『 なつやすみ ― (3) ― 』
ぎらぎら太陽が やたらと頑張っているその年の夏 ―
岬の島村さん家の双子は 楽しい・楽しい 夏休みの日々を送っている。
お父さんとの超早朝のジョギングも どうやらなんとか続いているし
学校のプールにも 元気に通っている。
「 おか〜さん 僕ぅ お昼ご飯のあと、としょかん いくね。 わたなべクンと 」
出がけに すばるがとても熱心に申告する。
「 はい わかったわ。 < たたんた・たん > までには
お家にもどっていること。 いい? 」
「 ウン 」
「 図書館には時計 あるから ちゃんと見るのよ 」
「 は〜〜い 」
「 おか〜さん アタシ 今日、バレエきょうしつ。 」
「 そうね、 忘れ物しないように。 シューズ 忘れないのよ 」
「 ウン 」
「 髪 お団子にしてね。 この前 教えたわね 」
「 う うん・・・ 」
「 出来なかったらね、 お下げのままでいいから。 」
「 うん♪ アタシ おけいこ がんばる〜〜〜 」
「 今日は お母さんがお迎えにゆくからね 」
「 わい〜〜 ねえ じてんしゃ ご〜〜〜 やって〜〜〜 」
「 ・・・ 考えときます。 」
早朝ジョギング から帰り た〜っぷり朝ごはんを食べ
すぴかとすばるは たったか学校の夏季水泳指導 に出かけていった。
「 ふふふ ・・・いつも元気じゃなあ 」
博士がにこにこ・・・ テラスで庭仕事に精をだす。
去年、 子供たちが持ち帰った朝顔は 零れ種が元気に芽をだした。
テラスの柱に絡みつき 今は毎朝色とりどりの花を咲かす。
その水やりやら ツルのためのつっかい棒 とか 咲き終わった花をつむ・・・
とかは 博士の手を煩わせ ― さらに。
「 あ〜 ちびさん達のプチ・トマト かあ ・・・
こりゃ 手を入れんとまずいなあ。 鉢植えごと温室にいれるか? 」
博士は如雨露片手に テラスで思案をしている。
すばる と わたなべクンは < うごくでんしゃ > 作り に熱中している。
二人して 図書館に通い せっけいず ― 単なる想像図 に
近かったけれど ― を書き コツコツ材料を集めている。
「 おか〜さん あきばこ ある? 」
「 あきばこ? なんの 」
「 なんでもいい 」
「 なんでも・・・って なにに使うの すばる 」
「 あのね なつやすみのしゅくだい。 うごくでんしゃ つくる。 」
「 え〜〜〜 すばるが?? 」
「 ウン。 わたなべクンといっしょ。 ねえ あきばこ ある? 」
「 う〜〜ん それじゃしっかりした箱がいいんでしょ?
すぐに潰れちゃうのじゃなくて 」
「 ウン、 じょうぶなのある 」
「 う〜〜ん お菓子や食べ物の箱は あまり丈夫じゃないわねえ
あ おじいちゃまに聞いてみれば? お仕事で使う箱 あると思うわ。 」
「 うん! おじ〜ちゃま〜〜〜〜 」
すばるは博士のもとに飛んでゆき ―
「 はこ? ・・・ うごくでんしゃ にする?
ふ〜〜〜ん・・・ ちょっとお待ち。 」
ガサ ゴソ ゴソ ― なにやらアルファベットがいっぱいついた空き箱を
山ほど 出してもらった。
「 わ・・・ すご ・・・ これ えいご? 」
「 いろんな国からのものだからなあ ・・・
気に入ったのを持っておゆき。 どれでも いくつでも 」
「 わ ・・・ あ わたなべクンとそうだんしていい、おじいちゃま? 」
「 おう 共同制作者 にも 見てもらえばいい。 」
「 わ〜〜 ありがと〜〜 おじいちゃま〜〜 」
両腕いっぱい空き箱かかえ すばるはもうご機嫌ちゃんだ。
「 二人でよく相談しなさい。 < うごく > ためにどうするのかね 」
「 ウン あのね〜〜 わごむ でぐりぐり〜〜〜〜〜ってやるんだ〜
学校のとしょしつ でね〜 『 うごくこうさく 』 ってほん、
みつけたんだ〜〜 あ これヒミツだよ? 」
「 輪ゴムで? おお そりゃ立派な動力だな 」
「 どうりょく? 」
「 動かすためのチカラ という意味じゃよ。
輪ゴムを捻るのじゃったら 車輛もしっかりと作るといい。 」
「 しゃじく ってなあに 」
「 車体をささえる柱みたいなものさ。 大切なんじゃ。 」
「 ふうん・・・ かたいはこ つかうね 」
「 おお おお さすがすばるじゃのう 」
「 あは わたなべクンがおしえてくれたんだ〜〜 」
「 そうかそうか お前たちはほんにいい友達だのう 」
「 えへへ〜〜 僕たち しんゆう だも〜〜ん 」
すばるは 茶色の瞳をくりくり〜〜させ 大喜びで箱をもっていった。
「 すばる? わたなべクンに来てもらって・・・ ウチで作業しても
いいわよ〜〜 」
「 わお〜〜 」
「 図書館じゃ 作業はできないでしょ?
おじいちゃまから頂いた箱で つくるのね? 」
「 うん! わたなべクンと〜〜 」
「 それじゃね〜 リビングに新聞紙を敷いておくから。
その上で作業していいわ。 ノリとかテープとか鋏 いるわね〜 」
「 わ〜〜い 僕たちのこうじょうだ〜〜 」
「 お母さんから わたなべくんのお家に電話しておくから。
プールの後、一緒に帰ってらっしゃい 」
「 うん!!! わ〜〜い わ〜〜い 」
― そして リビングの一画は < 車輛作成工場 > となり
のり だの はさみ だの せろてーぷ だの ・・・が
散乱するようになった。
「 う〜〜ん ・・・ くっつかない〜〜 」
「 どこ? あ ねじねじゴムをくっつけるトコ かあ 」
「 ん〜〜 のり と テープ はったけど 」
「 えいっ! ・・・ あ〜〜 とれちゃった・・・ 」
二人は 動力部分を車体にくっつけるのに苦心している。
「 ? どうしたね 」
「 あ おじ〜ちゃま〜〜 」
博士が 如雨露に水を入れに通りかかった。
「 ふむ? ここがくっつかない って ?
・・・ そうか。 それじゃなあ くっつけるのはやめて 」
「「 え?? 」」
「 こう して ・・・ な? 」
「 ・・・・ うわあ〜〜〜 」
「 すげ ・・・ 」
博士は ちょい ちょい と子供用の鋏を使い 彼らの問題を
いとも簡単にクリアしてみせた。
「 な? はりつける 以外の方法を見つけてごらん 」
「 わ すっげ〜〜 すっげ〜〜〜
あ そしたら〜〜 ぱんたぐらふ も ・・・ 」
わたなべクンは 案外器用に鋏を動かしはじめた。
「 わお〜〜 わたなべクン すっげ〜〜 」
「 こっち 切って? 」
「 うん ! 」
チビでもさすが男の子、 手作りの車体は立派に < 電車 >
になってきた。
「 おか〜さん 明日 わたなべクンち にいくね 」
一週間くらい経った日 すばるが報告してきた。
「 え 約束したの? 」
「 うん。 でんしゃのいろ ぬるんだ〜 」
「 え・・・ ちょ ちょっと待ってよ 」
フランソワーズは慌てて リビングの固定電話にとんでいった。
「 はい あらあ〜〜 すばる君のおか〜さん 」
わたなべクンのお母さんはいつもの通り明るい声だ。
「 こんにちは あの ・・・ 今 すばるが言うのですが・・
明日 御宅様にお邪魔するとか 」
「 ええ ええ 大地がはりきってますの。
色塗り? そ〜なんですよ ウチにねえ 絵具がけっこう余っているので
それを使えれば〜〜 って思いましてね 」
「 え ・・・ でも お家、汚れません? 」
「 大丈夫。 レジャー・シートの上に だ〜〜〜〜っと
新聞紙 広げますから。 二人の力作に期待ですわ 」
わたなべくん・まま は ころころ〜〜 楽しそうに笑う。
「 ・・・ すみません・・・ 汚したらびしびし叱ってくださいね 」
「 はいはい すばるクンによろしく〜〜 」
「 ありがとうございます 」
フランソワーズは丁寧に電話を切った。
「 ね? 」
すぐ脇で すばるはにこにこしている。
「 ええ そうね。 すばる、わたなべクンのお家を汚したらダメよ?
ウチはも〜〜 いろいろ汚れてるけど ヨソのお家は綺麗なんだから 」
「 僕たち よごしたりしな〜いも〜〜ん 」
これ ぬるんだ〜〜 すばるは とて〜〜も大事そう〜に
< うごくでんしゃ > を抱えてきた。
「 あら ・・・ よくできてる 」
「 ふっふっふ〜〜〜 ちゃんとうごくんだよ〜〜 」
「 すごい ・・・・ すばる 」
「 わたなべクンね とってもはさみつかうの じょうずだよ 」
「 そうねえ お母さんに似てわたなべクン、器用だものねえ 」
「 僕は 〜〜〜 」
「 すばるも 上手になったわよ。 ね 色塗りおわったら
お母さんにも見せてね。 」
「 うん♪ いっとさいしょ は おじ〜ちゃま だけど 」
「 そうね そうね 」
すばるは 着々と、そしてものすご〜〜く楽しそうに 夏休みの
宿題を消化?している。
「 あら ? カーテン 閉めたはずなのに ・・・ 」
晩御飯も終わって 鳩時計が九つ、鳴いたとき
フランソワーズはちょいと首をひねった。
リビングの隅っこ テラスへのサッシ側のカーテンが少しだけ 開いている。
「 やだわ わたし、きっちりしめなかったのかしら。 」
腕を伸ばした時 ― しろっぽいパジャマの背中がちらり、と見えた。
! すぴか。 わざわざここから出たの?
カラリ。 彼女は慌ててサッシを開いた。
「 すぴかさん? ほら もうおやすみなさい の時間よ 」
「 え ・・・ うん 」
フランソワーズは テラスにいる娘に声をかけた。
すぴかは パジャマ姿で じ〜〜〜っと夜空を見上げているのだ。
「 ? ああ ・・・ お星さま、 きれいね 」
「 ・・・ うん ・・・ 」
「 お星さまの観察をしていたの? さあもう中にはいって
お休みなさい、しましょ。 」
「 ・・・ う ん ・・・ 」
すぴかは 珍しく生返事、視線は空から離れない。
あらら ・・・・ どうしたのかな
なにかあったのかしら
「 すぴかさん。 ・・・ どうか した? 」
彼女はベランダにでて 幼い娘の肩を引き寄せた。
「 おか〜さん どうもしないよ?
アタシ 空 みてたの。 」
「 ああ そうなの? でも もう中に入って寝ましょう?
明日の朝も お日様より前 に起床 でしょ?
」
「 あ うん ・・・ 」
ふぁ〜〜〜〜 すぴかは特大の欠伸をした。
「 ほうら おやすみなさい〜〜って。 お星さまに挨拶して ・・・
明日も お天気ね〜〜〜 」
小さな肩を抱きかかえるみたいにして 彼女は彼女の娘と一緒に
室内に戻った。
そういえば このごろ 早朝ジョギングの時 すぴかはアクビを
ぼわぼわ〜〜 連発していた・・・
ふうん ・・・ すぴかの < かんさつ日記 > は
お星さま なのかしらね・・・
このちょっと変わった感性をもつ娘の宿題を フランソワ―ズはとても
楽しみにしていた。
― その夜 ・・・・
ゆさ ゆさ ゆさ ゆさ ―
ジョーは身体全体をはげしく揺さぶられるのを感じた。
・・・ う? な に ・・・
!!! 緊急事態 か!?
熟睡していた彼は 009モード になって飛び起きた。
目の前には ― 003の真顔があった。
これ は・・・?
「 すぴかが いないの ! ベッド 空なのよ 」
え???
彼の中で 009 → すぴかのおとうさん へ 即行でモーチェンジ。
「 ・・・ トイレ とか 」
「 みたわ! バス・ルームにも 下のキッチンやリビングも 」
「 すばるは 」
ジョーは パジャマを脱ぎ棄てつつ 妻に聞いた。
「 寝てるわ。 いつもの通り・・・ 」
「 ちょっと探してくる 」
「 家の中には いないの! わたし全部 見た んだもの。 」
「 わかった。 きみは子供部屋にいてくれ 」
「 ええ ・・・ 」
足音を殺し、廊下を移動する。
カタン。 子供部屋は 小さな常夜灯が点っている。
ふうん ・・・? 変わりは ないな。
すばるは ― ああ よく寝てる・・・・
すぴかのベッドは 一旦は寝た形跡があった。
しかし パジャマはきっちりたたんである。
島村さんち では パジャマを脱いだらきちんと畳む、 がお約束なのだ。
それにいつも枕元に置いてある服は ない。
・・・ ということは。
アイツは自分の意志で ベッドから抜け出した??
テラスへのサッシは 閉まってる、施錠済みだな
≪ いたわ! ・・・ 裏庭の樫の木! ≫
脳波通信が飛び込んできた。
≪ よかった! ってか 樫の木 だって??? ≫
ジョーは 全速力で 裏口から庭に出た。
ほ〜 ほ〜〜 ジジジ ジジジ ―
裏山からなにか鳥の声がする。
地虫の声もにぎやかだ。
勝手知ったる我が家の裏庭 ・・・・ なのだが
夜はどうも別世界に感じてしまうのは 気のせいだろうか。
ジョーは ゆっくり進んでゆく。
闇の中 白い温室がぼ〜〜〜っと浮き上がり その奥に黒い闇となった
樫の大木が どん、 と構えている。
≪ ここに ・・・? 登ってるのか?? ≫
ジョーは足音もたてずに 大木に近づき見上げる。
ん ・・・・ どこにいる・・・・?
003ほどではないが 009も常人を遥かに超える視力をもっているし
偏光レンズ眼 を使えば夜間でもばっちりだ。
樫の木の梢を丹念に見てゆく。
すぴか すぴか〜〜〜 どこだ??
う〜〜〜 いない? いや もっと上か??
・・・ あ ! いたっ!!!
≪ あ みつけたわ〜〜〜 ≫
ほぼ同時に 脳波通信が飛び込んできた。
≪ ぼくも見つけた! ・・・・ しっかし〜〜〜
アイツ なんでもってあんな天辺まで登ったたんだ? ≫
≪ いいから〜〜〜 はやく助けて!!!
バランス崩したら ・・・ いや〜〜〜 考えたくないっ ≫
≪ こら 落ちつけって。 いやあ この木 でかいなあ ≫
≪ そんなこと 言ってる場合!? ねえ ジャンプしてすぴかを ≫
≪ 落ちつけって。 アイツ ・・・ なんかしてるんだ ≫
≪ え? ・・・・ あら ホント。 枝の間に座って・・・
上を見てる・・・ ノートになにか書いてる・・・? ≫
≪ うん。 え・・・ 座布団みたいなの、敷いてるぜ? ≫
≪ やだ〜〜〜 持って登ったのかしら ≫
≪ ゆっくり声 かけてみる ≫
≪ お願い。 ≫
≪ 任せろ ≫
ジョーは すぴかが座り込んでいる枝のほぼ真下に移動した。
「 ・・・ すぴか。 おい すぴか 」
彼は 低いけれどよく通る声で呼びかけた。
ガサガサ ガサ ・・・・ 樫の木の小枝が揺れる。
「 すぴか。 お父さんだよ。 すぴか 返事しなさい。 」
「 え〜〜〜 おと〜〜さん ??? 」
いつもと同じ高さ いつもと同じ強さ いつもと同じトーンで
― つまり 甲高い元気な声 が 上から降ってきた。
「 そうだよ。 お父さんだよ。 今から助けにゆくから
そこでじっとしていなさい 」
「 え なにかごよう?? 」
「 あ〜〜 ごようってこともないけど・・・ とにかくそこにいなさい。
お父さんがいくから! 」
ガサガサガサ ・・・・ 枝がまた揺れた。
「 ? 」
ジョーが一番下の枝に手を掛けると まもなく
「 なに〜〜〜 おと〜さん 」
すぴかの顔が 枝の間から現れたと思ったら ― 低い枝から ぽん、 と飛び降りた。
「 お おいおい すぴか〜〜〜 」
「 おと〜さん ごよう なに? 」
「 なに・・・って お前・・・ 」
「 う〜〜ん もっとかんさつ、したかったんだけどぉ〜〜 」
すぴかは TシャツをめくりGパンの背中からノートを取りだした。
「 ま きょうはこれでいっか。 ね〜 おと〜さん なに? 」
「 ・・・ すぴか。 かんさつ って。
こんな時間に 木の上で観察してたのかい?? なにを?? 」
「 うん。 この木、 すぴかのじんちだもん。 」
「 じんち??? 」
「 そ。 えへへ〜〜 すばるはここまでのぼれないし〜〜
ここはね〜 アタシのひみつきち なんだ 」
「 は あ ・・・? 」
そう・・・ 樫の大木 は
すぴかの秘密基地。
木登り大得意な彼女は 入り組んだ枝の間に空間をみつけ
絵本や座布団をもち込んでいた。
「 そ その 秘密基地 でなにを観察していたんだい? 」
「 あのね < 夜がおわるのをかんさつ > 」
「 よ 夜が終わるのを?? 」
「 ウン。 なつやすみのしゅくだい。 かんさつ日記 」
「 へ・・え〜〜〜 夜が終わるのを かあ ・・・ 」
「 うん。 いつかさ、 海のとこでさ〜 よるがあさになったじゃん 」
「 ・・・ 夜が朝に? あ〜〜 夜明けだったねえ 」
「 そんでさ〜 夜がおわるとこ、かんさつする! って思って。
あのね〜〜 木の上だと ベランダでかんさつするよかず〜〜〜っと
よくできるんだよ? おとうさん 知ってた? 」
「 知らないなあ〜 でもね すぴか。
真っ暗で危ないだろ? もしおっこちたら 」
「 アタシ おちないもん。 あそこは 陣地だし 」
「 う〜〜〜ん ・・・ でもなあ 危ないよ 」
「 あぶなくないもん。 おうちの木だし 〜〜 」
「 そうなんだけど さ 」
すぴかは なんで?? という顔だし ジョーはほとほと困ってしまった。
確かに すぴかは木登り名人だし、この樫の木は裏庭にある。
が しかし。 夜中に一人で木登りされては ― 大変困るのだ。
「 そうなんだけどもさ え〜〜と 」
ジョーが言葉に詰まっていると ・・・
「 すぴか!! 」
パジャマ姿のお母さんが 裏口から駆けてきた。
「 あ〜 ・・・ おか〜さん ・・・ 」
「 すぴかがベッドにいない〜〜って お母さん ものすごく心配してるんだよ 」
「 ・・・ う〜〜ん ・・・ 」
「 すぴか !! よかった〜〜〜 」
むぎゅう〜〜〜 パジャマ姿のお母さんはいきなりすぴかを抱きしめた。
「 あ ・・・ ちゃ〜〜 」
「 すぴか〜〜 すぴか ! 大丈夫? どこも 怪我 してない? 」
「 アタシ へいき 」
「 ああ そうなの よかった よかった〜〜 」
「 え へ・・・・ 」
涙を流しつつ ほっぺにおでこにキスを落とすお母さんに
すぴかは なんだかもじもじしていた。
そして。 すぴかの申し開き? も聞いたのち 以下の約束が成立した。
ひとりで夜 登るのはこれが最後。
次からは お父さんに言うこと。
何より お母さんに心配をかけない。
「 すぴか。 すぴかの観察のタイトルはなんていうんだい 」
「 たいとる? 」
「 あ〜〜 題 かな 」
「 あのね〜 『 夜 から 朝 へ 』 っていうかんさつ日記なんだ。
しゃしん とれないから 絵 かくんだ
」
「 ふう〜〜ん ・・・ すごいなあ すぴか 」
「 そうねえ 誰も思い付かないわ 」
「 えへへ〜〜〜 そ〜かな〜〜 」
「 そうよ〜〜 絵はなんでかくの 絵の具? 色鉛筆? 」
「 う〜〜 ん ・・・どうしようかな〜〜
あ おじいちゃまにそうだんする! 」
「 ああ それはいいね。
すばるたちもいろいろ・・おじいちゃまに教わっているからね 」
「 うん。 」
ふぁ〜〜〜〜〜 ・・・ すぴか が 特大のアクビをした。
「 あ ほらほら 〜 ちゃんと寝ないと〜〜
明日の朝のジョギング 起きられらないわよ 」
「 う うん ・・・ 」
「 さあ ベッドに行こうね。 あ その前に手と顔 洗おう 」
「 うん 」
すぴかは お父さんとお母さんの真ん中で手を繋いでご機嫌ちゃんで
お家の中に戻った。
― さて これは後日談 だが
すぴかは 『 夜から朝へ 』 というタイトルで < 観察日記 > を書いた。
空の色の変化は おじいちゃまに相談し いろいろな色のセロファンを
張り合わせ 時間による変化を表現してみた。
すぴかは 観察日記 のつもりで とて〜〜も満足していたが・・・
「 島村すぴかの、 読みました? 」
「 ええ ええ 上手ですね〜〜 エッセイですよね 」
「 そうですね 彼女独特の感性をもってるし
それをとても的確に表現できるんですね う〜〜ん すごいな 」
職員室でも 評判になっていたのは ― 本人は全く知らなかった。
えっほ えっほ はっ はっ は〜〜〜
今朝も 島村さんち のお父さんとチビ達は お日様が顔を出す前に
海辺までジョギングで降りてくる。
「 ほら〜〜〜 すばる がんばれ〜〜〜 」
「 ・・・ はっ は〜〜 は〜〜〜〜〜 」
「 すばる すばる〜〜〜 あとちょっとぉ〜〜〜 」
誰もいないので 三人は賑やかに走ってきた。
ところが ― その朝は 海岸に人影があった。
「 ・・・ あれ? 」
「 やあ おはようございま〜〜す しまむらさん。 」
「 あ! わたなべく〜〜〜ん 」
「 すばるく〜〜ん 」
な〜〜んと わたなべクンが お父さんと一緒に海岸で体操をしていた。
「 わ〜〜 おはよ〜〜 僕ね はしってるんだよ〜 」
「 僕もね おと〜さんと一緒に走ってきた〜〜 」
「 いやあ ・・・ ちょいと腹を引っ込めなくちゃ・・・って思いまして・・・
だいち も 体育が < がんばろう > なんで 」
恰幅のいいわたなべクンのお父さんは ちょっぴり照れ臭そうに笑っている。
「 あは ウチも同じですよ! 二学期めざしがんばろう〜って 」
「 いやあ そこまで一緒なんですねえ
いや しかし この時間は気持ちいい・・・ 」
「 ええ そうですねえ。 まだ暑くないし。 」
「 ですねえ 」
「 おと〜さん らじおたいそう しようよ〜〜 」
わたなべクンが お父さんのジャージの裾をつんつん・・・引っ張る。
「 あれ この時間にやってます? 」
「 いや 録音してあるんで ・・・ ご一緒にどうですか 」
「 あ いいですね〜〜 すぴか すばる〜〜〜
わたなべクンのお父さんと一緒に ラジオ体操、やろうよ 」
「「 わ〜〜〜い いっしょだあ〜〜〜 」」
た〜〜んたかたかたか た〜〜んたかたかたか〜〜〜 ♪
波の音に混じって 例の音楽が流れ始めた。
最初 二家族でやっていた ラジオ体操だが ―
しだいに地元のおじいちゃんやら 商店街のオジサンやらが 加わって
自然に 夏休みラジオ体操 になったとか・・・
たのしい なつやすみ ― どうすごしている?
「 ね〜〜 むぎ茶 最後のヒトは! お水、足しておくこと!! 」
「 冷蔵庫、 ドア ばたばたしな〜〜い ! 」
「 宿題!! ちゃんと片して〜〜〜 なくなりますよっ 」
「 リビングに靴下とかTシャツ、 脱ぎっぱしない〜〜〜 」
・・・ お母さんのお小言は なつやすみ中 続く ・・・・
*******************************
Fin.
*****************************
Last updated : 07,31,2018.
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************** ひと言 **************
夏休み ・・・・ やれやれ ・・・・
楽しいのは子供時代だけ ・・・ かも ・・・・ ((+_+))