『 隣人 ― 近くの他人 ― ― (2) ― 』
******* フランソワーズ嬢のつぶやき ( 承前 )
ばさ〜〜〜〜 ・・・・・ !
心地よい風を受け 洗いあげたリネン類がひらひら身を翻している。
今日はウチ中の、いや < 家族 > 全員のベッド・リネン類を 強制徴収し
洗った。
「 う〜〜〜ん ・・・ 気持ちいい〜〜〜〜〜
この天気と風ならば ぱりっと乾くわね〜〜〜 」
フランソワーズは 空に向かって大きく息を吸いこんだ。
「 ふ〜〜〜う・・・ うふふ〜〜 そりゃ乾燥機は便利よ。 いつだってすっきり乾いて
殺菌までできて・・・ 衛生的よね。 」
暮らしている岬の洋館には 最新式、というか 超〜〜高性能・洗濯乾燥機 があり
衣類を放り込み ぽん、 とボタンを押せば ― 時間を経て あとは畳むだけ の
状態になって出来上がる。
「 そりゃね 山ほどのオトコモノを洗うのには超〜〜便利だわ。
あの・・・ぐちゃぐちゃの衣類に触らないですむのはとて〜〜〜も
時と場合によってはうれしいことよ。
でも でもね。 シーツやタオルケットはね ちゃ〜〜んとお日様の光と熱で
乾かしてほしいのよ 」
ふんふんふ〜〜〜ん♪ 彼女は シーツと一緒にくるくる踊る。
「 うふふ・・・ 今晩は気持ちよ〜〜く眠れるわね〜〜〜 」
「 フラン〜〜〜 これも干すのぉ〜〜〜 」
のんびりした声が後ろから聞こえてきた。
「 あ ・・・ ジョー もってきてくれたの? 」
「 うん! Gパンとか ・・・ 靴下とかだけど ・・・乾燥機かけた方が
よかったんじゃないのかなあ 」
両手に洗濯カゴをもって 茶髪の青年がにこにこしている。
「 運んでくれてありがとう! ちゃちゃっと干すわ。 お日様に当てた方が
気持ちいいでしょ〜 」
「 そうだね〜〜 あ ぼく やるよ 」
「 手伝ってくれるの? ありがとう〜 」
「 あ ・・・ そのう〜〜 ぼくがやるから さ。 きみは中に入って休んでて 」
ジョーは モジモジしつつ洗濯カゴをしっかりと抱えている。
前髪が隠しているので よくわからないが ― なんとなく顔が赤い。
「 ?? 一緒にやればすぐに終わるわ? 」
「 あ・・ う〜〜ん そのう ・・・ これ さ。
下着も入ってるから ・・・ 博士とかぼくとかの ・・・ ごめんね ・・・」
「 ?? どうして謝るの?
み〜〜んな洗ったから下着もあるでしょ? なおさらお日様に乾したわ 」
「 ・・・ あの いい の・・・? ごめん ・・・ 」
「 ?? 」
彼はますます顔を赤らめ 彼女はさっぱり腑に落ちない。
なんなの??? ― あ。 そっか〜〜〜
やだ〜〜〜 うふふ〜〜〜
そっか そっか〜〜 多感な青少年なのね♪
「 うふ 気を使ってくれてありがとう。
ジョー わたし ずっと兄と二人で暮らしてたから全然平気よ?
< 家族 > の洗濯モノは 一緒にぱ〜〜っと干しましょ ? 」
「 え あ う うん ・・・・ 」
「 さ〜〜〜 こっち側から干すわよぉ〜〜〜 」
ふんふんふ〜〜ん ハナウタ混じりに彼女はテキパキ乾してゆく。
「 あ う うん 」
うわ ・・・ いいのかなあ〜〜〜
でも でもね フラン。
ぼくは きみの ・・・ そのう〜〜〜
・・・ 下着 ・・・ には指一本触れないから! ね!
ジョーは ものすごく真剣な顔で洗濯モノを乾している。
うふふふ・・
かっわいいのね〜〜 ジョーって!
くすくすくす・・・ フランソワーズは心の中でハナウタを歌いつつ〜〜
洗濯モノを乾していった。
さわさわさわ 〜〜〜〜〜
ギルモア邸の裏庭に 満艦飾の洗濯モノがへんぽんと揺れるのだった。
「 あ〜〜〜 いい気分よねえ〜〜 」
「 ウン 風が気持ちいいねえ 」
「 手伝ってくれてありがとう ジョー。 うふふ〜〜 実はね〜 お茶に
シフォン・ケーキを焼いておいたの。 食べましょ? 」
「 しふぉん け〜き って あのふわふわの? うわ〜〜〜〜〜〜い♪
あ ぼく〜〜 花壇に水 あげてから行くね 」
「 そうそう お願いします〜〜 じゃ これはわたしがもって行くわね 」
ふうん・・・ そんなこと、気にしてたんだ?
へ〜え・・・と思いつつ 彼女は空の洗濯カゴをもってキッチンに戻った。
「 えっと ・・・ お茶の用意〜〜っと。
お湯はちゃんと沸かしたいのね ・・・ シフォン・ケーキの焼き上がりは〜〜 」
オーブンの中をちらっと覗き 彼女は満足の笑みを浮かべる。
「 いい感じ♪ ティーは〜っと・・・ グレートが送ってくれたのが
まだあるわね〜 あ 博士のジャムと ・・・ ミルクもね 」
手際よく ティ―・カップやらお皿を取りだし
「 うふ ・・・ このお家での暮らし ・・・ 好き かも ・・・
とっても気持ちのいい土地だし ・・・ お買いものも慣れたし。
なんだか わたし ・・・ 楽しいのね 毎日が。
そりゃ 家事も大変だけど ・・・ ジョーも手伝ってくれるもの ね 」
ムサイ男所帯には慣れているつもりだった。
その昔は 兄と二人暮らしだったし ・・・
でも ね、と彼女は 懐かしい記憶をたどる。
「 お兄ちゃん って 結構オシャレだったわ
パパは勿論だけど 粋なパリジャンだったもの。
二人ともいつだって煙草の匂いとコロンの匂い がしていたわ 」
洗濯モノに 男物が混じっているのは当たり前だった。
ジョーってば 家に女性がいるって経験、ないのかしら
・・・ あ。 そういえば施設で育ったって言ってたっけ。
え・・・ でも女子だっていたでしょうに・・・??
ますます < よくわからない > 存在に思えてきた。
それにしても、と彼女は思う。
― あの暗黒の日々は 生活 などと言えるものではなかった。
生き延びるために必死だったのだ、男だ女だと拘っている余裕などありはしない。
生きて行くことすら危うい日々の 滅茶苦茶な暮らしは もう思い出したくもなかった。
その後の逃避行の日々では 少しは生活感があり 仲間たちの普段の顔
を垣間見る
チャンスがあった。
「 アルベルト や グレート は ・・・ そうねぇ
親近感っていうのかなあ
なんとなくこう〜〜 感覚的にわかるのよ。 お兄ちゃんやお父さんと似た
雰囲気だもの 」
他のメンバーたちも 共に行動してゆくにつれ少しづつ理解できる範囲が
増えてきた。
彼女自身も落ち着いてきて、仲間たちに普通の眼差しを向ける余裕もでてきた。
・・・なあんだ ・・・ 皆 普通のオトコノコ だわ ・・・
これなら 本当に仲間として交流してゆける、とほっとする思いだ。
博士って ・・・ 本当に博識で優秀な方なのね ・・・
そんな人が 自分自身の過ちを率直に認めるって
すごいことよねえ・・・
憎悪の的であった対象は だんだんと親しみと尊敬を向ける人物になっていった。
そして それでも ― 一番謎なのが 例の茶髪のニホンジン だった!
「 そりゃ〜ね〜
行動を共にした期間が短いんですもの どんな性格なのか とか
よくわかんないのは 仕方ない かも
… ううん〜 でもやっぱり わかんな〜い〜 」
― 最後に仲間になった彼は口数は少なく、戦闘時以外は目立たない存在なのだ。
逃避行の間 しばしば行っていたミーティングなどの時、 彼は いつも一番後ろに
ひっそり … 座っていた。 そして 自分から発言することは まず ない。
強いて意見を求められれば
みんなと一緒でいいよ と
ぼそ っと言うだけだ。
アルベルトや ピュンマ のように意見を とことん述べあい互いに納得するまで議論する
なんてことは決してない。
「
でもね〜 彼 なかなか鋭いのよね〜 議論が白熱し
少々脱線しかけた時なんか
あ あの さあ〜 っておずおず口を挟み 話、もどそうよ? って言うのね。
でもそして必ず!
あ ごめんね
って何回も言うのよ〜
彼はいつも ほんのり微笑を浮かべひっそり控えていた。
「 それなのに、 ね〜〜 それなのに戦闘時は どう??
そりゃ最初は戸惑ってたけど ・・・ でもね〜〜ホント、 < ヒトが変わる > って
あのことなんだわあ 」
ストン ・・・・ シフォン ・ ケーキを型からだして大皿に乗せた。
「 うふ♪ いい色〜〜〜〜 こ〜れは上手く焼けたわ〜〜〜
切り分けとこうかな ・・・ あ でもジョーに切ってもらおっと 」
そろそろお湯が沸いてくる。
「 いつも一番後ろで黙ってる彼がね〜 戦闘時は 最強の009 になるんだもの・・・
いったいどういう性格なのかしら あ 博士に声、かけとこっと
博士〜〜〜 お茶にします〜〜〜 」
ガスの火を小さくすると彼女はキッチンのインタフォンを押した。
ごく普通の日々、平凡で穏やかな時間が流れてゆく・・・
その流れに慣れてくるにつれて 同居人 の性格にも徐々に理解できるようになった。
「 ・・・ ふ〜〜〜ん ・・・ 009って あ ううん ジョーって
そ〜いうヒトなのかあ・・ 」
フランソワーズは なんとな〜〜くいつも彼のことの存在を目の端でおいかけている
自分自身に気がつくことがある。
あ れ ・・・?
やだ わたしったら・・・・ 彼のこと ・・・?
う〜ん だって放っておけなじゃない?
気になるって それはねえ 心配ってことなのよ
そう! これはね〜 もう 保護者の気分よ!
そんな風に思いこもうとしていた。
一方彼の方はといえば 実に淡々とそして飄々と日々を送ってる。
仕事は とりあえずのバイトで、配送業の仕分けのそのまた助手 ― 要するに
チカラ仕事 をしているらしい。
「 疲れない? 張大人のお店で働かせてもらえばいいのに ・・・ 」
遅い時間に帰ってくる彼が やはり気にかかる。
「 あ こんな時間まで起きててくれなくていいよ。 眠いだろ? 」
「 大丈夫。 ジョーだってお腹空くでしょう? ほら 夜食どうぞ。 」
ことん …と ホット・サンドイッチのお皿を置いた。
「 うわ〜〜〜お〜〜〜〜♪ 感激〜〜〜〜〜 んま〜〜〜〜 」
「 うふふ・・・よかったあ 」
「 〜〜〜 ん〜〜〜 んま〜〜〜〜 すっげ激ウマ〜〜〜 」
滅茶苦茶感激して お皿のサンドイッチはあっと言う間に消えた。
「 あ〜〜〜〜 ウマかったあ〜〜〜 あ ごちそうさまでした。 」
彼は 空のお皿を前にぺこり、とアタマを下げた。
「 気に入ってくれた? 嬉しいわあ〜 」
「 さ・・・っいこ〜〜でした♪ あ でも その ・・・
こんなに気を使ってくれなくていいデス。 作るの、面倒だろ?
ぼく ・・・ カップ麺とかで十分だから 」
「 え そんなカップ麺なんてだめよ〜 栄養が偏ってしまうわ。 」
「 でも・・・ 」
「 平気よ〜 晩ご飯の材料をサンドイッチにしただけだもの。
だってジョーの晩御飯でしょう? 」
「 う うん ・・・ アリガトウ・・・ ごめんネ 」
本当に申し訳なさそうな顔をするのだ。
「 あら どうして謝るの? 」
「 あ ・・・ うん でも ・・・ 」
「 ね? 気にしないで? こんなにキレイに食べてくれてわたし
ものすご〜〜くうれしいんだもの。 」
「 えへ ・・・ ホント 美味かった〜〜 あ ごめんネ 」
あら また謝るの ・・・?
ごめん・・・ は どうも彼の口癖らしい。
今は三人、いや イワンも含め四人暮らしだから 以前のような仲間同士での
丁々発止な議論をすることもない。
おしゃべり方々なんとなく意見交換をして日々を過ごす ― 彼はそれがいい・・・らしい。
「 議論? ・・・ぼくは聴いているよ。 ぼくなんかよりすぐれた意見をいっぱい
聞いて勉強したいしね 」
そして 彼はまたはにかんだみたいにちょっと微笑むのだ。
ふ〜〜〜ん ・・・・?
こういう風に思えるのって ― 実は すごく強い ってこと・・?
相手より優位に立とうとわざわざ議論をふっかけたり、理論武装して相手を論破することは
― それはそれで知識が必要だろうけれど 相手への全否定は絶対に必要なことだろうか。
わたしたち いつだって率直に意見を述べ合って・・・
論じあって ― 行動の指針にしてきたけど。
それはマチガイじゃないとは思うわ けど ・・・
ともかく聞く っていう方法もあるんだわ?
・・・ そっか ・・・ 彼はいつだって < 聞く耳 > と
受け入れる度量 をもっているのね
う〜〜〜ん ・・・
彼の生き方って なんだかものすごく新鮮だわ?
「 もしかして ― 彼がホントに一番強い ・・・ のかも・・・
そうよ。 柔軟な心は 絶対に折れない わ。 そうよ ・・・ 」
そういえば ― 闘う場合、特に防御に回り そして なにか 誰かでもいいが を
護るために闘うとき、 009の強さはぞっとするほどだった。
「 は ・・・ ! アイツを敵に回さんでよかった 」
「 そうだね。 僕は時々背筋が冷たくなるよ 」
「 なんかよ〜〜 守りはアイツのが上だ。 オレは 苦手だからな〜〜 」
仲間たちが ぼそぼそ言っていた会話が今、意味をもって心の中で
よみがえる。
そっか ・・・ 先頭をきって飛び出して行ったり
一人で何百体ものロボット兵を倒すのも スゴイことだけど・・・・
けど ― 護りが最強って ・・・ ものすごいことだわ
わたし 気がつかなかったけど 彼はずっと ・・・ 鉄壁の護りで
仲間を援護していたのかもしれない わ
ふうん ・・・ と 少しづつ 隅っこにいる寡黙なヒト への印象が変わってきた。
脱出と逃避行の間にはそんな余裕はあまりなかったけれど。
そして 穏やかで当たり前の日々 をやっと取り戻した。
で もって。 彼女は改めてアタマを抱えてしまうのだ。
「 ・・・ ジョーって。 いったいどういうヒトなの・・?? 」
一つ屋根の下での生活は ごく平凡で穏やかだ。
博士は昔からの早起き、 彼女自身も自分の目標に向かって驀進を始めたので
早朝に出かける日が多い。
一方 彼は ―
「 あ ぼく、出かける時間 遅いから放っておいていいよ〜〜 」
「 あら そう? いいの? 」
「 ウン、 あは 早起きは苦手だしさあ〜 」
彼は屈託なく笑うのだ。
眠いたい病?の青少年の例にもれず ― 毎朝 彼は最後にぼ〜〜〜っと起きてきた。
当然、 同居人たちはとっくに朝食を済ませそれぞれの仕事にむかっている。
「 ふぁ〜〜〜 ・・・ あ サンドイッチだあ〜〜 いっただっきま〜〜す♪ 」
冷蔵庫から 自分の分を取りだすと、でっかいマグ・カップにインスタント・コーヒーを
どばどば入れて の〜〜〜んびり平らげる。
ちゃんと食器も洗っておくので フランソワーズとしては文句のつけようもない のだが。
彼の日常は まったく < 地味 > なのだ。
煙草 吸わない。 オシャレ・・・ もしていない。 音楽を聴くのは好きそうだ。
ふうん ・・・?
お兄ちゃんって いっつも煙草とコロンの匂いがしたけど・・・
ほぼ < 同い年 > なはずなのでちょっと不思議に思う。
「 え ・・・ 煙草? あ・・ ぼく 未成年 だしさ ・・・ 」
「 あら 日本では18歳はダメ? 」
「 ウン。 」
「 ふうん ・・・ でも こっそり・・吸ったりしていなかった? 」
「 あ〜 同級生ではいたけど ・・・ ぼく 施設育ちでさ ・・・
煙草って結構するじゃん? 小遣いとか少なかったし ・・・ 」
「 ・・・ あ ごめんなさい ・・・ 」
「 え〜 いいよう〜 別に。 バイトはしてたけど 教会の施設運営のためって
とこもあったから ・・・ 」
「 そう なの ・・・ あの 日本の男の子は コロンとかつけないの? 」
「 コロン??? あ 香水みたいなヤツ? 」
「 そうね、 香水より香は軽いし安くて手軽に使えるの 」
「 え〜 でも それってオンナの人のものだろう?? 」
「 女性用が多いけど 男性用もあるわよ? シャワーの後とかに 」
「 へ〜〜〜 日本は う〜ん すくなくともぼくの周りではあんまり ・・・・
あ 神父さまはいつも石鹸の香がしてたなあ 」
「 それって 多分シャボン系のコロンよ 」
「 そうだったのかなあ ・・・ 」
「 ね ジョーのつかってみない? わたしの父や兄も使っていたの。 」
「 え ・・・ い いいよ ・・・ ぼく 石鹸とシャンプーでいい〜〜 」
「 そう? それなら香のいい石鹸、買ってくるわ。 」
「 あ! あのぅ ・・・ ぼく ふつうの石鹸がいいデス。
いま ウチのお風呂場にある石鹸が好きデス。 」
「 ごく普通の 浴用石鹸 なんだけど あれでいいの? 」
「 ウン♪ なんかね〜〜 懐かしい匂いで好きなんだ〜 」
「 それは よかったわ ・・・ あ もしかして ・・・ 香水とか嫌い? 」
「 う〜ん ・・・ あんましキツイのは ちょっと苦手かも ・・・
ほら 香水 着てるみたいな人、いるだろ? ああいうの ・・・ だめだあ 」
「 あはは ・・・ 着てる ねえ〜 わたしだって苦手よぉ〜〜 」
「 あ きみも? 」
「 ええ。 香りはねえ ほんのり纏うっていうのがシックでいいの。 」
「 しっく ? 」
「 え〜と ・・・ 粋 ( いき ) っていうの? 」
「 いき?? それもフランス語? 」
「 日本語よ! アルベルトが教えてくれたんだけど ・・・
かっこいい っていうか おしゃれ〜 っていうか ・・・ 」
「 ふ〜〜ん・・・・ あ く〜る! ってことかなあ 」
「 う〜〜ん ・・・ ま そんなトコかしら 」
「 ふうん ・・・ じゃ ・・・ キミハ トッテモしっくデス 」
( Vous etes tres chic )
彼は とつとつと彼女の母国語で言うと ぱ〜〜〜っと駆けだしていった。
え ! ・・・ うふふふ なんか嬉しいな ・・・
彼は単なる同居人であり 特殊な運命の糸で括られてしまった仲間、そう思っていた。
新米の彼にはいつもハラハラさせられ 頼りない〜〜 とイライラもした。
東洋人って ― いや ニホンジンって 全然理解できない! とお手上げだったこともある。
けど ・・・ 彼は 普通の18歳のオトコノコ ・・・ だわ
そう思えた時、 理解不能だった彼の性格やら行動がすこしづつ身近に感じられるようになった。
ごく当たり前の平凡な時間が流れる中で なんだかよくわからない・男の子 は
だんだんと 気になる男の子 になっていった。
******* そして 二人のつぶやき
「 笹〜〜〜 とってきたよぉ〜〜〜 」
裏口でジョーががさごそやっている。
「 わ! 裏山にあった?? 」
周りに広げていた紙細工の山を ひょい、と飛び越えるとフランソワーズは
リビングから駆けだした。
はたして 彼は丈の長い葉の多い笹をもってきていた。
「 わあ ・・・ 立派なの、あったわねえ 」
「 ウン。 ほら ・・・ 裏山に小さな沼みたいな池があるの、知ってる? 」
「 知ってる! ちょっとステキよね 」
「 そうだよね〜 あそこの岸近くに笹がいっぱい生えてるんだ。
ほ〜ら〜〜〜 枝ぶりもいいの、選んできた! 」
ジョーは 背負ってきた笹をわさわさと振ってみせた。
「 ほんとう・・・・! ねえ いっぱい飾り、作ったの。
たんざくもたくさんね〜〜 ジョーも願い事、書いてね 」
「 え ぼく も? 」
「 そうよぉ〜〜 ウチ中皆書いたのよ? イワンにも書いてもらったわ 」
「 わお イワンも? 」
「 そ。 なにが欲しい? って聞いたら みるく っていうから。 」
「 あは じゃあ イワンの短冊は みるく ? 」
「 ぴんぽん♪ あとはね〜〜 ひらひらキレイなもの、つくったわ〜〜
見て 見て〜〜 ねえ ジョー、一緒に飾りましょ。 」
彼女は 足元に積んである色紙の細工ものをもちあげた。
「 うわ ・・・ いっぱい作ったね〜〜 あ なつかしいな〜〜〜
こ〜いうの、よく作ったんだ ぼく。 」
「 まあ そうなの? 七夕飾り って 日本のお家ではポピュラーなのね 」
「 う〜ん ・・・ どうかな? ぼくはさ ほら 施設育ちだから・・・
皆で作ったんだ。 大きくなってからはチビっちゃい子たちのためにも ね 」
「 あ・・・ そう なの ・・・ 」
「 うん だからさ〜 結構上手いんだぜ? 」
彼はハサミを取り上げると 器用に 網 を作ってみせた。
「 うわ・・・ ホント、上手ねえ〜〜 うわあ〜〜 細かい〜〜〜 」
彼女は彼の作品を広げ 感心している。
「 えへ・・・ 折り紙とか得意なんだ〜 ぼく ・・・ 」
「 そうなの?? すっご〜〜い〜〜 あ ねえ 短冊も書いてね 」
「 あ ・・・ ウン えっと ・・・ 」
フランソワーズが飾りつけに熱中している間に 彼は後ろを向いてこちゃこちゃ
短冊に書きこんでいた。
「 こ〜れでいいかしら
」
「 うわあ〜 キレイに飾ったなあ ・・・ じゃ これ・・・
テラスに結びつけるね。 」
「 ありがとう〜 笹も天の川が見られるわ。 」
「 そうだね 今晩は晴れそうだし・・・・ え〜と これでいっかな〜 」
ジョーは笹をテラスに持ち出すと 器用に柵に括り付けた。
「 すてき すてき〜〜 あ ジョーのお願いはなあに? 短冊になんて書いたの? 」
「 え! ・・・ あ〜〜 ナイショ・・・ 」
「 見ちゃう〜 あら 」
皆と仲良く暮らせますように
ブルーの短冊に ちまちました字が書いてあった。
「 皆って ゼロゼロナンバーの仲間たち のこと? 」
「 あ ・・・ ま〜 それもある けど・・・ 」
「 けど? 」
「 う うん ・・・ 隣の人と さ〜〜 」
「 お隣?? ・・・ って 坂の下の国道の向こう側のお家?? 」
「 え! い いや ・・・ ぼくの と、隣の人 ・・・ 」
「 ・・・! うふ ・・・ わたしも よ♪ 」
「 え! うっわ〜〜〜〜〜 」
そろそろ暮れなずみ始めた空を 二人は並んで見上げた。
今夜は ― 見事な天の川が眺められそうだ・・・
さわさわさわ ・・・ 笹の葉が 海風に揺れている。
「 ・・・・・・ 」
「 ・・・・・・ 」
ジョーの手が こそ・・・っと 隣の人 の白い手を握った。
フランソワーズは きゅ・・・っと 隣の人 の大きな手を握り返した。
隣のヒト
は 知り合い となり
親しい友 となり
…
やがて 愛しいヒト つまり ウチの彼 ウチの彼女
と なるのだった。
… そ〜れでもさあ
オンナノコって〜 よくわかんね〜よ〜
ジョーは
いまでもこっそり・・・ ぼやいている。
**************************** Fin. *************************
Last updated : 07,12,2016.
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************* ひと言 ***********
ちょっと遅刻ですが〜〜 七夕話 に
くっつけてください〜〜 (*^^)v