『  はないちもんめ   ― (1) ―  』   

 

 

 

 

 

    

           あのこがほしい    あのこじゃわからん

 

                   このこがほしい    このこじゃわからん

 

                         そうだんしよう

 

                          そうしよう

 

 

 

 

 

今回の招きは 意外にも古風な形式を纏ってやってきた。

古風だが正式の堅苦しさは 招待主に案外適しているのかもしれない。

 

 

新緑の季節を間近に控え 崖っ淵に建つギルモア邸にはのんびりとした時間 ( とき ) が流れていた。

 

    サワサワ −−−− ・・・・   ザ −−−−−

 

レースのカーテンが大きく揺れて リビングに風が吹きぬける。

「 ―  ?  窓 開けたのかい。 」

ソファで新聞の陰から グレートが顔を覗かせた。

「 ええ。  あんまりいいお天気なんですもの。  ちょっと空気を換えましょうよ。 」

フランソワーズが 窓辺で外を眺めたまま応えた。

「 ほう ・・・ そういえば晴天が続くな。  今年は桜も早々に散ってしまったなあ。 」

「 ええ そうね。  もうちょっと花を楽しみたかったけど ・・・

 でも 見て。 その分、今年は稚い葉がもう方々で見えるのよ。 」

「 季節の巡りが早い、ということかね。  どれ ・・・ 」

彼は新聞を置き、 縁なし眼鏡を外した。

「 どれどれ ・・・ マドモアゼルに次の季節の御案内を請おうかな?  

 いやあ −  この国は ・・・というより この地域は季節先取りだなあ 」

「 そうねえ。  五月にもならないのに、こんなにいろいろな花が咲きはじめて・・・ステキねえ 

 ・・・ 本当にキレイ ・・・! 」

「 ああ   五月は 花の 花盛り、  だものなあ ・・・ 我らが故郷の欧州は 」

グレートは短い詩の一節を 口ずさむ。

「 向こうじゃ復活祭の後のこの時期は まだまだ冬の寒さが残っておるよなあ。 

「 そうねえ ・・・ はじめはびっくりしたけれど ―  ココは冬でも明るくて温かくて・・・

 わたし、このオウチが本当に好きよ。 」

「 はは〜〜ん ?  マドモアゼル〜〜 そりゃ アイツが居ればいつだって どこだって

 <明るくて温かい> んだろうが。  はいはい 御馳走さん♪ 」

「 え ・・・ や やだ ・・・ そ そんな意味じゃ・・・ 」

「 い〜や そんな意味 さ。  春だもの、恋せよ乙女〜〜ってとこだな。

 おお そういえばかの朴念仁クンは何処 ? 」

「 あ ・・・ ジョー?  取材よ、 なんとかいう大きなレース場に行ったの。 」

「  ・・・ ああ  富士の裾野サーキットか 鈴鹿か? 」

「 そうそう。 その ・・・ ベル何とかのほう。 」

「 ― ベル??? 」

「 ええ。  すず って ベルのことでしょう?  この国では  」

「 ・・・ あ ああ ああ そうだなあ。  確かに 鈴 は ベルのことだな ははは・・・ 」

「 でしょ?  ・・・ なんでそんなに笑うのよ。 」

「 いや その。 まあ いいさ。 ジョーはベルなんとか に取材に行ってるのか。 

 あそこは確か ・・・ 名古屋の先だが 日帰りはできるだろ。 」

「 ええ 最終の新幹線で帰る予定だって。 」

「 へえへえ よかったですナ。 どうぞ楽しい夜を ・・・ 」

「 !  も もう〜〜  グレートったら〜〜 からかってばかり〜〜 」

フランソワーズは拳を振り回して怒った顔をしたが  首の付け根まで真っ赤になっているので

< 真意 > は バレバレである。

「 お〜っとォ  殴らんでおくれ ・・・ 恋する乙女よ〜〜 」

「 ― 知らないッ 〜〜 ! 

 

    バンッ !!  玄関のドアが極めて乱暴に閉じた。

 

「 帰ったぜ〜〜〜 ! 」

赤毛のノッポが ガシガシとリビングに入ってきた。

「 ・・・ ジェット。 オヌシ もう少しなんとかならんのか。 」

グレートは新聞を取り上げつつ 渋面した。

「 へ???  なにが?   あ〜〜 これ 土産。  皆で食おうぜ〜  」

意外に丁寧な手つきで 彼は白い箱を手提げ袋から取り出した。

「 あら ・・・ ケーキ? 」

「 ん。  コイツ、 崩さんよ〜にって超〜〜〜 慎重に持ってきたんだ〜〜

 フラン〜〜  これ 頼ま。 ちゃ〜んと人数分 +! あるぜ〜  」

「 ありがとう〜 ジェット。 それじゃ早速お茶の時間にいただきましょう。

 あら?  アルベルトは?  一緒に出かけたでしょう? 

「 あ?   オッサンとは帰りは別行動!  あ〜〜 ちょっくら手ェ 洗ってくら。 」

  バン ・・・!  入ってきた時と同じに 旋風が渦巻いて ― 出ていった。

「 ・・・ もう ・・・ 」

「 ― ふん。  ありゃ ・・・ < 飛んで > きたな。 」

「 え!?  だって昼間よ? それにこの辺りはレーダー網がかなりキツいって聞いたわ。 」

「 その袋、 見てごらん。  博士が作ってくれた <対加速装置用> じゃないのか。 

「 ? あら ホント。  え  じゃあケーキの箱を入れて ― 加速して飛んできたの?? 」

「 ヤツならやりかねんだろ。 」

「 大丈夫かしら? 」

「 な〜に  レーダーに引っ掛かるような <初心者> じゃァあるまい。 」

「 ― 心配なのは ケーキの方よ! 」

「 あっは ・・・ そりゃそ〜だ 」

フランソワーズは そ〜〜〜っと箱を開け じ〜〜〜っと < 見て > いた。

 

   バタン。   ただいま。

 

極めて静かにドアが開き 極めて穏やかな声が聞こえた。

「 おう ・・・ 今一人の欧州人のご帰還だな。 」

「 あ  アルベルト?  よかった〜〜 美味しいコーヒーを淹れてもらおうっと♪ 」

「 ― 我輩は 」

「 はいはい、 わかっていてよ。 グレートと博士は紅茶。 」

「 ― 帰ったぞ。 」

ゆっくりとリビングのドアが開き 銀髪の独逸人が入ってきた。

「 お帰りなさい、アルベルト。 」

「 ― お帰り。 」

フランソワーズは 軽く彼の頬にキスをした。

「 おう フラン ・・・ 外はもう春も盛りだなあ。  季節の巡りが早いな 」

「 そうよねえ〜 やっぱりアルベルトもそう思う? 」

「 ああ。 」

「 ははは ・・・ やはり我らは同じ感性を持ち合わせているようだな。 EU御同胞。 」

「 まあ な。  おっと これ。 ポストが溢れそうだった。 」

  バサリ ―  彼は郵便物をごっそりテーブルの上に置いた。

「 ほうほう ・・・ どうせ大半が DM だろうが。  このテのヤツラはまだまだ残るなあ。

 ペーパーレスとは無縁の世界だ。 」

「 だ な。 まあ 一応目を通してくれ、フランソワーズ。 」

「 ええ いいわ。  ねえ〜〜 アルベルト?  コーヒー 淹れてくださらない? 」

「 ―  コーヒー?  ああ もうそんな時間か 」

彼は壁の柱時計にちらり、と目を向けた。

「 そう お茶タイムにしましょ。  ジェットが珍しくもケーキを買ってきたのよ。 」

フランソワーズは 先ほどまで <見て> いた箱を指した。

「 ― 大丈夫。 食べられるわ。 」

「 お前  < 見た > のか? 」

「 ええ。 だって ・・・ < 飛んで > もって帰ってきたみたいだったから。 」

「 < 見た > んだな? 」

「 ええ しっかりと。 」

「 よし、 じゃあ ― 食っても中らんな。 」

「  ― 多分。 」

「 なんだ〜〜 こりゃ?? 」

二人の会話は グレートの頓狂な声で中断された。

彼はアルベルトが取り込んできた郵便物をざっと選り分けていたのだ。

「 なあに?  郵便の中になにか ・・・?  あ〜〜 ジェットが一緒に毛虫でももってきた? 」

「 ・・・ いや。  こりゃ毛虫よりタチが悪いかもな ・・・ 」

「 ??  だって全部郵便でしょ?  あら この雑誌今月号、来たのね〜 ♪ 」

フランソワーズはグレートの側にきて 郵便の束をひっくり返しはじめた。

「 マドモアゼル、 ここは我輩に任せておきたまえよ。 」

「 あら  どうして?  これは請求書でしょ こっちは領収書 ・・・

 あ あとは ― 博士への学会からの雑誌ね。  え〜と・・?  あら なあに、これ。 」

彼女は見慣れない封筒を一枚 摘み上げた。

「 だから ソレが ― あの ・・・ ナニさ。 」

「 え?  意味がよくわからないわ。  宛名は ・・・Dr.ギルモア と 皆様。

 随分 上質な紙の封筒ね。 今時珍しいわ。  いったい誰からなの? 」

「 あ ・・・ やめた方が ・・・ 」

なおも制止するグレートを ちょっとばかり妙な思いで眺めつつフランソワーズは封筒を裏返した。

「 ・・・  エッカーマン記念財団  カール ・ エッカーマン  !?   え ・・・ ! 」

  バサリ。    アイボリー・ホワイトの封筒が 床に落ちた。

いや ―  なにか熱いモノかのように 放り投げられたのだ。

 

   一瞬  にぎわっていたリビングの空気が凍りついた。

 

ティータイムにのこのこ集まってきた仲間たちも 立ち尽くしている。

皆 彼女の声にはっとし、一様に落ちた封筒に視線を集めた。

「 ・・・ あ ご ごめんなさい ・・・ 」

フランソワーズは慌てて 取り落とした封筒に手を伸ばそうとした。

 

「  ― いいって。  フラン、 お前 触るんじゃねえって 」

「 ジェット ・・・ 」

丁度リビングに入ってきていたのっぽが ずい、と猿臂を伸ばし先回りした。

「 ちぇ んだよ〜〜  コレ。  はん? ・・・ヤツは死んだんじゃねえのか?

 死人からの手紙なんて 気味わりィ〜〜  んなモン、いらねぇよ! 」

彼は その封筒をまっ二つに裂こうとした。 その時 ―

リビングのドアが 静かに開いた。 

 

     「  やめろよ。  ぼくが 見るから。 」

 

「 ジョー ・・・・!! 

「 フラン。 ただ今〜〜  早めに帰ってきたんだ。 

 ねえ ・・・ ジェット、ぼくに任せてくれるかな。 」

ジョーはすたすたと入ってくると、ジェットの手から件の封筒を取り上げた。

「 い〜けどよ〜  へ! ただのイタメールさ! 」

「 多分ね。  うん? あ ・・・ れ  これ ・・・ 招待状かも 〜〜 」

「 しょうたいじょう??  なんだ ソレ? 」

「 だからねえ  イベントなんかへのウェルカム・レターよ。 」

「 ウェルカム? ソレがなんだってアイツの名前で来んだよ? 」

「 だからそれを知るためにも ともかく読もうよ。  あ  ハサミ、借りるよ。 」

ジョーは淡々を言うと ゆっくりと封を切りはじめた。

「 ・・・ふうん? 中身も随分りっぱな紙だね。  ・・・ うん? 」

「 ジョー ・・・ あの なんて? 」

「 ん〜〜   ああ こ、ホントに招待状だよ。  

 あの・・・ エッカーマン博士の遺した <未来都市> からだ。 」

「 ヤツは死んだんじゃね〜のかよ! 」

「 おい ちょっと黙ってろ。  ジョー  本当にヤツからなのか。 

 あの数年後  ・・・・ エッカーマン博士は亡くなった と聞いたぞ。 」

「 だから コレは息子の。 あのヒトが差出人になってるんだ。 」

「 え〜〜〜!? だってよ、ムスコはよ〜〜 」

全員が うんうん・・・と頷いている。

「 ・・・ ジョー。  あの ・・・ 読んでくださる? 」

フランソワーズが 静かに言った。

「 取り乱してごめんなさい。 」

「 いいよ、当然だもん。  ・・・ 皆 不愉快な思い出しかないからね。 

 あの ・・・ 本当に読んでもいいのかい。 」

「 ― ええ。   ここでなら ・・・ ジョーも 皆もいるから  心強いわ。 」

ジョーは 封筒から引きだしたカードを広げゆっくりと読み始めた。

それは  < 未来都市 > からの正式な招待状だった。

「 ・・・生まれ代わった街を 是非是非皆様に見に来ていただきたい。   だって。 」

「 へ!  だ〜れが行くかっての!!! 」

「 ・・・ う〜む ・・・ あまり愉快な場所ではなかったな。 」

「 ふん。  幽霊からの招待に応じる必要は ない。 」

「 へえ・・・? 記念財団とかそんなところからかな?  趣味悪いなあ〜 」

 

   「 ― 行こうよ。 」

 

ジョーのあっけらかん・・・とした発言に 皆が一瞬、固まった。

「 ・・・ おいおい〜〜 boy ・・・ あんまり質のよいジョークではないぞ? 」

「 ジョー〜〜〜  おま ・・・忘れたってのかよ〜〜

 お前 わ〜わ〜 泣いてよ、そんでもってカリカリ怒ってよ〜〜 」

「 なにか情報を得ているか? 」

「 ―  ジョー ・・・・ 」

「 行こうよ。 そして ― ぼくら自身の目でじっくりと観察してこようじゃないか。 」

「 ジョー 〜〜〜  マジっすかぁ?? 」

「 本気だよ。  < 生まれ代わり > とやらを見にゆこうよ。

 そして ― 本当にあの事件を終わりにしよう。 完結、そして封印だ。 」

「 ジョー ・・・ 」

「 しかし差出人は なんだってアイツの名を語っているのかな??

 だってあの時点でアイツはもう故人だったし。  メモリ・バンクに残っていたのは 

 記憶情報だけだったじゃないか。 」

ピュンマが封筒をひねくり回す。

「 ふむ ・・・ 単なる記念か それとも まだなにか特別な意図でもあるのか ・・・? 」

「 ― わかったわ。  ええ 皆で行きましょうよ。 」

「 本気か、マドモアゼル? 」

「 ええ 本気よ。  だって ・・・ ここでいろいろ憶測していてもどうにもならないでしょ?

 だったらいっそ ・・・ 自分達の目で確かめてきましょう。 」

「 うん ぼくもそう思うよ、フラン。 

二人は見つめ合いにっこり・・・笑みを交わす。

「 ・・・ は〜〜い はいはい よ〜〜〜〜くわかりましたヨ お二人サン♪ 」

「 へ〜へ〜  いっそハネムーン〜〜♪ ってのはどうだ?

 ヤツに底意があったとしても ・・・ だは〜〜〜〜・・・って諦めるぜ〜〜 」

「 ジェット。  君は全く短絡的なオトコだなあ。

 あのコンピューターが  いや あの街全体が 僕達に決してよい感情はもっていない、って

 よ〜〜くわかっているはずだよ? 」

「 ・・・ けどよ〜〜〜 ピュンマ〜〜〜  」

「 だからさ、 フランソワーズ。 特に君は行かないほうがいいよ。 今回ばかりは ね。

 あんな不愉快なことは思い出したくないだろう?  」

「 ピュンマ。 ありがとう。  でも やっぱり皆で行きましょうよ。 

 エッカーマン博士のお墓参り ・・・ って意味でもいいじゃない。 」

「 ふん ・・・ 墓参 か。   

 不愉快な場所だったが ― 俺たちが臆したと思われるのは尚更不愉快だ。 」

「 アルベルト ・・・ そう尖がらないでよ。 」

「 マドモアゼル?  少しお人よし過ぎないかね。  あれだけの目に遭っておきながら ・・・ 」

「 ― ぼくが  ぼくが護るから。 心配はいらない。 」

ジョーは相変わらず前髪で顔が半分隠れていたが きっぱりと宣言した。

「 ほ ・・・ まあ ほんなら ・・・ 行こか。 」

「 だ な。  真意を暴く ・・・ のも醍醐味〜♪ 」

「 よ〜〜〜 オレもオレも〜〜〜  面白そ〜じゃ〜ん〜〜〜 」

かかとを踏み潰したバッシュー ( バスケット・シューズ )を鳴らし赤毛が割り込む。

「 よし それじゃ。 全員で明朝 出発 ―  できるか? 」

 

  ―  パチン!     返答よりも前に 全員の脳内に火花が散った。

 

「  うわあ〜〜?? 」

「 〜〜〜 なにぃ〜〜〜 うわっ 」

「 ご  ごめん!  なんか気合いれたつもりが ・・・ ヒ ヒート・アップしちゃって・・・ 

ジョーがおろおろ皆に謝っている。

「 わかった。  お前の真意はよ〜くわかった。 が 冷静になれ。 」 

「 ・・・ は 〜 い ・・・  ごめん ・・・ 」

「 そんじゃ〜 前祝ってことで!  ともかくケーキ、食おうぜ! 」

「 は! お前は食うことしか頭にないのか! 」

「 ま〜 アルベルトはん、ええやん。  腹が減ってはイクサはでけへんよって。 

 さ 皆〜〜 オヤツやで〜〜 」

「 急いてはコトをし損じる、ともいうしな。 では しばし胃の腑の奴隷となろうではないか 諸君 」

「 うふふふ ・・・ アルベルト〜〜 コーヒー お願い。 」

「 はいはい ・・・ 姫君 」

やっとリビングは <いつもの> 雰囲気になりやがて良い香りが流れはじめた。

 

 

 

「 ねえ ・・・ あの。  本当に ・・・ いいの? 」

「 ―   ん ・・・? 」

ジョーは枕に顔を埋めたままだ。

「 ・・・ ねえ ・・・? 」

フランソワーズも気だるい声で訊ねるだけだ。

「 ・・・ 例のことかい 」

「 うん ・・・ 」

「 聞きたいのは ぼくの方 さ。  きみ ・・・ 本当にいいのかい。 」

「 ・・・ わたしは ・・・ いいわ。  ジョーが一緒なら。 」

「 はは ・・・ ぼくも同じさ、 きみが一緒なら ― 全然。  行こうよ。

 うん ・・・ 一種の <厄払い> かもな〜 」

「 ?? なあに  やくばらい って? 」

   ― ぱさり。   

ジョーはゆっくり身体の向きを変えると腕に掛かる亜麻色の髪を指で梳く。

「 ・・・ そうだなあ ・・・ イヤなコトが起きないように先に予防する、ってことかなあ・・・・

 ま ぼく的には逆かもなあ ・・・ 」

「 ?? どういうこと ? 」

「 だから ・・・さ。  イヤな記憶を消す っていうか ・・・ うん、 上書き保存 ・・・ってカンジ。 」

「 あ ・・・ それならわかるわ。   そうね ・・・ そうよ ね ・・・ 」

「 うん。  だから ― 行こうよ ・・・ 一緒に さ。 」

 す ・・・っとジョーの手が伸びてきて彼女の細い肩を引き寄せた。

「 ・・・あ ん ・・・  ちょ ・・・ まって ・・・ 」

「 いいじゃん・・・ これは < 前祝 >  ・・・ ふふふ ・・・  」

「 ・・・ あ  ・・・ きゃ ・・・ 」

ジョーは再び白く滑らかな身体に 溺れ始めた。

「 ・・・ や ・・・ そんなに強く ・・・ 」

「 ・・・  ふ ふふふ ・・・ 」

 ― やがて 白い肢体のそこここに 赤い花びらが散っていった。

 

 

 

 

  シュ −−−−− ・・・・・・・ ・・・・・  ・・・  ・・  ・ ・  ・   ・

 

ドルフィン号は 滑らかにドーム都市のポートに着陸した。

< fasten seat belt    > のサインが消える前に サイボーグ達はばらばらと前方に駆け寄ってきた。

「 あ〜〜 皆 〜〜 まだ だってば〜〜 」

「 ええやん ジョーはん。 ワテら はよ、見たいんや〜〜 」

「 左様 左様 ・・・  ふ〜〜ん・・・外見はさほど変わっておらんね。 」

「 ドーム都市 だからな。  耐久性はえらく永いと爺さんが自慢していたじゃないか。 」

「 ああ そうだったねえ ・・・  損壊したのは中身の一部だったっけ・・・

 ふうん ・・・ それにしてもすごい復興ぶりだね。 」

「 ・・・ むう ・・・ やはり好きにはなれない。 」

「 おらおらおらあ〜〜〜 完全着陸完了だぜ〜〜 おめ〜ら静止作業、しろよ〜〜 」

ジェットがサブ・パイロット席で喚いている。

「 は????  たまにはマトモなこと、言うんだなあ お前?

 あは ・・・ こりゃ  嵐が来ないといいが ・・・ 」

「 大丈夫だよ、アルベルト。  ここはドーム都市だからね。 」

「 はっは ・・・ 違いない。 」

珍しく真面目な声を上げたジェットに 彼らはクスクス笑いつつ持ち場にもどった。

 

≪ ・・・ フラン ? 

≪ ジョー。   なあに。 どうしたの、脳波通信なんかつかって ≫

≪ うん ・・・ 大丈夫かな って思って。 ≫

≪ ふふふ メルシ。 わたしは大丈夫よ。 ≫

≪ うん ・・・ よかった ≫

≪ ジョーは ≫

≪ きみがいるから。 ≫

≪ ・・・ ええ 

 

ジョーとフランソワーズは ちら・・・と笑みを交わしただけで黙々と自分の持ち場を点検した。

 

 

 

  ズ −−−−−−−  ン  ・・・・

 

大きな防護壁がゆっくりと開いた。  するするとデッキが伸びてきてドルフィン号に横付けする。

ジェットを先頭に サイボーグ達はゆっくりと移動デッキに降り立った。

 

「  ようこそいらっしゃいました〜〜 」

 

送迎の固定デッキまでくると 若い男性が大きく手を振っている。

「 ・・・ おい! アイツ 〜〜〜 」

「 へ?  ナンだ ありゃ〜〜 あの ・・・ 写真のヤツではないか!? 」

「 ふん ・・・ 大方アンドロイドだろうが。 悪趣味だな。 」

「 へえええ ・・・ 誰の趣味だろうね。 亡くなったヒトへの冒涜じゃないかなあ・・・ 」

「 ・・・ アンドロイド よ。 生身ではないわ。 」

フランソワーズが 低い声で、しかしはっきりと言い切った。

「 フラン。  ヤツに間違いないかい。 」

「 ええ。  わたしが幻影の中で <出会った> 姿と同じよ。 」

「 ふん。  注意して進め。 」

「 了解。 まあ ・・・ 公衆の面前だからな〜 少しは安全だろうが。 」

「 ― 油断は禁物だ。 」

彼らは 油断無く周囲に目を配りつつ進んでいった。

 

 そこは一般客も多く出入りしている <通常の> 送迎デッキだった。

「 ようこそ! お待ちしていました。 」

穏やかな笑みを浮かべ 青年が彼らを迎えた。

「 ― その節は大変失礼をいたしました。  心からお詫び申し上げます。

 カール ・ エッカーマンです。 」

クセのある少し長めの金髪、そして青い瞳の長身 ― そう、かつてここを訪れたとき、

故・エッカーマン博士が見せてくれた < 息子の遺影 > そっくりの容貌だった。

彼は さり気無く、そして親しげにサイボーグ達に手を差し出してきた。

「 ・・・・・・・ 

  ―  すぐには誰も応じない。

「 あ あの?  お出迎え、ありがとうございました。 」

堪りかねたのか フランソワーズがジョーの側から一歩前に出て挨拶を返した。

「 !  ・・・ ジョー。 お前の女房を護れ。 」

アルベルトが ずい、と一番前に出た。

「 アンタ ・・・ ハナっから無愛想ですまんが。  

 それなりの理由があるのはそっちの方が十分に承知していると思う。 」

「 これは どうも ・・・ 失礼しました。 ヘル・アルベルト。 」

「 ふん。 ここは公共の場だからな ・・・ どこか人目のない場所を借りたいが。 」

「 承知しました。  この隣が迎賓室になっていますので どうぞ。

 ああ 先に申し上げておきますが ― 妙な仕掛けはいっさいありませんのでご安心を。 」

カール青年はさして心証を害した風もなく、彼らを案内した。

 

  キ ・・・・    古風な木製を模したドアが開き ― これまた古風なインテリアの部屋が見えた。

「 どうぞ。 ああ まず私が入りますから。 」

彼は終始笑みを絶やさず、 ツカツカと部屋に入りソファの周りを歩き戻ってきた。

「 いかがですか、納得して頂けましたか。 」

「 ― いや 悪いがもう少し待ってもらおう。  フランソワーズ、どうだ? 

先頭に立っていたアルベルトは レーダー・アイを持つ仲間を振り返った。

「 ・・・ ごく普通の ・・・ いえ とても贅沢なお部屋よ。 家具調度もほんもの・・・  

 アンティークの逸品ばかりだわ。  壁の絵画も ・・・ 多分ホンモノね。 」

「 どれ ・・・  ほう〜〜  あのルーベンスは ― おそらく億単位だな。 本物なら、だが。 」

グレートも一緒になって家具類に品定めをしている。

「 ふん。  まあいい。  アンタの言うことを信じよう。 

「 ありがとうございます。  では 改めて ・・・ ようこそ わが未来都市へ。 」

カール青年は 全員にむかって丁寧に会釈をした。

「 ―  あの! 」

ジョーが 初めて口を開いた。  今まで彼はフランソワーズの後ろにぴたり、と付いていたのだ。

「 はい?  ミスタ・島村? 」

「 あ ・・・ あの。  失礼なのは重々承知ですが ― アナタは 何方ですか。 」

「 私ですか。 私は カール・エッカーマン です。 」

「 ぼく達は  いや ぼくは。 真実を知らせてもらえなければこの都市に入る気はありません。

 故・エッカーマン博士のご子息、 カール・エッカーマン氏は病没なさった、と聞きました。 」

「 まことにそれは正しい認識です。 確かに カール・エッカーマンは死亡しました。

 そして ・・・ その死を悼むあまり 父親のエッカーマン博士は息子の記憶の一部を

 スフィンクス ― 例の万能コンピューターのメモリー・コアにインプットしたのです。 」

「 ・・・・ ! 

するどく息を呑む音がして ―  ジョーはフランソワーズの手をしっかりと握り締めた。

 

     大丈夫。 ぼくが そして皆がいる。

 

     ・・・ええ ええ 大丈夫よ ・・・・

 

「 そしてスフィンクスは とんでもない行動に出て ― 皆様に失礼な所業をしました。

 エッカーマン博士は  <息子> の所業を深く恥じ、スフィンクスを完全に

 普通のコンピューターにレベル・ダウンしました。

 そして  ― ワタシを作ったのです。 」

「 ・・・ 作った?? じゃ ・・・ アンタはアンドロイド ・・・? 」

「 そうです。  故・カール・エッカーマンを模したアンドロイドです。 」

カール青年は  いや、 彼の姿をしたアンドロイドは実に優雅にお辞儀をした。

 

 

 

 

  ヴィ −−−−− ・・・・・・

 

オープン・バスは 滑らかに高速道路を走ってゆく。

「 さて ここから市街地に入ります。 この都市については皆様 良くご存知と思いますので

 詳しいは控えさせていただきます。  」

カール青年は淡々とした調子で述べると一礼し 一番前の隅に座った。

サイボーグ達は リラックスした表情で左右に流れてゆく風景を眺めている。

「 ふうん ・・・ 相変わらずバリバリの <未来都市> だね。 」

「 ふん。  どこもかしこも機械仕掛けだらけだ。 」

「 ・・・ お? それでも なんか ・・・ 緑が増えたと思わんかね?  ほれ 街路樹があるぞ?

 ああ 花壇も続いている・・・・ 以前の都市にはなかったと思うが・・・ 」

「 まあ ・・・ キレイ。  ここはずっとスミレが植わっているわ。 可愛い〜〜 」

彼らは次第に和やかになってゆき、 都市の景観を楽しみ始めた。

 

    キ ・・・・。   オープン ・ バス が瀟洒な建物の前で止まった。

 

「 こちらが皆様をお迎えするホテルであります。 どうぞ ・・・ 」

カールは先に下りて 彼らを案内した。

< ホテル > は これも一見古めかしい作りだが ― 恐らくハイテク・管理の塊なのだろう。

なんと出入り口には これまた古風な服装のドア・マン がいて彼らを丁重に迎えた。

「 ― マダム ・・・ 」

彼はフランソワーズにはことさら丁寧にお辞儀をし 彼女が通りすぎるまでしっかりとドアを

押さえていた。

「 まあ ・・・ ありがとう。   ね ジョー、このドア ・・・ 自動じゃないのね? 」

「 そうだね。  ふうん ・・・ 内部は普通の現代的なホテルだね。 」

「 そうねえ ・・・ うわあ ・・・ カーペット、ふかふかよ? すごい ・・・ 

 ねえ これ ・・・ ペルシア絨毯じゃない ? 」

「 マドモアゼル、 さすが だな。  これはかなり高級はペルシア絨毯だ ・・・

 ふん ・・・ このロビーに飾ってある絵画はおそらく全て本物なんだろうな。 」

グレートもさり気なく観察している。

「 ふん。  要するに金をかけてます、ってことか。 」

「 だ ね。  コンピュータ ・ ガチガチのハイテク都市 から ちょいとカモフラージュしましたって

 カンジだね。 」

ピュンマもすぐに新しい都市の狙いを見抜いているようだ。

 

「 皆様。  ではお部屋に御案内いたします。 キィ をどうぞ。 」

フロントと思しきカウンターの前で カール青年が彼らに部屋のキィを配り始めた。

「 へえ ・・・ チェック・イン はなしかね? 」

「 皆様はご招待客様。 そのような失礼なことはいたしません。 

 どうぞご自由にお寛ぎください。   ああ ご夫妻はこちら ・・・ロイヤル・スウィートへどうぞ。 」

「 ・・・ え ? 」

ジョーとフランソワーズは 思わず顔を見合わせ ― みるみるうちに赤面している。

「 ?? ・・・ そう伺っていますが? 」

「 あ ・・・ は はい ・・・ どうも。 」

ジョーは一瞬躊躇ったが 平静な様子でキィを受け取った。

 

≪ ヘ 〜〜〜〜 イ ♪♪♪  ハッピ〜〜 はねむ〜〜〜ん〜〜〜♪♪♪ ≫

≪ 新婚さ〜〜ん おめでとう!!! ≫

≪ ひゃひゃひゃ ・・・ 祝〜〜 御結婚アル 〜〜〜 ≫

≪ 年貢の納め時、だ。 boy 〜〜〜  ≫

≪ うむ。 めでたい。 ≫

≪ やっと落ち着くな。 ≫

 

どどどど ・・・・っと脳波通信で祝辞 ・・・というか冷やかしというか。 仲間たちからの声が

二人に押し寄せた。

≪ うわあ〜〜  ねえ 皆〜〜〜 ボリューム下げてよ〜〜 ≫

≪ ・・・ きゃ ・・・ うふふ ・・・ 嬉しいわ ありがとう〜〜 ≫

またまた真っ赤になりつつも ジョーとフランソワーズはしっかりと手を繋ぎ微笑む。

 

≪ ま。 どうぞ〜〜〜 ごゆっくり〜〜〜 ≫

 

全員からの通信に送られ 二人はロイヤル・スウィートに落ち着いた。

 

 

 

 ―  キ ・・・  

「 ・・・ ああ さっぱりした〜〜  長時間の移動って久々だったからなあ・・・ 」

ジョーは バスタオルでガシガシ髪を拭いつつ、 バス・ルームから出てきた。

「 ふふふ ・・・ 汗を流してすっきりしたでしょう? 」

「 ああ。  ふぁ〜〜〜 ・・・ なんだかの〜んびりした気分〜〜〜 」

彼はソファにどっかり腰を落ち着けると ひょい、とフランソワーズの肩を引く。

「 あ  ん ・・・ なあに? 」

「 ・・・ 皆もああいってくれたし。  ハネムーンってことで  いいよね? 」

「 ・・・ もう〜〜   今は イヤよ。  それよりねえ 散歩に出ましょうよ。 」

「 ぼくとしては きみと二人だけの世界に引き篭りたいんだけど〜〜〜 」

「 それは夜だっていいでしょ?  ねえ せっかく来たんだし ・・・ 外に出ましょうよ。 」

「 ・・・ え〜 ・・・ だって例の機械だらけの街だぜ? 」

ジョーはどうも二人きりでいちゃいちゃしていたいらしい。

「 ちょっとね、違っている風に見えたの。  ホテルまでの道だって花壇や街路樹が

 ずいぶん沢山みられたわ。  ビルの間には小さな緑地もあったし。  」

「 そうだったかなあ 〜〜  ぼくにはこの花が世界で一番! と思うのですが〜〜 」

  チュ・・・!  彼は音たかく彼女の項に 赤い痕を残す。

「 きゃ ・・・ もう〜〜〜  イヂワル!  だめよ〜 ドレスがシワになっちゃう・・・ 」

「 ・・・ じゃあ 脱げばいいよ ・・・ ね? 

  ぺち!   忍び込んできた手を彼女は冷淡に叩く。

「 こ〜ら。 ダメよ。 ねえ お散歩〜〜 街にでましょうよ! 」

フランソワーズは巧みに彼の腕から逃げると、 ソファから立ち上がった。

「 わたし、用意はできてます。  5分 待つわ〜〜 それ以上掛かるなら別行動よ? 」

「 ― ! わかったよ〜〜  こんなトコできみを一人になんかできるか!  ふん! 」

ばっと立ち上がると ジョーは大股でクローゼットに飛び込んだ。

「 ・・・ ふふふ ・・・ 単純だけど・・・ま、そこがジョーらしい のかな? 」

フランソワーズは上機嫌で 新しい春服を鏡に映していた。

 

 

ホテルの外は広い舗道が続いていた。

  カツ カツ カツ ・・・  コッ コッ コッ ・・・・

三々五々 人々がのんびりと歩いている。

「 う〜〜〜ん ・・・・ ドーム都市、というけれど いい気持ちねえ 〜〜 」

「 そうだねえ   以前とは随分雰囲気がちがうよね。 」

「 やっぱり ほら、街路樹とか花壇とか ・・・ 緑を増やしたからじゃない? 」

「 かも  な。 」

「 そうよ〜 ・・・ あら 風もちゃんと吹くのね・・・ ほら・・ 」

フランソワーズは脚をとめ 舗道際に並ぶ木々を見上げた。

 

   サワ ・・・ サワ サワ −−− ・・・・・

 

かなり背の高い広葉樹が まだ若い葉を揺らしている。

「 うん ここも今は春なのかな。 」

「 そう みたいね。   ・・・・ あら ・・・? 」

「 うん? どうかしたかい。 」

「 ・・・ いえ ・・・ 多分 気のせいだと思うわ。  ― 考えすぎよ。 」

「 ?? 」

フランソワーズはしばらく揺れる木々を凝視していたが  やがてふっと目を逸らせた。

「 ごめんなさい。  ちょっと神経質になり過ぎみたい・・・ 」

「 なにか ・・・ 気になるのかい。  この木 ・・・? 」

ジョーもとなりで見上げてみたが  ― どう見てもごく普通の、< 本当の木 > だ。

「 いえ ・・・忘れて、ジョー。  気にしないでね。  ねえ 街中に出ましょうよ。

 カフェとかあったら入りたいわ。 」

「 はいはい ぼくのお姫さま♪  じゃ ゆこうか〜〜 

珍しくも ジョーは こそ・・・っと手を差し伸べてくれた。

「 うん♪♪ 」

二人は ぴったり寄り添って。 腕を互いの身体に絡めつつ歩いて行った。

 

 

 

「 ほう 〜〜〜  なかなか美しいではないか。 街中の様子は変わったものだなあ〜 」

「 ふん ・・・ 道路を削ってグリーン地帯にし、ビルの一部を公園に換えれば

 見た目は一変するだろうよ。 」

「 ま そりゃそうだが。 アルベルト、お前 たまには素直に感心したらどうかね。 」

「 は!  生憎 < 素直 > なんて概念は持ち合わせていないんでな。

 お?  喫煙室があるぞ。  ちょいと寄るから ― 先に行っててくれ。 」

「 ―  おい!  ・・・ あ〜〜〜  もう ・・・! 」

グレートは呆れて銀髪の後ろ姿を見送る。

「 ま ・・・ 急ぐ必要もない旅 だからよしとするか   ふぁ〜〜〜 ・・・

 うむ、実によい気候だああ ・・・ ね  眠気が ・・・ ちょいと失礼 ・・・ 」

今度はグレートが 道端のベンチに腰を落ち着けた。

「 お? これは木製のベンチじゃないか〜〜  マイルドな肌触りだな ・・・ 」

程なくてして 日に照りかえる禿アタマはゆらゆらと船を漕ぎはじめた。

   ピチュ  ピチュ ピチュ  ―  そんな彼をスズメと思しき小鳥がのんびり見詰めていた。

 

 

 

   ― ポチャリ ・・・  パチャ ・・・ !  明るい光に水がきらきら・・・虹色に跳ねている。

その虹が黒い肌をブラッシュ・アップしている ― かのように見えた。

「 ・・・ やっぱり  な 」

ピュンマは水滴を撒き散らしつつ たった今、出てきた水面を見つめている。

「 むう ・・・ どうだった  ピュンマ。  」

「 うん ・・・ 特に ここの ― 湖、と称している水場に異常はないよ。

 人工湖だけど 実によく出来ていたなあ ・・・ 水藻もかなり繁茂していてね、

 小魚の漁礁になっていたよ。 」

「 では ― 」

ジェロニモはずっと水面を睨んでいる。

「 うん、 ごく遠浅の。 ごくごく <普通の > の大池に見えた。 」

「 ― 見えた ? 」

「 うん。 気候にもよるけれど。  ・・・ こんな風情になるには 普通十年以上かかるはずだよ。

 この都市は ― 設立してそんなに経っていないだろう? 」

「 むう ・・・ では やはり? 」

「 もう少し調査しなければはっきりとはいえないよ。

 でも ・・・ ヒトん家 ( ち ) の庭だからね、 家の主人が何をしようが ・・・

 他人がとやかく言うことはできないよ。 」

「 それは そうだが。  特に事故も起きていないことだしな。 」

「 うん。 ただ −  そうそう単純に楽しめないってことさ。 」

「 それは最初から承知だ。 」

「 あは ・・・ そうだったね。 」

二人は肩を竦めた。  ピュンマは手早くジャージを着るとまた散策を続けていった。

 

 

 

「 ほう〜〜 ここは市場でんがな? 」

「 らしいな〜〜  ここいらは野菜 ・ 果物部門ってとこか〜 」

「 さいでんな。 ・・・ ちょいとお邪魔しまっせ〜〜 」

「 え〜〜 また寄ってくのかよ〜〜〜 」

ちょこまか雑踏の中に入り込んでゆく短躯を のっぽの赤毛は慌てて追ってゆく。

二人は居住区に近い市場街に来ていた。

簡易アーケードの下に 出店が所狭しと野菜やら果物を並べていた。

どうやら ― 産地直送フェア ・・・とかそんな催しらしい。

「 へえへえ  ごめんやす。  ひゃ〜〜 ええ青菜やな〜〜〜 美味しそうや〜〜

 あんさんが作らはった?  え?  一口、ええですか? 」

大人は愛想を振り撒き、 ちまちまと味見をさせてもらっている。

「 ・・・ んん 〜〜〜  ひゃあ〜〜〜 美味し〜〜〜  

 この街のお人らぁは こないに美味しモン、食べてはるのでっか〜〜 

 え? ホテルでも? そりゃ ごっつう儲かってるやろ〜〜 」

彼はどこでも手放しで褒め そこで一つ、 こっちで一つ、 と野菜を買っていた。

「 お〜〜い ・・・ 大人〜〜〜  いい加減にしろよ〜〜〜 」

ジェットがとうとう痺れを切らした。

「 昼飯にしようぜ〜〜 」

「 へえへえ ・・・ ほな 皆はん、また寄らせてもらいますよって ・・・ おおきに。 」

満面の笑顔で市場をでた。

「 なあ〜〜 メシィ〜〜 」

「 ジェットはん。  すぐに帰りまっせ。 」

「 へ??? 」

「 こんなん、皆に食べさせたら ― あかん。 」

「 へ???   ひで〜味なのかよ? 」

「 あかんですワ。  これら み〜〜んな同じ味、しますよって。 」

「 ふ〜ん ???  あ〜〜 待てよ〜〜 」

大人はきゅっと口を噤むと 表情を引き締め緑の多い道を駆け戻っていった。

 

 

 

「 あ ・・・ すいませ〜ん ちょっとここ、作業しますんで〜  こちら側を通ってください。」

「 あら  ・・・ はい わかったわ。 」

ジョー達が ホテルへ戻る途中で街路樹や花壇の周辺になにやら機械が多数並んでいた。

「 ふうん ・・・ なにか作るのかなあ。 」

「 ・・・ ああ きっとほら、木の剪定とか花壇の手入れをするのじゃない? 

 植えただけじゃ だめなのよ。 ちゃんとお世話をしてあげないと。  」

「 あ〜 そうかあ ・・・ ふうん ・・・ 」

ジョーは彼らの方を眺めてから 近くにある花壇に目を移した。

そこにもスミレが植えられていて濃い紫の花をびっしりと咲かせている。

「 ・・・ キレイになってる よね。 」

「 ええ そうね。  スミレって もっとこう・・・ 野原とか道端にひっそり咲いているほうが

 好きなんだけど。  」

「 うん ・・・ それもある よね。 」

「 ?  ジョー。 なにか気になることでもあるの? 」

フランソワーズは 彼の隣に来て一緒にスミレの花壇を覗き込む。

「 ・・・ うん ・・・ ぼくはあんまり植物に詳しくないから ・・・ よくわからないんだけど。

 この花・・・ このスミレ ・・・どの株も皆同じ数の花を 同じくらいの大きさで 咲かせているな・・

 って思ってさ。  スミレって ・・・ そういう花なのかい。 」

「 ―  ・・・え ??? 」

彼女は驚いて しげしげと紫濃い花を < 見た >

「 ・・・ ん ・・・ 普通の、生きている植物 よ。  ツクリモノ ではないわ。 」

「 そっか ・・・ じゃあ そういう種類なのかなあ・・・ 」

「 う〜ん ・・・・ でも自然界でそんなこと、ちょっと有り得ないと思うわ。 ねえ? 」

「 そうだよねえ。   そうだ、あとでジェロニモに聞いてみようよ。 」

「 まあ それはいいわ。  ふふふ・・・ わたし達、 いろいろな仲間がいてラッキーね。 」

「 そうだね。 」

二人は手を繋いで ホテルの入り口に向かった。

 

 

  ウィ −−−−− ン ・・・・  小型の機械が街路樹沿いにやってきた。

 

「 ストップ。 ココノ花壇モ作業対象。 」

機械を扱っているのはどうやらアンドロイドらしい。  巧みに機械を操作している。

「 作業開始。 」

 

   ババババババ −−−−− ・・・・

 

小型のショベルが伸びてきて ― 今を盛りと咲き乱れていたスミレを根こそぎ抜いていった。

「 完了。  次。 」

同じ作業が 延々と続けられてゆく。  その日のうちに街中の花壇からスミレは姿を消した。

 

 

   

 

 

      ジョー ・・・・  ねえ  ジョー ・・・・

      どうして ・・・ ?   あんなに優しくしてくれたのに

 

      ・・・ どうして  ・・・ 行ってしまったの ・・・

 

      ジョー ・・・  ねえ  ジョー ・・・・

 

 

「 !?  うわ ッ  ・・・・ ?! 」

  バサ ッ !   ―    気がつけば  瀟洒なホテルの一室・・・ 豪華なベッドの中だった。

「 ・・・あ  ああ ・・・ 夢 ・・・ か ・・・ 」

ジョーは 大きく息を吐き額をぬぐった。   冷たい汗が手を濡らす ・・・

「 ・・・ど う ・・・ し た の ・・・? 」

「 あ ・・・ごめん ・・・ 起こしちゃった?  」

「 ・・・ なにか ・・・ あった の ・・? 」

「 ううん ・・・ごめん、  ちょっと・・・ 寝ぼけただけ さ。 」

ジョーは 隣に寄りそう円やかな身体をそっと抱いた。

「 ごめん ・・・ フラン  ・・・ 」

「 ・・・ 大丈夫 ・・? 」

「 うん。  きみが いるから ・・・ おやすみ♪ 」

「 おやすみ なさ い ・・・ 」

濃い睫毛は すぐに白い頬に落ちた。

 

  ― その夜が < 始まり > だったのかもしれない。

 

 

 

 

Last updated : 04,16,2013.                    index         /        next

 

 

 

*********   途中ですが

あのお話・後日談??

カールって。 絶対に 粘着気質 ですよね〜〜〜★