『 澱 (よどみ) −(2)− 』
ギルモア邸の周囲は切り立った断崖になっている。
温暖な気候の地で取り巻く海も穏やかなのだが、冬になれば冷たい波飛沫が散る日もあった。
突然の襲撃を受けた翌日、朝からどんよりと灰色の雲がたれこめ、海風はつめたい波のカケラを運んだ。
寒風の中、サイボ−グ達は昨晩の戦闘の跡へ調査に出向いていた。
「 うひょ〜〜今日はまた・・・えらく荒天だな。 ぶるるるる・・・・ 」
吹きつける海風にグレ−トは首をすくめ、しかめっ面をしている。
「 ほっほ。 あんさん、ほんなら白くまとかペンギンはんにならはったらええ。 ほれ、北極に行った時に
やってはったやないか。 」
「 う〜〜〜 こんなトコで白くまになんかなれるか。 万一目撃されたら大スク−プになっちまう。
さ、はやく昨日の残骸を調査しようぜ。 」
「 はいな。 ・・・ うほ。 な〜んやみんな黒こげでんなあ。 」
「 撃墜した機はだいたいこの辺りに落ちたはずなの。 ・・・ あら! 」
「 なんだ? どうした、マドモアゼル。 またアヤシイ影が飛んできたのか。 」
「 来たわ! アルベルトと ・・・・ あらピュンマも一緒よ。 」
「 ・・・ なんだ・・・ またとんでもないヤツの来襲かと思ったぜ。 」
「 ジョ−! アルベルトとピュンマが着いたわ! 」
フランソワ−ズは 反対側の岩場に声をかけた。
「 ん? ジョ−はあっち側にいるのかい。 」
「 ・・・え、ええ・・・ あっちにも残骸が落ちたでしょ。 それを調べているみたいよ。 」
「 ほう? あ ・・・ お〜〜い!! アルベルト〜〜 ピュンマ! ここだ、ここだ! 」
グレ−トは断崖の上に向かってわさわさと手を振っている。
・・・ よかった・・・ 皆、早目に集まってくれて・・・
ジョ−・・・ 朝からにこやか過ぎて。 昨夜のこと・・・怒って・・・ううん、それならまだいいわ・・・
気にしてる、ものすごく。 拘って ・・・ 傷ついて。 囚われているのね。
ふうう・・・・
フランソワ−ズの溜息は海風に乗って散り散りに流れてゆく。
この風に。 イヤなことや 抱え込んでしまったコトを流してしまいたい・・・
風に弄られた髪を押さえるフリをして そっと目尻に溜まった雫を払った。
目の隅には 磯伝いにこちらにやってくるジョ−と断崖をおりてくる仲間達の姿がしっかり映っている。
「 さ! フランソワ−ズ。 しっかりしなくっちゃ。 ね? 」
パン・・・!と頬を軽く叩くと 彼女は仲間の輪に向かって駆け出した。
「 よ。 ・・・ こりゃまた派手にやったな。 」
「 おはよう! ちょうどね、ブラッセルの国連本部にいたんだ。 アルベルトにもすぐに連絡がついてさ、
だからこんなに早く来れたんだけど。
・・・・すごいね。 今時、こんな戦闘機、使うのかなあ。 」
ピュンマはさっそく足元の残骸を見て首を捻っている。
「 アルベルト! ピュンマ! いらっしゃい。 急に呼び出してごめんなさいね。 」
「 いや、こっちこそ遅くなってすまんな。 」
「 緊急事態だったのですもの、仕方ないわ。 とりあえずなんとか・・・ グレ−トと大人が駆けつけて
くれたし。 どうにかドルフィン号で迎撃できたのだけど。 」
「 ジョ−と二人でドルフィン、飛ばしたんだって? 大変だったろ? 」
「 ううん・・・ほとんどジョ−がやってくれたから。 わたしは情報収集しただけよ。 」
「 いや、それが一番大変なんだよ。 いきなりのドンパチじゃあねえ・・・ 」
カラン・・・ ピュンマは黒こげの残骸を軽く蹴飛ばした。
「 正直に言うとね、大忙しだったの! グレ−トじゃないけど腕がもうあと2本くらい欲しかったわ。
やっぱり皆がいてくれると心強いわね。 」
「 おやおや・・・ 俺たちが居たら邪魔かなあって思ってたぞ? 」
「 え・・・ そ、そんなこと・・・ だってミッションじゃない。 」
「 へえ、そうかなあ? ほっぺが赤くなってるよ。 」
「 え ・・・ やだ、もう〜〜〜 」
耳の付け根まで赤くなりつつも、フランソワ−ズは二人の明るい笑い声にほっとしていた。
重苦しい雰囲気がすこしだけでも軽くなった気分だ。
・・・ ありがとう ・・・!
「 やあ。 遠いところ、ありがとう! 」
ジョ−がゆっくりと歩いてきた。 散歩中に近所の友達に会った・・・という雰囲気だ。
「 おう。 それで コイツら ・・・ アヴェンジャ−だって?? 」
「 うん。 グレ−トに聞いたのかい。 」
「 昨夜、博士とフランソワ−ズから情報をもらった。 間違いないのだろうな。 」
「 ああ。 今、残骸をもう一度検証してきたけど、間違いない。 」
「 ・・・ パイロットは? 」
「 生存者はいない。 」
「 ちょっとさ。 ・・・ 遺体とかでもいいんだ、調べたいな。 」
「 いいよ。 向こう側の方が損傷が少ないと思うよ。 捜してみよう。 」
「 うん、多分NBGの兵士かサイボ−グが操縦していたのだろうけど。 あ、フランソワ−ズ・・・
こっちは僕達に任せてくれよ。 ね? 」
ピュンマはさり気なく 気遣いをしてくれた。
「 ありがとう、ピュンマ。 でもわたしも確かめたいわ。 」
「 おおい・・・こっちだ。 早く来いよ。 この辺りに纏まって落ちたんだ。 フランソワ−ズ、見てくれ。
詳しくサ−チして報告しろ。 」
ジョ−はすたすたと先に歩いてゆき、残骸の脇で彼らを呼んでいる。
「 なんだ? アイツ・・・ なにかあったのか。 」
「 アルベルト。 ううん ・・・ ちょっとジョ−の希望通りにしなかったから・・・機嫌が悪いのよ。 」
「 ミッションとは関係なのだろうが。 おまえ、アイツをあんまり増長させるな。 いい気になるぞ。
最初が肝心、ってこと、よ〜く覚えておけよ。 」
「 あら・・・アルベルトったら詳しいのね? でも そんな ・・ こと、ないわ。
あ・・・ 今 ゆくわ! ジョ− ・・・ さあ、急いで調査しましょ。 ・・・あっ・・! 」
「 いいけどさ。 ・・・おっと ・・・ほら、足元、気をつけなよ。 」
「 ・・・ ありがと・・・ 」
躓きかけて手を貸してもらい・・・思わず涙がぽとり、とブ−ツの脇に落ちた。
・・・ だらしないわよ、003。 これは 仕事 でしょ!
きゅっと唇を引き結び、フランソワ−ズは背筋を伸ばした。
そう、今は 003。 リ−ダ−の009の要請にしっかり応えなければならない。
サイボ−グ達は 焼け崩れた飛行機の残骸を取り巻いた。
焼け跡特有のニオイは海風が掃ってくれていた。
「 ・・・ 見つけたわ。 パイロット席に・・・一体。 ・・・えええ??? 」
「 なんだ、なにが見える? 」
「 え、ええ・・・ よく・・・わからない・・・わ ・・・ 」
「 わからない? しっかりサ−チしろ、 003。 」
「 了解、 009。 あの ・・・ サイボ−グでもロボット兵でもないわ。 」
「 生身だった、ものか。 どこだ? ああ この奥だな。 ちょっと下がってろ。 」
アルベルトは残骸の中に踏み込むと 問題のモノを引き摺りだした。
「 なにがわからないのかい、フランソワ−ズ。 これ・・・そうだろ。 」
「 ええ。 生体反応はなし。 ・・・ でも ・・・ これは なに?? 」
「 ・・・ 避けてろ。 」
ジョ−はつかつかと歩み寄り ソレの頭部からヘルメットを剥ぎ取った。
− ・・・ ウッ???
居合わせた全員が息を呑み、言葉を失った。
目に前に転がっているのは ―
現代風なエア・ス−ツに包まった ・・・ ミイラ だった。
「 ・・・ だから わからない、って言ったんだね、フランソワ−ズは。 」
「 ええ・・・。 これ ・・・ なに。 」
「 ふん、完全に干乾びている。 年代モノだ。 」
「 そうだな。 機体と一緒に焼けた結果じゃないな、これは。 ・・・ ホンモノのミイラだ。 」
「 ・・・ どういうこと、ジョ−。 」
「 年代を経てこうなったってこと。 このパイロットはそれだけの時間、生きていた・・・? 」
「 でも・・・ ミイラに操縦はできないわ。 なぜ・・・ ミイラなの、どうして・・・ 」
「 わからない。 ただ、この撃墜したヤツはTBMアヴェンジャ−型機で 第二次大戦中のものなんだ。 」
「 そうだ。 そしてアヴェンジャ−型機は1945年の二月に突如消息を絶った。
バミュ−ダ・トライアングル ・・・ 俗にいう魔の三角海域ってトコロでな。 」
「 ほう? だからパイロットはミイラなのかな? 止まったきりの時間の中で幾十年過していたのか? 」
「 ・・・ まさか ・・・ いや、そうとも考えられるなあ。 」
「 かなり損傷してるけど・・・ その年代のものには見えないよ。 旧い型だが現役だね。
妙な言い方だけど ・・・ 昔の新品ってとこさ。 」
「 ふむ・・・ なかなかイイコトを言うね、ピュンマ。 やはりこれは徹底的に調べないと・・・ 」
「 現地で調査しよう。 それが一番だよ。 バミュ−ダ・トライアングルへ行こう。 」
「 うん、それがいいね。 難破の名所・・・ サルガッソ−海へ行けばなにか判るかもしれないな。 」
「 賛成だ。 突然の攻撃は御免被りたいからな。 」
「 よし。 アメリカ組が到着次第、ドルフィン号で出発だ。 」
「 了解。 」
― サルガッソ− へ・・・!
サイボ−グ達は謎めいたミッションに通常とは少し違った好奇心も抱き始めていた。
夜を待ちドルフィン号は密かに出航していった。
煌々と照る満月が 銀色に光る <いるか> の旅立ちを静かに見送ってくれた・・・
「 ・・・ 巡航高度。 ドルフィン、自動操縦に入るぜ。 」
「 了解。 ・・・ お疲れ〜 」
「 よ・・・!っと。 しばらくはフリ−・タイムってことで。 オレ、ちょっくら寝てくら。
も〜 滅茶苦茶な時差でさすがに ちょいとな〜 」
ジェットは大アクビをして パイロット席を離れた。
「 ふふふ・・・ アメリカ組は <現地集合>の方がよかったかしらね。 」
「 ま、仕方ないよ。 あれ、ジョ−はどこだい。 」
「 キャビンでサルガッソ−海で行方不明になった船舶や航空機のリストを調べていたわ。 」
「 う〜ん ・・・ 僕もさっき検索したけど。 実に多種多様のモノが行方不明になってるんだよ。
海も空も・・・ あの区域はなにかトラップでもあるみたいなんだ。 」
「 ほう〜 ・・・ トラップねえ。では あのミイラはトラップにかかった哀れなネズミの成れの果て、
というわけか。 60余年前の空間から蘇った?? 」
「 まさか ・・・ 」
「 いや。 そう考えないと説明がつかんぞ。 兵器類はごく新しいモノだったようだからな。 」
「 アルベルト。 君はどう思うかな、 このデ−タの・・・ 」
「 ・・・ うん? 」
ピュンマとアルベルトはモニタ−を睨み検証し始めた。
「 ほっほ。 そろそろ・・・夜食の時間アルね〜〜 消化がよくてオイシイもの、作りまっせ。 」
「 いや〜〜 食は人生最大の快楽なり。 おや、マドモアゼル、どうしたね。 」
「 え・・・ ええ。 あの、ちょっとジョ−・・・いえ、イワンの様子を見て来るわね。 」
フランソワ−ズはぱたぱたとコクピットから出て行った。
「 ・・・ イワンの、ねえ? ほお?? ま・・・ 余計な口出しはすまいよ。 馬に蹴られたくないからな。
我輩も ・・・ ちょいと interval〜♪ 」
グレ−トはポケットからウィスキ−の小瓶を取り出した。
ビビビビビ ・・・・・・・
微かな振動を伝えつつ ドルフィン号は軽快に太平洋上を飛び続けている。
― ベッドから落ちかけたリネンが 微かに動いた。
狭いキャビンは熱い空気でいっぱいになっていた。
毛布はとっくに床に落ち、よじれたリネンの間に二人の身が重なっている。
ぽつ・・・ん ・・・
・・・ あ ? あれ・・・?
ジョ−は頬に落ちた冷たい雫で ふ・・・っと我に帰った。
たった今 ― 自分はなにをしたのか。 彼はいちどきに冷め果てた。
彼の腕の中には 薄薔薇色に染まった身体がぐったりしている。
頬には長い睫毛が濃い影を落とす。
「 ・・・ フラン・・・ あの ・・・ ごめん。 急に その・・・」
「 ・・・・・・・・ 」
ジョ−は身体を離すと耳元で呟いた。
カサリ・・・ フランソワ−ズは黙って身体の向きを変えた。
「 ・・・ なんか ・・・ その。 寒かったんだ。 どうしても温かくならなくて。 」
「 ・・・ ジョ− 」
「 きみがほしくて。 欲しくて欲しくて・・・ きみの中が恋しくて・・・ それで・・・
この前 ・・・ ダメって言われてから どうしようもなくて・・・ 我慢も限界で・・・ 」
「 ・・・ コクピットへ行って。 デ−タの検索、してたのでしょう? 」
「 あ・・・ ああ。 うん ・・・ 」
「 ・・・ 皆 ヘンに思うでしょ。 わたしもすぐに ・・・ 行くから・・・ 」
「 それじゃ・・・ あの。 ・・・ ごめん ・・・ 」
「 もう ・・・ いいわ。 」
「 ・・・ ん。 」
ジョ−は彼女の髪をかきやるとかるくキスをして 起き上がった。
床に散らばった衣類を身に付け、ブ−ツを履く。
広い背中が特殊な服で覆われ、鮮烈な色のマフラ−が巻かれてゆく・・・・
フランソワ−ズは シ−ツの間からぼんやりと眺めていた。
― まだ 熱い ・・・ のに
「 じゃ ・・・ 先に行ってるから。 」
「 ・・・ ええ。 」
もう一度 キスしてくれたら。 愛しているって言ってくれたら。 そうしたら ・・・
「 ・・・・・・・・ 」
赤い防護服は そのままキャビンから出て行った。
・・・ ジョ− ・・・ !
わたし。 こんなの・・・イヤなの。
ねえ・・・わたし、いやなのって・・・ わかって・・・!
いきなり抱かれた身体の奥には 燃え残りの熾火が燻っている。
キャビンにジョ−を呼びにゆき、そのまま ― ベッドに押し倒された。
抗うヒマもなく、全て剥ぎ取られ組み敷かれ ・・・ そして。
いま、ここに燃え止しにも似た身体で放り出されている。
火照った身体を持て余しつつ それでものろのろと身を起こした。
「 ・・・ 支度 しなくちゃ ・・・ あら? 」
コンコン ・・・コン ・・・
かすかなノックを 彼女の耳が捕らえた。
「 ・・・ ジョ−・・・? 」
「 うん。 開けるよ。 ・・・・ フラン ・・・! 」
「 ・・・ きゃ・・・ なに・・・ 」
フランソワ−ズはあわててベッドに中に潜り込んだ。
「 ・・・ ああ ・・・ やっぱり。 フラン、あの ・・・ ごめん。 」
ジョ−はするりと部屋に入ると、後ろ手でドアを閉めた。
「 なんの用? ・・・忘れ物? 」
シ−ツの中からくぐもった声が聞こえる。
「 うん、忘れ物。 ・・・ ねえ、フラン? 」
「 だから・・・ なあに。 ・・・きゃ・・・ ヤダ、わたしまだこんな恰好・・・ 」
シ−ツごと抱き起こされフランソワ−ズは小さく悲鳴をあげた。
「 だからさ、忘れ物。 やっぱり泣いていたんだね。 あれはきみの涙だったんだ・・・ 」
ジョ−の指がゆっくりと白い頬をなでる。
「 これは ・・・ 」
「 この前もきみを泣かせてしまったよね。 ぼくのこと・・・イヤかい。 こんなヤツ・・・ 」
「 ジョ−・・・! 何を言うの? そんなんじゃ・・・そんなんじゃないって何回も言ってるでしょう? 」
「 じゃあ この涙はなに。 ぼく・・・ どうしていいのかよくわからないんだ。
きみのこと、愛してる。 だから一緒に居たいし、きみが欲しいんだ。 きみに包まれていたい・・・
なのに、きみを泣かせてしまう・・・ 」
「 ・・・ わたしの気持ち・・・・ わかってる? 」
「 ・・・え ・・? 」
「 ジョ−の気持ちは判ったわ。 わたしにも、わたしにだって望みがあるの。 」
「 ・・・ うん。 だから・・・その。 きみの涙が気になって・・・ どうしても気になって戻ってきたんだ。
ぼく ・・・ なにかマズイこと、言ったかい。 きみのこと、愛してるよ、本当だってば。 」
「 ・・・ ジョ− ・・・・ 」
フランソワ−ズはまじまじと目の前のヒトの顔を見つめてしまった。
・・・ このヒトって。 ほっんとうに ・・・ 何にも判ってないのね。
そう・・・ちいさなコドモと同じなんだわ ・・・
「 ねえ フラン。 泣かないでくれよ。 ぼくのフランソワ−ズ ・・・ 」
ジョ−はそっと彼女の髪をなで、そのまま唇を当てる。
「 ああ・・・ いいなあ、きみの髪って。 柔らかくていい香りがして・・・一番安心できるんだ。
ず〜っとこうやって ・・・ 顔を埋めていたい・・・」
「 ジョ−。 あのね。 わたし・・・ あなたの恋人でいたいの。 」
「 ・・・ うん、きみはぼくの恋人だよ。 いちばん大切ないちばん恋しいひとさ・・・ 」
セピアの瞳が真剣に覗きこむ。
「 お願いだ、ぼくを ・・・ 拒まないでくれ。 」
ああ・・・ このヒトは。 淋しさしか知らないのね・・・
愛して欲しいって 泣いてる男の子。
今でも ひとりぽっちの 小さなジョ− なんだわ ・・・
白い手がゆっくりとセピアの髪をなでる。
「 ・・・ もう ・・・ いいわ、よく判ったわ。 さ、早くコクピットへ戻って? わたしもすぐに行くから。 」
「 う、うん。 なあ、怒ってる? 」
「 ・・・・・・・ 」
フランソワ−ズは黙って 目の前の途方に暮れた顔にキスをした。
・・・ 愛してるの。 わたし、それでも愛してるのよ、 ・・・ ボウヤ。
彼女は出てゆく赤い服背中を見つめ もう一度溜息を飲み込んだ。
「 そろそろ例の海域に入るな。 これより海中航行に切り替える。 」
「 了解 」
「 うひゃ〜〜 いよいよ謎の海アルな。 わくわくどきどき〜 こりゃさすぺんす劇場やな〜 」
「 ふん。 まさにサスペンスだな。 行方不明の船舶・飛行機は数知れず、だからな。 」
「 さっきのリストによると、船舶だけじゃないんだね。 原潜なんかも載っていたよ。 」
ピュンマはリストを確認している。
「 ほう? あの区域に入ったものは全て、か。 まさに マウス・トラップであるな。 」
「 シ・・・! なにか ・・・近づいてくるわ! 」
「 ・・・ レ−ダ−にも今 入った! これは・・・ 大きさから見て潜水艦だろうね。 」
「 ・・・ 動力源は・・・原潜よ! 」
「 へえ? ちょっと見て来る。 フランソワ−ズ、ナビを頼むね。 」
「 了解。 気をつけてね! ピュンマ ・・・ 」
軽く手をあげると ピュンマは小走りにコクピットを出ていった。
< ・・・ 見つけたよ。 追跡する。 >
程なくして大スクリ−ンには猛スピ−ドで泳いでゆく彼の姿が映しだされた。
< 了解。 >
< ・・・ コイツ! WWP593・・・ スレッシャー号だよ! >
< スレッシャ−? ・・・ あ! 例の行方不明リストにあった原潜だ! >
< ジョ−? ご名答。 ! アテンション!ドルフィン!! ミサイル魚雷を発射したぞ! コイツ! >
ドルフィン号のかなり前方で派手な爆発が起きた。
< いきなりか? ・・・ お〜〜・・・・ さすが ピュンマ〜〜 >
< ふん、問答無用ってか! 我々に気がついていたんだな。 >
< やっちまおうぜ! どうせNBG絡みなんだろ。 >
< ・・・ あのサブマリンも ミイラが・・・動かしているのかしら。 >
< う〜ん? しかし、クル−は操られているだけかもしれないな。 うわ・・! >
< また攻撃してくるわ! ミサイル魚雷がくる! >
ゴゴゴ・・・・・・ ドルフィン号が大きく揺れた。
< うほ・・・ マズいアルよ〜〜 このままではワテらがあぶのうおまっせ。 >
< ・・・ 今、帰還したよ! ハッチを開けてくれ。 >
< よし! ピュンマが帰還したら移動しよう。 一旦隠れた方がよさそうだ。 >
「 逃げるが勝ち、アルね! 引くコトも大切でっせ。 おお〜お帰り、ご苦労はん。」
ピュンマの顔を見て、大人は音声会話に切り替えた。
「 うん・・・賛成だな。 ともかくあの海域に入ろう。 」
「 OK。 フランソワ−ズ? 索敵を! 可能な限りレンジを広げてくれ。 」
「 ジョ−! それは負担が大きすぎるよ。 レ−ダ−も使えるから・・・ 」
「 いや。 レ−ダ−より003の方が迅速だし正確だ。 」
「 了解。 大丈夫、わたしだって― 」
「 ― わたしだって 003なのよ?! だろ〜〜 」
グレ−トが巧みに言葉尻を捉えて引き取りシナを作ってみせた。
あはははは・・・・ コクピット中がたちまち笑いの渦にとなった。
「 一番身近なヤツが一番よくわかってる。 そうでなくちゃ困るだろ。 」
「 だは〜 オッサンが言うと妙〜に説得力があんな。 」
「 ・・・ もう一度言ってみろ。 」
「 皆 よくわかっている。 みんな同じ仲間だ。 」
ぼそ・・・っとつぶやくジェロニモの言葉が コクピット内をやんわりと鎮めた。
フランソワ−ズは満面の笑顔で仲間達に振り返る。
・・・ ありがとう ・・・ みんな ・・・!
「 ・・・ それでは移動開始する。 」
「 了解 ! 」
ドルフィン号は ぎりぎりの深度に潜航しその場から離れた。
「 ・・・ すごいな。 実際見ると、まさに <海の緑野>だ・・・! 」
「 本当ね・・・ これ・・・ 藻、なのでしょう? 」
「 うん ・・・ こんなのが絡まってしまったらスクリュ−とかは致命的だよ。 」
「 お〜! すげ〜な。 なんだ〜 ガラクタ箱じゃねえか! 」
ジェットはハッチから身を乗り出し、付近に浮いている船舶を見回している。
そこは 確かに船の墓場だった。
あらゆる時代のあらゆる型の船舶やら潜水艇が黄緑色の海藻で覆われた海面に浮いている。
「 ふん ・・・ ここがサルガッソ−海か。 ん? なんかヘンじゃないか? 」
「 ・・・ 見て! ここ・・・天地が逆なの! ほら・・ 下に ・・・ 空があるわ!
あ! なにか飛んで来る!! 爆弾 ?? ミサイル型よ!
「 な、なんだって〜〜?? ・・・うわ??な、なんだ〜〜 」
「 ・・・ ガス弾か? いや、ちがう? これは・・?? 」
バン ・・・・っ !!!
ドルフィン号めがけ飛んで来た小型の物体はほぼ彼らの頭上で炸裂した。
全員が固唾を呑んで警戒していたのだが。 なにも起こらなかった。
あ・・・ら・・・・?
フランソワ−ズは ふっと髪になにかが降ってきた・・・気がしたのだが。
「 なんだ? 生物兵器か?? 細菌兵器とか ・・・ 」
「 ・・・ いや? なにも空気分析の結果に異常はないよ。 」
「 あ! ヒトがいるわ! 大勢〜〜 ほらあの船にも こっちの漁船にも帆船にも!
皆銃を持っているわ! 撃ってくる ・・・!! 」
「 うむ! 」
ガガガガガ ・・・・!
四方からいきなり機銃掃射が始まった。
・・・ カチ!
弾丸が飛んでくる直前にジョ−はフランソワ−ズを抱え、ドルフィンのコクピットに降ろした。
「 ・・・ サ−チ、頼む! 」
「 あ ・・・ 了解、 009! 」
にっと笑い、唇にキスをひとつ盗むとジョ−の姿は再び消えた。
< ・・・ 皆! ・・・・ 兵器は銃ばかりよ! レイガンの類はないわ。 >
< お〜 感謝! しからば〜〜 我輩は〜〜 >
< ありがとう! 万一にそなえ、ドルフィンからの援護射撃準備! >
< 了解! >
サイボ−グ達は銃弾をさけつつ、巧みに敵から銃を奪っていった。
< ・・・おい! ヤツら! 人間の方もガラクタ箱だぜ!? 多種多様ってか、なんだァ あの恰好!>
< アイヤ〜〜 仮装行列かいな〜〜 >
< あの帆船が中心らしい。 あそこに集めて一網打尽だ! >
< 了解〜〜!! >
< ドルフィン号? 聞いての通りだ。 追跡とサ−チを続行してくれ。 >
< 009? 了解しました。 あの帆船は ・・・ 普通の帆船よ。 改造もなにもしていないわ。 >
< サンキュ! それじゃ ・・・行くぞ! >
< おう! >
銃撃の間をかいくぐり、サイボ−グ達は一旦は散会して戦っていたが次第に目標の帆船に集まっていった。
「 ここがヤツラの根城か?! 」
「 どうも そうらしいが。 それにしては ・・・ 静かだな。 」
「 そうだね。 これは罠か?? ぼく達を誘き寄せたのもしれない。 」
ジョ−は周囲を注意深く見回した。
< 003? ・・・ 見てくれ。 なにか怪しい装置はないかい。 >
< ・・・・・ さっきからずっとサーチしているのだけれど。 ・・・ 船倉の中もなにもないわ。 >
「 ふむ・・・ 銃撃していたヤツらも消えてしまったぞ。 」
「 おい、009! こっちにいるぞ、ヤツラ・・・船室で眠ってる?? 」
「 ええ?! まさか ・・・ 」
「 なんや〜 霧が出てきたアルなあ? ・・・ぶる・・・さむうなってきましたナ・・・ 」
「 うむ・・・我輩はどうも急に眠気が・・・ 」
グレ−トは変身を解いて そのまま・・・膝を突いてしまった。
「 ・・・ おお ・・・ オリビエ ・・・ 君はこんなところに・・? ああ、リハは1時からかい・・・」
「 アイヤ〜〜〜 グレ−トはん? どないしはりまっか!? う・・? ワテも ・・・なんや ?
あんさん・・・ どうしてここに。 明鈴 ・・・ 生きてはったんか・・・ 」
グレ−トに駆け寄り、張大人もそのまま甲板に突っ伏した。
「 おい?! どうした、なんで〜二人してよ? ・・・ グレ−ト?! 大人〜〜 」
< どうしたの?? 皆急に・・・ ねえ、大丈夫?? 特殊な電波か催眠音波か・・・流れているの? >
「 ・・・ わから ・・ ねぇ ・・・ いや、 ここは・・・ そっか。戻ってきたんだ・・・
ナタリ− ・・・ ああ、信じてたぜ・・・ 」
< ジェット?? ジョ−、ジョ−・・・!! 聞こえる?? わたしの脳波通信、聞こえてる? >
「 ・・・ フランソワ−ズ。 」
不意に ドルフィン号のコクピットの中に懐かしい声が響いた。
フランソワ−ズは 凍りついた。
モニタ−と自身の能力 ( ちから ) を全開し、必死で探索していたが全ての動作と思考が固まった。
この声は。 ・・・ この ・・・ 忘れようにも忘れられない この聞きなれた声は。
振り向くことも いや 指一本動かすことも出来ないまま、ただフランソワ−ズの唇だけが微かにうごく。
「 ・・・ お ・・・ 兄さん ・・? 」
「 そうだよ。 お前、ずっとどこに行っていたんだ? ・・・・ああ、いいよ、言いたくないのなら・・・
こうして無事に帰ってきたのだから・・・ それだけで充分だ。 」
「 ・・・ 帰って ・・・ きた? 」
「 ああ。 もう夢かと思った・・・! アパルトマンの部屋のドアを開けたら お前がいるんだから。 」
「 ・・・ え ・・・・? 」
フランソワ−ズはゆっくりと。 ほんの少しづつ振り返った。
「 ・・・ お兄さん ・・・! 」
目の前には。
古ぼけた壁紙とカ−ペット。 お気に入りのカ−テンが窓辺に下がり。
テ−ブルにはこざっぱりとしたテ−ブル・クロス。 小さな薔薇は彼女が刺繍したもの。
やっぱり手製のお茶帽子をかぶったティ−・ポット。
そして ・・・ そして。
穏やかな笑みを湛えたその人が ― 兄の ジャン・アルヌ−ルが立っていた。
「 お兄さん ・・・ お兄さん お兄ちゃん・・・・ 」
「 フランソワ−ズ・・・! フラン・・・ お帰り・・・・! 」
「 お兄ちゃん ・・・ ただいま・・・! 」
震える脚を踏みしめ ・・・ お気に入りのワンピ−スにジャケットを持ったフランソワ−ズは
兄の腕に 倒れこんだ。
「 ・・・ お帰り・・・・ ああ、ああ・・・ ファンション、ファンション・・・・! 」
「 お兄ちゃん ・・・・ 」
「 もうどこへもやらない! 誰の手にも渡すもんか。 兄さんが守ってやる! 」
「 ・・・・・・・・・ 」
「 ずっとここにいろ。 いいな? また、前みたいにここで二人で暮らしてゆこう。 それが一番さ。 」
「 ・・・・ ずっと ・・・・居て いいの。 」
「 当たり前じゃないか! ここはお前のウチなんだぞ。 」
「 ・・・え ・・・ ええ ・・・ 」
お前の・・・ウチ・・・・? ・・・・ あ・・・ら ・・・? なんか、ちょっと・・・ちがう?
ううん、ここがわたしのお家よ。 ・・・でも ・・・ わたしの帰るとこって・・・・?
胸の奥のそのまた奥で なにかがこつん・・・と当たる。
ほんの小さなカタマリがほんの小さく彼女に告げるのだ ・・・ ココじゃない・・・! と。
「 わたしのウチって ・・・ そのう・・・? 」
「 ああ、ああ。 そうさ、ここがお前と俺のウチじゃないか。 ここに居ればなんにも怖いことはないからな。
ずっとここで ・・・ こうやって兄さんが守ってやる。 」
大きな手がゆっくりと髪を撫でる。
・・・ 兄さんの手。 いつだってどんなに時だって・・・安心できたわ。
でも。 わたしを必要としている 手 は。 わたしの帰るウチは。
・・・ 誰かが呼んでいるの。 あれは ・・・ だれ・・・?
「 ・・・・・・・・ 」
フランソワ−ズは兄の腕の中で じっと宙を見つめていた。
< ・・・ フラン ・・・・ ソワ ・・・ズ ・・・・ フラ ・・・ンソワ・・・ズ・・・ >
「 ・・・ え? なに・・・誰? わたしを呼ぶのは誰・・・どこから呼んでいるの・・? 」
< フランソワ−ズ ・・・ 応えてくれ・・・ ジョ−だ! >
「 ・・・ ジョ− ・・・? ・・・誰? どうしてアタマの中に声が聞こえるの? 」
「 ファン? どうしたんだい。 他に誰も居やしないよ。 」
「 ・・・え、ええ・・・・。 でもはっきり誰かがわたしを呼んでいるの・・・ あの声 ・・・ 」
< フランソワ−ズ! 003! ぼくだ、009だ。 応答してくれ。 >
「 ・・・ ゼロ・・・ゼロ ・・・ナイン ? 」
< そうだ! 009だ。 003、脳波通信を使え。 全回路をオ−プンにするんだ。 >
「 のうは・・・なんですって? 」
< 目を醒ませ! きみは都合のいい夢に浸っているだけなんだ! >
「 夢?? これが夢だ、というの? だって・・・お兄さんはちゃんとここにいるわ!
わたしはアパルトマンのあの部屋に居るの ・・・ ああ? 」
< しっかり目を開け! きみは003だ。 そして今はミッション中で、ドルフィン号の中だぞ。
フランソワ−ズ。 愛している、 ぼくは きみを 愛しているんだ!! >
・・・ ぽん ・・・・。 なにかが きえた。
「 ・・・ お兄さん?? どこ?? あ・・ここは・・・ ジョー ・・?? 」
フランソワ−ズは何回も瞬きをした。 そっと目を押さえ・・・もう一度しっかりと見開いた。
ここは。 ― ドルフィン号のコクピット・・・ !
「 ・・・ ジョ−。 わたし。 幻影を見ていたのかもしれないわ。 」
< やっと気がついたようだね。 どうもさっきの小型爆弾のせいらしい。 >
< ・・・ ジョ−! とてもリアルな夢だった・・・そうね、こうなったら・・・って望んでいたとおりのことが
いろいろ・・・ その通りになって現れたの。 >
< はあん・・・なるほどな。 それでわかった! こっちでも、皆、半覚醒状態なのさ。 >
< 009。 わたしの夢は・・・ わたしの夢 だったわ。 夢はね 夢 なのよ。>
きゅ・・・っとフランソワ−ズは防護服の上着を握り締めた。
そう、 あれは。 夢 ・・・ 望んで焦がれて止まない ・・・ 見果てぬ夢 ・・・!
< あのね。 そうあって欲しい幻影( まぼろし )を見ていたの。 叶わぬ夢、のね・・・・ >
< ・・・ やっぱり。 わかった! 皆を起こしてみる。 >
≪ じょー。 ソレハ僕ニ任セテ欲シイナ。 ≫
< イワン!? 目が覚めたのかい。 >
≪ ウン。 じょーノ声ガ じょーノ心ガ僕ヲ起コシテクレタ。 サテ・・・ ソレジャ。 ≫
― ミンナ・・・! 目ヲ醒マセ! 目ヲ 醒マスンダ・・・!!!
イワンの思念がメンバ−達全員のこころに飛び込んでゆく。
「 イワン? 皆の様子はどう? 」
フランソワ−ズはふわふわ漂っているク−ファンに手を伸ばした。
「 目が覚めてすぐでしょう? お腹、空いてないの。 」
≪ チョ、チョット待ッテクレヨ、ふらんそわ−ず・・・ 僕ハ今、仕事中ナンダヨ ! ≫
ぐううう ・・・・
可愛い音がク−ファンの中から漏れてきた。
≪ ア・・・ シマッタ・・・ ≫
「 うふふふ・・・ お腹の方が正直みたいね。 ミルク、用意しておくわね。 」
フランソワ−ズは 小さな体をそっと抱き取った。
「 皆を起こしてあげて。 ・・・ 虚しい夢から この現実に戻して! 」
≪ ウン ・・・! ≫
「 ・・・ う ・・・ な、なんだ? 俺はアイツの部屋に居たはず・・・ 」
「 お?? もう顔を作り始めんと時間が・・・幕が開く・・ お・・? ここは ・・?? 」
帆船の甲板に蹲り、あるいは打ち伏していたメンバ−達が もぞもぞと動きだした。
「 皆! 起きてくれ! 」
「 ・・・ ジョー はん・・? あ! ワテら、ミッションやったんやで! 」
「 んだよ〜〜 ココはあのボロッちい船の上じゃんか。 」
≪ ソウダヨ! 僕達ハ さるがっそー海 ニイルンダ! ≫
「 !! ヤツラは?! 狙い撃ちしてくるかもしれん! 」
「 ちょっくら上から偵察してくら! 」
「 我輩も〜〜 もう一回変身して・・・ 」
≪ 待ッテ。 他ノ人達モ起コシタンダ。 皆 ・・・ 武器ハ持ッテイナイヨ。 ≫
「 ありがとう、001。 皆、すっかり覚醒したかい。 」
「 009 ・・・ これは ・・・ どういうことだ? あ ・・・! 」
「 銃撃してきたヤツらだ! ・・・ あれ。 なんだか様子がヘンだね。 」
ス−パ−ガンを構えつつも ピュンマは眉を顰めた。
「 なんだか ふらふら・・・妙な足取りだよ? 009、アイツら・・・ ここの船やら飛行機の乗り組み員
だったのじゃないかな。」
ジョ−もしっかりとス−パ−ガンを向け、威嚇している。
船内から様々な風体のオトコたちが出てきた。
足取りが覚束ない。 ふらついてるモノも多かった。
「 うん、おそらくね。 ・・・ 武器を捨てろ! どういう事なのか話を聞かせてもらおう! 」
「 コイツら・・? 」
「 うん、まだ完全に覚醒していないのかもしれないな。 」
「 そうだね。 なんか強烈な暗示をかけられているね。 さっき、ドルフィンの上で爆発したヤツと
同じような・・・ 一種のサイコ・ウェ−ブ?? 」
「 ここは ・・・ 澱んだ世界なのだ ・・・ 」
真ん中にいたオトコがとつとつと語り始めた。
「 吸い込まれる。 ・・・ ここに居る人間の思念に引きこまれるのだ。 」
「 出られない。 ながい ながい 間、ここにいた。 ある日 ・・・ アイツがやってきて・・・
お前達を拉致してきたら代わりに 出してやる、と言った・・・ 」
「 ソイツが 武器を沢山与えてくれた。 黒服のドクロの面をつけたアイツ ・・・ 」
「 ・・・ NBG ・・・ か?! 」
サイボ−グ達は顔を見合わせ、呻吟した。 ・・・ やはり蘇っていたのか・・・!
< 皆! ドルフィンに戻って! スレッシャ−号が来るわ! >
「 いけねぇ!! 見つかったか! 」
「 急げ! 攻撃される前にここを出るんだ !! ジェット! 皆を連れて加速! 」
「 オ−ライ! おう、よ〜くつかまってな〜〜 」
「 いくよ! < フラン? メイン・ハッチを開けておいてくれ! > 」
< 了解!! 急いでね!! >
シュ ・・・!!
独特の音と空気の揺れを残し、サイボ−グ達の姿は甲板から消えた。
ここは まやかしだ! 望みのままの夢は 幻にすぎない!
ぼくは! ぼくの愛しい人と仲間達とともに 現実の世界を生きる!!
それが どんなに苦しくても!
澱んだ想いに囚われるのは ・・・ ごめんだ!!
ド −−−−−−−−−−−− ン ・・・・ !!
澱んだ海に 大きな水柱が立ち昇った。
からり、と晴れ上がった空は どこまでも青く突き抜けそうに高い。
ひゅるり・・・ 海風が波のカケラを拾い吹きぬけてゆく。
ギルモア邸の足元に広がる海は ゆるゆると藍色の水面を揺らしていた。
「 きゃ・・・ つめた〜〜い・・・ あ〜あ・・・ スカ−トの裾が ・・・」
フランソワ−ズはあわてて波打ち際から飛び退いた。
「 あはは・・・ のろまなんだから〜 巧く除けろよ。 」
「 だってぇ〜 こんなトコまで波が来るなんて・・・ 」
「 そろそろ満潮だからね。 う・・・ん ・・・ ああ、でもいい気持ちだ・・・! 」
ジョ−は海に向かって大きく伸びをした。
「 そうねえ・・・ 海はやっぱり 動いているのがいいわ。 あ! 沖の方でなにか・・・魚かしら。 」
「 うん・・・ 波が寄せて返して。 砂が運ばれてきたり削られたり・・・ 」
「 ええ。 変わってゆくのよ・・・ そう、なにもかも。 この世界全部が、ね・・・
ねえ、ジョ−。 聞いてもいい。 」
「 うん、なに。 」
ひゅ ・・・ !
ジョ−の投げた石が ちょんちょん ・・・ ちょん ・・・と海面を水切りしてゆく。
「 あら〜 凄いわね ・・・ え、あの、ね。
あの海で ジョ−は どうしてわかったの? 皆が幻影を見ているって。 」
「 ・・・ うん ・・・ ぼくも <見た> からさ。 」
「 ええ? そうなの? でも ・・・ それならどうしてジョ−にはそれがまやかしだってわかったの。 」
「 うん ・・・ 」
ジョ−はもう一度、海に向かって石を投げた。
「 ・・・あ ! 惜しい〜〜 ねえ、どうして。 わたしは ・・・アレが本当に思えたわ。
・・・ ずっとここに浸っていたい・・・って・・・ 」
「 うん・・・ ぼくの見た夢は。 ・・・ お母さんだった。 ぼくを後ろから抱き締めてくれたんだ。
ああ、この人だ、この人の腕を この人に抱かれることを願ってた、と思った。
そう、ほんのコドモの頃から ・・・ずっと ・・・ずっと。 」
「 ・・・・ ジョ− ・・・・ 」
フランソワ−ズはそっと彼に寄りそうと その広い背にぴたり、と身体を寄せた。
「 そう ・・・ちょうどこんな風だった。
それで ぼくは。 お母さん・・・って はっきり顔を見たくて。 思い切って振り返ったんだ。
そしたら ・・・ どんなに必死に目を見開いても見えないんだ。 ぼやけてしまって・・・
ぼくにはそのヒトの顔を見ることができなかった。 」
「 ・・・・・・・ 」
細い腕が きゅ・・・っとジョ−の身体に絡みつく。
「 ふふふ・・・当たり前だよね。 知らないヒトの顔、見れるわけないよな。
・・・ 気がついたらきみの名を呼んでいた。 ぼくを抱いていたヒトは消えていたよ・・・ 」
「 ・・・ それで、覚醒できたのね。 」
「 多分。 あれは記憶中枢を刺激して <思い出> を、それも本人が一番望むカタチで
蘇らせていたのだろうね。 気持ちがいい幻影だから誰もが醒めたくないのさ。 」
「 スレッシャ−号の攻撃の衝撃と ジョ−の強い気持ちがドルフィンをこの世界に戻したのね。 」
「 う〜ん・・・ よくわからないけど。 イワンもそんなコトを言っていたな。
精神の強いチカラが作用していたって。 ぼくにはあまり自覚はないんだけど。 」
「 ・・・ そう ・・・ でも、幻は所詮マガイモノだわ。 現実 ( ほんとう ) じゃない。 」
ジョ−はくるりと向きを変え、しなやかな身体を抱きしめる。
「 きみは強いね。 本当に一番強いのは きみだ・・・ 」
「 あなたの愛があるから・・・・ わたしだっていつまでも兄と暮らしていたい・・・と思ったわ。
でも。 でも! ・・・ あなたと生きたいの。 明日をそのまた明日を あなたと一緒に生きたいのよ。 」
「 うん。 」
ジョ−は愛しい人の身体をすこし離し、彼女の顔を見つめた。
「 ごめん。 ぼくは愛されたくて ・・・ いつもいつもそればかりで。
愛することを本当には知らなかったんだ。 」
「 わたしがいるわ。 あなたはもう 一人ぽっちの小さなジョ− じゃないのよ。 」
「 きみと 歩きたい。 並んで・・・ ぼくは。 ぼくが欲しいのは母じゃない。 」
「 ・・・ ジョ−・・・ 」
あの海には。
・・・ 人々の強烈な想いが絡まり合い・攀じれあい・・・動かない海の中で澱んでいる。
いまでも緑の海はとろり、とした水面をみせているのだろうか。 囚われ人の夢を含んで・・・
澱 ( よどみ ) から 荒波のうねる大海原へ ・・・!
二人なら。 愛しているなら。 ・・・ 怖いものなんかなにもない。
「 行こう ! 」
「 ええ ! 」
ジョ−の差し出す手を フランソワ−ズはしっかりと握る。
ひゅん ・・・ !
凛冽な北風が 二人の頭の上を軽快に駆け抜けていった。
************************* Fin. **************************
Last
updated : 02,10,2009.
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********* ひと言 ********
どひゃ〜〜〜 やっと終わりましたよ ・・・ ( 大汗 )
う〜〜みゅ・・・あのオハナシはたいそう難しゅうござりました〜〜〜
SF活劇? とか 心理劇? を期待された方がもし! 一千万がイチ、いらしたら。
すみません〜〜〜 <(_ _)> ワタクシは所詮 93らぶ書き?? なのですよ〜ん♪
・・・ってコトで。 いちゃいちゃしている二人〜〜で めでたし・めでたし。
しっかし! ジョー君のマザコンは一生モノだろうな・・・
例によって! 支離滅裂な戦闘シ−ンにつきましては! どうぞ寛大にも
お目を瞑ってくださいませ〜〜〜 お願い!!
そして。 ひと言でもご感想を頂戴できましたなら。 ・・・ 生きる力になります〜〜(;O;)
伏してお願い申し上げまする〜〜〜 <(_ _)>