『 熱砂の都 −(1)− 』
**** 前書きに替えて ****
え〜この物語は 原作【 ファラオ・ウィルス編 】 ベ−スです。
平ゼロの<ファラオ・ウィルス>編とはベツモノとお考えください。
・・・後半でフランソワ−ズが大暴れ?・・・しません(^_^;)
・・・ あつい
その地に脚を踏み入れた時、 フランソワ−ズは無意識につぶやいていた。
飛行機を出たとたんにうわっと取り巻いてきた空気は すでに熱風だった。
・・・ 乾いた におい。
土壌も植物も。 その地でのみ生息する特殊な生き物たちも。
時の流れに身を削りやせ細り続けている岩石すらも 遠い過去を物語る巨大な遺跡も。
そして 一番最後にやってきておきながらもっとも横柄な にんげん たちも。
すべて 干上がり乾き ちぢこまり 独特の臭気を放っている。
・・・ そう。 ここでは想い出すらも かさかさと乾燥していた。
「 え・・・ なに。 」
一瞬足を止めたフランソワ−ズに気ついたのか、 ジョ−はちらりと振り返った。
「 あ、ううん。 なんでもない。 ・・・すごい砂風ね。 」
「 ああ。 できれば防護服で移動したいけど・・・ ちょっと無理だしね。
ともかく、ホテルにチェック・インしよう。 博士は朝の便で無事到着だそうだ。
・・・そこ、 危ないよ。 」
「 ・・・ ありがとう、 ジョ−。 」
・・・・ あ・・・! ・・・ なに ・・・?
自然に差し伸べられたジョ−の手に触れたとき。
なにかが ・・・ とても微かだったけれど ・・・ ぴりり、とフランソワ−ズの全身を取り巻いた。
オカエリナサイマセ・・・・
・・・ なに??
おもわず瞬時に周囲をサ−チしたが 気になるモノは何も無かった。
荒涼とした地が灼熱の太陽のもとに拡がっているだけだった。
そうね、こんなに日の光がキツイから・・・。
フランソワ−ズはぱさりと髪を振った。
・・・ さっきから執拗に絡みつく熱く乾いた空気を振り払いたかったのだ。
ジョ−とフランソワ−ズは飛行機からでこぼこの滑走路を歩き管制塔のある建物へと急いだ。
砂嵐はいくらサイボ−グといえでも ・・・・ ごめんだ。
「 個人的に行っても大丈夫なの? 」
「 多分ね。 普通はツア−の一部らしいんだけど・・・
ぼくらはもともと個人旅行で来たし。 博士がいらっしゃるから大丈夫だよ。 」
「 たまには観光旅行もいいじゃろう? せっかくこの国まで来て
学会だけで帰るのは、ちと惜しいからの。 」
この街一番、という外資系のホテル。
そこだけはエアコンが効き快適な環境を作り上げている。
ロビ−には観葉植物が多くおかれ、ひんやりした清浄な空気が満ちている。
行き交う人々の特徴的な服装に目を遣らなければ欧州の小都市とも思ってしまう。
この中に留まっている限り、世界のどこにいるのか判然とはしない。
快適ではあるが ・・・ あまりに無個性で親しみはかえってわかない。
ギルモア博士の学会に付き添ってカイロにやってきたジョ−とフランソワ−ズは
博士の提案でいわゆる<観光旅行>に 足を伸ばした。
やってきた地方の町から、さらにレンタカ−で目的の場所へ向かう。
目的の場所 ・・・ それは 王家の谷。
「 ルーブルやカイロの博物館で黄金のマスクや沢山の副葬品をみまたしけれど、
ホンモノを見るのは 初めてです。 なんだかどきどきしますわ。 」
「 そうだね、現地で見るっていうのも、こう・・・なんか雰囲気があっていい。 」
「 ワシもなあ。 その<ホンモノ>を直に見るのは初めてじゃ。 」
「 ・・・ 眩しかったらシェ−ドを降ろそうか? 」
「 え・・・ ああ、大丈夫よ・・・ 」
フランソワ−ズはしきりに額に手をかざしている。
確かに強い光だが自分たちにはそれほど苦痛ではないはずなのだ。
ジョ−は黙って半分だけ、フロント・ガラスにシェ−ドをかけた。
「 ・・・ ありがとう。 」
でこぼこ道を巧みに運転するジョ−の隣で フランソワ−ズは
巻き付けていたスカ−フをさらに深く被りなおし、サングラスをバッグから取り出した。
・・・ 熱気? ううん、ちがう。 でも・・・ なにかが纏わり付く・・・
最初に空港で感じたあの感覚は 郊外に出るにしたがってますます強くなってきた。
不快・・・とまではゆかないが、少々鬱陶しい。
ともかくスカ−フやらサングラスで 素のままの自分を守りたかった。
「 ピラミッドはもとより王家の谷に隠された多くの墳墓は ほとんど略奪されてしまっておる。
その中でツタンカ−メンの墓は奇跡的に被害が少なかったんじゃな。 」
「 へえ・・・ 余程巧く隠してあったのですか? 」
「 いやぁ・・・ そのあたりはどうもナゾらしい。 発掘に当たった当時にな ・・・ 」
短調なエンジンの音と博士のぼそぼそいう話し声が唯一の物音だった。
時々相槌やら短い質問をするジョ−の声をぼんやりと聞くうちに
フランソワ−ズはふわり、と眠気に襲われてきた。
眠気、というより意識の浮遊というかんじだったが・・・
半分は車の中の自分をみつつ、残りの半分の意識は外へ飛んでゆく。
・・・ そうだわ。 昨夜も ・・・
不意に昨夜の記憶が蘇り、フランソワ−ズはそっと頬を染めた。
「 ・・・ は ・・ぁ なんか・・・ どうしたの? 」
「 ・・・・・・ 」
ジョ−は身体を離すと 大きく息をついた。
まだ息がととのわず、ちいさな痙攣が残る顔を見られたくなくて
フランソワ−ズはだまったまま、枕に顔を押し付けた。
「 ・・・ね? 顔、見せて。 凄かった ・・・ すごく ・・・ よかった ・・・ ! 」
「 ・・・あ ・・・ やだ ・・・・ 」
抗おうとしたが、ジョ−は少々強引に彼女の身体の向きを変えた。
白磁の肢体が 今は全身薄いばら色に染まっている。
「 ちょっと・・・びっくりした。 ・・・ いつものきみと ちがうみたい・・・ 」
「 ・・・ そんなに ・・・ ヘン ? 」
「 いいや。 その逆。 」
ジョ−は亜麻色の髪をかき遣ってフランソワ−ズの顔をつくづくと眺めた。
「 ・・・ 見ないで ・・・ まだ ・・・ 」
「 どうして? すごく綺麗だよ・・・ きみって 本当はこんなに情熱的なんだね・・・ 」
「 ・・・ だって ・・・ ずっと待っていたのですもの。 」
「 え・・・? 」
「 ・・・ え? ・・・わたし、なにか言った? 」
「 いや・・・ ぼくの気のせいだろ。 あ〜 ・・・ 旅行もいいね、特に二人っきりだと、さ。 」
「 ・・・まあ、 イヤな・・・ ジョ− ・・・ 」
「 ふふふ・・・・ 」
自分の腕をのがれ、ぱふんとうつ伏してしまった白い身体にジョ−は再び口付けを始めた。
「 ・・・ やだ ・・・ ジョ− ・・・ もう、今夜は ・・・ 」
「 明日は博士と合流するし。 二人だけでこの熱砂の都の夜を祝おうよ。 」
「 ・・・うれしい・・・ また会えたのね ・・・ 」
「 ? ・・・ねえ・・・ものすごく疲れてる? ・・・ 大丈夫かい、フランソワ−ズ。 」
「 ・・・ ジョ−? なあに、急に ・・・ 随分お行儀がいいのね。 」
「 ・・・・・ 」
ジョ−はちょっと眉根をよせたが、そのまま彼女の肩を引き寄せた。
・・・ 灼熱の国の都で。 二人の夜は密かに・静かに ・・・ 熱く燃えた。
そうよ・・・昨夜も。 なんだか意識が切れ切れで・・・
半分夢を見ているみたいだったわ。
ジョ−に ・・・ 抱かれているのに 時々・・・ふっと知らない面影が見えた・・・
ヤダ。 これって浮気願望??
自然に湧き上がってくる想いに頬を染め、そのことを知られたくなくて
フランソワ−ズはそっと両頬に手を当てた。
自然に 溜息が漏れてしまった。
「 退屈しちゃった? 随分単調な道だよね。 」
「 え・・・あ、ううん。 そんなこと、ないわ。 」
「 もう少しじゃよ。 おや、綺麗なコサ−ジュじゃの。 生花か? 」
「 ええ。 ホテルの売店で売っていたのですけど。 とっても心引かれて・・・・ 」
「 なんていったっけ? なんだか長い名前だったよね。 」
「 地味な花だけど、この色がとても深くて好きだわ。 この地方の特産だそうよ。
あら、そうだわ・・・ 」
フランソワ−ズは付けていた小振りなコサ−ジュから花を二輪引き抜いた。
「 博士も ・・・ ジョ−も。 ほら、この地に来た記念です。 」
「 おお・・・ ありがとう。 ・・・・ほう、結構よい香りじゃの。 」
「 へえ・・・ なんだかパ−テイ−に行くみたいだね。 本当だ・・・いい匂い・・・ 」
博士は上着のボタンホ−ルに、カッタ−シャツのポケットに
それぞれ一輪を留めた。
一見地味なその花は 二人の、いや三人の胸で輝きを増したように見えた。
「 ・・・祝福を。 この地へようこそ。 」
「 なに? 花屋さんで聞いたの? 」
「 え・・・・ この花のこと? 」
「 ・・・ フランソワ−ズ? 本当に・・・ 大丈夫かい。 」
「 なにが? 可笑しなジョ−。 わたし、こんなに元気よ? 」
「 だって・・・ 昨日からちょっとヘンだよ? 疲れが溜まっているのかな。 」
「 ああ、ジョ−。 そこじゃ、その崖の向こう側じゃ。 」
「 はい。 いよいよですね。 ・・・ あれ? 」
博士が指した崖を回りこんだところで、ジョ−はあわててブレ−キを踏んだ。
そのまま進入できると思っていたのだが、停止ラインが儲けられている。
トラックが停まり警備員とおぼしき人々が行き来していた。
「 どうしたんだろう? なにかあったのかな。 」
「 ここは文化施設じゃ、検問とかは無いはずじゃがの。 」
博士とジョ−は首を捻って車から降りていった。
フランソワ−ズは最後に助手席をはなれたが 一歩降り立ったきり
脚をとめてしまった。
・・・ オカエリナサイマセ
オマチシテオリマシタ ・・・
足元から、空中から わ・・・っとなにかが自分を取り巻いた。
フランソワ−ズはことさら背筋を伸ばし顔をしっかりと上げ ・・・ 静かに呟いた。
− ただいま戻りました。 ・・・ アナタ。
ついさっきまであんなに気に障っていた陽射しや髪を弄る乾いた風、
そして執拗にまつわりつく熱気が 不意に懐かしいモノにかわった。
長い、ながいあいだ忘れていたけれど。
触れてみればたちまちしっくりとこの身に馴染む ・・・ それは故郷の空気。
「 やっぱり迫力がありましたね。 」
「 そうじゃのう・・・。 なにかこう・・・ジ−ンと来るものがあったな。 」
「 お友達、えっと・・・ハ−シェル博士でしたっけ。 遇えてよかったですよね、
じゃなかったら無駄足になったし。 」
「 ああ、まったく、まったく。 ラッキ−というか ・・・ 少年王の<お導き>かの。 」
「 あはは・・・ 博士ったら。 またそういう・・・だから迷信深い、なんて言われるんですよ〜 」
「 な、なにもそんなコトはないわい。 ただなあ、なにかこう・・・ 不思議な雰囲気は
あったと思うんじゃ。 ロマン、とでも言っておくれ。 」
「 ふふふ・・・ そうりいうコトにしておきましょう。 ねえ、フラソワ−ズ?
・・・あれ、疲れちゃった ? 」
「 ・・・ え? ・・・あ、ううん。 大丈夫・・・ 」
フランソワ−ズは はっとして顔を上げた。
博士たちの会話に相槌もうたず、じっとティ−カップを見つめていたようだ。
<王家の谷>で 少年王・ツタンカ−メンのミイラを首尾よく見学し
午後のお茶の時間には 街のホテルにもどることができた。
半日以上 乾燥した風にさらされた後だけに エアコンの効いた空間にはほっとする思いだった。
「 ・・・う〜〜ん ・・・ やっぱり 快適だね。 」
「 ま、我々はこの地では異邦人じゃて、慣れんのは仕方あるまい。 」
「 ゆっくりお茶でも飲みましょうか。 ・・・ ねえ、フランソワ−ズ? 」
「 ・・・ ええ。 わたしも咽喉がからからだわ。 」
・・・ なんて寒いの。 ココは ・・・ 好きではない・・・
博士とジョ−の後を追いホテルのロビ−を横切るときに、ぞくりと悪寒が走った。
快適な温度と湿度に保たれているその空間が なぜか ・・・ 不快に感じた。
どうしちゃったの? ・・・風邪でも引いた? ううん ・・・ そんなこと。
今夜は熱いバスに入って ・・・ 早く休もう・・・
昼間の見学の興奮の余韻を漂わせ、熱心に話しあっている
博士とジョ−に フランソワ−ズはぼんやりと視線を投げていた。
・・・ああ、このコサ−ジュ。 はやくお水に入れてあげなくちゃ。
襟元のコサ−ジュ、花びらの端がすこしちりちりとし始めていた。
「 ハーシェル博士も誘ってくださったし。 一度ぜひ、ロンドンに行きませんか、博士。 」
「 ふむふむ。 むこうでまた彼ともいろいろ話したいしの。
すぐは無理でも近いうちに行くか。 」
「 ええ、是非。 なんだかぼくはすごく興味がわいてきましたよ。 」
「 ほう・・・ ジョ−、お前も結構 ロマンチスト なんじゃないか? 」
「 え・・・ そうかなぁ〜〜 」
「 ・・・ 花を ・・・ 」
「 え? なんだい、フランソワ−ズ? 」
「 博士もジョ−も。 花を預からせてください。 」
「 花 ・・・? ああ、 これ? 」
突然 ぽつりと口を挟んだフランソワ−ズに ジョ−は驚いたようだった。
彼女が人の話を遮ることなど、めったにあることではない。
「 博士も・・・ そのボタン・ホ−ルの・・・ 」
「 おお・・・ あや〜 ワシのも随分萎れてしまったぞ? 」
「 ・・・ まだ、大丈夫。 ちょっとお水に入れてきますね。 」
「 ・・・ あ ・・・ うん。 」
萎れかけた花をそっと両手で捧げ持ち、フランソワ−ズは足早に
ティ−ラウンジを出て行った。
スカ−フを肩に巻きつけたままの後姿を見送って ジョ−は首をかしげた。
ティ−タイムにはいつも、どこでも彼女自身ゆったりとお茶と会話を楽しみ、
周囲との和やかなム−ドを好むいつもの彼女とは思えなかったのだ。
さすがに博士も気にかかったらしい。
「 フランソワ−ズは ・・・ 疲れたのかの? 」
「 ・・・さあ・・・。 なんだか・・・ちょっとヘンなんだ・・・ この国に来てから・・・ 」
「 あのコサ−ジュはカルタマス・ティンクトリアスじゃったんじゃなあ。 」
「 カル・・・なんですって? 」
「 紅花じゃよ。 墓室で・・・ほら、ミイラに捧げられとった花束じゃ。 」
「 ああ、フランソワ−ズが随分熱心に見ていましたよね。 」
「 ふむ。 あの花はこの地方には群生しているそうじゃ。 」
「 へえ・・・。 でも やっぱりヘンだったなあ、彼女。 」
「 女心はデリケ−トなもんじゃ。 ま、お前、今晩は行儀良くしとるんじゃな・・・ 」
「 え・・・ そ、そんな・・・・ ぼく達はべつに・・・ 」
・・・ どうしたんだ? なにかあった・・・? いや、何かに気を奪われている・・・?
博士の軽口に赤くなりつつも ジョ−はどうも釈然としなかった。
ホテルの外には 夕方の砂嵐が吹き始めていた。
「 ・・・ はい? ・・・ フランソワ−ズ?? 」
「 ・・・・・ 」
ひくいノックにジョ−がドアを開けると、フラソソワ−ズが滑り込んできた。
「 なに、どうしたの。 こんな時間に・・・ もう寝ちゃったと思ってた。 」
「 ・・・ 一人で寝るのはイヤ・・・ 」
「 え・・・? 」
「 ずっと ・・・ ずっと 待っていたの。 」
「 フランソワ−ズ? 」
するりと白い手がジョ−の首に絡まると、熱い唇が彼の頬に瞼にそして唇に押し当てられた。
ほとんど棒立ちになっているジョ−に 彼女はどっと身体を投げかけてきた。
「 ・・・わ・・! ねえ、本当に・・・ どうしたんだい? 」
「 この地で再び巡り会え
「 え? え? なにを・・・ あ・・・ あっ フ、フラン ・・・ ソワ−ズ ・・・ 」
二人は縺れあってベッドに倒れこんだ。
熱砂の国の最後の夜は ・・・ 情熱の炎に彩られていた。
「 ・・・フランソワ−ズ、寒くない? 」
「 ええ・・・わたしは大丈夫。 ・・・あ 博士、お足元に気をおつけになって・・・
ずいぶんと霧が濃くなってきましたわね。 」
「 ・・・ こんな ・・・ こんなことにな
「 えっと。 ああ、あの木の向こうみたいですよ。 」
ひんやりとした空気が乳白色のベ−ルになって地上を覆っている。
踏み拉く芝生もしっとりと冷気を含み、墓地全体が涙をこらえているような天候だった。
博士を真ん中に ジョ−とフランソワ−ズはゆっくりと足を運ぶ。
霧の中から そこここに墓標が浮かび上がり、また埋没してゆく。
「 ・・・ ここじゃ。 」
ギルモア博士はひくく呟くと一基の十字架の前で足を止めた。
− Dr. ハ−シェル
ほんの数ヶ月前、熱気の渦巻く国でであったその人は、
今、この冷えた大地に眠っていた。
「 ・・・ 信じられませんわ。 あんなにお元気でしたのに。 」
「 うん・・・。 とても生き生きと仕事をしていられたのにね。 」
「 ・・・・・ そんな バカな ・・・! 」
旧友の墓前で博士は苦々しげに辛吟した。
「 あの事業にかかわった方々が何人も急に亡くなったようですね。」
「 そう、それで <ミイラの呪い>再び?って・・・ マスコミが騒いでいるみたいよ。」
「 <ミイラの呪い>? 昔の・・・発掘当時じゃあるまいし。 」
「 まったくじゃ。 バカげておる。 ・・・ しかし ハ−シェル君は・・・ 」
博士は言葉を切って墓標をじっと見つめた。
まるで・・・ そこからかつての友の言葉を聞き取っているかのように・・・
「 確かに変です。 やはり・・・なにかあるのかもしれません。 」
「 何かって・・・? 」
「 <ミイラの呪い>の名に紛れて、とんでもないコトを企んでいる・・・ってことも
考えられるだろ。 」
「 そうね。 ・・・あの時、まさかこんな形でロンドンに来ることにな
「 彼が、ハ−シェル君自身が一番そう思っているじゃろうよ。
できれば真相を知らせてやりたい。 こんな・・・ 妙な死に方をして、ばたばたと
こんなトコロに押し込められてしまった。 まるで、口封じのようじゃ。 」
「 それにしても、変ですよ。 この国の政府のやり方はあまりに急すぎる。 」
「 うむ・・・。 」
「 そうね・・・ なにかを懼れているのかしら。 」
「 うん。 ぼくにはどうもそんな気がするんだけど・・・・。 博士? 」
「 む・・・・ ワシもそう思う。 まさにペスト菌のように扱われおって・・・ 」
「 ペスト菌? ・・・ もしや ・・・ ? 」
「 いや、単なる比喩じゃが。 ・・・いや! そうじゃ!
<ミイラの呪い>とは 伝染病と関わりあいがあるのかもしれん。 」
「 調べましょう。 グレ−トにも協力を頼めるかもしれないし。」
「 そうじゃな。 我々は当時の、ツタンカ−メン発掘時の資料をあたってみよう。 」
・・・ 見つけて。 皆に教えて・・・ それがアナタの使命 ・・・
「 ・・・ え? 」
「 フランソワ−ズ? 行くよ。 博物館付属の図書館だ。 」
「 え・・・ええ。 」
霧を掻き分け、ジョ−の後を追いながらフランソワ−ズはこめかみをじっと押さえていた。
・・・また、聞こえる。 あの声が ・・・ 追ってくる・・・
黄昏の迫る霧の都で、フランソワ−ズはひとりあの熱気を感じていた。
それは ・・・ なぜかとても懐かしく・こころ安らぐ感覚だった。
わたし。 ・・・ どうしてココにいるの ・・・
かつかつと音をたてる足元の石畳がいつもよりずっと硬く・冷たくかんじられた。
う〜〜〜ん・・・!
空に向かってできるだけ腕を伸ばしてから、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。
− ああ、いい気持ち! 身体中がぱりっとするわ。
フランソワ−ズは一歩踏み出して ・・・ 目を見張った。
・・・ ここは どこ。
真っ青な空からは強烈な日差しが、そして煎り付ける熱気を孕んだ風が
どっと彼女を取り巻いた。
目の前には ・・・ 水路を多く配置し緑の陰を落とす潅木もかなりある庭園が拡がっている。
− みゃう?
足元からの可愛い鳴き声に目をやれば、セピア色の仔猫がじっと彼女を見上げていた。
「 おはよう。 トトメス。 お散歩にゆく? 」
みゃ〜お♪
・・・ トトメス?? え?ええ・・・???
「 一緒にお花畑にゆきましょう。 お母様に朝摘みの花束をさしあげたいの。 」
みゃお〜〜〜ん
何がなんだか判らず呆然としている自分と 物慣れた様子で庭園を突っ切ってゆく自分。
フランソワ−ズの中で、二つの自分が次第に一つに重なりあっていった。
・・・夢? そうよ、これは・・・きっと夢よ。
あら、わたしって随分コドモなのね? ・・・・ 10歳にもなってないんじゃない?
Last
updated: 02,07,2006.
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***** 仔猫のトトメスは勿論 アビシニアン♪ もうちょっと続きます〜〜