「 でもね、あんまりお日様が気持ちいいからって。 ひとりで ぐうぐう寝ちゃったのはだあれ?
イワンもまだ夜の時間だったし、わたし ひとりでぼ〜っとしてたのよ。 」
・・・・ ごめん。
一生懸命 お弁当作ったのに。
あなたが好きな 海苔を巻いたお握りでしょう、玉子焼きでしょう。
それに、美味しいっていってくれた野菜のキッシュも。 まだ暗いうちから起きてこしらえたのよ。
ほっこり暖かいススキの側で ぜ〜んぶバスケットから出して並べたの。
それなのに、さあ、準備ができたって思ったらジョ−はすっかり眠ってるし。
だから、ごめんって・・・。
実はさ。前の晩、緊張しちゃって・・・ よく寝られなかったんだ・・・。
まあ・・・・。
うふふ♪
ほんとはね、あなたの寝顔見てて楽しかったの。
ちっちゃい頃、家族でピクニックにいって
お兄さんと遊んで帰ってきたら パパがママンの膝枕でお昼寝してた・・・
ママンは にこにこ静かにパパの顔を見てたわ。
わたしもあんな風になりたいな・・・って あんな家族をもちたいな・・・って
憧れてたの、ずうっと・・・。
目が覚めたら きみの膝枕でさ。
びっくりして 飛び起きちゃったよ。
でも。 うれしかった・・・・
・・・ 家族とピクニックって。 憧れだったんだ・・ ずっと。
「 また行きましょうよ! 今度、みんなが集まったときに。
わたし、いろんなお弁当を作るわ。 張大人にも 応援を頼みましょ。 」
「 そうだね。 なんのかんの言っては みんな帰ってくるもんな・・・ あの邸 ・・・に・・・ 」
きみの許にって 本当は言いたかった・・・
ジョ−の目に やわらかな陽射しに満ちた野原が見えた。
全てを ゆったりと包み込むやさしいぬくもり。
そうだ。
きみって ひとは。
いつだって お日様みたいな 女性( ひと ) なんだ。
だから 僕は。
すべての 生き物があの太陽を慕うように きみに惹き付けられてゆくんだね。
「 ・・・・ 通学してる時・・・・ バイトとかで遅くなって、急いで電車で帰るのって
夜なんかイヤだったな ・・・・ 」
− ジョ− ・・・?
話しかけているのか独り言なのか。
ジョ−の妙に1本調子な口調に フランソワ−ズはひやりとするものを感じる。
「 嫌? どうして? 」
せめて もう少し近くに寄れたら。 そして出血の元の傷口を縛れたら。
フランソワ−ズは じりじりしながらせめても、と明るい声音で問い返す。
「 窓から沢山の家の明かりとか見えるだろ。 こんなにたくさんあるのに、
僕の<帰るところ>は どこにも無いんだ、なんて拗ねてたからね。
どうせ僕なんかって・・・・ 」
「 今は。 今はちゃんとあるでしょう。 あなたの、いえ、わたし達の<帰るところ>。 」
「 ・・・うん。 きみの・・・・許。 」
一瞬 優しい宵闇にまたたく あの邸の灯りが目の前を過ぎった。
聞き慣れた波の音が ふいに耳元で響く。
− ちがう! これは・・・ この水音に惑わされては・・・ 駄目だ。
きみをいつでも護っていると思っていたけれど
本当は
僕は ずうっときみに護られてきたのかもしれないな・・・・
僕に 帰るところをつくってくれた きみ。
僕に 人のこころの暖かさを示してくれた きみ。
僕の 僕の、 お日様。 大切なひと。
どうしても。 どんなことをしても。
僕は ・・・・・ きみをまもるよ・・・!
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