『 きれいなお月様 ― (2) ― 

 

 

 

 

 

 

 

崖の上の洋館 ― ギルモア邸。

 

当初は 荒地の中に建つ少々怪し気な建物 ・・・ に見えなくも なかった。

のんびりとしたこの地域に住む地元の人々も 少々戸惑い気味だった。

 

 それが ― いつの間にか変わっていった。 それもごく自然に。

 

その理由は ・・・

 

「 あ おはよ〜〜ございます〜〜〜  いい天気ですね〜〜 」

海辺をジョギングしている茶髪の青年は 行き合う人々に気軽に挨拶をする。

「 ・・ お おはよ〜さん ・・・ 」

「 わあ〜〜 可愛いワンコだなあ〜〜  おはよぅ〜 ワン 」

彼は散歩の犬にも声をかける。

「  う わん? ・・・ く〜〜〜うん♪ わんわん♪ 

「 わはは〜〜〜 そんなにナメないでくれよ〜う

 うっひゃあ〜〜 可愛いですねえ〜〜 」

「 え  あ  はあ ・・・ おい ムサシ、やめなさい 

 ご迷惑だよ 」

「 くう〜〜〜ん♪ 

「 あは 全然平気ですよ〜う  ぼく わんこ、大好きなんです

 ムサシっていうのか〜〜 いい名前ですね〜〜 」

「 あは ・・・ 」

「 あ あっちからも来ましたよ  あれは 姫ちゃん だな。

 お〜い 姫ちゃ〜〜ん おはよ〜〜〜 」

「 きゃい〜〜ん♪ きゃん きゃん 」

 

飼い犬たちが滅茶苦茶に懐いている相手に 飼い主さん達が

まず < 陥落 > した。

 

「 あ おはよ〜〜 岬の・・・  」

「 おはよ〜ございます〜〜 ぼく 島村っていいます〜 」

「 島村くん かあ。  あ こら ムサシ〜〜 」

「 わんわんわ〜〜〜ん(^^♪ 」

「 あは  おはよ〜〜〜 ムサシ〜〜〜 かっわいいなあ〜〜 」

「 君 ホントに犬好きなんだね 

「 ええ 大好きです! 」

 

朝の散歩の人々と仲良くなり 行き合えば挨拶するヒトが増えてきた。

その延長で 商店街で会えば気軽に声をかけはじめ・・・

 

  ― そして

 

「 こんにちは〜〜 あの〜〜 このジャガイモ、ください 」

「 へい らっしゃい  お〜 岬の・・・ 

「 あ ぼく 島村っていいます〜  ジャガイモ 5キロください 」

「 へ 5キロ?? 多過ぎないかい 」

「 あは 今週、 ジャガイモ好きの身内がくるんですよ〜

 ここのジャガ芋 激うま〜〜って言ってるんで 」

「 わほ そりゃ 嬉しいねえ〜〜 よし、イイとこ 5キロ

 詰めとくよ。 配達もするよ 」

「 あ〜〜 大丈夫、 ぼく 持って帰りますから 」

「 え・・・ 兄ちゃん 持てるかい 

「 あはは ぼく こう見えても力持ちなんで〜 」

 

・・・ この話から ジョーはアルバイト先を見つけるのだが。

 

「 なあ 兄ちゃんちのあの白髭のご隠居さんは 兄ちゃんの

 父さんかい 」

「 あ はい・・・ ぼくの親代わりのヒトで・・・

 気象関係の研究してるんですよ 」

「 気象・・・ってことは 天気予報とかかい 」

「 そですね〜 ほら 台風の進路とか 大雨の範囲とか 」

「 ほえ〜〜 そりゃ頼もしいや  相談したいなあ

 この辺りじゃ まだまだ漁業も農業もあるからね 」

「 ええ お役に立てばオヤジさんも嬉しがりますよ 」

「 ふ〜〜ん  なあ 今度さ 親父さんと来てくれよ〜

 いろいろ教わりたいし 

「 はい! こっちこそよろしく〜 」

「 そうだ 親父さんは囲碁・将棋はやるかい 」

「 あ〜 はい 今 囲碁に填まってるみたいですね〜

 コズミ先生に教わって病みつきになったみたい 

「 そうかい! そりゃ〜 いいや。 角の煙草屋の爺様がさ

 昔っから囲碁とか強くてさ〜  年中対戦相手を探してるから

 兄ちゃんの親父さんを紹介したいんだ 」

「 わあ〜〜〜 お願いしま〜〜す 」

「 ま 爺様も喜ぶだろうよ 」

 

地元の 気のいい人々とジョーはたちまち仲良くなっていった。

その上 < あの金髪美人さん > について 町の人々は

興味深々 ・・・

 

「 ねえ ジョー。 あのう  買い物に行きたいんだけど 」

「 あ 車 だすよ〜〜  駅向こうのでっかいスーパー 行こうか 」

「 あ ・・・ あのね できれば そのう〜〜

 この下の道の向うにお店 たくさんあるでしょう 

 あそこ・・ 行ってみたいのね 

「 あ 海岸通りだね  うん いいよ〜〜

 そうだ ぼく、自転車押してくから。 いっぱい買っても

 大丈夫だよん 」

「 わ ・・・ いいの? 」

「 えっへん。 009の腕力を見よ! 

「 はいはい それじゃ 用意してくるわね 

「 おっけ〜〜 ぼく 自転車出しとくね 」

「 うふふ ねえ 後ろにのっけて? 」 

「 え ・・・い いいけど・・・」

「 わあい♪ ねえ どんなお店があるの?  」

「 え〜〜っと・・・ 八百屋 肉屋 魚屋 ・・・えっと

 パン屋 に 牛乳配達店・・・ あと ・・・ あ!

 金物屋 とかもあったっけ 

「 かなものや って なあに 

「 あ・・・ 鍋とか フライパンとか う〜〜〜

 あ ほら キッチン用品とかも売ってるはずだよ 」

「 まあ そうなの?? 是非 行ってみたいわあ  」

「 行こ 行こ 〜〜〜 」

二人は わやわや ・・・ 賑やかに出かけていった。

 

    ほう ・・・

 

    アイツはシャイなのか と思っていたが

    案外 社交的なのか な??

 

博士は少しばかり意外に思いつつ ワカモノたちの会話を

漏れ聞いていた。

 

 

「 こんちわ〜〜  この人参 くださ〜い 」

ジョーは八百屋の店先で声を張り上げる。

「 らっしゃ〜〜い  お 岬の兄ちゃんかい

 人参かい  お〜〜っと 今日は美人さんと一緒じゃんか 」

八百屋のオヤジも 目敏くフランソワーズをみつけ 

愛想よく話しかけた。

「 こんちわ〜  外国のお嬢さん。 

 この兄ちゃんたちと岬の家に住んでいるのかい? 」

「 はい どうぞよろしく  あ おとうさんのこともね 

金髪美女は にっこり・・・ 微笑を返している。

「 ほへ〜〜〜 お父さんって そうかあ〜

 いやあ こっちこそよろしく〜

 ウチの店に買いモノに来てやあ〜〜 」

「 はい。 すごく美味しそうなものばかりで・・

 お父さんの好きなリンゴもいっぱい・・ 嬉しいです 」

 

「 ( へ? ) ・・・ あ 」

ジョーは 一瞬カタマリかけた。

だって ・・・ フランソワーズは あまりに自然、というか

ごく普通、何気なく言ってのけたから・・・

 

    ひえ ・・・

    な なんの打合せも 設定も ないよ??

 

    アドリブだよね〜〜

    でも全然自然で 当たり前って感じ・・

 

    女の子って すっげ〜〜

 

「 ああ あのご隠居さんは アンタの父さんなのかい 」

「 はい そうなんです。 あ  ジョーは ・・・ 」

彼女は ぐい、とジョーの腕を引っ張った。

「 このヒトは 父の研究の助手なんかもしているんです。 」

「 ほう〜〜 そっかい そっかい〜〜

 あ このリンゴ! お勧めだよ〜〜 」

「 まあ 大きくてきれい!  あのう ・・・ アップルパイの

 中身なんかにするには・・・? 」

「 ああ それならこっちさ。 ちょいとちっこくて酸味があるけど

 これもまた美味いんだ〜〜  そんでね 火を通すと最高さ 」

「 へえ・・・それじゃ その真っ赤で小さめなりんご。

  一キロください。 今晩のオカズにします。 」

「 え・・・ 今晩 アップルパイなの? 」

くいくい。 ジョーが彼女の袖を引っ張る。

「 いやだ ちがうわ。 豚肉と一緒にソテーするの。 」

「 肉とリンゴ?? へえ ・・・ぼく 食べたこと ないよ 

「 あら とても美味しいのよ?

 残りの半分はアップパイにするわ 

「 うわ〜〜〜 ウチで作れるの??  

「 ええ。 パイ・シート使うから 簡単にできるわ 」

「 うわ うわ うわ〜〜〜〜♪ 」

ジョーはもう 小さな子供みたいに興奮している。

八百屋の親父は 笑いを噛み殺しつつ品物を袋に入れてくれた。

「 ほい、それじゃ リンゴとニンジン。 

 あとはなにかいるかい 

「 え〜〜と・・・ あ ナス! 美味しそうなナス〜〜

 これも一山 くださいな  

「 ・・ え ・・・ ナスゥ? 」

「 あら ジョー。 ナス、 嫌い? 」

「 だってさ   あんまし 味、ないじゃん? 」

「 あら あるわよ。 わたしね、< 焼きナス > って

 頂いて 最高にオイシイ!って思ったわよ 」

「 え・・・ そう?  しらない ・・・ 」

「 美味しく食べさせてあげます。 

 じゃ ジョー 荷物 持ってくださる? 」

「 おっけ〜〜♪ うわあ〜〜 りんご なんかいい匂いだね 

「 そうねえ  あ 八百屋さん。 また来ますね 」

「 おうよ。 毎度あり〜〜  美人さん、また来てくれよ 」

「 はい〜〜 」

 

八百屋のオヤジは 山のよ〜な袋を両手にぶら下げて

金髪美人の後を ひょいひょいついてゆく茶髪ボーイを 見送った。

 

    ありゃあ ・・・ もう尻に敷かれてるなあ

 

    ま 嬶天下は円満家庭 っていうからなあ

    そのうち ちびっこいのを連れてくるだろうよ

 

    どっちに似てもカワイイだろうなあ〜〜

    ふ ・・・ 楽しみなことだ ・・・

 

 

 

 ― こうして ・・・

最新型最強のサイボーグ009 は たちまちご近所と打ち解け

< 岬の坊や > と < 岬の美人さん > と

親しまれるようになったのだった。

博士自身も 煙草屋の爺様との交友が始まった。

 

「 ちょいと出掛けてくるよ 」

最近 博士はちょいちょい出歩くようになった。

もともと早朝の散歩は 習慣になっていたのだが ・・・

「 あ はい いってらっしゃ〜い。 これ ですか? 」

ジョーは ぱちり、と碁石を置く手つきをした。

「 うむ・・・ 煙草屋の師匠に御指南賜ってくる。 」

「 煙草屋の師匠・・・ って あのお爺さんですか  

 へえ〜〜 あの爺さん、囲碁やるのかあ 」

「 ワシの師をそんな気楽に呼んでくれるな。

 師にご指導いただくようになってから コズミ君とも

 なんとか互角に打てるようになったのだぞ 」

「 へ え〜〜〜〜 」

「 へえ とはなんだ。 」

「 いえ・・・ あ 今度 アルベルトも紹介したらどうです?

 彼も囲碁、気に入っていますよね 

「 ― いや。 まず ワシがヤツに勝てるようになってから じゃ 」

「 へ え〜〜〜 」

「 勝負の道は厳しいのじゃ。 まずは自身の鍛錬が第一。 

 では いってくるぞ。 」

「 はい あ 送りますよ クルマ だしますから  」

「 いらんよ。 歩きつつ打ち方を思索する。

 これが一番じゃ ・・・ と師に教わったからな 」

「 へ え〜〜〜 

「 ・・・ お前も学ぶか 囲碁 」

「 あ い いいです〜〜 ぼく  白黒はオセロで ・・・ 

「 ふん。  お前 バイトは休みか 

「 はい 今日は定休日なんで 

「 ほう  それじゃあ な。 」

「 はい いってらっしゃい〜〜 」

 

ジョーは博士を見送ると きゅきゅっと腕まくりをした。

「 さあて と。 バス・ルームの掃除 するか〜〜

 洗濯モノは乾したし〜 キッチンは片したもんな。 」

 

  ふんふんふ〜〜〜ん♪  ちゃっちゃらちゃ〜〜〜ん♪

 

彼はハナウタを唄いつつ バスルームに向かうのだった。

「 だ〜れもいないよな? ・・・ ほんじゃ〜〜  

 やるぞ〜〜 」

ジョーは ぱぱぱぱっと服を脱ぎ捨て パンツ一丁になり

風呂用洗剤 と スポンジを手にとった。

「 しゃわ〜〜〜〜〜 ・・・ でははは〜〜〜〜

 きもちい〜〜〜〜  うひゃひゃひゃ〜〜〜 」

もう超ご機嫌ちゃんで 彼は掃除を始めた。

 

 ― ちなみに ギルモア邸のバスルームは 最近ぴかぴかである。

 

 

  ぱん。  雑巾をしっかり絞りきっちり伸ばし 乾した。

 

「 さあ〜てと ・・・  洗濯モノもほぼ乾いたし〜〜

 あ この水 花壇に撒いてこよっかな〜〜  」

水 満タンのバケツをひょい、と持ち上げて 彼は表庭に周る。

「 ほ〜ら 水だよぉ〜〜〜〜  」

ばしゃばしゃ・・ 花壇の花たちに水やりをし

ついでに さささ・・っと庭掃除もした。

風呂場掃除で濡れた髪は すぐに乾いていった。

 

「 うん これでいっかあ〜 ・・・ ( ぐう )  あれ?

 腹 減ったかも・・・ そろそろ昼だよねえ 

 博士もフランも帰ってくるし ・・・ おし。 作るぞ〜〜 」

ジョーは カラになったバケツを振り回しつつ 室内に戻った。

 

 

「 やれ ただいま・・・ 」

お日様が 頭上にくるころ 博士が帰宅した。

「 あ お帰りなさい〜〜  博士 大丈夫ですか? 」

ジョーは 玄関に飛び出してきた。

「 ・・・大丈夫 とは なんじゃ。 自分のウチを忘れるほど

 ワシはまだ耄碌しとらんぞ!  ふう・・・ 」

文句をいいつつ 博士は流れる汗を拭う。

「 いや そんな ・・・ あの お迎えに行こうって思ってて・・・

 電話かメール くれれば 」

「 迎えにきてもらう距離じゃないぞ。  ふう〜〜〜

 しかし 暑かった ・・・ 」

「 シャワーどうぞ!  さっぱりして昼ごはんです 」

「 ああ ありがとうよ   お? フランソワーズは? 」

「 え〜っと もうすぐ帰ってくるかな〜〜 いつも20分のバスだから 」

「 ・・・ 詳しいのう 」

「 あは みんなの予定はだいたいわかってるし〜 

「 そうかい ではちょいとシャワーを 

「 どうぞ! 」

 

    ・・・ 他人の予定はしっかり覚えているのに

 

    なんだってアイツは いつも寝坊するんだ?

    というより 時間通りに起きられんのだ?

 

 カチャ。  バス・ルームはぴかぴかで水滴も ない。

 

「 ・・・ ほう ・・・ アイツはハウス・キーパーとしての

 適正があるのか ・・・ 変わったヤツじゃのう 」

天才科学者は またまたアタマを捻りまくる。

 

 

「 ただいま帰りました。 」

「 あ〜〜 フラン お帰りなさ〜〜い ごはん できてるよぉ 」

博士がバス・ルームから戻るころ 彼女が帰ってきた。

「 あら 嬉しい!  ね  ぶどう、売ってたの〜〜〜

 すごく美味しいのよ 買ってきちゃった 」

「 わお〜〜〜 ぼく 葡萄、だいすき〜〜〜  うわお〜〜〜

 しゃいんますかっと じゃん〜〜〜  」

「 そういう名前なの? 試食して ものすごく美味しくて 

「 うんうん ぼくも大好きなんだ〜〜 じゃ 冷やとくね〜〜

 食後に食べようよ  」

「 うふふ 楽しみ〜〜  」

「 あ フラン シャワー してきなよ?

 昼ごはん  待ってるから 

「 え でも・・・ 博士、お帰りになったトコなのでしょう? 」

「 いやいや ワシもシャワーしてきたところじゃよ。

 テラスで風にあたって待っておるから ・・ ゆっくりシャワ―を

 浴びておいで 」

「 ありがとうございます〜 

「 あ フラン  洗濯モノ〜〜  ほら もう乾いたよ 」

「 ジョー〜〜〜 ありがとう〜〜〜 きゃ ぱりぱり♪ 」

フランソワーズは 大きなバッグを持って二階に上がっていった。

 

     ・・・ ふむ・・・?

     実に気が利くヤツじゃなあ ・・・

 

     こりゃ 家政婦 に向いておるのじゃないか

     ・・・ いや 専業主婦 とか・・

 

博士は 団扇を使いつつ 茶髪ボーイの横顔を窺うのだった。

 

彼のランチは素麺だったが 庭の畑で採れた茄子の煮びたしやら

かき揚げやら 細かく切ったチャーシューもありなかなかのご馳走だった。

「 ・・・ ん〜〜〜 美味しいわあ〜〜〜

 ねえ ねえ この茄子の煮物! すごっく好きだわ わたし。 」

フランソワーズは こまっちゃう〜 と言いつつ 何倍もお代わりをした。

「 うむ うむ  これは オクラか? 大根とよく合うのう 

博士は辛味大根がたいそう気に入った。

「 えへへ・・・ 嬉しいなあ〜〜

 あ この素麺はね〜〜 コズミ先生から頂いたもので〜す 

 フラン お箸 上手だね 」

「 そう? ありがと ・・・ でも難しいわ 」

「 え〜〜〜 ぼくよかよっぽど上手だよ? 

 素麺ってさ ぼくなんか もう〜〜掻き込んじゃうもんな〜〜 」

「 ジョー。 箸はな テコの原理をアタマにいれておけば

 誰でも巧く操れるのさ 」

「 ・・・・ 」

フランソワーズも にこにこ・・・頷いている。

「 てこ??  へ え ・・・ そうなのかあ〜〜 」

「 なんじゃ 箸の文化で育ったのに 知らなかったのか 」

「 知りません〜〜 なんとなく見様見真似で使ってるだけ・・・

 え ・・ あ〜 こう ・・・? 」

「 そうそう ジョー。 ここが支点になるの。 」

「 あ ・・・ な〜るほど・・・ そっか

 そうすると わお〜〜 これもつまめる〜〜 」

ジョーは 薬味の刻みネギを一片づつ摘み上げてみせた。

「 あら ジョー、器用ねえ 」

「 今まで トングとかでバサっと取ってたけど

 今度から華麗に箸を使っちゃうぜ〜〜 」

「 ふふふ・・・ジョーって楽しいわねえ 」

「 え そ そう? ・・・ なんか 嬉しいな 」

「 ほっんとうに美味しいランチでした♪ ご馳走様〜〜

 晩ご飯はわたしが作るわ。 なにかリクエスト ある? 」

「 え え〜〜〜 ホント?? リクエスト?

 う〜〜〜ん アレ とか コレ とか ソレ とか・・・

 うっわ〜〜 迷う〜〜〜 」

 

     楽しそうじゃな ・・・

     姉と弟に 見えんこともない が。

 

     ジョー? お前 頑張れよ!

 

博士は 熱いほうじ茶を含みつつ目を細めていた。

 

 

 ― その夜 ・・・・

 

「 ふう ・・・・ 」

 

博士は 窓辺でこそっとため息をつく。

きっかり晴れた夜空には まん丸・秋の名月が昇ってきている。

 

「 ・・・ ようわからん  なあ 」

「 なにが ですか 」

「 ! ああ フランソワーズ・・・ 」

「 はい 梨を剥きましたわ。 どうぞ 

「 おお ありがとう ・・・ これは瑞々しくて美味しそうじゃ 」

「 ええ この国の果物は本当に美味しいですよね。

 ・・・ なにが わからないのですか? 」

「 いや そのう・・・ なあ 」

博士は 梨を摘みつつぽつぽつと話した。

 

   ・・・ アイツ は 謎の存在だと思わないか?  と。

 

「 ・・・え?  ジョー ですか?

 え 謎?? そう ですかしら・・・

 ・・・男の子って みんなあんなトコ、あるんじゃありません? 

「 そ そうかね・・・? 」

「 ええ ・・・ そりゃ 掃除とか上手でとてもキレイ好きだけど・・・

 それって ニホンジンの特性でしょう? 」

「 そ そうなのか?? 」

「 らしいですよ。 あのね 今 通ってるバレエ・カンパニーでもね

 トイレ掃除 とか スタジオの掃除は 皆 当番制で・・・

 あ 男子たちもちゃんとやってるんです。 」

「 ほう??? 若い子たちが なあ 」

「 学校でもずっとやってたよ〜〜 って 皆 当たり前ってかんじで。

 ・・・最初 わたし びっくりしたんですけど・・・

 自分たちが使ったとこ、掃除するのは当然かなああ〜〜って

 気持ちになりました 」

「 ほう・・・ じゃあ アイツの行動は 国民性 か? 」

「 さ あ・・・ でも たぶん・・・ 彼の性格かなって 」

「 ふうむ・・・? 」

「 彼 とっても優しいんですよ 」

「 ああ いつも こう・・・ 微笑んでおるな 

 ワシにはどうも曖昧な雰囲気がするのじゃが 」

「 ええ  彼、自分を傷つけてでも 護りたいみたい 」

「 へ?? 」

「 なんか そんな気がするんです ・・・

 自分自身のことは後回しで 周りの皆のこと、気にしてる。 」

「 ううむ・・・なるほど なあ 」

「 たぶん、ですけど ね 」

「 ふうむ・・・ 」

 

  パタパタパタ ・・・  テラスから話題の主が入ってきた。

 

「 ほら ススキ!  これ 飾りませんか。

 今晩 満月みたいだし・・・ お月見〜〜〜 」

彼は 背の高い草を振ってみせる。

「 あら 面白い草ねえ・・・ 花瓶 持ってくるわね。

 あ ジョー 梨を剥いたわ。 手を洗って・・・ どうぞ 」

「 うわあ〜〜い 」

 

ススキと梨で 小さな月見会となった。

 

「 ぼく さ。 今、ここで皆と暮らしてて・・・

 めっちゃ幸せなんだ・・・ 楽しくて嬉しくて 」

ジョーは なぜか俯きつつボソボソと言う。

「 ジョー? 」

「 ・・・ ごめん  あの・・・ 」

「 どうして謝るの? 」

「 だって・・・ その ・・・ きみは故郷から離れてて 」

「 わたしね  このお家で暮らすの、楽しいわ。 

 博士やジョーと暮らして 近所の人達とおしゃべりしたり・・・

 楽しいの。  わたし 幸せだわ。 」

 「 そ そう??? 」

「 ええ。 」

「 そっか〜〜〜 そうなんだ??  嬉しいなあ〜〜 」

「 だから いろいろ・・・ 言ってね?

 遠慮したりしないで。  わたしも言うから 」

「 ・・・ 遠慮とかしてないよう〜〜

 あ ・・・あのさ。

 月がキレイですね  は 日本人にとっての あいらぶゆ〜〜

 なんだって。 なんかで読んだけど・・・

 昔のエライ作家が そんな風に訳したんだって 」

「 ・・・ うっそ・・・ え〜〜 そうなの?? 」

「 あれえ  フランソワーズ?  経験 あり? 」

「 え!? ・・・ い いいえ  そんなこと ・・・ 」

「 ね じゃあ これから 月、見に行こうよ〜〜 崖の先っちょの方

 行ってみようよ 」

「 わあ 素敵ねえ〜〜 満月の夜ね 行ってみましょう! 」

「 うん! 楽しみ〜〜〜 えへ ・・・ ぼく シアワセ♪ 」

ジョーは う〜〜ん と伸びをしてにっこり 笑った。

 

「 ぼくの大切なヒトたち と シアワセな時間 護るさ!

 それが ぼくの生きがいなんだあ〜〜〜 

 

      ・・・ ははあ ・・・ そうなのか・・・

      それで アイツは。

 

      そのためには サイボーグ009 として

      全力で闘える というわけか・・・

 

      ・・・ 護るため か。

      なるほど なあ・・・

 

「  ―  やはりアイツは 稀有な存在なのじゃなあ ・・・

 ワシらにとって 最強の戦士 ということか ・・・ 」

 

 

     ああ  ―  今夜も 月が綺麗じゃわい    

 

あの茶髪の少年を 009 に選んだことに マチガイはなかったのだ、

と 博士はしみじみ・・・思うのだった。

 

 

 

***********************     Fin.     ************************

Last updated : 09.15.2020.                 back      /    index

 

 

***********   ひと言   **********

平成ボーイの ジョーは 確かに博士にとっては

謎な存在 なことでしょうね (*_*;

でも そんなジョー君が 好き だなああ (*´▽`*)