『  いちばん ・・・・ !  ― (2) ―  』




                                                  
イラスト: めぼうき
                                                                テキスト: ばちるど




                
***** お話は 前編の終わりよりもすこし前にもどります *****






「 すばる。 しょうたいけん、つくろうよ。 」
「 しょうたいけん? すぴか、なに〜 それ。 」
ギルモア博士との さくせんかいぎ から子供部屋に戻ると、
すぴかは弟のシャツをつんつん引っ張って提案したのだ。
「 ・・・ あったじゃん、おまつりのきんぎょすくい とか こどもこんさ−と とか。
 しょうたいけん、持っていると入れるの。 」
「 う〜ん・・・? あ、きっぷ みたいなの? 」
「 ・・・ ちょっとちがうけど、でもにてるかなあ。 あれ、つくろうよ。 」
「 つくってどうするの? 」
「 だ〜から! お父さんのお誕生日に はい、ってしょうたいけん あげて〜
 お母さんをぷれぜんとするの。  どうぞ、って。 」
「 ・・・ あ、わ〜かった。 かたたきけん みたいなのだ? 」
「 そうそう! あれ、つくろう。 がようしに書いてさ。 」
「 ・・・ すぴか、書いて。 僕、字、苦手〜〜  」
「 う〜〜〜ん ・・・ そだね、すばるの字って時々ヘン! 反対側に曲がってたりするじゃん。 」
「 へへへ・・・ 」
すぴかは子供部屋のチェストを開き 画用紙とくれよんをひっぱり出した。
「 アタシが字、書くから。 すばる、まわりにもよう、かいて?  」
「 うん! 」
「 え〜〜〜っと・・・ なんて書けばいいかなあ。 しょうたいけん、じゃないよねえ・・・  」
「 < おかあさん けん > 」
「 え〜〜?? それじゃなんだかわからないじゃん。 」
すぴかとすばるはちっちゃなアタマを寄せ合って なんにも書いてない画用紙をじ〜〜っと睨んだ。
「 ・・・ < おかあさん ひとりじめ けん > お母さんを今日だけ
 おとうさんがひとり占めしていいですよ〜って 」
「 ・・・ うん! じゃ・・・え〜と・・・何色がいい? お父さんの好きな色・・・ 」
「 あお! あとね ・・・ みどり。 あ、ちゃいろも。 」
「 うん。 え・・・っと お か あ さ ん ・・・ 」
すぴかはくれよんを握ると 画用紙の真ん中に大きく書き始めた。
お転婆・すぴかは なぜか字を書くのが得意なのだ。
特別に練習したわけでもないのだが、こくごの時間、 書写 ではいつでも花◎をもらえる。


「 まあ〜〜 凄いわね、すぴか。 また花◎じゃない。 」
「 えへへへ・・・ アタシ、こくご 好きかなあ。 」
「 本当に上手ねえ。  お母さんの字よりもず〜っときれいだわ。 」
「 あはは・・・ お母さんの字、ときどき面白い〜〜 」
すばるは一緒に覗き込んでいたが、声を上げて笑った。
「 あ、あら・・・ そうかしら。 ふうん〜〜 すばるクンもときどき面白い字、書くわよね。
 <ち> と <さ> が反対側にくね〜ってなってるものね。  」
息子に笑われて、フランソワ−ズはちょっぴり本気で反撃した。
「 えへへへ・・・ そっかな〜。 お母さんに似たんだ、僕。 」
「 まあ・・・! う〜ん ・・・ そうねえ、日本語は難しいわね。
 お母さん、お話するのは得意だけど・・・ 書くのはどうもまだまだだわ。 いっつもお父さんに
 ちがうよ、って言われちゃうし ・・・  」
「 お母さん、今度からアタシが書いてあげるよ。 お母さんは ふらんす人 なんだからしょうがないよ。 」
「 ま、ありがと、すぴか。 これ、お父さんがお帰りになったらお見せしましょうね。 」
「 うん♪♪  」
小学校に上がると 母子でのそんなやりとりも増えるようになった。
ジョ−は最近帰りが遅くてあまり子供達と付き合えないので フランソワ−ズから話を聞き喜んでいる。

その日も遅い晩御飯を終え、夫婦はリビングでコ−ヒ−の香りを楽しんでいた。
「 どれどれ ?  へえ・・・ 本当だ、すぴかってば本当に上手だなあ。 」
「 ね? わたしの字よりもよっぽどキレイよね。 あのお転婆さんがねえ・・・ 」
「 うん・・・ すぴかってお転婆だけど、なんか、こう・・・ 感受性が鋭いのかな。
 綺麗なものが ぱ・・・っと判るだろうね。  」
「 ・・・ああ、そうね、あの子、赤ちゃんの時からカンが強い子だったけど、
 そうか、そうなのね。 ふうん ・・・ 」
「 やっぱりね、きみの娘さ。 豊かな感受性をお母さんから受け継いだんだよ。 」
「 あら・・・ わたし、あの子は全然わたしとは違ったタイプだと思っていたのだけど。
 似ているのは見掛けだけなんだなあ・・・って・・・ 」
「 いや、そんなコトないよ。  ・・・ なんていうのかな、表現の仕方は違うけど
 きみとすぴかは共通の感性みたいの、持ってるよね。 そんな気がする。 」
「 ふうん・・・ そんなものなのかしらね。 
 まあ、女の子ですもの、字がきれいっていうのは嬉しいわ。 」
「 そうだねえ。 大人の世界では あんまり手で字を書くことってなくなってきたけどさ。 」
「 そうなの?  わたし、日本語を書くのは苦手だから・・・ 本当にいまにすぴかに
 頼んじゃうかも・・・  」
「 ははは・・・・ いいんじゃないかな。 」
学校からの <お知らせ> などは 実はすばるに読んでもらっているのだが、
これはジョ−には内緒である。 
「 二人とも小学校にも馴染んでさ、元気で・・・ よかったな。 」
「 そうね。 すばるは大丈夫かな〜ってちょっと心配してたんだけど。 しんゆう が一緒なので
 彼も安心しているみたいよ。 」
「 しんゆう? ・・・ああ、例のあの坊や、えっと・・・ わたなべ君か。 」
「 そうなの。 わたしもわたなべ君のお母さんが一緒で心強いわ。 」
「 ・・・ いいね、 こういう ・・・ 普通の、平凡な暮らしって。 」
「 ・・・ ええ、そうね。 ほんとうに ・・・ 夢みたい・・・ 」
「 夢みたい、か。 そうだね・・・ 限られた時間かもしれないけど、その間は
 う〜んと ・・・ どっぷり幸せな夢に浸っていたいなあ。  」
「 ・・・・・・・ 」
フランソワ−ズの瞳から ぽろり、と涙が零れた。
そう・・・ いつか、先のある日。
あの子達とは お別れ しなくてはならない。
いつまでも年をとらない両親は 自分達を追い越してゆく子供達と長くは一緒に暮らせないのだ。

   ・・・ あの子達と別れるなんて ・・・!

そう考えるだけで フランソワ−ズは涙が滲みでてしまう。
・・・ 悲しくてもそれは現実。
今はまだ遠い日だけれど、確実に近づいてきているのだ。
「 ・・・ そう、 せめて ・・・ それまでは。 愛を いっぱい・・・  」
「 フランソワ−ズ ・・・  」
ことん、と寄り添ってきた妻を ジョ−は優しく抱き寄せた。
「 それまでは、出来る限りたくさん・・・ 愛してやろうよ。 」
「 ・・・ ええ ・・・ ええ ・・・  」
「 ぼく達の愛の結晶 ・・・ ぼくときみの愛の証しだもの。 」
「 ・・・ そうね。 わたし達のところに舞い降りてきてくれた天使たち・・・  」
「 その天使たちのお母さんに ぼくはいつだってめろめろなのさ・・・ 」
「 ・・・ あ ・・・ ジョ− ・・・  」
自然に二人はそのまま ソファに絡み合って倒れこんだ。
夫婦の寝室はいつだって愛の花ひらく春爛漫なのだ。

新緑の季節、夜になっても気持ちのよい微風がギルモア邸の上を吹きぬけていった。



「 ・・・・っと。 これでい〜い? 」
「 うん! すぴか、じょうず〜〜 」
「 へへへ・・・ じゃあさ、アンタはこのまわりに絵、描いてよ。 」
「 うん、いいよ〜 くれよん、くれよん・・・ 」
「 はい。 かっこいい絵、かいてよね。 」
「 うん! え〜っとぉ・・・ えふわん だろ〜・・・それから・・・  」
すばるは幼稚園に上がるよりも前から お絵描きが得意だった。
彼は手先の細かい作業がお好みのようで、最近ではジョ−に教わり簡単なプラモにも挑戦していた。

「 ・・・ ねえ。 」
「 ・・・ ん〜〜? えっと、こっちには鳥さん、かなあ・・・  」
「 ねえ。 ねえねえねえ〜〜 すばるってば! 」
「 ・・・ ん〜〜? 」
「 す ば る! すばるってば! ちょっときいて。 」
お絵描きに熱中して生返事ばかりの弟を すぴかはつんつん突いた。
「 いった〜い〜〜 すぴか、いたい〜〜! 」
「 ふん、つっついただけじゃん。 あ、泣き虫〜〜 泣き虫すばる〜〜 」
「 ち、ちがわい! 」
すばるはクレヨンを握った手をぶん・・・と振上げたけれど、姉はするり、とよけてしまった。
「 へ〜〜〜んだ!  ねえねえ。 やっぱさ、ぷれぜんと、いるよ。 」
「 ・・・ だから〜 ・・・ 」
「 < ひとりじめ けん > と、あといっこ。 アタシたちから。  」
「 ・・・ だって お小遣いじゃかえないじゃん。 」
「 だ〜か〜ら さあ? 」
「 ウン ・・・ 」
ぼしょ ぼしょ ぼしょ。  ひそひそひそ ・・・・

姉弟の協同謀議はしばらく続いていた。



土曜日の朝は いつもよりすこしだけのんびりしている。
ジョ−は相変わらず早い時間に出勤してゆくが 子供たちはお休みなので
フランソワ−ズもリハ−サルでもない限り、朝のレッスンはお休みすることにしている。

「 えっと・・・ あの子達が帰ってくる前にリビングのお掃除、すませちゃいましょ。 」
その朝も、フランソワ−ズは誰もいなくなったリビングで掃除機をかけていた。
子供達は朝御飯をすませると、遊びに行ってしまった。
なんでも図工で使う かみねんど が欲しいの〜〜と姉と弟は仲良く手を繋いで出かけたのだ。
大通りに出る手前にある雑貨店にゆくらしい。
「 ・・・ なんだってこう・・・散らかってしまうのかしら。 結構広いのに、もう・・・
 ジョ−ってば また雑誌を出しっ放しだし・・・! 」
よいしょ・・・とソファの下まで落ちている車の雑誌に手を伸ばし・・・
「 ・・・ あら! ヤダ ・・・! こんなトコにあったんだわ・・・ どこに紛れたのか捜していたのよね。 」
ぱっと頬を赤らめ、彼女は雑誌の下に隠れていたモノを拾い上げた。
「 ・・・ 昨夜 ジョ−ってばここで・・・ 」
たった一人きりのリビングで フランソワ−ズは首の付け根まで赤くなってしまった。
手にしたレエス付きのモノを 慌ててエプロンのポケットに突っ込んだ。
・・・ 子供達に見つからなくて ・・・ よかった・・・!
「 ・・・ もう 〜〜  ベッド以外ではダメよって言っておかなくちゃ。
 あの子達だって どんどん大きくなるんだし・・・・ 」
やれやれ・・・・と島村さんちの奥さんは すばるのプラモの部品を拾い上げ、すぴか愛用の
縄跳びをクッションの下から引っ張り出し・・・ ついでに靴下の片方も回収した。

  ・・・ まああ。 いったいなんだってこんなトコにあるわけ??

博士が昨日、さんざん捜していたパイプは どうしたものか、サイドボ−ドの中にしまってあった。
障害ブツを取り払えば が〜が〜掃除機をかけるのはなかなか爽快だ。

ふんふんふん 〜〜〜 ♪♪

自然とハナウタも零れてきて・・・ やがて耳のすみっこに玄関の開く音と・・・
「「 ただいま〜〜 お母さん、ただいま〜〜 」 」
可愛い二重唱が聞こえてきた。

「 あらまあ。 ずいぶんお早いお帰りだわね・・・ はあいぃ! お帰りなさい〜〜  」
フランソワ−ズは掃除機のスイッチを切り、声を張り上げた。
いつもならすぐに 小さな足音が響いてきて
「「 お母さん! お腹すいた! オヤツは〜〜 」」
の声が聞こえる ・・・ はずなのだが。 今日はなぜか足音は賑やかに二階に昇っていった。
「 ?? あら、まあ。  どうしたのかしらね?
 ともかく ・・・ すばる〜〜? すぴか!? ちゃんとお手々洗ってうがい、して頂戴! 」
「「 は〜い! 」」
どうも子供部屋に直行したらしい。

  ・・・ま、いいわ。 あと少しでお掃除完了ですものね。 今のうち、今のうちっと

フランソワ−ズは再び掃除に没頭しはじめた。
土曜の夜から日曜日、みんな、ほとんどここですごす。
子供達は宿題を持ち込み、博士もわざわざ・・・こんな賑やかなところで本を開く。
ジョ−もほとんど読まない雑誌をひろげ、フランソワ-ズも 編み物やら、縫いものを持ち出す。
もっともすぐにおしゃべりやらお茶タイムが始まり、各自<作業>はちっとも進展しないのだが・・・

<休日のリビング> は島村さんちのシンボルになっていた。

「 ・・・ さ。 これで ・・・ まあ、いいかしら ・・・  あら? 」
始めは間違いかと思った。
でも。 確かに。 そっと・・・・ 自分でもイヤな気分で 耳を使ってみたのだが・・・

   ・・・ 泣き声。 これ・・・すばるとすぴかの・・・?

次の瞬間、 フランソワ−ズは掃除機を投げ出し 二階への階段を駆け上っていた。
「 すばるッ! すぴか! どうしたの??? 」
双子の姉弟は 全然性格が違うのだが仲がいい。
子供のことだから 小さな口げんかや小競り合いはしょっちゅうだけれど、
あの二人が本気で喧嘩をしたことはほとんどなかった。
<外敵>に対してはいつも すぴかが堂々と立ち向かい弟を護っていた。

そんな二人が泣き出すのは よほどのことなのだ。
なにか ・・・ 怪我? 事故? 
フランソワ−ズは顔色を変えて子供部屋に飛び込んだ。

「 どうしたの?!  なにかあったの?  」
「 ・・・あ! お母さん! ・・・ おかあさ〜〜〜ん・・・!  」
半分開いていたドアを引くと すばるが泣きべそでとびついてきた。
「 ・・・ お母さん ・・・  」
部屋の真ん中で すぴかが真っ赤な顔をして突っ立っている。
どうも怪我などはしていないようなのでとりあえず母はほっとして しがみついている息子の
背中を 軽くさすってやった。
「 ・・・ あらら・・・・ どうしたの〜 二人とも。
 仲良しさんの二人が 喧嘩したのかな。 ほら・・・ 泣くなんておかしいぞ、すばるクン 」
「 ・・・ く ・・・ だって だって 〜〜〜 すぴかが 〜〜〜 」
「 すぴかが? 」
「 ・・・ だって! すばるが!! 」
ぼろぼろぼろ・・・ すぴかも大きな瞳から負けずに涙をこぼし始めた。
「 あら〜〜 なあに、どうしたの? ねえ、お母さんに教えて? 」
フランソワ−ズは空いている手を伸ばし、娘の小さな肩を引き寄せた。

  へえ??? すぴかがこんなに大泣きするなんて珍しいわねえ・・・!

しっかりモノのすぴかは はきはきお話もできるし、一人でお使いにも行ける。
転んでも、一生懸命涙を拭いてガマンする子なのだ。
わりとすぐに 涙目になる弟とはかなり性格が違うらしい。
その ・・・ 姉娘が盛大に泣き出しそうなのだ。

「 ね? 二人とも。 泣いていたらわからないわ。 どうしたの? どうして喧嘩したの? 
 お母さんにお話ししてちょうだい。 」
「 ・・・ う・・・っく ・・・ あのね。 ・・・ 僕、紙粘土でね。 イルカがね・・・  
 そしたら すぴかが・・・ そんなかっこう へん〜〜 とか そんな色 へん〜〜って・・・ 」
「 だって! えのしまのすいぞっかん だって ずかん・・・ ピュンマおじ様のずかん 〜〜 」
「 えええ??? お願い、最初から教えて? 
 紙粘土? ・・・ さっき国道のとこのマ−ケットまで買いにいったのでしょ。 あれが? 」
「 ・・・ うん ・・・ それで これ・・・僕 つくったんだ 」
すばるは机の上の <さくひん> を指差した。
「 これ? ・・・ え〜っと・・・ ( なにかしら??? これは・・・これは〜〜
 あ・・! もしかして・・・ ) ・・・ あの、 イルカ かな?  」
「 わ〜〜〜〜 お母さん すご〜〜いすご〜い! すぐに判っちゃった! 
 うん、これ! いるか なんだ。 」
たった今まで ぐしゅぐしゅベソをかいていたすばるは急に元気になった。

   あ・・! よかった〜〜〜 マンボウとかエンゼルフィッシュかと思った・・・ 

フランソワ−ズは内心ほっとしたが、何食わぬ顔で子供達の顔を見つめた。
「 それで? どうして泣くほどの喧嘩になったのかな。  」
「 ・・・ だって! すぴかが〜〜〜 こんなカタチ へん! とか いるかじゃな〜い とか
 ・・・ そんな色じゃないもんとか ・・・ 」
「 だってだって〜〜 そうでしょ、お母さん! いるかさんってさ〜 もっとぴん!ってしてるし。
 だいたい おさかなに眉毛なんかないも〜ん!いるかは あお じゃないよ!
 ほらほらほら! ピュンマおじ様のずかん〜〜 ほら! 」
すぴかは足元に拡げていた大振りの冊子を持ち上げて指さしている。
「 どれどれ? 【 うみのなかまたち 】 か。 ふうん・・・ 本当ねえ、これ、イルカね。 」
「 でしょ! なのに〜〜 すばるったら〜 ほら、見て、お母さん! 」
「 え・・・・ あ、あら。 ・・・ でも、可愛いじゃない?  」



             






   あは・・! 本当だわ、これ。 眉毛がある〜〜 きゃ〜〜可笑しい・・けど
   可愛いわね。  ・・・ あ、 いつか ・・・ わたしが飾ったマスコットに似てる・・・
   そう・・・ あれからドルフィンって 呼ぶようになったのよね・・・

不意に懐かしい姿が思い出された。
そう ・・・ 皆で始めて乗ったあの艇。 空に海に海底に ・・・ いつも一緒だった・・・・

   って〜な! なんだ、これ?

   あら、かわいいでしょ。 マスコットにしましょうよ。 このドルフィン号の。

   ドルフィン? なんだ、それ〜

   この艇の名前よ。 いいでしょ、ドルフィン♪ 可愛いわ。

   ちぇ〜〜 可愛いって言うかよ?

そんな他愛もない遣り取りも自然に浮かんできた。
そして
深海のそのまた底に 静かに没していったその姿が今も鮮明に蘇る。

   さよなら ・・・ さよなら ドルフィン ・・・

フランソワ−ズは息子の <さくひん> をじ〜〜っと見つめていたが・・・
気がつくと ほろほろと涙がほほをすべり落ちていた。

「 ・・・ お母さん・・・? お母さん、どうしたの?? 」
「 お母さ〜ん・・・ お母さん・・・ 泣かないで・・・ 」
「 あ、あら・・・ ごめんなさい。 ふふふ・・・ お母さんったら可笑しいわね・・・  」
小さな息子と娘は 涙の痕をのこしたまま、真剣な顔で母に取り縋ってきた。
「 こめんなさいね。  ね? 泣いたら可笑しいでしょう? 」
「 ・・・う ・・・ うん ・・・ 」
「 うん ・・・  」
「 ねえ、すぴか。 すばるはね、きっと可愛いいるかサンを作りたかったのよ。
 ホンモノのそっくりなのとは・・・ちょっと違うのをね。 すばる、そうでしょう? 」
「 うん! 」
「 すばる、それならちゃんと説明しなくちゃ。 何にも言わなかったらすぴかにはわからないわ。 」
「 ・・・・ う ・・・ん・・・ 」
「 ね? これ、可愛いじゃない? 何にするの、マスコット? 」
「 ううん〜〜 あのね。 お母さんにだけ とくべつにおしえちゃう。 ね? すばる。 」
「 うん! 特別 とくべつ〜〜〜 」
「 まあ、嬉しいわ。 何かな〜〜 お母さん、どきどきしてきちゃった! 」
「「 あの・ね ・・・・ お父さんのね、おたんじょうびにね・・・ 」」
双子は母の耳元に近づいて ぼしょぼしょぼしょ ・・・・ 秘密の漏洩を敢行し始めた。
こちらの<ひみつかいぎ>も 結構長い間行われていた。


「 ・・・じゃあ、お家でのお祝いは翌日の土曜日にしましょう。 お母さん、ケ−キを焼くわ。 」
「 わあい♪ ケ−キ、ケ−キ〜〜〜 お母さんの け〜〜〜えき♪♪ 」
「 お母さん、なんのケ−キ やくの。 」
「 ふふふ・・・ それはね、もういっつも<決まり>なの。
 お父さんが大好きなケ−キ、それはね〜 いちごのいっぱい乗ったショ−ト・ケ−キよ。 」
「「 わ〜〜〜い♪♪ 」」
「 それじゃ、お父さんのお誕生日の日、晩御飯はお祖父ちゃまと張伯父様のところに行ってね。 」
「 うん! わ〜〜いわ〜〜い アタシ、張伯父様に 胡麻煎餅、たっくさん作ってもらおうっと 」
「 僕! 桃饅〜〜 も〜もまん♪♪  」
双子達はすっかりご機嫌である。
フランソワ−ズはちょっぴり ・・・ がっかりしたみたいな気持ちになった。

   ・・・まあ。 ついこの間までわたしの姿が見えないと大騒ぎしていたのに・・・

「 二人とも・・・ でも・・・ 大丈夫? お留守番 できる?
 学校から帰っても お母さん、いないのよ。 平気? 」
「 平気だもん♪ アタシ、もう赤ちゃんじゃないもん。 」
「 僕も〜僕も〜 平気だよ。 」
「 あ、あら、 そうなの? ふうん ・・・ それじゃ お母さん、お父さんとゆっくりお出掛けしてくるわね。 」
「 うん! <おかあさん ひとりじめ けん> つかって〜〜 」
「 ひとりじめけん〜〜 ♪ だよ! 」
「 ・・・ ありがとう。 それじゃ ・・・ お母さん、う〜〜んとおめかししようかな。 」
「 お母さん、 ぷれぜんと、忘れないでね♪ 」
「 ああ、はいはい。 それじゃ ・・・ 土曜日の夜に皆でお父さんにお渡ししましょ。 」
「「 うん!!  」」

そんな騒ぎを経て 5月16日、ジョ−とフランソワ−ズは目一杯オシャレをして
久々のデ−トを楽しんできたのである。
そして。



「 ああ・・・ 遅くなっちゃったわね。 子供たち ・・・ もう御飯終ったかな。 」
二人がヨコハマ地区に戻ってきた時には もう初夏の日もとっぷりと暮れていた。
博士のプレゼント・ 豪華ランチを堪能したあと、夫妻はお墓参りに出かけたのだった。
電車を乗り継ぐのですこし予定より遅くなった。
「 うん。 ・・・ フラン。 今日は ありがとう。 」
「 え? あら、御礼なら博士と子供たちに、でしょ。 」
「 いや。 ・・・ わざわざ母の墓所まで行ってくれて・・・ 本当にありがとう。 」
中華街に入りメイン通りから一本、道を逸れたところでジョ−は立ち止まった。
「 ・・・ ジョ−。 だって あなたのお母様なのよ。 
 今日この日、一番に感謝しなくちゃいけないのは あなたというヒトを生んでくださった方、でしょう? 」
「 ・・・ うん それはそうだけど。 ・・・ でも ・・・ 」
「 わたし、嬉しいもの。 本当に感謝しているわ。
 あなたと巡り逢えて。 ううん、あなたがこの世に生まれてきてくれて・・・ 」
「 フランソワ−ズ・・・ きみってひとは。 本当に ・・・ 本当に・・・! 」
「 ジョ− ・・・ あ ・・・・ やだ、こんなとこで・・・ ほら ヒトが・・・」
「 大丈夫。 この街はこんな挨拶には慣れっこさ。 ・・・ ぼくの奥さん♪ 」
「 ・・・ んんん ・・・・  」
ジョ−は愛妻を抱き寄せると 暑く唇を重ねた。


張々湖飯店に着いて、フランソワ−ズが奥の小部屋の帳を上げた途端に・・
「「 あ〜〜 お母さん!!  お父さ〜〜ん! 」」
涙も限界になっていた子供たち、母の姿を見た途端にお目々の堤防は決壊したようだ。
「 ただいま、 遅くなってごめんなさいね。 ・・・あらら・・・ どうしたの〜 二人とも。 」
「 お母さん・・・ッ!  」
「 ・・・ お母さ〜〜ん ・・・ !」
お行儀よく座っていた高い椅子からほとんど飛び降りて すばるもすぴかも駆け寄ってきた。
「 いい子にしてた? 張伯父様の御馳走、美味しかったでしょう? 」
「 二人ともありがとう。 お父さん、本当に楽しかったよ。 」
「 ・・・ おかあさ・・・ え・・・ええええ・・・・えええ〜〜  」
「 お父さん ・・・ アタシ ・・・ うっく ・・・ うぇ〜〜ん ・・ 」
小さな手がフランソワ−ズのよそ行きのワンピ−スをしっかりと握りしめている。
「 まあまあ どうしたの。 さ、そんなに泣かないで・・・ ほら、すぴか。
 楽しみにしていた胡麻揚げ煎餅が冷えてしまうわよ? すばる、桃饅、美味しいしょ? 」
「 ・・・ う ・・・っく。 ・・・ う・・ん  」
「 ・・・ 桃饅 ・・・ 桃 ・・・  」
「 ほら・・・・ もうお父さんはお母さんを二人に<かえす>からさ。
 泣いていたら御馳走、不味くなっちゃうぞ。 」
「 ・・・ うん ・・・ お母さん、お隣にいっていい。 」
「 僕も〜〜 僕も僕も! 」
結局 フランソワ−ズを真ん中に すぴかとすばるはぴったりとくっ付いている。
「 あ〜・・・ いいなあ。 お父さん、つまんないな〜 泣いちゃおうかな〜  」
ジョ−がおどけて 俯いてみせた。
「 ・・・ お父さん ・・・ こっち、きて。 」
すぴかは父の手をひっぱり自分の隣に座らせた。
「 これなら ・・・ いい? 」
「 ・・・ ありがと、すぴか。  」
ジョ−の大きな手が ふわり、とすぴかの亜麻色の髪を撫ぜる。
「 まあまあ・・・ ウチは甘えん坊さんばっかりね〜〜 」
「 うん! み〜んなあまえんぼ♪ あ〜まえんぼ〜〜う♪ 」
すばるが桃饅を齧りつつ 妙なハナウタを歌ってみせた。
一家は改めて円卓を囲み 香り高い中国茶を楽しんだ。

結局、子供達は泣き疲れたのかいつのまにか眠ってしまった。
「 あ〜あ・・・ なんだかんだ言ってもまだまだ赤ちゃんなのねえ・・・  」
フランソワ−ズはすばるのセピアの髪をそっとなぜた。
すばるは母のスカ−トをしっかりつかんだまま寝入っている。
「 ふふふ・・・ やっぱりきみがいないと淋しいんだね。 」
フランソワ−ズの膝によりかかり すぴかもくうくう寝息をたてていた。
「 うんうん、そうか。 そうじゃったのか。 二人とも段々ご機嫌が悪くなっての、
 ほとほと困っていたんじゃよ。  」
「 まあ、ごめんなさい、博士。 大丈夫〜 お留守番できるっ!って張り切っていたのですけど・・・ 」
「 かわんよ。 まだまだ母さんが恋しい年なのさ。  」
博士は眠りこける孫達の髪をそっとなぜた。
「 ・・・ ありゃ〜〜 こりゃ 坊も嬢やも完全に沈没アルね〜〜 
 ほいじゃ、この点心はオミヤに持って帰ったって。 明日のおめざにしなはれや。」
厨房で大忙しのはずな飯店のオ−ナ−・シェフは 特製の蒸篭を差し入れてくれた。
「 わあ、ありがとう! 張大人〜〜 」



「 ・・・ ああ ・・・ 綺麗な夜空だなあ・・・ 」
「 あら、本当。 お星様があんなに・・・ 」
張々湖飯店を出ると、ジョ−とフランソワ−ズは、まだまだ人波であふれる中華街を抜けていった。
二人の背中には ちっちゃな息子と娘がくっついてすうすう寝息を立てている。
さすがにもう冷たくはないけれど、すこしひんやりした夜気が火照った頬に心地よい。
とっておきヨ、コレわてからのプレゼントやねん・・・・と大人は年代もののワインを出してくれたのだ。
博士も結局 沈没 し、飯店泊まりとなってしまった。
「 なあ、重いだろ? すばるもぼくが抱いてゆくよ?  」
ジョ−はずり落ちてきたすぴかを背負いなおし、細君の背中の息子に目をやった。
「 大丈夫よ。 ・・・ それよりもジョ−、あなたこそ足元、気をつけて・・・
 随分 飲んでいたじゃない。 」
「 ふふん、あれっぽっちで足元が縺れてたまるかってんだ。 
 ああ ・・・ でも旨かった・・・・! 今日はもう満腹だよ。 」
「 そうね、よかった。 素敵なお誕生日になったわね。 」
「 うん。 ・・・ ありがとう、フラン・・・ 」
「 あ〜らら。 お礼は博士と子供たち、それと張大人に、でしょ。 
 明日の夜は 質素にウチでお祝いしましょ。 」
「 ・・・ きみのケ−キ、ある?  」
「 はいはい、ちゃ〜んとジョ−の好きないちごケ−キ、材料は準備してあるわ。 」
「 へへへ ・・・ ありがと。 」
「 どういたしまして♪  」
夫婦は ちょっとばかりふらつく脚を踏みしめ寄り添って歩いていった。
港街の夜空は大きく広がり、満天の星々を煌かせジョ−の誕生日を祝ってくれた。

   ・・・ ああ ・・・ ! いいなあ ・・・
   おかあさん ・・・ ぼくを生んでくれて ありがとう ・・・

自然に、ほんとうにごく自然に、そんな気持ちがわいてきた。
背中にかかる小さな娘の温か味を確かめ、側に共に歩む妻の香を楽しみ
ジョ−は彼の生まれた日の残りの時間をゆっくりと味わっていた。




「 子供達は? もうすっかり夢の国かな。 」
ジョ−はベッドの上から寝室のドアをそっと閉めているフランソワ−ズに声をかけた。
子供部屋を見回り、フランソワ−ズはほ・・・っと溜息をついた。
「 ええ。 昨日もだけど、今日も朝から大騒ぎしていたでしょう? 
 すばるなんかお風呂の中で居眠りしていたらしわ。  すぴかが報告してくれたの。 」
「 あははは・・・・ そりゃチビ達に連チャンはキツかったかもしれないね。 」
「 そうねえ。 でも、昨日の < ひとりじめ けん > とか 今日のネクタイ・ピンとか。
 すごいわよね、あの子達・・・ どんどん大きくなってゆくのね。 」
「 うん、そうだね〜〜 ちょっとぼくもびっくりだよ。 」
ジョ−はベッドから身を起こし ナイト・テ−ブルの上に手を伸ばした。
「 ・・・ こんなこと、できるようになったんだな・・・  」
「 ええ。 もう・・・ すぐに おかあさ〜〜んって泣き出す赤ちゃんじゃないのよね・・・ 」

ジョ−の誕生日の翌日、計画通りに <お父さんのお誕生日のお祝い> が繰り広げられた。
ジョ−の好きなモノばかりが食卓に並び、最後には ・・・
「 は〜い・・・ それではお待ちかねの ケ−キで〜す♪ 」
「「「 うわ〜〜〜♪♪ ケ−キ、け-き〜〜〜お母さんのケ−キ♪ 」」」

   ヤダ、ジョ−ったら。 あなたまで・・・

   ふふふ ・・・ いいじゃないか。 ぼくだって楽しみにしているんだから、さ♪

「 うわ・・・ いちご、やまもり〜〜♪ 」
「 いちご〜いちごいちご・い〜ちご♪♪ 」
「 おお、これは見事じゃのう。 フランソワ−ズ、腕を上げたな。」
「 ・・・ すご・・・ 」
ショ−ト・ケ−キ・スペシャルで バ−スディ・パ−ティは賑やかに締め括られたのだった。


「 これ・・・ アイツらからの <ぷれぜんと>、 すごいよ。 」
ジョ−は手にした箱から そっとブル−のイルカをつまみあげ、しげしげと眺めている。
すばるの力作は 博士がクリップをつけてタイピンに加工してくれた。
添えられたカ−ドにはすぴかのくれよんの達筆が踊っている。
「 青いイルカ、か・・・ なあ、思い出すよな。  」
「 ジョ−。 覚えていてくれた? ・・・ わたし達の ・・・ ドルフィン・・・  」
「 うん、勿論・・・  これ、 きみからのカフス・ボタンも同じ色だね。 」
「 ええ。 あの子たちのタイピンにあわせたの。 それとね、ほら・・・、前に博士から頂いたネクタイ、
 あれに合うかなあ、って思って。 」
「 ああ・・・! そうだね、 ぴったりだ。 」
ジョ−はプレゼントを両手に しばらくじっと見つめていた。
「 なに、どうしたの。  」
フランソワ−ズはジョ−の隣に滑り込み、彼の手元を覗き込んだ。
「 うん ・・・ これってさ。 どっちも ・・・ ぼくのタカラモノ、いや 御守だな。 」
「 あら。 どうぞ使って下さいな。 仕舞っておいては タイピンもカフスも可哀想よ。 」
「 うん、それは勿論だけど。 ・・・ これ、一生・・・ 離さない。 」
ジョ−はそうっと二つの小箱を枕元に戻した。 そして・・・
「 ・・・ ぼくの一番のタカラモノ。 これも ・・・ 一生離さない・・・! 」
「 きゃ・・・ ! ジョ− ・・・ 急に ・・・ あ・・・!  」
ジョ−の長い腕がフランソワ−ズの肩を抱き寄せそのまま組み伏せてしまった。
「 ・・・ ぼくへの最高のプレゼント♪  」
「 ジョ− ・・・ 」
フランソワ−ズはジョ−を見上げ、嫣然と微笑んだ。
「 お誕生日、 おめでとう、ジョ−。 ・・・ どうぞ? うんと ・・・ 愛して。 」
「 ・・・・! それじゃ ・・・ 遠慮なく♪  」
「 ・・・ きゃ ・・・ 」


寝室の空気が やっと少し冷えてきた頃・・・
「 ・・・ フラン ・・・?  ああ、もう眠ってしまった・・・か ・・・ 」
ジョ−はしばらく腕の中の愛しい人の寝顔を眺めていたが。
「 ・・・ 今日だけ。 ・・・ いいだろ・・・ 」
身体をずらすと ジョ−は彼女の白い胸にぴたりと頬を当てた。
まだ火照りの残るふくらみが 両の頬に触れる。

「 ・・・ お ・・・ かあ ・・・さん ・・・  」

ジョ−はひくくつぶやくと そのまま・・・すう〜っと寝入ってしまった。


ジョ−は知らない。
彼が寝息をたて始めたころ、白い手がそうっと動き出したのを。
そして
わが胸に眠る大きな甘えん坊の髪をそうっと愛撫していたことを。 
しずかにおだやかに。 そしてとびきりやさしく・・・

母の手は母の想いは。 母の愛は ・・・ ちゃんとジョ−のもとに届いたのだった。






              ************







「 どうだ? 下の状況に変化は? 」
「 ・・・ う〜ん・・・・ ちょっとキツいわ。 天候も相変わらず。 すごい雨よ。 」
ぎりぎり低空に待機するドルフィン号の中は緊迫した空気が満ちている。
コクピットに残るのはジョ−とフランソワ−ズ、そしてピュンマだけだ。
「 ジェットから連絡がないけど? どうなんだろう。 」
「 ああ、大丈夫、無事に降りたよ。 でもちょっと位置がずれてしまったようだね。 」
レ−ダ−の前からピュンマが応えた。
「 あ・・・ 移動し始めた。 多分 バリヤ−があるね。 通信を撥ねてるらしい。 」
「 そうか。 先発隊は? 」
「 え〜っと ・・・ ああ、スタンバイしてるわ。 あ・・・グレ−トが大鷲になった! 」
眼と耳を駆使し、フランソワ−ズが報告する。
「 よし。 じゃ、ぼくが降りるよ。  ちょうど ・・・ ヤツラの真ん中かな〜 」
「 大丈夫かい、ジョ−。  」
「 任せとけって。 サ−チ、頼む。 なんとかアルベルト達に合流しないとな。 
 途中で ジェットを拾えればいいけど・・・ 」
「 通信が通ればね・・・ わたしがナビできるんだけど・・・ 」
「 仕方ないさ。 ・・・ それじゃ 降りるから・・・ 第二ハッチの開閉を頼む。 」
「 了解。 合図送ってくれ。 」
「 了解。 あっと・・・ フラン? これ・・・! 」
「 ・・・はい? 」
フランソワ−ズはぽん・・・と放られた小さなものをキャッチした。
それは 透明なカプセルに入った 青いイルカ。
「 ジョ−? これ・・・ 」
「 預けとくから。 しっかり管理を頼むよ。 ぼくの御守だからね・・・ 」
「 ジョ− ・・・ ジョ−・・・・! これ・・・ すばる ・・・ 」
「 ・・・・ 」
こくり、と頷いて ジョ−は淡く微笑んだ。

透明なカプセルの中には 紙粘土でつくった小さな青いイルカが笑っている。
そう・・・ もうあれはいつのことだろう。
つくり主はとっくにジョ−の、フランソワ−ズの年を追い越してしまった。
遠い日、 まだ泣き声も甲高い子供達から送られた 青いイルカ。
それは 彼らに代わってずっとジョ-と共に過してきたのだ。

「 ・・・ 必ず回収に来るのよ! 」
「 了解 ( ラジャ ) ! 」

009は ぱちん、とウィンクを一つのこし、コクピットから出ていった。
やがて。
黄色いマフラ−も鮮やかに、009はドルフィン号から地上に跳んだ。




*************     Fin.    ************



Last updated : 05,20,2008               back        /       index






*******   ひと言   ******
そんな賑やかな日々でした・・・ っていうだけの、のほほ〜〜んとした小噺でした♪
泣いたり笑ったり怒ったり・・・ 子供時代の楽しい思い出こそが 
双子ちゃん達にとって <タカラモノ> になるのだと思います。
フランちゃんが 母の日のハンカチをこっそり持ってきたように、ジョ−君は
イルカのタイピンを一生肌身離さず持ち歩くのではないかな。
相変わらずな〜〜にも起きない・まったりしたお話ですが・・・ 締め括りはいつも、こうです ↓

< そうして 皆、ずう〜〜っとしあわせにくらしました。 >

ほんわか温かい一時を過していただけましたら幸いでございます。
最後に ・・・ ジョ−君! お誕生日〜〜 おめでとう 〜〜〜 ☆☆☆☆☆