩いている。
足元の感触は 先ほどと同じだが ― 周囲は暗く、どうやら夜らしい。
「 いろいろ用意してあります、ってことかい ・・・ 」
「 ねえ ・・・ 月がきれいだったわね ・・・ 」
「 ― え ?!? 」
いきなり隣から声が聞こえてきた。
ジョーの隣には ― いや なぜか彼は車に乗っていて助手席にはショートカットの女性が
ひっそりと座っていた。
「 ・・・ あ ・・・? 」
「 ごらん キレイな月だよ ― そんなこと、言ってくれたわね ・・・
月がとっても青いから ドライブに誘ったんだ・・って。 」
「 え ・・・あ き 君は ・・・! 」
「 私 最後まで信じていたのよ。 本当よ。
あんな絶望的は状況でも ・・・ 信じていたの。 」
「 ・・・ 信じて ・・・いた ・・・ ? ・・・なに を ・・? 」
ジョーは横を見ることができない。 しかし横に居る存在の気配は よく知っている。
長い時間、一緒にいた。 好意も ・・・ 感じていた。
「 あなた を。 そして ね ・・・ 」
ひそやかに彼女は寄りかかってきた。
「 ・・・・ あ ・・・ 」
「 信じていたの。 きっと きっと 009が助けにきてくれる・・・って。
ねえ どうして? ・・・ どうして 助けてくれなかったの。 」
「 助けて ・・・ ? 」
「 わかっていたのでしょう? アイツのやり方 ・・・ 私たちが撃たれるということ ・・・
私 ・・・ 最後の最後まで信じていたの ・・・ ゼロ ゼロ ・・・ナイン ・・・ 」
「 !? うわあ〜〜〜 し 死ぬなあ〜〜〜 !!! 」
「 ・・・ 信じてた ・・・ 助けに ・・・ きて くれる ・・・って ・・・ 」
「 助けるつもりだったよっ 助けたかったよっ だけど だけど ・・・
うわあ 〜〜〜〜 ・・・・・!
なにかの爆発に巻き込まれ ジョーの意識は吹っ飛んだ。
「 戯れ、じゃあないわ。 本当よ 一緒に逃げてくれれば
王位だって捨てたかもしれないのに ・・・ たった一度のダンスで お終いなの? 」
「 ・・・・ え ・・・・?? 」
気がつけば ― りゅうとしたタキシードに身を固め 女性の手を取っていた。
??? な なんだ なんだ〜〜〜 ???
・・・ うん ・・・? パーティ会場 ・・・ か
それもかなりアッパー・クラス ・・・ 正式のパーティー か?
「 踊ってください。 ・・・ あの笑顔は ウソ? 」
「 ・・・ き きみは ・・・ 」
「 ねえ あの楽しい時間は あの優しいエスコートは ― ウソだったの? 」
「 ・・・ そんなことは ない ・・・ でも 君は ・・・ 」
「 私 真剣でしたわ。 アナタさえ決心してくだされば 共に生きてゆけたのに 」
「 それは ・・・ 」
「 戯れの恋 じゃあなかったのに。 真剣だったのに。 ― ジョー ・・・
私がキライ? どうして相手をしてくださったの? 」
「 ・・・ キライなんかじゃない ・・・! 君は 聡明で美しくて ・・・ 君の生きる道を ・・・ 」
「 そんなこと、聞きたくなんかないの。 さようなら は ・・・ ダンスの後にして ・・・ 」
「 ・・・ 君 ・・・ 」
じっと見つめてくる瞳は どこまでも純粋で美しく、彼は視線を外すことができなかった。
ああ そうさ ・・・! キライなんかじゃない。
・・・ 好き っていう言葉は言えなかったけど ・・・
君のこと、 嫌うことなんかできない できなかったんだ!
― あ ・・・・? か 彼女は ・・・?
何時の間にか ダンスの相手は消え ― 彼は再びあの道に立っていた。
・・・ ふん ・・・ また か。
今度は どこだ? あまり見慣れない風景だな。
遺跡? いや ・・・ 地球のものじゃない・・・
! ああ ああ ・・・! ここ は ・・・!
「 なぜ。 わたくしを選ばなかったのですか。 なぜ。 」
「 ― う ・・・? 」
りん、とした声が 柱の向こうからジョーを呼び止めた。
「 わたくしの心からのお願いでした。 わたくしは真摯な気持ちで申し上げましたわ。
共に生きましょう、と。 」
「 ・・・ き キミは ・・・ 」
「 なぜ あの方の手をとられましたの? わたくしより前に知り合っていたから? 」
ふわり、とパープルの裳裾が風にゆれる。
ここは ― あの星 ・・・ 空はすでに茜色に染まっていて心地好い微風がながれている。
「 009。 貴方はわたくしが キライですか。 」
「 いや キライだなんて そんな ・・・ 」
「 では なぜ。 わたくしをあの魔の手から救ってくださった ・・・
わたくしを励ましてくださったではありませんか。 貴方のあの温もり ・・・ 私は
生涯忘れることはありませんわ。 」
「 ・・・ それは 貴女が立派な王女として ・・・ 」
「 009。 009 ・・・ 私の009 ・・・
アナタは愛している、と言ってくださったのに。
なぜ ― この手を取ってはくださいませんでしたの? あの方を選んだの? 」
「 やめてくれ ! 選んだとか 捨てたとか ・・・ そんなんじゃない!
そんなんじゃないんだ。 ぼくは ― ただ ただ 彼女を愛しているだけ ・・・ 」
「 ― きゃあ ・・・・!? 」
「 !?? 」
突然 彼女の身体が爆風に飛ばされ・・・ 激しく地に叩きつけられた。
「 ・・・ 愛 して ・・・ い ・・・ ま す ・・・ 」
「 おい! しっかり ・・・ ううう〜〜〜 なんだってまたこの風景を見なくちゃならない?? 」
「 好きだったのに ・・・ 優しい瞳の 機械人間さん・・・ 」
「 孤児院にいる頃からずっと ・・・ ずっと好きだった ・・・ だから あんな姿にされても
アタシ、 アンタを恨んだりはしないよ ・・・ 」
「 素適だったわ〜〜 音速のプリンス ・・・ あの想いはウソじゃなかったの。 」
四方八方から 見覚えのある影たちが近寄ってきて ― ふ・・・っと闇に消えゆく。
な なんだ ?? なんなんだ ??
ぼ ぼくは ・・・ 頭がオカシクなったの ・・・ か ・・?
「 ふ ふふふ ふふふ ・・・ 沢山の思い出をお見せしました。
楽しいでしょう? ― 辛いでしょう? 不愉快でしょう?
ふ ふふふ ふふふ ・・・ お前にはもう穏やかな眠りは訪れないんだよ ふふふ ふふふ
次は ・・・ 彼女を襲ってみようか な ・・・ 」
「 待てッ !!! 彼女に 手 を出すなッ 」
彼は闇の中に向かって飛び込んで行こうとした が。
ぽん ぽん ・・・ ぽん ・・・・
身体に優く そして 温かい ごく軽いショックが幾つか感じれた。
「 ・・・ う ・・・・ ううう ・・・? 」
「 ・・・ ジョー? ねえ 夢 なのよ。 ほら ・・・ 起きて? 」
優しい声 ― 聞き慣れた声が 彼を引き止めた。
「 ただの悪い夢 よ。 ほら 目を覚ませて? お日様の光が冷たい闇を
追い出してくれるわ。 」
「 ― ・・・ ふ フラン ・・・ ? 」
しとど冷や汗に濡れ ― 気がつけば 暮れ行く夕方の光が寝室の窓から眺められた。
ああ ・・・ そっか。 あの街に ・・・いたんだっけ
ジョーはぼんやりと目を開け 瀟洒なデザインの天井を眺めた。
・・・ ここ ・・・ そっか ・・・ ホテルの部屋 ・・・ だ
「 ・・・ ジョー ・・・ 大丈夫? 」
側には 彼がこの世で一番大切にしている女性 ( ひと ) が居た。
あ ・・・ ああ きみ が きみが いてくれる・・・
「 ・・・ よ ・・・ かった ・・・ 」
「 え なあに? 」
ジョーはベッドの上に ぐったりと身体を投げ出している。
フランソワーズが そっと汗を拭ってくれた。
「 ・・・ あり が と う ・・・ ふふ ・・・ 冷や汗 なんてぼくにはもう縁がない、って
思ってたよ。 」
「 ・・・ ジョー ・・・ 」
「 ふ ん ・・・よく調べた ・・・ な ・・・ アクセスした時、データを盗んでおいて ・・・
こうして心理的に攻撃するってわけか・・・ 」
ジョー・・・ほら ・・・と 彼女はグラスを差し出した。
「 冷たいお水よ ・・・ 少しレモンを絞っておいたわ。 」
「 ・・・ う ・・・ ん ・・・ 」
彼はグラスを受け取ってもまだ幾分 焦点のズレた瞳をし、ぼう・・・っとしていた。
そう ・・ まるで夢魔の霧の中を彷徨っているがごとくに。
「 ジョー 」
暁の 一筋の光が ― いや、 彼が一番よく知っている声が彼の名を呼ぶ。
「 わたし がいるわ。 だから安心して眠って。 」
「 ・・・ フランソワーズ ・・・ 」
彼女の手が そっと彼の頬に触れる。
彼女の唇が そっと彼の唇に触れる。
あ ・・・ ああ ・・・・ 縛めが 消えてゆく ・・・
ぎちぎちに縛られた心が 解放されてゆく
・・・ そうだ よ ・・・
あの時だって いつだって ― 救われたのは ぼく。
きみがいてくれるから
きみが微笑んでくれるから ぼくは。
ジョーは 今 ― はっきりと覚醒した。
「 ― そんなにぼくが憎いか。 そんなにぼくが邪魔か。
オマエの野望を阻止し オマエ自身のプログラムを消滅させた このぼくが。 」
「 ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 」
なぜか酷い雑音が ジョーの、いやサイボーグ達全員の補助脳の中に響き渡った。
「 ・・・ な なんだ!?? 」
「 うっせ〜〜〜ぞォ〜〜 !! ムカつく〜〜 」
ベッド・ルームの外でも仲間達が騒然としている。
「 ふん ・・・ どうにでもするがいいさ。 ぼくは何も恐れはしない。
ぼくは フランソワーズを誰よりも愛している。 」
― 突如 抑揚のない < 声 > が ジョー達の頭の中に響いてきた。
「 私は 故 ・ エッカーマン博士に作られました。
彼の遺志を尊重し、彼の希望を遂行することが 至上の任務なのです。 」
「 このドーム都市計画は 博士のプログラムによるのか。 」
「 そうです。 」
「 殺菌した空気に水に ― 遺伝子操作し、同じ大きさ・色・形の植物も? 」
「 それらは全てプログラムの一部です。 」
「 天候のプログラムも? 」
「 人間にとって一番快適な天候パターンに沿っています。 」
「 ふん。 ヒトの過去を穿り返して 悩ませるのも、 か。 」
「 仰る意味が理解できません。 」
・・・・ ・・・・・ ・・・・・・・・・・ 雑音が大きくなってゆく。
「 ― スフィンクス。 わたし達は いえ わたしは。 アナタの思い通りにはならないわ。
わたしは わたしの愛するヒトを 護るの! 」
「 ぼくの精神を弄くって気が済むのなら いくらでも玩べばいいよ。 」
「 ジョー ・・・! 」
ジョーは 寄りそう彼の恋人の手をしっかりと握った。
「 スフィンクス。 礼を言うべき かな。
沢山の夢をありがとう。 お蔭でぼくは自分自身の気持ちにじっくり向き合えたよ。 」
「 ・・・ ジョー ・・・・ 」
「 ぼくは。 このヒトがいる限り、崩れない。 このヒトのためならなんだってできる。
ぼくは この女性を フランソワーズ・アルヌール嬢を心から愛しているんだ。 」
「 わたしもよ。 わたしは島村ジョーというヒトを愛しているの。
それは ― スフィンクス、 アナタがなにをしようとどんな方法で邪魔しようと
ヒトの心を変えることはできないわ。 」
・・・・ ボン ・・・・!
ごく小さな音がして 一瞬、照明が落ちたがすぐにまた点いた。
「 ?? なにか起きたのですか。 」
ピュンマが ドーム都市の管理部に連絡を入れた。
「 ・・・ ただ今調査中ですが ― 大した問題ではない ・・・ はずです。
現在直接ドーム都市の運営には関与しない箇所で ちょっとしたショートが起きた模様です。 」
「 そうですか よかった。 なにかわかったら教えてもらえますか。 」
「 はい。 少々お待たせしてしまいますが・・・ 」
「 結構ですよ、ゆっくり慎重に調べてください。 」
「 はい。 では ― 」
「 大したことではない らしいよ。 」
ピュンマは外を眺めつつ電話を切った。
「 なにも ・・・ 変化はないし。 お〜い ジョー。 フランソワーズ・・・ ? 」
彼は軽くノックして ベッド・ルームのドアを開けた。
「 ?? あれ ジョー? どうしたんだい? 」
ジョーが頭を押さえて 屈みこんでいる。
「 ・・・ う ・・・ わ からな い ・・・ 一瞬 なにかスパークした ・・・ 」
理解 ・・・ 出来 ま せ ん ・・・ り か い ふ か
「 ・・・・・・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・ ・・・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
雑音は次第に間遠になってゆき やがてサイボーグ達の頭の中から消えた。
― グラリ ・・・ !
ジョーの身体が大きくゆれると どっと前のめりに倒れた。
「 !? ジョー?? 」
≪ 安心シタマエ。 空腹ト寝不足デ 爆睡シテイルダケサ ≫
≪ ・・・・ イワン 〜〜〜 !! ≫
皆の頭に スーパーベビーの声が届き 全員から歓喜のコールが巻き起こった。
ヴィ ・・・・ 豪華なホテルの、わざわざ古びて見える造りのドアが 開いた。
「 いってらっしゃいませ。 お散歩には申し分のないお天気ですが ・・・ 午後は雨になります。
お早めにお戻りください。 」
ドア・マンが 丁重に見送ってくれた。
「 え ええ・・・ 少し歩いて来ますわ。 」
「 ほう〜〜 中々の好天だな。 では <湖> とやらまで ・・・
マドモアゼル? ご一緒できますかな。 」
スキン・ヘッドの紳士が 慇懃に金髪乙女を誘った。
「 まあ 喜んで。 ミスター。 」
「 さ〜あ〜〜 今日もなんぞ美味いモン、めっけに行きまひょ! はよ〜〜 ! 」
「 ちぇ。 ど〜せ 荷物持ち、だろ〜〜 」
「 はんば〜が〜 たらもあるそうやで。 奢ったるワ。 」
「 いく〜〜〜♪ 」
「 水質の保存について検証したいんだ。 」
「 それなら周辺の森林も調べんとな。 」
「 むう ・・・ 森を歩こう。 」
三々五々 < 客人 > 達は散策出ていった。
「 ・・・ あ〜〜 お〜〜い 待ってくれよ〜〜〜 」
かなり遅れて 茶髪の青年があたふたと駆け出していった。
「 おや。 寝過ごされましたか? いってらっしゃいませ。 」
ドア・マンは にこやかに彼にお辞儀をした。
「 ・・・ ! 」
「 どうしたね、マドモアゼル。 」
「 花壇 ・・・ 全部花が変わっているわ。 」
「 うん? 昨日は確かヴァイオレットだったな。 」
「 ええ まだ盛りだったのに ・・・ 」
「 ― 大方、期日がきたから <更新した> のだろう。 」
「 ・・・ ひどい ・・・ 」
「 ここの <雑草> さ。 皆同じ丈だね。 」
「 ふん。 晴れ二日雨一日 ・・・とかの繰り返しなんだろ。 」
「 それにしても ・・・ ああ 雑草の種も遺伝子操作済み、かあ ・・・ 」
「 ― 聞こえない。 ここでは 自然の声 はまったく聞こえない。 」
「 ・・・ とっとと行くぞ! 」
別々に出かけたサイボーグ達は 街中でゆるゆると合流した。
「 出発しよう。 」
「 うん。 ごめん、 皆。 」
「 へん! あやまんなっ! おめえのせいじゃねえって! 」
にこやかにお喋りしつつ 彼らはゆっくりとエア・ポートに向かった。
荷物など 手にしていない。 このままドルフィン号に乗り込む予定だ。
「 ねえ ・・・ 見て。 木が揺れているでしょ。 」
フランソワーズが街路樹を見上げている。
「 え・・・ うん。 少し風があるね。 」
「 ええ 昨日、見ていて なにか変? と思ったけど ― 今 わかったわ。 」
「 ・・・ ?? 」
「 あのね。 あの木々 ・・・ 皆 同じリズムで揺れているのよ。 」
「 ― ! 」
「 げ。 キミ わりぃ〜〜〜 」
「 やはりここは コンピューター都市 なのか。 」
「 趣味にあわんな。 」
「 ・・・ ここに住むヒトたち ・・・ どうなってしまうのかしら。 」
「 だが ― それについて俺たちがどうこう嘴を挟む権利はない。 」
「 まあな。 有害物質が混入されているって訳じゃないんだし。 」
「 少なくとも僕は御免だね。 害虫がいても埃っぽっくても ― 外の世界がいいな! 」
「 そやそや〜〜〜 」
「 ゲームは お終い だ。 」
「 さあ! 帰ろう! ぼく達の 家 へ ! 」
数分後 ― ドーム都市から 空飛ぶイルカ が華麗に飛翔していった。
かってうれしい はないちもんめ まけてくやしい はないちもんめ
・・・ まけて くやしい はないちもんめ ・・・ ?
****************************** Fin.
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Last
updated : 04,23,2013.
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**************** ひと言 ****************
ゲーム・オーバー ・・・ってことで ・・・
原作の < あのラスト > はなかったコトにしました♪
平ゼロ版の < あの発言 > も ナシ です〜〜〜