『 きれいなお月様 ― (2) ― 』
崖の上の洋館 ― ギルモア邸。
当初は 荒地の中に建つ少々怪し気な建物 ・・・ に見えなくも なかった。
のんびりとしたこの地域に住む地元の人々も 少々戸惑い気味だった。
それが ― いつの間にか変わっていった。 それもごく自然に。
その理由は ・・・
「 あ おはよ〜〜ございます〜〜〜 いい天気ですね〜〜 」
海辺をジョギングしている茶髪の青年は 行き合う人々に気軽に挨拶をする。
「 ・・ お おはよ〜さん ・・・ 」
「 わあ〜〜 可愛いワンコだなあ〜〜 おはよぅ〜 ワン 」
彼は散歩の犬にも声をかける。
「 う わん? ・・・ く〜〜〜うん♪ わんわん♪ 」
「 わはは〜〜〜 そんなにナメないでくれよ〜う
うっひゃあ〜〜 可愛いですねえ〜〜 」
「 え あ はあ ・・・ おい ムサシ、やめなさい
ご迷惑だよ 」
「 くう〜〜〜ん♪ 」
「 あは 全然平気ですよ〜う ぼく わんこ、大好きなんです
ムサシっていうのか〜〜 いい名前ですね〜〜 」
「 あは ・・・ 」
「 あ あっちからも来ましたよ あれは 姫ちゃん だな。
お〜い 姫ちゃ〜〜ん おはよ〜〜〜 」
「 きゃい〜〜ん♪ きゃん きゃん 」
飼い犬たちが滅茶苦茶に懐いている相手に 飼い主さん達が
まず < 陥落 > した。
「 あ おはよ〜〜 岬の・・・ 」
「 おはよ〜ございます〜〜 ぼく 島村っていいます〜 」
「 島村くん かあ。 あ こら ムサシ〜〜 」
「 わんわんわ〜〜〜ん(^^♪ 」
「 あは おはよ〜〜〜 ムサシ〜〜〜 かっわいいなあ〜〜 」
「 君 ホントに犬好きなんだね 」
「 ええ 大好きです! 」
朝の散歩の人々と仲良くなり 行き合えば挨拶するヒトが増えてきた。
その延長で 商店街で会えば気軽に声をかけはじめ・・・
― そして
「 こんにちは〜〜 あの〜〜 このジャガイモ、ください 」
「 へい らっしゃい お〜 岬の・・・ 」
「 あ ぼく 島村っていいます〜 ジャガイモ 5キロください 」
「 へ 5キロ?? 多過ぎないかい 」
「 あは 今週、 ジャガイモ好きの身内がくるんですよ〜
ここのジャガ芋 激うま〜〜って言ってるんで 」
「 わほ そりゃ 嬉しいねえ〜〜 よし、イイとこ 5キロ
詰めとくよ。 配達もするよ 」
「 あ〜〜 大丈夫、 ぼく 持って帰りますから 」
「 え・・・ 兄ちゃん 持てるかい 」
「 あはは ぼく こう見えても力持ちなんで〜 」
・・・ この話から ジョーはアルバイト先を見つけるのだが。
「 なあ 兄ちゃんちのあの白髭のご隠居さんは 兄ちゃんの
父さんかい 」
「 あ はい・・・ ぼくの親代わりのヒトで・・・
気象関係の研究してるんですよ 」
「 気象・・・ってことは 天気予報とかかい 」
「 そですね〜 ほら 台風の進路とか 大雨の範囲とか 」
「 ほえ〜〜 そりゃ頼もしいや 相談したいなあ
この辺りじゃ まだまだ漁業も農業もあるからね 」
「 ええ お役に立てばオヤジさんも嬉しがりますよ 」
「 ふ〜〜ん なあ 今度さ 親父さんと来てくれよ〜
いろいろ教わりたいし 」
「 はい! こっちこそよろしく〜 」
「 そうだ 親父さんは囲碁・将棋はやるかい 」
「 あ〜 はい 今 囲碁に填まってるみたいですね〜
コズミ先生に教わって病みつきになったみたい 」
「 そうかい! そりゃ〜 いいや。 角の煙草屋の爺様がさ
昔っから囲碁とか強くてさ〜 年中対戦相手を探してるから
兄ちゃんの親父さんを紹介したいんだ 」
「 わあ〜〜〜 お願いしま〜〜す 」
「 ま 爺様も喜ぶだろうよ 」
地元の 気のいい人々とジョーはたちまち仲良くなっていった。
その上 < あの金髪美人さん > について 町の人々は
興味深々 ・・・
「 ねえ ジョー。 あのう 買い物に行きたいんだけど 」
「 あ 車 だすよ〜〜 駅向こうのでっかいスーパー 行こうか 」
「 あ ・・・ あのね できれば そのう〜〜
この下の道の向うにお店 たくさんあるでしょう
あそこ・・ 行ってみたいのね 」
「 あ 海岸通りだね うん いいよ〜〜
そうだ ぼく、自転車押してくから。 いっぱい買っても
大丈夫だよん 」
「 わ ・・・ いいの? 」
「 えっへん。 009の腕力を見よ! 」
「 はいはい それじゃ 用意してくるわね 」
「 おっけ〜〜 ぼく 自転車出しとくね 」
「 うふふ ねえ 後ろにのっけて? 」
「 え ・・・い いいけど・・・」
「 わあい♪ ねえ どんなお店があるの? 」
「 え〜〜っと・・・ 八百屋 肉屋 魚屋 ・・・えっと
パン屋 に 牛乳配達店・・・ あと ・・・ あ!
金物屋 とかもあったっけ 」
「 かなものや って なあに 」
「 あ・・・ 鍋とか フライパンとか う〜〜〜
あ ほら キッチン用品とかも売ってるはずだよ 」
「 まあ そうなの?? 是非 行ってみたいわあ 」
「 行こ 行こ 〜〜〜 」
二人は わやわや ・・・ 賑やかに出かけていった。
ほう ・・・
アイツはシャイなのか と思っていたが
案外 社交的なのか な??
博士は少しばかり意外に思いつつ ワカモノたちの会話を
漏れ聞いていた。
「 こんちわ〜〜 この人参 くださ〜い 」
ジョーは八百屋の店先で声を張り上げる。
「 らっしゃ〜〜い お 岬の兄ちゃんかい
人参かい お〜〜っと 今日は美人さんと一緒じゃんか 」
八百屋のオヤジも 目敏くフランソワーズをみつけ
愛想よく話しかけた。
「 こんちわ〜 外国のお嬢さん。
この兄ちゃんたちと岬の家に住んでいるのかい? 」
「 はい どうぞよろしく あ おとうさんのこともね 」
金髪美女は にっこり・・・ 微笑を返している。
「 ほへ〜〜〜 お父さんって そうかあ〜
いやあ こっちこそよろしく〜
ウチの店に買いモノに来てやあ〜〜 」
「 はい。 すごく美味しそうなものばかりで・・
お父さんの好きなリンゴもいっぱい・・ 嬉しいです 」
「 ( へ? ) ・・・ あ 」
ジョーは 一瞬カタマリかけた。
だって ・・・ フランソワーズは あまりに自然、というか
ごく普通、何気なく言ってのけたから・・・
ひえ ・・・
な なんの打合せも 設定も ないよ??
アドリブだよね〜〜
でも全然自然で 当たり前って感じ・・
女の子って すっげ〜〜
「 ああ あのご隠居さんは アンタの父さんなのかい 」
「 はい そうなんです。 あ ジョーは ・・・ 」
彼女は ぐい、とジョーの腕を引っ張った。
「 このヒトは 父の研究の助手なんかもしているんです。 」
「 ほう〜〜 そっかい そっかい〜〜
あ このリンゴ! お勧めだよ〜〜 」
「 まあ 大きくてきれい! あのう ・・・ アップルパイの
中身なんかにするには・・・? 」
「 ああ それならこっちさ。 ちょいとちっこくて酸味があるけど
これもまた美味いんだ〜〜 そんでね 火を通すと最高さ 」
「 へえ・・・それじゃ その真っ赤で小さめなりんご。
一キロください。 今晩のオカズにします。 」
「 え・・・ 今晩 アップルパイなの? 」
くいくい。 ジョーが彼女の袖を引っ張る。
「 いやだ ちがうわ。 豚肉と一緒にソテーするの。 」
「 肉とリンゴ?? へえ ・・・ぼく 食べたこと ないよ 」
「 あら とても美味しいのよ?
残りの半分はアップパイにするわ 」
「 うわ〜〜〜 ウチで作れるの??
」
「 ええ。 パイ・シート使うから 簡単にできるわ 」
「 うわ うわ うわ〜〜〜〜♪ 」
ジョーはもう 小さな子供みたいに興奮している。
八百屋の親父は 笑いを噛み殺しつつ品物を袋に入れてくれた。
「 ほい、それじゃ リンゴとニンジン。
あとはなにかいるかい 」
「 え〜〜と・・・ あ ナス! 美味しそうなナス〜〜
これも一山 くださいな
」
「 ・・ え ・・・ ナスゥ? 」
「 あら ジョー。 ナス、 嫌い? 」
「 だってさ あんまし 味、ないじゃん? 」
「 あら あるわよ。 わたしね、< 焼きナス > って
頂いて 最高にオイシイ!って思ったわよ 」
「 え・・・ そう? しらない ・・・ 」
「 美味しく食べさせてあげます。
じゃ ジョー 荷物 持ってくださる? 」
「 おっけ〜〜♪ うわあ〜〜 りんご なんかいい匂いだね 」
「 そうねえ あ 八百屋さん。 また来ますね 」
「 おうよ。 毎度あり〜〜 美人さん、また来てくれよ 」
「 はい〜〜 」
八百屋のオヤジは 山のよ〜な袋を両手にぶら下げて
金髪美人の後を ひょいひょいついてゆく茶髪ボーイを 見送った。
ありゃあ ・・・ もう尻に敷かれてるなあ
ま 嬶天下は円満家庭 っていうからなあ
そのうち ちびっこいのを連れてくるだろうよ
どっちに似てもカワイイだろうなあ〜〜
ふ ・・・ 楽しみなことだ ・・・
― こうして ・・・
最新型最強のサイボーグ009 は たちまちご近所と打ち解け
< 岬の坊や > と < 岬の美人さん > と
親しまれるようになったのだった。
博士自身も 煙草屋の爺様との交友が始まった。
「 ちょいと出掛けてくるよ 」
最近 博士はちょいちょい出歩くようになった。
もともと早朝の散歩は 習慣になっていたのだが ・・・
「 あ はい いってらっしゃ〜い。 これ ですか? 」
ジョーは ぱちり、と碁石を置く手つきをした。
「 うむ・・・ 煙草屋の師匠に御指南賜ってくる。 」
「 煙草屋の師匠・・・ って あのお爺さんですか
へえ〜〜 あの爺さん、囲碁やるのかあ 」
「 ワシの師をそんな気楽に呼んでくれるな。
師にご指導いただくようになってから コズミ君とも
なんとか互角に打てるようになったのだぞ 」
「 へ え〜〜〜〜 」
「 へえ とはなんだ。 」
「 いえ・・・ あ 今度 アルベルトも紹介したらどうです?
彼も囲碁、気に入っていますよね 」
「 ― いや。 まず ワシがヤツに勝てるようになってから じゃ 」
「 へ え〜〜〜 」
「 勝負の道は厳しいのじゃ。 まずは自身の鍛錬が第一。
では いってくるぞ。 」
「 はい あ 送りますよ クルマ だしますから 」
「 いらんよ。 歩きつつ打ち方を思索する。
これが一番じゃ ・・・ と師に教わったからな 」
「 へ え〜〜〜 」
「 ・・・ お前も学ぶか 囲碁 」
「 あ い いいです〜〜 ぼく 白黒はオセロで ・・・ 」
「 ふん。 お前 バイトは休みか 」
「 はい 今日は定休日なんで 」
「 ほう それじゃあ な。 」
「 はい いってらっしゃい〜〜 」
ジョーは博士を見送ると きゅきゅっと腕まくりをした。
「 さあて と。 バス・ルームの掃除 するか〜〜
洗濯モノは乾したし〜 キッチンは片したもんな。 」
ふんふんふ〜〜〜ん♪ ちゃっちゃらちゃ〜〜〜ん♪
彼はハナウタを唄いつつ バスルームに向かうのだった。
「 だ〜れもいないよな? ・・・ ほんじゃ〜〜
やるぞ〜〜 」
ジョーは ぱぱぱぱっと服を脱ぎ捨て パンツ一丁になり
風呂用洗剤 と スポンジを手にとった。
「 しゃわ〜〜〜〜〜 ・・・ でははは〜〜〜〜
きもちい〜〜〜〜 うひゃひゃひゃ〜〜〜 」
もう超ご機嫌ちゃんで 彼は掃除を始めた。
― ちなみに ギルモア邸のバスルームは 最近ぴかぴかである。
ぱん。 雑巾をしっかり絞りきっちり伸ばし 乾した。
「 さあ〜てと ・・・ 洗濯モノもほぼ乾いたし〜〜
あ この水 花壇に撒いてこよっかな〜〜 」
水 満タンのバケツをひょい、と持ち上げて 彼は表庭に周る。
「 ほ〜ら 水だよぉ〜〜〜〜 」
ばしゃばしゃ・・ 花壇の花たちに水やりをし
ついでに さささ・・っと庭掃除もした。
風呂場掃除で濡れた髪は すぐに乾いていった。
「 うん これでいっかあ〜 ・・・ ( ぐう ) あれ?
腹 減ったかも・・・ そろそろ昼だよねえ
博士もフランも帰ってくるし ・・・ おし。 作るぞ〜〜 」
ジョーは カラになったバケツを振り回しつつ 室内に戻った。
「 やれ ただいま・・・ 」
お日様が 頭上にくるころ 博士が帰宅した。
「 あ お帰りなさい〜〜 博士 大丈夫ですか? 」
ジョーは 玄関に飛び出してきた。
「 ・・・大丈夫 とは なんじゃ。 自分のウチを忘れるほど
ワシはまだ耄碌しとらんぞ! ふう・・・ 」
文句をいいつつ 博士は流れる汗を拭う。
「 いや そんな ・・・ あの お迎えに行こうって思ってて・・・
電話かメール くれれば 」
「 迎えにきてもらう距離じゃないぞ。 ふう〜〜〜
しかし 暑かった ・・・ 」
「 シャワーどうぞ! さっぱりして昼ごはんです 」
「 ああ ありがとうよ お? フランソワーズは? 」
「 え〜っと もうすぐ帰ってくるかな〜〜 いつも20分のバスだから 」
「 ・・・ 詳しいのう 」
「 あは みんなの予定はだいたいわかってるし〜 」
「 そうかい ではちょいとシャワーを 」
「 どうぞ! 」
・・・ 他人の予定はしっかり覚えているのに
なんだってアイツは いつも寝坊するんだ?
というより 時間通りに起きられんのだ?
カチャ。 バス・ルームはぴかぴかで水滴も ない。
「 ・・・ ほう ・・・ アイツはハウス・キーパーとしての
適正があるのか ・・・ 変わったヤツじゃのう 」
天才科学者は またまたアタマを捻りまくる。
「 ただいま帰りました。 」
「 あ〜〜 フラン お帰りなさ〜〜い ごはん できてるよぉ 」
博士がバス・ルームから戻るころ 彼女が帰ってきた。
「 あら 嬉しい! ね ぶどう、売ってたの〜〜〜
すごく美味しいのよ 買ってきちゃった 」
「 わお〜〜〜 ぼく 葡萄、だいすき〜〜〜 うわお〜〜〜
しゃいんますかっと じゃん〜〜〜 」
「 そういう名前なの? 試食して ものすごく美味しくて 」
「 うんうん ぼくも大好きなんだ〜〜 じゃ 冷やとくね〜〜
食後に食べようよ 」
「 うふふ 楽しみ〜〜 」
「 あ フラン シャワー してきなよ?
昼ごはん 待ってるから 」
「 え でも・・・ 博士、お帰りになったトコなのでしょう? 」
「 いやいや ワシもシャワーしてきたところじゃよ。
テラスで風にあたって待っておるから ・・ ゆっくりシャワ―を
浴びておいで 」
「 ありがとうございます〜 」
「 あ フラン 洗濯モノ〜〜 ほら もう乾いたよ 」
「 ジョー〜〜〜 ありがとう〜〜〜 きゃ ぱりぱり♪ 」
フランソワーズは 大きなバッグを持って二階に上がっていった。
・・・ ふむ・・・?
実に気が利くヤツじゃなあ ・・・
こりゃ 家政婦 に向いておるのじゃないか
・・・ いや 専業主婦 とか・・
博士は 団扇を使いつつ 茶髪ボーイの横顔を窺うのだった。
彼のランチは素麺だったが 庭の畑で採れた茄子の煮びたしやら
かき揚げやら 細かく切ったチャーシューもありなかなかのご馳走だった。
「 ・・・ ん〜〜〜 美味しいわあ〜〜〜
ねえ ねえ この茄子の煮物! すごっく好きだわ わたし。 」
フランソワーズは こまっちゃう〜 と言いつつ 何倍もお代わりをした。
「 うむ うむ これは オクラか? 大根とよく合うのう 」
博士は辛味大根がたいそう気に入った。
「 えへへ・・・ 嬉しいなあ〜〜
あ この素麺はね〜〜 コズミ先生から頂いたもので〜す
フラン お箸 上手だね 」
「 そう? ありがと ・・・ でも難しいわ 」
「 え〜〜〜 ぼくよかよっぽど上手だよ?
素麺ってさ ぼくなんか もう〜〜掻き込んじゃうもんな〜〜 」
「 ジョー。 箸はな テコの原理をアタマにいれておけば
誰でも巧く操れるのさ 」
「 ・・・・ 」
フランソワーズも にこにこ・・・頷いている。
「 てこ?? へ え ・・・ そうなのかあ〜〜 」
「 なんじゃ 箸の文化で育ったのに 知らなかったのか 」
「 知りません〜〜 なんとなく見様見真似で使ってるだけ・・・
え ・・ あ〜 こう ・・・? 」
「 そうそう ジョー。 ここが支点になるの。 」
「 あ ・・・ な〜るほど・・・ そっか
そうすると わお〜〜 これもつまめる〜〜 」
ジョーは 薬味の刻みネギを一片づつ摘み上げてみせた。
「 あら ジョー、器用ねえ 」
「 今まで トングとかでバサっと取ってたけど
今度から華麗に箸を使っちゃうぜ〜〜 」
「 ふふふ・・・ジョーって楽しいわねえ 」
「 え そ そう? ・・・ なんか 嬉しいな 」
「 ほっんとうに美味しいランチでした♪ ご馳走様〜〜
晩ご飯はわたしが作るわ。 なにかリクエスト ある? 」
「 え え〜〜〜 ホント?? リクエスト?
う〜〜〜ん アレ とか コレ とか ソレ とか・・・
うっわ〜〜 迷う〜〜〜 」
楽しそうじゃな ・・・
姉と弟に 見えんこともない が。
ジョー? お前 頑張れよ!
博士は 熱いほうじ茶を含みつつ目を細めていた。
― その夜 ・・・・
「 ふう ・・・・ 」
博士は 窓辺でこそっとため息をつく。
きっかり晴れた夜空には まん丸・秋の名月が昇ってきている。
「 ・・・ ようわからん なあ 」
「 なにが ですか 」
「 ! ああ フランソワーズ・・・ 」
「 はい 梨を剥きましたわ。 どうぞ 」
「 おお ありがとう ・・・ これは瑞々しくて美味しそうじゃ 」
「 ええ この国の果物は本当に美味しいですよね。
・・・ なにが わからないのですか? 」
「 いや そのう・・・ なあ 」
博士は 梨を摘みつつぽつぽつと話した。
・・・ アイツ は 謎の存在だと思わないか? と。
「 ・・・え? ジョー ですか?
え 謎?? そう ですかしら・・・
・・・男の子って みんなあんなトコ、あるんじゃありません? 」
「 そ そうかね・・・? 」
「 ええ ・・・ そりゃ 掃除とか上手でとてもキレイ好きだけど・・・
それって ニホンジンの特性でしょう? 」
「 そ そうなのか?? 」
「 らしいですよ。 あのね 今 通ってるバレエ・カンパニーでもね
トイレ掃除 とか スタジオの掃除は 皆 当番制で・・・
あ 男子たちもちゃんとやってるんです。 」
「 ほう??? 若い子たちが なあ 」
「 学校でもずっとやってたよ〜〜 って 皆 当たり前ってかんじで。
・・・最初 わたし びっくりしたんですけど・・・
自分たちが使ったとこ、掃除するのは当然かなああ〜〜って
気持ちになりました 」
「 ほう・・・ じゃあ アイツの行動は 国民性 か? 」
「 さ あ・・・ でも たぶん・・・ 彼の性格かなって 」
「 ふうむ・・・? 」
「 彼 とっても優しいんですよ 」
「 ああ いつも こう・・・ 微笑んでおるな
ワシにはどうも曖昧な雰囲気がするのじゃが 」
「 ええ 彼、自分を傷つけてでも 護りたいみたい 」
「 へ?? 」
「 なんか そんな気がするんです ・・・
自分自身のことは後回しで 周りの皆のこと、気にしてる。 」
「 ううむ・・・なるほど なあ 」
「 たぶん、ですけど ね 」
「 ふうむ・・・ 」
パタパタパタ ・・・ テラスから話題の主が入ってきた。
「 ほら ススキ! これ 飾りませんか。
今晩 満月みたいだし・・・ お月見〜〜〜 」
彼は 背の高い草を振ってみせる。
「 あら 面白い草ねえ・・・ 花瓶 持ってくるわね。
あ ジョー 梨を剥いたわ。 手を洗って・・・ どうぞ 」
「 うわあ〜〜い 」
ススキと梨で 小さな月見会となった。
「 ぼく さ。 今、ここで皆と暮らしてて・・・
めっちゃ幸せなんだ・・・ 楽しくて嬉しくて 」
ジョーは なぜか俯きつつボソボソと言う。
「 ジョー? 」
「 ・・・ ごめん あの・・・ 」
「 どうして謝るの? 」
「 だって・・・ その ・・・ きみは故郷から離れてて 」
「 わたしね このお家で暮らすの、楽しいわ。
博士やジョーと暮らして 近所の人達とおしゃべりしたり・・・
楽しいの。 わたし 幸せだわ。 」
「 そ そう??? 」
「 ええ。 」
「 そっか〜〜〜 そうなんだ?? 嬉しいなあ〜〜 」
「 だから いろいろ・・・ 言ってね?
遠慮したりしないで。 わたしも言うから 」
「 ・・・ 遠慮とかしてないよう〜〜
あ ・・・あのさ。
月がキレイですね は 日本人にとっての あいらぶゆ〜〜
なんだって。 なんかで読んだけど・・・
昔のエライ作家が そんな風に訳したんだって 」
「 ・・・ うっそ・・・ え〜〜 そうなの?? 」
「 あれえ フランソワーズ? 経験 あり? 」
「 え!? ・・・ い いいえ そんなこと ・・・ 」
「 ね じゃあ これから 月、見に行こうよ〜〜 崖の先っちょの方
行ってみようよ 」
「 わあ 素敵ねえ〜〜 満月の夜ね 行ってみましょう! 」
「 うん! 楽しみ〜〜〜 えへ ・・・ ぼく シアワセ♪ 」
ジョーは う〜〜ん と伸びをしてにっこり 笑った。
「 ぼくの大切なヒトたち と シアワセな時間 護るさ!
それが ぼくの生きがいなんだあ〜〜〜 」
・・・ ははあ ・・・ そうなのか・・・
それで アイツは。
そのためには サイボーグ009 として
全力で闘える というわけか・・・
・・・ 護るため か。
なるほど なあ・・・
「 ― やはりアイツは 稀有な存在なのじゃなあ ・・・
ワシらにとって 最強の戦士 ということか ・・・ 」
ああ ― 今夜も 月が綺麗じゃわい
あの茶髪の少年を 009 に選んだことに マチガイはなかったのだ、
と 博士はしみじみ・・・思うのだった。
***********************
Fin.
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Last updated : 09.15.2020.
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*********** ひと言 **********
平成ボーイの ジョーは 確かに博士にとっては
謎な存在 なことでしょうね (*_*;
でも そんなジョー君が 好き だなああ (*´▽`*)