『 きれいなお月様 ― (1) ― 』
ぱた ぱた ぱた ・・・
軽やかな足音が 二階の廊下を駆けてゆく。
足音は 奥から二つめのドアの前で 止まる。
トントン ・・・ トン
その部屋のドアが やはり軽くノックされる。
始めは低い音で ― だんだんと大きく。
「 ジョー ・・・? 起きて。 時間よ 」
ドアの前で 彼女はそっと声をかける。
「 ・・・・ 」
返事は ない。
とんとん !
ノックの音が少しアップする。 まあ 普通の音 だ。
この家の他の住人 つまり ギルモア博士は
とっくに起床しているので 周囲への気遣いは無用なのだが ・・・
「 ジョー。 時間です。 起きて 」
彼女の声のトーンも 普通。 普通の話声でドアに向かっている。
「 ・・・・ 」
返答は ない。
どん どんどんッ !
ノック・・・ とはいえない音になる。
もし密な民間アパートだったら ・・・ クレームもんだろう。
ただ ここは街はずれの一軒家。 文句をいうヒトは いない。
「 お き な さ い 」
彼女の声は ぎゃくに低く・・・でも 強くなる。
地を這うような という表現がぴったりで ― 少々恐ろしい。
「 ・・・ ん ・・・ あ 」
微かに 反応がある。
がさごそ ごそ・・・ 毛布が動く音もした。
「 起こしましたからね。 今 起きないと 遅刻 です!!!
もう 起こしませんから ね! 」
トントントン ・・・ 足音は遠ざかってゆく
・・・ が ちゃ ・・・
やっと部屋のドアが開く。
「 ・・・ う〜〜〜〜 ねむ ・・・・ 」
ぼさぼさの茶髪あたまが ぼ〜〜〜っと出てきた。
「 ヤバ ・・・ バイト 遅刻厳禁だし 」
ふら〜り ふらふら ・・・ 朝陽の入る廊下を行き
バスルームに辿り付く。
半分 眼が開いていない。
よれよれしつつ 浴室に入り シャワーのコックをひねった。
シャワ −−−−−−−−−−
冷たい水が 容赦なく襲い掛かってきた。
「 ひや ・・・ うわ〜〜 」
どうやら や〜〜〜っと覚醒し始めた らしい。
「 だっぴゃ・・・ つっめて〜〜〜〜 」
冷たいのなら お湯にすればいいのだが 水のままだ。
「 う〜〜〜 きくぅ〜〜〜 」
アタマから 雫を飛ばしつつ シャワー・ブースから飛び出す。
「 のんびりしてる時間じゃないんだった〜〜〜
ああ しまった、髪 濡らしちまった〜〜〜
う〜〜〜 あ 加速装置すれば即行で乾く かも・・・
! ダメだ 服も燃えちまう〜〜 」
ばたばたばた −−−−
彼は水をまき散らしつつ キッチンに現れた。
「 フラン〜〜 ごめん、朝ご飯 たべてる時間 なくて〜〜 」
バタン ― 慌てて開けたドアの向こうには
リビングの奥には 清潔に拭きこまれた食卓が
差し込む朝陽を受け 光ってみえた。
「 ・・・ あ? 」
「 ― なんじゃい 」
テ―ブルの上には 博士がのんびり新聞を広げていた。
「 あ・・・ 博士。 ・・・ あのう〜〜 フランは 」
「 はあん? 」
「 あのゥ・・・ フランソワーズ・・・ います? 」
「 今頃 なにを言っておるか。
彼女なら もうとっくに出掛けたぞ。 」
「 あ ・・・ レッスン かあ 」
「 毎朝 都内までちゃんと通っておるではないか。 」
「 ・・・ そうです ね ・・・ 」
「 そうじゃ。 わかり切っていることだろうが。
どれ そろそろワシも準備するか 」
「 え 博士 なにか・・・? 」
「 コズミ君が技術供与しておる医療機関への応援じゃ。
打合せに行ってくる。 」
「 あ そ そうでしたね 行ってらっしゃい 」
「 うむ。 ・・・ ジョー なにか用事があったのじゃないか 」
「 え ・・・ あ!!
ぼく 今日 バイトで〜〜 すぐに出ないといけないので
朝ご飯 食べてるヒマなくて・・・ってフランに
謝ろうと 」
「 バイト?? 例の配達か? 」
「 ハイ。 最近ずっと来てくれって ・・・ 」
「 そうか 気に入ってもらえたのじゃなあ よかった よかった 」
「 えへ ・・・ チカラ持ちだね〜って言われて 」
「 ほうほう 頑張りたまえよ
」
「 ハイ。 頑張ります 」
「 で これからバイトかい 」
「 ハイ。 開店前の準備も頼まれてて 」
「 ほう〜〜 配達だけではなくて店のことも任せてもらえるのか 」
「 あは ・・・ 重たいものが多いんで ・・・ 」
「 そうか そうか ・・・ で 何時からじゃね? 」
「 ハイ 開店は10時なんですけど 」
「 ふむ ? 」
「 配達の準備とか トラック便への対応とかもあって 」
「 ほう〜〜 それもお前がやるのかい 」
「 ハイ。 店長サンは最近腰を傷めてて・・・
ぼくが代わりに手伝ってて・・・ 」
「 そうか〜 頑張れよ。 店長さんを労ってなあ 」
「 ハイ。 」
「 で ジョーは何時までに行けばいいのか 」
「 えっと・・・ 8時半 って言われてて 」
「 はちじはん じゃと? 」
「 ハイ。 ぼくが店の鍵を預かってて 」
じゃらりん。 ジョーは尻のポケットからかなり古めかしい鍵束を
取りだした。
「 お前 いま 八時半 といったか?
」
「 ハイ。 ・・・ 聞こえませんでしたか? 」
「 ・・・・ 」
博士は むっとした顔で黙って壁の鳩時計を見上げた。
そして 自身の腕時計を見直し ―
「 早く 行かんか〜〜〜〜 !!! 何時だと思っとる〜〜 」
「 は はい〜〜〜〜 」
茶髪の寝坊助はまた水滴をまき散らしつつ 玄関から駆けだしていった。
が。 彼は立ち止まった。
「 う〜〜〜 あ 財布! う〜〜 部屋かなあ・・
でもお バスが 来ちゃうし〜〜〜 」
「 ? おい! なにしとる! 」
「 あ あのう〜 財布があ ・・・ 」
「 財布? お前 スマホもっておろうが 」
「 え はい。 ほら ここに 」
彼はにっこり笑い 尻のポケットから引っぱりだした。
「 ならいいではないか。 なんとかペイ とやらは
ちゃんと入れてあるのだろう?
」
「 はい 勿論。 あ それから〜〜 ぱすも も入ってるんですよ
博士もどうですか 便利ですよ
」
「 ・・・ それなら! 問題はなかろうが ! 」
「 も〜ね なんでもスマホですんじゃうから〜 」
は や く 行け !!!!
「 はい〜〜〜〜〜 」
ジョーは やっと? 本気になり、というか 博士の権幕に
若干恐怖を感じ、 文字通り脱兎のごとく駆けだしていった。
「 ・・・ ふう ・・・ やっと行ったか ・・・
ほんにアイツの寝坊癖というか あの 暢気坊主というか ・・・・ 」
はあ ・・・ 博士は深くため息を吐く。
「 ― いったいどういう性格なのか ・・・ 009 は 」
この国にやってきてこの地を本拠地とし。 この館を建てた。
博士自身とメンバー達全員の < ホーム > と定め、
地下には本格的なメンテナンス・ルームやら工房を設置した。
「 皆 いつでも来ておくれ。 ここは皆の 家 じゃから 」
博士は 心をこめて全員に伝えた。
メンバー達は 各々の事情により祖国に戻るもの、この国に住むもの
行き来するもの といろいろだった。
「 ふむ ふむ ・・・ 皆 いいようにすればよいよ。
いつでもこの邸の門は 諸君らを歓迎しておるからな 」
長い付き合いで 博士は彼らの性格をかなり正確に把握していた。
最初こそ サイボーグ戦士 としての能力だけに注目していたけれど・・・
決死の逃避行の後は 一人一人の人間 として 彼らを見つめてきた。
「 ・・・ 同じ じゃな。
彼らの闘い方や行動は 彼らの本来の性格に基づくものだ。 」
そう ・・・なのだ。
切り込み隊長? でいつでも・どこでも真っ先に飛び出してゆく002は
日常でも < 飛んで > いた ・・・ よく言えばフットワークが
よい、ということかもしれないが ・・・
「 こっちの方が手っ取り早いからよ〜〜 」
頻繁に電話が掛かってくる。 彼はメールさえ面倒くさい と言う。
「 いちいちぽちぽちやってる間によ〜 ちゃらっと話せるじゃんか 」
その話も途中で 彼は飛び出す。
「 ん〜〜 そっち行くぜ 」
ちょっと待て、最後まで聞け、と博士は何十回叫んだことだろう・・・
「 あ〜 後は直接聞くからよ そんじゃ! 」
― そして まもなく 実際に彼自身が到着する のである・・・
「 なんだよぉ〜 ちゃちゃっと言ってくれ 」
・・・ これが 平時での彼の口癖である。
データ分析に長け 戦場でも冷静慎重な008は 常にきっちりと
先を見据え 広くデータを集め 祖国の発展のために動いている。
「 わかりました。 現在のデータを全て送ってください。 」
あらゆる緊急時でも 彼は慌てる という言葉とは無縁の存在だ。
「 ・・・ あ 今 受信しました。 すぐに分析しますから
このまま 繋いでいてください。 」
当面の事態に急変はないから と伝えても ・・・
「 いえ 何か起きてからでは対策が後手に回りますから。
僕の方から004に繋ぎます。 三人で検討しませんか。
より多角的な見解が得られます。 」
時差も考えず、こんな時間に済まない、と博士が言えば
「 それは無関係です、博士。 僕らに時差による負荷は
ありません。 博士らしくないご意見ですね 」
いや その・・・ 諸君らの生活に支障をきたしては・・・と
遠慮がちに言うのだが
「 事態の収拾が先決です。 ああ 004が出ました。
では 作戦を 」
とても優秀で頼もしいのだが ― なぜか博士はこっそり・・
ため息が出てしまうのだ・・・
006 や 007 は どこでもいつでも 本人自身の性格 が
行動の指針となっている。
「 アイヤ〜〜〜 ギルモアせんせ〜〜
美味いダック、手に入りましてん。 ど〜ぞいらしてください 」
いや その前に と博士は緊急事態へ話を向けようとするが
「 せんせ〜〜 まず美味しいもの、いただかな あきまへんで
きっちりいただかな、アタマはようけ働きまへんよって〜
ほいでなあ この前、ええ雲丹をようけ買い付けましてなあ 」
常に食べ物に 話は逸れてしまうのだ・・・
「 そやかて しっかりごはん、食べな な〜〜んもでけしまへんやろ 」
「 ほう? 時代というものには常に流動性がありますなあ〜〜 」
俳優氏は いつでも的確な物言いをする。
「 生々流転。 確実なものなど なにもありはしない ・・・
ふ・・・ 吾輩のこの気持ちとて 次の瞬間にはもう変わっておるかもしれぬ 」
博士は 彼と 仲間 になってから 改めて シェイクスピアに填まったりもした。
「 なるように なる のであるよ。 ヒトも世の中も 」
周囲を煙に巻き その勢いで敵もまんまと出し抜くのだ。
・・・ こういう闘い方もあるのか ― と 博士は瞠目したものだった。
004は 全く感情に左右されることなく正確無比に闘うが
その裏には 驚くほど繊細な感覚を備えている。
それが 彼の戦士としての欠点であり人間としての豊かさだった。
「 ・・・ ベートーベン リスト を 専門に弾いていた 」
ピアニストとしての手 を再び得たとき 彼はぼそり、と言った。
博士の渾身の < 改造 > と思っていたが ・・
「 弾いてみなければ わからんですな 」
004は < 新しい手 > を しばらくじっと見つめていた。
彼が新進気鋭のピアニストだったことは かなり後から知った。
そう 逃亡が成功した後、それぞれがなんとなく自身のことを
語り始めてからだった。
では、 とさっそくリビングにアップライトだけど 老舗メーカーの
ピアノを置いた。
「 ・・・ ・・・ 」
004 いや アルベルトは黙ってその楽器を見つめていた。
彼の演奏は ― 驚くほど精緻で正確だった。
彼が奏でるベートーベンは 正確無比だった ― 004の攻撃力と同じく。
・・・ しかし
「 ・・・・・ 」
おお ・・・ これが 彼 か 彼のこころ か ・・・
たまに流れてくる ショパン の繊細な音に心を癒された・・・
≪ 僕ハ 彼トユクヨ ≫ 001は 自ら005と
暮らすことを望んだ。 勿論 005に異論はなかった。
他のメンバー達は 不思議に思ったらしいが
博士には すぐに納得が行った。
「 ・・・ああ。 あの二人は似たモノ同士 だからなあ 」
二人とも多くを語らない。 脳波通信やテレパシーも使わない。
それでいて お互いの気持ちは通じ合っている らしい。
≪ 005ノ側ハ 広イカラネ ノビノビ出来ルンダ ≫
001の言う < 広い > とは どうやら心理的空間のことのようだ。
005の周囲にいる精霊たちも この不思議な赤ん坊を
気に入っているのかもしれない。
「 まあ ・・・ あれでいいんだろうよ 」
自然に囲まれた環境で 001はまたパワー・アップしていた。
そして 問題の? 紅一点であるが。
「 うむ ・・・ あの娘 ( こ ) については ・・・
ワシは一つ屋根の下に暮らし始めてから やっと理解できたかのう・・・
オンナの子は ムズカシイわい 」
最初こそ お互い敬遠気味だったが 今は遠慮のない < 家族 > に
なってきたかなあ と思う。
きっかけは ささいな、偶然にも近いことだった。
「 ふ〜〜む ・・・ この霧吹きで水を か ・・・ 」
博士は 盆栽の鉢を前に少々途方にくれていた。
「 コズミ君は 入門者には最適、と譲ってくれたのじゃが・・
はて 吹き掛ければよいのかのう ・・・ 」
カタカタ カタ ・・
庭用のサンダルを鳴らし 003が出てきた。
「 ・・・? あら 博士。 お水をあげるのですか 」
「 あ? ああ そのつもり、 なのだが 」
「 ? あらあ〜〜 可愛いちっちゃい木ですねえ 」
「 うむ ・・・ コズミ君から譲ってもらった盆栽じゃ 」
「 ボンサイ! わあ〜〜 く〜る! これが盆栽なんですね〜 」
「 お 知っておるのかい 」
「 ええ。 パリでね 日本文化ってすご〜〜く流行ってて・・・
ボンサイって上級者のシュミなんですよ 」
「 ほう・・・ これは 松の盆栽で ・・
もうしっかり根付いておるから 育てるのは易しいそうだ 」
「 へえ ・・・ ね ちっちゃいのに ちゃんとこう〜〜枝が張ってて
ほら 門の側にある大きな松と似ているわ 」
「 そうじゃなあ 」
「 それでお水を上げるんですか? 」
「 と 言われたのじゃが 」
「 へえ・・・ アイロンかけの時の霧吹きみたいですね 」
「 使い方、 わかるかい 」
「 え ・・・たぶん ・・こうやって 」
ファ −−−− 細かい水滴が松の緑を鮮やかにする。
「 おお そうか ・・・ 」
「 ね? ふふ この木、お水もらって喜んでますよね 」
「 うん うん 」
「 あ わたし、花壇にお水 上げるんだったわ〜 」
「 花壇? ああ ・・・ 肥料は必要かな 」
「 たぶん ・・・ 」
「 よしよし ちょいと合成しよう なに、天然素材じゃよ 」
「 わあ〜〜 ありがとうございます〜 」
< なんとなく敬遠気味 > な雰囲気は もうどこにもなかった。
やれやれ ・・・
まあ どんな人間でも
理解しあう糸口 というものは あるなあ
ふふふ・・・庭木いじり 土いじり か。
彼女との共通の趣味になるなあ
皆 同じことだな ・・・
・・・ ニンゲンとはほんに奥が深いのう ・・
機械など 単純なものだ
ニンゲンの方が 遥かに複雑で繊細じゃ
博士は最近 つくづくと感じている。
そうなのだ。
どんなコトが起ころうとも ニンゲンとはそれぞれの
持って生まれた性格にかなり左右されて行動している らしい。
博士は それを身をもって理解した。
メンバー達は その闘い方とほぼ同じような性格を持っていた。
・・・ と思っておったのだよ。
しかし。 ・・・しかし、 だ!
― そう。 あの最後のメンバーだけは ちがう。
ギルモア博士自身が 渾身のテクニックを用いて
最新型・万能・最強のサイボーグ戦士として改造された 009。
彼は 最初こそ 自身のあまりの変化に戸惑い驚愕していた。
≪ サア 君ノ実力ヲ試シテミタマエ ≫
001に叱咤激励されても 彼の動きは鈍かった。
ぎくしゃくとし 自分自身の身体が理解できていないのかもしれない。
う ・・・ む ・・・
やはり あの少年では無理じゃったかのう
博士は一抹の後悔の念を感じていた。
もっと年嵩の オトナ といわれる年齢の被検体を使うべきだった
かもしれない。
しかし ―
≪ 002 009。 俺達が援護射撃に入る。 突入せよ ≫
≪ わかった〜 えっと・・・ 誰だっけか ? ≫
≪ ! 004だ! 周波数を覚えろ! ≫
≪ ご ごめん ・・・ ≫
≪ 009。 後方から無人戦闘機 50機! 座標を送るわ! ≫
≪ ありがとう ・・・ えっと ・・・ 005 だっけ? ≫
≪ ! 003よ! しっかりしてよ ≫
≪ ごめん〜〜〜〜〜 ≫
こんなギクシャクしたやり取りもほんの最初だけ。
すぐに彼は < 最新型・最強サイボーグ > としての
能力を存分に発揮し始めた。
≪ 009。 003からデータを受け取ったら 作戦発動だ。
予定は ○○時! ≫
≪ 了解 ! ≫
ズッガ −−−−− ン ・・・・ !
○○時 きっかりに敵の本拠地は爆発、大炎上した。
「 ふん いつものことながら 」
004は コンソールを前に呟く。
「 うん 計画通り。 一分の狂いもなし だよ 」
時計を見て 008は白い歯を見せて笑う。
「 壊滅したか? 」
「 ・・・ ええ。 AIにより運営されている基地だったけど 反応 ナシ ね 」
003はすぐに遠視を終えた。
「 へ! ほんじゃ ドルフィンのエンジン、スタートしとくぜぇ 」
パイロット席に飛び込み 002はシートベルトを装着した。
ズズズズ −−−− 軽いエンジン音が響きだす。
「 全員 シートベルト on! 」
「 了解 」
シュ ッ ・・・・ !
聞き覚えのある特殊な音と共に空気が動き ―
「 任務完了したよ〜 」
002の隣、サブ・パイロット席には 茶髪の少年が笑顔を見せている。
「 ドルフィン、 発進 ! 」
ゴゴゴゴ −−−−−−−−
ドルフィン号は009の帰投と ほぼ同時に離陸するのだった。
― そうなのだ。
やがて 戦場で 009は まさに水を得た魚のごとく、素早く、
そして正確に動き、皆の殿 ( しんがり )を守り
任務を完全遂行するようになっただった。
うむ ・・・ 本性発揮 というところだな。
やはり アイツは 009 となるべき存在だった・・・
ワシの選択は 正しかったのだ。
博士は密かに 胸をなでおろしていた。 ・・・ のだが。
「 ・・・ なぜだ??? なぜなんだ ・・・?
いや 島村ジョー は あの 009と同一人物なのか??? 」
岬の洋館で 共に生活するようになってから
博士は何十回 この言葉を呟いただろう ・・・
できれば 叫びたかった。
島村ジョー という人物は
最新型・万能・最強のサイボーグ戦士として
あの派手な防護服を纏い戦塵にまみれている時と
茶髪に柔らかい瞳を持った少年としてごく普通に暮らしていう時と は
全くの別人 に近かった。
彼は 博士には理解しがたい性格と行動様式を持っていたのだ・・・
「 あは そうなんですかあ〜〜 ふうん 」
「 ふうん ぼくはそれでいいです〜〜 」
「 あ ごめん フラン〜〜〜 きみの言うとおりだね〜 」
「 博士〜〜 これでいいですかあ
え ぼくは皆がやりやすい方でいいですから 」
大抵のことは 彼はそう言って曖昧な微笑とともに受け入れる。
自己主張 とか 彼自身の見解 とかは ほとんど口にしない。
え? ぼくは みんなと一緒でいいよう
と 彼はいつも曖昧に柔らかく笑っているだけ なのだ。
「 彼は どうかしてしまったのか ・・・?
あの正確無比な攻撃行動をとる009は どこへ行ったのか?
・・・ 二重人格 か? まさか・・・なあ。
ああ やはりワシは人選を誤った ・・・ ということか? 」
この邸に共に暮らすようになってから 平穏な日々の中で
博士はしばらく密かにアタマを抱えていた。
天才科学者にも 理解不能のなことが存在したのだった。
「 ・・・ わからん ・・・ いくら考えてもわからん。 」
そして 博士は < 理解 > することを諦め
009 ではなく 島村ジョー という青年に < 慣れる >
ことに専念したのである。
なにせ I love you
を 月がきれいですね と翻訳する国に
生まれ育っているオトコなのだ・・・
「 そうじゃ 仲間たちはヤツのことをどう思っておるのかなあ
・・・ ウチのお嬢さんは どうなんじゃろうか 」
ふと見れば 同居人の若者二人はテラスで花に水遣りをしている。
「 ねえ これ なんという花? アサガオ みたいだけど 」
「 え? これはねぇ ハイビスカスよ。
アサガオは 朝、咲いて昼には萎んでいるでしょう? 」
「 あ そっかあ〜〜 そうだねえ 真っ赤なアサガオなんて
初めて見るって思ってた 」
「 ふふふ これはね 南の国の花よ 」
「 へえ〜〜 」
なんとも ほんわか・のんびりした会話が弾んでいた。
Last updated : 09,08,2020.
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************ 途中ですが
珍しく ギルモア博士目線? の話です ★
中途半端なとこで切りましたけど
この後も なんてことない展開の予定・・・ <m(__)m>